以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る高周波電源装置100aの構成例を示す回路図である。高周波電源装置100aは、例えば同軸ケーブル及びインピーダンス整合器を介して、プラズマ処理装置のプラズマチャンバに高周波電力を供給するものである。高周波電源装置100aは、高周波電力を生成して負荷RLに出力する高周波生成部1と、該高周波生成部1による高周波電力の出力をオン/オフに制御する制御部2と、高周波生成部1及び負荷RLの間に直列に接続された高周波抑止部10aとを備える。本実施形態1では、高周波電力の周波数が数MHz程度であることを想定しているが、これに限定されるものではなく、例えば13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz等の工業用のRF帯(Radio Frequency )の周波数であってもよい。
高周波電源装置100aは、また、高周波生成部1の出力端であるトランジスタU1のソース及びトランジスタU2のドレインの接続点に直流カット用のキャパシタC02を介して接続されたL型のフィルタ回路F1と、該フィルタ回路F1の出力側に絶縁トランスT1を介して接続されたπ型のフィルタ回路F2とを備える。絶縁トランスT1を削除してフィルタ回路F1の出力側とフィルタ回路F2の入力側とを直結してもよい。フィルタ回路F2の出力側には、高周波抑止部10a、方向性結合器3及び同軸ケーブルCx1を介して負荷RLが接続されている。本実施形態1では、高周波生成部1から負荷RLに至るまでの回路の特性インピーダンスを50Ωとするが、これに限定されるものではない。
制御部2は、不図示のCPU(Central Processing Unit )を有し、予めROM(Read Only Memory )に記憶された制御プログラムに従って、高周波生成部1及び高周波抑止部10aに対する制御を行う。CPUを用いずにFPGA(Field Programmable Gate Array )又はロジックICによって制御部を構成してもよい。
高周波生成部1は、直流電源DC1の両端に接続されてFET(電界効果トランジスタ)のハーフブリッジを構成するトランジスタU1,U2と、高周波電力の信号源となる高周波信号発生器S1,S2とを有する。直流電源DC1の両端には、バイパスコンデンサC01が接続されている。トランジスタU1,U2は、例えばSi(シリコン)、GaN(Gallium Nitride )、SiC(Silicon Carbide )等の半導体材料を含む。トランジスタU1,U2は、Nch型のFETに限定されず、Pch型のFET又はHEMT(High Electron Mobility Transistor )であってもよい。
トランジスタU1のドレインは、直流電源DC1のプラス側に接続されている。トランジスタU2のソースは、共通電位である直流電源DC1のマイナス側に接続されている。トランジスタU1のゲート・ソース間には、高周波信号発生器S1から抵抗器R1を介して高周波信号が印加される。トランジスタU2のゲート・ソース間には、高周波信号発生器S2から抵抗器R2を介して高周波信号が印加される。
高周波信号発生器S1,S2それぞれが出力する高周波信号は、位相が互いに反転している。従って、トランジスタU1,U2それぞれのゲート・ソース間に高周波信号発生器S1,S2から高周波信号が印加された場合、トランジスタU1,U2が交互にスイッチングして高周波電力が生成される。本実施形態1では、生成される高周波電力の大きさが約2kWであるがこれに限定されるものではない。
高周波信号発生器S1,S2は、制御部2によって高周波信号の出力が周期的にオン/オフされる。制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力を周期的にオン/オフすることにより、高周波生成部1による高周波電力の出力が周期的にオン/オフに制御される。ここでは、高周波電力の出力がオンに制御される期間及びオフに制御される期間を共に20μsとするが、これに限定されるものではない。
フィルタ回路F1は、インダクタL1及びキャパシタC1をL型に接続したローパスフィルタである。フィルタ回路F2は、キャパシタC2,C3及びインダクタL2をπ型に接続したローパスフィルタである。これらのフィルタ回路の構成はL型及びπ型に限定されるものでもない。
方向性結合器3は、高周波電源装置100aから負荷RLに向けて進行する進行波と、負荷RLにて反射した反射波とを分離するためのものである。方向性結合器3を用いることにより、後述する進行波電力及び進行波電圧を計測することができる。
方向性結合器3に同軸ケーブルCx1を介して接続された負荷RLは、前述のインピーダンス整合器及びプラズマチャンバを模擬しており、抵抗器Ro及びキャパシタCoの直列回路で表した。
同軸ケーブルCx1は、1/8波長に相当する長さを有し、高周波電源装置100aから負荷RL側を見たインピーダンスが5Ωとなるようにしている。この場合の反射係数の位相角は180度であり、VSWR(Voltage Standing Wave Ratio )は10である。
本実施形態1では、同軸ケーブルCx1の入力側から上記負荷RL側を見たインピーダンスが純抵抗の5Ωである場合について説明するが、このインピーダンスが5Ω以外の複素インピーダンスであってもよいし、同軸ケーブルCx1より負荷RL側の回路を、5Ωの純抵抗又は5Ωと異なる純抵抗に置き換えてもよい。
高周波抑止部10aは、フィルタ回路F2及び方向性結合器3の間に直列に接続された抵抗器Rdと、Nch型のFETであるトランジスタU11,U12が逆直列に接続されたスイッチ回路SW11(スイッチに相当)と、トランジスタU11,U12を駆動する駆動信号を発生する駆動信号発生器11とを有する。スイッチ回路SW11は、抵抗器Rdと並列に接続されている。本実施形態1では、抵抗器Rdの抵抗値は100Ωであるがこれに限定されるものではない。トランジスタU11,U12は、Si、GaN、SiC等の半導体材料を含み、Pch型のFET等であってもよい。
トランジスタU11,U12はゲート同士及びソース同士がそれぞれ接続されている。トランジスタU11,U12のゲート・ソース間には、共通の抵抗器R12が接続されている。トランジスタU11,U12のゲート・ソース間には、駆動信号発生器11から抵抗器R11を介して矩形状の駆動信号が印加される。
駆動信号発生器11は、絶縁回路12を介して制御部2と接続されている。絶縁回路12は、例えばトランス、デジタルアイソレータ等の絶縁部品を用いて共通電位を分離しつつ制御部2からの制御信号を駆動信号発生器11に通過させる。制御部2からの制御信号の周期的なオン/オフに応じて、駆動信号発生器11からの駆動信号が周期的にオン/オフした場合、スイッチ回路SW11が周期的にオン/オフするようになっている。
上述の構成において、制御部2は、高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力を周期的にオン/オフすることによって高周波生成部1による高周波電力の出力を周期的にオン/オフに制御する。この制御と同期して、制御部2は、駆動信号発生器11に対する制御信号を周期的にオン/オフすることにより、駆動信号発生器11からの駆動信号を周期的にオン/オフする。この駆動信号が周期的にオン/オフした場合、スイッチ回路SW11が周期的にオン/オフする。
即ち、制御部2は、高周波生成部1による高周波電力の出力をオフに制御する場合、駆動信号発生器11に対する制御信号をオフする。これにより、スイッチ回路SW11がオフするため、フィルタ回路F2の出力側と方向性結合器3との間に抵抗器Rdが挿入されて、負荷RL側に対する高周波電力の出力が抑止される。
ここで、負荷RL側に対する高周波電力の出力がオン/オフに制御される場合における高周波電源装置100aの動作について、シミュレーションの結果を説明する。図2は、実施形態1に係る高周波電源装置100aの各部の波形を示す波形図である。図3は、高周波抑止部10aで抵抗器Rdが常時バイパスされた場合の出力波形を示す波形図である。図2に示す5つの波形図は、何れも同一の時間軸を横軸にしてあり、上段から順に、スイッチ回路SW11の(両端の)電圧、スイッチ回路SW11の電流、進行波電力、進行波電圧、及び高周波信号発生器S1,S2の出力状態を示す。図3に示す3つの波形図は、何れも同一の時間軸を横軸にしてあり、上段から順に、進行波電力、進行波電圧、及び高周波信号発生器S1,S2の出力状態を示す。
図2に示されるように、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオフからオンにする場合、方向性結合器3の出力側における進行波電力及び進行波電圧は、主にフィルタ回路F1の過渡特性により、立ち上がりが数μs遅延する。この場合、スイッチ回路SW11がオンしているため、スイッチ回路SW11には進行波電圧に略比例する進行波電流が流れる
一方、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオンからオフにする場合、方向性結合器3の出力側における進行波電力及び進行波電圧は、1μs以内に立ち下がる。この立ち下がり時間が、立ち上がり時間の数μsより短いのは、高周波抑止部10aを通過する進行波電力及び進行波電圧が抵抗器Rdによって抑止されるためである。この場合、スイッチ回路SW11がオフしているため、スイッチ回路SW11には進行波電流によって抵抗器Rdに生じる電圧が印加される。
図3に移って、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオフからオンにする場合、進行波電力及び進行波電圧の立ち上がりが数μs遅延するのは図2の場合と同様である。一方、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオンからオフにする場合、高周波抑止部10aにて抵抗器Rdがバイパスされているため、進行波電力及び進行波電圧の立ち下がりが、立ち上がりと同様に数μs遅延する。図2ではこの立ち下がり時間が1μs以内に改善されているため、実施形態1に係る高周波電源装置100aの効果が顕著に示されていると言える。
次に、抵抗器Rdの抵抗値を変化させた場合の影響について説明する。図4は、抵抗器Rdの抵抗値と、進行波電力等の立ち下がり時間及びスイッチ回路SW11の最大電圧との関係を示す図表である。一般的に言う立ち下がり時間は、振幅が90%から10%に低下するまでの時間であるが、ここでは振幅が100%から略0%に低下するまでの時間とする。図4では、抵抗器Rdの抵抗値が1Ω、10Ω、25Ω、100Ω及び1kΩの場合について、進行波電力の立ち下がり時間及びスイッチ回路SW11の最大電圧(p-p)をシミュレーションによって比較した。
図4によれば、抵抗器Rdの抵抗値が1Ω、10Ω、25Ω、100Ω及び1kΩと増大するに連れて、進行波電力の立ち下がり時間が4.2μs、2.7μs、1.7μs、0.7μs及び0.5μsと短縮化され、スイッチ回路SW11の最大電圧が32V、264V、548V、1394V(図2最上段参照)及び2640Vと増大する。このように、進行波電力の立ち下がり時間とスイッチ回路SW11の最大電圧とはトレードオフの関係にある。
進行波電力の立ち下がり時間とスイッチ回路SW11の最大電圧とは、トランジスタU11,U12の出力容量(Coss)にも依存する。即ち、抵抗器Rdに流れるべき進行波電流は、スイッチ回路SW11にも分流するから、トランジスタU11,U12の出力容量が大きいほど、進行波電力の立ち下がり時間の短縮効果が減殺され、スイッチ回路SW11の最大電圧が低減される。従って、進行波電力の立ち下がり時間を短縮するには、抵抗器Rdの抵抗値を、高周波電力の周波数におけるトランジスタU11,U22の出力容量のインピーダンスの絶対値と同等以下にすることが妥当である。
図4に結果を示すシミュレーションでは、トランジスタU11,U12の出力容量を90~200pFとした。例えばこの出力容量を150pFとすると、スイッチ回路SW11がオフである場合、進行波電力の周波数におけるスイッチ回路SW11のインピーダンスは330Ω程度となる。このため、図1に示す回路で進行波電力の立ち下がり時間を短縮するには、抵抗器Rdの抵抗値を330Ω以下とすることが妥当であると言える。なお、図4では、抵抗器Rdの抵抗値が100Ω以上である場合に、進行波電力の立ち下がり時間の低減効果が薄れることが示されている。
一方、抵抗器Rdの抵抗値が小さ過ぎると進行波電力の立ち下がり時間を短縮する効果が期待できないため、ある程度の大きさの抵抗値が必要である。図4より、抵抗器Rdの抵抗値が1Ωである場合の進行波電力の立ち下がり時間の低減効果は、抵抗値が0Ωである図3の場合とほぼ同等である。従って、図4より、例えば進行波電力の立ち下がり時間を6割程度短縮するには、抵抗器Rdの抵抗値を25Ω以上とすることが好ましい。換言すれば、抵抗器Rdの抵抗値は、回路の特性インピーダンスの半分の値以上とすることが好ましい。
トランジスタU11,U12それぞれには、スイッチ回路SW11の最大電圧(p-p)の略半分の最大電圧が印加されるから、例えば抵抗器Rdの抵抗値が100Ωである場合は、1394Vの半分の印加電圧に十分耐える最大定格電圧(Vdss)を有するトランジスタを用いればよい。なお、トランジスタU11,U12のドレイン電流の最大定格は、進行波電力に略比例する進行波電流より十分大きい値である必要がある。
以上のように本実施形態1によれば、高周波生成部1が生成して負荷RLに出力する高周波電力を制御部2がオフに制御する場合、高周波生成部1及び負荷RLの間に接続された高周波抑止部10aに含まれるスイッチ回路SW11を制御部2がオフする。これにより、スイッチ回路SW11と並列に接続された抵抗器Rdが高周波生成部1及び負荷RLの間に直列的に接続される。従って、高周波電力の出力を速やかにオフさせることが可能となる。
また、実施形態1によれば、FETであるトランジスタU11,U22を突き合わせてスイッチ回路SW11が構成されている。これにより、高周波生成部1及び負荷RLの間に接続された抵抗器Rdをバイパスするスイッチ回路SW11を好適に且つ高速にオン/オフすることができる。
更に、実施形態1によれば、高周波生成部1で生成した高周波のスイッチング信号を、LCフィルタであるフィルタ回路F1,F2で高調波を抑止して高周波抑止部10aに入力する。従って、フィルタ回路F1,F2で処理されて劣化した高周波電力の立ち下がり特性を高周波抑止部10aにて改善することができる。
(実施形態2)
実施形態1は、フィルタ回路F2及び方向性結合器3の間に抵抗器Rdが直列に接続される形態であるのに対し、実施形態2は、フィルタ回路F2及び方向性結合器3の間に抵抗器RdがトランスT11を介して接続される形態である。図5は、実施形態2に係る高周波電源装置100bの構成例を示す回路図である。
高周波電源装置100bは、高周波生成部1と、制御部2と、フィルタ回路F1と、絶縁トランスT1と、フィルタ回路F2と、該フィルタ回路F2及び方向性結合器3の間に直列に接続された高周波抑止部10bとを備える。即ち、高周波電源装置100bは、高周波電源装置100aにおける高周波抑止部10aを高周波抑止部10bに置き換えたものである。高周波抑止部10bは、高周波抑止部10aにトランスT11を加え、絶縁回路12を削除したものである。
高周波抑止部10bが有するトランスT11は、一次巻線がフィルタ回路F2及び方向性結合器3の間に直列に接続されており、二次巻線が抵抗器Rdの両端に接続されている。また、駆動信号発生器11は、直接的に制御部2と接続されている。これは、制御部2と駆動信号発生器11とで共通電位を分離する必要がないからである。本実施形態2におけるトランスT11の巻数比は2であり、抵抗器Rdの抵抗値は25Ωであるが、これらに限定されるものではない。その他、実施形態1に対応する箇所には同様の符号を付してその説明を省略する。
トランスT11の巻数比が2であるから、抵抗器Rdを一次側(即ちフィルタ回路F2及び方向性結合器3の間の伝送路側)から見たインピーダンスは、実際の抵抗値の4倍である100Ωとなって、実施形態1の場合と同等になる。一方、抵抗器Rdの両端の電圧、即ちトランスT11の二次側の電圧は、一次側の電圧の半分となるから、スイッチ回路SW11がオフである場合にスイッチ回路SW11に印加される電圧は、実施形態1の場合の半分になる。但し、スイッチ回路SW11がオンである場合にスイッチ回路SW11に流れる電流は、実施形態1の場合の2倍になるから、トランジスタU11,U12のドレイン電流の最大定格に、電流の増加分だけの余裕が必要となる。
ここで、負荷RL側に対する高周波電力の出力がオン/オフに制御される場合における高周波電源装置100bの動作について、シミュレーションの結果を説明する。図6は、実施形態2に係る高周波電源装置100bの各部の波形を示す波形図である。図6に示す5つの波形図は、何れも同一の時間軸を横軸にしてあり、上段から順に、スイッチ回路SW11の電圧、スイッチ回路SW11の電流、進行波電力、進行波電圧、及び高周波信号発生器S1,S2の出力状態を示す。
図6に示す波形と、実施形態1の図2に示す波形とを比較すると、進行波電力及び進行波電圧の波形は、何れも高周波抑止部10bの外側における物理量の波形であるため、概ね同等である。これに対し、スイッチ回路SW11の電圧及びスイッチ回路SW11の電流の波形は、トランスT11を介した高周波抑止部10bの内部の物理量の波形であるため、図6と図2とで振幅が異なっている。具体的に実施形態1の図2に示す場合と比較して、スイッチ回路SW11の電圧は1/2に低減されており、スイッチ回路SW11の電流は2倍に増大している。
以上のように本実施形態2によれば、高周波抑止部10bに含まれるトランスT11の一次巻線が高周波生成部1及び負荷RLの間に直列に接続され、二次巻線に抵抗器Rd及びスイッチ回路SW11の並列回路が接続されている。これにより、スイッチ回路SW11に印加される高周波電圧がトランスT11の「1/巻数比」に低減され。スイッチ回路SW11に流れる高周波電流がトランスT11の「巻数比」倍に増大する。従って、進行波電力の立ち下がり特性を損なうことなしに、トランジスタU11,U12に印加される電圧を「1/巻数比」に低減することが可能となる。また、高周波抑止部10bと制御部2とで共通電位を分離する必要がないため、制御部2による高周波抑止部10bの制御が容易となる。
(実施形態3)
実施形態1は、高周波生成部1が1つであって電力合成が不要な形態であるのに対し、実施形態3は、2つの高周波生成部1,1からの高周波電力を合成する形態である。図7は、実施形態3に係る高周波電源装置100cの構成例を示す回路図である。
高周波電源装置100cは、2つの高周波生成部1,1と、制御部2と、高周波生成部1,1それぞれの出力端にキャパシタC02,C02を介して接続された2つのフィルタ回路F1,F1と、フィルタ回路F1,F1の出力側にて高周波電力を合成する電力合成器4と、フィルタ回路F2と、高周波抑止部10aとを備える。即ち、高周波電源装置100cは、実施形態1に係る高周波電源装置100aに、もう1組の高周波生成部1及びフィルタ回路F1と、電力合成器4とを加えたものである。電力合成器の構成を変えることにより、2n個(nは2以上の整数)の高周波生成部1からの高周波電力が合成されるようにしてもよい。
電力合成器4は、巻数比が1のトランスT4と、該トランスT4の一方の巻線及び他方の巻線の一端(巻初め記号側)同士及び他端同士にそれぞれ接続されたキャパシタC41及びC42と、トランスT4の他方の巻線の一端及び共通電位の間に接続された抵抗器R4とを有する。電力合成器4は、クワドラチャ合成器と称されるものである。
トランスT4の一方の巻線の一端は、一方の高周波生成部1に対応する一方のフィルタ回路F1の出力側に接続されている。トランスT4の他方の巻線の他端は、他方の高周波生成部1に対応する他方のフィルタ回路F1の出力側に接続されている。トランスT4の一方の巻線の他端は、直流カット用のキャパシタC03を介してフィルタ回路F2の入力側に接続されている。
電力合成器4は、上記の構成により、一方のフィルタ回路F1からの電力と、他方のフィルタ回路F1からの電力とを合成し、合成した電力をキャパシタC03を介してフィルタ回路F2に出力する。一方のフィルタ回路F1からの電力に対して、他方のフィルタ回路F1からの電力の位相が90度遅れている場合は、抵抗器R4で消費される電力がゼロとなり、理想的にはフィルタ回路F1及びF2それぞれからの電力が無損失で合成される。このような無損失の合成を行うために、一方の高周波生成部1が有する高周波信号発生器S1からの高周波信号に対して、他方の高周波生成部1が有する高周波信号発生器S1からの高周波信号の位相が90度だけ遅れるようになっている。本実施形態1では、合成された高周波電力の大きさが約2.5kWであるがこれに限定されるものではない。
上述の構成において、制御部2は、2組の高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力を同時的に且つ周期的にオン/オフすることによって高周波生成部1,1による高周波電力の出力を周期的にオン/オフに制御する。この制御と同期して、制御部2は、駆動信号発生器11に対する制御信号を周期的にオン/オフすることにより、駆動信号発生器11からの駆動信号を周期的にオン/オフする。ここでは、高周波電力の出力がオンに制御される期間及びオフに制御される期間を共に3μsとするが、これに限定されるものではない。
即ち、制御部2は、高周波生成部1,1による高周波電力の出力をオフに制御する場合、駆動信号発生器11に対する制御信号をオフする。これにより、スイッチ回路SW11がオフするため、フィルタ回路F2の出力側と方向性結合器3との間に抵抗器Rdが挿入されて、負荷RL側に対する高周波電力の出力が抑止されるのは、実施形態1の場合と同様である。本実施形態3にあっては、抵抗器Rdの抵抗値が200Ωであるがこれに限定されるものではない。
ここで、負荷RL側に対する高周波電力の出力がオン/オフに制御される場合における高周波電源装置100cの動作について、シミュレーションの結果を説明する。図8は、実施形態3に係る高周波電源装置100cの出力波形を示す波形図である。図9は、高周波抑止部10aで抵抗器Rdが常時バイパスされた場合の出力波形を示す波形図である。図8及び9に示す3つの波形図は、何れも同一の時間軸を横軸にしてあり、上段から順に、進行波電力、進行波電圧、及び高周波信号発生器S1,S2の出力状態を示す。
図8に示すように、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオフからオンにする場合、方向性結合器3の出力側における進行波電力及び進行波電圧は、立ち上がりが約1μs遅延する。この遅延時間が、実施形態1の図1及び2に示す場合の遅延時間より短いのは、フィルタ回路F1,F1の過渡特性が、電力合成器4によって改善されるためであると考えられる。実際、シミュレーションによれば、方向性結合器3の出力側における進行波電力がオン/オフに切り換わる場合、電力合成器4に含まれる抵抗器R4に電流が流れて、立ち上がり特性及び立ち下がり特性が改善される効果を奏することが推測される。
一方、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオンからオフにする場合、方向性結合器3の出力側における進行波電力及び進行波電圧は、約0.3μsで立ち下がる。この立ち下がり時間が、立ち上がり時間の1μsより短いのは、高周波抑止部10aを通過する進行波電力及び進行波電圧が抵抗器Rdによって抑止されるためである。
図9に移って、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオフからオンにする場合、進行波電力及び進行波電圧の立ち上がりが約1μs遅延するのは図8の場合と同様である。一方、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオンからオフにする場合、高周波抑止部10aにて抵抗器Rdがバイパスされているため、進行波電力及び進行波電圧の立ち下がりが、約0.6μs遅延する。図8ではこの立ち下がり時間が約0.3μsに改善されているため、実施形態3に係る高周波電源装置100cの効果が示されていると言える。
以上のように本実施形態3によれば、2つの高周波生成部1,1からの高周波電力を電力合成器4で合成して高周波抑止部10aに入力する。従って、2倍に増大させた高周波電力の立ち下がり特性を高周波抑止部10aにて改善することができる。
(実施形態4)
実施形態3は、2つの高周波生成部1,1からの高周波電力を電力合成器4で合成する形態であるのに対し、実施形態4は、2つの高周波生成部1,1からの高周波電力を他の電力合成器5で合成する形態である。図10は、実施形態4に係る高周波電源装置100dの構成例を示す回路図である。
高周波電源装置100dは、2つの高周波生成部1,1と、制御部2と、高周波生成部1,1それぞれの出力端にキャパシタC02,C02を介して接続された2つのフィルタ回路F1,F1と、フィルタ回路F1,F1の出力側にて高周波電力を合成する電力合成器5と、フィルタ回路F2と、高周波抑止部10aとを備える。即ち、高周波電源装置100cは、実施形態1に係る高周波電源装置100aに、もう1組の高周波生成部1及びフィルタ回路F1と、電力合成器5とを加えたものである。なお、負荷RLは同軸ケーブルCx1を含めて5Ωの抵抗器Rooに置き換えてあるが、方向性結合器3よりも負荷RL側の構成を図1,5,7と同様にしてもよい。
電力合成器5は、巻数比が1のトランスT5と、該トランスT5の一方の巻線の一端(巻初め記号側)及び他方の巻線の一端(巻初め記号側の反対側)の間に接続された抵抗器R5とを有する。抵抗器R4の抵抗値は、特性インピーダンスの2倍にあたる100Ωである。トランスT5は、一方の巻線の他端と、他方の巻線の他端とが接続されている。
トランスT5の一方の巻線の一端は、一方の高周波生成部1に対応する一方のフィルタ回路F1の出力側に接続されている。トランスT5の他方の巻線の一端は、他方の高周波生成部1に対応する他方のフィルタ回路F1の出力側に接続されている。トランスT5の一方の巻線の他端及び他方の巻線の他端の接続点は、直流カット用のキャパシタC03を介してフィルタ回路F2の入力側に接続されている。電力合成器5による電力の合成については、特許文献3に詳しい。
電力合成器5は、上記の構成により、一方のフィルタ回路F1からの電力と、他方のフィルタ回路F1からの電力とを合成し、合成した電力をキャパシタC03を介してフィルタ回路F2に出力する。一方のフィルタ回路F1からの電力と、他方のフィルタ回路F1からの電力とで位相差が0度である場合は、抵抗器R5で消費される電力がゼロとなり、理想的にはフィルタ回路F1及びF2それぞれからの電力が無損失で合成される。このような無損失の合成を行うために、一方の高周波生成部1が有する高周波信号発生器S1からの高周波信号と、他方の高周波生成部1が有する高周波信号発生器S1からの高周波信号とで位相差が0度となるようにしてある。
上述の構成において、制御部2は、2組の高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力を同時的に且つ周期的にオン/オフすることによって高周波生成部1,1による高周波電力の出力を周期的にオン/オフに制御する。この制御と同期して、制御部2は、駆動信号発生器11に対する制御信号を周期的にオン/オフすることにより、駆動信号発生器11からの駆動信号を周期的にオン/オフする。ここでは、高周波電力の出力がオンに制御される期間及びオフに制御される期間をそれぞれ4μs及び6μsとするが、これに限定されるものではない。
即ち、制御部2は、高周波生成部1,1による高周波電力の出力をオフに制御する場合、駆動信号発生器11に対する制御信号をオフする。これにより、スイッチ回路SW11がオフするため、フィルタ回路F2の出力側と方向性結合器3との間に抵抗器Rdが挿入されて、負荷RL側に対する高周波電力の出力が抑止されるのは、実施形態1及び3の場合と同様である。抵抗器Rdの抵抗値は、実施形態3の場合と同様に200Ωである。
ここで、負荷RL側に対する高周波電力の出力がオン/オフに制御される場合における高周波電源装置100dの動作について、シミュレーションの結果を説明する。図11は、実施形態4に係る高周波電源装置100dの出力波形を示す波形図である。図12は、高周波抑止部10aで抵抗器Rdが常時バイパスされた場合の出力波形を示す波形図である。図11及び12に示す3つの波形図は、何れも同一の時間軸を横軸にしてあり、上段から順に、進行波電力、進行波電圧、及び高周波信号発生器S1,S2の出力状態を示す。
図11に示すように、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオフからオンにする場合、方向性結合器3の出力側における進行波電力及び進行波電圧は、立ち上がりが約2~4μs遅延する。この遅延時間が、実施形態3の図8及び9に示す場合の遅延時間より長いのは、電力合成器4を用いた場合よりも、フィルタ回路F1,F1の過渡特性を改善する効果が少ないためであると考えられる。実際、シミュレーションによれば、方向性結合器3の出力側における進行波電力がオン/オフに切り換わる場合、電力合成器5に含まれる抵抗器R5に流れる電流が、電力合成器4の抵抗器R4に流れる電流よりも少なく、立ち上がり特性及び立ち下がり特性が改善される効果が少ないことが推測される。
一方、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオンからオフにする場合、方向性結合器3の出力側における進行波電力及び進行波電圧は、約1μsで立ち下がる。この立ち下がり時間が、立ち上がり時間の2~4μsより短いのは、高周波抑止部10aを通過する進行波電力及び進行波電圧が抵抗器Rdによって抑止されるためである。
図12に移って、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオフからオンにする場合、進行波電力及び進行波電圧の立ち上がりが約2~4μs遅延するのは図11の場合と同様である。一方、制御部2が高周波信号発生器S1,S2からの高周波信号の出力をオンからオフにする場合、高周波抑止部10aにて抵抗器Rdがバイパスされているため、進行波電力及び進行波電圧の立ち下がりが、約3~4μs遅延する。図11ではこの立ち下がり時間が約1μsに改善されているため、実施形態4に係る高周波電源装置100dの効果が示されていると言える。
以上のように本実施形態4によれば、2つの高周波生成部1,1からの高周波電力を電力合成器5で合成して高周波抑止部10aに入力する。従って、2倍に増大させた高周波電力の立ち下がり特性を高周波抑止部10aにて改善することができる。