JP7318364B2 - 酵素発電デバイス用炭素系材料、酵素発電デバイス用電極組成物、酵素発電デバイス用電極、および酵素発電デバイス - Google Patents
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Description
近年では、酵素発電デバイスから取り出した電気エネルギーを電源として使う以外にも、酵素が持つ基質選択性を利用し、糖やアルコール等の有機物をセンシングするための自己発電型センサーとして利用する方法も提案されている。自己発電型センサーは発電と有機物センシング機能を併せ持つため、電源フリーによる小型軽量化、低コスト化が可能となることに加え、酵素による微小量検知や高い基質選択性に由来する高いセンシング精度が特長となる。そのため、生体向けのウェアラブルデバイスやインプラントデバイス等に使われるセンサー用電源としての利用が期待されている。
他方、酵素発電デバイスにおいては、負極及び正極に酸化還元酵素を含み、多種多様な有機物と空気中の酸素を燃料として発電するエネルギーシステムであり、常温作動、豊富な有機エネルギー源、環境・生体への高い安全性等、複数の利点がある一方、出力安定性、寿命、コスト等に関する課題もある。
すなわち本発明は、炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料からなる酵素発電デバイス用炭素系材料であって、構成元素としてヘテロ元素を含み、ヘテロ元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされている酵素発電デバイス用炭素系材料に関する。
酵素発電デバイス用炭素系材料(以下、単に炭素系材料ともいう)とは、炭素原子が六角網状に共有結合した網平面を形成した炭素六角網面を基本骨格とする炭素材料からなり、炭素原子の構成単位間に物理的・化学的な相互作用(結合)を有し、異種元素、たとえばN、B、Pなどのヘテロ原子を含み、更に場合によって卑金属元素が含まれる炭素系材料である。ここでいう卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金)を除く金属元素であり、卑金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、およびスズからなる群より選ばれる一種以上を含有することが好ましい。
ヘテロ元素と卑金属元素を含有することは、酸化還元反応活性を有する上で重要な意味をなす。酵素発電デバイス用炭素系材料は、上記活性点として、例えば、炭素材料の基本骨格を構成する炭素の六角網面のエッジ部に導入された窒素原子やその近傍の炭素原子、また触媒表面上に卑金属元素を中心に4個の窒素が平面上に並んだ卑金属-N4構造における窒素原子や卑金属原子などが挙げられ、酸素の還元活性を有することが知られている。
{N×(N1+N2)}= 0.1×(30%+20%)= 5%
上記以外の窒素原子は、N3型窒素原子(主に炭素環の内部に存在する、3つの炭素原子と結合している4級のもの)、N4型窒素原子(酸化された状態で、酸素のような異種元素が結合しているもの)に分類される。
本発明における炭素材料の製造方法としては、特に限定されず、炭素材料、ヘテロ元素を含む化合物及び卑金属元素を含む化合物を混合し炭化させる方法、炭素材料、ヘテロ元素を含む化合物を混合し炭化させる方法、ヘテロ元素を含む炭素材料と、卑金属元素を含む化合物とを混合し炭化させる方法、フタロシアニンやポルフィリン等の大環状化合物などのヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物を炭化させる方法、炭素材料と、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物とを混合し炭化させる方法、炭素材料と、卑金属元素を含む化合物とを混合し炭化させた材料に気相法でヘテロ元素をドープする方法、炭素材料に気相法でヘテロ元素をドープする方法など、従来公知のものを使用することが出来る。
好ましい製造方法としては、少なくともヘテロ元素を含む炭素材料と、卑金属元素を含む化合物とを混合し、熱処理する方法や、少なくとも炭素材料と、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む化合物とを混合し、熱処理する方法が挙げられる。また、前記熱処理により得られた炭素材料を、酸で洗浄、及び乾燥する工程を含む方法が挙げられる。更に、前記酸洗浄により得られた炭素材料を、熱処理する工程を含む方法が挙げられる。
本発明における酵素発電デバイス用炭素系材料の構成成分である炭素材料としては、無機炭素材料が好ましい。例えば、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ミディアムサーマルカーボンブラック)、活性炭、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、グラフェンナノプレートレット、ナノポーラスカーボン、炭素繊維等が挙げられる。上記炭素材料の中でも、種類やメーカーによって、炭素六角網面の大きさや積層構造は様々で、結晶性、粒子径、形状、BET比表面積、細孔容積、細孔径、嵩密度、DBP吸油量、表面酸塩基度、表面親水度、導電性などの様々な物性や、コストが異なるため、使用する用途や要求性能に合わせて最適な材料を選択することができる。
ケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD、ライオナイトEC-200L等のライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製ケッチェンブラック;
トーカブラック#4300、#4400、#4500、及び#5500等の東海カーボン社製ファーネスブラック;
プリンテックスL等のデグサ社製ファーネスブラック;
Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、975 ULTRA、PUER BLACK100、115、及び205等のコロンビヤン社製ファーネスブラック;
#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、及び#5400B等の三菱化学社製ファーネスブラック;
MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、及びBlackPearls2000等のキャボット社製ファーネスブラック;
Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、及びSuperP-Li等のTIMCAL社製ファーネスブラック;
デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等のデンカ社製アセチレンブラック;
VGCF、VGCF-H、VGCF-X等の昭和電工社製カーボンナノチューブ;
名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ;
xGnP-C-300、xGnP-C-500、xGnP-C-750、xGnP-M-5、xGnP-M-15、xGnP-M-25、xGnP-H-5、xGnP-H-15、xGnP-H-25等のXGSciences社製グラフェンナノプレートレット;
Easy-N社製ナノポーラスカーボン;
カイノール炭素繊維、カイノール活性炭繊維などの群栄化学工業社製炭素繊維;
クノーベルMHグレード、クノーベルP(2)010グレード、クノーベルP(3)010グレード、クノーベルP(4)050グレード、クノーベルMJ(4)030グレード、クノーベルMJ(4)010グレード等の東洋炭素社製クノーベル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明における炭素材料として、ヘテロ元素、卑金属元素を導入する際に使用される原料としては、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物であれば特に限定されない。例えば、色素、ポリマー等の有機化合物、金属単体、金属酸化物、金属塩等の無機化合物が挙げられる。また、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用して用いても良い。卑金属元素とは、遷移金属元素のうち貴金属元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金)を除く金属元素であり、卑金属元素としては、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、銅、チタン、バナジウム、クロム、亜鉛、スズから選ばれる一種以上を含有することが好ましい。
好ましくは錯体もしくは塩であり、その中でも、卑金属元素を分子中に含有することが可能な、窒素を含有した芳香族化合物は、炭素材料中に効率的に窒素元素と卑金属元素を導入しやすいため好ましい。具体的には、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、テトラアザアヌレン系化合物等の大環状化合物が挙げられる。上記芳香族化合物は、電子吸引性官能基や電子供与性官能基を導入されたものであってもよい。特に、フタロシアニン系化合物は、様々な卑金属元素を含んだ化合物が入手可能であり、コスト的にも安価であるため、原料としては特に好ましい。
原料の組み合わせとしては例えば、炭素元素を無機炭素材料、ヘテロ元素を気相法のヘテロドープ由来の炭素材料、炭素元素を有機炭素材料、ヘテロ元素を気相法のNドープ由来の炭素材料、炭素元素とヘテロ元素を熱処理後炭素粒子となる有機材料由来の炭素材料、炭素元素を無機炭素材料、ヘテロ元素と卑金属元素を、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の炭素材料、炭素元素を熱処理後炭素粒子となる有機材料、ヘテロ元素と卑金属元素を、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の炭素材料、炭素元素を有機炭素材料、ヘテロ元素を、卑金属元素を含まない、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物、卑金属元素を、ヘテロ元素を含まない、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の炭素材料、炭素元素とヘテロ元素を熱処理後炭素粒子となる有機材料由来の炭素材料、卑金属元素を、卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の炭素材料、炭素元素、ヘテロ元素及び卑金属元素を、炭素元素、ヘテロ元素及び卑金属元素を含む、ヘテロ元素及び/又は卑金属元素を含有する化合物由来の炭素材料等が挙げられる。
2本ロールや3本ロール等のロールミル、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の高速攪拌機、マイクロナイザーやジェットミル等の流体エネルギー粉砕機、アトライター、ホソカワミクロン社製粒子複合化装置「ナノキュア」、「ノビルタ」、「メカノフュージョン」、奈良機械製作所社製粉体表面改質装置「ハイブリダイゼーションシステム」、「メカノマイクロス」、「ミラーロ」等が挙げられる。
ディスパー、ホモミキサー、若しくはプラネタリーミキサー等のミキサー類;
エム・テクニック社製「クレアミックス」、若しくはPRIMIX社製「フィルミックス」等のホモジナイザー類;
ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、若しくはコボールミル等のメディア型分散機;
湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、若しくは奈良機械製作所社製「マイクロス」等のメディアレス分散機;
又は、その他ロールミル、ニーダー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、湿式混合装置としては、装置からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
市販の水系用分散剤としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
市販の溶剤系用分散剤としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
この場合、ある程度高温で熱処理することで、活性点の構造が安定化し、実用的な電池運転条件に耐え得る触媒表面となることが多い。このときの温度は600℃以上であることが好ましい。
酵素発電デバイス用電極組成物は、酵素発電デバイス用炭素系材料と、少なくとも、バインダーとを含み、酵素発電デバイス用炭素系材料の全表面が樹脂(バインダー)で覆われることなく活性点が露出できているため、目的とする酸化還元反応に対して効果的に機能できる。
本発明に使用する溶剤としては、特に限定せず使用することができる。必要に応じて、例えば、分散性や導電性支持体への塗工性向上のために、複数の溶剤種を混ぜて使用しても良い。溶剤としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられる。中でも水や、炭素数が4以下のアルコール系溶剤が好ましい。
本発明におけるバインダーとは、酵素発電デバイス用炭素系材料などの粒子を結着させるために使用されるものであり、それら粒子を溶媒中へ分散させる効果は小さいものである。
バインダーとしては、従来公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、スチレン-ブタジエンゴムやフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリンやポリアセチレン等の導電性樹脂等、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロカーボン及びテトラフルオロエチレン等のフッ素原子を含む高分子化合物が挙げられる。又、これらの樹脂の変性物、混合物、又は共重合体でも良い。これらバインダーは、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
本発明において使用する分散剤は、酵素発電デバイス用炭素系材料に対して分散剤として有効に機能し、その凝集を緩和することができる。分散剤は酵素発電デバイス用炭素系材料に対して凝集を緩和する効果が得られれば特に限定されるものではない。
本発明の組成物を得る際に用いられる装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機、混合機が使用できる。
本発明の酵素発電デバイスで使用できる燃料としては、酵素で分解できる有機物であれば特に限定はされず、D-グルコース等の単糖類、デンプン等の多糖類、エタノール等のアルコール、有機酸などの有機物であれば幅広く利用できる。
酵素発電デバイス用電極は、本発明における酵素発電デバイス用電極組成物を導電性支持体(カーボンペーパーや導電層など)やセパレータ等の基材などに直接塗布し乾燥させたり、転写基材などに前記組成物を塗布し乾燥することにより形成された塗膜を前記導電性支持体やセパレータ等に転写したりして作製される。
本発明の酵素発電デバイス用電極は必要により酵素やメディエータを含んでいても良い。酵素やメディエータを担持する方法は、本発明の酵素発電デバイス用電極組成物に含ませて行っても良いし、塗布後乾燥した塗膜に後から行っても良い。後から行う場合では、酵素やメディエータを溶解させた液を上記塗膜に浸漬等させた後、乾燥させて担持する方法等が使用できる。
酵素発電デバイス用電極は、酵素を含む酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜をそのまま使用したり、酵素を含む酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜に更に酵素を担持して使用したり、酵素を含まない酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜に酵素を担持して使用したり、酵素を含まない酵素発電デバイス用電極組成物から作製した塗膜をそのまま使用したりして、後述する酵素発電デバイス用負極や酵素発電デバイス用正極として使用される。
上記組成物の塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な方法を適用できる。
酵素発電デバイス用負極では、燃料の酸化反応により発生した電子を正極に供給する。
酵素発電デバイス用負極は、酸化酵素を含む本発明の酵素発電デバイス用電極や、酸化酵素を導電性支持体(カーボンペーパーや導電層など)やセパレータ等の基材などに直接塗布した電極などが使用される。
本発明の酵素発電デバイス用正極では、負極で発生した電子を受け取り、電極中の還元反応によりこれを消費する。酵素発電デバイス用正極の構造としては、例えば、酸素を電子受容体として使用する酸素還元反応の場合では、反応場となる活性点まで電子及びプロトンの伝導パスや酸素の供給パスが確保されていることが効率的な発電を行う上では好ましい。
酵素発電デバイス用正極は、還元酵素を含む本発明の酵素発電デバイス用電極や、還元酵素を含まない本発明の酵素発電デバイス用電極、還元酵素を導電性支持体(カーボンペーパーや導電層など)やセパレータ等の基材などに直接塗布した電極、還元酵素を含まない酸素還元触媒からなる電極などが使用される。
酸素還元触媒としては、貴金属触媒、卑金属酸化物触媒、活性炭、酸素還元酵素などが挙げられ、また本発明の酵素発電デバイス用炭素系材料も酸素還元触媒として使用することもできる。
卑金属酸化物触媒は、ジルコニウム、タンタル、チタン、ニオブ、バナジウム、鉄、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、タングステン、およびモリブデンからなる群より選択された少なくとも1種の卑金属元素を含む酸化物を使用することができ、より好ましくはこれら卑金属元素の炭窒化物や、これら遷移金属元素の炭窒酸化物を使用することができる。
活性炭とは、やしがらや石油系のピッチなどの難黒鉛化炭素材料を原料として、賦活処理により合成される炭素材料で、一般的に、直径2nm以下の細孔を有し、1000m2/g以上の比表面積を有する。活性炭は賦活処理の種類や条件によって、物性が異なるため、使用される条件や用途によって所望の活性炭を合成するのに適した賦活方法が適宜使用される。
導電性支持体は、導電性を有する材料であれば特に限定はない。導電性の炭素材料からなる導電層やカーボンペーパーや、カーボンフェルト、カーボンクロス、金属箔、金属メッシュ等が使われる。上記導電層は導電性の炭素材料を含むペーストなどを基材に塗工するなどして作製される。
セパレータとしては、負極と正極を電気的に分離できる(短絡の防止)ものであれば、特に限定されず従来公知の材料を用いる事ができる。具体的には、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、樹脂不織布、ガラス不織布、フェルト、濾紙、和紙等を用いることができる。
また、液体成分の保持やイオン伝導度を改善させるため、吸水性ポリマーを単独もしくは上記セパレータと複合的に使用しても良い。吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩やカルボキシメチルセルロースなどの多糖類からなる親水性のポリマー材料が挙げられる。
本発明における酵素としては、反応により電子を授受できる酵素(酸化還元酵素)であれば特に制限はなく、供給する燃料やコスト、デバイスの種類等に応じて適宜選択される。
酵素としては、物質代謝など生体内での多くの酸化還元反応を触媒する酸化還元酵素が好ましい。本発明の酵素発電デバイスに用いる負極においては電子を放出できる酵素であれば良く、糖や有機酸などのオキシダーゼやデヒドロゲナーゼなどが利用できる。中でも、他の酵素に比べ安価で、安定性が高く、人体の血液や尿などの生体試料に含まれるグルコースを燃料にできるグルコースオキシダーゼが好ましい場合がある。その他の酵素としては、汗や血液中の乳酸を燃料にできる乳酸オキシダーゼや乳酸デヒドゲナーゼ、フルクトースを燃料にできるフルクトースオキシダーゼやフルクトースデヒドゲナーゼ等が挙げられる。
また、本発明の酵素発電デバイスに用いる正極においては、電子を消費できる酵素であれば良く、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどの還元酵素の一種で、分子状酸素の還元を触媒する酸素還元酵素を用いることが出来る。
酵素の種類によって、電極に直接電子を伝達できる直接電子移動型(DET型)酵素と直接電子を伝達できない酵素が存在する。DET型以外の酵素は、燃料の酸化によって生じた電子を酵素から電極(負極)に伝達するまたは、負極から受け取った電子を電極(正極)から酵素に伝達する役割を担うメディエータと併用することが好ましい。メディエータとしては、電極と電子の授受ができる酸化還元物質であれば特に制限はなく、従来公知のものを使用できる。
メディエータの使用方法としては、電極に担持させる方法や電解液に溶解させて使用する方法等がある。メディエータとしては、テトラチアフルバレン、ハイドロキノンや1,4‐ナフトキノン等のキノン類、フェロセン、フェリシアン化物、オスミウム錯体、及びこれら化合物を修飾したポリマー等が例示できる。分別、廃棄の観点から非金属化合物が好ましい。
酵素発電デバイスは、負極、正極の少なくとも一方に酵素を含む発電デバイスであり、酵素反応を利用し、糖やアルコール、有機酸等の多様な有機物を燃料として、負極で発生した電子及びイオンと、正極側の酸素還元反応を利用することにより発電可能な発電デバイスである。又、発電の有無や発電量を検知したり、負極または正極の一方の酸化還元反応で発生した電気信号を検知したりして、燃料となる有機物等を対象としたセンサーとして利用することも可能となる。
更に、酵素反応により発電した電力を用いて、同センサーを駆動させることにより、外部から電力供給不要な電源フリーのセンサー(自己発電型センサー)として利用することが出来る。この自己発電型センサーは酵素発電デバイスの一種に含まれ、酵素発電デバイスの電源用途と共に特に生体向けのウェアラブル、インプラントセンサーとしての活用が期待されている。これら生体向けデバイスとして使用する場合は、血液中の血糖、尿中の尿糖、汗中の糖や乳酸、涙や唾液中の糖等を燃料及び/又はセンシング対象物として利用される。また、生体試料中に燃料として利用できる有機物を含まなくても、予め燃料となる有機物を電池に内蔵することで、水分などの液体成分を利用して発電することもでき、上記液体成分をセンシング対象物としたセンサー(例えば水分センサー)として利用することもできる。
また、負極から正極側にイオンを伝達するためのイオン伝導体を含んでいても良い。生体向けデバイス等で利用の際、小型・軽量化や保存安定性等を考慮すると、燃料及び/又はセンシング対象物である尿や汗、血液中等に含まれるイオン伝導体を使用する形態の酵素発電デバイスの方が好ましい場合がある。
不織布やフェルト、紙など易廃棄なセパレータに直接負極及び正極を塗布し作製されるデバイスに対して、本発明に用いられる酵素発電デバイス用電極を使用すると、使い捨て可能(易廃棄、リサイクル不要など)なデバイスを実現することが可能となる。
例えば、無線機の電源及びセンサーとして酵素発電デバイスを利用したり、無線機の電源に酵素発電デバイス、センサーとして別の酵素発電デバイスを利用したり、無線機の電源に酵素発電デバイス、センサーとして別方式のセンサーを利用したり、無線機及びセンサーの電源に1種以上の酵素発電デバイス、センサーとして別方式のセンサーを利用したり、無線機の電源に別方式の電池(コイン電池など)、センサーとして酵素発電デバイスを利用したりすることができる。
本発明におけるイオン伝導体はアノードとカソードの間でイオンの伝導を行うものである。イオン伝導体の形態はイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。イオン伝導体としては、リン酸塩やナトリウム塩など電解質が溶けている電解液や、固体のポリマー電解質などを使用しても良い。
・表面末端窒素:X線分光分析(XPS)(島津/KRATOS社製 AXIS-HS)
・BET比表面積の測定:窒素吸着量測定(日本ベル社製 BELSORP-mini)
・X線回折:全自動水平型多目的X線回折装置(リガク社製 Smartlab)
・RC、RN、RM:CHN元素分析(パーキンエルマー社製 2400型CHN元素分析装置)、ICP発光分光分析(SPECTRO社製 SPECTROARCOS FHS12)
[実施例1A]
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)と鉄フタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/0.5(グラフェンナノプレートレット/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、酵素発電デバイス用炭素系材料(1)を得た。
ケッチェンブラックEC-600JD(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)とコバルトフタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/0.5(ケッチェンブラック/コバルトフタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、700℃で2時間熱処理を行い、酵素発電デバイス用炭素系材料(2)を得た。
カーボンナノチューブVGCF-H(昭和電工社製)と鉄フタロシアニン(東京化成社製)を、質量比1/0.5(カーボンナノチューブ/鉄フタロシアニン)となるようにそれぞれ秤量し、乾式混合を行い、混合物を得た。上記混合物を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、酵素発電デバイス用炭素系材料(3)を得た。
ポリビニルピリジン(PVP アルドリッチ社製)をジメチルホルムアミドに溶解させ、PVPに対して質量比2:1の塩化鉄六水和物を加え、室温で24時間攪拌し、ポリビニルピリジン鉄錯体を得た。上記ポリビニルピリジン鉄錯体を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にて窒素雰囲気下、800℃で2時間熱処理を行い、得られた炭化物を乳鉢にて粉砕し酵素発電デバイス用炭素系材料(4)を得た。
グラフェンナノプレートレットxGnP-C-750(XGscience社製)を、アルミナ製るつぼに充填し、電気炉にてアンモニア窒素雰囲気下、1000℃で2時間熱処理を行い、酵素発電デバイス用炭素系材料(5)を得た。
[実施例1B]
実施例1Aの酵素発電デバイス用炭素系材料(1)4.8部、溶剤として水49.2部、更に増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液40部(固形分2%)をミキサーに入れて混合し、更にサンドミルに入れて分散した。その後、バインダーとしてエマルション型アクリル樹脂分散溶液(トーヨーケム社製:W-168)6部(固形分50%)を加えミキサーで混合し、酵素発電デバイス用電極組成物(1)を得た。
実施例2A~5Aの酵素発電デバイス用炭素系材料(2)~(5)を用い、上記酵素発電デバイス用電極組成物(1)と同様の方法で、酵素発電デバイス用電極組成物(2)~(5)を得た。
酵素発電デバイス用炭素系材料の代わりに導電性の炭素材料としてケッチェンブラックEC-600JD(ライオン社製)(KB)を用い、上記酵素発電デバイス用電極組成物(1)と同様の方法で、導電性炭素材料を含むペースト(1)を得た。
[実施例1C~5C]
実施例1B~5Bの酵素発電デバイス用電極組成物(1)~(5)と、ドクターブレードにより、乾燥後の酵素発電デバイス用炭素系材料の目付け量が2mg/cm2となるように、導電性支持体として炭素繊維からなる東レ社製カーボンペーパー基材上に塗布し、大気雰囲気中95℃、60分間乾燥し、酵素発電デバイス用電極(1)~(5)を作製した。
酵素発電デバイス用電極組成物(1)~(5)の代わりに比較例1Bの導電性炭素材料を含むペースト(1)を用い、上記酵素発電デバイス用電極と同様の方法で、導電性炭素材料を含む電極(1)を作製した。
[実施例1D~5D]
実施例1C~5Cの酵素発電デバイス用電極(1)~(5)に、メディエータとしてテトラチアフルバレンのメタノール溶液と、グルコースオキシダーゼ(GOD)水溶液をそれぞれ滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用負極(1)~(5)を作製した。
また、グルコースオキシダーゼ水溶液を乳酸オキシダーゼ水溶液に変更した以外は酵素発電デバイス用負極(1)と同様の方法で、酵素発電デバイス用負極(9)を作製した。
比較例1Cの導電性炭素材料を含む電極(1)にメディエータとしてテトラチアフルバレンのメタノール溶液と、グルコースオキシダーゼ(GOD)水溶液をそれぞれ滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用負極(6)を作製した。
また、グルコースオキシダーゼ水溶液を乳酸オキシダーゼ水溶液に変更した以外は酵素発電デバイス用負極(6)と同様の方法で、酵素発電デバイス用負極(10)を作製した。
メディエータを滴下しない以外は上記酵素発電デバイス用負極(1)及び導電性炭素材料含む電極(1)と同様の方法で酵素発電デバイス用負極(7)及び(8)をそれぞれ作製した。
[実施例1E~2E]
実施例1Cの酵素発電デバイス用電極(1)にビリルビンオキシダーゼ(BOD)水溶液を滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用正極(1)を作製した。また、実施例1Cの酵素発電デバイス用電極(1)に酵素を滴下せず、酵素発電デバイス用正極(2)とした。
比較例1Cの導電性炭素材料を含む電極(1)にビリルビンオキシダーゼ(BOD)水溶液を滴下し、自然乾燥させ酵素発電デバイス用正極(3)を作製した。
[実施例1F~8F]
上記作製した実施例1D~5Dおよび比較例1Dの酵素発電デバイス用負極(1)~(6)と、実施例1E~2Eおよび比較例1Eの酵素発電デバイス用正極(1)~(3)と、セパレータとしてろ紙(No.5C ADVANTEC社製)とを貼り合わせて、表2に示す構成で酵素発電デバイス(1)~(8)を作製した。
上記作製した実施例7Dおよび比較例3Dの酵素発電デバイス用負極(9)~(10)と、実施例1E~2Eの酵素発電デバイス用正極(1)~(2)と、セパレータとしてろ紙(No.5C ADVANTEC社製)とを貼り合わせて、表3に示す構成で酵素発電デバイス(10)~(12)を作製した。
比較例1Dの酵素発電デバイス用負極(6)と、比較例1Eの酵素発電デバイス用正極(3)と、セパレータとしてろ紙(No.5C ADVANTEC社製)とを貼り合わせて、酵素発電デバイス(9)を作製した。
比較例3Dの酵素発電デバイス用負極(10)と、比較例1Eの酵素発電デバイス用正極(3)と、セパレータとしてろ紙(No.5C ADVANTEC社製)とを貼り合わせて、酵素発電デバイス(13)を作製した。
以下のようにして、酵素発電デバイスの出力安定性評価を実施した。
上記で作製した酵素発電デバイス(1)~(9)において、負極を作用極、正極を対極兼参照極として、ポテンショ・ガルバノスタット(VersaSTAT3、Princeton Applied Research社製)に接続し、酵素発電デバイスのセパレータ部分に燃料として0.01MのD-グルコースを含む0.1Mリン酸緩衝液を滴下した。室温下で、Linear Sweep Voltammetry(LSV)を行い、評価した。
LSV測定から得られた酸化電流曲線から最大出力(mW/cm2)の四回測定値の標準偏差を出力安定性の指標とし、評価した。
得られた結果を表2に示す。
LSV測定から得られた酸化電流曲線から最大出力(mW/cm2)の四回測定値の標準偏差を出力安定性の指標とし、評価した。
得られた結果を表3に示す。
◎:最大出力 標準偏差(四回測定)10μW/cm2未満(特に良好)
〇:最大出力 標準偏差(四回測定)25μW/cm2未満10μW/cm2以上(良好)
×:最大出力 標準偏差(四回測定)25μW/cm2以上(不良)
酵素発電デバイス用負極(1)を作用極、白金コイル状電極を対極、銀-銀塩化銀電極(Ag/AgCl)を参照極として、電解液(イオン伝導体)である0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中に入れ、30分間の酸素バブリングを行った後、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、pH7、室温下におけるLSV測定において、燃料(センシング対象物)となるグルコース濃度0.001~0.01Mに対する酸化電流の応答性を調べた。その結果を図1に示す。
酵素発電デバイス用負極(1)、(6)、(9)又は(10)を作用極、白金コイル状電極を対極、銀-銀塩化銀電極(Ag/AgCl)を参照極として、電解液(イオン伝導体)である0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中に入れ、30分間の酸素バブリングを行った。その後、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、pH7、室温下で-0.2~0.5Vの電位範囲におけるCyclic Voltammetry(CV)測定において、燃料(センシング対象物)となる0.01Mグルコース又は0.01M乳酸に対するサイクル特性(10サイクル)を調べた。
CV測定から得られたサイクル前後の酸化電流曲線から最大電流(mA/cm2)を比較した。1サイクル目の最大電流に対する10サイクル目の最大電流の割合から最大電流維持率を算出し、繰り返しセンシング安定性の指標として評価した。
得られた結果を表4に示す。
◎:サイクル前後の最大電流維持率(10サイクル)80%以上(特に良好)
〇:サイクル前後の最大電流維持率(10サイクル)60%以上80%未満(良好)
×:サイクル前後の最大電流維持率(10サイクル)60%未満(不良)
Claims (8)
- 炭素六角網面を基本骨格とした炭素材料からなる酵素発電デバイス用炭素系材料であって、構成元素としてヘテロ元素を含み、ヘテロ元素が炭素骨格内の炭素元素の少なくとも一部を置換するようにドープされており、ヘテロ元素が窒素元素であり、
さらに、構成元素として卑金属元素を含み、卑金属元素がCo及び/またはFeであり、
炭素材料を構成する全元素に対する、炭素原子のモル比、窒素原子のモル比および卑金属原子のモル比をそれぞれ、R C 、R N およびR M とした際、R C に対するR N の割合が1~40%、R C に対するR M の割合が0.01~20%である、
酵素発電デバイス用炭素系材料。 - 請求項1に記載の酵素発電デバイス用炭素系材料と、バインダーとを含む酵素発電デバイス用電極組成物。
- 更に、酸化還元酵素を含む、請求項2に記載の酵素発電デバイス用電極組成物。
- 請求項2に記載の酵素発電デバイス用電極組成物より形成された酵素発電デバイス用電極。
- 更に、1種以上の酸化還元酵素を含む、請求項4に記載の酵素発電デバイス用電極。
- 請求項3に記載の酵素発電デバイス用電極組成物より形成された酵素発電デバイス用電極。
- 請求項4~6いずれか1項に記載の酵素発電デバイス用電極を有する酵素発電デバイス。
- 燃料がグルコース、乳酸、およびフルクトースからなる群より選ばれる少なくとも一つである請求項7に記載の酵素発電デバイス。
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