JP7332283B2 - 圧粉磁心 - Google Patents

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Description

本発明は、圧粉磁心に関し、より詳しくは、磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心に関する。
圧粉磁心は、表面が絶縁被膜で覆われた磁性粒子を圧縮成形することによって得られるものであり、変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等の電磁気を利用した様々な製品に用いられている。このような圧粉磁心としては、例えば、軟磁性材料からなる粒径5~200μmの粉末の表面を、シリコーン樹脂で被覆し、さらに、ステアリン酸又はその金属塩からなる高級脂肪酸潤滑剤で被覆した軟磁性粉末をプレス成形し、熱処理することによって得られる磁心(特開2000-223308号公報(特許文献1))、金属磁性粒子と、その表面を取り囲む、リン酸金属塩及び金属酸化物のうちの少なくとも一方を含む絶縁被膜と、この絶縁被膜の表面を取り囲む、ステアリン酸等の金属塩からなる金属石鹸を含む潤滑剤被膜とを有する複合磁性粒子を備える圧粉磁心(特開2005-129716号公報(特許文献2))、表面にリン酸塩からなる絶縁被膜を有する平均粒径が30~500μmの鉄基粉末と、OH基を有する脂肪酸のエステルを含む潤滑剤とを備える軟磁性材料を加圧成形し、熱処理することによって得られる圧粉磁心(特開2007-211341号公報(特許文献3))、絶縁被膜を備える平均粒径が200~450μmの被覆鉄粉と、脂肪酸アミドからなる潤滑剤とを含む圧粉磁心(特開2016-12688号公報(特許文献4))が知られている。
一方、磁性ナノ粒子は、そのサイズが極めて小さいため、バルクの磁性材料とは異なる性質を示し、例えば、粒径が約100nmを超える範囲では、粒径が小さくなるにつれて保磁力が大きくなり、粒径が約100nm付近で保磁力が最大となるが、粒径が約20nm以下になると、超常磁性現象が発現して保持力が極めて小さくなる。このため、粒径が約20nm以下の磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心においては、ヒステリシス損を極めて小さくすることが可能になると考えられる。また、絶縁性の磁性ナノ粒子や表面に絶縁被膜を有する導電性の磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心において、粒径が約300nm以下の磁性ナノ粒子を用いることによって、高周波において渦電流の経路が制限され、渦電流損を小さくすることが可能になると考えられ、特に、粒径が約20nm以下の磁性ナノ粒子を用いることによって、渦電流損を極めて小さくすることができると考えられる。このように、粒径が約20nm以下の磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心は、ヒステリシス損や渦電流損が極めて小さくなるため、電源用途のトランスコア材として期待されている。
特開2000-223308号公報 特開2005-129716号公報 特開2007-211341号公報 特開2016-12688号公報
しかしながら、従来の磁性マイクロ粒子を用いた圧粉磁心において潤滑剤として用いられているステアリン酸等又はそれらの金属塩、脂肪酸エステル、或いは脂肪酸アミドと磁性ナノ粒子とを混合して圧縮成形すると、1GPa以上の高圧で加圧しても高密度の圧粉磁心を得ることは困難であった。
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、磁性ナノ粒子を含有する高密度の圧粉磁心を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、磁性ナノ粒子に炭素数が12又は20~30の飽和脂肪酸を添加して圧縮成形することによって、磁性ナノ粒子を含有する高密度の圧粉磁心が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の圧粉磁心は、磁性粒子として平均粒径が1~300nmの磁性ナノ粒子のみと、炭素数が12又は20~30の飽和脂肪酸とを含有することを特徴とするものである。このような圧粉磁心において、前記飽和脂肪酸としては、直鎖状の飽和脂肪酸が好ましく、また、前記磁性ナノ粒子としては、Feナノ粒子、Fe含有合金ナノ粒子、Fe含有金属酸化物ナノ粒子、表面に絶縁層を備えるFeナノ粒子、及び表面に絶縁層を備えるFe含有合金ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
なお、前記磁性ナノ粒子に炭素数が12又は20~30の飽和脂肪酸を添加することによって、前記磁性ナノ粒子を含有する高密度の圧粉磁心が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、炭素数が小さい飽和脂肪酸は、融点が低く、前記磁性ナノ粒子と均一に混合することができる。一方、炭素数が大きい飽和脂肪酸は、アルキル鎖の疎水性が高く潤滑性が高くなる。また、炭素数が大きい飽和脂肪酸は、アルキル鎖が長いため、分子間結合力が強く、成形歪みに起因するスプリングバック現象を抑制することが可能となる。したがって、炭素数が12又は20~30の飽和脂肪酸は、炭素数が大きい場合の作用と小さい場合の作用とがバランスよく発現するため、前記磁性ナノ粒子と均一に混合することができ、また、高い潤滑性により前記磁性ナノ粒子の流動性を向上させることができ、さらに、アルキル鎖間の大きな結合力によりスプリングバック現象によるクラックの発生や低密度化を抑制することが可能になると推察される。その結果、前記磁性ナノ粒子に炭素数が12又は20~30の飽和脂肪酸を添加すると、前記磁性ナノ粒子と前記飽和脂肪酸との均一性が高いため、圧縮成形時の前記磁性ナノ粒子の流動性が向上し、また、前記脂肪酸のアルキル鎖間の結合力によりスプリングバック現象が抑制されるため、前記磁性ナノ粒子を含有する圧粉磁心であっても高密度化されると推察される。
一方、前記磁性ナノ粒子に従来の潤滑剤(ステアリン酸等又はそれらの金属塩、脂肪酸エステル、或いは脂肪酸アミド等)を添加した場合には、前記磁性ナノ粒子と従来の潤滑剤とを均一に混合することが困難であり、潤滑剤が前記磁性ナノ粒子間に十分に行き渡らないため、その部分の磁性ナノ粒子は流動性が低くなり、圧粉磁心の密度が向上しないと推察される。
本発明によれば、磁性ナノ粒子を含有する高密度の圧粉磁心を得ることが可能となる。
飽和脂肪酸の炭素数と圧粉磁心の密度との関係を示すグラフである。 飽和脂肪酸の炭素数と圧粉磁心のクラック率との関係を示すグラフである。 圧粉磁心の密度と比透磁率(理論値)との関係を示すグラフである。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明の圧粉磁心は、平均粒径が1~300nmの磁性ナノ粒子と、炭素数が12又は20~30の飽和脂肪酸とを含有するものである。
本発明に用いられる磁性ナノ粒子としては圧粉磁心に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、Feナノ粒子、Fe含有合金ナノ粒子、Fe含有金属酸化物ナノ粒子が挙げられる。また、前記Feナノ粒子及び前記Fe含有合金ナノ粒子は、表面に絶縁層を備えていてもよい。これらの磁性ナノ粒子は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ヒステリシス損及び渦電流損を低減でき、かつ、飽和磁束密度を比較的大きくでき、高温での特性劣化も比較的少ないという観点から、表面に絶縁層を備えるFeナノ粒子、表面に絶縁層を備えるFe含有合金ナノ粒子が好ましい。
前記Fe含有合金ナノ粒子としては圧粉磁心に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、FeNi合金ナノ粒子(パーマロイBナノ粒子等)、FeSi合金ナノ粒子(ケイ素鋼ナノ粒子等)、FeCo合金ナノ粒子(パーメンジュールナノ粒子等)、NiFe合金ナノ粒子(パーマロイCナノ粒子等)が挙げられる。また、前記Fe含有金属酸化物ナノ粒子としては圧粉磁心に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、NiZnフェライトナノ粒子、MnZnフェライトナノ粒子等のフェライト系ナノ粒子が挙げられる。
前記絶縁層としては、例えば、SiO、Al、Fe、Fe、NiZnフェライト、MnZnフェライト等の金属酸化物からなる絶縁層;脂肪酸(例えば、デカン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸)、シリコーン系有機化合物(例えば、メチルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂、ジメチルポリシロキサン、シリコーンハイドロゲル)等の有機化合物からなる絶縁層;リン系化合物(例えば、リン酸カルシウム、リン酸鉄、リン酸亜鉛、リン酸マンガン)等の無機化合物からなる絶縁層が挙げられる。
また、本発明に用いられる磁性ナノ粒子の平均粒径は1~300nmである。磁性ナノ粒子の平均粒径が前記下限未満になると、粒子表面の影響が大きく、磁性ナノ粒子自体の磁気特性が低下する。他方、磁性ナノ粒子の平均粒径が前記上限を超えると、渦電流損が増大して磁心損失が大きくなる。また、超常磁性現象が発現して保磁力が極めて小さくなり、ヒステリシス損を極めて小さくすることが可能となり、また、高周波において渦電流の経路が制限され、渦電流損を極めて小さくすることが可能となるという観点から、磁性ナノ粒子の平均粒径としては、1~100nmが好ましく、1~20nmがより好ましい。なお、磁性ナノ粒子の平均粒径は、TEM観察において100個の粒子の粒径を測定し、その平均値として求めることができる。
本発明に用いられる飽和脂肪酸は炭素数が12又は20~30の飽和脂肪酸である。このような飽和脂肪酸を前記磁性ナノ粒子に添加することによって、高密度の圧粉磁心を得ることができる。また、前記飽和脂肪酸の炭素数としては、圧粉磁心におけるクラック発生率が低くなるという観点から、20~30が好ましい。このような飽和脂肪酸として、具体的には、ラウリン酸、アラキジン酸、ヘニコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸が挙げられる。
一方、前記磁性ナノ粒子に不飽和脂肪酸を添加した場合には、不飽和脂肪酸の融点が低く、室温で液体であるため、磁性ナノ粒子同士を結合させる力が弱く、前記磁性ナノ粒子と不飽和脂肪酸とを均一に混合することもできず、高密度の圧粉磁心を得ることが困難となる。また、前記磁性ナノ粒子に、炭素数が11以下又は13~19の飽和脂肪酸を添加した場合、或いは、飽和脂肪酸の金属塩、飽和脂肪酸エステル、又は飽和脂肪酸アミドを添加した場合も、高密度の圧粉磁心を得ることは困難である。
また、前記飽和脂肪酸としては直鎖状の飽和脂肪酸が好ましい。直鎖状の飽和脂肪酸は分子間相互作用が強いため、このような直鎖状の飽和脂肪酸を前記磁性ナノ粒子に添加することによって、スプリングバック現象によるクラックの発生や低密度化を抑制することができる。
前記飽和脂肪酸の含有量としては特に制限はないが、前記磁性ナノ粒子と前記飽和脂肪酸との合計量に対して、0.01~5質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましく、0.1~1質量%が特に好ましい。前記飽和脂肪酸の含有量が前記下限未満になると、前記飽和脂肪酸が前記磁性ナノ粒子間に十分に行き渡らないため、その部分の磁性ナノ粒子の流動性が低くなり、圧粉磁心の密度が向上しなにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、非磁性成分の割合が多くなり、圧粉磁心の磁気特性が低下する傾向にある。
このような本発明の圧粉磁心の密度は6.0g/cm以上であり、高い比透磁率を有するものである。また、より高い比透磁率を有するという観点から、圧粉磁心の密度としては6.5g/cm以上が好ましく、7.0g/cm以上がより好ましい。
本発明の圧粉磁心は、例えば、以下の方法により製造することができる。すなわち、先ず、前記磁性ナノ粒子と前記飽和脂肪酸とを所定の含有量となるように混合する。上述したように、前記磁性ナノ粒子と前記飽和脂肪酸との混合物は均一性が高いため、後述する加圧成形において前記磁性ナノ粒子の流動性が確保され、高密度の圧粉磁心を得ることが可能となる。
前記磁性ナノ粒子と前記飽和脂肪酸との混合方法としては特に制限はなく、例えば、ボールミルや乳鉢を用いて混合する方法、溶媒に前記磁性ナノ粒子と前記飽和脂肪酸とを分散・溶解させた後、乾燥等により溶媒を除去することによって混合する方法等が挙げられる。また、前記磁性ナノ粒子は再配列性に劣るため、溶媒に前記磁性ナノ粒子と前記飽和脂肪酸とを分散・溶解させた後、スプレードライ等により顆粒状の混合物を調製してもよい。これにより、圧縮成形時に顆粒状の混合物が崩れて前記磁性ナノ粒子が再配列しやすくなるため、圧粉磁心の密度が向上する。
次に、このようにして得られた前記磁性ナノ粒子と前記飽和脂肪酸との混合物を、潤滑剤を塗布した金型に充填する。前記潤滑剤としては特に制限はなく、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛等の飽和脂肪酸の金属塩、潤滑グリース(例えば、株式会社ミスミ製「M-HGSSC-H500」)等が挙げられる。
次に、金型に充填した前記磁性ナノ粒子と前記飽和脂肪酸との混合物を加圧成形することによって、本発明の圧粉磁心を得ることができる。成形温度としては特に制限はないが、通常、室温~200℃であり、前記磁性ナノ粒子の流動性を確保するという観点から、前記飽和脂肪酸の融点以上の温度が好ましい。また、金型に潤滑剤として飽和脂肪酸の金属塩を塗布した場合には、150℃以上の温度で加圧成形することが好ましい。また、成形圧力としては700MPa~3GPaが好ましく、1GPa~2GPaがより好ましい。成形圧力が前記下限未満になると、前記混合物が十分に圧縮されないため、圧粉磁心の密度が小さくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、スプリングバック現象の影響が大きく、圧粉磁心の密度が小さくなる傾向にある。
また、このようにして製造した圧粉磁心には、必要に応じて熱処理を施してもよい。これにより、加圧により圧粉磁心に生じた歪みを緩和することができる。このような熱処理の温度は通常500~800℃である。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
磁性ナノ粒子として平均粒径100nmのFeNi合金ナノ粒子(アルドリッチ社製)4.975gと飽和脂肪酸としてラウリン酸(和光純薬工業株式会社製、炭素数12)0.025gとを混合し、さらに、乳鉢で30分間粉砕混合した。得られた粉砕混合物を、グリース(株式会社ミスミ製「M-HGSSC-H500」)を塗布したリング試験片用金型(外径10mmφ、内径6mmφ)に充填し、ヒータープレス(三庄インダストリー株式会社製「TBH-100H」)を用いて150℃に加熱しながら1.4GPaで1分間加圧した。加圧停止後、室温まで冷却して、得られた磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を金型から取り出した。得られた成形体の密度は6.69g/cmであった。
(実施例2)
飽和脂肪酸としてアラキジン酸(東京化成工業株式会社製、炭素数20)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は6.30g/cmであった。
(実施例3)
飽和脂肪酸としてリグノセリン酸(東京化成工業株式会社製、炭素数24)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は6.43g/cmであった。
(実施例4)
飽和脂肪酸としてモンタン酸(東京化成工業株式会社製、炭素数28)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は6.50g/cmであった。
(実施例5)
飽和脂肪酸としてメリシン酸(東京化成工業株式会社製、炭素数30)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は6.50g/cmであった。
(比較例1)
飽和脂肪酸としてカプリル酸(和光純薬工業株式会社製、炭素数8)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は5.63g/cmであった。
(比較例2)
飽和脂肪酸としてカプリン酸(和光純薬工業株式会社製、炭素数10)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は5.95g/cmであった。
(比較例3)
飽和脂肪酸としてミリスチン酸(和光純薬工業株式会社製、炭素数14)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は5.95g/cmであった。
(比較例4)
飽和脂肪酸としてステアリン酸(和光純薬工業株式会社製、炭素数18)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は5.91g/cmであった。
(比較例5)
飽和脂肪酸を混合しなかった以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は4.97g/cmであった。
(比較例6)
飽和脂肪酸の代わりに飽和脂肪酸金属塩であるラウリン酸亜鉛(和光純薬工業株式会社製、炭素数12)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は5.77g/cmであった。
(比較例7)
飽和脂肪酸の代わりに飽和脂肪酸エステルであるモノステアリン酸グリセロール(和光純薬工業株式会社製、炭素数21)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は5.82g/cmであった。
(比較例8)
飽和脂肪酸の代わりに飽和脂肪酸アミドであるエチレンビスステアリン酸アミド(和光純薬工業株式会社製、炭素数38)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心)を作製した。得られた成形体の密度は5.82g/cmであった。
磁性ナノ粒子と飽和脂肪酸とを混合した場合(実施例1~5及び比較例1~4)には、飽和脂肪酸を混合しなかった場合(比較例5)に比べて、高密度の圧粉磁心が得られたが、図1に示したように、炭素数が8、10、14又は18の飽和脂肪酸を混合した圧粉磁心(比較例1~4)は、密度が6g/cm未満であったのに対して、炭素数が12又は20~30の飽和脂肪酸を混合した圧粉磁心(実施例1~5)は密度が6g/cm以上であった。この結果から、炭素数が12又は20~30の飽和脂肪酸を混合することによって圧粉磁心の密度が向上することが確認された。
また、飽和脂肪酸の代わりに飽和脂肪酸金属塩、飽和脂肪酸エステル又は飽和脂肪酸アミドを混合した場合(比較例6~8)にも、飽和脂肪酸を混合しなかった場合(比較例5)に比べて、高密度の圧粉磁心が得られたが、いずれの圧粉磁心(比較例6~8)も密度が6g/cm未満であり、所定の炭素数を有する飽和脂肪酸を混合した圧粉磁心(実施例1~5)に比べて、密度が小さくなることがわかった。
<クラック率>
実施例1~5及び比較例1~4で得られた圧粉磁心(リング成形体)を、リングに対して垂直な方向に切断、研磨し、走査型電子顕微鏡を用いてその断面を観察した。50倍の倍率で取得した画像においてクラックの長さを計測し、クラックの長さを観察した断面の面積で割った値をクラック率(単位:cm/cm)として求めた。この測定を1つのリング成形体について4箇所行い、その平均値を求めた。図2には、飽和脂肪酸の炭素数とクラック率(平均値)との関係を示す。図2に示したように、炭素数が20~30の飽和脂肪酸を混合した圧粉磁心(実施例2~5)は、炭素数が8~18の飽和脂肪酸を混合した圧粉磁心(実施例1及び比較例1~4)に比べて、クラック率が小さくなることがわかった。
<比透磁率>
圧粉磁心の直流比透磁率μ’の理論値は、下記式:
μ’=η(μ-1)/[N(1-η)(μ-1)+1]
(前記式中、μ’は圧粉磁心の直流比透磁率を表し、ηは磁性ナノ粒子の充填率(=圧粉磁心の密度/磁性材料のバルク密度)を表し、μは磁性ナノ粒子の比透磁率を表し、Nは有効反磁界係数を表す。)
で表されるOllendorfの式により求めることができる(三谷宏幸ら、神戸製鋼技報、2015年、第65巻、第2号、12~15頁)。
図3には、μ=5000、N=0.14として、Ollendorfの式を用いて求めた圧粉磁心の密度と直流比透磁率μ’の理論値との関係を示す。図3に示した結果から、圧粉磁心の密度が高くなるにつれて、直流比透磁率μ’が高くなることがわかる。特に、圧粉磁心の密度が6g/cm以上になると、直流比透磁率μ’が約20以上になると考えられる。
実施例1、3及び比較例1、4で得られた圧粉磁心の直流比透磁率μ’を、直流自記磁束計(東英工業株式会社製「TRF-5A-PC」)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
表1に示したように、密度が6g/cm以上の圧粉磁心(実施例1、3)の直流比透磁率μ’は20以上であったのに対して、密度が6g/cm未満の圧粉磁心(比較例1、4)の直流比透磁率μ’は20未満であった。
以上説明したように、本発明によれば、磁性ナノ粒子を含有する高密度の圧粉磁心を得ることが可能となる。したがって、本発明の圧粉磁心は、比透磁率が高く、ヒステリシス損や渦電流損が小さくなるため、変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等の電磁気を利用した製品のコア材などとして有用である。

Claims (3)

  1. 磁性粒子として平均粒径が1~300nmの磁性ナノ粒子のみと、炭素数が12又は20~30の飽和脂肪酸とを含有することを特徴とする圧粉磁心。
  2. 前記飽和脂肪酸が直鎖状の飽和脂肪酸であることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
  3. 前記磁性ナノ粒子が、Feナノ粒子、Fe含有合金ナノ粒子、Fe含有金属酸化物ナノ粒子、表面に絶縁層を備えるFeナノ粒子、及び表面に絶縁層を備えるFe含有合金ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心。
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