特許法第30条第2項適用申請有り 平成30年9月18日及び21日に、第79回応用物理学会秋季学術講演会にて発表 平成30年9月5日に、第79回応用物理学会秋季学術講演会のウェブサイト(https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2018a/subject/21p-146-12/advanced、https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2018a/subject/21p-146-14/advanced、https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2018a/subject/18p-146-7/date?cryptoId)にて講演要旨が掲載 平成30年9月5日に、公益財団法人応用物理学会が発行した「2018年第79回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集」のDVDにて公開
特許法第30条第2項適用申請有り 平成30年9月27日に、独立行政法人日本学術振興会 ワイドギャップ半導体光・電子デバイス第162委員会 第110回研究会・特別公開シンポジウム「紫外発光デバイスの最前線と将来展望」にて発表 平成30年9月27日に、独立行政法人日本学術振興会が発行した「第110回研究会・特別公開シンポジウム「紫外発光デバイスの最前線と将来展望」」の予稿集にて公開
特許法第30条第2項適用申請有り 平成30年11月14日に、International Workshop on Nitride Semiconductors 2018(IWN2018)(2018年窒化物半導体国際ワークショップ)にて発表 平成30年11月11日に、International Workshop on Nitride Semiconductors 2018 が発行した「TECHNICAL DIGEST IWN2018(窒化物半導体に関する国際ワークショップ2018の技術資料)」にて公開
特許法第30条第2項適用申請有り 平成30年12月10日に、International Workshop on UV Materials and Devices(IWUMD)2018(UVマテリアル・デバイスに関する国際ワークショップ2018)にて発表 平成30年12月9日に、International Workshop on UV Materials and Devices(IWUMD) 2018が発行した「The 3rd International Workshop on UV Materials and Devices Technical Digest(第3回UVマテリアル・デバイスに関する国際ワークショップの技術資料)」にて公開
特許法第30条第2項適用申請有り 平成31年3月11日に、第66回応用物理学会春季学術講演会にて発表 平成31年2月25日に、第66回応用物理学会春季学術講演会のウェブサイト(https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2019s/subject/11p-W541-7/advanced、https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2019s/subject/11p-W541-2/advanced、https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2019s/subject/11p-W541-6/advanced、https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2019s/subject/11p-W541-1/advanced)にて講演要旨が掲載 平成31年2月25日に、公益財団法人応用物理学会が発行した「2019年第66回応用物理学会春季学術講演会の講演予稿集」のDVDにて公開
特許法第30条第2項適用申請有り 平成30年9月14日に、第11回窒化物半導体の成長・評価に関する夏期ワークショップにて発表 平成30年9月13日に、第11回窒化物半導体の成長・評価に関する夏期ワークショップが発行した「第11回窒化物半導体の成長・評価に関する夏期ワークショップ」の予稿集にて公開
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。以下の説明においては、アルミニウムをAl、窒化アルミニウムをAlN、窒化アルミニウムガリウムをAlGaN、サファイアをAl2O3と示すこともある。
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。本発明は、特許請求の範囲によって特定される。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
(実施の形態1)
[窒化物半導体基板の構成]
まず、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10の構成例について説明する。図1は、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10の構成例を示す図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10は、a面サファイア基板11と、AlN層12とを有する。
a面サファイア基板11は、六方晶構造のa面を基板表面に露出させたサファイアである。そのため、a面サファイア基板11は、a面上に、窒化物半導体を構成する薄膜を形成することができる。本実施の形態においては、a面サファイア基板11は、a面上に、窒化物半導体の一例であるAlN層12を形成する。
AlN層12は、六方晶構造であり、結晶粒の集合体であるIII族窒化物半導体の一つである。本実施の形態に係るAlN層12の膜厚は、400nm以下であり、例えば、100nm、200nm、300nm及び400nmである。AlN層12の(0002)面におけるX線ロッキングカーブの半値幅は、250arcsec以下であり、AlN層12の(10-12)面におけるX線ロッキングカーブの半値幅は、500arcsec以下であってもよい。
また、上記の通り、窒化物半導体基板10は、a面サファイア基板11上にAlN層12を有するため、a面サファイア基板11のm面とAlN層12のm面とは、一致し易い。具体的には、a面サファイア基板11のm面とAlN層12のm面とのなす角度は、5°以下である。
[窒化物半導体基板の製造方法及び製造装置]
次に、実施の形態に係る窒化物半導体基板10の製造方法及び製造装置について説明する。図2は、本実施の形態に係るスパッタ装置100の構成例を示す模式図である。図3は、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10の製造方法の一例を示すフローチャートである。
まず、図2に示すスパッタ装置100の構成例について説明する。同図のようにスパッタ装置100は、チェンバー110、吸気管101、排気管102、バルブ103、排気ポンプ104、基板ホルダ105、永久磁石108、高圧電源109を備える。
チェンバー110は、a面サファイア基板11と、AlN層12の原料となるターゲット107とを対向させて保持し、チェンバー110内部の気体の圧力及び温度を任意に設定可能なほぼ密閉された部屋である。以下では、スパッタを行う際のチェンバー110内の気体圧力は、スパッタ圧力と表記される。
吸気管101は、外部から供給される不活性ガスをチェンバー110内部に導入するための吸気管である。不活性ガスは、ヘリウム(He)ガス、窒素(N2)ガス又はアルゴン(Ar)ガスなどである。吸気管101は、一つの吸気管から複数種類のガスを同時に供給してもよい。また、チェンバー110に対して、複数の吸気管101が接続されている構成でもよい。また、吸気管101は、吸気管101から不活性ガス以外のガスを導入することが可能でもよい。不活性ガス以外のガスは、例えば水素(H2)ガス、酸素(O2)ガス、アンモニア(NH3)ガスなどである。吸気管101は、供給するガスの流量を精密に制御する機構を備えていてもよい。
排気管102は、チェンバー110内部のガスを外部に排気するための管である。
バルブ103は、排気管102の排気流量を調整する。
排気ポンプ104は、排気管102及びバルブ103を介してチェンバー110内部のガスをチェンバー110外部に排気するためのポンプである。
基板ホルダ105は、ウェハ基板の状態のa面サファイア基板11を保持する。なお、基板ホルダ105は、同時に成膜される複数枚のa面サファイア基板11を保持してもよい。基板ホルダ105は、加熱機構を有しており、a面サファイア基板11を400℃以上1000℃以下、好ましくは500℃以上700℃以下、より好ましくは500℃以上650℃以下の範囲で、例えば600℃の温度で保持することが可能でもよい。基板ホルダ105は、ターゲット107からa面サファイア基板11を見込む角度を任意に制御することができる機構を有していてもよい。基板ホルダ105は、スパッタ成膜中にa面サファイア基板11を自転あるいは公転させることが可能でもよい。
ターゲット107は、ターゲットホルダに保持される。なお、ターゲットホルダは、異なる材料からなる複数種類のターゲットを保持してもよい。また、ターゲットホルダは、スパッタリングの対象となるターゲット107を切り替えることで、チェンバー110を高真空に保持したまま、複数の異なる材料を連続してスパッタリングすることが可能な構成でもよい。また、スパッタ装置100は、複数の異なる材料を同時にスパッタリングすることが可能な構成でもよい。ターゲット107の形状は、例えば直径10cmの円形である。ターゲット107は、矩形あるいはそれ以外の形状であってもよい。また、ターゲット107は、Alを含む。例えば、金属Al、AlN、Al2O3及びAl以外の金属を含むAl合金である。
高圧電源109は、a面サファイア基板11とターゲット107との間に高周波電圧を印加する。高周波電圧は、例えば、RF(Radio Frequency)電圧である。高周波電圧のRF電圧成分は、a面サファイア基板11とターゲット107との間において、吸気管101から供給されたガスをプラズマ化する。プラズマ化されたガスは、セルフバイアス又は外部電源が印加したDC電圧成分に起因する電界によってターゲット107に衝突し、ターゲット107の表面の原子を弾き出す(スパッタリングする)。弾き出された原子は、スパッタリングで与えられた運動エネルギーに従って、a面サファイア基板11に向かって飛び、付着する。その結果、a面サファイア基板11上にターゲット107を原料とする膜、あるいはターゲット107を構成する材料と吸気管101から供給されたガスとの化合物からなる膜が形成される。高周波電圧の電圧は、例えば、0~5000V、高周波電圧の周波数は13.56MHzでよい。DC電圧成分は0から2000Vが設定できる。
なお、図2のスパッタ装置100では、高周波電圧を用いるいわゆるRFスパッタの例を示したが、直流電圧を用いるDCスパッタでもよい。また、電圧は、ある一定の時間幅を有するパルス状に印加されてもよい。DCスパッタの場合、ターゲット107となる材料は、導電性を有する必要がある。
永久磁石108は、プラズマ中の電子をターゲット107の近傍に拘束するための磁界を形成する。これにより、ターゲット107近傍のプラズマ密度を高めてスパッタリング速度を上昇させる。また、a面サファイア基板11からプラズマを遠ざけることにより、a面サファイア基板11に対して電子又は荷電粒子が照射されてAlN層12の結晶品質が低下することを防ぐ。また、スパッタ装置100は、永久磁石108を有さなくてもよい。スパッタ成膜中に永久磁石108を任意に動かすことが可能でもよい。ターゲット107及び永久磁石108の付近は、冷却水によって冷却されているため、ターゲット107の温度上昇が抑えられる。
また、図2のスパッタ装置100では、a面サファイア基板11がターゲット107よりも上側に対向して配置されるスパッタアップ型(又はフェイスダウン型)の構成例を説明したが、これに限らない。スパッタ装置100は、a面サファイア基板11がターゲット107よりも下に対向して配置されるスパッタダウン型(フェイスアップ型)でもよい。さらに、スパッタ装置100は、a面サファイア基板11がターゲット107の側方に対向して配置されサイドスパッタ型(サイドフェイス型)でもよい。
図2において、a面サファイア基板11とターゲット107の間の距離は、例えば145mmである。
次に、図3のフローチャートを用いて、窒化物半導体基板10の製造方法について説明する。
図3に示すように、窒化物半導体基板10の製造方法は、スパッタ装置100内にa面サファイア基板11を準備する第1工程(S21)と、スパッタ装置100内に成膜材料であるAlを含むターゲット107を準備する第2工程(S22)と、400℃以上1000℃以下の温度で保ちながらターゲット107をスパッタリングすることにより、AlN層12をa面サファイア基板11のa面上に成膜する第3工程(S23)とを有する。さらに、窒化物半導体基板10の製造方法は、AlN層12が成膜されたa面サファイア基板11をアニールすることで、AlN層12及びa面サファイア基板11の格子不整合によるAlN層12の引張歪とAlN層12及びa面サファイア基板11の熱膨張不整合によるAlN層12の圧縮歪とが互いに打ち消す処理を施す第4工程(S24)を有する。具体的には、第4工程(S24)では、AlN層12が成膜されたa面サファイア基板11を、1400℃以上1750℃以下の温度でアニールする。なお、引張歪及び圧縮歪の詳細は、図8及び図9を用いて、後述する。
すなわち、窒化物半導体基板10の製造方法は、大きく分けて、第1工程(S21)、第2工程(S22)、第3工程(S23)及び第4工程(S24)を有する。
第1工程(S21)では、スパッタ装置100内の基板ホルダ105にa面サファイア基板11を準備する。このa面サファイア基板11の表面は、単一原子層又は単一分子層からなるステップテラス構造が形成されていてもよい。このa面サファイア基板11の裏面は、光学的に鏡面になるように研磨されていてもよいし、粗面化加工が施されていてもよい。このa面サファイア基板11の裏面に、AlN又はAlN以外の材料からなる層が成膜されていてもよい。基板ホルダ105は、例えば、2インチのウェハ基板を4枚以上保持可能な構成でもよい。基板ホルダ105は、2インチ以上のサイズの基板を保持可能な構成でもよい。
第1工程(S21)の前段階として、図2には示されていないがチェンバー110と隣接して設けられ、独立して大気開放及び真空排気が可能なロードロックチェンバーにa面サファイア基板11を配置しする工程があってもよい。当該工程では、ロードロックチェンバー内で十分に高い真空度まで排気したのちに、真空下でa面サファイア基板11をロードロックチェンバーからチェンバー110へ搬送し、a面サファイア基板11をチェンバー110内の基板ホルダに設置してもよい。これにより、基板ホルダ105にa面サファイア基板11を配置する際、チェンバー110が大気に曝露されることがなくなるため、チェンバー110内を常に高い真空度に維持することが可能となる。その結果、スパッタ成膜されたAlN層12の結晶品質を安定的に制御することが可能となる。a面サファイア基板11をチェンバー110内に搬送するまでに、ロードロックチェンバーの圧力は、例えば1×10-4Pa以下まで低減されることが望ましい。
第2工程(S22)では、スパッタ装置100内に成膜材料であるターゲット107を準備する。本実施の形態に係るターゲット107は、Al又はAlNの焼結体である。
第1工程(S21)及び第2工程(S22)おいて、a面サファイア基板11及びターゲット107を配置してから、第3工程(S23)においてスパッタ成膜を開始するまでに、十分な時間をかけて、チェンバー110は、真空排気される。さらに、真空排気する際に、a面サファイア基板11がスパッタ成膜時と同じかそれよりも高い温度に保持された状態で、チェンバー110は、真空排気される。このような方法を用いて、チェンバー110の圧力を下げることが望ましい。このように、チェンバー110内の残留ガス濃度が低減されることで、スパッタ成膜されたAlN層12の結晶品質を安定的に制御することが可能となる。また、a面サファイア基板11を加熱しながらチェンバー110を真空排気することにより、a面サファイア基板11がチェンバー110内に配置される前に、a面サファイア基板11の表面に吸着した水分を効果的に除去することができる。これにより、スパッタ成膜されたAlN層12の結晶品質を安定的に制御することが可能となる。第3工程(S23)を開始する前に、チェンバー110の圧力を、例えば6×10-5Pa以下まで低減することが望ましい。
第3工程(S23)では、400℃以上1000℃以下の温度で保ちながらターゲット107をスパッタリングすることにより、ターゲット材料の組成を含むAlN層12がa面サファイア基板11上に成膜される。また、好ましくは、第3工程(S23)では、500℃以上700℃以下の温度で保ちながらターゲット107をスパッタリングすることにより、ターゲット材料の組成を含むAlN層12がa面サファイア基板11上に成膜される。また、より好ましくは、第3工程(S23)では、500℃以上650℃以下の温度で保ちながらターゲット107をスパッタリングすることにより、ターゲット材料の組成を含むAlN層12がa面サファイア基板11上に成膜される。また、第3工程(S23)では、a面サファイア基板のm面とAlN層のm面とのなす角度が5°以下であるAlN層を成膜してもよい。さらに、第3工程(S23)では、0.5Paよりも小さいスパッタ圧力でターゲット107をスパッタリングすることにより、ターゲット材料の組成を含むAlN層12がa面サファイア基板11上に成膜されてもよい。より具体的に説明すると、チェンバー110のスパッタ圧力は、0.5Pa以下の所望の圧力になるように、吸気管から供給されるガスの流量、排気ポンプ104の排気速度及びバルブ103の開度により調整される。基板ホルダ105の加熱機構によって、a面サファイア基板11の表面温度は、400℃以上1000℃以下、好ましくは500℃以上700℃以下、より好ましくは500℃以上650℃以下の範囲内の温度、例えば約600℃に保たれる。このような温度範囲とすることで、a面サファイア基板11のm面とAlN層12のm面とのなす角度が30°ずれて配置されることはなく、a面サファイア基板11のm面とAlN層12のm面とは、一致しやすい。具体的には、a面サファイア基板11のm面とAlN層12のm面とのなす角度は、5°以下である。つまり、a面サファイア基板11のm面とAlN層12のm面とは、実質的に平行になる。すなわち、この方法で作製された窒化物半導体基板10は、劈開面として、m面を利用することができる。
吸気管101は、不活性ガスとして、例えば窒素ガスを供給する。窒素ガスの流量は、例えば、10~100sccm(standard Cubic Centimeter per Minute)である。単位sccmは、0℃、1気圧で標準化された単位である。高圧電源109の高周波電圧は、数百Vであり、高周波電圧の周波数は、例えば13.56MHzである。高圧電源109からターゲット107に供給する電力は、例えば200~1000Wである。スパッタリングする時間は、成膜すべきAlN層12の所望する膜厚とターゲットに供給する電力に応じて定めればよい。
また、第3工程(S23)の一部として、AlN層12の成膜を開始する前に、a面サファイア基板11とターゲット107との間にシャッターを配置した状態で、プラズマを発生させ、ターゲット107をスパッタリングする工程があってもよい。この状態では、ターゲットからスパッタされた原子は、シャッターにさえぎられ、a面サファイア基板11に到達しない。また、この工程を経ることでターゲット107の表面に付着した不純物を除去することが可能となる。シャッターを配置した状態で、十分な時間をかけてターゲット107の表面をスパッタリングし、シャッターを取り除いた後に、a面サファイア基板11の表面にAlN層12の成膜が開始されてもよい。これにより、その後スパッタ成膜されたAlN層12の結晶品質を安定的に制御することが可能となる。
AlN層12の膜厚について詳細は後述するが、クラック抑制の観点からは、膜厚は、400nm以下でよい。また、AlN層12の膜厚が大きいほど、チェンバー110のスパッタ圧力は、小さくなるように制御される。すなわち、AlN層12の狙いの膜厚が大きいときは、チェンバー110のスパッタ圧力は、小さく、かつ、一定の値に保たれながら、AlN層12は、成膜される。
例えば、クラック抑制のためにはチェンバー110のスパッタ圧力をP(Pa)以下、AlN層12の膜厚をT(nm)以下としたとき、(P、T)の組は、(0.2、320)及び(0.4、240)の少なくとも一つを満たすようにしてもよい。あるいは、スパッタ圧力PとAlN層12の膜厚Tが以下の範囲に含まれるように選択してもよい。すなわち、P≦0.4かつT≦240に含まれる範囲の中から選択してもよい。
より好ましくは、(P、T)の組は、(0.1、400)及び(0.2、240)の少なくとも一つを満たすようにしてもよい。この場合においてスパッタ圧力、膜厚が上記以外の値の場合は、スパッタ圧力PとAlN層12の膜厚Tが以下の範囲に含まれるように選択してもよい。すなわち、P≦0.4かつT≦240に含まれる範囲の中から選択してもよい。
さらに好ましくは、(P、T)の組は、(0.1、320)及び(0.2、160)の少なくとも一つを満たすようにしてもよい。この場合においてスパッタ圧力、膜厚が上記以外の値の場合は、スパッタ圧力PとAlN層12の膜厚Tが以下の範囲に含まれるように選択してもよい。すなわち、P≦0.2かつT≦160に含まれる範囲の中から選択してもよい。
第4工程(S24)では、AlN層12が成膜されたa面サファイア基板11をアニールする。第4工程(S24)をアニール処理とも呼ぶ。
より具体的に説明すると、まず、第3工程(S23)によってAlN層12が成膜されたa面サファイア基板11は、アニール装置の内部に配置される。アニール装置は、アニール処理が可能な装置であればよく、スパッタ装置100とは別の装置であってもよいし、スパッタ装置100であってもよい。アニール装置内部でのa面サファイア基板11の配置は、次のように行う。成膜されたAlN層12の主面は、AlN層12の主面から窒化物半導体成分の解離を抑制するためのカバー部材により覆われ、成膜されたAlN層12の主面は、気密状態になる。ここで、「解離」とは、AlN層12の主面からその成分(窒素及びアルミニウム等)が離脱して抜け出すことであり、昇華、蒸発及び拡散が含まれる。また、窒化物半導体の「主面」とは、その上に他の材料が積層(又は形成)される場合における積層(形成)される側の表面をいう。
次に、アニール装置内の不純物は、排気により排出され、アニール装置内は、真空となる。続いて、不活性ガス又は混合ガスがアニール装置内へ流入し、アニール装置内のガス置換が完了する。その後に、気密状態に配置されたAlN層12は、アニールされる。このとき、AlN層12が成膜されたa面サファイア基板11の温度は、1400℃以上1750℃以下である。また、好ましくは、AlN層12が成膜されたa面サファイア基板11の温度は、1650℃以上1750℃以下である。さらに、アニール装置内は、窒素ガス、アルゴンガス及びヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気下又は不活性ガスにアンモニアガスを添加した混合ガス雰囲気下である。
このようにアニール処理を行うことで、AlN層12の結晶性を高くすることができる。すなわち、窒化物半導体基板10の結晶性を高くすることができる。
また、アニール装置内の不活性ガス又は混合ガスの圧力は、高温時の防爆強度等の関係から0.5~2気圧程度に設定される。原理的には、これらのガスに含まれる窒素ガスの分圧が高くなるほど、AlN層12の結晶性の向上及び表面粗れの抑制が期待できる。しかしながら、これらのガスの圧力は、1気圧前後に設定してもよい。ここで圧力単位の関係は1気圧=101,325Pa(パスカル)=760Torrである。
なお、アニール装置は、一定の体積を持った加熱容器であって、基板温度を500℃~1800℃で制御できる機能を有するものであればよい。また、アニール装置は、装置内に導入する不活性ガス及び混合ガスの圧力及び流量を制御できる機能を有するものであればよい。
第4工程(S24)では、成膜されたAlN層12の主面は、カバー部材に覆われる。このとき、AlN層12の主面は、アニール装置に対し上向き又は下向きのいずれでもよい。さらに、アニール装置は、カバー部材と基板との間に任意の圧力を印加する機構を備えていてもよい。アニール装置は、複数枚のAlN層12が成膜されたa面サファイア基板11を同時に熱処理することが可能であってもよい。
次に、第4工程(S24)における気密状態について説明する。
気密状態とは、アニール装置内で実現される状態である。気密状態とは、AlN層12の主面からその成分(窒素及びアルミニウム等)が解離するのを抑制するためのカバー部材を用いてAlN層12の主面が覆われた状態である。つまり、気密状態は、物理的な手法で、AlN層12の主面からその成分が解離するのを抑制している。この状態では、カバー部材とAlN層12の主面との間におけるガスが実質的に流れない滞留状態となる。
このような気密状態において、窒化物半導体基板10をアニールすることで、AlN層12の主面からその成分が解離することを抑制する。その結果、成分解離による主面の表面粗さが上昇することを抑制できる。また、気密状態において、窒化物半導体基板10をアニールすることで、より高温でのアニールが可能となる。その結果、AlN層12は、表面が平坦、かつ、高品質となる。
また、気密状態を実現する方法は、上記に限られない。図4は、図3に示される第4工程(S24)における気密状態の一例を示す図である。この一例においては、第4工程(S24)前のAlN層12が形成された窒化物半導体基板10が、2つ用意される。図4には、第4工程(S24)前のAlN層12が形成された一方の窒化物半導体基板10の上方に、第4工程(S24)前のAlN層12が形成された他方の窒化物半導体基板10が、2つのAlN層12がお互いに相対する向きで、載置された状態の断面図である。
この態様では、2つのAlN層12は、表面の中央部において5~20μm程度、凹んだ構造を有するので、2つのAlN層12の間には、最大間隔で10~40μmの気密空間50が形成される。
図4に示される気密状態は、第4工程(S24)前の2つの窒化物半導体基板10の最表面同士が対向するように、一方の窒化物半導体基板10の上方に他方の窒化物半導体基板10が配置された状態に相当する。
すなわち、下方に位置する一方の窒化物半導体基板10のカバー部材は、上方に位置する他方の窒化物半導体基板10である。また、上方に位置する他方の窒化物半導体基板10のカバー部材は、下方に位置する一方の窒化物半導体基板10である。
このような気密状態により、窒化物半導体基板10の上に、最表面が対向する向きで、単に、別の窒化物半導体基板10を載せるだけで、気密状態が実現される。つまり、このような気密状態の実現には、特別な治具が不要であり、簡単に気密状態が実現される。また、2つの窒化物半導体基板10を同時にアニールすることができる。
なお、第3工程(S23)のスパッタリングにおける不活性ガスは、窒素ガスに限らず、アルゴンガス、ヘリウムガス又は窒素ガスとアルゴンガス、ヘリウムガスの混合気体でもよい。
図3に示した窒化物半導体基板10の製造方法によれば、a面サファイア基板11のm面とAlN層12のm面とのなす角度が5°以下であり、かつAlN層12のクラックが少なく結晶性の高い窒化物半導体基板10を得ることができる。すなわち、m面を劈開面として利用でき、かつ、結晶性の高い窒化物半導体基板10を得ることができる。
ここで、クラックとは、例えば、AlN層12の主面に生じるAlNの破断である。クラックは、窒化物半導体基板10を含む光半導体デバイスにおいて電流リークの原因となる。そのため、クラックは、窒化物半導体基板10を用いた光半導体デバイスの作製において歩留まりを低下させる要因となる。また、クラックを起点として、AlN層12がa面サファイア基板11から剥離する場合がある。剥離したAlN層12は、光半導体デバイス作製工程においてパーティクルとなり、歩留まりを低下させる要因となる。
そのため、クラックの発生を抑制することは、重要である。
次に、図3に示す第3工程(S23)におけるスパッタ圧力と、クラック発生との関係について説明する。
[窒化物半導体基板の特性評価]
図5Aは、図2に示すターゲット107がAlである窒化物半導体基板10の表面の顕微鏡写真を示す図である。図5Bは、図2に示すターゲット107がAlNである窒化物半導体基板10の表面の顕微鏡写真を示す図である。
まず、ターゲット107がAlである窒化物半導体基板10について、説明する。図5Aの(a)は、スパッタ圧力が0.2Pa、AlN層12の膜厚が200nmである窒化物半導体基板10の表面の顕微鏡写真を示す図である。また、図5Aの(b)は、スパッタ圧力が0.1Pa、AlN層12の膜厚が300nmである窒化物半導体基板10の表面の顕微鏡写真を示す図である。さらに、図5Aの(c)は、スパッタ圧力が0.1Pa、AlN層12の膜厚が400nmである窒化物半導体基板10の表面の顕微鏡写真を示す図である。図5Aの(a)及び図5Aの(c)が示す窒化物半導体基板10はいずれも、複数の斜め線が存在しており、この複数の斜め線は、クラックを表している。一方で、図5Aの(b)が示す窒化物半導体基板10には、斜め線が存在せず、クラックが発生していない。
なお、図示しないが、スパッタ圧力が0.2Paであり、AlN層12の膜厚が100nmである窒化物半導体基板10には、クラックが存在しない。また、図示しないが、スパッタ圧力が0.1Paであり、AlN層12の膜厚が100nm及び200nmである窒化物半導体基板10には、クラックが存在しない。
つまり、スパッタ圧力が0.2Paかつ膜厚が200nm以上の場合、又は、スパッタ圧力が0.1Paかつ膜厚が400nm以上の場合において、ターゲット107がAlである窒化物半導体基板10のAlN層12には、破断(クラック)が生じる。すなわち、AlN層12の膜厚が大きいほど、スパッタ圧力を小さくすることで、膜厚が大きく、かつ、クラックが少なく結晶性の高いAlN層12を得ることができる。
同様の現象が、ターゲット107としてAlNを用いる条件下でも起こる。図5Bの(a)は、スパッタ圧力が0.2Pa、AlN層12の膜厚が200nmである窒化物半導体基板10の表面の顕微鏡写真を示す図である。また、図5Bの(b)は、スパッタ圧力が0.052Pa、AlN層12の膜厚が300nmである窒化物半導体基板10の表面の顕微鏡写真を示す図である。さらに、図5Bの(c)は、スパッタ圧力が0.052Pa、AlN層12の膜厚が400nmである窒化物半導体基板10の表面の顕微鏡写真を示す図である。図5Bの(a)及び図5Bの(c)が示す窒化物半導体基板10はいずれも、複数の斜め線が存在しており、この複数の斜め線は、クラックを表している。一方で、図5Bの(b)が示す窒化物半導体基板10には、斜め線が存在せず、クラックが発生していない。
なお、図示しないが、スパッタ圧力が0.2Paであり、AlN層12の膜厚が100nmである窒化物半導体基板10には、クラックが存在しない。また、図示しないが、スパッタ圧力が0.052Paであり、AlN層12の膜厚が100nm及び200nmである窒化物半導体基板10には、クラックが存在しない。
つまり、スパッタ圧力が0.2Paかつ膜厚が200nm以上の場合、又は、スパッタ圧力が0.052Paかつ膜厚が400nm以上の場合において、ターゲット107がAlNである窒化物半導体基板10のAlN層12には、破断(クラック)が生じる。すなわち、AlN層12の膜厚が大きいほど、スパッタ圧力を小さくすることで、膜厚が大きく、かつ、クラックが少なく結晶性の高いAlN層12を得ることができる。従って、窒化物半導体基板10の結晶性を高くすることができる。また、この傾向は、ターゲット107の種類に依存しない。
図6Aは、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10の(0002)面のX線ロッキングカーブ測定より得られた回折ピークの半値幅を示す図である。図6Bは、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10の(10-12)面のX線ロッキングカーブ測定より得られた回折ピークの半値幅を示す図である。
具体的には、図6A及び図6Bは、X線回折装置(XRD:X-Ray Diffraction)を用いて、AlNの(0002)面と、(10-12)面とにおけるX線回折のロッキングカーブ(XRC)測定を行った結果を示す図である。また、図6A及び図6Bは、AlN層12の膜厚が100nm、200nm、300nm及び400nmであり、かつ、図2に示すターゲット107がAl又はAlNである窒化物半導体基板10について測定を行った結果を示す図である。
AlNの結晶性は、(0002)面及び(10-12)面のX線ロッキングカーブ測定で得られる回折ピークの半値幅(FWHM:Full Width at Half Maximum、以下単に半値幅と呼ぶ)の値により確認することができる。
このXRC半値幅が小さいほど、つまり、得られる回折ピークがシャープなほど結晶性が良好であることを示す。なお、XRCの半値幅の単位は、角度を表わすarcsecである。
図6Aに示されるように、AlN層12の膜厚が100nm~400nmである本実施の形態に係る窒化物半導体基板10は、(0002)面におけるXRC半値幅が250arcsec以下である。具体的には、ターゲット107がAlの場合には、XRC半値幅は、17.8arcsec(100nm)、25.3arcsec(200nm)、24.3arcsec(300nm)、202arcsec(400nm)である(括弧内の数値は、AlN層12の膜厚を示す。以下同じ)。また、ターゲット107がAlNの場合には、23.9arcsec(100nm)、27.4arcsec(200nm)、22.9arcsec(300nm)、62.6arcsec(400nm)である。ターゲット107がAl又はAlNのいずれの場合においても、XRC半値幅は、低い値を示し、AlN層12は、高い結晶性を持つ。
すなわち、AlN層12の膜厚が400nm以下である本実施の形態に係る窒化物半導体基板10は、(0002)面のXRC半値幅が低く、(0002)面の結晶性が高い。さらに、AlN層12の膜厚が300nm以下である本実施の形態に係る窒化物半導体基板10は、AlN層12の膜厚が400nmである本実施の形態に係る窒化物半導体基板10と比べ、(0002)面のXRC半値幅がより低く、(0002)面の結晶性がより高い。
また、図6Bに示されるように、ターゲット107がAl又はAlNのいずれの場合においても、(10-12)面におけるXRC半値幅は、500arcsec以下であり、AlN層12の膜厚増加に伴い、低下する。具体的には、ターゲット107がAlの場合には、XRC半値幅は、450arcsec(100nm)、282arcsec(200nm)、228arcsec(300nm)、212arcsec(400nm)である。ターゲット107がAlNの場合には、XRC半値幅は、454arcsec(100nm)、262arcsec(200nm)、214arcsec(300nm)、182arcsec(400nm)である。すなわち、(10-12)面の結晶性は、AlN層12の膜厚増加に伴い、向上する。
以上の様に、窒化物半導体基板10において、AlN層12の膜厚を400nm以下とすることができる。さらに、窒化物半導体基板10において、AlN層12の(0002)回折におけるXRC半値幅を250arcsec以下、AlN層12の(10-12)回折におけるXRC半値幅を500arcsec以下とすることができる。これにより、AlN層12の結晶性を高くすることができる。すなわち、窒化物半導体基板10の結晶性を高くすることができる。
さらに、窒化物半導体基板10において、AlN層12の膜厚を300nm以下とすることができる。さらに、窒化物半導体基板10において、AlN層12の(0002)回折におけるXRC半値幅を50arcsec以下、AlN層12の(10-12)回折におけるXRC半値幅を500arcsec以下とすることができる。これにより、AlN層12の結晶性をより高くすることができる。すなわち、窒化物半導体基板10の結晶性をより高くすることができる。
図7は、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10のX線回折装置(XRD)によるX線回折測定結果を示す図である。図7は、X線回折装置(XRD)によるa面サファイア基板11の{3-300}面と、AlN層12の{1-102}面とについてアジマス角(φ)スキャンし、得られたX線回折スペクトルを示す。
a面サファイア基板11の{3-300}面及びAlN層12の{1-102}面のX線回折スペクトルには、φが90°及び-90°付近において、強い回折ピークが確認される。この強い回折ピークは、六方晶構造のm面に起因する回折ピークである。つまり、a面サファイア基板11のm面及びAlN層12のm面の両面は、平行であることを示している。前記したa面サファイア基板11のm面とAlN層12のm面とのなす角度が5°以下であることは、この測定結果から導いた数値であり、実測値は、1.1°であった。なお、X線回折装置(XRD)によるX線回折測定の分解能は、0.1°である。
ここで、本実施の形態に係るAlN層12の面内格子歪について図8及び図9及び表1を用いて説明する。
a面サファイア基板11とAlN層12と間に発生する格子不整合及び熱膨張不整合によって、AlN層12の面内格子歪は、決定される。
まず、格子不整合について説明する。図8は、本実施の形態に係るa面サファイア基板11及びAlN層12の単位格子を示す図である。より具体的には、図8は、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10を、上方から観察した場合の平面図である。斜線を付した長方形は、a面サファイア基板11のサファイアのa面の単位格子を示す。実線の六角形は、AlN層12のAlNのc面の単位格子を示す。また、図8における、a-Sap[1-100]//c-AlN[1-100]は、サファイアのa面の[1-100]軸とAlNのc面の[1-100]軸とが平行である方向を示す。同様に、a-Sap[0001]//c-AlN[11-20]は、サファイアのa面の[0001]軸とAlNのc面の[11-20]軸とが平行である方向を示す。さらに、以下では、サファイアのa面の[0001]軸と平行な方向は、//a-Sap[0001]と表記し、サファイアのa面の[1-100]軸と平行な方向は、//a-Sap[1-100]と表記する。
また、サファイアの単位格子を紙面横方向に2つ(一方は、斜線を付した長方形で示され、もう一方は、区別のために、斜線のない長方形で示される)並べたスーパーセルの大きさは、サファイアのc軸格子定数を12.992Å、a軸格子定数を4.7588Åとすると16.170Å×12.448Åとなる。
一方、AlNの単位格子を図8に示すように配置し、a軸格子定数(すなわち、六角形の一辺)を3.112Åとすると、16.170Å×12、992ÅのAlNのスーパーセルがサファイアのスーパーセルにほぼ一致する。ここで、AlN層12の格子不整合率は、Δsと表記し、サファイアの格子定数は、ssapと表記し、AlNの格子定数は、sAlNと表記する。また、Δs=(ssap-sAlN)/ssapである。
以上から、Δsは、サファイアのa面の[0001]方向(c軸方向)には、4.19%、サファイアのa面の[1-100]方向(m軸方向)には、1.19%となり、両方向に引張歪が生じることが予想される。また、表1には、これらをまとめたものが示されている。
続いて、熱膨張不整合について説明する。と、熱膨張係数は、c軸方向とm軸方向とによって異なる。熱膨張係数は、表1に示される数値となる。表1を用いて計算されるAlN層12の熱膨張係数不整合率は、Δtと表記し、サファイアの熱膨張係数不整合率は、tsapと表記し、AlNの熱膨張係数不整合率は、tAlNと表記する。また、Δt=(tsap-tAlN)/tsapである。表1に示される数値を用いて計算すると、Δtは、サファイアのa面の[0001]方向(c軸方向)には、35.0%、サファイアのa面の[1-100]方向(m軸方向)には、27.6%である。この結果はすなわち、図3に示す第4工程(S24)のアニール処理の降温時には、AlN層12に圧縮応力が生じ、特にサファイアのa面の[0001]方向(c軸方向)の歪が大きくなることを示唆している。
以上のことから、格子不整合は引張歪、熱膨張不整合は圧縮歪をそれぞれ生じさせることになる。つまり、第4工程(S24)においては、アニールすることで、AlN層12及びa面サファイア基板11の格子不整合によるAlN層12の引張歪とAlN層12及びa面サファイア基板11の熱膨張不整合によるAlN層12の圧縮歪とを打ち消す処理が施される。
ここで、実験的にAlNの格子定数から算出した歪について説明する。
図9は、本実施の形態に係るAlN層12の異方的な面内格子歪を示す図である。より具体的には、図9は、本実施の形態に係るAlN層12において、サファイアのa面の[0001]方向(c軸方向)及び[1-100]方向(m軸方向)からX線を入射して測定した得られた面内格子歪の値を示す。
また、上記実験により得られた面内格子歪の値と、文献値より得られた面内格子歪の値を比較することで、上記実験により得られた面内格子歪が引張歪か圧縮歪かを判断することができる。本実施の形態においては、上記実験により得られた2つの面内格子歪は、圧縮歪であった。特にサファイアのa面の[0001]方向(c軸方向)の歪が大きいことがわかる。
上述の通り、熱膨張不整合は、圧縮方向の歪を生じさせ、格子不整合は、引張方向の歪を生じさせるため、本実施の形態に係るAlN層12は、熱膨張不整合による圧縮歪の影響が支配的であることを示唆している。
また、上述の通り、アニールすることで、格子不整合によるAlN層12の引張歪と熱膨張不整合によるAlN層12の圧縮歪とを打ち消す処理を施すことで、AlN層12の面内格子歪が抑制され、窒化物半導体基板10の結晶性を高くすることができる。
続いて、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10のAlN層12の極性について説明する。
図10は、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10を水酸化カリウム(KOH)処理した後のAlN層12の表面形状を示す図である。また、図10の画像は、原子間力顕微鏡により窒化物半導体基板10の表面状態を観察した像である。より具体的には、図10の(a)は、ターゲット107がAlである窒化物半導体基板10を示す図であり、図10の(b)は、ターゲット107がAlNである窒化物半導体基板10を示す図である。なお、図10の(a)及び図10の(b)が示す窒化物半導体基板10はいずれも、AlN層12の膜厚が300nmである。
対象となる窒化物半導体基板10を水酸化カリウム処理することで、窒化物半導体基板10の極性が明らかになる。水酸化カリウム処理とは、対象物質を水酸化カリウム水溶液によって室温下で10秒間浸漬する処理である。
エッチング後の表面の平均粗さを示すRMS値は、ターゲット107がAlである場合は、51nm、ターゲット107がAlNである場合は、0.7nmであった。図10の(a)に示されるターゲット107がAlである窒化物半導体基板10は、図10の(b)に示されるターゲット107がAlである窒化物半導体基板10に比べ、表面の粗さが増している。すなわち、図10の(a)に示されるターゲット107がAlである窒化物半導体基板10のAlN層12は、溶解(エッチング)されていることが明らかである。
水酸化カリウム処理は、基板側にN極性をもつAlNのみをエッチングする。そのため、図10の(a)に示されるターゲット107がAlである窒化物半導体基板10のAlN層12は、表面側がAl極性であり、a面サファイア基板11側がN極性である。一方、図10の(b)に示されるターゲット107がAlNである窒化物半導体基板10のAlN層12は、エッチングが生じていない。つまり、ターゲット107がAlNである窒化物半導体基板10のAlN層12は、表面側がN極性であり、a面サファイア基板11側がAl極性である。
このように、ターゲット107の選択により、AlN層12の極性を制御することが可能である。
次に、窒化物半導体基板10を用いた光半導体デバイスの一例について説明する。
光半導体デバイスは、窒化物半導体基板10と、窒化物半導体基板10上に形成された窒化物半導体層とを有する。例えば、窒化物半導体基板10は、a面サファイア基板11上に、ターゲット107がAlであるAlN層12を作製することで、形成される。さらに、このような窒化物半導体基板10上に、ターゲット107がAlNであるAlN層12を作製することで、極性反転構造を有する光半導体デバイスとなる。この光半導体デバイスは、SHGデバイスとして利用可能である。この場合、窒化物半導体層は、ターゲット107がAlNであるAlN層12である。
そこで、次に、窒化物半導体基板10を用いた光半導体デバイスの一例であるSHGデバイスの構成例について説明する。
図11は、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10を用いたSHGデバイス300の構成例を示す概略図である。図11の(a)は、SHGデバイス300の断面模式図である。また、図11の(b)は、SHGデバイス300の斜視図である。
SHGデバイス300は、導波路301と、a面サファイア基板11で構成されるクラッド層302とを有している。導波路301は、-cAlN結晶層303と、+cAlN結晶層304とを有している。-cAlN結晶層303と+cAlN結晶層304とは、上述した製造方法で作製された極性反転構造となっている。つまりは、-cAlN結晶層303及び+cAlN結晶層304は、ターゲット107がAlであるAlN層12及びターゲット107がAlNであるAlN層12である。また、本実施の形態においては、-cAlN結晶層303及び+cAlN結晶層304を総称して「AlN結晶層」と記載する場合がある。
ここで、導波路301は、窒化物半導体基板10を用いて、極性反転構造を有するAlN結晶層を導波路幅w、導波路厚さh、導波路長lとなる形状の導波路に形成したものである。上述の通り、このAlN結晶層は、ターゲット107がAlであるAlN層12及びターゲット107がAlNであるAlN層12からなる結晶層である。このときの導波路幅w、導波路厚さh、導波路長lは、後述するように、導波路長lの方向つまり図11の(a)に示すy軸方向に入射するレーザ光の入射波長に基づき算出される。
ここで、図11の(a)を用いて極性反転構造を中心とした、第二次高調波の発生の仕組みを説明する。
導波路301は、-cAlN結晶層303と+cAlN結晶層304とにより構成され、光学非線形性を有している。光学非線形性を有する導波路301が第二次高調波(SH波)を得るには、位相整合条件を満たす必要がある。すなわち、導波路301に入力された光(基本波)と発生する光(SH波)とは、結晶中で進む速さが異なるため、光の位相がπ異なる場合には両者が打ち消しあってしまう。そこで、導波路301では、異方性結晶の複屈折を利用して位相整合させることが一般的である。すなわち、異方性結晶への入射角度を調整することにより、基本波とSH波との屈折率を一致させる。これにより、導波路301において位相整合条件が満たされるので、効率よくSH波を発生させることが可能となる。
ここで、AlN結晶層は、自立基板の作製に大きなコストがかかることから、数mm角のAlN結晶を要する従来の複屈折位相整合方法は、実用的ではない。また、複屈折性が弱いことから、深紫外波長域では、複屈折を用いた位相整合は、そもそも不可能である。そこで、極性反転させたAlN結晶層(薄膜)を利用した疑似位相整合が用いられる。このSHGデバイス300からの出力は、下記の(式1)で示されるように、y軸方向(伝搬方向)とz軸方向(垂直方向)の位相整合を満たす必要がある。このとき、y軸方向の位相整合は、導波路中のモード分散を利用し、z軸方向の位相整合は、AlNの極性反転を利用する。なお、(式1)において、lは、y軸方向に延びる導波路の導波路長、kは、光の波数、d33、は非線形光学係数である。
まず、y軸に関する項については、(式2)のように表せる。
(式2)において、λωは、基本波の波長、nωは、基本波における実効屈折率、n2ωは、SH波における実効屈折率を示す。基本波とSH波との実効屈折率が一致すると、Δkは、0になり、第1項はsinc関数として1を示すため、高いSHG効率を得ることができる。ここでは、一般的な複屈折は、利用せず、上述したようにモード分散を利用することで位相整合条件を満たしている。つまり、SH波には導波路の層の中央に電界分布の節が存在する高次モードを用いることで、基底次モード間では一致することのない実効屈折率が一致する。
図11の(a)は、導波路301を側面から見た図であり、図11の(b)は、導波路301の斜視図である。図11の(a)では、AlN結晶層により形成された導波路301を伝搬する基本波の電界分布(TM00 Ezω)とSH波の電界分布(TM01 Ez2ω)とを実線で示している。また、図12は、本実施の形態に係るSHGデバイス300の電界分布を示す図である。図12の(a)に示された電界分布図は、TM00 Ezωを、図12の(b)にTM01 Ez2ωの電界分布をxz平面上にプロットした図である。図12の(a)及び(b)において、フィールド中にBlで指示している分布が正の値、Rdで指示している分布が負の値を示している。
ここで、TMとは、Transverse magnetic modeを意味しており、図11の(a)では、x軸方向にのみ磁界成分が存在するような電磁波を指す。さらに、TMijの添字i、jはx軸方向とz軸方向のそれぞれの電界分布の節の数を表している。図11の(a)では、TM00 Ezωには節がないが、TM01 Ez2ωには節が中央に1つ見られる。AlNは、屈折率が高く、サファイアは、屈折率が低いことを利用して、それぞれの材料における電界分布を調整することで、両者の実効屈折率を調整することができる。なお、図11の(a)において、TM00 Ezω及びTM01 Ez2ωのカーブを示した近傍に記載されている破線は、電界0の位置を示している。
例えば、厚さhと導波路幅wとを適宜調整することにより電界分布を調整することができる。図11の(b)ではクラッド層302が残されているが、a面サファイア基板11を全て剥離して、別のクラッド層を周囲全周施すことができる。SHGデバイス300の場合には、別のクラッド層を酸化ケイ素(SiO2)にすると、より光の閉じ込め効果を向上させ、波長変換効率を向上させることができる。
ただし、TM01 Ez2ωは電界に正負があるため通常の単一の極性を有するAlN膜だと位相整合項の重なり積分が0になってしまうことが問題となる。そのため、上記した極性反転を行い、非線形光学係数d33(z)の符号をSH波電界分布の節にあたる膜厚において反転させる必要がある。これにより(式1)の積分項は非0の値になり、SHG光が出力される。これらの取り組みにより、最終的にy軸方向とz軸方向の位相整合条件が満たされ、高効率なSHG出力を実現することができる。
このように、既存のInGaN(窒化インジウムガリウム)青色レーザを光源とし、窒化物半導体基板10のAlN結晶層を非線形光学結晶として第二次高調波を発生させるようなSHGデバイス300を用いて光学系を組むことができる。これによれば、コヒーレント性の高い紫外光を発生させることができる。
なお、AlN結晶層を非線形光学結晶として用いる利点として、次の3点が挙げられる。
(1)AlN結晶層の吸収端波長は210nmであるから、紫外の広い領域で透明である。
(2)既存の非線形光学結晶であるBBO(ホウ酸バリウム)やCLBO(ホウ酸セシウムリチウム)よりも高い非線形光学係数d33を有する。
(3)AlN結晶層は、化学的及び機械的に安定な材料であり、BBOやCLBOのような潮解性及び有毒性がない。
本実施の形態に係る光半導体デバイスは、窒化物半導体基板10と、窒化物半導体基板10上に形成された窒化物半導体層を有する。これによれば、結晶性が高い窒化物半導体基板10の劈開面を利用でき、光半導体デバイスの特性が高くなる。
次に、図13を用いて、本実施の形態に係る導波路301の設計例について説明する。
図13は、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10を用いたSHGデバイス300の設計例に係る導波路幅wと実効屈折率との関係を示す図である。同図に示すグラフの横軸は導波路幅w、縦軸は基本波(入射波長λ1=532nm)とSH波(出射波長λ2=266nm)の実効屈折率を示している。導波路301を構成するAlN結晶層の膜厚はh=110nm、導波路長はl=1mmとした。
図13には、TM00 Ezω及びTM01 Ez2ωの実効屈折率neff,1とneff,2が導波路301の導波路幅wによって変化する曲線を示している。導波路301の導波路幅wを、2つの曲線の交点である導波路幅w=1.94μmにすると、実効屈折率の差がゼロとなり、波長変換効率は最大となる。本設計では、基本波にλ1=532nmの波長を用いたが、これは測定系の都合でYAGレーザのSH波を使用するためである。より短波長での波長変換を行う場合、λ1=450nm付近の波長で設計を行えば、λ2=225nmのSH波との間で位相整合を満たすことができる。
ここで、上述した設計例では、入射波長をλ1とし、SHGデバイス300から出力される出力光の波長をλ2=λ1/2とした場合の結晶層の入射波長における屈折率をn1、出射波長における屈折率をn2とする。さらに、上述した設計例では、AlN結晶層の膜厚(導波路厚さh)をh=110nmに固定して導波路幅wの値を変化させたときに、n1=n2となる導波路幅wの値を求めたものである。n1とn2の許容差は(n1-n2)/n1で計算した場合好ましくは0.1%以下、より好ましくは±0.005%である。導波路301の設計はこれに限らず、例えば導波路幅wの値を固定してAlN結晶層の膜厚(導波路厚さh)を変化させるグラフを用いることもできる。
このように、入射波長をλ1とし、SHGデバイス300の出力光の波長をλ2とした場合のAlN結晶層の入射波長における屈折率をn1、出射波長における屈折率をn2とする。さらに、導波路幅w又は導波路厚さhの値の一つを固定した後、導波路幅w又は導波路厚さhの固定していない値を変化させたときに、n1=n2となるときの導波路幅w又は導波路厚さhの値が算出される。
なお、ターゲット107がAlであるAlN層12及びターゲット107がAlNであるAlN層12の少なくとも一方のX線回折(10-12)のXRC半値幅は、1000arcsec以下であることが望ましい。
[効果など]
以上の様に、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10の製造方法は、スパッタ装置内にa面サファイア基板11を準備する第1工程(S21)と、スパッタ装置内に成膜材料であるAlを含むターゲットを準備する第2工程(S22)と、400℃以上1000℃以下の温度で保ちながらターゲットをスパッタリングすることにより、AlN層12をa面サファイア基板11のa面上に成膜する第3工程(S23)とを有する。
これにより、a面サファイア基板11のm面とAlN層12のm面とは、一致しやすく、かつAlN層12のクラックが少なく結晶性の高い窒化物半導体基板10を得ることができる。すなわち、m面を劈開面として利用でき、かつ、結晶性の高い窒化物半導体基板10を得ることができる。
また、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10の製造方法において、AlN層12の膜厚は、400nm以下である。
これにより、AlN層12の結晶性を高くすることができる。すなわち、窒化物半導体基板10の結晶性を高くすることができる。
また、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10の製造方法は、第3工程(S23)では、AlN層12の膜厚が大きいほどスパッタ圧力を小さくする。
これにより、膜厚が大きく、かつ、クラックが少なく結晶性の高いAlN層12を得ることができる。すなわち、窒化物半導体基板10の結晶性を高くすることができる。
また、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10の製造方法は、さらに、第3工程(S23)後に、AlN層12が成膜されたa面サファイア基板11をアニールすることで、AlN層12及びa面サファイア基板11の格子不整合によるAlN層12の引張歪とAlN層12及びa面サファイア基板11の熱膨張不整合によるAlN層12の圧縮歪とを打ち消す処理を施す第4工程(S24)を有する。
これにより、AlN層12の面内格子歪が抑制され、窒化物半導体基板10の結晶性を高くすることができる。
また、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10の製造方法において、第3工程(S23)では、a面サファイア基板11のm面とAlN層12のm面とのなす角度が5°以下であるAlN層12を成膜する。
これにより、m面を劈開面として利用でき、かつ、結晶性の高い窒化物半導体基板10を得ることができる。
また、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10の製造方法において、第4工程(S24)では、AlN層12が成膜されたa面サファイア基板11を、1400℃以上1750℃以下の温度でアニールする。
これにより、AlN層12の結晶性を高くすることができる。すなわち、窒化物半導体基板10の結晶性を高くすることができる。
また、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10は、a面サファイア基板11と、a面サファイア基板11のa面上に形成されたAlN層12とを有する。さらに、本実施の形態に係るAlN層12の膜厚は、400nm以下である。さらに、本実施の形態に係るAlN層12の(0002)回折におけるX線ロッキングカーブの半値幅が250arcsec以下であり、AlN層12の(10-12)回折におけるX線ロッキングカーブの半値幅が500arcsec以下である。
これにより、a面サファイア基板11及びAlN層12のm面が一致しやすく、かつAlN層12のクラックが少なく結晶性の高い窒化物半導体基板10を得ることができる。すなわち、m面を劈開面として利用でき、かつ、結晶性の高い窒化物半導体基板10を得ることができる。
また、本実施の形態に係る窒化物半導体基板10は、a面サファイア基板のm面とAlN層のm面とのなす角度が5°以下である。
これにより、m面を劈開面として利用でき、かつ、結晶性の高い窒化物半導体基板10を得ることができる。
また、本実施の形態に係る光半導体デバイスは、上記記載の窒化物半導体基板10と、窒化物半導体基板10上に形成された窒化物半導体層とを有する光半導体デバイス。
これにより、結晶性が高い窒化物半導体基板10の劈開面を利用でき、光半導体デバイスの特性が高くなる。
(実施の形態2)
なお、上記では、窒化物半導体基板を形成するために、a面サファイア基板11が利用された。一方で、その他の方法として、ダイヤモンド基板が利用される。
ここでは、ダイヤモンド基板が利用される方法について、図14~図20を用いて説明する。
図14は、本実施の形態に係るダイヤモンド基板の材料特性と応用について説明する図である。ダイヤモンドは5.5eVのバンドギャップと高い正孔導電性を活かしてパワーデバイスへの応用が期待されている。さらに近年では、窒素-空孔(NV)センターによる量子センシングにも注目が集まっている。一方、AlGaNは深紫外LEDや高電子移動度トランジスタ等のデバイス研究が盛んに行われているが、低抵抗p型形成が課題である。両材料の利点を組み合わせることで、導電性制御を可能にしたデバイス形成が期待できる。
また、ダイヤモンドは材料中でもっとも高い熱伝導率22W/(cm K)を有しており、ヒートシンクとしても有用である。GaNベースのパワーデバイスをダイヤモンド基板上に集積することで、高温度動作耐性を改善する研究も進められている。ただし、ダイヤモンド上への結晶成長は難しいため、現在はウェハ接合技術により集積がなされている。
図15は、本実施の形態に係るダイヤモンド基板の研究目的について説明する図である。ダイヤモンド上のAlN成長はMBE法、MOVPE法、スパッタ法などにより報告されているが、スパッタと高温アニールを組み合わせた手法による報告はないため、本手法によるAlNの成膜を検討した。
AlNやGaNなどの窒化物半導体をダイヤモンド上に成長する場合、(111)面と(001)面が一般的に使用される。(111)面は3回回転対称を有するため、窒化物半導体を結晶成長すると6回回転対称の六方晶が成長する。ただし、(111)ダイヤモンド基板は(001)ダイヤモンド基板から切り出して作製するため、サイズが数mm角かつ高価な点が課題である。一方で、(001)面ダイヤモンドは1インチ以上の大型基板を利用可能で、単位面積あたりの価格が最も低いため、商業的に有利である。しかしながら4回回転対称であるために同じ4回回転対称である立方晶の窒化物半導体が成長されてしまったり、六方晶であっても2通りの結晶配向(ツインと呼ばれる)が存在するため、結晶性向上のためには面内配向をどちらか1つに安定化することが課題となる。
図16は、本実施の形態に係るダイヤモンド基板の先行研究について説明する図である。先行研究として、Radboud University NijmegenとKatholieke Universiteit Leuvenの研究を挙げる。(001)面上に六方晶GaNをMOCVD法で成長し、面内配向を{10-11}面の極点図により測定した結果、12個のピークが観察された。この結果はA,Bの面内配向が存在していることを示している。同時に存在する2つの面内配向はツインと呼ばれ、バッファ層を厚膜化しても結晶性が改善しない原因となる。
この先行研究ではオフ角をつけることでツインの消滅を目指しているが、XRDで明瞭に確認できるほどのツインの消滅は達成できていなかった。本発明では、スパッタ成膜と高温アニール法を組み合わせたAlNの成膜法を用いることで、ツインの消滅を達成している。
図17は、本実施の形態に係るダイヤモンド基板及び実験方法について説明する図である。表記の実験方法により、(001)面ダイヤモンド上にAlN薄膜を成膜した。ダイヤモンド基板は[110]方向に約3°のオフ角がかかっている。後述するように、オフ角のある[110]方向とAlNの[11-20]方向は一致することが確かめられており、面内配向の安定化(=ツインの消滅)に支配的な影響を与えることを示唆している。オフ角の範囲は、0.5°から10°の範囲で効果が期待できる。
図18は、本実施の形態に係るダイヤモンド基板及びAlNの面内配向について説明する図である。X線回折のPhi角スキャンを行い、ダイヤモンド(111)回折、AlN(10-12)回折のピークを測定した。これらのピークを測定することで結晶の回転対称性を確認することができ、ダイヤモンドとAlNのピーク角度の関係により面内配向を調べることができる。
図19は、本実施の形態に係るダイヤモンド基板及びAlNの面内配向について説明する図である。(001)ダイヤモンド基板上にスパッタしアニール処理したAlN膜(厚さ200、400、600nm)におけるダイヤモンド{111}回折、AlN{10-12}回折のピークを示す。ダイヤモンドのピークが45°、135°、225°、315°に現れるように基板を配置している。また、オフ角のついている[110]方向が45°の方向を向くように基板を配置している。どの膜厚においても15°、75°、135°、195°、255°、315°の6つのピークが現れており、ツインは見られず、面内配向が安定化していることが初めて確認できた。さらに、オフ角のある[110]方向とAlNの[11-20]方向がどのサンプルにおいても一致していることが示された。
図20は、本実施の形態に係るダイヤモンド基板及びAlNの実験結果について説明する図である。高温アニールにより結晶性の向上も確認することができた。
AlN(0002)回折のXRC半値幅はスパッタ成膜後4000-6000arcsecであり、高温アニールすると1000-2000arcsecまで改善することに成功した。
サファイア基板上の結果と比較すると結晶性は劣るが、高温アニールによる結晶性の改善は確認することができた。
(その他)
以上、実施の形態及び実施の形態の変形例に係る窒化物半導体基板10の製造方法について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
例えば、光半導体デバイスは、SHGデバイス300に限らず、レーザデバイス、光導波路デバイスなどの窒化物半導体基板の劈開面を利用した光半導体デバイスなどへ応用することができる。
その他、上記各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態又は本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。