JP7315178B2 - エンドミル仕様設定方法、加工条件設定方法及びこれを用いた加工方法 - Google Patents

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Description

本開示は、エンドミル仕様設定方法、加工条件設定方法及びこれを用いた加工方法に関するものである。
近年の航空機構造部品は一体型が進み部品形状複雑になると共に、製品の高さも増して、L/D(突出し長さ/直径)=5を超える突出しの長い工具による形状加工の必要性が増している。そのような部品は一次構造部材として結合部となることが多いため、加工面性状も重要である。しかし突出しの長い工具では、工具側の再生びびり振動が問題となり、加工面不良や加工時間が長くなるという問題がある。
一般に剛性は突出し量の3乗に比例するため、長い工具で加工する際は再生びびり振動を回避できる回転数領域となる安定ポケットを利用し、さらにできるだけ負荷を落とすことになる。そのために加工時間が非常に長くなるだけでなく、1つの面を複数パスで加工するため、パス間のミスマッチが発生し、加工後の手仕上げが必要になる。また安定ポケットのピークは固有振動数の整数分の一のため、剛性が低く(固有振動が小さく)なるほど回転数が落ちて能率が下がる。
上記のような問題を解決するために、特許文献1に示した加工方法が提案されている。この加工方法は、安定ポケットのピークのときの主軸回転数よりも大きい主軸回転数とされた広い安定領域を用いるものである。
国際公開第2019/082317号
特許文献1に記載された発明は、広い安定領域を用いてびびり振動を回避して加工が可能なことを示しているが、この安定領域を使用するための固有振動数、刃数及び半径方向切込みの条件については実験的に求めたものであり、より汎用性の高い設計手法が求められている。
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、安定ポケットのピークのときの主軸回転数よりも大きい主軸回転数とされた広い安定領域を効果的に用いることができるエンドミル仕様設定方法、加工条件設定方法及びこれを用いた加工方法を提供することを目的とする。
本開示の一態様に係るエンドミル仕様設定方法は、主軸に取り付けられたエンドミルおよびワークの振動特性に基づいて、びびり振動を回避する軸方向切込量を、主軸回転数に対して取得する安定限界取得ステップと、前記振動特性から得られる固有振動数に対応し前記軸方向切込量が極大となる安定ポケットのピークを、前記エンドミルの刃数ごとに取得する安定ポケットのピーク取得ステップと、前記エンドミルおよびワークの前記安定ポケットのピークの前記軸方向切込量及び前記主軸回転数と、前記軸方向切込量及び前記主軸回転数が0とされた点を通る一次関数を得る一次関数取得ステップと、前記エンドミルおよびワークに対して、前記安定ポケットのピークよりも大きい前記主軸回転数の領域で、びびり振動を回避する軸方向切込量を前記主軸回転数に対して表したα次関数(αは1より大)を取得するα次関数取得ステップと、所定の前記主軸回転数以上で、前記α次関数から得られる前記軸方向切込量が前記一次関数から得られる前記軸方向切込量よりも大きくなる刃数を決定する刃数決定ステップと、を有する。
安定ポケットのピークのときの主軸回転数よりも大きい主軸回転数とされた広い安定領域を効果的に用いることができる。
本発明の一実施形態に係るエンドミルを示した概略構成図である。 複数の安定ポケットを示したグラフである。 刃数ごとに第1安定ポケットを示したグラフである。 エンドミルを支持する機械構造の減衰による影響を示したグラフである。 nfについて刃数Nと主軸回転数nとで整理したグラフである。 図5と同様のグラフに対して、一刃送りfzを一定とした場合の切り屑排出能力Mrrを示したグラフである。 刃数を一定とした場合の安定性について半径方向切込量Rdと主軸回転数nとで整理したグラフである。 図7と同様のグラフに対して、一刃送りfzを一定とした場合の切り屑排出能力Mrrを示したグラフである。 一実施形態に係るエンドミル仕様設定方法、加工条件設定方法及びこれを用いた加工方法を示したフローチャートである。 図9Aの続きを示したフローチャートである。 変形例に係るエンドミル仕様設定方法、加工条件設定方法及びこれを用いた加工方法を示したフローチャートである。 図10Aの続きを示したフローチャートである。 試験に用いたエンドミルおよびワークの振動特性を合成した振動特性を示したグラフである。 解析結果及び加工試験結果を示したグラフである。
以下に、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、エンドミル10は、軸方向に延在するシャフト14と、シャフト14の外周に設けられた複数枚の刃15とを有する。
エンドミル10の一端は、チャック等の固定具を用いて主軸5に対して取り付けられている。主軸5は、図示しない工作機械の回転軸に接続されており、制御部から指示される所定の主軸回転数で回転する。
主軸5からエンドミル10の先端までの長さが突出し長さLとされる。この突出し長さLは、加工条件に応じて設定が変更されるようになっている。
エンドミル10は、主としてアルミ合金(ワーク)の加工に用いられ、例えば厚さが100mm以上500mm以下、好ましくは100mm以上250mm以下とされた部材のポケット加工等に用いられる。具体的な加工対象としては、例えば航空機構造部品(キールビームや主翼のリブ、中央翼のセンターリブ等)が挙げられる。エンドミル10の外径Daに対する突出し長さLの比であるL/Daは、5以上とされる。
刃15は、等ピッチとされているが、不等ピッチでも良い。刃数Nは、8以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上とされる。刃数Nの最大値は、エンドミル10の外径Daに依存するが、例えば外径Daが32mmの場合は38枚とされる。
エンドミル10の外径Daは、10mm以上32mm以下とされている。
エンドミル10による切削加工では、エンドミル10が再生びびり振動を回避して安定して切削加工できる安定回転数Rnが下式(1)のように定められる。
Rn≒ω1×60/N/k [rpm] ・・・(1)
ω1はエンドミル10の先端の固有振動数、Nは刃数、kは自然数である。固有振動数ω1は、例えば主軸5に取り付けられたエンドミル10に対してハンマリング試験を行うことによって得ることができ、最も大きな振動ピークを示す振動数である。なお、ハンマリング試験に代えて、加工中の振動値から固有振動数ω1を得ることとしても良い。
安定回転数Rnを中心とする所定範囲の回転数領域が安定ポケットとなり、この安定ポケット内で主軸5を回転させれば再生びびり振動を回避することができる。
図2には、安定限界線図の一例が示されている。同図において横軸は主軸回転数n[rpm]、縦軸は軸方向切込量[mm]を示す。安定領域は、曲線よりも下であり、曲線よりも上は再生びびり振動が発生する不安定領域となる。
同図には、上式(1)においてk=1とした第1安定回転数R1における第1安定ポケットSP1(k=0とk=1のローブの下側の領域)、k=2とした第2安定回転数R2における第2安定ポケットSP2(k=1とk=2のローブの下側の領域)、k=3とした第3安定回転数R3における第3安定ポケットSP3(k=2とk=3のローブの下側の領域)が示されている。各安定ポケットのピークの安定回転数は、第1安定ポケットSP1のk分の1となっている(式(1)参照)。
本実施形態では、k=0とされた領域、すなわち主軸回転数が第1安定回転数R1よりも大きい領域を用いる。以下では、この安定領域を「最大の安定領域」という。
図2に示した線図は、刃数Nごとに得ることができる。
図3には、下表に示す工具について刃数Nを変えた場合の安定限界線図の比較が示されている。
図3において、横軸は主軸回転数n[rpm]、縦軸は軸方向切込量[mm]を示す。安定領域は、曲線よりも下であり、曲線よりも上は再生びびり振動が発生する不安定領域となる。
図3には、刃数Nごとに、第1安定ポケットSP1(図2参照)のピーク形状のみが示されている。基本的には刃数Nが少ないほど安定性が高いので、刃数Nが少ないほど安定ポケットが大きくなり、軸方向切込量を大きくできる。
刃数Nが1以上9以下の場合の第1安定ポケットSP1(k=0とk=1のローブの下側の領域)のピークと、刃数Nが10(以下「10枚刃」という。)の場合の最大の安定領域SP0を比較する。
各刃数の第1安定ポケットSP1のピークを繋いだ近似線である一次関数F1と、10枚刃の最大の安定領域SP0を示す近似曲線(α次関数)Fαが図3に示されている。このとき、各刃数Nの第1安定ポケットSP1のピークを通る一次関数F1は、主軸回転数n=0[rpm]から刃数N=1(以下「1枚刃」という。)のピークである主軸回転数n=41568[rpm]まで示している。
10枚刃の最大の安定領域SP0のα次関数Fαは、第1安定ポケットSP1のピークとの交点のみを考慮するために、10枚刃の第1安定ポケットSP1のピークと同じ切込み量となる主軸回転数n=12342[rpm]から、1枚刃の第1安定ポケットSP1のピークである主軸回転数n=41568[rpm]まででフィッティングしている。
安定限界線図(図2参照)は刃数Nに応じた相似形となるため、刃数Nが増加しても各刃数Nの第1安定ポケットSP1のピークは、必ず第1安定ポケットSP1のピークを通る近似線である一次関数F1であると言える。そこで、最大の安定領域SP0は、各刃数Nの第1安定ポケットSP1のピークを通る近似式である一次関数F1との比較で行う。
一次関数F1の軸方向切込量p(n)は、主軸回転数nに対して傾きAを用いて以下の通り一次関数の式(2)で近似できる。
p(n)=A×n ・・・(2)
ここでAは図3の原点と各刃数の第1安定ポケットSP1のピークを結んだ直線の傾きとして求められる。
次に最大の安定領域SP0の軸方向切込量q(n)は、パラメータα,B,C,Dを用いて以下の通りα次関数の式(3)で近似できる。
(n)=B(n-Cα+D ・・・(3)
安定限界線図上では、刃数Nは刃数比1/N倍で縮小した相似形となるため、所定の刃数Nの最大の安定領域SP0の軸方向切込量q(n)は、ある刃数の最大の安定領域SP0から求めることができる。例えば刃数N=1の近似式から求める場合は式(4)の通り求めることができる。
N×q(n)=q(N×n)
(n)={B(N×n-Cα}/N+D/N
=B/Nα-1(n-C/N)α+D/N ・・・(4)
上式(4)の次数αは1よりも大きいため、主軸回転数nが増大するにつれて軸方向切込量q(n)も増大し、一次関数であるp(n)よりも大きくなる。したがって、多刃工具と高速加工を組み合わせることで高い加工安定性を得られることがわかる。なお、αは、表1に示した諸元とされた場合、刃数Nや半径方向切込量によらず、一定値(α=1.86程度)であることがわかっている。
ここで、多刃化による最大の安定領域SP0が有効に利用できるのは、多刃化した際の最大の安定領域SP0の軸方向切込量が第1安定ポケットSP1のピーク値よりも大きくなる場合である。つまり刃数Nの最大の安定領域SP0の軸方向切込量q(n)を示すα次関数Fαが一次関数F1を超える場合であり、以下の式(5)で表すことができる。
(n)>p(n) ・・・(5)
上式(5)の関係が有効に利用できるのはInf=q(n)/p(n)の指標を用いると、Inf>1となる領域である。
図4に示すように、本実施形態がどのような機械、主軸、工具、加工物、加工条件でも適用できるか調べるために、最大の安定領域SP0の近似式の次数αについて、半径方向切込量Ri及び機械構造によって変化する減衰特性(減衰比)の影響を調査した。同図において、横軸が半径方向切込量Riを示し、縦軸が次数αを示す。
図4に示されているように、次数αは径方向切込量や減衰比によらずα≒1.86程度である。これにより、本実施形態は加工条件や機械構造によらず普遍的に利用できることが示された。つまり本実施形態の関係性は一般的に成り立つ。
図5には、Infについて、刃数Nと主軸回転数nとで整理したグラフが示されている。同図において、横軸が刃数Nを示し、縦軸が主軸回転数n[rpm]を示す。
nfの大きさが濃淡で示されている。Inf=1を示す曲線よりも右上側が最大の安定領域SP0が有効となる領域を意味する。なお、破線の曲線は、α次関数であるq(n)の底を示し、この破線よりも左下側の斜線領域は検討外を意味している。
図5から分かるように、一般的なエンドミルの刃数として用いられる刃数N=3~6では、有効な最大の安定領域SP0が表れない。したがって、刃数Nは、8以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上とされる。
同図には、現状の航空機用の工作機械の最大の主軸回転数33000[rpm]以下で、Inf>1となる領域を本実施形態が有効に利用できる「ADVANTAGEOUS ZONE」として示している。例えば、刃数N=20、主軸回転数n=33000[rpm]とすれば、3倍の軸方向切込量(Inf=3.0)が得られることが分かる。
図6には、図5と同様のグラフに対して、一刃送りfzを0.15mm/toothで一定とした場合の切り屑排出能力Mrrを示したグラフが示されている。同図において切り屑排出能力Mrr(Material removal rate)が濃淡で示されている。切り屑排出能力Mrrは下式(6)から求められる。
Mrr=送り量×半径方向切込量×軸方向切込量 ・・・(6)
ここで、送り量は、(主軸回転数n×刃数N×一刃あたり送り)から求められる。
図6に示されているように、刃数N=20、主軸回転数n=33000[rpm]とすれば、十分な切り屑排出能力Mrr=37959[cc/min]が得られることが分かる。また、同図から、Inf>1のエリアで切り屑排出能力Mrrが最大になることがわかる。
なお、図6は一刃送りを一定としているため、解析上は、刃数Nが多いほど切り屑排出能力が多くなる結果となる。しかし、実際は刃数Nが多くなると工具費が高くなるだけでなく、チップポケットが小さくなるので、切屑詰まりを防止するために送り量を小さくする必要がある。したがって、実際は工具と被削材と加工条件に応じて刃数Nにも最大値が存在する。
図7には、Infについて、刃数Nを一定とした場合の半径方向切込量Rdと主軸回転数nとで整理したグラフが示されている。同図において、横軸が刃数Nを示し、縦軸(左軸)が主軸回転数n[rpm]を示す。半径方向切込量Rdが所定値以下(例えば34deg以下)では、Infのラインが主軸回転数n一定を示し、有効に最大の安定領域SP0が得られることが分かる。例えば、半径方向切込量Rd=34.4、主軸回転数n=33000[rpm]とすれば、大きな軸方向切込量(Inf=3.1)が得られることが分かる。
図8には、図7と同様のグラフに対して、一刃送りfzを一定とした場合の切り屑排出能力Mrrを示したグラフが示されている。切り屑排出能力Mrr(Material removal rate)は図6と同じ定義である。
図8から分かるように、半径方向切込量Rdが大きくても、主軸回転数nを大きくすれば、高い切り屑排出能力Mrrが得られる。同図に示されているように、半径方向切込量Rd=34.4、主軸回転数n=33000[rpm]とすれば、十分な切り屑排出能力Mrr=143540[cc/min]が得られることが分かる。また、同図から、Inf>1のエリアで切り屑排出能力Mrrが最大になることがわかる。
なお、半径方向切込量Rdに応じて切屑長さが変化するため、送り量にも影響があるが、半径方向切込量Rdの変化の影響のほうが大きいと考えられる。半径方向切込量Rdが大きいとモードカップリング型のびびり振動が発生する。切り屑排出能力Mrrのピークはモードカップリング型の影響が表れない最大の半径方向切込みの時である。したがって、半径方向切込量Rdは、振動特性に応じて切り屑排出能力にピークがある。
次に、図9A及び図9Bを用いて、上述した最大の安定領域SP0の考え方に基づいたエンドミル仕様設定方法、加工条件設定方法及びこれを用いた加工方法について説明する。
選定を開始する(ステップS1)と、先ず対象ワークと加工部位の設定を行う(ステップS2)。対象ワークとしては、例えばアルミ合金とされた航空機構造部品(キールビームや主翼のリブ、中央翼のセンターリブ等)である。加工部位としては、例えば厚さが100mm以上500mm以下、好ましくは100mm以上250mm以下とされた部材のポケット加工等である。
そして、ステップS3にて、対象工具のジオメトリ及び加工条件の制約を設定する。これらの制約としては、以下のものが挙げられる。
(1)ワーク・加工部位の制約
・工具(直径、突出し長さ、刃長)
・加工条件(軸方向切込量、半径方向切込量Rd)
(2)工具の制約
・刃数N
・加工条件(半径方向切込量Rd、1刃あたり送りfz)
(3)切り屑排出性
・刃数Nや半径方向切込量Rdに応じた1刃あたり送りfzの制限値
(4)加工機の制約
・加工条件(主軸最高回転数、最大送り速度、加工負荷)
(5)品質要求
・面粗度、ミスマッチ量、面の倒れ(輪郭度)
また、加工において必要とされる加工能率を設定する(目標加工能率設定ステップ)。加工能率(切削断面積×送り)として選択される条件としては、軸方向切込量、半径方向切込量Rd、主軸回転数、刃数N、1刃あたり送りfzなどが挙げられる。
次に、ステップS4にて、工具、ワークの振動特性の取得を行う(ステップS4)。対象とする構造(主軸側、ワーク側)のうち解析対象とする振動ピーク数Npを把握する。
Peak_Num=1は最大振動ピークに相当する。解析対象とする振動ピークとしては、例えば最大振動ピークの1/10以上の振動ピークのすべてを選定する。各振動ピークのmckパラメータ(質量、減衰率、剛性)を取得する。各振動ピークに対する解析データは、振動特性データに書き込む(ステップS5)。
ステップS6では、先ずPEAK_NUM=1すなわち最大振動ピークのときの振動特性データを読み込んで、安定限界線図を取得する(安定限界取得ステップ)。具体的には、図3の第1安定ポケットSP1のピークを取得する(安定ポケットのピーク取得ステップ)。
そして、ステップS7にて、例えば図3に示すように、第1安定ポケットSP1のピークを示すp(n)を近似した一次関数F1をフィッティングする(一次関数取得ステップ)。
ステップS8では、例えば図3に示すように、最大の安定領域SP0の近似式であるα次関数Fαをフィッティングする(α次関数取得ステップ)。
そして、ステップS9にて、刃数Nに応じた最大の安定領域SP0が有効に利用できる領域を把握する。具体的には、Inf>1となる領域を取得する。例えば、図5に示したグラフを得る。この領域は、符号Bを介して図9Bに示したステップS10にて振動ピーク別の解析結果データに書き込まれる。
図9Bに示すように、ステップS11では、ステップS3で決められた制約に応じて刃数Nが決定される。決定された刃数Nは、ステップS10にて振動ピーク別の解析結果データに書き込まれる。例えば、刃数Nは、エンドミル10の外径に応じて定まる最大の数として決定される(刃数決定ステップ)。同一の主軸回転数nで比較すると、エンドミル10の刃数Nは多いほど軸方向切込量が大きくなり高能率となる。
ステップS12では、ステップS3で決められた制約に応じて半径方向切込量Rdが決定される。決定された半径方向切込量Rdは、ステップS10にて振動ピーク別の解析結果データに書き込まれる。半径方向切込量Rdは、上記制約の下で、例えば図7や図8に基づいて最大となるように決定されるのが好ましい。
ステップS13では、ステップS3で決められた制約に応じて送り速度が決定される。決定された送り速度は、ステップS10にて振動ピーク別の解析結果データに書き込まれる。送り速度は、上記制約の下で、例えば図6や図8に基づいて、切削詰まりが生じない最大値として決定されるのが好ましい。
上述したステップS11の刃数N、ステップS12の半径方向切込量Rd及びステップS13の送り速度の決定は、これらの順番に限定されるものではない。
そして、ステップS14にて、ステップS6からステップS13まで行った振動ピークの数が最大数Npであるかを判断する。最大数Npに達しておらず演算する振動ピークが存在する場合は、ステップS15へと進み、次の振動ピーク(PEAK_NUM+1)の演算をステップS6から同様に行う。
ステップS14にて、ステップS6からステップS13まで行った振動ピークの数が最大数Npに達した場合は、ステップS16へ進む。ステップS16では、ステップS10で作成した振動ピーク別の解析結果データを読み込み、各振動ピークの解析結果を比較し全ての振動ピークに対応できる工具仕様(例えば刃数Nなど)と加工条件(例えば主軸回転数nなど)を選定して、終了する(ステップS17)。
図10A及び図10Bには、図9A及び図9Bの変形例として、エンドミル仕様設定方法、加工条件設定方法及びこれを用いた加工方法のフローチャートが示されている。
図10A及び図10Bに示したフローチャートは、図9A及び図9Bに示したフローチャートに対して、刃数Nの決定方法が異なる。具体的には、図9BのステップS11及びステップS12が異なる。したがって、図10Aは図9Aと同様である。以下の説明では、同様の説明は省略して相違点のみについて説明する。
図10Bに示すように、ステップS21では、刃数Nを仮定した上で、ステップS3の制約に応じて半径方向切込量Rdを決定する。したがって、ここでは刃数Nはまだ決定されていない。刃数Nは、ステップS22で決定される。ステップS22では、Inf>1を満たしかつ所定の制約の下で刃数Nを決定する。具体的には、設定された目標能率を満たす最小の刃数Nとする。これにより、エンドミル10の製作費を最小に抑えることができる。
図11及び図12には、実際の試験結果が示されている。
試験に用いたエンドミル10の刃数Nは20である。
図11は試験に用いたエンドミル10およびワークの振動特性を合成した振動特性を示し、左側の各グラフはエンドミル10を軸方向から見たときのx方向の振動を示し、右側の各グラフはy方向の振動を示す。本試験では、振動ピークNpは2つ確認され、2つの振動ピークが解析対象とされる。
図12の上のグラフは、主軸回転数n[rpm]に対する限界半径方向切込量Rd[deg]が示されている。図12の下のグラフは、主軸回転数n[rpm]に対するびびり振動数[Hz]が示されている。各グラフにおいて、加工試験結果が○、×、△で示されている。○はびびり振動が発生しなかったことを示し、×はびびり振動が発生したことを示す。△は○と×の間である。
図12から分かるように主軸回転数nが大きい領域ではびびり振動が発生していないことが確認された。例えば、主軸回転数nが33000rpm、半径方向切込量2mm(32.9deg)で、切り屑排出量2904cc/minに達したが,びびり振動が発生せず安定して加工することが確認できた。
以上説明した本実施形態の作用効果は以下の通りである。
エンドミル10の第1安定ポケットSP1のピークの軸方向切込量及び主軸回転数nと、軸方向切込量及び主軸回転数nが0とされた点を通る一次関数F1を得る。この一次関数F1から得られる軸方向切込量を、刃数Nが2以上の第1安定ポケットSP1のピークの軸方向切込量が超えることがない。したがって、一次関数F1から得られる軸方向切込量を超える加工条件が得られれば、高能率な加工が得られることになる。
エンドミル10の刃数Nに対して、第1安定ポケットSP1のピークよりも大きい主軸回転数nの領域で、びびり振動を回避する軸方向切込量を主軸回転数に対して表したα次関数(αは1より大)Fαを得る。発明者等が鋭意検討した結果、第1安定ポケットSP1のピークよりも大きい主軸回転数nで、すなわち固有振動数に対応する回転数よりも大きい主軸回転数nで、びびり振動を伴わないで安定に加工できる領域(最大の安定領域SP0)をα次関数Fαで表すことができることを見出した。αは1よりも大なので、軸方向切込量は主軸回転数nが増大するとともに増大する。したがって、小さい主軸回転数nではα次関数Fαが一次関数F1を下回っていたとしても、所定の主軸回転数nを境にα次関数Fαが一次関数F1を超えることになる。
α次関数Fαは、刃数Nごとに得る事ができ、刃数Nが増大すると所定値以上の主軸回転数nでの軸方向切込量が増大する。
そこで、得られたα次関数Fαから、所定値以上の主軸回転数n以上で、α次関数Fαから得られる軸方向切込量が一次関数F1から得られる軸方向切込量よりも大きくなる刃数Nを決定することで、高能率を実現できる刃数とされたエンドミル仕様とすることができる。
同一の主軸回転数nで比較すると、エンドミル10の刃数Nは多いほど軸方向切込量が大きくなり高能率となる。しかし、エンドミル10の製作上、加工できる刃数Nには上限がある。そこで、エンドミル10の外径Daに応じて定まる最大の刃数Nを用いることとした。最大の刃数Nとすることで、高能率を実現できる。
加工において必要とされる目標加工能率を満たす最小の刃数Nとすることで、エンドミル10の加工費を低く抑えることもできる。
一次関数F1から得られる軸方向切込量よりもα次関数Fαから得られる軸方向切込量の方が大きいときの主軸回転数nを用いることで、高能率な加工条件を設定することができる。
複数の次数の固有振動数ごとに第1安定ポケットSP1のピークを演算し、主軸回転数nを決定する。そして、すべての次数の主軸回転数nを満たすように主軸回転数nを決定することとした。これにより、複数の固有振動数に対応した安定領域を用いた加工条件を設定することができる。
以上説明した各実施形態に記載のエンドミル仕様設定方法、加工条件設定方法及びこれを用いた加工方法は、例えば以下のように把握される。
本開示の一態様に係るエンドミル仕様設定方法は、主軸に取り付けられたエンドミル(10)およびワークの振動特性に基づいて、びびり振動を回避する軸方向切込量を、主軸回転数(n)に対して取得する安定限界取得ステップと、前記振動特性から得られる固有振動数に対応し前記軸方向切込量が極大となる安定ポケット(SP1)のピークを、前記エンドミルおよびワークの振動特性ごとに取得する安定ポケットのピーク取得ステップと、前記エンドミルおよびワークの前記安定ポケットのピークの前記軸方向切込量及び前記主軸回転数と、前記軸方向切込量及び前記主軸回転数が0とされた点を通る一次関数(F1)を得る一次関数取得ステップと、前記エンドミルおよびワーク対して、前記安定ポケットのピークよりも大きい前記主軸回転数の領域で、びびり振動を回避する軸方向切込量を前記主軸回転数に対して表したα次関数(αは1より大)(Fα)を取得するα次関数取得ステップと、所定の前記主軸回転数以上で、前記α次関数から得られる前記軸方向切込量が前記一次関数から得られる前記軸方向切込量よりも大きくなる刃数を決定する刃数決定ステップと、を有する。
安定ポケットは、主軸に取り付けられたエンドミルの固有振動数に対応する。したがって、安定ポケットは、固有振動数の次数に対応して複数存在する。
エンドミルおよびワークの安定ポケット(例えば第1安定ポケットSP1)のピークの軸方向切込量及び主軸回転数と、軸方向切込量及び主軸回転数が0とされた点を通る一次関数を得る。この一次関数から得られる軸方向切込量を、刃数が2以上の安定ポケットのピークの軸方向切込量が超えることがない。したがって、一次関数から得られる軸方向切込量を超える加工条件が得られれば、高能率な加工が得られることになる。
エンドミルの刃数が2以上のときの刃数に対して、安定ポケットのピークよりも大きい主軸回転数の領域で、びびり振動を回避する軸方向切込量を主軸回転数に対して表したα次関数(αは1より大)を得る。発明者等が鋭意検討した結果、安定ポケットのピークよりも大きい主軸回転数で、すなわち固有振動数に対応する回転数よりも大きい主軸回転数で、びびり振動を伴わないで安定に加工できる領域をα次関数で表すことができることを見出した。αは1よりも大なので、軸方向切込量は主軸回転数が増大するとともに増大し、一次関数よりも大きくなる。したがって、小さい主軸回転数ではα次関数が一次関数を下回っていたとしても、所定の主軸回転数を境にα次関数が一次関数を超えることになる。
α次関数は、刃数ごとに得る事ができ、刃数が増大すると所定値以上の主軸回転数での軸方向切込量が増大する。
そこで、得られたα次関数から、所定値以上の主軸回転数以上で、α次関数から得られる軸方向切込量が一次関数から得られる軸方向切込量よりも大きくなる刃数を決定することで、高能率を実現できる刃数を得ることができる。
なお、一次関数を得るときに用いる安定ポケットのピークは、典型的には、最大の安定ポケットSP1が用いられる。
本開示の一態様に係るエンドミル仕様設定方法では、前記刃数は、前記エンドミルの外径に応じて定まる最大の数とされている。
同一の主軸回転数で比較すると、エンドミルの刃数は多いほど軸方向切込量が大きくなり高能率となる。しかし、エンドミルの製作上、加工できる刃数には上限がある。そこで、エンドミルの外径に応じて定まる最大の刃数を用いることとした。最大の刃数とすることで、高能率を実現できる。
刃数としては、例えば、8以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上とされる。
本開示の一態様に係るエンドミル仕様設定方法では、加工において必要とされる加工能率を設定する目標加工能率設定ステップと、前記α次関数取得ステップにおいて用いられる刃数は、前記目標加工能率を満たす最小の数とされている。
加工において必要とされる目標加工能率を満たす最小の刃数とすることで、エンドミルの加工費を低く抑えることができる。
本開示の一態様に係る加工条件設定方法は、主軸に取り付けられたエンドミルおよびワークの振動特性に基づいて、びびり振動を回避する軸方向切込量を、主軸回転数に対して取得する安定限界取得ステップと、前記振動特性から得られる固有振動数に対応し前記軸方向切込量が極大となる安定ポケットのピークを、前記エンドミルおよびワークの振動特性ごとに取得する安定ポケットのピーク取得ステップと、前記エンドミルおよびワークの前記安定ポケットのピークの前記軸方向切込量及び前記主軸回転数と、前記軸方向切込量及び前記主軸回転数が0とされた点を通る一次関数を得る一次関数取得ステップと、前記エンドミルおよびワークに対して、前記安定ポケットのピークよりも大きい前記主軸回転数の領域で、びびり振動を回避する軸方向切込量を前記主軸回転数に対して表したα次関数(αは1より大)を取得するα次関数取得ステップと、前記一次関数から得られる前記軸方向切込量よりも前記α次関数から得られる前記軸方向切込量の方が大きくなるように前記主軸回転数を決定する主軸回転数決定ステップと、を有する。
安定ポケットは、主軸に取り付けられたエンドミルの固有振動数に対応する。したがって、安定ポケットは、固有振動数の次数に対応して複数存在する。
エンドミルの安定ポケットの軸方向切込量及び主軸回転数と、軸方向切込量及び主軸回転数が0とされた点を通る一次関数を得る。この一次関数から得られる軸方向切込量を、刃数が2以上の安定ポケットの軸方向切込量が超えることがない。したがって、一次関数から得られる軸方向切込量を超える加工条件が得られれば、高能率な加工が得られることになる。
エンドミルの刃数が2以上のときの刃数に対して、安定ポケットのピークよりも大きい主軸回転数の領域で、びびり振動を回避する軸方向切込量を主軸回転数に対して表したα次関数(αは1より大)を得る。発明者等が鋭意検討した結果、安定ポケットのピークよりも大きい主軸回転数で、すなわち固有振動数に対応する回転数よりも大きい主軸回転数で、びびり振動を伴わないで安定に加工できる領域をα次関数で表すことができることを見出した。αは1よりも大なので、軸方向切込量は主軸回転数が増大するとともに増大する。したがって、小さい主軸回転数ではα次関数が一次関数を下回っていたとしても、所定の主軸回転数を境にα次関数が一次関数を超えることになる。
そこで、一次関数から得られる軸方向切込量よりもα次関数から得られる軸方向切込量の方が大きいときの主軸回転数を用いることで、高能率な加工が実現される。
本開示の一態様に係る加工条件設定方法では、前記主軸回転数決定ステップでは、複数の次数の固有振動数ごとに前記主軸回転数を決定し、すべてを満たす前記主軸回転数を決定する。
複数の次数の固有振動数ごとに安定ポケットのピークを演算し、主軸回転数を決定する。そして、すべての次数の主軸回転数を満たすように主軸回転数を決定することとした。これにより、複数の固有振動数に対応した安定領域を用いた加工が実現される。
本開示の一態様に係る加工条件設定方法では、前記α次関数取得ステップにおいて用いられる刃数は、前記エンドミルの外径に応じて定まる最大の数とされている。
同一の主軸回転数で比較すると、エンドミルの刃数は多いほど軸方向切込量が大きくなり高能率となる。しかし、エンドミルの製作上、加工できる刃数には上限がある。そこで、エンドミルの外径に応じて定まる最大の刃数を用いることとした。
刃数としては、例えば、8以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上とされる。
本開示の一態様に係る加工条件設定方法では、加工において必要とされる加工能率を設定する目標加工能率設定ステップと、前記α次関数取得ステップにおいて用いられる刃数は、前記目標加工能率を満たす最小の数とされている。
加工において必要とされる目標加工能率を満たす最小の刃数とすることで、エンドミルの加工費を低く抑えることができる。
本開示の一態様に係る加工方法は、上記のいずれかに記載の加工条件設定方法を用いて設定した条件で、被加工物の切削加工を行う。
5 主軸
10 エンドミル
14 シャフト
15 刃
Da (エンドミルの)外径
F1 一次関数
Fα α次関数
L (エンドミルの)突出し長さ
Rd 半径方向切込量
ω1 (エンドミル先端の)固有振動数
R1 第1安定回転数
SP0 最大の安定領域
SP1,SP2,SP3 安定ポケット

Claims (8)

  1. 主軸に取り付けられたエンドミルおよびワークの振動特性に基づいて、びびり振動を回避する軸方向切込量を、主軸回転数に対して取得する安定限界取得ステップと、
    前記振動特性から得られる固有振動数に対応し前記軸方向切込量が極大となる安定ポケットのピークを、前記エンドミルおよびワークの振動特性ごとに取得する安定ポケットのピーク取得ステップと、
    前記エンドミルおよびワークの前記安定ポケットのピークの前記軸方向切込量及び前記主軸回転数と、前記軸方向切込量及び前記主軸回転数が0とされた点を通る一次関数を得る一次関数取得ステップと、
    前記エンドミルおよびワークに対して、前記安定ポケットのピークよりも大きい前記主軸回転数の領域で、びびり振動を回避する軸方向切込量を前記主軸回転数に対して表したα次関数(αは1より大)を取得するα次関数取得ステップと、
    所定の前記主軸回転数以上で、前記α次関数から得られる前記軸方向切込量が前記一次関数から得られる前記軸方向切込量よりも大きくなる刃数を決定する刃数決定ステップと、
    を有するエンドミル仕様設定方法。
  2. 前記刃数は、前記エンドミルの外径に応じて定まる最大の数とされている請求項1に記載のエンドミル仕様設定方法。
  3. 加工において必要とされる加工能率を設定する目標加工能率設定ステップと、
    前記α次関数取得ステップにおいて用いられる刃数は、前記目標加工能率を満たす最小の数とされている請求項1に記載のエンドミル仕様設定方法。
  4. 主軸に取り付けられたエンドミルおよびワークの振動特性に基づいて、びびり振動を回避する軸方向切込量を、主軸回転数に対して取得する安定限界取得ステップと、
    前記振動特性から得られる固有振動数に対応し前記軸方向切込量が極大となる安定ポケットのピークを、前記エンドミルおよびワークの振動特性ごとに取得する安定ポケットのピーク取得ステップと、
    前記エンドミルおよびワークの前記安定ポケットのピークの前記軸方向切込量及び前記主軸回転数と、前記軸方向切込量及び前記主軸回転数が0とされた点を通る一次関数を得る一次関数取得ステップと、
    前記エンドミルおよびワークに対して、前記安定ポケットのピークよりも大きい前記主軸回転数の領域で、びびり振動を回避する軸方向切込量を前記主軸回転数に対して表したα次関数(αは1より大)を取得するα次関数取得ステップと、
    前記一次関数から得られる前記軸方向切込量よりも前記α次関数から得られる前記軸方向切込量の方が大きくなるように前記主軸回転数を決定する主軸回転数決定ステップと、
    を有する加工条件設定方法。
  5. 前記主軸回転数決定ステップでは、複数の次数の固有振動数ごとに前記主軸回転数を決定し、すべてを満たす前記主軸回転数を決定する請求項4に記載の加工条件設定方法。
  6. 前記α次関数取得ステップにおいて用いられる刃数は、前記エンドミルの外径に応じて定まる最大の数とされている請求項4又は5に記載の加工条件設定方法。
  7. 加工において必要とされる目標加工能率を設定する目標加工能率設定ステップと、
    前記α次関数取得ステップにおいて用いられる刃数は、前記目標加工能率を満たす最小の数とされている請求項4又は5に記載の加工条件設定方法。
  8. 請求項4から7のいずれかに記載の加工条件設定方法を用いて設定した条件で、被加工物の切削加工を行う加工方法。
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