以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態が説明される。図面において、同等の構成要素には同等の符号が付される。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。図1、図8及び図10に示されるX,Y及びZは、互いに直交する3つの座標軸を意味する。各座標軸が示す方向は、図1、図8及び図10に共通する。
(基板)
本実施形態に係る基板は、窒化アルミニウム層と、サファイア層と、を備える。本実施形態に係る基板の構造は、図1に示される。図1は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1及びサファイア層L2の表面SL2に垂直な基板10の断面である。図1に示されるように、窒化アルミニウム層L1は、サファイア層L2の表面SL2に直接重なっている。窒化アルミニウム層L1の表面SL1は、平坦であってよい。サファイア層L2の表面SL2も平坦であってよい。積層方向Zにおける窒化アルミニウム層L1の厚さTは、略均一であってよい。積層方向Zにおけるサファイア層L2の厚さも、略均一であってよい。積層方向Zにおける基板10全体の厚さも、略均一であってよい。
窒化アルミニウム層L1は、結晶質の窒化アルミニウム(AlN)を含む。結晶質の窒化アルミニウムは、窒化アルミニウムの単結晶であってよい。窒化アルミニウム層L1は、結晶質の窒化アルミニウムのみからなっていてよい。窒化アルミニウム層L1は、結晶質の窒化アルミニウムに加えて、後述される添加元素Mを更に含んでよい。添加元素Mは、結晶質の窒化アルミニウム中に含有されてよい。窒化アルミニウム層L1は、アルミニウム(Al)、窒素(N)及び添加元素Mのみから構成されていてよい。窒化アルミニウムの結晶性が損なわれない限りにおいて、窒化アルミニウム層L1は、Al、N及び添加元素Mに加えて、他の元素(不純物等)を含んでよい。例えば、窒化アルミニウム層L1のうち窒化アルミニウム層L1及びサファイア層L2の境界に沿う境界領域が、微量の酸素(O)を含んでよい。つまり、窒化アルミニウム層L1においてサファイア層L2に面する領域は、微量の酸素を含んでよい。窒化アルミニウム層L1は、Al、N、添加元素M及びOのみから構成されていてよい。窒化アルミニウム層L1及びサファイア層L2の境界は、窒素の有無によって特定されてよい。つまり境界は、Al及びNの両方が検出される層(窒化アルミニウム層L1)と、Al及びOが検出され且つNが検出されない層(サファイア層L2)との界面と定義されてよい。
窒化アルミニウム層L1に含まれる窒化アルミニウムの結晶構造は、六方晶系のウルツ鉱(wurtzite)型構造である。窒化アルミニウムのウルツ鉱型構造は、図2に示される。ウルツ鉱型構造の単位胞は、図3に示される。基本ベクトル、結晶方位及び結晶面の表記のために、図3中の原子は省略されているが、ウルツ鉱型構造の単位胞uc1(正六角柱)の12個の頂点其々には、アルミニウムが配置される。図3中のa1、a2、a3及びcは、ウルツ鉱型構造の単位胞uc1を構成する基本ベクトル(結晶軸)である。a1の方位は[1000]である。a2の方位は[0100]である。a3の方位は[0010]である。cの方位は[0001]である。a1、a2及びa3其々の長さは、互いに等しい。a1、a2及びa3のいずれもcに垂直である。a1、a2及びa3が互いになす角度は、120度(degrees)である。図2及び図3に示されるように、窒化アルミニウムの結晶構造はc軸に対する回転対称性を有するので、窒化アルミニウムの(11-20)面、(-2110)面及び(1-210)面は、面方位において等価である。したがって、(-2110)面及び(1-210)面は、(11-20)面とみなされてよい。窒化アルミニウムの(1-100)面と窒化アルミニウムの(11-20)面との間の角度は、90度である。(11-20)面と(-2110)面との間の角度は60度であるので、(1-100)面と(-2110)面との間の角度は、90度+60度(つまり150度)である。(11-20)面と(1-210)面との間の角度は-60度であるので、(1-100)面と(1-210)面との間の角度は、90度-60度(つまり30度)である。したがって、窒化アルミニウムの結晶構造内において(-2110)面及び(1-210)面が(11-20)面とみなされる場合、窒化アルミニウムの(1-100)面と窒化アルミニウムの(11-20)面との間の角度は、90度、150度、及び30度である。仮にα‐アルミナの(1-100)面と窒化アルミニウムの(1-100)面との間の角度が±30度である場合、窒化アルミニウムの(1-100)面と窒化アルミニウムの(11-20)面との間の角度は、90度、150度、及び30度であるので、α‐アルミナの(1-100)面と窒化アルミニウムの(11-20)面との間の角度は、±30度+90度、±30度+150度、及び±30度+30度である。つまり、仮にα‐アルミナの(1-100)面と窒化アルミニウムの(1-100)面との間の角度が±30度である場合、α‐アルミナの(1-100)面と窒化アルミニウムの(11-20)面との間の角度は、0度(180度)、60度及び120度である。したがって、α‐アルミナの(1-100)面と窒化アルミニウムの(1-100)面との間の角度が±30度である場合、窒化アルミニウムの(11-20)面は、α‐アルミナの(1-100)面に平行である。つまり、α‐アルミナの(1-100)面と窒化アルミニウムの(1-100)面との間の角度が±30度である場合、(11-20)面、(-2110)面及び(1-210)面のうちいずれか一つの窒化アルミニウムの結晶面は、必ずα‐アルミナの(1-100)面に平行である。窒化アルミニウムの(11-20)面は、窒化アルミニウムの(0001)面に垂直である。窒化アルミニウムの(1-100)面も、α‐アルミナの(0001)面に垂直である。窒化アルミニウムの(11-20)面は、窒化アルミニウムのa面と言い換えられてよい。窒化アルミニウムの(1-100)面は、窒化アルミニウムのm面と言い換えられてよい。窒化アルミニウムの(0001)面は、窒化アルミニウムのc面と言い換えられてよい。
サファイア層L2は、結晶質のα‐アルミナ(α‐Al2O3)を含む。結晶質のα‐アルミナは、α‐アルミナの単結晶(つまりサファイア)であってよい。サファイア層L2は、結晶質のα‐アルミナのみからなっていてよい。α‐アルミナの結晶性が損なわれない限りにおいて、サファイア層L2は、アルミニウム及び酸素以外の元素(不純物等)を含んでよい。例えば、サファイア層L2のうち窒化アルミニウム層L1及びサファイア層L2の境界に沿う境界領域が、微量の添加元素Mを含んでよい。つまり、サファイア層L2において窒化アルミニウム層L1に面する領域は、微量の添加元素Mを含んでよい。
サファイア層L2に含まれるα‐アルミナの結晶構造は、コランダム(corundum)型構造である。コランダム型構造は、正確には菱面体晶(rhombohedral crystal)であるが、コランダム型構造は六方晶で近似されてよい。α‐アルミナのコランダム型構造は、図4に示される。図4に示される六角形の図形は、c軸方向からみられるコランダム型構造(正六角柱)におけるアルミニウム原子及び酸素原子の配置を示している。コランダム型構造の単位胞は、図5に示される。基本ベクトル、結晶方位及び結晶面の表記のために、図5中の原子は省略されているが、コランダム型構造の単位胞uc2(正六角柱)の12個の頂点其々には、酸素が配置される。図5中のa1、a2、a3及びcは、コランダム型構造の単位胞uc2を構成する基本ベクトル(結晶軸)である。a1の方位は[1000]である。a2の方位は[0100]である。a3の方位は[0010]である。cの方位は[0001]である。a1、a2及びa3其々の長さは、互いに略等しい。a1、a2及びa3のいずれもcに略垂直である。a1、a2及びa3が互いになす角度は、略120度である。α‐アルミナの(1-100)面は、α‐アルミナの(11-20)面に略垂直である。α‐アルミナの(0001)面は、α‐アルミナの(11-20)面に略垂直である。α‐アルミナの(1-100)面は、α‐アルミナの(0001)面に略垂直である。α‐アルミナの(11-20)面は、α‐アルミナのa面と言い換えられてよい。α‐アルミナの(1-100)面は、α‐アルミナのm面と言い換えられてよい。α‐アルミナの(0001)面は、α‐アルミナのc面と言い換えられてよい。
以下では、窒化アルミニウム層L1及び窒化アルミニウムが、同義語として用いられる場合がある。以下では、サファイア層L2及びα‐アルミナが、同義語として用いられる場合がある。
窒化アルミニウム層L1中の窒化アルミニウムの(0001)面は、サファイア層L2の表面SL2に略平行であり、サファイア層L2中のα‐アルミナの(11-20)面も、サファイア層L2の表面SL2に略平行である。窒化アルミニウム層L1中の窒化アルミニウムの(0001)面は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1に略平行であってよく、サファイア層L2中のα‐アルミナの(11-20)面も、窒化アルミニウム層L1の表面SL1に略平行であってよい。つまり、窒化アルミニウム層L1の表面SL1の面方位は[0001]であり、サファイア層L2の表面SL2の面方位は[11-20]であり、窒化アルミニウム層L1中の窒化アルミニウムの(0001)面は、サファイア層L2中のα‐アルミナの(11-20)面に略平行である。窒化アルミニウム層L1中の窒化アルミニウムの(11-20)面は、サファイア層L2中のα‐アルミナの(1-100)面に略平行である。窒化アルミニウム層L1中の窒化アルミニウムの(11-20)面は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1、及びサファイア層L2の表面SL2に対して略垂直である。サファイア層L2中のα‐アルミナの(1-100)面も、窒化アルミニウム層L1の表面SL1、及びサファイア層L2の表面SL2に対して略垂直である。
上述された窒化アルミニウム及びα‐アルミナ其々の結晶面の方位の相対的な関係は、図6中に示される。図示の便宜上、図6(及び後述される図7)において、窒化アルミニウム(uc1)の(0001)面はα‐アルミナ(uc2)の(11-20)面に重なっていないが、実際には、窒化アルミニウムの(0001)面はα‐アルミナの(11-20)面に重なっている。窒化アルミニウムの(11-20)面がα‐アルミナの(1-100)面に略平行となるように、窒化アルミニウムの(0001)面がα‐アルミナの(11-20)面に対して平行に形成される場合、サファイア層L2の表面SL2上に成長する窒化アルミニウム層L1は、サファイア層L2の高い結晶性を引き継ぎ易い。その結果、本実施形態に係る基板10は、結晶性に優れた窒化アルミニウム層L1を有することができる。
図7に示すように、窒化アルミニウムの(1-100)面がα‐アルミナの(1-100)面に略平行となるように、窒化アルミニウムの(0001)面がα‐アルミナの(11-20)面に対して平行に形成される場合、サファイア層L2の表面SL2上に成長する窒化アルミニウム層L1は、サファイア層L2の高い結晶性を引き継ぎ難い。したがって、窒化アルミニウム層L1の表面SL1の面方位が[0001]であり、サファイア層L2の表面SL2の面方位が[11-20]であり、窒化アルミニウム層L1の(1-100)面がサファイア層L2の(1-100)面に略平行である場合、基板10は、結晶性に優れた窒化アルミニウム層L1を有することが困難である。
窒化アルミニウム層L1の結晶性は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1の面内方向において測定される窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブに基づいて評価されてよい。(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅が小さいほど、窒化アルミニウム層L1の(1-100)面の配向度が高く、窒化アルミニウム層L1は結晶性に優れている。ロッキングカーブは、窒化アルミニウム層L1の表面SL1のφスキャンによって測定される。
φスキャンの概要は、図8に示される。φスキャンは、In Plane測定の一種である。説明の便宜上、基板10は円盤(ウェハー)であり、窒化アルミニウム層L1の表面SL1の形状は、円である。φスキャンでは、基板10が窒化アルミニウム層L1の表面SL1の中心に対して回転する。つまり、窒化アルミニウム層L1の表面SL1の中心は基板10の回転中心であり、φは基板10の回転角である。φの単位は、秒(arcsecоnd)である。φスキャンでは、入射X線がX線源XRから窒化アルミニウム層L1の表面SL1の中心へ照射される。方向d1は、入射X線の方向である。φスキャンに用いる入射X線は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1に略平行である。入射X線は、窒化アルミニウムの(1-100)面において回折され、回折X線として検出器Dによって検出される。φスキャンによって測定される回折X線は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1に略平行である。基準点が、窒化アルミニウム層L1の表面SL1において入射X線が照射される位置(つまり表面SL1の中心)と定義される場合、方向d2は、基準点から検出器Dへ向かう方向である。つまり方向d2は、入射X線が照射される位置に対する検出器Dの方向である。2θ2は、窒化アルミニウムの(1-100)面に由来する回折X線の回折角である。φスキャンとは、方向d1と方向d2との間の角度を回折角2θ2に固定し、窒化アルミニウムの(1-100)面に由来する回折X線の強度を、φの変化に伴って連続的に測定する方法である。窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブは、窒化アルミニウムの(1-100)面に由来する回折X線の強度のツイスト(twist)分布と言い換えられてよい。回折X線の強度の単位は、例えば、cps(cоunts per secоnd)であってよい。
図9に示されるRC1(1-100)及びRC2(1-100)は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1の面内方向において測定される窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの具体例である。各ロッキングカーブの横軸はΔφである。各ロッキングカーブの縦軸は、回折X線の強度である。各ロッキングカーブの横軸における原点は、窒化アルミニウムの(1-100)面に由来する回折X線の強度が最大であるφに対応する。φ0が、窒化アルミニウムの(1-100)面に由来する回折X線の強度が最大であるφと定義される場合、窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブは、φが(φ0-Δφ)以上(φ0+Δφ)以下である範囲における(1-100)面の回折X線の強度の分布である。入射X線は、銅(Cu)の特性X線(CuKα線)であってよく。窒化アルミニウムの(1-100)面に由来する回折X線の回折角2θ2は、33.22度(degrees)であってよい。
窒化アルミニウム層L1の表面SL1の面内方向において測定される窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅は、0秒以上500秒以下、好ましくは50秒以上300秒以下であってよい。(1-100)面のロッキングカーブは、窒化アルミニウム層L1全体の平均的な結晶性を示す。窒化アルミニウム層L1とサファイア層L2との間の格子不整合に因り、窒化アルミニウム層L1及びサファイア層L2の境界近傍に位置する窒化アルミニウムの結晶性は良くない。しかし本実施形態では、上述の理由により、サファイア層L2の表面SL2上に成長する窒化アルミニウム層L1は、サファイア層L2の高い結晶性を引き継ぎ易い。したがって、サファイア層L2の表面SL2からの窒化アルミニウムの距離の増加に伴って、窒化アルミニウムの結晶性が高まる。その結果、成長後の窒化アルミニウム層L1の(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅は、成長初期段階の窒化アルミニウム層L1の(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅よりも小さくなり易い。換言すれば、窒化アルミニウム層L1の厚さTの増加(窒化アルミニウム層L1の成長)に伴って、窒化アルミニウム層L1の(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅は減少し易い。(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅が500秒以下である場合、窒化アルミニウム層L1は十分に高い結晶性を有するので、窒化アルミニウム層L1上に形成される窒化物半導体層(発光層等)の結晶性も高まり易い。その結果、基板10から形成された発光素子の発光効率が高まり易い。理論的に最も好ましいロッキングカーブの半値全幅はゼロであるが、本実施形態において容易に達成できる半値全幅は、50秒程度である。窒化アルミニウム層L1の表面SL1の面内方向において測定される窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅は、100秒以上470以下、170秒以上470秒以下、又は100秒以上280秒以下であってもよい。
サファイア基板の表面を直接還元窒化することによって窒化アルミニウム層が形成される場合、面内方向における窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅は、500秒よりも大きい傾向がある。サファイア基板の表面を直接還元窒化することによって、サファイア基板に直接重なる酸窒化アルミニウム層と、酸窒化アルミニウム層に直接重なる窒化アルミニウム層が形成される場合も、面内方向における窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅は、500秒よりも大きい傾向がある。
サファイア基板の表面を直接還元窒化することによって窒化アルミニウム層が形成される場合、面内方向における窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅は、窒化アルミニウム層(バッファー層)の厚さの増加に伴って必ずしも十分に減少しない。サファイア基板の表面を直接還元窒化することによって窒化アルミニウム層が形成される場合、面内方向における窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅は、窒化アルミニウム層(バッファー層)の厚さの増加に伴って増加する可能性もある。
図9中のRC1(1-100)は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1の面内方向において測定される窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブであってよい。図9中のRC2(1-100)は、窒化アルミニウム層L1のうちサファイア層L2の表面SL2からの距離が100nm以下である領域に含まれる窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブであってよい。RC2(1-100)は、サファイア層L2の表面SL2に略平行な面内方向において測定される。集束イオンビーム(Focused Ion Beam; FIB)による窒化アルミニウム層L1の表面SL1の切削により、窒化アルミニウム層L1の厚さTを100nm以下に調整した後、RC1(1-100)と同様のφスキャンによってRC2(1-100)が測定されてよい。窒化アルミニウム層L1の形成過程において窒化アルミニウム層L1の厚さTが100nm以下である時点においてRC2(1-100)が測定されてよく、窒化アルミニウム層L1の成長が完了した時点でRC1(1-100)が測定されてよい。上述の通り、窒化アルミニウム層L1の厚さTの増加(窒化アルミニウム層L1の成長)に伴って、窒化アルミニウム層L1の(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅が減少し易い。したがって、RC1(1-100)の半値全幅は、RC2(1-100)の半値全幅よりも小さい。
図7に示すように、窒化アルミニウムの(1-100)面がα‐アルミナの(1-100)面に略平行となるように、窒化アルミニウムの(0001)面がα‐アルミナの(11-20)面に対して平行に形成される場合、RC1(1-100)の半値全幅は、RC2(1-100)の半値全幅よりも大きい。
窒化アルミニウム層L1の厚さTは、50nm以上1000nm以下、好ましくは50nm以上500nm以下であってよい。窒化アルミニウム層L1の厚さTが50nm以上である場合、窒化アルミニウム層L1が十分に厚く、窒化アルミニウム層L1がサファイア層L2から受ける応力の影響が低減され易い。その結果、窒化アルミニウム層L1の表面SL1の面内方向において測定される窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅が、0秒以上500秒以下になり易い。窒化アルミニウム層L1の厚さTが500nm以上である場合、窒化アルミニウム層L1の形成に要する時間が長く、基板10の生産性が低下する。窒化アルミニウム層L1の厚さTが1000nm以上である場合、窒化アルミニウム層L1の厚さTの増加量に対するロッキングカーブの半値全幅の減少量の比率が小さくなる。つまり、窒化アルミニウム層L1の厚さTが1000nm以上である場合、窒化アルミニウム層L1を厚くすることの費用対効果が小さい。窒化アルミニウム層L1の厚さTは、上記の範囲に限定されない。例えば、窒化アルミニウム層L1の厚さTは、50nm以上5μm以下であってもよい。窒化アルミニウム層L1の厚さは、エリプソメーター(ellipsometer)によって測定されてよい。
サファイア層L2の厚さは、例えば、50μm以上3000μm以下であってよい。基板10全体の厚さは、サファイア層L2の厚さと窒化アルミニウム層L1の厚さTの合計である。
窒化アルミニウム層L1に含まれる添加元素Mは、希土類元素、アルカリ土類元素及びアルカリ金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種である。つまり、添加元素Mは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びラジウム(Ra)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
窒化アルミニウム層L1が添加元素Mを含む場合、窒化アルミニウム層L1の(11-20)面が、サファイア層L2の(1-100)面に略平行になり易く、窒化アルミニウム層L1が高い結晶性を有し易い。また窒化アルミニウム層L1が添加元素Mを含む場合、窒化アルミニウム層L1の形成過程において、窒化アルミニウム層L1の厚さTが増加し易く、窒化アルミニウム層L1の表面SL1が平滑になり易い。添加元素Mを含む窒化アルミニウム層L1の高い結晶性と表面の平滑性に因り、窒化アルミニウム層L1の表面SL1に形成される半導体層における結晶欠陥が抑制され易く、半導体層の結晶性も高まり、半導体層の平滑な表面が形成され易い。
添加元素Mは、窒化アルミニウム層L1とサファイア層L2との間の境界近傍に存在してよい。例えば、窒化アルミニウム層L1のうち窒化アルミニウム層L1及びサファイア層L2の境界に沿う境界領域が、上記の添加元素Mを含んでよい。境界領域が添加元素Mを含む場合、境界領域に応力が集中し易く、窒化アルミニウム層L1全体の反りが抑制され易い。反りが抑制された窒化アルミニウム層L1を備える基板10は、発光素子の製造に適している。境界領域が、Al、O及びNに比べてイオン半径が大きい添加元素Mを含む場合、境界領域に応力が集中し易い。境界領域に含まれる添加元素Mの少なくとも一部は、Eu及びCaのうち少なくとも一種であってよい。境界領域が、Eu及びCaのうち少なくとも一種を含むことにより、境界領域に起因する上記の効果が得られ易い。境界領域における添加元素Mの含有量の合計は、0.1質量ppm以上200質量ppm以下、又は10質量ppm以上200質量ppm以下であってよい。境界領域における添加元素Mの含有量の合計の最大値が、0.1質量ppm以上200質量ppm以下、又は10質量ppm以上200質量ppm以下であってよい。境界領域における添加元素Mの含有量の合計が0.1質量ppm以上(好ましくは10質量ppm以上)である場合、窒化アルミニウム層L1が、高い結晶性と十分な厚さTを有し易い。境界領域における添加元素Mの含有量の合計が200質量ppm以下である場合、窒化アルミニウム及びα‐アルミナ以外の組成物(例えば、添加元素Mに由来する化合物)が基板10中に形成され難く、窒化アルミニウム層L1が高い結晶性を有し易い。窒化アルミニウム層L1のうち境界領域を除く部分における添加元素Mの含有量の合計は、境界領域における添加元素Mの含有量の合計よりも小さくてよい。窒化アルミニウム層L1のうち境界領域を除く部分は、添加元素Mを含まなくてよい。窒化アルミニウム層L1における添加元素Mの含有量の合計は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1からサファイア層L2の表面SL2に向かう方向に沿って減少してよい。
上記の境界領域は、窒化アルミニウム層L1のうちサファイア層L2の表面SL2からの距離が1000nm以下、500nm以下、200nm以下、100nm以下、又は50nm以下である領域であってよい。境界領域は、Al,O、N、及び添加元素Mから選ばれる少なくとも一つの元素を含んでよい。境界領域は、Al、N及び添加元素Mのみから構成されてよい。境界領域は、Al、N、O及び添加元素Mのみから構成されてよい。境界領域は、Al、N及びOのみから構成されていてもよい。境界領域におけるNの含有量は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1からサファイア層L2の表面SL2に向かう方向に沿って減少してよい。一方、境界領域におけるOの含有量は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1からサファイア層L2の表面SL2に向かう方向に沿って増加してよい。
窒化アルミニウム層L1の結晶性が損なわれない限りにおいて、窒化アルミニウム層L1は、微量の酸窒化アルミニウムを含んでもよい。例えば、窒化アルミニウム層L1のうち上記の境界領域が、微量の酸窒化アルミニウムを含んでもよい。ただし、酸窒化アルミニウムは、窒化アルミニウム層L1の結晶性を損ない易い。また酸窒化アルミニウムは、光の反射の一因であり、基板10を備える発光素子の発光能を損ない易い。したがって、窒化アルミニウム層L1は酸窒化アルミニウムを含まないことが好ましい。酸窒化アルミニウムの具体的組成は限定されないが、例えば、酸窒化アルミニウムは下記化学式1で表されてよい。下記化学式1中のVpは、陽イオンの空孔であり、下記化学式1中のxは、2より大きく6未満である。
Al(64+x)/3Vp(8-x)/3O32-xNx (1)
窒化アルミニウム層L1の結晶性は、窒化アルミニウム層L1の表面SL1のOut‐оf‐Plane方向において測定される窒化アルミニウムの(0001)面のロッキングカーブに基づいて評価されてもよい。(0001)面のロッキングカーブの半値全幅が小さいほど、Out‐оf‐Plane方向における窒化アルミニウム層L1の(0001)面の配向度が高く、窒化アルミニウム層L1は結晶性に優れている。窒化アルミニウムの(0001)面のロッキングカーブは、窒化アルミニウム層L1の表面SL1のωスキャンによって測定される。
RC1(0001)は、窒化アルミニウム層L1の表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される窒化アルミニウムの(0001)面のロッキングカーブであり、RC2(0001)は、窒化アルミニウム層L1のうちサファイア層の表面からの距離が100nm以下である領域に含まれる窒化アルミニウムの(0001)面のロッキングカーブであり、RC2(0001)は、サファイア層の表面に略垂直なOut‐оf‐Plane方向において測定され、RC1(0001)の半値全幅は、RC2(0001)の半値全幅よりも小さくてよい。窒化アルミニウム層L1の厚さTの増加(窒化アルミニウム層L1の成長)に伴って、Out‐оf‐Plane方向における窒化アルミニウム層L1の(0001)面のロッキングカーブの半値全幅が減少し易い。FIBによる窒化アルミニウム層L1の表面SL1の切削により、窒化アルミニウム層L1の厚さTを100nm以下に調整した後、RC1(0001)と同様のωスキャンによってRC2(0001)が測定されてよい。窒化アルミニウム層L1の形成過程において窒化アルミニウム層L1の厚さTが100nm以下である時点においてRC2(0001)が測定されてよく、窒化アルミニウム層L1の成長が完了した時点でRC1(0001)が測定されてよい。
(基板の製造方法)
基板10の製造方法は、少なくともスパッタリング工程と、スパッタリング工程に続く還元窒化工程を備える。基板10の製造方法は、スパッタリング工程及び還元窒化工程に加えて、MOCVD工程を更に備えてよい。各工程の詳細は以下の通りである。
スパッタリング工程では、スパッタリングにより酸窒化アルミニウム層がサファイア基板の一方の表面に形成される。サファイア基板は、基板10を構成するサファイア層L2に相当する。サファイア基板の表面の方位は、[11-20]である。つまり、酸窒化アルミニウム層が形成されるサファイア基板の表面は、サファイア基板を構成するα‐アルミナの(11-20)面に平行である。サファイア基板の寸法(dimensiоn)及び形状は、特に限定されない。サファイア基板の厚さは、例えば、50μm以上3000μm以下であってよい。サファイア基板は、円盤(ウェハー)であってよい。ウェハーの直径は、例えば、50mm以上300mm以下であってよい。酸窒化アルミニウム層は、Al、O及びNを含む層である。酸窒化アルミニウム層の組成及び構造は限定されない。酸窒化アルミニウム層の厚さは、例えば、50nm以上1000nm以下であってよい。酸窒化アルミニウム層の厚さは、スパッタリングの継続時間、及びスパッタリング中のターゲット(Alの単体)に与えられる入力パワー(電力密度)によって制御されてよい。酸窒化アルミニウム層は、還元窒化工程において形成される窒化アルミニウム層の前駆体である。酸窒化アルミニウム層の厚さは、還元窒化工程において形成される窒化アルミニウム層の厚さと略同じであってよい。したがって、酸窒化アルミニウム層の厚さに基づいて、還元窒化工程において形成される窒化アルミニウム層の厚さが制御されてよい。酸窒化アルミニウム層の厚さは、エリプソメーターによって測定されてよい。スパッタリングは、窒素(N2)、酸素(O2)及びアルゴン(Ar)の混合ガス(原料ガス)中で実施されてよい。窒化アルミニウム層を構成するN及びOは、原料ガスに由来する。
還元窒化工程では、酸窒化アルミニウム層が形成されたサファイア基板を窒素ガス中で加熱することにより、酸窒化アルミニウム層が還元窒化される。酸窒化アルミニウム層の還元窒化により、酸窒化アルミニウム層中の酸素が窒素で置換され、酸窒化アルミニウム層が窒化アルミニウム層L1aになる。サファイア基板の表面ではなく酸窒化アルミニウム層を還元窒化することにより、窒化アルミニウム層L1aの(0001)面が、サファイア層L2の(11-20)面に略平行になり、窒化アルミニウム層L1aの(11-20)面が、サファイア層L2の(1-100)面に略平行になる。還元窒化工程では、酸窒化アルミニウム層の全体が窒化アルミニウム層L1aになってよい。つまり、還元窒化工程後、酸窒化アルミニウム層は残存しなくてよい。
還元窒化工程では、サファイア基板の表面ではなく、酸窒化アルミニウム層が還元窒化されるため、還元窒化の過程において、酸窒化アルミニウム層中の酸素が窒素で置換されるだけはなく、酸窒化アルミニウム層中のAlも熱に因って動き易い。その理由は、酸窒化アルミニウム層中のAlは、サファイア基板に由来するAlではなく、スパッタリング工程によってサファイア基板の表面に蒸着されたAlであり、強固な結晶構造中に固定されていないからである。還元窒化の過程で窒素だけでなくAlの位置も変動し易いので、サファイア基板の表面((11-20)面)の面内方向における窒化アルミニウム層L1aの結晶面の配向性が変動し易く、窒化アルミニウム層L1aの結晶構造が、エネルギーが低い状態へ安定化され易い。その結果、窒化アルミニウム層L1aの(11-20)面が、サファイア層L2の(1-100)面に略平行になる。
サファイア基板の表面((11-20)面)を直接還元窒化することによって、窒化アルミニウム層がサファイア基板の表面に形成される場合、サファイア基板中の酸素が窒素で置換されるが、サファイア基板を構成するAlは動き難い。その結果、還元窒化の過程において、サファイア基板の表面の面内方向における窒化アルミニウム層の結晶面の配向性は変動し難く、サファイア基板の結晶面の配向性と一致し易い。したがって、サファイア基板の表面が直接還元窒化される場合、窒化アルミニウム層の(0001)面は、サファイア層の(11-20)面に略平行になり得るが、窒化アルミニウム層の(1-100)面はサファイ層の(1-100)面に略平行になり易い。同様の理由から、サファイア基板の表面((11-20)面)を直接還元窒化することによって、サファイア層の表面に重なる酸窒化アルミニウム層と、酸窒化アルミニウム層に重なる窒化アルミニウム層が形成される場合も、窒化アルミニウム層の(0001)面は、サファイア層の(11-20)面に略平行になり得るが、窒化アルミニウム層の(1-100)面はサファイア基板の(1-100)面に略平行になり易い。
窒化アルミニウム層L1aの(11-20)面がサファイア層L2の(1-100)面に略平行になる理由は、還元窒化工程における上記メカニズムに限定されない。
還元窒化工程前に、添加元素Mが、酸窒化アルミニウム層の表面の一部又は全体に付着されることが好ましい。例えば、添加元素Mを含む有機金属化合物の溶液が、酸窒化アルミニウム層の表面に塗布されてよい。さらに、溶液が塗布されたサファイア基板を大気中で加熱することにより、有機成分のみが分解及び焼失されてよい。添加元素Mを含む有機金属化合物の溶液として、有機金属分解法(Metal Organic Decomposition: MOD)に用いられる有機金属化合物の溶液が用いられてよい。
還元窒化工程において、添加元素Mは、酸窒化アルミニウム層の還元窒化を促進する。つまり、添加元素Mが付着した酸窒化アルミニウム層が窒素ガス中で加熱される場合、添加元素Mが酸窒化アルミニウム層の表面から酸素(O2-)を引き抜き、酸素欠陥が酸窒化アルミニウム層の表面に形成される。窒素は酸素欠陥へ導入され、酸素欠陥を通じて酸窒化アルミニウム層の表面から酸窒化アルミニウム層の内部へ熱拡散し易い。還元窒化工程では、添加元素Mが窒素ガスと反応して添加元素Mの窒化物が生成してよい。Mの窒化物が酸窒化アルミニウム層中の酸素と反応して、添加元素Mの酸化物とAlNが生成してよい。上記のような添加元素Mの作用に因り、窒化アルミニウム層L1aの(0001)面が、サファイア層L2の(11-20)面に略平行になり易く、窒化アルミニウム層L1aの(11-20)面が、サファイア層L2の(1-100)面に略平行になり易く、窒化アルミニウム層L1aの結晶性が高まり易い。添加元素Mは窒化アルミニウム層L1a中に残存してよい。少なくとも一部の添加元素Mは、添加元素Mの酸化物として、窒化アルミニウム層L1aから離脱してもよい。
酸窒化アルミニウム層の表面に付着する少なくとも一部の添加元素Mは、ユウロピウム及びカルシウムのうち少なくとも一種であることが好ましい。酸窒化アルミニウム層の表面に付着する少なくとも一部の添加元素Mは、ユウロピウムであることがより好ましい。ユウロピウム又はカルシウムは、電気陰性度が比較的小さい元素である。したがって、ユウロピウム又はカルシウムは酸窒化アルミニウム層の表面から酸素(O2-)を引き抜き易く、酸素欠陥が酸窒化アルミニウム層の表面に形成され易い。その結果、窒素が酸素欠陥を介して酸窒化アルミニウム層内へ熱拡散し易い。また、ユウロピウム又はカルシウムは、添加元素Mの中でも比較的融点が低い元素である。したがって、ユウロピウム又はカルシウムは、低温においても、半ば液相として酸窒化アルミニウム層の表面全体へ拡散し易い。その結果、窒化アルミニウム層L1aの(0001)面が、サファイア層L2の(11-20)面に略平行になり易く、窒化アルミニウム層L1aの(11-20)面が、サファイア層L2の(1-100)面に略平行になり易く、窒化アルミニウム層L1aの結晶性が高まり易い。
還元窒化工程におけるサファイア基板の温度が1630℃以上になると、光の反射の一因である酸窒化アルミニウムがサファイア基板中に生成し易い。特にサファイア基板の温度が1700℃以上である場合、酸窒化アルミニウムがサファイア基板中に生成し易い。しかし、1680℃以下である温度で、添加元素Mが付着した酸窒化アルミニウム層が窒素ガス中で加熱される場合、サファイア基板中の酸窒化アルミニウムの生成を十分に抑制しながら、酸窒化アルミニウム層を還元窒化することができる。
上述の通り、ユウロピウム及びカルシウムは、比較的低温においても、酸窒化アルミニウム層の表面全体へ十分に拡散し易く、酸窒化アルミニウム層の表面から酸素を引き抜き易い。したがって、窒素ガス中で加熱されるサファイア基板の温度が、窒化アルミニウムが生成し難い低温であっても、ユウロピウム及びカルシウムのうち少なくとも一方を用いることにより、酸窒化アルミニウム層の還元窒化により、高い結晶性を有する窒化アルミニウム層L1aを形成し易い。窒化アルミニウムが生成し難い低温とは、例えば、1630℃未満又は1600℃以下である。しかし、添加元素Mを用いることにより、1630℃未満である温度で、サファイア基板中の酸窒化アルミニウムの生成を抑制しながら、高い結晶性を有する窒化アルミニウム層L1aを形成することができる。
ユウロピウム及びカルシウムよりも融点が高い添加元素Mを用いた場合、添加元素Mを酸窒化アルミニウム層の表面全体へ拡散させるために、ユウロピウム又はカルシウムを用いる場合よりも高温でサファイア基板を加熱しなければならない。しかし、サファイア基板の温度が高いほど、光の反射の一因である酸窒化アルミニウムがサファイア基板中に生成し易い。
窒素ガス中で加熱されるサファイア基板の温度(還元窒化温度)は、1550℃以上1700℃以下、1600℃以上1680℃以下、又は1600℃以上1630℃未満であってよい。窒素ガスを酸窒化アルミニウム層内へ熱拡散させるためには、還元窒化温度が少なくとも1550℃以上であることが好ましい。還元窒化温度が1700℃以下、より好ましくは1630℃未満である場合、サファイア基板中の酸窒化アルミニウムの生成を抑制することができる。添加元素Mが用いられない場合、1630℃以上の還元窒化温度において酸窒化アルミニウムがサファイア基板中で生成され易い。一方、添加元素Mが用いられる場合、1630℃未満又は1600℃以下である還元窒化温度で、サファイア基板中の酸窒化アルミニウムの生成を抑制しながら、酸窒化アルミニウム層を還元窒化することができる。還元窒化温度が1600℃以上1630℃未満である場合、窒化アルミニウム層L1aの(0001)面が、サファイア層L2の(11-20)面に略平行になり易く、窒化アルミニウム層L1aの(11-20)面が、サファイア層L2の(1-100)面に略平行になり易く、窒化アルミニウム層L1aの結晶性が高まり易い。
還元窒化の継続時間、添加元素Mの使用量、及び窒素ガスの分圧又は供給量は、酸窒化アルミニウム層の厚さに応じて制御されてよい。還元窒化の継続時間が長いほど、酸窒化アルミニウム層の還元窒化が促進される。酸窒化アルミニウム層の表面に付着する添加元素Mが多いほど、酸窒化アルミニウム層の還元窒化が促進される。窒素ガスの分圧又は供給量が大きいほど、酸窒化アルミニウム層の還元窒化が促進される。
還元窒化工程は、少なくとも二回実施されてよい。例えば、添加元素Mが用いられる場合、サファイア基板を上記の還元窒化温度で短時間加熱した後、より長時間にわたってサファイア基板を上記の還元窒化温度で加熱してよい。1度目の加熱により、添加元素Mが酸窒化アルミニウム層の表面全体に均一に拡散し易い。続く2度目の長時間の加熱により、窒素が酸窒化アルミニウム層の表面から内部へ斑なく拡散し易い。一回目の還元窒化工程の継続時間は、1時間以上8時間以下であってよい。二回目の還元窒化工程の継続時間は、1時間以上108時間以下であってよい。
窒素ガス中での酸窒化アルミニウム層の還元窒化は、炭素粉末の存在下で実施されてよい。添加元素Mによって酸窒化アルミニウム層から引き抜かれた酸素が、雰囲気中の炭素と反応して一酸化炭素が生成する。
以上の方法により、サファイア層L2の表面SL2に直接重なる窒化アルミニウム層L1aが形成される。以上の方法により、基板10が完成されてよい。説明の便宜のため、還元窒化工程において形成される窒化アルミニウム層L1aは、下地窒化アルミニウム層(base aluminum nitride layer)L1aと表記される。下地窒化アルミニウム層L1aは、上述された境界領域に相当する。
還元窒化工程に続くMOCVD工程により、下地窒化アルミニウム層L1aを更に成長させてもよい。説明の便宜のため、下地窒化アルミニウム層L1aの表面上に成長する窒化アルミニウム層は、バッファー層(buffer layer)L1bと表記される。つまり、窒化アルミニウム層L1は、サファイア層L2の表面SL2に直接重なる下地窒化アルミニウム層L1aと、下地窒化アルミニウム層L1aに直接重なるバッファー層L1bとからなっていてよい。MOCVD工程において用いられるバッファー層L1bの原料は、例えば、トリメチルアルミニウム(C6H18Al2)及びアンモニア(NH3)であってよい。
バッファー層L1bの結晶方位は、下地窒化アルミニウム層L1aの結晶方位と一致する。つまり、バッファー層L1b中の窒化アルミニウムの(0001)面は、サファイア層L2の表面SL2に略平行であり、バッファー層L1b中の窒化アルミニウムの(11-20)面は、サファイア層L2中のα‐アルミナの(1-100)面に略平行である。バッファー層L1bは、下地窒化アルミニウム層L1aの高い結晶性を引き継ぎ、下地窒化アルミニウム層L1aよりも高い結晶性を有することができる。例えば、バッファー層L1bの表面の面内方向において測定される窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅は、下地窒化アルミニウム層L1aの表面の面内方向において測定される窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅よりも小さい。バッファー層L1bの厚さの増加に伴って、バッファー層L1bの表面の面内方向において測定される窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅は減少し易い。
バッファー層L1bは十分に高い結晶性を有するので、バッファー層L1b上に形成される窒化物半導体層(発光層等)の結晶性も向上する。その結果、基板10から形成された発光素子の発光効率が高まる。したがって、MOCVD工程は、以下の後述される発光素子の製造過程において実施されてもよい。
仮に、下地窒化アルミニウム層L1a中の窒化アルミニウムの(0001)面が、サファイア層L2の表面SL2に略平行であり、サファイア層L2中のα‐アルミナの(11-20)面が、サファイア層L2の表面SL2に略平行であり、下地窒化アルミニウム層L1a中の窒化アルミニウムの(1-100)面が、サファイア層L2中のα‐アルミナの(1-100)面に略平行である場合、バッファー層L1b中の窒化アルミニウムの(1-100)面も、サファイア層L2中のα‐アルミナの(1-100)面に略平行であり、バッファー層L1bは下地窒化アルミニウム層L1aの結晶性を引き継ぎ難く、バッファー層L1bの結晶性は下地窒化アルミニウム層L1aの結晶性に劣る。
RC1(1-100)は、バッファー層L1bの表面の面内方向において測定されるバッファー層L1bの(1-100)面のロッキングカーブであってよく、RC2(1-100)は、下地窒化アルミニウム層L1aの表面の面内方向において測定される下地窒化アルミニウム層L1aの(1-100)面のロッキングカーブであってよく、RC1(1-100)の半値全幅は、RC2(1-100)の半値全幅よりも小さくてよい。
RC1(0001)は、バッファー層L1bの表面のOut‐оf‐Plane方向において測定されるバッファー層L1bの(0001)面のロッキングカーブであってよく、RC2(0001)は、下地窒化アルミニウム層L1aの表面のOut‐оf‐Plane方向において測定される下地窒化アルミニウム層L1aの(0001)面のロッキングカーブであってよく、RC1(0001)の半値全幅は、RC2(0001)の半値全幅よりも小さくてよい。
(発光素子)
本実施形態に係る基板10は、発光素子に用いられてよい。つまり本実施形態に係る発光素子は、上記の基板10を備える。発光素子が基板10を備えることにより、発光素子は高い発光効率を有することができる。例えば、本実施形態に係る発光素子は発光ダイオードであってよい。発光ダイオードは、例えば、UVC LED又はDUV LED等の深紫外線発光ダイオードであってよい。以下では、基板10を備える発光素子の一例として、図10に示される発光ダイオード100が説明される。ただし、本実施形態に係る発光ダイオードの構造は、図10に示される積層構造に限定されない。
本実施形態に係る発光ダイオード100は、基板10と、窒化アルミニウム層L1(バッファー層L1b)に重なるn型半導体層40と、n型半導体層40に重なる発光層42と、発光層42に重なるp型半導体層44と、n型半導体層40の表面に設置された第一電極48と、p型半導体層44の表面に設置された第二電極46と、を備える。障壁層(電子ブロック層)が発光層42とp型半導体層44との間に介在していてもよい。
窒化アルミニウム層L1(バッファー層L1b)がサファイア層L2とn型半導体層40との間に配置されることにより、サファイア層L2とn型半導体層40との間の格子不整合が抑制され、基板10に積層される各半導体層の結晶欠陥が抑制され易い。別のバッファー層が、窒化アルミニウム層L1(バッファー層L1b)とn型半導体層40との間に介在してもよい。別のバッファー層は、例えば、第13族元素の窒化物の単結晶からなっていてよい。例えば、別のバッファー層は、Al及びGaのうち少なくともいずれの窒化物の単結晶であってよい。
n型半導体層40は、例えば、n型の窒化ガリウム(n‐GaN)又はn型の窒化アルミニウムガリウム(n‐AlGaN)を含んでよい。n型半導体層40は、更にケイ素(Si)を含んでよい。n型半導体層40は、複数の層から構成されていてよい。発光層42は、例えば、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)又は窒化インジウムガリウム(InGaN)を含んでよい。発光層42は、複数の層から構成されていてよい。p型半導体層44は、例えば、p型の窒化ガリウム(p‐GaN)又はp型の窒化アルミニウムガリウム(p‐AlGaN)を含んでよい。p型半導体層44は、更にマグネシウム(Mg)を含んでよい。p型半導体層44は、複数の層から構成されていてよい。例えば、p型半導体層44は、発光層42に重なるp型クラッド層と、p型クラッド層に重なるp型コンタクト層とを有してよい。n型半導体層40に設置された第一電極48は、例えばインジウム(In)を含んでよい。p型半導体層44に設置された第二電極46は、例えばニッケル(Ni)及び金(Au)のうち少なくともいずれかを含んでよい。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
例えば、本実施形態に係る基板10の用途は、発光ダイオードに限定されない。本実施形態に係る基板10は、紫外線レーザー等の半導体レーザー発振器が備える基板であってもよい。つまり、本実施形態に係る発光素子は半導体レーザー発振器であってもよい。本実施形態に係る基板10は、パワートランジスタに用いられてもよい。本実施形態に係る基板10は、多様な半導体素子の基板に用いられてもよい。基板10を半導体素子の基板に用いることにより、半導体素子のパワーの損失が低減される。基板10は、圧電素子(例えば圧電薄膜素子)に用いられてよい。基板10を圧電素子に用いることにより、圧電素子の圧電特性が改善される。
以下では実施例及び比較例により本発明がさらに詳細に説明されるが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
<基板の作製>
スパッタリング工程では、直流マグネトロンスパッタリングにより、酸窒化アルミニウム層がサファイア基板の一方の表面に形成された。サファイア基板は、α‐アルミナの単結晶からなる基板である。サファイア基板の表面の方位は、[11-20]であった。つまり、酸窒化アルミニウム層が形成されたサファイア基板の表面は、α‐アルミナの(11-20)面に平行であった。サファイア基板は、円盤(ウェハー)であった。サファイア基板の直径は2インチであった。サファイア基板の厚さは、430μmであった。サファイア基板の厚さは、均一であった。酸窒化アルミニウム層の厚さT0は、下記表1に示される値に調整された。酸窒化アルミニウム層の厚さT0は、均一であった。スパッタリングの継続時間は10分であった。スパッタリングのターゲットには、金属Al(Alの単体)が用いられた。ターゲットに与えられる入力パワー(電力密度)は、700Wであった。スパッタリング中のサファイア基板の温度は、室温であった。スパッタリングは、窒素、酸素及びアルゴンの混合ガス中で実施された。
スピンコートにより、MOD用溶液が酸窒化アルミニウム層の表面全体に塗布された。MOD用溶液は、Caの化合物(有機化合物)を含有していた。Caは、添加元素Mである。MOD用溶液におけるCaの化合物の濃度[Ca]は、下記表1に示す値に調整された。スピンコートは、2000rpmで20秒間実施された。MOD用溶液の塗布後、サファイア基板が、150℃のホットプレート上で10分間乾燥された。サファイア基板の乾燥後、サファイア基板が、空気中において600℃で2時間加熱された。MOD工程を用いた上記工程は、MOD工程と表記される。
MOD工程後のサファイア基板がアルミナ板上に載せられ、5mgのカーボンの粉末(計20mgのカーボン)が基板の周囲の4か所其々に配置された。MOD用溶液が塗布された表面(窒化アルミニウム層の表面)は、アルミナ板に接することなく露出していた。アルミナ板の寸法は、縦100mm×横100mmであった。続いて、サファイア基板の全体をアルミナ匣鉢(Saggar)で覆った後、サファイア基板が窒化処理炉内の試料設置台に設置された。アルミナ匣鉢の寸法は縦75mm×横75mm×高さ70mmであった。窒化処理炉としては、カーボンをヒーターとする抵抗加熱型の電気炉が用いられた。窒化処理炉内でサファイア基板を加熱する前に、回転ポンプと拡散ポンプを用いて0.03Paまで炉内が脱気された。次いで、炉内の気圧が100kPa(大気圧)になるまで、窒素ガスを炉内へ流した後、窒素ガスの供給が停止された。炉内への窒素ガスの供給後、還元窒化工程では、炉内のサファイア基板が1600℃で20時間加熱された。還元窒化工程においてサファイア基板が1600℃で加熱される時間は、「還元窒化時間」と表記される。還元窒化工程における炉内の昇降温速度は600℃/時間に調整された。還元窒化時間の経過後、サファイア基板を室温まで冷却した後、サファイア基板が炉外へ取り出された。
以上の手順で実施例1の基板が作製された。下記の分析及び測定のために、実施例1の基板として、複数の同じ基板が作製された。
<分析1>
以下のX線回折(XRD)法では、入射X線としてCuの特性X線(CuKα線)が用いられた。以下に記載の基板の表面は、MOD工程においてMOD用溶液が塗布された表面に対応する。
基板のOut‐оf‐Plane方向において、基板の表面のXRDパターンが測定された。実施例1のXRDパターンは、AlNの(0002)面に由来する回折線のピークを有していた。AlNの(1102)面の極図がXRD法で測定された。極図は、6回の回転対称性を示す6つのピークを有していた。XRDパターンは、AlN及びα‐アルミナ以外の結晶相に由来する回折線ピークを有していなかった。例えば、XRDパターンは、酸窒化アルミニウム(AlON)の結晶相に由来するピークを有していなかった。上記の測定結果は、AlNの単結晶からなる窒化アルミニウム層がサファイア層(サファイア基板)の表面に直接重なっていることを示していた。また上記の測定結果は、窒化アルミニウム層の(0001)面が、サファイア層の表面に平行であることを示していた。つまり、窒化アルミニウム層の(0001)面は、サファイア層の(11-20)面に平行であった。
窒化アルミニウム層の表面の面内方向においてXRDパターンが測定された。このXRDパターンに基づき、α‐アルミナの(1-100)面と窒化アルミニウムの(1-100)面との間の角度が特定された。α‐アルミナの(1-100)面と窒化アルミニウムの(1-100)面との間の角度は、30度であった。したがって、窒化アルミニウムの(11-20)面は、α‐アルミナの(1-100)面に平行であった。
φスキャンにより、窒化アルミニウム層の表面の面内方向における窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブが測定された。面内方向における窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅FWHMaは、下記表1に示される。
実施例1の基板の表面をスパッタリングで徐々に掘りながら、窒化アルミニウム層の表面からの深さ方向に沿って、基板の組成が分析された。深さ方向とは、窒化アルミニウム層の表面に垂直であり、窒化アルミニウム層の表面からサファイア層の表面へ向かう方向である。組成の分析には、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)及びSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)が用いられた。深さ方向に沿った分析では、Al及びNのみを含む部分が検出された後、アルミニウム、窒素及び酸素が混在した部分が検出された。アルミニウム、窒素及び酸素が混在した部分では、Ca(添加元素M)も検出された。つまり分析の結果は、窒化アルミニウム層がCa(添加元素M)を含むことを示していた。アルミニウム、窒素及び酸素が混在した部分におけるCaの含有量は、それ以外の部分よりも高かった。窒化アルミニウム層におけるCaの含有量の最大値<Ca>maxは、下記表1に示される。
実施例1の窒化アルミニウム層の厚さTが、エリプソメーターで測定された。実施例1の窒化アルミニウム層の厚さTは、下記表1に示される。
以上の分析によって特定された窒化アルミニウム層は、下地窒化アルミニウム層である。
<バッファー層の形成>
MOCVD工程により、窒化アルミニウム層を下地窒化アルミニウム層の表面に成長させた。つまりMOCVD工程により、AlNの単結晶からなるバッファー層が、下地窒化アルミニウム層の表面に形成された。バッファー層の原料として、トリメチルアルミニウム及びアンモニアが用いられた。バッファー層の厚さは、2μmに調整された。
<分析2>
分析1と同様の方法で、バッファー層の表面においてXRDパターンが測定された。バッファー層の表面において測定されたXRDパターンから特定された窒化アルミニウムの各結晶面の方位は、下地窒化アルミニウム層の表面において測定されたXRDパターンから特定された窒化アルミニウムの各結晶面の方位と一致した。
φスキャンにより、バッファー層の表面の面内方向における窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブが測定された。バッファー層の面内方向における窒化アルミニウムの(1-100)面のロッキングカーブの半値全幅FWHMbは、下記表1に示される。
(実施例2~5)
実施例2~5其々のスパッタリング工程では、酸窒化アルミニウム層の厚さT0が、下記表1に示される値に調整された。実施例2~5其々のMOD工程では、MOD用溶液におけるCaの化合物の濃度[Ca]が、下記表1に示す値に調整された。実施例2~5其々の還元窒化工程では、還元窒化時間が下記表1に示す値に調整された。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~5其々の基板が作製された。実施例1と同様の方法で、実施例2~5其々のバッファー層が形成された。
実施例1と同様の方法で、実施例2~5其々の分析1が行われた。実施例2~5のいずれの場合も、AlNの単結晶からなる下地窒化アルミニウム層がサファイア層の表面に直接重なっていた。実施例2~5のいずれの場合も、下地窒化アルミニウム層の(0001)面が、サファイア層の表面に平行であった。つまり実施例2~5のいずれの場合も、下地窒化アルミニウム層の(0001)面は、サファイア層の(11-20)面に平行であった。
実施例2~5のいずれの場合も、窒化アルミニウムの(11-20)面は、α‐アルミナの(1-100)面に平行であった。
実施例2~5のいずれの場合も、深さ方向に沿った分析では、Al及びNのみを含む部分が検出された後、アルミニウム、窒素及び酸素が混在した部分が検出された。実施例2~5のいずれの場合も、アルミニウム、窒素及び酸素が混在した部分では、Caも検出された。つまり実施例2~5のいずれの場合も、下地窒化アルミニウム層がCaを含んでいた。実施例2~5のいずれの場合も、アルミニウム、窒素及び酸素が混在した部分におけるCaの含有量は、それ以外の部分よりも高かった。
実施例1と同様の方法で、実施例2~5其々の分析2が行われた。実施例2~5のいずれの場合も、バッファー層の表面において測定されたXRDパターンから特定された窒化アルミニウムの各結晶面の方位は、下地窒化アルミニウム層の表面において測定されたXRDパターンから特定された窒化アルミニウムの各結晶面の方位と一致した。
実施例2~5其々の<Ca>maxは、下記表1に示される。実施例2~5其々の下地窒化アルミニウム層の厚さTは、下記表1に示される。実施例2~5其々のFWHMaは、下記表1に示される。実施例2~5其々のFWHMbは、下記表1に示される。
(比較例1)
比較例1の基板の作製では、スパッタリング工程は実施されず、酸窒化アルミニウム層は形成されなかった。比較例1のMOD工程では、MOD用溶液がサファイア基板の表面全体に直接塗布された。比較例1のMOD工程では、MOD用溶液におけるCaの化合物の濃度[Ca]が、下記表1に示す値に調整された。比較例1の還元窒化工程では、還元窒化時間が下記表1に示す値に調整された。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1の基板が作製された。実施例1と同様の方法で、比較例1のバッファー層が形成された。
実施例1と同様の方法で、比較例1の分析1が行われた。比較例1の場合、AlNの単結晶からなる下地窒化アルミニウム層がサファイア層の表面に直接重なっていた。比較例1の場合、下地窒化アルミニウム層の(0001)面が、サファイア層の表面に平行であった。つまり比較例1の場合、下地窒化アルミニウム層の(0001)面は、サファイア層の(11-20)面に平行であった。
比較例1の場合、α‐アルミナの(1-100)面と窒化アルミニウムの(1-100)面との間の角度は、ゼロ度であった。したがって、比較例1の場合、窒化アルミニウムの(1-100)面は、α‐アルミナの(1-100)面に平行であった。
比較例1の場合、深さ方向に沿った分析では、Al及びNのみを含む部分が検出された後、アルミニウム、窒素及び酸素が混在した部分が検出された。比較例1の場合、アルミニウム、窒素及び酸素が混在した部分では、Caも検出された。つまり比較例1の場合、下地窒化アルミニウム層がCaを含んでいた。比較例1の場合、アルミニウム、窒素及び酸素が混在した部分におけるCaの含有量は、それ以外の部分よりも高かった。
実施例1と同様の方法で、比較例1の場合の分析2が行われた。比較例1の場合、バッファー層の表面において測定されたXRDパターンから特定された窒化アルミニウムの各結晶面の方位は、下地窒化アルミニウム層の表面において測定されたXRDパターンから特定された窒化アルミニウムの各結晶面の方位と一致した。
比較例1の場合の<Ca>maxは、下記表1に示される。比較例1のFWHMaは、下記表1に示される。比較例1のFWHMbは、下記表1に示される。