実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
<本発明者が見出した新規な知見>
まず、本発明者が見出した新規な第1知見とは、反応過程データの変動には、(a)前処理反応における吸光度の変化(反応過程データの変動)が、本反応の反応に影響を及ぼして、特定成分の濃度の測定に影響する変動と、(b)前処理反応における吸光度は変動するが、本反応における特定成分の濃度の測定には影響を与えない変動の2種類があるということである。この第1知見に基づくと、前処理反応における反応過程データの異常変動を検出するためには、「(a)による反応過程データの変動」と「(b)による反応過程データの変動」とを区別して、「(a)による反応過程データの変動」だけを反応過程データの異常変動として検出する工夫が必要とされることがわかる。
なお、以降の記載では、「(a)前処理反応における吸光度の変化が、本反応の反応に影響を及ぼして、特定成分の濃度の測定に影響する変動」を単に「影響変動」と呼び、「(b)前処理反応における吸光度は変動するが、本反応における特定成分の濃度の測定には影響を与えない変動」を単に「非影響変動」と呼ぶことにする。
続いて、本発明者が見出した新規な第2知見とは、以下に示す知見である。吸光度の変動は、自動分析装置に起因する光学系が原因の場合、ランダムに変動する。例えば、反応液中の気泡や洗浄液の滴下なども大きく吸光度が変動する要因となる。この吸光度の変動は、一般的に「突発的な誤差」として分類することができる。一方、検体中に含まれる夾雑物は、試薬成分と反応しているため、異常な反応であるが、一定方向に吸光度が上昇/低下するなどの特徴的な変化をする。これは一般的に「系統的な誤差」と分類することができる。第1試薬を添加した後の前処理反応の段階でのノイズ発生時(反応過程データの変動)の対処方法は、「突発的な誤差」と「系統的な誤差」では項目やその誤差の程度で大きく異なる。各項目の前処理反応の段階での影響を定量的に、かつ、特徴を抽出して対処することが重要となる。この第2知見に基づくと、前処理反応における反応過程データの変動を「突発的な誤差」と「系統的な誤差」に区別することができれば、反応過程データの変動が検体自体に起因する変動であるのか、あるいは、自動分析装置に起因する変動であるのかを区別することができることになる。
上述した第1知見に基づくと、本反応が正常であったとしても、第1試薬を添加した後の妨害成分の前処理反応が、本反応の測定結果の算出に影響を及ぼすことがある。このような場合、従来技術のような本反応における反応過程データの変動チェックでは、前処理反応における反応過程データの異常変動(ノイズ)を見落としてしまう可能性がある。このことから、前処理反応の段階で反応過程データの異常変動を検出することが重要である。
さらに、上述した第2知見に基づくと、反応過程データの変動が検体自体に起因する変動であるのか、あるいは、自動分析装置に起因する変動であるのかを特定することも重要である。この点に関し、本反応では、濃度依存的に吸光度が増加するため、本反応の吸光度の変化が大きい場合、突発的なノイズの影響は相対的に小さいため、ノイズは埋もれてしまい検出しにくい。このことは、本反応の段階では、反応過程データの変動が検体自体に起因する変動であるのか、あるいは、自動分析装置に起因する変動であるのかを特定することが困難になることを意味する。これに対し、前処理反応における反応過程データは、吸光度の変動が小さいという特徴を有していることから、突発的なノイズも顕在化しやすい。このことは、前処理反応の段階で反応過程データの異常変動を検出する技術的思想は、反応過程データの異常変動が検体自体に起因する変動であるか、あるいは、自動分析装置の機構に起因する変動であるかを感度よく判別することに適していることを意味する。したがって、前処理反応の段階で反応過程データの異常変動を検出する技術的思想は、反応過程データの異常変動の原因を追究する上でも重要な技術的意義を有していると言える。
さらに言えば、検体に含まれる妨害成分は個々の検体ごとに異なる。妨害成分の前処理反応による影響も検体ごとに異なるため、本反応への影響も異なる。このため、本反応を近似式で近似した場合、検体成分で乖離した事象と自動分析装置の不具合などによって発生した事象かを判定することができず、系統的な分類が困難である。特に、溶血検体や高脂血症の場合、第1試薬を添加した後の反応は、他の正常検体とは大きく異なる。正常検体の前処理反応における反応過程データは、フラットなままであるが、夾雑物が一定量含まれている場合では、その夾雑物を除くための反応により、前処理反応の間に吸光度が漸近的に低下する場合もある。一方、同一の項目でも、試薬分注時の反応容器内の気泡の付着や光源ランプが不安定などの場合、ランダムな吸光度の変動が発生する。これらの自動分析装置に起因する吸光度のずれと検体に起因する吸光度の変動は混在している場合が多い。突発的に変動した項目は、再検査や自動分析装置を停止してのメンテナンスを実施することが望ましい一方で、検体の夾雑物の影響である場合、自動分析装置の不具合ではないため、再検査を自動で実施することが望ましい。しかしながら、検体に含まれる夾雑物の影響が大きい検体を測定している場合であっても、自動分析装置の測定者は、測定が終了するまで気づくことができずに再測定をすることが困難であることが実情である。
また、異常発生時の対処方法は異なる。洗浄液の滴下等が起因で突発的なノイズが計測された場合は、自動分析装置の分析を継続せずに停止させることが重要である。このような重大な事象の発生は極めてまれである。検体の夾雑物は含有量の大小はあるが、ほとんどの検体に含まれており、多くの項目では試薬の工夫で本反応には影響しないように試薬が調整されている。しかし、検体に含まれる夾雑物の含有量が大きい場合は、本反応の濃度成分に影響する項目も存在する。その場合は、試料量を少なくして、再測定することがデータの信頼性を確保する上でも重要である。
このことから、特定成分の濃度測定の早い段階で反応過程データの異常変動を検出することができれば、その後の対応を迅速に実施できる。すなわち、本反応よりも前の前処理反応の段階で反応過程データの異常変動を検出することは、測定を即時中断して、再測定が必要か、あるいは、自動分析装置を停止する必要があるかを測定の早い段階で判断することできることを意味する。したがって、前処理反応の段階で反応過程データの異常変動を検出する技術的思想は、検査結果報告時間の短縮と自動分析装置の状態管理を可能とする観点から非常に有用であることがわかる。
前処理反応の具体的な事例を2例に挙げる。
LDL-C(LDLコレステロール)等の脂質成分では、目的となる成分以外の妨害成分を除去するために前処理反応を実施している。検体中の脂質成分が過剰であった場合、前処理反応での余分な脂質成分の除去が実施しきれないため、正常な検体と異なり、前処理反応の吸光度が大きくなり、この影響を除去しきれなかった場合、妥当な測定結果を得ることができないことがある。また、血清中にグロブリン成分が過剰に含まれていた場合、生化学測定用の試薬と混合されることによって、白濁してしまい、前処理反応では上昇しないはずの反応時間において吸光度が上昇する場合がある。これによって、測定濃度が異常となる場合が生じる。上述した2例以外にも検体に含まれる成分に起因して前処理反応中に反応過程データが異常となってしまうケースがある。
そこで、本実施の形態では、上述した第1知見に基づき、「影響変動」と「非影響変動」とを区別して、「影響変動」だけを反応過程データの異常変動として検出する工夫を施している。さらに、本実施の形態では、上述した第2知見に基づき、反応過程データの変動が検体自体に起因する変動であるのか、あるいは、自動分析装置に起因する変動であるのかを区別するための工夫も施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明することにする。
<自動分析装置の構成>
図1は、検体を分析する自動分析装置の構成例を説明する図である。
図1において、自動分析装置100は、分析部1、記憶部14、表示部15、操作部16、制御部17を備える。分析部1は、搬送ライン4、検体プローブ5、試薬プローブ6、試薬ディスク8、反応ディスク10、撹拌部11、光度計12、洗浄部13を有する。
搬送ライン4は、血液や尿等の検体が収容される複数の検体容器2が搭載される検体ラック3を検体プローブ5がアクセスする位置まで搬送する。なお、検体ラック3と搬送ライン4は、環状に搭載される検体容器2を移動させるために一方向に回転する検体ディスクに置き換えられてもよい。
試薬ディスク8は、検体と反応させる試薬を収容する複数の試薬容器7を保管するとともに、試薬プローブ6がアクセスする位置へ試薬容器7を移動させるために一方向に回転する。反応ディスク10は、検体と試薬が分注される複数の反応容器9を環状に保持するとともに、所定の位置へ反応容器9を移動させるために一方向に回転する。
検体プローブ5は、搬送ライン4によって搬送された検体ラック3に搭載される検体容器2から反応容器9へ検体を分注する。試薬プローブ6は、検体が分注された反応容器9へ試薬容器7から試薬を分注する。なお、反応容器9に分注される試薬は、一つに限られず複数であっても良い。
撹拌部11は、反応ディスク10の周囲に配置され、検体と試薬が分注された反応容器9の中を撹拌する。光度計12は、反応ディスク10の周囲に配置され、撹拌部11によって撹拌された反応容器9の中の溶液の吸光度を反応容器9が前を横切るたびに測定する。反応ディスク10が一定のタイミングで間歇的に回転するので、反応容器9の中の溶液の吸光度は一定の時間間隔で測定される。測定された吸光度は、予め作成された検量線を用いて、検体に含まれる特定成分の濃度に換算される。なお検量線は、特定成分の濃度が既知である標準液と試薬を反応させた反応液の吸光度の測定を含むキャリブレーションの実行により作成される。洗浄部13は、反応ディスク10の周囲に配置され、分析が終了した反応容器9を洗浄する。
キャリブレーションに使用される標準液は特定成分を含む水溶液であり、自動分析装置100の測定範囲の上限値近辺の濃度と下限値近辺の濃度を少なくとも有する。つまり、少なくとも2つの標準液が使用される。なお、特定成分の濃度が略ゼロであって試薬と反応しない標準液は第1標準液と呼ばれ、多くの場合、生理食塩水や精製水等である。
記憶部14は、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)であり、光度計12によって測定された吸光度や吸光度から換算される濃度などが記憶される。
表示部15は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネルであり、吸光度や濃度などの情報が表示される。操作部16は、例えばキーボードやマウスであり、分析に必要な条件やパラメータの入力等の操作が行われる。なお、表示部15がタッチパネルである場合には、タッチパネルに表示されるGUI(Graphical User Interface)が操作部16として機能する。制御部17は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算器であり、各部を制御するとともに各種演算を実行する。
以上のようにして、自動分析装置100が構成されている。
<反応過程データの一例>
次に、反応過程データの一例について説明する。
図2は、CRPの反応過程データの一例を示すグラフである。
図2において、横軸は、測光ポイント(測光時間)を示しており、縦軸は、吸光度を示している。そして、「測光ポイント1」から「測光ポイント17」までの時間範囲が前処理反応に対応し、「測光ポイント18」から「測光ポイント34」までの時間範囲が本反応に対応している。
図2に示す検体200Aに対するグラフでは、前処理反応における反応過程データは、ほぼフラットであり、これは、前処理反応における反応過程データの変動が少なく正常であることを示している。また、検体200Aに対するグラフでは、本反応における反応過程データが増加傾向にあることがわかる。このような検体200Aの反応過程データは、正常データの一例である。これに対し、検体200Bに対するグラフでは、前処理反応における反応過程データがフラットではなく増加傾向にある。通常、前処理反応における反応過程データはフラットであるため、増加傾向の変動を示す検体200Bの反応過程データは異常である。つまり、検体200Bの反応過程データは、異常データの一例である。
ここで、特定成分の濃度は、例えば、本反応の吸光度と前処理反応の吸光度との差分に基づいて測定される。例えば、図2において、本反応の吸光度としては、最終測光ポイントである「測光ポイント34」の吸光度が使用される一方、前処理反応の吸光度としては、前処理反応の最終測光ポイントである「測光ポイント17」の吸光度が使用される。したがって、検体200Bの異常データでは、前処理反応の最終測光ポイントである「測光ポイント17」の吸光度が大きくなっていることから、本反応の吸光度と前処理反応の吸光度との差分に基づいて測定される特定成分の濃度に影響が及ぶことになる。つまり、図2に示す検体200Bの反応過程データの変動は、「影響変動」に該当する。
続いて、図3は、LDL-Cの反応過程データの一例を示すグラフである。
図3に示す検体300Aに対するグラフでは、前処理反応における反応過程データは、ほぼフラットであり、これは、前処理反応における反応過程データの変動が少なく正常であることを示している。一方、図3に示す検体300Bに対するグラフでは、前処理反応における反応過程データが減少傾向を示している。したがって、一見すると、検体300Bに対するグラフは、異常であると考えられる。しかし、実際には、検体300Bでは、妨害成分が多く含まれており、前処理反応で妨害成分の除去が進む結果、妨害成分に起因する吸光度が減少したものと考えられる。そして、前処理反応の最終段階(「測光ポイント17」)では、妨害成分がほとんど除去されて、正常な吸光度になっていると考えられる。すなわち、本反応の吸光度としては、最終測光ポイントである「測光ポイント34」の吸光度が使用される一方、前処理反応の吸光度としては、前処理反応の最終測光ポイントである「測光ポイント17」の吸光度が使用されるとすると、検体300Bの反応過程データでは、特定成分の濃度の測定に前処理反応での変動が影響を与えないことになる。つまり、検体300Bにおける反応過程データの変動は、「非影響変動」に該当する正常データということになる。
したがって、前処理反応での異常変動を検出する際、例えば、図2に示す検体200Bにおける反応過程データの変動は、異常変動であると検出できる一方、図3に示す検体300Bにおける反応過程データの変動は、異常変動であると検出しない必要がある。
以下では、「影響変動」を異常変動として検出する一方、「非影響変動」を異常変動として検出しない自動分析装置について説明する。
なお、吸光度に関する表現は、自動分析装置上で整数表示しているため、本明細書に記載されている吸光度は、例えば、10000倍して整数値で表現している。
<自動分析装置の機能ブロック構成>
図4は、自動分析装置の機能ブロック構成を示す図である。
図4において、自動分析装置100は、反応過程データ取得部500と、条件設定部501と、異常変動判断部502と、出力部504と、測定中断部505と、データ記憶部506とを有している。
反応過程データ取得部500は、前処理反応において吸光度を時系列で測定することにより得られた反応過程データを取得するように構成されている。反応過程データの一例としては、図2や図3に示す反応過程データを挙げることができる。反応過程データ取得部500で取得された反応過程データは、データ記憶部506に記憶される。
次に、条件設定部501は、吸光度に関する条件を含む初期条件を設定することができるように構成されている。例えば、図5は、条件設定部501で設定される初期条件の一例を示す表である。図5において、「項目」には、濃度の測定対象となる成分が設定される。例えば、「項目」に「LDL」が設定されている場合、「LDL」に対応する行には、「LDL」の反応過程データの解析に使用される条件が設定される。
「項目」ごとに設定される条件には、「測光ポイント」、「ばらつき許容値」、「ポイント数」、「Err許容値」、「前処理反応の吸光度幅」、「判定方法」および「測定継続」がある。
「測光ポイント」には、反応過程データの解析に使用される測光区間が規定される。例えば、「測光ポイント」に「5-17」と記載されている場合、「測光ポイント5」から「測光ポイント17」の反応過程データを使用して、反応過程データの解析が行われる。
「ばらつき許容値」には、反応過程データをフィッティングした近似関数からの許容されるずれの範囲が規定される。例えば、「ばらつき許容値」に「100」と記載されている場合、近似関数からの許容されるずれの範囲が「100」であることを意味する。
「ポイント数」には、近似関数からの許容されるずれの範囲外にある反応過程データの許容データ数が規定される。例えば、「ポイント数」に「5」と記載されている場合、ずれの許容範囲外にある反応過程データの許容データ数が「5」であることを意味する。
「Err許容値」には、近似関数と測定された反応過程テータとに基づく二乗誤差の許容範囲が規定される。例えば、「Err許容値」に「200」と記載されている場合、二乗誤差の許容範囲が「200」であることを意味する。
「前処理反応の吸光度幅」には、前処理反応における反応過程データの最小値と最大値との差に対する許容値が規定される。例えば、「前処理反応の吸光度幅」に「150」と記載されている場合、吸光度幅に対する許容値が「150」であることを意味する。
「判定方法」には、吸光度に関する複数の条件をAND条件として使用するか、あるいは、OR条件として使用するかが規定される。具体的には、「ばらつき許容値」および「ポイント数」に基づく条件と、「Err許容値」に基づく条件と、「前処理反応の吸光度幅」に基づく条件のAND条件、あるいは、OR条件で反応過程データの異常変動を判断するかが規定される。例えば、「判定方法」に「AND」と記載されている場合、上述した吸光度に関する複数の条件をAND条件にして反応過程データの異常変動の有無が判断されることを意味する。
「測定継続」には、反応過程データに異常変動があった場合に測定を継続するか、あるいは、測定を中断するかが規定される。例えば、「測定継続」に「停止」と記載されている場合、反応過程データに異常変動があった場合に測定を中断することを意味する。
なお、図5には記載されていないが、条件設定部501では、反応過程データをフィッティングする際に使用される近似関数を選択して設定できるように構成されている。例えば、近似関数の種類として、一次関数、反比例関数、指数関数、対数関数などがあり、これらの関数の中からフィッティングに使用する近似関数を設定することができる。ただし、本実施の形態では、簡単のため、フィッティングに使用する近似関数として一次関数を選択するものとして説明することにする。
自動分析装置100では、「影響変動」を異常変動として検出する一方、「非影響変動」を異常変動として検出しないために、条件設定部501において、図5に示す条件だけでなく、以下に示す例外条件も設定するように構成される。
例えば、図6は、条件設定部501で設定される例外条件の一例を示す表である。図6において、「項目」には、濃度の測定対象となる成分が設定される。例えば、「項目」に「LDL」が設定されている場合、「LDL」に対応する行には、「LDL」の反応過程データを異常変動と判断しないための例外条件が規定されている。この例外条件には、「測光ポイント」、「変化方向」、「変化率」がある。
「測光区間(測光ポイント)」には、反応過程データの測光区間が規定される。例えば、「測光ポイント」に「5-17」と記載されている場合、「測光ポイント5」から「測光ポイント17」の反応過程データが例外条件の適用範囲となることを意味している。
「変化方向」には、例外条件となる反応過程データの変化方向が規定される。例えば、「変化方向」が「連続減少」と記載されている場合、反応過程データの変化が連続減少である場合に例外条件が適用されることを意味している。言い換えれば、「変化方向」が「連続減少」と記載されている場合、反応過程データの変化が「連続減少」以外のときは例外条件が適用されないことを意味している。
「変化率」には、例外条件となる反応過程データの変化率が規定される。例えば、「変化率」が「100」と記載されている場合、反応過程データをフィッティングした近似関数の傾きが「100」以下である場合に例外条件が適用されることを意味している。
なお、「コメント」の欄には、反応過程データの変動が生じる要因を端的に記載することができる。例えば、「コメント」の欄に「弱乳び影響」と記載されている場合には、「弱乳び」によって、反応過程データに例外条件に該当する変動が生じていると理解できる。
以上のようにして、条件設定部501は、例えば、図5に示す条件とともに、図6に示す例外条件も設定するように構成されている。そして、条件設定部501で設定された吸光度に関する条件(図5および図6)は、データ記憶部506に記憶される。
続いて、異常変動判断部502は、条件設定部501で設定された吸光度に関する条件に基づいて、前処理反応で取得された反応過程データの変動が本反応における特定成分の濃度の測定に影響を及ぼす変動であるか否かを判断するように構成されている。
異常変動判断部502では、以下に示す判断処理を行うように構成される。
<<第1判断処理構成>>
異常変動判断部502は、反応過程データの最小値と最大値との差が条件設定部501で設定された「前処理反応の吸光度幅」の許容範囲内に収まっているか否かを判断するように構成されている。これにより、異常変動判断部502は、反応過程データの変動が一定の傾きを超えているか否かを判断することができる。
<<第2判断処理構成>>
異常変動判断部502は、近似関数(回帰直線)で反応過程データをフィッティングすることにより近似関数に含まれるパラメータを決定するように構成されたパラメータ決定部503を有する。パラメータ決定部503では、反応過程データへのフィッティングを通じて、回帰直線である「Y=aX+b」の傾き「a」とY切片「b」のパラメータを決定するように構成されている。そして、異常変動判断部502は、条件設定部501で設定された「ばらつき許容値」と「ポイント数」に基づいて、反応過程データの回帰直線からのずれを評価するように構成されている。
具体的に、異常変動判断部502は、条件設定部501で設定された「ばらつき許容値」を「A」とすると、反応過程データが「Y=aX+b±A」の許容範囲に収まっているか否かを判断するように構成されている。そして、異常変動判断部502は、この許容範囲に収まっていない反応過程データがある場合、許容範囲に収まっていない反応過程データの数が「ポイント数」で規定されている許容データ数を超えているか否かを判断するように構成されている。これにより、異常変動判断部502は、反応過程データの変動が回帰直線からのずれの大きい変動であるかを判断することができる。
例えば、図7は、図2に示す反応過程データのうち前処理反応での反応過程データを拡大して示すグラフである。図7では、検体200Aの反応過程データに対して破線で示す回帰直線の許容範囲で評価している状態と、検体200Bの反応過程データに対して破線で示す回帰直線の許容範囲で評価している状態とが示されている。
図7において、検体200Aの反応過程データのうち回帰直線の許容範囲を超えている反応過程データのデータ数は、検体200Bの反応過程データのうち回帰直線の許容範囲を超えている反応過程データのデータ数よりも少ない。したがって、例えば、異常変動判断部502は、検体200Aの反応過程データのうち回帰直線の許容範囲を超えている反応過程データのデータ数が許容データ数よりも少ないと判断することができる。一方、異常変動判断部502は、検体200Bの反応過程データのうち回帰直線の許容範囲を超えている反応過程データのデータ数が許容データ数よりも多いと判断することができる。
同様に、図8は、図3に示す反応過程データのうち前処理反応での反応過程データを拡大して示すグラフである。図8では、検体300Aの反応過程データに対して破線で示す回帰直線の許容範囲で評価している状態と、検体300Bの反応過程データに対して破線で示す回帰直線の許容範囲で評価している状態とが示されている。
図8において、検体300Aの反応過程データのうち回帰直線の許容範囲を超えている反応過程データのデータ数は、検体300Bの反応過程データのうち回帰直線の許容範囲を超えている反応過程データのデータ数よりも少ない。したがって、例えば、異常変動判断部502は、検体300Aの反応過程データのうち回帰直線の許容範囲を超えている反応過程データのデータ数が許容データ数よりも少ないと判断することができる。一方、異常変動判断部502は、検体300Bの反応過程データのうち回帰直線の許容範囲を超えている反応過程データのデータ数が許容データ数よりも多いと判断することができる。
<<第3判断処理構成>>
異常変動判断部502は、条件設定部501で設定された近似関数(回帰直線)と反応過程データとの二乗誤差の許容範囲に基づいて、前処理反応で取得された反応過程データの変動が許容範囲内に収まっているか否かを判断するように構成されている。これにより、異常変動判断部502は、反応過程データのばらつきが大きいか否かを判断できる。
<<第4判断処理構成>>
異常変動判断部502は、前処理反応で取得された反応過程データの変動が、条件設定部501で設定された例外条件(図6参照)に該当する場合、上述した第1判断処理と第2判断処理と第3判断処理の結果に関わらず、反応過程データの変動が異常変動ではないと判断するように構成されている。
これにより、異常変動判断部502は、「影響変動」を異常変動として検出する一方、「非影響変動」を異常変動として検出しないことになる。
<<異常判断処理構成>>
異常変動判断部502は、第1判断処理と第2判断処理と第3判断処理と第4判断処理の判断結果を総合的に考慮して、前処理反応における反応過程データの変動が異常変動であるか否かを判断するように構成されている。
具体的には、条件設定部501で設定された「判定方法」に基づいて、異常変動判断部502では、前処理反応における反応過程データの変動が異常変動であるか否かが判断される。例えば、条件設定部501で設定された「判定方法」がAND条件である場合、第1判断処理で反応過程データの最小値と最大値との差が「前処理反応の吸光度幅」の許容範囲内に収まっていないと判断され、かつ、第2判断処理で反応過程データの変動が回帰直線からのずれの大きい変動であると判断され、かつ、第3判断処理で反応過程データの変動が二乗誤差の許容範囲内に収まっていないと判断され、かつ、第4判断処理で例外条件に該当しないと判断されると、異常変動判断部502において、前処理反応での反応過程データの変動が異常変動であると判断される。一方、第1判断処理と第2判断処理と第3判断処理の判断結果が上記と同じであっても、第4判断処理で例外条件に該当すると判断されると、異常変動判断部502において、前処理反応での反応過程データの変動が異常変動ではないと判断されることになる。
このようにして、異常変動判断部502は、「影響変動」を異常変動として検出することができる一方、「非影響変動」を異常変動として検出しないように構成されている。
例えば、図7の検体200Bに対する反応過程データは「影響変動」である一方、図8の検体300Bに対する反応過程データは、「非影響変動」である。
この点に関し、異常変動判断部502が第4判断処理構成を有さないとすると、図7の検体200Bに対する反応過程データの変動も図8の検体300Bに対する反応過程データの変動も異常変動として判断されると考えられる。
しかしなから、本実施の形態では、異常変動判断部502が第1判断処理構成~第3判断処理構成だけでなく、例外条件に関する第4判断処理構成も有している。この結果、本実施の形態によれば、図8に示す反応過程データの変動は、例外条件に該当するとして、異常変動とは判断されないことになる。以上のことから、本実施の形態における自動分析装置100によれば、「影響変動」を異常変動として検出する一方、「非影響変動」を異常変動として検出しない構成が具現化されることになる。
次に、出力部504は、異常変動判断部502で判断された判断結果を出力するように構成されている。例えば、出力部504は、異常変動判断部502で判断された判断結果が異常変動であるという判断結果の場合、音声で警告を出したり、表示装置に警告文や画像を表示することができるように構成されている。出力部504からの出力方法は、予め条件設定部501で設定しておくことができる。
図9には、出力部504から出力される表示の一例が示されている。これにより、測定者は、前処理反応において、反応過程データに異常変動が生じていることを把握することができる。さらに、本実施の形態における自動分析装置100は、異常変動判断部502で反応過程データの変動が「影響変動」であると判断された場合、検体に含まれる特定成分の濃度の測定を中断するように構成された測定中断部505を有する。この測定中断部505によって測定を中断するか否かは、予め条件設定部501で設定することができる。
以上のことから、本実施の形態における自動分析装置100によれば、特定成分の濃度測定の早い段階(前処理反応の段階)で反応過程データの異常変動を検出することができるため、その後の対応を迅速に実施できる。すなわち、本実施の形態における自動分析装置100によれば、本反応よりも前の前処理反応の段階で反応過程データの異常変動を検出できることから、測定を即時中断して、再測定が必要か、あるいは、自動分析装置を停止する必要があるかを測定の早い段階で判断することできる。したがって、前処理反応の段階で反応過程データの「影響変動」を検出する技術的思想は、検査結果報告時間の短縮と自動分析装置の状態管理を可能とする観点から非常に有用であることがわかる。
<自動分析装置の動作>
続いて、自動分析装置100の動作について説明する。
図10は、自動分析装置100での反応過程データの異常変動を検出する全体動作の流れを示すフローチャートである。図10において、まず、条件を設定する(S101)。具体的には、条件設定部501において、図5に示す吸光度に関する条件を含む初期条件を設定するとともに、図6に示す例外条件を設定する。その後、条件設定部501において、判断結果の出力方法を設定する(S102)。例えば、判断結果の出力方法としては、ブザーによる警告や警告文の表示が考えられる。そして、反応過程データの解析を開始する(S103)。以下では、反応過程データの解析動作について説明する。
図11および図12は、反応過程データの異常変動を検出するための解析動作の流れを説明するフローチャートである。なお、本実施の形態では、反応過程データの異常変動を検出するための方法として、測定する吸光度と時間との関係を一次関数(回帰直線)で近似することにより、反応過程データを解析する方法を示す。
まず、光度計で検体と第1試薬を混合した反応液の吸光度を測定する(S201)。これにより、前処理反応における反応過程データが取得される(S202)。取得された反応過程データは、自動分析装置100のデータ記憶部506に記憶される(S203)。ここで、例えば、データ記憶部506は、自動分析装置100に含まれている構成を前提としているが、これに限らず、データ記憶部506は、自動分析装置100とネットワーク接続されたサーバなどに搭載されていてもよい。
次に、前処理反応における反応過程データの解析に必要な測定ポイント(測光区間)の反応過程データが取得できたかを判断する(S204)。必要な反応過程データが取得できている場合には、次の処理に進む。一方、必要な反応過程データが取得できていない場合には、反応過程データがそろうまで反応液の吸光度測定を継続する。
続いて、取得した反応過程データに基づいて、吸光度幅を算出する(S205)。例えば、吸光度幅は、吸光度の最大値と最小値の差から算出することができる。その後、例えば、図5に示す測光ポイントで指定された測光区間の反応過程データ(吸光度)と測定時間から、「Y」を吸光度、「X」を測定時間としたときの回帰直線「Y=aX+b」の傾き「a」とY切片「b」を算出する(S206)。
そして、算出された回帰直線の傾きとY切片から許容幅を算出する(S207)。許容幅は、例えば、図5に示す「ばらつき許容値」(Aとする)を回帰直線の両側に設定するため、許容幅は、「Y=aX+b±A」となる。本実施の形態では、「ばらつき許容値」に任意の値を設定できるようにしているが、「ばらつき許容値」は、過去の検体や精度管理試料の反応過程データにおける標準偏差に基づいて設定されてもよい。
その後、算出した許容幅で特定される許容範囲外のデータ数を算出して、算出したデータ数をデータ記憶部506に記憶する(S208)。
さらに、反応過程データと回帰直線との二乗誤差(Err)を算出してデータ記憶部506に記憶する(S209)。二乗誤差は、測定した吸光度(反応過程データ)と算出した回帰直線とを比較することによって算出される。二乗誤差は、反応過程データの変動が検体自体に起因する変動か、あるいは、自動分析装置100の不具合に起因する変動かを区別するために算出される。例えば、反応過程データの変動が検体の濁り成分に起因する場合、反応過程データは、一定時間間隔で徐々に増加あるいは減少する傾向がある。一方、反応過程データの変動が自動分析装置100の光学系における不具合に起因する場合、変動の傾向が一律にならずにばらつきが大きくなることが多い。
次に、反応過程データの変動が異常変動であるいか否かを判断する(S210)。例えば、算出した許容範囲外のデータ数「B」と、算出した吸光度幅「C」と、算出した二乗誤差「Err」を、例えば、図5に示す表のように設定したポイント数「D」と、Err許容値「E」と、前処理反応の吸光度幅「F」と比較する。例えば、「B>D」かつ「Err>E」かつ「C>F」のとき、反応過程データの変動が異常変動であると判断される。ここで、判定方法は、例えば、図5の判定方法の欄に設定することができる。例えば、「OR」と設定されている場合は、「B>D」または「Err>E」または「C>F」の条件が満たされている場合に、反応過程データの変動が異常変動であると判断される。一方、例えば、「AND」と設定されている場合は、「B>D」かつ「Err>E」かつ「C>F」の条件が満たされている場合に、反応過程データの変動が異常変動であると判断される。
反応過程データの変動が異常変動ではないと判断された場合は、処理を終了する。一方、反応過程データの変動が異常変動であると判断された場合、次に処理に進む。
続いて、反応過程データの変動が例外項目に該当するか否かが判断される(S211)。これは、反応過程データの変動が「非影響変動」である場合には、反応過程データの変動が異常変動であると判断しないことを考慮したものである。つまり、反応過程データの変動が「非影響変動」である事例を予め例外項目に登録しておくことによって、「非影響変動」を異常変動として判断されることを防止できる。
例えば、例外項目は、図6に示す表のように設定される。例外項目は、例えば、検体に含まれる夾雑物を前処理反応で除去するような測定項目を示しており、前処理反応中に吸光度の変化が生じる項目を指している。各項目の前処理反応における反応過程データの変動は、基本的に図5に示すパラメータに基づいて判断される。しかしながら、「LDL-C」のような項目においては、前処理反応において目的となる特定成分以外の成分を除去するために吸光度変化が生じる(例えば、図3の検体300B参照)。これ以外にも、前処理反応において吸光度変化(「非影響変動」)が生じる項目について、予め例外条件として登録しておくことができる。このような反応過程データの変動は、項目に特有の反応過程データの変動であって「非影響変動」であることから、例外項目として追加しておき、「影響変動」と区別することができる。
まず、例外項目に該当する場合、例えば、図6のように設定された測光区間をセットする(S212)。そして、セットされた測光区間において、反応過程データの変化方向(変化傾向)が図6のように設定された「変化方向」と一致するか否か判断される(S213)。一致する場合には、図6のように設定された吸光度の変化率と回帰直線の傾き「a」とを比較して、設定値以下であるか否かが判断される(S214)。設定値以下である場合には、反応過程データの変動が「非影響変動」であるとみなして警告対象から除外する。なお、本実施の形態では、変化方向のみに言及しているが、例えば、前処理反応における測定開始吸光度や前処理反応における反応過程データの中で濃度算出ポイントにあたる吸光度を判断材料とすることもできる。
それ以外の場合は、前処理反応における反応過程データの変動が異常変動(「影響変動」)であることを表示して(S215)、測定者に通知する。この通知方法は、図9に示すような表示例に限定されず、例えば、反応過程データに異常を示すアラームを付加する方法や自動分析装置100から警告音を鳴らす方法などによって警告することもできる。
続いて、例えば、図5の「測定継続」の欄を参照して、測定中断設定がされているか否かを判断する(S216)。「停止」と設定されていた場合には、測定を中止する(S217)。一方、「継続」と設定されていた場合は、測定を継続して特定成分の濃度を算出する(S218)。以上のようにして、反応過程データの解析動作が終了する。
<動作の変形例>
上述した動作では、例外条件を設定することにより、反応過程データの「非影響変動」を反応過程データの異常変動とは判断しない例を説明したが、例外条件を設定するのではなく、反応過程データの異常変動を判断する条件に例外条件を組み込むこともできる。
図13は、動作の変形例を説明するフローチャートである。
本変形例では、図11に示すフローチャートに示す動作を実施した後、反応過程データの変動の変化方向を特定する(S301)。例えば、反応過程データの変動が「単調減少」や「単調増加」や「増減の繰り返し」などであるかを特定する。その後、本変形例では、反応過程データの異常変動であるか否かを判断する(S302)。ここでの判断は、実施の形態で使用した判断条件だけではなく、反応過程データの変動の変化方向と変化率に関する例外条件に相当する条件も加味されて、反応過程データの変動が異常変動であるか否かが判断される。例えば、S302での変化方向に関する判断は、S301で特定された変化方向に基づいて行われ、かつ、S302での変化率に関する判断は、S206で算出した回帰直線の傾きが設定値以下であるか否かに基づいて行われる。これにより、本変形例においても、反応過程データの「非影響変動」を反応過程データの異常変動とは判断しないようにすることができる。その後の動作は、図12に示す実施の形態と同様なので説明は省略する。以上のようにして、本変形例の動作が行われる。
<反応過程データの変動原因の推定>
例えば、反応過程データの変動は、自動分析装置に起因する光学系が原因の場合、ランダムに変動することが多い。一方、検体中に含まれる夾雑物は、試薬成分と反応しているため、異常な反応であるが、一定方向に吸光度が上昇/低下するなどの特徴的な変化をすることが多い。さらには、反応過程データの変動が検体の濁り成分に起因する場合、反応過程データは、一定時間間隔で徐々に増加あるいは減少する傾向がある。一方、反応過程データの変動が自動分析装置の光学系における不具合に起因する場合、変動の傾向が一律にならずにばらつきが大きくなることが多い。
このように反応過程データの変動には、検体に含まれる夾雑物に起因する変動と自動分析装置の機構や測定条件に起因する変動がある。したがって、反応過程データの変動が、検体自体に起因しているのか、あるいは、自動分析装置の機構や測定条件に起因しているのかを特定することができれば、反応過程データの変動原因を突き止めることができるので、その後の対応が容易となる。
この点に関し、1テスト単位の解析では、検体自体に起因しているのか、あるいは、自動分析装置の機構や測定条件に起因しているのかを特定することは困難である。
そこで、本実施の形態では、1テスト単位(1つの検体に対する反応過程データ単位)の解析の他に、複数の検体に対する反応過程データを蓄積し、この蓄積した複数の検体に対する反応過程データを解析することにより、反応過程データの変動原因を推定している。
以下では、この技術的思想を具現化した自動分析装置について説明する。
図4において、自動分析装置100は、特定条件設定部600と変動原因推定部601とを有している。特定条件設定部600は、反応過程データの変動原因を特定するための特定条件を設定するように構成されている。例えば、特定条件設定部600では、図14に示す特定条件が設定される。図14において、例えば、「HDL」では、「チェック値」として二乗誤差(Err)が「50」に設定され、かつ、「チェックルール」が「連続5回」に設定されている。これは、「HDL」に対する蓄積された反応過程データにおいて、二乗誤差が「50」以上である反応過程データが連続して5回以上検出された場合(「チェックルール」に違反した場合)、反応過程データの変動が自動分析装置の機構や測定条件に起因すると判断するものである。なぜなら、連続して5回以上もばらつきの大きな反応過程データが測定されるのは、検体自体が変動原因とは考えにくく、自動分析装置の機構や測定条件が変動原因である蓋然性が高いと考えられるからである。また、「LDL」では、「チェック値」として、幅(吸光度幅)が「100」に設定され、かつ、「集計単位」が「1000テスト」に設定され、かつ、「チェックルール」が「集計単位:1%」に設定されている。これは、「LDL」に対する蓄積された反応過程データにおいて、吸光度幅が「100」以上である反応過程データが1000テストのうちの1%以上の高頻度で測定された場合(「チェックルール」に違反した場合)、反応過程データの変動が自動分析装置の機構や測定条件に起因すると判断するものである。なぜなら、高頻度で吸光度幅の大きな反応過程データが測定されるのは、検体自体が変動原因とは考えにくく、自動分析装置の機構や測定条件が変動原因であると考えられるからである。
そして、変動原因推定部601は、特定条件設定部600で設定した特定条件(図14参照)に基づいて、検体自体に起因しているのか、あるいは、自動分析装置の機構や測定条件に起因しているのかを特定するように構成されている。
変動原因推定部601による反応過程データの変動原因の推定は、例えば、図15に示すフローチャートにしたがって行われる。図15は、反応過程データの変動原因を推定する動作を説明するフローチャートである。図15において、まず、例えば、反応過程データを解析することにより、図14に示す「チェック値」に設定された項目のデータを取得してデータ記憶部506に記憶する(S401)。
次に、所定数のデータが蓄積されたか否かを判断する(S402)。例えば、図14に示す「HDL」の場合、5個以上の「二乗誤差」が蓄積されているか否かが判断される。また、図14に示す「LDL」の場合、1000個以上の「幅(吸光度幅)」が蓄積されているか否かが判断される。
続いて、蓄積されたデータが所定数以上に達した場合、図14に示す「チェックルール」に違反しているか否かが判断される(S403)。「チェックルール」に違反している場合には、反応過程データの変動が自動分析装置の機構や測定条件に起因すると推定して、警告を表示する(S404)。図16は、警告表示の一例を示す図である。
このようにして、前処理反応における反応過程データの変動が連続で発生、あるいは、高頻度で発生している場合は、検体の夾雑物が変動原因ではなく、自動分析装置の機構や測定条件が変動原因である蓋然性が高いことから、警告を表示して、自動分析装置の機構の点検や測定条件の見直しを促すことができる。
<応用例>
本実施の形態における技術的思想を具現化するための反応過程データの解析手法の1つとして、直線近似法を例に挙げて説明したが、反応過程データの解析手法としては、これに限らず、例えば、以下に示す解析手法を挙げることもできる。
この解析手法とは、前処理反応での反応過程データの解析対象区間において、対象となる測光ポイントにおける吸光度とその直前の測光ポイントにおける吸光度との差分を計算して、前処理反応での反応過程データを解析する手法である。
図17は、UA(尿酸)の反応過程データの例を示すグラフである。この反応過程データでは、「測光ポイント1」から「測光ポイント19」までの時間が前処理反応に対応し、「測光ポイント20」から「測光ポイント38」までの範囲が本反応に対応している。
検体700Aに対するグラフでは前処理反応における反応過程データはほぼフラットである。これは、前処理反応における反応過程データの変動が少なく正常であることを示している。これに対し、検体700Bに対するグラフでは、前処理反応における反応過程データがフラットではなく増加傾向にある。通常、前処理反応における反応過程データはフラットであるため、増加傾向を示す検体700Bの反応過程データは異常である。これは前述の通り、「影響変動」に該当する。
図18は、CRE(クレアチニン)の反応過程データの例を示すグラフである。検体800Aに対するグラフでは、前処理反応における反応過程データは、ほぼフラットである。これは、前処理反応における反応過程データの変動が少なく正常であることを示している。一方、検体800Bでは、5ポイント付近の測光ポイントに突発的な吸光度上昇がある。この吸光度の変動はCREの濃度計算に影響しない「非影響変動」に該当する。ただし、このような変動は、その頻度が高頻度であるか否かによって自動分析装置自体の光学系に原因があることもある。
このような反応過程データを解析するための条件が条件設定部501で設定される。例えば、図19は、条件設定部501で設定される初期条件の一例を示す表である。図19において、「項目」ごとに設定される条件には、「測光ポイント」、「変動許容値」、「ばらつき許容吸光度差」、「ポイント数」、「判定方法」、「測定継続」がある。
「測光ポイント」には、反応過程データの解析に使用される測光区間が規定される。例えば「測光ポイント」に「5-19」と記載されている場合。「測光ポイント5」から「測光ポイント19」の反応過程データを使用して、反応過程データの解析が行われる。
「変動許容値」には、「測光ポイント」で指定した区間における変動量の許容値が規定される。例えば「±200」と記載されている場合、指定した区間内で許容される変動の範囲は「±200」であることを意味する。「変動許容値」に「15%」と百分率で記載されている場合、指定した区間内で許容される変動の範囲は、解析対象の反応過程データの吸光度幅の「15%」であることを意味する。
ここで、例えば、「変動許容値」が絶対数値で記載されている場合、本反応における反応過程データを測定することなく、前処理反応における反応過程データを測定した段階(測定の早い段階)で異常の有無を判断することできる。
一方、「変動許容値」が解析対象の反応過程データの吸光度幅に対する百分率で記載されている場合、前処理反応と本反応を合わせた全体の反応過程データを測定した段階でないと、「変動許容値」に基づく異常の有無を判断することができないが、「変動許容値」を絶対数値で表現することが困難な場合に有効である。
「ばらつき許容吸光度差」には、「測光ポイント」で規定した区間における隣り合う吸光度の差の許容される範囲が規定される。例えば「ばらつき許容吸光度差」に「100」と記載されている場合、「測光ポイント」で規定した区間における隣り合う吸光度の差の許容値が「100」であることを意味する。「ばらつき許容吸光度差」に「15%」と記載されている場合、「測光ポイント」で指定した区間における隣り合う吸光度の差の許容値は、解析対象の反応過程データの全体の吸光度変化量の「15%」であることを意味する。この場合においても、「変動許容値」と同様に、条件を絶対数値で表現した場合には、本反応における反応過程データを測定することなく、前処理反応における反応過程データを測定した段階(測定の早い段階)で異常の有無を判断することできる。一方、条件を百分率で表現することは、「ばらつき許容吸光度差」を絶対数値で表現することが困難な場合に有効である。
「ポイント数」には、「測光ポイント」で規定した区間における隣り合う吸光度の差の中で、「ばらつき許容吸光度差」の範囲外にあるデータ個数が規定される。例えば、「ポイント数」が「2」と記載されている場合、「測光ポイント」で規定した区間における隣り合う吸光度の差が、「ばらつき許容吸光度差」の範囲外にあるデータ数が「2」以下であれば許容範囲内であることを意味する。言い換えれば、「測光ポイント」で規定した区間における隣り合う吸光度の差が、「ばらつき許容吸光度差」の範囲外にあるデータ数が「2」よりも多ければ許容範囲外であることを意味する。
「判定方法」には解析に関する複数の条件を「AND条件」で判定するか、あるいは、「OR条件」として使用するのかについて規定される。
「測定継続」には、反応過程データに異常変動があった場合に測定を継続するか、あるいは、測定を中断するのかについて規定される。
次に、近似関数を使用した反応過程データの解析手法と同様に、本解析手法においても、自動分析装置100において「影響変動」を異常変動として検出する一方、「非影響変動」を異常変動として検出しないために、条件設定部501において、図19に示す条件だけでなく、図20に示すような例外条件も使用する。
図20は、例外条件の一例を示す表である。図20において、「項目」には、濃度の測定対象となる成分が設定される。例えば、「項目」に「AST」が設定されている場合、「AST」の反応過程データを異常変動としないための例外条件が規定される。この例外条件には「測光ポイント」、「変化方向」、「変動許容値」がある。
「測光ポイント」には、反応過程データの測光区間が規定される。例えば、「測光ポイント」に「5-19」と記載されている場合、「測光ポイント5」から「測光ポイント19」の反応過程データが例外条件の適用範囲となることを意味している。
「変化方向」には、例外条件となる反応過程データの変化の方向が規定される。例えば、「変化方向」が「連続減少」である場合に例外条件が適用されることを意味している。
「変動許容値」には、例外条件となる反応過程データの許容値が規定される。例えば「変動許容値」が「-400」と記載されている場合、「-400」以上であれば例外条件が適用されることを意味している。
なお、「コメント」の欄には、反応過程データの変動が生じる要因を端的に記載することができる。「コメント」の欄に「弱乳び影響」と記載されている場合には「弱乳び」によって、反応過程データに例外条件に該当する変動が生じていると理解できる。
条件設定部501で設定された吸光度解析に関する条件(図19および図20)は、データ記憶部506に記憶される。そして、異常変動判断部502では、条件設定部501で設定された吸光度解析に関する条件に基づいて、以下に示す判断処理が行われる。
異常変動判断部502は、条件設定部501で設定された「測光ポイント」で演算処理を実施する。具体的に、「m-n」と指定されていた場合、測光ポイント「x」における吸光度「A(x)」とその直前の測光ポイント「x-1」における吸光度「A(x-1)の差{A(x)-A(x-1)}を測光ポイント「x=m」から測光ポイント「x=n」まで繰り返す。異常変動判断部502は、測光ポイント「x=m」から測光ポイント「x=n」まで{A(x)-A(x-1)}を計算した後、この演算した結果を合計して、「変動許容値」の範囲内に収まっているか否かを判断する。
具体的な例を以下に示す。
図21は、図17に示す反応過程データの前処理反応である測光ポイント「1」から測光ポイント「19」までの区間において、吸光度「A(x)」とその直前の吸光度「A(x-1)」との差{A(x)-A(x-1)}を計算して、時系列順にプロットしたグラフである。
図17に示すように、検体700Aの場合、前処理反応における吸光度の変動がほとんどないため、図21に示す検体700Aでの吸光度「A(x)」とその直前の吸光度「A(x-1)」との差{(A(x)-A(x-1))は、「0」に近いデータで推移する。一方、検体700Bの場合、前処理反応において、時間経過に依存して吸光度が徐々に上昇している反応過程データであるため、図21に示す検体700Bのグラフは、常に「0」以上の値をとっている。このことから、検体700Bのような反応過程データの場合、測光ポイント「x=m」から測光ポイント「x=n」までの{A(x)-A(x-1)}を合計した値が大きくなる。なお、変動の方向が減少方向だった場合は、測光ポイント「x=m」から測光ポイント「x=n」までの{A(x)-A(x-1)}を計算した値を合計した値は小さくなる。異常判断部502は、条件設定部501で設定した「変動許容値」と、測光ポイント「x=m」から測光ポイント「x=n」までの{A(x)-A(x-1)}を合計した値とを比較して、前処理反応における反応過程データの変動が大きいか否かを評価する。
次に、異常判断部502は、測光ポイント「x=m」から測光ポイント「x=n」まで{A(x)-A(x-1)}を計算したそれぞれの値の絶対値が、条件設定部501で設定された「ばらつき許容吸光度差」以下であるか否かを判定する。このとき、測光ポイント「x=m」から測光ポイント「x=n」まで{(A(x)-A(x-1))を計算したそれぞれの値の絶対値が「ばらつき許容吸光度差」を超えたデータ数が条件設定部501で設定された「ポイント数」を超えているか否かを確認する。
図22は、図18に示す反応過程データの前処理反応である測光ポイント「1」から測光ポイント「19」の区間において、吸光度「A(x)」とその直前の吸光度A(x-1)の差{A(x)-A(x-1)}を計算して、時系列順にプロットしたグラフである。
図18に示す検体800Aの場合、前処理反応における吸光度の変動がほとんどないため、図22に示す検体800Aでの吸光度A(x)とその直前の吸光度A(x-1)の差{A(x)-A(x-1)}は、「0」に近いデータで推移する。一方、図18に示す検体800Bの場合、前処理反応の区間において、数ポイントのばらつきがあるため、吸光度A(x)とその直前の吸光度A(x-1)の差{A(x)-A(x-1))は「0」付近で安定することなく、大きくばらついている。
しかしながら、検体800Bでは、吸光度A(x)とその直前の吸光度A(x-1)の差{A(x)-A(x-1))がプラス側とマイナス側に変動しているため、測光ポイント「x=m」から測光ポイント「x=n」までの吸光度A(x)とその直前の吸光度A(x-1)の差{A(x)-A(x-1)}の合計値は、検体700Bの場合よりも小さくなる。このため、本解析手法でも、連続的な吸光度の上昇や減少と吸光度のばらつきを区別することができる。
図22に示す破線は、条件設定部501で設定したCREの「ばらつき許容吸光度差」に設定した「±30」で描いている。検体800Aは全てのデータが破線の内側にあるため、異常なしと判断される。一方、検体800Bは条件設定部501において指定した「測光ポイント」において、4点のデータが破線を超えている。したがって、検体800Bは、条件設定部501で設定したCREの「ポイント数」である「2」よりも大きいため、異常と判断される。
ここで、異常変動判断部502は、反応過程データの変動が条件設定部501で設定された例外条件(図20参照)に該当する場合、上述した結果にかかわらず、反応過程データの変動が異常変動ではないと判断する。
なお、例えば、図19に示すように、条件設定部501で設定された「判定方法」に従って前処理反応における反応過程データが異常であるか否かが判定される。「判定方法」が「AND条件」で設定されていた場合、異常変動判断部502は、測光ポイント「x=m」から測光ポイント「x=n」まで{A(x)-A(x-1)}を計算した後、この演算した結果を合計した値が「変動許容値」を超えており、かつ、「ばらつき許容吸光度差」を超えたデータ数が「ポイント数」を上回っている場合に異常と判断する。
これに対し、「OR条件」が設定されている場合、異常変動判断部502は、上述した2条件のいずれかが条件設定部501で設定された値を超えた場合に異常と判断する。
異常判断部502は、このような判断を行った後、条件設定部501で設定された例外条件に該当するか否かを判断し、例外条件に該当する場合、異常判断部502は、前処理反応での反応過程データの変動が異常変動ではないと判断する。
その他の特徴や動作に関しては近似関数を使用した解析手法と同様である。
図23は、反応過程データの異常変動を上述した解析手法で検出するための流れを説明するフローチャートである。本応用例では、反応過程データで連続して測定される吸光度の差を用いることにより解析する手法を示す。
まず、光度計で検体と第1試薬を混合した反応液の吸光度を測定する(S501)。これにより、前処理反応における反応過程データが取得される(S502)。取得された反応過程データは、自動分析装置100のデータ記憶部506に記憶される(S503)。ここで、例えば、データ記憶部506は、自動分析装置100に含まれている構成を前提としているが、これに限らず、データ記憶部506は、自動分析装置100とネットワーク接続されたサーバなどに搭載されていてもよい。
次に、自動分析装置100は、前処理反応における反応過程データの解析に必要な測定ポイント(測光区間)の反応過程データが取得できたかを判断する(S504)。続いて、自動分析装置100は、条件設定部501で指定された「測光ポイント」の区間(「m-n」)において、測光ポイント「x=m」から測光ポイント「x=n」までの吸光度で吸光度差{A(x)-A(x-1)}を計算する(S505)。そして、自動分析装置100は、算出された吸光度差{A(x)-A(x-1)}の合計を計算する(S506)。
次に、自動分析装置100は、許容値を算出する。例えば、図19に示すように、条件設定部501で「変動許容値」や「ばらつき許容吸光度差」を百分率で設定した場合は、解析対象の反応過程データの吸光度幅を基準として、許容値を計算する(S507)。そして、許容値と算出された吸光度差{A(x)-A(x-1)}の絶対値を比較して、許容範囲外となるデータ数を算出する(S508)。本応用例では、任意の数値を入力できるようにしているが、「変動許容値」と「ばらつき許容吸光度差」は過去の検体や精度管理試料の反応過程データを統計的に解析した値に基づいて設定されてもよい。
反応過程データが異常変動であるか否かの判断は、例えば、図12の「S210」、図13の「S302」で実施する。本応用例では、条件設定部501に設定した「変動許容値」、「ポイント数」、「判定条件」に従って、異常判断部502で実施する。例えば、算出した吸光度差{A(x)-A(x-1)}の合計「G」と許容範囲外のデータ個数「H」を、条件設定部501で設定した変動許容値「I」と、ポイント数「K」とを比較する。「G>I」かつ「H>K」のとき、反応過程データは異常変動であると判定される。ここで「判定方法」に「OR」と設定されている場合は、「G>I」または「H>K」のとき、反応過程データは異常変動であると判定される。
それ以降の判定処理は、近似直線を使用した解析手法(図12~図16)と同様の処理を行うことにより、反応過程データの変動原因の推定等を実現することができる。
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。