以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るインダクタ1を上面12の側から視た斜視図であり、図2はインダクタ1を上面12に対向する底面10の側から視た斜視図である。
本実施形態のインダクタ1は、表面実装型の電子部品として構成されており、略直方体形状の素体2と、当該素体2の表面に設けられた一対の外部電極4とを備える。
素体2は、その全面に外部電極4が形成された対向する2面を有する。本実施形態では、全面に外部電極4が形成された対向する2面を端面14といい、端面14に直交する4面のうちの対向する2面を底面10および上面12という。また、2つの端面14、底面10、および上面12と直交する2面を側面16という。本実施形態では、素体2の端面14以外の4面のうち、面積が広い方の対向する2面の一方を底面10、他方を上面12としている。
図1に示すように、底面10から上面12までの距離を素体2の厚みTと定義し、一対の側面16の間の距離を素体2の幅Wと定義し、一対の端面14の間の距離を素体2の長さLと定義する。本実施形態では、例えば、長さL、幅W、及び厚みTは、L>W>Tの関係を有する。
図3はインダクタ1の内部構成を示す透視斜視図である。
素体2は、コイル導体20と、当該コイル導体20が埋設された略直方形状のコア30と、を備え、かかるコイル導体20をコア30に封入した導体封入型磁性部品として構成されている。
コア30は、磁性粉と樹脂を混合した混合粉を、コイル導体20を内包した状態で加圧及び加熱することで略直方体形状に圧縮成型された成型体である。
また本実施形態の磁性粉は、平均粒径が比較的大きな大粒子の第1磁性粒子と、平均粒径が比較的小さな小粒子の第2磁性粒子との2種の粒度の粒子を含み、圧縮成型時において、大粒子の第1磁性粒子の間に、小粒子である第2磁性粒子が樹脂とともに入り込むことでコア30の充填率を大きくし、また透磁率も高めることができる。
なお、磁性粉は、第1磁性粒子と第2磁性粒子の間の平均粒径の粒子を含むことで、3種以上の粒度の粒子を含んでもよい。
本実施形態において、第1磁性粒子及び第2磁性粒子はいずれも、金属粒子と、その表面を覆う絶縁膜とを有した粒子であり、金属粒子にはFe-Si系アモルファス合金粉が用いられ、絶縁膜にはリン酸亜鉛が用いられている。金属粒子が絶縁膜で覆われることで、絶縁抵抗と耐電圧とが高められる。本実施形態では、第1磁性粒子および第2磁性粒子は、例えば、共にFe-Cr-Si-B-Cのアモルファス合金紛にリン酸亜鉛の絶縁層をコートしたものである。また、第1磁性粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径をいう。以下同じ。)は、例えば1.4μm以上、27.4μm以下であり、第2磁性粒子の平均粒径は、例えば3.75μm以上、4.25μm以下である。絶縁層の厚さは、例えば、10nm以上、50nm以下である。
なお、第1磁性粒子において、金属粒子には、CrレスのFe-C-Si合金粉、Fe-Ni-Al合金粉、Fe-Cr-Al合金粉、Fe-Si-Al合金粉、Fe-Ni合金粉、Fe-Ni-Mo合金粉を用いてもよい。また、第2磁性粒子において、金属粒子には、カルボニル鉄粉等の純鉄を用いてもよい。
また、第1磁性粒子及び第2磁性粒子において、絶縁膜には、他のリン酸塩(リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸マンガン、リン酸カドミウムなど)、又は、樹脂材料(シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂など)を用いてもよい。
本実施形態の混合粉において、樹脂の材料には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主剤としたエポキシ樹脂が用いられている。
なお、エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂であってもよい。
また、樹脂の材料は、エポキシ樹脂以外であってもよく、また、1種ではなく2種以上であってもよい。例えば、樹脂の材料には、エポキシ樹脂の他にも、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。
コイル導体20は、図3に示すように、導線が巻回された巻回部22と、当該巻回部22から引き出された一対の引出部24とを備える。巻回部22は、導線の両端が外周に位置し、かつ内周で互いに繋がるように導線を渦巻き状に巻回して形成される。素体2の内部において、コイル導体20は、巻回部22の中心軸が素体2の厚みTの方向に沿う姿勢でコア30に埋設されており、また引出部24は、巻回部22から一対の端面14のそれぞれまで引き出され、外部電極4に電気的に接続されている。
外部電極4は、端面14の全面から、当該端面14に隣接する底面10、上面12、及び一対の側面16のそれぞれの一部に亘って設けられた、いわゆる5面電極であり、半田などの適宜の実装手段によって回路基板の配線に電気的に接続される。
かかる構成のインダクタ1は、例えば、DCDCコンバータなどの昇降圧回路に用いられ、パソコン、DVDプレーヤー、デジカメ、TV、携帯電話、スマートフォン、カーエレクトロニクス、医療用・産業用機械などの電子機器に用いられる。ただし、インダクタ1の用途はこれに限られず、例えば、同調回路、フィルタ回路や整流平滑回路などにも用いることもできる。
なお、インダクタ1において、外部電極4の範囲を除く素体2の表面全体に、素体保護層を形成してもよい。素体保護層の材料には、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、又は、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができる。なお、これらの樹脂は酸化ケイ素、酸化チタン等を含むフィラーを更に含んでいても良い。
図4は、インダクタ1の製造工程の概要図である。
同図に示すように、インダクタ1の製造工程は、コイル導体成型工程、タブレット成型工程、熱成型・硬化工程、バレル研磨工程、及び、外部電極形成工程を含んでいる。
コイル導体成型工程は、導線からコイル導体20を成型する工程である。当該工程において、コイル導体20は、「アルファ巻」と称される巻き方で導線を巻回することにより、上述した巻回部22、及び一対の引出部24を有した形状に成型される。アルファ巻とは、導体として機能する導線の巻始めと巻終わりの引出部24が外周に位置するように渦巻き状に2段に巻回された状態を言う。コイル導体20のターン数は、特に限定されるものではないが、例えば6.5ターンである。
タブレット成型工程は、タブレットと称される予備成型体を成型する工程である。
予備成型体は、素体2の材料である上記混合粉を加圧することで、取り扱いが容易な固形状に成型したものであり、本実施形態では、コイル導体20が入り込む溝を有した適宜形状(例えばE型など)の第1タブレットと、この第1タブレットの溝を覆う適宜形状(例えばI型や板状など)の第2タブレットとの2種類のタブレットが形成される。
熱成型・硬化工程は、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを成型金型にセットし、熱を加えながら、第1タブレットと第2タブレットの重なり方向に加圧し、これらを硬化させることとで、第1タブレット、コイル導体、及び第2タブレットを一体化する。これにより、コイル導体20をコア30に内包した素体2が成型される。
バレル研磨工程は、この成型体をバレル研磨する工程であり、当該工程により、素体2の角部へのR付けが行われる。
外部電極形成工程は、外部電極4をコア30に形成する工程であり、表面処理工程と、樹脂層形成工程と、めっき層形成工程と、を含んでいる。
表面処理工程は、コア30の表面の電極予定箇所にレーザ光を照射することで電極予定箇所の表面を改質する工程である。ここで、電極予定箇所とは、コア30の表面のうち外部電極4を形成すべき範囲をいい、引出部24が露出されている部分を含む。具体的には、レーザ光を照射することにより、電極予定箇所の範囲においてコア30から露出している磁性粒子の表面の絶縁層を除去する。これにより、コア30の表面のうち電極予定箇所の部分は、コア30の他の表面部分に比べて、コア30の表面の単位面積あたりの磁性粒子の金属の露出面積が大きくなる。なお、レーザ照射後に、電極予定箇所の表面を清浄するための洗浄処理(例えばエッチング処理)を行っても良い。
樹脂層形成工程では、電極予定箇所に、ペースト状の導電性樹脂を塗布し乾燥硬化させることで、導電性樹脂層を形成する。具体的には、導電性樹脂ペーストの中に、コア30を、端面14の側からディップして引き上げることにより、端面14を含む所望の塗布範囲に導電性樹脂を塗布する。
このような導電性樹脂層は、後述するめっき工程において電極予定箇所に一様な電位分布を形成し得るので、導電性樹脂層の上に形成されるめっき層の均質性を向上することができる。
本実施形態では、導電性樹脂として、粒径が数10nmの銀(Ag)の微細粉末(いわゆるナノ銀)とアクリル樹脂との混合物を用いている。当該混合物における銀の重量比は、例えば88%である。このような銀の微細粉末を用いることにより、上述しためっき層の均質性向上に加えて、導電性樹脂層における銀の充填率を上げて外部電極4と引出部24との間の直流抵抗値を低減することができる。
めっき層形成工程では、導電性樹脂層の表面上に、めっき層を形成する。めっき層は、導電性樹脂層の表面に直接に形成される第1めっき層と、第1めっき層の上に形成される第2めっき層とで構成される。本実施形態では、第1めっき層はニッケル(Ni)めっき層であり、第2めっき層はスズ(Sn)めっき層である。めっき層は、電解めっき(例えば、バレルめっき)により形成され得る。なお、めっき層は、本実施形態では2層で構成されるものとしたが、これに限らず、任意の層数で構成されるものとすることができる。
上記の外部電極形成工程により、導電性樹脂層と、めっき層と、で構成される外部電極4が形成される。
一般に、上記のように形成される外部電極においては、コア表面の電極予定箇所に導電性樹脂層を形成することで、電極予定箇所におけるめっきの成長が容易になる。また、コア表面と導電性樹脂層との間の固着強度により、当該導電性樹脂層を含む外部電極が、コアの表面に固定される。
しかしながら、インダクタが用いられる温度環境条件によっては、コア表面と導電性樹脂層との間の固着強度では不十分となる場合があり得る。例えば、車載部品の用途に用いられる電子部品は、過酷な車両環境においても動作の信頼性が確保されるように、-40℃から150℃まで変化する温度サイクル試験等の、非常に厳しい劣化加速試験に合格することが求められる(例えば、自動車向け受動部品試験規格 AEC-Q200 REV D (June 1,2010))。
このような厳しい劣化加速試験においては、コアから導電性樹脂層が剥離する現象(デラミネーション)が観測される場合がある。
図5は、従来のインダクタにおいて観測され得る、コアの底面における温度サイクル試験後のコアと外部電極との剥離状態を示す断面拡大写真である。図6は、図5との比較のための、従来のインダクタにおける、コアの底面の、剥離のない正常な外部電極の状態を示す断面拡大写真である。図5および図6において、外部電極81は、導電性樹脂層82と、めっき層86と、で構成されている。また、めっき層86は、ニッケルめっき層83とスズめっき層84と、で構成されている。また、コア80は、磁性粒子85を含む。
図6に示す断面写真では、コア80を構成する磁性粒子85と導電性樹脂層82とが接しているのに対し、図5の断面写真では、磁性粒子85と導電性樹脂層82との接触箇所がなく、コア80と導電性樹脂層82との間が剥離していることが判る。このような剥離は、導電性樹脂層82とめっき層86との間の線膨張係数差に起因して、例えば環境温度が低下した際に、めっき層86が導電性樹脂層82に対して収縮し、収縮しためっき層86によって導電性樹脂層82がコア80から引き剥がされて発生すると考えられる。
このような導電性樹脂の剥離は、回路基板の配線パターンとインダクタとの間の断線故障(オープン故障)のみならず、インダクタンス変動等の特性変動にもつながることから、これを回避するための効果的な対策が求められる。
このため、本実施形態のインダクタ1では、特に、めっき層は、導電性樹脂層が配された範囲を超えてコア30の表面まで延在するように形成されている。図7は、導電性樹脂層とめっき層との位置関係を説明するための図であり、図7の上段および下段は、それぞれ、インダクタ1の底面10および側面16を視た平面図である。また、図8は、図7に示す導電性樹脂層とめっき層とを底面10の側から視た斜視図である。上述したように、本実施形態では、めっき層は、第1めっき層であるニッケルめっき層と、第2めっき層であるスズめっき層で構成されている。
図7の上段および図8に示すように、導電性樹脂層41は、略矩形を成すコア30の底面10において、相対向する2つの第1端部31から、底面10上に延在する。本実施形態では、第1端部31は、底面10と端面14とが成す稜線である。めっき層42は、導電性樹脂層41が配された範囲を超えてコア30の表面まで延在するように形成されている。これにより、めっき層42は、導電性樹脂層41の縁部を覆って、コア30の表面と直接に接する接触領域44を含む。
同様に、図7の下段および図8に示すように、導電性樹脂層41は、略矩形を成すコア30の側面16の、相対向する2つの第2端部32から側面16上に延在する。本実施形態では、第2端部32は、側面16と端面14とが成す稜線である。めっき層42は、導電性樹脂層41が配された範囲を超えてコア30の表面まで延在するように形成されている。これにより、めっき層42は、導電性樹脂層41の縁部を覆って、コア30の表面と直接に接する接触領域45を含む。
図7に示されていない上面12及び反対側の側面16も、それぞれ、図7に示す底面10および側面16と同様に構成される。
ここで、めっき層42は、電極予定箇所の範囲に形成されており、電極予定範囲は、上述した表面処理工程において、コア30から露出する磁性粒子の表面の絶縁層がレーザ光照射により除去されている。したがって、導電性樹脂層41の範囲を超えてめっき層42が形成されているコア30の表面の部分、すなわち接触領域44および45は、コア30の表面の他の部分に比べて、コア30の表面における単位面積あたりの、磁性粒子の金属の露出面積が大きくなっている。
上記の構成を有するインダクタ1では、めっき層42は、接触領域44および接触領域45においてコア30の表面に露出する磁性粒子と金属結合し、コア30に対し強固に接合される。このため、インダクタ1では、コア30に対する外部電極4の固着強度が高まり、車載用途等の過酷な環境条件下においても外部電極4とコア30との間の剥離が防止される。また、従来のインダクタでは、一般に、コアからの導電性樹脂層の剥離は、導電性樹脂層の縁部から始まって進行するのに対し、インダクタ1では、接触領域44および接触領域45が導電性樹脂層41の縁部の直近に形成されているので、導電性樹脂層41の縁部におけるコア30からの剥離の開始が効果的に防止され得る。その結果、インダクタ1では、車載用途等における過酷な条件下でも、コア30と外部電極4との間の剥離を効果的に防止することができる。
ここで、コア30からの外部電極4の剥離の防止効果は、底面10および側面16のそれぞれにおける、導電性樹脂層41の面積Spに対するめっき層42の面積Smの比Rsに依存し得る。表1は、図7に示すインダクタ1と同様の構成を有する評価用の試料を用いて、面積比Rs(=Sm/Sp)と剥離防止効果との関係について評価した結果である。なお、表1において、最上行のタイトル行を除く行を、上から順に第1行、第2行、第3行、…といい、最も左の列から右へ向かって順に、第1列、第2列、第3列、…というものとする。
表1の第1列は、試料の番号であり、第2列は各試料の素体2のサイズ(したがって、コア30のサイズ)である。試料101から106はサイズIであり、試料107から115はサイズIIである。サイズIおよびサイズIIは、共に、長さLが3.2mm、幅Wが2.5mmであり、したがって、すべての試料において底面10および上面12のサイズは同じである。
サイズIとサイズIIとの違いは、厚みTであり、サイズIの厚みTは1.2mm、サイズIIの厚みは2.0mmである。すなわち、試料101から106は、試料107から115に対して低背であり、したがって、試料101から106における側面16は、試料107から115に対して、そのアスペクト比(L/T)が大きく、より細長い。
試料101から106および試料107から114のそれぞれにおいて、各試料は、底面10と側面16との面積比Rsの組み合わせが異なっている。
試料101から106および試料107から114のそれぞれについて、第3列および第6列に示す底面10および側面16における面積比Rsは、第4列および第7列に示す導電性樹脂層41の面積Spを一定値に固定して、試料ごとにめっき層42の面積Smを変化させることにより変化させた。具体的には、試料ごとに、底面10および側面16のそれぞれにおいて、長さLの方向に沿った導電性樹脂層41の長さD10、D12を同じ長さに固定し、長さLの方向に沿っためっき層42の長さD11、D13を変化させた(D10、D11、D12、D13の定義については図7を参照)。
ここで、全試料において、底面10のサイズは同じ(3.2mm×2.5mm)であり、底面10における導電性樹脂層41の面積Spも同じ(0.4mm2)であるので、底面における導電性樹脂層41の長さD10は、全試料において同じである。また、試料101から106に対する試料107から114の、厚みTの比(2.0/1.2)および面積Spの固定値の比(0.3/0.2)は略同じであるので、側面16における導電性樹脂層41の長さD12も、全試料において略同じである。
なお、表1の第3列および第6列における面積比Rs=100%は、それぞれ、底面10および側面16において、接触領域44および45がない状態、すなわち、導電性樹脂層41が形成される部分以外のコア30の表面はレーザ光照射による電極予定箇所の表面の改質は行わず、めっき層42が導電性樹脂層41とほぼ同じ範囲に形成されている状態を表す。
それぞれの試料について、温度サイクル試験を実施し、温度サイクル後の各試料を、側面16に平行な面および底面10に平行な面でそれぞれ切断し、切断面を顕微鏡観察することで、底面10および側面16におけるコア30からの導電性樹脂層41の剥離の有無を判定した。表1の第5列および第8列に、その結果を示す。各試料は120個作成した中から面積比が所定の値である10個を選別し、底面10および側面16のそれぞれについて、総試料数に対する剥離が認められる試料数の比を、剥離発生率(単位%)とした。
温度サイクル試験の条件は、上述した自動車向け受動部品試験規格に従い、各試料の試料をオーブン槽に入れ、槽内温度を低温-40℃および高温150℃でそれぞれ30分保持する温度サイクルを2000サイクル実施した。上記低温と高温との間での槽内温度の遷移時間は2分である。
第9列の耐圧判定は、素体2において対向する外部電極4の間での耐圧の評価結果であり、耐圧が40V以上である場合を「G(良)」、40V未満である場合を「NG(不良)」としている。底面10および側面16のいずれかにおいて、面積比Rsが大きくなると、D10又はD12が長くなって対向する外部電極4の間の距離が短くなり、耐圧が低下する。
第10列の総合判定は、底面10および側面16での剥離発生確率が共に0%であって且つ耐圧判定が「G」である場合に「G(良)」、そうでない場合に「NG(不良)」とした。
表1の第3列から第5列に示す底面10についての評価結果、第9列の耐圧判定、および第10列の総合判定より、底面10においては、面積比Rsは114%以上、550%以下が好ましく、面積比Rsをこの範囲の値とすることで、耐圧を所定値40Vに維持しつつ、コア30からの外部電極4の剥離を抑制し得ることが判る。
すなわち、上記剥離を効果的に防止する観点から、底面10においては、2つの第1端部31から延在する導電性樹脂層41のそれぞれについて、導電性樹脂層41の面積Spに対する当該導電性樹脂層41を覆うめっき層42の面積Smの比は、114%以上、550%以下が好ましい。
側面16に関しては、表1の第6列から第8列に示す評価結果を見ると、厚み1.2mmである低背の試料101から106においては、面積比100%であってもコア30からの外部電極4の剥離は発生していない。一方で、厚み2.0mmの試料107から114では、面積比Rsに対する剥離発生率の依存性が認められる。試料107から114についての、表1の第6列から第8列の評価結果、第9列の耐圧判定、および第10列の総合判定より、側面16については、面積比Rsは、105%以上、550%以下、が好ましいことが判る。
一般に、面積比Rsが100%の場合(したがって、導電性樹脂層41とほぼ同じ範囲にめっき層42が形成されている場合)においてめっき層42から導電性樹脂層41に加わる応力は、導電性樹脂層41とめっき層42とが重なっている面積(したがって、導電性樹脂層41の面積Sp)が小さいほど小さい。このため、素体2の厚みTが1.2mmと低く、側面16に形成される導電性樹脂層41の面積が小さい試料101から106では、面積比Rsが100%でも、コア30からの外部電極4の剥離が発生しなかったものと考えられる。
同様に、表1の最下行に示す試料115において、底面10および側面16における剥離発生率が他の試料に比べて大きいのは、底面10および側面16における、導電性樹脂層41とめっき層42とが重なっている面積Spが、いずれも、他の試料に比べて大きいためと考えられる。
結論として、表1の結果より、側面16に関しては、素体2の厚みTが、面積比Rs=100%において外部電極4の剥離が発生し得る程度に大きな値である場合には、面積比Rsを105%以上、550%以下とすることで、耐圧を所定値40Vに維持しつつ、コア30からの外部電極4の剥離を抑制し得ることが判る。
すなわち、コア30からの外部電極4の剥離を効果的に防止する観点から、側面16においては、2つの第2端部32から延在する導電性樹脂層41のそれぞれについて、導電性樹脂層41の面積Spに対する当該導電性樹脂層41を覆うめっき層42の面積Smの比は、105%以上、550%以下が好ましい。
なお、側面16において、面積比Rsが100%のときにコア30からの外部電極4の剥離を発生し得る素体2の厚みTの範囲は、コア30の表面に対する導電性樹脂層41の固着強度に依存し得る。また、コア30の表面に対する導電性樹脂層41の固着強度は、導電性樹脂層41の材料に依存するものと考えられる。
本実施形態のインダクタ1では、例えば、素体2のサイズは、L3.2mm、W3.5mm、T2.0mmであり、表1の評価結果を踏まえ、底面10における面積比Rsは160%、側面における面積比Rsは128%となっている。また、インダクタ1では、図7に示すように、めっき層42の、第1端部31から底面10に延在する長さD10と第2端部32から側面16に延在する長さD12は、同じであるものとした。
なお、上述したインダクタ1では、めっき層42は、底面10における面積比Rsと側面16における面積比Rsが異なるように形成されているが、めっき層42の構成はこれには限られない。底面10における面積比Rsと側面16における面積比Rsとは、上述した好ましい値の範囲である限りにおいて、同じ値であってもよい。
また、インダクタ1では、導電性樹脂層41の、第1端部31から底面10に延在する長さD10と第2端部32から側面16に延在する長さD12は、同じであるものとしたが、D10とD12とは異なる長さであってもよい。ただし、D10とD12とが同じ長さの導電性樹脂層41は、コア30を導電性樹脂ペーストにディップすることで容易に形成され得るので、製造工程が容易となる。
次に、本実施形態に係るインダクタ1の変形例について説明する。
<第1の変形例>
図7に示すように、インダクタ1では、めっき層42は、第1端部31から底面10に延在する長さD11と第2端部32から側面16に延在する長さD13とが、互いに異なっている。ただし、これは一例であって、めっき層42は、D11とD13とが同じ長さとなるように形成してもよい。
インダクタ1の第1の変形例に係るインダクタ1-1は、そのような、底面10及び側面16においてめっき層42が延在する長さD11及びD13が互いに同じ長さである場合の例である。
図9は、インダクタ1-1を底面10の側から視た斜視図であり、インダクタ1についての図8に相当する図である。また、図10は、インダクタ1についての図7に相当する図であり、図10の上段および下段は、それぞれ、インダクタ1-1の底面10および側面16を視た平面図である。図10に示されていない上面12及び反対側の側面16も、それぞれ、図10に示す底面10および側面16と同様に構成される。なお。図9および図10において、図8および図7と同じ構成要素については、図8および図7と同じ符号を用いるものとし、上述した図8及び図7についての説明を援用する。
インダクタ1-1は、インダクタ1と同様の構成を有するが、外部電極4に代えて、導電性樹脂層41-1およびめっき層42-1を備える外部電極4-1を有する点が異なる。導電性樹脂層41-1およびめっき層42-1は、導電性樹脂層41およびめっき層42と同様の構成を有するが、その形状が異なっている。
具体的には、めっき層42-1の、第1端部31から底面10に延在する長さD21と第2端部32から側面16に延在する長さD23とが同じ長さとなっている。また、導電性樹脂層41-1の、第1端部31から底面10に延在する長さD20と第2端部32から側面16に延在する長さD22も、同じ長さとなっている。これにより、インダクタ1-1は、底面10における面積比Rsと側面16における面積比Rsとが、上述した好ましい値の範囲内において同じ値となるように構成されている。本変形例では、例えば、底面10における面積比Rsと側面16における面積比Rsは、共に125%である。
本変形例では、めっき層42-1は、底面10および側面16において、第1端部31および第2端部32から同じ長さの範囲に形成されるので、上述した表面処理工程においてコア30へのレーザ照射により確定すべき電極予定箇所の形状が単純化される。その結果、本変形例では、表面処理工程におけるレーザ照射作業が容易となる。
なお、本変形例においては、導電性樹脂層41-1の、第1端部31から底面10に延在する長さD20と第2端部32から側面16に延在する長さD22とを異ならせれば、底面10における面積比Rsと側面16における面積比Rsとを異ならせることもできる。
<第2変形例>
インダクタ1の第2の変形例に係るインダクタ1-2は、インダクタ1において、素体2の厚みTを1.2mmとし、側面16における面積比Rsを100%とした例である。図11および図12は、インダクタ1-2の構成を示す図である。図11は、インダクタ1-2を底面10の側から視た斜視図であり、インダクタ1についての図8に相当する図である。また、図12は、インダクタ1についての図7に相当する図であり、図12の上段および下段は、それぞれ、インダクタ1-2の底面10および側面16を視た平面図である。図12に示されていない上面12及び反対側の側面16も、それぞれ、図12に示す底面10および側面16と同様に構成される。なお。図11および図12において、図8および図7と同じ構成要素については、図8および図7と同じ符号を用いるものとし、上述した図8及び図7についての説明を援用する。
図11および図12に示すインダクタ1-2は、上述したインダクタ1と同様の構成を有するが、コア30を含む素体2に代えてコア30-2を含む素体2-2備える。コア30-2は、コア30と同様の構成を有するが、その厚みTが1.2mmである点が異なる。これにより、インダクタ1-2は、インダクタ1より低背に構成されている。また、インダクタ1-2は、外部電極4に代えて、導電性樹脂層41およびめっき層42-2を備える外部電極4-2を有する点が、インダクタ1と異なる。
めっき層42-2は、めっき層42と同様の構成を有するが、その形状が異なっている。具体的には、側面16において、第2端部32から延在するめっき層42-2の長さと導電性樹脂層41の長さとが、同じ長さD30となっている。これにより、インダクタ1-2は、側面16における面積比Rsが100%となるように構成されている。なお、図12においては、D10=D30であり、底面10における面積比Rsは、インダクタ1と同じ128%である。
本変形例に係るインダクタ1-2は、底面10における面積比Rsが、表1を参照して説明した好ましい値の範囲114%以上、550%以下の範囲内の値(120%)であるので、底面10におけるコア30からの外部電極4の剥離を効果的に防止し得る。また、素体2-2(コア30-2)の厚みTが1.2mmと低背であるので、表1を参照して説明したように、側面16における面積比Rsが100%であっても、側面16における外部電極4の剥離は発生しにくい状態に保たれる。
これにより、インダクタ1-2では、インダクタ1と同様に、車載用途等における過酷な条件下でもコア30と外部電極4との間の剥離を効果的に防止することができる。
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図13および図14は、第2の実施形態に係るインダクタ1-3の構成を示す図である。図13は、インダクタ1-3を底面10の側から視た斜視図であり、第1の実施形態に係るインダクタ1についての図8に相当する図である。また、図14は、第1の実施形態に係るインダクタ1についての図7に相当する図であり、図14の上段および下段は、それぞれ、インダクタ1-3の底面10および側面16を視た平面図である。図14に示されていない上面12及び反対側の側面16も、それぞれ、図14に示す底面10および側面16と同様に構成される。なお、図13および図14において、図8および図7と同じ構成要素については、図8および図7と同じ符号を用いるものとし、上述した図8及び図7についての説明を援用する。
インダクタ1-3は、第1の実施形態に係るインダクタ1と同様の構成を有するが、外部電極4に代えて、導電性樹脂層41およびめっき層42-3を備える外部電極4-3を有する点が異なる。めっき層42-3は、めっき層42と同様の構成を有するが、その形状が異なっている。
具体的には、めっき層42-3は、めっき層42と同様に、導電性樹脂層41が配された範囲を超えてコア30の表面まで延在するよう形成されている。ただし、インダクタ1-3では、上記のように導電性樹脂層41の形成範囲を超えてコア30の表面まで延在するめっき層42-3の外縁46の一部は、導電性樹脂層41の縁部47の位置まで後退してコア30の表面を露出させる凹部50(図示点線楕円で示す部分)を形成している。
本実施形態では、上記凹部50は、素体2の底面10および上面12と、側面16と、が成す稜線部に形成されている。
インダクタ1-3では、上記のように、めっき層42-3は、凹部50を除き、導電性樹脂層41が配された範囲を超えてコア30の表面まで延在するよう形成されているので、インダクタ1と同様に、車載用途等における過酷な条件下でもコア30と外部電極4との間の剥離を効果的に防止することができる。
表1を参照して上述したように、めっき層から導電性樹脂層に加わる応力は、導電性樹脂層とめっき層とが重なっている面積に依存する。このため、インダクタ1-3においても、第1の実施形態に係るインダクタ1の場合と同様に、コア30からの外部電極4-3の剥離を抑制し得るためには、表1が示す評価結果より、底面10においては、面積比Rsは114%以上、550%以下が好ましく、側面16においては、面積比Rsを105%以上、550%以下が好ましい。
これに加えて、インダクタ1-3では、めっき層42-3の外縁46の一部は、導電性樹脂層41の縁部47の位置まで後退してコア30の表面を露出させる凹部50を形成している。このため、インダクタ1-3では、凹部50におけるめっき層42-3の外縁46の位置により導電性樹脂層41の縁部47の位置を知ることができるので、インダクタ1-3の製造の際には、この位置を基準として用いて、めっき層42-3が導電性樹脂層41の縁部47からコア30の表面へ向かってどの程度の長さまで延在しているのかを容易に計測することができる。したがって、インダクタ1-3では、底面10および側面16において、それぞれの面積比Rsが設計から定まる規格値の範囲内であるか否かを容易に検査して、安定な製造品質を維持することができる。
ここで、凹部50は、例えば、上述した外部電極形成工程の表面処理工程において、レーザ光を照射するコア30の表面上の電極予定箇所の形状を、図14に示すめっき層42-3の形状と同じ形状とすることで形成され得る。表面処理工程に続く樹脂層形成工程では、上記レーザ光を照射したコア30の表面の範囲のうち、凹部50の位置まで、コア30を端面14から導電性樹脂ペースト内にディップして、導電性樹脂層41を塗布する。
なお、凹部50は、本実施形態では底面10および上面12と側面16とが成す稜線部に形成されるものとしたが、凹部50の位置は、これには限られず、任意の位置に設けるものとすることができる。
ただし、本実施形態のように、稜線部に凹部50を設けるものとすれば、上述した外部電極形成工程における表面処理工程において、稜線部へのレーザ光照射が不要となるので、レーザ光照射による電極予定箇所の表面処理が容易となる。例えば、底面10と側面16とが成す稜線部が、バレル研磨工程によりR付けされている場合には、図15に示すように、当該R付けされた稜線部60に、底面10へのレーザ光61と側面16へのレーザ光62とが重複して照射されることとなり、稜線部におけるレーザ照射量の管理が複雑化する。これに対し、本実施形態のように、凹部50を稜線部の位置に設ければ、凹部50の位置の稜線部にはレーザ光を照射する必要がなくなるので、上記表面処理工程におけるレーザ照射量の管理が簡単化される。
以上説明したように、上述した第2の実施形態に係るインダクタ1-3は、磁性粒子と樹脂とを含むコア30と、コア30内に埋設されたコイル導体20と、コア30から露出したコイル導体20の端部である引出部24に接するようにコア30の表面に配された導電性樹脂層41と、導電性樹脂層41の上に形成されためっき層42-3と、で構成される。そして、めっき層42-3は、コア30の表面上の導電性樹脂層41が配された範囲を超えてコア30の表面まで延在するよう形成されている。また、コア30の表面まで延在するめっき層42-3の外縁46の一部は、コア30の表面を露出する凹部50を形成している。
この構成によれば、車載用途等における過酷な条件下でも、インダクタ1-3のコア30と外部電極4-3との間の剥離を効果的に防止して、インダクタ1-3の信頼性をより向上することができる。また、上記構成によれば、凹部50があることにより導電性樹脂層41の縁部47の位置を知ることができるので、コア30の表面まで延在するめっき層42の範囲を容易に確認して、安定な製造品質を維持することができる。
また、インダクタ1-3では、凹部50は、略直方体であるコア30の稜線部に形成されている。この構成によれば、凹部50をコア30の表面に容易に形成することができる。
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様の例示であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲において任意に変形、及び応用が可能である。
また、上述した実施形態における水平、及び垂直等の方向や各種の数値、形状、材料は、特段の断りがない限り、それら方向や数値、形状、材料と同じ作用効果を奏する範囲(いわゆる均等の範囲)を含む。