JP7318865B2 - 貝類の受動免疫方法 - Google Patents
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Description
例えば、ノロウイルスは牡蠣の中腸腺に取り込まれており、これをヒトが食すると腸粘膜細胞にて感染及び増殖することで、食中毒症状が発現する。
これまで、貝類の出荷にあっては、滅菌された海水にて人工的に浄化することが行われているが、ノロウイルス等は感染力が強く、ヒトが10~100個程度摂取したのみでも発症する場合があり、本出願人は先に多くの種類の遺伝子型を有するノロウイルスに対しても、不活化が可能な免疫グロブリンを提案している(特許文献1)。
本発明は、これまで行われている貝類の人工浄化システムに免疫グロブリンによるウイルス等の不活化技術を適用すべく研究を重ねた結果、本発明に至った。
人工浄化は、この生理活性を利用して貝類の体内から細菌やウイルス等を除去する方法である。
しかし、水槽に単に免疫グロブリンを添加しただけでは貝類が生理的な拒否反応を示し、体内に取り込まないことが研究により明らかになった。
そこで本発明は、貝類が取り込みやすい条件が得られた点に特徴がある。
例えば牡蠣の場合には、免疫グロブリンは鳥類由来の免疫グロブリンであり、前記水槽に終濃度25~500ng/mlの範囲になるように添加し、2時間以上畜養するのが好ましい。
本発明は、これらの人工浄化システムに受動免疫方法を組み込むことに成功したものである。
例えば、浄化を目的に貝類が畜養されている水槽は紫外線照射された海水が循環されており、前記紫外線照射をOFFの状態にし、あるいはONの状態で浄化水の循環を維持しながら前記免疫グロブリンを前記水槽に添加することができる。
また、水槽に薬剤にて滅菌された海水がかけ流されている場合には、前記かけ流しを停止した後に前記免疫グロブリンを前記水槽に添加するのが好ましい。
本発明は、この生理活性を利用して人工浄化水槽内の滅菌海水に抗ヒト食中毒病原体免疫グロブリンを所定の濃度となるように添加することで、貝類が体内に免疫グロブリンを取り込み受動免疫が成立する。
この受動免疫により、貝類の体内に取り込まれている大腸菌,腸炎ビブリオ菌及びノロウイルス等のヒト食中毒病原体の感染性が不活化される。
加えて、人工浄化水槽内にて貝類が新たに取り込む上記病原体に対しては、体内に滞留する免疫グロブリンによって感染性が不活化される。
従来の人工浄化方法である紫外線照射滅菌海水のろ過循環方法、清浄海水または次亜塩素酸ナトリウム添加による滅菌海水の規定時間以上のかけ流し方法では食中毒を発症させない程度の十分な浄化効果が実現できなかったが、鳥類由来の免疫グロブリンを活用した受動免疫法と既存の人工浄化システムと組み合わせて一体化したことにより、生食用としてより安全な貝類を提供することができる。
本発明では、精製免疫グロブリンではなく卵黄水溶性蛋白質の抽出液とすることで、安価に大量製造を可能として低コストで効果が得られる。
貝類由来の食中毒病原体を病原体ごとに作製し抗原としてオイルアジュバンドと混和する。
それを鳥類の筋肉内に接種し一定間隔ごとに追加接種することで、接種抗原に対する高抗体力価の特異抗体を産生させる。
この抽出液をフィルターろ過滅菌し、冷蔵もしくは冷凍させたものを用いる。
免疫グロブリン添加後2時間以上畜養して受動免疫を成立させる。
次に紫外線照射ONの状態で所定の換水又は循環水量にて規定時間以上人工浄化して水揚げする。
遺伝子組換え技術で発現させたノロウイルス様中空粒子(VLP:Virus like particle)とオイルアジュバントの混和物を産卵鶏の胸筋内に接種し、接種鶏が産卵した卵の卵黄より抗ノロウイルスVLP抗体を含有する卵黄水溶性蛋白質抽出液を製造した。
抗ノロウイルスVLP抗体を含有する卵黄水溶性蛋白質抽出液の抗ノロウイルス活性評価試験を実施した。
リン酸緩衝液にノロウイルスVLPをウイルス粒子数相当として、1×109/mL、1×108/mL、1×107/mL、1×106/mLの各濃度になるように調製した。抗ノロウイルスVLP抗体を含有する卵黄水溶性蛋白質抽出液中の免疫グロブリン濃度が22,500ng/mL、2,250ng/mL、225ng/mLになるようにリン酸緩衝液で希釈調製した。各濃度ノロウイルスVLP溶液と各濃度免疫グロブリン溶液を1:1で混合し混合溶液100μLを体外診断用医薬品ノロウイルス抗原キット「イムノキャッチ-ノロ」にアプライして、ノロウイルス抗原の有無の判定を行った。
抗ノロウイルスVLP抗体を含有する卵黄水溶性蛋白質抽出液中の免疫グロブリン濃度が22,500ng/mLでノロウイルスVLP 1×108/mL濃度溶液まで陰性反応を示した。
同様に2,250ng/mLでは1×107/mL、225ng/mLでは1×106/mL濃度まで陰性反応を示した。
抗ノロウイルスVLP抗体の特異的結合反応によって、ノロウイルス抗原性をなくしたことからノロウイルスの感染性を不活化したことになる。
また、免疫グロブリン濃度に比例してノロウイルス抗原性をなくすことのできるノロウイルスVLP量の比例関係が確認された。
浄化海水中の免疫グロブリン濃度が2,500ng/mL、250ng/mL、50ng/mLとなるように、抗ノロウイルスVLP抗体を含有する卵黄水溶性蛋白質抽出液を水槽に添加した。
卵黄水溶性蛋白質抽出液を添加後均一になるよう混ぜた後、浄化海水をサンプリングした。
各免疫グロブリン濃度浄化海水の水槽に牡蠣を入れて一晩畜養後、牡蠣中腸腺をサンプリングして、下記ELISA法を用いて中腸腺内の免疫グロブリン濃度を定量した。
抗ニワトリIgGヤギIgGをELISA用96ウエルプレートに一晩吸着固相化させた後、PBS-Tで3回洗浄し、BSA-PBS-Tを分注して1時間ブロッキングし、PBS-Tで3回洗浄した。
中腸腺乳剤または、卵黄水溶性蛋白質抽出液添加浄化海水及び、検量線用の既知ニワトリIgGを適性濃度に希釈して100μLをウエルに分注して1時間反応させた後、PBS-Tで4回洗浄した。
抗ニワトリIgGヤギIgG標識抗体を各ウエルに分注し1時間反応後、PBS-Tで4回洗浄後、発色試薬を各ウエルに分注して30分間呈色反応させて、各ウエルに停止液を分注して呈色反応を停止させOD値を測定し、検量線より総ニワトリIgG抗体濃度を算出した。
表2の結果から、浄化海水に卵黄水溶性蛋白質抽出液を添加して混合した後の浄化海水中の免疫グロブリン濃度は、理論値に近い濃度が確認された。
表3に示すように一晩畜養後の牡蠣中腸腺乳剤中の免疫グロブリン濃度は、2,500ng/mL濃度区では10検体のうち3検体が検出限界以下であった。
これに対して250ng/mLの濃度区では、10検体のすべてにて免疫グロブリンの体内への取り込みが確認された。
この事実は、人工浄化水槽に単に免疫グロブリンを添加するだけでは受動免疫を成立させることができないことを意味している。
これは、浄化海水中に2,500ng/mLのような高濃度の免疫グロブリンを添加した場合に、牡蠣がこれまでとは違う環境に変化したと判断し、海水を体内に取り込まなくなったものと推定される。
また、50ng/mL濃度では検出限界以下が1検体存在したが、平均して中腸腺1gあたり11ngの免疫グロブリンが検出された。
これらの試験結果から、添加する免疫グロブリンの濃度は2,500ng/mL以下である必要があり、25~500ng/mLの範囲がよい。
より好ましくは、50~500ng/mLの範囲である。
浄化海水中の免疫グロブリン濃度が125ng/mLとなるように、抗ノロウイルスVLP抗体を含有する卵黄水溶性蛋白質抽出液を水槽に添加した。
卵黄水溶性蛋白質抽出液を添加後均一になるよう混ぜた後、各免疫グロブリン濃度浄化海水の水槽に牡蠣を入れて、1、2、3、6時間ごとに牡蠣を水揚げして牡蠣中腸腺をサンプリングした。
ELISA法を用いて中腸腺内の免疫グロブリン濃度を定量した。
畜養1時間では5検体中2検体が検出限界以下であったが、2時間以降では全検体より免疫グロブリンが検出された。
免疫グロブリン125ng/mL濃度の浄化海水の畜養において、2時間時点で中腸腺1gあたり22ngの免疫グロブリンが検出されたことから、受動免疫の成立は2時間以上の畜養で十分であることが確認された。
養殖牡蠣の一般生産者で使用されている紫外線照射滅菌海水のろ過循環式人工浄化システムにおける牡蠣の免疫グロブリン取込み確認試験を実施した。
図1に、紫外線照射滅菌方式の人工浄化システムの構成例を模式的に示す。
貝類が畜養される浄化水槽4を有し、浄化水槽4には自然海水を給水ポンプ1aにてポンプアップし、ろ過装置2を経由して給水される。
浄化水槽4に所定量の海水が貯えられると、循環ポンプ1bにてろ過装置2を経由して浄化水が循環するが、その途中に紫外線照射装置3にて海水が滅菌され、浄化水槽4に循環供給される。
水槽容量に対する規定の数量の牡蠣を浸漬して人工浄化システム装置の紫外線照射のみOFFにしてろ過循環及びエアレーションは稼働した状態にて浄化海水に卵黄水溶性蛋白質抽出液を添加した。
1日畜養後に人工浄化水槽の各場所より牡蠣をサンプリングした。継続して紫外線照射をONにしてろ過循環及びエアレーションも稼働した状態で1日畜養して、計2日畜養した牡蠣を人工浄化水槽の中央部の水深中段より牡蠣をサンプリングした。
ELISA法を用いて中腸腺内の免疫グロブリン濃度を定量した。
一般生産者で使用されている紫外線照射滅菌海水のろ過循環式人工浄化システムにおいても牡蠣の免疫グロブリンの取り込みが確認された。
人工浄化水槽で牡蠣の浸漬させた場所、水深部による免疫グロブリンの取込みに大きな差は認められず、免疫グロブリン濃度が均一な浄化海水が人工浄化水槽全体を流水していることが確認された。
また、牡蠣の取り込まれた免疫グロブリンは人工浄化システムの紫外線照射に関係なく中腸腺内を滞留していることが確認された。
上記人工浄化システムにおいて人工浄化前に貝類の体内に取り込まれた病原体の感染性の不活化と人工浄化水槽内にて貝類が新たに取り込む病原体に対しても同様に感染性の不活化のための受動免疫の成立が確認された。
貝類の人工浄化方法として、残留塩素濃度が0.2ppmになるように次亜塩素酸ナトリウムを添加した滅菌海水を規定の注入量及び時間のかけ流しが一般的に普及している。
その薬剤滅菌方式の浄化システムの構成例を図2に模式的に示す。
図1の方式と相違する点を説明すると、薬液タンク6と薬液添加装置5を有し、所定の濃度になるように次亜塩素酸ナトリウムの薬液が浄化水槽4にかけ流される。
かけ流し人工浄化システムと受動免疫法と低コストで組み合わせるためには、かけ流しを行った後に、かけ流し注入を停止し満水状態の人工浄化水槽に免疫グロブリンを所定の濃度になるように添加して、貝類が海水の取り込みや呼吸などの生理活性を維持した状態で2時間以上畜養を必要とする。
よって、人工浄化水槽内の残留塩素濃度0.2ppmの滅菌海水においる免疫グロブリンの安定性確認試験を実施した。
残留塩素濃度測定キットを用いて、自然海水に次亜塩素酸ナトリウムを添加して0.2ppmであることを確認した後、理論上免疫グロブリン濃度が125ng/mLになるように卵黄水溶性蛋白質抽出液を添加した。
良く撹拌して10分後に海水をサンプリングした。
ELISA法を用いて海水中の免疫グロブリン濃度を定量した。
参考として残留塩素濃度0.6ppmでは免疫グロブリン濃度が65%減少した。
残留塩素濃度0.2ppmの次亜塩素酸ナトリウムを添加した滅菌海水かけ流し人工浄化方法では、かけ流し滅菌海水の全てに免疫グロブリンを添加することは非効率でコスト的に現実的でない。
しかし、かけ流し終了後の人工浄化水槽内の残留塩素濃度0.2ppmの滅菌海水に卵黄水溶性蛋白質抽出液を添加しても免疫グロブリンが安定であることから、貝類が海水の取り込みや呼吸などの生理活性を維持した状態で2時間以上畜養することで受動免疫を成立することが示唆された。
鳥類由来の免疫グロブリンを活用した受動免疫法と既存の人工浄化システムと組み合わせた一体化は、生食用としてより安全な貝類を提供することが可能である。
免疫グロブリンは、このような特性を持ちながら貝類の組織に作用しないこと及び免疫グロブリンを含む卵黄水溶性蛋白質抽出液も無味無臭であり貝類の品質を低下させないこと、鶏卵そのものがヒトに食されても安全であることから本来の貝類の風味を維持しつつ安心安全な食材の提供はできることは産業上の有効性は極めて大きい。
既存の人工浄化システムをそのまま使用でき、卵黄水溶性蛋白質抽出液を人工浄化水槽に直接投入するのみと極めて簡易的な方法で効果が得られるため汎用性が高く迅速な普及が期待される。
1b 循環ポンプ
2 ろ過装置
3 紫外線照射装置
4 浄化水槽
5 薬液添加装置
6 薬液タンク
Claims (3)
- 貝類が畜養されている浄化水槽に所定の濃度になるように免疫グロブリンを添加することで前記貝類の体内に前記免疫グロブリンを取り込ませるものであり、
前記免疫グロブリンは鳥類由来の免疫グロブリンであり、前記浄化水槽に終濃度25~500ng/mlの範囲になるように添加し、2時間以上畜養することを特徴とする貝類の受動免疫方法。 - 前記浄化水槽は紫外線照射された海水が循環されており、前記紫外線照射をOFFの状態にし、あるいはONの状態を維持しながら前記免疫グロブリンを前記浄化水槽に添加することを特徴とする請求項1記載の貝類の受動免疫方法。
- 前記浄化水槽には薬剤にて滅菌された海水がかけ流されており、前記かけ流しを停止した後に前記免疫グロブリンを前記浄化水槽に添加することを特徴とする請求項1記載の貝類の受動免疫方法。
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