以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、1つの側面において、表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔の間に配設されたセパレータと、を備え、
前記陽極箔及び前記陰極箔の間の前記セパレータを除く空隙には、導電性高分子化合物を含む固体電解質相と、前記固体電解質相を取り囲むように存在しかつ液状物質を含む液状物質相と、を含むハイブリッド型固体電解コンデンサであって、
前記セパレータの基材は、水酸基を有する高分子を主成分として含み、
前記液状物質相は、さらに塩基成分を含み、かつ、酸成分を含んでも含まなくてもよく、
前記液状物質相における前記塩基成分と前記酸成分の量が、(前記塩基成分の当量数)>(前記酸成分の当量数)≧0の関係式を満たすことを特徴とする固体電解コンデンサにある。
(固体電解コンデンサの構造)
図1及び図2は、本発明の実施態様の固体電解コンデンサ(以下、単に固体電解コンデンサともいう。)の例を説明するために示す図である。図1(a)は固体電解コンデンサ1の断面図であり、図1(b)はコンデンサ素子20の一部分解斜視図である。図2は、固体電解コンデンサ1の要部を説明するために示す断面図である。
図1(a)を参照すると、固体電解コンデンサ1は、巻回型の固体電解コンデンサであって、有底筒状の金属等の外装ケース10と、コンデンサ素子20と、封口部材40とを備える。
外装ケース10の底面部は、ほぼ円形形状をしており、中心付近に弁(図示せず)が設けられている。このため、内圧が上昇した際に、当該弁が割れて内圧を外部に逃がすことができる構造となっている。外装ケース10の側面部は、底面部の外縁からほぼ垂直な方向に立設されている。外装ケース10の開口部は、封口部材40によって封口され、封口部材40に設けられた貫通穴を通してコンデンサ素子20の2つのリード28,29が外部に引き出されている。
コンデンサ素子20は、外装ケース10の内部に収納され、図1(b)に示すように、陽極箔21と、陰極箔23と、陽極箔21と陰極箔23との間に配設されたセパレータ25とを備え、セパレータ25を介して陽極箔21と陰極箔23とが重ね合わせて巻回されている。
陽極箔21は、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属から形成されている。陽極箔21の表面は、エッチング処理により粗面化された後、化成処理によって酸化皮膜22が形成されている(図2参照)。陰極箔23も、陽極箔21と同様に、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属から形成されている。陰極箔23の表面は、陽極箔21と同様にエッチング処理により粗面化された後、自然酸化または化成処理によって酸化皮膜24が形成されている。陽極箔21及び陰極箔23は、それぞれリード28,29と電気的に接続されている。
セパレータ25の幅は、陽極箔21及び陰極箔23の巻回幅よりも大きく、セパレータ25は、陽極箔21及び陰極箔23を挟み込むように重ね合わされている。セパレータ25としては、例えば、導電性高分子粒子や親水性高分子化合物などの液状物質と化学的に馴染み易いセルロース繊維で形成されたものが好ましく用いられる。
封口部材40は、内部から外部への液状物質の飛散を防止するとともに外部から内部への異物(例えば、水分、塩素、微粉など。)の侵入を防止するために高気密性を有し、外装ケース10やリード28,29との密着性を担保するために適度な弾力性を有し、さらには、これらの気密性や弾力性に関する性能を高温状態や低温状態においても維持可能な材料を選択することが好ましい。そのような材料として、例えば、エチレン・プロピレン・ターポリマー(EPT)、イソブチレン・イソプレンゴム(IIR)、EPT-IIRブレンドゴム、シリコーンゴムなどのゴム材料や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などの樹脂とゴムとを貼り合わせたゴム複合材料を好適に用いることができる。なかでも、気密性に優れたイソブチレン・イソプレンゴム(IIR)を特に好適に用いることができる。
図2を参照すると、固体電解コンデンサ1の陽極箔21と陰極箔23の間にセパレータ25、固体電解質26、液状物質27を含む部分を拡大して模式的な断面図として示す。この図はあくまでも説明のためであり、本発明はこの図の形態に限定されない。
陽極箔21、陰極箔23の表面は比表面積を増大させるために粗面化されてピット(図2では波状の穴として示されている)が形成されている。ピットを有する陽極箔21と陰極箔23の表面には、上記のように、陽極箔21の表面は化成処理によって酸化皮膜22が形成され、陰極箔23の表面は自然酸化または化成処理によって酸化皮膜24が形成されている。図1(b)に示すように陽極箔21と陰極箔23の間にはセパレータ25が挟まれているが、図2ではセパレータ25を構成する繊維の断面を示している。
陽極箔21と陰極箔23の間のセパレータ25を除く空隙(第一の空隙)に、粒子状の導電性高分子化合物からなる固体電解質26が充填されている。導電性高分子化合物は、粒子同士が凝集して、固体電解質相を形成している。固体電解質26は上記のように固体電解質相を構成するが、固体電解質相は、導電性高分子化合物に加えて添加剤(図示せず)を含むことができる。
第一の空隙のうち固体電解質相が占める残りの空隙(第二の空隙)に、液状物質27が導入されており、液状物質27は図2ではハッチング領域として示されている。第二の空隙に導入されている液状物質27は、固体電解質相を取り囲むように存在して、液状物質相を構成する。固体電解質相と液状物質相とは、境界領域で相互侵入あるいは混合があってもよいが、2つの相はそれぞれ別の相として存在している。液状物質相は、第二の空隙を充満して、陽極箔21及び陰極箔23の表面を多く濡らし、また固体電解質相とセパレータとの間に多く介在することは好ましいが、必ずしも第二の空隙を完全に充満しなくてもよい。液状物質相は固体電解質相を取り囲むように存在するが、これらの相の界面において液状物質相の成分と固体電解質相の成分との混合相が形成されてよい。
(セパレータ)
セパレータは、多孔質あるいは空隙を有するシート状の電気絶縁材料からなり、陽極箔及び陰極箔の間に配置されてそれらの間でのショートを防止するとともに、セパレータ内の空隙に固体電解質相や液状物質相を保持して、陽極箔及び陰極箔の間に介在している部材である。セパレータの形態としては、内部に空隙を有するシート状の構造物として、抄紙、不織布、発泡体などが用いられる。
セパレータの基材は、電気絶縁材料からなればよいが、水酸基を有する高分子を主成分とする基材を含むものが、導電性高分子粒子や親水性高分子化合物などの液状物質と化学的に馴染み易いので、好適である。水酸基を有する高分子を主成分とする基材としては、天然繊維、再生繊維(レーヨンなど)、合成繊維あるいはその混合物のいずれでもよく、特に、天然繊維またはレーヨンが好ましく用いられる。また、水酸基を有する高分子としては、天然、半合成、合成材料あるいはその混合物のいずれでもよく、例えば、セルロースまたはヘミセルロースが好ましく用いられる。セパレータの基材は、水酸基を有する高分子以外の各種の天然、合成及び半合成繊維材料などとの混合物でよい。しかし、セパレータが、水酸基を有する高分子を含むと、固体電解質相の導電性高分子化合物の酸基を含むドーパント、とりわけスルホン酸基を有するドーパントにおいて、遊離ドーパントのスルホン酸基、またはドーパントより脱離したスルホン酸基が水酸基と反応して、セパレータを劣化させ、また生成される水が特にリフローの際などに気化してコンデンサを膨らませ、コンデンサを劣化、損傷するという問題があった。本発明は液状物質相に塩基成分を添加することによってこの劣化反応を防止又は抑制する。
(固体電解質相)
本発明の固体電解コンデンサは、陽極箔及び陰極箔の間のセパレータを除く空隙(第一の空隙)に、導電性高分子化合物を含む固体電解質相を含む。固体電解質相を構成する導電性高分子化合物は、π電子共役系の高分子化合物であってよく、好適には導電性を発現又は向上させるためにドーパントを含む、主として電子、正孔導電性の高分子化合物である。
固体電解コンデンサに用いる導電性高分子化合物は、公知であり(例えば、WO2017/043183号など)、また市販もされている。代表的な導電性高分子化合物としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリ(p-フェニレン)、ポリフルオレン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチエニレンビニレンなどがある。さらにドーパントとして、トルエンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリアクリル酸などのアニオンが用いられる。
中でもp-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS)などのスルホン基を有する有機化合物、特に高分子化合物、より特定的にはポリスチレンスルホン酸(PSS)でドープした、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が好ましく用いられる。
このような導電性高分子化合物を電極箔間に導入する方法としては、例えば、モノマーと重合開始剤(ドーパントと酸化剤、触媒など)を電極箔上に塗布し、又は電極箔間に含浸し、重合させて、電極箔上に導電性高分子層を付着形成する化学重合タイプの方法と、電極箔とセパレータを巻回して形成した素子に微粒子状の導電性高分子の水分散液を含浸し、水を蒸散させて導電性高分子を電極箔間に充填する分散液タイプの方法と、自己ドープした導電性高分子化合物が溶解した溶液を素子に含浸、乾燥して充填する溶液タイプの方法がある。
化学重合タイプの例としては、エチレンジオキシチオフェンとp-トルエンスルホン酸鉄(III)を電極箔上で重合させるもの(PEDOT/PTS)があるが、このタイプの導電性高分子化合物は重合後に洗浄しても酸化剤、特に鉄が残留して、ショートの危険性があり、pHが低下して酸化皮膜にダメージを与える可能性があるので、低圧タイプとして使用されている。
分散液タイプの例としては、限定されるものではないが、重合後のポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)粒子を水に分散させた分散液(重合触媒等の不純物を除去した分散液)を素子に含浸、乾燥して、電極箔間に充填するものがある。この分散液タイプでは、重合触媒等の不純物を除去した分散液を用いることができるので、化学重合タイプにおける酸化剤残留の問題がなく、高圧タイプとして使用できる。本発明の固体電解コンデンサは、すべてのタイプの導電性高分子化合物を用いた固体電解コンデンサに適用できるが、特に分散液タイプの導電性高分子化合物は、高圧タイプとして使用可能であるので、好ましい固体電解コンデンサである。
溶液タイプの例としては、アルキルスルホン酸基などで自己ドープしたチオフェン系の導電性高分子化合物が溶解した溶液を素子に含浸、乾燥して、電極箔間に充填するものがあるが、最近上市されたものである。溶液タイプも高圧タイプとして使用可能である。
上記のような導電性高分子化合物において、ドーパントは、π電子共役系高分子化合物などの導電性高分子化合物本体にドープされる成分、ドープされている成分であり、特には導電性高分子化合物本体に対して導電性を向上させる成分である。代表的なドーパントとしては、スルホン酸基などの酸基を有する成分(酸成分)が用いられており、例えば、ビニルスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソブチレンスルホン酸、ポリアクリロニトリルエチルスルホン酸、ポリアクリロニトリルブチルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)などがあるが、特にp-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS)などが好適に用いられる。
導電性高分子化合物に含まれるドーパントは、導電性高分子化合物にドープされて、導電性高分子化合物の一部をなす成分あるいは導電性高分子化合物と協働する成分であり、液体成分に含まれてもよい酸成分とは異なり、区別される成分である。特に高分子化合物からなるドーパントは導電性高分子化合物と結合又は作用して導電性高分子化合物と一体的に存在する。例えば、好ましい導電性高分子化合物である分散液タイプのポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)粒子は、ポリスチレンスルホン酸(PSS)とポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とが互いに結合又は作用し形成した二次構造をもつ複合高分子が絡まりあった三次構造をもつ粒子(微粒子)、さらには三次構造を持つ粒子が凝集した四次構造をもつ粒子(微粒子)であると考えられている。
本発明において導電性高分子化合物は、化学重合タイプでもよいが、好ましくは、分散液タイプの導電性高分子化合物であり、微粒子状の導電性高分子化合物である。分散液タイプの導電性高分子化合物では、電極箔間に導入する前に、未反応モノマー、酸化剤、重合触媒などの重合反応の残渣(不純物)を除去することができるので、コンデンサの耐電圧性に優れることができる。微粒子状導電性高分子化合物の平均粒子径は、典型的には1nm~300nmの範囲内、例えば2nm~250nm、あるいは3nm~200nmである。微粒子状導電性高分子化合物は、それ自体に凝集性があり、濃度を例えば数体積%まで高くすると、微粒子同士が凝集して分散液の取り扱いが難しくなる傾向がある。したがって、分散液タイプでは、一回の含浸によって電極箔間に導入できる微粒子状導電性高分子化合物の量は限られており、導入量を多くする場合には含浸回数を増やすが、限界がある。一般的には数回(2~3回)の含浸がなされている。微粒子状導電性高分子化合物は、電極箔間に導入されると、凝集した形態で存在すると考えられるが、微粒子状導電性高分子化合物が凝集していると導電性を高くできるので好ましい。
本発明の好適な態様において、固体電解質相は分散液タイプであり、電極箔間のセパレータを除く空隙に、その空隙に対して外部から導入される。このとき、固体電解質相はその空隙に導入される前に、分散液または溶液に含まれる導電性高分子化合物の未反応モノマー、酸化剤、重合触媒などの重合反応の残渣(不純物)や後述する添加剤の残渣を事前に除去することができるので、固体電解コンデンサは高圧タイプであることができ、その定格電圧は例えば35V以上、75V以上、さらには100V以上であることができる。
本発明における固体電解質相には、導電性高分子化合物とともに添加剤を含んでもよい。固体電解質相に導電性高分子化合物とともに含まれる添加剤は、固体電解質としての導電性高分子化合物の導電性などの特性を向上させる目的や酸化皮膜の欠損修復やその他の目的で、導電性高分子化合物を合成する際、あるいは導電性高分子分散液を調合する際に添加される成分である。添加剤の例としては、導電性向上剤、イオン伝導性化合物、アルカリ(塩基)性化合物(pH調整剤)、水溶性化合物、水分散性化合物などがある。具体的には、窒素含有化合物、ヒドロキシル基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物、ヒドロキシル基およびカルボキシル基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物、シランカップリング剤、アクリル化合物、水溶性有機溶媒、コロイダルシリカ、水溶性シリコーン、無機酸及びそのエステル(リン酸、リン酸エステル)などがある。本発明の固体電解コンデンサにおいて、固体電解質相が導電性高分子化合物とともに添加剤を含むことは好ましいが、添加剤は必ずしも含まなくてもよい。
本発明の固体電解コンデンサにおいて、固体電解質相に導電性高分子化合物とともに含まれる添加剤は、導電性高分子化合物の導電性向上など導電性高分子化合物の改質を目的とするものであり、導電性高分子化合物の合成時に、あるいは導電性高分子分散液を調合する際に、添加される成分であり、また導電性高分子化合物が電極箔間に導入された後に溶媒は除去、乾燥処理される。そのため、固体電解質相に含まれる添加剤は、導電性高分子化合物に付着しあるいは混合されており、導電性高分子化合物に作用できるように導電性高分子化合物と一体的に存在して、導電性向上などの目的の作用を担う成分である。添加剤は導電性高分子化合物と一体的に存在して固体電解質相を形成している。添加剤は導電性高分子化合物の凝集体の外側にも存在してよいが、液状物質相のように固体電解質相を取り囲んで独立の相(分離相)として存在する相とは区別される。一般的に、添加剤は導電性高分子化合物に対して強く相互作用し、または均質に混合しており、液状物質よりも流動性が低い状態で存在する。本発明の固体電解コンデンサから、例えば、液状物質相を除去した後に、導電性高分子化合物と添加剤を含む固体電解質相が残るという関係である。固体電解質相と液状物質相の境界領域に両相の混合相が存在してもよい。固体電解コンデンサから液状物質(相)を除去する方法は、限定されないが、例えば、液状物質(相)を自由落下や吸引するほか、遠心分離などを利用してもよい。
電極箔間のセパレータを除く空隙に導入される導電性高分子化合物を含む固体電解質相の含有量は、その空隙の体積に対して1~70体積%、1.5~60体積%、さらには2~50体積%であってよい。1体積%より多いと、導電性が向上し、コンデンサのESRを低減できる。70体積%より多くてもよいが、70体積%より多くすることはコスト高になり、あるいは技術的に困難がある。電極箔間のセパレータを除く空隙(第一の空隙)の体積は、例えば、その空隙に適当な液体を充満させて、その液体の量と密度から計算して求めることができる。その空隙に導入された固体電解質相の体積は、例えば、導入前後の素子の重量測定で求めた導入された固体電解質相の重量と密度から計算することができる。あるいは例えば、固体電解質導入後の素子の空隙に適当な液体を充満させて、その液体の量と密度から計算して求めた電極箔間のセパレータ及び固体電解質相を除く空隙(第二の空隙)の体積から、第一の空隙の体積を差し引いて求めることができる。上記の固体電解質相の含有量は、液状物質を導入する前の固体電解質相の量であり、液状物質を導入後に液状物質相との界面に両相の混合相が形成されていない場合には、電解コンデンサにおける固体電解質相の含有量と一致する。また、固体電解質相から液状物質相に溶解する成分が微量であれば、溶解成分は無視してよい。液状物質を導入後に液状物質相との界面に両相の混合相が形成される場合には、混合相を除いた固体電解質相の量が上記の含有量を満たしていればよい。さらに、混合相を分析して最初に導入された固体電解質相の含有量を求めて、その量が上記の範囲を満たしていれればよい。なお、本開示において、特に断らない限り、混合相は例外的であるので無視して、導電性高分子化合物を含む領域が固体電解質相であるとして固体電解質相を説明している。
(液状物質相)
本発明において、液状物質相は、使用温度、少なくとも使用温度の一部の温度において液状であり、電極箔間の空隙に固体電解質相を取り囲むように存在し、固体電解質の機能を向上又は補完する機能を有する液状物質を含む相、機能性の液体(液状)相である。液状物質相は、物質の種類に関係なく、液状(液体)であることによって、固体電解質相に含まれる添加剤と違い、固体電解質相の形成工程より後から導入でき、またセパレータと固体電解質相の間の細部まで、結果として大量に導入できる特質がある。液状物質相は、少なくとも、液状であるがゆえにセパレータと固体電解質相の間に好ましく存在できて、固体電解質相から遊離するドーパントによるセパレータの劣化反応を抑制する機能(効果)を有する。しかし、液状物質相は、液状物質(相)が特定の成分を含むことで様々の有用な機能を有することができ、これらの有用な機能を発揮する点でより重要な機能性の液体相である。
液状物質相を構成する液状物質としては、上記の最低限の機能性液体の意味では単なる有機溶媒、とくに高分子の有機溶媒であってもよく、限定されないが、好ましくは、例えば、電解液のほか、親水性高分子化合物、水酸基を有する成分、例えばポリオキシアルキレン及びその誘導体(ポリグリセリン)、水溶性ポリウレタン、水溶性ポリエステル、水溶性ポリアミド、水溶性ポリイミド、水溶性ポリアクリル、水溶性ポリアクリルアミド、水溶性シリコーン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸など、あるいはその混合物が用いられる。このように電極箔間のセパレータと固体電解質相の残りの空隙(第二の空隙)に液状物質相を含む固体電解コンデンサは、空隙に液状物質相を含まない固体電解コンデンサに対して、追加の機能を有するので、ハイブリッド型固体電解コンデンサと称される。
液状物質相が好適に有する代表的な機能としては、酸化皮膜の修復機能がある。酸化皮膜の修復は、電解液のほか、例えば、親水性高分子化合物や、水酸基を有する成分、例えばポリオキシアルキレン及びその誘導体(ポリグリセリン)、水溶性ポリウレタン、水溶性ポリエステル、水溶性ポリアミド、水溶性ポリイミド、水溶性ポリアクリル、水溶性ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、水溶性シリコーンなどによって達成されうる。電解液による酸化皮膜の欠損修復機能は知られているが、例えば、液状物質相が、親水性高分子化合物を含むと、親水性高分子化合物は水分を保持することができるので、保持する水分により好ましく酸化皮膜の欠損を修復することができる。酸化皮膜の欠損は、固体電解コンデンサの作製時に、あるいは固体電解コンデンサの長時間使用時に発生する可能性があるが、いずれの場合にも、親水性高分子化合物が保持する水分が欠損部の電極箔金属と反応することによって酸化皮膜を修復することができる。その結果、耐電圧が高く、漏れ電流が低く、寿命の長い固体電解コンデンサを得ることができる。
本発明において、液状物質相とは、特に大気圧(1気圧)常温(25℃)において、液状(液体)である相をいうが、使用温度あるいはその一部において液状であることが好ましい。液状とは流動性を有することをいい、粘性を有する物質であってもよい。液状物質相は、液状(液体)であることにより、電極箔間のセパレータと固体電解質相の残りの空隙の細部まで含浸、充填することができる。空隙の細部にまで導入できるので、より大量に導入できるとともに、空隙の細部にまで行き渡ることが可能であるので、有効成分が酸化皮膜の修復その他の機能が求められる部位に確実に到達できる。本発明では、液状物質相に塩基成分を含むことで、塩基成分が遊離のドーパントとセパレータとの反応を抑制することを特徴とするが、塩基成分が液状物質に含まれることで、塩基成分が遊離のドーパント(過剰なドーパントが固体電解質相から遊離)とより容易に、より確実に会合できるという効果がある。
なお、本発明において、液状物質相は、液状物質を含む領域である。固体電解質相を形成後に液状物質を導入すれば、通常は、導入された液状物質が液状物質相をなすが、例外的に、固体電解質相中の添加剤によっては、固体電解質相との境界領域に液状物質相の成分と固体電解質相の成分との混合相が形成されてもよい。本発明の電解コンデンサは、液状物質相が前記所定の量の塩基成分を含むことを特徴とする。液状物質相の成分と固体電解質の成分との混合相がなければ、液状物質相は液状物質を含む領域と一致する。固体電解質相の成分との混合相を有する場合には、本発明の電解コンデンサは、混合相を除く液状物質相が前記所定の量の塩基成分を含めば、それでよい。また、固体電解質相から液状物質相に溶解する成分が微量であれば、その溶解成分は無視してもよい。さらに、必要であれば、混合相を分析して、混合相が形成される前の液状物質相の組成を求めることは可能であり、本開示においては、混合相に含まれる液状物質を含めて液状物質が前記所定の量の塩基成分を含んでいればよい。なお、本開示において、液状物質相と液状物質の用語は、特に断らない限り、混合相は例外的であるので無視して、液状物質を含む領域が液状物質相であるとして、簡単のために互換的な意味で用いている。
本発明の好適な実施態様として液状物質相に含まれてよい親水性高分子化合物は、親水基を有する高分子化合物であり、代表的な親水基としては水酸基、エーテル結合、アミノ基、カルボニル基、カルボキシル基、ニトロ基、スルホン酸基、アミド基、リン酸エステル基などが挙げられる。ただし、親水性高分子化合物は、スルホン酸基などを有する場合にも、導電性高分子化合物にドープされたドーパントとは異なる成分であるし、ドープされているか否かで両者は区別される。本発明において、親水性高分子化合物にはドーパントは含まれない。
親水性高分子化合物における親水基の数は1以上であればよいが、2以上であってよい。さらには3以上、4以上、5以上、6以上、あるいはさらに多くであってよい。親水基の数が多ければ水を保持する能力が高くなるので、その観点から言えば親水基の数が多いほど好ましいが、酸化皮膜修復剤の取り扱い性(粘性や吸湿性など)、コストの観点から過剰の親水基は望ましくないこともありえる。
親水性高分子化合物は、例えば、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルケニレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイド、水溶性ポリアクリル、水溶性ポリウレタン、水溶性ポリエステル、水溶性ポリアミド、水溶性ポリイミド、水溶性シリコーン、分岐ポリエーテル、ポリグリセリン及びそれらの誘導体などの高分子化合物であってよい。また、水溶性ポリアクリル、水溶性ポリウレタン、水溶性ポリエステル、水溶性ポリアミド、水溶性ポリイミド、水溶性シリコーンは、例えば、スルホン酸基を導入したポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、シリコーンであってよい。
本発明の一つの実施態様において、親水性高分子化合物が、下記化学式(1)で表される構造を含む化合物(I)を含むことが好ましい。
-(R-O)n-・・・(1)
〔式中、Rは、置換又は未置換のアルキレン、置換又は未置換のアルケニレン、置換又は未置換のフェニレンから選ばれる少なくとも1種の基であり、nは1~2000の整数であり、-(R-O)n-はブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。〕
本発明の一つの実施態様において、親水性高分子化合物は下記化学式(2)及び(3)で表される両方の構造を含む化合物(II)を含んでよい。
-(R1-O)n- ・・・(2)
-(R2-O)m- ・・・(3)
〔式中、R1及びR2は、同一でも異なってもよく、置換又は未置換のアルキレン、置換又は未置換のアルケニレン、置換又は未置換のフェニレンから選ばれる基であり、n+mは2~2000の整数である。〕
本発明の一つの実施態様において、親水性高分子化合物は、例えば、ポリエチレングルコール(PEG)、ポリプロピレングルコール(PPG)、ポリグリセリン、あるいはこれらの共重合体(ブロック共重合体やグラフト共重合体でよい)を含んでよい。好ましい親水性高分子化合物の例として、ポリエチレングルコール(PEG)、特にPEG200、PEG300、PEG400、PEG500、PEG600、ポリグリセリン、特にジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリンなどを挙げることができる。
親水性高分子化合物、特に上記化学式で表される構造を含む化合物(I)及び(II)は、混合物であることができ、特に分子量の異なる化合物の混合物であることにより、耐熱安定性と流動性に基づく機能性の両立を図ることができる。
親水性高分子化合物は、重量平均分子量が100~3000、さらには150~1500であることが好ましい。重量平均分子量が100より小さいと、特に昇温されたときに素子内で気化してガスが熱膨張してコンデンサを損傷する恐れがある。重量平均分子量が3000より小さいと、液状になりやすく、粘度も小さくなり、空隙及び導電性高分子化合物の間に含浸し易くなり、取り扱い性に優れる。
液状物質相は、親水性高分子化合物に加えて、又は親水性高分子化合物に代えて、低分子の親水性化合物を含んでもよい。低分子の親水性化合物としては、親水基を有する化合物、例えば、アルキレンオキサイド、アルケニレンオキサイド、フェニレンオキサイド、エーテル、グリセリンなどの低分子化合物であってよい。
他の一つの実施態様において、液状物質相は水酸基を有する成分を含んでよい。液状物質相が水酸基を有する成分を含むと、膨れ抑制効果に加え、高い酸化皮膜修復性能により漏れ電流のさらなる低減が可能になる効果がある。液状物質相に含まれる水酸基を有する成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコール、及びアルキレングリコールの重合体であるポリアルキレングリコール、グリセリン及びグリセリンの重合体であるポリグリセリンあるいはその誘導体、ブタンジオール、ペンタンジオール、グルコン酸などの多価脂肪族アルコール、ポリビニルアルコールなどの高分子アルコール、グルコース、マンニトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖類などが挙げられる。
しかし、液状物質相は水酸基を有する成分を含まなくてもよい。液状物質相が水酸基を有する成分を含まない場合であっても、膨れ抑制効果は得られる。
また一つの実施態様において、液状物質相は電解質を含むことができる。液状物質相が電解質を含むと、酸化皮膜の修復機能とともに、良好な導電性を維持しESRの上昇を防ぐことができる。
電解液の溶質としては、液状物質中で電離してイオン成分を生成できる物質であり、有機酸、無機酸ならびに有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種の塩を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機酸としては、蟻酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、スルホサリチル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、レゾルシン酸、フロログルシン酸、没食子酸、クエン酸、等のカルボン酸や、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
また、有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩として、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、メタノールアミン、エタノールアミン、など、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミンなど、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、メチルジエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
電解質の溶媒としては、電解質を溶解することができる有機溶媒であればよいが、上記の高分子又は低分子の親水性化合物、水酸基を有する成分のほか、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の一つの実施態様において、液状物質相は、駆動用電解液に用いられる電解質以外のイオン伝導性化合物を含んでもよい。駆動用電解液に用いられる電解質以外のイオン伝導性化合物であっても、酸化皮膜の欠損を修復する機能がありえる。このようなイオン伝導性化合物としては、通常の状態ではイオン電離している高沸点溶媒や、電解質の存在下でイオン伝導性を示すシアノ基、アミノ基、アミド基、イミド基、アミド結合、エーテル結合を有する高分子化合物などがある。
本発明の固体電解コンデンサにおける液状物質相は、上記の親水性高分子化合物、親水性低分子化合物、水酸基を有する成分、電解質、イオン導電性化合物以外の成分を含んでもよい。
液状物質相は、液状物質の重量を基準に、水分を5重量%以下、さらには0.1~3重量%、特に0.5~2重量%含むことが好ましい。液状物質相が水分を含むことで、酸化皮膜の欠損部において露出する弁金属と水分が反応して酸化皮膜を形成し、皮膜の欠損を修復することができる。液状物質相に含まれる水分が多すぎると、特にリフローの際などに水分が過度に気化及び熱膨張してコンデンサを損傷させる恐れがあるので、上記の量が好ましい。
液状物質相は、さらにニトロ基を有する化合物を含むことが好ましい。ニトロ基を有する有機化合物は、電極箔金属と液状物質中に含まれる水分との反応や酸化皮膜修復時の反応などで生成する水素ガスを吸収する能力があり、コンデンサの耐圧性、耐熱性を向上させる効果がある。ニトロ基を有する化合物としては、例えば、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、アミノニトロフェノール、ヒドロキシジニトロベンゼン、ジヒドロキシニトロベンゼン、ヒドロキシニトロアニソール、ニトロベンゼンカルボン酸、ニトロベンゼンジカルボン酸、ヒドロキシニトロベンゼンカルボン酸、ジヒドロキシニトロベンゼンカルボン酸、ニトロアセトフェノン、ニトロベンジルアルコールなどを挙げることができる。特にニトロベンジルアルコールのようなニトロ基を有する芳香族アルコールを用いることが好ましい。ニトロ基を有する化合物は、液状物質の重量を基準に、5重量%以下、さらには0.1~3重量%、さらには0.5~2重量%含むことが好ましい。
液状物質相の量は、電極箔間のセパレータを除く空隙(第一の空隙)の体積を基準にして、固体電解質相の量にも依存するが、一般的には1~99体積%、さらには10~99体積%、20~96体積%、30~90体積%、35~80体積%であってよく、50体積%以上の量でもよい。また、液状物質相は、電極箔間のセパレータ及び固体電解質相を除く空隙(第二の空隙)の体積を基準にして、10~100体積%、さらには20~95体積%、30~90体積%の量であってよく、50体積%以上、70体積%以上、80体積%以上の量でもよい。液状物質相の量が空隙の体積を基準にして10体積%より多いと、酸化皮膜の欠損修復などの機能がよりよく発揮されるので、好ましい。液状物質相は電極箔間のセパレータと導電性高分子化合物を除く空隙を完全に充満してよいが、必ずしも充満しなくても十分に効果は発揮される。上記空隙の体積(固体電解質相を含む体積、及び固体電解質相を除く体積)の測定方法は、例えば、先に述べた空隙の体積の測定方法と同様の方法によることができる。その空隙に導入された液状物質相の体積は、例えば、導入前後の素子の重量測定で求めた導入された液状物質相の重量と密度から計算することができる。電解コンデンサにおける液状物質相の量は、電解コンデンサから液状物質相を採取して測定可能であるが、液状物質相が固体電解質相の成分との混合相を境界領域に有していないときは、液状物質の仕込み量(上記の液状物質相の体積)と一致する。固体電解質相から液状物質相へ溶解する成分が微量であれば、その溶解成分は無視してよい。液状物質相が固体電解質相の成分との混合相を境界領域に有する場合には、電解コンデンサ中の混合相を除く液状物質相の量が上記の量であってもよい。さらに、本開示では、電解コンデンサ中の混合相を分析して、混合相が形成される前の液状物質相の元来の量を求めて、その量が上記の数値範囲内であればよい。
本発明の各実施態様において用いる親水性高分子化合物や水酸基を有する成分や電解液を含む液状物質相は、一般的に導電性高分子化合物と相溶性がないか、相溶性が高くないことや、固体電解質相を形成する導電性高分子化合物の凝集体を再分散する溶媒としての機能が低いことや、粘性から、導電性高分子化合物を含む固体電解質相と完全に混じり合うのではなく、液状物質相は固体電解質相と互いに相分離して存在する。結果として、液状物質相は電極箔間の空隙中で固体電解質相(導電性高分子化合物の凝集体)を取り囲むように存在する。液状物質相が固体電解質相を取り囲むように存在すれば、液状物質相は固体電解質相とセパレータとの間に存在することで、固体電解質相中の導電性高分子化合物から遊離した(過剰な)ドーパントや、ドーパントから遊離した酸性基がセパレータと反応することに対して障害になるので、好適である。
導電性高分子化合物を含む固体電解質相は基本的に流動性が乏しい固体状の相であるのに対して、液状物質相は流動性に富んだ液体相であるので、本発明の固体電解コンデンサから、例えば、液状物質相を除去すれば、固体電解質相が残る。固体電解質相が導電性高分子化合物とともに添加剤を含む場合に、添加剤としては様々な物質が用いられ、本発明の液状物質と類似の物質も用いられ得る。しかし、液状物質は、添加剤と異なる物質であってよく、必ずしも導電性高分子化合物に対して結合又は配位して導電性高分子化合物に作用するものではなく、導電性高分子化合物に対してその周囲を覆うように存在する。また、一般的に、添加剤は液状物質よりも流動性が低い状態で存在する。上記のように、例えば、コンデンサから初めに液状物質相(上記添加剤を含まない)を分離でき、残る相として導電性高分子化合物と添加剤を含む固体電解質相を得ることができる。こうして分析される液状物質相と固体電解質相とは明らかに異なる相である。また液状物質と添加剤とは異なる目的で用いられる物質であり、存在形態が異なり、作用効果が異なる。ただし、固体電解質相と液状物質相の境界領域に両相の混合相が存在してもよい。
(液状物質に含まれる塩基成分)
本発明の固体電解質コンデンサにおける液状物質相は、上記の親水性高分子化合物や電解液などの液状物質に加えて、さらに塩基成分を含み、かつ、液状物質相は酸成分を含んでも含まなくてもよいが、液状物質相に含まれる塩基成分と酸成分の量は、(塩基成分の当量数)>(酸成分の当量数)≧0の関係式を満たす。本開示において、塩基成分及び酸成分を構成する各化学種の当量数とは、それぞれの化学種の当量を単位量として表した各化学種の量を意味し、モル数と価数との乗算により算出できる。また、本開示において、塩基成分の当量数とは、塩基成分を構成する各化学種の当量数の合計を意味する。酸成分の当量数についても同様である。
本発明において、液状物質相は酸成分を含まなくてよいが、液状物質相が酸成分を含む場合には、液状物質相に含まれる塩基成分の当量数は酸成分の当量数より多くなければならない。また、液状物質相には酸基と塩基とから形成された塩(例えば、アジピン酸ジアンモニウム)を含むことができ、また液状物質相に添加された酸成分と塩基成分とが塩を生成することもできるが、液状物質相に含まれるそれらの塩は、本発明における上記の塩基成分に関して、液状物質相が塩基成分を酸成分より過剰に含むとは、塩は酸成分でも塩基成分でもないものと考え、また塩基成分がすべての酸成分と塩を生成しても過剰の塩基成分が残ることを意味する。
塩基成分は、いわゆる塩基性(水溶液のpH>7)を示す成分、酸と対になってはたらく物質であり、一般的にはプロトン(H+)を受け取る、または電子対を与える化学種をいう。
固体電解コンデンサにおいて液状物質相が上記の関係式を満たすように塩基成分を含むと、固体電解コンデンサの耐熱性、特にリフロー昇温時の高温に対する耐熱性が向上することを見出した。リフローは、電気部品を基板等に実装する際に、予め基板等に設置しておいたハンダを加熱して溶融する操作であり、その温度は、例えば220℃、240℃、260℃程度まで昇温することがある。従来、このリフローの際に固体電解コンデンサが膨張して製品劣化することがあった。本発明は理論に拘束されるものではないが、従来の固体電解コンデンサでは、導電性高分子化合物に含まれるドーパントがリフローの昇温などの何らかの作用によって導電性高分子化合物から遊離して、セパレータが特に水酸基を有するとその水酸基と反応して、セパレータを劣化させるとともに、その反応の結果として生成する水が特にリフローの際などに気化及び熱膨張することで、コンデンサに膨れが発生して、外観異常や特性不良をきたし、最終的には開弁やコンデンサの封口部材の損傷に至ると考えられる。本発明によれば、電極箔間の空隙にセパレータ及び固体電解質相とともに存在する液状物質相に塩基成分が存在することで、遊離のドーパントとセパレータの水酸基との反応を塩基成分が抑制することで、耐熱性が向上すると考えられる。特に、導電性高分子化合物には有機スルホン酸基などの酸性基を有するドーパントが多く含まれており、酸性基を有するドーパントがセパレータの水酸基と反応することを、塩基成分が好適に抑制すると考えられる。
導電性高分子分散液へ塩基成分を添加することによる固体電解質相中の塩基成分と液状物質相に含まれる塩基成分の効果には次のような違いがある。導電性高分子分散液に添加された塩基成分は、固体電解質相を形成する際に、ドーパント内部に浸透するため固体電解質相表面にはほとんど残らなくなる。また、固体電解質相に塩基成分が過剰に存在した場合は、製造時の熱処理等で塩基成分が揮発してしまう。一方、固体電解質相を形成した後、塩基成分が過剰に存在する液状物質相を導入すると液状物質相が固体電解質相内部に浸透しにくいこともあり、塩基成分が固体電解質相から遊離したドーパントのスルホン酸基、またはドーパントより脱離したスルホン酸基と反応することでセパレータの劣化やセパレータと遊離したドーパントの反応により生成される水による劣化反応を防止又は抑制することができる。
液状物質相に含まれる塩基成分の量は、液状物質相の重量を基準にして、0.1重量%以上50重量%以下、さらには30重量%以下、10重量%以下であることが好ましい。塩基成分が0.1重量%以上、また50重量%以下であると、耐熱性向上の効果が大きいので好ましい。また、酸成分のモル数より多いモル数に相当する塩基成分の量が、液状物質相を基準にして、0.1重量%以上50重量%以下、さらには30重量%以下、10重量%以下であることが好ましい。この場合にも耐熱性向上の効果が大きいので好ましい。また、液状物質相に含まれるすべての酸成分が塩基成分と塩を形成したとき、塩基成分が過剰であることが好ましく、液状物質相に含まれる塩基成分の過剰量は、液状物質相の重量1gを基準にして、5μmol/g以上、14μmol/g以上、さらには40μmol/g以上であることがより好ましい。ここでも、液状物質相と固体電解質相の境界に両相の混合相を有する場合に、液状物質及び塩基成分の量は混合相を含めずに分析して、上記の要件を満たせばそれでよい。液状物質相への固体電解質相の成分の溶解が微量であれば、その溶解成分は無視してよい。さらに、混合相を分析して、混合相が形成される前の液状物質相における液状物質及び塩基成分の量を求めることができ、本開示ではこのときの液状物質相において上記の塩基成分の量であればよい。
液状物質相に含まれる塩基成分としては、非共有電子対を持つ窒素化合物であってよい。
また塩基成分は、アミン、アミジン、アンモニアから選ばれる1種以上であってよい。アミン類は、非環式アミンであっても、環式アミンであっても良く、非環式アミンとしては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルジメチルアミン、メチルジエチルアミン、エチレンジアミンなどを挙げることができる。環式アミンとしては、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジンなどを挙げることができる。また、アミン類は、置換基に窒素以外のヘテロ原子を含む非環式アミンであっても、置換基に窒素以外のヘテロ原子を含む環式アミンであってもよく、置換基に窒素以外のヘテロ原子を含む非環式アミンとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミンなどを挙げることができる。置換基に窒素以外のヘテロ原子を含む環式アミンとしては、モルホリン、メチルモルホリン、エチルモルホリン、オキサゾリジン、チオモルホリン、チアゾリジンなどが挙げられる。アミジンとしては、1,3-ジメチルイミダゾリニウム、1,3-ジエチルイミダゾリニウム、1,2,3-トリメチルイミダゾリニウム、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム、1,3-ジメチル-2-エチルイミダゾリニウム、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリニウム、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリニウム、1,2,3-トリエチルイミダゾリニウム、1,2,3,4-テトラエチルイミダゾリニウム、などを挙げることができる。好ましい塩基成分は、アミン、アミジン、である。
また、液状物質相に酸成分を含まなくてもよいが、含んでもよい。酸成分は、いわゆる酸性(水溶液のpH<7)を示す成分、塩基と対になってはたらく物質であり、一般的にはプロトン(H+)を与える、または電子対を受け取る化学種をいう。酸成分としてはフタル酸、サリチル酸、スルホサリチル酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、安息香酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、蟻酸、1,6-デカンジカルボン酸、5,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸、などが挙げられる。なお、液状物質に含まれる酸成分は、導電性高分子化合物にドープされているドーパントとは区別され、ドーパントそれ自体は酸性を示す成分であっても、液状物質に含まれる塩基成分の当量数と対比する計算式における液状物質に含まれる酸成分の当量数には含まれない。
また、液状物質相には塩が含まれてよいが、塩を構成する塩基は酸基によって塩基成分としての作用が打ち消されているものであり、上記のように、液状物質相に含まれる塩基成分の含有量にはカウントしない。また、液状物質相に塩基成分と酸成分の両方が添加されている場合、含まれるすべての酸成分が塩基成分と塩を形成したとき、塩基成分が過剰でなければならない。例えば、酸成分がアジピン酸、塩基成分がアンモニアであり、そのモル比が1:2であるような場合は、すべてのアジピン酸がアンモニアと塩(アジピン酸ジアンモニウム)を形成したときアンモニアは過剰ではないので、除外される。
(固体電解コンデンサの製造方法)
また、本発明は、もう1つの側面において、表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔及び前記陰極箔の間に配設されたセパレータと、を備え、前記陽極箔及び前記陰極箔の間の前記セパレータを除く空隙には、導電性高分子化合物を含む固体電解質を含むコンデンサ素子を準備し、
前記空隙に液状物質を導入することを含むハイブリッド型固体電解コンデンサの製造方法であり、
前記セパレータの基材は、水酸基を有する高分子を主成分とする基材を含み、
前記液状物質が塩基成分を含み、且つ、
前記液状物質は、さらに酸成分を含んでも含まなくてもよく、前記液状物質における前記塩基成分と前記酸成分の量が、(前記塩基成分の当量数)>(前記酸成分の当量数)≧0の関係式を満たすことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法にある。
この固体電解コンデンサの製造方法において、陽極箔、陰極箔、酸化皮膜、セパレータ、コンデンサ素子、ハイブリッド型固体電解コンデンサ、導電性高分子化合物、添加物、固体電解質、液状物質、塩基成分、酸成分などについては、本発明の固体電解コンデンサに関連して上記したと同様であってよく、繰り返しての説明は省略する。ただし、固体電解コンデンサの説明において、液状物質に関する説明は液状物質相としても説明したので、液状物質相に関するそれらの説明はこの側面では液状物質の説明にも適用される。同様に、固体電解コンデンサの説明における固体電解質相としての説明は、この製造方法における固体電解質の説明に適用できる。
なお、固体電解コンデンサでは、固体電解質相と液状物質相の界面領域に両相の混合相が形成される可能性があるが、この固体電解コンデンサの製造方法では、混合相が形成されない場合の固体電解コンデンサを前提として、陽極箔及び陰極箔の間の前記空隙に液状物質を導入し、液状物質における塩基成分と酸成分の量を上記の関係式を満たすようにすればよい。結果として、混合相が形成されないときのみならず、混合相が形成されるときであっても、いずれであっても、固体電解コンデンサに導入される液状物質が塩基成分を上記の量で含むことによって、固体電解コンデンサの耐熱性、リフロー耐熱性が改良される効果は得られる。また、混合相が形成される場合における混合相を除いた液状物質相は、通常、導入される液状物質自体から構成されているので、混合相を除いた液状物質相における塩基成分と酸成分の量は上記の関係式を満たす。
以下では、本発明において好ましい態様である分散液タイプの固体電解質を用いて、電解コンデンサを製造する方法の例について記載する。しかし、固体電解質に関しては、前述のように、化学重合タイプ、分散液タイプ、溶液タイプが知られており、それらの固体電解質を電極箔間に導入する方法の詳細は他の文献によることができる。
この分散液タイプの固体電解コンデンサ(以下、単に固体電解コンデンサとも称する)は、限定するものではなく、説明のためであるが、例えば、以下のような方法により製造することができる。固体電解コンデンサ1については、図1~2も参照される。
図3~図5は、固体電解コンデンサの製造方法を説明するために示す図である。このうち、図3は固体電解質導入工程を説明するために示す図であり、図4は液状物質導入工程を説明するために示す図であり、図5は組立・封止工程を説明するために示す図である。図3(a)~(d)、図4(a)~(c)、図5(a)~(c)は各工程図である。
固体電解コンデンサの製造方法は、コンデンサ素子作製工程(第1工程)と、化成処理工程と、固体電解質導入工程(第2工程)と、液状物質導入工程(第3工程)と、組立・封止工程とをこの順序で含む。以下、各工程に沿って固体電解コンデンサの製造方法を説明するが、以下はあくまでも説明のための一例であり、本発明を限定するものではない。
(1)コンデンサ素子作製工程(第1工程)
まず、拡面化処理により粗面化されたアルミニウム箔の表面に2~400Vの所定の電圧を印加して化成処理を施すことにより酸化皮膜22が形成された陽極箔21と、陰極箔23と、陽極箔21と陰極箔23との間に配設されたセパレータ25とを備えるコンデンサ素子を作製する(図1(b)参照。)。具体的には、セパレータ25を介して、凹凸表面を有し当該凹凸表面に酸化皮膜22が形成された陽極箔21と凹凸表面を有する陰極箔23とを重ね合わせて巻回することによりコンデンサ素子20を作製する。このとき、陽極箔21にはリード28が接続され、陰極箔23にはリード29が接続されている。
(2)化成処理工程
次に、コンデンサ素子を化成液槽中の化成液(例えば、アジピン酸アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、グルタル酸アンモニウム、アゼライン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、セバシン酸アンモニウム、ピメリン酸アンモニウム、スベリン酸アンモニウムなどの水溶液)に浸漬するとともに、陽極側のリード28と化成液との間に所定の電圧(例えば100V)を例えば5分間印加して陽極箔21の端部に存在する酸化皮膜欠損部及び表面に存在することがある酸化皮膜欠損部を修復する(化成処理工程の図示は省略)。
(3)固体電解質導入工程(第2工程)
次に、陽極箔21と陰極箔23との間のセパレータを除く第一の空隙に、導電性高分子化合物からなる微粒子状の固体電解質26を、第一の空隙に占める固体電解質26の割合が2vol%~30vol%の範囲内になるように導入する。固体電解質導入工程においては、固体電解質26を溶媒に分散させた導電性高分子化合物分散液52を空隙に充填した後、空隙から溶媒を除去することにより、空隙に固体電解質26を導入する。
具体的には、固体電解質導入工程は、以下のように行う。すなわち、図3に示すように、導電性高分子化合物分散液槽50中に、固体電解質26を溶媒に分散させた導電性高分子化合物分散液52を満たした後(図3(a)参照)、浸漬含浸法によって、コンデンサ素子20を導電性高分子化合物分散液52(ポリマー濃度は例えば2vol%)に浸漬する(図3(b)参照)。次に、コンデンサ素子20を導電性高分子化合物分散液52から取り出し(図3(c)参照)、その後、コンデンサ素子20を加熱処理して溶媒を除去する(図3(d)参照)。これを2回繰り返し、空隙に占める固体電解質の割合を例えば4vol%とする。なお、導電性高分子化合物分散液は、懸濁状態にあるモノマー(例えばEDOTモノマー)を重合(ラジカル重合又は酸化重合)させることにより、ドーパントや乳化剤が添加された導電性高分子化合物(例えばPEDOTポリマー)からなる微粒子状の固体電解質を作製し、当該微粒子状の固体電解質を所定の溶媒に分散させることにより作製することができる。また、導電性高分子化合物分散液は市場からも入手できる。微粒子状の固体電解質の平均粒子径は、重合反応条件(例えば、開始剤、モノマー、重合補助剤などの濃度、反応温度、反応溶液の攪拌条件など)を適宜設定することによって調整することができる。また、公知の粉砕処理(例えば、攪拌粉砕処理、振動粉砕処理など)を施すことによって調整することもできる。微粒子状の固体電解質は、分取濾過処理を行って粒子径を均一化することもできる。
第一の空隙に占める固体電解質の割合を上記の4vol%よりも大きくするには、「コンデンサ素子20を導電性高分子化合物分散液52に浸漬し、次に、コンデンサ素子20を導電性高分子化合物分散液52から取り出し、その後、コンデンサ素子20を加熱処理する」という工程をさらに何度か繰り返すことにより行う。導電性高分子化合物分散液52のポリマー濃度を濃くする等適宜の方法により行ってもよい。第一の空隙に占める固体電解質の割合を上記の2vol%にするには、当該工程を1度だけ行う。また、第一の空隙に占める固体電解質の割合を上記の2vol%よりも小さくするには、導電性高分子化合物分散液52のポリマー濃度を薄くする等適宜の方法により行う。
固体電解質の導入量(体積)は、例えば、各状態(浸漬前、浸漬・乾燥後)におけるコンデンサ素子の重量を測定し、浸漬前と乾燥後における重量差を固体電解質の密度を用いて体積換算することにより算出することができる。あるいは例えば、各状態(浸漬前、浸漬・乾燥後)において空隙に適当な液体を充満させたコンデンサ素子の重量を測定し、その液体の密度を用いて体積換算することにより各状態での空隙の体積を算出し、その差から求めることができる。従って、浸漬前のコンデンサ素子の空隙(容積)をあらかじめ測定算出しておくことにより、空隙に占める固体電解質の割合を算出することができる。
(4)液状物質導入工程(第3工程)
次に、固体電解質導入後の陽極箔21と陰極箔23との間の空隙(第二の空隙)に、塩基成分を含む親水性高分子化合物からなる液状物質27を、第二の空隙に占める液状物質27の割合が10vol%~100vol%の範囲内になるように導入する。このとき、液状物質27は固体電解質26を取り囲むように導入される。
具体的には、液状物質充填工程は、以下のように行う。すなわち、図4に示すように、液状物質槽60中に液状物質62を満たした後(図4(a)参照)、浸漬含浸法によって、コンデンサ素子20を液状物質62に浸漬する(図4(b)参照)ことにより、第二の空隙に液状物質62を充填することにより導入する。次に、コンデンサ素子20を液状物質62から取り出し(図4(c)参照)、過不足分を調整し、液状物質の導入量が所定の導入量(重量)になったことを確認する。
液状物質の導入量(体積)は、各状態(浸漬前、浸漬後)におけるコンデンサ素子の重量を測定し、浸漬前と浸漬・調整後における重量差を液状物質の密度を用いて体積換算することにより算出することができる。従って、浸漬前のコンデンサ素子の第二の空隙の容積をあらかじめ測定算出しておくことにより、第二の空隙に占める液状物質の割合を算出することができる。
(5)組立・封止工程
最後に、封口部材40をコンデンサ素子20に取り付けるとともに(図5(a)参照。)、コンデンサ素子20を外装ケース10に挿入した後(図5(b)参照)、外装ケース10の開口端近傍で外装ケース10をかしめる(図5(c)参照)。封口部材40としては、例えば、イソブチレン・イソプレンゴム(IIR)を用いる。イソブチレン・イソプレンゴム(IIR)に代えて、エチレン・プロピレン・ターポリマー(EPT)、EPT-IIRブレンドゴム、シリコーンゴムなどのゴム材料や、フェノール樹脂(ベークライト)、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などの樹脂とゴムとを貼り合わせたゴム複合材料を用いることもできる。その後、高温雰囲気下で所定の電圧を印加してエージング工程を実施する。これにより、固体電解コンデンサ1が完成する。
上記では、分散液タイプの固体電解コンデンサの製造方法について記載したが、溶液タイプの固体電解コンデンサの製造方法は、分散液タイプの製造方法において固体電解質の分散液を固体電解質の溶液に代えることで実施することができる。
化学重合タイプの固体電解コンデンサの製造では、コンデンサ素子に、原料モノマーとドーパントと酸化剤を含む溶液を含浸し、溶媒を除去し、素子内部で原料モノマーを重合させることで、電極箔21,23の間に固体電解質26を導入した固体電解コンデンサ素子を製造することができる。その後の工程は、分散液タイプの固体電解コンデンサの製造方法における液状物質導入工程(第3工程)以降と同じでよい。酸化皮膜22が形成された陽極箔21の表面に化学重合法で固体電解質層を形成する方法は知られている(例えば、特許第5000330号が参照される)。
実施例1
図1~5を参照して説明した上記の固体電解コンデンサ1の製造方法の手順に従い、実施例1の固体電解コンデンサを作製した。実施例1の固体電解コンデンサ1は、完成寸法(外装ケース10に収納した状態での固体電解コンデンサ1の外形寸法)がφ10mm×H10.5mmの円筒形、定格63V-56μFのコンデンサ素子20を作成した。セパレータとして、ヘンプから得られた、セルロースを主成分とする天然繊維を主基材として含むセパレータ紙を用いた。
コンデンサ素子作製工程及び化成処理工程を経た後、固体電解質導入工程において、導電性高分子化合物分散液52として、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)を2体積%含む水性分散液を用いた。導電性高分子化合物は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)にドーパントとしてポリスチレンスルホン酸(PSS)を含む微粒子状の導電性高分子化合物である。分散液にコンデンサ素子20を常温、減圧下で浸漬した。分散液を含浸したコンデンサ素子20は分散液から取り出して110℃の乾燥炉内で乾燥して、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)を電極箔間に充填した。この分散液を用いる固体電解質導入操作を2回繰り返して、固体電解質を電極箔間の空隙にその空隙の体積に対して4体積%の量になるまで充填した。
液状物質導入工程では、液状物質62として、PEG300(96.2重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、フタル酸(0.5重量%)、トリエチルアミン(0.8重量%)を含む液体を用いて、コンデンサ素子20に含浸した。液状物質の充填量は、電極箔間においてセパレータを除く空隙(第一の空隙)の体積に対して71体積%の量、電極箔間においてセパレータと固体電解質を除く空隙(第二の空隙)の体積に対して74体積%の量であった。
組立・封止工程のエージング工程では、固体電解コンデンサ1に所定の条件で所定の電圧を印加してエージングした。
完成した固体電解コンデンサ1の試料を、260℃の熱板(試料を挿入する穴が開いた金属盤)に設置し、試料の高さ方向の膨れを測定して、耐熱性を評価した。評価の基準は、150秒後の膨れが0.5mm以下の場合を合格(表1では〇)、0.5mmを超えるときを不合格(表1では×)とした。
評価の結果は、表1に示すとおり合格(〇)であった。
なお、表1においては、液状物質の組成、耐熱性評価のほか、液状物質の単位重量当りの塩基の過剰量(μ当量/g)、塩基/酸の当量比率、150秒後の膨れ(mm)も示す。
実施例2
液状物質62として、PEG300(95.5重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、フタル酸(0.5重量%)、トリエチルアミン(1.5重量%)を含む液体を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例2の固体電解コンデンサの試料を作製した。
実施例2の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、いずれも合格(〇)であった。
実施例3
液状物質62として、PEG300(97.1重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、トリエチルアミン(0.4重量%)を含む液体を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例3の固体電解コンデンサの試料を作製した。
実施例3の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、いずれも合格(〇)であった。
実施例4
液状物質62として、PEG300(97.2重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、ジエチルアミン(0.3重量%)を含む液体を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例4の固体電解コンデンサの試料を作製した。
実施例4の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、いずれも合格(〇)であった。
実施例5
液状物質62として、PEG300(97.0重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、ジエチルアミン(0.5重量%)を含む液体を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例5の固体電解コンデンサの試料を作製した。
実施例5の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、いずれも合格(〇)であった。
実施例6
液状物質62として、PEG300(96.5重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、ジエチルアミン(1.0重量%)を含む液体を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例6の固体電解コンデンサの試料を作製した。
実施例6の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、いずれも合格(〇)であった。
実施例7
液状物質62として、PEG300(97.4重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、ジエチルアミン(0.1重量%)を含む液体を用いる以外は、実施例1と同様にして、実施例7の固体電解コンデンサの試料を作製した。
実施例7の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、いずれも合格(〇)であった。
比較例1
液状物質62として、PEG300(97.5重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)を含むが、酸成分も塩基成分も含まない組成を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例1の固体電解コンデンサを作製した。
比較例1の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、不合格(×)であった。
比較例2
液状物質62として、PEG300(97.0重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、フタル酸(0.5重量%)を含む液体を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例2の固体電解コンデンサの試料を作製した。
比較例2の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、いずれも不合格(×)であった。
比較例3
液状物質62として、PEG300(96.7重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、フタル酸(0.5重量%)、トリエチルアミン(0.3重量%)を含む液体を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例3の固体電解コンデンサの試料を作製した。
比較例3の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、いずれも不合格(×)であった。
比較例4
液状物質62として、PEG300(96.4重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、フタル酸(0.5重量%)、トリエチルアミン(0.6重量%)を含む液体を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例4の固体電解コンデンサの試料を作製した。
比較例4の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、いずれも不合格(×)であった。
比較例5
液状物質62として、PEG300(96.2重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、フタル酸(1.0重量%)、トリエチルアミン(0.3重量%)を含む液体を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例5の固体電解コンデンサの試料を作製した。
比較例5の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、いずれも不合格(×)であった。
比較例6
液状物質62として、PEG300(94.7重量%)、水(1.5重量%)、ニトロベンジルアルコール(1.0重量%)、フタル酸(2.5重量%)、トリエチルアミン(0.3重量%)を含む液体を用いる以外は、実施例1と同様にして、比較例5の固体電解コンデンサの試料を作製した。
比較例5の固体電解コンデンサ試料の耐熱性を、実施例1と同様の方法で評価した。
結果は表1に示したとおり、いずれも不合格(×)であった。