以下、本発明における好ましい炊飯器の実施形態について、添付図面を参照して説明する。なお、これらの全図面にわたり、共通する部分には共通する符号を付すものとする。
図1および図2は、本発明の一実施形態における炊飯器の全体構成を示している。これらの各図において、1は上面が開口された本体、2は本体1の上面を開閉自在に覆う蓋体2で、これらの本体1と蓋体2により、炊飯器全体の外郭が構成される。本体1は上面を開口した鍋収容部3を有し、蓋体2を開けたときに、被炊飯物Sを収容する有底羽釜状の内鍋4が、鍋収容部3に着脱自在に収容される構成となっている。5は、内鍋4により形成された被炊飯物Sの収容空間であり、以後この収容空間5を内鍋4の内部という。
本体1は、その上部と上側面部を構成する上枠6と、側底面部を構成する外枠7とを主な構成要素とする。その際、上枠6や外枠7は、PPやABSポリカなどの合成樹脂で形成される。凹状の鍋収容部3の上部から側部にかけては、上枠6と一体化で形成されており、内枠収容部3の底部は、上枠6と別部材の内枠8で形成してある。内枠8は、PETなどの合成樹脂で形成される。
鍋収容部3の上端にはコードヒータ9を備えてあり、コードヒータ9は熱伝導がよいアルミ板などの金属板部10で覆われている。これらのコードヒータ9と金属板部10は、発熱手段としてのフランジヒータ12を構成する。フランジヒータ12には、内鍋4の略中央部から外周方向全周に延出させたフランジ状の鍋リング部13の下面が載置し、内鍋4が吊られた状態で鍋収容部3に収容される。フランジヒータ12は、炊飯時と保温時に鍋リング部13および内鍋4の側面を加熱すると共に、本体1と蓋体2との隙間および鍋収容部3と内鍋4との隙間に向けて、金属板部10から熱を放射することで、内鍋4の冷えを抑制し、加熱により被炊飯物Sから発生する水分が、内鍋4の上部内面へ結露するのを防止する構成となっている。
内鍋4は、熱伝導性のよいアルミニウムを主材15とし、フェライト系ステンレスなどの磁性金属板からなる発熱体16が、主材15の外面の側面下部から底部にかけて接合して設けられる。内鍋4の側面中央から上部に発熱体16を設けないのは、内鍋4の軽量化を図るためである。なお図2では、被炊飯物Sとして水Wと白米Rが図示されているが、白米Rや玄米などの米の他に、麦類や豆類を含む一乃至複数種類の穀物を、水Wと共に内鍋4に入れてもよく、また味付けのために塩や醤油などの調味料を加えてもよい。
発熱体16に対向する内枠8の側面下部と底部には、内鍋4を電磁誘導加熱する加熱手段として、加熱コイル17が配置される。リッツ線からなる加熱コイル17は、下側がお椀状に形成された内枠8の外面に渦巻き状に設けられる。また、内鍋4の上部外側面に対向して、蓋体2の内側面部には、フランジヒータ12とは別のコードヒータ18が設けられる。胴ヒータとしてのコードヒータ18は、熱伝導がよいステンレスやアルミニウムなどの金属板からなる内蓋リング19に固定され、蓋側面加熱手段としての内蓋リングヒータ20を構成している。
内枠8の底部中央部には、鍋温度検知手段としての鍋温度センサ21が、内鍋4の外面底部に当接して設けられる。鍋温度センサ21は、炊飯時や保温時に内鍋4の温度を検知するもので、その検知信号を受けた加熱制御手段22が、加熱コイル17による内鍋4の底部の加熱温度を主に温度管理するようになっている。
蓋体2の前方上面には、蓋開ボタン23が露出状態で配設されており、この蓋開ボタン23を押すと、本体1と蓋体2との係合が解除され、ヒンジ軸24を回転中心として蓋体2が自動的に開く構成となっている。また、蓋体2の後方上面には、内鍋4内の被炊飯物Sから発生する蒸気を、炊飯器の外部に排出する蒸気口ユニット25が着脱可能に装着される。
蓋体2は、その外郭上面をなす外観部品としての外蓋27と、蓋体2の下面を形成する放熱板28と、外蓋27および放熱板28を結合させて、蓋体2の骨格を形成する蓋ベース材としての外蓋カバー29とを、主な構成要素とする。蓋体2の内部にあって、放熱板28の上面には、蓋加熱手段としての蓋ヒータ30が設けられる。この蓋ヒータ30は、コードヒータなどの電熱式ヒータや、電磁誘導加熱式による加熱コイルでもよい。
放熱板28の下側には、蓋体2の下部部材としてのユニット化された内蓋組立体31が着脱可能に設けられる。内蓋組立体31は、内鍋4の上方開口部と略同径で円盤状を有する金属製の内蓋32と、内鍋4と内蓋32との間をシールするための弾性部材からなる蓋パッキン33と、蓋パッキン33を内蓋32の外側全周に装着するための内蓋リング34と、内鍋4の内部の圧力となる内圧を調整する調圧部35と、をそれぞれ備えている。環状に形成された蓋パッキン33は、蓋体2を閉じた蓋閉時に内鍋4の上面に当接して、内鍋4と内蓋32との隙間を塞ぎ、内鍋4から発生する蒸気を密閉するものである。
放熱板28には、蓋体2の特に内蓋32の温度を検知する蓋温度検知手段として、加熱制御手段22が蓋ヒータ30による温度管理を行なうためのサーミスタ式の蓋温度センサ36が設けられる。また蓋体2の内部には、内鍋4内で発生した蒸気を外部へ放出する通路として、蒸気口ユニット25と調圧部35とを連通する蒸気排出経路37が形成される。調圧部35には、内鍋4の内部と蒸気口ユニット25との間の蒸気排出経路37を開閉する調圧弁38が設けられる。調圧弁38はボール状で、蓋体2の内部に設けたソレノイド39と連動し、内鍋4内の蒸気を外部へ放出する場合には、蒸気排出経路37を開放するのに対し、内鍋4内を炊飯器外部の大気圧よりも低い減圧状態、または大気圧よりも高い加圧状態にする場合には、蒸気排出経路37を閉塞するように、電動のソレノイド39が調圧弁38を転動させる。そして加圧時には、加熱コイル17への高周波通電により内鍋4内の被炊飯物が加熱され、内鍋4の内圧が所定値に達すると、調圧弁38の自重に抗して蒸気排出経路37を開放することで、内鍋4の内圧を大気圧以上に維持する構成となっている。
蓋体2の内部には、蓋体2を本体1に閉じた蓋閉状態で、内鍋4の内圧を大気圧よりも低くするための減圧手段41が配設される。減圧手段41は、蓋体2の後部に設けた減圧駆動源としての減圧ポンプ42の他に、蓋体2の内部において、減圧ポンプ42と内鍋4の内部との間を連通する管状の経路(図示せず)と、その経路を開閉する電磁弁43(図3を参照)とにより構成される。そして本実施形態では、内鍋4を鍋収容部3に収容し、蓋体2を閉じた後でソレノイド39を通電して、調圧弁38が蒸気排出経路37を塞いだ状態で減圧ポンプ42を起動させると、電磁弁43により経路を開放して、内鍋4内部の空気が経路及び減圧ポンプ42を通って炊飯器の外部に排出され、密閉した内鍋4内部の圧力が低下する。また、内鍋4内部の圧力が大気圧よりも一定値下がった場合には、減圧ポンプ42の動作を停止し、電磁弁43により経路を閉塞して、内鍋4内を減圧状態に保っている。さらに、内鍋4内部を減圧状態から外気と同じ圧力に戻す場合には、減圧ポンプ42の動作を停止し、電磁弁43により経路43を開放する。つまり減圧手段41は、内鍋4内部を減圧状態から外気と同じ圧力に戻す圧力戻し手段としての構成を兼用している。
本体1の内部には、加熱制御手段22を含むユニット化された加熱基板組立44が配設される。加熱制御手段22は、後述する表示・操作制御手段48と組み合わせて、炊飯器の各部を電気的に制御するために、CPU(中央処理装置)を含むマイクロコンピュータ(マイコン)や加熱手段の駆動素子などを含んで構成され、ここでは鍋温度センサ21と蓋温度センサ36からの各温度検知信号と、後述する操作部47からの操作信号とを受けて、炊飯時および保温時に内鍋4を加熱するコードヒータ9,18や加熱コイル17と、蓋体2を加熱する蓋ヒータ30を各々制御すると共に、ソレノイド39と減圧ポンプ42の動作を各々制御する。また加熱制御手段22は、鍋温度センサ21の検知温度に基づいて主に加熱コイル17を制御して、内鍋4の底部を温度管理すると共に、蓋温度センサ36の検知温度に基づいて主に蓋ヒータ30を制御して、収容空間5に入れた被炊飯物Sに対向する内蓋32を温度管理するようになっている。
45は、炊飯器の表示操作ユニットとなる操作パネルである。操作パネル45は、炊飯を含む調理に関わる様々な情報を表示する表示部46の他に、炊飯を開始させたり、時間や炊飯コースなどを選択させたりするための操作部47を備えており、これらの下面には、制御用ICを含む様々な電子部品を制御基板48に搭載して構成される表示・操作制御手段49が配置される。
その他、本体1の内部後方には、炊飯器の各部に給電するコードリール装置51が設けられる。コードリール装置51は、自動的に巻取り可能な電源プラグ付きのコード52を備えて構成される。
次に、加熱制御手段22と表示・操作制御手段49の制御系統について、図3を参照しながら説明する。同図において、55は加熱制御手段22と表示・操作制御手段49とを含む制御手段で、この制御手段55は、鍋温度センサ21や蓋温度センサ36からの各温度検知信号と、操作部47からの操作信号の他に、後述する収集手段56が取得した様々な学習用データを受けて、炊飯時および保温時に内鍋4を加熱する加熱コイル17やコードヒータ9,18と、蓋体2を加熱する蓋ヒータ30を各々制御すると共に、前述した調圧弁38を動かすソレノイド39や、減圧ポンプ42や、電磁弁43の動作を各々制御し、さらには表示部46の表示を制御するものである。特に本実施形態の制御手段55は、鍋温度センサ21の検知温度に基づいて主に加熱コイル17を制御して内鍋4の底部を温度管理し、蓋温度センサ36の検知温度に基づいて主に蓋ヒータ30を制御して、内蓋22を温度管理する。
制御手段55は、記憶媒体となる記憶手段57に記憶されたプログラムを読み取ることで、操作部47の例えば炊飯キー47aを操作すると、炊飯開始から内鍋4に投入した米Rの吸水を促進させるひたし炊きと、被炊飯物Sの温度を短時間に沸騰まで上昇させる沸騰と、被炊飯物Sの沸騰状態を継続させドライアップ状態のご飯に炊き上げる沸騰継続と、炊き上がったご飯を焦がさない程度の高温に維持して、最終的に仕上げるむらしの順に炊飯工程を実行して、内鍋4内部の被炊飯物Sに対して所望の圧力で炊飯加熱する炊飯制御手段61と、炊飯工程に引き続いて、内鍋4内部のご飯を所望の圧力で所定の保温温度に保つように保温する保温制御手段62と、して機能する構成となっている。ユーザの手動操作が可能な炊飯キー47aは、炊飯の開始を指示する炊飯開始指示手段に相当する。
また本実施形態では、被炊飯物Sの種類と炊き方に応じた複数の加熱パターンが、予め記憶手段57に記憶保存されており、炊飯制御手段61は、操作部47の例えば選択キー47bへの操作により、これらの複数の加熱パターンの中から所定の加熱パターンが選択され、次に炊飯キー47aへの操作により、炊飯の開始が指示されると、選択された所定の加熱パターンで減圧手段41や加熱コイル17を含む加熱手段の動作を制御することにより、内鍋4に入れられた被炊飯物Sを炊き上げて、最終的にご飯に仕上げる機能を有する。ユーザの手動操作が可能な選択キー47bは、被炊飯物Sの種類と炊き方により区分けされた炊飯コースの選択手段となるもので、選択キー47bへのキー操作に伴い、複数の炊飯コースの中から一つの炊飯コースが特定されると、それに対応した所定の加熱パターンが選択される構成となっている。なお、こうした選択手段は、選択キー47bに限らず、デフォルトで炊飯制御手段61が自動的に所定の加熱パターンを選択する機能を含んでもよい。
記憶手段57には、制御手段55を炊飯制御手段61と保温制御手段62として機能させる前述のプログラムを含んだプログラム記憶部57aと、選択キー47bで選択が可能な全ての加熱パターンのデータを含んだ加熱パターンデータ記憶部57bと、薪炎のゆらぎに基づくゆらぎデータを含んだゆらぎデータ記憶部57cと、炊飯に関する実験値や経験値の学習用データを含んだ学習用データ記憶部57dと、を主に備えている。この中で、加熱パターンデータ記憶部57bに記憶する加熱パターンデータと、ゆらぎデータ記憶部57cに記憶するゆらぎデータと、学習用データ記憶部57dに記憶する学習用データは、それぞれ制御手段55との間で、必要に応じて読出しおよび書込みができるようになっている。
本実施形態の炊飯制御手段61は、ゆらぎデータ記憶部57cからのゆらぎデータを読み込んで、加熱コイル17の出力が連続的に変化して不規則にゆらぐように、選択キー47bで選択された炊飯コースに対応する所定の加熱パターンを設定する加熱パターン設定手段64と、加熱パターン設定手段64で設定された所定の加熱パターンに基づいて、制御手段55と電気的に接続した実際の加熱コイル17の動作を制御する加熱コイル制御手段65としての機能を備えている。
加熱パターン設定手段64は、ゆらぎデータ記憶部57cにゆらぎデータが記憶保存されたときに、そこからゆらぎデータを読み込んで、加熱コイル17の出力が連続的に変化して不規則にゆらぐような所定の加熱パターンを、予め選択キー47bで選択できる全ての炊飯コースに対応して加熱パターンデータ記憶部57bに記憶させる。そして、選択キー47bへのキー操作により、複数の炊飯コースの中から一つの炊飯コースが特定されると、加熱パターンデータ記憶部57bからその炊飯コースに対応した所定の加熱パターンを選択し、選択キー47bで選択された所定の加熱パターンを設定する。
代わりに加熱パターン設定手段64は、予め選択キー47bで選択できる全ての炊飯コースに対応した標準的な加熱パターンのデータが加熱パターンデータ記憶部57bに記憶され、且つゆらぎデータ記憶部57cにゆらぎデータが記憶された状態で、選択キー47bへのキー操作により、複数の炊飯コースの中から一つの炊飯コースが特定されると、ゆらぎデータ記憶部57cからゆらぎデータを読み込んで、加熱パターンデータ記憶部57bから選択した特定の一つの炊飯コースに対応する標準の加熱パターンから、加熱コイル17の出力が連続的に変化して不規則にゆらぐような特徴の加熱パターンを生成し、これを選択キー47bで選択された所定の加熱パターンとして設定するようにしてもよい。
図4は、薪炎のゆらぎのイメージと、それに対応してゆらぎデータ記憶部57cに含まれるゆらぎデータDfの波形をそれぞれ示したものである。図中、グラフの横軸は時間で、縦軸は信号強度を示す。グラフ内に示したゆらぎデータDfは、時間と共にその信号強度が不規則に変化する1/fゆらぎを波形化したものである。
自然界には人にとって心地良いと感じる音のゆらぎが存在すると言われており、心拍音、川のせせらぎ、炎のゆれ、さざ波、雨音などの、多くのゆらぎが溢れている。これらは何れも一定のようでいて、その中に予測できない不規則なゆらぎがある「1/fゆらぎ」として知られている。かまどで使用される薪の炎も、「1/fゆらぎ」のように不規則にゆれてご飯を炊き、人の心を癒すもので、本実施形態の炊飯器では、こうしたかまどの振る舞いを実現するために、図4に示す波形化されたゆらぎデータDfを利用して、加熱コイル17の出力が連続的に変化して不規則にゆらぐような所定の加熱パターンを加熱パターン設定手段64で設定し、設定した所定の加熱パターンに従って、加熱コイル制御手段65が加熱コイル17の動作を制御する構成となっている。したがって、ゆらぎデータ記憶部57cに記憶されるゆらぎデータDfの波形は、加熱コイル17から内鍋4への火力(加熱量)にそのまま対応する。
図5は、特に加熱コイル17の動作に関係する要部の回路構成を示したものである。同図において、71は電源プラグ付きコード52から供給される交流の電源電圧から直流電圧を生成して出力する電源回路である。電源回路71は何れも図示しないが、電源電圧のノイズ成分を低減させる入力フィルタ回路や、過電流や過電圧の発生時に動作し、炊飯器の各回路部品を保護する保護回路や、電源電圧を整流平滑して直流電圧に変換する整流平滑回路などを含んで構成され、電源回路71からの直流電圧が次段のインバータ72に入力電圧として印加される。
72は電源回路71の出力側に接続され、加熱コイル17と並列に接続する共振コンデンサ73と、フライホイールダイオード74を内蔵した単独のIGBTからなるスイッチ素子75と、により構成されるシングルエンド形式の電圧形共振インバータである。スイッチ素子75は、加熱コイル17と共振コンデンサ73とによるLC共振回路と直列に接続され、IH駆動回路76からスイッチ素子75の制御端子となるゲートにパルス駆動信号が与えられる毎に、スイッチ素子75のエミッタ・コレクタ間がオン・オフを繰り返して、電源回路71からの直流入力電圧がLC共振回路に断続的に印加され、加熱コイル17に高周波電流が供給される構成になっている。このときパルス駆動信号の周期を変化させたり、パルス駆動信号の周期を固定して、一周期に対するオン時間の比率(オン時比率)を変化させたりすることで、インバータ72への入力電力ひいては加熱コイル17から内鍋4への加熱量を増減させることができる。
制御手段55に組み込まれた加熱コイル制御手段65は、インバータ72の入力電圧や、インバータ72に流れる入力電流や、スイッチ素子75のエミッタ・コレクタ間電圧を監視しながら、加熱パターン設定手段64で設定された所定の加熱パターンに従って、内鍋4内の被炊飯物が炊飯加熱されるようなPWM制御信号をIH駆動回路76に出力するものである。IH駆動回路76は、加熱コイル制御手段65からのPWM制御信号を受けて、スイッチ素子75のエミッタ・コレクタ間をオン・オフ動作させるのに十分なパルス駆動信号を、後段のスイッチ素子75のゲートに送出するものである。
再び図1に戻り、収集手段56は、炊飯に関する様々な実験値や経験値を、後述する学習手段67で利用するための学習用データとして取得するものである。収集手段56の構成としては、例えば図示しない記録媒体と電気的に接続して、記憶媒体に記憶保存された学習用データを読み出すデータ読み出し手段としてもよいし、インターネット上のWeb(World Wide Web)サイトから学習用データを取得する送受信機能を備えた通信手段としてもよい。収集手段56が学習用データを収集するタイミングは、例えば収集手段56に記憶媒体を電気的に接続したときでもよいし、操作部47からの操作を受け付けたときでもよいし、インターネット上で学習用データが更新されたときでもよい。収集手段56で収集した学習用データだけでなく、その他の炊飯に関する実験値や経験値のあらゆる学習用データは、記憶手段57の学習用データ記憶部57dに記憶保存され、学習手段67による学習の際に、必要に応じて学習用データ記憶部57dから読み出される。
加熱パターン設定手段64は、人工知能(AI)を利用して薪炎の火加減を実現するための学習手段67を組み込むのが好ましい。学習手段67は、収集手段56からの学習用データを取り込んで、設定した加熱パターンが理想の火加減で炊飯を行えるように学習させるもので、ここで生成された理想的な所定の加熱パターンから、加熱コイル17の出力を演算で求める構成となっている。
図6は、学習手段67により薪炎の火加減を実現するための学習と演算の説明図である。同図において、本実施形態の学習手段67は、炊飯に関する実験値や経験値の学習用データとして、炊飯器に対する顧客の使われ方のデータとなる市場データや、炊飯の実験結果を示す炊飯実験データや、炊き上がったご飯の食味試験の結果を示す美味しさ指数データなどを含むメーカーの保有する情報と、操作部47からの操作入力に基づき加熱パターン設定手段64が設定した米質(銘柄や新米など)や、炊上りの好みや、希望の炊飯時間などの顧客情報と、炊飯工程中における鍋温度センサ21で検知された内鍋4の温度や、蓋温度センサ36で検知された蓋体2の温度や、これらの温度が変化する時間(温度勾配)などの炊飯器の温度変化情報と、現在の日と関連するカレンダー(季節性や新米の時季)や、気象(気圧や気温の影響)や、水質(地域性)のデータなどのWebサイトから収集可能なWeb情報とを、必要に応じてそれぞれ取り入れる情報入力部67Aと、情報入力部67Aからの学習用データを基に、加熱パターン設定手段64が設定した所定の加熱パターンに対して、炊飯シミュレーションによる理想の炊飯温度変化を学習させて、理想的な所定の加熱パターンを生成するAI学習部67Bと、AI学習部67Bで学習させた理想的な所定の加熱パターンから、薪炎の出力とゆらぎによる火加減を実現した加熱コイル17の出力を演算で求める出力演算部67Cと、を備えている。
図7~図10は、本実施形態の炊飯器で適用する好ましい加熱コイル17と鍋温度センサ21の配置構成をそれぞれ示している。これらの各図に共通して、Cは内鍋4の上面開口から底部にかけての中心軸、WHは白米の炊飯時に収容空間5へ入れることができる水Wの最大水位、WLは白米の炊飯時に収容空間5へ入れることができる水Wの最小水位、Hfは加熱コイル17を通電したときに、収容空間5に入れられた水Wの流動を示している。内鍋4は、中心軸Cを中心にどの方向に回しても同一の断面形状を有し(すなわち回転対称)、中心軸Cを含んでその周りのほぼ水平な直線状の部位を底部4Aとし、上端が上面開口を形成するほぼ垂直な直線状の部位を筒部4Bとし、底部4Aと筒部4Bとの間を繋ぐR状の部位を湾曲部4Cとする。湾曲部4Cは三分割され、中心軸Cから見て底部4Bに連なる外周側の部位を下側部4C1とし、下側部4C1に連なる外周側の部位を側部4C2とし、側部4C2に連なる外周側の部位を上側部4C3とする。側部4C2の外周端(すなわち上端)であって、上側部4C3の内周端(すなわち下端)は、収納空間5に入れられる水Wの最小水位WLに一致し、上側部4Cの外周端であって筒部4Bの下端は、収納空間5に入れられる水Wの最大水位WHに一致する。
図7に示す第1案は、本体1に収容される内鍋4に対して、リッツ線による加熱コイル17を「三段 二重」に配置したものである。加熱コイル17は、内鍋4の底部4Aから下側部4C1にかけて、内鍋4の外面に対向して設けられる第1コイル17Aと、内鍋4の中心軸Cから見て第1コイル17Aよりも外周側にあって、内鍋4の側部4C2の外面に対向して設けられる第2コイル17Bと、少なくとも第1コイル17Aの外面全体を覆って、第1コイル17Aと重なるように設けられる第3コイル17Cと、により構成される。鍋温度センサ21は、内鍋4の中心線Cが通る位置にあって、底部4Aの外面に対向し当接するように配置される。この鍋温度センサ21を取り囲むように、第1コイル17A,第2コイル17Bおよび第3コイル17Cは、いずれも内鍋4の中心線Cを中心にして同心渦巻状に配置される。
ここでの加熱コイル17は、それぞれが分離独立してオン・オフ制御される三段の第1コイル17A,第2コイル17Bおよび第3コイル17Cを、内鍋4の底部4Aから下側部4C1にかけての外面側で、第1コイル17Aと第3コイル17Cが二重となるように配置されたもの、ということができる。そのため、二重に配設した第1コイル17Aと第3コイル17Cから、内鍋4の底部4Aや下側部4C1への火力が増加し、内鍋4の内部で水Wが激しく流動して熱対流を起こすことが可能となり、かまどからの薪炎で炊いたようなご飯の仕上がりを、独自の加熱コイル17の構造によって実現できる。
図8に示す第2案は、本体1に収容される内鍋4に対して、リッツ線による加熱コイル17を「二段」に配置すると共に、内鍋4の底部を避けた位置に鍋温度検知センサ21を配置することで、加熱コイル17を「底フラット」に配置したものである。加熱コイル17は、内鍋4の底部4Aから下側部4C1にかけて、内鍋4の外面に対向して設けられる第1コイル17Aと、内鍋4の中心軸Cから見て第1コイル17Aよりも外周側にあって、内鍋4の側部4C2の外面に対向して設けられる第2コイル17Bと、により構成される。鍋温度センサ21は側面センサとして、内鍋4の中心線Cが通る位置を避けて、第2コイル17Bの外周側で上側部4C3の外面に対向するように配置される。図8では鍋温度センサ21が内鍋4の外面より離れて非接触に配置されるが、接触して配置されても構わない。何れにせよ、ここに鍋温度センサ21を配置することで、図7に示す第1案の加熱コイル17よりも、内鍋4の中心軸Cに近い位置にまで第1コイル17Aを配置できる。第1コイル17Aおよび第2コイル17Bは、いずれも内鍋4の中心線Cを中心にして同心渦巻状に配置される。
ここでの加熱コイル17は、それぞれが分離独立してオン・オフ制御される二段の第1コイル17Aと第2コイル17Bで構成される。また、鍋温度センサ21は第1コイル17Aと干渉しない位置に設けられることから、内鍋4の底部4Aの外面側で第1コイル17Aを内鍋4の中心軸Cに極力近付けて配置することができる。そのため、第1コイル17Aから内鍋4の底部4Aの中心軸Cに近い部位にまで火力を供給することができ、内鍋4の底部4Aへの火力が増加して、内鍋4の内部で水Wが激しく流動して熱対流を起こすことが可能となる。そのため、かまどからの薪炎で炊いたようなご飯の仕上がりを、独自の加熱コイル17と鍋温度検知センサ21の構造によって実現できる。
図9に示す第3案は、本体1に収容される内鍋4に対して、リッツ線による加熱コイル17を「三段」に配置したものである。加熱コイル17は、内鍋4の底部4Aの外面に対向して設けられる第1コイル17Aと、内鍋4の中心軸Cから見て第1コイル17Aよりも外周側にあって、内鍋4の下側部4C1の外面に対向して設けられる第2コイル17Bと、第2コイル17Bよりも外周側にあって、内鍋4の側部4C2の外面に対向して設けられる第3コイル17Cと、により構成される。鍋温度センサ21は、内鍋4の中心線Cが通る位置にあって、底部4Aの外面に対向し当接するように配置される。図9に示す鍋温度センサ21は、図7に示す鍋温度センサ21よりも小型のものを用いており、それにより図7では、内鍋4の底部4Aから下側部4C1に跨って対向配置した一つの第1コイル17Aを、図9では第1コイル17Aを内鍋4の中心軸Cにより近付けて、内鍋4の底部4Aと下側部4C1にそれぞれ対向して、第1コイル17Aと第2コイル17Bを別々に配置できる。第1コイル17A,第2コイル17Bおよび第3コイル17Cは、鍋温度センサ21を取り囲むように、いずれも内鍋4の中心線Cを中心にして同心渦巻状に配置される。
ここでの加熱コイル17は、それぞれが分離独立してオン・オフ制御される三段の第1コイル17A,第2コイル17Bおよび第3コイル17Cを、内鍋4の底部4Aと下側部4C1と側部4C2の外面側に配置して構成され、第1コイル17Aから内鍋4の底部4Aへの火力と、第2コイル17Bから内鍋4の下側部4C1への火力と、第3コイル17Cから内鍋4の側部4C2への火力を、各々独立して制御することができる。そのため、例えば第1コイル17Aのオン時間を、他の第2コイル17Bや第3コイル17Cのオン時間よりも増やせば、内鍋4の底部4Aへの火力が増加して、内鍋4の内部で水Wが激しく流動して熱対流を起こすことが可能となり、かまどからの薪炎で炊いたようなご飯の仕上がりを、独自の加熱コイル17の構造によって実現できる。
図10に示す第4案は、本体1に収容される内鍋4に対して、リッツ線による加熱コイル17を「粗密」に配置したものである。加熱コイル17は、内鍋4の底部4Aから側部4C2にかけての外面に対向して設けられた単独のコイルからなり、内鍋4の底部4Aの外面に対向する中心部を密に巻回し、そこから内鍋4の側部4C2の外側に対向する周囲部に向けて次第に疎に巻回して構成される。鍋温度センサ21は、内鍋4の中心線Cが通る位置にあって、底部4Aの外面に対向し当接するように配置される。図10に示す鍋温度センサ21は、図7に示す鍋温度センサ21よりも小型のものを用いており、それにより図10では、第1コイル17Aを内鍋4の中心軸Cにより近付けて配置できる。加熱コイル17は、鍋温度センサ21を取り囲むように、内鍋4の中心線Cを中心にして渦巻状に配置される。
ここでの加熱コイル17は、内鍋4の底部4Aに対向する中心部を密巻とし、そこから周囲部にかけて次第に巻回ピッチを拡げて疎巻に構成される。そのため、単独の加熱コイル17を通電すると、内鍋4の底部4Aへの火力が内鍋4の下側部4C1や側部4C2への火力よりも増加して、内鍋4の内部で水Wが激しく流動して熱対流を起こすことが可能となり、かまどからの薪炎で炊いたようなご飯の仕上がりを、独自の加熱コイル17の構造によって実現できる。
次に上記構成について、その作用を図11~図15を参照して詳しく説明する。図11は、従来の炊飯器における炊飯工程中の加熱コイル17の動作状態を示したものである。また、図12は比較として、本実施形態の炊飯器における炊飯工程中の加熱コイル17の動作状態を示したものである。これらの各図において、縦軸は電力、横軸は時間であり、棒状に並んだ部分で加熱コイル17に高周波電流がされる。棒状部分の縦方向の長さは、インバータ72の入力電力値となり、棒状部分の横方向の長さは、加熱コイル17に高周波電流が流れる時間となる。棒状部分の面積は加熱コイル17からの出力に相当し、棒状部分の面積が大きくなる程、加熱コイルからの出力(加熱量)は多くなり、棒状部分の面積が小さくなる程、加熱コイルからの出力は少なくなる。
加熱コイル17に高周波電流が供給される期間をオン期間Tonとし、加熱コイル17に高周波電流が供給されない期間をオフ期間Toffとすると、従来の炊飯器は図11に示すように、インバータ72の入力電力が閾値となる例えば700Wから最大で1400Wまでの範囲で、インバータ72の入力電力を10段階に増減できるようになっていた。また、インバータ72の入力電力が700W未満の場合は、オン期間Tonとオフ期間Toffを何れも最小で1秒ずつまで増減できるようになっていた。
それに対して、本実施形態の炊飯器は図12に示すように、加熱パターン設定手段で設定された所定の加熱パターンに基づき、加熱コイル制御手段65からIH駆動回路76に与えられるPWM制御信号により、インバータ72の入力電力が閾値となる例えば700Wから最大で1400Wまでの範囲で、インバータ72の入力電力を256段階に増減でき、オン期間Tonとオフ期間Toffを何れも最小で1秒ずつまで増減できるようになっている。また、インバータ72の入力電力が700W未満の場合は、オン期間Tonとオフ期間Toffを何れも最小で0.15秒ずつまで増減できるようになっている。これにより、炊飯工程で従来よりも加熱コイル17からの出力をより細かく高速で連続的に変化させることが可能となる。
上述したインバータ72の入力電力を増減する段階数や、オン期間Tonとオフ期間Toffが増減する最小単位の時間は、制御手段55のハードウェア構成となるマイコンの能力に依存する。但し、マイコンの能力を上げると、炊飯器としてのコストもそれに応じて上昇するので、インバータ72の入力電力が閾値以上の場合には、オン期間Tonとオフ期間Toffを何れも最小で1秒以上の単位に増減させる一方で、インバータ72の入力電力が閾値未満の場合には、オン期間Tonとオフ期間Toffを何れも最小で1秒未満の単位に増減させるようなPWM制御信号を、加熱コイル制御手段65が生成できるように、加熱パターン設定手段74が所定の加熱パターンを設定すればよい。また、インバータ72の入力電力が閾値以上の場合には、インバータの入力電力を少なくとも10段階を超えて増減させるようなPWM制御信号を、加熱コイル制御手段65が生成できるように、加熱パターン設定手段74が所定の加熱パターンを設定すればよい。ここでの閾値は、上述した700Wに限定されず、炊飯器の仕様に応じて適宜変更して構わない。
図13は、従来の炊飯器における白米炊きの炊飯工程で、鍋温度センサ21および蓋温度センサ36の温度変化と、加熱コイル17の動作状態の推移をグラフで示したものである。また、図14は比較として、本実施形態の炊飯器における白米炊きの炊飯工程で、鍋温度センサ21および蓋温度センサ36の温度変化と、加熱コイル17の動作状態の推移をグラフで示したものである。これらの各図において、グラフ上段のTnは、鍋温度センサ31により検知した内鍋4の底部4Aの温度すなわち「鍋底温度」の変化を示しており、同じくグラフ上段のTfは、蓋温度センサ36で検知した内蓋32の温度すなわち「ふた温度」の変化を示している。
従来の炊飯器や本実施形態の炊飯器で炊飯を行なうには、先ず内鍋4内に被炊飯物Sを入れ、これを本体1の鍋収容部3にセットした後に、蓋体2を閉じて選択キー47bを操作し、複数の炊飯コースの中から、所望する炊飯コースを選択する。続いて、炊飯キー47aを操作すると、制御手段55に組み込まれた炊飯制御手段61により、所望の炊飯コースに対応した所定の加熱パターンに基づく炊飯が開始する。
ここで一つの例として、複数の炊飯コースの中から、選択キー47bにより標準的な白米炊きに適した白米炊飯コースを選択した場合、従来の炊飯器は図13に示すように、白米炊飯コースに対応する所定の加熱パターンに基づいて、鍋底温度Tnやふた温度Tfの挙動を監視しながら、減圧手段41や加熱コイル17を含む加熱手段の動作を制御することにより、炊飯開始から内鍋4に投入された米Rの吸水を促進させる「ひたし炊き」と、被炊飯物Sの温度を短時間に沸騰まで上昇させ、被炊飯物Sの沸騰を検知したら沸騰状態を継続させ、ドライアップ状態のご飯に炊き上げる「沸騰加熱」と、炊き上がったご飯を焦がさない程度の高温に維持して、最終的なご飯に仕上げる「むらし」の順に炊飯工程が実行される。この一連の炊飯工程では、加熱コイル17のオン期間Tonに、インバータ72の入力電力を700W~1400Wの間にする場合には、インバータ72の入力電力を10段階に増減でき、加熱コイル17のオン期間Tonに、インバータ72の入力電力を700W未満にする場合には、PWM制御により一周期の時間を固定して、加熱コイル17のオン期間Tonとオフ期間Toffを、何れも最小で1秒ずつに増減できる。しかしこれでは、炊飯工程で加熱コイル17から内鍋4への加熱量が大雑把にしか変化せず、内鍋4内の被炊飯物Sに対して、薪炎の出力が不規則に変化するようなかまどの振る舞いを再現することはできない。
それに対して本実施形態の炊飯器は、従来の炊飯器と同様に、「ひたし炊き」→「沸騰加熱」→「むらし」の順に炊飯工程を行なうものの、加熱コイル17のオン期間Tonに、インバータ72の入力電力を700W~1400Wの間にする場合には、インバータ72の入力電力を従来よりも細かく100段階以上の256段階に増減でき、加熱コイル17のオン期間Tonに、インバータ72の入力電力を700W未満にする場合には、PWM制御により一周期の時間を固定して、加熱コイル17のオン期間Tonとオフ期間Toffを、何れも従来よりも細かく最小で0.5秒以下の0.15秒ずつにまで増減できる。これにより、インバータ72を図5で示したようなコストをかけないシングルエンド形式の電圧形共振インバータで構成した場合でも、ハーフブリッジ形式のインバータなどと同等に、炊飯工程で加熱コイル17からの出力を高速で連続的に変化させることが可能となり、内鍋4内の被炊飯物Sに対して、薪炎の出力が不規則に変化するようなかまどの振る舞いを再現できる。
次に、本実施形態の炊飯器について、炊飯工程中の被炊飯物Sに対する火加減の調整手順を、図15に基づいて説明する。図15は、本実施形態の炊飯器における白米炊きの炊飯工程で、鍋温度センサ21および蓋温度センサ36の温度変化と、加熱コイル17の動作状態の推移に加えて、炊飯の各工程での火加減と時間の調整の様子をグラフで示している。
選択キー47bにより白米炊飯コースを選択した後に、炊飯キー47aにより炊飯制御手段61への炊飯開始が指示されると、炊飯制御手段61は、加熱パターン設定手段64で設定された白米炊飯コースに対応する所定の加熱パターンに基づいて、減圧手段41や加熱コイル17を含む加熱手段の動作を制御し、前述した「ひたし炊き」→「沸騰加熱」→「むらし」の順に炊飯工程を実行する。このとき加熱パターン設定手段64は、炊飯が開始した時点で炊飯の全ての工程について、選択された炊飯コースに対応する所定の加熱パターンを一度に設定するのではなく、炊飯の進行中の一つの工程において、鍋底温度Tnやふた温度Tfに関する温度変化(温度、温度勾配など)の挙動を監視し、その監視結果から次の工程における所定の加熱パターンを、炊飯の全工程が完了するまで繰り返し設定する。
具体的に加熱パターン設定手段64は、現在進行中の炊飯を開始してからの「ひたし炊き」の初期工程で、炊飯開始から鍋底温度Tnが最初に所定の約60度に達するまでの鍋底温度Tnとふた温度Tfの挙動に基づき、後続の鍋底温度Tnが約60℃に達した後の「ひたし炊き」の継続工程について、加熱コイル17から内鍋4への火加減(加熱量)と「ひたし炊き」の時間とを適切に調整した所定の加熱パターンを設定する。「ひたし炊き」の初期工程が終了して、次の「ひたし炊き」の継続工程に移行すると、加熱コイル制御手段65は加熱パターン設定手段64で設定した「ひたし炊き」の継続工程における所定の加熱パターンに基づき、実際に「ひたし炊き」の初期工程が終了した後の継続工程で、加熱コイル17を適切に動作させるPWM制御信号を生成し、これをIH駆動回路76に出力する。
以下同様に、次に加熱パターン設定手段64は、現在進行中の「ひたし炊き」の継続工程で、炊飯開始から「ひたし炊き」の継続工程が終了するまでの鍋底温度Tnとふた温度Tfの挙動に基づき、後続の被炊飯物Sの温度を短時間に沸騰まで上昇させる「沸騰加熱」の初期工程について、加熱コイル17から内鍋4への火加減を適切に調整した所定の加熱パターンを設定する。「ひたし炊き」の継続工程が所定の時間で終了して、次の「沸騰加熱」の初期工程に移行すると、加熱コイル制御手段65は加熱パターン設定手段64で設定した「沸騰加熱」の初期工程における所定の加熱パターンに基づき、実際に「ひたし炊き」の継続工程が終了した後の「沸騰加熱」の初期工程で、加熱コイル17を適切に動作させるPWM制御信号を生成し、これをIH駆動回路76に出力する。
次に加熱パターン設定手段64は、現在進行中の「沸騰加熱」の初期工程で、炊飯開始から炊飯制御手段61が被炊飯物Sの沸騰を検知して、一定時間が経過するまでの鍋底温度Tnとふた温度Tfの挙動に基づき、後続の被炊飯物Sの沸騰状態を継続させる「沸騰加熱」の継続工程について、加熱コイル17から内鍋4への火加減を適切に調整した所定の加熱パターンを設定する。鍋底温度Tnとふた温度Tfが何れも所定の例えば90℃以上に達するなどして、炊飯制御手段61が被炊飯物Sの沸騰を検知した後、一定の時間が経過して「沸騰加熱」の初期工程が終了し、次の「沸騰加熱」の継続工程に移行すると、加熱コイル制御手段65は加熱パターン設定手段64で設定した「沸騰加熱」の継続工程における所定の加熱パターンに基づき、実際に「沸騰加熱」の初期工程が終了した後の継続工程で、加熱コイル17を適切に動作させるPWM制御信号を生成し、これをIH駆動回路76に出力する。
次に加熱パターン設定手段64は、現在進行中の「沸騰加熱」の継続工程で、炊飯開始から炊飯制御手段61が被炊飯物Sの炊上げを検知するまでの鍋底温度Tnとふた温度Tfの挙動に基づき、後続する炊上がったご飯を高温に維持する「むらし」の初期工程について、加熱コイル17から内鍋4への火加減と「むらし」の初期工程の時間とを適切に調整した所定の加熱パターンを設定する。鍋底温度Tnが所定のドライアップ温度に達するなどして、炊飯制御手段61が被炊飯物Sの炊上げを検知することで、「沸騰加熱」の継続工程が終了し、次の「むらし」の初期工程に移行すると、加熱コイル制御手段65は加熱パターン設定手段64で設定した「むらし」の初期工程における所定の加熱パターンに基づき、実際に「沸騰加熱」の継続工程が終了した後の「むらし」の初期工程で、加熱コイル17を適切に動作させるPWM制御信号を生成し、これをIH駆動回路76に出力する。
次に加熱パターン設定手段64は、現在進行中の「むらし」の初期工程で、炊飯開始から「むらし」の初期工程を終了するまでの鍋底温度Tnとふた温度Tfの挙動に基づき、後続する炊上がったご飯を引き続き高温に維持するのに、一時的な加熱を加えて二度炊きする「むらし」の継続工程について、火加減の程度となる二度炊きの回数と「むらし」の継続工程の時間とを適切に調整した所定の加熱パターンを設定する。「むらし」の初期工程が終了して、次の「むらし」の継続工程に移行すると、加熱コイル制御手段65は加熱パターン設定手段64で設定した「むらし」の継続工程における所定の加熱パターンに基づき、実際に「むらし」の初期工程が終了した後の「むらし」の継続工程で、加熱コイル17を適切に動作させるPWM制御信号を生成し、これをIH駆動回路76に出力する。そして、所定時間の「むらし」の継続工程が経過したら、一連の炊飯工程を終了する。
このように、本実施形態の加熱パターン設定手段64は、炊飯中の一つの工程で、炊飯開始からの鍋底温度Tnとふた温度Tfの挙動により、以降の工程でおふくろが薪炎でご飯を炊くような被炊飯物Sへの火加減や工程の時間を仮想し、その仮想結果に沿って所定の加熱パターンを設定することで、加熱コイル17の動作を制御して被炊飯物Sへの火加減や工程の時間を調整する。こうした所定の加熱パターンの設定は、ゆらぎデータ記憶部57cからのゆらぎデータを取り込みながら、炊飯が完了するまで工程毎に繰り返し行われるので、おふくろが薪炎でご飯を炊くような一連の火加減や時間を、適切に実現することが可能になる。
また本実施形態では、加熱パターン設定手段64に学習手段67としての機能を搭載するだけで、加熱パターン設定手段64で仮想される被炊飯物Sへの火加減や工程の時間などの炊飯温度変化を、より理想的なものに学習させることができる。つまり、理想的な所定の加熱パターンを生成するのに必要な理想的な炊飯温度変化は、前述の炊飯シミュレーションと市場データ、および他の炊飯に関する実験値や経験値の学習用データなどを情報入力部67Aに取り込むことで、学習手段67のAI学習部67Bに学習させる。そして、前述の鍋底温度Tnとふた温度Tfの挙動から得られる炊飯器の温度変化、気象データから得られる室温、カレンダー、及び操作部47で選択された米質や炊上りの好みである好みの炊き方に応じて、加熱コイル17の出力を出力演算部67Cが演算で求める。これにより、コストをかけずに炊飯器にAIと言える機能を付加できる。
さらに、本実施形態では炊飯器のIoT(Internet of Things)化に対応して、例えばカレンダーや気象や水質などの学習用データを、インターネット上のWebサイトから何時でも収集できるように、特にインターネットに接続可能な送受信機能を備えた通信手段としての収集手段56を備えている。こうした学習用データは、美味しく炊くためのおふくろの経験値情報を含んでおり、収集手段56がインターネット上のWebサイトから、学習用データを幅広く収集することで、学習手段67でより理想的な炊飯温度変化となる所定の加熱パターンに反映させて行くことが可能となる。
以上のように本実施形態では、被炊飯物Sを収容する有底状の内鍋4と、内鍋4を加熱する加熱手段としての加熱コイル17と、加熱コイル17を所定の加熱パターンで制御することにより、被炊飯物Sを炊き上げてご飯に仕上げる炊飯制御手段61と、を備えた炊飯器において、薪炎のゆらぎに基づく1/fゆらぎを波形化したゆらぎデータを記憶する記憶手段57のゆらぎデータ記憶部57cと、ゆらぎデータ記憶部57cからゆらぎデータを読み込んで、加熱コイル17の出力が連続的に変化して不規則にゆらぐように、所定の加熱パターンを設定する加熱パターン設定手段64と、をさらに備えている。
この場合、記憶手段57のゆらぎデータ記憶部57cには、薪炎のゆらぎを波形化したゆらぎデータが記憶されているので、このゆらぎデータを利用して加熱パターン設定手段64が所定の加熱パターンを設定すれば、炊飯中に加熱コイル17の出力が連続的に変化して不規則なゆらぎが再現され、内鍋4に収容した被炊飯物Sは、恰もかまどからの薪炎で炊いたようなご飯の仕上がりとなる。そのため炊飯器として、薪炎の出力が不規則に変化するかまどの振る舞いを実現できる。
また、本実施形態の加熱手段は、内鍋4を電磁誘導加熱する加熱コイル17で構成され、炊飯制御手段61に組み込まれた加熱コイル制御手段65からのPWM制御信号を受けて、加熱コイル17に高周波電流を供給するインバータ72をさらに備え、前記インバータ72の入力電力が閾値(例えば700W)以上の場合には、加熱コイル17に高周波電流が供給されるオン期間Tonと、加熱コイル17に高周波電流が供給されないオフ期間Toffを何れも最小で1秒以上(例えば1秒)の単位に増減でき、前記インバータの入力電力が閾値未満の場合には、オン期間Tonとオフ期間Toffを何れも最小で1秒未満(例えば0.15秒)の単位に増減できるようなPWM制御信号が生成されるように、加熱パターン設定手段64が所定の加熱パターンを設定する構成となっている。
この場合、インバータ72の入力電力が閾値未満になると、加熱コイル17のオン期間Tonとオフ期間Toffが1秒未満以下の単位で細かく増減するので、特に内鍋4への加熱が弱くなった状態で、加熱コイル17の動作を薪炎の出力とゆらぎのように忠実に再現できる。
さらに本実施形態の炊飯器は、インバータ72の入力電力が閾値以上の場合には、インバータ72の入力電力を少なくとも10段階を超えて(例えば256段階)増減できるようなPWM制御信号が生成されるように、加熱パターン設定手段64が所定の加熱パターンを設定する構成とするのが好ましい。
この場合、インバータ72の入力電力が閾値以上になると、その電力値が10段階を超えるレベルで細かく増減するので、特に内鍋4への加熱が強くなった状態で、加熱コイル17の動作を薪炎の出力とゆらぎのように忠実に再現できる。
また本実施形態の炊飯器は、内鍋4の開口面となる上面開口を覆う蓋に相当する蓋体2と、内鍋4の温度を検知する鍋温度検知手段としての鍋温度センサ21と、蓋体2の温度を検知する蓋温度検知手段としての蓋温度センサ36と、をさらに備え、炊飯中の一つの工程において、鍋温度センサ21で検知された内鍋4の温度(鍋底温度Tn)と、蓋温度センサ36で検知された蓋体2の温度(ふた温度Tf)の挙動をそれぞれ監視し、その監視結果から次の工程における所定の加熱パターンを、炊飯が完了するまで繰り返し設定するように、加熱パターン設定手段64を構成している。
この場合、炊飯中の一つの工程で内鍋4の温度となる鍋底温度Tnや、蓋体2の温度となるふた温度Tfの挙動を監視することで、次の工程における被炊飯物Sへの加熱量や工程の時間となる炊飯温度変化を仮想し、その仮想結果に沿った所定の加熱パターンで被炊飯物Sへの火加減を調整する。これにより、恰もおふくろが薪炎でご飯を炊くような一連の火加減を、適切に実現することが可能になる。
また本実施形態の加熱パターン設定手段75は、炊飯に関する実験値や経験値の様々な学習用データを取り込んで、所定の加熱パターンが理想的になるように学習させる学習手段67を備え、この学習手段67で生成された理想的な所定の加熱パターンから、加熱コイル17の出力を演算で求める構成としている。
つまり、所定の加熱パターンに基づく被炊飯物Sへの炊飯温度の変化を、炊飯に関する実験値や経験値の学習用データにより学習させて理想的なものにし、そこから実際の加熱コイル17の出力を演算で求めることで、薪炎でご飯を炊くような火加減をかまどの振る舞いとして実現可能にした炊飯器を提供できる。
さらに本実施形態では、学習手段67を備えた炊飯器に対して、学習用データをインターネット上から取得する送受信機能を有する収集手段56をさらに備えている。
この場合、例えばカレンダー(季節性)、気象(気温や気圧の影響)、水質(地域性)などの、美味しく炊くためのおふくろの経験値情報を、収集手段56がインターネット上から学習用データとして広く収集することで、学習手段67でより理想的な炊飯温度変化となる所定の加熱パターンに反映させて行くことが可能となる。
また本実施形態では、図7で示したように、それぞれが分離独立して、内鍋4の底部4Aから下側部4C1にかけての外面に対向して設けられる第1コイル17Aと、内鍋4の中心軸Cから見て第1コイル17Aよりも外周側にあって、内鍋4の側部4C2の外面に対向して設けられる第2コイル17Bと、第1コイル17Aと重なるように設けられる第3コイル17Cとにより、加熱手段として内鍋4を電磁誘導加熱する加熱コイル17を構成するのが好ましい。
内鍋4の底部4Aから下側部4C1にかけての外面側に第1コイル17Aと第3コイル17Cを二重に配設することで、内鍋4の底部4Aや下側部4C1に対する火力を増やし、内鍋4の内部となる収容空間5で水Wに激しい熱対流を起こさせる。これにより、かまどからの薪炎で炊いたようなご飯の仕上がりを、加熱コイル17の構造を工夫して実現できる。
代わりに本実施形態では、図8で示したように、それぞれが分離独立して、内鍋4の底部4Aから下側部4C1にかけての外面に対向して設けられる第1コイル17Aと、内鍋4の中心軸Cから見て第1コイル17Aよりも外周側にあって、内鍋4の側部4C2の外面に対向して設けられる第2コイル17Bと、により、加熱手段として内鍋4を電磁誘導加熱する加熱コイル17を構成し、内鍋4の底部4Aを避けた位置として、例えば内鍋4の側部4C2の外面に対向して、内鍋4の温度を検知する鍋温度検知手段となる鍋温度センサ21を配設してもよい。
内鍋4の底部4Aから下側部4C1にかけての外面側に第1コイル17Aと第2コイル17Bを別々に配設し、内鍋4の底部4Aを避けて第2コイル17Bよりも外周側に鍋温度センサ21を配設することで、内鍋4の底部4Aに対する火力を増やし、内鍋4の内部となる収容空間5で水Wに激しい熱対流を起こさせる。これにより、かまどからの薪炎で炊いたようなご飯の仕上がりを、加熱コイル17と鍋温度センサ21の構造を工夫して実現できる。
代わりに本実施形態では、図9で示したように、それぞれが分離独立して、内鍋4の底部4Aの外面に対向して設けられる第1コイル17Aと、内鍋4の中心軸Cから見て第1コイル17Aよりも外周側にあって、内鍋4の下側部4C1の外面に対向して設けられる第2コイル17Bと、第2コイル17Bよりも外周側にあって、内鍋4の側部4C2の外面に対向して設けられる第3コイル17Cと、により、加熱手段として内鍋4を電磁誘導加熱する加熱コイル17を構成してもよい。
内鍋4の底部4Aと下側部4C1の外面側に第1コイル17Aと第2コイル17Bを別々に配設することで、内鍋4の底部4Aに対する火力を他の部位に対する火力よりも増やし、内鍋4の内部で激しい熱対流を起こさせる。これにより、かまどからの薪炎で炊いたようなご飯の仕上がりを、加熱コイル17の構造を工夫して実現できる。
さらに本実施形態では、図10で示したように、内鍋4の底部4Aから側部4C2にかけての外面に対向して設けられ、内鍋4の底部4Aの外面に対向する中心部を密に巻回し、そこから内鍋4の側部4C2の外側に対向する周囲部に向けて次第に疎に巻回するように、加熱手段として内鍋4を電磁誘導加熱する加熱コイル17を構成してもよい。
内鍋4の底部4Aから側部4C2にかけての外面に対向して設けられる加熱コイル17の中心部を密巻とし、そこから周囲部に向けて次第に巻回ピッチを拡げて疎巻とすることで、内鍋4の底部4Aに対する火力を、内釜4の他の部位に対する火力よりも増やし、内鍋4の内部で激しい熱対流を起こさせる。これにより、かまどからの薪炎で炊いたようなご飯の仕上がりを、加熱コイル17の構造を工夫して実現できる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更可能である。例えば本実施形態の内鍋は、被炊飯物を収容できるあらゆる容器や釜などを含む。また被炊飯物Sは、白米R以外の穀物と水Wとの組み合わせであってもよく、調味料や具材を添加した被炊飯物Sであってもよい。このとき加熱パターン設定手段64は、各被炊飯物Sの違いに応じた所定の加熱パターンを、被炊飯物S毎に設定できる構成とするのが好ましい。