JP7270660B2 - アルカリ二次電池用表面処理板およびその製造方法 - Google Patents

アルカリ二次電池用表面処理板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、アルカリ二次電池用表面処理板およびその製造方法に関する。
電解液がアルカリ水溶液からなる、いわゆるアルカリ電池の二次電池の種類としては、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池などが実用化され、広く知られている。また、アルカリ二次電池において、空気電池や、正極に水酸化ニッケル等、負極活物質に亜鉛を用い、電解液にアルカリ水溶液を用いるニッケル亜鉛電池は、次世代の電池として鋭意開発が行われている。
ニッケル亜鉛電池の利点としては、水系電池としては高い起電力を有しエネルギー密度が大きいこと、亜鉛が安価であること、レアメタルレスであること、ニッケルと亜鉛が共にリサイクル可能な金属であること、水系電解液を使用しているためリチウムイオン電池よりも安全性に優れていること、等が挙げられる
一方で、二次電池としての空気亜鉛電池やニッケル亜鉛電池の実用化への課題の一つとして、充放電時(自然放電含む)における腐食電流発生の問題があった。腐食電流が発生し、その発生量が大きくなるにつれ、電池性能が大幅に低下するおそれがある。特に電池反応に亜鉛が関与する電池において、これらの問題は特に顕著に生じうる。
上述のような腐食電流発生の問題は、負極集電体に水素過電圧の高い材料を適用することにより解決可能であることは、従来知られている。
例えば、特許文献1や特許文献2に開示されているような銅とスズの合金を用いることにより水素過電圧を高くした負極集電体が知られている。
特開平2-75160号公報 特開平3-4449号公報
しかしながら上記した特許文献に記載のような銅とスズの合金は、充放電を繰り返すことにより電解液中に溶解し(耐電解液性の低下)、また、その溶解に起因して電池性能が低下するなどの問題があった。本発明は、特定の合金層を用いることにより、耐電解液性を有し、かつ高い電池性能を有するアルカリ電池用表面処理板を提供することを目的とする。なお本発明においては、電解液に対する耐食性・耐溶解性を「耐電解液性」と称するものとする。
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるアルカリ二次電池用表面処理板は、(1)基材と、前記基材の少なくとも片面に形成されるニッケル-亜鉛合金層を有するアルカリ二次電池用表面処理板であって、前記基材が金属板であり、前記ニッケル-亜鉛合金層がNiZnの結晶構造の合金相を含み、前記ニッケル-亜鉛合金層において、X線回折で測定された前記NiZnの結晶構造の合金相のピーク最大値強度IMAX(Ni1Zn1)と、同条件で測定された標準物質Siのピーク最大値強度IMAX(Si)における強度比Iratioが、0.018以上であることを特徴とする。
上記(1)において、(2)前記強度比Iratioが、0.021以上であることが好ましい。
また上記(1)又は(2)において、(3)前記ニッケル-亜鉛合金層がCo又はFeをさらに含むことが好ましい。
さらに上記(1)~(3)のいずれかにおいて、(4)前記基材と前記ニッケル-亜鉛合金層との間にニッケル層を有することが好ましい。
上記(1)~(4)のいずれかにおいて、(5)前記ニッケル-亜鉛合金層において含まれる亜鉛の量が0.5g~18.0g/mであることが好ましい。
上記(1)~(5)のいずれかにおいて、(6)前記ニッケル-亜鉛合金層において含まれるニッケルの量が1.7g~45.0g/mであることが好ましい。
又は上記(4)又は(5)において、(7)前記ニッケル-亜鉛合金層及び前記ニッケル層において含まれる合計のニッケルの量が1.7g~45.0g/mであることが好ましい。
上記(1)~(7)のいずれかにおいて、(8)前記強度比Iratioが、0.050以上であることが好ましい。
また上記(1)~(8)のいずれかにおいて、(9)前記基材が鋼板であることが好ましい。
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるアルカリ二次電池は、(10)上記(1)~(9)のいずれかにおけるアルカリ二次電池用表面処理板を用いるものであることが好ましい。
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるアルカリ二次電池用表面処理板の製造方法は、(11)基材の少なくとも片面上に電解めっきによりニッケルめっき層を形成するニッケルめっき層形成工程と、前記ニッケルめっき層上に電解めっきにより亜鉛めっき層を形成する亜鉛めっき層形成工程と、前記ニッケルめっき層及び前記亜鉛めっき層に対して熱処理を行う熱処理工程と、を有し、前記熱処理工程が、ニッケル及び亜鉛を熱拡散させてNiZnの結晶構造の合金相を含むニッケル-亜鉛合金層を形成するニッケル-亜鉛合金層形成工程を含むことを特徴とする。
本発明によれば、耐電解液性を有し、かつ高い電池性能を有するアルカリ電池用表面処理板を提供することが可能となる。
本実施形態にかかるアルカリ二次電池用表面処理板を模式的に示した断面図である。 本実施形態にかかるアルカリ二次電池を模式的に示した断面図である。 (a)は本実施形態の実施例4にかかるアルカリ二次電池用表面処理板のアノード反応前のX線回折結果において回折角2θ=30°~100°のピークを示す図であり、(b)は(a)における回折角2θ=46°~60°のピークを示す拡大図である。 (a)は本実施形態の実施例6にかかるアルカリ二次電池用表面処理板のアノード反応前のX線回折結果において回折角2θ=30°~100°のピークを示す図であり、(b)は(a)における回折角2θ=46°~60°のピークを示す拡大図である。 (a)は比較例1にかかるアルカリ二次電池用表面処理板のアノード反応前のX線回折結果において回折角2θ=30°~100°のピークを示す図であり、(b)は(a)における回折角2θ=46°~60°のピークを示す拡大図である。
<アルカリ二次電池用表面処理板>
≪第1実施形態≫
以下、本発明を実施するための実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
なお、本発明のアルカリ二次電池用表面処理板は、アルカリ二次電池の集電体、タブ・リードや外装に好適に用いられ、さらには、アルカリ二次電池の負極の集電体材料として好適に用いられる。
図1は、本実施形態に係るアルカリ二次電池用表面処理板100を模式的に示した断面図である。図1(a)に示すように、本実施形態に係るアルカリ二次電池用表面処理板100は、基材10と、基材10の少なくとも片面に形成されるニッケル-亜鉛合金層20を有する。
本実施形態における基材10としては、表面処理板の基材として一般的に用いられる金属板を適用することができる。なお本実施形態において金属板としては、一般的に「金属箔」と称される厚みのものも含むこととする。
例えば、鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、銅板、銅合金板、鉄板、鉄合金板、ステンレス鋼板、ニッケル板、ニッケル合金板などをあげることができる。なお、これらの基材には公知の表面処理がなされていてもよいし、活物質等との密着性の観点からパンチングメタル等を用いて開口率が10%~70%となる貫通孔を有する基材を用いていてもよい。
上記の基材の中でも、コスト、機械特性、調達性、めっき処理のしやすさの観点から鋼板が好ましく用いられる。また、より耐食性を求める場合にはステンレス鋼板、ニッケル板、ニッケル合金板が好ましく用いられる。
鋼板の種類としては具体的には、低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01~0.15重量%)、炭素量が0.01重量%未満の極低炭素鋼、または極低炭素鋼にTiやNbなどを添加してなる非時効性極低炭素鋼が好適に用いられる。
本実施形態における基材10の厚さとしては、特に限定はされず、用いる部材に適した厚みであればよく、0.01~2.0mmの範囲が好適である。タブ・リード部材や集電体として用いる場合は、強度の観点、及び、望まれる電池容量の観点、等より、より好ましくは0.025~0.8mm、さらに好ましくは0.025~0.3mmである。
なお、基材10まで含めて積層電解箔として製造してもよい。
次に、基材10の少なくとも片面に形成されるニッケル-亜鉛合金層20について説明する。ニッケル-亜鉛合金層20にはニッケル(Ni)及び亜鉛(Zn)が含まれる。ニッケル-亜鉛合金の組成としては、固溶体、共析・共晶、化合物(金属間化合物)のいずれであってもよいし、それらが共存していてもよい。
ニッケル-亜鉛合金層20に含まれる亜鉛(Zn)の量は、0.5g~18.0g/mであることが、アルカリ電池用の表面処理板における電池性能の観点からは好ましい。
またニッケル-亜鉛合金層20に含まれるニッケル(Ni)の量が1.7g~45.0g/mであることが、アルカリ電池用の表面処理板における耐電解液性の観点からは好ましい。
なお本実施形態においてニッケル-亜鉛合金層20中に含まれる金属元素としては、本発明の課題を解決し得る限り、ニッケル(Ni)及び亜鉛(Zn)以外の金属元素を含んでいてもよい。例えば、ニッケル-亜鉛合金層20には、Co、Fe、Mo等の金属元素が含まれていてもよい。
なお、ニッケル-亜鉛合金層20中のニッケル(Ni)及び亜鉛(Zn)以外の金属元素の割合は合計で10wt%以下が好ましく、より好ましくは5wt%以下が好ましく、さらに好ましくは1wt%以下、特に好ましくは0.5wt%以下が好ましい。
本実施形態におけるニッケル-亜鉛合金層20の形成方法としては、めっきおよび熱処理による方法が好ましく、めっきとしては、例えば電解めっき、無電解めっき、溶融めっき、乾式めっき等の方法が挙げられる。このうち、コストや膜厚制御等の観点より特に電解めっきによる方法が好ましい。
例えば、基材10の少なくとも片面に、電解めっき等の方法により順次ニッケルめっき層及び亜鉛めっき層を形成し、その後熱拡散処理等によりニッケル及び亜鉛を拡散させて合金化する方法等が挙げられる。
なお以下、「ニッケルめっき」を「Niめっき」、「亜鉛めっき」を「Znめっき」とも記載する。
この場合、ニッケルめっき層中におけるニッケルは、一部合金化されずにニッケル層30として残存していてもよい。すなわち図1(b)に示されるように、基材10とニッケル-亜鉛合金層20との間にはニッケル層30を有していてもよい。ニッケル層30を有している場合、溶解により基材に電解液が到達することを回避することが可能であるためより好ましい。また、一次防錆の観点から、熱拡散処理によりニッケル及び亜鉛を拡散させてニッケル-亜鉛合金層20を形成後に、亜鉛めっきを施すことによりニッケル-亜鉛合金層20上に亜鉛層が形成されていてもよい。この場合、ニッケル-亜鉛合金層20上の亜鉛層は3.0μm以下が好ましく、コストの観点からより好ましくは1.0μm以下である。
基材10とニッケル-亜鉛合金層20との間にニッケル層30を有している場合、ニッケル-亜鉛合金層20及びニッケル層30において含まれる合計のニッケル(Ni)の量が1.7g~45.0g/mであることが、アルカリ電池用の表面処理板における耐電解液性の観点からは好ましい。
あるいはニッケル-亜鉛合金層20は、Ni-Zn二元合金めっき、Ni-Zn系合金めっき(例えば、Ni-Zn-Co合金めっき)等を形成した上で熱処理することにより形成してもよい。
なお、これらのニッケル-亜鉛合金層20の製造方法について、詳細は後述する。
本実施形態におけるニッケル-亜鉛合金層20中においては、NiZnの結晶構造の合金相を含むことを特徴とする。この構成を有することにより、本発明の課題である、耐電解液性、及びアルカリ電池用表面処理板としての高い電池性能、を両立させることが可能となる。
ここで、本発明においてニッケル-亜鉛合金層20中にNiZnの結晶構造の合金相を含むことを規定した理由は以下のとおりである。
一般的に電池の内部においては、異種金属間で局部電池が形成されることに起因して、腐食電流が発生し、電池反応以外の化学反応(自己放電)が起こった場合には、電池反応に寄与すべきエネルギーが自己放電反応として失われるため、電池性能の低下につながる。なおここでいう自己放電とは、充電・放電時の副反応(腐食電流発生プロセスを含む化学反応)および、充放電時以外、つまり自然放置状態で起こる化学反応の両方を含む。
上述した腐食電流を低減するための方法の一つとして、集電体材料に水素過電圧の高い材料を適用することが知られている。
本実施形態において、ニッケル-亜鉛合金層20中の亜鉛は水素過電圧の高い材料といえる。しかしながら亜鉛の性質として、耐電解液性としては低いものである。
一方でニッケル-亜鉛合金層20中のニッケルは、水素過電圧は低いが、耐電解液性は優れている。
そのため本発明者らは、ニッケル-亜鉛合金層を形成するためのめっき条件や熱処理条件等を変更して、ニッケルと亜鉛それぞれの含有量や合金の構造等の異なる合金層を得た。そしてそれぞれの合金層を電解液に反応させて、金属元素の左記的な含有量や合金の構造等を解析した。このように本発明者らが鋭意検討し実験を繰り返す中で、NiZnの結晶構造の合金相が一定以上存在することにより、上述した電池性能及び耐電解液性の課題を同時に解決し得ることを見出したものである。
ここでニッケル-亜鉛合金層20中に含まれるNiZnの存在は、X線回折(XRD)測定を用いて確認することができる。具体的には、XRD測定の回折角2θ=56~59°におけるピークが得られた場合、ニッケル-亜鉛合金層20中に含まれるNiZnの結晶構造における結晶面(0 0 2)の存在を確認することができ、NiZnの結晶構造の合金相を含むといえるものである。
さらに本実施形態では、ニッケル-亜鉛合金層20中に含まれるNiZnの量として、上記XRDで測定されるNiZnのピーク最大値強度IMAX(Ni1Zn1)と、Siのピーク最大値強度IMAX(Si)との強度比Iratioが、下記式(1)に従って求められるものであり、強度比Iratioが0.018以上であることを特徴とする。
ratio=IMAX(Ni1Zn1)/IMAX(Si) (1)
すなわち本実施形態においては、上記式(1)で表される強度比が0.018以上であることにより、ニッケル-亜鉛合金層20中に腐食電流を低減するために十分な量のNiZnの合金相が存在するため好ましい。その結果、表面処理板をアルカリ二次電池とした際に優れた電池性能及び耐電解液性を得ることが可能となる。
なおより安定的にNiZnの合金相を存在させることにより広範囲でのばらつきを抑えられる結果、優れた電池性能を安定的に得られるという観点から、Iratioは0.021以上が好ましく、さらに0.050以上が好ましく、より好ましくは0.080以上であり、さらに好ましくは0.100以上である。また、上限は特にないが、製造上のコストの観点から、Iratioは好ましくは0.500未満が好ましく、より好ましくは0.400未満、さらに好ましくは0.350未満である。
またこのIMAX(Ni1Zn1)値及びIratio値は、表面処理板をアルカリ二次電池とした際にニッケル-亜鉛合金層20が電解液に接触することにより変動する。しかしながら、本発明のように電解液に接触する前(アノード反応前)において上記Iratio値を所定の値以上に規定することにより、アルカリ二次電池とした場合の充放電の繰り返しによる電池性能の低下にも耐えうるものであることを見出した。
なおここで、「IMAX(Ni1Zn1)」とは、上記XRD測定の回折角2θ=56
~59°において得られるNiZnの結晶構造における結晶面(0 0 2)のピーク最大値強度を意味する。
また「IMAX(Si)」とはXRD測定の回折角2θ=45~48°において得られる標準物質ケイ素(Si)の結晶構造における結晶面(2 2 0)のピーク最大値強度を意味する。
なお本実施形態においては、上記標準物質ケイ素(Si)としては「NIST製標準Si粉末 SRM640f」であり、標準物質のみを測定対象として測定するものとする。また上記IMAX(Si)は、上記IMAX(Ni1Zn1)と同条件で測定していれば、測定タイミングを異ならせて得た値であってもよい。
ここで本実施形態において上記式(1)のように、標準物質とのピーク強度比によりNiZnのピーク最大強度を表す理由としては、以下のとおりである。
すなわち、上記のように標準物質とのピーク強度比により、測定装置・測定条件による影響を小さくした環境下にて、NiZnの存在量を把握できる。一般に、特定金属材料のある結晶面Aの回折強度を規定する場合、測定装置・条件の影響を小さくする為に、比較となる結晶面Bの回折強度、あるいは確認された回折強度の総和にて除して無次元化する手法が用いられる。
しかしながら本発明のような厚み方向で各元素濃度が変化するような材料においては、比較とする結晶面の選定が困難であった。そこで本発明では、比較とする結晶面を、同条件で測定する標準物質、具体的にはSiの(2 2 0)面とする事で、測定装置・測定条件の影響を小さくし、NiZnの存在量の規定を図ったのである。
なお本実施形態におけるニッケル-亜鉛合金層20中においては、NiZnの結晶構造の合金相以外の合金相が含まれていてもよい。例えば、合金状態図で確認されるNiZn22、NiZn22、あるいは、XRDでピークとして指数付されるNiZn、及び/又はNiZn11、等の結晶構造の合金相が含まれていてもよい。これらの合金相は結晶構造中により亜鉛(Zn)を多く含むものではあるがニッケル(Ni)を多く含むものではない。そのため、アルカリ電池用表面処理板を集電体として使用した際に電解液に接する側にNiZn、及び/又はNiZn11存在した場合であっても、結果的に電池性能を低下させるものではないと考えられるため、NiZnの合金相の
状態、つまりIratioが0.018以上となることを妨げない程度にニッケル-亜鉛合金層20中に含まれていてもよい。
上記したNiZn、及び/又はNiZn11、等の結晶構造の合金相の存在について確認する方法としても、NiZnと同様、X線回折(XRD)測定を用いることができる。例えば、NiZnは2θ=46~49の(13 1 3)面のピーク有無で、NiZn11は2θ=33~36の(2 2 2)面のピーク有無で存在を確認できる。(それぞれ、ICDD PDF-2 2014のデータベースの01-072-2670、01-072-2671に基づく)
Figure 0007270660000001
なお本実施形態において、ニッケル-亜鉛合金層20中には、上述のように、ニッケル(Ni)及び亜鉛(Zn)以外の金属元素(Co、Fe、Mo等)を含んでいてもよいものである。なお、含有される金属の種類及び量は蛍光X線(XRF)測定装置を用いて、公知の方法により測定することが可能である。
またその他の方法として、GDS(グロー放電発光表面分析法)を用いてニッケル-亜鉛合金層20中におけるニッケル(Ni)及び亜鉛(Zn)以外の金属元素(Co、Fe、Mo等)の種類を確認することも可能である。GDSはめっきや熱処理などの各種表面処理が施された試料の深さ方向元素分析を行う分析手法であり、スパッタリングによる破壊分析である。
同様に、スパッタリングを併用して深さ方向元素分析(Depth profile)が可能な分析機器としては、AES(Auger electron spectroscopy)やESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)も同様に適用可能であるが、エッチング深さの観点から、GDSが好ましい。
本実施形態においてニッケル-亜鉛合金層20中におけるNiZnの結晶構造の合金相は、上述するようにアルカリ電解液に対する好ましい耐性を有しているため、電極(タブ・リード部材や集電体)材料の溶解を回避することができる。
また、本実施形態においてニッケル-亜鉛合金層20中におけるNiZnの結晶構造の合金相は、上述したような腐食電流を低減し得る結果として、高い電池性能を有するものである。
したがって、本実施形態の表面処理板を二次電池の集電体として使用した場合には、充放電サイクルを繰り返しても好ましい電池性能を維持することが可能となる。
なお、本実施形態の表面処理板を、両面に電解液が接触する電池構成の集電体用として用いる場合には、表面処理板の両面にNiZnの結晶構造の合金相を有するニッケル-亜鉛合金層20を有することが好ましい。
<アルカリ二次電池>
次に、本発明におけるアルカリ二次電池の一例として、図2及び以下の実施形態を用いて説明する。
本実施形態のアルカリ二次電池BAは、例えばニッケル亜鉛電池等を挙げることができ、正極PE、負極NE、及び電解質EL(電解液ES含む)を含む。正極PEとしては、ニッケルや水酸化ニッケルを挙げることができる。電解質EL又は電解液ESはアルカリ性であり、電解質EL又は電解液ES中に含まれる負極活物質としては酸化亜鉛や亜鉛が好ましい。
そして例えば図2に示すような構成において、負極NEの集電体材料として、本発明におけるアルカリ二次電池用表面処理板を用いることを特徴とする。なお電池構成は図2に示す構成に限定されず、適宜公知のセパレータ等を適用してもよい。
なお、正極PE、電解質EL又は電解液ESの詳細や、アルカリ二次電池BAの全体構造等については、公知の構成を適宜適用することが可能であるため、詳細な説明はここでは省略する。
本実施形態のアルカリ二次電池BAは、本発明におけるアルカリ二次電池用表面処理板を負極の集電体材料として用いる。そのため、耐電解液性を有し、かつ高い電池性能を実用可能レベルで両立でき好ましい。
また本発明におけるアルカリ二次電池用表面処理板は耐電解液性に優れるため、集電体だけでなく、タブ・リードや電池外装などの電池部材としても適用可能である。
<アルカリ二次電池用表面処理板の製造方法>
次に、本発明におけるアルカリ二次電池用表面処理板の製造方法について、以下の実施形態により説明する。しかしながら本発明のアルカリ二次電池用表面処理板の製造方法は、下記の実施形態に制限されるものではない。
本実施形態におけるアルカリ二次電池用表面処理板の製造方法は、(1)基材10の少なくとも片面上に電解めっきによりニッケルめっき層を形成するニッケルめっき層形成工程と、(2)前記ニッケルめっき層上に電解めっきにより亜鉛めっき層を形成する亜鉛めっき層形成工程と、を含む。
なお本実施形態におけるアルカリ二次電池用表面処理板の製造方法において、ニッケルめっき層と亜鉛めっき層は、基材10の両面にそれぞれ形成されてもよい。
なおここで上記Niめっき層は、純Niめっき層であってもよいし、Co、Fe、W、Mo、P、Bを含むNiを主とするNi合金めっき層(Ni-Co合金めっきやNi-Fe合金めっき等)であってもよい。Ni合金めっき層の場合には、Co、Feを含有する場合はコストや耐電解液性の観点から、蛍光X線分析法にて求めたNi付着量の重量割合が全金属元素の付着量に対して50wt%以上が好ましく、より好ましくは60wt%以上である。W、Mo、P、Bを含有する場合は生産性の観点から、蛍光X線分析法にて求めたNi付着量の重量割合が全金属元素の付着量に対して90wt%以上であることが好ましく、より好ましくは95wt%以上、さらに好ましくは98wt%以上である。また、C、Sなどの有機物を含んでいてもよく、これらの重量割合は0~0.5%が好ましい。
また同様にZnめっき層は、純Znめっき層であってもよいし、Zn以外にCo、Mo等の金属またはその化合物を含むZnを主とするめっき層(合金めっきや複合めっきなど)であってもよい。Zn以外の金属元素を含むめっき層の場合には、蛍光X線分析法にて求めたZn付着量の重量割合が全金属元素の付着量に対して95wt%以上であることが好ましく、より好ましくは98wt%以上、さらに好ましくは99wt%以上である。また、C、Sなどの有機物を含んでいてもよく、これらの重量割合は0~0.5%が好ましい。
本実施形態の製造方法において、電解めっきによるNiめっき層形成やZnめっき層形成の際のめっき条件等は、公知の条件を適用することができる。以下に、公知のNiめっきやZnめっきの条件の例を示す。
[Niめっき浴及びめっき条件の一例]
浴組成:公知のワット浴
硫酸ニッケル六水和物:200~300g/L
塩化ニッケル六水和物:20~60g/L
ほう酸:10~50g/L
浴温:40~70℃
pH:3.0~5.0
撹拌:空気撹拌又は噴流撹拌
電流密度:5~30A/dm
なお、浴組成については、上記のワット浴の他、公知のスルファミン酸ニッケル浴やクエン酸浴を用いてもよい。また公知の光沢剤などの添加物をめっき浴に添加して、光沢ニッケルめっき又は半光沢ニッケルめっきとしてもよい。
[Znめっき浴及びめっき条件の一例]
硫酸亜鉛七水和物:100~400g/L
硫酸ナトリウム:10~100g/L
浴温:30~70℃
pH:0.5~5.0
撹拌:空気撹拌又は噴流撹拌
電流密度:10~60A/dm
上記のように、Znめっきに用いるめっき浴としては、Znイオンの供給源として硫酸塩を用い、これにめっき液の導電性を高めるため硫酸アンモニウム、硫酸などの導電補助塩を適宜添加した浴を用いることができる。さらに公知の光沢剤などの添加物をめっき浴に添加して、光沢Znめっき又は半光沢Znめっきとしてもよい。
[Zn-Co合金めっき浴及びめっき条件の一例]
硫酸亜鉛七水和物 :100~400g/L
硫酸コバルト七水和物: 10~100g/L
硫酸アンモニウム : 0~100g/L
硫酸ナトリウム : 0~100g/L
浴温 :30~60℃
pH :0.5~5.0
撹拌 :空気撹拌又は噴流撹拌
電流密度 :10~60A/dm
[Zn-Co-Mo合金めっき浴及びめっき条件の一例]
硫酸亜鉛七水和物 :100~400g/L
硫酸コバルト七水和物: 10~100g/L
モリブデン酸アンモニウム:0.01~1.0g/L
硫酸アンモニウム : 0~100g/L
硫酸ナトリウム : 0~100g/L
浴温 :30~60℃
pH :0.5~5.0
撹拌 :空気撹拌又は噴流撹拌
電流密度 :10~60A/dm
なお本実施形態において、Znめっきにより形成させるZn層におけるZn付着量は、0.5g/m~22.0g/mであることが好ましい。Zn付着量の測定は、蛍光X線(XRF)測定またはICP発光分光分析等の公知の方法を用いて行うことが可能である。
付着量が22.0g/mを超える場合には、電解めっきの操業性が低下するためコストが大幅に増大する観点、あるいは後の熱処理工程によりZnが蒸散し、製造ラインが汚染される可能性がある観点から好ましくない。より蒸散量を減らし、安定的にNi1Znの結晶構造の合金相を形成できるという観点から、付着量の上限は、より好ましくは11.0g/m以下であり、さらに好ましくは5.5g/m以下である。
一方で付着量が0.5g/m未満である場合には、その後の熱処理工程によってもニッケル-亜鉛合金層中におけるNiZnの結晶構造の合金相を生成することができない可能性があるため好ましくない。
付着量の下限は、より好ましくは0.8g/m以上であり、さらに好ましくは1.0g/m以上であり、特に好ましくは1.3g/m以上である。
また本実施形態において、Niめっきにより鋼板上に形成させるNiめっき層におけるNi付着量は、1.7g/m~45.0g/mであることが好ましい。Ni付着量の測定は、蛍光X線(XRF)測定またはICP発光分光分析等の公知の方法を用いて行うことが可能である。
付着量が45.0g/mを超える場合には、電解めっきの操業性が低下するためコストが大幅に増大する。一方で付着量が1.7g/m未満である場合には、合金層における充分な耐電解液性が得られない可能性があるため好ましくない。
コスト、耐電解液性の観点で、より好ましくは3.4g/m~27.0g/mであり、さらに好ましくは5.1g/m~22.5g/mである。
本実施形態の製造方法においては、上記(1)(2)の工程に加えて、さらにNiめっき層及びZnめっき層に対して熱処理を行う(3)熱処理工程を経ることにより、基材10の少なくとも片面にニッケル-亜鉛合金層20を形成することが可能である。
そして上記の熱処理工程において、熱処理の温度と時間を所定の条件とすることにより、上記のニッケル-亜鉛合金層20の形成と同時に、ニッケル-亜鉛合金層20中にNiZnの結晶構造の合金相を形成することが可能となる。
すなわち、本実施形態においては、(3)熱処理工程の中に、(3-1)Ni及びZnを熱拡散させてニッケル-亜鉛合金層を形成するニッケル-亜鉛合金層形成工程を含む。さらに詳細には、この(3-1)ニッケル-亜鉛合金層形成工程は、(3-2)NiZnの結晶構造の合金相を含むニッケル-亜鉛合金層を形成するNiZn合金相形成工程を含む、といえる。
NiZn合金相形成工程について以下に説明する。上述のように、ニッケル-亜鉛合金中においては、NiZnの結晶構造の合金相以外にも、NiZnやNiZn11等の結晶構造の合金相が存在する場合がある。つまり、NiとZnの合金を形成する際には、NiZnの結晶構造の合金相以外の合金相が形成されうる。このうち、本実施形態において規定するNiZnの結晶構造の合金相を熱処理により形成させるためには、Zn量に対して充分なNi量が必要であり、かつ付着量に応じた適切な熱処理条件が必要である。なお、熱処理前のZn量とNi量に関しては既に述べた。
次いで熱処理条件について説明する。本実施形態における熱処理工程の条件としては、以下のような条件を挙げることができる。なお本実施形態の熱処理は、連続焼鈍でもよいしバッチ焼鈍(箱型焼鈍)であってもよい。
連続焼鈍処理の場合、400℃以上800℃以下で10秒~300秒の範囲内で行うことが好ましい。これより低温又は短時間の場合、ニッケル-亜鉛合金層20中においてNiZnの結晶構造の合金相が形成されない可能性があり好ましくない。
一方で、上記より高温又は長時
間の場合、Znが蒸散しやすいため目的とするニッケル-亜鉛合金層中におけるNiZnの結晶構造の合金相が形成されずにZnが蒸散する可能性や、蒸散したZnで熱処理ラインが汚染される可能性があること、あるいはコスト的な観点から、好ましくない。
なお上記観点から、連続焼鈍処理はより好ましくは450℃以上800℃以下で10秒~300秒の範囲内で行うことが好ましい。
バッチ焼鈍(箱型焼鈍)の場合、均熱工程の条件は、温度は250℃~450℃の範囲で、1~15時間の範囲内で行うことが好ましく、より好ましくは温度が300℃超450℃以下の範囲で、1~15時間の範囲内で行うことが好ましい。また、特に上述したZn付着量が22.0g/m超の場合において、より安定的にNiZnの結晶構造の合金相を形成するためには、温度は300℃超450℃以下の範囲で、1~15時間の範囲内で行うことがさらに好ましい。これより低温又は短時間の場合、ニッケル-亜鉛合金層20中においてNiZnの結晶構造の合金相が形成されない可能性があり好ましくない。
一方で、上記より高温又は長時間の場合、目的とするニッケル-亜鉛合金層中におけるNiZnの結晶構造の合金相が形成されずに、Znが蒸散する可能性があること、蒸散したZnで熱処理ラインが汚染される可能性があること、あるいはコスト的な観点から、好ましくない。
なお、昇温工程および冷却工程を含めたトータルの熱処理時間は、5~90時間が好ましい。
なお本実施形態においては、上記(3-1)の工程と(3-2)の工程とは、実質的に同時に行われるものであるが、これに制限されるものではなく、別々に行われるものであってもよい。
なお、Znめっき後の熱処理によってZnが蒸散することでZnめっき付着量に対しZn付着量が減少することがあるが、その減少量は5g/m未満が好ましく、より好ましくは1.8g/m未満、さらに好ましくは1.5g/m未満、特に1.0g/m未満であることが好ましい。熱処理によるZnの減少量は熱処理前のZn量(g/m)と熱処理後のZn量(g/m)との差である。また減少率は40%以内であることが好ましく、より好ましくは25%以内、さらに好ましくは18%以内が好ましく、特に10%以内が好ましい。減少量が1.5g/m未満、または減少率が10%以内であれば、ほぼ蒸散していないとみなせる。
熱処理によるZnの減少率は以下の式で表すことができる。
「100-(熱処理後のZn量(g/m))/(熱処理前のZn量(g/m))×100(%)」
また本実施形態の製造方法において、熱処理によるNiめっき後のNi付着量の減少は生じない。
本実施形態の製造方法によれば、例えばアルカリ二次電池の負極の集電体材料として好適に用いられる表面処理板を製造することができる。得られた表面処理板は、ニッケル-亜鉛合金層20中にNiZnの結晶構造の合金相を含む。そのため、例えばニッケル亜鉛電池の二次電池で求められる耐電解液性と、高い電池性能とを両立することが可能となる。
≪実施例≫
以下に、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。
<実施例1>
[表面処理板の製造]
まず基材10として下記に示す化学組成を有する低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延板(厚さ250μm)を準備した。
C:0.04重量%、Mn:0.32重量%、Si:0.01重量%、P:0.012重量%、S:0.014重量%、残部:Feおよび不可避的不純物
次に、準備した基材について、電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にてNiめっきを行ってNi付着量30.81g/mのNiめっき層を形成した。Niめっき層における厚さは、3.46μmとした。
なお、Niめっきの条件は、以下の通りとした。
(Niめっきの条件)
浴組成:ワット浴
硫酸ニッケル六水和物:250g/L
塩化ニッケル六水和物:45g/L
ほう酸:30g/L
浴温:60℃
pH:4.0~5.0
撹拌:空気撹拌又は噴流撹拌
電流密度:10A/dm
Niめっき層が形成された基材に対し、次いでZnめっきを行って厚さ0.32μmのZnめっき層を形成した。Znめっき層におけるZn付着量は2.25g/mとした。
なお、Znめっきの条件は、以下の通りとした。
(Znめっきの条件)
浴組成 硫酸亜鉛七水和物:220g/L
硫酸ナトリウム:50g/L
浴温 :40℃
pH:1.0~2.0
撹拌:空気撹拌又は噴流撹拌
電流密度 :10 A/dm
(蛍光X線(XRF)測定)
得られたNiめっき層とZnめっき層において、各々の金属元素の付着量を、蛍光X線(XRF)測定を用いて検量線法により定量した。蛍光X線装置は、リガク社製、ZSX100eを用いた。蛍光X線測定においては表面処理板の表面処理層に含まれる金属元素の検量線法による定量が可能である。
実施例7においてはCoがZnに対して0.1~2wt%の割合で含有されていることを確認した。また、実施例13、14においてはCoがZnに対して0.1~2wt%の割合で含有され、またMoがZnに対して0.001~1wt%の割合で含有されていることを確認した。
次いで、上記で形成したNiめっき層及びZnめっき層を有する鋼板に対して、連続焼鈍により、熱処理温度450℃、熱処理時間25秒、還元雰囲気の条件で熱処理を行った。この熱処理により、Ni及びZnを含む合金層を片面に有する表面処理板を得た。その結果を表2に示す。なお、耐電解液性試験および腐食電流密度測定試験の際には、評価面以外はマスキングを行ったため試験結果には影響ない。
[グロー放電発光表面分析(GDS)]
得られた表面処理鋼板に対して、被膜(ニッケル-亜鉛合金層20)の被膜構成をグロー放電発光表面分析(GDS)により得た。GDS測定は、下記の条件において実施したものである。
・装置:高周波グロー放電発光分光分析装置(堀場製作所製 GD-Profiler2)
・検出機能:HDDモード
・アノード径:4mm
・励起モード:ノーマル
・光源圧力:600Pa
・光源出力:35W
・検出波長:Ni=352nm、Zn=481nm、Fe=371nm
なお実施例1ではCo及びMoは含まれていなかった。
[熱処理後の蛍光X線(XRF)測定]
上述した、熱処理前の蛍光X線(XRF)測定と同様にして、熱処理後の表面処理鋼板に対しても蛍光X線(XRF)測定を行い、ニッケル-亜鉛合金層20中に含まれるニッケル及び亜鉛の量を得た。結果を表2に示す。なお実施例1においてはコバルトは検出されなかった。
[X線回折(XRD)測定]
次に熱処理後の表面処理板に対して、特定の結晶構造の合金相の存在を確認する目的で、X線回折(XRD)測定を行った。X線回折測定装置としては、Rigaku製SmartLab)を用いた。試料は、熱処理後の表面処理鋼板を20mm×20mmに切断して用いた。回折角2θ=56~59°におけるNiZn由来のピークの有無を確認した。なおXRDの具体的な測定条件としては、次の仕様とした。
<装置構成>
・X線源:CuKα
・ゴニオメータ半径:300nm
・光学系:集中法
(入射側スリット系)
・ソーラースリット:5°
・長手制限スリット:5mm
・発散スリット:1/2°
(受光側スリット系)
・散乱スリット:1/2°
・ソーラースリット:5°
・受光スリット:0.3mm
・単色化法:カウンターモノクロメーター法
・検出器:シンチレーションカウンタ
<測定パラメータ>
・管電圧-管電流:45Kv 200mA
・走査軸:2θ/θ
・走査モード:連続
・測定範囲:2θ 30~100°
・走査速度:10°/min
・ステップ:0.05°
上記回折角において得られるNiZnの結晶構造における結晶面(0 0 2)のピーク最大強度値(cps)を表2に示した。
なお、得られたピーク強度値に対しては、株式会社リガク製 統合粉末X線解析ソフトウェア PDXLを用いてバックグラウンド除去を行い、表2に示すピーク最大強度値(cps)とした。
また標準物質ケイ素(Si)である「NIST製標準Si粉末 SRM640f」のピーク強度(IMAX(Si))としては回折角2θ=46.5°において4501.26(cps)であった。このIMAX(Si)は、各実施例・比較例とは異なるタイミングで測定した。
[腐食電流密度測定による電池性能評価]
表面処理板をアルカリ溶液中に浸漬させた上で電気化学測定システムを用いて通電させることで反応(アノード反応)させ、反応後の腐食電流測定を測定することにより、電池性能について評価した。具体的には、析出Znとの局部電池を模す試験として、対極にZn板を用い、アルカリ溶液に浸漬して30秒経過時点での腐食電流密度が小さいほど電池性能が高いと評価できる。
腐食電流密度測定は下記の条件において実施し、アルカリ溶液(30wt%水酸化カリウム溶液)での下記試験極と対極間で発生する腐食電流密度(単位mA/cm)を測定した。
・装置:北斗電工製 HZ5000
・試験極:測定サンプル(測定径φ6mm)
・対極:Zn板(20×20mm、厚み0.5mm)
・測定方法:クロノクーロメトリ
腐食電流密度が41mA/cm未満を○、41mA/cm以上を△とした。結果を表3に示す。
[耐電解液性評価]
さらには、熱処理後の表面処理板に対してアルカリ溶液(30wt%水酸化カリウム溶液)を用いたアノード反応試験後にX線回折(XRD)測定を行うことにより、耐電解液性を評価した。具体的には、放電時の負極集電体のアノード反応を想定し、放電時のアルカリ溶液中における耐電解液性を評価するために、電気化学測定システムを用いて通電させることで反応(アノード反応)させた。その後にX線回折(XRD)測定でNiZnピーク強度を測定し、強度比Iratio(=IMAX(Ni1Zn1)/IMAX(Si))が0.018以上の場合に耐電解液性良好(○)、0.018未満の場合に耐電解液性不良(×)と評価した。得られた数値を表4に示す。
なおアノード反応試験は、下記の条件において実施したものである。
・電気化学測定器:北斗電工製 HZ5000
・試験極:測定サンプル(20mm×20mm)
・対極:Cu板
・参照極:Ag/AgCl(KCl飽和)
・電解液:30wt%水酸化カリウム溶液
・電流密度:50mA/cm
・測定方法:クロノポテンショメトリ
・電気量:21C/cm
<実施例2>
熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示した。
<実施例3>
熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示した。
<実施例4>
Niめっき層とZnめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~表4に示した。またアノード反応前のX線回折(XRD)結果を図3に示す。
<実施例5>
Niめっき層とZnめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示した。
<実施例6>
Niめっき層とZnめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~表4に示した。またアノード反応前のX線回折(XRD)結果を図4に示す。
<実施例7>
実施例1のZnめっき層に替えて、Zn-Coめっき層を形成した。めっき条件は下記のとおりとした。
(Zn-Coめっきの条件)
浴組成 硫酸亜鉛七水和物:230g/L
硫酸コバルト七水和物: 30g/L
硫酸アンモニウム : 30g/L
浴温:40℃
pH:2.5~4.0
撹拌:噴流撹拌
電流密度:10A/dm
Niめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした。それ以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示した。なお、熱処理後のXRF測定によりコバルト(Co)が亜鉛(Zn)に対して0.1wt%以下であった。
<実施例8>
Niめっき層とZnめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~表4に示した。
<実施例9>
Niめっき層とZnめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~表4に示した。
<実施例10>
Niめっき層とZnめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、330℃で1.5時間焼鈍した後、連続的に390℃で1時間焼鈍を行った。なお温度変更時には、炉の解放・冷却は行わなかった。それ以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示した。
<実施例11>
Niめっき層とZnめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~表4に示した。
<実施例12>
Niめっき層とZnめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~表4に示した。
<実施例13>
実施例7のZn―Coめっき層に替えて、Zn-Co-Moめっき層を形成した。めっき条件は下記のとおりとした。
(Zn-Co―Moめっきの条件)
浴組成 硫酸亜鉛七水和物:230g/L
硫酸コバルト七水和物:30g/L
モリブデン酸アンモニウム:0.3g/L
硫酸アンモニウム:30g/L
浴温:40℃
pH:2.5~4.0
撹拌:噴流撹拌
電流密度:10A/dm
Niめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした。それ以外は実施例7と同様に行った。結果を表2~表4に示した。なお、熱処理後のXRF測定によりコバルト(Co)が亜鉛(Zn)に対して0.5wt%、モリブデン(Mo)が亜鉛(Zn)に対して0.1wt%以下であった。また、GDSにおいて、コバルト(Co)及びモリブデン(Mo)の含有が確認できた。
<実施例14>
Niめっき層とZn-Co-Moめっき層の厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした。それ以外は実施例13と同様に行った。結果を表2~表4に示した。なお、熱処理後のXRF測定によりコバルト(Co)が亜鉛(Zn)に対して0.5wt%、モリブデン(Mo)が亜鉛(Zn)に対して0.1wt%以下であった。また、GDSにおいて、コバルト(Co)及びモリブデン(Mo)の含有が確認できた。
<実施例15>
Niめっき層とZnめっき層の厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2に示した。
<実施例16>
基材10において、厚さを60μmとした以外は実施例1と同様の基材を準備した。Niめっき層とZnめっき層の厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~4に示した。
<実施例17>
Niめっき層とZnめっき層の厚さ、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例16と同様に行った。結果を表2~4に示した。
<実施例18>
Niめっき層とZnめっき層の厚さ、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例16と同様に行った。結果を表2~4に示した。
<実施例19>
Niめっき層とZnめっき層の厚さ、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例16と同様に行った。結果を表2~4に示した。
<実施例20>
Niめっき層とZnめっき層の厚さ、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例16と同様に行った。結果を表2に示した。
<実施例21>
基材10において、開口率が38%となる貫通孔を有し、厚さを60μmとした以外は実施例1と同様の基材を準備した。Niめっき層とZnめっき層の厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~4に示した。
<実施例22>
Niめっき層とZnめっき層の厚さ、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例21と同様に行った。結果を表2~4に示した。
<比較例1>
熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~表3に示した。またアノード反応前のX線回折(XRD)結果を図5に示す。
<比較例2>
Niめっき層とZnめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~表3に示した。
<比較例3>
熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~表3に示した。
<比較例4>
Niめっき層とZnめっき層の付着量、厚さを表2のとおりとした。熱処理をバッチ焼鈍(箱型焼鈍)とし、熱処理の温度と時間を表2のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表2~表3に示した。
Figure 0007270660000002
Figure 0007270660000003
Figure 0007270660000004
各実施例は、実用可能な耐電解液と電池性能を備えていることが確認された。また、実施例21や22のように貫通孔を有する基材を用いてNiZnの結晶構造の合金相を有するニッケル-亜鉛合金層を形成した場合においても、実用可能な耐電解液と電池性能を備えていることが確認された。なお実施例21や22のように貫通孔を有する基材を使用した場合には、活物質との良好な密着性を有するものと考えられる。一方で比較例においては、いずれかの特性を備えるものではないことが確認された。
なお上記した実施形態と各実施例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
また、上記した実施形態と実施例は主としてニッケル亜鉛電池用途を前提として説明したが、本発明はニッケル亜鉛電池用途に限られずその他の電池の用途にも適用が可能である。
以上説明したように、本発明の表面処理板は、アルカリ二次電池の集電体材料やタブ・リード材料、外装用材料として好適に用いられる。また、本発明の表面処理板を用いたアルカリ二次電池は、定置用や車載用等の幅広い分野の産業への適用が可能である。
1 表面処理板
10 基材
20 ニッケル-亜鉛合金層
30 ニッケル層

Claims (13)

  1. 基材と、前記基材の少なくとも片面に形成されるニッケル-亜鉛合金層を有するアルカリ二次電池用表面処理板であって、
    前記基材が金属板であり、
    前記ニッケル-亜鉛合金層がNiZnの結晶構造の合金相を含み、
    前記ニッケル-亜鉛合金層において、X線回折で測定された前記NiZnの結晶構造の合金相のピーク最大値強度IMAX(Ni1Zn1)と、同条件で測定された標準物質Siのピーク最大値強度IMAX(Si)における強度比Iratioが、下記式(1)に従って求められるものであり、0.018以上であることを特徴とする、
    アルカリ二次電池用表面処理板。
    I ratio = I MAX(Ni1Zn1) /I MAX(Si) (1)
  2. 前記強度比Iratioが、0.021以上である、請求項1に記載のアルカリ二次電池用表面処理板。
  3. 前記ニッケル-亜鉛合金層がCo又はFeをさらに含む、請求項1又は2に記載のアルカリ二次電池用表面処理板。
  4. 前記基材と前記ニッケル-亜鉛合金層との間にニッケル層を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池用表面処理板。
  5. 前記ニッケル-亜鉛合金層において含まれる亜鉛の量が0.5g~18.0g/mである、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池用表面処理板。
  6. 前記ニッケル-亜鉛合金層において含まれるニッケルの量が1.7g~45.0g/mである、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池用表面処理板。
  7. 前記ニッケル-亜鉛合金層及び前記ニッケル層において含まれる合計のニッケルの量が1.7g~45.0g/mである、請求項4又は5に記載のアルカリ二次電池用表面処理板。
  8. 前記強度比Iratioが、0.050以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池用表面処理板。
  9. 前記基材が鋼板である、請求項1~8のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池用表面処理板。
  10. 請求項1~9のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池用表面処理板からなる、空気亜鉛電池またはニッケル亜鉛電池用の表面処理板。
  11. 請求項1~9のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池用表面処理板を用いた、アルカリ二次電池。
  12. 基材の少なくとも片面上に、電解めっきにより、ニッケルの付着量が1.7g/m ~45.0g/m となるようにニッケルめっき層を形成するニッケルめっき層形成工程と、
    前記ニッケルめっき層上に、電解めっきにより、亜鉛の付着量が0.5g/m ~22.0g/m となるように亜鉛めっき層を形成する亜鉛めっき層形成工程と、
    前記ニッケルめっき層及び前記亜鉛めっき層に対して熱処理を行う熱処理工程と、を有し、
    前記熱処理工程が、400℃以上800℃以下で10秒~300秒の連続焼鈍処理により、ニッケル及び亜鉛を熱拡散させてNiZnの結晶構造の合金相を含むニッケル-亜鉛合金層を形成するニッケル-亜鉛合金層形成工程を含むことを特徴とする、
    アルカリ二次電池用表面処理板の製造方法。
  13. 基材の少なくとも片面上に、電解めっきにより、ニッケルの付着量が1.7g/m ~45.0g/m となるようにニッケルめっき層を形成するニッケルめっき層形成工程と、
    前記ニッケルめっき層上に、電解めっきにより、亜鉛の付着量が0.5g/m ~22.0g/m となるように亜鉛めっき層を形成する亜鉛めっき層形成工程と、
    前記ニッケルめっき層及び前記亜鉛めっき層に対して熱処理を行う熱処理工程と、を有し、
    前記熱処理工程が、250℃~390℃の範囲で、1~15時間の均熱工程の箱型焼鈍により、ニッケル及び亜鉛を熱拡散させてNiZnの結晶構造の合金相を含むニッケル-亜鉛合金層を形成するニッケル-亜鉛合金層形成工程を含むことを特徴とする、
    アルカリ二次電池用表面処理板の製造方法。
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