JP2023098439A - 集電体用表面処理金属箔 - Google Patents

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Yusuke Hashimoto
啓志 桂
Keiji Katsura
慎一郎 堀江
Shinichiro Horie
利文 小▲柳▼
Toshifumi Koyanagi
興 吉岡
Ko Yoshioka
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Abstract

【課題】電池に好適な水素バリア性を備えた集電体用表面処理金属箔を提供する。【解決手段】第1の面および、前記第1の面と反対側に位置する第2の面を有した集電体用表面処理金属箔であって、前記集電体用表面処理金属箔の少なくともいずれか一方の面側に積層されて、リン含有率が7.0wt%以上のニッケル-リン合金層と、を有することを特徴とする、集電体用表面処理金属箔。【選択図】 図1(a)

Description

本発明は、二次電池などの集電体に特に好適に使用される集電体用表面処理金属箔及びその製造方法に関する。
従来、車載用等に採用される二次電池としてニッケル水素電池やリチウムイオン電池が知られている。そしてこれらの二次電池の電極構造の種類としては、集電体の両面に共に正極層または負極層を形成したモノポーラ電極と、集電体の両面に正極層(正極活物質層)と負極層(負極活物質層)とを形成したバイポーラ電極とが知られている。
バイポーラ電池は、上記したバイポーラ電極を電解質、セパレータなどを挟んで積層し、単一の電槽内に収容することにより構成される。この構成により、各電極を直列回路で積層配置することが可能となるため、電池の内部抵抗を小さくすることができ、作動電圧、出力を大きくし易いことが知られている。また、電池性能と併せて、モノポーラ電極を用いた従来の電池と比較して、電流を取り出すためのリードなどの部材点数を電池設計によって省略、削減することで、電池体積あるいは重量を低減できることから、電池の体積および重量エネルギー密度の向上を図ることができると考えられている。
例えば下記の特許文献1には、ニッケル箔等の金属箔をバイポーラ電池の集電体として用いることが開示されている。
特開2020-053401号公報
本発明者らは二次電池用途に好適な金属箔としてニッケルめっきを施した表面処理金属箔の開発を進める中で、表面処理金属箔における水素透過を抑制することにより電池性能の劣化を低減できることを見出した。
例えばニッケル水素電池では、負極の活物質として水素を、一般的には水素吸蔵合金を使用する。従来のモノポーラ電極であれば集電体などの電池部材は電池種に応じた耐電解液性を表面に有すればよかったところ、上記のようなバイポーラ電極の場合は、負極側に存在する水素が金属材料中を移動し正極側に透過する現象が生じやすく、このような透過現象が発現した場合、電池性能が低下しやすくなることに想到した。
本発明は、かような課題を解決することを鑑みてなされたものであり、集電体用に特に良好な水素バリア性を備えた表面処理金属箔を提供することを目的とする。
上記に例示した課題を解決するために、本発明の一実施形態における集電体用表面処理金属箔は、(1)第1の面および、前記第1の面と反対側に位置する第2の面を有した集電体用表面処理金属箔であって、前記集電体用表面処理金属箔の基材が金属基材からなり、前記金属基材の少なくともいずれか一方の面側に、リン含有率が7.0wt%以上のニッケル-リン合金層が形成されていることを特徴とする。
上記(1)において、(2)前記ニッケル-リン合金層の厚みが0.10μm以上3.00μm未満であることが好ましい。
上記(1)又は(2)において、(3)前記ニッケル-リン合金層の前記リン含有率が下記式[1]を満たすことが好ましい。
Figure 2023098439000002
(上記合計厚みとは、金属基材上に形成されている全てのニッケル-リン合金層の厚みの合計値である)
上記(1)~(3)のいずれかにおいて、(4)前記ニッケル-リン合金層の合計厚みが0.20μm以上であることが好ましい。
上記(1)~(4)のいずれかにおいて、(5)前記金属基材の少なくともいずれか一方の面側に形成された前記ニッケル-リン合金層の十点平均粗さRzjisが0.5μm以上であることが好ましい。
上記(1)~(5)のいずれかにおいて、(6)前記金属基材が、低炭素鋼又は極低炭素鋼であることが好ましい。
上記(1)~(6)のいずれかにおいて、(7)前記ニッケル-リン合金層が、前記金属基材の両面に形成されていることが好ましい。
上記(1)~(7)のいずれかにおいて、(8)前記ニッケル-リン合金層におけるニッケル付着量が0.5g/m~20.0g/mであることが好ましい。
上記(1)~(8)のいずれかにおいて、(9)前記金属基材の少なくともいずれか一方の面側にニッケルを含有する金属層が形成されていることが好ましい。
上記(9)において、(10)前記金属層がニッケル層であり、少なくとも前記ニッケル-リン合金層の上層に形成されていることが好ましい。
上記(10)において、(11)前記ニッケル層が、前記ニッケル-リン合金層の下層にも形成されていることが好ましい。
上記(10)~(11)において、(12)前記ニッケル-リン合金層及び前記ニッケル層におけるニッケル総付着量が2.0g/m~60.0g/mであることが好ましい。
上記(1)~(12)のいずれかにおいて、(13)前記第1の面側、及び前記第2の面側の少なくともいずれか一方の最表面に粗化層を有し、前記粗化層の算術平均高さSaが0.20~1.30μmであることが好ましい。
上記(13)において、(14)前記粗化層が粗化ニッケル層であり、少なくとも前記ニッケル-リン合金層または前記金属層の上層に形成されていることが好ましい。
上記(13)又は(14)において、(15)前記ニッケル-リン合金層及び前記金属層、前記粗化層におけるニッケル総付着量が5.0g/m~90.0g/mであることが好ましい。
上記(1)~(15)のいずれかにおいて、(16)電気化学的に測定される水素透過電流密度が80μA/cm以下であることが好ましい。
但し、水素透過電流密度の測定は、電解液の温度を65℃として、水素発生側には参照電極:Ag/AgClを用いて、測定径φ20mmの測定面積(3.14cm)に対して-100mAの電流を印加し、水素検出側には参照電極を用いずに電流を印加しない条件において、水素検出側で測定される酸化電流の増加分である。
本発明によれば、電池、特にバイポーラ電池に好適な水素バリア性を備えた集電体用表面処理金属箔を提供することができる。
本実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 本実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 本実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 本実施形態の集電体用表面処理金属箔の水素バリア性を測定する装置の模式図である。 本実施形態の集電体用表面処理金属箔の水素バリア性を測定する装置の模式図である。 本実施形態の集電体用表面処理金属箔の水素バリア性を測定した際に得られたプロット図である。 他の実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 他の実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 他の実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 他の実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 他の実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 他の実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 他の実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 他の実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 他の実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 他の実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 他の実施形態の集電体用表面処理金属箔を模式的に示した図である。 実施例におけるリン含有率を求める方法の一例を説明するための図である。
≪第1実施形態≫
以下、本発明の集電体用表面処理金属箔100の第1実施形態について、図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態の集電体用表面処理金属箔100を模式的に示した図である。なお、本実施形態の集電体用表面処理金属箔100は、バイポーラ電池の集電体に適用されるほか、モノポーラ電池の正極又は負極の集電体にも適用され得る。電池の種類としては二次電池であっても一次電池であってもよい。
本実施形態の集電体用表面処理金属箔100は、金属基材20、及びニッケル-リン合金層30を有する。集電体用表面処理金属箔100は、第1の面10a、及び前記第1の面側とは反対側の第2の面10bを有する。なお、前記集電体用表面処理金属箔100において、水素吸蔵合金を含む電池の集電体として用いる場合、前記第1の面10aの側には、電池として組み立てる際に負極材料として水素吸蔵合金が配置される。一方で第2の面10bの側には、例えばバイポーラ電極構造のニッケル水素電池に適用する場合、正極材料が配置される。
本実施形態の集電体用表面処理金属箔100は、上述のようにニッケル-リン合金層30を有することを特徴とする。
ニッケル-リン合金層30は、図1(a)、(b)に示されるように、上記した第2の面10bの側に形成されていてもよいし、図1(c)に示されるように、上記した第1の面10aの側に形成されていてもよい。
またニッケル-リン合金層30は、図1(b)に示されるように第1の面10a及び第2の面10bの両方に形成されていてもよい。また、図1(c)に示されるように第1の面10aの側にニッケル-リン合金層30、第2の面10bの側に後述する金属層40が形成されていてもよい。逆に第1の面10aの側に金属層40、第2の面10bの側にニッケル-リン合金層30が形成されていてもよい。
ニッケル-リン合金層30は、前記集電体用表面処理金属箔内の水素の透過または拡散を抑制する機能を有する。
<金属基材20について>
本実施形態の集電体用表面処理金属箔100に使用される金属基材20としては、鋼箔、銅箔等の金属箔が好ましく用いられる。このうち特に鋼箔が好ましく用いられ、鋼箔としては、クロム(Cr)および他の添加金属元素が1.0重量%未満である鉄を基とする金属基材が好ましい。鋼箔の種類として具体的には、低炭素アルミキルド鋼(炭素量0.01~0.15重量%)、炭素量が0.01重量%未満の極低炭素鋼、または極低炭素鋼にチタン(Ti)やニオブ(Nb)などを添加してなる非時効性極低炭素鋼が好適に用いられる。また、電解めっきで製造される電解鉄箔であってもよい。つまり、本実施形態における鋼箔は、圧延鋼箔、電解鉄箔を含むものとする。
本実施形態の集電体用表面処理金属箔100に使用される金属基材20の厚さとしては、0.01~0.30mmの範囲が好適である。体積および重量エネルギー密度の観点を重視した電池の集電体として用いる場合は、強度の観点、及び、望まれる電池容量の観点、等より、より好ましくは0.01~0.20mm、さらに好ましくは0.025~0.10mmである。金属基材20の厚さは、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)の断面観察による厚み測定が好適に用いられる。また、表面処理前、つまりニッケル-リン合金めっき前の厚み測定としては、マイクロメーターでの厚み測定等が適用可能である。
<ニッケル-リン合金層30について>
本実施形態の集電体用表面処理金属箔100に含まれるニッケル-リン合金層30はニッケル(Ni)とリン(P)が含まれる合金層、またはニッケルとリンからなる合金(「Ni-P合金」とも称する)が含まれる金属層である。なお、このニッケルとリンからなる合金状態としては、固溶体、共析・共晶、化合物(金属間化合物)、または非晶質内にニッケルとリンが含まれる状態のいずれであってもよいし、それらが共存していてもよい。ニッケル-リン合金層30は実質的にニッケルとリンのみから構成されていてもよいし、本発明の課題を解決し得る限りにおいてニッケル及びリン以外の金属元素や不可避の不純物を含んでいてもよい。なお、ニッケル及びリン以外にニッケル-リン合金層30に含まれ得る金属元素については後述する。
本実施形態においてニッケル-リン合金層30は、リン(P)含有率(%)が7.0wt%以上であることを特徴とする。この場合特に、集電体用表面処理金属箔100の水素バリア性をより向上させるためには、リン含有率(%)が8.0wt%以上であることが好ましく、より好ましくは9.0wt%以上、さらに好ましくは12.2wt%以上、特に好ましくは13.0wt%以上である。なおリン含有率(%)の上限としては、特に上限はないものの、製造上の観点から、20.0wt%以下が好ましく、より好ましくは18.0wt%以下、さらに好ましくは16.0wt%以下である。
なお、リン含有率は、以下のとおり算出可能である。リン含有率(wt%)=リン付着量(g/m)/(ニッケル付着量(g/m)+リン付着量(g/m))×100
なお、本実施形態におけるニッケル-リン合金層30中の好ましいリン含有率(%)の範囲は、後述する第2実施形態および第3実施形態においても同様である。
なお、本実施形態におけるリン含有率の算出方法としては、例えば、ニッケル-リン合金層を形成した後にICP発光分光分析装置等を用いて求める方法や、金属基材上にニッケル-リン合金層を形成した時点において蛍光X線装置を用いて測定する方法、SEM(走査電子顕微鏡)やTEM(透過電子顕微鏡)備え付けのEDX(エネルギー分散型X線分析法)等を用いて、ニッケル-リン合金層の表面もしくは断面から測定する方法などが挙げられる。
なお、本実施形態において図1(c)のように、金属基材20上にニッケル-リン合金層30以外の、金属元素としてニッケルが含まれる金属層40が形成された構成においては、ICP発光分光分析を用いてニッケル-リン合金層30のみのリン含有率を求めることは困難となるが、例えば次のような測定方法でリン含有率を求めることができる。具体的には、金属層40がニッケル層の場合、まず断面写真から金属層40の厚みを測定し、前記厚みから金属層40のニッケル付着量を換算する。その後、ICP発光分光分析を用いて、ニッケル-リン合金層30と金属層40含む全ての層のニッケル総付着量を測定する。このニッケル総付着量から前記金属層40のニッケル付着量を差し引くことで、ニッケル-リン合金層30だけのリン含有率を間接的に算出することは可能である。また、さらにSEMやTEMでの断面観察から特定のニッケル-リン合金層30に対してEDXを用いてリン含有率を測定することも可能である。
上述のTEMによる断面観察およびEDXを用いてリン含有率を測定する方法としては、例えばニッケル-リン合金層30の断面に対して厚み30~150nmの薄片試料を作製する。次に、前記ニッケル-リン合金層30の厚み方向3点を測定箇所としてリン含有率を測定し、そのうちの最大値をニッケル-リン合金層中のリン含有率とすることができる。なお、上述した測定箇所においては、厚み方向3点に限られるものではなく、3点以上を測定箇所としてリン含有率を測定し、そのうちの最大値をニッケル-リン合金層中のリン含有率としてもよい。
本実施形態の集電体用表面処理金属箔100に含まれるニッケル-リン合金層30は、本発明の課題を解決し得る限り、他の金属元素や不可避の不純物を含んでいてもよい。例えば、ニッケル-リン合金層30中には、コバルト(Co)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、ボロン(B)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、亜鉛(Zn)、硫黄(S)等の金属元素が含まれていてもよい。なお、ニッケル-リン合金層30中のニッケル(Ni)とリン(P)以外の金属元素の割合は20wt%以下が好ましく、より好ましくは10wt%以下が好ましく、さらに好ましくは5wt%以下、特に好ましくは1wt%以下が好ましい。ニッケル-リン合金層30は実質的にニッケルとリンのみから構成されていてもよいため、他の金属元素の含有割合の下限は0%である。含有される他の金属元素の種類及び量は、上記SEMやTEMでのEDXによる測定方法の他、蛍光X線(XRF)測定装置やGDS(グロー放電発光表面分析法)等の公知の手段により測定することが可能である。
本実施形態の集電体用表面処理金属箔100に含まれるニッケル-リン合金層30の形成方法としては、合金めっきによる方法が好ましく、合金めっきとしては、例えば電解めっき、無電解めっき、溶融めっき、乾式めっき等の方法が挙げられる。このうち、製造時の効率化やコスト、膜厚制御等の観点より特に電解めっきによる方法が好ましい。
例えば、金属基材20の少なくとも片面に、電解めっき等の方法により、ニッケルイオンと亜リン酸イオンを含有するめっき液を用いて合金層を形成する方法等が挙げられる。なお、これらの方法について詳細は後述する。
次に、ニッケル-リン合金層30の水素バリア性について説明する。
従来技術に対し、本発明者らは電池性能を向上するために実験を繰り返す過程において、原因不明の電圧低下(自己放電)現象の発生、及びその現象を解消するために集電体用表面処理金属箔100中における水素透過を抑制することが有効であることを見出した。
水素透過が発生している原因と、集電体用表面処理金属箔100中における水素透過の抑制により上記した電圧低下(自己放電)現象の発生を抑制できる理由はいまだ明らかではないが、本発明者らは以下のように予測した。
すなわち本実施形態において、集電体用表面処理金属箔100がバイポーラ電池の電極に使用された場合には、負極材料として用いられる水素吸蔵合金が集電体用表面処理金属箔100の一方の面側に配置されると共に、その反対側には正極材料が配置されることとなる。この場合、集電体用表面処理金属箔100を隔てて、水素が豊富な環境(負極)と水素が少ない環境(正極)とが存在し、水素濃度勾配が発生することとなる。そして何らかの契機により集電体用表面処理金属箔100中を水素が透過・移動することにより、透過した水素が正極で反応し、上述のような電圧低下(自己放電)が発生するものと予想した。
このような水素の透過が原因による電圧低下は、電池使用環境下に置いて水素が透過しやすい状態が多いほど反応が加速し、電圧低下が発生するまでの時間が早くなる。つまり、電池性能の劣化が早くなると考えられる。水素が透過しやすくなる条件としては、上記水素濃度勾配が高くなるほど透過しやすくなると考えられる。また、水素濃度勾配に加え、集電体用表面処理金属箔の両面に電圧がかかった状態はさらに水素透過が促進されやすいと考えられる。つまり、水素吸蔵合金を用いる電池やニッケル水素電池などの濃度勾配の高い電池、充放電の多い二次電池において、水素透過が、時間経過とともに電池性能が漸減する一因となっている可能性がある。一方で、電池性能の漸減はその他の要因も大きく、水素透過の現象は捉えにくいため、従来のモノポーラ電池の使用・開発の中で明らかになっていなかったところ、本発明者らがバイポーラ電池の集電体用表面処理金属箔の開発・実験を繰り返す中で、電池性能の劣化の抑制にニッケル-リン合金層の水素バリア性向上が寄与することに想到したものである。よって、本実施形態の集電体用表面処理金属箔は、バイポーラ電池、特に水素吸蔵合金を用いた電池の集電体に特に好適に用いられるが、その他の水素吸蔵合金が用いられない電池であっても、水素を含む、あるいは水素が発生する電池であれば、これまでは捉えられていなかった水素透過による緩やかな電池性能の劣化がある可能性が考えられ、本実施形態の集電体用表面処理金属箔を好適に用いることができる。例えば、アルカリ二次電池においては、ニッケル亜鉛電池では負極に亜鉛、ニッケルカドミウム電池では負極にカドミウムを使用する以外は、ニッケル水素電池と同様に水酸化カリウムを主成分とするアルカリ電解液を使用するなど、電池構成部材はほとんど同じであり、負極側に水素が発生し易い特徴を持っている。
よって、水素吸蔵合金内に大量の水素が蓄えられるニッケル水素電池ほどではないものの、これらの電池をバイポーラ型構造のバイポーラ電池としたとき、集電体表裏間での水素の移動現象は起こりうる可能性があり、同様に水素透過によって電池性能が低下し易くなると考えられる。したがって、バイポーラ型のアルカリ二次電池においても本実施形態の集電体用表面処理金属箔を好適に用いることができる。
次に、水素バリア性の評価方法について説明する。上述のように集電体用表面処理金属箔100中を水素が透過・移動する場合、水素侵入側から水素検出側に到達した水素原子は酸化されて水素イオンとなる。このときの酸化電流の値は、水素検出面に到達した水素量に応じて増減するため、検出された電流値により集電体用表面処理金属箔100の水素バリア性を数値化・評価することが可能となる。(水流 徹,東京工業大学,材料と環境,63,3-9(2014),電気化学法による鉄鋼への水素侵入・透過の計測)
上記予想の結果、発明者らが測定・評価を行い、本実施形態において、上述したような電圧低下(自己放電)の発生を抑制するためには、本実施形態の集電体用表面処理金属箔100は、電気化学的に測定される酸化電流値から得られる水素透過電流密度が80μA/cm以下であることが好ましいという結論に帰結した。なお、本実施形態における水素透過電流密度の測定条件は、電解液の液温:65℃とし、水素発生側(カソード側もしくは水素侵入側とも称す)は参照電極をAg/AgCl(銀塩化銀)とし、測定径φ20mmの測定面積(3.14cm)に対して電流を-100mA、水素検出側(アノード側とも称す)は参照電極を用いずに電流印加なし(自然電位)とする。ここで水素発生側の電流値を-100mAとした理由は、集電体用表面処理金属箔100中を透過・移動するために必要な水素量を十分に発生させるためである。
本実施形態における水素透過電流密度の測定方法の具体例として、図2(a)に示すような構成の測定装置を用いて電流値(電流密度)を検出することにより、集電体用表面処理金属箔100の水素バリア性を数値化及び評価することが可能である。図2(a)に示す測定装置について以下に説明する。以下の説明において、水素侵入側は水素発生側とも記し、バイポーラ電極構造の水素吸蔵合金を配置する側、すなわち集電体用表面処理金属箔100の第1の面10aの側である。また、水素検出側は水素侵入側の反対面であり、バイポーラ電極構造の正極側、すなわち集電体用表面処理金属箔100の第2の面10bの側である。
水素発生用のセルXおよび透過水素の検出用セルYの2つのセルを準備し、この2つの測定セルの間に集電体用表面処理金属箔100の試験片(サンプル)を設置する。各測定セルには電解液(KOHを主成分として6mol/L含み、KOH、NaOH、LiOHの合計濃度が濃度:7Mol/Lであるアルカリ水溶液)を充填し、参照電極(RE1)および対極(CE1及びCE2)を浸漬している。参照電極には飽和KCl溶液のAg/AgCl電極、対極には白金(Pt)を使用する。また、電解液の温度は65℃とする。また、図2(b)に示すように集電体用表面処理金属箔100における測定径はφ20mm(測定面積3.14cm)とする。
水素侵入側の電流制御は、図2(a)に示すようにポテンショスタット又は整流器等を用いる。ポテンショスタットとしては例えば、北斗電工株式会社製の「マルチ電気化学計測システムHZ-Pro」 を用いることができる。また、水素検出側の電流測定は図2(a)に示すように電流計を用いる。電流計としては例えば、株式会社カスタム製の「デジタルマルチメータCDM-7000」を用いることができる。なお、評価する集電体用表面処理金属箔100のサンプルおよび各電極の接続は、図2(a)に示すように行うことができる。
水素発生側Xではサンプルへカソード電流(-100mA)を5分間印加し、サンプル表面に水素を発生させ、水素を侵入させる。なお、水素検出側Yでは電位は印加せず、電流計の接続のみとする。水素発生側から水素原子が透過してきた場合、透過してきた水素原子が水素検出側にて酸化されると、水素検出側の電流計にて測定される酸化電流が変化(増大)する。したがって、この酸化電流変化により、集電体用表面処理金属箔100の水素透過性の数値化・評価が可能となる。
なお、水素発生側のカソード電流印加前に、集電体用表面処理金属箔の表面電位を安定化させるために10分間以上電解液中に浸漬保持し、水素検出側の電流計の電流値が一定になること、つまり、1分間に5μA以上の変動がないことを確認する。上記工程により、後述する酸化電流の最小値を得ることが可能となる。なお、酸化電流値の測定プロットは30秒毎とする。
上記手法にて得られた水素検出側の酸化電流変化より、水素透過電流密度I(μA/cm)を算出することが可能となる。具体的には、電流印加後の5分間における前記酸化電流の最大値と、電流印加直前の最小値の差を測定面積3.14cmで除した値が水素透過電流密度となる。プロットおよび水素透過電流密度I(μA/cm)の数値化イメージを図2(c)に示す。
本実施形態においては、図2に記載の装置を用いて、65℃の前記電解液において、カソード側の電流値が-100mA、の条件下で測定した場合における水素検出側の水素透過電流密度が80μA/cm以下である場合に、集電体用表面処理金属箔100中の水素バリア性の観点からバイポーラ電極に好適であるとの結論に至った。電圧低下をより抑制するという観点から35μA/cm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは27μA/cm以下、特に好ましくは15μA/cm以下であることが好ましい。
なお、一般的に、金属材料はそれぞれの種類に応じて異なる水素の拡散係数を有していることが知られており、金属材料の用途に応じて、金属中の水素による欠陥や水素脆化現象を抑制するため、水素の侵入を抑制する金属材料が求められることがある。例えば高力ボルトの遅れ破壊の抑制のために高合金鋼を用いたり、圧力反応容器の割れ抑制のためにチタン溶接部材を用いたりする例などが挙げられる。
しかしながらこのような材料・用途は、水素吸蔵合金を表面に載せるような積極的に水素量が増えるような環境下での水素侵入は想定されていない。そして、これらの技術の課題は金属中に水素が留まることによる金属そのものの機械特性へ影響を及ぼすことであり、水素が金属材料を透過し反対面側へ影響する問題は生じていない。
また、電池部材における水素透過としては、たとえば燃料電池のセパレータにおいてガス不透過性として水素の不透過性が求められることが知られている。ただし、燃料電池においては、水素透過が問題になるのはカーボンセパレータの場合が主で、ステンレスやアルミのセパレータを用いた場合には水素透過はなく問題とはならないとされていた。また、燃料電池のセパレータは硫酸雰囲気化での耐食性が必須であり鋼板は適用が困難なため、鋼板を適用することを想定した課題は見出されていなかった。一方で、集電体の片面を負極活物質層、他方の面を正極活物質層とするバイポーラ電極構造における集電体では、燃料電池と比較して水素の透過現象が生じやすく、電池性能に影響を及ぼす場合があることが問題と判明した。これは、燃料電池とは、電池構造や対象部位、内部環境等が異なるからこそ判明した課題であると考えられる。
本実施形態において、例えば、集電体用表面処理金属箔100は下記のような構成をとってもよい。以下に金属基材20を「金属基材」、ニッケル-リン合金層30を「Ni―P合金層」、金属層40を「金属層」とし、第1の面10a、金属基材20、第2の面10bの順で示す。
Ni-P合金層/金属基材/(なし) (構成1-1)
(なし)/金属基材/Ni-P合金層 (構成1-2:図1(a))
Ni-P合金層/金属基材/金属層 (構成1-3:図1(c))
金属層/金属基材/Ni-P合金層 (構成1-4)
Ni-P合金層/金属基材/Ni-P合金層 (構成1-5:図1(b))
本実施形態の集電体用表面処理金属箔100のニッケル-リン合金層30において、上述したような水素バリア性の観点から、ニッケル-リン合金層30が少なくとも第2の面10b側に形成されていることが好ましい(構成1-2、1-4、1-5)。また、集電体用表面処理金属箔100全体としての耐電解液性の向上という観点から、前記ニッケル-リン合金層30の反対となる面側にニッケル-リン合金層30又は金属層40が形成されていてもよい(構成1-3~1-5)。なお、水素バリア性を向上させるという観点から、第1の面10a及び第2の面10bの両面に前記ニッケル-リン合金層30が形成されていることが好ましい(構成1-5)。
なお、金属層40は複数の金属層を含んでなるものであってもよい。また後述するように、金属層40を下地金属めっき層とし、その上に後述する粗化層50を形成してもよい。
さらに上述したような水素バリア性の観点からは、本実施形態の集電体用表面処理金属箔100に含まれるニッケル-リン合金層30の厚みとしては、第1の面10a及び第2の面10bの少なくともいずれか一方の面側に0.10μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.20μm以上、さらに好ましくは0.25μm、さらにより好ましくは0.30μm以上となる。またニッケル-リン合金層30の厚みの上限値としては、特に縛られるものではないが、クラック抑制やコストの観点からは、好ましくは3.00μm未満、より好ましくは2.50μm未満、さらに好ましくは2.00μm未満となる。
なお、本実施形態におけるニッケル-リン合金層30の好ましい厚みの範囲は、後述する第2実施形態および第3実施形態においても同様である。
また、本実施形態において、第1の面10a及び第2の面10bの両面にニッケル-リン合金層30が形成されている場合、水素バリア性をより高めるという観点から、ニッケル-リン合金層30の合計厚みは0.20μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.30μm以上、さらに好ましくは0.50μm以上、さらにより好ましくは0.60μm以上である。またニッケル-リン合金層30の合計厚みの上限値としては、特に縛られるものではないが、クラック抑制やコストの観点から、6.00μm未満が好ましく、より好ましくは5.00μm未満、さらに好ましくは4.00μm未満であり、特に好ましくは3.00μm未満である。なお、ここでいう合計厚みとは、金属基材20上に形成されている全てのニッケル-リン合金層30の厚みの合計値である。第1実施形態においては、第1の面10aおよび第2の面10bの両面に形成されているニッケル-リン合金層30の厚みの合計値となる。また、後述する第2実施形態および第3実施形態において、ニッケル-リン合金層30が片面側に複数形成されている場合にも、全てのニッケル-リン合金層30の厚みの合計値が合計厚みとなる。
なお、本実施形態におけるニッケル-リン合金層30の好ましい合計厚みの範囲は、後述する第2実施形態および第3実施形態においても同様である。
なお、本実施形態においてニッケル-リン合金層30の厚みの算出方法について説明する。本実施形態のニッケル-リン合金層30の厚み算出方法としては、例えば、ニッケル-リン合金層30の断面のSEM(走査電子顕微鏡)像や光学顕微鏡像、集束イオンビーム走査電子顕微鏡(FIB-SEM)像等を取得し、本顕微鏡像から当該層の厚みを測長することで可能となる。なお、厚み測定の際には、測定対象とする範囲からランダムに選択した10点において測定した厚みの平均値を得ることが好ましい。
本実施形態においてニッケル-リン合金層30の厚みとリン含有率との関係について、下記式[1]の関係を有することが好ましい。
Figure 2023098439000003
すなわち本発明者らが、水素バリア性を有する集電体用表面処理金属箔を得るために実験を繰り返す中で、リン含有率(%)及び金属基材上に形成されたニッケル-リン合金層の合計厚み、水素バリア性との間には相関関係があることを見出した。そして、式[1]を満たす場合に、上述した水素バリア性の効果が顕著に向上し、さらに、バイポーラ電池用の集電体として好適であることを見出した。
なお、水素バリア性の効果をさらに向上させるためには、下記式[2]を満たすことがより好ましい。
Figure 2023098439000004
なおニッケル-リン合金層30の厚みとリン含有率との関係について、式[1]又は式[2]を満たす好ましい範囲は第2実施形態および第3実施形態においても同様である。
なお、本実施形態において、ニッケル-リン合金層30の表面における十点平均粗さRzjisが0.50μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.60μm以上、さらに好ましくは0.70μm以上である。十点平均粗さRzjisを0.50μm以上とすることで、活物質やその他の金属層等を積層した際の密着性が向上するため好ましい。またニッケル-リン合金層30の表面における十点平均粗さRzjisの上限としては、特に上限はないものの、8.00μm未満が好ましく、より好ましくは6.00μm未満である。上述した十点平均粗さRzjisの数値をこの範囲内とするためには、例えば、金属基材20の表面粗度の制御、ニッケル-リン合金めっき条件や厚みの調整、等によって行うことができる。
なお、本実施形態におけるニッケル-リン合金層30の表面における十点平均粗さRzjisの好ましい範囲は、後述する第2実施形態および第3実施形態においても同様である。
なお、本実施形態の集電体用表面処理金属箔100において、少なくとも一方の面側におけるニッケル-リン合金層30におけるニッケルの付着量は0.5~20.0g/mであることが、バイポーラ電極に適した水素バリア性及び耐電解液性等の観点から好ましい。
上述のニッケル付着量は、ニッケル-リン合金層30についてICP発光分光分析を用いてニッケル量を測定することができるが、この方法に限られず、その他公知の測定方法を用いることも可能である。
なお、本実施形態におけるニッケル-リン合金層30のニッケル付着量の好ましい範囲は、後述する第2実施形態および第3実施形態においても同様である。
また、本実施形態の集電体用表面処理金属箔100において、ニッケル-リン合金層30は図1(b)に示されるように金属基材20の両面に形成されていてもよく、図1(c)に示されるように金属基材20の第1の面10a及び第2の面10bの少なくともいずれか一方の面にニッケル-リン合金層30が形成され、前記ニッケル-リン合金層30が形成された面側と反対となる面側に金属層40が形成されていてもよい。その場合、金属基材20の両面に形成されたニッケル-リン合金層30や、金属基材20の片面にそれぞれ形成されたニッケル-リン合金層30及び金属層40に含まれるニッケルの総付着量が、合計で1.0~30.0g/mであることが好ましい。
上述のニッケル総付着量は、表面処理鋼箔についてICP発光分光分析を用いて総ニッケル量を測定することで求めることができるが、この方法に限られず、その他公知の測定方法を用いることも可能である。
また、本実施形態の集電体用表面処理金属箔100において、金属基材20の第1の面10a及び第2の面10bの少なくともいずれか一方の面に形成されたニッケル-リン合金層30や、金属基材20の両面に形成されたニッケル-リン合金層30に含まれるリン総付着量は好ましくは0.05~6.0g/m、より好ましくは0.07~5.5g/m、さらに好ましくは0.09~5.0g/mであることが、バイポーラ電極に適した水素バリア性の観点から好ましい。
上記リン総付着量の範囲とすることで高い水素バリア性を備えつつ、ニッケル-リン合金層30の厚みや硬度を好適に制御することが可能である。そのため、集電体用表面処理金属箔のクラック発生のリスクを低減でき、コストの観点からも好ましい。
なお上述のリン総付着量は、上述した方法と同様にICP発光分光分析を用いて総リン量を測定することで求めることができるが、この方法に限られず、その他公知の測定方法を用いることも可能である。また、本実施形態におけるリン総付着量の範囲は、後述する第2実施形態および第3実施形態においても同様である。
なお、本実施形態の集電体用表面処理金属箔100において、金属基材20上にニッケル-リン合金層30以外の、例えば金属元素としてニッケルが含まれる金属層40が形成された構成において、ICP発光分光分析を用いてニッケル-リン合金層のみのニッケル付着量を求めることは困難となるが、例えば次のような測定方法を用いることでニッケル付着量を求めることができる。具体的には、金属層40がニッケル層の場合、まず断面写真から金属層40の厚みを測定し、前記厚みからニッケル付着量を換算する。その後、ICP発光分光分析を用いて、ニッケル-リン合金層30と金属層40含む全ての層のニッケル総付着量を測定する。このニッケル総付着量から前記金属層40のニッケル付着量を差し引くことで、ニッケル-リン合金層30だけのニッケル付着量を間接的に算出することは可能である。
<金属層40>
本実施形態の集電体用表面処理金属箔100において、前記金属層40を構成する金属材料としては、例えば、ニッケル、クロム、銅、コバルト、鉄、錫、亜鉛、またはこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属等が挙げられる。このうち、硬度や耐疵付き性に優れているという理由により特にニッケル、クロム、コバルト、またはこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属であることが好ましい。さらには、ニッケルまたはニッケルを基とする合金であることが、硬度や耐疵付き性に加えて耐電解液性を有する観点からは特に好ましい。
なお金属層40の厚みについて、0.10μm~3.00μmであることが好ましく、より好ましくは0.10μm~2.00μmであることが好ましい。なお、ここでいう金属層40の厚みとは、表面処理金属箔に形成されている金属層40の単層の厚みである。また、本実施形態における金属層40の厚みの好ましい範囲は、後述する第2実施形態および第3実施形態においても同様である。
なお、金属層40の厚みの測定方法についても、上述したニッケル-リン合金層30の厚みの測定方法と同じく、断面観察を用いた厚み測定が適用可能である。
次に、本実施形態における集電体用表面処理金属箔100全体の厚みについて説明する。
なお、本実施形態における「集電体用表面処理金属箔100の厚み」とは、走査電子顕微鏡(SEM)の断面観察による厚み測定、またはマイクロメーターでの厚み測定も適用可能である。
本実施形態における集電体用表面処理金属箔100の全体の厚みは、0.01~0.30mmの範囲が好適である。また、強度の観点、及び、望まれる電池容量の観点、等より、より好ましくは0.01~0.200mm、さらに好ましくは0.025~0.100mmである。
なお、本実施形態における集電体用表面処理金属箔全体の好ましい厚みの範囲は、後述する第2実施形態においても同様である。
上記厚み範囲は、製造する電池の体積および重量エネルギー密度の観点から好ましい。特に電池の薄型化を狙う場合には好ましい。さらに上記厚み範囲の下限については、電池の充放電に伴う影響に対して充分な強度を有する観点ばかりでなく、電池の製造時や取扱い時等に破れや千切れ・シワ等が発生する可能性を回避する観点から好ましい。
<集電体用表面処理金属箔100の製造方法>
以下、上述した第1実施形態にかかる集電体用表面処理金属箔100の製造方法について説明する。
本実施形態の集電体用表面処理金属箔100の製造方法は、第1の面10a側、及び、前記第1の面10aとは反対側に位置する第2の面10bの側、の少なくともいずれか一方の面側に、前記集電体用表面処理金属箔内の水素の透過又は拡散を抑制するニッケル-リン合金層30を形成する工程を有する。
本実施形態のニッケル-リン合金層30を形成する工程としては合金めっきによる方法が好ましく、金属基材20としての金属箔の少なくとも片面に、ニッケルイオン及び亜リン酸イオンを含む合金めっき浴を用いてニッケル-リン合金層30を形成する工程が挙げられる。なお、この工程は電解めっきであってもよいし、無電解めっき、溶融めっき、乾式めっき等の公知のめっき方法であってもよい。このうち、コストや膜厚制御等の観点より特に電解めっきによる方法が好ましい。
本実施形態の製造方法において、電解めっきによるニッケル-リン合金めっき層形成の際のめっき条件等は、公知の条件を適用することができる。以下に、めっき条件の例を示す。
[ニッケル-リン合金めっき浴及び電解めっき条件の一例]
・浴組成
硫酸ニッケル六水和物:150~250g/L
塩化ニッケル六水和物:5~50g/L
ホウ酸:20~50g/L
クエン酸三ナトリウム(無水):1~100g/L
亜リン酸:5~100g/L
亜リン酸水素二ナトリウム:5~200g/L
・浴温:25~80℃
・pH:1.0~6.0
・撹拌:空気撹拌又は噴流撹拌
・電流密度:1~40A/dm
なお、上記の浴の温度範囲に関して、目的のリン含有率や層の厚みを得られる点、層の析出が可能である観点から、より好ましい温度範囲である。
pHに関して、めっきの析出効率の観点や、めっきやけの発生を回避する観点からより好ましいpH範囲である。
電流密度に関しては、生産効率の観点やめっきやけの発生を回避する観点から、より好ましい電流密度範囲である。
また、ピット防止剤を適量添加してもよい。
無電解ニッケル-リンめっき浴の組成としては、一般的な無電解ニッケル-リンめっき浴、例えばカニゼンめっき浴を用いることができる。また、ニッケルから成る金属塩やリンを含んだ還元剤、錯化剤、pH調整剤、添加剤などの補助成分を有するものを含有し、めっき後のニッケル-リン被膜のリン含有率が7.0wt%以上となれば、浴組成は限定されず使用することもできる。
図1(b)に示すように集電体用表面処理金属箔100の第1の面側と第2の面側の両面にニッケル-リン合金層30を形成する場合、両面のニッケル-リン合金層30を同時に形成してもよいし、片面ずつ形成しても差し支えない。
また、本実施形態の集電体用表面処理金属箔100の製造方法において、図1(c)に示すようにニッケル-リン合金層30が形成された面側と反対となる面側に金属層40を形成する工程をしてもよい。この金属層40がニッケル層である場合には、該工程としては、ワット浴、スルファミン酸ニッケル浴、クエン酸浴等の公知のニッケル浴を用いた公知のめっき工程により形成することが可能である。
≪第2実施形態≫
次に、第2実施形態における集電体用表面処理金属箔200について説明する。なお、第2実施形態において第1実施形態との相違点は、ニッケル-リン合金層30の下層および/または上層に形成された金属層40が存在する点である。そのため該相違点について主に説明し、共通する構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
第2実施形態における集電体用表面処理金属箔200は、図3(a)に示されるように、金属層40の下層にニッケル-リン合金層30が形成されていてもよいし、図3(b)に示されるように、金属層40の上層にニッケル-リン合金層30が形成されていてもよい。また、図3(c)に示されるように集電体用表面処理金属箔200の第1の面10a及び第2の面10bの両面にニッケル-リン合金層30が形成され、前記ニッケル-リン合金層30の上層に金属層40が形成されていてもよいし、図3(d)に示されるように前記ニッケル-リン合金層30の下層および上層の両方に金属層40が形成されていてもよい。なお、ここでいう上層とは相対的に金属基材20に遠い層を意味し、下層とは相対的に金属基材20に近い層を意味するものとする。
本実施形態の集電体用表面処理金属箔200において、前記ニッケル-リン合金層30の下層または/および上層に金属層40を形成する効果としては以下の点が挙げられる。すなわち、ニッケル-リン合金層30に加えてさらに金属層40を形成することにより、集電体用表面処理金属箔200全体としての耐電解液性の向上や硬度等を調整することができ、所望の性質を有する集電体材としての集電体用表面処理金属箔を製造することが可能となる。
前記金属層40を構成する金属材料としては、上述した第1実施形態と同様に、例えば、ニッケル、クロム、銅、コバルト、鉄、錫、亜鉛、またはこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属等が挙げられる。このうち、硬度や耐疵付き性に優れているという理由により特にニッケル、クロム、コバルト、またはこれらのいずれかを基とする合金からなる群より選択される金属であることが好ましい。さらには、ニッケルまたはニッケルを基とする合金であることが、硬度や耐疵付き性に加えて耐電解液性を有する観点からは特に好ましい。
本実施形態において、例えば、集電体用表面処理金属箔200は下記のような構成をとってもよい。以下に金属基材20を金属基材、ニッケル-リン合金層30をNi-P合金層、金属層40を金属層とし、第1の面10a、金属基材20、第2の面10bの順で示す。
(なし)/金属基材/Ni-P合金層/金属層 (構成2-1:図3(a))
(なし)/金属基材/金属層/Ni-P合金層 (構成2-2:図3(b))
金属層/Ni-P合金層/金属基材/(なし) (構成2-3)
Ni-P合金層/金属層/金属基材/(なし) (構成2-4)
金属層/金属基材/金属層/Ni-P合金層 (構成2-5)
Ni-P合金層/金属層/金属基材/金属層 (構成2-6)
金属層/金属基材/Ni-P合金層/金属層 (構成2-7)
金属層/Ni-P合金層/金属基材/金属層 (構成2-8)
Ni-P合金層/金属基材/Ni-P合金層/金属層 (構成2-9)
Ni-P合金層/金属基材/金属層/Ni-P合金層 (構成2-10)
金属層/金属基材/Ni-P合金層/金属層/Ni-P合金層 (構成2-11)
Ni-P合金層/金属層/金属基材/金属層/Ni-P合金層 (構成2-12)
金属層/Ni-P合金層/金属基材/Ni-P合金層/金属層 (構成2-13:図3(c))
Ni-P合金層/金属層/金属基材/金属層/Ni-P合金層/金属層 (構成2-14)
Ni-P合金層/金属基材/Ni-P合金層/金属層/Ni-P合金層 (構成2-15)
Ni-P合金層/金属層/Ni-P合金層/金属基材/Ni-P合金層/金属層/Ni-P合金層 (構成2-16)
金属層/Ni-P合金層/金属層/金属基材/金属層/Ni-P合金層/金属層
(構成2-17:図3(d))
本実施形態において、水素バリア性の観点から、第1の面10a及び第2の面10bの少なくともいずれか一方の面側にニッケル-リン合金層30が形成されていればよく、好ましくは第2の面10b側に形成されていることが好ましい。また前記ニッケル-リン合金層30において、金属層40の上層または下層のどちらに形成されていてもよく、耐電解液性をより向上させるという観点から、前記ニッケル-リン合金層30が金属層40の下層に形成されていることが好ましい。
なお本実施形態において、アルカリ電解液を用いた電池などに適用される場合、金属層40の上層にニッケル-リン合金層30を形成した構成でも優れた耐電解液性を有する。一方、上記に示した電池において、通常使用よりもさらに過酷な環境下に晒される場合には、金属層40の下層にニッケル-リン合金層30を形成することにより、水素バリア性を備えつつ、且つより優れた耐電解液性を得ることが可能となる。
なお、集電体用表面処理金属箔200全体の耐電解液性を向上させるという観点から、前記ニッケル-リン合金層30が形成された面と反対となる面側にニッケル-リン合金層30又は金属層40のいずれか一層が形成されていてもよいし(構成2-5~2-17)、ニッケル-リン合金層30及び金属層40の両方が積層されていてもよい(構成2-12~2-14、2-16、2-17)。
なお、金属層40は前述した第1実施形態と同様に、複数の金属層を含んでなるものであってもよい。また、金属層40を下地金属めっき層とし、その上に後述する粗化層50を形成してもよい。
本実施形態において、水素バリア性をより高めるという観点から、第1の面10a及び第2の面10bの両面にニッケル-リン合金層30が形成されていることが好ましい(構成2-9、2-10、2-12~2-17)。
なお、耐電解液性をより向上させるという観点から、第1の面10a及び第2の面10bの両面に形成されたニッケル-リン合金層30のそれぞれの上層に金属層40が形成されていることがより好ましい(構成2-13、2-17)。また、第1の面10a及び第2の面10bの両面に形成されたニッケル-リン合金層30の下層および上層に金属層40が形成されていることが特に好ましい(構成2-17)。前記ニッケル-リン合金層30の下層にも金属層40を形成することにより、クラック抑制や応力を緩和することができるため好ましい。
また、本実施形態において水素バリア性をより高めるという観点から、ニッケル-リン合金層30が第1の面10a及び第2の面10bの少なくともいずれか一方の面側に複数層形成されていることが好ましい(構成2-11、2-15、2-16)。なお、上述のように複数のニッケル-リン合金層30を形成する場合、ニッケル-リン合金層30中におけるリン含有率が異なる層から形成されていてもよい。
なお、本実施形態におけるリン含有率の算出方法としては、上述の第1実施形態と同様の方法を適用可能である。例えば、図3に示されるように金属基材20上にニッケル-リン合金層30と金属層40が積層され、前記金属層40がニッケル層の場合には、ICP発光分光分析を用いてニッケル-リン合金層のみのリン含有率を求めることは困難となるが、次のような測定方法を用いることでリン含有率を求めることができる。具体的には、まず断面写真から金属層40の厚みを測定し、前記厚みからニッケル付着量を換算した後、ICP発光分光分析で得られたニッケル付着量から当該付着量を差し引くことで、ニッケル-リン合金層30だけのリン含有率を間接的に算出することは可能である。また、さらにSEMやTEMでの断面観察から特定のニッケル-リン合金層30に対してEDXを用いてリン含有率を算出することも可能である。
上述のTEMによる断面観察およびEDXを用いてリン含有率を算出する方法としては、ニッケル-リン合金層の断面に対して直角方向にエッチングを行い、厚み30~150nmの薄片試料を作製する。次に、図7に示すように各ニッケル-リン合金層30の厚み方向3点を測定箇所としてリン含有率を測定し、そのうちの最大値をニッケル-リン合金層中のリン含有率とすることができる。なお、上述した測定箇所においては、厚み方向3点に限られるものではなく、3点以上を測定箇所としてリン含有率を測定し、そのうちの最大値をニッケル-リン合金層中のリン含有率としてもよい。
なお、本実施形態において第1の面10a及び第2の面10bの両面に金属層40が形成されている場合、金属層40の合計厚みは0.20μm~8.00μmであることが好ましい。なお、ここでいう金属層40の合計厚みとは、金属基材20上に形成されている全ての金属層40の厚みの合計値である。また、本実施形態における金属層40の合計厚みの好ましい範囲は、後述する第3実施形態においても同様である。
金属層40の厚みの測定方法にとしては、上述の第1実施形態と同様の方法を適用可能である。
なお本実施形態におけるニッケル-リン合金層30のニッケル付着量の測定方法としては、上述の第1実施形態と同様の方法を適用可能である。
本実施形態の集電体用表面処理金属箔200において、ニッケル-リン合金層30と金属層40のニッケル総付着量は2.0~60.0g/mであることが、バイポーラ電極に適した水素バリア性及び耐電解液性等の観点から好ましい。なお、ここでいうニッケル総付着量とは、金属基材20上に形成されている、全てのニッケル-リン合金層30および金属層40のニッケル付着量の合計値となる。
上述のニッケル総付着量は、ニッケル-リン合金層30と同様にICP発光分光分析を用いてニッケル量を測定することで求めることができるが、この方法に限られず、その他公知の測定方法を用いることも可能である。
以下、上述した第2実施形態にかかる集電体用表面処理金属箔200の製造方法について説明する。
本実施形態の集電体用表面処理金属箔200の製造方法は、ニッケル-リン合金層30の上層又は下層に金属層40を形成する工程をさらに有する。この金属層40がニッケル層である場合には、該工程としては、ワット浴、スルファミン酸ニッケル浴、クエン酸浴等の公知のニッケル浴を用いた公知のめっき工程により形成することが可能である。
≪第3実施形態≫
次に、第3実施形態を用いて本発明にかかる集電体用表面処理金属箔をさらに説明する。なお、第3実施形態において第1実施形態及び第2実施形態との相違点は、集電体用表面処理金属箔のいずれかの表面に粗化層50が存在するという点である。そのため該相違点について主に説明し、共通する構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
第3実施形態にかかる集電体用表面処理金属箔300において、粗化層50は図4(a)に示すように集電体用表面処理金属箔300の第2の面10bの側に形成されていてもよいし、図4(b)に示すように第1の面10aの側に形成されていてもよいし、その両方に形成されていてもよい。
第3実施形態にかかる集電体用表面処理金属箔300において、粗化層50を設けることで活物質との密着性をより向上させることが可能となる。また集電体用表面処理金属箔300は、粗化層50と金属層40の両方を有することが、活物質との密着性を有しつつ、且つ耐電解液性をより向上させるという観点からはより好ましい。
図5に示されるように、第3実施形態にかかる集電体用表面処理金属箔300は金属基材20上に順に、ニッケル-リン合金層30、金属層40、粗化層50を有していてもよい。また、本実施形態において、ニッケル-リン合金層30、金属層40、粗化層50の積層順は問わず、例えば下記のような構成をとってもよい。以下に金属基材20を「金属基材」、ニッケル-リン合金層30を「Ni-P合金層」、金属層40を「金属層」、粗化層50を「粗化層」とし、第1の面10a、金属基材20、第2の面10bの順で示す。
Ni-P合金層/金属基材/金属層/粗化層 (構成3-1)
金属層/金属基材/Ni-P合金層/粗化層 (構成3-2)
Ni-P合金層/金属基材/Ni-P合金層/粗化層 (構成3-3)
金属層/Ni-P合金層/金属基材/Ni-P合金層/粗化層 (構成3-4)
Ni-P合金層/金属層/金属基材/金属層/Ni-P合金層/粗化層 (構成3-5)
金属層/Ni-P合金層/金属基材/Ni-P合金層/金属層/粗化層 (構成3-6)
金属層/Ni-P合金層/金属基材/Ni-P合金層/金属層/粗化層 (構成3-7)
金属層/Ni-P合金層/金属層/金属基材/金属層/Ni-P合金層/粗化層 (構成3-8)
金属層/Ni-P合金層/金属層/金属基材/金属層/Ni-P合金層/金属層/粗化層 (構成3-9)
なお、本実施形態において、上記構成に限られるものではなく、粗化層50が第1の面10aに形成されている場合や、第1の面10a及び第2の面10bの両面に形成されている場合も挙げられる。
本実施形態において、ニッケル-リン合金層30は第1の面10a及び第2の面10bのいずれか一方の面のみに形成されていてもよいし、両面にニッケル-リン合金層30が形成されていてもよい。
本実施形態において、ニッケル-リン合金層30が一方の面のみに形成され、且つ前記ニッケル-リン合金層30と粗化層50が同じ面側に形成されている場合、前記ニッケル-リン合金層30は前記粗化層50の下層または上層のどちらに形成されていてもよいが、好ましくは粗化層50の下層にニッケル-リン合金層30が形成されていることが好ましい。粗化層50の下層にニッケル-リン合金層30を形成することにより、水素バリア性を備えつつ、且つ耐電解液性や他の部材(活物質層など)との密着性に優れるため好ましい。
また、粗化層50が形成された面と反対となる面側にニッケル-リン合金層30が形成されていてもよい。なお、水素バリア性を備えつつ、且つ耐電解液性をより向上させるという観点から、前記ニッケル-リン合金層30の上層に金属層40が形成されていることが好ましい。
なお、前記粗化層50においては、後述するように粗化ニッケル層であっても良いし、複合粗化層であってもよい。
本実施形態において、水素バリア性をより高めるという観点から、ニッケル-リン合金層30が第1の面10a及び第2の面10bの両面に形成されていることが好ましい(構成3-3~3-9)。なお、耐電解液性をより向上させるという観点から、前記ニッケル-リン合金層30の上層に金属層40及び/又は粗化層50が形成されていることが好ましい(構成3-4、3-6~3-9)。また、クラック抑制やめっき応力の緩和の観点から、前記ニッケル-リン合金層30の下層に金属層40が形成されていることが好ましい(構成3-5、3-8、3-9)。なお、前記ニッケル-リン合金層30の下層に金属層40を形成し、さらに上層に金属層40及び/又は粗化層50が形成されている場合には、水素バリア性を備えつつ、且つクラック抑制やめっき応力の緩和、耐電解液性がより向上するため特に好ましい(構成3-8、3-9)。
なお、前記ニッケル-リン合金層30の上層に形成される金属層40や粗化層50においては、金属層40と粗化層50がそれぞれ形成されていればよく、例えば、第1の面10a側に形成されているニッケル-リン合金層30の上層に金属層40が形成され、第2の面10b側に形成されているニッケル-リン合金層30の上層に粗化層50がそれぞれ形成されていても良い。また、第1の面10a及び第2の面10bの両面に形成されている前記ニッケル-リン合金層30の両方の上層に金属層40が形成され、さらに前記金属層40の上層に、粗化層50が少なくともどちらか一方の面側に形成されていても良い。
なお、粗化層としては、ニッケルのみで形成される粗化ニッケル層、または、粗化ニッケルめっきを行った後に他の金属を被覆層として形成した複合粗化層であることが好ましい。粗化ニッケル層については例えば本出願人らの出願であるWO2021/020338号国際公開公報等に記載されているため詳細は省略するが、前記粗化ニッケル層が形成されている場合、最表面の算術平均高さSaが0.20~1.30μmであることが、活物質等との密着性を向上させる観点からは好ましい。
また、複合粗化層とする場合は、粗化ニッケルめっき後に、被覆層としてニッケル-リン合金層30や金属層40を形成する被覆めっきを施すことで複合粗化層が得られる。複合粗化層が形成されている場合、最表面の算術平均高さSaが0.20~1.30μmとすることとすることが好ましい。なお、粗化ニッケルめっき後の被覆めっきとしてニッケルめっきを施した場合、つまりWO2020/017655号国際公開公報に開示されるような被覆ニッケルめっきを施した場合には、粗化ニッケルめっきがそのまま成長するため、両工程を経て得られる粗化形状を成している層全体を粗化ニッケル層とする。
なお、WO2020/017655号国際公開公報に開示されるように、粗化ニッケルめっき層50とその下層または基材との密着性の観点から、下地めっき処理を施し下地金属めっき層を形成してもよい。下地金属めっき層として、金属層40または/およびニッケル-リン合金層30を用いるのが好ましい。下地金属めっき層がニッケルからなる場合の下地ニッケルめっき条件についてはWO2020/017655号国際公開公報に開示の内容を適用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
本実施形態の集電体用表面処理金属箔300において、ニッケル-リン合金層30と金属層40、粗化層50のニッケル総付着量は5.0~90.0g/mであることが好ましく、より好ましくは5.0~80.0g/m、さらに好ましくは10.0~80.0g/m、特に好ましくは10.0~70.0g/mである。ニッケル総付着量を上記範囲とすることで、バイポーラ電極に適した水素バリア性や耐電解液性、活物質との密着性向上といった観点から好ましい。なお、ここでいうニッケル総付着量とは、金属基材20上に形成されている、全てのニッケル-リン合金層30および金属層40、粗化層50のニッケル付着量の合計値となる。
また、ニッケル総付着量は、上述した第2実施形態と同様にICP発光分光分析を用いて総ニッケル量を測定することで求めることができるが、この方法に限られず、その他公知の測定方法を用いることも可能である。
次に、本実施形態における集電体用表面処理金属箔300全体の厚みについて説明する。本実施形態における集電体用表面処理金属箔300全体の厚みは、最表面における粗化ニッケル層50を含めて0.02~0.31mmの範囲が好適である。また、強度の観点、および望まれる電池容量の観点等から、より好ましくは0.02~0.21mm、さらに好ましくは0.03~0.11mmである。
上記厚み範囲は、製造する電池の体積および重量エネルギー密度の観点から好ましい。特に電池の薄型化を狙う場合には好ましい。さらに上記厚み範囲の下限については、電池の充放電に伴う影響に対して充分な強度を有する観点ばかりでなく、電池の製造時や取扱い時等に破れや千切れ・シワ等が発生する可能性を回避する観点から好ましい。
本実施形態における集電体用表面処理金属箔300全体の厚み測定方法については、他の実施形態と同様、断面観察による厚み測定、又は、マイクロメーターでの厚み測定が適用可能である。
また本第3実施形態の集電体用表面処理金属箔300の製造方法としては、表面に粗化層50を形成する工程を有する。なお、粗化層50を形成するためのめっき条件の一例として、以下に粗化ニッケルめっき条件を示す。
≪粗化ニッケルめっき条件≫
・浴組成:
硫酸ニッケル六水和物:10~100g/L
塩化ニッケル六水和物:1~90g/L
硫酸アンモニウム:10~130g/L
・浴温:25~80℃
・pH:4.0~8.0
・撹拌:空気撹拌又は噴流撹拌
・電流密度:4~40A/dm
・めっき時間:10~150秒間
次いで、上記粗化ニッケルめっきにより得られた粗化層上に、下記条件にて被覆ニッケルめっきを行うことで、ニッケルのみで形成された粗化層50を得ることができる。
<被覆ニッケルめっき条件>
・浴組成:
硫酸ニッケル六水和物:250g/L
塩化ニッケル六水和物:45g/L
ホウ酸:30g/L
・浴温:60℃
・pH:4.0~5.0
・電流密度:5~20A/dm
・めっき時間:3~50秒間
なお、上述した粗化層50を形成するためのめっき条件としては、これに限られるものではなく、上記粗化ニッケルめっきを行った後、被覆めっきとしてニッケル-リン合金めっきを施した複合粗化層であってもよい。
上記粗化層50の算術平均高さSaは、上述のように0.20μm~1.30μmであることが好ましい。算術平均高さSaの数値をこの範囲内とするためには、例えば、金属基材20の表面粗度の制御、粗化めっき条件や厚みの調整のほか、下地めっき条件や厚みの調整、被覆めっき条件や厚みの調整、等によっても行うことができる。
≪実施例≫
以下に、実施例を挙げて本発明について、より具体的に説明する。まず、実施例における測定方法について記載する。
[めっき層の厚み測定方法(断面観察)]
得られた集電体用表面処理金属箔を切断し、断面研磨した後、走査電子顕微鏡(測定装置:日本電子製、電界放射走査電子顕微鏡、JSM-6330F)、を用いて得られた画像から厚み(単位:μm)を求めた。なお、一部の実施例においては、集束イオンビーム走査電子顕微鏡(測定装置:JIB-4000、日本電子株式会社)、透過型電子顕微鏡(測定装置:日立ハイテクノロジーズ製、H-9500)を用いて厚みを求めた。
[水素透過電流密度測定方法]
図2に記載の装置を用いて、水素透過電流密度の測定を行った。具体的なサンプルのセッティング方法としては、図2(a)に示すように水素発生用のセルXおよび透過水素の検出用セルYの2つのセルを準備し、この2つの測定セルの間に集電体用表面処理金属箔100の試験片(サンプル)を設置した。なお、バイポーラ電極構造の負極側を模擬した水素侵入側には集電体用表面処理金属箔100の第1の面10aを、正極側を模擬した水素検出側には集電体用表面処理金属箔100の第2の面10bの側を配置した。そして、各測定セルに65℃の電解液(KOHを主成分として6mol/L含み、KOH、NaOH、LiOHの合計濃度が濃度:7mol/Lであるアルカリ水溶液)を充填し、参照電極(RE1)および対極(CE1及びCE2)を浸漬した。また、参照電極には飽和KCl溶液のAg/AgCl電極、対極には白金(Pt)を使用した。なお、図2(b)に示すように集電体用表面処理金属箔100における測定径はφ20mm(測定面積3.14cm)とした。水素侵入側の電流制御には、ポテンショスタット(北斗電工株式会社製、マルチ電気化学計測システムHZ-Pro)を用いて、水素検出側の電流測定には電流計(株式会社カスタム製、デジタルマルチメータCDM-7000)を使用した。
具体的な測定条件は、水素発生側でサンプルへカソード電流(-100mA)を5分間印加し、サンプル表面に水素を発生させ、水素検出側で水素原子が透過してきた際に発生する酸化電流の変化を30秒毎に測定した。なお、水素検出側は参照電極を用いずに電流印加なし(自然電位)とした。また、水素発生側のカソード電流印加前に、集電体用表面処理金属箔の表面電位を安定化させるために10分間以上電解液中に浸漬保持し、水素検出側の電流計の電流値が一定になること、つまり、1分間に5μA以上の変動がないことを確認した。
上記手法にて得られた水素検出側の酸化電流の変化より、水素透過電流密度I(μA/cm)を算出した。具体的には、電流印加後の5分間における酸化電流の最大値と、電流印加直前の最小値の差を測定面積3.14cmで除した値を水素透過電流密度とした。結果を表1に示す。
[ニッケル及び/又はリンの付着量(総付着量)、リン含有率の測定方法]
得られた集電体用表面処理金属箔において、第1の面10a及び第2の面10bの両面に、同一のニッケル-リン合金めっき条件にてニッケル-リン合金層30のみが形成されている場合には、ICP発光分光分析にて両面に形成された前記ニッケル-リン合金層30のニッケル総付着量およびリン総付着量を測定した。次いで、得られたニッケル総付着量およびリン総付着量からリン含有率を算出した。なお、前記ニッケル-リン合金層30における片面当たりのニッケル付着量およびリン付着量は、前記ニッケル総付着量およびリン総付着量を2分の1とすることで算出した。
また、ニッケル-リン合金層30の他に金属層40や粗化層50が形成されている場合には、ICP発光分光分析にてニッケル総付着量およびリン総付着量を測定した。なお、ニッケル-リン合金層30の他に、金属層40や粗化層50が形成された構成において、ニッケル-リン合金層30のみのニッケル付着量およびリン付着量を測定する場合には、同一のニッケル-リン合金めっき条件にて、ニッケル-リン合金層30のみを形成したサンプルを1つ用意し、そのサンプルを用いて、ICP発光分光分析によりニッケル付着量およびリン付着量を測定した。また、得られたニッケル付着量およびリン付着量からリン含有率を算出した。結果を表1に示す。
なお、リン含有率の測定方法としては、上述したICP発光分光分析の方法に限られず、例えば実施例15のように、TEM断面観察及びEDXを用いて金属層40の上層及び下層に形成されたニッケル-リン合金層30中のリン含有率を測定することも可能である。
[ニッケル-リン合金層厚みとリン含有率との関係]
上記で得られたニッケル-リン合金層厚みとリン含有率との関係において、下記式[1]又は下記式[2]を満たすかを確認した。
Figure 2023098439000005
Figure 2023098439000006
具体的には、式[1]や式[2]の右辺の値をそれぞれ計算し、その得られた値に基づいて、式[1]又は式[2]を満たす場合にはA、満たさない場合にBと判定し、それぞれ表1に示した。
[算術平均高さSa、十点平均粗さRzjisの測定]
集電体用表面処理金属箔の最表面(ニッケル-リン合金層30、金属層40、粗化層50)について、ISO25178-2:2012に準拠してレーザー顕微鏡(オリンパス社製、3D測定レーザー顕微鏡 LEXT OLS5000)を使用し、算術平均高さSaを測定した。また、JIS B0601:2013に準拠して上記同様のレーザー顕微鏡を使用し、十点平均粗さRzjisを測定した。結果を表2~3に示す。
具体的には、まず対物レンズ100倍(レンズ名称:MPLAPON100XLEXT)の条件で3視野をスキャンし、各視野について解析アプリケーションを用いて自動補正処理(ノイズ除去および傾き補正)を行った。その後に、面粗さ計測及び線粗さ計測のアイコン(前記オリンパス社製レーザー顕微鏡付属の解析ソフト)をクリックして解析を行うことで、算術平均高さSaと十点平均粗さRzjisを得た。なお、算術平均高さSaについては上記3視野で得られた測定値を平均して求め、十点平均粗さRzjisについては上記3視野内の20箇所(線)での測定値を平均することで求めた。但し、Rzjisについては、観察する表面形状によっては3視野のスキャンで20箇所(線)の測定値を得られないことがあるため、その場合は観察する視野数を増やすことで20箇所(線)以上の測定値を得ることも可能である。
また、解析におけるフィルター条件(F演算、Sフィルター、Lフィルター)は設定せずに、無しの条件で解析を行った。
[耐電解液性評価]
集電体用表面処理金属箔において、耐電解液性の評価として電解液浸漬試験を行うため、集電体用表面処理金属箔の最表面にニッケル-リン合金層30が形成された構成と、最表面に金属層40(又は粗化層50)が形成されたサンプルを作製した。各サンプルを下記2つの浸漬条件下(条件1、条件2)で電解液へ浸漬し、ICP発光分光分析を用いて浸漬試験前後でのニッケルおよびリン付着量を測定した。そして、得られたニッケルおよびリン付着量を基にして、浸漬試験前後でのニッケルおよびリンの減少率を算出した。なお、浸漬試験前後でのニッケルおよびリンの減少率は以下の計算式で求めた。
また、上記の各サンプルに対して浸漬試験前後での水素バリア性を評価するため、浸漬試験前後での水素透過電流密度の測定を行った。そして、浸漬試験前後で得られた水素透過電流密度の増加分を算出した。なお、浸漬試験前後での水素透過電流密度の増加分は以下の計算式で求めた。
ニッケルの減少率=((浸漬前のニッケル付着量-浸漬後のニッケル付着量)/浸漬前のニッケル付着量)×100(%)
リンの減少率=((浸漬前のリン付着量-浸漬後のリン付着量)/浸漬前のリン付着量)×100(%)
水素透過電流密度の増加分=浸漬後の水素透過電流密度-浸漬前の水素透過電流密度
なお、耐電解液性評価に使用した電解液は、上述した水素透過電流密度の測定方法に使用した電解液を用いており、条件1の浴条件を、浸漬温度65℃、浸漬時間60時間、条件2の浴条件を浸漬温度80℃、浸漬時間60時間として、耐電解液性を評価した。
耐電解液性の評価基準としては以下のとおりとした。結果を表3に示す。
◎:浸漬試験前後におけるニッケル又はリンの減少率が1.0%未満
○:浸漬試験前後におけるニッケル又はリンの減少率が1.0%以上6.0%未満
△:浸漬試験前後におけるニッケル又はリンの減少率が6.0%以上10.0%未満
また、上記2つの浸漬条件下(条件1、条件2)における水素透過電流密度を測定し、浸漬試験前後で得られた水素透過電流密度の増加分を算出し、水素バリア性を以下のように評価した。結果を表3に示す。
◎:浸漬試験前後における水素透過電流密度の増加分が5.0μA/m未満
○:浸漬試験前後における水素透過電流密度の増加分が5.0μA/m以上10.0μA/m未満
△:浸漬試験前後における水素透過電流密度の増加分が10.0μA/m以上15.0μA/m未満
なお、条件1とは、想定される最も過酷な電池(アルカリ電解液を用いた電池)環境下を模擬した浴条件であり、条件2とは、通常想定されない、より過酷な電池環境下を模擬した浴条件である。
<実施例1>
まず金属基材20として下記に示す化学組成を有する低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延箔(厚さ50μm)を準備した。
C:0.04重量%、Mn:0.32重量%、Si:0.01重量%、P:0.012重量%、S:0.014重量%、Al:0.1重量%以下、残部:Feおよび不可避的不純物
次に、準備した金属基材に対して電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にて、第1の面10aとなる側にニッケル-リン合金めっきを行ってニッケル-リン合金層を形成したサンプルを2つ作製した。なお、ニッケル-リン合金めっきの条件は以下の通りとした。
<ニッケル-リン合金めっき条件>
・浴組成:
硫酸ニッケル六水和物:200g/L
塩化ニッケル六水和物:10g/L
ホウ酸:30g/L
クエン酸三ナトリウム(無水):10g/L
亜リン酸:40g/L
亜リン酸水素二ナトリウム:110g/L
・浴温:60℃
・pH:1.5~2.0
・撹拌:空気撹拌又は噴流撹拌
・電流密度:5A/dm
なお、上記サンプルの1つをニッケル-リン合金めっき後に溶解させてICP発光分光分析測定(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)を行った結果、リン含有率が13.4wt%であった。
次いで、上記サンプルの残りの1つを用いて、金属基材の上記ニッケル-リン合金層とは反対の第2の面10bとなる側に、下記条件にてニッケルめっきを行ってニッケル層を形成した。なお、ニッケルめっきの条件は以下の通りとした。
<ニッケルめっき条件>
・浴組成:
硫酸ニッケル六水和物:250g/L
塩化ニッケル六水和物:45g/L
ホウ酸:30g/L
・浴温:60℃
・pH:4.0~5.0
・電流密度 10A/dm
上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の実測厚みは1.05μmであり、ニッケル層の実測厚みは1.08μmであった。
図2に記載の装置を用いて、ニッケル-リン合金層を水素侵入側、ニッケル層を検出側として水素透過電流密度の値を測定したところ、2.8μA/cmであった。また、ニッケル-リン合金層の表面における十点平均粗さRzjisを測定した。結果を表1~2に示す。
<実施例2>
第1の面10a側にニッケル-リン合金層を形成し、厚みを表1に記載の構成となるようにした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1~2に示す。
<実施例3>
実施例1と同様に前処理を施した金属基材に対して、両面にニッケルめっきを行って、ニッケル層を形成した。なお、ニッケルめっきの条件は実施例1と同様とした。
次いで、得られた両面にニッケル層を有する金属基材の、第2の面10bとなる側にニッケル-リン合金層を形成し、厚みを表1に記載の構成となるようにした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1~2に示す。
なお、SEMやTEMでの断面観察から特定のニッケル-リン合金層30に対してEDXを用いてリン含有率を求めることも可能となる。
<実施例4>
実施例1と同様に前処理を施した金属基材に対して、下記条件にて両面にニッケル-リン合金めっきを行ってニッケル-リン合金層を形成した。なお、ニッケル-リン合金めっきの条件は以下の通りとした。
<ニッケル-リン合金めっき条件>
・浴組成:
硫酸ニッケル六水和物:200g/L
塩化ニッケル六水和物:10g/L
ホウ酸:30g/L
クエン酸三ナトリウム(無水):10g/L
亜リン酸:40g/L
亜リン酸水素二ナトリウム:110g/L
・浴温:60℃
・pH:2.5~3.0
・撹拌:空気撹拌又は噴流撹拌
・電流密度:10A/dm
なお、ニッケル-リン合金めっき後に溶解させてICP発光分光分析測定(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)を行った結果、リン含有率が8.2wt%であった。得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の水素侵入側の実測厚みは1.70μmであり、水素検出側の実測厚みは1.66μmであった。
また上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、図2に記載の装置を用いて水素透過電流密度の値を測定したところ、39.0μA/cmであった。また、ニッケル-リン合金層の表面における十点平均粗さRzjisを測定した。結果を表1~2に示す。
<実施例5>
両面にニッケル-リン合金層を形成し、厚みを表1に記載の構成となるようにした以外は、実施例4と同様に行った。結果を表1~2に示す。
<実施例6>
実施例1と同様のニッケル-リン合金めっき条件により、両面にニッケル-リン合金層を形成した以外は、実施例4と同様に行った。結果を表1~2に示す。
<実施例7>
実施例1のニッケル-リン合金めっき条件を電流密度10A/dmとし、金属基材の両面にニッケル-リン合金層を形成し、厚みを表1に記載の構成となるようにした以外は、実施例4と同様に行った。結果を表1~2に示す。
<実施例8>
実施例1と同様のニッケル-リン合金めっき条件により、両面にニッケル-リン合金層を形成し、厚みを表1に記載の構成となるようにした以外は、実施例4と同様に行った。結果を表1~2に示す。
<実施例9>
実施例1のニッケル-リン合金めっき条件を電流密度2.5A/dmとし、金属基材の両面にニッケル-リン合金層を形成し、厚みを表1に記載の構成となるようにした以外は、実施例4と同様に行った。結果を表1~2に示す。
<実施例10>
両面にニッケル-リン合金層を形成し、厚みを表1に記載の構成となるようにした以外は、実施例9と同様に行った。結果を表1~2に示す。
<実施例11>
実施例1と同様に前処理を施した金属基材に対して、下記条件にて両面にニッケル-リン合金めっきを行って、ニッケル-リン合金層を形成した。なお、ニッケル-リン合金めっきの条件は以下の通りとした。
<ニッケル-リン合金めっき条件>
・浴組成:
硫酸ニッケル六水和物:200g/L
塩化ニッケル六水和物:10g/L
クエン酸三ナトリウム(無水):100g/L
亜リン酸:80g/L
ホウ酸:30g/L
亜リン酸水素二ナトリウム:110g/L
・浴温:60℃
・pH:2.5~3.0
・撹拌:空気撹拌又は噴流撹拌
・電流密度:2.5A/dm
なお、ニッケル-リン合金めっき後に溶解させてICP発光分光分析測定(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)を行った結果、リン含有率が11.5wt%であった。ニッケル-リン合金層の水素侵入側の実測厚みは0.44μmであり、水素検出側の実測厚みは0.41μmであった。
また上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、図2に記載の装置を用いて水素透過電流密度の値を測定したところ、25.2μA/cmであった。また、ニッケル-リン合金層の表面における十点平均粗さRzjisを測定した。結果を表1~2に示す。
<実施例12>
実施例6で得られた、両面にニッケル-リン合金層を有する金属基材の第2の面10bとなる側に、実施例1と同様のニッケルめっき条件により、ニッケル層を形成した。結果を表1~2に示す。
<実施例13>
第2の面10bとなる側に、実施例1と同様の条件でニッケルめっきを行って、ニッケル層を形成した。
次いで、得られた第2の面10b側にニッケル層を有する金属基材の両面に、実施例1と同様のニッケル-リン合金めっき条件により、ニッケル-リン合金層を形成し、厚みを表1に記載の構成となるようにした。結果を表1~2に示す。
<実施例14>
実施例1と同様のニッケル-リン合金めっき条件により、両面にニッケル-リン合金層を形成し、厚みが表1に記載の構成となるようにした。次いで、得られた両面にニッケル-リン合金層を有する金属基材の第2の面10bとなる側に、実施例1と同様のニッケルめっき条件により、ニッケル層を形成した。
さらに、上記で得られた金属基材の第2の面10bとなる側に、上述と同様のニッケル-リン合金めっき条件により、ニッケル-リン合金層を形成した。結果を表1~2に示す。
また、TEM断面観察及びEDXからニッケル層の下層側に形成されたニッケル-リン合金層中のリン含有率を測定した結果、リン含有率は13.7wt%であり、ICP発光分光分析測定の結果と同程度の値であることを確認した。なお、上記EDXの測定箇所はニッケル-リン合金層中の厚み方向3点を測定箇所としてリン含有率を測定した。すなわち、実施例14におけるTEM断面観察図(図7)で、「*1」「*2」「*3」に示される3点からニッケル層の上層に形成されたニッケル-リン合金層中のニッケル-リン合金層中のリン含有率を求めた。また、「*4」「*5」「*6」に示される3点からニッケル層の下層に形成されたニッケル-リン合金層中のリン含有率を求めた。なお、各3点において測定された測定値のうちの最大値をTEM-EDXによるニッケル-リン合金層中のリン含有率とした。
<実施例15>
両面にニッケルめっきを行って、ニッケル層を形成した。なお、ニッケルめっきの条件は実施例1と同様とした。
次いで、得られた両面にニッケル層を有する金属基材の両面に、実施例1と同様のニッケル-リン合金めっき条件により、ニッケル-リン合金層を形成した。結果を表1~2に示す。
また、電解液浸漬試験を行い、耐電解液性の評価と水素バリア性の評価を行った。結果を表4に示す。
<実施例16>
実施例1と同様に前処理を施した金属基材に対して、第1の面10aとなる側に、実施例1と同様の条件にてニッケルめっきを行って、ニッケル層を形成した。一方で第2の面10bとなる側には実施例1と同様の条件にてニッケル-リン合金めっきを行って、ニッケル-リン合金層を形成した。次いで、第2の面10bとなる側に形成されたニッケル-リン合金層の上層に、下記条件にて粗化ニッケルめっきおよび被覆ニッケルめっきを施し、粗化ニッケル層を形成した。
<粗化ニッケルめっき条件>
・浴組成:
めっき浴中の硫酸ニッケル六水和物濃度:10g/L
めっき浴中の塩化ニッケル六水和物濃度:10g/L
めっき浴の塩化物イオン濃度:3g/L
めっき浴中のニッケルイオンとアンモニウムイオンとの比:
ニッケルイオン/アンモニウムイオン(重量比)=0.17
・浴温:50℃
・pH:6.0
・電流密度:12A/dm
・めっき時間:60秒間
<被覆ニッケルめっき条件>
・浴組成:
硫酸ニッケル六水和物:250g/L
塩化ニッケル六水和物:45g/L
ホウ酸:30g/L
・浴温:60℃
・pH:4.0~5.0
・電流密度:5.0A/dm
・めっき時間:10秒間
上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の実測厚みは1.52μmであり、リン含有率は13.4wt%であった。
また図2に記載の装置を用いて、上記第1の面10a側を水素侵入側、上記第2の面10b側を検出側として水素透過電流密度の値を測定したところ、1.8μA/cmであった。結果を表1に示す。また、金属基材の最表面に形成された粗化ニッケル層の算術平均高さSaを測定した。結果を表3に示す。
なお、試験片に粗化層が形成されている場合、粗化の隙間からの電解液浸出により、水素透過電流密度の測定が正常に出来ない場合がある。そのため、粗化の隙間からの電解液浸出の影響を抑制するために、測定セルの間の設置に先立って、粗化層が形成されている面に、測定径Φ20mmを切りぬいたポリプロピレン樹脂を測定位置に合わせて接着した後、測定セルの間に試験片を配置した。ポリプロピレン樹脂は厚み70μmの厚さのフィルムを用い、170℃、0.1~0.4MPaの条件で3秒加圧する熱圧着の方法で接着した。
<実施例17>
実施例1と同様のニッケル-リン合金めっき条件により、両面にニッケル-リン合金層を形成した。次いで、得られた両面にニッケル-リン合金層を有する金属基材の第2の面10bとなる側に、実施例16と同様の粗化ニッケルめっき条件および被覆ニッケルめっき条件を用いて粗化ニッケル層を形成した。
上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の実測厚みは、第1の面10a側が1.51μm、第2の面10b側が1.53μmであり、リン含有率は13.4wt%であった。
また図2に記載の装置を用いて、上記第1の面10a側を水素侵入側、上記第2の面10b側を検出側として水素透過電流密度の値を測定したところ、0.3μA/cmであった。なお、水素透過電流密度の値は、実施例16と同様の方法にて測定した。結果を表1に示す。また、第1の面10a側に形成されたニッケル-リン合金層の表面における十点平均粗さRzjis、および第2の面10b側に形成された粗化ニッケル層の算術平均高さSaを測定した。結果を表2~3に示す。
<実施例18>
実施例1と同様のニッケル-リン合金めっき条件により、両面にニッケル-リン合金層を形成した。次いで、得られた両面にニッケル-リン合金層を有する金属基材の両面に、それぞれ実施例1と同様の条件にてニッケルめっきを行って、ニッケル層を形成した。さらに、上記で得られた金属基材の第2の面10bとなる側に実施例16と同様の粗化ニッケルめっき条件および被覆ニッケルめっき条件を用いて粗化ニッケル層を形成した。
上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の実測厚みは第1の面10a側が1.49μm、第2の面10b側が1.53μmであり、リン含有率は13.4wt%であった。
また図2に記載の装置を用いて、上記第1の面10a側を水素侵入側、上記第2の面10b側を検出側として水素透過電流密度の値を測定したところ、0μA/cmであった。なお、水素透過電流密度の値は、実施例16と同様の方法にて測定した。結果を表1に示す。また、金属基材の最表面に形成された粗化ニッケル層の算術平均高さSaを測定した。結果を表3に示す。
<実施例19>
第1の面10aとなる側に、実施例1と同様のニッケル-リン合金めっき条件により、ニッケル-リン合金層を形成した。次いで、得られた第1の面10a側にニッケル-リン合金層を有する金属基材の両面に、実施例1と同様の条件にてニッケルめっきを行ってニッケル層を形成した。さらに、上記で得られた金属基材の第2の面10bとなる側に、実施例16と同様の粗化ニッケルめっき条件および被覆ニッケルめっき条件を用いて粗化ニッケル層を形成した。
上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の実測厚みは0.90μmであり、リン含有率は13.4wt%であった。
また図2に記載の装置を用いて、上記第1の面10a側を水素侵入側、上記第2の面10b側を検出側として水素透過電流密度の値を測定したところ、1.6μA/cmであった。なお、水素透過電流密度の値は、実施例16と同様の方法にて測定した。結果を表1に示す。また、金属基材の最表面に形成された粗化ニッケル層の算術平均高さSaを測定した。結果を表3に示す。
<実施例20>
実施例10と同様のニッケル-リン合金めっき条件により、両面にニッケル-リン合金層を形成した。次いで、得られた両面にニッケル-リン合金層を有する金属基材の第1の面10aとなる側に、実施例1と同様の条件にてニッケルめっきを行ってニッケル層を形成した。さらに、上記で得られた金属基材の第2の面10bとなる側に実施例16と同様の粗化ニッケルめっき条件および被覆ニッケルめっき条件を用いて粗化ニッケル層を形成した。
上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の実測厚みは第1の面10a側が0.63μm、第2の面10b側が0.58μmであり、リン含有率は13.8wt%であった。
また図2に記載の装置を用いて、上記第1の面10a側を水素侵入側、上記第2の面10b側を検出側として水素透過電流密度の値を測定したところ、2.4μA/cmであった。なお、水素透過電流密度の値は、実施例16と同様の方法にて測定した。結果を表1に示す。また、金属基材の最表面に形成された粗化ニッケル層の算術平均高さSaを測定した。結果を表3に示す。
<実施例21>
両面にニッケルめっきを行ってニッケル層を形成した。なお、ニッケルめっきの条件は実施例1と同様とした。次いで、得られた両面にニッケル層を有する金属基材の両面に、実施例1と同様のニッケル-リン合金めっき条件によりニッケル-リン合金層を形成した。次いで、第1の面10aとなる側に実施例1と同様の条件にてニッケルめっき層を行ってニッケル層を形成した。さらに、上記で得られた金属基材の第2の面10bとなる側に実施例16と同様の粗化ニッケルめっき条件および被覆ニッケルめっき条件を用いて粗化ニッケル層を形成した。
上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の実測厚みは第1の面10a側が0.88μm、第2の面10b側が1.11μmであり、リン含有率は13.4wt%であった。
また図2に記載の装置を用いて、上記第1の面10a側を水素侵入側、上記第2の面10b側を検出側として水素透過電流密度の値を測定したところ、0.6μA/cmであった。なお、水素透過電流密度の値は、実施例16と同様の方法にて測定した。結果を表1に示す。また、金属基材の最表面に形成された粗化ニッケル層の算術平均高さSaを測定した。結果を表3に示す。
さらに電解液浸漬試験を行い、耐電解液性の評価と水素バリア性の評価を行った。結果を表4に示す。
<実施例22>
両面にニッケルめっきを行ってニッケル層を形成した。なお、ニッケルめっきの条件は実施例1と同様とした。次いで、上記で得られたニッケル層を有する金属基材の両面に、実施例1と同様のニッケル-リン合金めっき条件によりニッケル-リン合金層を形成した。次いで、得られたニッケル-リン合金層を有する金属基材の両面に、上述と同様のニッケルめっき条件によりニッケル層を形成した。さらに、上記で得られた金属基材の第2の面10bとなる側に実施例16と同様の粗化ニッケルめっき条件および被覆ニッケルめっき条件を用いて粗化ニッケル層を形成した。
上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の実測厚みは第1の面10a側が0.95μm、第2の面10b側が0.98μmであり、リン含有率は13.4wt%であった。
また図2に記載の装置を用いて、上記第1の面10a側を水素侵入側、上記第2の面10b側を検出側として水素透過電流密度の値を測定したところ、0.5μA/cmであった。なお、水素透過電流密度の値は、実施例16と同様の方法にて測定した。結果を表1に示す。また、金属基材の最表面に形成された粗化ニッケル層の算術平均高さSaを測定した。結果を表3に示す。
<実施例23>
実施例1と同様に前処理を施した金属基材に対して、下記条件にて両面に無電解ニッケル-リン合金めっきを行ってニッケル-リン合金層を形成した。なお、無電解ニッケル-リン合金めっきの条件は以下の通りとした。
<無電解ニッケル-リン合金めっき条件>
・浴組成:
硫酸ニッケル六水和物:25g/L
次亜リン酸ナトリウム:20g/L
クエン酸三ナトリウム(無水):60g/L
硫酸アンモニウム:65g/L
硝酸鉛:1.0mg/L
・浴温:90℃
・pH:8.0
・撹拌:噴流撹拌
・時間:5~15分
なお、無電解ニッケル-リン合金めっき後に溶解させてICP発光分光分析測定(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)を行った結果、リン含有率が11.5wt%であった。得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の水素侵入側の実測厚みは1.79μmであり、水素検出側の実測厚みは1.90μmであった。
また上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、図2に記載の装置を用いて水素透過電流密度の値を測定したところ、16.3μA/cmであった。結果を表1に示す。また、ニッケル-リン合金層の表面における十点平均粗さRzjisを測定した。結果を表2に示す。
<実施例24>
両面にニッケル-リン合金層を形成し、厚みを表1に記載の構成となるようにした以外は、実施例24と同様に行った。結果を表1~2に示す。
<実施例25>
両面にニッケル-リン合金層を形成し、厚みを表1に記載の構成となるようにした以外は、実施例7と同様に行った。結果を表1~2に示す。
<比較例1>
実施例1と同様のニッケルめっき条件により、両面にニッケル層を形成し、厚みが表1に記載の構成となるようにした。
なお、ニッケル層の水素侵入側の実測厚みは2.03μmであり、水素検出側の実測厚みは2.00μmであった。
また上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、図2に記載の装置を用いて水素透過電流密度の値を測定したところ、219.5μA/cmであった。結果を表1に示す。
<比較例2>
第1の面10aとなる側に、実施例1のニッケル-リン合金めっき条件を電流密度18A/dmとし、ニッケル-リン合金層を形成した以外は、実施例1と同様に行った。
なお、ニッケル-リン合金めっき後に溶解させてICP発光分光分析測定(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)を行った結果、リン含有率が6.8wt%であった。ニッケル-リン合金層の実測厚みは0.80μmであり、ニッケル層の実測厚みは1.10μmであった。
また上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、図2に記載の装置を用いて、ニッケル層を水素侵入側、ニッケル-リン合金層を検出側として水素透過電流密度の値を測定したところ、163.0μA/cmであった。結果を表1に示す。
<比較例3>
金属基材の両面に、実施例1のニッケル-リン合金めっき条件を電流密度20A/dmとし、ニッケル-リン合金層を形成した。
なお、ニッケル-リン合金めっき後に溶解させてICP発光分光分析測定(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)を行った結果、リン含有率が5.8wt%であった。得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の水素侵入側の実測厚みは1.10μmであり、水素検出側の実測厚みは0.91μmであった。
また上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、図2に記載の装置を用いて水素透過電流密度の値を測定したところ、152.0μA/cmであった。結果を表1に示す。
<比較例4>
金属基材の両面に、実施例1のニッケル-リン合金めっき条件を電流密度20A/dmとし、厚みが表1に記載の構成となるようにした。
なお、ニッケル-リン合金めっき後に溶解させてICP発光分光分析測定(測定装置:島津製作所社製、誘導結合プラズマ発光分光分析装置 ICPE-9000)を行った結果、リン含有率が5.8wt%であった。得られた集電体用表面処理金属箔について、ニッケル-リン合金層の水素侵入側の実測厚みは1.97μmであり、水素検出側の実測厚みは2.03μmであった。
また上記のようにして得られた集電体用表面処理金属箔について、図2に記載の装置を用いて水素透過電流密度の値を測定したところ、101.6μA/cmであった。結果を表1に示す。
Figure 2023098439000007
Figure 2023098439000008

Figure 2023098439000009

Figure 2023098439000010

Figure 2023098439000011

Figure 2023098439000012

Figure 2023098439000013


各実施例は、好ましい水素バリア性等の特性を備えていることが確認された。一方で比較例1においては、水素バリア性の観点において目的を達成することができなかったことが確認された。また、比較例2~4においては、リン含有率が7.0wt%を満たさないものは、ニッケル-リン合金層を両面に形成した場合や、厚みを厚くしても十分な水素バリア性を得られないことを確認した。
より詳細には、実施例1は第1の面10a側にニッケル-リン合金層が形成されており、且つリン含有率が7.0wt%以上のため、集電体用表面処理金属箔内の水素の透過または拡散を抑制する機能を十分に有しており、水素バリア性に優れていることが分かった。一方、比較例2においては、実施例1と同様に第1の面10a側にニッケル-リン合金層が形成されているものの、リン含有率が7.0wt%を満たしていないために、集電体用表面処理金属箔内の水素の透過または拡散を抑制する機能を十分に有しておらず、目的の水素バリア性を得られないことが分かった。
また、実施例4と比較例3を比べてみた場合、実施例4は第1の面10a及び第2の面10bの両面にリン含有率が7.0wt%以上有するニッケル-リン合金層が形成されており、水素バリア性に優れていることが分かった。一方、比較例3においては両面にニッケル-リン合金層が形成されているものの、リン含有率が7.0wt%を満たさないため、目的の水素バリア性を得られないことが分かった。
つまり、集電体用表面処理金属箔において、第1の面10a及び第2の面10bの少なくともいずれか一方の面に、リン含有率が7.0wt%以上となるニッケル-リン合金層が形成されていれば、目的の水素バリア性を得られるものと考えられる。
さらに、実施例1と実施例4を比べてみた場合、実施例1は第1の面10a側のみにニッケル-リン合金層が形成されているものの、ニッケル-リン合金層中のリン含有率が実施例4のリン含有率よりも大きいため、水素バリア性がより優れていることを確認した。また、実施例1と実施例2を比べてみた場合、実施例2は実施例1と同等のリン含有率を含むニッケル-リン合金層が形成されているものの、ニッケル-リン合金層の厚みが実施例1のニッケル-リン合金層よりも大きいため、水素バリア性がより優れることを確認した。
つまり、ニッケル-リン合金層中におけるリン含有率及び/又はニッケル-リン合金層の厚みが大きいほど、より優れた水素バリア性を得られることが分かった。
また、実施例9においては、第1の面10a及び第2の面10bの両面に形成されたニッケル-リン合金層の合計厚みが、実施例1の第1の面10aのみに形成されているニッケル-リン合金層の単層の厚みよりも薄膜であるものの、実施例1と同等の水素バリア性を有していることを確認した。つまり、ニッケル-リン合金層が両面に形成されている場合には、ニッケル-リン合金層の単層としての厚みが薄膜の状態であっても、十分な水素バリア性を有することが分かった。
さらに、式[1]を満たす実施例においては、水素透過電流密度が35μA/cm以下となり、水素バリア性がより優れることを確認した。
より詳細には、実施例5と、実施例4や実施例25を比べた場合、実施例5は第1の面10a及び第2の面10bの両面に形成されたニッケル-リン合金層の合計厚みが実施例4よりも薄膜であり、また実施例25よりもリン含有率が小さいものの、式[1]を満たす実施例であり、実施例4や実施例25よりも水素バリア性に優れていることを確認した。
また、式[2]を満たす実施例においては、水素透過電流密度が27μA/cm以下となり、水素バリア性が特に優れることを確認した。
より詳細には、実施例9と実施例5を比べた場合、実施例9は第1の面10a及び第2の面10bの両面に形成されたニッケル-リン合金層の合計厚みが実施例5よりも薄膜であるものの、式[2]を満たす実施例であり、実施例5よりも水素バリア性に優れていることを確認した。
つまり、ニッケル-リン合金層中のリン含有率や、層厚みを式[1]又は式[2]の範囲内で制御することにより、より優れた水素バリア性を有することが分かった。
なお、実施例15と実施例21を比べた場合、ニッケル-リン合金層の上層にニッケル層が形成された構成においても、前記ニッケル層が前記ニッケル-リン合金層の水素バリア性効果を阻害しないことを確認した。
また、実施例15と実施21を耐電解液性の評価として電解液浸漬試験を行った。その結果、現状想定される過酷な電池(アルカリ電解液を用いた電池)環境下を模擬した条件1において、実施例15および実施例21の浸漬試験前後におけるニッケルおよびリンの減少はほぼなく、十分な耐電解液性を有していることが分かった。さらに、ニッケル-リン合金層の上層にニッケル層(または粗化ニッケル層)が形成されている実施例21において、通常想定されない、より過酷な電池環境下を模擬した条件2においても、浸漬試験前後でニッケルおよびリンの減少はほぼなく、より高い耐電解液性を有していることが分かった。
これらの実験より、本発明の集電体用表面処理金属箔は十分な水素バリア性を有しつつ、かつ耐電解液性に優れていることを確認した。
なお、上記した実施形態と各実施例は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
また、上記した実施形態と実施例における集電体用表面処理金属箔は主としてバイポーラ構造の二次電池用集電体に用いられるものとして説明したが、本発明の集電体用表面処理金属箔はバイポーラ構造の二次電池用集電体に限らず、水素を含む、あるいは水素が発生する電池(アルカリ電解液を用いた電池)の集電体に適用可能であり、車載電池などの過酷環境下においても有効な水素バリア性を有するため好適に用いることが可能である。
以上説明したように、本発明の集電体用表面処理金属箔は、水素バリア性が要求される種々の種類の電池の集電体に対して適用が可能である。また、本発明の集電体用表面処理金属箔を車載用電池等に用いた場合、特に低燃費化に貢献することができる。
100 集電体用表面処理金属箔
200 集電体用表面処理金属箔
300 集電体用表面処理金属箔
10a 第1の面
10b 第2の面
20 金属基材
30 ニッケル-リン合金層
40 金属層
50 粗化ニッケル層

Claims (16)

  1. 第1の面および、前記第1の面と反対側に位置する第2の面を有した集電体用表面処理金属箔であって、
    前記集電体用表面処理金属箔の基材が金属基材からなり、
    前記金属基材の少なくともいずれか一方の面側にリン含有率が7.0wt%以上のニッケル-リン合金層が形成されていることを特徴とする、集電体用表面処理金属箔。
  2. 前記ニッケル-リン合金層の厚みが0.10μm以上3.00μm未満である、請求項1に記載の集電体用表面処理金属箔。
  3. 前記ニッケル-リン合金層の前記リン含有率が下記式[1]を満たす、請求項1又は2に記載の集電体用表面処理金属箔。
    Figure 2023098439000014
    (上記合計厚みとは、金属基材上に形成されている全てのニッケル-リン合金層の厚みの合計値である)
  4. 前記ニッケル-リン合金層の合計厚みが0.20μm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の集電体用表面処理金属箔。
  5. 前記金属基材の少なくともいずれか一方の面側に形成された前記ニッケル-リン合金層の表面における十点平均粗さRzjisが0.50μm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の集電体用表面処理金属箔。
  6. 前記金属基材が、低炭素鋼又は極低炭素鋼である、請求項1~5のいずれか一項に記載の集電体用表面処理金属箔。
  7. 前記ニッケル-リン合金層が、前記金属基材の両面に形成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の集電体用表面処理金属箔。
  8. 前記ニッケル-リン合金層におけるニッケル付着量が0.5g/m~20.0g/mである、請求項1~7のいずれか一項に記載の集電体用表面処理金属箔。
  9. 前記金属基材において、少なくともいずれか一方の面側にニッケルを含有する金属層が形成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の集電体用表面処理金属箔。
  10. 前記金属層がニッケル層であり、少なくとも前記ニッケル-リン合金層の上層に形成されている、請求項9に記載の集電体用表面処理金属箔。
  11. 前記ニッケル層が前記ニッケル-リン合金層の下層にも形成されている、請求項10に記載の集電体用表面処理金属箔。
  12. 前記ニッケル-リン合金層及び前記ニッケル層におけるニッケル総付着量が2.0g/m~60.0g/mである、請求項10又は11に記載の集電体用表面処理金属箔。
  13. 前記第1の面側、及び前記第2の面側の少なくともいずれか一方の最表面に粗化層を有し、前記粗化層の算術平均高さSaが0.20~1.30μmである、請求項1~12のいずれか一項に記載の集電体用表面処理金属箔。
  14. 前記粗化層が粗化ニッケル層であり、少なくとも前記ニッケル-リン合金層または前記金属層の上層に形成されている、請求項13に記載の集電体用表面処理金属箔。
  15. 前記ニッケル-リン合金層及び前記金属層、前記粗化層におけるニッケル総付着量が5.0g/m~90.0g/mである、請求項13又は14に記載の集電体用表面処理金属箔。
  16. 電気化学的に測定される水素透過電流密度が80μA/cm以下である、請求項1~15のいずれか一項に記載の集電体用表面処理金属箔。
    但し、前記水素透過電流密度の測定は、電解液の温度を65℃として、水素発生側には参照電極:Ag/AgClを用いて、測定径φ20mmの測定面積(3.14cm)に対して-100mAの電流を印加し、水素検出側には参照電極を用いずに電流を印加しない条件において、前記水素検出側で測定される酸化電流の増加分である。
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