JP7338281B2 - 樹脂製部品を含む製品及びそのリサイクル方法 - Google Patents

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Description

本発明は、樹脂製部品を含む製品及びそのリサイクル方法に関する。より詳しくは、リサイクル時に樹脂製部品の特性に影響せず、回収された樹脂の生産時から回収時までの劣化状態を簡易に判断する手段を備えた樹脂製部品を含む製品及びそのリサイクル方法に関する。
回収されてきた樹脂製部品は製品の使用状況によって劣化の状態が異なる。例えば、屋外で長期間使用されたものは紫外線による劣化が激しく、それに対し、室内で窓から遠く離れた場所で短期間使用されたものは劣化が小さい。それらは見た目では劣化の状態が判断することが難しいため、劣化の激しい樹脂製部品をリサイクルしてしまうと、再生後の樹脂や部品の強度などが低くなってしまう。それに対し、事前に劣化具合を樹脂製部品ごとに調べようとすると、樹脂の分子量の測定や強度の評価を行う必要があり、非常に多くの時間とコストがかかり、リサイクルシステムが成り立たない。
そこで、回収された樹脂の劣化状態を簡単に判断する手段が求められている。
特許文献1には、廃棄処理方法や処理方法を決定するためのデータをあらかじめ製品に表示しておくリサイクル処理方法が開示されており、その手段としては、染料や顔料により数字・文字・バーコード・色などにより情報を記録する方法である。蛍光剤を用いる表示方法についても記載されているが、蛍光剤種類や塗布方法について規定されておらず、生産時から回収時までの製品の劣化を把握し、それに応じた処理方法を選択するような劣化度評価方法及びリサイクルシステムではない。
特許文献2には、再資源化の際に樹脂に情報提示物質を混入(混練)させておき、次の再資源化の際にその情報提示物質の含有量を検出することによって、再生回数や再生部品の使用率などを検知し、改質などを含めた樹脂再資源化方法を選定するシステムが開示されている。情報提示物質として、蛍光物質を挙げており、検出方法として光量測定を挙げている。
しかしながら、上記特許文献で開示されている技術は、回収材にどのような材料(例えば、再生回数や再生部品の使用率など)が使われたものなのかを把握することを主目的とするものである。樹脂中に情報提示物質が検出された場合には、情報提示物質の含有量に応じて予め数段階に定められた改質処理のいずれかを選択し、選択された改質を当該樹脂に施すように改質手段を制御するシステムである。
したがって、上記特許文献は、生産時から回収時までの樹脂製部品の劣化を個別に把握し、それに応じた処理方法を選択するようなリサイクルシステムではない。特に前記情報提示物質としての蛍光剤は、製品使用時における蛍光剤の劣化(発光量の変化)を考慮していない。また、情報提示物質は再資源化工程の混練時に添加するものであり、回収後に検出できるように混入量が多量であると予想されるため、例えば、蛍光剤などのような情報提示物質の混入による樹脂製部品の特性劣化を考慮していない。
したがって、リサイクル時に樹脂製部品の特性に影響せず、生産時から回収時までの樹脂の劣化状態を簡易に判断する手段を備えた樹脂製部品を含む製品及びそのリサイクルシステムの出現が待たれている。
特開平8-323337号公報 特開2007-112017号公報
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、リサイクル時に樹脂製部品の特性に影響せず、回収された樹脂の生産時から回収時までの劣化状態を簡易に判断する手段を備えた樹脂製部品を含む製品及びそのリサイクル方法を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、使用後は回収して再利用される樹脂製部品を含む製品であって、前記製品の外装面を構成する前記樹脂製部品に蛍光剤が塗布されており、特定の波長の光を照射すると前記蛍光剤が発光し、その発光量が紫外線曝露により経時で低下し、前記蛍光剤が、キセノンアーク光源を用いた10年間屋外での曝露に相当する光照射テスト後の蛍光発光量が、光照射前の蛍光発光量に比較して10~80%の範囲内であることによって、リサイクル時に樹脂製部品の特性に影響せず、回収された樹脂の生産時から回収時までの劣化状態を簡易に判断する手段を備えた樹脂製部品を含む製品及びそのリサイクル方法が得られることを見出した。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
1.使用後は回収して再利用される樹脂製部品を含む製品であって、
前記製品の外装面を構成する前記樹脂製部品に蛍光剤が塗布されており、
特定の波長の光を照射すると前記蛍光剤が発光し、その発光量が紫外線曝露により経時で低下し、
前記蛍光剤が、キセノンアーク光源を用いた10年間屋外での曝露に相当する光照射テスト後の蛍光発光量が、光照射前の蛍光発光量に比較して10~80%の範囲内である
ことを特徴とする樹脂製部品を含む製品。
.前記蛍光剤の塗布量が、1cmあたり0.0005g以上であることを特徴とする第1項に記載の樹脂製部品を含む製品。
.前記蛍光剤の塗布範囲が、0.5cm×0.5cm以上であることを特徴とする第1項又は2項に記載の樹脂製部品を含む製品。
.前記蛍光剤が、可視光下では透明であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の樹脂製部品を含む製品。
.前記蛍光剤が、紫外線を照射することで可視光を発光することを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の樹脂製部品を含む製品。
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の樹脂製部品を含む製品をリサイクルする樹脂製部品を含む製品のリサイクル方法であって、
前記樹脂製部品に塗布された蛍光剤に紫外線を照射して蛍光発光量を測定することにより、当該樹脂製部品の劣化度を評価する工程を有することを特徴とする樹脂製部品を含む製品のリサイクル方法
.前記劣化度の評価工程の次工程に、蛍光剤とその他の不純物を樹脂から除去する工程を有することを特徴とする第項に記載の樹脂製部品を含む製品のリサイクル方法。
.前記樹脂製部品に複数個所蛍光剤が塗布されており、それぞれの劣化度の評価結果が異なる場合に、劣化度の大きい評価結果をその部品の劣化度として判定する工程を有することを特徴とする第項に記載の樹脂製部品を含む製品のリサイクル方法。
本発明の上記手段により、リサイクル時に樹脂製部品の特性に影響せず、回収された樹脂の生産時から回収時までの劣化状態を簡易に判断する手段を備えた樹脂製部品を含む製品及びそのリサイクル方法を提供することができる。
本発明のリサイクル方法においては、使用済みの製品を市場から回収し分解して単体部品にした際、紫外線を照射して前記外装面にあらかじめ塗布された蛍光剤の発する光量(蛍光発光量ともいう。)を測定することで、前もって作成しておいた当該発光量と樹脂製部品の劣化度との相関データにより、前記樹脂製部品の劣化度を判断することができるものと考えられる。
すなわち、前述の特許文献1及び2で開示されている方法に比較して、本発明に係る蛍光剤は、生産時から回収時までの樹脂製部品の劣化度を把握するために用いることを主目的としており、生産時にあらかじめ分かっている情報を記入するものではない。
さらに、本発明のリサイクル方法は、蛍光剤を部品表面の一部に選択的に塗布するため、少ない蛍光剤で発光量を確保できること、また樹脂製部品に混入(混練)させるわけではないので、物性低下が起こさないこと、評価後に蛍光剤を除去するので、再生樹脂に異物がほとんど混入しないこと、及び、除去しきれなかった蛍光剤も混練時に金属安定化剤を添加するので、樹脂製部品の物性低下を抑制できること、などの利点を有する。
蛍光剤の塗布位置を示す模式図 本発明のリサイクル方法の工程フローを示す概要図 回収樹脂の蛍光剤に紫外線を照射して蛍光発光量を測定する測定装置の一例 樹脂の劣化度評価試験方法の原理を説明する模式図
本発明の樹脂製部品を含む製品は、使用後は回収して再利用される樹脂製部品を含む製品であって、前記製品の外装面を構成する前記樹脂製部品に蛍光剤が塗布されており、特定の波長の光を照射すると前記蛍光剤が発光し、その発光量が紫外線曝露により経時で低下することを特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記製品の使用時に環境光が照射される前記製品の上部面、角部面及び側面の範囲内の外装面を構成する前記樹脂製部品のいずれかに、前記蛍光剤が塗布されていることが、劣化度の評価精度を向上する観点から、好ましい。
また、前記製品の使用時に環境光が照射される前記製品の上部面、角部面及び側面の範囲内の外装面を構成する前記樹脂製部品のすべてに、前記蛍光剤が塗布されていること
が、評価の精度を向上する観点から、好ましい。
前記製品の使用時に環境光が照射される前記製品の上部面、角部面及び側面の範囲内の外装面を構成する前記樹脂製部品のすべての複数個所に、前記蛍光剤が塗布されていることが、劣化度の評価精度を向上する観点から、好ましい。
前記蛍光剤が、キセノンアーク光源を用いた10年間屋外での曝露に相当する光照射テスト後の蛍光発光量が、光照射前の蛍光発光量に比較して10~80%の範囲内であることが、劣化度の評価精度を向上する観点から、好ましい。
前記蛍光剤の塗布量が、1cmあたり0.0005g以上であること、及び前記蛍光剤の塗布範囲が、0.5cm×0.5cm以上であることが、劣化度の評価精度を向上する観点から、好ましい。
前記蛍光剤が、可視光下では透明であることが、使用時に製品の外観に影響を与えない観点から、好ましい。
前記蛍光剤が、紫外線を照射することで可視光を発光することが、評価機器の選択を広げる観点から、好ましい。
本発明の樹脂製部品を含む製品のリサイクル方法は、樹脂製部品に塗布された蛍光剤に紫外線を照射して蛍光光量を測定することにより、樹脂製部品の劣化度を評価する工程を有することを特徴とする。
また、前記劣化度の評価工程の次工程に、蛍光剤とその他の不純物を樹脂から除去する工程を有することが、高品質な再生樹脂を得る観点から、好ましい。
更に、前記樹脂製部品に複数個所蛍光剤が塗布されており、それぞれの劣化度の評価結果が異なる場合に、劣化度の大きい評価結果をその部品の劣化度として判定する工程を有することが、評価結果を再生樹脂作製に正確に反映し、高品質な再生樹脂を得る観点から、好ましい。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
≪本発明の樹脂製部品を含む製品の概要≫
本発明の樹脂製部品を含む製品は、使用後は回収して再利用される樹脂製部品を含む製品であって、前記製品の外装面を構成する前記樹脂製部品に蛍光剤が塗布されており、前記蛍光剤が、特定の波長の光を照射すると発光し、その発光量が紫外線曝露により経時で低下し、前記蛍光剤が、キセノンアーク光源を用いた10年間屋外での曝露に相当する光照射テスト後の蛍光発光量が、光照射前の蛍光発光量に比較して10~80%の範囲内であることを特徴とする。
本発明のリサイクル方法においては、前記特徴を活かし、使用済みの製品を市場から回収し分解して単体部品にした際、紫外線を照射して前記外装面にあらかじめ塗布された蛍光剤の発する光量を測定することで、前もって作成しておいた当該発光量と樹脂製部品の劣化度との相関データより、前記樹脂製部品の劣化度を判断する「樹脂製部品の劣化度評価試験方法」を用いることが好ましい。
以下、「樹脂製部品の劣化度評価試験方法」について説明する。但し、本発明は以下の方法に限定されるものではない。
≪樹脂製部品の劣化度評価試験方法の概要≫
本発明に用いられる「樹脂製部品(以下、簡単に「樹脂」ともいう。)の劣化度評価試験方法」は、蛍光剤を用いる樹脂の劣化度評価試験方法であって、少なくとも下記ステップ(1)、(2)及び(3)を含むことが好ましい。
(1)前記製品の外装面を構成する前記樹脂製部品に、蛍光剤を塗布するステップ。
(2)前記蛍光剤を外装面に塗布された樹脂を用いて、当該樹脂の前記蛍光剤に紫外線を照射して蛍光発光量を測定するステップ。
(3)前記蛍光発光量から、前記樹脂の劣化度を評価するステップ。
かかる構成によって、樹脂ごとに分子量の測定や強度の評価を行う必要がなく、時間とコストを節約でき、蛍光発光量の測定により、樹脂の劣化度をより精度良く定量的に評価できるものである。
ここで、「樹脂の劣化」とは、機械特性、熱特性、電気特性、難燃性、溶融時の流動性、臭い、色、及び分子量などの樹脂としての特性や特徴が出荷前の樹脂の状態から変化することをいう。
〔1〕樹脂の劣化度評価試験方法及びそれを用いた製品のリサイクルシステム
以下、図2で示す製品のリサイクルシステムの工程フロー図に沿って、本発明の樹脂の劣化度評価試験方法の詳細を説明する。また、下記説明におけるリペレット工程とは、図1の「回収」から「リペレット化」する工程までをいう。
[ステップ(1)及び(2)]:蛍光剤塗布工程及び蛍光発光量測定工程
ステップ(1)は、樹脂を用いる製品の生産工程において、前記製品の外装面を構成する前記樹脂製部品に、蛍光剤を塗布するステップである。
本発明においては、蛍光剤が塗布された樹脂製部品を、後述する紫外線を照射して蛍光発光量を測定するステップの対象とするが、その表面に蛍光剤が塗布されたシートを貼付した樹脂製部品も含む。以下、本発明の好ましい実施態様である前記蛍光剤を樹脂製部品に塗布する工程を主に説明する。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記製品の使用時に環境光が照射される前記製品の上部面、角部面及び側面の範囲内の外装面を構成する前記樹脂製部品のいずれかに、前記蛍光剤が塗布されていることが、劣化度の評価精度を向上する観点から、好ましい。
さらに、前記製品の使用時に環境光が照射される前記製品の上部面、角部面及び側面の範囲内の外装面を構成する前記樹脂製部品のすべてに、前記蛍光剤が塗布されていること
が、評価の精度を向上する観点から、好ましい。
また、前記製品の使用時に環境光が照射される前記製品の上部面、角部面及び側面の範囲内の外装面を構成する前記樹脂製部品のすべての複数個所に、前記蛍光剤が塗布されていることが、劣化度の評価精度を向上する観点から、好ましい。
図1は、蛍光剤の塗布位置を示す模式図であり、樹脂製部品を含む製品を横から見たときの断面図である。
樹脂製部品1の製品使用時に環境光2が照射される部品外側を「外装面」とし、部品内側を「非外装面」としたときに、本発明でいう「製品の使用時に環境光が照射される前記製品の上部面、角部面及び側面の範囲内の外装面」とは、図1内の「外装面」において、「OK」と記載されている、「上部面」、「角部面」及び「側面」をいう。図1内で「NG」と記載されている部分は、「非外装面」で環境光2が直接は照射されないか、又は「外装面」ではあるが、照射されても光量が弱い部分であり、本発明に係る蛍光剤を塗布するには好ましくない箇所である。
ステップ(2)は、蛍光剤を表面に塗布された樹脂製部品を用いて、前記樹脂製部品の前記蛍光剤に、紫外線を照射して蛍光発光量を測定するステップである。
<蛍光剤>
本発明に係る蛍光剤は、紫外線などのエネルギーが付与されて励起し、励起エネルギーを光として放出する物質であり、有機蛍光剤や無機蛍光剤に分けられる。有機蛍光剤の場合は、製品の外観維持のために可視光域で透明のものが好ましい。無機蛍光剤の場合は、一般的に有機蛍光剤よりも耐久性が高い。また、蛍光剤には蛍光を発生する発光中心があり、ユーロピウム(Eu)やセリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、イッテルビウム(Yb)などの希土類金属化合物が挙げられる。
有機蛍光剤としては、例えば、スチルベン系蛍光剤、ジスチルベン系蛍光剤、ベンゾオキサゾール系蛍光剤、スチリル・オキサゾール系蛍光剤、ピレン・オキサゾール系蛍光剤、クマリン系蛍光剤、イミダゾール系蛍光剤、ベンゾイミダゾール系蛍光剤、ピラゾリン系蛍光剤、アミノクマリン系蛍光剤、ジスチリル-ビフェニル系蛍光剤、及びナフタルイミド系蛍光剤を挙げることができる。
無機蛍光剤としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、硫化カドミウム(CdS)、及びEr3+、Yb3+、Tm3+、Ho3+、Pr3+、Eu3+などの希土類元素を含む希土類含有YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)などの無機蛍光剤を挙げることができる。
これらの蛍光剤の中で、紫外線(光波長10~400nmの範囲)を照射することにより励起し、この励起エネルギーを可視光として放出し、キセノンアーク光源を用いた10年間屋外での曝露に相当する光照射テスト後の蛍光発光量が、光照射前の蛍光発光量に比較して10~80%の範囲内であるものを使用することが、評価精度を高める観点から好ましい。蛍光発光量が10~80%の範囲内であれば、蛍光剤の劣化速度が適当であり、樹脂の劣化度と蛍光剤の劣化度との相関がとりやすい。例えば、蛍光発光量が10年屋外暴露後で0%である蛍光剤であると、そもそも検量線の作成が困難である。また、80%を超える蛍光剤であると、劣化の速度が遅すぎて、樹脂の劣化度と蛍光剤の劣化度との相関の精度が不足する。
ここで、「10年屋外での暴露後に相当する蛍光発光量」の測定は、後述するキセノンアークランプを用いたキセノン光照射テストによる加速試験によって求められる値である。
中でも好ましい蛍光剤として用いられる前記希土類金属化合物としては、例えば、塩化ユーロピウム(EuCl)、酸化ユーロピウム(Eu)などを代表例として挙げることができ、さらに、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリウム(Ga)、テルビウム(Tb)、デイスポロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、イットリウム(Y)、及びスカンジウム(Sc)等の化合物(酸化物、硫化物、有機酸化物など)であり、1種又は2種以上の化合物を添加することが好ましい。特に、Eu、Sm、及びTbの金属化合物は蛍光発光量が強く、劣化度判定には好ましい。
前記希土類金属化合物の塗布方法は、特に問わないが、適宜有機溶媒に塗布に適した濃度で溶解又は分散し、塗布量が均一になるように、インクジェット印刷法、スプレーコート法、刷毛塗り法、又は蛍光剤をあらかじめ塗布したシールを貼付する方法などが採用されることが好ましい。
中でも、前記希土類金属化合物を有機溶媒に溶解又は分散してインクとして用いるインクジェット印刷法が簡易な装置で精度良く、部品に塗布できることから好ましい。
インクに適用可能な有機溶媒としては、例えば、一般のアルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、エチレングリコール、シクロペンタン、o-キシレン、トルエン、ヘキサン、テトラリン、メシチレン、ベンゼン、メチルシクロヘキサン、エチルベンゼン、1,3-ジエチルベンゼン、イソホロン、2-ヘキサノール、トリエチルアミン、シクロヘキサノン、ジイソプロピルアミン、イソプロピルアルコール、ピリジン、アセトフェノン、2-ブトキシエタノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、及びジオキサン等を例示することができる。
また、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、スルホン類(例えば、スルホラン等)、尿素、アセトニトリル、及びアセトン等が挙げられる。
インクジェット印刷法としては、例えば、特開2012-140017号公報、特開
2013-010227号公報、特開2014-058171号公報、特開2014-097644号公報、特開2015-142979号公報、特開2015-142980号公報、特開2016-002675号公報、特開2016-002682号公報、特開2016-107401号公報、特開2017-109476号公報、及び特開2017-177626号公報等に記載されている構成からなるインクジェット印刷法を適宜選択して適用することができる。
蛍光剤の塗布面積としては、樹脂基板上に塗布範囲は0.5cm×0.5cm以上であることが、劣化度の評価精度を向上する観点から、好ましい。これは、樹脂の物性を維持する観点から、蛍光剤除去後の蛍光剤残存量が部品の質量に対して0.05質量%以下が好ましく、例えば、部品質量10g、塗布量0.05g/cm、除去率95%と仮定すると、塗布面積はおおよそ3cm×3cm以下が好ましい。
塗布量は1cm当たり0.0005g以上であることが好ましく、上限は1cm当たり0.05g以下であることが好ましい。この範囲内であれば、可視光下で透明であり、かつ部品の表面性や光沢に影響が出ないため、好ましい。
塗布後の蛍光剤層の層厚は、製品の外観維持のために透明であることが好ましいため、1~50μmの範囲が好ましく、より好ましくは10~40μmの範囲、最も好ましくは20~30μmの範囲である。
この蛍光剤に紫外線などを照射して、蛍光剤からの発光強度を計測することにより、樹脂の劣化度が判定できる。
前記ステップ(1)では、樹脂を用いる製品の生産工程において、前記蛍光剤が塗布された樹脂部品は、製品組み立て後市場で使用され、適宜回収されて解体され、樹脂部品に戻る。
前記ステップ(2)では、紫外線を照射した際に蛍光剤を前記樹脂部品表面に有する樹脂に対して、前記樹脂の前記蛍光剤に、紫外線を照射して蛍光発光量を測定する。
本発明でいう「蛍光発光量の比率」とは、劣化前の蛍光剤に紫外線を当てたときの蛍光発光量を100%としたとき、劣化後の蛍光剤の蛍光発光量の割合をいう。
図3に、回収樹脂の蛍光剤に紫外線を照射して蛍光発光量を測定する測定装置(蛍光測定装置ともいう。)の一例を示す、
蛍光発光量測定装置10は、樹脂11上に塗布された蛍光剤12に主に紫外線を照射するUVランプである紫外線光源部13と、それによって蛍光発光する光量を測定するカメラ部14とからなる。
紫外線光源としては、例えば、VILBER社製 VL-6.LCを用いる。光源の照射面から対象部品の蛍光剤塗布面までの距離は5cm、45°の角度で照射する。
蛍光量の測定は、例えば、ニコン社製カメラD850で、レンズ部としてAF-S NIKKOR 35mm f/1.4Gを用い、レンズ前面から蛍光剤塗布面までの距離は10cm、角度は90°(真上)とする。カメラ側の撮影条件は固定とし、撮影した画像を画像処理ソフトウェアで処理し蛍光量を算出する。
[ステップ(3)]:樹脂劣化度評価工程
ステップ(3)は、前記蛍光発光量から、前記樹脂の劣化度を評価するステップである。以下、樹脂の劣化度評価の原理を説明する。
図4は、樹脂の劣化度評価試験方法の原理を説明する模式図である。
図4(a)は樹脂の特性の劣化度、及び図4(b)は蛍光剤自体の劣化度を示す模式図であり、横軸は劣化度でありその進行にともなって、縦軸である樹脂の特性(例えば、分子量や衝撃強度など)や蛍光剤の蛍光発光量が低下する。この特性を踏まえて、樹脂及び蛍光剤に対して劣化促進テストとして、キセノンアークランプを用いたキセノン光照射テスト(例えば、JIS K7350-2:2008 プラスチック実験室光源による曝露試験方法に準拠)を行い、樹脂の特性と蛍光剤の発光量の劣化の程度をそれぞれ測定する。
樹脂の特性として、分子量又は衝撃強度の変動をモニターする場合は、上記キセノン光照射テストの照射時間に対して、以下の方法で樹脂の重量平均分子量又は衝撃強度を測定することが好ましい。
〈分子量の測定〉
ゲルパーミエーション(GPC)による分子量測定は、以下のように行う。樹脂に溶媒液を添加した後、超音波を30分間かけ、溶けた部分をGPC装置の測定に用いた。数平均分子量(Mn)(ポリスチレン換算)は、GPC装置として、東ソー(株)製HLC-8120GPC、SC-8020装置を用い、カラムはTSKgei,SuperHM-H(6.0mmID×15cm×2)を用い、溶離液として和光純薬社製クロマトグラフ用THF(テトラヒドロフラン)を用いた。測定条件としては、流速0.6mL/min、サンプル注入量10μL、測定温度40℃、RI検出器を用いて測定を行った。また、検量線は東ソー社製「polystylene標準試料TSK standard」:A-500、F-1、F-10、F-80、F-380、A-2500、F-4、F-40、F-128、F-700の10サンプルから作製した。また試料解析におけるデータ収集間隔は300msとした。なお、樹脂の種類によって、必要に応じて適正な条件(使用する溶媒やカラムの種類、測定機を変更)にて測定する。
〈衝撃強度〉
衝撃試験機にて、JIS K7110(1999)の試験条件で、温度23℃、湿度50%RHに16時間試験片を放置した後測定する。例えば、衝撃試験機は神栄テストマシナリー製PST-300を用い、温度23℃、湿度55%RHの条件下で行う。
蛍光剤の発光量は、前記ステップ(2)記載の装置、方法にてキセノン光照射テストの照射時間に対して、測定する。
図4(c)左側図は、樹脂として、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)及びハイインパクト(耐衝撃性)ポリスチレン(HIPS)について、劣化度を模式的に図示した。
上記キセノン光照射テストの各照射時間に対する、樹脂の特性と蛍光剤の発光量との相関をとったものが、図4(c)右側図である。横軸が蛍光剤の発光量の測定データであり、縦軸が樹脂の特性の測定データである。この相関図によって、樹脂に塗布した蛍光剤の発光量を測定することで、樹脂の劣化度(劣化前からの変動)を精度良く推定することができる。
また、ステップ(3)では、前記樹脂製部品に複数個所蛍光剤が塗布されており、それぞれの劣化度の評価結果が異なる場合には、劣化度の大きい評価結果をその部品の劣化度として判定する工程(3*)を有することが、好ましい。当該工程(3*)を加えることで、次工程であるステップ(4)により、より良質な再生樹脂を得るための分別ができる。
[ステップ(4)]:樹脂分別工程
本ステップは、前記ステップ(3)で評価した劣化度によって、樹脂を分別する工程である。例えば、樹脂の劣化度を数段階に区分けし、その範囲に入る樹脂部品を分別する。例えば、劣化度0%以上5%未満の範囲、劣化度5%以上10%未満の範囲、劣化度10%以上15%未満の範囲、及び劣化度15%以上の範囲などを設定し、樹脂を分別する。作業工程を考慮すると、3~4段階程度に分別することが好ましい。
[ステップ(5)]:不要樹脂除去工程
本ステップは、前記ステップ(3)で評価した劣化度によって、不要樹脂を除去(廃棄)する工程である。
例えば、劣化度15%以上の樹脂をリサイクルシステムから除外するような措置をとることにより、劣化の激しい樹脂製部品をリサイクルしてしまい、再生後の樹脂や部品の強度などが低くなることを抑えることができる。
[ステップ(6)]:蛍光剤及び不純物除去工程
本発明のリサイクルシステムでは、蛍光剤及びその他不純物を除去する工程を加えることが好ましい。
評価後に蛍光剤や蛍光剤が塗布されたシール及びその他不純物を除去するので、再生樹脂に異物がほとんど混入しないことや、除去しきれなかった蛍光剤も、混練時に金属安定化剤を添加するので、再生樹脂の劣化を抑制できる。
不純物とは、「成形」から前記ステップ(4)までの分別した樹脂に付着した汚れのことであり、具体的には、ホコリ、花粉や黄砂、タバコの煙に含まれる物質、窒素酸化物や硫黄酸化物、皮脂などが挙げられる。
蛍光剤及びその他不純物の除去は、具体的には水洗で行うことが好ましい方法であり、水に加えて、メタノール、エタノールのようなアルコール系溶媒を単独で又は混合して用いることもでき、無機不純物や低分子の有機不純物を除去することができる。洗浄力を高めるために界面活性剤を用いることも好ましい。
また、樹脂製部品から蛍光剤を研磨して除去することも好ましい。例えば、ドリルの先に真鍮製ブラシ等の研磨治具を装着し回転させて、蛍光剤塗布面も当てて蛍光剤を除去することもできる。
[ステップ(7)]: 配合比決定工程
上記ステップ(6)によって、洗浄された樹脂は、分別された状態で粉砕され、それぞれの粉砕物に対して目的に応じて配合比を決定し、リペレット化のために混合する。
[ステップ(8)]:リペレット化工程
ステップ(7)によって配合比を決定した前記混合物を用いてリペレット化する。
リペレット化は、ホスト材である樹脂と必要に応じて他の樹脂成分とを溶融混練装置で剪断力を与えて樹脂ペレットを製造する方法が好ましく用いられる。
具体的な混練機としては、KRCニーダー(栗本鉄工所社製);ポリラボシステム(HAAKE社製);ラボプラストミル(東洋精機製作所社製);ナウターミキサーブス・コ・ニーダー(Buss社製);TEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);三本ロールミル、ミキシングロールミル、ニーダー(井上製作所社製);ニーデックス(三井鉱山社製);MS式加圧ニーダー、ニダールーダー(森山製作所社製);バンバリーミキサー(神戸製鋼所社製)等が挙げられる。ペレットの大きさは適宜決められるものであるが、3~5mm程度の長径を有する粒子状であることが好ましい。
ステップ(8)は上記リペレット化する際に、併せて金属安定化剤を添加する工程である。
金属安定化剤の例には、シュウ酸誘導体、サリチル酸誘導体、ヒドラジド誘導体、トリアゾール誘導体、及びイミダゾール誘導体が含まれる。
シュウ酸誘導体の例には、オキザロ-ビス-1,2-ヒドロキシベンジリデンヒドラジド(イーストマンインヒビター OABH;Eastman Kodak社)、2,2′-オキサミドビス(エチル3-(3,5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(Naugard XL-1;白石カルシウム株式会社、「Naugard」は同社の登録商標)が含まれる。
サリチル酸誘導体の例には、3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール(アデカスタブCDA-1;株式会社ADEKA、「アデカスタブ」は同社の登録商標)、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド(アデカスタブCDA-6;株式会社ADEKA)、サリチリデンサリチロイルヒドラジン(Chel-180;BASF社)が含まれる。
ヒドラジド誘導体の例には、N,N′-ビス((3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル))プロピオノヒドラジド(CDA-10;株式会社ADEKA、Qunox;三井東圧ファイン株式会社、「Qunox」は同社の登録商標)が含まれる。
トリアゾール誘導体の例には、ベンゾトリアゾール、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、2-メルカプトベンゾトリアゾール、2,5-ジメルカプトベンゾトリアゾール、4-アルキルベンゾトリアゾール、5-アルキルベンゾトリアゾール、4,5,6,7-テトラヒドロベンゾトリアゾール、5,5′-メチレンビスベンゾトリアゾール、1-[ジ(2-エチルヘキシル)アミノメチル]-1,2,4-トリアゾール、1-(1-ブトキシエチル)-1,2,4-トリアゾール、及びアシル化3-アミノ-1,2,4-トリアゾールが含まれる。
イミダゾール誘導体の例には4,4′-メチレンビス(2-ウンデシル-5-メチルイミダゾール)、及びビス[(N-メチル)イミダゾール-2-イル]カルビノールオクチルエーテルが含まれる。
金属安定化剤は、回収材料中に含まれる金属を不活性化させる観点から、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。また、金属安定化剤は、回収材料中に含まれる金属を不活性化させる効果が飽和する観点から、1質量%以下であることが好ましい。
なお、本発明のリサイクルシステムにおいて、上記ステップ(5)、(6)及び(8)は必ずしも必須の工程ではなく、省略することは可能である。
〔2〕本発明の製品に用いられる樹脂
本発明の製品に用いられる樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、具体的には、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)又はポリスチレン(PS)系樹脂であることが好ましい。但し、これらに限定されるものではない。
〔2.1〕ポリカーボネート
本発明でいうポリカーボネートは、式:-[-O-X-O-C(=O)-]-で示される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。式中、Xは連結基を表し、一般には炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
一般に、ポリカーボネートは脂肪族ポリカーボネートと芳香族ポリカーボネートが知られている。脂肪族ポリカーボネートは熱分解温度が低く成形加工できる温度が低いため、通常耐熱性を向上させる方法が取られる。例えば、脂肪族ポリカーボネートの末端水酸基とイソシアネート化合物を反応させることで熱分解温度が向上する。また、二酸化炭素とエポキシドとを金属触媒存在下で共重合する脂肪族ポリカーボネートは、衝撃強度、軽量性、透明性、耐熱性等の優れた特性を有し、さらに生分解性であることから、環境負荷が低く、また、その特性からエンジニアプラスチック材料、医療用材料としても重要な樹脂である。
一方、芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、透明性、衛生性、並びに機械的強度(例えば、衝撃強度)等、優れた諸物性を有しており、種々の用途に広く使用されている。「芳香族ポリカーボネート」とは、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素であるポリカーボネートをいう。例えば、ポリカーボネートを構成するジオール成分として、ビスフェノールA等の芳香族基を含むジオール成分を使用したポリカーボネートが挙げられる。特に、芳香族基を含むジオール成分のみを使用したポリカーボネートが好ましい。またその製造方法は、ビスフェノールAなどの芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとを反応させる方法(界面法)や、ビスフェノールAなどの芳香族ジヒドロキシ化合物やその誘導体とジフェ二ルカーボネートなどの炭酸ジエステル化合物とを、溶融状態でエステル(交換)反応させる方法(溶融法、又はエステル交換法)等が、知られている。
本発明では、なかでも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネートを用いることが好ましい。
前記芳香族ポリカーボネートは、直鎖型ポリカーボネートと分岐型ポリカーボネートが知られているが、目的に応じて使い分けたり、併用したりすることが好ましい。例えば、分岐型ポリカーボネートは、分子量が同じ直鎖型ポリカーボネートに比べて流動性が低い傾向にあるため、直鎖型のポリカーボネートを選択したり、直鎖型のポリカーボネートと混合して流動性を高めたりすることができる。
分岐型の芳香族ポリカーボネートを得るには、例えば、特開2006-89509号公報や国際公開第2012/005250号記載の炭酸ジエステルに対する反応性のある官能基を分子中に3つ以上有する多官能化合物由来の分岐を有する分岐型の芳香族ポリカーボネートや国際公開第2014/024904号に記載されている3官能以上の脂肪族ポリオール化合物を含む連結剤を、エステル交換触媒の存在下、減圧条件でエステル交換反応させて、分岐型の芳香族ポリカーボネートを製造する方法等を参照することができる。
芳香族ポリカーボネートは、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、及び環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4′-ビフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4′-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも衝撃強度の点からビスフェノールA(以下“BPA”と略称することがある。)が特に好ましく、汎用されている。
本発明では、汎用のポリカーボネートであるビスフェノールA系のポリカーボネート以外にも、他の二価フェノール類を用いて製造した特殊なポリカーボネ-トを使用することが可能である。
例えば、二価フェノール成分の一部又は全部として、4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある。)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis-TMC”と略称することがある。)、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある。)を用いたポリカーボネ-ト(単独重合体又は共重合体)は、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。
これらのポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。
これらのポリカーボネートの製法及び特性については、例えば、特開平6-172508号公報、特開平8-27370号公報、特開2001-55435号公報及び特開2002-117580号公報等に詳しく記載されている。
ポリカーボネートのガラス転移温度Tgは、160~250℃、好ましくは170~230℃である。
Tg(ガラス転移温度)は、JIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステル又はハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート又は二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
前記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によって芳香族ポリカーボネートを製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本発明に係る芳香族ポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族又は脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート、二官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート、並びにかかる二官能性カルボン酸及び二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネートを含む。また、得られた芳香族ポリカーボネートの2種以上を混合した混合物であってもよい。
分岐ポリカーボネートは、樹脂の溶融張力を増加させ、かかる特性に基づいて押出成形、発泡成形及びブロー成形における成形加工性を改善できる。結果として寸法精度により優れた、これらの成形法による成形品が得られる。
分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン、2、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、及び4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}-α,α-ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノールが好適に例示される。
その他多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4-ビス(4,4-ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、並びにトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸及びこれらの酸クロライド等が例示される。中でも1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン及び1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
分岐ポリカーボネート樹脂における多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、二価フェノールから誘導される構成単位とかかる多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位との合計100モル%中、0.03~1モル%、好ましくは0.07~0.7モル%、特に好ましくは0.1~0.4モル%である。
また、分岐構造単位は、多官能性芳香族化合物から誘導されるだけでなく、溶融エステル交換反応時の副反応の如き、多官能性芳香族化合物を用いることなく誘導されるものであってもよい。なお、かかる分岐構造の割合については1H-NMR測定により算出することが可能である。
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω-ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、及びトリシクロデカンジメタノールなどが例示される。
さらにポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
界面重合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤及び有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、ピリジンなどが用いられる。
有機溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素が用いられる。
また、反応促進のために、例えば、第三級アミンや第四級アンモニウム塩などの触媒を用いることができ、分子量調節剤として例えばフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノールなどの単官能フェノール類を用いるのが好ましい。さらに単官能フェノール類としては、デシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノール及びトリアコンチルフェノールなどを挙げることができる。これらの比較的長鎖のアルキル基を有する単官能フェノール類は、メルトフローレートや耐加水分解性の向上が求められる場合に有効である。
反応温度は通常0~40℃、反応時間は数分~5時間、反応中のpHは通常10以上に保つのが好ましい。
溶融エステル交換法による反応は、通常二価フェノールと炭酸ジエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールと炭酸ジエステルを混合し、減圧下通常120~350℃で反応させる。減圧度は段階的に変化させ、最終的には133Pa以下にして生成したフェノール類を系外に除去させる。反応時間は通常1~4時間程度である。
炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
重合速度を速めるために重合触媒を使用することができ、重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、ホウ素やアルミニウムの水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第4級アンモニウム塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩、亜鉛化合物、ホウ素化合物、ケイ素化合物、ゲルマニウム化合物、有機錫化合物、鉛化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物などの通常エステル化反応やエステル交換反応に使用される触媒があげられる。触媒は単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10-9~1×10-5当量、より好ましくは1×10-8~5×10-6当量の範囲で選ばれる。
溶融エステル交換法による反応では、フェノール性の末端基を減少するために、重縮反応の後期又は終了後に、例えば2-クロロフェニルフェニルカーボネート、2-メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート及び2-エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートなどの化合物を加えることができる。
さらに溶融エステル交換法では触媒の活性を中和する失活剤を用いることが好ましい。かかる失活剤の量としては、残存する触媒1モルに対して0.5~50モルの割合で用いるのが好ましい。また重合後の芳香族ポリカーボネート樹脂に対し、0.01~500ppmの割合、より好ましくは0.01~300ppm、特に好ましくは0.01~100ppmの割合で使用する。失活剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩などのホスホニウム塩、テトラエチルアンモニウムドデシルベンジルサルフェートなどのアンモニウム塩などが好ましく挙げられる。
前記以外の反応形式の詳細についても、各種文献及び特許公報などで良く知られている。
ポリカーボネートの重量平均分子量は、特に限定されないが、GPC測定法により、好ましくは20000~60000の範囲であり、より好ましくは30000~57000の範囲であり、さらに35000~55000の範囲である。
〔2.2〕ポリプロピレン系樹脂
ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-ブテンブロック共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィングラフト共重合体等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂にエチレン-α-オレフィン共重合体、スチレン系エラストマー等の公知の樹脂やタルク、マイカ、ワラストナイト、ガラス繊維等のフィラーを含有するものも含まれる。
〔2.3〕ポリスチレン系樹脂
ポリスチレン系樹脂としては、スチレン、α-メチルスチレン-p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどのモノビニル系芳香族単量体からなる単量体を重合して得られる重合体で、代表的なポリスチレン(GPPS)やゴム状物質をスチレン系モノマーに溶解し、塊状又は塊状懸濁重合法などにより製造したゴム変性スチレン系重合体で、ゴム状物質としては、ポリブタジエン(PBD)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)等が用いられ、代表的は、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、ミドルインパクトポリスチレン(MIPS)等が挙げられる。
また、極性基のシアノ基を有するアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体からなる単量体を重合して得られる重合体で代表的なアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)やポリブタジエンにアクリロニトリルとスチレンとが重合したABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)樹脂が挙げられる。他の極性基で、カルボキシル基を有するメタクリル酸などのカルボキシル化ビニル系単量体からなる単量体を重合して得られる重合体で代表的なメタクリル酸メチル(MMA)樹脂やポリブタジエンにメタクリル酸メチルとスチレンが重合したMBS樹脂も含まれる。上記スチレン系樹脂の新材だけでなく、使用済み家電製品より回収される再生スチレン系樹脂も含まれる。また、これらのポリスチレン系樹脂にスチレン系エラストマー等の樹脂やタルク、マイカ、ワラストナイト、ガラス繊維等のフィラーを含有するものも含まれる。
〔2.4〕他の樹脂成分
本発明に係る樹脂には、熱可塑性ポリエステル樹脂を配合することもできる。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリプロピレンテレフタレート樹脂(PPT)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリへキシレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレ-ト)樹脂(PCT)、ポリシクロヘキシルシクロヘキシレート(PCC)等が挙げられる。中でもポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)及びポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)がメルトフローレート、耐衝撃性の点から好ましい。
本発明に係る樹脂には、さらに、エラストマーを配合することも好ましい。エラストマーを配合することで、得られる樹脂の衝撃強度をより改良することができる。
本発明に用いるエラストマーは、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴムが好ましい。
また、本発明に係る樹脂には、他の樹脂添加剤を適宜用いることも好ましく、例えば、熱安定剤(例えば、リン系化合物等)、酸化防止剤(例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等)、離型剤(例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル等)、充填材、紫外線吸収剤、染顔料(カーボンブラックを含む)、酸化チタン、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、メルトフローレート改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が配合されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で配合されていても良い。
中でも耐熱安定剤を加えることが好ましい。耐熱安定剤の添加量は、樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは、0.05~1質量部の範囲である。
耐熱安定剤としての酸化防止剤を使用する場合の例を以下に挙げる。
2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、テトラキス[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4´-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ステアリルβ-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコールビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のフェノール系、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)[1,1-4,4’-ジイルビスホスフォナイト、ビス[2,4-ビス(1,1-ジメチルエチル)-6-メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリアリルホスファイト、トリ(モノノニルフェニル)ホスファイト等のリン系、ジラウリル-3,3′-チオジプロピオネート、ジオクタデシル-3,3′-チオジプロピオネート等のイオウ系等のものが使用できる。これらの中でも、耐熱安定性の点で、フェノール系はテトラキス[メチレン-3-(3′,5´-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、リン系はトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、イオウ系はジオクタデシル-3,3′-チオジプロピオネートが好ましい。
本発明の樹脂のリサイクルシステムによって形成された樹脂混合物からなる成形品は、例えば、電気電子部品、家電部品、自動車用部品、各種建材、容器、雑貨等の各種用途に好適に使用できる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
〔実施例A〕
(1)蛍光剤の選択
下記2種類の蛍光剤を選択した。
A:Sunlumisis SP 青;セントラルテクノ株式会社
B:Sunlumisis SP 赤;セントラルテクノ株式会社
選択した蛍光剤について、キセノンアーク光源を用いた10年間屋外での曝露に相当するキセノン光照射テスト後の蛍光発光量と照射前の蛍光発光量を、図3の蛍光発光量測定装置を用いて測定し、以下の式(1)にて、蛍光発光量の比率を計算した。
式(1) 10年屋外曝露後相当の蛍光発光量比率(%)=(10年屋外曝露後相当の蛍光発光量)÷(曝露前の蛍光発光量)×100
なお、上記10年屋外曝露後相当の蛍光発光量は、キセノンアークランプを用いたキセノン光照射テスト(JIS K7350-2:2008 プラスチック実験室光源による曝露試験方法に準拠、但し、水噴霧は実施していない。)により加速試験で行った。具体的には、キセノン光照射テストは、BPT65℃、湿度50%RH下で、照度60W/mで6905時間照射した。
蛍光発光量測定装置は、図3で示す蛍光発光量測定装置10を用いた。蛍光発光量測定装置10は、樹脂11上に塗布された蛍光剤12に主に紫外線を照射する紫外線光源部13と、それによって蛍光発光する光量を測定するカメラ部14とからなる。
紫外線光源としては、VILBER社製 VL-6.LCを用いた。光源の照射面から対象部品の蛍光剤塗布面までの距離は5cm、45°の角度で照射した。
蛍光発光量の測定は、ニコン社製カメラD850で、レンズ部としてAF-S NIKKOR 35mm f/1.4Gを用い、レンズ前面から蛍光剤塗布面までの距離は10cm、角度は90°(真上)とする。カメラ側の撮影条件は固定とし、撮影した画像を画像処理ソフトウェアで処理し蛍光発光量を算出した。
なお、上記樹脂は市販のポリカーボネート樹脂板を用い、蛍光剤の塗布は、塗布範囲が1cm×1cmの正方形、塗布量は1cm当たり0.002g、及び塗布方法はインクジェット方式を用いて塗布を行った。
測定した2種の蛍光剤の、キセノンアーク光源を用いた10年間屋外での曝露に相当するキセノン光照射テスト後の蛍光発光量と照射前の蛍光発光量との比率(%)を、下記表Iに示す。
Figure 0007338281000001
<樹脂製部品を含む製品の作製>
<実施例1>
下記樹脂製部品を含む複写機を製品組み立てし、上記選定した蛍光剤Aを環境光が照射される外装面において、前記製品の使用時に上部面(真上:0°)から側面(真横:90°)までの範囲の角度において、60°となる前記外装面(角部面)に、0.001g/cmの塗布量で1cm×1cmの面積にインクジェット印刷法により塗布した。
前記製品は、樹脂製部品としてポリカーボネート(PC)(製品名301-10;住友ポリカーボネート株式会社、重量平均分子量44000)を使用している。
なお、重量平均分子量は以下の測定法を用いた。
〈重量平均分子量〉
測定対象となる樹脂を、濃度1mg/mLとなるようにテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブレンフィルターを用いて濾過し、得られた溶液をGPC測定用のサンプルとして用いた。GPC測定条件は、下記に示すGPC分析条件を採用し、サンプル中に含まれる樹脂の重量平均分子量を測定した。
(GPC測定条件)
GPC装置として「HLC-8320GPC/UV-8320(東ソー株式会社製)」を用い、カラムとして「TSKgel、SupermultiporeHZ-H(東ソー株式会社製4.6mmID×15cm)」を2本用い、溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)を用いた。分析は、流速0.35mL/min、サンプル注入量20μL、測定温度40℃、RI検出器を用いて行った。また、検量線は東ソー社製「polystylene標準試料TSK standard」:「A-500」、「F-1」、「F-10」、「F-80」、「F-380」、「A-2500」、「F-4」、「F-40」、「F-128」、「F-700」の10サンプルから作製した。なお、試料解析におけるデータ収集間隔は300msとした。
前記蛍光剤を塗布した樹脂片及び蛍光剤に対して劣化促進テストとして、キセノンアークランプを用いたキセノン光照射テスト(JIS K7350-2:2008 プラスチック実験室光源による曝露試験方法に準拠、但し水噴霧は実施していない。)を行い、樹脂の特性と蛍光剤の発光量の劣化の程度をそれぞれ図4(a)及び図4(b)のように測定した。キセノン光照射テストは、BPT65℃、湿度50%RH下で、照度60W/mで6905時間照射した。
前記樹脂の特性は、前述の測定法による重量平均分子量の変動をモニターした。
蛍光剤の蛍光発光量の変動は、図3で示す蛍光発光量測定装置によって、その変動をモニターし、下記式(2)によってキセノンテスト照射後の蛍光発光量比率(%)を求めた。
式(2) キセノン光照射テスト後の蛍光発光量比率(%)=(キセノン光照射テスト後の蛍光発光量)÷(キセノン光照射前の蛍光発光量)×100
また、蛍光発光量の低下割合を下記式(3)にて求めた。
「低下割合」とは、以下の定義値である。
キセノン光照射テスト前の蛍光発光量を100%としたとき、
使用した蛍光剤の10年屋外暴露後の蛍光発光量:L10(%)
測定結果(回収された部品の蛍光発光量):L(%)
としたとき、劣化割合は以下のような式で表され、10年暴露後相当の蛍光強度の低下幅に対して、回収された部品の蛍光強度がどれだけ低下しているかを表す。
式(3) 蛍光発光量の低下割合(%)=(100-L(%))÷(100-L10(%))×100
以上の測定データから、図4(c)の右側のグラフ(樹脂の特性と蛍光剤の発光量の相関グラフ)によって、蛍光剤の発光量から推定した樹脂の特性の劣化度1(重量平均分子量の変動)と実際に重量平均分子量を測定した樹脂の劣化度2を比較した。樹脂の劣化度は、下記式(4)によって求めた。
式(4) 樹脂の劣化度(%)=100-(キセノン光照射テスト前後の樹脂の特性の変動率(%))
このとき、劣化度1及び2の解離が3%未満である場合を評価精度が特に良好(◎)とし、3%以上5%未満である場合を良好(○)、5%以上10%未満である場合をやや良好(△)、及び10%以上である場合を不良(×)とした。
<実施例2~実施例6>
実施例1の製品作製において、蛍光剤の塗布位置、塗布量、塗布面積、及び塗布形態を、それぞれ表II記載のように変化させた以外は同様にして、実施例2~実施例6の製品を作製した。なお、実施例6では蛍光剤を環境光の照射が弱い外装面として、製品の下方の角部面(120°)に蛍光剤を塗布した。
<比較例1>
実施例1の製品の作製において、蛍光剤Bを用いた以外は同様にして、表III記載の比較例1の製品作製を行った。
<比較例2>
実施例1の製品の作製において、図1で示す樹脂製部品の非外装面に同様に蛍光剤を塗布した以外は同様にして、比較例2の製品作製を行った。
<比較例3及び比較例4>
比較例3は実施例1の製品の作製において、蛍光剤塗布部分と同様な外装面に使用される樹脂製部品を採取し、ハンマーによる破壊評価(樹脂の劣化による破壊の有無を判別する。)を行った。
比較例4は、実施例1の製品の作製において、蛍光剤塗布部分と同様な外装面に使用される樹脂製部品を採取し、前記方法にて重量平均分子量を測定した。
なお、いずれの評価においても、測定に要する時間をモニターした。
以上、実施例1~6及び比較例1~4の構成及び評価結果を、表II及び表IIIに示した。
Figure 0007338281000002
Figure 0007338281000003
表II及び表IIIから、樹脂上に塗布した蛍光剤の蛍光発光量を測定することにより、樹脂の劣化度を短時間に推測できることが分かった。実際の樹脂の劣化度との対比から、10年屋外曝露後の蛍光発光量比率が10~80%の範囲に入る蛍光剤を用いることによって、精度良く樹脂の実際の劣化度を推定することが可能なことが分かった(実施例1と比較例1の対比)。
評価結果を詳細にみると、実施例1に比較して、
実施例2では、複数個所の評価を行うため、評価精度が高い。
実施例3では、塗布量が少なく、蛍光発光量の検出精度がやや低い。
実施例4では、塗布範囲が少なく、蛍光発光量の検出精度がやや低い。
実施例5では、蛍光剤をバーコード状に塗布したことにより、実質的な塗布範囲が少なく、塗布がまだらのため、蛍光量の検出精度がやや低い。
実施例6では、環境光があたりにくい部分に塗布されているため、劣化度の評価結果と実際の劣化度との誤差がやや大きい。
比較例1では、蛍光剤の発光量の低下が小さく、製品が使用時にどれだけ紫外線受けたのか評価できない。
比較例2では、蛍光剤を非外装面に塗布したため、製品が使用時にどれだけ紫外線受けたのか評価できない。
比較例3では、ハンマーによる破壊評価では繰り返し精度(再現性)が低い。また、部品形状や樹脂種により操作・判断基準が異なる上に、部品が傷つき、リユースできない。
比較例4では、精度は高いが、分子量測定評価に時間とコストがかかりすぎて、実用性がない。
〔実施例B〕
下記ポリカーボネート樹脂及び金属安定化剤を用いて、実際のリサイクルシステムにおける分別(ステップ(4))、除去(ステップ(5))と配合比決定による混合(ステップ(7))の効果、蛍光剤/不純物の除去(ステップ(6))、及び下記金属安定化剤添加(ステップ(8))の効果を検証した。
ポリカーボネート(PC):製品名301-10;住友ポリカーボネート株式会社、重量平均分子量44000
金属安定化剤:製品名3-(N-サリチロイル)アミノ-1,2,4-トリアゾール、アデカスタブCDA-1;株式会社ADEKA、樹脂に対して0.1質量%添加。
実施例Aの「製品の作製」実施例1と同様にして、バージンポリカーボネート(PC)樹脂の成型品に蛍光剤Aを塗布し、当該成型品を用いた複写機を製品組み立てし、市場で5年間使用した当該複写機を複数種無作為に回収して、ポリカーボネート樹脂に塗布した蛍光剤の発光光量を図3の蛍光発光量測定装置によって、その変動をモニターした。
上記蛍光発光量によって推定された樹脂の劣化度をそれぞれの回収部品毎に求めた。
樹脂の劣化度に基づく分別(ステップ(4))は、劣化度0%以上5%未満、5%以上10%未満、10%以上15%未満、及び15%以上の4段階とした。
その結果に基づき、分別した樹脂の配合比を決定し、表IVに記載の実施例7~11のそれぞれに記載の比率で混合した(ステップ(7))。樹脂の混合は、タンブラー(混合機)で、10分間混合し、100℃4時間オーブンで乾燥した。そのとき、実施例8~実施例11では、劣化度15%以上の樹脂は配合しなかった。
Figure 0007338281000004
次いで、実施例7~実施例11の混合物に対して、水洗による蛍光剤/不純物の除去工程有無(ステップ(6))及びリペレット化工程時への金属安定化剤添加有無(ステップ(8))の操作を加えて、日本製鋼所社製射出成型機JSW-110ADで、成形温度280℃、射出速度30mm/min、射出成形厚さ4mmの条件で衝撃試験用試験片を成形した。
なお、上記水洗は、横長の水洗槽を準備し、水洗槽中に、ブランソニック超音波洗浄器 DHA-1000-6J(ブランソン社製)を配置し、30℃の純水浴で、超音波を発振させながら、この純水浴中を10分間かけて樹脂を連続搬送して、洗浄処理を行った。
得られた試験片に対して以下の条件で衝撃強度の評価を行った。
(衝撃強度)
衝撃試験機にて、JIS K7110(1999)の試験条件で、温度23℃、湿度50%RHに16時間試験片を放置した後測定した。衝撃試験機は安田精機製258を用い、温度23℃、湿度55%RHの条件下で行った。
以上の実験内容及び評価結果を、表Vに示す。
Figure 0007338281000005
表Vから、本発明の下記効果が明らかである。
実施例7と実施例8の比較から、劣化度15%以上の樹脂を本発明のリサイクルシステムから除去することによって、リサイクル品の衝撃強度は、13.2kJ/mから48.8kJ/mと顕著に向上する。
実施例8と実施例9の比較から、配合比を決定し混合する(ステップ(7))際に、劣化度の低い樹脂比率を高めることで、衝撃強度値を向上することができる。したがって、使用部品毎にリサイクル樹脂品質を、配合比を変化させることで設計が可能である。
実施例9~実施例11から、蛍光剤/不純物除去(ステップ(6))及びリペレット化工程時への金属安定化剤添加(ステップ(8))によって、衝撃強度値をそれぞれ向上することが可能である。
1 樹脂製部品
2 環境光
10 蛍光発光量測定装置
11 樹脂
12 蛍光剤
13 紫外線光源部
14 カメラ部

Claims (8)

  1. 使用後は回収して再利用される樹脂製部品を含む製品であって、
    前記製品の外装面を構成する前記樹脂製部品に蛍光剤が塗布されており、
    特定の波長の光を照射すると前記蛍光剤が発光し、その発光量が紫外線曝露により経時で低下し、
    前記蛍光剤が、キセノンアーク光源を用いた10年間屋外での曝露に相当する光照射テスト後の蛍光発光量が、光照射前の蛍光発光量に比較して10~80%の範囲内である
    ことを特徴とする樹脂製部品を含む製品。
  2. 前記蛍光剤の塗布量が、1cmあたり0.0005g以上であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製部品を含む製品。
  3. 前記蛍光剤の塗布範囲が、0.5cm×0.5cm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂製部品を含む製品。
  4. 前記蛍光剤が、可視光下では透明であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の樹脂製部品を含む製品。
  5. 前記蛍光剤が、紫外線を照射することで可視光を発光することを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の樹脂製部品を含む製品。
  6. 請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の樹脂製部品を含む製品をリサイクルする樹脂製部品を含む製品のリサイクル方法であって、
    前記樹脂製部品に塗布された蛍光剤に紫外線を照射して蛍光発光量を測定することにより、当該樹脂製部品の劣化度を評価する工程を有することを特徴とする樹脂製部品を含む製品のリサイクル方法
  7. 前記劣化度の評価工程の次工程に、蛍光剤とその他の不純物を樹脂から除去する工程を有することを特徴とする請求項に記載の樹脂製部品を含む製品のリサイクル方法。
  8. 前記樹脂製部品に複数個所蛍光剤が塗布されており、それぞれの劣化度の評価結果が異なる場合に、劣化度の大きい評価結果をその部品の劣化度として判定する工程を有することを特徴とする請求項に記載の樹脂製部品を含む製品のリサイクル方法。
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