以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。図面において、同等の構成要素には同等の符号を付す。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。各図に示されるX,Y及びZは、互いに直交する3つの座標軸を意味する。各座標軸が示す方向は、全図に共通する。
(基板)
本実施形態に係る基板は、図1及び図2に示される。図2は、図1に示される基板10のZX面方向における断面である。換言すれば、図2は、基板10の厚さ方向Zに平行な基板10の断面であり、基板10の表面(XY面方向)に対して垂直な基板10の断面である。基板10の厚さ方向Zとは、基板10の表面からの深さ方向と言い換えられてよい。
図2に示されるように、基板10は、第一層L1と、第二層L2と、第一層L1及び第二層L2の間に挟まれた中間層Lmと、を備える。第一層L1は中間層Lmに直接している。第二層L2も中間層Lmに直接接している。
第一層L1は、結晶質の窒化アルミニウム(AlN)を含む。第一層L1は、結晶質の窒化アルミニウムのみからなっていてよい。第一層L1は、窒化アルミニウムの単結晶のみからなっていてよい。ただし、第一層L1は、窒化アルミニウムの結晶性が損なわれない限りにおいて、アルミニウム及び窒素以外の元素(不純物等)を含んでよい。例えば、第一層L1において中間層Lmに面する領域は、窒化アルミニウムの結晶性を損なわない程度の微量の酸素を含んでよい。第一層L1において中間層Lmに面する領域は、窒化アルミニウムの結晶性を損なわない程度の微量の添加元素Mを含んでよい。添加元素Mの詳細は、後述される。
第二層L2は、結晶質のα‐アルミナ(α‐Al2O3)を含む。α‐アルミナは、コランダム構造を有する酸化アルミニウムと言い換えてよい。第二層L2は、結晶質のα‐アルミナのみからなっていてよい。第二層L2は、サファイアのみからなっていてよい。サファイアとは、α‐アルミナの単結晶と言い換えてもよい。第二層L2は、α‐アルミナの結晶性が損なわれない限りにおいて、アルミニウム及び酸素以外の元素(不純物等)を含んでよい。例えば、第二層L2において中間層Lmに面する領域は、α‐アルミナの結晶性を損なわない程度の微量の窒素を含んでよい。第二層L2において中間層Lmに面する領域は、α‐アルミナの結晶性を損なわない程度の微量の添加元素Mを含んでよい。
中間層Lmは、アルミニウム(Al)、窒素(N)、酸素(O)及び添加元素Mを含む。添加元素Mは、希土類元素、アルカリ土類元素及びアルカリ金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種である。中間層Lmは、Al、N、O及びMのみからなっていてよい。中間層Lmは、Al、N、O及びMに加えて、ごく微量の他の元素(例えば不純物)を更に含んでもよい。中間層Lmにおける添加元素Mの濃度の最大値は、0.1質量ppm以上200質量ppm以下である。中間層Lmが複数種の添加元素Mを含む場合、中間層Lmにおける添加元素Mの濃度とは、中間層Lmに含まれる複数種の添加元素Mの濃度の合計である。以下に記載の添加元素含有領域mとは、中間層Lmにおける添加元素Mの濃度が最大である領域である。換言すれば、添加元素含有領域mは、中間層Lmにおいて添加元素Mの濃度が0.1質量ppm以上200質量ppm以下である領域である。中間層Lmにおける添加元素Mの濃度は不均一であってよく、中間層Lmの一部が添加元素含有領域mであってよい。中間層Lmにおける添加元素Mの濃度は均一であってもよく、中間層Lmの全体が添加元素含有領域mであってもよい。中間層Lmのうち添加元素含有領域m以外の部分における添加元素Mの含有量の合計は、0質量ppm以上0.1質量ppm未満であってよい。
α‐アルミナ(サファイア)及びAlNは熱膨張率及び格子定数において異なる。したがって、中間層Lmがない場合、基板10の製造過程におけるサファイア基板及びAlN層の加熱により、応力が第一層L1及び第二層L2の界面に作用し易い。応力が第一層L1及び第二層L2の界面に作用することにより、サファイア基板及びAlN層は容易に割れてしまう。割れは、応力が集中する界面において形成され易い。一方、中間層Lmが第一層L1及び第二層L2の間に配置される場合、第一層L1及び第二層L2が直接接する界面がない。つまり基板10は、中間層Lmを備えない従来の基板とは異なり、応力が集中し易い界面を有していない。そして、中間層Lmの少なくとも一部が添加元素含有領域mであるため、基板10に作用する応力は、中間層Lm中の添加元素含有領域mにおいて分散し易い。中間層Lmの全体が添加元素含有領域mである場合、基板10に作用する応力は、中間層Lm全体において分散し易い。結晶格子のスケールにおいては、α‐アルミナ及びAlNの結晶構造に違いに因る応力が中間層Lmに作用する。中間層Lmが添加元素Mを含むことにより、結晶格子が応力によって容易に変形し、応力が緩和される。結晶格子のスケールにおける応力の緩和は、添加元素Mのカチオンのイオン半径が、アルミニウムイオンのイオン半径によるも大きい傾向に起因する。
以上の理由により、添加元素含有領域mを含む中間層Lmは、基板10の局所に作用する応力を緩和する。その結果、基板10の割れが抑制される。
基板10は、添加元素M及び炭素の存在下において、サファイア基板の表面を窒化することによって製造される。添加元素Mは、サファイア基板の表面の窒化を促進する。また上記の通り、添加元素含有領域mを含む中間層Lmは、基板10の製造過程において基板10に作用する応力を緩和する。その結果、基板10の製造過程における基板10の反りが抑制される。基板10の製造過程において添加元素Mが窒化を促進し、且つ基板10の反りを抑制することにより、第一層L1の成長過程における第一層L1及び第二層L2の温度が均一になり、サファイア基板の表面が均一に窒化され、第一層L1がサファイア基板の表面において均一に成長し易い。その結果、第一層L1の組成が均一になり、第一層L1の結晶性が向上する。換言すれば、第一層L1を構成するAl及びNが第一層L1中に均一に分布し易く、第一層L1における結晶欠陥が抑制される。その結果、完成されたAlN層の表面が平滑になる。各半導体層がAlN層の平滑な表面に形成されることにより、各半導体層の組成が均一になり、各半導体層の結晶性が向上し、各半導体層の表面が平滑になる。その結果、発光素子の割れが抑制され、所望の機能を有する発光素子を高い歩留り率で製造することが可能になる。
中間層Lmにおける添加元素Mの濃度の最大値が、0.1質量ppm未満である場合、中間層Lmの厚さが小さ過ぎる傾向があり、基板10に作用する応力が十分に緩和されず、基板10が割れ易い。中間層Lmにおける添加元素Mの濃度の最大値が、200質量ppmを超える場合、第一層L1の厚さが大き過ぎる傾向があり、第一層L1の組成が不均一になり易く、第一層L1中に結晶欠陥が形成され易く、第一層L1の表面が粗くなる。その結果、各半導体層の組成が不均一になり、各半導体層の結晶性が損なわれ、各半導体層の表面も粗くなる。つまり、中間層Lmにおける添加元素Mの濃度の最大値が、200質量ppmを超える場合、基板10を発光素子の製造に使用することが困難になる。基板10の割れが抑制され易く、第一層L1の表面が平滑になり易いことから、中間層Lmにおける添加元素Mの濃度の最大値は、0.5質量ppm以上100質量ppm以下であることが好ましい。
中間層Lmの厚さは、5nm以上500nm以下であってよい。中間層Lmの厚さが5nm以上である場合、基板10に作用する応力が十分に緩和され易く、基板10の割れを抑制し易い。中間層Lmの厚さが500nm以下である場合、第一層L1における結晶欠陥が抑制され易く、第一層L1の表面が平滑になり易い。基板10の割れが抑制され易く、第一層L1の表面が平滑になり易いことから、中間層Lmの厚さは、10nm以上250nm以下であることが好ましい。
中間層Lmにおける窒素の含有量は、第一層L1から第二層L2に向かう方向(基板10の厚さ方向Z)に沿って減少してよい。対照的に、中間層Lmにおける酸素の含有量は、第一層L1から第二層L2に向かう方向(基板10の厚さ方向Z)に沿って増加してよい。中間層Lmが添加元素Mを含むことにより、中間層Lmにおける窒素及び酸素其々の分布が徐々に変化し易い。Alは、中間層Lmの全体に分布及び分散していてよい。第一層L1から第二層L2に向かう方向は、深さ方向と言い換えられてよい。窒素及び酸素其々の含有量の単位は、質量%又は原子%であってよい。
中間層Lmは、第一面p1と第二面p2との間にある領域であってよい。第一面p1及び第二面p2のいずれも、視認される層間の界面(境界)ではなく、以下のように化学的組成に基づいて定義される。基板10内に位置し、且つ第一層L1及び第二層L2に略平行である任意の一つの面内に存在する窒素原子の数は、[N]と表記され、同じ面内に存在する酸素原子の数は、[O]と表記される。これらの表記に基づき、第一面p1は、[N]/([O]+[N])が0.9である面と定義されてよく、第二面p2は、[N]/([O]+[N])が0.1である面と定義されてよい。第一面p1は、[N]/([O]+[N])に基づいて、第一層L1と中間層Lmとを画する面と言い換えられてよい。第二面p2は、[N]/([O]+[N])に基づいて、第二層L2と中間層Lmとを画する面と言い換えられてよい。中間層Lmは、[N]/([O]+[N])が減少し始める面から、[N]/([O]+[N])の減少が止まる面までの間の領域であってよい。[N]/([O]+[N])が減少し始める面から、[N]/([O]+[N])の減少が終了する面までの間において、基板10に作用する応力が緩和されてよい。中間層Lmの厚さは、第一面p1と第二面p2との距離と定義されてよい。
深さ方向に沿った[N]/([O]+[N])及び[O]/([O]+[N])其々のプロファイルの一例は、図4に示される。深さ方向に沿った添加元素Mの濃度<M>のプロファイルの一例も、図4に示される。
図4に示されるように、中間層Lmにおける窒素の分布[N]/([O]+[N])は、第一層L1から第二層L2に向かう方向(基板10の厚さ方向Z)に沿った勾配を有してよく、且つ第一層L1から第二層L2に向かう方向に沿って徐々に減少してよい。中間層Lmにおける酸素の分布[O]/([O]+[N])は、第一層L1から第二層L2に向かう方向(基板10の厚さ方向Z)に沿った勾配を有してよく、且つ第一層L1から第二層L2に向かう方向に沿って徐々に増加してよい。図2及び図3に示される中間層Lmの断面において、色が濃い部分ほど、[N]/([O]+[N])が大きい。換言すれば、図2及び図3に示される中間層Lmの断面において、色が濃い部分ほど、[O]/([O]+[N])が小さい。
図4に示されるように、中間層Lmの組成は、第一層L1から第二層L2に向かう方向に沿って、第二層L2の組成(つまり、α‐アルミナ)へ徐々に近づいてよい。換言すれば、中間層Lmの組成は、第二層L2から第一層L1に向かう方向に沿って、第一層L1の組成(つまり、窒化アルミニウム)へ徐々に近づいてよい。このように、中間層Lmは、α‐アルミナと窒化アルミニウムとが混在する層といえる。
上記のように、基板10の組成は、中間層Lmにおいて徐々に(緩やかに)且つ連続的に変化してよい。換言すれば、窒素及び酸素其々の分布が、第一層L1、中間層Lm及び第二層L2にわたって連続的に変化する点において、第一層L1の組成は中間層Lmの組成と連続してよく、中間層Lmの組成は第二層L2の組成と連続してよい。したがって、第一層L1と中間層Lmとの間の結晶構造上の界面(境界)は存在しなくてよく、中間層Lmと第二層L2の間の晶構造上の界面(境界)も存在しなくてよい。例えば、基板10の厚さ方向Zに平行に切断された基板10の断面において、第一面p1及び第二面p2に対応するような界面は観察されなくてよい。
以上のように、中間層Lmの組成は、第一層L1から第二層L2へ向かう方向において、AlNからAl2O3へ徐々に変化してよい。中間層Lmの結晶構造は、第一層L1から第二層L2へ向かう方向において、AlNの結晶構造からAl2O3の結晶構造へ徐々に変化してよい。中間層Lmの組成及び結晶構造が上記の特徴を有することにより、基板10に作用する応力が中間層Lmにおいて緩和され易く、基板10の反り及び割れが抑制され易い。
仮に仮に中間層Lmではなく、酸窒化アルミニウム(AlON)を主成分として含む第三層が、第一層L1と第二層L2との間に介在する場合、α‐アルミナ(第二層L2)及び窒化アルミニウム(第三層)は熱膨張率及び格子定数において異なり、AlON及びAlN(第一層L1)も熱膨張率及び格子定数において異なる。したがって、AlON層が第一層L1及び第二層L2の間に配置される場合、これらの界面に応力が作用し易く、基板10に作用する応力が緩和され難い。その結果、基板10が割れ易く、第一層L1の表面が粗くなり易い。したがって、中間層Lmは、酸窒化アルミニウムを全く含まないほうがよい。中間層Lmが添加元素Mを含むことにより、酸窒化アルミニウムは中間層Lm中に存在し難い。ただし、上述の本発明に係る効果が阻害されない程度の微量の酸窒化アルミニウムが中間層Lmに含まれていてもよい。第三層とは、主成分である酸窒化アルミニウムが均一に分布している層、又は結晶質の酸窒化アルミニウムからなる層と言い換えられてよい。
図4に示されるように、中間層Lmにおける添加元素Mの濃度は、[N]/([O]+[N])が1.0である面と、[N]/([O]+[N])が0.5である面の間において最大であってよい。換言すれば、添加元素含有領域mは、[N]/([O]+[N])が1.0である面と[N]/([O]+[N])が0.5である面の間に位置してよい。換言すれば、第一層L1と添加元素含有領域mとの距離は、添加元素含有領域mと第二層L2との距離よりも短くてよい。その結果、基板10に作用する応力が緩和され易く、基板10の反り及び割れが抑制され易く、第一層L1の表面が平滑になり易い。同様の理由から、添加元素含有領域mは、第一層L1の表面に略平行な方向に拡がる層であってよい。
基板10の組成が、中間層Lmにおいて徐々に(緩やかに)且つ連続的に変化する場合、基板10の内部の屈折率も、中間層Lmにおいて徐々に(緩やかに)且つ連続的に変化する。換言すれば、基板10の内部において、化学的組成及び屈折率のいずれも臨界的に(急激に)変化し難い。したがって、基板10の内部において、組成が異なる層間の界面における光の反射が起き難い。換言すれば、基板10の内部において、層間の屈折率差に起因する光の反射が起き難い。
仮に中間層Lmではなく、酸窒化アルミニウムを主成分として含む第三層が、第一層L1と第二層L2との間に介在する場合、以下の通り、基板10内において光が反射され易い。
第三層に含まれる酸窒化アルミニウムは、第一層L1に含まれる窒化アルミニウムと全く異なる化合物であるので、第一層L1と第三層との間に界面(結晶構造上の境界)があり、この界面において光が反射され易い。換言すれば、第三層の屈折率は第一層L1の屈折率と全く異なるので、第一層L1と第三層との間の屈折率差に起因して、第一層L1と第三層との間の界面において光が反射され易い。
また、第三層に含まれる酸窒化アルミニウムは、第二層L2に含まれるα‐アルミナと全く異なる化合物であるので、第三層と第二層L2との間に界面(結晶構造上の境界)があり、この界面において光が反射され易い。換言すれば、第三層の屈折率は第二層L2の屈折率と全く異なるので、第三層と第二層L2との間の屈折率差に起因して、第三層と第二層L2との間の界面において光が反射され易い。
上記のような酸窒化アルミニウムを含む第三層ではなく、組成が連続的に変化する中間層Lmを備える基板10によれば、酸窒化アルミニウムに起因する光の反射を低減することができる。中間層Lmは、酸窒化アルミニウムを全く含まないほうがよい。ただし、上述の本発明に係る効果が阻害されない程度の微量の酸窒化アルミニウムが中間層Lmに含まれていてもよい。
図4に示されるように、第一層L1に属し、且つ中間層Lmに面する領域近傍における[N]/([O]+[N])は、0.9より大きく1.0以下であってよい。換言すれば、第一層L1に属し、且つ中間層Lmに面する領域近傍における[O]/([O]+[N])は、0以上0.1未満であってよい。また図4に示されるように、第二層L2に属し、且つ中間層Lmに面する領域近傍における[N]/([O]+[N])は、0以上0.1未満であってよい。換言すれば、第二層L2に属し、且つ中間層Lmに面する領域近傍における[O]/([O]+[N])は、0.9より大きく1.0以下であってよい。
基板10の厚さは、例えば、50μm以上3000μm以下であってよい。第一層L1の厚さは、例えば、50nm以上1000nm以下であってよい。第二層L2の厚さは、例えば、約50μm以上3000μm以下であってよい。
上述の通り、添加元素Mは、希土類元素、アルカリ土類元素及びアルカリ金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種である。つまり、中間層Lmは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びラジウム(Ra)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。中間層Lmは、複数種の添加元素Mを含んでもよい。中間層Lmは、添加元素Mとして、ユウロピウム及びカルシウムのうち少なくともいずれかを含むことが好ましい。その結果、基板10に作用する応力が緩和され易く、基板10の反り及び割れが抑制され易く、第一層L1の表面が平滑になり易い。
(基板の製造方法)
基板10の製造方法は、添加元素Mをサファイア基板の片方の表面に付着させる工程と、添加元素Mが付着したサファイア基板の表面を窒素ガス中で加熱する窒化処理工程と、を備える。
サファイア基板とは、α‐アルミナの単結晶からなる基板である。サファイア基板は、円盤(ウェハー)であってよい。ウェハーの直径は、例えば、50mm以上300mm以下であってよい。
サファイア基板の表面からの深さが大きい箇所ほど、窒素は拡散及び到達することが困難である。したがって、サファイア基板の表面からの深さ方向に沿って、窒素の含有量が徐々に減少する。その結果、サファイア基板の表面からの深さが所定の値以上である領域において中間層Lmが形成される。そして、窒素が拡散せず到達しなかった領域は、結晶質のα‐アルミナを含む第二層として残存する。一方、窒素が導入されたサファイア基板の表面近傍は十分に窒化されて、結晶質の窒化アルミニウムを含む第一層L1になる。
サファイア基板を窒素ガス中で加熱する前に、添加元素Mを、サファイア基板の表面の一部又は全体に付着させる。例えば、添加元素Mを含む有機金属化合物(M化合物)の溶液をサファイア基板の表面に塗布してよい。さらに、溶液が塗布されたサファイア基板を大気中で加熱することにより、有機成分のみを分解及び焼失させてよい。添加元素Mを含む有機金属化合物の溶液として、例えば、有機金属分解法(Metal Organic Decomposition: MOD)に用いられる有機金属化合物の溶液を用いてよい。有機金属化合物の溶液におけるM化合物の含有量は、0.0005質量%以上0.05質量%以下であってよい。有機金属化合物の溶液におけM化合物の含有量が上記の範囲内である場合、中間層Lmにおける添加元素Mの濃度の最大値が、0.1質量ppm以上200質量ppm以下に制御され易く、中間層Lmの厚さが、5nm以上500nm以下に制御され易い。有機金属化合物の溶液におけM化合物の含有量の増加に伴い、中間層Lmの厚さが増加する傾向がある。
添加元素Mが付着したサファイア基板を窒素ガス中で加熱する。その結果、添加元素Mがサファイア基板の表面から酸素(O2-)を引き抜き、酸素欠陥がサファイア基板の表面に形成される。窒素は酸素欠陥に導入され、酸素欠陥を通じてサファイア基板の表面(片面)からサファイア基板の内部へ熱拡散する。つまり、サファイア基板の表面における還元窒化反応により、酸素が窒素で置換される。その結果、第一層L1、中間層Lm及び第二層L2それぞれが、基板10の表面に平行な方向において均一に形成され易い。
サファイア基板の表面に付着する少なくとも一部の添加元素Mは、ユウロピウム及びカルシウムのうち少なくとも一種であることが好ましい。サファイア基板の表面に付着する少なくとも一部の添加元素Mは、ユウロピウムであることがより好ましい。ユウロピウム又はカルシウムは、電気陰性度が比較的小さい元素である。したがって、ユウロピウム又はカルシウムをサファイア基板の表面に付着させることにより、ユウロピウム又はカルシウムがサファイア基板の表面から酸素(O2-)を引き抜き易く、酸素欠陥がサファイア基板の表面に形成され易い。その結果、窒素が酸素欠陥を介してサファイア基板内へ熱拡散し易く、第一層L1、中間層Lm及び第二層L2が形成され易い。また、ユウロピウム又はカルシウムは、添加元素Mの中でも比較的融点が低い元素である。したがって、ユウロピウム又はカルシウムは、低温においても、半ば液相としてサファイア基板の表面全体へ拡散し易い。その結果、第一層L1、中間層Lm及び第二層L2それぞれが、基板10の表面に平行な方向において均一に形成され易い。
窒素ガス中で加熱される基板の温度が1630℃以上になると、酸窒化アルミニウムが基板中で生成し始め、1700℃以上で特に酸窒化アルミニウムが生成し易い。しかし、サファイア基板の温度が1680℃以下である場合、添加元素Mが付着したサファイア基板を窒素ガス中で加熱することにより、酸窒化アルミニウムの生成を十分に抑制しながら、第一層L1、中間層Lm及び第二層L2を形成することができる。
上述の通り、ユウロピウム及びカルシウムは、比較的低温においても、サファイア基板の表面全体へ十分に拡散し易く、サファイア基板の表面から酸素を引き抜き易い。したがって、窒素ガス中で加熱されるサファイア基板の温度が、窒化アルミニウムが生成し難い低温である場合であっても、ユウロピウム及びカルシウムのうち少なくとも一方を用いることにより、サファイア基板における窒素の熱拡散が起き易く、第一層L1、中間層Lm及び第二層L2を容易に形成することができる。窒化アルミニウムが生成し難い低温とは、例えば、1630℃未満又は1600℃以下である。添加元素Mがサファイア基板に付着していることにより、1630℃未満である温度で、酸窒化アルミニウムの生成を抑制しながら、第一層L1、中間層Lm及び第二層L2を形成することができる。
ユウロピウム及びカルシウムよりも融点が高い添加元素Mを用いた場合、添加元素Mをサファイア基板の表面全体へ拡散させるために、ユウロピウム又はカルシウムを用いる場合よりも高温で、サファイア基板を加熱しなければならない。しかし、サファイア基板の温度が高いほど、酸窒化アルミニウムが生成し易い。
窒素ガス中で加熱されるサファイア基板の温度(窒化処理温度)は、1550℃以上1700℃以下、1600℃以上1680℃以下、又は1600℃以上1630℃未満であってよい。上述の通り、窒素ガスをサファイア基板内へ熱拡散させるためには、窒化処理温度が少なくとも1550℃以上であることが好ましい。添加元素Mを用いない場合、1630℃以上の窒化処理温度においてサファイアの窒化が進むと共に、酸窒化アルミニウムが基板中で生成される。一方、添加元素Mを用いる場合、1630℃以下である窒化処理温度において、基板中における酸窒化アルミニウムを生成させずにサファイアを窒化させることができる。窒化処理温度が1700℃未満、より好ましくは1630℃以下である場合、基板中における酸窒化アルミニウムの生成を抑制することができる。窒化処理温度が1630℃未満又は1600℃以下である場合、添加元素Mを用いることによって、基板の表面において窒化アルミニウムを生成させることができる。窒化処理温度が1600℃以上1630℃未満である場合、結晶質の窒化アルミニウムを含む第一層L1の表面の平滑性が向上し易い。
窒化処理の温度、時間、添加元素Mの使用量、及び窒素ガスの分圧又は供給量によって、第一層L1及び中間層Lm其々の厚さ及び組成が制御されてよい。窒素ガス中で加熱されるサファイア基板の温度が高いほど、サファイア基板中での窒素の拡散、及びサファイアの窒化が促進される。その結果、第一層L1及び中間層Lm其々の厚さが増加し易く、第二層L2の厚さが減少し易い。窒素ガス中でサファイア基板を加熱する時間が長いほど、サファイア基板中での窒素の拡散、及びサファイアの窒化が促進される。その結果、第一層L1及び中間層Lm其々の厚さが増加し易く、第二層L2の厚さが減少し易い。サファイア基板の表面に付着して拡散する添加元素Mが多いほど、サファイア基板中での窒素の拡散、及びサファイアの窒化が促進される。その結果、第一層L1及び中間層Lm其々の厚さが増加し易く、第二層L2の厚さが減少し易い。窒素ガスの分圧又は供給量が大きいほど、サファイア基板中での窒素の拡散、及びサファイアの窒化が促進される。その結果、第一層L1及び中間層Lm其々の厚さが増加し易く、第二層L2の厚さが減少し易い。
窒化処理工程は、少なくとも二回実施される。例えば、添加元素Mが付着したサファイア基板を上記の窒化処理温度で短時間加熱した後、より長時間にわたってサファイア基板を上記の窒化処理温度で加熱してよい。1度目の加熱により、添加元素Mがサファイア基板の表面全体に均一に拡散し易い。換言すれば、1度目の加熱により、添加元素Mがサファイア基板の表層へ均一に拡散し易い。続く2度目の長時間の加熱により、窒素がサファイア基板の表面から内部へ斑なく拡散し易い。その結果、第一層L1の表面の平滑性が向上し易い。窒化処理を二度のステップに分けずにサファイア基板を長時間加熱した場合、第一層L1の表面の平滑性が損なわれ易い。一度の窒化処理のみによって本実施形態に係る基板10を製造することは困難である。
窒素ガス中でのサファイア基板の窒化処理は、炭素粉末の存在下で実施されてよい。添加元素Mによってサファイア基板から引き抜かれた酸素が、雰囲気中の炭素と反応して一酸化炭素が生成する。
以上の製造方法により、基板10が製造される。
(発光素子)
本実施形態に係る発光素子は、上記の基板10を備える。発光素子が基板10を備えることにより、発光素子の割れが抑制される。例えば、本実施形態に係る発光素子は発光ダイオードであってよい。発光ダイオードは、UVC LED又はDUV LED等の深紫外線発光ダイオードであってよい。以下では、基板10を備える発光素子の一例として、図3に示される発光ダイオード100が説明される。ただし、本実施形態に係る発光ダイオード100の構造は、図3に示される積層構造に限定されない。
図3に示されるように、本実施形態に係る発光ダイオード100は、基板10と、第一層L1(基板10の片面)に直接重なるn型半導体層40と、n型半導体層40に重なる発光層42と、発光層42に重なるp型半導体層44と、n型半導体層40の表面の一部に設置された第一電極48と、p型半導体層44の表面の一部に設置された第二電極46と、を備える。障壁層(電子ブロック層)が発光層42とp型半導体層44との間に介在していてもよい。
n型半導体層40は、バッファー層39を介して第一層L1に間接的に重なっていてよい。例えば、バッファー層39は、第13族元素の窒化物の単結晶からなっていてよい。例えば、バッファー層39は、Al及びGaのうち少なくともいずれの窒化物の単結晶であってよい。バッファー層39がn型半導体層40と第一層L1との間に配置されることにより、基板10に積層される各半導体層の結晶欠陥が抑制され易い。バッファー層39が十分に薄い場合、波長の標準偏差σが低減され易い。バッファー層39は必須ではなく、n型半導体層40が第一層L1に直接重なっていてよい。
n型半導体層40は、例えば、n型の窒化ガリウム(n‐GaN)又はn型の窒化アルミニウムガリウム(n‐AlGaN)を含んでよい。n型半導体層40は、更にケイ素(Si)を含んでよい。n型半導体層40は、複数の層から構成されていてよい。発光層42は、例えば、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)又は窒化インジウムガリウム(InGaN)を含んでよい。発光層42は、複数の層から構成されていてよい。p型半導体層44は、例えば、p型の窒化ガリウム(p‐GaN)又はp型の窒化アルミニウムガリウム(p‐AlGaN)を含んでよい。p型半導体層44は、更にマグネシウム(Mg)を含んでよい。p型半導体層44は、複数の層から構成されていてよい。例えば、p型半導体層44は、発光層42に重なるp型クラッド層と、p型クラッド層に重なるp型コンタクト層とを有してよい。n型半導体層40に設置された第一電極48は、例えばインジウム(In)を含んでよい。p型半導体層44に設置された第二電極46は、例えばニッケル(Ni)及び金(Au)のうち少なくともいずれかを含んでよい。
発光層42から発せられた光はn型半導体層40及び基板10を介して全方位へ照射される。上述の通り、基板10が中間層Lmを含むため、発光層42から発せられた光は、基板10によって反射され難い。したがって、サファイアのみからなる基板を備える従来の発光ダイオードに比べて、発光層42から発された光が基板10を透過し易く、光の取り出し効率が向上する。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
例えば、本実施形態に係る基板10の用途は、発光ダイオードに限定されない。本実施形態に係る発光素子は半導体レーザー発振器であってもよい。つまり、本実施形態に係る基板10は、紫外線レーザー等の半導体レーザー発振器が備える基板であってもよい。本実施形態に係る基板10は、パワートランジスタに用いられてもよい。
以下では実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
スピンコートにより、MOD用溶液をサファイア基板のc面全体に塗布した。MOD用溶液は、Caの化合物(有機化合物)を含有していた。Caは、添加元素Mである。サファイア基板のc面とは、(001)面である。サファイア基板の直径は2インチであった。サファイア基板の厚さは、430μmであった。MOD用溶液におけるCaの化合物の濃度は、下記表1に示される。スピンコートは、2000rpmで20秒間実施した。MOD用溶液が塗布されたサファイア基板を、150℃のホットプレート上で10分間乾燥させた後、空気中において600℃で2時間加熱した。以上の工程は、MOD工程と表記される。
MOD工程後の基板を100mm角のアルミナ板に載せて、基板の周囲の4か所其々に5mgのカーボンの粉末(計20mgのカーボン)を配置した。アルミナ板の寸法は、縦100mm×横100mmであった。続いて、基板の全体をアルミナ匣鉢(Saggar)で覆った後、基板を窒化処理炉内の試料設置台に設置した。アルミナ匣鉢の寸法は縦75mm×横75mm×高さ70mmであった。窒化処理炉としては、カーボンをヒーターとする抵抗加熱型の電気炉を用いた。窒化処理炉内で基板を加熱する前に、回転ポンプと拡散ポンプを用いて0.03Paまで炉内を脱気した。次いで、炉内の気圧が100kPa(大気圧)になるまで、窒素ガスを炉内へ流した後、窒素ガスの供給を停止した。続いて、一回目の窒化処理では、炉内の基板を1600℃で2時間加熱した。窒化処理における炉内の昇降温速度は600℃/時間に調整した。窒化処理後、基板を室温まで冷却した後、基板を炉外へ取り出した。
一回目の窒化処理後の基板を、アルミナ板に載せた。アルミナ板の寸法は、縦100mm×横100mmであった。基板の周囲4か所其々に20mgのカーボンの粉末(計80mgのカーボン)を配置した。続いて、基板の全体を上記のアルミナ匣鉢(Saggar)で覆った後、基板を上記の窒化処理炉内の試料設置台に設置した。回転ポンプと拡散ポンプを用いて0.03Paまで炉内を脱気した。次いで、炉内の気圧が100kPa(大気圧)になるまで、窒素ガスを炉内へ流した後、窒素ガスの供給を停止した。続いて、二回目の窒化処理では、炉内の基板を1600℃で12時間加熱した。二回目の窒化処理における炉内の昇降温速度は600℃/時間に調整した。二回目の窒化処理後、基板を室温まで冷却した後、基板を炉外へ取り出した。
以上の手順で実施例1の基板を作製した。
(実施例2~7)
実施例2~7其々の基板の作製では、MOD用溶液におけるCaの化合物の濃度が、下記表1に示される値に調整された。MOD用溶液を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~7其々の基板を作製した。
(実施例8)
実施例8の基板の作製では、Caの化合物の代わりにEuの化合物を含むMOD用溶液が用いられた。Euは、添加元素Mである。MOD用溶液におけるEuの化合物の濃度は、下記表1に示される値に調整された。MOD用溶液を除いて実施例1と同様の方法で、実施例8の基板を作製した。
(比較例1)
直流マグネトロンスパッタリング法を用いて、窒化アルミニウムの薄膜をサファイア基板のc面全体に成膜した。サファイア基板の直径φは2インチであった。窒化アルミニウムの薄膜の厚さは1000nmであった。スパッタリングターゲットとしては金属アルミニウムを用いた。原料ガスとしては、窒素ガスとアルゴンの混合ガスを用いた。(N2の体積:Arの体積)は、3:1であった。スパッタリングのパワーは700Wであった。成膜時のサファイア基板の温度は650℃であり、成膜時間は30分であった。
上記のスパッタリング後、基板を100mm角のアルミナ板に載せて、基板の周囲4か所其々に5mgのカーボンの粉末(計20mgのカーボン)を配置した。続いて、基板の全体を上記のアルミナ匣鉢(Saggar)で覆った後、基板を上記の窒化処理炉内の試料設置台に設置した。窒化処理炉内で基板を加熱する前に、回転ポンプと拡散ポンプを用いて0.03Paまで炉内を脱気した。次いで、炉内の気圧が100kPa(大気圧)になるまで、窒素ガスを炉内へ流した後、窒素ガスの供給を停止した。続いて、一回目の窒化処理では、炉内の基板を1600℃で4時間加熱した。窒化処理における炉内の昇降温速度は600℃/時間に調整した。窒化処理後、基板を室温まで冷却した後、基板を炉外へ取り出した。
以上の手順で比較例1の基板を作製した。
(参考例1)
参考例1の作製では、MOD用溶液におけるCaの化合物の濃度が、下記表1に示される値に調整された。MOD用溶液を除いて実施例1と同様の方法で、参考例1の基板を作製した。
<基板の分析>
以下に記載の基板の表面とは、窒化処理においてアルミナ板と接することなく窒素ガス中に露出していた基板の表面である。つまり以下に記載の基板の表面は、基板の窒化された表面を意味する。
[X線回折パターンの測定]
以下のX線回折(XRD)法では、入射X線としてCuの特性X線(CuKα線)を用いた。
実施例1の基板の表面のXRDパターンを測定した。実施例1のXRDパターンは、AlNの(002)面に由来する回折線のピークを有していた。またAlNの(112)面の極図をXRD法で測定した。極図は、6回の回転対称性を示す6つのピークを有していた。一方、XRDパターンは、AlN及びサファイア以外の結晶相に由来する回折線ピークを有していなかった。例えば、XRDパターンは、酸窒化アルミニウムの結晶相に由来するピークを有していなかった。これらの測定結果は、実施例1の基板の表面がAlNの単結晶を含むことを示していた。
以上の実施例1の分析結果は、サファイア基板の窒化された表面がAlNの単結晶層であることを示していた。AlNの単結晶層は、サファイア基板のc軸に沿って配向していた。
実施例1の場合と同様の方法で、実施例2~8、比較例1及び参考例1其々の基板を個別に分析した。実施例2~8、比較例1及び参考例1のいずれの場合も、サファイア基板の窒化された表面は、AlNの単結晶層であり、AlNの単結晶層は、サファイア基板のc軸に沿って配向していた。実施例2~8、比較例1及び参考例1のいずれの場合も、XRDパターンは、AlN及びサファイア以外の結晶相に由来する回折線ピークを有していなかった。
[基板の内部の組成及び構造の分析]
実施例1の基板を割って、基板の破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。窒化アルミニウムの単結晶層(第一層)と、窒化されていないサファイア層(第二層)との間の界面(明確な境界)は破断面内に発見されなかった。
実施例1と同様の方法で、実施例2~8及び比較例1其々の基板をSEM及びTEMで観察した。実施例2~8のいずれの場合も、窒化アルミニウムの単結晶層(第一層)と、窒化されていないサファイア層(第二層)との間の界面(明確な境界)は破断面内に発見されなかった。一方、比較例1の場合、窒化アルミニウムの単結晶層(第一層)と、窒化されていないサファイア層(第二層)との間の界面(明確な境界)があった。
実施例1の基板の表面を、スパッタリングで徐々に掘りながら、基板の組成を基板の表面からの深さ方向に沿って分析した。深さ方向とは、図1及び図2に示されるZ軸方向(基板10の表面に垂直な方向)を意味する。深さ方向に沿った分析とは、掘り出された基板の断面(深さ方向に垂直な基板の断面)の組成の分析を意味する。組成の分析には、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)及びSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いた。基板中のアルミニウム、窒素及酸素其々の含有量は、ESCAによって測定された。基板中の添加元素Mの含有量は、SIMSによって測定された。
分析の結果、実施例1の基板は、窒化アルミニウムの単結晶からなる第一層と、結晶質のα‐アルミナからなる第二層と、第一層と第二層とによって挟まれる中間層と、を備えることが確認された。中間層は、アルミニウム、窒素、酸素及びCa(添加元素M)からなることが確認された。深さ方向に沿った分析では、第一層の検出後に中間層が検出され、中間層の検出後に第二層が検出された。中間層Lmにおける[N]/([O]+[N])は、第一層L1から第二層L2に向かう方向(深さ方向)に沿って減少することが確認された。また中間層Lmにおける[O]/([O]+[N])は、第一層L1から第二層L2に向かう方向(深さ方向)に沿って増加することも確認された。[N]/([O]+[N])が0.9である深さは、D1と表される。[N]/([O]+[N])が0.1であるは、がD2と表される。中間層Lmの厚さは、D2-D1と定義される。実施例1の中間層の厚さ(D2-D1)は、下記表1に示される。中間層における添加元素Mの濃度の最大値が、上記の方法によって測定された。実施例1の中間層における添加元素Mの濃度の最大値は、下記表1に示される。
実施例1と同様の方法で、実施例2~8及び比較例1其々の基板をESCA及びSIMSを用いて分析した。
分析の結果、実施例2~8其々の基板は、実施例1と同様に、窒化アルミニウムの単結晶からなる第一層と、結晶質のα‐アルミナからなる第二層と、第一層と第二層とによって挟まれる中間層と、を備えていた。実施例2~8其々の中間層は、実施例1と同様に、アルミニウム、窒素、酸素及び添加元素Mからなっていた。実施例2~8のいずれの場合も、実施例1と同様に、深さ方向に沿った分析において、第一層の検出後に中間層が検出され、中間層の検出後に第二層が検出された。実施例2~8のいずれの場合も、実施例1と同様に、中間層Lmにおける[N]/([O]+[N])が、第一層L1から第二層L2に向かう方向(深さ方向)に沿って減少していた。また実施例2~8のいずれの場合も、実施例1と同様に、中間層Lmにおける[O]/([O]+[N])が、第一層L1から第二層L2に向かう方向(深さ方向)に沿って増加していた。実施例2~8其々の中間層の厚さは、下記表1に示される。実施例2~8其々の中間層における添加元素Mの濃度の最大値は、下記表1に示される。
一方、比較例1の基板は、窒化アルミニウムの単結晶からなる第一層と、結晶質のα‐アルミナからなる第二層と、を備えており、第一層と第二層との間に他の層は存在していなかった。つまり、第一層が第二層に直接重なっていた。
後述の通り、参考例1の基板の表面全体が非常に粗かった。深さ方向に沿った参考例1の基板の分析は行われなかった。
[基板の表面の観察]
実施例1~8其々の基板は、無色透明であった。一方、比較例1の基板の表面全体は白かった。各基板の表面を目視で観察することにより、実施例1~8、比較例1及び参考例1其々の基板における割れの有無を調べた。その結果は、下記表1に示される。表1に記載のAとは、基板の表面全体において割れが形成されていなかったことを意味する。表1に記載のBとは、基板の表面の一部において割れが形成されていたことを意味する。表1に記載のCとは、基板の表面全体において割れが形成されていたことを意味する。
比較例1の基板を、基板の表面に垂直な方向に切断して、その断面を目視で観察した。AlNの単結晶層(第一層)とサファイア層(第二層)との界面(境界線)が断面を横断していた。割れ界面近傍において形成されていた。
実施例1~8、比較例1及び参考例1其々の基板の表面を、金属顕微鏡で観察した。つまり、実施例1~8、比較例1及び参考例1其々のAlNの単結晶層の表面を、金属顕微鏡で観察した。金属顕微鏡で観察された各基板の表面の形状は、下記表1に示される。表1に記載のA’とは、基板の表面全体が平滑であったことを意味する。表1に記載のB’とは、基板の表面の一部が凹凸状であったことを意味する。つまり、B’は、基板の表面の一部が粗く、それ以外の部分は平滑であったことを意味する。表1に記載のC’とは、基板の表面の全体が凹凸状であったことを意味する。つまり、C’は、基板の表面の全体が粗かったことを意味する。実施例4の基板の表面の中心部分は平滑であったが、実施例4の基板の表面の外周近傍は粗かった。
実施例1の基板の表面を原子間力顕微鏡(AFM)で分析することにより、実施例1の基板の表面の自乗平均面粗さ(RMS)を測定した。実施例1の同様の方法により、実施例2~8、及び比較例1及び参考例1其々の第一層の表面を分析した。
実施例1~3、5~8及び比較例1其々の基板の表面全体において、RMSは、0.2nm以上0.5nm以下である範囲内であった。実施例4の基板の表面のうち平滑な部分のRMSは、0.2nm以上0.5nm以下である範囲内であった。実施例4の基板の表面のうち粗い部分のRMSは、10nm以上30nm以下である範囲内であった。参考例1の基板の表面全体において、RMSは10nm以上30nm以下である範囲内であった。参考例1の基板の表面全体が粗過ぎるため、参考例1の基板は半導体層の形成に全く適していなかった。