以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
エンジン2には、エンジン2の動力は、トルクコンバータ3およびCVT(Continuously Variable Transmission:無段変速機)4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
エンジン2は、E/G出力軸11を備えている。E/G出力軸11は、エンジン2が発生する動力により回転される。
トルクコンバータ3は、フロントカバー21、ポンプインペラ22、タービンランナ23およびロックアップクラッチ24を備えている。フロントカバー21には、E/G出力軸11が接続され、フロントカバー21は、E/G出力軸11と一体に回転する。ポンプインペラ22は、フロントカバー21に対するエンジン2側と反対側に配置されている。ポンプインペラ22は、フロントカバー21と一体回転可能に設けられている。タービンランナ23は、フロントカバー21とポンプインペラ22との間に配置されて、フロントカバー21と共通の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
ロックアップクラッチ24は、ロックアップピストン25を備えている。ロックアップピストン25は、フロントカバー21とタービンランナ23との間に設けられている。ロックアップクラッチ24は、ロックアップピストン25とフロントカバー21との間の解放油室26の油圧とロックアップピストン25とポンプインペラ22との間の係合油室27の油圧との差圧により、ロックアップオン(係合)/オフ(解放)される。すなわち、解放油室26の油圧が係合油室27の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21から離間し、ロックアップオフとなる。係合油室27の油圧が解放油室26の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21に押し付けられて、ロックアップオンとなる。
ロックアップオフの状態では、E/G出力軸11が回転されると、ポンプインペラ22が回転する。ポンプインペラ22が回転すると、ポンプインペラ22からタービンランナ23に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ23で受けられて、タービンランナ23が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ23には、E/G出力軸11のトルクよりも大きなトルクが発生する。
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸11が回転されると、E/G出力軸11、ポンプインペラ22およびタービンランナ23が一体となって回転する。
CVT4は、インプット軸31およびアウトプット軸32を備え、インプット軸31に入力される動力を2つの経路に分岐してアウトプット軸32に伝達可能に構成された、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である。2つの動力伝達経路を構成するため、CVT4は、ベルト変速機構33、前減速ギヤ機構34、遊星歯車機構35およびスプリット変速機構36を備えている。
インプット軸31は、トルクコンバータ3のタービンランナ23に連結され、タービンランナ23と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
アウトプット軸32は、インプット軸31と平行に設けられている。アウトプット軸32には、出力ギヤ37が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ37は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5のリングギヤ)と噛合している。
ベルト変速機構33は、プライマリ軸41と、プライマリ軸41と平行に設けられたセカンダリ軸42と、プライマリ軸41に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ43と、セカンダリ軸42に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ44と、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とに巻き掛けられたベルト45とを備えている。
プライマリプーリ43は、プライマリ軸41に固定された固定シーブ51と、固定シーブ51にベルト45を挟んで対向配置され、プライマリ軸41にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ52とを備えている。可動シーブ52に対して固定シーブ51と反対側には、プライマリ軸41に固定されたシリンダ53が設けられ、可動シーブ52とシリンダ53との間に、油室54が形成されている。
セカンダリプーリ44は、セカンダリ軸42に固定された固定シーブ55と、固定シーブ55にベルト45を挟んで対向配置され、セカンダリ軸42にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ56とを備えている。可動シーブ56に対して固定シーブ55と反対側には、セカンダリ軸42に固定されたシリンダ57が設けられ、可動シーブ56とシリンダ57との間に、油室58が形成されている。回転軸線方向において、固定シーブ55と可動シーブ56との位置関係は、プライマリプーリ43の固定シーブ51と可動シーブ52との位置関係と逆転している。
ベルト変速機構33では、プライマリプーリ43の油室54およびセカンダリプーリ44の油室58に供給される油圧がそれぞれ制御されて、プライマリプーリ43およびセカンダリプーリ44の各溝幅が変更されることにより、ベルト変速比(プーリ比)が連続的に無段階で変更される。
前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸41に伝達する構成である。具体的には、前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に相対回転不能に支持されるインプット軸ギヤ61と、インプット軸ギヤ61よりも大径で歯数が多く、プライマリ軸41にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されて、インプット軸ギヤ61と噛合するプライマリ軸ギヤ62とを含む。
遊星歯車機構35は、サンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73を備えている。サンギヤ71は、セカンダリ軸42にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。キャリヤ72は、アウトプット軸32に相対回転可能に外嵌されている。キャリヤ72は、複数個のピニオンギヤ74を回転可能に支持している。複数個のピニオンギヤ74は、円周上に配置され、サンギヤ71と噛合している。リングギヤ73は、複数個のピニオンギヤ74を一括して取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ74にセカンダリ軸42の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ73には、アウトプット軸32が接続され、リングギヤ73は、アウトプット軸32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81と、スプリットドライブギヤ81と噛合するスプリットドリブンギヤ82とを含む平行軸式歯車機構である。
スプリットドライブギヤ81は、インプット軸31に相対回転可能に外嵌されている。
スプリットドリブンギヤ82は、遊星歯車機構35のキャリヤ72と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ82は、スプリットドライブギヤ81よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ81よりも少ない歯数を有している。
また、アウトプット軸32には、パーキングギヤ83が相対回転不能に支持されている。パーキングギヤ83の周囲には、パーキングポール(図示せず)が設けられている。パーキングポールがパーキングギヤ83の歯溝に係合することにより、パーキングギヤ83の回転が規制(パーキングロック)され、パーキングポールがパーキングギヤ83の歯溝から離脱することにより、パーキングギヤ83の回転が許容(パーキングロック解除)される。
また、CVT4は、クラッチC1,C2およびブレーキB1を備えている。
クラッチC1は、油圧により、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
クラッチC2は、油圧により、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
ブレーキB1は、油圧により、遊星歯車機構35のキャリヤ72を制動する係合状態と、キャリヤ72の回転を許容する解放状態とに切り替えられる。
図2は、車両1の前進時および後進時におけるクラッチC1,C2およびブレーキB1の状態を示す図である。図3は、遊星歯車機構35のサンギヤ71、キャリヤ72およびリングギヤ73の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。図4は、ベルト変速機構33によるベルト変速比とCVT4の全体でのユニット変速比との関係を示す図である。
図2において、「○」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2およびブレーキB1が解放状態であることを示している。
車両1の車室内には、ドライバ(運転者)が操作可能な位置に、シフトレバー(セレクトレバー)が配設されている。シフトレバーの可動範囲には、たとえば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジションおよびD(ドライブ)ポジションの各レンジ位置がこの順に一列に並べて設けられている。
シフトレバーがPポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放され、パーキングギヤ83が固定されることにより、CVT4の変速レンジの1つであるPレンジ(駐車レンジ)が構成される。また、シフトレバーがNポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2およびブレーキB1のすべてが解放されて、パーキングロックギヤが固定されないことにより、CVT4の変速レンジの1つであるNレンジ(中立レンジ)が構成される。クラッチC1およびブレーキB1の両方が解放された状態では、エンジン2の動力がセカンダリ軸42まで伝達されて、セカンダリ軸42が回転するが、遊星歯車機構35のサンギヤ71およびピニオンギヤ74が空転し、エンジン2の動力は駆動輪7L,7Rに伝達されない。
シフトレバーがDポジションに位置する状態では、CVT4の変速レンジの1つであるDレンジ(前進レンジ)が構成される。このDレンジでの動力伝達モードには、ベルトモードおよびスプリットモードが含まれる。ベルトモードとスプリットモードとは、クラッチC1が係合している状態とクラッチC2が係合している状態との切り替え(クラッチC1,C2の掛け替え)により切り替えられる。
ベルトモードでは、図2に示されるように、クラッチC1およびブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結される。
インプット軸31に入力されるエンジン2からの動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41およびプライマリプーリ43を回転させる。プライマリプーリ43の回転は、ベルト45を介して、セカンダリプーリ44に伝達され、セカンダリプーリ44およびセカンダリ軸42を回転させる。遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結されているので、セカンダリ軸42と一体となって、サンギヤ71、リングギヤ73およびアウトプット軸32が回転する。したがって、ベルトモードでは、図3および図4に示されるように、CVT4全体でのユニット変速比(トータル変速比)がベルト変速機構33のベルト変速比に前減速比(インプット軸31の回転数/プライマリ軸41の回転数)を乗じた値と一致する。
スプリットモードでは、図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2およびブレーキB1が解放される。これにより、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とが結合されて、インプット軸31の回転がスプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に伝達可能になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離される。
インプット軸31に入力されるエンジン2からの動力は、スプリットドライブギヤ81からスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に増速されて伝達される。キャリヤ72に伝達される動力は、キャリヤ72からサンギヤ71およびリングギヤ73に分割して伝達される。サンギヤ71の動力は、セカンダリ軸42、セカンダリプーリ44、ベルト45、プライマリプーリ43およびプライマリ軸41を介してプライマリ軸ギヤ62に伝達され、プライマリ軸ギヤ62からインプット軸ギヤ61に伝達される。そのため、ベルトモードでは、インプット軸ギヤ61が駆動ギヤとなり、プライマリ軸ギヤ62が被動ギヤとなるのに対し、スプリットモードでは、プライマリ軸ギヤ62が駆動ギヤとなり、インプット軸ギヤ61が被動ギヤとなる。
スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比は一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸31に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構35のキャリヤ72の回転が一定速度に保持される。そのため、ベルト変速比が上げられると、遊星歯車機構35のサンギヤ71の回転数が下がるので、図3に破線で示されるように、遊星歯車機構35のリングギヤ73(アウトプット軸32)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、図4に示されるように、ベルト変速機構33のベルト変速比が大きいほど、CVT4のユニット変速比が小さくなり、ベルト変速比に対するユニット変速比の感度(ベルト変速比の変化量に対するユニット変速比の変化量の割合)がベルトモードと比べて低い。
アウトプット軸32を回転させるエンジン駆動力は、出力ギヤ37を介してデファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介して駆動輪7L,7Rに伝達される。これにより、駆動輪7L,7Rが前進方向に回転する。
シフトレバーがRポジションに位置する状態では、CVT4の変速レンジの1つであるRレンジ(後進レンジ)が構成される。Rレンジでは、図2に示されるように、クラッチC1,C2が解放され、ブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動される。
インプット軸31に入力されるエンジン2からの動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、ベルト変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45およびセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、セカンダリ軸42と一体に、遊星歯車機構35のサンギヤ71を回転させる。遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動されているので、サンギヤ71が回転すると、遊星歯車機構35のリングギヤ73がサンギヤ71と逆方向に回転する。このリングギヤ73の回転方向は、前進時(ベルトモードおよびスプリットモード)におけるリングギヤ73の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ73と一体に、アウトプット軸32が回転する。アウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介してデファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介して駆動輪7L,7Rに伝達される。これにより、駆動輪7L,7Rが後進方向に回転する。
車両1の前進時には、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73との直結により、サンギヤ71の回転速度とリングギヤ73の回転速度とが一致するのに対し、車両1の後進時には、遊星歯車機構35の構成上、リングギヤ73の回転速度がサンギヤ71の回転速度よりも必ず低くなる。そのため、Rレンジでは、変速比が最大プーリ比よりも大きくなり、DレンジおよびRレンジで最大プーリ比が構成されている場合、車両1の後進時に、前進時と比較して、変速比が大きくなり、アウトプット軸32から出力される動力が大きくなる。
<車両の制御系>
図5は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラユニット)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。複数のECUには、エンジンECU91、変速機ECU92およびブレーキECU93が含まれる。
エンジンECU91、変速機ECU92およびブレーキECU93には、制御に必要なセンサが接続されている。図5には、それらのセンサのうちの一部のみが示されている。
エンジンECU91は、各種センサの検出信号から取得した情報および/または他のECUから入力される種々の情報などに基づいて、エンジン2の始動、停止および出力調整のため、電子スロットルバルブ、インジェクタ、点火プラグおよびスタータなどを制御する。
トルクコンバータ3およびCVT4を含むユニットには、各部に油圧を供給するための油圧回路94が備えられている。変速機ECU92は、各種センサの検出信号から取得した情報および/または他のECUから入力される種々の情報などに基づいて、トルクコンバータ3のロックアップクラッチ24の係合/解放の制御やCVT4の変速制御などのため、油圧回路94に含まれる各種のバルブなどを制御する。
変速制御では、CVT4の変速比が無段階で変更される。変速機ECU92の不揮発性メモリには、変速線図が記憶されている。変速線図は、アクセル開度および車速と目標入力回転数との関係を定めたものである。目標入力回転数は、CVT4のインプット軸31に入力される回転数の目標値である。変速制御では、変速線図からアクセル開度および車速に応じた目標入力回転数が設定され、インプット軸31に入力される回転数を目標入力回転数に一致させるユニット変速比の目標である目標変速比が求められて、目標変速比に応じたベルト変速比の目標が設定される。そして、ベルト変速比が目標に向けて変更される。
ベルトモードでは、ベルト変速比がスプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比であるスプリットギヤ比に等しい切替値を下限とする範囲内の値をとり、スプリットモードでは、ベルト変速比が切替値を上限とする範囲内の値をとる。目標変速比が切替値を跨いだ値に設定された場合、すなわち、ベルトモードで切替値以下の目標変速比が設定された場合、または、スプリットモードで切替値以上の目標変速比が設定された場合、変速比の変更には、ベルトモードとスプリットモードとの切り替えが伴う。ベルトモードとスプリットモードとの切り替えを伴う場合、変速機ECU92により、ベルト変速比の変更とともに、クラッチC1,C2およびブレーキB1を係合/解放する制御が行われる。
ブレーキECU93には、車速センサ95およびマスタシリンダ圧センサ96が接続されている。
車速センサ95は、たとえば、車両1の走行に伴って回転する磁性体からなるロータと、ロータと非接触に設けられた電磁ピックアップとを備えている。ロータが一定角度回転する度に、電磁ピックアップからパルス信号が検出信号として出力される。パルス信号の周波数は、車速に対応するので、ブレーキECU93は、車速センサ95から入力されるパルス信号の周波数を車速に換算する。
車両1では、たとえば、車室内に設けられているブレーキペダル101がドライバの足で踏まれると、そのブレーキペダル101に入力された踏力がブレーキブースタ102に伝達される。ブレーキブースタ102に伝達された踏力は、ブレーキブースタ102の負圧によって増幅(倍力)され、ブレーキブースタ102からマスタシリンダ103に入力される。マスタシリンダ103では、ブレーキブースタ102から入力される力に応じた油圧が発生する。マスタシリンダ103の発生油圧(以下、「マスタシリンダ圧」という。)は、ブレーキアクチュエータ104に伝達される。そして、ブレーキアクチュエータ104の機能により、各車輪に設けられたブレーキのホイールシリンダに油圧が分配され、その油圧により各ブレーキから駆動輪7L,7Rを含む車輪に制動力が付与される。
マスタシリンダ圧センサ96は、マスタシリンダ圧に応じた検出信号をブレーキECU93に入力する。
ブレーキECU93は、車速センサ95およびマスタシリンダ圧センサ96などの各種センサの検出信号から取得した情報および/または他のECUから入力される種々の情報などに基づいて、ブレーキアクチュエータ104などを制御し、車両1の姿勢が安定に保たれた状態で車両1が制動されるように、各ブレーキから車輪に付与される制動力を制御する。
<油圧回路>
図6は、油圧回路94の一部の構成を示す回路図である。
CVT4には、エンジン2の動力で駆動される機械式のオイルポンプPが設けられている。また、CVT4の外殻をなすケースの底部には、オイルパンが取り付けられており、そのオイルパンには、オイルが貯留される。オイルパンに貯留されているオイルは、オイルポンプPが駆動されると、オイルポンプPに吸い上げられ、油圧回路94を通して、トルクコンバータ3およびCVT4におけるオイルの供給を必要とする各部に作動油または潤滑油として供給される。
油圧回路94には、プライマリレギュレータバルブ111およびセカンダリレギュレータバルブ112が含まれる。プライマリレギュレータバルブ111は、オイルポンプPの吐出圧をライン圧PLに調圧するバルブである。セカンダリレギュレータバルブ112は、プライマリレギュレータバルブ111でのライン圧PLの調圧によりプライマリレギュレータバルブ111から排出される油圧をセカンダリレギュレータ圧Psrに調圧するバルブである。
油圧回路94によるオイルの供給系は、プライマリレギュレータ供給系と、セカンダリレギュレータ供給系とに分けられている。プライマリレギュレータ供給系は、プライマリレギュレータバルブ111からオイルが供給される系であり、言い換えれば、ライン圧PLを元圧とする油圧が供給される系である。CVT4のプライマリプーリ43、セカンダリプーリ44、クラッチC1,C2およびブレーキB1は、プライマリレギュレータ系に含まれる。セカンダリレギュレータ供給系は、セカンダリレギュレータバルブ112からオイルが供給される系であり、言い換えれば、セカンダリレギュレータ圧Psrを元圧とする油圧が供給される系である。トルクコンバータ3のロックアップクラッチ24は、セカンダリレギュレータ系に含まれる。また、セカンダリレギュレータ圧Psrにより、摩擦を生じる各部に潤滑油が供給される。
ロックアップクラッチ24の解放油室26および係合油室27には、ロックアップリレーバルブ113からセカンダリレギュレータ圧Psrが選択的に供給される。ロックアップリレーバルブ113は、ロックアップオン位置とロックアップオフ位置とに移動可能なスプールを有している。ロックアップリレーバルブ113のスプールがロックアップオン位置に位置する状態では、係合油室27にセカンダリレギュレータ圧PsrがLUオン圧として供給され、解放油室26からオイルがドレンされる。ロックアップリレーバルブ113のスプールがロックアップオフ位置に位置する状態では、解放油室26にセカンダリレギュレータ圧PsrがLUオフ圧として供給され、係合油室27からオイルがドレンされる。ロックアップリレーバルブ113の信号ポートには、ソレノイドバルブから出力される油圧が信号圧として供給され、ソレノイドバルブのオン/オフにより、ロックアップリレーバルブ113のスプールの位置がロックアップオン位置とロックアップオフ位置とに切り替わる。
<急減速制御>
図7は、車両1の急減速時の目標変速比、目標セカンダリシーブ圧、エンジン回転数、タービン回転数、LUオン圧、LUオフ圧および車速の時間変化の一例を示す図である。
車両1の車速が所定の第1車速より低い状態から第1車速以上に上昇すると、変速機ECU92により、ロックアップリレーバルブ113の信号圧を出力するソレノイドバルブがオンにされて、ロックアップリレーバルブ113のスプールの位置がロックアップオフ位置からロックアップオン位置に切り替えられる。これにより、トルクコンバータ3のロックアップクラッチ24がロックアップオフからロックアップオンに切り替わる。また、車速が所定の第2車速より大きい状態から第2車速以下に低下すると、変速機ECU92により、ロックアップリレーバルブ113の信号圧を出力するソレノイドバルブがオフにされて、ロックアップリレーバルブ113のスプールの位置がロックアップオン位置からロックアップオフ位置に切り替えられる。これにより、トルクコンバータ3のロックアップクラッチ24がロックアップオンからロックアップオフに切り替わる。第1車速と第2車速とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
一方、車両1の走行中は、変速機ECU92により、車両1の急減速が生じたか否かの判定が所定の周期で行われる。その急減速が生じたか否かの判定は、変速機ECU92がブレーキECU93から受信するマスタシリンダ圧の値を用いて行われる。
ブレーキECU93では、所定の周期で、マスタシリンダ圧センサ96の検出信号が量子化され、その量子化によりマスタシリンダ圧の値が求められる。マスタシリンダ圧の値が求められると、そのマスタシリンダ圧の値がブレーキECU93から変速機ECU92に送信される。変速機ECU92では、ブレーキECU93からマスタシリンダ圧の値を受信する度に、マスタシリンダ圧の値が時間微分されることにより、マスタシリンダ圧の値の時間変化率が求められる。マスタシリンダ圧の値の時間変化率が所定値以上である場合、マスタシリンダ圧が急上昇して、各ブレーキから駆動輪7L,7Rに付与される制動力が急増し、車両1が急制動により急減速すると考えられる。そこで、マスタシリンダ圧の値の時間変化率が所定値以上である場合、変速機ECU92により、車両1の急減速が判定される。車両1の急減速が判定されると、変速機ECU92では、CVT4の変速比を急速にダウンシフトさせる急ダウンシフト指示とともに、エンジンストールの発生を防止するため、トルクコンバータ3のロックアップクラッチ24を早急に解放させる急オフ指示が発生する(時刻T1)。
ロックアップクラッチ24がロックアップオンである場合、変速機ECU92により、急オフ指示の発生に応じて、ロックアップリレーバルブ113の信号圧を出力するソレノイドバルブがオフにされて、ロックアップリレーバルブ113のスプールの位置がロックアップオン位置からロックアップオフ位置に切り替えられる。一方、急ダウンシフト指示が発生しても、目標変速比がロー側に直ちには変更されず、急ダウンシフト指示の発生から所定のディレイ時間、目標変速比がそのときの値に保持される(時間T1-T3)。
ディレイ時間は、LUオフ圧がLUオン圧を上回るのに必要十分な時間に設定されることが好ましく、一定時間であってもよいし、可変時間であってもよい。ディレイ時間が可変時間である場合、急オフ指示の発生時(急減速判定時)のLUオン圧とLUオフ圧との差圧に応じたディレイ時間が設定されてもよい。たとえば、急オフ指示の発生時のLUオン圧とLUオフ圧との差圧とロックアップオフ応答時間(ロックアップリレーバルブ113のスプールの位置がロックアップオン位置からロックアップオフ位置に切り替えられてからLUオフ圧がLUオン圧を上回るのに要する時間)との関係が予め求められて、その関係に基づいて、急オフ指示の発生時のLUオン圧とLUオフ圧との差圧に応じたディレイ時間が設定されてもよい。また、オイルの温度によってロックアップオフ応答時間が変動するので、急オフ指示の発生時のLUオン圧とLUオフ圧との差圧とロックアップオフ応答時間との関係に基づいて設定されるディレイ時間がオイルの温度によって補正されてもよい。
急ダウンシフト指示の発生からディレイ時間が経過するまで、目標変速比が変更されないので、その間、セカンダリプーリ44の可動シーブ56に供給される油圧(セカンダリシーブ圧)の目標である目標セカンダリシーブ圧が一定に保持される。そのため、セカンダリシーブ圧を目標セカンダリシーブ圧に追従させるためのライン圧PLの昇圧が行われず、プライマリレギュレータバルブ111からセカンダリレギュレータバルブ112に向けて排出されるオイルの流量が減少しないので、セカンダリレギュレータバルブ112からロックアップリレーバルブ113を経由してロックアップクラッチ24に供給されるオイルの流量が確保される。その結果、LUオン圧がLUオフ圧まで低下し(時刻T2)、エンジン2の回転数(エンジン回転数)の低下によるセカンダリレギュレータ圧Psrの低下に伴ってLUオン圧およびLUオフ圧がともに低下した後(時間T2-T3)、LUオフ圧がLUオン圧を上回り、ロックアップクラッチ24が解放される。
そして、急ダウンシフト指示の発生からディレイ時間が経過すると、変速機ECU92により、目標変速比がロー側に急変されて、セカンダリシーブ圧の目標である目標セカンダリシーブ圧が急速に上げられる(時間T3-T4)。また、プライマリレギュレータバルブ111により調圧されるライン圧PLを昇圧させる制御が行われる。このライン圧PLの昇圧制御により、セカンダリプーリ44の可動シーブ56(セカンダリプーリ44の油室58)へのオイルの供給量が増加し、セカンダリシーブ圧が目標セカンダリシーブ圧の急上に応答性よく追従して昇圧する。
<作用効果>
以上のように、トルクコンバータ3のロックアップクラッチ24が係合している状態で、車両1が急制動により急減速し始めると、ロックアップクラッチ24が解放されるように、ロックアップクラッチ24に供給される油圧が制御される。また、車両1の減速時には、車両1の次の発進/加速に備えて、セカンダリプーリ44の可動シーブ56に供給される油圧を増大させて、変速比をロー側にダウンシフトさせることが好ましいが、その変速比の変更に油圧が奪われると、ロックアップクラッチ24を解放させる油圧の立ち上がりが遅れる。そのため、トルクコンバータ3のロックアップクラッチ24が係合している状態での車両1の急減速時には、変速比の変更よりもロックアップクラッチ24の解放が優先されるように、セカンダリプーリ44の可動シーブ56への油圧の供給が制御される。これにより、ロックアップクラッチ24の解放に必要な油圧が確保されて、ロックアップクラッチ24を解放させる油圧を良好に立ち上げることができる。その結果、車両1の急減速時のロックアップクラッチ24の解放の応答性が向上する。
変速比の変更よりもロックアップクラッチ24の解放を優先させる手法としては、ロックアップクラッチ24の解放のための制御の開始に対して、変速比の変更のための制御の開始を所定のディレイ時間が経過するまで遅らせる手法が採用されている。この簡易な手法により、制御が複雑にならずに、変速比の変更よりもロックアップクラッチ24の解放を優先させることができる。
車両1の急減速ではない減速時には、つまり急減速が判定されない範囲での車両1の減速時には、車速が所定の第2車速未満に低下したことに応じて、ロックアップクラッチ24が解放されるように、ロックアップクラッチ24に供給される油圧が制御される。車両1の急減速に対しては高い応答性でロックアップクラッチ24が解放されるので、急減速によるエンジンストールの発生を懸念せずに、第2車速を低く設定して、ロックアップクラッチ24が係合されている領域を低車速化(低車速側に拡大)することにより、車両1の走行燃費の向上を図ることができる。
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述の実施形態では、変速比の変更よりもロックアップクラッチ24の解放を優先させるため、急ダウンシフト指示の発生から所定のディレイ時間、目標変速比がそのときの値に保持されるとしたが、変速比の変更よりもロックアップクラッチ24の解放を優先させる手法としては、それ以外にも、目標変速比をそのときの値よりも所定値だけ大きい値で保持する手法が採用されてもよいし、車速の低下に対する目標変速比の変更の度合いを通常よりも小さくする手法が採用されてもよい。
また、前述の実施形態では、マスタシリンダ圧の値の時間変化率が所定値以上であることにより、車両1の急減速が判定されるとしたが、マスタシリンダ圧の値が所定値以上に上昇したことにより、車両1の急減速が判定されてもよい。マスタシリンダ圧を用いる判定手法に限らず、車両1の減速度が所定値以上であることにより、車両1の急減速が判定されてもよい。車両1の減速度は、車速の時間微分により求められてもよいし、加速度センサにより検出されてもよい。車両1の減速度から急減速を判定する手法では、急制動によらない急減速についても判定することができる。
前述の実施形態では、スプリット変速機構36を経由する第1動力伝達経路とベルト変速機構33を経由する第2動力伝達経路とに分岐して動力を伝達する構成を取り上げたが、スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81およびスプリットドリブンギヤ82を含む平行軸式歯車機構に限らず、ベルト機構などのギヤ機構以外の機構であってもよい。ベルト機構が採用される場合、そのベルト機構は、変速比が固定のものであってもよいし、変速比が可変のものであってもよい。
また、自動変速機は、スプリット変速機構36を備えていない、つまり動力分割式ではない通常のCVTであってもよいし、有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)であってもよい。有段式の自動変速機では、変速段の切り替えのために係合/解放されるクラッチなどが油圧作動部材に相当する。
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。