JP7294207B2 - セメント原料の製造方法 - Google Patents
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Description
例えば特許文献1記載の発明のようにCr2O3を含有する製鋼スラグを還元剤としてカーボン粉とともに電気炉で溶融し、還元処理を行った後に永久磁石によりクロム由来物を除去し、製鋼スラグ中のCr2O3を減少させる方法が知られていた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な設備で、簡便にセメント原料を製造する方法及び当該製造方法により製造されたセメント原料を使用したセメントの製造方法を提供することを目的とする。
[1]製鋼スラグを酸性液により処理し処理液(A)を得る工程(1)と、
製鋼スラグを酸性液により処理した後の処理液(A)から固形分(A)を分離し処理液(B)を得る工程(2)と、
を有するセメント原料の製造方法。
[2]前記酸性液が有機酸及び無機酸から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液である[1]に記載の製造方法。
[3] 前記処理液(B)に溶解している固形分(B)の全量に対するCr2O3の含有量が0.5質量%以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
[4]前記処理液(B)から固形分(C)を析出させる工程(3)をさらに含む[1]~[3]のいずれか1に記載の製造方法。
[5]製鋼スラグを酸性液により処理し処理液(A)を得る工程(1)と、
製鋼スラグを酸性液により処理した後の処理液(A)から固形分(A)を分離し処理液(B)を得る工程(2)と、
を有する製造方法により製造されたセメント原料を使用したセメントの製造方法。
本発明のセメント原料の製造方法は、製鋼スラグを酸性液により処理し処理液(A)を得る工程(1)と、製鋼スラグを酸性液により処理した後の処理液(A)から固形分(A)を分離し処理液(B)を得る工程(2)と、を有する。
工程(1)の後に直ちに工程(2)を行ってもよく、工程(1)の後にpHを調整する工程、濃度を調整する工程及び他の原料を投入する工程等を必要に応じ行った後に工程(2)を行ってもよい。
特許文献1の方法では、Cr2O3等の不要成分を製鋼スラグから除去し、含有量を低下させて使用するが、本発明の製造方法はセメント原料として有用な成分を製鋼スラグから抽出するため、セメント原料中のCr2O3等の不要成分の含有量を抑えることができる。
本発明の製造方法で得られたセメント原料は、溶液であっても固体であってもよい。
工程(1)では、製鋼スラグをそのまま又は必要に応じて砕いた後、酸性液により処理を行う。酸性液による処理は、酸性液に製鋼スラグを投入しても、製鋼スラグに酸性液を投入しても、溶液中の酸性スラグに酸性液を投入してもよい。投入の際、必要に応じ攪拌又は振とう等を行うと処理時間を短縮することができるため好ましい。
製鋼スラグは電気炉スラグ及び転炉スラグに分類されるが、セメント原料の回収の観点からは電気炉スラグが好ましい。電気炉スラグは、鉄スクラップを溶解及び精錬する際に生成するが、酸化精錬で生成する酸化スラグであっても、還元精錬で生成する還元スラグであってもよい。
本発明に用いる製鋼スラグは、製鐵所で大量に発生し、Fe2O3とともに、CaO、Al2O3及びSiO2等を含有するが、Cr2O3として少量のクロム原子を含有する。本発明において使用する製鋼スラグは特に限定されないが、セメント原料の有効成分回収の観点からは、カルシウム原子、珪素原子及びアルミニウム原子の含有量が多く、クロム原子の含有量が少ないことが好ましい。
本発明ではクロム原子由来の化合物の含有量を容易に低下させることができるため、Cr2O3の含有量の多い製鋼スラグ(電気炉スラグ)も使用することができる。
本発明に用いる酸性液としては、セメント原料の有効成分を溶解するものであり、クロム化合物が難溶であれば特に制限されず、有機酸及び無機酸から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液であることが好ましい。
セメント原料としての有用な成分の抽出量の観点からは無機酸が好ましい。
有機酸としては、カルボキシル基及びスルホ基から選ばれる少なくとも1種の基を有する化合物が好ましく、これらの基を分子内に1個又は2個以上有する化合物であることが好ましい。
より具体的には、下記一般式(I)で表される化合物であることが好ましい。
一般式(I)において、R1は、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20の環状基又は水素原子が好ましいが、R1上の水素原子はさらに水酸基、R1又はX1で置換されていてもよく、R1中に存在するメチレン基は、フェニル基、ナフチル基、フェナントレン基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、-CO-、-COO-、-OCO-、-CH=CH-、-C≡C-、-NH-又は-NHCO-で置換されていてもよい。
X1はカルボキシル基又はスルホ基が好ましく、カルボキシル基が好ましい。
工程(1)は、処理液(A)中の珪素原子濃度及びクロム原子濃度をモニタリングし終点を決定することが好ましい。処理液(A)中の珪素原子濃度が設定値以下であると製鋼スラグ中の有効成分が処理液(A)に十分抽出されていないため処理時間をより長くする必要があり、処理液(A)中のクロム原子量が設定値以上となると製造されるセメント原料中のCr2O3の含有量が多くなり好ましくない。
セメント原料としての有用な成分の抽出量の観点からは処理する製鋼スラグ1 kgに対し、1 L以上が好ましく、2 L以上がより好ましく、3 L以上が更に好ましい。
本工程では、工程(1)により、製鋼スラグからセメント原料として有用な成分が、処理液(A)に抽出されるが、製鋼スラグには酸性液に不溶な成分、難溶な成分及びセメント原料として有用な成分であるが処理液(A)には溶解されなかった成分が固形分(A)として含まれており、これを分離し処理液(B)を得る。
固形分(A)としては、CaO、Al2O3、SiO2及びFe2O3等とともにCr2O3が含まれている。このため、固形分を処理液(A)から分離した処理液(B)ではCr2O3等に由来するクロム原子の含有量がセメント原料として使用可能な程度に減少する。
固形分(B)は工程(1)に用いた製鋼スラグのうち酸性液に溶解した成分に該当する。
簡易的には、工程(1)で使用した鋼鉄スラグの質量から固形分(A)の質量の差を固形分(B)の質量とすることができ、また、処理液(B)中のクロムイオン等の金属イオン濃度から処理液(B)に含まれるCr2O3を算出して、固形分(B)に含まれるCr2O3の質量とすることができる。
不織布としては、植物性繊維、動物性繊維、鉱物繊維又は化学繊維が好ましく、化学繊維としてはレーヨン、ナイロン、ポリエステル、アクリル繊維又はアラミド繊維を用いたものが好ましい。
多孔質樹脂としては、ポリオレフィン系又はウレタン系樹脂が好ましい。
なお、当該固形分(A)を分離する方法は後記の工程(3)でも同様に行うことができる。
酸溶解率(%)は工程(1)で使用する製鋼スラグの質量(g)及び工程(2)で分離した固形分(A)の質量(g)から、
酸溶解率=(工程(1)で使用する製鋼スラグの質量-工程(2)で分離した固形分(A)の質量)/工程(1)で使用する製鋼スラグの質量×100
により、算出される。
本発明ではさらに以下の工程を(3)を含むことが好ましい。すなわち、処理液(B)は前記のように溶液のまま使用することもできるが、処理液(B)から固形分(C)を析出させた後に固体として使用することも好ましい。
なお、固形分(C)中の金属原子の含有量は固形分(B)における含有量と等しいが、水和物を持ったり、対をなすアニオンが変わるため、化合物の形態は同一とはならない。
本発明で得られるセメント原料を用いてセメントを製造することができる。
その製造方法としては、本発明で得られるセメント原料を、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料などとともに混合し、焼成することによりセメントクリンカを得る。
焼成は、通常、電気炉やロータリーキルンなどを用いて行われる。例えば、予め粉砕・混合した原料をプレヒータにて1000℃程度で予熱した後、ロータリーキルンに送り込み、1450℃以上の高温で焼成を行った後、焼成物を急冷することにより、セメントクリンカを製造することができる。
得られたセメントクリンカに石膏等を加え粉砕することにより、セメントを製造することができる。
各工程における成分量及び条件の測定は以下のように行った。
(1)各成分の含有量の測定
(対象が固形の場合)
分析対象が固形である場合、該固形中の成分分析は、エネルギー分散型X線蛍光分光法(ED-XRF)により行った。装置として、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(Epsilon3、パナリティカル社製)を使用した。測定は、本装置のOmnianプログラムにて行った。なお、本方法による定量限界は0.001質量%であった。
(対象が液体の場合)
分析対象が液分である場合、該液分中の成分分析は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)装置で行った。装置として、 SPECTRO ARCOS スペクトロ社製 を使用した。なお、本方法による定量限界は0.001質量%であった。
工程(1)で使用した鋼鉄スラグの質量と固形分(A)の質量の差を固形分(B)の質量とする。処理液(B)におけるICP-OESでの濃度測定で得られた各原子の濃度から、対応する酸化物の質量を計算し、固形分(B)の質量中の割合を固形分(B)中の換算濃度(固形分(B)換算濃度)とする。
[セメント原料の調製]
<工程(1)>
20 ミリリットルの容器に希塩酸(3mol/L)を5 mL加え、さらに200μm以下に粉砕した1 gの酸化スラグを加え、10分浸漬して処理液(A)を得た。
<工程(2)>
工程(1)で得られた処理液(A)を丸形ろ紙(ADVANTEC製、材質:セルロース、ろ紙直径:55 mm、最大孔径:4 μm)を用いて吸引ろ過し、残渣回収率62.7%(0.63 gの固形分(A))で分離し、処理液(B)を5 mL得た。
酸化スラグの酸溶解率、得られた処理液(B)、残渣の各組成を表1に記載した。
表1に示す酸性液を使用し、浸漬時間を変更した以外は同様にして、実施例2~15を表1に示す。
また、塩酸を用いた実施例1~4について、酸溶解率及び処理液(B)濃度から算出した各成分の含有量(実施例16~実施例19)を表2に示す。
実施例5で得られた処理液(B)の全量を、液温を100℃とし、水分が十分に留去されたのを確認した後(カールフィッシャー法での水分の含有量:1.0質量%未満)、加熱を停止し、室温まで自然放冷し、固体のセメント原料である固形分(C)を得た(実施例20)。得られた固形分(C)の成分を分析した結果を表3に示す。
実施例20では、Cr2O3の含有量は0.03質量%であった。
一方特許文献1の表2のスラグ組成のCr2O3の含有量は0.4~4.0wt%であった。表3に比較例1として記載した。
以上のように、本発明の製造方法によりクロム濃度を低減させたセメント原料を製造できることが確認できた。
さらに、特許文献1の製造方法では、スラグを1000℃以上に加熱しなければならず、また磁着物を除去するための永久磁石式吊り下げ磁選機など大掛かりな装置を必要とするのに対し、本発明の製造方法では、酸性液による処理やろ過等の分離工程などの極めて簡便な工程の組み合わせで実施することができるため極めて優れた製造方法であることが分かった。
Claims (4)
- 製鋼スラグを酸性液により処理し処理液(A)を得る工程(1)と、
製鋼スラグを酸性液により処理した後の処理液(A)から固形分(A)を分離しセメント原料である処理液(B)を得る工程(2)と、を有し、
前記酸性液が、塩酸、硝酸、クエン酸、酢酸、及びギ酸から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液であるセメント原料の製造方法。 - 前記処理液(B)に溶解している固形分(B)の全量に対するCr2O3の含有量が0.5質量%以下である請求項1に記載の製造方法。
- 前記処理液(B)から固形分(C)を析出させる工程(3)をさらに含む請求項1又は2に記載の製造方法。
- 製鋼スラグを酸性液により処理し処理液(A)を得る工程(1)と、
製鋼スラグを酸性液により処理した後の処理液(A)から固形分(A)を分離し処理液(B)を得る工程(2)と、を有する製造方法により製造されたセメント原料である処理液(B)を使用し、
前記酸性液が、塩酸、硝酸、クエン酸、酢酸、及びギ酸から選ばれる少なくとも1種を含む水溶液であるセメントの製造方法。
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