JP7343985B2 - 打音の低減された熱可塑性樹脂組成物及び成形品 - Google Patents
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Description
そこで、本発明の目的は、打音の発生が抑制された成形品であって、好ましくは、成形品の光沢が良好に維持され、さらに好ましくは、軋み音の発生も抑制されたものを提供し得る熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
前記ゴム質部分(a1)は、芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を備えたブロック(I)と、イソプレンまたはイソプレン及びブタジエンに由来する構造単位を備え、0℃以上にtanδの主分散のピークを有するブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物に由来するゴム質部分(a1-1)を含み、
前記樹脂部分(a2)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含み、
下記の条件で測定した場合に、20~12,400Hzの周波数域の損失係数(η)の最小値が0.02以上である熱可塑性樹脂組成物が提供される。
測定条件:
射出成型機を用いて成形した厚さ2mmの平板を、長さ250mm、幅10mm、厚さ2mmに切削することで作成した試験片を用い、JIS K 7391の規定に従う中央加振法により23℃の温度で測定。
なお、従来研究されていた制振性は物体が連続的に振動を受けた時に当該物体に連続的に生じる振動に関するものであるのに対し、打音は物体に他の物体が衝突した時に瞬間的に生じる振動に関するものであり、両者は、エネルギーを吸収分散する時間が全く異なる。打音を抑制するためには、エネルギーの吸収分散速度を極めて瞬間的な時間とする必要がある。また、制振性は連続的な振動によって生じる振動騒音を問題とするのに対し、打音は瞬間的な打撃によって生じる音を問題とする点で両者は異なる。
本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び/又は共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
また、JIS K 7121-1987に準じて測定した融点(本明細書において、「Tm」と表記することもある)は、DSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読みとった値である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(本明細書では「成分(X)」ともいう)は、ゴム質部分(a1)として、上記ブロック(I)とブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物に由来するゴム質部分(a1-1)を備えているゴム強化樹脂(A)を含んでいればよく、ゴム強化樹脂(A)のみから構成されてもよく、または、さらに他の熱可塑性樹脂(B)を含んでもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)に配合できる他の熱可塑性樹脂(B)の例としては、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ポリ乳酸樹脂などが挙げられる。
射出成型機を用いて成形した厚さ2mmの平板を、長さ250mm、幅10mm、厚さ2mmに切削することで作成した試験片を用い、JIS K 7391の規定に従う中央加振法により23℃の温度で測定。
測定条件:
縦120mm、横60mm、厚さ3mmの矩形本体の上端に上底20mm、下底40mm、高さ8mm、厚さ1.5mmの台形状の突起を備えた形状の一体成形品である試験片の前記突起に2本の糸をテープで貼り付けて吊り下げた状態で、前記試験片の一方の面の中央をステンレス製のハンマーで20±5Nの力で叩いた時の響きを、前記面に対して垂直方向に12cm離して設置した音圧マイクロホンで集音して求めた音圧の周波数スペクトルに基づいて測定。
測定条件:
縦60mm、横100mm、厚さ4mmの試験片、及び、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片を用意し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下で荷重5N、40N、速度1mm/秒、、10mm/秒の4条件にて振幅20mmで3回、前者の試験片の面と後者の試験片の面とを擦り合わせて測定。
異音リスク値は、ドイツ自動車工業会(VDA)規格準拠の仕様にて、同一の材質で接触部材を作製した時のスティックスリップ異音発生リスクを10段階の指数で示したものであり、上記異音レベルが3以下なら合格とされている。
ゴム強化樹脂(A)は、ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1)とビニル系単量体に由来する構成単位を含む樹脂部分(a2)とを有する。ゴム質部分(a1)の少なくとも一部に樹脂部分(a2)がグラフト重合などにより結合したグラフト共重合体を形成していることが好ましい。換言すれば、ゴム強化樹脂(A)において、樹脂部分(a2)の少なくとも一部がゴム質部分(a1)の少なくとも一部にグラフト重合などにより結合していることが好ましい。したがって、ゴム強化樹脂は、上記グラフト共重合体と、ゴム質部分(a1)にグラフト重合していない樹脂部分(a2)を構成する(共)重合体とから少なくとも構成されることが好ましく、さらに、樹脂部分(a2)がグラフトしていないゴム質部分(a1)、又は、添加剤等のその他の成分を含んでもよい。
上記ゴム質部分(a1)は、25℃でゴム質(ゴム弾性を有する)であれば、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。また、上記ゴム質部分(a1)は、上記ブロック(I)と上記ブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物に由来するゴム質部分(a1-1)から少なくとも構成されている必要があるが、これに加えて、上記ブロック共重合体またはその水素添加物以外のゴム質重合体に由来する他のゴム質部分を備えていてもよい。他のゴム質部分としては、例えば、非ジエン系重合体(以下、「非ジエン系ゴム」という)に由来するゴム質部分(a1-2)、ジエン系重合体(以下、「ジエン系ゴム」という)に由来するゴム質部分(a1-3)が挙げられる。また、これらの重合体は、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。このうち、本発明においては、耐衝撃性、剛性等の機械的強度向上の点から、上記ゴム質部分(a1)の少なくとも一部が上記ゴム質部分(a1-3)から構成されることが好ましい。また、打音やきしみ音等の異音の抑制効果の点から、上記ゴム質部分(a1)の少なくとも一部が上記ゴム質部分(a1-2)から構成されることが好ましく、上記ゴム質部分(a1)が、上記ゴム質部分(a1-1)と上記ゴム質部分(a1-2)とから構成されることがより好ましい。また、耐衝撃性、剛性等の機械的強度向上の点及び打音やきしみ音等の異音の抑制効果の点から、上記ゴム質部分(a1)が、上記ゴム質部分(a1-1)と上記ゴム質部分(a1-2)上記ゴム質部分(a1-3)とから構成されることが好ましい。
ゴム質部分(a1-1)を構成するゴム質重合体としては、芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を備えたブロック(I)と、イソプレンまたはイソプレン及びブタジエンに由来する構造単位を備え、0℃以上にtanδの主分散のピークを有するブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物が使用される。
ゴム質部分(a1-2)を構成する非ジエン系ゴムとしては、エチレン・α-オレフィン系ゴム;ウレタン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーンゴム;シリコーン・アクリル系IPNゴム;共役ジエン系化合物に由来する構造単位を含む(共)重合体を水素添加してなる水素添加重合体(但し、水素添加率は50%以上で、上記ブロック共重体は除く)等が挙げられる。この水素添加重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
ゴム質部分(a1-3)を構成するジエン系ゴムとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。該ジエン系ゴム質重合体は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。
本発明において、ゴム強化樹脂(A)中のゴム質部分(a1)の含有量即ちゴム含量は、ゴム強化樹脂(A)全体100質量%に対して、好ましくは3~80質量%、より好ましくは3~75質量%、さらに好ましくは4~70質量%、さらに好ましくは5~70質量%、特に好ましくは7~65質量%である。ゴム含量が前記範囲にあると、熱可塑性樹脂組成物(X)の耐衝撃性、打音やきしみ音等の異音の低減効果、寸法安定性、及び成形性等がさらに優れて好ましい。
ゴム質部分(a1)が上記ゴム質部分(a1-1)、上記ゴム質部分(a1-2)及び上記ゴム質部分(a1-3)の3種から構成される場合、ゴム質部分(a1)は、上記ゴム質部分(a1-1)1~20質量%、上記ゴム質部分(a1-2)1~15質量%、及び上記ゴム質部分(a1-3)1~15質量%から構成されることが好ましく、上記ゴム質部分(a1-1)2~15質量%、上記ゴム質部分(a1-2)3~12質量%、及び上記ゴム質部分(a1-3)3~12質量%(ただし、熱可塑性樹脂組成物(X)の合計は100質量%とする)から構成されることがより好ましい。
ゴム強化樹脂(A)の樹脂部分(a2)は、ビニル系単量体に由来する構造単位からなり、芳香族ビニル化合物を必須成分として含み、芳香族ビニル化合物と該芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物とから構成されてもよい。上記芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα-メチルスチレンが好ましい。
ゴム強化樹脂(A)の製造方法としては、ゴム質部分(a1)が上記ゴム質部分(a1-1)のみで構成される場合、例えば、上記ゴム質部分(a1-1)自体を樹脂部分(a2)と溶融混錬する方法や、上記ゴム質部分(a1-1)を構成するゴム質重合体の存在下に、樹脂部分(a2)を構成するビニル系単量体をグラフト重合させる方法が挙げられる(これらの方法で得られたゴム強化樹脂を、本明細書では、「第一のゴム強化樹脂」又は「ゴム強化樹脂(A1)」という)。
グラフト率(質量%)=((S-T)/T)×100 …(1)
上記式中、Sはゴム強化樹脂(A)1グラムをアセトン20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tはゴム強化樹脂(A)1グラムに含まれるゴム質部分(a1)の質量(g)である。このゴム質部分(a1)の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法の他、赤外分光分析、熱分解ガスクロマトグラフィー、CHN元素分析等により求めることができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)において打音低減材として機能する第一のゴム強化樹脂の使用量は、熱可塑性樹脂組成物(X)全体を100質量%として、好ましくは0.1~40質量%であり、より好ましくは1~35質量%である。ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)の使用量が上記範囲にあると、成形品の打音の低減効果と機械的強度とのバランスが良好になる。ゴム質部分(a1-1)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物(X)全体を100質量%として、3~25質量%であり、好ましくは7.5~20質量%である。ゴム質部分(a1-1)の含有量が7.5質量%以上である場合、打音の抑制効果は向上する一方で、軋み音の抑制効果が低下する傾向があるが、本発明による熱老化防止剤の添加によって、当該軋み音の抑制効果の低下が防止できるので、本発明によれば、打音が高度に抑制され且つ軋み音も抑制することができる。
軋み音の発生が抑制され、表面の光沢の高い成形品を得るために、本発明の熱可塑性樹脂組成物〔X〕には、熱老化防止剤を添加することができる。熱老化防止剤は、ゴム等に配合されている熱老化防止剤であれば特に限定されないが、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤が好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、下記一般式(I)で表わされるようにオルト位にt-ブチル基を有するフェノール基を備えたフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混練機を用いて適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。更に、各々の成分を混練するに際しては、それらの成分を一括して混練しても、多段、分割配合して混練してもよい。尚、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練したあと、押出機によりペレット化することもできる。溶融混練温度は、通常180~240℃、好ましくは190~230℃である。
本発明の成形品は、熱可塑性樹脂組成物(X)を射出成形、ガスインジェクション成形、プレス成形、シート押出成形、真空成形、異形押出成形、発泡成形、材料押出堆積法、粉末焼結積層造形等の公知の成形法により成形することで製造することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、上記のような優れた性質を有するので、車両内装品、外装品に使用することができる。例えば、シートベルトのバックル、アッパーボックス、カップホルダー、ドアトリム、ドアノブ、ドアポケット、ドアライニング、ピラーガーニッシュ、コンソール、コンソールボックス、ルームミラー、サンバイザー、センターパネル、ベンチレータ、エアコン、エアコンパネル、ヒーターコンパネル、板状羽根、バルブシャッター、ルーバー等、ダクト、メーターパネル、メーターケース、メーターバイザー、インパネアッパーガーニッシュ、インパネロアガーニッシュ、A/T インジケーター、"オンオフスイッチ類(スライド部、スライドプレート)、スイッチベゼル、グリルフロントデフロスター、グリルサイドデフロスター、リッドクラスター、カバーインストロアーなどのマスク類(マスクスイッチ、マスクラジオなど)、ポケット類(ポケットデッキ、ポケットカードなど)、ステアリングホイールホーンパッド、カップホルダー、スイッチ部品、スイッチボックス、アシストグリップ等のグリップ、ハンドル、グラブハンドルカーナビゲーション用外装部品、カメラカバー、カメラモニタリングシステム、ヘッドアップディスプレイ、リアエンターテイメントシステム、グローブボックス、グローブボックスラチェット、小物入れ、小物入れなどの蓋にあるラチェット、ルームミラー、ルームランプ、アームレスト、スピーカーグリル、ナビパネル、オーバーヘッドコンソール、クロックインジケーター、SOSスイッチ等の車両内装品、フロントグリル、ホイールキャップ、バンパー、フェンダー、スポイラー、ガーニッシュ、ドアミラー、ラジエターグリル、リアコンビネーションランプ、ヘッドランプ、ターンランプ、アウトサイドドアハンドルのグリップ等の車両外装品、事務機器、家庭用家電製品のケース、ハウジング等の外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品、デスク用ロック部品、デスク引き出し、複写機の用紙トレイ、直管型LEDランプ、電球型LEDランプ、電球型蛍光灯、シーリングライトのパネル、カバー、コネクタなどの照明器具、携帯電話、タブレット端末、炊飯器、冷蔵庫、電子レンジ、ガスコンロ、掃除機、食器洗浄機、空気清浄機、エアコン、ヒーター、TV、レコーダーなどの家電器具、プリンター、FAX、コピー機、パソコン、プロジェクター等のOA機器、オーディオ器具、オルガン、電子ピアノ等の音響機器、化粧容器のキャップ、電池セル筐体等として使用することができ、特に車両内装品として好ましく使用することができる。
なお、前記第一の部品が接触する第二の部品は、前記熱可塑性樹脂組成物(X)で成形された部品であってもよく、また、前記熱可塑性樹脂組成物(X)以外の樹脂で成形された部品や金属のような他の材料でできた部品であってもよい。前記熱可塑性樹脂組成物(X)以外の樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ABS樹脂等のゴム強化芳香族ビニル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート/ABSアロイ、ナイロン樹脂、ナイロン/ABSアロイ、PET樹脂、PET/ABSアロイ、PBT/ABSアロイ、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマー等が挙げられる。
1.原料〔P〕
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂として、下記の合成例1及び2で得られたゴム強化芳香族ビニル系樹脂を用いた。
攪拌機付き重合容器に、水280部およびジエン系ゴム質重合体として、重量平均粒子径0.26μm、ゲル分率90%のポリブタジエンラテックス60部(固形分換算)、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら60℃に加熱した後、アクリロニトリル10部、スチレン30部、t-ドデシルメルカプタン0.2部、クメンハイドロパーオキサイド0.3部からなる単量体混合物を60℃で5時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合温度を65℃にし、1時間撹拌を続けた後、重合を終了させ、グラフト共重合体のラテックスを得た。重合転化率は98%であった。その後、得られたラテックスに、2,2′-メチレン-ビス(4-エチレン-6-t-ブチルフェノール)0.2部を添加し、塩化カルシウムを添加して凝固し、洗浄、濾過および乾燥工程を経てパウダー状の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物のグラフト率は40%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.38dl/gであった。
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体として、エチレン・プロピレン共重合体(エチレン/プロピレン=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4 ,100℃)20、融点(Tm)は40℃、ガラス転移温度(Tg)は-50℃)22部、スチレン55部、アクリロニトリル23部、t-ドデシルメルカプタン0.5部、トルエン110部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間攪拌して均一溶液とした。その後、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温して、100℃に達した後は、この温度を保持しながら、攪拌回転数100rpmとして重合反応を行った。重合反応開始後4時間目から、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合反応を終了した。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)-プロピオネート0.2部、ジメチルシリコーンオイル;KF-96-100cSt(商品名:信越シリコーン株式会社製)0.02部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し、さらに40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化した。得られたエチレン・α-オレフィン系ゴム強化ビニル系樹脂のグラフト率は70%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.47dl/gであった。
ゴム質重合体に由来する部分を含まない熱可塑性樹脂として、下記の原料Q1を用いた。
アクリロニトリル単位及びスチレン単位の割合が、それぞれ、27%及び73%であり、極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)が、0.47dl/gであるアクリロニトリル・スチレン共重合体。ガラス転移温度(Tg)は、103℃であった。
撹拌機付き重合容器に、水250部およびパルミチン酸ナトリウム1.0部を投入し、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら70℃まで加熱した。さらにナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み後、α-メチルスチレン70部、アクリロニトリル25部、スチレン5部、t-ドデシルメルカプタン0.5部、クメンハイドロパーオキサイド0.2部から成る単量体混合物を、重合温度70℃で連続的に7時間かけて滴下した。滴下終了後、重合温度を75℃にし、1時間撹拌を続けて重合を終了させ、共重合体のラテックスを得た。重合転化率は99%であった。その後、得られたラテックスを塩化カルシウムを添加して凝固し、洗浄、濾過および乾燥工程を経てパウダー状の共重合体を得た。得られた共重合体のアセトン可溶分の極限粘度[η]は0.40dl/gであった。
3-1.原料R1(熱可塑性エラストマー)
スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)ブロック共重合体「ハイブラー5127」(商品名、クラレ社製、スチレン含量20%、ガラス転移温度(Tg)8℃、tanδの主分散のピーク温度25℃、3,4結合及び1,2結合含有量95%)を使用した。
エラストマーとして、上記原料R1を用意した。
リボン型攪拌機翼を備えた内容積10リットルのステンレス製オートクレーブに予め均一溶液にした上記エラストマー30部、スチレン51部、アクリロニトリル19部、トルエン120部およびtert-ドデシルメルカプタン0.1部を仕込み、攪拌しながら昇温し50℃にて、ベンゾイルパーオキサイド0.5部、ジクミルパーオキサイド0.1部を添加し、更に昇温し、80℃に達した後は80℃に一定に制御しながら攪拌回転数を200rpmにて重合反応を行わせた。反応終了後2,2-メチレン-ビス-4-メチル-6-t-ブチルフェノール0.2部を添加したのち、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し細かく粉砕した後、40mmベント付き押出機(220℃、700mmHg真空)にて実質的に揮発分を留去するとともにゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)をペレット化した。本ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)のグラフト率は55%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.45dl/gであった。
4-1.原料S1(熱老化防止剤)
フェノール系熱老化防止剤「スミライザーGS」(商品名;住友化学株式会社製、アクリル酸1'-ヒドロキシ[2,2'-エチリデンビス[4,6-ビス(1,1-ジメチルプロピル)ベンゼン]]-1-イル)を使用した。
5-1.原料T1(PC樹脂)
三菱エンジニアリングプラスチック社製ポリカーボネート樹脂「NOVAREX 7022J(商品名)」を使用した。
1.熱可塑性樹脂組成物の作製
表1又は表2に示す原料〔P〕、〔Q〕、〔R〕、〔S〕及び〔T〕を同表に示す配合割合で混合した。その後、二軸押出機(型式名「TEX44、日本製鋼所」)を用いて、250℃で溶融混練してペレット化した。得られた樹脂組成物を用い、下記の測定及び評価に供した。結果を下記表1及び表2に示す。
ISO178に従って測定
ISO75に従って、1.8MPa荷重条件で測定
ISO2039に従って測定
ISO527に従って測定
ISO178に従って測定
各熱可塑性樹脂組成物を用い、図1に示すような縦120mm、横60mm、厚さ3mmの矩形本体の上端に上底20mm、下底40mm、高さ8mm、厚さ1.5mmの台形状の突起を備えた形状の一体成形品である試験片を、東芝機械製IS-170FA射出成形機によりシリンダ温度250℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃にて射出成形した。そして、この試験片の前記突起に2本の糸をテープで貼り付けて吊り下げた状態で、前記試験片の一方の面の中央を、打撃力を測定できるPCBピエゾトロニクス社製のステンレス製のハンマー(商品名:086C03)を用いて20±5Nの力で叩いた時の響きを、前記面に対して垂直方向に12cm離して設置したPCBピエゾトロニクス社製の音圧マイクロホン(商品名:378B02)で集音して、オロス社製のフーリエ変換アナライザー(商品名:マルチJOB FFTアナライザ OR34J-4)にて音圧の周波数スペクトルに変換した。得られた周波数スペクトル中の音圧(Pa/N)の最大値とその周波数(Hz)を測定値として用いた。なお、測定は室温23℃の部屋で行った。なお、測定値として得られた音圧(Pa/N)は、測定された打撃力1Nあたりの音圧を意味する。
前記打音の音圧測定と同様の操作を行い、オロス社製のフーリエ変換アナライザー(商品名:マルチJOB FFTアナライザ OR34J-4)にて音圧の時間変化を測定した。音の発生から、音圧が最大音圧の1/4の音圧に静まるまでに要する時間を打音の減衰時間として用いた。打音の減衰は、0.01秒よりも短いことが好ましく、0.008秒よりも短いことがより好ましい。
射出成型機を用いて成形した厚さ2mmの平板を、長さ250mm、幅10mm、厚さ2mmに切削することで作成した試験片を用い、JIS K 7391の規定に従う中央加振法により23℃の温度で測定し、20~12,400Hzの周波数域の損失係数(η)の最小値を損失係数とした。
ISO1133に準じて、温度240度および荷重98Nの条件で、メルトマスフローレートを測定した。
各熱可塑性樹脂組成物を東芝機械製IS-170FA射出成形機によりシリンダ温度250℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃にて射出成形し、縦150mm、横100mm、厚さ4mmの射出成形プレートを得た。このプレートから、縦60mm、横100mm、厚さ4mm及び縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片をディスクソーで切り出し、番手#100のサンドペーパーで端部を面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、大小2枚のプレートを試験片として用いた。
2枚の試験片を80℃±5℃に調整したオーブンで300時間エージングし、25℃で24時間冷却後、大きな試験片と小さな試験片をジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機SSP-02に固定し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下で荷重5N、40N、速度1mm/秒、、10mm/秒の4条件にて振幅20mmで3回擦り合わせたときの異音リスク値を測定した。そして、異音リスク値が最も大きい条件の数値を抽出して測定値とした。異音リスク値が大きいほど軋み音の発生リスクは高くなり、異音リスク値が3以下であれば良好である。
各熱可塑性樹脂組成物を東芝機械製IS-170FA射出成形機によりシリンダ温度240℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃にて射出成形し、縦270mm、横200mm、厚さ3mmの射出成形プレート(トレイ蓋)を得た。日本電色工業(株)製、デジタル変角光沢計GlossMeter VG7000を用い、トレイ蓋の位置AおよびBの入射角60°での反射光の測定を行った。なお、トレイ蓋の位置A及びBは図2に示す通りであった。
打音低減材を含む実施例1~16は、20~12,400Hzの周波数域の損失係数(η)の最小値が0.02以上であり、打音の抑制効果が示されたのに対し、打音低減材を含まない比較例1~4は打音の抑制効果が示されなかった。実施例1~5及び9~13では、打音の抑制効果が示されるとともに、成形品表面の光沢が劣り、実施例2及び10では軋み音抑制効果の低下が見られた。これに対し、熱老化防止剤を配合した実施例6~8及び14~16では、打音の抑制効果が示されるとともに、成形品表面の光沢も高く、軋み音抑制効果も維持された。特に、実施例7~8及び15~16では、20~12,400Hzの周波数域の損失係数(η)の最小値が0.03以上が示され、打音及び軋み音の両者の発生が抑制され、高度に音響特性の優れ、かつ、成形品表面の光沢も高く、外観も高度に優れた成形品が得られた。
Claims (6)
- ゴム強化樹脂(A)及び熱老化防止剤(S)から少なくとも構成される熱可塑性樹脂組成物であって、
前記ゴム強化樹脂(A)は、下記成分(R1)又は(A1)と、下記成分(A2)と、下記成分(A3)とを備え、
成分(R1):芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を備えたブロック(I)と、イソプレンまたはイソプレン及びブタジエンに由来する構造単位を備え、0℃以上にtanδの主分散のピークを有するブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物、
成分(A1):前記成分(R1)に由来するゴム質部分(a1-1)と芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを有するゴム強化樹脂、
成分(A2):エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1-2)と芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを有するゴム強化樹脂、
成分(A3):ジエン系ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1-3)と芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを有するゴム強化樹脂、
前記熱可塑性樹脂組成物は、前記成分(R1)又は前記ゴム質部分(a1-1)を1~20質量%、前記ゴム質部分(a1-2)を1~15質量%、及び前記ゴム質部分(a1-3)を1~15質量%(ただし、前記熱可塑性樹脂組成物の合計は100質量%とする)含有し、
下記の条件で測定した場合に、20~12,400Hzの周波数域の損失係数(η)の最小値が0.02以上である熱可塑性樹脂組成物。
測定条件:
射出成型機を用いて成形した厚さ2mmの平板を、長さ250mm、幅10mm、厚さ2mmに切削することで作成した試験片を用い、JIS K 7391の規定に従う中央加振法により23℃の温度で測定。 - 下記の条件で測定した場合に、20~20,000Hzの周波数域の音圧の最大値が3.0Pa/N以下である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
測定条件:
縦120mm、横60mm、厚さ3mmの矩形本体の上端に上底20mm、下底40mm、高さ8mm、厚さ1.5mmの台形状の突起を備えた形状の一体成形品である試験片の前記突起に2本の糸をテープで貼り付けて吊り下げた状態で、前記試験片の一方の面の中央をステンレス製のハンマーで20±5Nの力で叩いた時の響きを、前記面に対して垂直方向に12cm離して設置した音圧マイクロホンで集音して求めた音圧の周波数スペクトルに基づいて測定。 - 前記音圧の最大値を与える周波数が20~9,000Hzまたは14,000~19,000Hzの範囲に存在する請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- ジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ測定装置SSP-02を使用して測定される異音リスク値が、以下の測定条件において3以下である請求項1~3の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
測定条件:
縦60mm、横100mm、厚さ4mmの試験片、及び、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片を用意し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下で荷重5N、40N、速度1mm/秒、、10mm/秒の4条件にて振幅20mmで3回、前者の試験片の面と後者の試験片の面とを擦り合わせて測定。 - ゴム含量が5~60質量%である、請求項1乃至4の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1~5の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
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