JP7348610B1 - 植物生育用鉄供給剤 - Google Patents

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【課題】植物に鉄分を供給する際に,低コストで長期にわたって鉄イオン(Fe2+又はFe3+)の酸化による沈澱を抑制して摂取効率を高めることを可能にする新規なキレート剤が化合された鉄供給剤を提供する。【解決手段】クエン酸,水,鉄を攪拌混合したクエン酸鉄に炭酸水素ナトリウムを化合したクエン酸鉄ナトリウム水溶液と,クエン酸鉄ナトリウム水溶液に混合されるキレート剤とからなり,キレート剤をリグニン廃液由来のリグニンスルホン酸とする。【選択図】図6

Description

本発明は,海水中において生息するワカメや昆布等の海藻類の各種海洋植物や土壌に植生される野菜や果樹等の陸上植物の生育に不可欠の要素である鉄分を効率的かつ低コストで供給することが可能な植物生育用鉄供給剤に関する。
なお,以下においては,「植物生育用鉄供給剤」を単に「鉄供給剤」と称する。
鉄分は,上記した各種植物の生育に必要不可欠な微量必須元素で,鉄分の欠乏により光合成不良や花芽の形成不良等の各種の生育不良が発生することが知られている。
例えば海洋植物に関しては,近年,沿岸部においては鉄不足による海藻類の成長や繁殖が減少して石灰藻で覆われる,いわゆる磯焼けやプランクトンの死滅による赤潮等の発生が進行し,その結果,これらの海洋植物を餌とするウニ,カキ,アワビ,魚等の魚介類の水産資源の減少が顕著になっている。
従来であれば,森林の腐植土壌中で生成する水溶性フルボ酸鉄(フルボ酸と二価鉄Fe2+がキレート化した化合物)が河川を介して沿岸水域に流入することにより上記磯焼けの発生やプランクトンの死滅による赤潮の発生を抑制していたが,近年においては,森林の荒廃などによりフルボ酸鉄の溶出量が減少して上記磯焼けや赤潮の発生が増大している。
陸上植物においても同様で,鉄分の不足により芽や根の成長不良,光合成不良,チッソ同化を行うアミノ酸やたんぱく質の合成不良,花芽の形成不良等が発生し,収穫量の減少を招いている。
このような問題に対し、例えば海洋植物に関しては,従来、特許文献1乃至3に示すように二価鉄イオン(Fe2+)を含む鉄分を付着させたり、石炭灰(フライアッシュ)等を混入させたコンクリートを海中に沈設させたりしておくことで、海藻類の増殖を図る技術が提案されている
しかし、たとえ光合成生物が摂取可能な二価鉄イオン(Fe2+)を溶出させたとしても、二価鉄イオンは水中の酸素によって酸化され易く、海洋植物に対して吸収効率が悪い三価鉄イオン(Fe3+)に遷移して粒状鉄(Fe(OH))になる結果,沈澱し易くなって海洋植物に摂取させることが困難になっている。
したがって、従来の技術では、海洋植物に対する鉄イオンの供給を効率的に行うことは困難で,水域環境に鉄分を供給するのであれば、鉄イオンが酸化されにくい状態,したがって長期にわたって鉄イオンの水溶状態を保ち,鉄分の沈澱が少なくなるように供給することが要求される。
なお,陸上植物にあっても同様で,例えば特許文献4に示す鉄分供給剤にあっては,二価鉄イオン(Fe2+)が酸化して三価鉄イオン(Fe3+)になり易く,陸上植物に対して鉄分を長期にわたって効率的に摂取させることが困難であった。
本出願人は,特願2023-518899により水溶液中において二化鉄イオン(Fe2+)を高濃度化することが可能な動植物生育用鉄供給剤等を提案したが,この鉄供給剤を海洋植物及び陸上植物のいずれにも使用するには,長期にわたって二価鉄イオン(Fe2+)が酸化して三価鉄イオン(Fe3+)になり難くする必要がある。
二価鉄イオン(Fe2+)を長期にわたって酸化し難くするには,例えば上記した鉄供給剤の水溶液にフルボ酸やフミン酸等のキレート剤を添加してキレート化することで改善することが知られている。
しかし,上記したフルボ酸やフミン酸等のキレート剤は,それ自体が極めて高コストであるが,上記植物生育用として使用するには,大量の鉄供給剤を使用する必要があり,植物の生育コストが著し増大することが避けられなかった。特に,海洋植物の生育用として使用する場合には,陸上植物に比べ,海水中に更に大量化する必要があり,鉄供給剤による生育効率が極めて悪く,かつ生育コストが極めて増大する問題が生じている。
上記生育コストを低減可能なフルボ酸やフミン酸等に代わるキレート剤として,バーク堆肥や腐葉土等の腐植物質から高アルカリイオン水(約pH13)により抽出した腐植酸(フルボ酸とフミン酸)が知られている。該腐植酸を使用した鉄供給剤にあっては,二価鉄イオン(Fe2+)をキレート化することにより酸化を有効に抑制することが可能であるが,腐植酸を抽出する際に大量の腐植物質残滓が廃棄物として排出され,その処分に手間とコストがかかる別の問題が生じ,キレート剤として使用するには不適当であることが判明した。
日本国特許2640926号公報 日本国特開平8-89126号公報 日本国特開2002-45078号公報 日本国特許4096207号公報
鉄供給剤に混合されて二価鉄イオン(Fe2+)の酸化を抑制するキレート剤としてのフルボ酸やフミン酸は,高コストであり,植物生育用として使用する場合には,大量の鉄供給剤を必要とするため,植物の生育コストが著しく増大する点にある。
また,鉄供給剤のキレート剤として腐植物質から高アルカリイオン水により抽出された腐植酸を使用する場合にあっては,大量の腐植物質残滓が発生し,その廃棄処理に手間とコストがかかる点にある。
本発明は,クエン酸,水,鉄を攪拌混合したクエン酸鉄に炭酸水素ナトリウムを化合したクエン酸鉄ナトリウム水溶液と,該クエン酸鉄ナトリウム水溶液に混合されるキレート剤と,からなり,キレート剤は,リグニン廃液由来のリグニンスルホン酸としたことを最も主要な特徴とする。
本発明は,植物に鉄分を供給する際に,低コストで長期にわたって鉄イオン(Fe2+又はFe3+)の酸化による沈澱を抑制して摂取効率を高めることを可能にする新規なキレート剤が化合された鉄供給剤を提供することができる。
クエン酸鉄ナトリウム1の製造過程における鉄イオン濃度を示す説明図である。 クエン酸鉄ナトリウム2の製造過程における鉄イオン濃度を示す説明図である。 クエン酸鉄ナトリウム3の製造過程における鉄イオン濃度を示す説明図である。 従来の鉄供給剤を海水中に混合した際のFeイオンの沈澱率を示す説明図である。 本発明に係る鉄供給剤の作成例を示す説明図である。 Fe濃度44ppmの鉄供給剤を海水に混合した際のFeイオン沈澱率を示す説明図である。 Fe濃度22ppmの鉄供給剤を海水に混合した際のFeイオン沈澱率を示す説明図である。 比較使用例1を示す説明図である。 比較使用例2を示す説明図である。
クエン酸,水及び鉄を攪拌混合したクエン酸鉄に炭酸水素ナトリウムを化合したクエン酸鉄ナトリウム水溶液にリグニン廃液由来のリグニンスルホン酸を主成分とするキレート剤を混合したことを最良の形態とする。
以下,本発明を実施例に従って詳細に説明する。
[鉄供給剤]
本発明の鉄供給剤は,クエン酸,水及び鉄を混合して調整したクエン酸鉄水溶液に,重曹(炭酸水素ナトリウム NaHCO)を化合させて得られたクエン酸鉄ナトリウム塩の水溶液にリグニンスルホン酸を混合して生成される。
(クエン酸)
水溶液を調整するのに用いる酸は,環境負荷がなく,使用上,安全なクエン酸に限定され,該クエン酸は,主成分(通常,純度99%以上)とする固体又は粉体であり,その純度であれば粒子形状などは特に限定されないが,水に溶解し易い細かい粒度であることが好ましい。
後述する水にクエン酸を溶解したクエン酸水は,pHが1.0~2.0に調整され,刺激臭がなく,鉄を添加したクエン酸鉄水溶液に生成した際に,酸濃度に対する二価鉄イオン(Fe2+)濃度を特に高くすることができる。
(水)
クエン酸を溶解する水としては,特に限定されず,例えば純水及びイオン交換水等の高度に精製された水であってもよく,また水道水,工業用水,農業用水及び地下水等の通常使用される水であってもよい。
(鉄)
クエン酸水に添加される鉄は,酸化鉄(FeO)に限定されず,鉄を主成分とするFe,Fe4等の固体であってもよいため,本発明においては,固体鉄と称する。固体鉄に含有される鉄量は,特に限定されないが,鉄を50質量%以上(好ましくは65質量%以上,更に好ましくは95質量%であってもよい)含有したものが適している。
この固体鉄は,例えばスチールウール,鉄分を含有するダスト,伸線加工時に発生する鱗片状鉄スケール,鋳物砂の含鉄部,及び各種市販の鉄粉末等を用いることができる。これらの中では,クエン酸で溶解しやすい細かい粒度の鉄粉末が好ましい。クエン酸水溶液に対する固体鉄の添加量は,クエン酸水100に対して固体鉄1~25の割合で添加してクエン酸鉄水溶液に調整される。
(炭酸水素ナトリウム)
炭酸水素ナトリウム(重曹)としては,炭酸水素ナトリウムを主成分(通常,純度99%以上)とする固体又は粉体で,その純度であれば粒子形状などは特に限定されない。水に溶解しやすいので,細かい粒度であることが好ましい。
炭酸水素ナトリウムは,クエン酸鉄水溶液に添加して化合させることにより安定度が高いクエン酸鉄ナトリウムを生成すると共にpHの上昇により酸化還元電位を還元位置まで到達させて二価鉄イオン(Fe2+)が酸化して三価鉄イオン(Fe3+)へ遷移するのを抑制することを可能にする。
(クエン酸鉄ナトリウム)
上記したクエン酸と固体鉄及び水を攪拌混合したり,予め水で溶解したクエン酸に固体鉄を添加して攪拌混合したり,予め所要量を溶解させたクエン酸に固体鉄及びクエン酸粉末を添加し,必要に応じて加熱しながら攪拌混合したりするいずれかの態様によりクエン酸鉄水溶液を生成した後に,該クエン酸鉄水溶液に炭酸水素ナトリウムを混合し,必要に応じて加熱したクエン酸鉄ナトリウムの水溶液が生成される。該クエン酸鉄ナトリウムにあっては,炭酸水素ナトリウムの添加によりpH5~8になるようにアルカリ化される。
上記においてクエン酸,固体鉄,炭酸水素ナトリウムの量は,特に限定されないが,例えば水100mlに対し,クエン酸10g(好ましくは15g~水溶液温度におけるクエン酸溶解限度量の範囲で任意に決定する。),水100ml当りにおいて固体鉄を,クエン酸含有量を100重量部とした場合においては5~60重量部,水100ml当りにおいて炭酸水素ナトリウムを,クエン酸含有量を100重量部とした場合においては80~120重量部とする。
なお,上記により攪拌混合して得られたクエン酸鉄ナトリウムの水溶液中に非溶解のクエン酸,固体鉄,炭酸水素ナトリウムが残存する場合には,ろ過手段や遠心分離機等により水不溶性成分を分離除去すればよい。ろ過手段とする場合のろ過条件としては,特に限定されないが,例えば孔径10μm以下,より好ましくは5μm以下,更に好ましくは3μm以下のメンブレンフィルター,濾過フィルター等を使用すればよい。
なお,上記クエン酸鉄ナトリウム水溶液には,例えば木酢液のような水溶性防黴剤を添加(木酢液の場合,生育用鉄剤に対して1~10質量%以下)し,黴の発生を防カビ防止することができる。
また,クエン酸鉄ナトリウム水溶液にあっては,特に保存温度は限定されないが,例えば15℃以下の低温で保存するのが好ましい。更に,生育用鉄剤の水溶液にあっては,嫌気環境下での保存が好ましい。
上記のように生成された各種クエン酸鉄ナトリウム水溶液1乃至3の二価鉄イオン(Fe2+)濃度変化を図1乃至図3に示す。図1乃至図3に示すクエン酸鉄ナトリウム水溶液1乃至3にあっては,高濃度の二価鉄イオン(Fe2+)を確認することができた。
なお,図3に示すクエン酸鉄ナトリウムにおいて使用した「鉄」としての「線引鉄」は,ダイスに鉄材を通過させて鉄線材を製造する際に,ダイスにより切削されて排出される切削鉄(スケール)である。
[リグニンスルホン酸マグネシウム]
生育用鉄供給剤は,上記クエン酸鉄ナトリウム水溶液にキレート剤としてのリグニンスルホン酸マグネシウムを混合して鉄供給剤に生成される。リグニンスルホン酸マグネシウムの混合割合は,クエン酸鉄ナトリウムを100質量部とした場合に,10~100質量部,好適例としては,20~50質量部とする。
キレート剤として使用するリグニンスルホン酸マグネシウムは,製紙過程で産業廃棄物として排出されるリグニン廃液を原料とし,該リグニン廃液(リグニンスルホン酸液)にマグネシウムを添加して生成される。該リグニンスルホン酸マグネシウムは,高い分散性及び粘結性があり,クエン酸鉄ナトリウム水溶液中の二価鉄イオン(Fe2+)を保持する高いキレート力を備えている。また,リグニンスルホン酸マグネシウムは,その原料自体が製紙過程でチップから排出される産業廃棄物であるため,低コスト化を実現できる特徴を備えている。
鉄供給剤としては,所要の濃度に希釈した水溶液としての形態,活性炭やゼオライト等のミクロポーラス材,軽石等のマクロポーラス材等の多孔質担持体に担持させた固体としての形態,生分解性増量剤に混合したいずれであってもよいが,いずれの場合であっても,鉄供給剤を100質量%とした場合に,クエン酸鉄ナトリウム(完全乾燥質量換算)を5~95質量%,好適値として50質量%以下,最好適値として30質量%で含有する必要がある。
鉄供給剤には,上記クエン酸鉄ナトリウムの他に,例えばリポ酸,各種ビタミン類,Mn,Zn,Cu,Cr,Si,Mg,Ca,Co,Mo,Ni,B等の各成分,S及びCl等の水溶性化合物,水溶性金属塩等の他の成分や増量剤を,単体又は複合体として含有することができる。含有される他の成分は,クエン酸鉄ナトリウムを100質量部とした場合に30質量部以下とすることが好ましい。また,増量剤としては,例えばゼオライト、堆肥、粘土、泥炭、もみ殻、珪藻土、生分解性樹脂等が適している。
次に,図4に従って従来,鉄供給剤として使用されている硫酸鉄水溶液,クエン酸鉄,クエン酸鉄ナトリウム及び(クエン酸鉄ナトリウム+腐植酸)(フルボ酸+フミン酸)の各水溶液の水溶状態(沈澱状態)に付いて説明する。
[硫酸鉄水溶液]
海水300mLに対し,硫酸鉄水溶液(Fe濃度:22000ppm):0.6mLを混合し,海水中濃度:44ppmの水溶液を作成し,該水溶液におけるFe濃度を測定してFeの沈澱率を測定した。
該水溶液にあっては,海水に対する硫酸鉄水溶液の混合直後にFeの67%が沈澱し,1日経過後にほぼ全てが沈澱した。
該事実から,硫酸鉄水溶液は,海水中における鉄供給剤としては,不適格であると判定した。
[クエン酸鉄水溶液]
海水300mLに対し,クエン酸鉄水溶液(Fe濃度:15000ppm):0.88mLを混合し,海水中濃度:44ppmの水溶液を作成し,該水溶液におけるFe濃度を測定してFeの沈澱率を測定した。
該水溶液にあっては,海水に対するクエン酸鉄水溶液の混合直後にFeの37%が沈澱し,10日経過後にほぼ全てが沈澱した。
該事実から,クエン酸鉄水溶液は,海水中における鉄供給剤としては,不適格であると判定した。
[クエン酸鉄ナトリウム水溶液]
海水300mLに対し,クエン酸鉄ナトリウム水溶液(Fe濃度:22000ppm):0.6mLを混合し,海水中濃度:44ppmの水溶液を作成し,該水溶液におけるFe濃度を測定してFeの沈澱率を測定した。
該水溶液にあっては,海水に対するクエン酸鉄ナトリウム水溶液の混合直後にFeの50%が沈澱し,14日経過後にほぼ全てが沈澱した。
該事実から,クエン酸鉄ナトリウム水溶液は,海水中における鉄供給剤としては,不適格であると判定した。
[(クエン酸鉄ナトリウム+腐植酸)水溶液]
クエン酸鉄ナトリウム及び腐植酸を1:1の割合で混合し,Fe濃度:11000ppmの水溶液を作成する。海水300mLに対し,(クエン酸鉄ナトリウム+腐植酸)水溶液:1.2mLを混合し,海水中濃度:44ppmの水溶液を作成し,該水溶液におけるFe濃度を測定してFeの沈澱率を測定した。
該水溶液にあっては,海水に対する(クエン酸鉄ナトリウム+腐植酸)水溶液水溶液の混合直後にFeの30%が沈澱し,25日経過後にほぼ全てが沈澱した。
該事実から,(クエン酸鉄ナトリウム+腐植酸)水溶液は,上記した硫酸鉄,クエン酸鉄,クエン酸鉄ナトリウムに比べて沈澱率が低いが,混合直後の沈澱率が高いため,鉄供給剤としては,不十分であると判定した。
次に,本発明に係るクエン酸鉄ナトリウム(図中においてCFNとする。)に,リグニンスルホン酸マグネシウム((図中においてSMとする。)及びリグニンスルホン酸マグネシウムを更に亜臨界処理したリグニンスルホン酸マグネシウム亜臨界(図中においてSMAとする。)をそれぞれ混合した鉄供給剤の水溶状態(沈澱率)を図5乃至図7に従って説明する。
図6及び図7に示す鉄供給剤は,クエン酸鉄ナトリウムを100質量部とした場合に,リグニンスルホン酸マグネシウム及びリグニンスルホン酸マグネシウム亜臨界を20質量部及び35質量部でそれぞれ混合した。
なお,図5乃至図7においては,クエン酸鉄ナトリウム(100質量部)+リグニンスルホン酸マグネシウム(20質量部)をCFN100+SM20,クエン酸鉄ナトリウム(100質量部)+リグニンスルホン酸マグネシウム(35質量部)をCFN100+SM35,クエン酸鉄ナトリウム(100質量部)+リグニンスルホン酸マグネシウム亜臨界(20質量部)をCFN100+SMA20,クエン酸鉄ナトリウム(100質量部)+リグニンスルホン酸マグネシウム亜臨界(35質量部)をCFN100+SMA35として示し,CFN100+SM20及びCFN100+SMA20のFe濃度はそれぞれ18333ppm,CFN100+SM35及びCFN100+SMA35はそれぞれ16296ppmである。
そして図5に示すように,海水300mLに対し,CFN100+SM20及びCFN100+SMA20を0.72g,0.36g,それぞれ混合して海水中でのFe濃度が44ppm,22ppmになるように,またCFN100+SM35及びCFN100+SMA35)を0.81g,0.42g,それぞれ混合して海水中でのFe濃度が44ppm,22ppmになるように調整した。
図6は,CFN100+SM20,CFN100+SMA20及びCFN100+SM35,CFN100+SMA35が混合され,Fe濃度が44ppmに調整された海水中におけるFe沈澱率を9週間にわたって測定した結果を示す。
図6が示すように,すべての鉄供給剤において海水との混合直後に沈澱せず,また9週間経過後においては,CFN100+SMA20を除いてほとんど沈澱しなかった。
図7は,CFN100+SM20,CFN100+SMA20及びCFN100+SM35,CFN100+SMA35が混合され,Fe濃度が22ppmに調整された海水中におけるFe沈澱率を9週間にわたって測定した結果を示す。
図7が示すようにし,すべての鉄供給剤において海水との混合直後に沈澱せず,また9週間経過後においては,CFN100+SMA20及びCFN100+SMA35を除いてほとんど沈澱しなかった。
上記の測定結果から,クエン酸鉄ナトリウムにリグニンスルホン酸マグネシウムを混合した本発明に係る鉄供給剤にあっては,海水中において長期にわたってFe濃度を高濃度に保つことができた。
以下においては,植物に本発明に係る鉄供給剤を灌注した比較使用例1,2を図8及び図9に示す。
[比較使用例1]
図8は,本発明に係る鉄供給剤としてCFN100+SM35を,または比較対象をクエン酸鉄ナトリウム区,クエン酸鉄ナトリウム+腐植酸区とし,植物としてモロヘイヤを19日間,栽培した際の地上高さ,根長さ,葉枚数,葉幅,地上部重さ,根重さ,茎径を計測し,対照区を100とした際の指数を示す。なお,灌注条件としては,各鉄供給剤を1000倍希釈し,週1回とした。
本発明に係る鉄供給剤としてCFN100+SM35を灌注した栽培例にあっては,クエン酸鉄ナトリウム区,クエン酸鉄ナトリウム+腐植酸区に対し,いずれの項目において高い指数を示し,灌注された鉄供給剤水溶液中において高濃度のFeイオンが長期にわたって保たれていると考察される。
[比較使用例2]
図9は,本発明に係る鉄供給剤としてCFN100+SM35及びCFN100+SMA35を,または比較対象をクエン酸鉄ナトリウム区とし,植物として小松菜を27日間,栽培した際の地上高さ,根長さ,葉枚数,葉幅,地上部重さ,根重さ,茎径を計測し,対照区を100とした際の指数を示す。なお,灌注条件としては,各鉄供給剤を1000倍希釈し,週1回とした。
本発明に係る鉄供給剤としてCFN100+SM35及びCFN100+SMA35を灌注したいずれの栽培例にあっては,クエン酸鉄ナトリウム区に対し,いずれの項目において高い指数を示し,灌注された鉄供給剤水溶液中において高濃度のFeイオンが長期にわたって保たれていると考察される。
本実施例の鉄供給剤あっては,クエン酸ナトリウムに混合されるキレート剤として,従来,廃棄処分されているリグニン廃液にマグネシウムを添加して生成されるリグニンスルホン酸マグネシウムを使用することにより,フルボ酸やフミン酸を使用する場合に比べて低コスト化することができる。
また,キレート剤として腐植物質から生成される腐植酸を使用する場合に比べて大量の産業廃棄物としての腐植物質残滓が生じるのを回避し,鉄供給剤の低コスト化に貢献することができる。

Claims (8)

  1. 海洋及び陸上植物の生育に不可欠な微量必須元素としての鉄分を供給する植物生育用鉄供給剤は,
    クエン酸,水,鉄を,水100ml当りのクエン酸(純度100%換算)を10g~水温度のクエン酸溶解限度量,水100ml当りの鉄(純度100%換算)を,クエン酸含有量を100質量部とした場合に5~60質量部の割合で攪拌混合したクエン酸鉄に炭酸水素ナトリウムを,クエン酸含有量を100質量部とした場合に水100ml当りの炭酸水素ナトリウム(純度100%換算)を80~120質量部の割合で化合したクエン酸鉄ナトリウム水溶液と,
    該クエン酸鉄ナトリウム水溶液に混合されるキレート剤と,
    からなり,
    該キレート剤は,リグニン廃液由来のリグニンスルホン酸としたことを特徴とする。
  2. 請求項1において,
    上記キレート剤は,木材チップの亜臨界処理により含有されたリグニンを加水分解してスルホン化して生成されるリグニンスルホン酸にマグネシウムを添加したリグニンスルホン酸マグネシウムとした植物生育用鉄供給剤。
  3. 請求項1において,
    上記キレート剤は,請求項2により生成されたリグニンスルホン酸マグネシウムを,更に亜臨界処理したリグニンスルホン酸マグネシウム亜臨界とした植物生育用鉄供給剤。
  4. 請求項2及び3のいずれかにおいて,
    リグニンスルホン酸マグネシウムは,クエン酸鉄ナトリウムの100質量部に対して10~100質量部とした植物生育用鉄供給剤。
  5. 請求項1において,
    上記クエン酸鉄は,クエン酸(純度100%換算)と水(純度100%換算)及び鉄(純度100%換算)を8~40:1~25:60~90の割合としたことを特徴とする植物生育用鉄供給剤。
  6. 請求項1において,
    鉄は,鉄分が50質量%以上の固体鉄とした植物生育用鉄供給剤。
  7. 請求項1において,
    クエン酸鉄ナトリウム水溶液に防黴剤を添加した植物生育用鉄供給剤。
  8. 請求項7において,
    防黴剤は,クエン酸鉄ナトリウム水溶液全体に対し,10質量%以下とした植物生育用鉄供給剤。
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