JP7349136B2 - 機能性ペプチドの絹糸への結合法 - Google Patents

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一実施形態において、本発明は、コヒーシンを含む融合ペプチドI及びドッカリンを含む融合ペプチドIIの組み合わせ、又はドッカリンを含む融合ペプチドI'及びコヒーシンを含む融合ペプチドII'の組み合わせに関する。一実施形態において、本発明は、上記融合ペプチドI及び融合ペプチドII、又は融合ペプチドI'及び融合ペプチドII'が結合したカイコ絹糸、又は該カイコ絹糸の生産方法に関する。一実施形態において、本発明は、上記カイコ絹糸を用いる物質の生産方法、又は上記カイコ絹糸を含むバイオリアクターに関する。
生体内で生じ得る化学変化を有用物質生産や分析に利用するシステムをバイオリアクター(bioreactor)という。バイオリアクターは、研究、医療、分析及び産業等に広く利用されており、その中心となるのは、酵素タンパク質、複合酵素系、オルガネラ、微生物及び細胞等の反応素子である。通常、バイオリアクターは、反応素子を不溶性担体に固定化することによって得られる(非特許文献1~2)。
反応素子の担体への固定化方法としては、物理的吸着法、イオン結合法、共有結合法、及び生化学的特異結合法がある。中でも生化学的特異結合法は、分子間の特異的結合によって分子を固定化する方法であり、反応素子にとって最もタメージが少ない方法であるといえる。
絹糸は不溶性の天然素材であり、環境負荷が低く、バイオリアクターの担体として利用が期待できる。しかしながら、絹糸に反応素子を固定化する技術が乏しいため、これまで絹糸のバイオリアクターの担体等としての工業的利用の拡大は困難であった。
Yan Fang et al., BMB Reports, 2011, 44(2), pp.87-95 R. Diekmann and D. C. Hempel, Annals of the New York Academy of Sciences, 1990, 613(1), pp.255-264
絹糸へ酵素等の機能性ペプチドを固定化する技術を開発することができれば、バイオリアクターの担体としての用途等、絹糸の新たな用途が提供できると考えられる。
本発明は、機能性ペプチドを絹糸へ結合させる方法を提供することを課題とする。
本発明者は、シルク結合ペプチド、及びコヒーシン又はドッカリンを含む融合ペプチドと、機能性ペプチド、及びドッカリン又はコヒーシンを含む融合ペプチドの組み合わせを考案した。また、本発明者は、上記融合ペプチドを用いることによって、シルク結合ペプチドの絹糸への結合、及びドッカリンとコヒーシンの結合を介して、絹糸へ機能性ペプチドを固定化できることを見出した。
本発明は、以下の態様を包含する。
(1)(a)シルク結合ペプチド、及び少なくとも一つのコヒーシンを含む融合ペプチドI、並びに
融合ペプチドI中のコヒーシンと結合する少なくとも一つのドッカリン、及び機能性ペプチドを含む融合ペプチドIIの組み合わせ、又は
(b)シルク結合ペプチド、及び少なくとも一つのドッカリンを含む融合ペプチドI'、並びに
融合ペプチドI'中のドッカリンと結合する少なくとも一つのコヒーシン、及び機能性ペプチドを含む融合ペプチドII''の組み合わせ。
(2)前記(a)の組み合わせである、(1)に記載の組み合わせ。
(3)シルク結合ペプチドが、
(i)SYTFHWHQSWSS(配列番号1)、
(ii)QSWSWHWTSHVT(配列番号2)、
(iii)WTWRWAHVTNTR(配列番号3)、
(iv)QDVHLTQQSRYT(配列番号4)、
(v)HKAHEYDPWISP(配列番号5)、
(vi)SYSQHYGIPNPW(配列番号6)、
(vii)SSWQMSWSWMGS(配列番号7)、
(viii)(i)~(vii)のいずれかのアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が付加、欠失及び/又は置換されたアミノ酸配列、及び
(ix)QSWS(配列番号8)のアミノ酸配列を含む10~14のアミノ長のアミノ酸配列、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、(1)又は(2)に記載の組み合わせ。(4)コヒーシンが、
配列番号9又は25のアミノ酸配列、
配列番号9又は25のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び
配列番号9又は25のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、(1)~(3)のいずれかに記載の組み合わせ。
(5)ドッカリンが、
配列番号11又は27のアミノ酸配列、
配列番号11又は27のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び
配列番号11又は27のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、(1)~(4)のいずれかに記載の組み合わせ。
(6)融合ペプチドI又はI'がカイコの絹糸腺で組換え発現され、カイコ絹糸に結合している、(1)~(5)のいずれかに記載の組み合わせ。
(7)機能性ペプチドが酵素である、(1)~(6)のいずれかに記載の組み合わせ。
(8)(1)~(7)のいずれかに規定される融合ペプチドI及び融合ペプチドII、又は融合ペプチドI'及び融合ペプチドII'が結合したカイコ絹糸であって、
融合ペプチドI又はI'は、シルク結合ペプチドの絹糸、又は絹糸の成分であるフィブロインへの結合によって、カイコ絹糸に結合しており、
融合ペプチドII又はII'は、コヒーシンとドッカリンの結合によって融合ペプチドI又はI'に結合している、
カイコ絹糸。
(9)(8)に記載のカイコ絹糸の生産方法であって、
カルシウムイオンの存在下で、(1)~(7)のいずれかに規定される融合ペプチドI又はI'が結合した絹糸を、(1)~(7)のいずれかに規定される融合ペプチドII又はII'と接触させることによって、融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'を結合させる工程
を含む、カイコ絹糸の生産方法。
(10)結合工程の前に、前記融合ペプチドI又はI'が結合した絹糸をブロッキング剤でブロッキングする工程をさらに含む、(9)に記載の方法。
(11)ブロッキング剤が1%~10%スキムミルクを含む、(10)に記載の方法。
(12)結合工程の後に、キレート剤により融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'の結合を解離させる工程、及び
カルシウムイオンの存在下で、前記絹糸を融合ペプチドII又はII'と接触させることによって、融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'を再結合させる工程、
をさらに含む、(9)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)(7)に従属する(8)に記載のカイコ絹糸を用いることを含む、前記酵素により産生される物質の生産方法。
(14)(7)に従属する(8)に記載のカイコ絹糸を含むバイオリアクター。
(15)絹糸がぼか繭に含まれる、(6)又は(7)に記載の組み合わせ、(8)に記載のカイコ絹糸、(9)~(13)のいずれかに記載の方法、又は(14)に記載のバイオリアクター。
本発明により、反応素子にとってタメージが少ない生化学的特異結合法を用いて、機能性ペプチドを絹糸へ結合させる方法、及び該方法に用い得る融合ペプチドの組み合わせが提供され得る。
図1Aは、スキャフォルディンシルクをカイコに発現させるためのベクターの模式図を示す。本ベクターは、3×p3pの制御下にEGFP遺伝子を含み、UASの制御下にYN42-GFP-cohesin遺伝子(さらにC末端に3×FLAG)を含む。図1Bは、後部絹糸腺特異的にGAL4を発現するカイコ系統を作製するために用いたベクターの模式図を示す。本ベクターは、フィブロインH鎖のプロモーター制御下にGAl4遺伝子を含む。 図2は、実施例1で得られた3系統のF1幼虫(Sumi40-1系統、Sumi40-2系統、Sumi40-3系統)の絹糸腺抽出タンパク質のウエスタンブロットの結果を示す。 図3は、A18-D(C末側ドッカリン付加シロアリ型セルラーゼ)又はA18-11(通常のシロアリ型セルラーゼ)を、ノーマルシルク又はコヒーシンを含むスキャフォルディンシルクに接触させた後に、シルクのセルラーゼ活性を測定した結果を示す。活性が高い程、シルクへの結合が強かったことを示す。 図4Aは、SWB(シルク洗浄バッファ)及びSWB+1%BSA溶液の2種のブロッキング溶液でブロッキングした場合の、ノーマルシルクとA18-Dを接触させた後の、シルクのセルラーゼ活性を測定した結果を示す。図4Bは、SWB+0.1%(w/v)Triton-X 100、SWB+0.1%(w/v)Triton-X 100+5%スキムミルク溶液、SWB+5%スキムミルクの4種のブロッキング溶液でブロッキングした場合の、ノーマルシルクとA18-Dを接触させた後の、シルクのセルラーゼ活性を測定した結果を示す。活性が低い程、ブロッキングによって非特異的結合が低減したことを示す。 図5は、スキャフォルディンシルクに対してA18-Dを吸着させた後、EDTAにより処理した後、及び再吸着後のシルクのセルラーゼ活性を測定した結果を示す。図5は、スキャフォルディンシルクからドッカリン融合酵素(A18-D)をEDTA溶液を使って除去できること、及びその後再びドッカリン融合酵素を結合できることを示している。 図6は、スキャフォルディンシルクからEDTAにより溶出させたドッカリン融合酵素(A18-D)の活性測定の結果を示す(A18-D添加区)。コントロールは、酵素を添加していないスキャフォルディンシルクを用いた場合の結果を示す。 図7は、Sumi40-2とMN500の交配で得られたF1系統から得られたぼか繭化されたスキャフォルディングシルク(SS Boka)、及び通常のぼか繭(MN500)にA18-Dを結合させた後、その活性を調べた結果を示す。図7は、SS Bokaにおいて、A18-Dに起因するセルラーゼ活性が認められたことを示している。
<融合ペプチドの組み合わせ>
一態様において、本発明は、シルク結合ペプチド、及び少なくとも一つのコヒーシンを含む融合ペプチドI、並びに融合ペプチドI中のコヒーシンと結合する少なくとも一つのドッカリン、及び機能性ペプチドを含む融合ペプチドIIの組み合わせ又は組み合わせ物に関する。
一態様において、本発明は、シルク結合ペプチド、及び少なくとも一つのドッカリンを含む融合ペプチドI'、並びに融合ペプチドI'中のドッカリンと結合する少なくとも一つのコヒーシン、及び機能性ペプチドを含む融合ペプチドII''の組み合わせ又は組み合わせ物に関する。融合ペプチドI'は、コヒーシンの代わりにドッカリンを含む以外の点においては融合ペプチドIと同様である。また、融合ペプチドII'は、ドッカリンの代わりにコヒーシンを含む以外の点においては融合ペプチドIIと同様である。
融合ペプチドI及びI'、並びに融合ペプチドIIおよびII'に含まれ得る各要素について、以下で詳細に説明する。
本明細書において、「シルク結合ペプチド」とは、絹糸、又は絹糸の成分であるフィブロインに対する結合性を有するペプチドを意味する。シルク結合ペプチドとしては、例えば、Yoko Nomura et al., Biotechnol, Lett., 2011, 33:1069-1073に記載のペプチドを用いてもよいし、常法(例えば本文献に記載のファージディスプレイ法)を用いて、新たに得たものを用いてもよい。シルク結合ペプチドのアミノ酸長は限定しないが、例えば8~20、10~14、11~13又は12アミノ酸であってよい。シルク結合ペプチドの例として、Yoko Nomura et al(上掲)に記載の、(i)SYTFHWHQSWSS(配列番号1)、(ii)QSWSWHWTSHVT(配列番号2)、(iii)WTWRWAHVTNTR(配列番号3)、(iv)QDVHLTQQSRYT(配列番号4)、(v)HKAHEYDPWISP(配列番号5)、(vi)SYSQHYGIPNPW(配列番号6)、及び(vii)SSWQMSWSWMGS(配列番号7)が挙げられる。また、(viii)上記(i)~(vii)のいずれかのアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が付加、欠失及び/又は置換されたアミノ酸配列、又は(ix)QSWS(配列番号8)のアミノ酸配列を含む10~14のアミノ長のアミノ酸配列を含む、絹糸への結合性を維持したペプチドもまた用いられ得る。
「コヒーシン(cohesin)」又はコヒーシンドメインは、セルロソームのスキャフォルディンに含まれているドメインとして知られている(Edward A Bayer et al., Curr. Opin. Struct. Biol., 1998, 8(5):548-557、Sandrine Pages et al., Proteins, 1997, 29(4):517-527、Sadanari Jindou et al., J. Biol. Chem. 2004, 279(11):9867-9874)。コヒーシンは、以下で記載するドッカリンに対して高い親和性と結合特異性を有する。したがって、本明細書に記載の融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'は、コヒーシンとドッカリンの特異的結合によって、結合し得る。
コヒーシンは、各種セルロソーム生産微生物において多数その配列が決定されており、これらの公知のコヒーシンを用いることができる。これらの各種のタイプのコヒーシンのアミノ酸配列及びDNA配列は、当業者であれば公共のデータベース(NCBI、DDBJ、及びENA)等に基づいてその配列を容易に特定することができる。
本明細書に記載のコヒーシンは、上記の様な公知のセルロソームに由来するものに加えて、将来明らかにされるセルロソームに由来するもの、及びこれらの改変体であってコヒーシンドッカリンの特異的結合性を維持するものを利用することができる。
コヒーシンの由来となるセルロソームを産生する細菌として、限定するものではないが、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum(Ruminiclostridium thermocellum又はHungateiclostridium thermocellumとも記載される))、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウム・セルロボランス(Clostridium cellulovorans)、クロストリジウム・セロビオパルム(Clostridium cellobioparum)、クロストリジウム・セルロリティカム(Clostridium cellulolyticum)、クロストリジウム・ジョスイ(Clostridium josui)、クロストリジウム・パピロソルベンス(Clostridium papyrosolvens)、アセチビブリオ・セルロリティカス(Acetivibrio cellulolyticus)、ブチリビブリオ・フィブリソルベンス(Butyrivibrio fibrisolvens)、ルミノコッカス・アルバス(Ruminococcus albus)、ルミノコッカス・フラベファシエンス(Ruminococcus flavefaciens)、ネオカリマスティクス・パルチシアルム(Neocallimastix particiarum)、オルピノマイセス(Orpinomyces sp.)、パイロマイセス(Piromyces sp.)が挙げられる。
一実施形態において、コヒーシンは、配列番号9又は25(好ましくは配列番号9)のアミノ酸配列、配列番号9又は25(好ましくは配列番号9)のアミノ酸配列に対して80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び配列番号9又は25(好ましくは配列番号9)のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなる。また、一実施形態において、コヒーシンは、配列番号10又は26のヌクレオチド配列、配列番号10又は26のヌクレオチド配列に対して80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列、及び配列番号10又は26のヌクレオチド配列において、1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失又は付加されたヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含むか、又は該ヌクレオチド配列からなるヌクレオチドによってコードされる。
本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列に関する同一性の値は、複数の配列間の同一性を演算するソフトウェア(例えば、FASTA、DANASYS、及びBLAST)を用いてデフォルトの設定で算出した値を示す。同一性の決定方法の詳細については、例えばAltschul et al, Nuc. Acids. Res. 25, 3389-3402, 1977及びAltschul et al, J. Mol. Biol. 215, 403-410, 1990を参照されたい。また、本明細書において、「1若しくは数個」の範囲は、1から10個、好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個又は2個である。
「ドッカリン」又はドッカリンドメインは、セルロソームに含まれているドメインであり、前記コヒーシンと非共有結合にて特異的に結合するドメインとして知られている(Edward A Bayer et al.上掲、Sandrine Pages et al.上掲、Sadanari Jindou et al.上掲)。ドッカリンの由来となるセルロソームを産生する細菌の例、及び公知の配列を用い得ることについては、上記コヒーシンと同様である。ドッカリンは、コヒーシンとドッカリンの結合特異性を実現するために、コヒーシンと同種の細菌等に由来するものを用いることが好ましい。例えば、Ruminiclostridium thermocellum由来の配列番号9のアミノ酸配列を含むコヒーシンに対しては、同種の菌に由来する配列番号11のアミノ酸配列を含むドッカリンを用いることができる。また、Clostridium cellulovorans由来の配列番号25のアミノ酸配列を含むコヒーシンに対しては、同種の菌に由来する配列番号27のアミノ酸配列を含むドッカリンを用いることができる。
一実施形態において、ドッカリンは、配列番号11又は27のアミノ酸配列、配列番号11又は27のアミノ酸配列に対して80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び配列番号11又は27のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなる。また、一実施形態において、コヒーシンは、配列番号12又は28のヌクレオチド配列、配列番号12又は28のヌクレオチド配列に対して80%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列、及び配列番号12又は28のヌクレオチド配列において、1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失又は付加されたヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含むか、又は該ヌクレオチド配列からなるヌクレオチドによってコードされる。
本明細書に記載の融合ペプチドIは、複数のコヒーシンを含んでもよい。また、融合ペプチドIIは、複数のドッカリンを含んでもよい。あるいは、融合ペプチドIIは、異なるドッカリンと、異なる機能性ペプチドを含む、複数の異なるペプチドであってよい。この場合、例えば、異なる属や種の菌に由来するコヒーシンとドッカリンを組み合わせて使用するなどして、一つの融合ペプチドIに複数の異なる融合ペプチドIIを結合させることができる。これは、複数の機能性ペプチドを絹糸に固定化する場合に有利であり得、例えば機能性ペプチドが酵素である場合、複数の酵素を結合させて多段階の反応を促すことができる。本明細書における「複数」の例として、例えば2以上、3以上、4以上、又は5以上が挙げられる。融合ペプチドI’及び融合ペプチドII'についても同様であり、融合ペプチドI'は、複数のドッカリンを含んでもよい。また、融合ペプチドII'は、複数のコヒーシンを含んでもよく、あるいは、複数の異なるペプチドであってよい。
本明細書において、機能性ペプチドの機能は問わず、例えば、酵素、抗体、受容体、リガンド、神経性ペプチド、ホルモン、蛍光タンパク質及び発光タンパク質等であってよい。酵素の例として、セルラーゼ等のグリコシダーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼ、アミラーゼ、ジアスターゼ、デキストラナーゼ、リゾチーム、グルコースオキシンダーゼ、ラクテートオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、及びアルコールデヒドロゲナーゼ等が挙げられる。
融合ペプチドI又はI'、及び融合ペプチドII又はII'に含まれるシルク結合ペプチド、コヒーシン、ドッカリン、機能性ペプチド等の各成分は、直接連結されて良いし、各ドメイン間にリンカーを介在させてもよい。リンカーを介在させる場合、リンカーは、各成分の活性を維持できるものであってよい。リンカーの例として、化学リンカー、例えばジスルフィドリンカー、マレイミドリンカー、及びPEGリンカー(2~20個、3~12個、又は4~8個のPEGを含むリンカー)、並びにアミノ酸リンカー、例えばグリシンとセリンから構成されるリンカー(GGSリンカー及びGSリンカー)が挙げられる。リンカーがアミノ酸配列で構成される場合、リンカーを構成するアミノ酸数は4~30個、7~20個、又は10~16個であってよい。
融合ペプチドI又はI'における各成分の順序は限定しないが、例えばN末端側にシルク結合ペプチド、C末端側にコヒーシン又はドッカリンを含んでいてもよい。同様に、融合ペプチドII又はII'における各成分の順序は限定しないが、例えばN末端側に機能性ペプチド、C末端側にドッカリン又はコヒーシンを含んでいてもよい。また、融合ペプチドは、これらの配列に加えてさらなる配列を含んでよく、例えばペプチドの精製又は検出を可能にするために、タグ配列を含んでいてもよい。
融合ペプチドI又はI'の長さは限定しないが、例えば、約100~約3000、約150~約2000、約200~約1000であってよい。また、融合ペプチドII又はII'の長さは限定しないが、例えば、約100~約3000、約150~約2000、約200~約1000であってよい。
本発明によれば、シルク結合ペプチドの絹糸への結合、及びドッカリンとコヒーシンの結合を介して、機能性ペプチドを絹糸へ固定化し得る。したがって、機能性ペプチドが酵素であれば、固定化を行った絹糸は、酵素によって産生される物質を生産するためのバイオリアクター、酵素によって反応が生ずる物質を検出するためのバイオセンサー、又は酵素を保管するための担体として利用することができる。また、機能性ペプチドが抗体、受容体、リガンド、神経性ペプチド、ホルモンであれば、固定化を行った絹糸は、これらの機能性ペプチドと特異的に相互作用する物質を検出するためのバイオセンサーとして利用することができる。
本明細書において、「バイオリアクター」とは、生体内で生じ得る化学変化を有用物質生産や分析に利用するシステムをいい、バイオリアクターは、酵素タンパク質、複合酵素系、オルガネラ、微生物及び細胞等の反応素子を不溶性担体に固定化することによって得ることができる。
上記融合ポリペプチドは、当業者にとって公知の方法、例えば化学合成によって製造することもできるが、遺伝子組み換え法を用いて製造することもできる。例えば、融合ポリペプチドは、融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを導入した宿主細胞を培養することにより、調製することができる。遺伝子組換え技術については、公知の方法(例えば、Sambrookら,“Molecular Cloning, A Laboratory Manual fourth edition”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2012)に従って実施することが可能である。
本発明において、ベクターの種類は特に限定しない。ベクターとしては、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、及びウイルス等のベクターが挙げられる。プラスミドベクターとしては、限定するものではないが、大腸菌用のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、及びpUC118等)、枯草菌用のプラスミド、及び酵母用のプラスミド、及び哺乳類用のプラスミド等が挙げられる。
ベクターには、目的のDNAが発現可能なように調節配列や、目的DNAを含むベクターを選別するための選択マーカー、目的DNAを挿入するためのマルチクローニングサイト等が含まれ得る。そのような調節配列には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、シャインダルガルノ配列又はリボソーム結合部位、複製開始点、及びポリAサイト等が含まれる。また、選択マーカーには、例えばアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、及びカナマイシン耐性遺伝子等が用いられ得る。
融合ペプチドの回収を容易にするために、ペプチドの分泌を可能にするシグナルペプチド配列をコードするDNAを、目的ペプチドをコードするDNAの5'末端側に連結することにより、生成したペプチドを細胞外に分泌させてもよい。この場合、融合ペプチドは細胞膜に移行し、シグナルペプチダーゼによってシグナルペプチドが切断されて、目的のペプチドが培地に分泌放出される。あるいは、シグナルペプチドを付加せずに、細胞内に蓄積された目的ペプチドを回収することもできる。この場合、細胞を物理的又は化学的に破壊し、常法により目的ペプチドを精製又は回収することができる。
ベクターを導入するための宿主細胞として、大腸菌及び枯草菌等の細菌、酵母細胞、動物細胞(例えば昆虫細胞又は哺乳動物細胞)、及び植物細胞が挙げられる。これらの細胞への形質転換又はトランスフェクションは、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクル・ガン法、及びPEG法等により行うことができる。
発現されたペプチドは、常法により、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、及び免疫吸着法のいずれか一つ、又はこれらを二以上組み合わせて用いることによって回収又は精製することができる。
一実施形態において、融合ペプチドI又はI'は、その発現(及び任意に精製)の後にカイコの絹糸と接触させることによって絹糸に結合させることができる。別の実施形態において、融合ペプチドI又はI'がカイコの絹糸腺で組換え発現され、カイコ絹糸に結合している。カイコの絹糸腺で組換え発現させることで、融合ペプチドI又はI'がより強固に結合した絹糸を得ることができる。
本明細書において、絹糸腺とは、カイコにおいて絹糸を分泌する1対の外分泌腺を意味する。カイコの絹糸腺は、前部、中部及び後部から構成されている。中部絹糸腺からは、セリシンが分泌される。そこで、カイコ由来の絹糸腺として、中部絹糸腺を用いることができる。
本明細書において「絹糸」又はシルクとは、昆虫由来の糸であって、昆虫の幼虫や成虫が営巣、移動、固定、営繭、餌捕獲等の目的で吐糸するタンパク質製の糸をいい、本明細書で単に絹糸と記載した場合には、特に断りがない限りカイコ絹糸を意味する。本明細書で「カイコ絹糸」とは、カイコが吐糸するカイコガ(Bombyx mori)由来の絹糸をいう。
本明細書において、絹糸は、繭から得られる繭糸、繭糸を繰糸することにより得られる生糸、及び生糸を石鹸、灰汁、及び炭酸ナトリウム、尿素等のアルカリ性の薬品、及び酵素で処理して膠質のセリシンを取り除いた練糸のいずれも含む。また、絹糸がぼか繭系統により産生される場合等は、絹糸は繭のままの状態で用いることもできる。ぼか繭とは、浮しわ繭ともいい、繭を構成する絹糸の層である絹層間の隙間が多く、絹糸が密に詰まっていない繭を含む。
絹糸腺における組換え発現は当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターをコードするDNAのプロモーターの下流に、融合ペプチドI又はI'をコードするDNAが機能的に連結したDNAをカイコ卵に導入することで製造できる。或いは、(i)エンハンサーの制御下に、融合ペプチドI又はI'をコードするDNAが機能的に連結したDNA、及び(ii)絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターをコードするDNAのプロモーターの下流に、前記エンハンサーに結合する転写活性化因子機能的に連結したDNAの両方をカイコ卵に導入することによって製造してもよい。上記(i)及び(ii)のDNAは、別のカイコ卵に導入し、生じた系統を交配して、絹糸腺で融合ペプチドI又はI'を発現するカイコを得てもよい。絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの例として、フィブロインH鎖プロモーター、セリシン1タンパク質又はセリシン2タンパク質をコードするDNAのプロモーターが挙げられる。エンハンサーの例として、限定するものではないが、GAL4によって転写が活性化されるUASが挙げられる。
カイコの絹糸腺で組換え発現させた融合ペプチドI又はI'は、例えば、トランスジェニックカイコが吐糸した繭から回収することができる。回収方法としては、当業者に周知の方法を用いておこなうことができる。例えば、カッターナイフで繭を切り、蛹を取り出した繭を用いることができる。ピンセットを用いて繭から繊維を取り出すことで、繭糸を得ることができる。
組換え発現された融合ペプチドI又はI'は、不溶化せずに、機能性ペプチドの活性を維持した状態で、中部絹糸腺又は後部絹糸腺に分泌される。従って、融合ペプチドI又はI'は、中部絹糸腺又は後部絹糸腺から回収することもできる。融合ペプチドI又はI'を中部絹糸腺又は後部絹糸腺から回収する方法としては、例えば、吐糸期になったカイコを解剖し、中部絹糸腺又は後部絹糸腺を20mM Tris-HCl pH7.4等のバッファ中に摘出し、絹糸腺をピンセットやメスで傷をいれる事により絹糸腺中の融合ペプチドI又はI'を回収できる。この場合、絹糸を固体担体として用いるために、不溶化処理(例えば、アルコールによる結晶化の誘起、又は熱処理による結晶化の誘起)を行うことができる。
一実施形態において、本発明は、融合ペプチドI及び融合ペプチドII、又は融合ペプチドI'及び融合ペプチドII'が結合したカイコ絹糸に関する。この実施形態において、融合ペプチドI又はI'は、シルク結合ペプチドの絹糸への結合によって、カイコ絹糸に結合していてもよく、融合ペプチドII又はII'は、コヒーシンとドッカリンの結合によって融合ペプチドI又はI'に結合していてもよい。
融合ペプチドの組み合わせの効果
本発明の融合ペプチドの組み合わせによれば、シルク結合ペプチドの絹糸への結合、及びドッカリンとコヒーシンの結合を介して、機能性ペプチドを絹糸へ固定化し得る。本発明は、ドッカリンとコヒーシンの結合を利用した生化学的特異結合法を利用するため、機能性ペプチドにダメージを与える可能性が低い。また、ドッカリンとコヒーシンの結合は、通常Ca2+依存性であるから、キレート剤により自由に着脱が可能である。さらに、異なる属や種の菌に由来するコヒーシンとドッカリンを組み合わせて使用するなどすれば、一つの融合ペプチドIに複数の異なる融合ペプチドIIを結合させることも可能である。
<融合ペプチドが結合したカイコ絹糸の生産方法>
一態様において、本発明は、カルシウムイオンの存在下で、本明細書に記載の融合ペプチドI又はI'が結合した絹糸を、本明細書に記載の融合ペプチドII又はII'と接触させることによって、融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'を結合させる結合工程を含む、カイコ絹糸の生産方法に関する。
接触工程は、融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'が結合できる限り限定しないが、例えば0.1mM~10mM、0.2mM~5mM、又は0.5mM~2mMであってよい。接触は溶液中で行うことができ、必要に応じて結合工程の前及び/又は後にリン酸バッファ等のバッファによる洗浄を行ってもよい。
本発明の方法は、結合工程の前に、前記融合ペプチドI又はI'が結合した絹糸をブロッキング剤でブロッキングする工程をさらに含んでもよい。
ブロッキング剤としては当業者に公知のものを用いることができ、例えば、スキムミルク、BSA、合成高分子、ウマ血清及びウシ胎児血清等を一つ又は複数組み合わせて含む溶液、例えばバッファを用いることができる。特に、スキムミルクを含む溶液をブロッキング剤として用いることで、非特異的吸着を強く抑制することができる。溶液中のブロッキング剤の濃度は限定しないが、例えば0.1%~10%、1%~10%、3%~7%、又は約5%であってよい。バッファとしては、Trisバッファ、リン酸バッファ、クエン酸バッファ、炭酸バッファなどを用いることができる。バッファはさらに、TritonX-100等の界面活性剤を、例えば0.01%~10%、0.5%~2%又は約0.1%含んでもよい。
本発明の方法は、結合工程の後に、キレート剤により融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'の結合を解離させる工程を含んでもよい。ドッカリンとコヒーシンの結合にはカルシウムイオンが必要であることから、キレート剤による処理によって、融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'を解離させ、融合ペプチドII又はII'を遊離させることができる。本発明の方法は、機能性ペプチドの保存のために用いることができる。
キレート剤としては、限定するものではないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ビス(アミノフェニル)エチレングリコール四酢酸(BAPTA)、フィチン酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、L-グルタミン酸二酢酸(GLDA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、及びグリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)等が挙げられる。キレート剤の濃度は、融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'の結合を解離させ得る限り限定しないが、例えば0.1mM~10mM、0.2mM~5mM、0.5mM~2mM又は約1mMであってよい。キレート剤は上記バッファ中において使用することができる。
本発明の方法は、解離工程の後に、カルシウムイオンの存在下で、前記絹糸を融合ペプチドII又はII'と接触させることによって、融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'を再結合させる工程をさらに含んでもよい。再結合の工程は、解離工程の後に行うことを除いて、上記結合工程と同様である。
<物質の生産方法及びバイオリアクター>
一態様において、本発明は、(機能性ペプチドが酵素である場合の)本明細書に記載のカイコ絹糸を用いることを含む、前記酵素により産生される物質の生産方法に関する。例えば、酵素がグリコシダーゼであれば糖類の生産方法に、プロテアーゼであればタンパク質、ペプチド又はアミノ酸の生産方法に、リパーゼであれば脂質の生産方法に、ヌクレアーゼであれば核酸の生産方法に用いることができる。
一態様において、本発明は、(機能性ペプチドが酵素である場合の)本明細書に記載のカイコ絹糸を含む、バイオリアクターに関する。
一実施形態において、絹糸は、ぼか繭系統のカイコにより産生される。別の実施形態において、絹糸は、ぼか繭に含まれる。本明細書において、「ぼか繭系統」とは、ぼか繭を産生するカイコ系統をいい、その例としてMN500、b30、b31、b32、t11、w07、綿蚕、綿(49)、綿蚕(17)等が挙げられる。また、ぼか繭の産生を指標として、公知の系統から育種して新たなぼか繭系統を作成することもできる。本明細書において、ぼか繭系統と他の系統との交配により得られる後代系統も、ぼか繭を産生する限り「ぼか繭系統」に包含される。したがって、本実施形態の絹糸は、例えば本明細書に記載の融合ペプチドI又はI'を絹糸腺で組換え発現するカイコ系統と、公知のぼか繭系統を交配し、常法に従って繭を得ることで容易に産生することができる。
ぼか繭系統のカイコにより産生される絹糸は、繭をほぐすことなく、そのままを融合ペプチドII又はII'と接触させ、機能性ペプチドを結合させることができるという効果を奏し得る。ぼか繭系統以外の繭は密に詰まっており、そのままでは溶液が浸透しにくいことから、繭をほぐすことなく機能性ペプチドを結合させることは通常困難である。
以下、実施例を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1:シルク結合ペプチド及びコヒーシンを含む融合ペプチドが結合した絹糸の調製>
(材料と方法)
スキャフォルディンシルク系統樹立のための形質転換ベクターの作製
以下の通り、スキャフォルディンシルクをカイコに発現させるためのベクターを構築した(図1Aにベクターの模式図を示す)。シルク繊維表層にスキャフォルディンを配置するため、シルク結合ペプチドであるYN42を融合したスキャフォルディン遺伝子(アミノ酸の配列:配列番号13、ヌクレオチドの配列:配列番号14。Ruminiclostridium thermocellum由来の配列番号9のアミノ酸配列を含むコヒーシン、及びClostridium cellulovorans由来の配列番号25のアミノ酸配列を含むコヒーシンの計2つのコヒーシン分子をタンデムに有する)をpiggyBac遺伝子組換えベクターに組込んで、プラスミドベクターを構築した。YN42を融合したスキャフォルディン遺伝子(YN42-cohesin)は、遺伝子合成により作製した。pBac [UAS-SV40, 3×P3-GFP]ベクター(Sakudoh, T., et al., 2007, Proc Natl. Acad. Sci. U.S.A., 104: 8941-8946)のBlnIサイトに前述の(YN42-cohesin)遺伝子を導入し、pBac [UAS- YN42-cohesin-SV40, 3×P3-GFP]を得た。
スキャフォルディンシルク遺伝子組換えカイコ系統の樹立
スキャフォルディンシルク系統化のため、カイコ胚に上記ベクターを顕微注入した。遺伝子組換えカイコの作出は、Tamura et al.(2000, Nature Biotechnology, 18 81-84)の方法に基づいて以下の条件で行った。まず、pBac [UAS- YN42-cohesin -SV40, 3×P3-GFP]、ヘルパープラスミドpHA3PIG及びトランスポゼースmRNAを最終濃度がそれぞれ0.4μg/μL、0.1μg/μL、及び0.2 μg/μLになるようにinjection Buffer(0.5 mM phosphate buffer, KCl 5 mM, pH 7.0)に溶解して、注入溶液を調製した。産卵後6時間以内のカイコw1-pnd系統(白眼・白卵・非休眠系統)の胚に前記注入溶液をタングステン針とガラスのキャピラリーを用いて顕微注入した。孵化した幼虫を飼育し、兄妹交配を行った。得られた胚を3xP3-GFPの発現の有無で選抜し、組換え系統を獲得した。
作出した系統における遺伝子発現ベクターのゲノム挿入数をサザンブロットによって確認した。またインバースPCRによってゲノム挿入位置を確認した。inverse PCRはTamura et al.(2000)の方法をもとに、ゲノムに挿入されているpBac [UAS-BmTFAM-GFP-SV40, 3×P3-GFP]の左腕(L-arm)側プライマーペアについては、5'-AAATCAGTGACACTTACCGCATT-3'(配列番号15)及び5'-ACTATAACGACCGCGTGAGTCAA-3'(配列番号16)を、また右腕(R-arm)側については、5'-AAGTAACAAAACTTTTATGGCGC-3'(配列番号17)及び5'-CCTCGATATACAGACCGATAAAACA-3'(配列番号18)を使用した。
上記で作出した系統と、図1Bに模式図を示すベクターを用いて作製した、既に樹立してある、後部絹糸腺特異的にGAL4を発現するカイコ系統(フィブロインH鎖のプロモーター支配下にGAL4遺伝子を有する、AyFib431a。Sezutsu, H. et al., 2009, J. Insect. Biotechnol. Sericology, 78:1-10を参照されたい。)を交配した。交配によって、後部絹糸腺特異的にYN42-cohesinを過剰発現する遺伝子組換えカイコを得た(後部絹糸腺特異的に発現したGAL4によって、エンハンサーであるUASによってYN42-cohesin遺伝子の転写が活性化される)。それぞれの絹糸腺からタンパク質を抽出し、SDS電気泳動にて分離した。同じく分離したタンパク質をメンブレンに転写して、コヒーシンタンパク質に付加してあるFLAGタグの抗体を用いてウエスタンブロットによる検出を行い、相対的なコヒーシンの発現を調べた。
カイコは、シルクメイト原種1-3齢用S人工飼料(NOSAN)を用いて、通常の方法で飼育した。繭を作り始めてから約1週間後、カッターナイフで繭を切り、蛹を取り出した繭を、実験を行うまで4℃で保存した。
(結果)
上記ベクターを注入した個体の兄妹交配によって得られた遺伝子組換えG1個体をスクリーニングし、3系統の単離に成功した(Sumi40系統)。それぞれを継代飼育し、G2世代の個体からゲノムDNAを抽出してサザンブロットを行い、コヒーシン遺伝子の挿入とコピー数を確認した。3系統のそれぞれ挿入断片の数は1コピーであった(データ示さず)。
また、これらの系統のうち相対的に発現量が最も高かったSumi40-2について、インバースPCRを行いコヒーシン遺伝子の挿入位置の確認を行ったところ、染色体19番に挿入されており、内在性の遺伝子を破壊するなどの影響はないと考えられた。
系統の単離と並行して、コヒーシン遺伝子の発現誘導を行った。G1個体を後部絹糸腺特異的Gal4系統(AyFib431a)と交配して得られたF1幼虫を幼虫期5齢5~6日に解剖し、絹糸腺を取り出し、蛍光顕微鏡で観察した。また、絹糸腺抽出タンパク質について、SDS電気泳動による分離及びウエスタンブロットによる検出をおこなった(図2)。これらの発現解析から、3つの系統のうち、Sumi40-2系統が相対的にコヒーシンの発現量が多いことがわかった。また、想定される約70kDaのタンパク質が発現していることが確認できた。以下の実施例ではSumi40-2を用いた。
<実施例2:ドッカリン及びシロアリセルラーゼを含む融合ペプチド(A18-D)の調製>(材料と方法)
A18-D(C末側ドッカリン付加シロアリ型セルラーゼ)をプラスミドベクターpQE30に組み込んだベクター(pQE30-A18-D)を、以下の通り調製した。まず、pQE30のBamHI-HindIII間に改変シロアリセルラーゼA18-11(アミノ酸の配列:配列番号19、ヌクレオチドの配列:配列番号20)の配列を挿入したpQE30-A18-11を作製した。続いて、以下の通りpQE30-A18-11の3'末端側に放線菌Ruminiclostridium thermocellumのDockerin Iアミノ酸配列(RtDocI、配列番号11)に基づく合成塩基配列(配列番号12)を挿入することによって、pQE30-A18-Dを作製した。
まず、CendRtDocI+Hind3pQE(配列番号21)及びRevComp_A18Cend-RtLinker(配列番号22)をプライマーとしてpQE30-A18-11を増幅し、A18-11のストップ・コドン(TAA)の直前・直後で開裂し両端にRtDocIアームとの接続のための配列が付加されたpQE30-A18-11ベクターアームをPCR増幅で作製した。
続いて、RevCompCendRtDocI(配列番号23)およびNtermRtLinker(配列番号24)でリンカーを含めたRtDocI合成遺伝子を増幅し、RtDocIアームを得た。
上記で得られたpQE30-A18-11ベクターアーム及びRtDocIアームをタカラバイオのClontech InFusionキットで接続し得られたコンストラクトを大腸菌JM109に形質転換してクローンを得た。
続いて、常法に従って上記pQE30-A18-Dで形質転換した大腸菌JM109を、250mLの大腸菌用培地プラスグロウII(ナカライテスク)において37℃で一晩培養した。続いて培地の温度を26℃に下げ、終濃度1mMのIPTGを加えてさらに4時間培養し、菌体を遠心で回収した。回収した菌体は、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich、Complete mini)を加えた大腸菌溶解液(Sigma-Aldrich, CelLytic B)に懸濁し超音波処理により破砕した。得られた菌体破砕液を10 mMイミダゾール 20mM pH6.8リン酸緩衝液で平衡化したHisTagアフィニティ精製カラム(HiScreen Ni FF #28978244 GEヘルスケアバイオサイエンス社)に添加した。続いてカラム容量(5mL)の5倍容量の上記バッファでカラムを洗浄し、その後、500mMイミダゾール、20mM pH6.8リン酸緩衝液でタンパク質を溶出させた。得られた各フラクションから25μLを採取し、同量の1%(w/v)カルボキシメチルセルロース(ナトリウム塩)溶液(pH 5.5, 0.1M酢酸ナトリウムバッファ)を加え37℃で30分反応させた。反応液に800μLのTZB試薬(テトラゾリウムブルークロライド還元糖測定溶液(0.5 g/Lのテトラゾリウムブルークロライド、50 mM NaOH、0.5 M酒石酸カリウムナトリウムの水溶液)を加えて95℃で10分間加熱し、発色した溶液の660nmの吸光度を測定することにより、セルラーゼ活性を測定した(Jue and Lipke, 1985, J. Biochem. Biophys. Methods, 11:109-115)。本工程により、セルラーゼ活性のある画分を分取することができた(データ示さず)。
セルラーゼ活性が認められた画分について、分画分子量10,000のポリサルフォン系遠心限外濾過カラムを用いて活性フラクションのバッファを10 mM Tris-HClバッファ(pH7.6, 1mM CaCl2添加)と交換し、イミダゾールを除去することでA18-Dを調製した。調製したA18-Dを以下の実施例に用いた。
<実施例3:A18-D融合ペプチドのスキャフォルディンシルクへの固定化>
スピンカラム(MicroSpin Empty Columns GE-Healthcare、#27356501)に、実施例1で得たスキャフォルディンシルク(Sumi 40-2)又は通常のシルク(Normal Silk、diapausing strain w-c)を5mgずつピンセットで繊維を引き抜きながら詰めた。これに20 mMリン酸バッファ(pH6.8)を300μLずつ加えフタおよび下部栓をしてボルテックスし、その後フタ、栓を外して遠心し(10,000g、1分)、廃液した。これを5回繰り返し、シルク繊維を洗浄した。続いて、スピンカラムに下栓をして実施例2で調製したA18-D(C末側ドッカリン付加シロアリ型セルラーゼ)又はA18-11(通常のシロアリ型セルラーゼ)の0.4 U(ユニット)/mL溶液(pH6.8、20mMリン酸バッファ)300 μLをスピンカラムに添加しフタをした。この状態で一晩(おおよそ12時間)4℃で静置した。なお、リン酸バッファに1mMの塩化カルシウム(CaCl2)を添加する区としない区を5本ずつ用意した。次に、添加した酵素液を遠心で廃液し、塩化カルシウム添加リン酸バッファで、上記シルク線維の洗浄と同様に5回洗浄した。洗浄したスピンカラムのフタを開け250μLの1% CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、Sigma-Aldrich)溶液(0.1M酢酸ナトリウムバッファ、pH5.5)を加えフタをして1000ストローク/分の振動を加えながら37℃で1時間加温し、酵素反応を行った。1時間の反応後、CMC溶液を遠心し回収した。回収したCMC溶液から50μLを取り800μLのTZB試薬(テトラゾリウムブルークロライド還元糖測定溶液(0.5 g/Lのテトラゾリウムブルークロライド、50 mM NaOH、0.5 M酒石酸カリウムナトリウムの水溶液))を加えて95℃で10分間加熱し、発色した溶液の660nmの吸光度を測定することにより、セルラーゼ活性を測定した(Jue and Lipke, 1985, J. Biochem. Biophys. Methods, 11:109-115)。この時、同容量のミリQ水、0.5 mMグルコーススタンダードと1%CMC溶液も同様に同時に吸光度を測定し、ミリQ水反応液を吸光度ゼロとして他を測定した。各スピンカラムから回収したCMC溶液の吸光度の値から1%CMC溶液の吸光度の値を差し引き、0.5 mMグルコーススタンダード反応液の吸光度の値に対する比率から酵素活性(U、1Uは1分間に1μmolの還元糖を生成する酵素量)を計算した。
(結果)
結果を図3に示す。カルシウムイオンの非存在下では、結合はほとんど生じなかった。これは、リン酸バッファにおいて、溶液内のカルシウムイオンがリン酸カルシウムとして不溶化して除去され、結合が阻害されるためであると考えられる。
カルシウムイオンの存在下では、スキャフォルディンシルクに対するA18-Dの付加が最も大きいことがわかる。一方で、A18-D(C末側ドッカリン付加シロアリ型セルラーゼ)又はA18-11(通常のシロアリ型セルラーゼ)がコヒーシンを含まないノーマルシルクに対しても非特異的に吸着していることがわかる。したがって、コヒーシンとドッカリン間の特異的結合能力を利用してより特異的にドッカリン付加タンパクを吸着させるには、ブロッキングが必要であることが示唆された。
<実施例4:ブロッキング条件の検討>
(材料と方法)
SWB(シルク洗浄バッファ:10mM TrisHCl+1mM CaCl2、pH7.6)、SWB+1%BSA、SWB+0.1%(w/v)Triton-X 100、SWB+0.1%(w/v)Triton-X 100+5%スキムミルク溶液(不溶物は遠心で除去)、SWB+5%スキムミルクの4種のブロッキング溶液を用意した。10 mLの各ブロッキング溶液に50mgのノーマルシルク繊維(真綿)を2時間浸漬した。これに2Uの実施例2で調製したA18-D酵素を添加し4℃で一晩静置した。続いて、真綿を取り出し、ティッシュペーパーで挟んで脱水し、2.5 mLの新しいSWBに浸漬、振とうし再びティッシュペーパーで脱水した。これを5回繰り返し、最後にティッシュペーパーで完全に脱水した。得られた処理済み真綿からシルク繊維を5mgずつ抜き取り、スピンカラムに充填した。実施例3と同様に、CMC溶液と真綿を反応させてセルラーゼ活性を測定した。ただし反応時間は10分間とした。酵素活性は、実施例3と同様に計算した。
(結果)
結果を図4に示す。図4Aに示す通り、ノーマルシルクに対するA18-Dの吸着は、BSAでは低減されなかった。一方、図4Bに示す通り、ノーマルシルクに対するA18-Dの吸着は、スキムミルクでも低減され、またスキムミルク+Triton-X100溶液でほぼ完全に抑えられていることから、このような条件でブロッキングを行うことで非特異的吸着を抑え、ドッカリンとコヒーシン間の特異的結合によりA18-Dをシルク表面に固定できると考えられた。
<実施例5:EDTA溶液によるA18-Dのスキャフォルディンシルクからの除去及び再結合>(材料と方法)
スキャフォルディンシルクを用いて実施例4と同様の操作を行い、セルラーゼ活性を測定した。ただし、酵素溶液としてはSWB+0.1%(w/v)Triton-X 100に実施例2で調製したA18-Dを添加したもののみ使用した。
セルラーゼ活性測定後のスピンカラムに100μLの10mM Tris HCl 1mM EDTA、pH7.6を添加し、室温で30分間振とうした後、溶液を遠心により廃液した。250μLのSWBをカラムに添加し、下栓、フタをして5分間振とうした後、遠心により廃液した。これを5回繰り返した。続いて、実施例2と同様に、CMC溶液と真綿を反応させてセルラーゼ活性を測定した。 活性測定後、スピンカラムを上記と同様に、SWBを用いて洗浄した。上記で使用したA18-Dをカラムに充填(500μL)し、4℃で一晩静置した。続いて、実施例2と同様に、CMC溶液と真綿を反応させてセルラーゼ活性を測定した。
(結果)
結果を図5に示す。図5は、スキャフォルディンシルクからドッカリン融合酵素(A18-D)をEDTA溶液を使って除去できること、及びその後再びドッカリン融合酵素を再結合できることを示す。なお、再結合させた場合の方が多くのA18-Dが結合しているが、これは実験操作中にシルク繊維表面のセリシンが剥離し、より多くのコヒーシンが露出したためと考えられる。
<実施例6:EDTA溶液でスキャフォルディンシルクから溶出したドッカリン融合酵素(A18-D)の活性>
(材料と方法)
実施例5で得られたA18-D添加スキャフォルディンシルク(剥離及び再結合の前)50mgを10mLディスポーザブル注射筒に詰めた。これに2 mLの1 mM EDTA溶液(10 mM Tris HCl)を添加し、10分間室温で静置した。その後、注射筒のピストンを押して溶液を回収した。回収液50μLに1%CMC溶液(0.1 M 酢酸Naバッファ、pH5.5)200μLを添加し37℃で60分間反応させた。反応液にTZB試薬800μLを添加し95℃で10分間加熱し660nmの吸光度を測定した。得られた値から、同じ系で反応時間ゼロ分の反応から得られた計測値を差し引き、反応系と同容量の0.5 mMグルコースから得られる値との比率からmL当たり酵素活性(μmol生成還元糖/分/mL)を計算した。
(結果)
結果を図6に示す。図6は、EDTAで溶出したドッカリン融合酵素に活性があることを示している。酵素を添加していないスキャフォルディンシルクであるコントロールでも多少の活性が認められ、還元力をもつ水溶性タンパクなどが溶出していることがわかる。したがって、A18-D添加区とコントロールの差分を実際に回収された酵素活性と考えることができる。
<実施例7:ぼか繭スキャフォルディンシルクの産生>
(材料と方法)
実施例1で得られたスキャフォルディンシルク生産系統であるSumi40-2(♂)と通常のぼか繭系統であるMN500(♀)の交配で得られたF1系統から、常法に従ってぼか繭(SS Boka)を得た。また、コントロールとしてMN500から得られたぼか繭を、以下の反応に供した。
得られた繭をブロッキング溶液(5%スキムミルク、0.1%Triton-X及び1 mM CaCl2を含む10 mM Tris-HCl(pH7.6))に一昼夜浸漬し、翌日10 mLの実施例2で調製した粗抽出液(大腸菌培養液120 mL相当)を添加し、さらに一昼夜浸漬した。続いて、SWB(シルク洗浄バッファ:10mM TrisHCl+1mM CaCl2、pH7.6)で、繭が含んだ洗浄液をティッシュペーパーで脱水しながら7回繰り返し洗浄した。
洗浄した繭は、基質溶液(0.5% カルボキシメチルセルロースを含む0.1 M 酢酸ナトリウムバッファ(pH5.5)と37℃で2時間プレインキュベーションした後、一晩4℃に置き、非特異的に吸着したA18-Dを基質溶液に脱離させ、その後SWBで7回洗浄した。続いて、洗浄した繭と20 mLの基質溶液を、50 mLのファルコンチューブ中で37℃で振とうしながら酵素反応を行った。基質溶液投入直後(0 分)、又は基質溶液投入の10 分、30 分、60 分、120 分後に100 μLの反応液を回収し、800 μLのTZB試薬を加えて95℃ 10分加熱後660 nmの吸光度を測定した。
(結果)
結果を図7に示す。図7に示す通り、Sumi40-2とMN500の交配で得られたF1系統から得られたぼか繭(SS Boka)では、A18-Dに起因するセルラーゼ活性が認められた。
これらの結果は、スキャフォルディンシルク生産系統をぼか繭系統と交配することによって簡便にスキャフォルディンシルクをぼか繭化できること、及びぼか繭化されたスキャフォルディンシルクは、繭をほぐす操作を必要とせずにそのまま機能性ペプチドとの結合等に用い得ることを示している。
本発明により、反応素子にとってタメージが少ない生化学的特異結合法を用いて、機能性ペプチドを絹糸へ結合させる方法、及び該方法に用い得る融合ペプチドの組み合わせが提供され得る。例えば機能性ペプチドが酵素である場合、絹糸はバイオリアクターとして用い得るため、本発明により絹糸の新たな用途が提供され得る。

Claims (15)

  1. 以下の(a)又は(b)に示す融合ペプチドが結合した、ぼか繭系統由来のカイコ絹糸
    (a)シルク結合ペプチド、及び少なくとも一つのコヒーシンを含む融合ペプチドI、並びに
    融合ペプチドI中のコヒーシンと結合する少なくとも一つのドッカリン、及び機能性ペプチドを含む融合ペプチドIIの組み合わせ、又は
    (b)シルク結合ペプチド、及び少なくとも一つのドッカリンを含む融合ペプチドI'、並びに
    融合ペプチドI'中のドッカリンと結合する少なくとも一つのコヒーシン、及び機能性ペプチドを含む融合ペプチドII''の組み合わせ。
  2. 前記(a)が結合した、請求項1に記載のカイコ絹糸。
  3. 前記シルク結合ペプチドが、
    (i)SYTFHWHQSWSS(配列番号1)、
    (ii)QSWSWHWTSHVT(配列番号2)、
    (iii)WTWRWAHVTNTR(配列番号3)、
    (iv)QDVHLTQQSRYT(配列番号4)、
    (v)HKAHEYDPWISP(配列番号5)、
    (vi)SYSQHYGIPNPW(配列番号6)、
    (vii)SSWQMSWSWMGS(配列番号7)、
    (viii)(i)~(vii)のいずれかのアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が付加、欠失及び/又は置換されたアミノ酸配列、及び
    (ix)QSWS(配列番号8)のアミノ酸配列を含む10~14のアミノ長のアミノ酸配列、
    からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1又は2に記載のカイコ絹糸。
  4. コヒーシンが、
    配列番号9又は25のアミノ酸配列、
    配列番号9又は25のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び
    配列番号9又は25のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列、
    からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のカイコ絹糸。
  5. ドッカリンが、
    配列番号11又は27のアミノ酸配列、
    配列番号11又は27のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び
    配列番号11又は27のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列、
    からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のカイコ絹糸。
  6. 前記機能性ペプチドが酵素である、請求項1~5のいずれか一項に記載のカイコ絹糸。
  7. 前記融合ペプチドI又はI'は、シルク結合ペプチドの絹糸、又は絹糸の成分であるフィブロインへの結合によって、カイコ絹糸に結合しており、
    融合ペプチドII又はII'は、コヒーシンとドッカリンの結合によって融合ペプチドI又はI'に結合している、
    請求項1~6のいずれか一項に記載のカイコ絹糸。
  8. 請求項1~7のいずれか一項に記載のカイコ絹糸の生産方法であって、
    ぼか繭系統のカイコの絹糸腺で組換え発現され、請求項1~7のいずれか一項において(a)で規定される融合ペプチドI又はI'が結合したカイコ絹糸を、請求項1~7のいずれか一項において(b)で規定される融合ペプチドII又はII'と、カルシウムイオンの存在下で接触させることによって、融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'を結合させる工程
    を含む、カイコ絹糸の生産方法。
  9. 結合工程の前に、前記融合ペプチドI又はI'が結合した絹糸をブロッキング剤でブロッキングする工程をさらに含む、請求項に記載の方法。
  10. ブロッキング剤が1%~10%スキムミルクを含む、請求項に記載の方法。
  11. 結合工程の後に、キレート剤により融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'の結合を解離させる工程、及び
    カルシウムイオンの存在下で、前記融合ペプチドI又はI'が結合した絹糸を融合ペプチドII又はII'と接触させることによって、融合ペプチドI又はI'と融合ペプチドII又はII'を再結合させる工程、
    をさらに含む、請求項10のいずれか一項に記載の方法。
  12. 請求項6に従属する請求項7に記載のカイコ絹糸を用いることを含む、前記酵素により産生される物質の生産方法。
  13. 請求項6に従属する請求項7に記載のカイコ絹糸を含むバイオリアクター。
  14. 絹糸腺特異的に発現するタンパク質をコードするDNAのプロモーターの下流に機能的に連結した以下の(c)又は(d)で示す融合ペプチドをコードするDNAを含むぼか繭系統のトランスジェニックカイコ
    (c)シルク結合ペプチド、及び少なくとも一つのコヒーシンを含む融合ペプチドI、又は
    (d)シルク結合ペプチド、及び少なくとも一つのドッカリンを含む融合ペプチドI'。
  15. 以下の(c)又は(d)に示す融合ペプチドが結合した、ぼか繭系統由来のカイコ絹糸 (c)シルク結合ペプチド、及び少なくとも一つのコヒーシンを含む融合ペプチドI、又は
    (d)シルク結合ペプチド、及び少なくとも一つのドッカリンを含む融合ペプチドI'。
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