JP7341478B2 - 心筋細胞の薬剤応答性試験方法 - Google Patents

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Description

本発明は、心筋細胞の薬剤応答性試験方法に関する。
現在、新薬の開発には10年以上の歳月と数百億円のコストがかかると言われており、特にコストと時間のかかる動物試験などの前臨床試験を、in vitroの培養細胞を用いた試験で代替する、あるいは効率化させることが期待されている。また薬剤候補物質の薬効を、in vitroの培養細胞を用いて評価し、ハイスループットスクリーニング(創薬スクリーニング)することが可能であると考えられている。
心臓は命に直結する臓器で、先進国では心臓病患者が圧倒的に多い。また我々が服用するあらゆる薬は全て心臓への副作用に細心の注意を払う必要がある(安全性薬理)。新薬開発における動物試験などの前臨床試験を加速するために、iPS細胞から作製されたヒト心筋細胞を用いて、薬剤応答性評価および心毒性評価の手法の開発が行われている。
iPS細胞から分化誘導した心筋細胞を薬剤応答性評価に用いた例が多く報告されている(例えば、非特許文献1:J Pharmacol Toxicol Methods. 2017 Mar - Apr; 84: 111-127. doi: 10.1016/j.vascn.2016.12.003. Epub 2016 Dec 10.)。非特許文献1は、iPS細胞から分化誘導した心筋細胞を、トリプシン溶液で処理した後、心筋細胞の培養液に播種し、培養することで、拍動するシート状の心筋細胞を作成し、得られたシート状の心筋細胞に薬剤を一定の濃度範囲で添加し、心筋細胞の電気生理学的変化を細胞外電位記録によって測定することを開示する。
J Pharmacol Toxicol Methods. 2017 Mar - Apr; 84: 111-127. doi: 10.1016/j.vascn.2016.12.003. Epub 2016 Dec 10.
本発明者らは、iPS細胞から分化誘導した心筋細胞を用いて薬剤応答性を評価したところ、評価中に心筋細胞の拍動停止が起こったり、あるいは予想される薬剤応答(例えば、頻脈応答や、早期後脱分極(early afterdepolarization(EAD))による不整脈応答)が見られなかったりするなど、心筋細胞が薬剤に対する応答効果を適切に発現できない場合があるという問題を発見した。したがって、本発明は、この新たに見出された問題の解決のための技術を提供すること、即ち、心筋細胞の薬剤応答性を試験するための技術であって、心筋細胞が薬剤に対する応答効果を適切に発現することを可能にする技術を提供することを目的とする。
第1実施形態によれば、
心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
第2実施形態によれば、
心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、培養液中、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
第3実施形態によれば、
心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、酸素透過性を有する容器に収容される培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素透過性を有する容器に含有される培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
第4実施形態によれば、
心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記心筋細胞への酸素供給速度を高める手段の下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、培養液中、前記心筋細胞への酸素供給速度を高める手段の下に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
第5実施形態によれば、
心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件下に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
他の実施形態によれば、
心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
a)前記心筋細胞を、高酸素濃度雰囲気下に置かれた培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または前記心筋細胞を、高酸素濃度雰囲気下に置かれた培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、
b)前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液に酸素含有ガスをバブリングしながら、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または前記心筋細胞を、酸素含有ガスをバブリングしている培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、
c)前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液を振盪しながら、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または前記心筋細胞を、振盪している培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、あるいは
d)前記心筋細胞を、高い酸素溶存量を有する培養液を供給する循環式の培養システムにおいて、前記培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または前記心筋細胞を、高い酸素溶存量を有する培養液を供給する循環式の培養システムにおいて、前記培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
別の側面によれば、酸素運搬体を含む、心筋細胞の拍動停止抑制剤、あるいは酸素運搬体を含む、心筋細胞の薬剤応答性増強剤が提供される。
更に別の側面によれば、心筋細胞の培養液と酸素運搬体とを含む、薬剤応答性試験用キットが提供される。
更に別の側面によれば、心筋細胞の培養液と酸素運搬体とを含む、薬剤応答性試験用培養液が提供される。
本発明によれば、心筋細胞の薬剤応答性を試験するための技術であって、心筋細胞が薬剤に対する応答効果を適切に発現することを可能にする技術を提供することができる。
「培養液の液面から心筋細胞が接している培養容器底面までの距離」を説明するための模式図。 薬剤添加前のサンプル2Dの波形図。 薬剤添加後のサンプル2Dの波形図。 ヘモグロビン濃度と拍動停止率との関係を示すグラフ。 薬剤添加前のサンプル3Dの波形図。 薬剤添加後のサンプル3Dの波形図。 薬剤添加前のサンプル3Jの波形図。 薬剤添加後のサンプル3Jの波形図。 液面距離と拍動停止率との関係を示すグラフ。 薬剤添加後のサンプル4Bの波形図。 薬剤添加前のサンプル4Dの波形図。 薬剤添加後のサンプル4Dの波形図。 培養容器の種類と拍動停止率との関係を示すグラフ。 薬剤添加後のサンプル5Cの波形図。 薬剤添加前のサンプル5Dの波形図。 薬剤添加後のサンプル5Dの波形図。 薬剤応答性試験の条件と拍動停止率との関係を示すグラフ。 薬剤添加後のサンプル5Gの波形図。 薬剤添加前のサンプル5Hの波形図。 薬剤添加後のサンプル5Hの波形図。 薬剤応答性試験の条件と拍動停止率との関係を示すグラフ。 薬剤添加後のサンプル5Kの波形図。 薬剤添加前のサンプル5Lの波形図。 薬剤添加後のサンプル5Lの波形図。 薬剤応答性試験の条件と拍動停止率との関係を示すグラフ。 薬剤添加後のサンプル5Oの波形図。 薬剤添加前のサンプル5Pの波形図。 薬剤添加後のサンプル5Pの波形図。 薬剤添加前のサンプル6Bの波形図。 薬剤添加後のサンプル6Bの波形図。 薬剤添加後のサンプル6Fの波形図。 薬剤添加後のサンプル6Gの波形図。 薬剤添加後のサンプル6Hの波形図。 薬剤添加後のサンプル6Iの波形図。 Ca2+持続時間の変化率を示すグラフ。 EAD発生率を示すグラフ。 酸素分圧の測定結果および薬剤応答性試験の結果を示す図。 培養液pHの変化に対する心筋細胞の応答性を示すグラフ。
本発明者らが、iPS細胞から分化誘導した心筋細胞を用いて薬剤応答性を評価したところ、心臓への薬理作用が既知である薬剤を添加した際に、予想されるよりも限られた薬剤濃度範囲でしか、期待される薬剤応答が検出できないという問題を発見した(後述の実施例1を参照)。本発明者らは、この問題を解決するために鋭意検討し、心筋細胞への酸素供給量を高めるための構成を採用することで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
以下、本発明について説明する。ただし、以下の説明は、本発明を詳説することを目的とし、本発明を限定することを意図していない。
1.薬剤応答性試験方法
1-1.第1実施形態
第1実施形態によれば、心筋細胞の薬剤応答性試験方法は、
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
第1実施形態において、心筋細胞は、酸素運搬体を含む培養液中で試験してもよいし、酸素運搬体を含む培養液中に置いた直後に試験してもよい。前者は、文字通り、試験が、酸素運搬体を含む培養液中で行われることを意味する。後者は、心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中に置き、その直後に、試験が、酸素運搬体を含まない培養液中または酸素運搬体を含む培養液中の何れで行われてもよいことを意味する。
後者の場合、「直後」は、典型的には2時間以内、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内を指す。また、後者の場合、心筋細胞を試験前に所定の条件下に置く期間(この実施形態では、心筋細胞を試験前に、酸素運搬体を含む培養液中に置く期間)は、心筋細胞に十分な量の酸素を予め供給するのに必要な期間であり、例えば、1分以上、好ましくは10分以上とすることができる。この期間の上限は、例えば120分とすることができる。ただし、心筋細胞は長期間培養することが可能であるため、この期間の上限は特に限定されず、心筋細胞を試験前に、酸素運搬体を含む培地中で長期間培養ないし保管してもよい。
心筋細胞は、多能性幹細胞から分化誘導した心筋細胞であってもよいし、生物の心臓から単離された初代培養心筋細胞であってもよい。また、市販されている多能性幹細胞由来の心筋細胞(例えば、CDI社のiCell、タカラバイオ社のMiraCell、Axogenesis社のCor.4Uなど)であってもよい。「多能性幹細胞」は、成体を構成する全ての細胞に分化することができる多分化能(pluripotency)と、細胞分裂を経てもその多分化能を維持することができる自己複製能とを有する細胞を意味する。「多能性幹細胞」には、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)が含まれる。心筋細胞は、好ましくは、iPS細胞から分化誘導した心筋細胞(以下、iPS細胞由来の心筋細胞ともいう)である。iPS細胞由来の心筋細胞は、公知の心筋分化誘導法、例えば、プロテインフリー心筋分化誘導(PFCD)法(WO2015/182765を参照)により作製することができる。
心筋細胞は、任意の生物の心筋細胞であってもよいが、好ましくは哺乳類の心筋細胞、より好ましくはヒトの心筋細胞である。
心筋細胞は、正常な心筋細胞であってもよいし、遺伝子変異を含む心筋細胞や疾患モデル心筋細胞であってもよい。あるいは、心筋細胞は、薬剤に対する応答性を調べたい被検体に由来する心筋細胞であってもよい。正常な心筋細胞は、正常な(すなわち、遺伝性心臓疾患を有していない)被検体に由来する心筋細胞であってもよいし、商業的に入手可能な心筋細胞であってもよい。遺伝子変異を含む心筋細胞は、遺伝子変異を有する被検体に由来する心筋細胞であってもよいし、遺伝子変異を正常な心筋細胞に導入することにより得られた心筋細胞であってもよい。疾患モデル心筋細胞は、遺伝性心臓疾患を有する被検体に由来する心筋細胞であってもよいし、遺伝性心臓疾患の原因遺伝子を正常な心筋細胞に導入することにより得られた心筋細胞であってもよい。
以上より、心筋細胞は、好ましくは、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞であり、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞には、正常な心筋細胞や疾患モデル心筋細胞が含まれる。より好ましくは、心筋細胞は、ヒトiPS細胞由来の成熟心筋細胞であり、ヒトiPS細胞由来の成熟心筋細胞には、正常な成熟心筋細胞や疾患モデルの成熟心筋細胞が含まれる。
ここで、「ヒトiPS細胞由来の成熟心筋細胞」は、当該技術分野で、ヒトiPS細胞由来の未熟心筋細胞と対比して使用される用語であり、ヒトiPS細胞由来の未熟心筋細胞と比べて、高いイオンチャネル機能を有する。
「ヒトiPS細胞由来の成熟心筋細胞」は、例えば、iPS細胞の分化誘導を開始してから14日以上経過した細胞である。ここで、iPS細胞の分化誘導を開始した日は、未分化状態で維持されたiPS細胞を、分化状態に移行させるための処理に晒した日であり、この日を0日目とする。また、成熟心筋細胞は、分化状態を維持したまま長期間培養することが可能であるため、分化誘導を開始してからの日数の上限は特に限定されず、成熟心筋細胞を、分化状態を維持したまま長期間培養ないし保管してもよい。例えば、成熟心筋細胞は、iPS細胞の分化誘導を開始してから365日以上経過した細胞であっても問題ない。「ヒトiPS細胞由来の成熟心筋細胞」は、好ましくは、プロテインフリー心筋分化誘導(PFCD)法によりiPS細胞の分化誘導を開始してから14日以上経過した細胞をいう。
「ヒトiPS細胞由来の成熟心筋細胞」は、ヒトiPS細胞由来の未熟心筋細胞と比べて酸素要求性が高いため、本発明の効果をより顕著に発現させることができる。
心筋細胞は、単一細胞の形態で試験されてもよいが、後述の実施例に記載するとおり、複数の心筋細胞が互いに接合して形成された心筋細胞シートの形態、あるいは心筋細胞塊の形態で試験されることが好ましい。
第1実施形態では、酸素運搬体を含む培養液が使用される。
酸素運搬体は、細胞に酸素を運ぶ機能を有する物質であり、好ましくは、高酸素濃度下では酸素と結合し、低酸素濃度下では酸素を分離する性質を有する物質である。酸素運搬体としては、例えば、赤血球、酸素運搬タンパク質や人工の酸素運搬体が挙げられ、好ましくは、酸素運搬タンパク質である。酸素運搬タンパク質としては、例えば、ヘモグロビン、修飾ヘモグロビン(例えば、ヘモグロビン-アルブミン複合体であるヘモアクト、WO2012/117688を参照)、ミオグロビン、ヘムエリスリン、ヘモシアニン、エリスロクルオリン、ビンナグロビン、ヴァナビンス、レグヘモグロビン、クロロクルオリン、あるいはこれらの変異体が挙げられる。人工の酸素運搬体としては、例えば、ナノカプセル型酸素運搬体、人工赤血球、Hb小胞体が挙げられる。赤血球としては、ヒトや哺乳類の血液から調整した赤血球などが挙げられる。その他、過フッ素化合物(パーフルオロケミカル)等の細胞に酸素を運ぶ機能を有する化学物質も酸素運搬体に含まれる。
酸素運搬体の培地中の濃度は特に限定されないが、酸素運搬体は、好ましくは、細胞に酸素を運ぶ機能を果たすのに十分な濃度で培養液中に含まれる。例えば、酸素運搬体が、ヘモグロビンなどの酸素運搬タンパク質である場合、酸素運搬タンパク質は、培養液に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%、更に好ましくは2.0~5.0質量%の量で、培養液中に含まれる。
酸素運搬体が添加される培養液は、心筋細胞の培養用の培養液として公知のものであってもよいし、心筋細胞の電位測定用の培養液として公知のものであってもよい。好ましくは、酸素運搬体が添加される培養液は、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、およびナトリウム塩を含む無機塩類と、緩衝液とを含む。より好ましくは、酸素運搬体が添加される培養液は、DMEM、RPMI、IMDM、Ham-12などの基礎培地を用いてもよい。基礎培地は、例えばシグマアルドリッチジャパンより入手可能である。あるいは、酸素運搬体が添加される培養液は、下記組成を有する培養液を用いてもよい:
0.01~0.5g/L(例えば、0.182g/L)のCaCl2
0~1.0g/L(例えば、0.09767g/L)のMgSO4
0.1~1.0g/L(例えば、0.4g/L)のKCl、
0~10.0g/L(例えば、3.362g/L)のNaHCO3
1.0~20.0g/L(例えば、5.4525g/L)のNaCl、
0~1.0g/L(例えば、0.109g/L)のNa2HPO4、および
0~20.0g/L(例えば、5.958g/L)のHEPES。
上記組成を有する培養液は、血清を含んでいなくてもよいし、培養液に対して40質量%以下の量で血清を含んでいてもよい。酸素運搬体が添加される培養液のpHは特に限定されないが、好ましくは6.0~9.0、より好ましくは7.0~8.0である。
培養容器としては、細胞の接着培養のために使用される任意の容器を使用することができる。培養容器は、一般には平底容器、例えば、培養皿やマイクロタイタープレートを使用することができる。より具体的には、培養容器は、直径3.5~10cmの細胞培養皿、6ウェルプレート、12ウェルプレート、24ウェルプレート、96ウェルプレート、384ウェルプレート、細胞培養バッグなどを用いることができる。
後述の実施例に記載されるとおり、96ウェルプレートを使用した場合、例えば、約2×10~約8×10[細胞/ウェル]となるように心筋細胞を播種し、培養液中で培養して心筋細胞シートを作製し、これを薬剤応答性試験に使用することができる。すなわち、例えば、約0.625×10~約2.5×10[細胞/cm]となるように心筋細胞を培養容器に播種し、培養液中で培養して心筋細胞シートを作製し、これを薬剤応答性試験に使用することができる。
薬剤応答性試験は、心筋細胞を含む培養液に薬剤を添加し、心筋細胞の拍動を公知の手法を用いて解析することにより行うことができる。例えば、薬剤応答性試験は、細胞の電気生理学的解析および/または細胞のモーション解析ができる機器を用いて行うことができる。より具体的には、薬剤応答性試験は、蛍光顕微鏡によるカルシウムイメージング法、モーションアナライザーによる拍動の解析、多電極システムによる細胞外電位解析、MEA(Multi-electrode array)解析、ホールセルパッチクランプによる細胞内電位解析などにより行うことができる。
薬剤応答性試験において、薬剤は、心筋細胞への作用が知られている物質であってもよく、例えば、イソプロテレノール(ISO)、ベラパミル、E-4031、テルフェナジン、アステミゾール、クロマノール293b、メキシレチン、ニフェジピン、プロプラノール、ミルリノン、背景技術の欄に記載の文献(J Pharmacol Toxicol Methods. 2017 Mar - Apr; 84: 111-127. doi: 10.1016/j.vascn.2016.12.003. Epub 2016 Dec 10)に記載の薬剤などである。ISOは、非選択的β作動薬で、頻脈効果、強心効果を有する。ミルリノンは、ホスホジエステラーゼIII阻害剤で、同じく頻脈効果、強心効果を有する。ベラパミルは、L型カルシウムチャネル阻害剤である。E-4031は、hERG型カリウムチャネル阻害剤である。テルフェナジンは、抗アレルギー薬で、QT延長を引き起こすことが知られている。アステミゾールは、抗アレルギー薬で、QT延長を引き起こすことが知られている。クロマノール293bは、電位依存性カリウムチャネルKCNQ1阻害剤である。メキシレチンは、電位依存性ナトリウムチャネル阻害剤である。ニフェジピンは、L型カルシウムチャネル阻害剤である。プロプラノールは、β遮断薬で、徐脈効果を有する。
あるいは、薬剤は、心筋細胞への作用を調べたい物質であってもよく、例えば、新薬候補物質、心毒性を有することが疑われる物質、または心筋細胞に薬剤応答を引き起こす候補物質である。心筋細胞に薬剤応答を引き起こす候補物質は、例えば、以下からなる群より選択される薬剤応答を引き起こす候補物質とすることができる:薬剤応答性QT延長応答、徐脈応答(陰性変時作用)、頻脈応答(陽性変時作用)、強心応答(陽性変力作用)、弱心応答(陰性変力作用)、早期後脱分極(EAD)応答、遅延後脱分極(DAD)応答、トルサード・ド・ポワント(TdP)応答、トリガードアクティビティ不整脈応答、およびリエントリー不整脈応答。薬剤は、低分子医薬品に包含される低分子化合物であってもよいし、高分子医薬品に包含される、タンパク質、抗体、核酸、多糖などの高分子化合物であってもよい。
薬剤の添加濃度は、薬剤の種類に応じて、公知技術に従って適宜選択することができ、例えば、背景技術の欄に記載の文献(J Pharmacol Toxicol Methods. 2017 Mar - Apr; 84: 111-127. doi: 10.1016/j.vascn.2016.12.003. Epub 2016 Dec 10)を参照することができる。この文献および技術常識から明らかなとおり、薬剤の添加濃度は、薬剤の種類によって異なるが、薬剤は、培養液に、例えば0.00001~10000μMの範囲の濃度となるように添加することができる。
例えば、薬剤として、心筋細胞への作用が知られている物質を使用し、心筋細胞として、薬剤に対する応答性を調べたい被検体に由来する心筋細胞を使用した場合、被検体の心筋細胞に対する薬剤の効果を調べることができる。あるいは、薬剤として、心筋細胞への作用を調べたい物質を使用し、心筋細胞として、正常な心筋細胞を使用した場合、正常な心筋細胞に対する薬剤の効果を調べることができる。あるいは、薬剤として、心筋細胞への作用を調べたい物質を使用し、心筋細胞として、上述の疾患モデル心筋細胞を使用した場合、遺伝性疾患を有する被検体の心筋細胞に対する薬剤の効果を調べることができる。
より具体的には、本発明の方法は、創薬プロセスにおいて、医薬品の安全性や有効性を評価するために利用することができる。すなわち、薬剤として新薬候補物質を使用し、心筋細胞として正常な心筋細胞を使用して、新薬候補物質の心毒性を評価することができる。また、薬剤として新薬候補物質を使用し、心筋細胞として疾患モデル心筋細胞を使用して、その疾患の治療に有効な化合物を探すことができる。
第1実施形態では、薬剤応答性試験において、酸素運搬体を含む培養液を使用することにより、以下の効果を得ることができる。すなわち、薬剤応答性試験中に心筋細胞の拍動が停止してしまうという不具合の発生を抑制することができる(後述の実施例2および5を参照)。また、薬剤応答性試験で適用可能な薬剤濃度の範囲を広げることができる(後述の実施例2および5を参照)。また、薬剤添加によって起こる波形の変化(例えば、QT延長に相当する、活動電位波形もしくはCa2+波形の持続時間の延長、または早期後脱分極(early afterdepolarization(EAD))による不整脈など)を、より明瞭な波形の変化として検出することができる(後述の実施例6を参照)。
第1実施形態では、酸素運搬体が培養液に含まれていることにより、心筋細胞への酸素供給速度が高まり、その結果、心筋細胞が薬剤に対する応答効果を適切に発現できたと考えられる。
本発明により上記効果が得られる理由は定かではないが、本発明者らによる検討によれば、一つの可能性として、以下のことが考えられる。薬剤応答性試験の際に、拍動回数や筋収縮の活発化、細胞内シグナル伝達系やイオンポンプの活発化、これらによるATPの消費、その他の理由により、心筋細胞の酸素要求量が高まり、培地中の酸素量が不足し、結果として拍動停止や、予想される薬剤効果(例えば、頻脈応答やEADによる不整脈応答)が現れないという現象が発生する。このような現象は、本発明により心筋細胞に対する酸素供給量を高めるための構成を採用することで抑制できると考えられる。
1-2.第2実施形態
第2実施形態によれば、心筋細胞の薬剤応答性試験方法は、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、培養液中、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
以下の説明では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明し、第1実施形態と重複する説明は省略する。すなわち、第1実施形態では、薬剤応答性試験において「酸素運搬体を含む培養液」を使用したが、第2実施形態では、「培養液の液面から心筋細胞が接している培養容器底面までの距離(以下、液面距離ともいう)が5.0mm以下である条件」を使用する。したがって、この条件についてのみ以下で説明する。
第2実施形態において、心筋細胞は、液面距離が5.0mm以下である条件下で試験してもよいし、液面距離が5.0mm以下である条件下に置いた直後に試験してもよい。前者は、文字通り、試験が、液面距離が5.0mm以下である条件下で行われることを意味する。後者は、心筋細胞を、液面距離が5.0mm以下である条件下に置き、その直後に、試験が、上記条件を満たしていない条件下または上記条件下の何れで行われてもよいことを意味する。
上述のとおり、「直後」は、典型的には2時間以内、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内をいう。また、上述のとおり、心筋細胞を試験前に所定の条件下に置く期間(この実施形態では、心筋細胞を試験前に、液面距離が5.0mm以下である条件下に置く期間)は、例えば、1分以上、好ましくは10分以上とすることができる。この期間の上限は、例えば120分とすることができる。ただし、心筋細胞は長期間培養することが可能であるため、この期間の上限は特に限定されず、心筋細胞を試験前に、液面距離が5.0mm以下である条件下で長期間培養ないし保管してもよい。
なお、後述の実施形態においても、「心筋細胞を、・・・に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験する」という同様の表現が使用されるが、この表現は、上記説明と同様の意味を有し、上記説明を参照することができる。
「培養液の液面から心筋細胞が接している培養容器底面までの距離(すなわち、液面距離)」は、図1に示される距離を指す。ここで、「培養容器底面」は、培養容器の内側底面を指す。上述のとおり、培養容器は、細胞の接着培養のために使用される容器であり、一般には平底容器、例えば、培養皿やマイクロタイタープレートである。図1は平底容器を示すが、培養容器がV底容器であってもよく、この場合、液面距離は、「培養液の液面から心筋細胞が接している培養容器底面の最深部までの距離」を指す。
液面距離は、5.0mm以下、好ましくは3.5mm以下、より好ましくは1.5mm以下、更に好ましくは1.0mm以下である。液面距離の下限は、例えば0.1mmである。液面距離は、培養液の量を変えることにより変化させることができる。
第2実施形態において薬剤応答性試験は、液面距離が5.0mm以下である条件を使用したこと以外、第1実施形態と同様に行うことができる。
第2実施形態では、薬剤応答性試験において、液面距離が5.0mm以下である条件を使用することにより、第1実施形態と同様、以下の効果を得ることができる。すなわち、薬剤応答性試験中に心筋細胞の拍動が停止してしまうという不具合の発生を抑制することができる(後述の実施例3および5を参照)。また、薬剤応答性試験で適用可能な薬剤濃度の範囲を広げることができる(後述の実施例3および5を参照)。また、薬剤添加によって起こる波形の変化(例えば、QT延長に相当する、活動電位波形もしくはCa2+波形の持続時間の延長、またはEADによる不整脈など)を、より明瞭な波形の変化として検出することができる(後述の実施例6を参照)。
第2実施形態では、液面距離を短くすることにより、培養容器底面に接している心筋細胞と大気との距離が近くなり、心筋細胞への酸素供給速度が高まり、その結果、心筋細胞が薬剤に対する応答効果を適切に発現できたと考えられる。
第2実施形態において、心筋細胞の細胞密度が2.5×10細胞/cm以上である場合、液面距離が1.5mm以下であることが好ましい。第2実施形態において、心筋細胞の細胞密度が1.25×10細胞/cm以上、2.5×10細胞/cm未満の場合、液面距離が3.5mm以下であることが好ましい。第2実施形態において、心筋細胞の細胞密度が0.625×10細胞/cm以上、1.25×10細胞/cm未満の場合、液面距離が5.0mm以下であることが好ましい。
1-3.第1実施形態と2実施形態の組合せ
第1実施形態と第2実施形態を組み合わせて実施してもよい。すなわち、組み合わされた実施形態によれば、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中で、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
この組み合わされた実施形態によれば、第1実施形態および第2実施形態で述べた発明の効果を、より確実に発揮することができる(後述の実施例5および6を参照)。
1-4.第3実施形態
第3実施形態によれば、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、酸素透過性を有する容器に収容される培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素透過性を有する容器に収容される培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
以下の説明では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明し、第1実施形態と重複する説明は省略する。すなわち、第1実施形態では、薬剤応答性試験において「酸素運搬体を含む培養液」を使用したが、第3実施形態では、「酸素透過性を有する容器」を使用する。したがって、この容器についてのみ以下で説明する。
「酸素透過性を有する容器」は、具体的には、細胞培養で通常使用されるプラスチック素材の容器と比べて高い酸素透過性を有する素材を含む容器であり、より具体的には、750ml・mm/m2・day・atm以上の酸素透過性を有する素材を含む容器、好ましくは750~50000ml・mm/m2・day・atmの酸素透過性を有する素材を含む容器である。「酸素透過性を有する容器」は、例えば、ガス透過性膜を底面に備えた容器であり、例えば、VECELLプレート(ベセル社)、G-Rex Cell Culture Devices(アルゴステクノロジー社)が挙げられる。「酸素透過性を有する容器」に、プラスチック等の低い酸素透過性を有する素材のみで作られた容器は含まれない。
第3実施形態では、薬剤応答性試験において、酸素透過性を有する容器を使用することにより、第1実施形態と同様、以下の効果を得ることができる。すなわち、薬剤応答性試験中に心筋細胞の拍動が停止してしまうという不具合の発生を抑制することができる(後述の実施例4を参照)。また、薬剤応答性試験で適用可能な薬剤濃度の範囲を広げることができる(後述の実施例4を参照)。
第3実施形態では、酸素透過性を有する容器を使用することにより、心筋細胞への酸素供給速度が高まり、その結果、心筋細胞が薬剤に対する応答効果を適切に発現できたと考えられる。
1-5.第4実施形態
上述の第1実施形態から第3実施形態では、心筋細胞への酸素供給速度が高まったことにより本発明の効果が達成されると考えられる。したがって、上述の実施形態に限定されず、「心筋細胞への酸素供給速度を高める手段」の下で薬剤応答性試験を行えば、上述の本発明の効果が得られると考えられる。
したがって、第4実施形態によれば、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記心筋細胞への酸素供給速度を高める手段の下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、培養液中、前記心筋細胞への酸素供給速度を高める手段の下に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
「心筋細胞への酸素供給速度を高める手段」は、当該手段を使用した場合に、当該手段を使用しなかった場合と比べて、心筋細胞への酸素供給速度を高めることができる任意の手段を指す。
1-6.第5実施形態
第5実施形態によれば、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件下に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
以下の説明では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明し、第1実施形態と重複する説明は省略する。すなわち、第1実施形態では、薬剤応答性試験において「酸素運搬体を含む培養液」を使用したが、第5実施形態では、「心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件(以下、高酸素分圧条件ともいう)」を使用する。したがって、高酸素分圧条件についてのみ以下で説明する。
高酸素分圧条件における「酸素分圧」は、以下のとおり決定された値をいう。心筋細胞を96ウェルプレートに播種し、培養液中で培養して心筋細胞シートを作製する。心筋細胞シートに新たな培養液を添加して、薬剤応答性試験で使用されるのと同じ心筋細胞含有培養液を重複して3ウェル調製する。それぞれの心筋細胞含有培養液を調製してから0.5時間以上静置した後に、それぞれの心筋細胞含有培養液の酸素分圧を、細胞外フラックスアナライザーXFe96(Agilent Technologies)を用いて測定し、平均値を求める。このようにして決定された値を酸素分圧という。なお、本明細書において「心筋細胞含有培養液」は、薬剤応答性試験で使用される心筋細胞を(一般的には、培養容器底面に接着した状態で)含んでいるが、薬剤応答性試験で使用される薬剤を含んでいない培養液を指す。
心筋細胞含有培養液は、調製直後は、酸素分圧の値が安定せず落ち着いていないため、上述のとおり、調製から0.5時間以上静置した後に酸素分圧を測定する。また、酸素分圧の測定時に、培養液に測定装置を入れることにより培養液の液面が揺れて、酸素分圧の測定値が一時的に上昇するため、培養液に測定装置を入れてから12分以降に測定された値を測定値として採用する。すなわち、測定は、培養液の液面の揺れが確実に収まってから行う。
心筋細胞含有培養液が、高酸素分圧条件を満たしているか否か、すなわち、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持されるか否かは、以下のとおり確認することができる。具体的には、心筋細胞含有培養液を調製してから約0.5時間静置した後に、酸素分圧を決定し、酸素分圧が125mmHg以上である場合に、心筋細胞含有培養液が、高酸素分圧条件を満たしていると判断される。このように、酸素分圧の値が安定して落ち着いている代表的な時点(すなわち、心筋細胞含有培養液の調製から約0.5時間後)において酸素分圧が125mmHg以上の所定の値を示すことが確認できた場合、心筋細胞が培養液中の酸素を消費したとしても大気中から培養液に酸素が補充される環境が整っているため、その他の時点においても培養液の酸素分圧が所定の値とほぼ同じ値に維持されているとみなすことができる(後述の実施例7を参照)。
「高酸素分圧条件」は、好ましくは、「心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で130mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件」であり、より好ましくは、「心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で135mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件」であり、更に好ましくは、「心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で140mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件」であり、更に好ましくは、「心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で145mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件」である。酸素分圧の上限は、例えば760mmHgである。
心筋細胞含有培養液が、上述の好ましい高酸素分圧条件を満たしているか否か、すなわち、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態でXmmHg以上の酸素分圧を有するように維持されるか否かは、上述のとおり確認することができる。具体的には、心筋細胞含有培養液を調製してから約0.5時間静置した後に、酸素分圧を決定し、酸素分圧の値がXmmHg以上である場合に、心筋細胞含有培養液が、好ましい高酸素分圧条件を満たしていると判断される。
「高酸素分圧条件」は、パスカルの単位に換算すると、「心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で16.7kPa以上(すなわち125mmHg以上)の酸素分圧を有するように維持される条件」であり、好ましくは、「心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で17.3kPa以上(すなわち130mmHg以上)の酸素分圧を有するように維持される条件」であり、より好ましくは、「心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で18.0kPa以上(すなわち135mmHg以上)の酸素分圧を有するように維持される条件」であり、更に好ましくは、「心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で18.7kPa以上(すなわち140mmHg以上)の酸素分圧を有するように維持される条件」であり、更に好ましくは、「心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で19.3kPa以上(すなわち145mmHg以上)の酸素分圧を有するように維持される条件」である。
「高酸素分圧条件」は、培養液の酸素分圧に影響を及ぼす構成を、酸素分圧を高めるように採用することにより作り出すことができる。「培養液の酸素分圧に影響を及ぼす構成」は、上述の第1実施形態から第3実施形態、および後述の第6実施形態から第9実施形態を参考にすることができ、例えば、酸素運搬体の培養液への添加、培養液の液面から心筋細胞が接している培養容器底面までの距離(以下、液面距離ともいう)の短縮、酸素透過性を有する容器の使用などが挙げられる。
「高酸素分圧条件」は、例えば、液面距離の短縮によって作り出すことができる。具体的には、「高酸素分圧条件」は、液面距離を5.0mm以下、好ましくは3.5mm以下、より好ましくは1.5mm以下、更に好ましくは1.0mm以下にすることにより作り出すことができる。液面距離の下限は、例えば0.1mmである。
「高酸素分圧条件」は、好ましくは、液面距離の短縮および細胞密度の調整によって作り出すことができる。具体的には、「高酸素分圧条件」は、心筋細胞の細胞密度が2.5×10細胞/cm以上である場合、液面距離を1.5mm以下にすることにより作り出すことができる。あるいは、「高酸素分圧条件」は、心筋細胞の細胞密度が1.25×10細胞/cm以上、2.5×10細胞/cm未満の場合、液面距離を3.5mm以下にすることにより作り出すことができる。あるいは、「高酸素分圧条件」は、心筋細胞の細胞密度が0.625×10細胞/cm以上、1.25×10細胞/cm未満の場合、液面距離を5.0mm以下にすることにより作り出すことができる。
第5実施形態では、薬剤応答性試験において、「高酸素分圧条件」を使用することにより、以下の効果を得ることができる。すなわち、薬剤応答性試験中に心筋細胞の拍動が停止してしまうという不具合の発生を抑制することができる(後述の実施例7を参照)。また、薬剤添加によって起こる波形の変化(例えば、QT延長に相当する、活動電位波形もしくはCa2+波形の持続時間の延長、またはEADによる不整脈など)を、より明瞭な波形の変化として検出することができる(後述の実施例7を参照)。
第5実施形態では、「高酸素分圧条件」を使用することにより、心筋細胞への酸素供給速度が高まり、その結果、心筋細胞が薬剤に対する応答効果を適切に発現できたと考えられる。
1-7.他の実施形態
「心筋細胞への酸素供給速度を高める手段」の他の例を以下に示す。以下の説明では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明し、第1実施形態と重複する説明は省略する。
第6実施形態によれば、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、高酸素濃度雰囲気下に置かれた培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、高酸素濃度雰囲気下に置かれた培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
第6実施形態では、薬剤応答性試験は、高酸素濃度雰囲気下に置かれた培養液中で行われるか、あるいは心筋細胞を、高酸素濃度雰囲気下に置かれた培養液中に置いた直後に行われる。高酸素濃度雰囲気は、具体的には、培養液を収容した培養容器を、気密性のボックスで覆って大気と隔離し、隔離された内部を高酸素濃度の気体で満たすことによりつくることができる。気密性のボックスとしては、例えば、顕微鏡インキュベーターや顕微鏡チャンバなどを使用することができる。また、高酸素濃度雰囲気は、密閉空間内の酸素濃度を制御するデバイス(酸素コントローラー)を用いて維持することができる。
高酸素濃度雰囲気は、大気中の酸素濃度(すなわち、約20体積%)より高い酸素濃度を有する雰囲気を指し、例えば、酸素濃度が25~100体積%である雰囲気である。
第7実施形態によれば、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液に酸素含有ガスをバブリングしながら、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素含有ガスをバブリングしている培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
第7実施形態では、薬剤応答性試験は、培養液に酸素含有ガスをバブリングしながら行われるか、あるいは心筋細胞を、酸素含有ガスをバブリングしている培養液中に置いた直後に行われる。酸素含有ガスのバブリングは、具体的には、培養液にチューブを挿入し、酸素含有ガスを培養液に送ることにより行うことができる。バブリングの速度は、例えば0.1~1000mL/分とすることができる。酸素含有ガスは、大気であってもよいし、酸素濃度が25体積%以上のガスであってもよいし、酸素ガスであってもよい。
第8実施形態によれば、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液を振盪しながら、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、振盪している培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
第8実施形態では、薬剤応答性試験は、培養液を振盪しながら行われるか、あるいは心筋細胞を、振盪している培養液中に置いた直後に行われる。振盪によって、培養液の液面が揺れ大気と培養液との接触が高まり培養液中の酸素濃度を高めることができる。また、振盪によって培養液が攪拌されることにより、液面付近の培養液に集中しがちな酸素を細胞付近の培養液まで均一に分散させることができる。振盪は、具体的には、培養皿やマイクロタイタープレートのための振盪培養装置を用いて行うことができる。振盪条件は、例えば、振幅1~1000cm、速度1~1000rpmとすることができる。
第9実施形態によれば、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、高い酸素溶存量を有する培養液を供給する循環式の培養システムにおいて、前記培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、高い酸素溶存量を有する培養液を供給する循環式の培養システムにおいて、前記培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
第9実施形態では、薬剤応答性試験は、高い酸素溶存量を有する培養液を供給する循環式の培養システムにおいて、前記培養液中で行われるか、あるいは心筋細胞を、高い酸素溶存量を有する培養液を供給する循環式の培養システムにおいて、前記培養液中に置いた直後に行われる。この実施形態は、具体的には、高い酸素溶存量を有する培養液を、灌流培養装置を用いて心筋細胞に供給することにより行うことができる。培養液中の酸素溶存量は、例えば3~1000mg/Lとすることができ、培養液の循環速度は、例えば1~1000ml/分とすることができる。
上述の第6実施形態から第9実施形態においても、各実施形態に示される手段の採用により、心筋細胞への酸素供給速度が高まると考えられ、その結果、薬剤応答性試験において心筋細胞が薬剤に対する応答効果を適切に発現できると考えられる。
第1実施形態と第2実施形態を組み合わせて実施してもよいことについては既に述べたが、これに限定されず、上述の第1実施形態から第9実施形態は、技術的に可能であれば適宜組み合わせて実施することができる。
2.別の側面
2-1.培養環境変化に対する心筋細胞の応答性を試験する方法
上述の第1実施形態から第9実施形態の方法は、薬剤の添加により引き起こされる培養環境変化に対する心筋細胞の応答性を試験する方法であるが、培養液温度の変化、培養液の塩濃度の変化、培養液pHの変化など、任意の培養環境変化に対する心筋細胞の応答性を試験する方法に一般化することができる。
第1実施形態から第9実施形態の方法では、心筋細胞に対する酸素供給量を高めるための構成を採用し、これにより、心筋細胞への酸素供給速度を高め、その結果、心筋細胞が薬剤に対する応答効果を適切に発現することができた。したがって、第1実施形態から第9実施形態の方法に従って心筋細胞に対する酸素供給量を高めるための構成を採用すれば、心筋細胞への酸素供給速度を高め、その結果、任意の培養環境変化に対する心筋細胞の応答効果を適切に発現できると考えられる。
任意の培養環境変化には、薬剤の添加による培養液組成の変化に加えて、培養液温度の変化、培養液の塩濃度の変化、培養液pHの変化などが含まれる。心筋細胞培養液の温度を、例えば、通常の細胞培養環境の温度である37℃から20~43℃の範囲で低下あるいは上昇させると、心筋細胞の拍動回数が減少あるいは増加し、一定の低温や高温に達すると拍動が停止することが観察されている。また、心筋細胞培養液のpHを、例えば、通常の細胞培養環境のpHである7.0~7.4の値から6.0~9.0の範囲で下降あるいは上昇させると、心筋細胞の拍動回数が減少あるいは増加し、一定のpH条件で拍動が停止することが観察されている。また、心筋細胞培養液のKCl塩濃度を、例えば、通常の細胞培養環境のKCl塩濃度である約5mMから0~100mMの範囲で減少あるいは増加させると、心筋細胞の拍動回数が減少あるいは増加し、一定のKCl塩濃度の条件で拍動が停止することが観察されている。このような拍動回数の減少または増加や、拍動の停止が見られる培養環境下においても、第1実施形態から第9実施形態の方法に従って心筋細胞に対する酸素供給量を高めるための構成を採用すれば、培養環境変化に対する心筋細胞の応答効果を適切に発現することができる(後述の実施例8を参照)。
したがって、第1実施形態は、以下の方法に一般化することができる:
培養環境変化に対する心筋細胞の応答性を試験する方法であって、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下で、培養環境変化に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、培養液中、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下に置いた直後に、培養環境変化に対する応答性について試験すること
を含む方法。
第2実施形態は、以下の方法に一般化することができる:
培養環境変化に対する心筋細胞の応答性を試験する方法であって、
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中で、培養環境変化に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中に置いた直後に、培養環境変化に対する応答性について試験すること
を含む方法。
第3実施形態は、以下の方法に一般化することができる:
培養環境変化に対する心筋細胞の応答性を試験する方法であって、
前記心筋細胞を、酸素透過性を有する容器に収容される培養液中で、培養環境変化に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素透過性を有する容器に収容される培養液中に置いた直後に、培養環境変化に対する応答性について試験すること
を含む方法。
第4実施形態は、以下の方法に一般化することができる:
心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記心筋細胞への酸素供給速度を高める手段の下で、培養環境変化に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、培養液中、前記心筋細胞への酸素供給速度を高める手段の下に置いた直後に、培養環境変化に対する応答性について試験すること
を含む方法。
第5実施形態は、以下の方法に一般化することができる:
培養環境変化に対する心筋細胞の応答性を試験する方法であって、
前記心筋細胞を、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件下で、培養環境変化に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件下に置いた直後に、培養環境変化に対する応答性について試験すること
を含む方法。
第6~第9実施形態は、以下の方法に一般化することができる:
培養環境変化に対する心筋細胞の応答性を試験する方法であって、
a)前記心筋細胞を、高酸素濃度雰囲気下に置かれた培養液中で、培養環境変化に対する応答性について試験すること、または前記心筋細胞を、高酸素濃度雰囲気下に置かれた培養液中に置いた直後に、培養環境変化に対する応答性について試験すること、
b)前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液に酸素含有ガスをバブリングしながら、培養環境変化に対する応答性について試験すること、または前記心筋細胞を、酸素含有ガスをバブリングしている培養液中に置いた直後に、培養環境変化に対する応答性について試験すること、
c)前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液を振盪しながら、培養環境変化に対する応答性について試験すること、または前記心筋細胞を、振盪している培養液中に置いた直後に、培養環境変化に対する応答性について試験すること、あるいは
d)前記心筋細胞を、高い酸素溶存量を有する培養液を供給する循環式の培養システムにおいて、前記培養液中で、培養環境変化に対する応答性について試験すること、または前記心筋細胞を、高い酸素溶存量を有する培養液を供給する循環式の培養システムにおいて、前記培養液中に置いた直後に、培養環境変化に対する応答性について試験すること
を含む方法。
上述の一般化された方法は、第1実施形態から第9実施形態と同様の手順に従って実施することができる。培養環境変化が培養液温度の変化である場合、心筋細胞培養液の温度を例えば20~43℃の範囲で変化させることができる。培養環境変化が培養液pHの変化である場合、心筋細胞培養液のpHを例えば6.0~9.0の範囲で変化させることができる。培養環境変化が培養液の塩濃度の変化である場合、例えばKCl塩濃度を例えば0~100mMの範囲で変化させることができる。
2-2.薬剤応答性試験用培養液
別の側面によれば、心筋細胞の培養液と酸素運搬体とを含む、薬剤応答性試験用培養液が提供される。ここで「心筋細胞の培養液」は、第1実施形態の欄で説明した「酸素運搬体が添加される培養液」であり、「酸素運搬体」は、第1実施形態の欄で説明したとおりである。薬剤応答性試験用培養液において、酸素運搬体は、心筋細胞の培養液中に溶解している。
薬剤応答性試験用培養液は、
心筋細胞の培養液と、
酸素運搬体、好ましくは酸素運搬タンパク質、より好ましくはヘモグロビンと
を含む。
薬剤応答性試験用培養液は、
心筋細胞の培養液と、
心筋細胞の培養液に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%、更に好ましくは2.0~5.0質量%の量の酸素運搬体と
を含み、ここで酸素運搬体は、好ましくは酸素運搬タンパク質、より好ましくはヘモグロビンである。
好ましくは、薬剤応答性試験用培養液は、
DMEM、RPMI、IMDM、Ham-12などの基礎培地から構成される心筋細胞の培養液と、
酸素運搬体、好ましくは酸素運搬タンパク質、より好ましくはヘモグロビンと
を含む。ここで、心筋細胞の培養液中の酸素運搬体の含有量は、心筋細胞の培養液に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%、更に好ましくは2.0~5.0質量%である。
あるいは、好ましくは、薬剤応答性試験用培養液は、
0.01~0.5g/LのCaCl2
0~1.0g/LのMgSO4
0.1~1.0g/LのKCl、
0~10.0g/LのNaHCO3
1.0~20.0g/LのNaCl、
0~1.0g/LのNa2HPO4、および
0~20.0g/LのHEPES
から構成される心筋細胞の培養液と、
酸素運搬体、好ましくは酸素運搬タンパク質、より好ましくはヘモグロビンと
を含む。ここで、心筋細胞の培養液は、血清を含んでいなくてもよいし、心筋細胞の培養液に対して40質量%以下の量で血清を更に含んでいてもよい。また、ここで、心筋細胞の培養液中の酸素運搬体の含有量は、心筋細胞の培養液に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%、更に好ましくは2.0~5.0質量%である。
一例を挙げると、薬剤応答性試験用培養液は、
0.182g/LのCaCl2
0.09767g/LのMgSO4
0.4g/LのKCl、
3.362g/LのNaHCO3
5.4525g/LのNaCl、
0.109g/LのNa2HPO4、および
5.958g/LのHEPES
から構成される心筋細胞の培養液と、
酸素運搬体、好ましくは酸素運搬タンパク質、より好ましくはヘモグロビンと
を含む。ここで、心筋細胞の培養液は、血清を含んでいなくてもよいし、心筋細胞の培養液に対して40質量%以下の量で血清を更に含んでいてもよい。また、ここで、心筋細胞の培養液中の酸素運搬体の含有量は、心筋細胞の培養液に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%、更に好ましくは2.0~5.0質量%である。
薬剤応答性試験用培養液のpHは特に限定されないが、好ましくは6.0~9.0、より好ましくは7.0~8.0である。
2-3.薬剤応答性試験用キット
更に別の側面によれば、心筋細胞の培養液と酸素運搬体とを含む、薬剤応答性試験用キットが提供される。ここで「心筋細胞の培養液」は、第1実施形態の欄で説明した「酸素運搬体が添加される培養液」であり、「酸素運搬体」は、第1実施形態の欄で説明したとおりである。薬剤応答性試験用キットは、心筋細胞の培養液と酸素運搬体とを、別々のパッケージで含む。したがって、薬剤応答性試験用キットに含まれる「心筋細胞の培養液」および「酸素運搬体」を混合して、心筋細胞の培養液中に酸素運搬体を溶解させれば、上述の薬剤応答性試験用培養液を得ることができる。
薬剤応答性試験用キットは、
心筋細胞の培養液と、
酸素運搬体、好ましくは酸素運搬タンパク質、より好ましくはヘモグロビンと
を含む。
薬剤応答性試験用キットは、
心筋細胞の培養液と、
心筋細胞の培養液に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%の量の酸素運搬体と
を含み、ここで酸素運搬体は、好ましくは酸素運搬タンパク質、より好ましくはヘモグロビンである。
好ましくは、薬剤応答性試験用キットは、
DMEM、RPMI、IMDM、Ham-12などの基礎培地から構成される心筋細胞の培養液と、
酸素運搬体、好ましくは酸素運搬タンパク質、より好ましくはヘモグロビンと
を含む。ここで、心筋細胞の培養液中の酸素運搬体の含有量は、心筋細胞の培養液に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%である。
あるいは、好ましくは、薬剤応答性試験用キットは、
0.01~0.5g/LのCaCl2
0~1.0g/LのMgSO4
0.1~1.0g/LのKCl、
0~10.0g/LのNaHCO3
1.0~20.0g/LのNaCl、
0~1.0g/LのNa2HPO4、および
0~20.0g/LのHEPES
から構成される心筋細胞の培養液と、
酸素運搬体、好ましくは酸素運搬タンパク質、より好ましくはヘモグロビンと
を含む。ここで、心筋細胞の培養液は、血清を含んでいなくてもよいし、心筋細胞の培養液に対して40質量%以下の量で血清を更に含んでいてもよい。また、ここで、心筋細胞の培養液中の酸素運搬体の含有量は、心筋細胞の培養液に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%である。
一例を挙げると、薬剤応答性試験用キットは、
0.182g/LのCaCl2
0.09767g/LのMgSO4
0.4g/LのKCl、
3.362g/LのNaHCO3
5.4525g/LのNaCl、
0.109g/LのNa2HPO4、および
5.958g/LのHEPES
から構成される心筋細胞の培養液と、
酸素運搬体、好ましくは酸素運搬タンパク質、より好ましくはヘモグロビンと
を含む。ここで、心筋細胞の培養液は、血清を含んでいなくてもよいし、心筋細胞の培養液に対して40質量%以下の量で血清を更に含んでいてもよい。また、ここで、心筋細胞の培養液中の酸素運搬体の含有量は、心筋細胞の培養液に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%である。
2-4.心筋細胞の拍動停止抑制剤および心筋細胞の薬剤応答性増強剤
更に別の側面によれば、酸素運搬体を含む、心筋細胞の拍動停止抑制剤、あるいは酸素運搬体を含む、心筋細胞の薬剤応答性増強剤が提供される。ここで「酸素運搬体」は、第1実施形態の欄で説明したとおりである。心筋細胞の拍動停止抑制剤は、心筋細胞の培養液に添加することにより、心筋細胞の薬剤応答性試験で使用することができる。同様に、心筋細胞の薬剤応答性増強剤は、心筋細胞の培養液に添加することにより、心筋細胞の薬剤応答性試験で使用することができる。
本発明の心筋細胞の拍動停止抑制剤、または心筋細胞の薬剤応答性増強剤は、剤型は特に限定されず、例えば酸素運搬タンパク質を含むものであれば、プラスチック容器に入った粉末形態や水溶液の形態など、ヘモグロビンの一般的な販売形態と同様の形態とすることができる。
また、本発明は、上記酸素運搬体の心筋細胞の拍動停止抑制のための使用、あるいは上記酸素運搬体の心筋細胞の薬剤応答性増強のための使用も含む。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
3.好ましい実施形態
以下に、本発明の好ましい実施形態をまとめて示す。
上述のとおり、第1実施形態によると、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
好ましい実施形態によると、上記第1実施形態において、前記方法は、
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
上述のとおり、第2実施形態によると、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、培養液中、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
好ましい実施形態によると、上記第2実施形態において、前記方法は、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
上述のとおり、第1実施形態と第2実施形態との組合せによると、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中で、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
好ましい実施形態によると、第1実施形態と第2実施形態との上記組合せにおいて、前記方法は、
前記心筋細胞を、酸素運搬体を含む培養液中で、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が5.0mm以下である条件下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
上述のとおり、第3実施形態によると、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、酸素透過性を有する容器に収容される培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素透過性を有する容器に収容される培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
好ましい実施形態によると、上記第3実施形態において、前記方法は、
前記心筋細胞を、酸素透過性を有する容器に収容される培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
上述のとおり、第4実施形態によると、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記心筋細胞への酸素供給速度を高める手段の下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、培養液中、前記心筋細胞への酸素供給速度を高める手段の下に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
好ましい実施形態によると、上記第4実施形態において、前記方法は、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記心筋細胞への酸素供給速度を高める手段の下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
上述のとおり、第5実施形態によると、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件下に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
好ましい実施形態によると、上記第5実施形態において、前記方法は、
前記心筋細胞を、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件下で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
上述のとおり、第6実施形態によると、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、高酸素濃度雰囲気下に置かれた培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、高酸素濃度雰囲気下に置かれた培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
好ましい実施形態によると、上記第6実施形態において、前記方法は、
前記心筋細胞を、高酸素濃度雰囲気下に置かれた培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
上述のとおり、第7実施形態によると、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液に酸素含有ガスをバブリングしながら、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、酸素含有ガスをバブリングしている培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
好ましい実施形態によると、上記第7実施形態において、前記方法は、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液に酸素含有ガスをバブリングしながら、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
上述のとおり、第8実施形態によると、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液を振盪しながら、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、振盪している培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
好ましい実施形態によると、上記第8実施形態において、前記方法は、
前記心筋細胞を、培養液中で、前記培養液を振盪しながら、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
上述のとおり、第9実施形態によると、心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
前記心筋細胞を、高い酸素溶存量を有する培養液を供給する循環式の培養システムにおいて、前記培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
前記心筋細胞を、高い酸素溶存量を有する培養液を供給する循環式の培養システムにおいて、前記培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む方法が提供される。
好ましい実施形態によると、上記第9実施形態において、前記方法は、
前記心筋細胞を、高い酸素溶存量を有する培養液を供給する循環式の培養システムにおいて、前記培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
を含む。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記直後は、2時間以内、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記心筋細胞は、多能性幹細胞から分化誘導した心筋細胞、好ましくはiPS細胞から分化誘導した心筋細胞である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記心筋細胞は、哺乳類の心筋細胞、好ましくはヒトの心筋細胞である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記心筋細胞は、ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞であり、好ましくはヒトiPS細胞から分化誘導した成熟心筋細胞である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記心筋細胞は、心筋細胞シートの形態または心筋細胞塊の形態であり、好ましくは心筋細胞シートの形態である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記酸素運搬体は、赤血球、酸素運搬タンパク質、または人工の酸素運搬体であり、好ましくは酸素運搬タンパク質であり、より好ましくはヘモグロビンである。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記酸素運搬体は、前記培養液に対して、0.1~10質量%、好ましくは0.5~5.0質量%、より好ましくは2.0~5.0質量%で、前記培養液中に含まれる。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記培養液は、心筋細胞の培養液であり、例えば、心筋細胞の培養用の培養液または心筋細胞の電位測定用の培養液である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記培養液は、培養容器に収容されており、前記培養容器は、平底容器である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記薬剤は、前記心筋細胞への作用が知られている物質、または前記心筋細胞への作用を調べたい物質である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記薬剤は、新薬候補物質である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記薬剤は、新薬候補物質であり、前記心筋細胞は、正常な心筋細胞であり、前記方法は、前記試験結果に基づいて、前記新薬候補物質の心毒性を評価することを更に含む。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記薬剤は、新薬候補物質であり、前記心筋細胞は、疾患モデル心筋細胞であり、前記方法は、前記試験結果に基づいて、前記疾患の治療に対する前記新薬候補物質の有効性を評価することを更に含む。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離は、3.5mm以下、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.0mm以下である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離は、0.1~5.0mm、好ましくは0.1~3.5mm、より好ましくは0.1~1.5mm、更に好ましくは0.1~1.0mmである。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記試験は、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で、125mmHg以上、好ましくは130mmHg以上、より好ましくは135mmHg以上、更に好ましくは140mmHg以上、更に好ましくは145mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件下で行われる。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記試験は、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で、125~760mmHg、好ましくは130~760mmHg、より好ましくは135~760mmHg、更に好ましくは140~760mmHg、更に好ましくは145~760mmHgの酸素分圧を有するように維持される条件下で行われる。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、
前記心筋細胞が、前記培養液中で、2.5×10細胞/cm以上の細胞密度を有している場合、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離(液面距離)が1.5mm以下であり、
前記心筋細胞が、前記培養液中で、1.25×10細胞/cm以上、2.5×10細胞/cm未満の細胞密度を有している場合、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離(液面距離)が3.5mm以下であり、
前記心筋細胞が、前記培養液中で、0.625×10細胞/cm以上、1.25×10細胞/cm未満の細胞密度を有している場合、前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離(液面距離)が5.0mm以下である。
上述のとおり、別の実施形態によると、酸素運搬体を含む、心筋細胞の拍動停止抑制剤が提供される。また、別の実施形態によると、酸素運搬体を含む、心筋細胞の薬剤応答性増強剤が提供される。
上述のとおり、別の実施形態によると、心筋細胞の培養液と酸素運搬体とを含む、薬剤応答性試験用キットが提供される。好ましい実施形態によると、上記実施形態に係るキットにおいて、前記キットは、前記心筋細胞の培養液と前記酸素運搬体とを、別々のパッケージで含む。
上述のとおり、別の実施形態によると、心筋細胞の培養液と酸素運搬体とを含む、薬剤応答性試験用培養液が提供される。好ましい実施形態によると、上記実施形態に係る薬剤応答性試験用培養液において、前記酸素運搬体は、前記心筋細胞の培養液中に溶解している。
上述のとおり、別の実施形態によると、酸素運搬体の心筋細胞の拍動停止抑制のための使用が提供される。また、別の実施形態によると、酸素運搬体の心筋細胞の薬剤応答性増強のための使用が提供される。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記酸素運搬体は、赤血球、酸素運搬タンパク質、または人工の酸素運搬体であり、好ましくは酸素運搬タンパク質であり、より好ましくはヘモグロビンである。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記酸素運搬体は、前記培養液に対して、0.1~10質量%、好ましくは0.5~5.0質量%、より好ましくは2.0~5.0質量%で、前記培養液中に含まれる。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記培養液は、心筋細胞の培養液であり、例えば、心筋細胞の培養用の培養液または心筋細胞の電位測定用の培養液である。
実施例1(従来例)
[1-1]iPS細胞由来の心筋細胞シートの作製
心筋細胞は、ヒトiPS細胞株(253G1、理研バイオリソースセンター)、または、カルシウムと結合して蛍光を発するGCaMP遺伝子を導入したヒトiPS細胞株(253G1)を、プロテインフリー心筋分化誘導(PFCD)法により心筋細胞に分化誘導することにより作製した(WO2015/182765を参照)。得られた心筋細胞は、心筋分化培地(IMDM 245ml、DMDM 245ml、MEM non-essential amino acid solution(×100) 5ml、0.2M L-グルタミン 5ml、1M L-カルニチン 100μl、アスコルビン酸 50mg、0.5Mクレアチン 1ml含有)で維持した。
心筋細胞を、薬剤応答性試験の一週間程前に、96ウェルプレートに播種した。トリプシン溶液(0.25% Trypsin-EDTA(Thermo Fisher Scientific))を添加し、5~8分間インキュベーター内で処理した後、単一の細胞に分離した。10μg/mL濃度のラミニンiMatrixで96ウェルプレートをコーティングし、1ウェル当たり細胞数4~8×104となるよう播種した。その後、7日間、培養液中で培養し、拍動する心筋細胞シートを作製した。得られた心筋細胞シートを薬剤応答性試験で使用した。なお、心筋細胞は、心筋細胞シートを製造するための培養中に増殖しないため、播種時の細胞密度は、明らかな細胞死が見られない場合、心筋細胞シートにおいても基本的に維持されている。
[1-2]薬剤応答性試験の方法
薬剤応答性試験は、蛍光顕微鏡を用いたカルシウムイメージングによって行った。具体的には、薬剤応答性試験は、蛍光顕微鏡Olympus IX83で、心筋細胞の拍動カルシウム蛍光動画を取得することにより行った。
薬剤応答性試験では、以下の組成を有する培養液をpH7.4に調整して、心筋細胞の培養液として使用した:
0.182g/LのCaCl2
0.09767g/LのMgSO4
0.4g/LのKCl、
3.362g/LのNaHCO3
5.4525g/LのNaCl、
0.109g/LのNa2HPO4
5.958g/LのHEPES、および
10質量%のFBS(Fetal bovine serum, Invitrogen)
本実施例では、薬剤応答性試験の間、培養液の液面から心筋細胞が接している培養容器底面までの距離は8.33mmであった。
顕微鏡上で細胞培養液に薬剤を添加し、10分後に、カルシウムセンサータンパク質GCaMPまたはカルシウム指示薬Cal-520を用いてカルシウムシグナルを測定した。本明細書では、測定された細胞内カルシウムイオン(Ca2+)濃度の波形を「Ca2+波形」と呼ぶ。データ解析にはImageJベースの画像解析ソフトウェアを使用した。
薬剤としては、イソプロテレノール、ミルリノン、ベラパミル、E-4031、またはテルフェナジンを使用した。なお、実施例全体にわたって、薬剤の濃度は、培養液中の最終濃度を示す。
[1-3]結果
イソプロテレノールを添加した場合、一定濃度未満(100nM以上、200nM未満)では、予想された薬剤応答(頻脈応答)が検出されたが、一定濃度以上(200~1000nM)においては拍動が停止してしまい、薬剤応答波形が評価できない現象が時折認められた。
ミルリノンを添加した場合、一定濃度未満(100nM以上、300nM未満)では、予想された薬剤応答(頻脈応答)が検出されたが、一定濃度以上(300~500μM)においては拍動が停止してしまい、薬剤応答波形が評価できなかったか、または、予想される薬剤応答(頻脈応答)が検出されなかった。
ベラパミルを添加した場合、一定濃度未満(100nM以上、200nM未満)では、予想された薬剤応答(Ca2+波形の振幅低下および徐脈応答)が検出されたが、一定濃度以上(200~500nM)において拍動停止が起こり、薬剤応答波形が評価できなかった。
E-4031を添加した場合、一定濃度未満(100nM以上、300nM未満)では、予想された薬剤応答(Ca2+波形の持続時間の延長応答)が検出されたが、一定濃度以上(300~1000nM)において拍動が停止した。
テルフェナジンを添加した場合、一定濃度未満(100nM以上、300nM未満)では、予想された薬剤応答(Ca2+波形の持続時間の延長応答)が検出されたが、一定濃度以上(300~1000nM)において拍動が停止したか、または、テルフェナジンの副作用として予想されているEAD応答が見られなかった。
このように、心筋細胞の薬剤応答性試験では、添加される薬剤が一定の濃度を超えると、予想される薬剤応答を評価することができなかった。
実施例2
実施例2では、ヘモグロビンを含む培養液を用いて薬剤応答性試験を行った。
[2-1]培養液の調製
ヘモグロビンを含む培養液は、以下のとおり調製した:
以下の組成を有する培養液に、0.5質量%または1.0質量%のウシヘモグロビン(Nacalai tesque 17553-92)を添加してヘモグロビンを懸濁させ、5N NaOHまたは1N HClでpH7.4に調整した。
0.182g/LのCaCl2
0.09767g/LのMgSO4
0.4g/LのKCl、
3.362g/LのNaHCO3
5.4525g/LのNaCl、
0.109g/LのNa2HPO4
5.958g/LのHEPES、および
10質量%のFBS(Fetal bovine serum, Invitrogen)
ヘモグロビンを含まない培養液は、ヘモグロビンを添加しなかったこと以外は、ヘモグロビンを含む培養液と同様に調製した。
[2-2]薬剤応答性試験
実施例1と同様の手法に従って、以下のサンプルについて薬剤応答性試験を行った。実施例1と同様、心筋細胞を、96ウェルプレートの1ウェル当たり細胞数4×104~8×104(すなわち、1.25×105細胞/cm2~2.5×105細胞/cm2)となるよう播種し、培養して、拍動する心筋細胞シートを作製した。得られた心筋細胞シートを薬剤応答性試験で使用した。
Figure 0007341478000001
本実施例では、薬剤応答性試験の間、培養液の液面から心筋細胞が接している培養容器底面までの距離は6.67mmであった。
拍動停止率は、以下のとおり求めた。
拍動停止率(%)={(薬剤添加後10分以内に拍動停止した心筋細胞シートの数)/(薬剤応答性試験を行った心筋細胞シートの数)}×100
[2-3]結果
心筋細胞シートを、ヘモグロビンを含まない培養液中に置き、100nMイソプロテレノールを添加した場合、予想された薬剤応答(頻脈応答)が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル2A)。一方、心筋細胞シートを、ヘモグロビンを含まない培養液中に置き、1000nMイソプロテレノールを添加した場合、高頻度で拍動が停止した(サンプル2B)。
心筋細胞シートを、ヘモグロビンを0.5質量%の濃度で含む培養液中に置き、100nMイソプロテレノールを添加した場合、予想された薬剤応答が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル2C)。また、心筋細胞シートを、ヘモグロビンを0.5質量%の濃度で含む培養液中に置き、1000nMイソプロテレノールを添加した場合でも、予想された薬剤応答が検出され、拍動停止は全く起こらなかった(サンプル2D)。サンプル2Dの結果を、図2Aおよび図2Bに示す。図2Aは、薬剤添加前の波形を示し、図2Bは、薬剤添加後の波形を示す。
心筋細胞シートを、ヘモグロビンを1.0質量%の濃度で含む培養液中に置き、100nMイソプロテレノールを添加した場合、予想された薬剤応答が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル2E)。また、心筋細胞シートを、ヘモグロビンを1.0質量%の濃度で含む培養液中に置き、1000nMイソプロテレノールを添加した場合でも、予想された薬剤応答が検出され、拍動停止は全く起こらなかった(サンプル2F)。
サンプル2A~2Fの結果をまとめて図3に示す。図3は、横軸にヘモグロビン濃度を示し、縦軸に拍動停止率を示す。図3は、ヘモグロビンを培養液に添加することにより、薬剤応答性試験中に心筋細胞の拍動が停止してしまうという不具合の発生を抑制することができることを示す。また、図3は、ヘモグロビンを培養液に添加することにより、薬剤応答性試験で適用可能な薬剤濃度の範囲を広げることができることを示す。
実施例3
実施例3では、培養液の液面(すなわち、酸素濃度約20体積%の雰囲気と接している培養液の液面)から心筋細胞が接している培養容器底面までの距離(図1参照)を変化させて薬剤応答性試験を行った。この距離は、培養液量を変えることにより変化させた。以下、この距離を「液面距離」ともいう。
[3-1]薬剤応答性試験
実施例1と同様の手法に従って、以下のサンプルについて薬剤応答性試験を行った。実施例1と同様、心筋細胞を、96ウェルプレートの1ウェル当たり細胞数4×104~8×104(すなわち、1.25×105細胞/cm2~2.5×105細胞/cm2)となるよう播種し、培養して、拍動する心筋細胞シートを作製した。得られた心筋細胞シートを薬剤応答性試験で使用した。
Figure 0007341478000002
[3-2]結果
心筋細胞シートを、液面距離8.33mmの培養液中に置き、100nMイソプロテレノールを添加した場合、予想された薬剤応答(頻脈応答)が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル3A)。一方、心筋細胞シートを、液面距離8.33mmの培養液中に置き、1000nMイソプロテレノールを添加した場合、高頻度で拍動が停止した(サンプル3B)。
心筋細胞シートを、液面距離6.67mmの培養液中に置き、100nMイソプロテレノールを添加した場合、予想された薬剤応答が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル3C)。一方、心筋細胞シートを、液面距離6.67mmの培養液中に置き、1000nMイソプロテレノールを添加した場合、高頻度で拍動が停止した(サンプル3D)。サンプル3Dの結果を図4Aおよび4Bに示す。図4Aは、薬剤添加前の波形を示し、図4Bは、薬剤添加後の波形を示す。
心筋細胞シートを、液面距離5.00mmの培養液中に置き、100nMイソプロテレノールを添加した場合、予想された薬剤応答が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル3E)。一方、心筋細胞シートを、液面距離5.00mmの培養液中に置き、1000nMイソプロテレノールを添加した場合、拍動停止の発生頻度は約50%に抑えられ、液面距離が6.67mmの場合に比べて大幅に改善した(サンプル3F)。
心筋細胞シートを、液面距離3.33mmの培養液中に置き、100nMイソプロテレノールを添加した場合、予想された薬剤応答が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル3G)。また、心筋細胞シートを、液面距離3.33mmの培養液中に置き、1000nMイソプロテレノールを添加した場合でも、予想された薬剤応答が検出され、拍動停止はほとんど起こらなかった(サンプル3H)。
心筋細胞シートを、液面距離1.67mmの培養液中に置き、100nMイソプロテレノールを添加した場合、予想された薬剤応答が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル3I)。また、心筋細胞シートを、液面距離1.67mmの培養液中に置き、1000nMイソプロテレノールを添加した場合でも、予想された薬剤応答が検出され、拍動停止は全く起こらなかった(サンプル3J)。サンプル3Jの結果を図4Cおよび4Dに示す。図4Cは、薬剤添加前の波形を示し、図4Dは、薬剤添加後の波形を示す。
サンプル3A~3Jの結果をまとめて図5に示す。図5は、横軸に液面距離を示し、縦軸に拍動停止率を示す。図5は、液面距離を約5.0mm以下にすることにより、好ましくは液面距離を約3.5mm以下にすることにより、薬剤応答性試験中に心筋細胞の拍動が停止してしまうという不具合の発生を抑制することができることを示す。また、図5は、液面距離を約5.0mm以下にすることにより、好ましくは液面距離を約3.5mm以下にすることにより、薬剤応答性試験で適用可能な薬剤濃度の範囲を広げることができることを示す。
実施例4
実施例4では、酸素透過性を有する底面を備えた培養容器(以下、酸素透過容器ともいう)を用いて薬剤応答性試験を行った。具体的には、酸素透過容器として、VECELL 96ウェルプレート(ベセル社)を使用した。この容器は、底面にガス透過性膜を有する。コントロール容器として、CELLBIND 96ウェルプレート(コーニング社)を使用した。この容器は、ポリスチレン素材で作られた容器である。
[4-1]薬剤応答性試験
実施例1と同様の手法に従って、以下のサンプルについて薬剤応答性試験を行った。実施例1と同様、心筋細胞を、96ウェルプレートの1ウェル当たり細胞数4×104~8×104(すなわち、1.25×105細胞/cm2~2.5×105細胞/cm2)となるよう播種し、培養して、拍動する心筋細胞シートを作製した。得られた心筋細胞シートを薬剤応答性試験で使用した。
Figure 0007341478000003
本実施例では、薬剤応答性試験の間、培養液の液面から心筋細胞が接している培養容器底面までの距離は6.67mmであった。
[4-2]結果
心筋細胞シートを、コントロール容器に収容される培養液中に置き、100nMイソプロテレノールを添加した場合、予想された薬剤応答(頻脈応答)が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル4A)。一方、心筋細胞シートを、コントロール容器に収容される培養液中に置き、1000nMイソプロテレノールを添加した場合、高頻度で拍動が停止した(サンプル4B)。サンプル4Bの結果を図6Aに示す。図6Aは、薬剤添加後の波形を示す。
心筋細胞シートを、酸素透過容器に収容される培養液中に置き、100nMイソプロテレノールを添加した場合、予想された薬剤応答が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル4C)。また、心筋細胞シートを、酸素透過容器に収容される培養液中に置き、1000nMイソプロテレノールを添加した場合でも、拍動停止は低い頻度でしか起こらなかった(サンプル4D)。サンプル4Dの結果を図6Bおよび図6Cに示す。図6Bは、薬剤添加前の波形を示し、図6Cは、薬剤添加後の波形を示す。
サンプル4A~4Dの結果をまとめて図7に示す。図7は、横軸に培養容器の種類を示し、縦軸に拍動停止率を示す。図7は、酸素透過容器を使用することにより、薬剤応答性試験中に心筋細胞の拍動が停止してしまうという不具合の発生を抑制することができることを示す。また、図7は、酸素透過容器を使用することにより、薬剤応答性試験で適用可能な薬剤濃度の範囲を広げることができることを示す。
実施例5
実施例5では、イソプロテレノール以外の薬剤、すなわちベラパミル、E-4031、テルフェナジンおよびミルリノンを用いて薬剤応答性試験を行った。
[5-1]薬剤応答性試験
実施例1と同様の手法に従って、以下のサンプルについて薬剤応答性試験を行った。実施例1と同様、心筋細胞を、96ウェルプレートの1ウェル当たり細胞数4×104~8×104(すなわち、1.25×105細胞/cm2~2.5×105細胞/cm2)となるよう播種し、培養して、拍動する心筋細胞シートを作製した。得られた心筋細胞シートを薬剤応答性試験で使用した。
Figure 0007341478000004
[5-2]ベラパミルの結果
ヘモグロビンを含まず、6.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.1μMベラパミルを添加した場合、予想された薬剤応答(Ca2+波形の振幅低下、徐脈応答)が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5A)。また、0.5質量%のヘモグロビンを含み、1.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.1μMベラパミルを添加した場合、予想された薬剤応答が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5B)。
ヘモグロビンを含まず、6.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.3μMベラパミルを添加した場合、高頻度で拍動が停止した(サンプル5C)。サンプル5Cの結果を図8Aに示す。図8Aは、薬剤添加後の波形を示す。一方、0.5質量%のヘモグロビンを含み、1.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.3μMベラパミルを添加した場合、予想された薬剤応答が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5D)。サンプル5Dの結果を図8Bおよび図8Cに示す。図8Bは、薬剤添加前の波形を示し、図8Cは、薬剤添加後の波形を示す。
サンプル5A~5Dの結果をまとめて図9に示す。図9は、横軸に薬剤応答性試験の条件(すなわち、液面距離およびヘモグロビン濃度)を示し、縦軸に拍動停止率を示す。図9は、ヘモグロビンを培養液に添加し、かつ液面距離を短くすると、ベラパミルの場合も同様に、薬剤応答性試験中に心筋細胞の拍動が停止してしまうという不具合の発生を抑制することができることを示す。また、図9は、ヘモグロビンを培養液に添加し、かつ液面距離を短くすると、ベラパミルの場合も同様に、薬剤応答性試験で適用可能な薬剤濃度の範囲を広げることができることを示す。
[5-3]E-4031の結果
ヘモグロビンを含まず、6.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.1μM E-4031を添加した場合、予想された薬剤応答(Ca2+波形の持続時間の延長応答やEAD不整脈)が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5E)。また、0.5質量%のヘモグロビンを含み、1.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.1μM E-4031を添加した場合、予想された薬剤応答が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5F)。
ヘモグロビンを含まず、6.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.3μM E-4031を添加した場合、高頻度で拍動が停止した(サンプル5G)。サンプル5Gの結果を図10Aに示す。図10Aは、薬剤添加後の波形を示す。一方、0.5質量%のヘモグロビンを含み、1.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.3μM E-4031を添加した場合、予想された薬剤応答(EAD不整脈)が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5H)。サンプル5Hの結果を図10Bおよび図10Cに示す。図10Bは、薬剤添加前の波形を示し、図10Cは、薬剤添加後の波形(EAD不整脈応答)を示す。
サンプル5E~5Hの結果をまとめて図11に示す。図11は、横軸に薬剤応答性試験の条件(すなわち、液面距離およびヘモグロビン濃度)を示し、縦軸に拍動停止率を示す。図11は、ヘモグロビンを培養液に添加し、かつ液面距離を短くすると、E-4031の場合も同様に、薬剤応答性試験中に心筋細胞の拍動が停止してしまうという不具合の発生を抑制することができることを示す。また、図11は、ヘモグロビンを培養液に添加し、かつ液面距離を短くすると、E-4031の場合も同様に、薬剤応答性試験で適用可能な薬剤濃度の範囲を広げることができることを示す。
[5-4]テルフェナジンの結果
ヘモグロビンを含まず、6.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.1μMテルフェナジンを添加した場合、予想された薬剤応答(QT延長)が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5I)。また、0.5質量%のヘモグロビンを含み、1.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.1μMテルフェナジンを添加した場合、予想された薬剤応答が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5J)。
ヘモグロビンを含まず、6.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.7μMテルフェナジンを添加した場合、高頻度で拍動が停止した(サンプル5K)。サンプル5Kの結果を図12Aに示す。図12Aは、薬剤添加後の波形を示す。一方、0.5質量%のヘモグロビンを含み、1.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.7μMテルフェナジンを添加した場合、予想された薬剤応答(Ca2+波形の持続時間の延長)が検出され、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5L)。サンプル5Lの結果を図12Bおよび図12Cに示す。図12Bは、薬剤添加前の波形を示し、図12Cは、薬剤添加後の波形を示す。
サンプル5I~5Lの結果をまとめて図13に示す。図13は、横軸に薬剤応答性試験の条件(すなわち、液面距離およびヘモグロビン濃度)を示し、縦軸に拍動停止率を示す。図13は、ヘモグロビンを培養液に添加し、かつ液面距離を短くすると、テルフェナジンの場合も同様に、薬剤応答性試験中に心筋細胞の拍動が停止してしまうという不具合の発生を抑制することができることを示す。また、図13は、ヘモグロビンを培養液に添加し、かつ液面距離を短くすると、テルフェナジンの場合も同様に、薬剤応答性試験で適用可能な薬剤濃度の範囲を広げることができることを示す。
[5-5]ミルリノンの結果
「心拍数変化率」を以下のように求めた。 心拍数変化率(%)=(薬剤添加後の心拍数/薬剤添加前の心拍数)×100。
心拍数は一分間あたりのCa2+波形の波の数で求めた。
変化がない場合、変化率は100%で表され、頻脈になると100%以上の値を取る。
ヘモグロビンを含まず、6.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、300μMミルリノンを添加した場合、予想された薬剤応答(頻脈応答)は検出されず(心拍数変化率79%)、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5M)。また、2.0質量%のヘモグロビンを含み、1.0mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、300μMミルリノンを添加した場合、予想された薬剤応答が検出され(心拍数変化率118%)、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5N)。
ヘモグロビンを含まず、6.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、500μMミルリノンを添加した場合、高頻度で拍動が停止した(サンプル5O)。サンプル5Oの結果を図14Aに示す。図14Aは、薬剤添加後の波形を示す。一方、2.0質量%のヘモグロビンを含み、1.0mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、500μMミルリノンを添加した場合、予想された薬剤応答(頻脈応答)が検出され(心拍数変化率154%)、拍動の停止は起こらなかった(サンプル5P)。サンプル5Pの結果を図14Bおよび図14Cに示す。図14Bは、薬剤添加前の波形を示し、図14Cは、薬剤添加後の波形を示す。
これらの結果から、ヘモグロビンを培養液中により高い濃度で添加し、かつ液面距離をより短くすると、ミルリノンの場合も同様に、薬剤応答性試験中に心筋細胞の拍動が停止してしまうという不具合の発生を抑制することができることを示す。また、これらの結果は、iPS細胞由来の心筋細胞では従来検出が難しかったミルリノンによる頻脈応答が検出できるようになることを示す。
実施例6
実施例6では、テルフェナジンを用いて薬剤応答性試験を行い、QT延長に相当するCa2+波形の持続時間の延長と、EAD不整脈について評価した。
[6-1]薬剤応答性試験
実施例1と同様の手法に従って、以下のサンプルについて薬剤応答性試験を行った。実施例1と同様、心筋細胞を、96ウェルプレートの1ウェル当たり細胞数4×104~8×104(すなわち、1.25×105細胞/cm2~2.5×105細胞/cm2)となるよう播種し、培養して、拍動する心筋細胞シートを作製した。得られた心筋細胞シートを薬剤応答性試験で使用した。
Figure 0007341478000005
薬剤添加前におけるCa2+波形の立ち上がりからの持続時間(TB)と、薬剤添加後におけるCa2+波形の立ち上がりからの持続時間(TA)とを測定し、これらの値から「Ca2+持続時間の変化率」を以下の式により求めた。
Ca2+持続時間の変化率(%)=(TA/TB)×100
変化がない場合、変化率は100%で表される。
また、「EAD発生率」については、カルシウム蛍光値が上昇しベースラインに戻るまでの波形を1つのCa2+波形とみなし、1つのCa2+波形内に2つ以上のピークが連続して発生している波形をEADとみなし、そのCa2+波形が1つ以上見られた場合を、「EADが発生した心筋シート」とみなした。
EAD発生率(%)=(EADが発生した心筋シートの数/EADが発生しなかった心筋シートの数)×100
[6-2]結果
0.5質量%のヘモグロビンを含み、1.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.3μMテルフェナジンを添加した場合、予想された薬剤応答が明瞭な波形の変化として検出された(サンプル6A)。また、0.5質量%のヘモグロビンを含み、1.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.5μMテルフェナジンを添加した場合、予想された薬剤応答が極めて明瞭な波形の変化として検出された(サンプル6B)。サンプル6Bの結果を図15Aおよび図15Bに示す。図15Aは、薬剤添加前の波形を示し、図15Bは、薬剤添加後の波形を示す。
0.5質量%のヘモグロビンを含み、1.67mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.7μM、0.9μM、1.5μMのテルフェナジンをそれぞれ添加した場合、予想されたCa2+波形の持続時間の延長応答が検出されたが、EADは検出されなかった(サンプル5L、6C、6D)。そこで、2.0質量%のヘモグロビンを含み、1.0mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.7μM、0.9μM、1.5μMのテルフェナジンをそれぞれ添加した場合、明瞭なEADが検出された(サンプル6E、サンプル6F、サンプル6G)。サンプル6Fの結果を図15C、サンプル6Gの結果を図15Dに示す。また、2.0質量%のヘモグロビンを含み、1.0mmの液面距離を有する培養液中に心筋細胞シートを置き、0.9μM、1.5μMのテルフェナジンをそれぞれ添加した場合に、波形の振幅とピーク間隔が変化する、トルサード・ド・ポワント(TdP)様の波形がいくつか検出された(サンプル6H、サンプル6I)。サンプル6Hの結果を図15E、サンプル6Iの結果を図15Fに示す。
サンプル6Aおよび6Bの「Ca2+持続時間の変化率」を図16に示す。サンプル6Aおよび6Bの「Ca2+持続時間の変化率」は、それぞれ、約135%および約170%であった。図16は、ヘモグロビンを培養液に添加し、かつ液面距離を短くすると、「Ca2+持続時間の変化率」を増大させることができることを示す。
サンプル6C~6Gを含むサンプルの「EAD発生率」を図17に示す。図17は、横軸に薬剤応答性試験の条件(すなわち、液面距離およびヘモグロビン濃度)を示し、縦軸にEAD発生率を示す。図17は、ヘモグロビンを培養液中に、より高い濃度で添加し、かつ液面距離を、より短くすると、「EAD発生率」を増大させることができることを示す。また、サンプル6E~6Iの結果は、iPS細胞由来の心筋細胞では従来検出が難しかったテルフェナジンによるEADやTdPが検出できるようになることを示す。
以上の実施例の結果から、本発明の方法は、種々の薬剤の添加によって起こる種々の薬剤応答を、心筋細胞の拍動を停止させることなく検出できることに加えて、薬剤添加によって起こる波形の変化(頻脈応答、QT延長応答、EAD応答、TdP応答など)を、より明瞭な波形の変化として検出することができることが示された。ここで述べた「種々の薬剤応答」としては、薬剤応答性QT延長応答、徐脈応答(陰性変事作用)、頻脈応答(陽性変事作用)、強心応答(陽性変力作用)、弱心応答(陰性変力作用)、早期後脱分極(EAD)応答、遅延後脱分極(DAD)応答、トルサード・ド・ポワント(TdP)応答、トリガードアクティビティ不整脈応答、リエントリー不整脈応答などが挙げられ、本発明により、これらの薬剤応答が検出されることが予想される。またここで言う「心筋細胞」とは、動物心臓から取り出した初代培養細胞、多能性幹細胞由来の心筋細胞(CDI社のiCell、タカラバイオ社のMiraCell、Axogenesis社のCor.4Uなど)などに相当し、本発明によりこれらの心筋細胞で上記の薬剤応答が検出されることが予想される。
実施例7
実施例7では、心筋細胞含有培養液の酸素分圧と薬剤応答との関係を調べた。
[7-1]酸素分圧の測定
表6に記載されるとおり液面距離および細胞密度を変化させることにより、酸素分圧が異なる心筋細胞含有培養液(サンプル7A~7F)を調製した。具体的には、細胞外フラックスアナライザー XFe96(Agilent Technologies)付属の専用96ウェルプレートに、心筋細胞を表6に記載の細胞密度で播種し、その後、培養液中で培養して心筋細胞シートを作製した。得られた心筋細胞シートを、表6に記載の液面距離を有する培養液中に置いて、心筋細胞含有培養液(サンプル7A~7F)を調製した。同一サンプルを重複して3ウェル調製した。調製された心筋細胞含有培養液において、心筋細胞シートは、プレート底面に接着した状態で存在している。
Figure 0007341478000006
それぞれの心筋細胞含有培養液を約0.5時間静置した後に、それぞれの心筋細胞含有培養液の酸素分圧を、細胞外フラックスアナライザーXFe96(Agilent Technologies)を用いて測定し、平均値(酸素分圧P1)を求めた。酸素分圧P1の値を表6に示す。その後、それぞれの心筋細胞含有培養液を、更に0.1時間静置した後に、細胞外フラックスアナライザーXFe96(Agilent Technologies)を用いて培養液の酸素分圧を測定し、平均値(酸素分圧P2)を求めた。
サンプル7A、7B、7Cおよび7Eにおいて、心筋細胞含有培養液は、125mmHg以上の酸素分圧を有していた。また、サンプル7A~7Fのすべてにおいて、酸素分圧P2の値は、酸素分圧P1の値とほとんど同じであった。したがって、サンプル7A、7B、7Cおよび7Eにおいては、心筋細胞含有培養液が、125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持されていることが確認された。また、酸素分圧は、薬剤応答性試験で使用される薬剤の添加によって実質的に変動しないことが確認された。
上記結果から、酸素分圧の値が安定して落ち着いている代表的な時点(すなわち、心筋細胞含有培養液の調製から約0.5時間後)において酸素分圧が125mmHg以上の所定の値を示すことが確認できた場合、心筋細胞が培養液中の酸素を消費したとしても大気中から培養液に酸素が補充される環境が整っているため、その他の時点においても培養液の酸素分圧が所定の値とほぼ同じ値に維持されていることが分かる。
[7-2]薬剤応答性試験
実施例1と同様の手法に従って、サンプル7A~7Fについて薬剤応答性試験を行った。まず、心筋細胞を表6に記載の細胞密度で96ウェルプレートに播種し、その後、培養液中で培養して心筋細胞シートを作製した。得られた心筋細胞シートを、表6に記載される液面距離を有する培養液中に置き、実施例1と同様の手法に従って薬剤応答性試験を行った。薬剤として、テルフェナジンを使用し、培養液に、1000nMの濃度となるように添加した。
[7-3]結果
酸素分圧P1の測定結果および薬剤応答性試験の結果を図18に示す。
サンプル7A、7B、7Cおよび7Eは、テルフェナジン添加によって起こる薬剤応答(すなわち、Ca2+波形の持続時間の延長応答やEAD不整脈)を明瞭な波形の変化として検出することができた。上述のとおり、これらのサンプルの心筋細胞含有培養液は、テルフェナジンを含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持されていた。これらのサンプルでは、高い酸素分圧を有する心筋細胞含有培養液を用いて薬剤応答性試験を行ったため、心筋細胞が、薬剤応答性試験の間に、培養液中の酸素を代謝や拍動のために消費したとしても、培養液に酸素が速やかに供給され、心筋細胞が、薬剤に対する応答効果を適切に発現できたと考えられる。
一方、サンプル7Dおよび7Fは、テルフェナジン添加によって起こる薬剤応答(すなわち、Ca2+波形の持続時間の延長応答やEAD不整脈)を検出することができなかった。サンプル7Dおよび7Fの心筋細胞含有培養液は、テルフェナジンを含まない状態で、それぞれ122mmHgおよび98mmHgの酸素分圧を有していた。これらのサンプルでは、低い酸素分圧を有する心筋細胞含有培養液を用いて薬剤応答性試験を行ったため、心筋細胞が、薬剤応答性試験の間に、培養液中の酸素を代謝や拍動のために消費すると、培養液に酸素が速やかに供給されず、心筋細胞が、薬剤添加に対する応答効果を適切に発現できなかったと考えられる。
したがって、これらの結果から、心筋細胞の薬剤応答性試験を、心筋細胞含有培養液が、薬剤を含まない状態で125mmHg以上の酸素分圧を有するように維持される条件下で行えば、薬剤応答性試験を安定に実施できることが分かる。
実施例8
実施例8では、培養液pHの変化に対する心筋細胞の応答性試験を実施し、この試験に液面距離が及ぼす影響を調べた。
[8-1]培養液pHに対する応答性試験
実施例1と同様の手法に従って、以下のサンプルについて、培養液pHに対する心筋細胞の応答性試験を行った。心筋細胞を96ウェルプレートに細胞密度1.6×10細胞/cmで播種し、培養して、拍動する心筋細胞シートを作製した。
得られた心筋細胞シートを用いて、以下の培養環境で試験を行った:
サンプル8A:培養液pH7.2、液面距離1.0mm
サンプル8B:培養液pH7.2、液面距離6.67mm
サンプル8C:培養液pH7.6、液面距離1.0mm
サンプル8D:培養液pH7.6、液面距離6.67mm
サンプル8E:培養液pH8.0、液面距離1.0mm
サンプル8F:培養液pH8.0、液面距離6.67mm
培養液pHは、NaOH溶液を添加することで調整した。
[8-2]結果
結果を図19に示す。図19において縦軸は、BPM(拍動数/分)を示す。液面距離が1.0mmの場合、pHが高くなるにつれて、BPMが上昇する傾向が見られた。すなわち、一般的な心筋細胞の性質として知られているように、高pHによる頻脈応答が見られた。一方で、液面距離が6.67mmの場合、高pHによる明確なBPMの上昇が見られず、pH8.0では拍動停止が見られた。
これらの結果から、薬剤に対する心筋細胞の応答(実施例3)と同様、培養液pHの変化に対する心筋細胞の応答も、液面距離を短くすることで検出しやすくなることが分かった。液面距離を短くすることにより、培養容器底面に接している心筋細胞と大気との距離が近くなり、心筋細胞への酸素供給速度が高まり、その結果、心筋細胞は、培養液pHの変化等の培養環境変化に対する応答効果を適切に発現できたと考えられる。

Claims (8)

  1. 心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
    前記心筋細胞を、750~50000ml・mm/m・day・atmの酸素透過係数を有する素材を底面に備えた酸素透過性を有する容器に収容される培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
    前記心筋細胞を、750~50000ml・mm/m・day・atmの酸素透過係数を有する素材を底面に備えた酸素透過性を有する容器に収容される培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
    を含む方法。
  2. 心筋細胞の薬剤応答性試験方法であって、
    前記心筋細胞を、750~50000ml・mm/m ・day・atmの酸素透過係数を有するガス透過性膜を底面に備えた酸素透過性を有する容器に収容される培養液中で、添加された薬剤に対する応答性について試験すること、または
    前記心筋細胞を、750~50000ml・mm/m ・day・atmの酸素透過係数を有するガス透過性膜を底面に備えた酸素透過性を有する容器に収容される培養液中に置いた直後に、添加された薬剤に対する応答性について試験すること
    を含む方法。
  3. 前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が、前記心筋細胞の細胞密度が2.5×10細胞/cm以上である場合は1.5mm以下で、前記心筋細胞の細胞密度が1.25×10細胞/cm以上、2.5×10細胞/cm未満である場合は3.5mm以下で、前記心筋細胞の細胞密度が0.625×10細胞/cm以上、1.25×10細胞/cm未満である場合は5.0mm以下で、添加された薬剤に対する応答性について試験する、請求項1に記載の方法。
  4. 前記培養液の液面から前記心筋細胞が接している培養容器底面までの距離が、前記心筋細胞の細胞密度が2.5×10細胞/cm以上である場合は1.5mm以下で、前記心筋細胞の細胞密度が1.25×10細胞/cm以上、2.5×10細胞/cm未満である場合は3.5mm以下で、前記心筋細胞の細胞密度が0.625×10細胞/cm以上、1.25×10細胞/cm未満である場合は5.0mm以下で、添加された薬剤に対する応答性について試験する、請求項2に記載の方法。
  5. 前記培養液が酸素運搬タンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
  6. 前記培養液が酸素運搬タンパク質を含む、請求項2に記載の方法。
  7. 前記酸素運搬タンパク質がヘモグロビンである、請求項に記載の方法。
  8. 前記酸素運搬タンパク質がヘモグロビンである、請求項に記載の方法。
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