JP4476349B2 - 魚類の免疫力増強方法 - Google Patents

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Description

本発明は、養殖魚及び観賞魚を含む魚類の免疫力を増強する方法に関する。
養殖魚や観賞魚のような人工的に飼育される魚類は、閉鎖水系に個体が存在し、1尾が病原菌に感染すると、閉鎖水系内の魚類の全体が感染する恐れがあるので、感染症による影響を受けやすい。
そこで、魚類の感染症の予防及び治療を目的として、ワクチンを使用することが知られている。ワクチンとしては、例えば、イリドウイルス感染症予防用のワクチン(特開2007−197454号;特許文献1)、ウイルス性出血性敗血症に対するDNAワクチン(特開2005−112726号;特許文献2)、ヒラメのラブドウイルス感染防止用のDNAワクチン(特開2003−155254号;特許文献3)、錦鯉の新穴あき病の予防用ワクチン(特開2002−265384号;特許文献4)などが知られている。
また、ワクチンを使用する際に、アジュバントを用いて、抗原に対する抗体産生能力を高める試みも行われている(特開2006−312595号;特許文献5)。
さらに、ワクチンを含有する高濃度溶存酸素水中で魚類に対して超音波処理を行うことにより、感染の防止効果を増強させる方法が知られている(特開2007−215475号;特許文献6)。
一方、過酸化水素を含有する水浴で魚類を処理して、魚類の体表面や鰓に寄生する寄生虫の駆除を行うことも知られている(特公平7−51028号公報、特許2575240号、特許第2817753号;特許文献7〜9)。
特開2007−197454号公報 特開2005−112726号公報 特開2003−155254号公報 特開2002−265384号公報 特開2006−312595号公報 特開2007−215475号公報 特公平7−51028号公報公報 特許第2575240号公報 特許第2817753号公報
本発明は、魚類の免疫力を増強する方法を提供することを課題とする。
本発明は、閉鎖水系内で過酸化水素発生化合物により魚類を処理する、魚類の免疫力を増強する方法を提供する。
本発明の方法により、魚類の免疫力を増強できる。免疫力が向上することにより、種々の疾患に対する魚類の抵抗力を向上させることができ、魚類が罹患することによる種々の悪影響を回避できる。
また、免疫力が増強された魚類は、体内に侵入した抗原に対する抗体を産生する能力が高められ得るので、このような魚類にワクチンを接種することにより、抗体の産生が増進され、魚類の免疫力がより増強され、ワクチン接種による細菌などの感染防止効果をより向上することができる。
ニシキゴイの頭腎からの白血球の殺菌活性の測定結果を示すグラフである。 ニシキゴイの血清リゾチーム活性の測定結果を示すグラフである。 ニシキゴイの後腎のリゾチーム活性の測定結果を示すグラフである。 ニシキゴイの白血球から産生される抗体産生細胞の数の測定結果を示すグラフである。 ニシキゴイの頭腎からの白血球の殺菌活性の測定結果を示すグラフである。
本発明は、閉鎖水系内で過酸化水素発生化合物により魚類を処理することを含む、魚類の免疫力を増強させる方法である。
本明細書において、魚類の「免疫力を増強させる」とは、多くの疾患に対する非特異的生体防御能、及び/又は特定の疾患に対する特異的生体防御能を高めることを意味する。免疫力の増強は、具体的には、魚類の白血球(特に好中球)による殺菌活性を向上させること、補体の活性を向上させること、血液及び臓器でのリゾチーム活性を向上させること、魚類の体内で異種抗原と認識される種々の物質に対する抗体の産生を増強させることなどを含む。よって、免疫力の増強は、例えば、以下の実施例に示すように、白血球の殺菌活性、血清中の溶血補体活性、リゾチーム活性、血清中の抗体産生細胞数などを測定することにより確認できる。
魚類の生体防御については、「魚病学概論」室賀清邦及び江草周三編、恒星社厚生閣出版、1996年、第9〜20頁に詳述されている。
上記の過酸化水素発生化合物は、過酸化水素を発生可能な化合物であり、過酸化水素;過ホウ酸、過炭酸、ペルオキシ硫酸などの無機過酸;過酢酸のような有機過酸;及びこれらの塩類が挙げられる。該塩類としては、過ホウ酸ナトリウム、過炭酸ナトリウムなどが挙げられる。
上記の過酸化水素としては、通常、工業用として市販されている30〜60%程度の濃度(例えば35%)の過酸化水素水溶液を用いることができる。
上記の過酸化水素発生化合物は、該化合物により発生する閉鎖水系内の過酸化水素の濃度が、好ましくは10〜3000mg/L、より好ましくは10〜1500mg/L、さらに好ましくは10〜600mg/L、さらにより好ましくは10〜300mg/Lとなるように閉鎖水系内に存在させ得る。この範囲の過酸化水素の濃度であれば、魚類の生存に悪影響を与えることなく、免疫力を増強できる。
上記の過酸化水素発生化合物を、過酸化水素の閉鎖水系内での濃度が上記の好ましい範囲の濃度になるように、魚類を収容している閉鎖水系内に加えればよい。
上記の添加は、高い濃度の過酸化水素が魚類に直接降りかかって魚体に悪影響を与えることがないように、過酸化水素発生化合物を海水又は淡水で適切な濃度に希釈してから行うことが好ましい。また、過酸化水素発生化合物を閉鎖水系内に添加した後に、過酸化水素が閉鎖水系内に適当に分散するように、撹拌を行ってもよいし、過酸化水素発生化合物を閉鎖水系の上方から散布することにより添加してもよい。
本発明の方法において、魚類を過酸化水素発生化合物で処理する期間は、魚の種類にもよるが、1〜60分が好ましく、より好ましくは1〜30分である。この時間であれば、魚類の生存に悪影響を与えることなく、免疫力を増強できる。
魚類の過酸化水素発生化合物での処理は、魚類を通常飼育する温度で行うことができ、魚の種類にもよるが、10〜25℃の範囲で行うことが好ましい。
本発明の方法により処理できる魚類は、海水魚及び淡水魚のいずれであってもよく、好ましくは養殖魚及び観賞魚であり、より好ましくは海水で生息する養殖魚である。海水で生息する養殖魚としては、特に限定されないが、ハマチ、ブリ、カンパチ、シマアジ、タイ、トラフグ、ヒラメ、サケなどが挙げられる。本発明の方法は、淡水で生息する養殖魚、例えばアユ、フナなど、及び観賞魚、例えば金魚、コイ、メダカなどにも適用可能である。
上記の魚類を収容している閉鎖水系とは、隔壁をもって閉鎖された魚類の遊泳区画である。上記の隔壁としては、例えばビニールシート、ゴム引きシート、水槽などが挙げられる。閉鎖水系内に収容される水は、魚類の種類に応じて、海水又は淡水であり得る。
本発明の方法は、さらに、魚類と過酸化水素との接触を停止する工程を含むことができる。このような工程を含むことにより、過酸化水素と魚類との長時間の接触を回避して、魚類に対する悪影響が生じることを防ぐことができる。
魚類と過酸化水素との接触を停止する方法としては、過酸化水素類で処理した魚類を、過酸化水素を含む閉鎖水系から別の閉鎖水系に移動させる方法、過酸化水素を含む閉鎖水系内に、過酸化水素を中和又は分解できる物質を添加することにより過酸化水素を除去する方法などが挙げられる。
魚類を閉鎖水系内から外に移動させる方法は、魚類に負担をかけない方法であれば特に限定されず、過酸化水素を添加した閉鎖水系に別の生簀を隣接させ、閉鎖水系と該生簀との両方に設けた開口部を介して魚類を移動させる方法が挙げられる。
上記の過酸化水素を中和又は分解できる物質としては、工業的に過酸化水素を中和又は分解するために用いられている物質であって、生物に対する毒性が弱いものであれば特に限定されず、例えばチオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、水酸化ナトリウム、カタラーゼ、マンガン触媒、活性炭などが挙げられる。魚類に対する影響及び環境に対する影響の観点から、カタラーゼ、マンガン触媒、活性炭を用いることが好ましい。
カタラーゼは、過酸化水素の分解を触媒する酵素であり、ウシ、ブタなどの動物の肝臓、腎臓、赤血球などから得られるものが知られている。また、Aspegillus niger、Micrococcus lysodeikticusなどの微生物の培養液から得られるものを用いることもできる。カタラーゼは、精製品又は未精製品のいずれであってもよく、10,000〜100,000単位/mL(1単位は、37℃にて1分間に1mMのH22を分解できる酵素の量である)程度の量で閉鎖水系に添加することにより、過酸化水素を分解できる。
上記の過酸化水素を中和又は分解できる物質を閉鎖水系内に加える場合、該閉鎖水系内には魚類が存在していてもよいし、存在していなくてもよいが、魚類への負担を軽減する観点から、該物質を加える前に魚類を閉鎖水系内から外に移動させることが好ましい。
本発明の方法は、魚類にワクチンを接種する工程をさらに含むことができる。
魚類へのワクチンの接種は、当該技術において公知の方法で行うことができ、注射、経口投与又は浸漬により行うことが好ましい。
注射は、筋肉内又は腹腔内への注射により行うことができる。
経口投与は、魚類の飼料にワクチンを混合して投与する方法、及び製剤化したワクチン(例えばカプセル剤、錠剤など)を魚類に経口投与する方法などにより行うことができる。
浸漬は、魚類をワクチン液に適切な時間、通常、1〜30分程度浸漬する方法、ベルトコンベア上を移動する魚類にワクチン液を振りかける方法などにより行うことができる。
上記のワクチンは、魚類用のワクチンであれば特に限定されず、病原体を不活性化した不活化ワクチン、病原体の病原性を低下させた弱毒化ワクチン、病原体の免疫原性部分に相当する成分ワクチン、病原体の産生する毒素を中和したトキソイドワクチン、遺伝子組み換えにより作製した遺伝子組み換えワクチン、免疫原性タンパク質をコードするDNAであるDNAワクチンなどのいずれであってもよい。
上記のワクチンとしては、ビブリオ病に対するワクチン、連鎖球菌症に対するワクチン、イリドウイルス感染症に対するワクチン、ウイルス性出血性敗血症に対するワクチン、ラブドウイルス感染症に対するワクチン、アエロモナス感染症に対するワクチン、α溶血性連鎖球菌症に対するワクチン、β溶血性連鎖球菌症に対するワクチン、類結節症に対するワクチン、エドワジエラ症に対するワクチンなどが挙げられる。
上記のワクチンは、抗原に対する免疫応答を修飾できるアジュバントを含み得る。アジュバントとしては、従来公知のものであれば特に限定されず、アルミナアジュバント、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバントなどが挙げられる。
上記のワクチンの投与量は、ワクチンの種類、魚の種類などに応じて適宜選択できる。
本発明の方法において、魚類の過酸化水素類での処理工程は、ワクチン接種工程の前、同時又は後に行うことができる。
本発明の方法では、該処理工程により、魚類の免疫力が増強され得るので、ワクチンを接種することにより、ワクチンに対する抗体の産生が増進されて、ワクチン接種による感染症予防効果をより増強できる。ワクチンが上記のアジュバントを含む場合、接種されたワクチンは免疫原性を持続的に発揮できるので、ワクチン接種工程の後に魚類を過酸化水素類で処理して免疫力を増強させても、該ワクチンからの免疫原性物質に対する抗体の産生を増加させ得ると考えられる。
上記の処理工程をワクチン接種工程の前に行う場合、処理工程を行ってから30分〜10日後、より好ましくは1〜7日後にワクチン接種工程を行うことが好ましい。
本発明を、以下の実施例によりさらに説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
以下の実施例において用いた試薬は、次に記載するようにして調製した。
〔1000unitsヘパリン溶液〕
蒸留水10mlに130units/mgヘパリン(和光純薬工業(株)製)76.9mgを溶解させ、4℃で保存したものを1000unitsヘパリン溶液とした。
〔リン酸緩衝食塩水(PBS)〕
蒸留水900mlにリン酸水素二ナトリウム12水塩(和光純薬工業(株)製)3.0g、リン酸二水素カリウム(関東化学(株)製)0.7g及び塩化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)6.4gを溶解させて、メスフラスコで1000mlにメスアップした後、4℃で保存したものをPBSとした。
〔10%炭酸水素ナトリウム溶液〕
蒸留水20mlに炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業(株)製)2gを溶解し、121℃にて15分間滅菌し、4℃で保存したものを10%炭酸水素ナトリウム溶液とした。
〔2M水酸化カリウム溶液〕
蒸留水100mlに水酸化カリウム(ナカライテスク(株))11.22gを溶解させたものを、2M水酸化カリウム溶液とした。
〔MEM細胞培地〕
超純水396mlにMEM培地2(ニッスイ)3.76gを溶解し、121℃にて15分間の滅菌を行なった。その後、10%炭酸水素ナトリウム溶液でpHを7.2に調整し、4℃で保存したものをMEM細胞培地とした。
〔10unitsヘパリン入りMEM細胞培地〕
MEM細胞培地に、ヘパリンが10unitsとなるように1000unitsヘパリン溶液を加えたものを、10unitsヘパリン入りMEM細胞培地とした。
〔ニトロ・ブルー・テトラゾリウム(NBT)溶液〕
NBT(Sigma)8mgに、MEM2培地16ml加えて溶解させ、4℃で保存したものをNBT溶液とした。
〔ザイモサンNBT混合溶液〕
ザイモサン(zymosan A(Sigma))32mgをPBSに懸濁し、100℃で30分間煮沸した。その後PBSを用いて、室温で3回の遠心洗浄(2000rpmで10分間)を行ない、上澄みを取り除き、プール血清160μlを加え20℃でオプソニン化を30分行なった。MEM2培地を用いて同条件で2回の遠心洗浄を行ない、得られた沈殿にNBT溶液16mlを加えて、ザイモサンNBT混合溶液とした。
〔リン酸緩衝液pH7.0(PB)〕
リン酸水素二ナトリウム12水塩1.79gとリン酸二水素カリウム0.68gをそれぞれ蒸留水500mlに溶解し、pH7.0に調整したリン酸緩衝液をPBとした。
〔ミクロコッカス菌液〕
Micrococcus lysodeikticus菌体(Sigma)を適度にPBで希釈した後、OD530での吸光度を0.5に調整したものを、ミクロコッカス菌液とした。
実施例1
供試魚として、養魚場から購入した平均体重32.8gのニシキゴイ(Cyprinus carpio)を用いた。
60リットルのガラス製水槽4基に、50リットル中にチオ硫酸ナトリウム6粒を入れて脱塩素を行なった水道水を入れ、それぞれの水槽に20尾ずつニシキゴイを入れて、20℃で止水飼育した。浸漬中は無給餌で飼育した。
次に、過酸化水素発生化合物として、「マリンサワーSP30」((株)片山化学工業研究所製)を用いて薬浴処理を実施した。70リットルのタンク中にチオ硫酸ナトリウムを3粒入れ、水道水20リットルを脱塩素して用いた。過酸化水素濃度が0(対照)、16.5、165又は1650mg/リットルとなるように過酸化水素発生化合物を添加して、各試験区とした。上記のニシキゴイ20尾を、各試験区に水温20℃で20分間浸漬させた後、元の飼育水に戻した。
<血清試料の調製>
ニシキゴイを過酸化水素で処理してから1、3及び5日後に、各水槽から無作為に5尾ずつニシキゴイを取り出し、尾静脈から血液を採取し、室温で1時間静置した。その後、静置した血液を4℃で遠心分離(2500rpm、15分間)し、上清をマイクロチューブに移し、血清を得た。試験区毎にプール血清を160μlとなるように調整し、氷上で保存した後、残った血清は使用時まで−80℃で保存した。
<頭腎白血球細胞浮遊液の調製>
また、血清を採取したのと同じニシキゴイから頭腎を採取し、シャーレ上にMEM10unitsヘパリン培地を2ml加えピンセットを用いて頭腎をチョッピングした。パスツールピペットを用い、ステンレスメッシュで頭腎を濾過し、得られた液を試験管に移した。MEM10unitsヘパリン培地1mlで共洗いをしてから、得られた液を試験管に移し全量を3mlとした。MEM10units培地を用いて、4℃で2回の遠心洗浄(1600rpmで5分間)を行なった。得られた沈殿にMEM10unitsヘパリン培地を2ml加え懸濁し、20μlトリパンブルーと等量混合した。トーマ血球計算盤を用いて白血球数を計数し、1.0×107細胞/mlとなるように調整したものを、頭腎白血球浮遊液とした。
試験例1−1 頭腎白血球による殺菌活性の測定
試験管に、MEM2培地1.2ml、上記の頭腎白血球細胞浮遊液0.24ml及びザイモサンNBT混合溶液1.2mlの順に入れて反応させた。また予めMEM10unitsヘパリン培地を用いて4℃で2回遠心洗浄(1600rpm、5分間)を行い、得られた沈殿にメタノール200μlを加えて、パスツールピペットで混合して、室温で30分間固定した。
メタノール固定した沈殿を20℃で遠心分離(2500rpmで5分間)し、上澄みを取り除いた。2M水酸化カリウム溶液1.44mlとジメチルスルホキシド(和光純薬)1.68mlを加えボルテックスで攪拌し、20℃で遠心分離(2500rpmで10分間)し、上澄みの吸光値(OD630)を測定した。なお、オートゼロにはMEM2培地を用いた。
測定結果を図1に示す。図1では、※は、対照からの有意差があることを示す。
この実験では、ザイモサンの刺激により白血球が活性酸素を産生する能力、すなわち白血球の殺菌能力を、活性酸素によるNBTの還元反応により発生する青色のジフォルマザンの量を測定することにより、評価できる。
図1の結果から、過酸化水素発生化合物での薬浴処理をしなかったニシキゴイの白血球に比べて、本発明の方法により処理したニシキゴイの白血球は、より多くの活性酸素を産生したことがわかる。よって、本発明の方法により、ニシキゴイの免疫力が増強されたことがわかる。
試験例1−2 血清のリゾチーム活性の測定
全量0.3mlになるように、上記の血清試料をPBで10倍希釈したものを試料として用いた。PBのみを入れたものを、ブランクとして用いた。ミクロコッカス菌液をそれぞれの試験管に0.9mlずつ加えて、すぐに吸光度(OD530)を測定した。37℃でインキュベートしながら30分毎に2時間まで吸光度を測定した。なお、オートゼロはPBで行なった。
得られた結果に基づいて、溶菌率を以下の式により計算した:
溶菌率(%)=(X0−Xt)−(B0−Bt)/X0×100
(式中、X0は、t=0での試料の吸光度であり、Xtは、所定の時間での試料の吸光度であり、B0は、t=0でのブランクの吸光度であり、Btは、所定の時間でのブランクの吸光度である)。
溶菌率の測定結果を、図2に示す。図2では、※は、対照からの有意差があることを示す。
この実験により、血清中のリゾチーム活性を測定できる。
図2の結果から、過酸化水素発生化合物での薬浴処理をしなかったニシキゴイに比べて、本発明の方法により処理したニシキゴイは、血清中のリゾチーム活性が上昇していることがわかる。すなわち、本発明の方法により、ニシキゴイの免疫力が増強されたことがわかる。
試験例1−3 後腎リゾチーム活性の測定
実施例1のようにして処理したニシキゴイから後腎を摘出した。この後腎0.03gにPB2.97mlを加え、ホモジナイザーでホモジナイズし、PBで100倍希釈して用いた。100倍希釈液に等量のPBを加え200倍希釈した。PBのみを入れたものを、ブランクとして用いた。37℃でインキュベートしながら30分ごとに1時間まで吸光度を測定した以外は、試験例1−2と同様にして溶菌率を測定した。
測定結果を図3に示す。図3では、※は、対照からの有意差があることを示す。
図3の結果から、薬浴処理から1日経過したニシキゴイの後腎では、薬浴処理していないニシキゴイに比べて、リゾチーム活性はわずかしか上昇していなかった。しかし、薬浴処理から3及び5日後には、本発明の方法により処理したニシキゴイにおいて、処理していないニシキゴイに比べてリゾチーム活性が有意に上昇したことがわかる。
実施例2
供試魚として、養魚場から購入した平均体重14.9gのニシキゴイ(Cyprinus carpio)を用いた。
60リットルのガラス製水槽4基に、50リットル中にチオ硫酸ナトリウム6粒を入れて脱塩素を行なった水道水を入れ、それぞれの水槽に15尾ずつニシキゴイをいれて、20℃で止水飼育した。浸漬中は無給餌で飼育した。
次に、過酸化水素発生化合物として、「マリンサワーSP30」((株)片山化学工業研究所製)を用いて薬浴処理を実施した。70リットルのタンク中にチオ硫酸ナトリウムを3粒入れ、水道水20リットルを脱塩素して用いた。過酸化水素濃度が165mg/リットルとなるように過酸化水素発生化合物を添加した試験区と、水道水の試験区とに、それぞれニシキゴイを15尾ずつ、20℃で20分浸漬させた後、元の飼育水に戻した。
ニシキゴイを過酸化水素で処理してから5日後に、10mg/mlに調製したザイモサンを各検体に0.1mlずつ腹腔内投与した。対照区のニシキゴイには、生理食塩水を0.1mlずつ腹腔内投与した。
水道水の試験区で処理した後、生理食塩水を腹腔内投与した試験区を「C/C」、水道水の試験区で処理した後、ザイモサンを腹腔内投与した試験区を「C/Z」、165mg/リットルの過酸化水素水で処理した後、生理食塩水を腹腔内投与した試験区を「H22/C」、165mg/リットルの過酸化水素水で処理した後、ザイモサンを腹腔内投与した試験区を「H22/Z」と表す。
生理食塩水又はザイモサンの投与から2及び4週間後に、各水槽から無作為に5尾ずつニシキゴイを取り出し、尾静脈から血液を採取し、室温で1時間静置した。その後、静置した血液を4℃で遠心分離(2500rpmで15分間)し、上清をマイクロチューブに移し、血清を得た。試験区毎にプール血清160μlとなるように調整し、氷上で保存した後、残った血清は使用時まで−80℃で保存した。
また、生理食塩水又はザイモサンの投与から2及び4週間後に、各水槽から無作為に5尾ずつニシキゴイを取り出し、上記の<頭腎白血球細胞浮遊液の調製>に記載したようにして、頭腎白血球細胞浮遊液を得た。
この実施例において、腹腔内投与されるザイモサンは、抗原性を示す物質として用いた。
試験例2−1 頭腎白血球の抗体産生細胞数の測定
採血用生理食塩水を用いてウサギの耳から血液を採血し、0.85%生理食塩水を用い2回の遠心洗浄(2000rpmで5分間)を行なった。洗浄後、0.85%生理食塩水を用い、赤血球が20%になるように調整した20%ウサギ赤血球浮遊液と、0.1mg/mlザイモサン液を等量混合し、37℃のウォーターバスで60分間反応させた。反応後0.85%生理食塩水を用い2回の遠心洗浄(2000rpmで5分間)を行ない、その後0.85%生理食塩水で赤血球が10%となるようにし、10%感作赤血球浮遊液を調製した。
45℃のウォーターバスで温めた試験管1本当たりに、2倍濃度MEM培地3(ニッスイ)1.6ml、1%アガロース液1.6ml、10%感作赤血球浮遊液0.4ml、及び実施例2で得られた1.0×107細胞/mlの白血球を含む頭腎白血球細胞浮遊液0.4mlを、ピペットにより混合した。得られた混合液1mlをスライドガラスに塗布し、放置してゲル状にした。1検体につき3枚のスライドガラスを用意した。
バット1枚に、PBSで5倍希釈した未処理(過酸化水素での処理もザイモサンの腹腔内投与もしていない)のニシキゴイの血清10mlを広げ、ティッシュを敷き、その上にスライドガラスのゲル面を下にして並べた。バットにラップをかけて20℃でインキュベートし、16時間から24時間後のプラーク数を測定した。
測定結果を図4に示す。
この実験では、ザイモサンに対する抗体を産生する白血球の能力を、プラーク形成細胞(抗体産生細胞の1種)による赤血球の溶血によるプラークの数を計数することにより評価できる。
図4の結果から、本発明の方法により過酸化水素発生化合物で処理したニシキゴイでは、抗原投与から4週間後に、過酸化水素発生化合物で薬浴処理せずに抗原を投与したニシキゴイに比べて、抗体産生細胞の数がより多いことがわかる。
よって、本発明のワクチン接種方法により、接種されたワクチンに対する抗体がより多く産生され、特定の病原菌に対する生体防御機能が増強されることが期待できる。
試験例2−2 頭腎白血球による殺菌活性の測定
試験例1−1と同様にして、実施例2のようにして処理したニシキゴイからの頭腎白血球の殺菌活性を測定した。
測定結果を図5に示す。図5では、※は、対照からの有意差があることを示す。
図5の結果から、過酸化水素発生化合物で処理をしてから抗原を投与したニシキゴイからの白血球が、抗原投与から4週間後に、より多くの活性酸素を産生したことがわかる。よって、本発明のワクチン接種方法により、ニシキゴイの免疫力が増強され得ることがわかる。
実施例3
供試魚として、平均体重約70gのマダイを用いた。60リットルの海水が入ったポリカーボネート製水槽にマダイを入れて、過酸化水素として、「マリンサワーSP30」を用いて薬浴処理を実施した。「マリンサワーSP30」を60ml(過酸化水素濃度として300mg/リットル)添加した試験区と、無添加の試験区とに、それぞれマダイを33個体ずつ、通気して21〜22℃で3分間浸漬させた後、21〜22℃の500リットルタンクの飼育水に戻した。試験期間中は、市販の配合飼料を魚体重の約2%量で給餌した。
マダイを過酸化水素で処理してから5日後に、ワクチンとして、エドワジエラ症原因菌(Edwardsiella tarda)のホルマリン不活化菌体を各個体に湿菌重量として10mgずつ腹腔内投与した。菌体の投与から2週間後及び4週間後に、各水槽から無作為に5尾ずつマダイを取り出し、尾静脈から血液を採取し、室温で1時間静置した。その後、静置した血液を4℃で遠心分離(2500rpmで15分間)し、上清をマイクロチューブに移し、血清を得た。
抗体価は、得られた血清をリン酸緩衝食塩水(PBS、pH7.0、13mM)で2倍段階希釈したものとホルマリン不活化菌体を用いて測定し、幾何平均抗体価を算出した。具体的には、96穴マイクロタイタープレートの各ウェルに被検血清25μlを入れ、PBSで2倍の段階希釈を作製した。各ウェルに、OD630 = 1.0に調整したホルマリン不活化エドワジエラ症原因菌体の懸濁液25μlを加えて混合し、室温で2時間及び4℃にて一晩静置して、肉眼で凝集の認められる最高希釈倍率を抗体価とした。
2週間後及び4週間後の幾何平均抗体価の測定結果を、それぞれ表1及び表2に示す。
Figure 0004476349
Figure 0004476349
表1及び表2の測定結果から、本発明の方法により過酸化水素で薬浴処理したマダイは、過酸化水素で処理しなかったマダイに比べて幾何平均抗体価が高くなることがわかる。
よって、本発明の免疫増強方法により、魚類において、接種されたワクチンに対する抗体がより多く産出されることが示された。本発明の免疫増強方法により、特定の病原体に対する魚類の生体防御機能を増強することが期待できる。

Claims (3)

  1. 閉鎖水系内で過酸化水素発生化合物により海水及び淡水の養殖魚及び観賞魚から選択される魚類を処理する工程と、魚類にワクチンを接種する工程とを含み、
    前記過酸化水素発生化合物により発生する閉鎖水系内の過酸化水素の濃度が、10〜3000mg/Lであり、
    前記処理が、1〜60分間の浸漬処理であり、
    前記接種工程が、過酸化水素発生化合物での処理工程の前、同時又は後に行われる
    ことを特徴とする、前記魚類の免疫力を増強する方法。
  2. 魚類へのワクチンの接種が、注射、経口投与又は浸漬により行われる請求項に記載の方法。
  3. 魚類と過酸化水素との接触を停止する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
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