以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
(第1の実施形態)
以下、本実施形態に係る光学検査装置及び光学検査方法について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、本実施形態に係る光学検査装置の構成について説明をする。本実施形態に係る光学検査装置10の構成例の概略を模式図として図1に示す。図1では、光学検査装置10の構成例の概略に加えて、検知光51の光線経路の一例と試験領域30とが模式的に示されている。
なお、以下の説明では、本実施形態に係る光学検査装置10による測定対象(被検物40)が気体である場合について説明をするが、これに限らない。被検物40は、試験領域30内に存在する液体や固体であってもよい。ただし、被検物40が気体である場合には、例えば試験領域30内を満たしている物質等、試験領域30内に存在する気体が被検物40として扱われ得る。
図1に示すように、本実施形態に係る光学検査装置10は、検知光発生部12と、受光部13と、処理回路14とを備える。
本実施形態に係る検知光発生部12は、検知光51を被検物40へ向けて放射する。検知光発生部12は、例えば、光源と、集光光学系とを含む。集光光学系は、例えばコリメータを含む。このとき、光源から放射された光(電磁波)は、集光光学系によって収束させられて平行光とされた後、検知光51として被検物40へ照射される。
なお、本実施形態に係る検知光発生部12は、放射する検知光51の放射角を取得できるように構成されていてもよい。ここで、放射角は、例えば、検知光発生部12の光軸と、検知光発生部12から放射される検知光51とのなす角である。また、放射角は、光線(検知光51)が放射された時の光線方向であると表現できる。以下、検知光発生部12から放射される検知光51の光線方向を第1の光線方向と記載する。
なお、本実施形態に係る検知光51の波長は、例えば測定対象が気体である場合には試験領域30内を満たしている物質等、被検物40を透過又は通過できる波長であれば何でもよく、被検物40に応じて選択されればよい。検知光51は、例えば、X線でもよいし、可視光でもよいし、マイクロ波でもよい。
また、本実施形態に係る検知光発生部12は、複数の波長の光(電磁波)を検知光51として放射できるように構成されていてもよい。また、検知光51は、単波長の光線でもよいし、複数の波長を含む光線でもよい。
また、本実施形態に係る検知光発生部12は、光源を備えていなくてもよい。この場合、光学検査装置10は、光源の代わりに、光学検査装置10の外部にある光源から放射されている光(電磁波)を用いてもよいし、太陽光等の自然光を用いてもよい。また、この場合には、例えば、特定の波長域の光を選択的に透過又は反射するような光学素子が検知光発生部12として用いられてもよい。すなわち、本実施形態に係る検知光発生部12は、被検物に応じた特性を有する検知光51を被検物40へ放射できるものであれば何でもよい。
なお、本実施形態では、電磁波を光と記載する場合があるが、光との表現であっても、可視光のみを示すことは意図しない。以下、本実施形態では、検知光発生部12が単波長又は単波長とみなせる電磁波を検知光51として放射できるように構成されている場合を例として説明をする。
本実施形態に係る受光部13は、検知光発生部12が放射した検知光51を受光する。なお、受光部13が受光する検知光51は、例えば被検物40を透過又は通過した検知光51を含む。また、受光部13は、受光する検知光51について、受光部13への入射角を測定又は検知可能に構成されている。ここで、受光部13への入射角は、受光部13の光軸と、受光部13が受光する光線とのなす角であるとする。また、入射角は、光線(検知光51)が受光部13へ入射する時の光線方向であると表現できる。以下、受光部13へ入射する検知光51の光線方向を第2の光線方向と記載する。受光部13は、測定又は検知した第2の光線方向に係る情報を受光信号として処理回路14へ出力する。
受光部13は、例えば、少なくとも2つの受光面を備える。あるいは、受光部13は、1つの受光面とピンホールとの組み合わせで構成されていてもよいし、1つの受光面とレンズとの組み合わせで構成されていてもよい。ここでは、2つの受光面を備える場合について説明する。各々の受光面は、受光部13の光軸方向に対してそれぞれ垂直に配置される。すなわち、各々の受光面は互いに平行に配置される。受光面同士の受光部13の光軸方向における距離は、予め受光部13又は処理回路14に記録されている等、既知の情報である。また、各々の受光面は、受光面のうち何れの位置で受光したのか検出して出力できる。ここでは、簡単のために、受光部13が、第1の受光面と、第1の受光面に対して被検物40と対向する側に配置される第2の受光面との2つの受光面を備える場合を例として説明をする。このとき、第1の受光面と第2の受光面との間の距離は既知である。また、第1の受光面を透過又は通過後の検知光51は、少なくとも第2の受光面で検知可能な強度を有する。また、第1の受光面を透過又は通過する際に検知光51の光線方向が変化しない又は第1の受光面を透過又は通過する際の検知光51の光線方向の変化量が既知であるとする。このような構成の受光部13は、第2の光線方向に係る情報として、少なくとも、第1の受光面における第1の受光位置と、第2の受光面における第2の受光位置とに係る情報を処理回路14へ出力する。
なお、本実施形態では、受光部13の光軸の傾きは変化しないとした場合を例として説明をするが、これに限らない。例えば、受光部13の光軸の傾きは変化してもよい。この場合、光軸の傾きは、受光部13によって検出されたり、外部から取得されたりすればよい。
また、検知光発生部12と受光部13との各々の光軸の相対位置及び相対角度は固定されていてもよい。例えば、相対角度が固定されていない場合には、角度に自由度を有する側の角度が検出可能に構成されていればよい。
本実施形態に係る処理回路14は、受光部13の出力する受光信号を処理する。当該処理には、例えば、検知光51の受光部13への入射角(第2の光線方向)を算出する処理が含まれる。第2の光線方向は、例えば、第1の受光位置から第2の受光位置へ向かうベクトルと、第1の受光面における光軸位置から第2の受光面における光軸位置へ向かうベクトルとのなす角として算出される。本実施形態に係る処理回路14は、基準となる基準光線方向に係る情報を、例えば、検知光発生部12、受光部13等から取得する。処理回路14は、取得した第2の光線方向に係る情報と、基準となる基準光線方向に係る情報とを比較する処理を行う。また、本実施形態に係る処理回路14は、異なるタイミングで取得された情報から算出された複数の第2の光線方向に係る情報を比較する処理を行う。すなわち、処理回路14は、第2の光線方向(受光信号)の時系列変化を取得する処理を行う。また、本実施形態に係る処理回路14は、光線方向に係る情報を比較した結果に基づいて、被検物40の内部の物理量に係る情報を算出したり、取得したりする。処理回路14は、当該情報の算出又は取得に係る各種判定を行う判定部としての機能を備えていてもよい。
なお、第2の光線方向の算出と、第2の光線方向の時系列変化の取得とは、例えば受光部13において行われてもよい。この場合、受光部13は、上述したような検知光51の受光部13への入射角(第2の光線方向)を算出する。また、受光部13は、被検物40を透過又は通過した光線(検知光51)の光線方向に係る情報として、算出した入射角(第2の光線方向)を処理回路14に出力する。
本実施形態に係る光学検査装置10は、制御回路18をさらに備える。制御回路18は、光学検査装置10の備える各部の動作を制御するように構成されている。制御回路18は、処理回路14を含んで構成されていてもよい。なお、制御回路18及び制御回路18の一部は、検知光発生部12と、受光部13とのそれぞれ又は一方に設けられていてもよい。また、図示していないが、本実施形態に係る光学検査装置10は、電源装置と、記録回路とをさらに備える。電源装置は、光学検査装置10の備える各部に電力を供給するように構成されている。記録回路は、例えば、処理回路14が算出して出力する第2の光線方向(検知光51の受光部13への入射角度)の時系列変化を記録できるように構成されている。また、記録回路には、光学検査装置10で用いられる処理プログラムや各種パラメータが記録されている。光学検査装置の動作に係る各々の処理は、例えば、記録回路に記録された各々のプログラムによって実行される。各々のプログラムは、予め光学検査装置10の内部に記録されていてもよいし、光学検査装置10の外部の記録媒体から読み込まれてもよい。また、記録回路は、例えば、受光部13の出力値、処理回路14における処理中のデータを一時的に記録する。記録回路は、揮発性メモリであってもよいし、不揮発性メモリであってもよい。なお、記録回路の一部は、受光部13や処理回路14の内部に設けられていてもよい。
受光部13と処理回路14とは、例えば、データ転送可能に接続される。なお、受光部13と処理回路14との間の接続は、有線でもよいし、無線でもよい。また、例えば受光部13が記録回路を備える場合には、受光部13による検知光51の受光部13への入射角の測定中は、受光部13と処理回路14とは接続されていなくてもよい。この場合、当該データ転送は、例えばFlashメモリ等、光学検査装置10の外部の記録媒体を介して行われてもよい。
なお、本実施形態に係る試験領域30は、例えば検知光発生部12から放射されて受光部13へ入射できる検知光51の光線経路上であって、当該検知光51が放射される検知光発生部12の放射端と、当該検知光51を受光する受光部13の入射端との間である。したがって、試験領域30の大きさは、検知光51の光線経路上となり得る範囲の大きさであり、少なくとも、当該放射端と入射端との間の距離と、検知光発生部12が検知光51を放射できる放射角度と、受光部13が検知光51を受光できる受光角度とに依存する。
本実施形態に係る光学検査装置10は、被検物40に対して非接触に、被検物40の内部の物理量に係る情報を取得する。ここで、本実施形態に係る光学検査装置10において、被検物40の内部の物理量に係る情報として、被検物40の内部の屈折率分布に係る情報が取得される原理について、図2に示す模式図を参照して説明する。図2において、例えば、位置Aから光(電磁波)が放射されているとする。このとき、位置Aから放射されて位置Bまで到達する光線について考える。
なお、位置Aから放射される光線(検知光51)は、位置Aと位置Bとの間に存在する物質(被検物40)を透過又は通過可能な波長を有していればよい。すなわち、位置Aから放射される光線は、物質に応じて選択されればよく、例えば、X線でもよいし、可視光線でもよいし、マイクロ波でもよい。
ここで、光線の経路に沿った距離をsとし、光線経路上の位置ベクトルをr=r(s)とし、位置ベクトルr=r(s)の示す点における屈折率をn(r)とすると、光線光路を示す光線の方程式は、
と表される。
また、式(1)を位置Aから位置Bまで光線経路に沿って積分すると、式(1)は、
となる。ここで、rAは位置Aを示す位置ベクトルであり、rBは位置Bを示す位置ベクトルであり、n(rA)は位置Aにおける屈折率であり、n(rB)は位置Bにおける屈折率である。
ここで、位置ベクトルr=r(s)の示す点における光線方向を示す単位ベクトルをe=e(r)とすると、単位ベクトルeは、
と表される。式(3)を用いると、式(2)は、
表される。ここで、ベクトルeAは位置Aにおける光線方向を表す単位ベクトルであり、ベクトルeBは位置Bにおける光線方向を表す単位ベクトルである。
ここで、例えば、位置Aから放射されて位置Bまで到達できる光線の光線経路上に屈折率分布52が存在しない場合について考える。当該光線経路上に屈折率分布52が存在しない場合には、光線経路において屈折率n(r)が一定となる。このとき、n(rA)=n(rB)であるから、式(4)は、
と表される。したがって、光線経路上に屈折率分布52が存在しない場合には、光線経路上の位置によらず、光線方向を表す単位ベクトルeは一定である。この場合、位置Aから放射されて位置Bへ到達できる光線の経路は、図2中に破線53で示すように、位置Aと位置Bとを通る直線である。
一方で、光線経路上に屈折率分布52が存在する場合には、n(rA)=n(rB)ではないため、ベクトルeAとベクトルeBとは異なる。つまり、光線経路上に屈折率分布52が存在する場合には、位置Aから放射されて位置Bへ到達できる光線の位置Aにおける光線方向と、位置Bにおける光線方向とは異なる。この場合、位置Aから放射されて位置Bへ到達できる光線の経路は、例えば図2中に実線54で示すように、破線53とは異なる経路となる。すなわち、ベクトルeAとベクトルeBとが異なる場合には、光線経路上に屈折率分布52が存在すると表現できる。
このように、ベクトルeAとベクトルeBとの比較から、光線経路上の屈折率分布52の有無を確認できる。また、ベクトルeAが一定の場合には、ベクトルeBの変化は、光線経路上の屈折率分布52の変化を示すと表現できる。ただし、この場合であっても、光線経路上に屈折率分布52が存在しない状態(標準状態)におけるベクトルeBを取得できれば、標準状態と、任意の時刻の状態との間のベクトルeBの変化は、屈折率分布52の存在を示すと表現できる。
ここで、本実施形態に係る光学検査装置10の動作について説明をする。本実施形態では、被検物40が気体である場合を例として説明をする。したがって、本実施形態に係る光学検査装置10では、例えば、図1に示すように、検知光発生部12の放射端が上述した位置Aに相当し、受光部13の入射端が上述した位置Bに相当する。すなわち、光学検査装置10は、検知光発生部12と受光部13との間における、検知光51の光線経路上の屈折率分布に係る情報を被検物内部の物理量に係る情報として取得する。
なお、被検物40が液体や固体である場合には、試験領域30内の光線経路のうち、被検物40内の光線経路を考えればよい。この場合には、検知光51の光線方向は、検知光51が試験領域30内で被検物40へ入射する時及び検知光51が試験領域30内で被検物40から出射する時にも変化し得る。そのため、例えば、被検物40内の光線経路のうち、検知光発生部12側の端(表面)を位置Aとし、他端(受光部13側、裏面)を位置Bとすればよい。
まず、例えば、本実施形態に係る光学検査装置10が、第1の光線方向(ベクトルeA)を取得可能な場合を考える。この場合には、処理回路14は、当該第1の光線方向を基準方向として取得する。受光部13は、受光した被検物40を通過した検知光51の第2の光線方向(ベクトルeB)を測定する。受光部13は、測定した第2の光線方向に係る情報を処理回路14へ出力する。処理回路14は、当該第2の光線方向を、被検物40を通過した通過光(検知光51)の通過光線方向として取得する。処理回路14は、取得した基準光線方向と通過光線方向とを比較する。処理回路14は、比較した結果に基づいて、被検物40の内部の物理量に係る情報として、検知光51の光線経路上における屈折率分布52の有無に係る情報を取得する。ここで、基準光線方向と通過光線方向とが同じである場合には、検知光51(通過光)の光線経路上に屈折率分布52は存在しないと判定される。一方で、基準光線方向と通過光線方向とが異なる場合には、検知光51(通過光)の光線経路上に屈折率分布52は存在すると判定される。このような判定は、例えば処理回路14によって行われるが、これに限らない。被検物40の内部の物理量に係る情報の取得に係る各種の判定は、光学検査装置10の外部にある処理回路であったり、ユーザが行ったりし得る。これらの場合には、処理回路14は、当該判定に必要な情報を出力すればよい。このようにして、本実施形態に係る光学検査装置10は、非接触で被検物40の内部検査を行い、被検物40の内部の物理量に係る情報として、被検物40の内部の屈折率分布の有無を検知して取得することができる。
なお、上述ように第1の光線方向(ベクトルeA)を取得可能な場合において、第1の光線方向(ベクトルeA)は、標準状態における受光部13の出力に基づいて算出又は取得されてもよい。ここで、標準状態は、例えば、被検物40の内部に屈折率分布52が存在しない状態、試験領域30の内部に被検物40が存在しない状態等が含まれ得る。なお、被検物40に対して圧力、温度、応力等を加えた際の被検物40の内部検査を実施したい場合等、被検物40の内部に屈折率分布52が存在しない状態か否かが既知である場合も存在し得ることは言うまでもない。なお、第1の光線方向(ベクトルeA)は、検知光発生部12の出力に基づいて算出又は取得されてもよいし、検知光発生部12の構成に応じて予め算出されて光学検査装置10の内部等に記録されていてもよい。
また、上述ように第1の光線方向(ベクトルeA)を取得可能な場合において、本実施形態に係る受光部13は、通過光線方向の時系列変化に係る情報をさらに取得して処理回路14へ出力する。処理回路14は、当該時系列変化に基づいて、基準光線方向を更新してもよい。例えば、処理回路14は、既取得の通過光線方向を基準光線方向として用いて、現在の通過光線方向と比較する。比較の結果、基準光線方向と通過光線方向とが異なる場合には、屈折率分布52の変化があったと判定される。このような比較によって、本実施形態に係る光学検査装置10は、非接触で被検物40の内部検査を行い、被検物40の内部の物理量に係る情報として、被検物40の内部の屈折率分布の変化の有無を検知して取得することができる。
次に、例えば、本実施形態に係る光学検査装置10において、少なくとも第1の光線方向(ベクトルeA)が一定であると担保可能な場合を考える。この場合には、処理回路14は、受光した被検物40を通過した検知光51の第2の光線方向(ベクトルeB)の時系列変化を取得する。処理回路14は、当該時系列変化から標準状態における第2の光線方向を、基準光線方向として取得する。ここで、当該標準状態は、光線経路上の屈折率分布が一定の状態又は一定とみなせる状態である。基準光線方向の取得は、例えば、実験の開始前等の屈折率分布が一定であると既知である場合、所定の時間において通過光線方向(入射角)の変位が特定の閾値未満となった場合等に行われ得る。その後、処理回路14は、第2の光線方向を通過光線方向として取得し、基準光線方向との比較を行う。処理回路14は、基準光線方向と通過光線方向との比較結果に基づいて、検知光51(通過光)の光線経路上における屈折率分布52の変化に係る情報を取得する。処理回路14は、基準光線方向と通過光線方向とが異なる場合には、検知光51(通過光)の光線経路上の屈折率分布52が変化したと判定する。このようにして、本実施形態に係る光学検査装置10は、非接触で被検物40の内部検査を行い、第2の光線方向(通過光線方向)の時系列変化に基づいて、被検物40の内部の物理量に係る情報として、被検物40の内部の屈折率分布の変化を検知して取得することができる。
なお、基準光線方向が取得された際に、光線経路上に屈折率分布52が存在していないと判断できる場合には、上述の第1の光線方向(ベクトルeA)を取得可能な場合と同様に、検知光51(通過光)の光線経路上の屈折率分布52の有無が取得され得る。すなわち、本実施形態に係る光学検査装置10は、非接触で被検物40の内部検査を行い、第2の光線方向(通過光線方向)の時系列変化に基づいて、被検物40の内部の物理量に係る情報として、被検物40の内部の屈折率分布の有無を検知して取得することができるとも表現できる。
なお、基準光線方向として、第1の光線方向、標準状態における第2の光線方向(通過光線方向)が用いられる場合を例として説明をしたが、これに限らない。例えば、基準光線方向は、受光部13の光軸方向であっても、ユーザ任意の方向であってもよく、何れの場合でも、上述と同様の効果が得られ得る。この場合には、基準光線方向と第1の光線方向との関係が既知であればよい。
上述したように、本実施形態に係る光学検査装置10が屈折率分布52の有無又は変化を検知する対象、すなわち被検物40は気体であってもよいし、液体であってもよいし、固体であってもよい。気体の屈折率は、例えば、気体の種類及び密度によって変化し得る。また、気体の密度は、気体の状態方程式で説明されるように、気体の温度及び圧力によって変化し得る。また、気体の密度は、異なる気体種が混ざる場合等、当該気体を構成する成分比によって変化し得る。また、液体や固体の屈折率は、例えば、液体や固体の種類、内部応力、ひずみ、密度、温度、圧力又はこれらの組み合わせによって変化し得る。また、液体や固体の屈折率は、当該液体や固体を構成する成分比によって変化し得る。また、気体、液体、固体中を伝播する音波等の圧力波は、伝播する媒質に密度の疎密を生じさせるため、媒質内に屈折率を生じさせ得る。したがって、本実施形態に係る光学検査装置10が取得する被検物40の内部の物理量に係る情報は、屈折率分布の有無又は変化に係る情報に限らず、上述の密度等の、被検物40の内部の屈折率に影響を与え得る物理量に係る情報を含み得る。
さらに、本実施形態に係る光学検査装置10が屈折率分布の有無や変化を検知する対象は、気体中を移動する液体や固体であってもよいし、液体中を移動する気体や固体であってもよいし、固体中を移動する気体や液体であってもよい。すなわち、本実施形態に係る光学検査装置10は、検知光51が透過又は通過可能な物質であって、検知光51の屈折率変化が生じ得うる被検物40について、試験領域30内における存在の有無を検知して取得することもできる。
(光線方向の取得に係る変形例)
なお、検知光51が受光部13へ入射する際の第2の光線方向(ベクトルeB)の取得は、上述の実施形態で説明した方法に限らない。
例えば、受光部13は、複数の受光素子を含む受光面が球面状に配置されて構成されていてもよい。この場合には、受光部13の備える複数の受光素子のうち検知光51を受光した受光素子は、処理回路14へ受光信号を出力する。また、処理回路14は、当該受光素子の配置されている位置情報に基づいて、第2の光線方向(ベクトルeB)を算出する。このような構成であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られ得る。なお、受光位置を出力可能な受光素子であれば、当該受光素子の受光面が球面状に構成されていても同様である。もちろん、検出精度を高めるために、複数の球面状の受光面が受光部13の光軸方向に配置されていてもよい。
例えば、第1の光線方向(ベクトルeA)が一定の場合であれば、受光部13は、ベクトルeAに直交する平面の輝度分布を検知できるように構成された輝度センサ等であってもよい。この場合、例えば、検知光51の光線径は、輝度センサの受光面積や受光光学系に応じて拡大されていてもよい。このような構成であっても、光線経路上に屈折率分布が生じて光線方向が変化した場合には、当該受光面において輝度分布が発生し得るため、上述の実施形態と同様の効果が得られ得る。
例えば、検知光51が放射された時の第1の光線方向(ベクトルeA)が既知の場合であれば、受光部13は、第1の光線方向の光線について、受光の有無のみを検知するものであってもよい。すなわち、処理回路14は、第1の光線方向を基準光線方向として取得する。また、処理回路14は、受光部13から通過光線方向に係る情報として、基準光線方向における検知光51の受光の有無を取得する。処理回路14は、受光部13が検知光51を検知した場合には、基準光線方向と通過光線方向とが同じであると判定し、屈折率分布は存在しないと判定する。このような構成であっても、上述の実施形態と同様にして、屈折率分布の有無を検知して取得できるという効果が得られ得る。
例えば、検知光51(通過光)の一部が光線経路上で散乱している場合には、検知光51(通過光)の光線経路上における散乱光に基づいて、光線位置又は光線方向を取得できる場合もあり得る。この場合、受光部13は、例えば、当該散乱光を受光して、受光部13へ入射する通過光の光線経路を含む画像を光線方向に係る情報として取得する。処理回路14は、当該画像に対して画像処理を施し、画像処理の結果と、受光部13の撮像方向に係る情報とに基づいて、通過光線方向を取得し得る。なお、受光部13は、撮像範囲に検知光51に対する散乱媒体を備えていてもよい。
(第1の実施形態の変形例)
第1の実施形態では、受光部13によって検知光51の第2の光線方向(ベクトルeB)を測定して被検物40の内部の物理量に係る情報を取得する光学検査装置10について説明をしたが、測定の方法は上述の方法に限らない。図3に本変形例に係る光学検査装置10における計測原理を説明するための模式図を示す。以下、本変形例に係る光学検査装置10について、図面を参照して詳細に説明する。
本変形例に係る受光部13は、図3に示すように、入射した光線について、入射した時の光線方向に対応した光線位置として出射する受光光学系16と、光線位置を検出する受光面を含む撮像素子とを備える。受光光学系16は、位置Aから放射された光線を撮像素子の撮像面17に結像させる結像レンズを備える。ここでは、簡単のために、結像レンズの光軸と、受光部13の光軸とが一致しており、撮像面17は、これら光軸と直交している場合を例として説明をする。ここで、結像レンズと撮像面17との間の距離dは既知であるとする。
光線経路上に屈折率分布52が存在しない場合には、図2を参照して上述したように、検知光51の光線経路は、直線となる。例えば、検知光51が検知光発生部12から放射されたときの光線方向が結像レンズの光軸方向であり、検知光発生部12の放射端が当該光軸上にある場合を考える。この場合には、検知光51は、図3中に破線55として示すように、位置Aから放射された後、結像レンズ上の点Cを通り、撮像面17上の点A1へと入射する。ここで、点Cは結像レンズの光軸上の点であり、位置Aと、点Cと、点A1とを通る当該光線経路は直線となる。
一方で、光線経路上に屈折率分布52が存在する場合には、例えば図3中に実線56で示すように、位置Aから放射された検知光51の光線方向は、屈折率分布52が存在する領域を通過する際に変化させられる。そのため、撮像面17に入射する際の検知光51の光線方向(ベクトルeB)は、結像レンズの光軸に対して傾きを有することになる。したがって、図3中に位置Bとして示されている検知光51の撮像面17への入射位置は、ベクトルeBと当該光軸とのなす角である傾斜角φに応じて変化する。
このような構成であれば、本変形例に係る光学検査装置10は、傾斜角φを、φ=arctan(Δl/d)として算出することができる。ここで、Δlは、点A1と位置Bとの間の距離である。
このように、本変形例に係る光学検査装置10は、検知光51の撮像面17(受光面)への入射位置に係る情報に基づいて、受光部13へ入射する検知光51の第2の光線方向(通過光線方向)を取得できる。すなわち、本変形例に係る光学検査装置10は、第1の実施形態に係る光学検査装置10と同様の利点を有する。
なお、本変形例に係る光学検査装置10において、位置Aが結像レンズから十分遠方にある場合には、位置Aから放射されて結像レンズに到達する検知光51の光線方向は、結像レンズの光軸と平行であるとみなすことができる。すなわち、検知光51が放射された時の第1の光線方向(ベクトルeA)は当該光軸方向であると、測定しなくても、既知の情報とすることができる。この場合には、処理回路14は、当該光軸方向を基準光線方向として取得する。
ここで、例えば、結像レンズから十分遠方にある位置Aと、撮像面17上の位置Bとにおける周囲環境の屈折率は等しいとした場合を考える。このとき、式(4)の右辺第2項はeAとなる。すなわち、本変形例に係る光学検査装置10は、上述したように位置Bにおける検知光51の第2の光線方向(ベクトルeB)を取得すれば、検知光51が放射された初期の第1の光線方向(ベクトルeA)が既知であるため、式(4)の第1項の表現する光線経路上の屈折率分布52に係る情報を取得することができる。
なお、本変形例に係る光学検査装置10は、光線方向を算出しなくても上述の実施形態と同様の効果が得られ得る。この場合には、受光部13は、通過光線方向に係る情報として、通過光線位置に係る情報を処理回路14へ出力する。ここで、光線位置の算出は、受光部13において行われてもよいし、処理回路14で行われてもよい。処理回路14は、基準光線方向に係る情報として、基準光線方向に対応した基準光線位置を取得する。基準光線位置は、予め測定されたりして光学検査装置10の内部に記録されていてもよいし、標準状態における通過光線方向に対応した通過光線位置が取得されて用いられてもよい。処理回路14は、基準光線位置(基準光線方向に係る情報)と、通過光線位置(通過光線方向に係る情報)とを比較する。処理回路14は、基準光線位置と通過光線位置とが異なる場合には、通過光(検知光51)の光線経路上に屈折率分布が存在すると判定する。このようにして、本変形例に係る光学検査装置10は、光線方向を算出しなくても、非接触で被検物40の内部検査を行い、被検物40の内部の物理量に係る情報として、被検物40の内部の屈折率分布の有無又は変化を検知して取得することができる。
なお、上述の実施形態及び変形例に係る光学検査装置10は、複数の波長の光線を検知光51として用いてもよい。同様に、検知光51は、複数の波長を含む光線であってもよい。屈折率は、上述したように被検物40の内部の密度等によって異なるが、同一の状態にある同一の被検物40であっても、検知光51として用いられる電磁波の波長によって異なることが知られている。これは、屈折率分布52の波長依存性は、物質ごとに異なるとも表現できる。すなわち、複数の波長の光線を検知光51として用いる光学検査装置10であれば、複数の波長の検知光51の各々について屈折率分布に係る情報を取得できる。この場合には、受光部13は、少なくとも2つの波長の各々について、光線方向に係る情報を出力可能に構成される。このような光学検査装置10であれば、通過光(検知光51)の屈折率分布に対する波長依存性を取得できる。光学検査装置10は、当該波長依存性に基づいて、試験領域30内に存在する物質(被検物40)を特定したり、試験領域30内に存在している可能性のある物質を限定したりすることができるという効果がある。
本実施形態に係る光学検査装置10によれば、以下のことが言える。
本実施形態に係る光学検査装置10は、受光した光線(例えば検知光51)の光線方向に係る情報を受光信号として出力する受光部13と、前記受光信号を処理して、基準となる基準光線方向に係る情報と被検物40を通過した通過光の通過光線方向に係る情報とを取得して、前記基準光線方向に係る情報と前記通過光線方向に係る情報とを比較した結果に基づいて、被検物40の内部の物理量に係る情報を取得する処理回路14とを備える。
この構成によれば、第1の光線方向を外部から基準光線方向として取得可能な場合及び被検物40の内部に屈折率分布が存在しない時に第1の光線方向を測定して基準光線方向として取得できる場合には、基準光線方向と測定した通過光線方向との比較から、被検物40の内部の屈折率分布52の有無を、被検物40の内部の物理量に係る情報として、非接触で検知して取得できる。
また、この構成によれば、第1の光線方向が一定であると担保されている場合には、測定した通知光線方向の時系列変化から、被検物40の内部の屈折率分布52の変化の有無を、被検物40の内部の物理量に係る情報として、非接触で検知して取得できる。
本実施形態に係る光学検査方法は、被検物40を通過した通過光(検知光51)を受光することと、基準となる基準光線方向に係る情報を基準光線情報として取得することと、受光した前記通過光(検知光51)の通過光線方向に係る情報を通過光線情報として取得することと、前記基準光線情報と前記通過光線情報との比較を行うことと、前記比較の結果に基づいて、被検物40の内部の物理量に係る情報を取得することとを含む。ここで、基準光線情報は、基準光線方向、基準光線方向に換算可能な受光部13の出力値、基準光線方向に対応した基準光線位置、基準光線方向に対応した基準光線位置に換算可能な受光部13の出力値等を含む。また、通過光線情報は、通過光線方向、通過光線方向に換算可能な受光部13の出力値、通過光線方向に対応した通過光線位置、通過光線方向に対応した通過光線位置に換算可能な受光部13の出力値等を含む。この方法によれば、上述の効果が得られ得る。
本実施形態に係る光学検査装置10は、被検物40を透過(又は通過)可能な波長を有する検知光51を前記光線として前記基準光線方向に放射する検知光発生部12をさらに備える。なお、検知光発生部12は、例えば、フィルタやコリメータ等の光学素子である。また、検知光発生部12は、光源をさらに備えていてもよい。この構成によれば、上述の効果に加え、第1の光線方向を既知の情報として基準光線方向として用いたり、第1の光線方向が一定であることを担保したりすることが容易にできる。また、被検物40に適した検知光51の波長を選択できる。
本実施形態に係る光学検査装置10の備える処理回路14は、前記光線方向に係る情報の時系列変化を取得し、標準状態における前記光線方向に係る情報を前記基準光線方向に係る情報として取得する。この構成によれば、受光部13の出力のみに基づいても、上述と同様の効果が得られ得る。
本実施形態に係る光学検査装置10の備える受光部13は、前記光線(検知光51)の光線位置を前記光線方向に対応した前記光線位置とする受光光学系16と、前記光線位置を検出できる受光面(撮像面17)とを備え、前記基準光線方向に係る情報は、前記基準光線方向に対応した基準光線位置であり、前記通過光線方向に係る情報は、前記通過光線方向に対応した通過光線位置である。この構成によれば、上述の効果に加え、光線方向を算出することなく、光線位置に係る情報のみに基づいて、被検物40内部の屈折率分布の有無又は変化について非接触で検知して取得できる。さらに、この構成によれば、検知光発生部12の放射端が、受光光学系16から十分遠方にあるとみなせる場合には、第1の光線方向は、受光光学系16の光軸と平行であるとみなすことができる。すなわち、測定しなくても、第1の光線方向を基準光線方向に係る情報として取得できる。
本実施形態に係る光学検査装置10の備える受光部13は、少なくとも2つの波長の各々について前記光線方向に係る情報を出力し、処理回路14は、前記結果に基づいて、被検物40の内部における通過光(検知光51)の光線経路上の屈折率分布52に係る波長依存性を取得し、前記波長依存性に基づいて、被検物40を構成する物質に係る情報を被検物40の内部の物理量に係る情報として取得する。この構成によれば、上述の効果に加え、非接触で、被検物40を構成する物質を特定することができる。
(第2の実施形態)
以下、本実施形態に係る光学検査装置10について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点について主に説明し、同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
まず、本実施形態に係る光学検査装置10の構成について説明をする。本実施形態に係る光学検査装置10の構成例の概略を図4に模式図として示す。図4では、光学検査装置10の構成例の概略に加えて、試験領域30が模式的に示されている。
図4に示すように、本実施形態に係る光学検査装置10は、音響波発生部19をさらに備える。音響波発生部19は、被検物40の内部に音響平面波(弾性波)を発生させて、伝播させる。なお、音響平面波(音響波)は超音波であってもよい。
なお、本実施形態に係る音響波発生部19は、被検物40の内部において、本実施形態に係る検知光発生部12の放射する検知光51の光線経路に対して沿う方向に、音響平面波を伝播させるように構成されている。このとき、音響平面波の波面と、検知光発生部12の放射端と受光部13の入射端とを結ぶ線分とは直交する。また、音響波発生部19は、伝播経路上の屈折率分布との干渉から、回折波を生じさせることが可能な音響平面波を、被検物40の内部に発生させることができる。ここで、当該回折波は、検知光51の光線経路上の屈折率分布を変化させることができる。
なお、本実施形態に係る被検物40は、気体でもよいし、液体でもよいし、固体でもよいし、気体、液体及び固体のうち少なくとも2つが混合したものでもよい。
例えば、被検物40が気体である場合には、音響波発生部19は、試験領域30の内部に存在する気体(被検物40)中に音響平面波を発生させる。この場合には、音響波発生部19は、例えば、平面波スピーカ、フラットパネルスピーカ等である。また、検知光発生部12における検知光51の放射端を位置Aとし、受光部13における検知光51の入射端を位置Bとする。
例えば、被検物40が液体や固体である場合には、音響波発生部19は、試験領域30の内部に存在する被検物40の内部に音響平面波(弾性波)を発生させる。この場合には、音響波発生部19は、例えば、被検物40の内部に弾性波を発生させるための励起光を被検物40に向けて照射するレーザー発振器であってもよい。また、励起光は、短パルスレーザー光であってもよい。なお、励起光の波長は、被検物40の吸収波長に含まれる波長である。また、検知光51の光線経路上における、被検物40の検知光発生部12側の端を位置Aとし、他端(受光部13側の端)を位置Bとする。
以下、図4に示すように、被検物40が気体であり、音響平面波は当該気体中を伝播する弾性波である場合を例として説明をする。すなわち、本実施形態では、位置Aから放射されて位置Bへ入射できる検知光51について、光線経路上の光線方向を考える。
次に、本実施形態に係る光学検査装置10の動作について、図5及び図6を参照して説明する。図5は、本実施形態に係る光学検査装置10における計測原理を説明するための模式図であり、音響平面波60が屈折率分布52へ到達する前の状態を示す。また、図6は、本実施形態に係る光学検査装置10における計測原理を説明するための模式図であり、音響平面波60が図5に示す状態から伝播方向61にさらに伝播して、音響平面波60が屈折率分布52へ到達した後の状態を示す。
ここで、例えば、被検物40の内部において、中心付近に密度分布が存在する場合を考える。ただし、中心付近の他の領域では密度が一定であるとする。このとき、被検物40の内部には、当該密度分布に応じた屈折率分布52が存在する。
なお、以下の説明では、簡単のために、位置Aにおける屈折率n(rA)と位置Bにおける屈折率n(rB)とは同じであるとする。ただし、上述したように、位置Aにおける屈折率n(rA)と位置Bにおける屈折率n(rB)とが異なっていても本技術は成立する。
本実施形態に係る検知光発生部12は、位置Aから又は位置Aを通過するように検知光51を放射する。また、受光部13は、位置Aから放射された又は位置Aを通過した検知光51を受光する。ここで、検知光51の光線経路は、位置Aと位置Bとの間に屈折率分布が存在しない場合には、位置Aと位置Bとを通る直線であるとする。
本実施形態に係る音響波発生部19は、位置Aと位置Bとを通る直線に沿って、すなわち伝播方向61に伝播するように、被検物40の内部に音響平面波60を発生させる。つまり、音響平面波60の波面と、位置A及び位置Bを通る直線とは直交する。ここで、位置Aから位置Bへ向かう方向をZ方向と定義し、Z方向の単位方向ベクトルをベクトルeZとする。
ここで、まず、図5に示すように、音響平面波60が屈折率分布52へ到達する前の状態を考える。このとき、位置Aにおける屈折率n(rA)と位置Bにおける屈折率n(rB)とは同じであると仮定していることと、位置Aと位置Bとの間に屈折率分布52が存在しないこととから、式(4)は、
となる。したがって、位置Aにおける第1の光線方向と位置Bにおける第2の光線方向とは一致し、位置Aと位置Bとの間で光線方向は変化しない。
次に、図6に示すように、音響平面波60が図5に示す状態から伝播方向61へさらに伝播して、音響平面波60が屈折率分布52へ到達した後の状態を考える。このとき、音響平面波60と屈折率分布52との干渉から、回折波63が生じる。
このようにして発生した回折波63は、例えば屈折率分布52の中心位置Oから伝播方向d63へ伝播する。ここで、伝播方向d63は、中心位置Oを基準とした動径方向である。その後、伝播方向d63へ伝播した回折波63は、検知光51の光線経路上へ到達し、検知光51と干渉する。このとき、式(4)は、
となる。ここで、ベクトルerは、中心位置Oを基準とする動径方向の単位ベクトルであり、式(7)の右辺の第1項におけるgrad<n(r)er>は、回折波63により生じる光線経路上の屈折率の勾配である。式(7)の右辺の第1項の表すベクトル量は、第1項内の被積分の屈折率の動径方向微分が正ならば動径方向を向き、負ならば動径方向と反対方向を向く。すなわち、動径方向に沿って屈折率が高くなる場合、第1項は動径方向へ向くベクトル量を表すこととなる。これにより、光線方向は、動径方向に沿って屈折率が高くなる方向に曲げられることがわかる。すなわち、位置Aと位置Bとの間で光線方向は変化する。また、当該光線方向の変化は、検知光51の光線経路と回折波63が発生した位置との位置関係に依存するとも表現できる。すなわち、受光部13の入射端における検知光51(通過光)の第2の光線方向(通過光線方向)の変化に係る情報は、被検物40の内部の屈折率分布52の位置に係る情報を含む。
以上のように、本実施形態に係る光学検査装置10に係る音響波発生部19は、被検物40の内部に音響平面波60を発生させる。音響平面波60は、被検物40の内部を伝播し、伝播経路上の屈折率分布52と干渉して回折波63を生じさせる。回折波63は、検知光51(通過光)の光線経路上の屈折率又は屈折率分布を変化させる。ここで、本実施形態に係る光学検査装置10は、第1の実施形態に係る光学検査装置10と同様にして、基準光線方向に係る情報と、検知光51(通過光)の通過光線方向に係る情報とを取得して、比較する。すなわち、本実施形態に係る光学検査装置10は、音響平面波60の伝播経路上における屈折率分布52の有無又は変化を、検知光51の光線経路上の屈折率分布の有無又は変化として取得できる。すなわち、本実施形態に係る光学検査装置10は、被検物40の内部において、音響平面波60の伝播経路上の密度分布等に由来する屈折率分布の有無又は変化を非接触で検知して取得することができる。また、上述したように、本実施形態に係る光学検査装置10が屈折率分布の有無又は変化を検知できる範囲は、検知光51の光線経路上に限らない。すなわち、本実施形態に係る光学検査装置10は、音響波発生部19を備えることで、検知光51の光線経路上にない屈折率分布の有無又は変化を検知して取得できる。
(第2の実施形態の第1の変形例)
第2の実施形態では、密度分布によって屈折率分布が生じている場合に、被検物40内の密度分布の有無又は変化を検知して取得する光学検査装置10を例として説明をしたが、これに限らない。
例えば、光学検査装置10の検知対象、すなわち被検物40が気体の場合には、被検物40内部の屈折率は、被検物40である気体の種類、温度、圧力、密度等に応じて変化し得る。また、例えば、被検物40が液体や固体の場合には、被検物40内部の屈折率は、被検物40の種類、温度、内部応力、ひずみ、密度等によって変化し得る。すなわち、本実施形態に係る光学検査装置10が取得できる被検物40の内部の物理量に係る情報は、被検物40の内部の屈折率を変化させ得る物理量に係る情報を含む。本変形例に係る光学検査装置10には、上述のように検知光51の通過光線方向に係る情報又は通過光線方向の時系列変化に係る情報を取得して、被検物40内部の音響平面波60の伝播経路上の物理量に係る情報を非接触で検知して取得することが可能となるという効果がある。
なお、これらの被検物40内部の屈折率変化に寄与する物理量の変化は、上述したように被検物40内部の一部で生じていてもよいし、被検物40の全体で生じていてもよい。何れの場合であっても、本変形例に係る光学検査装置10は、被検物40内部の物理量の変化を非接触で検知して取得できる。
(第2の実施形態の第2の変形例)
被検物40と検知光51の光線経路との相対位置を変化させて、上述の測定が行われてもよい。例えば、上述の実施形態に係る光学検査装置10は、第2の光線方向の変化を取得することで、光線経路に対して何れの方向に屈折率分布52が存在するのか検知して取得できる。すなわち、本変形例に係る光学検査装置10によれば、被検物40と検知光51の複数の光線経路との各々の相対位置において第2の光線方向(通過光線方向)に係る情報又は通過光線方向に係る情報の時系列変化を取得することで、屈折率分布の位置を推定できるという効果がある。また、同様にして、屈折率分布の形状を再構築できる光学検査装置10も考えられる。
本実施形態に係る光学検査装置10によれば、以下のことが言える。
本実施形態に係る光学検査装置10は、被検物40を透過(又は通過)可能な波長を有する検知光51を前記光線として前記基準光線方向に放射する検知光発生部12と、被検物40の内部に音響波(音響平面波60)を発生させるとともに、被検物40の内部における音響波(音響平面波60)の伝播経路上の屈折率分布52との干渉から、前記通過光(検知光51)の光線経路上の屈折率分布を変化させる回折波63を生じさせることが可能な音響波発生部19とをさらに備え、処理回路14は、被検物40の内部における音響波(音響平面波60)の伝播経路上の屈折率分布52の有無又は変化を被検物40の内部の物理量に係る情報として取得する。この構成によれば、被検物40の内部の音響平面波60が通過する経路上における、屈折率分布52の有無又は変化を非接触で検知して取得できる。すなわち、検知できる屈折率分布52は、検知光51(通過光)の光線経路上に存在する屈折率分布52に限らない。また、検知光51(通過光)の第2の光線方向(通過光線方向)の変化に係る情報は、被検物40の内部の屈折率分布52と検知光51(通過光)の光線経路との相対位置に係る情報を含む。
本実施形態に係る光学検査装置10の備える音響波発生部19は、検知光発生部12と受光部13とを結ぶ直線に沿って前記音響波(音響平面波60)を伝播させる。この構成によれば、音響平面波60と検知光51との干渉を低減させることができるため、上述の効果に加え、検知精度を向上できるという効果が得られ得る。
本実施形態に係る光学検査装置10において、音響波(音響平面波60)の波面は、検知光発生部12と受光部13とを結ぶ直線に対して略直交する。このように、本実施形態に係る光学検査装置10において、前記直線と音響波(音響平面波60)の伝播方向61とは略平行である。この構成によれば、音響平面波60と検知光51(通過光)との干渉をさらに低減させることができるため、上述の効果に加え、検知精度をさらに向上できるという効果が得られ得る。
本実施形態に係る光学検査装置10の備える音響波発生部19は、短パルスレーザー光を被検物40へ向けて放射して、前記音響波(音響平面波60)を発生させる。この構成によれば、例えば被検物40が固体である場合には、被検物40の表面41近傍に、急峻な弾性波(音響平面波60)を発生させることができるため、検知精度の向上を図ることができる。
(第3の実施形態)
以下、本実施形態に係る光学検査装置10について、図面を参照して詳細に説明する。ここでは、第2の実施形態との相違点について主に説明し、同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施形態に係る光学検査装置10の構成例の概略を模式図として図7に示す。図7では、検査試料(被検物40)の断面上を示す模式図が合わせて示されている。本実施形態では、被検物40が固体である場合を例として説明をする。なお、被検物40として用いられる固体試料は何でもよく、例えばSUS(ステンレス鋼)、Au、Al、Cu、W、Tiなどの金属(合金を含む)でもよいし、カーボンやアモルファスカーボンなどの非金属でもよい。また、被検物40は、SiやSiCなどの半導体でもよいし、アクリルやポリカーボネイトなどの樹脂でもよい。さらに、被検物40は、内部に多層膜などの構造を備えていてもよい。
以下、本実施形態では、図7に示すように、被検物40が内部に界面64を有する場合を例として説明する。また、以下の説明では、図7に示すように、被検物40の深さ方向をZ方向とし、被検物40の表面41から裏面42へ向かう方向をZ+方向とし、被検物40の裏面42から表面41へ向かう方向をZ-方向として説明をする。ここで、被検物40の表面41のZ方向の位置をZ41とし、被検物40の裏面42のZ方向の位置をZ42とし、界面64のZ方向の位置をZ64とする。
図7に示すように、本実施形態に係る光学検査装置10は、励起光発生部11を備える。本実施形態に係る励起光発生部11は、被検物40の内部に、被検物40の内部をZ方向に伝播する弾性波(音響平面波)を発生させる。すなわち、本実施形態に係る励起光発生部11は、第2の実施形態に係る音響波発生部19に含まれ得る。本実施形態に係る励起光発生部11は、例えば光源と集光光学系とを含む。この集光光学系により、光源からの光を照射面でスポット状に照射することができる。励起光発生部11は、被検物40の表面41に向けて励起光65を照射する。励起光発生部11から射出された励起光65は、被検物40の表面又は被検物40の内部の表面近傍において吸収される。このとき、被検物40の内部に、光吸収密度の分布に応じて応力が生じ、照射面(表面41)近傍で弾性波(音響波)が生じる。当該弾性波のパルス幅(Z方向の厚さ)は、励起光65の光侵入長と同程度である。ここで、光侵入長は、光が被検物40に侵入できる典型的なZ方向深さを表している。
本実施形態に係る励起光発生部11の備える光源は、例えばYAGレーザーである。また、励起光発生部11が照射する励起光65は、短パルスレーザー光であるとする。ここで、本実施形態では、励起光65として用いられる短パルスレーザー光について、パルス幅(レーザー強度の時系列変化に対するパルス幅)は、例えばピコ秒以下であり、例えば数100fs(フェムト秒)であるとする。また、励起光65の波長は、例えば532nm(第2高調波)であるとする。
ただし、励起光発生部11の備える光源やこれら光源が照射する光の波長、パルス幅は上述の記載に限らない。例えば励起光65の光源は、被検物40として用いられる試料の物性、励起光65として要求される波長などに応じて選択されればよく、YVO4レーザー、YLFレーザー等の固体レーザーであってもよいし、エキシマレーザー等の気体レーザーであってもよい。
本実施形態に係る検知光発生部12は、例えばX線光源と集光光学系とを含む。この集光光学系により、X線光源から放射された光を平行光として照射面でスポット状に照射することができる。検知光発生部12は、被検物40の表面41へ入射角θで入射するように、検知光51を照射する。ここで、入射角θは、被検物40の結晶構造のBragg(ブラッグ)条件を満たすブラッグ角近傍の角度を斜視角として有する。すなわち、当該入射角θとブラッグ角との和は、π/2近傍の値となる。
本実施形態に係る受光部13は、受光面20を備える。受光部13は、検知光発生部12から出射されて被検物40の内部を透過又は通過した検知光51の受光面20への入射位置(光線位置)を検知できるように構成されている。受光部13は、取得した光線位置を処理回路14へ出力する。受光部13は、例えばラインセンサ、エリアセンサ等のX線の受光位置(光線位置)を測定できる受光素子であればよい。
次に、本実施形態に係る光学検査装置10の動作について図面を参照して説明をする。
本実施形態に係る検知光発生部12は、例えば図7に示すように、斜視角がブラッグ角近傍となる入射角θで被検物40の表面41へ入射するように、X線光線を検知光51として放射する。表面41から被検物40の内部へ侵入した検知光51は、被検物40を透過又は通過して、裏面42から出射する。このとき、検知光51の光線方向は、界面64内では屈折して変化するが、界面64を出たときに界面64に入射したときの状態に戻る。すなわち、本実施形態に係る検知光51の光線方向は、界面64を通過しても変化しないとみなすことができ得る。裏面42から出射した検知光51(通過光)は、受光部13の備える受光面20によって受光される。このとき、受光部13は、受光面20における光線位置Pを検知し、光線位置Pに係る情報を受光信号として処理回路14へ出力する。処理回路14は、励起光65が照射される前、すなわち被検物40に弾性波が励起される前の検知光51(通過光)の光線位置Pに係る情報を基準光線位置に係る情報として受光部13より取得して記録する。なお、ここでの記録は、一時的な値の保持であってもよい。
本実施形態に係る励起光発生部11は、例えば図7に示すように、被検物40の表面41に励起光65を照射する。励起光65は、被検物40の表面41の近傍で吸収される。このとき、被検物40の光吸収密度分布に応じて表面41の近傍に応力が生じ、照射面(表面41)近傍で音響平面波(弾性波)が生じる。このようにして生じる弾性波のパルス幅(Z方向の厚さ)は、励起光65の光侵入長に概ね等しい。
ここで、被検物40の内部を伝播する音響平面波(弾性波66)が界面64へ到達する前の光学検査装置10及び被検物40の状態を示す図を、模式図として図8に示す。表面41の近傍で発生した弾性波66は、被検物40の内部において、伝播方向67が示すように、Z+方向へ伝播する。ここで、弾性波66のZ方向の位置をZ66とする。すなわち、図8に示す状態は、弾性波66がZ+方向に伝播している場合であって、弾性波66の位置Z66が位置Z41と位置Z64との間である場合の状態であると表現できる。
このように被検物40の内部を伝播する弾性波66は、表面41の近傍で生じた応力に基づく被検物40の局所のひずみを被検物40の内部において伝搬するものである。ここで、図8に示す状態における被検物40の内部のひずみ分布の一例を模式図として図9に示す。図9中に示すグラフでは、横軸は被検物40の内部のZ方向の位置を示し、縦軸は被検物40の内部のひずみ量σを示す。図9に示すように、弾性波66が存在する位置Z66には、局所的にひずみが生じている。また、このひずみ分布は、弾性波66のZ+方向への伝播に伴って、方向70の示すZ+方向へ伝搬される。
図8に示すように、斜視角がブラッグ条件を満たす角度近傍となる入射角θで被検物40の内部へ入射したX線(検知光51)は、弾性波66の伝搬するひずみの方向に依存して横すべりを起こす。すなわち、弾性波66を通過した後の検知光51(通過光)の光線経路(光線位置)は、弾性波66によって変化させられる。例えば、図8に示すように、光線位置が変化させられた後の通過光(検知光51)の光線経路は、破線68が示すような弾性波66に到達する前の光線経路の延長線上にはなく、また、当該破線68と平行な光線経路となる。なお、上述したひずみの方向は、方向70の示すようなひずみが伝搬される方向ではなく、ひずみ量σの正負を意味するものである。
弾性波66によって横すべりさせられた検知光51は、裏面42から出射し、受光面20へ入射する。受光部13は、弾性波66によって横すべりさせられた検知光51(通過光)の受光面20における光線位置Q(受光位置)を検知し、光線位置Qに係る情報(通過光線位置に係る情報)を受光信号として処理回路14へ出力する。
処理回路14は、励起光65が照射された後、すなわち被検物40に弾性波が励起されて横すべりを起こした検知光51の光線位置Qに係る情報を通過光線位置に係る情報として受光部13から取得して記録する。なお、ここでの記録は、一時的な値の保持であってもよい。また、処理回路14は、光線位置P(基準光線位置に係る情報)と光線位置Q(通過光線位置に係る情報)とを比較して、横すべり量Δxとして、X線受光素子である受光面20における光線位置のずれ量を算出する。
ここで、被検物40の内部を伝播する音響平面波(弾性波66)が界面64へ到達した後の光学検査装置10及び被検物40の状態を示す図を、模式図として図10に示す。界面64へ到達した弾性波66は、被検物40の界面64を介した屈折率の差によって、界面64で反射される。界面64で反射された弾性波66は、伝播方向71が示すように、Z-方向へ伝播する。すなわち、図10に示す状態は、弾性波66がZ-方向に伝播している場合であって、弾性波66の位置Z66が位置Z41と位置Z64との間である場合の状態であると表現できる。
ここで、図10に示す状態における被検物40の内部のひずみ分布の一例を模式図として図11に示す。図11中に示すグラフでは、横軸は被検物40の内部のZ方向の位置を示し、縦軸は被検物40の内部のひずみ量σを示す。図11に示すように、弾性波66が存在する位置Z66には、局所的にひずみが生じている。また、このひずみ分布は、弾性波66のZ-方向への伝播に伴って、方向74の示すZ-方向へ伝搬される。
弾性波66が伝搬するひずみの方向(ひずみ量σの正負)は、弾性波66が界面64で反射される際に、界面64を介した被検物40の密度差によって符号が反転させられる。例えば、図9に示すように、正のひずみ量σを表面41からZ-方向に伝搬する弾性波66が界面64で反射された後には、図11に示すように、弾性波66は、負のひずみ量σを界面64からZ+方向に伝搬することになる。
このように、図10に示す状態では、図8に示す状態と比較して弾性波66の伝搬するひずみの方向が反転している。上述したように、斜視角がブラッグ角近傍となる入射角θで被検物40の内部へ入射したX線(検知光51)は、弾性波66の伝搬するひずみの方向に依存して横すべりを起こす。すなわち、図10に示す弾性波66を通過した後の検知光51(通過光)の光線経路は、図8に示す弾性波66を通過した後の検知光51の光線経路と比較して、破線72が示すような弾性波66に到達する前の光線経路の延長線に対して反転した位置の光線経路となる。
受光部13は、図10に示す弾性波66によって横すべりさせられ、光線位置が変化させられた検知光51(通過光)の受光面20における光線位置Rを検知し、光線位置Rに係る情報を受光信号として処理回路14へ出力する。
処理回路14は、弾性波66が界面64で反射された後、すなわち界面64から表面41へ向かって伝播する弾性波によって横すべりを起こした検知光51(通過光)の光線位置Rを受光部13から取得し、通過光線位置に係る情報として記録する。なお、ここでの記録は、一時的な値の保持であってもよい。また、処理回路14は、光線位置P(基準光線位置に係る情報)と光線位置R(通過光線位置に係る情報)とを比較して、X線受光素子である受光面20における光線位置のずれ量から横すべり量を算出する。なお、例えばここで算出される横すべり量は-Δxとなる。
このように、弾性波66が界面に到達して反射された場合には、受光部13で検知される横すべり量の符号が変化するため、受光部13が出力する受光信号は変化する。すなわち、本実施形態に係る光学検査装置10は、当該受光信号の時系列変化を測定することで、弾性波66が表面41に励起されてから、被検物40の内部を伝播して、界面64に到達するまで、又は弾性波66が界面64で反射されてから、被検物40の内部を伝播して、表面41に到達するまでの時間(伝播時間)を算出できる。
弾性波66は、被検物40の内部を被検物40に固有の音速で進行する。例えば、アモルファスカーボンの音速は約6nm/psである。すなわち、このように弾性波66の速度が既知である場合には、本実施形態に係る光学検査装置10は、上述のようにして算出された弾性波66の伝播時間と、当該音速とに基づいて、被検物40における、表面41と界面64との間の膜厚を測定できるという効果を有する。
なお、本実施形態では、被検物40が界面64を有している場合を例として説明をしたが、これに限らない。弾性波66は、例えば、内部に界面64を有していない被検物40の裏面42においても反射され得る。この場合、被検物40の裏面42を介して、被検物40の屈折率と被検物40の外部の屈折率とは異なる。すなわち、裏面42は、被検物40の内部に存在する界面64であると表現することもできる。したがって、本実施形態に係る光学検査装置10を用いれば、単層の被検物40の厚みを測定することもできる。
本実施形態に係る光学検査装置10によれば、以下のことが言える。
本実施形態に係る光学検査装置10は、受光した光線の光線位置に係る情報を受光信号として出力する受光部13と、前記受光信号を処理して、基準となる基準光線位置(光線位置P)に係る情報と被検物40を通過した前記光線の通過光線位置に係る情報(光線位置Q、光線位置R)とを取得して、前記基準光線位置に係る情報と前記通過光線位置に係る情報とを比較した結果(横すべり量)に基づいて、前記被検物の内部の物理量に係る情報を取得する処理回路14とを備える。この構成によれば、被検物40の内部における音響平面波(例えば弾性波66)等のひずみの有無を非接触で検知して取得できる。
本実施形態に係る光学検査装置10は、被検物40を透過(又は通過)可能な波長を有する検知光51を前記光線として前記基準光線位置に放射する検知光発生部12と、被検物40の内部に存在する界面64で反射して伝播方向が変化し、前記伝播方向の変化に応じて前記通過光線位置を変化させることが可能な音響波(弾性波66)を発生させる音響波発生部19(励起光発生部11)とをさらに備え、処理回路14は、音響波(弾性波66)の伝播速度及び前記基準光線位置に対する前記通過光線位置の時系列変化に基づいて、被検物40の内部の物理量に係る情報として、被検物40の音響波発生部19(励起光発生部11)が位置する側の表面41と、界面64との間の厚さを取得する。
この構成によれば、弾性波66のひずみの方向に応じた検知光51(通過光)の横すべりを発生させて通過光線位置を基準光線位置に対して変化させることができる。すなわち、弾性波66の伝播方向に応じて、基準光線位置に対する通過光線位置を変化させることができる。したがって、弾性波66が発生した時から、基準光線位置と通過光線位置との比較によって算出される横すべり量の符号が変化する時までの時間として、表面41と界面64との間の弾性波66の伝播時間を取得できる。なお、表面41と界面64との間の弾性波66の伝播時間は、弾性波66が界面64で反射された時から、基準光線位置と通過光線位置との比較によって算出される横すべり量の符号が変化する時までの時間としても算出できる。ここで、弾性波66の伝播速度が既知であれば、表面41と界面64との間の厚さ(膜厚)を取得できる。なお、裏面42は、被検物40の内部に存在する界面64に含まれ得る。したがって、単層の被検物40であれば、被検物40の厚さが取得されることになる。
本実施形態に係る光学検査装置10において、前記基準光線位置に対する前記通過光線位置の時系列変化は、前記基準光線位置に対する前記通過光線位置が変化した時から、前記光線位置がさらに変化する時までの時間に係る情報を含む。ここで、弾性波66の伝播時間は、表面41から弾性波66が伝播し始めてから、界面64で反射された後に、再び表面41に到達するまでの時間等、前記通過光線位置が複数回変化した時間と変化の回数とから平均値として算出されてもよい。
本実施形態に係る光学検査装置10の備える検知光発生部12は、X線を検知光51として放射可能に構成され、被検物40に対してブラッグ条件を満たす角度近傍の入射角θで検知光51を入射させる。この構成によれば、検知光51を被検物40の内部へ入射させることができるため、弾性波66のひずみの方向に応じた検知光51の横すべりを発生させることができる。したがって、光線位置の変化に基づいて、被検物40の内部の物理量に係る情報を取得できる。また、直進性の高いX線を検知光51として用いることで、弾性波66の波面は、検知光発生部12と受光部13とを通る直線に対して直交していなくてもよいという効果がある。
本実施形態に係る光学検査装置10の備える音響波発生部19(励起光発生部11)は、短パルスレーザー光を被検物40へ向けて放射して、音響波(弾性波66)を発生させる。この構成によれば、例えば被検物40が固体である場合には、被検物40の表面41近傍に、急峻な弾性波66を発生させることができるため、検知精度の向上を図ることができる。
本実施形態に係る光学検査装置10の備える音響波発生部19(励起光発生部11)は、検知光発生部12と受光部13とを結ぶ直線に沿って音響波(弾性波66)を伝播させる。この構成によれば、弾性波66のひずみ方向に応じて検知光51(通過光)の通過光線位置を変化させることができる。
本実施形態に係る光学検査方法は、被検物40を通過した通過光(検知光51)を受光することと、基準となる基準光線位置に係る情報を基準光線情報として取得することと、受光した通過光(検知光51)の通過光線位置に係る情報を通過光線情報として取得することと、前記基準光線情報と前記通過光線情報との比較を行うことと、前記比較の結果に基づいて、被検物40の内部の物理量に係る情報を取得することとを含む。ここで、基準光線情報は、基準光線位置、基準光線位置に換算可能な受光部13の出力値等を含む。また、通過光線情報は、通過光線位置、通過光線位置に換算可能な受光部13の出力値等を含む。また、比較の結果は、基準光線位置から通過光線位置への変位量又は当該変位量の符号、基準光線位置に対する通過光線位置の時系列変化等を含む。この方法によれば、上述の効果が得られ得る。
なお、上記の各々の実施形態と各々の変形例とを適宜組み合わせて、1つの実施形態を実現することもできる。例えば、第1の実施形態の光線方向の取得に係る変形例又は第1の実施形態の変形例と第2の実施形態、第1の実施形態と第2の実施形態の第1の変形例等が組み合わせ可能である。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願原出願の特許出願時の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
受光した光線の光線方向に係る情報を受光信号として出力する受光部と、
前記受光信号を処理して、基準となる基準光線方向に係る情報と被検物を通過した通過光の通過光線方向に係る情報とを取得して、前記基準光線方向に係る情報と前記通過光線方向に係る情報とを比較した結果に基づいて、前記被検物の内部の物理量に係る情報を取得する処理回路と
を備える、光学検査装置。
[2]
前記被検物の内部の物理量に係る情報は、前記被検物の内部における前記通過光の光線経路上の屈折率分布の有無又は変化である、[1]記載の光学検査装置。
[3]
前記被検物を透過可能な波長を有する検知光を前記光線として前記基準光線方向に放射する検知光発生部をさらに備える、[1]記載の光学検査装置。
[4]
前記処理回路は、前記光線方向に係る情報の時系列変化を取得し、標準状態における前記光線方向に係る情報を前記基準光線方向に係る情報として取得する、[1]記載の光学検査装置。
[5]
前記受光部は、前記光線の光線位置を前記光線方向に対応した前記光線位置とする受光光学系と、前記光線位置を検出できる受光面とを備え、
前記基準光線方向に係る情報は、前記基準光線方向に対応した基準光線位置であり、 前記通過光線方向に係る情報は、前記通過光線方向に対応した通過光線位置である、[1]記載の光学検査装置。
[6]
前記受光部は、少なくとも2つの波長の各々について前記光線方向に係る情報を出力し、
前記処理回路は、前記結果に基づいて、前記被検物の内部における前記通過光の光線経路上の屈折率分布に係る波長依存性を取得し、前記波長依存性に基づいて、前記被検物を構成する物質に係る情報を前記被検物の内部の物理量に係る情報として取得する、
[1]記載の光学検査装置。
[7]
前記被検物を透過可能な波長を有する検知光を前記光線として前記基準光線方向に放射する検知光発生部と、
前記被検物の内部に音響波を発生させるとともに、前記被検物の内部における前記音響波の伝播経路上の屈折率分布との干渉から、前記通過光の光線経路上の屈折率分布を変化させる回折波を生じさせることが可能な音響波発生部と
をさらに備え、
前記処理回路は、前記被検物の内部における前記音響波の伝播経路上の屈折率分布の有無又は変化を前記被検物の内部の物理量に係る情報として取得する、
[1]記載の光学検査装置。
[8]
前記音響波の波面は、前記検知光発生部と前記受光部とを結ぶ直線に対して略直交する、[7]記載の光学検査装置。
[9]
前記音響波発生部は、短パルスレーザー光を前記被検物へ向けて放射して、前記音響波を発生させる、[7]記載の光学検査装置。
[10]
受光した光線の光線位置に係る情報を受光信号として出力する受光部と、
前記受光信号を処理して、基準となる基準光線位置に係る情報と被検物を通過した前記光線の通過光線位置に係る情報とを取得して、前記基準光線位置に係る情報と前記通過光線位置に係る情報とを比較した結果に基づいて、前記被検物の内部の物理量に係る情報を取得する処理回路と
を備える、光学検査装置。
[11]
前記被検物を透過可能な波長を有する検知光を前記光線として前記基準光線位置に放射する検知光発生部と、
前記被検物の内部に存在する界面で反射して伝播方向が変化し、前記伝播方向の変化に応じて前記通過光線位置を変化させることが可能な音響波を発生させる音響波発生部と をさらに備え、
前記処理回路は、前記音響波の伝播速度及び前記基準光線位置に対する前記通過光線位置の時系列変化に基づいて、前記被検物の内部の物理量に係る情報として、前記被検物の前記音響波発生部が位置する側の表面と、前記界面との間の厚さを取得する、
[10]記載の光学検査装置。
[12]
前記基準光線位置に対する前記通過光線位置の時系列変化は、前記基準光線位置に対する前記通過光線位置が変化した時から、前記光線位置がさらに変化する時までの時間に係る情報を含む、[11]記載の光学検査装置。
[13]
前記検知光発生部は、X線を前記検知光として放射可能に構成され、前記被検物に対してブラッグ条件を満たす角度近傍の入射角で前記検知光を入射させる、[11]記載の光学検査装置。
[14]
前記音響波発生部は、短パルスレーザー光を前記被検物へ向けて放射して、前記音響波を発生させる、[11]記載の光学検査装置。
[15]
前記音響波発生部は、前記検知光発生部と前記受光部とを結ぶ直線に沿って前記音響波を伝播させる、[11]記載の光学検査装置。
[16]
被検物を通過した通過光を受光することと、
基準となる基準光線方向又は基準光線位置に係る情報を基準光線情報として取得することと、
受光した前記通過光の通過光線方向又は通過光線位置に係る情報を通過光線情報として取得することと、
前記基準光線情報と前記通過光線情報との比較を行うことと、
前記比較の結果に基づいて、前記被検物の内部の物理量に係る情報を取得することと を含む、光学検査方法。