以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]正極活物質複合体
まず、本発明の正極活物質複合体について説明する。
図1は、本発明の正極活物質複合体を模式的に示す拡大断面図、図2は、正極活物質とイオン伝導体との界面を基準にしたときの、イオン伝導体の厚さ方向についての、正極活物質に含まれる遷移金属元素の含有率の分布を模式的に示す図である。本発明の正極活物質複合体は、例えば、リチウムイオン二次電池において、正極合材として用いられる。
リチウムイオン二次電池は、幅広い産業において高エネルギーの電源として重要性を増しているが、電解質を固体電解質に置き換えた全固体電池では、材料や構造上の特性ゆえに内部抵抗が高くなりやすく、内部抵抗によって生じる充放電容量の劇的な低下が問題となっている。
そのため、上記のような問題を解決する目的で、本発明者は、固体電解質として機能するイオン伝導体の組成、正極活物質とイオン伝導体との界面付近での状態に着目し、鋭意研究を行った。その結果、本発明に至った。
すなわち、本発明の正極活物質複合体P1は、遷移金属元素を含有し粒状をなす正極活物質P11と、正極活物質P11の表面に接触して設けられたイオン伝導体P12とを有している。イオン伝導体P12は、Liと、M(Mは、Zrと、Nb、SbおよびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素)とを含む材料で構成されている。正極活物質P11に含まれる前記遷移金属元素の一部は、正極活物質複合体P1の製造の過程で、イオン伝導体P12中に移行し、拡散した状態になっている。図2に示すように、特性X線により求められるイオン伝導体P12中での前記遷移金属元素の含有率は、イオン伝導体P12の厚さ方向、すなわち、正極活物質P11とイオン伝導体P12との界面P13の法線方向に沿って、正極活物質P11から離れるにしたがって減少する。そして、イオン伝導体P12中での前記遷移金属元素の含有率が、物質量基準で、正極活物質P11とイオン伝導体P12との界面P13における前記遷移金属元素の含有率の12%になる点までの前記遷移金属元素の含有率の平均減少率が、界面P13からの厚み1nmあたり0.5%以上6.1%以下であることを特徴とする。
言い換えると、図2に示すように、正極活物質P11とイオン伝導体P12との界面P13を遷移金属元素の含有率の基準点として、界面P13での遷移金属元素の含有率を100%としたとき、イオン伝導体P12中での遷移金属元素の含有率は、界面P13から遠ざかるほど減少するが、この含有率が12%となる点を界面P13からY[nm]離間した点であるとすると、(100-12)/Yの値が0.5[%/nm]以上6.1[%/nm]以下という条件を満足する。さらに、言い換えると、図2中の線分LSの傾きの絶対値が0.5[%/nm]以上6.1[%/nm]以下である。
これにより、内部抵抗、特に、正極合材での内部抵抗が小さく、充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池の製造に好適に用いることができる正極活物質複合体を提供することができる。より詳しく説明すると、正極活物質複合体P1内でのリチウムイオンの拡散速度が向上し、充放電性能、特に、高負荷での充放電性能を優れたものとすることができる。
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、正極活物質P11に接触するイオン伝導体P12が、Nb、SbおよびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含まないものであると、界面の接触性が悪化し充放電特性が低下するという問題を生じる。
また、正極活物質P11に接触するイオン伝導体P12が、Zrを含まないものであると、界面における前記遷移金属元素の含有率の平均減少率が、界面P13からの厚み1nmあたり6.1%を大きく上回り、充放電特性が悪化するという問題を生じる。
また、正極活物質P11に接触するイオン伝導体P12が、Liを含まないものであると、界面でのイオン伝導が阻害され、充放電速度性能が悪化するという問題を生じる。
また、界面P13からのイオン伝導体P12の厚み1nmあたりの前記遷移金属元素の含有率の平均減少率が前記下限値未満であると、正極活物質複合体P1内でのリチウムイオン伝導経路を構成する複酸化物の格子振動が阻害されるため、充放電速度性能がかえって低下してしまう。
また、界面P13からのイオン伝導体P12の厚み1nmあたりの前記遷移金属元素の含有率の平均減少率が前記上限値を超えると、正極活物質と複酸化物の界面における密着性が低下し、充放電特性向上効果が得られなくなってしまう。
なお、本発明において、イオン伝導体P12中での前記遷移金属元素の含有率の平均減少率を求める範囲として、正極活物質P11とイオン伝導体P12との界面P13から、界面P13における前記遷移金属元素の含有率の12%になる点までとしたのは、前記遷移金属が適度に拡散することで界面の密着性が高まり、界面における電荷交換反応が最も促進されるという理由による。
また、本発明においては、イオン伝導体P12の構成成分、例えば、Zrの含有率が0%となる点を、界面P13として定めてもよい。
前述したように、界面P13からのイオン伝導体P12の厚み1nmあたりの前記遷移金属元素の含有率の平均減少率は、0.5%以上6.1%以下であればよいが、0.88%以上2.2%以下であるのが好ましい。
これにより、前述した本発明による効果がより顕著に発揮される。
なお、特性X線により求められる正極活物質P11に含まれる遷移金属元素であるCoの含有率には、例えば、特性X線を用いた測定により決定することができる。
以下、正極活物質P11と、イオン伝導体P12とを有する正極活物質複合体P1について、詳細に説明する。
[1-1]正極活物質
正極活物質複合体P1を構成する正極活物質P11は、電気化学的なリチウムイオンの吸蔵・放出を繰り返すことが可能な正極活物質、より詳しくは、遷移金属元素を含有し粒状をなすものである。
正極活物質P11は、通常、Liおよび遷移金属元素の複合酸化物としてのリチウム複合酸化物である。
正極活物質P11を構成する遷移金属元素は、周期表での第3族元素から第11族元素の間に存在する元素であればいかなるものであってもよいが、V、Cr、Mn、Fe、Co、NiおよびCuよりなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましく、Coであるのがより好ましい。
これにより、エネルギー密度が高い電池を形成でき、かつ界面密着性を高め出力性能にも優れた正極複合体を形成できるという効果が得られる。
正極活物質P11としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、Li2Mn2O3、LiCr0.5Mn0.5O2、LiFePO4、Li2FeP2O7、LiMnPO4、LiFeBO3、Li3V2(PO4)3、Li2CuO2、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、正極活物質P11としては、例えば、LiFeF3等のフッ化物を用いてもよい。
中でも、正極活物質P11は、LiCoO2であるのが好ましい。
これにより、正極活物質複合体P1の内部抵抗をより小さくすることができ、正極活物質複合体P1を適用したリチウムイオン二次電池の充放電特性を特に優れたものとすることができる。
正極活物質P11は、リチウム複合酸化物に加えて、他の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、LiBH4やLi4BN3H10等のホウ素化物錯体化合物、ポリビニルピリジン-ヨウ素錯体等のヨウ素錯体化合物、硫黄等の非金属化合物等が挙げられる。
ただし、正極活物質P11中における、リチウム複合酸化物以外の成分の含有率は、3.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましく、0.3質量%以下であるのがさらに好ましい。
正極活物質P11の平均粒径は、特に限定されないが、1.0μm以上30μm以下であるのが好ましく、2.0μm以上25μm以下であるのがより好ましく、3.0μm以上20μm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、正極活物質複合体P1の内部抵抗をより小さくすることができ、正極活物質複合体P1を適用したリチウムイオン二次電池の充放電特性を特に優れたものとすることができる。また、正極活物質複合体P1の生産性の向上、生産コストの低減の観点からも有利である。また、正極活物質複合体P1を適用したリチウムイオン二次電池において、正極活物質P11の理論容量に近い実容量密度と高い充放電レートとを両立しやすくなる。
なお、本明細書において、平均粒径とは、体積基準の平均粒径を言い、例えば、サンプルをメタノールに添加し、超音波分散器で3分間分散した分散液をコールターカウンター法粒度分布測定器(COULTER ELECTRONICS INS製TA-II型)にて、50μmのアパチャーを用いて測定することにより求めることができる。
正極活物質P11の粒度分布は、特に限定されず、例えば、1つのピークを有する粒度分布において、当該ピークの半値幅が0.15μm以上19μm以下とすることができる。また、正極活物質P11の粒度分布におけるピークは、2つ以上あってもよい。
正極活物質P11は、粒状をなすものであれば、具体的な形状は、特に限定されず、例えば、球状、柱状、板状、鱗片状、中空状、不定形等であってもよい。
正極活物質複合体P1中における正極活物質P11の占める割合は、5体積%以上98体積%以下であるのが好ましく、35体積%以上90体積%以下であるのがより好ましく、40体積%以上80体積%以下 であるのがさらに好ましい。
これにより、正極活物質複合体P1を適用したリチウムイオン二次電池についての高負荷での充放電性能をより優れたものとすることができる。
[1-2]イオン伝導体
イオン伝導体P12は、イオン伝導性を有する材料で構成されており、正極活物質複合体P1中において、正極活物質P11の表面に接触して設けられたものである。
イオン伝導体P12は、Liと、Zrと、M(Mは、Nb、SbおよびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素)とを含む材料で構成されている。
特に、イオン伝導体P12は、組成式Li7-xLa3(Zr2-xMx)O12で表わされ、かつ、0.1≦x≦1.3の関係を満たすガーネット型またはガーネット類似型結晶であるのが好ましい。
これにより、正極活物質と固体電解質との密着性を高めつつ固体電解質の内部を経由するリチウムイオン伝導抵抗を低下させる作用が得られるため、さらに内部抵抗を低減させ室温での電池特性を高めることができる。
上記のように、0.1≦x≦1.3の関係を満たすのが好ましいが、0.15≦x≦1.0関係を満たすのがより好ましく、0.2≦x≦0.7の関係を満たすのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
また、Mが、Ta、Sb、Nbの中から選ばれる2種以上の金属元素であると、正極活物質複合体P1を適用したリチウムイオン二次電池についての高負荷での充放電性能をさらに優れたものとすることができる。
MがTa、Sb、Nbの中から選ばれる2種以上の金属元素を含む場合、その好ましい組み合わせは、TaとSbとの組み合わせである。
これにより、正極活物質複合体P1を適用したリチウムイオン二次電池についての高負荷での充放電性能を特に優れたものとすることができる。
イオン伝導体P12は、組成式Li7-xLa3(Zr2-xMx)O12で表わされるガーネット型またはガーネット類似型結晶以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、他の結晶相を有する固体電解質・金属化合物等が挙げられる。
ただし、イオン伝導体P12中における、組成式Li7-xLa3(Zr2-xMx)O12で表わされるガーネット型またはガーネット類似型結晶以外の成分の含有率は、3.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましく、0.3質量%以下であるのがさらに好ましい。
正極活物質複合体P1中におけるイオン伝導体P12の占める割合は、5体積%以上90体積%以下であるのが好ましく、15体積%以上70体積%以下であるのがより好ましく、30体積%以上50体積%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、正極活物質複合体P1を適用したリチウムイオン二次電池についての高負荷での充放電性能をより優れたものとすることができる。
正極活物質複合体P1中における正極活物質P11の占める割合をX1[体積%]、正極活物質複合体P1中におけるイオン伝導体P12の占める割合をX2[体積%]としたとき、0.1≦X1/X2≦5.0の関係を満足するのが好ましく、0.2≦X1/X2≦3.5の関係を満足するのがより好ましく、0.5≦X1/X2≦1.2の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、正極活物質複合体P1を適用したリチウムイオン二次電池についての高負荷での充放電性能をより優れたものとすることができる。
また、正極活物質複合体P1中の正極活物質P11が充填されている領域以外の領域におけるイオン伝導体P12の充填率は、十分に高いものであるのが好ましい。言い換えると、空隙部P14の割合は低いことが好ましい。
より具体的には、正極活物質複合体P1中の正極活物質P11が充填されている領域以外の領域におけるイオン伝導体P12の充填率は、50体積%以上であるのが好ましく、60体積%以上であるのがより好ましく、70体積%以上100体積%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、正極活物質複合体P1を適用したリチウムイオン二次電池についての高負荷での充放電性能をより優れたものとすることができる。
正極活物質複合体P1中においては、正極活物質複合体P1中の正極活物質P11が充填されている領域以外の領域の中でも、比較的アスペクト比の大きい領域、例えば、アスペクト比が2以上の領域にもイオン伝導体P12が侵入しているのが好ましい。
これにより、正極活物質複合体P1を適用したリチウムイオン二次電池についての高負荷での充放電性能をより優れたものとすることができる。
このような正極活物質複合体P1は、後に詳述するような方法により、好適に製造することができる。
[1-3]その他の部分
正極活物質複合体P1は、前述した正極活物質P11、イオン伝導体P12以外の部分を有していてもよい。このような部分としては、例えば、空隙部P14が挙げられる。
正極活物質複合体P1中における空隙部P14の占める割合は、40体積%以下であるのが好ましく、30体積%以下であるのがより好ましく、20体積%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、正極活物質複合体P1を適用したリチウムイオン二次電池についての高負荷での充放電性能をより優れたものとすることができる。
また、正極活物質複合体P1は、例えば、正極活物質P11、イオン伝導体P12のほかに、導電助剤、結着剤等を含んでいてもよい。
導電助剤としては、正極反応電位において電気化学的な相互作用が無視できる導電体であれば、いかなるものを用いてもよく、より具体的には、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料、パラジウム、プラチナ等の貴金属、SnO2、ZnO、RuO2やReO3、Ir2O3等の導電性酸化物等を用いることができる。
[2]正極活物質複合体の製造方法
次に、前述した本発明の正極活物質複合体の製造方法について説明する。
[2-1]第1実施形態の正極活物質複合体の製造方法
まず、第1実施形態の製造方法について説明する。
本実施形態の正極活物質複合体P1の製造方法では、正極活物質P11と、常温常圧においてイオン伝導体P12の結晶相とは異なる結晶相で構成された複酸化物、リチウム化合物、および、オキソ酸化合物を含む固体組成物との混合物を用いて正極活物質複合体P1を製造する。
より具体的には、本実施形態の製造方法は、正極活物質P11と前記固体組成物とを含む混合物を用意する混合物用意工程と、前記混合物を所定の形状に成形し、成形体を得る成形工程と、前記成形体に熱処理を施し、正極活物質複合体P1を得る熱処理工程とを有する。
[2-1-1]混合物用意工程
混合物用意工程では、正極活物質P11と、常温常圧においてイオン伝導体P12の結晶相とは異なる結晶相で構成された複酸化物、リチウム化合物、および、オキソ酸化合物を含む固体組成物とを混合して、混合物を得る。
[2-1-1-1]正極活物質
混合物用意工程で用いる正極活物質P11は、上記[1-1]で説明したのと同様の条件を満足するものであるのが好ましい。
[2-1-1-2]固体組成物
混合物用意工程で用いる固体組成物は、常温常圧においてイオン伝導体P12の結晶相とは異なる結晶相で構成された複酸化物、リチウム化合物、および、オキソ酸化合物を含むものである。
このように、固体組成物は、常温常圧においてイオン伝導体P12の結晶相とは異なる結晶相で構成された複酸化物、リチウム化合物およびオキソ酸化合物を含んでいる。一方、後述するように、オキソ酸化合物が、オキソアニオンとともにリチウムイオンを含む化合物であってもよい。このような場合、当該化合物は、オキソ酸化合物であるとともに、リチウム化合物であると言える。したがって、例えば、固体組成物が、常温常圧においてイオン伝導体P12の結晶相とは異なる結晶相で構成された複酸化物と、オキソアニオンとともにリチウムイオンを含む化合物とのみからなるものである場合であっても、「固体組成物は、イオン伝導体の結晶相とは異なる結晶相で構成された複酸化物、リチウム化合物およびオキソ酸化合物を含む材料で構成されている」として取り扱うものとする。
当該固体組成物は、イオン伝導体P12の形成に寄与するものである。言い換えると、当該固体組成物は、イオン伝導体P12の前駆物質である。
このような固体組成物を用いることにより、比較的低温でかつ比較的短時間での熱処理により、界面P13からのイオン伝導体P12の厚み1nmあたりの前記遷移金属元素の含有率の平均減少率が所定の数値範囲内に含まれる正極活物質複合体P1を好適に形成することができる。より具体的には、オキソ酸化合物が固体組成物に含まれることにより、前記複酸化物の融点を低下させ、比較的低温、比較的短時間の熱処理である焼成処理で結晶成長を促進しつつ、正極活物質P11との密着性に優れたイオン伝導体P12を形成することができる。また、反応時に固体組成物に含まれる複酸化物にリチウムイオンを取り込ませる反応を生じることができる作用のため、低温でリチウム含有複酸化物である固体電解質としてのイオン伝導体P12を形成することができる。そして、熱処理工程で、正極活物質P11から形成されるイオン伝導体P12中に前記遷移金属元素を好適に拡散させることができ、界面P13からのイオン伝導体P12の厚み1nmあたりの前記遷移金属元素の含有率の平均減少率をより好適に制御することができる。
また、正極活物質P11間の隙間が、比較的狭い場合や、前述したようなアスペクト比が高い隙間である場合であっても、当該隙間に、イオン伝導体P12を好適に形成することができ、正極活物質P11とイオン伝導体P12との密着度合いが高く、空隙部P14の割合の少ない正極活物質複合体P1を好適に製造することができる。
以上のようなことから、例えば、従来法で課題となっていたリチウムイオンの揮散によるイオン伝導率の低下を抑制しつつ、高負荷での電池容量に優れる全固体電池を好適に製造することができる。
なお、本明細書において、常温常圧とは、25℃、1気圧のことを言う。
[2-1-1-2-1]複酸化物
前記固体組成物は、常温常圧においてイオン伝導体P12の結晶相とは異なる結晶相で構成された複酸化物を含んでいる。以下、当該複酸化物を「前駆酸化物」ともいう。また、本明細書において、結晶相について「異なる」とは、結晶相の型が同一でないことの他、型が同じでも少なくとも1つの格子定数が異なるもの等をも含む広い概念である。
前駆酸化物は、前記固体組成物を用いて形成されるイオン伝導体P12の結晶相とは異なる結晶相を有するものであればよいが、例えば、イオン伝導体P12の結晶相が立方晶ガーネット型結晶である場合、前駆酸化物の結晶相は、パイロクロア型結晶であるのが好ましい。
これにより、固体組成物に対する熱処理を、より低温、より短時間とした場合であっても、イオン伝導性が特に優れたイオン伝導体P12を好適に形成することができる。
なお、前駆酸化物の結晶相としては、上記のパイロクロア型結晶以外の結晶相、例えば、ペロブスカイト構造、岩塩型構造、ダイヤモンド構造、蛍石型構造、スピネル型構造等の立方晶、ラムスデライト型等の斜方晶、コランダム型等の三方晶等であってもよい。
前駆酸化物の組成は、特に限定されないが、前駆酸化物は、Mを、Nb、TaおよびSbよりなる群から選択される少なくとも1種の元素としたとき、La、ZrおよびMを含む複酸化物であるのが好ましい。
これにより、固体組成物に対する熱処理を、より低温、より短時間とした場合であっても、イオン伝導性が特に優れたイオン伝導体P12を好適に形成することができる。また、正極活物質複合体P1中における正極活物質P11とイオン伝導体P12との密着性をより優れたものとすることができる。
前駆酸化物の結晶粒径は、特に限定されないが、10nm以上200nm以下であるのが好ましく、15nm以上180nm以下であるのがより好ましく、20nm以上160nm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、表面エネルギーの増大に伴う融点降下現象である、いわゆる、Gibbs-Thomson効果によって、前駆酸化物の溶融温度や、固体組成物の焼成温度をさらに低下させることができる。また、正極活物質複合体P1中における正極活物質P11とイオン伝導体P12との密着性をより優れたものとすることができる。
前駆酸化物は、実質的に単独の結晶相で構成されているものであるのが好ましい。
これにより、正極活物質複合体P1の製造時、すなわち、高温結晶相が生成する際に経る結晶相遷移が実質的に1回になるため、結晶相転移にともなう元素の偏析や熱分解による夾雑結晶の生成が抑制され、製造される正極活物質複合体P1の各種特性がさらに向上する。
なお、前記固体組成物について、TG-DTAで昇温レート10℃/分で測定した際に、300℃以上1,000℃以下の範囲における発熱ピークが1つのみ観測される場合には、「実質的に単独の結晶相で構成されている」と判断することができる。
前記固体組成物中における前駆酸化物の含有率は、特に限定されないが、35質量%以上75質量%以下であるのが好ましく、45質量%以上65質量%以下であるのがより好ましく、55質量%以上60質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、固体組成物に対する熱処理を、より低温、より短時間とした場合であっても、イオン伝導性が特に優れたイオン伝導体P12を好適に形成することができる。
固体組成物は、複数種の前駆酸化物を含有していてもよい。固体組成物が複数種の前駆酸化物を含有している場合、固体組成物中における前駆酸化物の含有率の値としては、これらの含有率の和を採用するものとする。
[2-1-1-2-2]リチウム化合物
前記固体組成物は、リチウム化合物を含んでいる。
固体組成物中に含まれるリチウム化合物としては、例えば、LiH、LiF、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiClO4、LiNO3、LiNO2、Li3N、LiN3、LiNH2、Li2SO4、Li2S、LiOH、Li2CO3等の無機塩、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、2-エチルヘキサン酸リチウム、ステアリン酸リチウム等のカルボン酸塩、乳酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウム等のヒドロキシ酸塩、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、マレイン酸リチウム等のジカルボン酸塩、メトキシリチウム、エトキシリチウム、イソプロポキシリチウム等のアルコキシド、メチルリチウム、n-ブチルリチウム等のアルキル化リチウム、n-ブチル硫酸リチウム、n-ヘキシル硫酸リチウム、ドデシル硫酸リチウム等の硫酸エステル、2,4-ペンタンジオナトリチウム等のジケトン錯体、およびこれらの水和物、ハロゲン置換物等の誘導体等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
中でも、リチウム化合物としては、Li2CO3およびLiNO3よりなる群から選択される1種または2種であるのが好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
固体組成物中におけるリチウム化合物の含有率は、特に限定されないが、10質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、12質量%以上18質量%以下であるのがより好ましく、15質量%以上17質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、固体組成物に対する熱処理を、より低温、より短時間とした場合であっても、イオン伝導性が特に優れたイオン伝導体P12を好適に形成することができる。
固体組成物中における前駆酸化物の含有率をXP[質量%]、固体組成物中におけるリチウム化合物の含有率をXL[質量%]としたとき、0.13≦XL/XP≦0.58の関係を満足するのが好ましく、0.18≦XL/XP≦0.4の関係を満足するのがより好ましく、0.25≦XL/XP≦0.3の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、固体組成物に対する熱処理を、より低温、より短時間とした場合であっても、イオン伝導性が特に優れたイオン伝導体P12を好適に形成することができる。
固体組成物は、複数種のリチウム化合物を含有していてもよい。固体組成物が複数種のリチウム化合物を含有している場合、固体組成物中におけるリチウム化合物の含有率の値としては、これらの含有率の和を採用するものとする。
[2-1-1-2-3]オキソ酸化合物
固体組成物は、金属元素を含まないオキソ酸化合物を含んでいる。
オキソ酸化合物は、オキソアニオンを含む化合物である。
オキソ酸化合物を構成するオキソアニオンとしては、例えば、ハロゲンオキソ酸;ホウ酸イオン;炭酸イオン;オルト炭酸イオン;カルボン酸イオン;ケイ酸イオン;亜硝酸イオン;硝酸イオン;亜リン酸イオン;リン酸イオン;ヒ酸イオン;亜硫酸イオン;硫酸イオン;スルホン酸イオン;スルフィン酸イオン等が挙げられる。ハロゲンオキソ酸としては、例えば、次亜塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、次亜臭素酸イオン、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、過臭素酸イオン、次亜ヨウ素酸イオン、亜ヨウ素酸イオン、ヨウ素酸イオン、過ヨウ素酸イオン等が挙げられる。
特に、オキソ酸化合物は、オキソアニオンとして、硝酸イオン、硫酸イオンのうちの少なくとも一方を含んでいるのが好ましく、硝酸イオンを含んでいるのがより好ましい。
これにより、前駆酸化物の融点をより好適に降下させ、リチウム含有複酸化物の結晶成長をより効果的に促進することができる。その結果、固体組成物に対する熱処理を、より低温、より短時間とした場合であっても、イオン伝導性が特に優れたイオン伝導体P12を好適に形成することができる。
オキソ酸化合物を構成するカチオンとしては、特に限定されず、例えば、水素イオン、アンモニウムイオン、リチウムイオン、ランタンイオン、ジルコニウムイオン、ニオブイオン、タンタルイオン、アンチモンイオン等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、固体組成物を用いて形成すべきイオン伝導体P12の構成金属元素のイオンであるのが好ましい。
これにより、形成される固体電解質中に、好ましくない不純物が残存することをより効果的に防止することができる。
なお、オキソ酸化合物が、オキソアニオンとともにリチウムイオンを含む化合物である場合には、当該化合物は、オキソ酸化合物であるとともに、リチウム化合物であると言える。
固体組成物中におけるオキソ酸化合物の含有率は、特に限定されないが、0.1質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、1.5質量%以上15質量%以下であるのがより好ましく、2.0質量%以上10質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、固体組成物を用いて形成されるイオン伝導体P12中に、オキソ酸化合物が不本意に残存することをより確実に防止しつつ、より低温、より短時間での熱処理で、固体組成物からイオン伝導体P12を好適に得ることができ、得られるイオン伝導体P12のイオン伝導性を特に優れたものとすることができる。
固体組成物中における前駆酸化物の含有率をXP[質量%]、固体組成物中におけるオキソ酸化合物の含有率をXO[質量%]としたとき、0.013≦XO/XP≦0.58の関係を満足するのが好ましく、0.023≦XO/XP≦0.34の関係を満足するのがより好ましく、0.03≦XO/XP≦0.19の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、固体組成物を用いて形成されるイオン伝導体P12中に、オキソ酸化合物が不本意に残存することをより確実に防止しつつ、より低温、より短時間での熱処理で、固体組成物からイオン伝導体P12を好適に得ることができ、得られるイオン伝導体P12のイオン伝導性を特に優れたものとすることができる。
固体組成物中におけるリチウム化合物の含有率をXL[質量%]、固体組成物中におけるオキソ酸化合物の含有率をXO[質量%]としたとき、0.05≦XO/XL≦2の関係を満足するのが好ましく、0.08≦XO/XL≦1.25の関係を満足するのがより好ましく、0.11≦XO/XL≦0.67の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、固体組成物を用いて形成されるイオン伝導体P12中に、オキソ酸化合物が不本意に残存することをより確実に防止しつつ、より低温、より短時間での熱処理で、固体組成物からイオン伝導体P12を好適に得ることができ、得られるイオン伝導体P12のイオン伝導性を特に優れたものとすることができる。
固体組成物は、複数種のオキソ酸化合物を含有していてもよい。固体組成物が複数種のオキソ酸化合物を含有している場合、固体組成物中におけるオキソ酸化合物の含有率の値としては、これらの含有率の和を採用するものとする。
[2-1-1-2-4]その他の成分
固体組成物は、前述したような、前駆酸化物、リチウム化合物およびオキソ酸化合物を含んでいるが、さらに、これら以外の成分を含んでいてもよい。以下、固体組成物を構成する成分のうち、前駆酸化物、リチウム化合物、オキソ酸化合物以外の成分を「その他の成分」という。
固体組成物中に含まれるその他の成分としては、例えば、固体組成物を用いて形成すべきイオン伝導体P12と同一の結晶相を有する酸化物、固体組成物の製造過程で用いた溶媒成分等が挙げられる。
固体組成物中におけるその他の成分の含有率は、特に限定されないが、10質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
固体組成物は、その他の成分として複数種の成分を含有していてもよい。この場合、固体組成物中におけるその他の成分の含有率の値としては、これらの含有率の和を採用するものとする。
なお、固体組成物は、後述する第2実施形態の正極活物質複合体の製造方法で説明する混合液に対して、同じく第2実施形態の正極活物質複合体の製造方法で説明する乾燥工程および複酸化物形成工程で行うのと同様の処理を施すことにより、得ることができる。
正極活物質P11と固体組成物とを含む混合物は、これらを混合することにより得ることができる。また、前記混合物の調製には、正極活物質P11、固体組成物以外の他の成分を用いてもよい。
このような成分としては、例えば、正極活物質P11、固体組成物を分散させる分散媒、バインダー等が挙げられる。
特に、分散媒として機能する液体成分を用いることにより、例えば、前記混合物をペースト状等とすることができ、前記混合物の流動性、取り扱いのしやすさが向上する。
ただし、前記混合物中における前記他の成分の含有率は、20質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましく、5質量%以下であるのがさらに好ましい。
[2-1-2]成形工程
成形工程では、前述した混合物用意工程で用意した混合物を、成形して、成形体を得る。
成形体を得るための成形方法としては、各種成形方法を採用することができ、例えば、圧縮成形、押出成形、射出成形、各種印刷法、各種塗装法等が挙げられる。
本工程で得る成形体の形状は、特に限定されないが、通常、目的とする正極活物質複合体P1の形状に対応するものである。なお、本工程で得る成形体は、例えば、後の工程で除去される部位や熱処理工程での収縮分等を考慮して、目的とする正極活物質複合体P1とは異なる形状、大きさのものとしてもよい。
[2-1-3]熱処理工程
熱処理工程では、成形工程で得られた前記成形体に対して熱処理を施す。これにより、固体組成物をイオン伝導体P12へと変換し、正極活物質P11およびイオン伝導体P12を含む正極活物質複合体P1を得る。
熱処理工程での前記成形体の加熱温度は、特に限定されないが、700℃以上1000℃以下であるのが好ましく、730℃以上980℃以下であるのがより好ましく、750℃以上950℃以下であるのがさらに好ましい。
このような温度で加熱することにより、得られる正極活物質複合体P1の緻密度を十分に高いものとしつつ、加熱時に、固体組成物の構成金属元素成分、特に、Liのような比較的揮発性の高い成分が不本意に揮発することをより確実に防止することができ、所望の組成を有する正極活物質複合体P1をより確実に得ることができる。また、比較的低温での加熱処理を行うことにより、省エネルギー、正極活物質複合体P1の生産性の向上等の観点からも有利である。また、界面P13からのイオン伝導体P12の厚み1nmあたりの前記遷移金属元素の含有率の平均減少率を、前述した範囲内の値に制御しやすくなる。
本工程中において、加熱温度は変更してもよい。例えば、本工程は、比較的低温に保持して熱処理を行う第1の段階と、第1の段階後に昇温して比較的高温での熱処理を行う第2の段階とを有するものであってもよい。このような場合、本工程における最高温度が前述した範囲に含まれているのが好ましい。
本工程における加熱時間は、特に限定されないが、5分間以上300分間以下であるのが好ましく、10分間以上120分間以下であるのがより好ましく、15分間以上60分間以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
本工程は、いかなる雰囲気で行ってもよく、空気中や酸素ガス雰囲気中等の酸化性雰囲気中で行ってもよいし、窒素ガスや、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガス等の非酸化性雰囲気中で行ってもよい。また、本工程は、減圧または真空下、加圧下で行ってもよい。特に、本工程は、酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。
また、本工程中において、雰囲気は、実質的に同一の条件に保持してもよいし、異なる条件に変更してもよい。
上記のようにして得られる正極活物質複合体P1は、通常、原料として用いる固体組成物中に含まれていたオキソ酸化合物を実質的に含まないものである。より具体的には、正極活物質複合体P1中におけるオキソ酸化合物の含有率は、通常、100ppm以下であり、特に、50ppm以下であるのが好ましく、10ppm以下であるのがより好ましい。
これにより、正極活物質複合体P1中における好ましくない不純物の含有率を抑制することができ、正極活物質複合体P1の特性、信頼性をより優れたものとすることができる。
[2-2]第2実施形態の正極活物質複合体の製造方法
次に、第2実施形態の製造方法について説明する。
以下、第2実施形態の製造方法について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
本実施形態の正極活物質複合体P1の製造方法では、正極活物質P11で構成された母粒子と、常温常圧においてイオン伝導体P12の結晶相とは異なる結晶相で構成された複酸化物、リチウム化合物、および、オキソ酸化合物を含む固体組成物で構成され、前記母粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有する正極活物質複合粒子を複数個含む粒子含有組成物を用いて正極活物質複合体P1を製造する。
より具体的には、本実施形態の製造方法は、複数個の正極活物質複合粒子を含む粒子含有組成物を用意する粒子含有組成物用意工程と、前記粒子含有組成物を所定の形状に成形し、成形体を得る成形工程と、前記成形体に熱処理を施し、正極活物質複合体P1を得る熱処理工程とを有する。
[2-2-1]粒子含有組成物用意工程
まず、複数個の正極活物質複合粒子を含む粒子含有組成物を用意する。
正極活物質複合粒子は、例えば、以下のようにして製造することができる。
すなわち、正極活物質複合粒子は、例えば、混合液調製工程と、乾燥工程と、複酸化物形成工程とを有する方法を用いて、好適に製造することができる。
混合液調製工程は、前述した前駆酸化物を構成する金属元素を分子内に含む金属化合物と、リチウム化合物とが溶解しているとともに、正極活物質P11が分散している混合液を調製する工程である。
乾燥工程は、前記混合液から液体成分を除去して、固体状の混合物を得る工程である。
複酸化物形成工程は、前記固体状の混合物に熱処理を施して、前記金属化合物を反応させて複酸化物を形成することにより、正極活物質P11を母粒子として、その表面に、常温常圧においてイオン伝導体P12の結晶相とは異なる結晶相で構成された複酸化物、リチウム化合物、および、オキソ酸化合物を含む材料、すなわち、第1実施形態で述べた固体組成物に相当する材料で構成された被覆層を形成する工程である。
以下、各工程について説明する。
[2-2-1-1]混合液調製工程
混合液調製工程では、前述した前駆酸化物を構成する金属元素を分子内に含む金属化合物と、リチウム化合物とが溶解しているとともに、正極活物質P11が分散している混合液を調製する。
より具体的には、混合液調製工程では、金属元素Mを含む金属化合物、リチウム化合物、ジルコニウム化合物が溶解しているとともに、正極活物質P11が分散している混合液を調製する。
以下の説明では、イオン伝導体P12が、組成式Li7-xLa3(Zr2-xMx)O12で表わされるものである場合について、中心的に説明する。
当該混合液を構成する各成分の混合の順番は、特に限定されないが、例えば、リチウム化合物が溶解したリチウム原材料溶液と、ランタン化合物が溶解したランタン原材料溶液と、ジルコニウム化合物が溶解したジルコニウム原材料溶液と、金属元素Mを含む金属化合物が溶解した金属原材料溶液と、正極活物質P11とを混合して得ることができる。
また、このような場合、例えば、リチウム原材料溶液、ランタン原材料溶液、ジルコニウム原材料溶液および金属原材料溶液は、正極活物質P11との混合に先立ち、予め、混合されていてもよい。言い換えると、例えば、正極活物質P11は、リチウム原材料溶液と、ランタン原材料溶液と、ジルコニウム原材料溶液と、金属原材料溶液との混合溶液に、混合されるものであってもよい。
上記のような場合、正極活物質P11は、分散媒に分散された分散液の状態で、前記の溶液との混合に供されるものであってもよい。
上記のように、混合液調製工程において、複数種の液体を用いる場合、これらの溶液、分散液について、構成成分としての溶媒、分散媒は、共通の組成を有していてもよいし、異なる組成を有していてもよい。
混合液調製工程では、混合液中におけるリチウムの含有率が、上記組成式の化学量論組成に対して、1.05倍以上1.2倍以下となるようにリチウム化合物を用いるのが好ましい。
また、混合液調製工程では、混合液中におけるランタンの含有率が、上記組成式の化学量論組成に対して、等倍となるようにランタン化合物を用いるのが好ましい。
また、混合液調製工程では、混合液中におけるジルコニウムの含有率が、上記組成式の化学量論組成に対して、等倍となるようにジルコニウム化合物を用いるのが好ましい。
また、混合液調製工程では、混合液中におけるMの含有率が、上記組成式の化学量論組成に対して、等倍となるように金属元素Mを含む金属化合物を用いるのが好ましい。
リチウム化合物としては、例えば、リチウム金属塩、リチウムアルコキシド等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。リチウム金属塩としては、例えば、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、(2,4-ペンタンジオナト)リチウム等が挙げられる。また、リチウムアルコキシドとしては、例えば、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムプロポキシド、リチウムイソプロポキシド、リチウムブトキシド、リチウムイソブトキシド、リチウムセカンダリーブトキシド、リチウムターシャリーブトキシド、ジピバロイルメタナトリチウム等が挙げられる。中でも、リチウム化合物としては、硝酸リチウム、硫酸リチウムおよび(2,4-ペンタンジオナト)リチウムよりなる群から選択される1種または2種以上であるのが好ましい。リチウム源としては、水和物を用いてもよい。
また、ランタン源としての金属化合物であるランタン化合物としては、例えば、ランタン金属塩、ランタンアルコキシド、水酸化ランタン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。ランタン金属塩としては、例えば、塩化ランタン、硝酸ランタン、硫酸ランタン、酢酸ランタン、トリス(2,4-ペンタンジオナト)ランタン等が挙げられる。ランタンアルコキシドとしては、例えば、ランタントリメトキシド、ランタントリエトキシド、ランタントリプロポキシド、ランタントリイソプロポキシド、ランタントリブトキシド、ランタントリイソブトキシド、ランタントリセカンダリーブトキシド、ランタントリターシャリーブトキシド、ジピバロイルメタナトランタン等が挙げられる。中でも、ランタン化合物としては、硝酸ランタン、トリス(2,4-ペンタンジオナト)ランタンおよび水酸化ランタンよりなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。ランタン源としては、水和物を用いてもよい。
また、ジルコニウム源としての金属化合物であるジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウム金属塩、ジルコニウムアルコキシド等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。ジルコニウム金属塩としては、例えば、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等が挙げられる。また、ジルコニウムアルコキシドとしては、例えば、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトライソブトキシド、ジルコニウムテトラセカンダリーブトキシド、ジルコニウムテトラターシャリーブトキシド、ジピバロイルメタナトジルコニウム等が挙げられる。中でも、ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムテトラブトキシドが好ましい。ジルコニウム源としては、水和物を用いてもよい。
また、金属元素Mのタンタル源としての金属化合物であるタンタル化合物としては、例えば、タンタル金属塩、タンタルアルコキシド等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。タンタル金属塩としては、例えば、塩化タンタル、臭化タンタル等が挙げられる。また、タンタルアルコキシドとしては、例えば、タンタルペンタメトキシド、タンタルペンタエトキシド、タンタルペンタイソプロポキシド、タンタルペンタノルマルプロポキシド、タンタルペンタイソブトキシド、タンタルペンタノルマルブトキシド、タンタルペンタセカンダリーブトキシド、タンタルペンタターシャリーブトキシド等が挙げられる。中でも、タンタル化合物としては、タンタルペンタエトキシドが好ましい。タンタル源としては、水和物を用いてもよい。
また、金属元素Mのアンチモン源としての金属化合物であるアンチモン化合物としては、例えば、アンチモン金属塩、アンチモンアルコキシド等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。アンチモン金属塩としては、例えば、臭化アンチモン、塩化アンチモン、フッ化アンチモン等が挙げられる。また、アンチモンアルコキシドとしては、例えば、アンチモントリメトキシド、アンチモントリエトキシド、アンチモントリイソプロポキシド、アンチモントリノルマルプロポキシド、アンチモントリイソブトキシド、アンチモントリノルマルブトキシド等が挙げられる。中でも、アンチモン化合物としては、アンチモントリイソブトキシドが好ましい。アンチモン源としては、水和物を用いてもよい。
また、金属元素Mのニオブ源としての金属化合物であるニオブ化合物としては、例えば、ニオブ金属塩、ニオブアルコキシド、ニオブアセチルアセトン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。ニオブ金属塩としては、例えば、塩化ニオブ、オキシ塩化ニオブ、蓚酸ニオブ等が挙げられる。また、ニオブアルコキシドとしては、例えば、ニオブペンタエトキシド等のニオブエトキシド、ニオブプロポキシド、ニオブイソプロポキシド、ニオブセカンダリーブトキシド等が挙げられる。中でも、ニオブ化合物としては、ニオブペンタエトキシドが好ましい。ニオブ源としては、水和物を用いてもよい。
前記溶媒、前記分散媒としては、特に限定されず、例えば、各種の有機溶媒を用いることができるが、より具体的には、例えば、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、有機酸類、芳香族類、アミド類等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上の組み合わせである混合溶媒を用いることができる。アルコール類としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、アリルアルコール、2-n-ブトキシエタノール等が挙げられる。グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。ケトン類としては、例えば、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。エーテル類としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。有機酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、2-エチル酪酸、プロピオン酸等が挙げられる。芳香族類としては、例えば、トルエン、o-キシレン、p-キシレン等が挙げられる。アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。中でも、前記溶媒、前記分散媒としては、2-n-ブトキシエタノールおよびプロピオン酸のうちの少なくとも一方であるのが好ましい。
また、本工程で調製する混合液は、オキソアニオンを含んでいるのが好ましい。
これにより、正極活物質複合粒子中にオキソ酸化合物を好適に含有させることができ、前述した効果をより好適に発揮させることができる。また、本工程よりも後の工程で、オキソアニオンを含ませる場合に比べて、正極活物質複合粒子の生産性を優れたものとすることができる。また、正極活物質複合粒子中における不本意な組成のばらつきをより効果的に防止することができる。
本工程において、混合液を、オキソアニオンを含むものとして調製する場合、前述した被覆層形成用の原料としての各種金属化合物として、オキソアニオンを含む金属塩を用いることが好ましいが、混合液の調製に、前記各種金属化合物とは異なる成分として、オキソアニオンを含むオキソ酸化合物をさらに用いてもよい。
オキソアニオンとしては、例えば、ハロゲンオキソ酸;ホウ酸イオン;炭酸イオン;オルト炭酸イオン;カルボン酸イオン;ケイ酸イオン;亜硝酸イオン;硝酸イオン;亜リン酸イオン;リン酸イオン;ヒ酸イオン;亜硫酸イオン;硫酸イオン;スルホン酸イオン;スルフィン酸イオン等が挙げられる。ハロゲンオキソ酸としては、例えば、次亜塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、塩素酸イオン、過塩素酸イオン、次亜臭素酸イオン、亜臭素酸イオン、臭素酸イオン、過臭素酸イオン、次亜ヨウ素酸イオン、亜ヨウ素酸イオン、ヨウ素酸イオン、過ヨウ素酸イオン等が挙げられる。
なお、オキソ酸化合物は、混合液調製工程よりも後のタイミングで添加してもよい。
[2-2-1-2]乾燥工程
乾燥工程では、混合液調製工程で得られた混合液から液体成分を除去して、固体状の混合物を得る工程である。なお、ここでの固体状の混合物には、その一部がゲル状となっている混合物も含むものとする。
本工程で得られる固体状の混合物は、混合液中に含まれていた液体成分、すなわち前述した溶媒や分散媒の少なくとも一部が除去されたものであればよく、前記液体成分のすべてが除去されたものでなくてもよい。
本工程は、例えば、混合液調製工程で得られた混合液に対して、遠心分離機による処理を施し、上澄液を除去することにより行うことができる。
遠心分離により上澄液から分離された沈殿物に対して、さらに、前記混合液との混合、超音波分散および遠心分離の一連の処理を所定回数行ってもよい。これにより、被覆層の厚さを好適に調整することができる。
また、本工程は、例えば、熱処理を施すことにより行ってもよい。
この場合、熱処理の条件は、溶媒、分散媒の沸点や蒸気圧等にもよるが、当該熱処理での加熱温度は、50℃以上250℃以下であるのが好ましく、60℃以上230℃以下であるのがより好ましく、80℃以上200℃以下であるのがさらに好ましい。
また、当該熱処理での加熱時間は、10分間以上180分間以下であるのが好ましく、20分間以上120分間以下であるのがより好ましく、30分間以上60分間以下であるのがさらに好ましい。
前記熱処理は、いかなる雰囲気で行ってもよく、空気中や酸素ガス雰囲気中等の酸化性雰囲気中で行ってもよいし、窒素ガスや、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガス等の非酸化性雰囲気中で行ってもよい。また、前記熱処理は、減圧または真空下、加圧下で行ってもよい。
また、前記熱処理中において、雰囲気は、実質的に同一の条件に保持してもよいし、異なる条件に変更してもよい。
また、本工程では、上記のような処理を組み合わせて行ってもよい。
[2-2-1-3]複酸化物形成工程
複酸化物形成工程は、乾燥工程で得られた固体状の混合物に熱処理を施して、前記金属化合物を反応させて複酸化物を形成することにより、正極活物質P11の表面に、常温常圧においてイオン伝導体P12の結晶相とは異なる結晶相で構成された複酸化物、リチウム化合物およびオキソ酸化合物を含む材料で構成された被覆層を形成する。
本工程において形成される複酸化物は、正極活物質P11を構成する正極活物質とは異なるものである。
本工程での熱処理は、一定の条件で行ってもよいし、異なる条件を組み合わせて行ってもよい。
本工程での熱処理の条件は、形成される前駆酸化物の組成等にもよるが、本工程での加熱温度は、400℃以上600℃以下であるのが好ましく、430℃以上570℃以下であるのがより好ましく、450℃以上550℃以下であるのがさらに好ましい。
また、本工程での加熱時間は、5分間以上180分間以下であるのが好ましく、10分間以上120分間以下であるのがより好ましく、15分間以上60分間以下であるのがさらに好ましい。
本工程での熱処理は、いかなる雰囲気で行ってもよく、空気中や酸素ガス雰囲気中等の酸化性雰囲気中で行ってもよいし、窒素ガスや、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガス等の非酸化性雰囲気中で行ってもよい。また、本工程は、減圧または真空下、加圧下で行ってもよい。特に、本工程は、酸化性雰囲気中で行うのが好ましい。
正極活物質複合粒子の被覆層の平均厚さは、0.002μm以上3.0μm以下であるのが好ましく、0.03μm以上2.0μm以下であるのがより好ましく、0.05μm以上1.5μm以下であるのがさらに好ましい。
これにより、正極活物質複合粒子の大きさ、および、母粒子としての正極活物質P11の平均粒径に対する被覆層の平均厚さの比率をより好適な範囲に調整しやすくなる。その結果、例えば、正極活物質複合粒子の流動性、取り扱いのしやすさをより良好なものとし、また、正極活物質複合粒子を用いて製造される正極活物質複合体P1の内部抵抗をより小さいものとすることができ、より優れた充放電特性を有するリチウムイオン二次電池の製造に好適に適用することができる。
なお、本明細書において、被覆層の平均厚さとは、複数個の正極活物質複合粒子の集合体である粉末全体に含まれる母粒子としての正極活物質P11と被覆層との比率から、各正極活物質P11がその平均粒径と同一の直径を有する真球状をなすものであり、各正極活物質P11の外表面全体に均一な厚さの被覆層が形成されているものと仮定した場合に求められる被覆層の厚さのことを言う。
また、母粒子としての正極活物質P11の平均粒径をD[μm]、被覆層の平均厚さをT[μm]としたとき、0.0004≦T/D≦1.0の関係を満足するのが好ましく、0.0010≦T/D≦0.30の関係を満足するのがより好ましく、0.0020≦T/D≦0.15の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、正極活物質複合粒子の大きさ、および、母粒子としての正極活物質P11の平均粒径に対する被覆層の平均厚さの比率をより好適な範囲に調整しやすくなる。その結果、例えば、正極活物質複合粒子の流動性、取り扱いのしやすさをより良好なものとし、また、正極活物質複合粒子を用いて製造される正極活物質複合体P1の内部抵抗をより小さいものとすることができ、より優れた充放電特性を有するリチウムイオン二次電池の製造に好適に適用することができる。
被覆層は、母粒子としての正極活物質P11の表面の少なくとも一部を覆うものであればよく、正極活物質P11の外表面に対する被覆層の被覆率、すなわち、正極活物質P11の外表面全面積に対する被覆層の被覆部分の面積の割合は、特に限定されないが、10%以上であるのが好ましく、20%以上であるのがより好ましく、30%以上であるのがさらに好ましい。また、被覆率の上限は、100%でも、100%未満でもよい。
これにより、正極活物質複合粒子を用いて製造される正極活物質複合体P1の内部抵抗をより小さいものとすることができ、より優れた充放電特性を有するリチウムイオン二次電池を好適に製造することができる。
正極活物質複合粒子の全質量に対する被覆層の質量の割合は、0.00001質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、0.0001質量%以上2質量%以下であるのがより好ましく、0.0005質量%以上0.002質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、正極活物質複合粒子を用いて製造される正極活物質複合体P1の内部抵抗をより小さいものとすることができ、より優れた充放電特性を有するリチウムイオン二次電池を好適に製造することができる。
正極活物質複合粒子を構成する被覆層は、条件の異なる部位を有していてもよい。例えば、被覆層は、母粒子としての正極活物質P11の一部の表面を被覆する第1の部分と、当該正極活物質P11の第1の部分で被覆されていない表面を被覆する第2の部分とを有するものであり、第1の部分と第2の部分とが異なる組成を有するものであってもよい。また、正極活物質複合粒子を構成する被覆層は、組成の異なる複数の層を備えた積層体であってもよい。また、正極活物質P11を被覆する被覆層は、互いに厚さの異なる複数の領域を有するものであってもよい。
複数個の正極活物質複合粒子の集合体である粉末は、被覆層の条件が互いに異なる正極活物質複合粒子を含んでいてもよい。例えば、粉末は、被覆層の条件が異なる正極活物質複合粒子して、被覆層の厚さが異なる正極活物質複合粒子、被覆層の組成が異なる正極活物質複合粒子等を含んでいてもよい。
上記の説明では、正極活物質複合粒子を、混合液調製工程と、遠心分離機を用いた乾燥工程の後に、混合液の溶質が固形分として付着した粒子に対して、複酸化物形成工程での熱処理を施す方法を用いて製造する場合について代表的に説明したが、混合液調製工程で得られた混合液を、スプレードライ法等の方法で、噴霧・乾燥することにより製造してもよい。噴霧・乾燥により得られた粒子に対して、前述した複酸化物形成工程に対応する熱処理を施してもよいし、加熱状態で噴霧・乾燥を行うことにより、前述した乾燥工程に対応する処理と複酸化物形成工程に対応する処理とを同一の工程で行ってもよい。
[2-2-2]成形工程
成形工程では、上記のようにして得られた粒子含有組成物を所定の形状に成形し、成形体を得る。
本工程では、複数個の粒子含有組成物の集合体である粉末を用いることができる。また、粉末を用いる場合、例えば、含まれる正極活物質複合粒子の条件、より具体的には、正極活物質複合粒子の平均粒径や、正極活物質複合粒子を構成する母粒子の大きさや組成、被覆層の厚さや組成等の条件が異なる2種以上の粉末を混合して用いてもよい。さらに、本工程では、粉末に加えて、他の成分を含む組成物を用いてもよい。
このような成分としては、例えば、正極活物質複合粒子を分散させる分散媒、被覆層が設けられていない正極活物質、固体電解質粒子、正極活物質複合粒子の母粒子を他の材料で置換した複合粒子、正極活物質複合粒子の被覆層を他の材料で置換した複合粒子、正極活物質複合粒子の被覆層の構成材料で例示した材料で構成された粒子、バインダー等が挙げられる。
特に、分散媒を用いることにより、例えば、前記組成物をペースト状等とすることができ、前記組成物の流動性、取り扱いのしやすさが向上する。
成形体を得るための成形方法としては、各種成形方法を採用することができ、例えば、圧縮成形、押出成形、射出成形、各種印刷法、各種塗装法等が挙げられる。
本工程で得る成形体の形状は、特に限定されないが、通常、目的とする正極活物質複合体P1の形状に対応するものである。なお、本工程で得る成形体は、例えば、後の工程で除去される部位や熱処理工程での収縮分等を考慮して、目的とする正極活物質複合体P1とは異なる形状、大きさのものとしてもよい。
[2-2-3]熱処理工程
熱処理工程では、上記のようにして得られた成形体に熱処理を施し、正極活物質複合体P1を得る。
本実施形態における熱処理工程は、第1実施形態で述べたのと同様の条件で行うことができる。
[3]リチウムイオン二次電池
次に、本発明を適用したリチウムイオン二次電池について説明する。
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、前述したような本発明の正極活物質複合体を備えるものであり、例えば、前述した正極活物質複合体の製造方法を適用して製造することができる。
このようなリチウムイオン二次電池は、内部抵抗が小さく、充放電特性に優れたものである。
[3-1]第1実施形態のリチウムイオン二次電池
以下、第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池について説明する。
図3は、第1実施形態のリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す概略斜視図、図4は、第1実施形態のリチウムイオン二次電池の構造を模式的に示す概略断面図である。
図3に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池100は、正極として機能する、前述した正極活物質複合体P1を適用した正極合材210と、正極合材210に対して順に積層された、電解質層220と、負極30とを有している。また、正極合材210の電解質層220に対向する面とは反対の面側に正極合材210に接する集電体41を有し、負極30の電解質層220に対向する面とは反対の面側に負極30に接する集電体42を有している。正極合材210、電解質層220、負極30は、いずれも固相で構成されていることから、リチウムイオン二次電池100は、充放電可能な全固体電池である。
リチウムイオン二次電池100の形状は、特に限定されず、例えば、多角形の盤状等であってもよいが、図示の構成では、円盤状である。リチウムイオン二次電池100の大きさは、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池100の直径は、例えば、10mm以上20mm以下であり、リチウムイオン二次電池100の厚さは、例えば、0.1mm以上1.0mm以下である。
リチウムイオン二次電池100が、このように、小型、薄型であると、充放電可能であって全固体であることと相まって、スマートフォン等の携帯情報端末の電源として好適に用いることができる。なお、後述するように、リチウムイオン二次電池100は、携帯情報端末の電源以外の用途のものであってもよい。
以下、リチウムイオン二次電池100の各構成について説明する。
[3-1-1]正極合材
図4に示すように、リチウムイオン二次電池100における正極合材210は、粒子状の正極活物質211と、固体電解質212とを含んでいる。このような正極合材210では、粒子状の正極活物質211と固体電解質212とが接する界面面積を大きくして、リチウムイオン二次電池100における電池反応速度をより高めることが可能となっている。このような正極合材210は、前述した本発明の正極活物質複合体P1を適用したものである。すなわち、主に、正極活物質211は、正極活物質複合体P1の正極活物質P11に対応するものであり、固体電解質212は、正極活物質複合体P1のイオン伝導体P12に対応するものである。
正極合材210の厚さは、特に限定されないが、1.1μm以上500μm以下であるのが好ましく、2.5μm以上100μm以下であるのがより好ましい。
正極合材210の形成方法としては、例えば、グリーンシート法、プレス焼成法、鋳込み焼成法等が挙げられる。正極合材210の形成方法の具体例については後に詳述する。なお、正極合材210と電解質層220との密着性の向上や、比表面積の増大によるリチウムイオン二次電池100の出力や電池容量の向上等を目的として、例えば、電解質層220と接触する正極合材210の表面に、ディンプル、トレンチ、ピラー等の三次元的なパターン構造を形成してもよい。
[3-1-2]電解質層
電解質層220は、正極合材210との界面インピーダンスの観点から、固体電解質212と同一または同種の材料で構成されることが好ましいが、固体電解質212とは異なる材料で構成されたものであってもよい。例えば、電解質層220は、前述した固体組成物と同様の材料で構成された粒子を用いて形成されたものであってもよい。また、電解質層220は、他の酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、水素化物固体電解質、ドライポリマー電解質、擬固体電解質の結晶質または非晶質であってもよく、これらから選択される2種以上を組み合わせた材料で構成されていてもよい。
結晶質の酸化物としては、例えば、Li0.35La0.55TiO3、Li0.2La0.27NbO3、および、これらの結晶を構成する元素の一部をN、F、Al、Sr、Sc、Nb、Ta、Sb、ランタノイド元素等で置換したペロブスカイト型結晶またはペロブスカイト類似型結晶、Li7La3Zr2O12、Li5La3Nb2O12、Li5BaLa2TaO12、および、これらの結晶を構成する元素の一部をN、F、Al、Sr、Sc、Nb、Ta、Sb、ランタノイド元素等で置換したガーネット型結晶またはガーネット類似型結晶、Li1.3Ti1.7Al0.3(PO4)3、Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3、Li1.4Al0.4Ti1.4Ge0.2(PO4)3、および、これらの結晶を構成する元素の一部をN、F、Al、Sr、Sc、Nb、Ta、Sb、ランタノイド元素等で置換したNASICON型結晶、Li14ZnGe4O16等のLISICON型結晶、Li3.4V0.6Si0.4O4、Li3.6V0.4Ge0.6O4、Li2+xC1-xBxO3等のその他の結晶質等を挙げることができる。
結晶質の硫化物としては、例えば、Li10GeP2S12、Li9.6P3S12、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3、Li3PS4等を挙げることができる。
また、その他の非晶質としては、例えば、Li2O-TiO2、La2O3-Li2O-TiO2、LiNbO3、LiSO4、Li4SiO4、Li3PO4-Li4SiO4、Li4GeO4-Li3VO4、Li4SiO4-Li3VO4、Li4GeO4-Zn2GeO2、Li4SiO4-LiMoO4、Li4SiO4-Li4ZrO4、SiO2-P2O5-Li2O、SiO2-P2O5-LiCl、Li2O-LiCl-B2O3、LiAlCl4、LiAlF4、LiF-Al2O3、LiBr-Al2O3、Li2.88PO3.73N0.14、Li3N-LiCl、Li6NBr3、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-P2S5等を挙げることができる。
電解質層220が結晶質で構成されている場合、当該結晶質は、リチウムイオン伝導の方向の結晶面異方性が小さい立方晶等の結晶構造を有するものであるのが好ましい。また、電解質層220が非晶質で構成されている場合、リチウムイオン伝導の異方性が小さくなる。このため、上記のような結晶質、非晶質は、いずれも、電解質層220を構成する固体電解質として好ましい。
電解質層220の厚さは、0.1μm以上100μm以下であるのが好ましく、0.2μm以上10μm以下であるのがより好ましい。電解質層220の厚さが前記範囲内の値であると、電解質層220の内部抵抗をさらに低くするとともに、正極合材210と負極30との間での短絡の発生をより効果的に防止することができる。
電解質層220と負極30との密着性の向上や、比表面積の増大によるリチウムイオン二次電池100の出力や電池容量の向上等を目的として、例えば、電解質層220の負極30と接する表面には、例えば、ディンプル、トレンチ、ピラー等の三次元的なパターン構造を形成してもよい。
電解質層220の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PLD法、ALD法、エアロゾルデポジション法等の気相堆積法、ゾルゲル法やMOD法といった溶液を用いた化学堆積法等が挙げられる。この場合、必要に応じて、成膜後に熱処理を施し、形成された膜の構成材料の結晶相を変更してもよい。
また、例えば、電解質またはその前駆体の微粒子を適当なバインダーとともにスラリー化して、スキージーやスクリーン印刷を行って塗膜を形成し、塗膜を乾燥および焼成して電解質層220の表面に焼き付けてもよい。この場合、例えば、電解質の前駆体としては、前述した固体組成物と同様の条件を満足する材料を用いることができる。
[3-1-3]負極
負極30は、正極活物質211よりも低い電位において電気化学的なリチウムイオンの吸蔵・放出を繰り返すいわゆる負極活物質で構成されたものであればいかなるものであってもよい。
具体的には、負極30を構成する負極活物質としては、例えば、Nb2O5、V2O5、TiO2、In2O3、ZnO、SnO2、NiO、ITO、AZO、GZO、ATO、FTO、Li4Ti5O12、Li2Ti3O7等のリチウムの複酸化物等が挙げられる。また、例えば、Li、Al、Si、Si-Mn、Si-Co、Si-Ni、Sn、Zn、Sb、Bi、In、Au等の金属および合金、炭素材料、LiC24、LiC6等のような炭素材料の層間にリチウムイオンが挿入された物質等が挙げられる。
負極30は、導電性やイオン拡散距離を鑑みると、電解質層220の一方の表面に薄膜として形成されているのが好ましい。
当該薄膜による負極30の厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上500μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上100μm以下であるのがより好ましい。
負極30の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PLD法、ALD法、エアロゾルデポジション法等の気相堆積法、ゾルゲル法やMOD法といった溶液を用いた化学堆積法等が挙げられる。また、例えば、負極活物質の微粒子を適当なバインダーとともにスラリー化して、スキージーやスクリーン印刷を行って塗膜を形成し、塗膜を乾燥および焼成して電解質層220の表面に焼き付けてもよい。
[3-1-4]集電体
集電体41,42は、正極合材210または負極30に対する電子の授受を担うよう設けられた導電体である。集電体としては、通常、十分に電気抵抗が小さく、また充放電によって電気伝導特性やその機械構造が実質的に変化しない材料で構成されたものが用いられる。具体的には、正極合材210の集電体41の構成材料としては、例えば、Al、Ti、Pt、Au等が用いられる。また、負極30の集電体42の構成材料としては、例えば、Cu等が好適に用いられる。
集電体41,42は、通常、それぞれ、正極合材210、負極30との接触抵抗が小さくなるように設けられている。集電体41,42の形状としては、例えば、板状、メッシュ状等が挙げられる。
集電体41,42の厚さは、特に限定されないが、7μm以上85μm以下であるのが好ましく、10μm以上60μm以下であるのがより好ましい。
図示の構成では、リチウムイオン二次電池100は、一対の集電体41,42を有しているが、例えば、複数のリチウムイオン二次電池100を積層し、電気的に直列に接続して用いる場合、リチウムイオン二次電池100は、集電体41,42のうち集電体41だけを備える構成とすることもできる。
リチウムイオン二次電池100は、いかなる用途のものであってもよい。リチウムイオン二次電池100が電源として適用される電子機器としては、例えば、パーソナルコンピューター、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、音楽プレイヤー、タブレット端末、時計、スマートウォッチ、インクジェットプリンター等の各種プリンター、テレビ、プロジェクター、ヘッドアップディスプレイ、ワイヤレスヘッドホン、ワイヤレスイヤホン、スマートグラス、ヘッドマウントディスプレイ等のウェアラブル端末、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ドライブレコーダー、ページャー、電子手帳、電子辞書、電子翻訳機、電卓、電子ゲーム機器、玩具、ワードプロセッサー、ワークステーション、ロボット、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、医療機器、魚群探知機、各種測定機器、移動体端末基地局用機器、車両、鉄道車輌、航空機、ヘリコプター、船舶等の各種計器類、フライトシミュレーター、ネットワークサーバー等が挙げられる。また、リチウムイオン二次電池100は、例えば、自動車や船舶等の移動体に適用してもよい。より具体的には、例えば、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車等の蓄電池として、好適に適用することができる。また、例えば、家庭用電源、工業用電源、太陽光発電の蓄電池等にも適用することができる。
[3-2]第2実施形態のリチウムイオン二次電池
次に、第2実施形態に係るリチウムイオン二次電池について説明する。
図5は、第2実施形態のリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す概略斜視図、図6は、第2実施形態のリチウムイオン二次電池の構造を模式的に示す概略断面図である。
以下、これらの図を参照して第2実施形態に係るリチウムイオン二次電池について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
図5に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池100は、正極合材210と、正極合材210に対して順に積層された、電解質層220と、負極合材330とを有している。また、正極合材210の電解質層220に対向する面とは反対の面側に正極合材210に接する集電体41を有し、負極合材330の電解質層220に対向する面とは反対の面側に負極合材330に接する集電体42を有している。
以下、前述した実施形態に係るリチウムイオン二次電池100が有する構成と異なる負極合材330について説明する。
[3-2-1]負極合材
図6に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池100における負極合材330は、粒子状の負極活物質331と、固体電解質212とを含んでいる。このような負極合材330では、粒子状の負極活物質331と固体電解質212とが接する界面面積を大きくして、リチウムイオン二次電池100における電池反応速度をより高めることが可能となっている。
負極活物質331の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm以上150μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上60μm以下であるのがより好ましい。
これにより、負極活物質331の理論容量に近い実容量密度と高い充放電レートを両立しやすくなる。
負極活物質331の粒度分布は、特に限定されず、例えば、1つのピークを有する粒度分布において、当該ピークの半値幅が0.1μm以上18μm以下とすることができる。また、負極活物質331の粒度分布におけるピークは、2つ以上あってもよい。
なお、図6では、粒子状の負極活物質331の形状を球状として示したが、負極活物質331の形状は、球状に限定されず、例えば、柱状、板状、鱗片状、中空状、不定形等の様々な形態をとることができ、また、これらのうちの2種以上が混合されていてもよい。
負極活物質331としては、前記第1実施形態で負極30の構成材料として挙げたものと同様のものを挙げることができる。
本実施形態において、負極合材330は、前述した負極活物質331に加えて、固体電解質212を含んでいる。固体電解質212は、負極活物質331の粒子間を埋めるように、または、負極活物質331の表面に接触、特に密着するように存在する。
これにより、当該固体電解質212についてのイオン伝導率は特に優れたものとなる。また、負極活物質331や電解質層220に対する固体電解質212の密着性を優れたものとすることができる。以上のようなことから、リチウムイオン二次電池100全体としての特性、信頼性を特に優れたものとすることができる。
負極合材330中における負極活物質331の含有率をXB[質量%]、負極合材330中における固体電解質212の含有率をXS[質量%]としたとき、0.14≦XS/XB≦26の関係を満足するのが好ましく、0.44≦XS/XB≦4.1の関係を満足するのがより好ましく、0.89≦XS/XB≦2.1の関係を満足するのがさらに好ましい。
また、負極合材330は、負極活物質331、固体電解質212のほかに、導電助剤、結着剤等を含んでいてもよい。
導電助剤としては、正極反応電位において電気化学的な相互作用が無視できる導電体であれば、いかなるものを用いてもよく、より具体的には、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素材料、パラジウム、プラチナ等の貴金属、SnO2、ZnO、RuO2やReO3、Ir2O3等の導電性酸化物等を用いることができる。
負極合材330の厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上500μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上100μm以下であるのがより好ましい。
なお、前記第1、第2実施形態において、リチウムイオン二次電池100を構成する各層の層間または層の表面には、他の層が設けられていてもよい。このような層としては、例えば、接着層、絶縁層、保護層等が挙げられる。
[4]リチウムイオン二次電池の製造方法
次に、前述したリチウムイオン二次電池についての製造方法について説明する。
本発明に係るリチウムイオン二次電池の製造方法では、例えば、前述した正極活物質複合体の製造方法を適用することができる。
[4-1]第1実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法
以下、第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
図7は、第1実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を示すフローチャート、図8および図9は、第1実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を模式的に示す概略図、図10は、正極合材の他の形成方法を模式的に示す概略断面図である。
図7に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池100の製造方法は、ステップS11と、ステップS12と、ステップS13と、ステップS14とを備えている。
ステップS11は、正極合材210の形成工程である。ステップS12は、電解質層220の形成工程である。ステップS13は、負極30の形成工程である。ステップS14は、集電体41,42の形成工程である。
[4-1-1]ステップS11
ステップS11の正極合材210の形成工程では、例えば、前述した第1実施形態または第2実施形態に係る正極活物質複合体の製造方法を適用して、例えば、グリーンシート法により正極合材210を形成する。より具体的には、以下のようにして正極合材210を形成することができる。
すなわち、まず、例えば、ポリプロピレンカーボネート等の結着剤を、1,4-ジオキサン等の溶媒に溶解した溶液を用意し、当該溶液と、前述した第1実施形態に係る正極活物質複合体の製造方法で説明した混合物または前述した第2実施形態に係る正極活物質複合体の製造方法で説明した粒子含有組成物とを混合することでスラリー210mを得る。スラリー210mの調製には、必要に応じて、さらに、分散剤や希釈剤、保湿剤等を用いてもよい。
次に、スラリー210mを用いて正極合材形成用シート210sを形成する。より具体的には、図8に示すように、例えば、全自動フィルムアプリケーター500を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の基材506上に、スラリー210mを所定の厚さで塗布して正極合材形成用シート210sとする。全自動フィルムアプリケーター500は、塗布ローラー501とドクターローラー502とを有している。ドクターローラー502に対して上方から接するようにスキージー503が設けられている。塗布ローラー501の下方において対向する位置に搬送ローラー504が設けられており、塗布ローラー501と搬送ローラー504との間に基材506が載置されたステージ505を挿入することによりステージ505が一定の方向に搬送される。ステージ505の搬送方向に隙間を置いて配置された塗布ローラー501とドクターローラー502との間においてスキージー503が設けられた側にスラリー210mが投入される。上記隙間からスラリー210mを下方に押し出すように、塗布ローラー501とドクターローラー502とを回転させて、塗布ローラー501の表面に所定の厚さのスラリー210mを塗工する。そして、それとともに、搬送ローラー504を回転させ、スラリー210mが塗工された塗布ローラー501に基材506が接するようにステージ505を搬送する。これにより、塗布ローラー501に塗工されたスラリー210mは、基材506にシート状に転写され、正極合材形成用シート210sとなる。
その後、基材506に形成された正極合材形成用シート210sから溶媒を除去し、当該正極合材形成用シート210sを基材506から剥離し、図9に示すように、抜き型を用いて所定の大きさに打ち抜き、成形物210fを形成する。本処理は、前述した正極活物質複合体の製造方法での成形工程に対応する。
その後、成形物210fを加熱する加熱工程を行うことにより、正極活物質211および固体電解質212を含有する正極合材210を得る。本処理は、前述した正極活物質複合体の製造方法での熱処理工程に対応する。したがって、本処理は、前述した[2-1-3]熱処理工程で説明したのと同様の条件で行うのが好ましい。これにより、前述したのと同様の効果が得られる。
なお、焼成後の正極合材210の焼結密度が90%以上となるように、塗布ローラー501とドクターローラー502とによってスラリー210mを加圧し押し出して所定の厚さの正極合材形成用シート210sとしてもよい。
[4-1-2]ステップS12
ステップS11の後、ステップS12へ進む。
ステップS12の電解質層220の形成工程では、正極合材210の一方の面210bに電解質層220を形成する。より具体的には、例えば、スパッタ装置を使用し、アルゴンガス等の不活性ガス中で、LiCoO2をターゲットとしてスパッタリングを行うことにより、正極合材210の表面にLiCoO2層を形成する。その後、酸化雰囲気中で、正極合材210上に形成されたLiCoO2層を焼成することにより、LiCoO2層の結晶を高温相結晶に転化させ、LiCoO2層を電解質層220とすることができる。LiCoO2層の焼成条件は、特に限定されないが、加熱温度を400℃以上600℃以下とし、加熱時間を1時間以上3時間以下とすることができる。
[4-1-3]ステップS13
ステップS12の後、ステップS13へ進む。
ステップS13の負極30の形成工程では、電解質層220の正極合材210と対向する面とは反対の面側に負極30を形成する。より具体的には、例えば、真空蒸着装置等を使用して、電解質層220の正極合材210と対向する面とは反対の面側に、金属Liの薄膜を形成して負極30とすることができる。
[4-1-4]ステップS14
ステップS13の後、ステップS14へ進む。
ステップS14の集電体41,42の形成工程では、正極合材210の他方の面、すなわち、電解質層220が形成された面210bとは反対側の面210aに接するように集電体41を形成し、負極30に接するように集電体42を形成する。より具体的には、例えば、型抜き等により円形としたアルミニウム箔を正極合材210に押圧して接合し集電体41とすることができる。また、例えば、型抜き等により円形とした銅箔を負極30に押圧して接合し集電体42とすることができる。集電体41,42の厚さは、特に限定されないが、例えば、10μm以上60μm以下とすることができる。なお、本工程では、集電体41,42のうち一方のみを形成してもよい。
なお、正極合材210の形成方法は、ステップS11に示したグリーンシート法に限定されない。正極合材210の他の形成方法としては、例えば、以下のような方法を採用することができる。すなわち、図10に示すように、前述した第1実施形態に係る正極活物質複合体の製造方法で説明した混合物または前述した第2実施形態に係る正極活物質複合体の製造方法で説明した粒子含有組成物を、ペレットダイス80に充填し、蓋81を用いて閉塞し、蓋81を押圧することにより、一軸プレス成型を行うことにより、成形物210fを得てもよい。その後の成形物210fに対する処理は、前記と同様にして行うことができる。ペレットダイス80としては、図示しない排気ポートを備えたものを好適に用いることができる。
[4-2]第2実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法
次に、第2実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
図11は、第2実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を示すフローチャート、図12、図13および図14は、第2実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を模式的に示す概略図である。
以下、これらの図を参照して第2実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
図11に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池100の製造方法は、ステップS31と、ステップS32と、ステップS33と、ステップS34と、ステップS35と、ステップS36とを備えている。
ステップS31は、正極合材210形成用シート形成工程である。ステップS32は、負極合材330形成用シート形成工程である。ステップS33は、電解質層220形成用シート形成工程である。ステップS34は、正極合材210形成用のシートと、負極合材330形成用のシートと、電解質層220形成用のシートとの積層体を所定の形状に成形する成形物450fの形成工程である。ステップS35は、成形物450fの焼成工程である。ステップS36は、集電体41,42の形成工程である。
以下の説明では、ステップS31の後にステップS32を行い、ステップS32の後にステップS33を行うものとして説明するが、ステップS31、ステップS32、ステップS33の順番は、これに限定されず、これらの順番を入れ替えて行ってもよいし、同時進行的に行ってもよい。
[4-2-1]ステップS31
ステップS31の正極合材210形成用シート形成工程では、正極合材210形成用のシートである正極合材形成用シート210sを形成する。
正極合材形成用シート210sは、例えば、前記第1実施形態で説明したのと同様の方法により形成することができる。
なお、本工程で得られる正極合材形成用シート210sは、当該正極合材形成用シート210sの形成に用いられたスラリー210mから溶媒を除去したものであるのが好ましい。
[4-2-2]ステップS32
ステップS31の後、ステップS32へ進む。
ステップS32の負極合材330形成用シート形成工程では、スラリー330mを用いて負極合材330形成用のシートである負極合材形成用シート330sを形成する。
より具体的には、図12に示すように、例えば、全自動フィルムアプリケーター500を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の基材506上に、スラリー330mを所定の厚さで塗布して負極合材形成用シート330sとする。
その後、基材506に形成された負極合材形成用シート330sから溶媒を除去し、当該負極合材形成用シート330sを基材506から剥離する。
スラリー330mとしては、例えば、ポリプロピレンカーボネート等の結着剤と、1,4-ジオキサン等の溶媒と、負極活物質粒子と、電解質または電解質の前駆体の微粒子とを含む組成物を用いることができる。電解質の前駆体の微粒子としては、例えば、前述した固体組成物と同様の材料で構成された粒子を用いることができる。スラリー330mは、必要に応じて、さらに、分散剤や希釈剤、保湿剤等を含んでいてもよい。
[4-2-3]ステップS33
ステップS32の後、ステップS33へ進む。
ステップS33の電解質層220形成用シート形成工程では、電解質層220形成用のシートである電解質層形成用シート220sを形成する。
電解質層220形成用シート形成工程では、スラリー220mを用いて電解質層220形成用のシートである電解質層形成用シート220sを形成する。
より具体的には、図13に示すように、例えば、全自動フィルムアプリケーター500を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の基材506上に、スラリー220mを所定の厚さで塗布して電解質層形成用シート220sとする。
スラリー220mとしては、例えば、ポリプロピレンカーボネート等の結着剤と、1,4-ジオキサン等の溶媒と、電解質または電解質の前駆体の微粒子とを含む組成物を用いることができる。電解質の前駆体の微粒子としては、例えば、前述した固体組成物と同様の材料で構成された粒子を用いることができる。スラリー220mは、必要に応じて、さらに、分散剤や希釈剤、保湿剤等を含んでいてもよい。
その後、基材506に形成された電解質層形成用シート220sから溶媒を除去し、当該電解質層形成用シート220sを基材506から剥離する。
[4-2-4]ステップS34
ステップS33の後、ステップS34へ進む。
ステップS34の成形物450fの形成工程では、正極合材形成用シート210s、電解質層形成用シート220s、および、負極合材形成用シート330sをこの順に重ねた状態で加圧し、これらを貼り合せる。その後、図14に示すように、貼り合せて得られた積層シートを型抜きして成形物450fを得る。本処理は、前述した正極活物質複合体の製造方法での成形工程に対応する。
[4-2-5]ステップS35
ステップS34の後、ステップS35へ進む。
ステップS35の成形物450fの焼成工程では、成形物450fを加熱する加熱工程を行うことにより、正極合材形成用シート210sで構成された部位は正極合材210となり、電解質層形成用シート220sで構成された部位は電解質層220となり、負極合材形成用シート330sで構成された部位は負極合材330となる。すなわち、成形物450fの焼成体は、正極合材210、電解質層220、負極合材330の積層体である。本処理は、前述した正極活物質複合体の製造方法での熱処理工程に対応する。したがって、本処理は、前述した[2-1-3]熱処理工程で説明したのと同様の条件で行うのが好ましい。これにより、前述したのと同様の効果が得られる。
[4-2-6]ステップS36
ステップS35の後、ステップS36へ進む。
ステップS36の集電体41,42の形成工程では、正極合材210の面210aに接するように集電体41を形成し、負極合材330の面330bに接するように集電体42を形成する。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の正極活物質複合体は、前述した方法により製造されたものに限定されない。
より具体的には、本発明の正極活物質複合体は、例えば、第1実施形態の正極活物質複合体の製造方法と、第2実施形態の正極活物質複合体の製造方法とを組み合わせた方法を用いて製造されたものであってもよい。
また、本発明をリチウムイオン二次電池に適用する場合、当該リチウムイオン二次電池の構成は、前述した実施形態のものに限定されない。
また、本発明をリチウムイオン二次電池に適用する場合、その製造方法は、前述した実施形態のものに限定されない。例えば、リチウムイオン二次電池の製造における工程の順番は、前述した実施形態と異なるものとしてもよい。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[5]正極活物質複合体の製造
(実施例1)
まず、ランタン源としての硝酸ランタン六水和物と、ジルコニウム源としてのテトラブトキシジルコニウムと、アンチモン源としてのトリ-n-ブトキシアンチモンと、タンタル源としてのペンタエトキシタンタルと、溶媒としての2-n-ブトキシエタノールとを所定の割合で含む第1の溶液を調製し、リチウム化合物としての硝酸リチウムと、溶媒としての2-n-ブトキシエタノールとを所定の割合で含む第2の溶液を調製した。
次に、第1の溶液と第2の溶液とを所定の割合で混合し、LiとLaとZrとTaとSbとの含有比率が、モル比で、6.3:3:1.3:0.5:0.2の混合液を得た。
次に、上記のようにして得られた混合液を、チタン製のビーカーに入れた状態で、大気中、140℃×20分間の第1の熱処理を施すことにより、ゲル状の混合物を得た。
次に、上記のようにして得られたゲル状の混合物に対して、大気中、540℃×35分間の第2の熱処理を施すことにより、灰状の熱分解物である固体組成物を得た。
このようにして得られた固体組成物は、パイロクロア型の結晶相で構成される前駆酸化物と、リチウム化合物としての炭酸リチウムを含むものであった。また、得られた固体組成物中における前記前駆酸化物の含有率に対するオキソ酸化合物の含有率の比率、すなわち、固体組成物中における前駆酸化物の含有率をXP[質量%]、固体組成物中におけるオキソ酸化合物の含有率をXO[質量%]としたときのXO/XPの値は、0.0480であった。
次に、上記のようにして得られた固体組成物:100質量部と、正極活物質として層状の結晶構造を有するリチウム複合酸化物であるLiCoO2粒子:100質量部とをメノウ鉢で混合し、混合粉末を得た。
このようにして得られた混合粉末としての混合物を1g取り出し、Specac社製の内径10mmの排気ポート付きペレットダイスに充填し、0.1kNの加重でプレス成型して成形物としてのペレットとし、得られた円盤状のペレットの片面に、さらに、前記固体組成物1gを積層し、6kNの荷重でプレス成型し、プレス成型体を得た。
得られたプレス成型体をアルミナ製の坩堝に納め、大気雰囲気において900℃で8時間焼成して焼成体としての正極活物質複合体を得た。
(実施例2~10)
前記ゲル状の混合物に対して施す第2の熱処理の加熱時間を表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして正極活物質複合体を製造した。
(実施例11)
前記実施例1と同様にして調製した混合液と、正極活物質として層状の結晶構造を有するリチウム複合酸化物であるLiCoO2粒子とを混合した。このようにして得られた液状の混合物を、スプレードライヤー(ヤマト科学社製、ADL311S-A)を用いて、処理温度200℃で、噴霧・乾燥することにより、液状の混合物中に含まれていた液体成分が除去され正極活物質の表面にゲル状の被膜が形成された複合粒子の集合体を得た。
得られた複合粒子の集合体に対して、さらに、前記実施例1と同様にして調製した混合液と混合し、上記と同様にして、スプレードライヤーによる噴霧・乾燥を行う処理を所定回数繰り返すことにより、正極活物質の表面に、所望の厚さの被膜が形成された複合粒子の集合体を得た。上記の複合粒子の集合体の製造には、前記実施例1と同様にして調製した混合液:400質量部と、正極活物質として層状の結晶構造を有するリチウム複合酸化物であるLiCoO2粒子:1質量部とを用いた。
次に、上記のようにして得られた複合粒子の集合体に対して、大気中、540℃×30分間の熱処理を施すことにより、正極活物質で構成された母粒子と、常温常圧においてイオン伝導体の結晶相とは異なる結晶相で構成された複酸化物、リチウム化合物、および、オキソ酸化合物を含む固体組成物で構成され、前記母粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有する正極活物質複合粒子を複数個含む粒子含有組成物が得られた。
このようにして得られた正極活物質複合粒子の被覆層を構成する固体組成物は、パイロクロア型の結晶相で構成される前駆酸化物と、リチウム化合物としての炭酸リチウムを含むものであった。また、得られた固体組成物中における前記前駆酸化物の含有率に対するオキソ酸化合物の含有率の比率、すなわち、固体組成物中における前駆酸化物の含有率をXP[質量%]、固体組成物中におけるオキソ酸化合物の含有率をXO[質量%]としたときのXO/XPの値は、0.0480であった。
このようにして得られた粒子含有組成物を1g取り出し、Specac社製の内径10mmの排気ポート付きペレットダイスに充填し、0.1kNの加重でプレス成型して成形物としてのペレットとし、得られた円盤状のペレットの片面に、さらに、前記実施例1で得られた固体組成物1gを積層し、6kNの荷重でプレス成型し、プレス成型体を得た。
得られたプレス成型体をアルミナ製の坩堝に納め、大気雰囲気において900℃で8時間焼成して焼成体としての正極活物質複合体を得た。
前記各実施例の正極活物質複合体の製造過程で得られた固体組成物は、いずれも、パイロクロア型の結晶相で構成される前駆酸化物と、リチウム化合物としての炭酸リチウムを含むものであった。また、得られた固体組成物中における前記前駆酸化物の含有率に対するオキソ酸化合物の含有率の比率、すなわち、固体組成物中における前駆酸化物の含有率をXP[質量%]、固体組成物中におけるオキソ酸化合物の含有率をXO[質量%]としたときのXO/XPの値は、0.013以上0.58以下の範囲内の値であった。また、前記各実施例の正極活物質複合体の製造過程で得られた固体組成物では、固体組成物中におけるリチウム化合物の含有率をXL[質量%]、固体組成物中におけるオキソ酸化合物の含有率をXO[質量%]としたときのXO/XLの値は、いずれも、0.05以上2以下の範囲内の値であった。また、前記各実施例の正極活物質複合体の製造過程で得られた固体組成物では、固体組成物中における前駆酸化物の含有率をXP[質量%]、固体組成物中におけるリチウム化合物の含有率をXL[質量%]としたとき、XL/XPの値は、いずれも、0.13以上0.58以下の範囲内の値であった。
また、前記各実施例で得られた正極活物質複合体は、いずれも、液体成分の含有率が0.1質量%以下、オキソ酸化合物の含有率が10ppm以下であった。また、前記各実施例で得られた正極活物質複合体では、固体組成物の構成材料から生成したイオン伝導体である固体電解質は、いずれも、立方晶ガーネット型の結晶相を有するものであった。
(比較例1)
混合液として、以下のようにして調製した物を用いた以外は、前記実施例1と同様にして正極活物質複合体を製造した。
混合液の調製は、以下のようにして行った。
すなわち、まず、ランタン源としての硝酸ランタン六水和物と、ジルコニウム源としてのテトラブトキシジルコニウムと、ニオブ源としてのペンタエトキシニオブと、溶媒としての2-n-ブトキシエタノールとを所定の割合で含む第1の溶液を調製し、リチウム化合物としての硝酸リチウムと、溶媒としての2-n-ブトキシエタノールとを所定の割合で含む第2の溶液を調製した。
次に、第1の溶液と第2の溶液とを所定の割合で混合し、LiとLaとZrとNbとの含有比率が、モル比で、6.3:3:1.3:0.7の混合液を得た。
(比較例2)
まず、LiとLaとZrとNbとの含有比率が、モル比で、6.3:3:1.3:0.7となるように、ランタン源としての酸化ランタン、ジルコニウム源としての酸化ジルコニウム、ニオブ源としての酸化ニオブ、リチウム化合物としての酸化リチウムを秤量し、これらをメノウ鉢で粉砕しながら十分に混合し、混合粉末を得た。
このようにして得られた混合粉末としての混合物を2g取り出し、Specac社製の内径10mmの排気ポート付きペレットダイスに充填し、5kNの加重でプレス成型し、ペレット状のプレス成型体を得た。
得られたプレス成型体をアルミナ製の坩堝に納め、大気雰囲気において1200℃で18時間焼成して焼成体としての固体電解質焼成体を得た。
このようにして得られたイオン伝導体である固体電解質焼成体を、メノウ鉢で粉砕し、固体電解質粉末を得た。
次に、上記のようにして得られたイオン伝導体の粉末である固体電解質粉末:100質量部と、正極活物質として層状の結晶構造を有するリチウム複合酸化物であるLiCoO2粒子:100質量部とをメノウ鉢で混合し、混合粉末を得た。
このようにして得られた混合粉末としての混合物を1g取り出し、Specac社製の内径10mmの排気ポート付きペレットダイスに充填し、0.1kNの加重でプレス成型して成形物としてのペレットとし、得られた円盤状のペレットの片面に、さらに、前記実施例1で得られた固体組成物1gを積層し、6kNの荷重でプレス成型し、プレス成型体を得た。
得られたプレス成型体をアルミナ製の坩堝に納め、大気雰囲気において900℃で8時間焼成して焼成体としての正極活物質複合体を得た。
前記各実施例に係る正極活物質複合体の試料を、FEI製FIB断面加工装置Helios600で薄片状に加工して、各種の分析手法により、元素分布や組成を調べた。日本電子製JEM-ARM200Fを用いた透過電子顕微鏡の観察と制限視野電子回折の結果から、正極活物質複合体を構成するイオン伝導体は、数100nm程度以上の比較的に大きなアモルファス領域と、30nm以下のナノ結晶からなる集合体の領域から構成されていることが確認された。また、日本電子製の検出器JED-2300Tを用いたエネルギー分散型X線分析とエネルギー損失分光分析により、前記各実施例に係る正極活物質複合体を構成するイオン伝導体のアモルファス領域からリチウム、炭素、酸素が検出され、ナノ結晶からなる集合体の領域からランタン、ジルコニウム、元素Mが検出された。
これらの測定結果から、イオン伝導体の結晶粒界がアモルファス状の構造体で充填され、イオン伝導体の粒界抵抗が発生しにくい構造をもつということがわかった。
また、電界放射型走査電子顕微鏡(カールツァイス社製、ULTRA-55)に付属のEDXを用いた測定により、特性X線により求められる正極活物質に含まれる遷移金属元素であるCoの含有率を求めた。その結果から、特性X線により求められるイオン伝導体中での正極活物質に含まれる遷移金属元素であるCoの含有率が、物質量基準で、正極活物質とイオン伝導体との界面におけるCoの含有率の12%になる点までのCoの含有率の平均減少率を求めた。
前記各実施例および各比較例の正極活物質複合体の条件を表1にまとめて示す。なお、表1中、製造方法についての欄には、前述した第1実施形態の正極活物質複合体の製造方法に対応する方法を「A法」、第1実施形態の正極活物質複合体の製造方法を「B法」と示し、特性X線により求められるイオン伝導体中での正極活物質に含まれる遷移金属元素であるCoの含有率が、物質量基準で、正極活物質とイオン伝導体との界面におけるCoの含有率の12%になる点までのCoの含有率の平均減少率を「Co平均減少率」と示した。また、前記各実施例の正極活物質複合体の製造過程で得られた固体組成物について、TG-DTAで昇温レート10℃/分で測定したところ、300℃以上1,000℃以下の範囲における発熱ピークは、いずれも、1つのみ観測された。このことから、前記各実施例の正極活物質複合体の製造過程で得られた固体組成物は、実質的に単独の結晶相で構成されていると言える。また、前記各実施例では、正極活物質複合体の製造過程で得られた固体組成物中に含まれる前駆酸化物の結晶粒径は、いずれも、20nm以上160nm以下であった。また、前記各実施例では、正極活物質複合体の製造過程で得られた固体組成物は、いずれも、前駆酸化物の含有率が55質量%以上60質量%以下であり、リチウム化合物の含有率が15質量%以上17質量%以下であり、オキソ酸化合物の含有率が2.0質量%以上10質量%以下であった。また、前記各実施例および各比較例では、正極活物質は、いずれも、層状の結晶構造を有するものであった。また、前記各実施例の正極活物質複合体中における正極活物質、イオン伝導体以外の構成の含有率は、いずれも、5質量%以下であった。
[6]評価
前記各実施例および各比較例について、以下の評価を行った。
[6-1]内部抵抗の評価
前記各実施例および各比較例の正極活物質複合体について、それぞれ、両面に直径8mmのリチウム金属箔(本荘ケミカル社製)を貼り付けて活性化電極とし、交流インピーダンスアナライザーSolatron1260(Solatron Anailtical社製)を用いて交流インピーダンスを測定してリチウムイオン伝導率を求めた。当該測定は、交流振幅10mVにて、107Hzから10-1Hzの周波数領域にて行った。当該測定によって得られたリチウムイオン伝導率は、各焼成体におけるバルクのリチウムイオン伝導率と粒界のリチウムイオン伝導率とを含む総リチウムイオン伝導率を示すものである。この値が大きいほど、イオン伝導度に優れていると言え、内部抵抗が小さいと言える。
[6-2]充放電特性の評価
本荘ケミカル社製リチウム金属を直径4mmの円形に切り抜いて、前記各実施例および各比較例の正極活物質複合体の両面にそれぞれ貼り付け、評価用の全固体電池とした。
これらの評価用の全固体電池を、それぞれ、北斗電工社製の電池充放電評価システムHJ1001SD8に接続し、25℃における充放電速度と電池容量の関係を分析し、0.1Cでの放電容量を求めた。0.1C放電容量の値が大きいほど、充放電特性に優れているといえる。
これらの結果を表2にまとめて示す。
表2から明らかなように、本発明では優れた結果が得られた。これに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
また、電界放射型走査電子顕微鏡(フィリップス社製、XL30)で得られた観察像から、前記各実施例では、いずれも、正極活物質とイオン伝導体とが高い密着度で密着していることが確認された。図15、図16に前記実施例1、11の正極活物質複合体について、電界放射型走査電子顕微鏡で得られた観察像を示し、図17、図18に前記比較例1、2の正極活物質複合体について、電界放射型走査電子顕微鏡で得られた観察像を示す。これらの観察像中で、白く見えるのがイオン伝導体、灰色に見えるのが正極活物質、黒く見えるのが空隙部である。