本発明の第1実施形態である線状物ハンドリング方法およびロボットハンドシステムを図1~12に基づいて説明する。
本実施形態では、先端部の長手方向を軸とする回転の向き(以下において「周方向の向き」という)を有する線状物の先端を挿入孔に挿入する場合を説明する。線状物が周方向の向きを有するとは、線状物の長手方向に垂直な断面形状が円形ではなく異方的であることをいう。
図1を参照して、線状物60はワイヤ61とその先端に装着されたコネクタ62からなり、コネクタ62の形状により、先端部が周方向の向きを有する。このような場合、線状物60を周方向に回転させてコネクタ62と挿入孔65の周方向の向きを合わせ、かつコネクタの長手方向の中心線を挿入孔の中心に向かうよう合わせて、コネクタを挿入孔に挿入する必要がある。ロボットハンドで線状物60を把持してこの作業を行う場合、挿入孔座標系(XfYfZf)を基準とした挿入動作前の線状物の先端の位置と姿勢を表すパラメータ(XwYwZwΘw)との関係が既知であれば、線状物の周方向および長手方向の向きが挿入孔に対して所要の向きになるようにすればよい。
図2を参照して、本実施形態に用いる設備の全体は、垂直多関節型のロボット10とカメラ55からなる。ロボット10のアームの先端11にはロボットハンド20(以下において単に「ハンド」という)が装着されている。ハンド20が線状物60を把持して、その先端を挿入孔65に挿入する。ロボット10は演算部14を有する。演算部14は順運動学、逆運動学の各種演算を行い、ハンド20を含めたロボット全体を制御する。ハンド20、カメラ55および演算部14が本実施形態のロボットハンドシステムを構成している。
図2においてロボット10は垂直多関節型であるが、ロボットはこれには限られず、線状物60を把持し、ハンド20を所要の向きに調整して挿入孔の前に移動させ、線状物の先端を挿入孔に挿入可能とするロボットであればよい。
図3を参照して、本実施形態のハンド20は、基部21、第1指部30、第2指部40を有する。ハンド20は基部21をロボットアームの先端(図2の11)に取り付けて用いられる。図3中のXhYhZhはハンドの基部21を基準とするハンド座標系を示している。図3中のXtYtZtは第2指部が先端に備える第2把持面を基準とする第2把持面座標系を示している。
第1指部30は、リンク32の基端側が基部21に固定され(固定端31)、リンク32とリンク34を連結する第1関節33と、リンク34とリンク36を連結する第2関節35と、リンク36とリンク38を連結する第3関節37を有し、先端部に第1把持面39が設けられている。第1関節33は、リンク32とリンク34の挟むリンク間角度θ1を増減するように回転運動する。第2関節35は、リンク34とリンク36のリンク間角度θ2を増減するように回転運動する。第3関節37は、リンク36とリンク38のリンク間角度θ3を増減するように回転運動する。各関節の駆動機構は電動サーボ駆動とすることが好ましい。後述するトルク制御が容易だからである。
第1指部30は先端部に第1把持面39を備える。第1把持面は平面である。第1把持面は、好ましくは、線状物60を把持して転動させるときに線状物と接する領域に弾性体を備える。線状物を転動させるときに滑りが生じにくいためである。
第2指部40は、リンク42の基端側が基部21に固定され(固定端41)、リンク42とリンク44を連結する第4関節43を有する。第4関節43は、リンク42とリンク44の挟むリンク間角度θ4を増減するように回転運動する。第4関節の駆動機構は電動サーボ駆動とすることが好ましい。後述するトルク制御が容易だからである。
第2指部40は先端部に第2把持面49を備える。第2把持面は平面である。ハンド座標系(XhYhZh)と第2把持面座標系(XtYtZt)の変換は、第4関節43の回転角やリンク42、44の長さに基づいて、容易に行うことができる。
図4を参照して、第2把持面49には、圧力センサ50が設けられている。圧力センサ50は、圧力を検知する要素51が把持面の長手方向に配列され、当該方向での圧力分布が検知可能な「1次元」圧力センサである。圧力センサ50は、ハンド20が線状物60を把持したときに作用する圧力を検知して、その分布を取得する。これにより把持した線状物の第2把持面上での位置を知ることができる。圧力センサは、この他にも、把持した線状物の数が1本であるか否か等の線状物の把持状況を認識することにも利用できる。
圧力センサ50の種類は特に限定されず、導電性ゴム型、導電性ペイント型、光導波路型など、各種公知のセンサを用いることができる。圧力センサは第2把持面内の圧力分布が検知可能な「2次元」圧力センサであってもよいが、把持対象が線状物である場合、線状物の長手方向と垂直な向きでの圧力分布を検知することができれば、線状物の把持位置を把握することができるため、「1次元」圧力センサを用いる方が装置設計が容易となるので好ましい。「2次元」圧力センサを用いる場合、把持面の長手方向に対する線状物の長手方向の角度や、把持した線状物が段差や曲がりを有する場合は、把持圧力プロファイルの情報を得ることができる。なお、圧力センサは第2把持面でなく第1把持面に設けられていてもよい。さらに、第1把持面および第2把持面の両方に設けられていることが好ましい。理由は後述する。
線状物の把持位置を精確に検出し、または、把持している線状物の本数を精確に検出するためには、把持する線状物の直径が小さいほど、圧力センサの分解能が高いことが要求される。圧力センサの好ましい例として、導電性ゴムの両面にライン状電極群を有し、2つのライン状電極群が互いに斜交してマトリクスを形成しているものが挙げられる。図12を参照して、この圧力センサ80は、導電性ゴム(図示せず)を挟んで、把持面の長手方向(Xt方向)に平行な第1ライン状電極群81と、これと交差する第2ライン状電極群82を備える。第2ライン状電極群はZt方向からわずかに斜行して、第1ライン状電極群と斜交している。圧力センサの分解能は通常ライン状電極の間隔によって決まるが、第2ライン状電極群を斜行させることによって分解能を上げることができる。図12では、第1ライン状電極群を2本のライン状電極で構成することによって、Xt方向の分解能が第2ライン状電極群の電極間隔の約1/2となっている(図12中のR)。したがって、より精確な線状物の把持状況を検出するためには、第1ライン状電極に対して第2ライン状電極を垂直に配置するよりも斜交させて配置することが好ましい。
第2把持面49は、好ましくは、線状物60を把持して転動させるときに線状物と接する領域に弾性体を備える。線状物を転動させるときに滑りが生じにくいためである。また、例えば、表面に微小な突起が形成された線状物を挟持する場合、第2把持面49が弾性体を備えていなければ、第2把持面と接触する突起先端部だけを圧力センサ50が検出する。これに対して、第2把持面49が弾性体を備えることにより、突起先端部だけでなく、線状物全体の形状に応じた圧力分布を検出できる。第2把持面が備える弾性体は、圧力センサの表面材として用いられた弾性体であってもよい。
第1把持面39と第2把持面49は、第1ないし第4関節の動作によって、平行にして対向させた状態で、互いに接近または遠ざかる向きに動作可能である。これにより、第1把持面と第2把持面を平行にして線状物を挟持することができる。本実施形態では第1ないし第4関節が演算部14とともに挟持制御手段を構成している。
第1把持面39と第2把持面49は、第1ないし第4関節の動作によって、線状物を挟持した状態で、把持面の長手方向(図3のXt方向)に相対的にスライドすることができる。第1把持面と第2把持面を相対的にスライドさせるには、一方の把持面を固定して他方の把持面のみをスライドさせてもよいし、第1および第2把持面の両方をスライドさせてもよい。以下において、第1把持面と第2把持面を相対的にスライドさせることを単に「把持面をスライドさせる」という。線状物60を、その長手方向に直交する方向から、つまり図3において線状物の長手方向がZt方向となるようにして把持した状態で把持面をスライドさせることにより、線状物が長手方向を軸として回転し、線状物の周方向の向きが変化する。本実施形態では第1ないし第4関節が演算部14とともにスライド手段を構成している。
第1把持面39と第2把持面49は、第1ないし第4関節の動作によって、両把持面の成す角を変化させることができる。また、線状物を転動させるにあたって、第1把持面と第2把持面の成す角度を任意の角度にして、線状物の把持位置における第1把持面と第2把持面との距離を一定に保ちながらスライドさせることができる。ただし、任意の角度といっても、両把持面の基端側または先端側同士がぶつからない限度において、任意の角度にすることができる。
ここで、指部の関節の数について整理しておく。第1指部30と第2指部40にそれぞれ1つずつの関節があれば、第1把持面39と第2把持面49で挟持した線状物60を転動させることが可能である。関節の数をさらに増やすことによって、作業空間の大きさが同じであっても、第1把持面と第2把持面の相対的な変位量をより大きくでき、すなわち線状物をより大きく転動できる。
片方の指部、例えば第2指部40が関節を有しない場合でも、第1指部30に3関節があれば線状物60を転動可能である。また、第1指部30に3関節があれば、第1把持面39と第2把持面49の成す角度を変化させて線状物を転動できるので、後述する余分な線状物のふるい落とし操作を迅速に行うことができる。本実施形態のように、第1指部が3関節、第2指部が1関節を有する場合は、第1把持面と第2把持面の相対的な変位量を大きくできるとともに(後述する図7を参照)、把持した線状物の周方向の向きを一定に保ちながら、ハンド座標系での把持位置を移動したり、把持した線状物を平行にスライド動作範囲以外の位置に移動させたりするなど、より複雑な制御が可能となる。好ましくは、第1指部および第2指部がそれぞれ3以上の関節を有する。これにより人間の手指と同様の複雑な動きが可能となる。一方、好ましくは、第1指部および第2指部の関節の数は4以下である。関節の数が多すぎると逆運動学計算が複雑になり、計算に時間がかかるからである。
また、第1指部30または第2指部40に、関節とともに、直動アクチュエータによる駆動機構を設けてもよい。回転動作を行う関節と直動アクチュエータを組み合わせることによって、ハンド20を小型化できる。
図11に本実施形態のハンド20の設計例を示す。この設計では、第1指部30が備える第3関節37と第2指部40が備える第4関節43は、直動アクチュエータ70とクランク機構71を組み合わせることによって回転する。これにより、第1把持面39および第2把持面49の近傍からモータをなくし、細かな作業を容易にしている。
カメラ55はハンド20が把持した線状物60の先端部を撮像する。好ましくは、カメラ55として3次元計測が可能な3次元カメラを用いる。撮像の1つの目的は、カメラが撮像した画像の解析によって、線状物の周方向の向きを算出することである。したがって、例えば、把持した線状物をカメラの前に移動させて、常に先端をまっすぐカメラの光軸に向けて撮像するのであれば、通常のカメラを用いても線状物先端の周方向の向きを算出できる。カメラ55として3次元計測が可能な3次元カメラを採用すれば、線状物を斜め方向から撮像しても、その周方向の向きを算出できるので、撮像時の線状物およびハンド20の位置の制約が緩くなるので好ましい。また、特に把持対象の線状物が柔軟物である場合、ロボットハンドで把持した領域から先端側に向かって、線状物が曲がっている場合がある。この場合は、カメラで撮像した画像から、線状物の先端の位置と、線状物の先端の向きを計測し、ロボットハンドを用いて目標とする挿入孔の向きに線状物の向きを一致させて、挿入孔に線状物を挿入させることができる。
演算部14はロボット10全体の動作を制御する他、カメラ55が撮像した画像を解析して、線状物60の把持状況を認識する。演算部は例えば、線状物の把持位置、把持面の長手方向に対する線状物の長手方向の角度、線状物の先端の位置、先端の向き、線状物先端部の周方向の向き等を必要に応じて算出し、把持した線状物の数が1本であるか否か、線状物の長手方向が把持面の長手方向と直交しているか否か等を確認する。線状物の周方向の向き等は、第2把持面座標系で算出すれば、ハンド座標系に変換できる。
次に本実施形態の線状物ハンドリング方法を説明する。
図5に本実施形態の方法のフローを示す。まずハンド20で線状物60を把持し(S1)、把持した線状物を撮像して第1画像を取得し(S2)、第1画像に基づいて線状物の周方向の向きを算出して所要スライド量を求め(S3)、圧力センサ50により線状物の転動前位置を取得し(S4)、把持面を所要スライド量だけスライドして線状物を転動し(S5)、スライド完了後に、圧力センサにより線状物の転動後位置を取得して線状物と把持面の間の滑りの有無を確認し(S6)、転動後の線状物を撮像して第2画像を取得し(S7)、第2画像に基づいて線状物の周方向の向きを確認し(S8)、線状物を挿入孔前へ移動させ(S9)、線状物の先端を挿入孔に挿入する(S10)。以下に各工程の詳細を説明する。
(S1)把持工程では、ハンド20で、線状物60を、先端から少し離れた位置で、断面が実質的に一様な部分を、線状物の長手方向と直交する方向から把持する。先端から少し離れた位置とは、線状物の少なくとも挿入孔65に挿入する先端部分を除いた部分をいう。 断面が実質的に一様であるとは、線状物を2つの把持面で挟持して長手方向と直交する方向に転動させたときに、線状物の長手方向が変化しない程度に断面が一様であることをいい、例えば表面に凹凸模様が形成されていて、断面が厳密には一様でない場合を含む。ワイヤ61の先端にコネクタ62が装着されているような場合は、コネクタとワイヤにまたがって把持するのではなく、断面が一様なワイヤ61の部分を把持する。ここで線状物の長手方向とは把持位置における線状物の長手方向であり、これに直交する方向から把持するとは、線状物の当該長手方向と第1および第2把持面の長手方向(図3のXt方向)が直交するように把持することを意味する。
線状物60が長手方向を一定にして供給される場合は、その長手方向に直交する方向からハンド20で把持すればよい。線状物60が供給される際に長手方向が一定しない場合は、例えば、3次元カメラ等の視覚センサによって線状物の3次元形状を計測し、把持位置と把持方向を決定することができる。
具体的な把持動作は例えば次のとおりである。線状物60の長手方向が一定でない場合は、まず、3次元カメラ等により線状物60を計測して、線状物上の把持位置と、把持位置における線状物の長手方向を求める。第1把持面39と第2把持面49を略平行に保ちながら線状物の幅より少し広く開く。ロボット10を動作させて、ハンド20を線状物に向けて線状物の近くに移動させ、線状物が第1把持面39と第2把持面49の間に入るようにハンドを前進させる。線状物が両把持面の間に入ったら、両把持面の平行を保ちながら間隔を狭めていって、線状物を挟持する。
ハンド20による線状物60の把持動作は、好ましくはトルク制御によって行われる。具体的には例えば次のとおりである。トルク制御とは、関節を回転させる、または回転させようとするトルクを一定に維持する制御である。第1関節33のモータをトルク制御しながら、第1把持面と第2把持面の間隔を狭める方向に回転させる。各関節の回転角制御により、把持面の間隔を狭めるためには逆運動学計算を用いる。すなわち、所与の把持面間隔dと把持面のなす角に対し、第1~第3関節それぞれの回転位置角θ1~θ3は自由度n=3-2=1の拘束条件を満たしながら運動できる。言い換えるとθi=fi(d,θ)を満たす関係式fi(i=1~3)を求めることができ、それにより各関節の位置制御を行う。位置制御とは、関節の回転位置(角度)を一定にする制御であり、関節が目標位置まで到達した後は、その位置を維持する。第1把持面39と第2把持面49によって線状物60が挟持されると、第1関節33のトルクと反力が釣り合った時点で第1関節は回転を停止し、第1関節に追随する第2関節35、第3関節37および第4関節43も停止する。その後は、第1関節がトルク制御されているので、対象物を一定のトルクで把持した状態が維持される。トルク制御による把持動作の詳細は特許文献4に記載されている。
(S2)第1撮像工程において、ハンド20に把持された線状物60の先端をカメラ55で撮像して第1画像を取得する。
(S3)演算工程において、演算部14で第1画像を解析して、線状物60先端の周方向の向きを算出する。第1画像の解析には、あらかじめコネクタの画像を記憶しておき、その記憶画像との画像マッチングなど各種公知の方法を用いることができる。線状物の周方向の向きは第2把持面座標系で求めればよい。
図6Aを参照して、線状物60先端のコネクタ62を挿入孔65に挿入する際に、挿入孔座標系のXf方向と第2把持面座標系のXt方向を一致させて挿入動作を行う場合について説明する。図6Bにおいて、線状物の周方向の向きが挿入孔の周方向の向きと角度φだけずれているとすると、線状物を反時計回りにφだけ回転させる必要がある。この所要回転量φと把持位置における線状物の半径rとから、線状物の周方向の向きを所要の向きとするための所要スライド量は2rφと求められる。
また、演算部14は第1画像に基づいて、線状物の周方向の向きと同時に、線状物の把持位置を算出してもよい。ここで、線状物の把持位置とは把持された線状物の第2把持面49上の位置であり、線状物の転動前位置である。
(S4)圧力センサ50の検出したXt方向の圧力分布から線状物60の転動前位置を取得する。図6Bでは、線状物の第2把持面49上の位置は、Xt=X0である。なお、このとき、線状物の軸方向の中心線はZt方向に平行で、(Xt,Yt)=(X0,r/2)となる。なお、演算工程(S3)で線状物の転動前位置を算出した場合は、圧力センサによる転動前位置の取得は省略してもよい。
以上によって、線状物60の転動前の周方向の向きおよび位置が第2把持面座標系で求められた。
(S5)転動工程において、ハンド20は線状物60を把持した状態で、第1把持面39および第2把持面49を平行に維持しながら所要スライド量だけスライドさせる。このとき、トルクを一定に制御することで、挟持力によって変化する摩擦力も一定となり、線状物と把持面との間で滑りを生じにくくすることができる。所要スライド量だけスライドさせた後の線状物は、後述する把持面との間の滑りがなければ、周方向の向きが挿入孔65と一致する。
転動工程におけるハンド20のリンク形状の変化を図7に示した。図7Aに示す転動前の状態から、線状物60を時計回りに転動させるときは図7Bのように、反時計回りに転動させるときは図7Cのように第1指部30および第2指部40の形状が変化する。
(S6)転動後に、圧力センサ50の検出したXt方向の圧力分布から線状物60の転動後位置を取得する。次に、転動前位置と転動後位置の距離を所要スライド量と比較する。転動工程において、線状物と第2把持面の間で滑りが生じていなければ、転動前位置と転動後位置の距離は所要スライド量(2rφ)の半分になる。このとき、図6Bに示したように、転動後の線状物の第2把持面上の位置は、X1=X0+rφとなる。線状物60と把持面との間に滑りが生じると、滑っている間はスライド量と線状物の位置の移動量が等しくなる。したがって、転動工程のどこかで線状物と把持面との間で滑りが生じた場合は、転動前位置と転動後位置の距離は所要スライド量の半分~1倍の間の値をとる。このことを利用して、転動前位置と転動後位置の距離を所要スライド量と比較することで、転動工程での滑りの有無を確認できる。
本実施形態では、第2把持面49に圧力センサ50が設けられているので、取得した転動前後の線状物60の位置は、第2把持面上の位置である。したがって、線状物が第2把持面とは滑らないで、第1把持面39との間でだけ滑っても、その滑りが生じたことを検知できない。圧力センサを第1把持面および第2把持面の両方に設ければ、線状物がどちらの把持面と滑った場合でも検知できる。
なお、滑りが生じないことが確かな場合は、転動後位置の取得(S6)は省略できる。本発明者らは、第1把持面39および第2把持面49に弾性材を設け、前述のトルク制御を用いて、線状物60の材質に応じて適切な把持力を設定すれば、転動の際に滑りがほとんど発生しないことを実験で確認した。
(S7)転動が完了した後、第2撮像工程において、ハンド20に把持された線状物60の先端をカメラ55で撮像して第2画像を取得する。
(S8)線状物の周方向の向きの判定工程において、演算部14が第2画像を解析して、線状物60先端の周方向の向きを算出する。これにより、線状物の周方向の向きが所要の向きになっているか否かを判定する。なお、この工程で転動後の線状物の周方向の向きを確認するときは、圧力センサ50による滑り有無の確認(S6)は省略してもよい。さらに、滑りが生じないことが確かな場合は、この判定工程自体を省略することも可能である。
転動前後の線状物60の位置から転動工程での滑りの発生を検出したときや(S6またはS8)、線状物の周方向の向きが所要の向きに到っていないことを確認したときは(S8)、その状態を転動前の状態とみなして、改めて転動工程(S5)を実施する。
(S9)以上の工程でコネクタ62の周方向の向きを所要の向きに合わせた後、ロボット10を動作させて、コネクタ62の長手方向の中心線を挿入孔65の中心に向けて、ハンド20に把持した線状物を挿入孔65の前まで移動する。なお、この挿入孔前への移動工程は転動工程(S5)と並行して実施してもよい。
(S10)そして、コネクタ62の先端を挿入孔65に挿入する。
次に、本実施形態の線状物ハンドリング方法の変形例を説明する。
この方法では、上記把持工程(S1)、第1撮像工程(S2)の後、演算工程(S3)において、演算部14は第1画像を解析して線状物60先端の周方向の向きを算出するが、周方向の向きを所要の向きとするための所要スライド量を算出せず、その概算値である概算スライド量を取得する。概算スライド量は、第1画像から線状物のおおよその径を求めることによって算出してもよいし、予め定めておいた値を記憶装置から取得してもよい。
転動工程(S5)において、線状物60を把持した状態で第1把持面39および第2把持面49を概算スライド量だけスライドさせる。そして、第2撮像工程(S7)で撮像した第2画像を、判定工程(S8)で演算部14が解析して、線状物の周方向の向きが所要の向きになっているか否かを判定する。線状物の周方向の向きが所要の向きになっていれば、移動工程(S9)、挿入工程(S10)へ進む。線状物の周方向の向きが所要の向きになっていなければ、さらに、転動工程(S5)、第2撮像工程(S7)、判定工程(S8)を繰り返し、これを線状物の周方向の向きが所要の向きになるまで続ける。
この方法は、様々な径の線状物が混在する中から1本を把持する場合など、線状物の径が正確に分からない場合に有用である。
次に、本実施形態の線状物ハンドリング方法の他の変形例を説明する。
この方法では、第1撮像工程(S2)で取得した第1画像において線状物60の長手方向の向きが想定した向きから大きくずれていた場合に、スライド動作によって線状物の向きを修正する。
本実施形態のハンド20では、把持面を長手方向(図3のXt方向)にスライドさせるので、把持工程(S1)で線状物60をその長手方向と直交する方向から把持する。しかし、把持の瞬間に線状物が動くなどして、線状物の長手方向と把持面の長手方向が直角からずれると、ハンド20の把持面をスライドさせる方向(スライド方向)が線状物の長手方向から直交する方向からずれることになる。なお、以下において、把持面をスライドさせる方向を「スライド方向」といい、スライド方向が線状物の長手方向と直交する方向からずれることを単に「スライド方向がずれる」という。
スライド方向がずれている場合は、転動工程(S5)において、線状物と第1把持面および/または第2把持面との間で必ず滑りが発生する。滑り量が小さければ工程S6やS8で検出して、前述の方法で対処できる。なお、スライド方向がずれている場合は、転動工程(S5)において、線状物の長手方向へも滑りが発生する。線状物の長手方向への滑り量Lは、線状物の半径をr、線状物の軸周りの所要回転角をφ、スライド方向の線状物の長手方向と直交する方向からのずれ角をψとすると、L≦rφtanψとなる。所要回転角φを最大のπ(=180度)としても、この滑り量Lはずれ角ψが約18度のときに高々L≒r、ずれ角ψが約9度のときに高々L≒0.5rに過ぎず、この程度の滑りが生じても問題とはならない。
スライド方向のずれ角がさらに大きい場合は、スライド方向がずれたままの状態で把持面をスライドさせることによって、線状物の長手方向がスライド方向に直交する方向に近づくように、線状物の向きが変化する。本発明者らの実験によれば、ずれ角ψが約40度の場合でも、把持面を5往復スライドさせることによってずれ角が10度以下に変化した。
以上より、把持工程(S1)の後、第1撮像工程(S2)で取得した第1画像によって線状物60の長手方向の向きが想定した向きから大きく、例えば18度以上、ずれていると判明した場合は、スライド方向がずれたままの状態で把持面をスライドさせ、再び第1撮像工程(S2)から図5の工程フローに従って処理を続けることができる。なお、本変形例は、ハンドの構造によってスライド方向が限定されているか否かによらず適用できる。
次に、把持工程(S1)で複数の線状物が把持された場合に1本の線状物を選択する方法(ふるい落とし方法)を説明する。
線状物の供給方法によっては、把持工程で常に1本の線状物だけを把持するのが難しい場合がある。そこで、複数の線状物を把持した場合には、その中の1本だけを残して、余分な線状物をふるい落とす。
上記把持工程(S1)の後に、把持した線状物の本数が1本であるか2本以上であるかを確認する確認工程を実施する。確認の方法は特に限定されないが、例えば、上記第1撮像工程(S2)および演算工程(S3)を確認工程として、第1画像を解析することによって線状物の本数が1本であるか2本以上であるかを確認できる。
あるいは、把持した線状物の本数が1本であるか2本以上であるかは、第1把持面または第2把持面に圧力センサ50が設けられている場合は、その出力によっても検出することができる。例えば、図8を参照して、圧力センサが検知した圧力が予め設定した閾値Thを超える箇所が複数ある場合(図8A)、閾値Thを超える範囲が所定の長さより長い場合(図8B)に複数本の線状物を把持したと判断できる。また、例えば、圧力センサが検知した圧力分布曲線が2以上の極大値と1以上の極小値を有する場合に(図8C)、複数本の線状物を把持したと判断できる。また、例えば、複数の線状物を把持したときの圧力分布曲線を学習させて、人工知能により複数本の線状物を把持したか否かを判定してもよい。
好ましくは、把持した線状物の本数が1本、2本、または3本以上であることを確認して、3本以上であるときは第1把持面39と第2把持面49の間隔を広げて線状物を解放し、改めて把持工程(S1)を繰り返す。
複数の線状物が交差した状態で把持されていることが確認工程で判明した場合は、第1把持面39と第2把持面49の間隔を広げて線状物を解放し、改めて把持工程(S1)を繰り返せばよい。複数の線状物が交差した状態で把持されていることは、第1画像や圧力分布曲線から知ることができる。あるいは、第1指部30および第2指部40の関節をトルク制御して線状物を把持した場合は、把持した状態での第1把持面と第2把持面の間隔が線状物の径より大きいことによっても知ることができる。
次に、図9を参照して、複数本の線状物を把持した場合は、把持面をスライドさせることで、余分な線状物をふるい落とすことができる。図9において左側が把持面の先端側、右側が把持面の基端側であるとする。図9では、第1把持面39を下、第2把持面49を上にして描いたが、これには限られない。複数の線状物60a,60bを把持した場合(図9A)、第1把持面39を第2把持面49に対して基端側にスライドさせることで、先端側にある余分な線状物60bをふるい落とす(図9B)。このとき、ふるい落としに必要なスライド量は、前述の所要スライド量と同様に演算部14によって算出される。あるいは、第1把持面または第2把持面に圧力センサ50が設けられていれば、その出力を監視しながら把持面をスライドさせることで、余分な線状物60bがふるい落とされたことを知ることができる。
図10を参照して、本実施形態のように第1把持面39と第2把持面49の成す角を任意の角度にして把持面をスライドできる場合は、第1把持面と第2把持面の成す角度を変化させて把持面をスライドさせることで、余分な線状物のふるい落としを迅速に行うことができる。図10において左側が把持面の先端側、右側が把持面の基端側であるとする。図10では、第1把持面39を下、第2把持面49を上にして描いたが、これには限られない。複数の線状物60a,60bを把持した場合(図10A)、先端側を開くように第1把持面39と第2把持面49の成す角度を変化させ(図10B)、第1把持面39を第2把持面49に対して基端側にスライドさせることで、基端側の線状物60aをさらに基端側に移動させる(図10C)。次に基端側を開くように第1把持面39と第2把持面49の成す角度を変化させ(図10D)、第1把持面39を第2把持面49に対して先端側にスライドさせることで、先端側の線状物60bをさらに先端側に移動させる(図10E)。第1把持面および第2把持面を平行に戻す(図10F)。以上の操作によって、2本の線状物60a、60bの間隔が広げられた。その後は、図9の場合と同様に、第1把持面39を第2把持面49に対して基端側にスライドさせることで、先端側にある余分な線状物60bがふるい落とされる(図10G)。
複数の中から選択された1本の線状物60aは、図5に示したハンドリング方法によって、挿入孔65に挿入される。そのため、選択された線状物60aはその長手方向に直交する方向から、つまり図3において線状物60aの長手方向がZt方向となるように把持されている必要がある。そのため、例えば、線状物60を乱雑に積み上げられた山から把持する場合には、山の最も上方にある、あるいは最もハンド20に近い線状物に対して、その長手方向に直交する方向から把持すればよい。これにより、ハンドの先端側に余分な線状物60bをさらに把持したとしても、最も基端側にある線状物60aはその長手方向に直交する方向から把持された状態となる。
次に本発明の線状物ハンドリング方法およびロボットハンドシステムの第2実施形態を説明する。本実施形態では、ロボットハンドの構造が第1実施形態と異なり、その他は第1実施形態と同様である。第1実施形態と同様である部分の説明は省略する。
図13を参照して、本実施形態のハンド90は、第1指部91と第2指部94を有する。ハンド90はロボットアームの先端に取り付けて用いられる。第1指部91は、先端部に第1把持面92を備える。第2指部94は、先端部に第2把持面95を備える。第1把持面92および第2把持面95には圧力センサが設けられていてもよい。また、第1把持面92および第2把持面95は、好ましくは、線状物60を把持して転動させるときに線状物と接する領域に弾性体を備える。
第1指部91は、第2指部94との間隔を増減するように、第1アクチュエータである開閉アクチュエータ93の動作によって、第1把持面92と垂直な方向(Yh方向)に移動可能である。開閉アクチュエータ93は本実施形態における挟持制御手段である。本実施形態では、第1アクチュエータは直動アクチュエータであり、第1指部に設けられている。ただし、開閉アクチュエータ93は、回転アクチュエータであってもよい。好ましくは、径が異なる線状物に対応して間隔を調整できる直動アクチュエータを用いる。なお、開閉アクチュエータ93は、第1把持面と第2把持面との間隔を増減するように駆動すればよく、第1指部と第2指部のどちらの側に設けられていてもよい。
第2指部94は、第2アクチュエータであるスライドアクチュエータ96の動作によって、第1指部91との間隔を一定にした状態で、第2把持面95を第1把持面92に対して、線状物60の長手方向(Zh)と直交する方向(把持面の長手方向、Xh)にスライド可能である。スライドアクチュエータ96が本実施形態におけるスライド手段である。本実施形態では、第2アクチュエータ96は第1アクチュエータが設けられていない第2指部に設けられている。なお、スライドアクチュエータ96は、第1把持面と第2把持面とを相対的にスライドさせればよく、第1指部と第2指部のどちらの側に設けられていてもよい。このように、第2実施形態は、第1実施形態よりも関節が少ないため、第1実施形態よりも小型化できるため、狭いスペースで線状物のハンドリングが可能である。
図14に本実施形態のハンド90の設計例を示す。この設計では、図14Aを参照して、第1指部91が第1アクチュエータ93として1つの直動アクチュエータを備え、第1アクチュエータ93を動作させることによって、第2指部94との間隔を増減させる。また、図14Bを参照して、第2指部94は第2アクチュエータ96として他の1つの直動アクチュエータを備え、第2アクチュエータ96を動作させることによって、第1把持面92と第2把持面95とを相対的にスライドさせる。この設計により、ハンド90は図11に示したハンド20と比較してより一層小型化されている。また、ハンド90では把持面をスライドさせるときに第1指部91および第2指部94が動く範囲が狭いため、より狭い作業空間で線状物を転動させて、線状物の周方向の向きを変えることができる。
本実施形態の線状物ハンドリング方法は、第1実施形態と同様に行うことができる。すなわち、図5のフローに従って、ハンド90で線状物60を把持し(S1)、把持した線状物を撮像して第1画像を取得し(S2)、第1画像に基づいて線状物の周方向の向きを算出して所要スライド量を求め(S3)、圧力センサにより線状物の転動前位置を取得し(S4)、把持面を所要スライド量だけスライドして線状物を転動し(S5)、スライド完了後に、圧力センサにより線状物の転動後位置を取得して線状物と把持面の間の滑りの有無を確認し(S6)、転動後の線状物を撮像して第2画像を取得し(S7)、第2画像に基づいて線状物の周方向の向きを確認し(S8)、線状物を挿入孔前へ移動させ(S9)、線状物の先端を挿入孔に挿入する(S10)。ただし、ハンド90の構造が第1実施形態のハンド20と異なるため、把持工程(S1)や転動工程(S5)における指部の動作方法が異なる。
把持工程(S1)については、ハンド90の構造が第1実施形態のハンド20と異なるため、第1指部91および第2指部94を回転関節ではなく、開閉アクチュエータ93を動作させて線状物60を把持する。具体的には、3次元カメラ等により線状物60上の把持位置と、把持位置における線状物の長手方向を求めた後、開閉アクチュエータ93を動作させて、第1把持面92と第2把持面95を平行に保ちながら線状物の幅より少し広く開く。ハンド90を線状物に向けて線状物の近くに移動させ、線状物が第1把持面92と第2把持面95の間に入るようにハンド90を前進させる。線状物が両把持面の間に入ったら、開閉アクチュエータ93を動作させて、両把持面の平行を保ちながら間隔を狭めていって、線状物を挟持する。
転動工程(S5)については、スライドアクチュエータ96の動作によって、第1指部91を動かすことなく、第2把持面95を第1把持面92に対してスライドさせて、線状物60を転動させる。
上記第1および第2実施形態でハンドリングする線状物60は、把持位置における断面形状が円形であることが好ましいが、それには限られない。線状物の断面形状は、把持面をスライドさせたときに、把持面との間に滑りを生じたとしても転動する形状であればよい。ただし、把持した線状物の回転の向きを所要の向きとするための所要スライド量を算出する場合、線状物の断面形状は、把持面をスライドさせたときに、把持面との間に滑りを生じない形状が好ましい。例えば、断面形状が楕円、卵型などの曲線で囲まれた凸図形や、角が丸い凸多角形であってもよい。また、断面形状が鋭利な角を有する場合でも、すべての内角が90度以上であればよい。また、線状物が条溝を有していてもよい。一般には、断面形状が凸図形でない場合でも、断面形状内の点をすべて含み面積が最小の凸図形(凸包図形)の輪郭が曲線のみから構成されるか、当該輪郭が鋭利な角を有する場合はそのすべての内角が90度以上であればよい。
上記第1および第2実施形態は、線状物の直径が20mm以下の線状物をハンドリングするのに適している。線状物の周方向の向きを所要の向きにするためには、最大で線状物を180度回転させる。線状物の直径が20mmを超えると、所要スライド量が最大で約62.8mm超と大きくなり、狭い作業空間内で線状物の周方向の向きを変化させられるという本発明のメリットが小さくなるからである。一方、本実施形態は、線状物の直径が0.5mm以上の線状物をハンドリングするのに適している。線状物の直径が0.5mm未満であると、線状物の周方向の向きを1度回転させるためのスライド量が約9μm未満となり、スライド量の精度の確保が難しくなるからである。
本発明は上記の実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、線状物を孔に挿入せずに、所要の周方向の向きで並べたり、加工器具の加工位置に移動させたりすることも考えられる。
また、例えば、上述のふるい落とし方法は、把持された複数の線状物から1本の線状物を選択する場合に限らず、複数の線状物を選択して残す場合にも用いることができる。挟持された線状物が所要の本数であるか所要の本数より多いかを確認し、所要の本数より多い線状物が挟持されていたことが確認された場合には、上述のふるい落とし方法によって余分な線状物をふるい落とすことができる。この方法は、把持した線状物の周方向の向きを制御する必要はないが、線状物の供給方法等によって、把持する線状物の本数を制御できない場合などにメリットがある。