JP7265724B2 - エンジンの制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、エンジンの制御装置に関し、特に、可動ベーン付きターボ過給機と、変速指令信号に基づいて燃料噴射量を低減するトルクダウン制御を実行可能な制御手段とを備えたエンジンの制御装置に関する。
従来より、ターボ過給機を搭載した手動変速車両では、変速時、乗員によるアクセルペダルの踏戻操作によりタービンに供給される排気ガス流量が減少するため、タービン及びコンプレッサの回転速度が低下し、再びアクセルペダルが踏込操作されても過給圧が上昇して復帰するまでに長時間要する、所謂ターボラグが生じることは知られている。
このターボラグに起因した加速応答性低下を改善する有効な技術の1つとして、可動ベーン付きターボ過給機(Variable Geometry Turbocharger: VGT)が存在している。
特許文献1のターボチャージャ制御装置は、タービンに供給される排気ガス流量を調整可能な可変ベーンを備え、自動変速機のシフトアップ状態を検出して可変ベーンの開度を閉じ側に設定し、排気系の排圧を高めると同時に変速途中に過給しながらエンジンの回転数を低下させ、シフトアップ完了時に可変ベーンの開度を開き側に設定している。
これにより、シフトアップ開始時、可変ベーンの閉じ量を大きくすることにより排気ガスの流速を速めてタービンの回転速度を上昇させ、排気ガスエネルギを確保している。
また、シフトアップ完了時、可変ベーンの閉じ量を小さくすることによりタービンの回転速度の過度な上昇を抑制しつつ、排気抵抗増加を解消している。
特開平10-331650号公報
特許文献1のターボチャージャ制御装置は、変速時、排気ガスの流速を速めてタービンの回転速度を上昇させることにより、ターボラグによる加速応答性を改善している。
しかし、特許文献1の技術では、変速時、乗員が再度アクセルペダルを踏込操作した際、十分な加速応答性を確保できない虞がある。
図8に示すように、VGTを搭載した自動変速車両では、アクセルペダルの踏込操作を継続した場合、車両の走行速度が継続的に増加し、予め設定された所定の変速マップに基づいて高速段へのシフトアップ(パワーオンアップシフト)が連続的に実行される。
例えば、変速マップの変速切替ラインを時刻t1で横切った場合、変速制御部が、時刻t1から時刻t7の間、変速指令信号を出力する。また、変速制御部は、変速指令信号の出力と同時に、イナーシャフェーズ開始タイミングである時刻t3及びイナーシャフェーズ終了タイミングである時刻t5を演算する。そして、イナーシャフェーズ(時刻t3から時刻t5)の間、エンジン回転数と摩擦締結要素回転数とを同期させるため、変速制御部はトルクダウン要求信号を出力し、エンジンはトルクダウン要求信号に合わせるように燃料噴射量を低減して変速トルクダウンを実行している。
一方、タービン室の可動ベーンは、自動変速機のイナーシャフェーズの間、その目標開度を減少制御した後、時刻t6で目標開度を所定の基準開度に復帰する。
タービンの回転速度は、可動ベーンの閉じ量に連動しているため、エンジンの燃焼室に供給される吸気の実過給圧は、可動ベーンの目標開度と略同様の傾向で減少される。
実過給圧がトルクダウン要求信号に対応して低下することから、変速トルクダウン中、或いは変速トルクダウン直後に乗員がアクセルペダルを踏込操作しても、実過給圧が増加して目標過給圧に到達するまでの期間は物理的に車両は加速することができない。
尚、可動ベーンは、エンジン回転数が高いイナーシャフェーズ前半時期から閉じ側に制御されるが、閉作動応答遅れにより、タービン上流側の排圧の急激な上昇は生じない。
そこで、可動ベーンの閉じ側制御をイナーシャフェーズ開始タイミングよりも所定時間早く開始することが考えられる。しかし、イナーシャフェーズ開始タイミングよりも所定時間早い領域は、エンジン回転数が高く且つ燃料が供給されて負荷が高い領域であるため、排圧が急激に上昇し、排気系機構の信頼性が損なわれる虞が或る。
即ち、排気系機構の信頼性を維持しつつ、変速時における加速応答性を確保することは容易ではない。
本発明の目的は、排気系機構の信頼性を維持しつつ、変速時における加速応答性を確保可能なエンジンの制御装置等を提供することである。
請求項1のエンジンの制御装置は、タービンに供給される排気ガスの流路面積を変更するために開度を調整可能な可動ベーン付きターボ過給機と、複数の変速段に切替可能な自動変速機の変速指令信号に基づいて燃料噴射量を低減するトルクダウン制御を実行可能な制御手段とを備えたエンジンの制御装置において、前記制御手段は、排気ガスのエネルギが大きいとき、前記排気ガスのエネルギが小さいときに比べて前記可動ベーンの開度が大きくなるように設定された第1開度特性に基づき前記可動ベーンの閉じ量を制御する基本ベーン制御を行うと共に、前記変速指令信号が出力され且つ排気ガスの排圧が設定圧力以上のとき、前記可動ベーンの閉じ量を抑制する排圧ベーン制御を行うことを特徴としている。
このエンジンの制御装置では、前記制御手段は、排気ガスのエネルギが大きいとき、前記排気ガスのエネルギが小さいときに比べて前記可動ベーンの開度が大きくなるように設定された第1開度特性に基づき前記可動ベーンの閉じ量を制御する基本ベーン制御を行うため、排気ガスのエネルギが小さいとき、可変ベーンの閉じ量を大きくすることにより排気ガスの流速を速め、タービンの回転速度を上昇させることによって排気ガスエネルギを確保することができ、排気ガスのエネルギが小さいときでも、乗員によるアクセルペダルの踏込操作に対応して加速することができる。また、排気ガスのエネルギが大きいとき、可変ベーンの閉じ量を小さくすることにより排気ガスの流速を遅くし、タービンの回転速度を低下させることによって排圧を下げて燃費及び出力の向上を図ることができる。
前記制御手段は、前記変速指令信号が出力され且つ排気ガスの排圧が設定圧力以上のとき、前記可動ベーンの閉じ量を抑制する排圧ベーン制御を行うため、変速時、可変ベーンの閉じ量増加に起因して排圧が上昇したときであっても、排圧を設定圧力未満に抑えることができる。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記制御手段は、前記変速指令信号の出力時、予測される前記自動変速機のイナーシャフェーズ開始タイミングよりも前記可動ベーンの作動遅れ時間早い時点から始まると共に予測される前記自動変速機のイナーシャフェーズ終了タイミングよりも前記可動ベーンの作動遅れ時間早い時点で終了する間閉要求信号を生成すると共に、前記閉要求信号が出力されている間、前記第1開度特性よりも閉じ量が大きくなるように設定された第2開度特性に基づき前記可動ベーンの閉じ量を制御する協調ベーン制御を行うことを特徴としている。
この構成によれば、可動ベーンの閉じ量増加による排気ガスエネルギ増加を可動ベーンの構造的イナーシャに係る時定数遅れを考慮して開始させることができ、実過給圧の低下を抑制して加速応答性を一層高めることができる。
請求項3の発明は、請求項2の発明において、排気ガスの排圧を検出する排圧検出手段を有し、前記制御手段は、前記閉要求信号が出力されている間、前記排圧検出手段から出力された排圧信号に対する応答性を低下させるなまし度合いを小さくすることを特徴としている。
この構成によれば、排圧検出手段から出力される排圧信号のハンチングを防止しつつ、排圧が上昇する協調ベーン制御期間(閉要求信号出力期間)の排圧を高周波で検出することができ、検出精度を向上することができる。
請求項4の発明は、請求項2又は3の発明において、前記制御手段は、前記閉要求信号が出力されている間、前記閉要求信号が出力されていないときに比べて前記設定圧力を小さくすることを特徴としている。
この構成によれば、閉要求信号出力期間の排圧検出感度を閉要求信号出力期間以外の期間の排圧検出感度に比べて高くすることができる。
請求項5の発明は、請求項1~4の何れか1項の発明において、前記制御手段は、排気ガスの排圧が設定圧力以上のとき、前記可動ベーンの閉じ量を小さくすることを特徴としている。
この構成によれば、可動ベーンによって排圧を早期に低下させることができる。
請求項6の発明は、請求項1~5の何れか1項の発明において、前記制御手段は、排気ガスの排圧が設定圧力以上のとき、前記可動ベーンの開度を全開にすることを特徴としている。
この構成によれば、可動ベーンによって排圧を最速で低下させることができる。
本発明のエンジンの制御装置によれば、可動ベーン付きターボ過給機を搭載した自動変速機車両において、排気系機構の信頼性を維持しつつ、変速時における加速応答性を確保することができる。
実施例1に係るエンジンの概略構成図である。 ターボ過給機のタービン室の縦断面図である。 変速時の各要素の変化態様を示すタイムチャートである。 第1開度特性マップを示す図である。 第2開度特性マップを示す図である。 ベーン制御処理手順を示すフローチャートである。 変形例に係る閉要求信号及び目標開度の変化態様を示すタイムチャートである。 従来技術に係る変速時の各要素の変化態様を示すタイムチャートである。
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
以下、本発明の実施例1について図1~図6に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施例1に係るエンジンシステムSは、例えば、6気筒ディーゼルエンジンとしてのエンジン1と、自動変速機20と、ターボ過給機30と、エンジンシステムSの制御を行うECU(Electronic Control Unit)40(制御手段)と、各種センサ51~56等を主な構成要素としている。
まず、エンジン1について説明する。
図1に示すように、エンジン1は、気筒毎の燃焼室2に燃料を供給する燃料噴射弁3が夫々配設されている。各燃料噴射弁3は、分配通路を介してコモンレール(図示略)に夫々接続されている。コモンレールは、燃料ポンプ(図示略)から圧送された燃料が蓄圧された状態で貯留されている。各気筒のシリンダには、エンジン1の回転数(rpm)を検出可能な回転数センサ51が設けられている。また、エンジン1は、燃焼室2に連通された吸排気ポート1a,1bと、吸気ポート1aに接続された吸気通路4と、排気ポート1bに接続された排気通路5と、吸気通路4と排気通路5を連通するEGR通路6等を備えている。
吸気通路4には、その上流側から順に、エアフローセンサ52と、ターボ過給機30のコンプレッサ32と、スロットル弁7と、インタクーラ8と、サージタンク9等が配設されている。サージタンク9には、吸気圧力センサ53が設けられている。
排気通路5には、ターボ過給機30のタービン31と、このタービン31の下流側位置に配置された触媒(図示略)等が設けられている。タービン31の上流側位置には、排気圧力を検出する排圧センサ54が配設されている。EGR通路6には、途中部にEGR弁10が配設されている。EGR弁10は、少なくとも低回転低負荷領域において、デューティ制御可能な電磁弁(図示略)を介して部分開或いは全開に操作される。
次に、自動変速機20について説明する。
図1に示すように、自動変速機20は、発進装置(図示略)を経由してエンジン1に連結されている。この自動変速機20は、前進走行ギヤ段(例えば、Dレンジにおける1速~6速)及び後進走行ギヤ段を形成することにより、クランクシャフト11の回転数を所望の回転数に変速して駆動輪(図示略)に伝達している。尚、前進走行ギヤ段は、複数存在すれば良く、1速~6速ギヤ段であることに限定されるものではない。
次に、ターボ過給機30について説明する。
ターボ過給機30は、排気ガスエネルギが低い状態(低回転領域又は低負荷領域)であっても効率良く燃焼室2に供給される吸気の過給を行えるように小型に構成されている。
また、ターボ過給機30は、タービン31の全周を囲繞するように複数の可動ベーン33が設けられ、これら複数の可動ベーン33によってタービン31に向かう排気ガスの流路面積を変更可能な容量可変型ターボ過給機(Variable Geometry Turbocharger: VGT)を構成している。
図2に示すように、タービンケーシング内に形成されたタービン室34には、略中央部分に配置されたタービン31の周囲を取り囲むように複数の可動ベーン33が配設されている。各可動ベーン33は、タービン室34の一方の側壁を貫通する支軸35により回動可能に支持されている。各可動ベーン33は、支軸35を中心として時計回りに回動して相互に近接するように傾斜した場合、可動ベーン33の相互間に形成された開度(流路面積)が小さく絞られ、排気ガス流量が少ないときであっても高い過給効率を得ることができる。一方、各可動ベーン33を反時計回りに回動させて、相互に離隔するように傾斜させれば、開度が大きくなるため、排気ガス流量が大きいときであっても排気抵抗を低減して、過給効率を高くすることができる。
リング部材36は、リンク機構37を介してアクチュエータ38(図1参照)のロッド39に駆動連結され、アクチュエータ38の作動によりリング部材36を介して各可動ベーン33が回動される。リンク機構37は、一端部をリング部材36に回動可能に連結された連結ピン37aと、この連結ピン37aの他端部に一端部を回動可能に連結された連結板部材37bと、この連結板部材37bの他端部に連結され且つタービンケーシングの外壁を貫通する柱状部材37cと、この柱状部材37cのタービンケーシング外へ突出する突出端部に一端部を連結された連結板部材37dとから構成され、連結板部材37dの他端部が連結ピン(図示略)によりロッド39に回動可能に連結されている。
次に、ECU40について説明する。
ECU40は、各種プログラムを実行する中央演算処理部、メモリ(RAM、ROM)、及び入出力バス等によって構成されている。図1に示すように、ECU40は、燃料制御部41と、変速制御部42と、ベーン制御部43等を主な構成要素としている。
まず、燃料制御部41について説明する。
燃料制御部41は、アクセル開度センサ55によって検出されたアクセルペダル(図示略)の開度(%)と回転数センサ51によって検出されたエンジン回転数とに基づき予め設定された目標トルクマップ(図示略)を介してエンジンの目標トルクを読み出し、この目標トルクとエンジン回転数とエアフローセンサ52によって検出された実新気量とに基づき予め設定された目標燃料噴射量マップ(図示略)を介して目標燃料噴射量を読み出している。そして、燃料制御部41は、設定された目標燃料噴射量とコモンレール内の燃料圧力とに基づき燃料噴射弁3の励磁時間を調整することにより、燃焼室2に供給する燃料噴射量を制御している。
燃料制御部41は、変速時、変速制御部42から出力されたトルクダウン要求信号(図3参照)に基づいて燃料補正量を設定し、目標燃料噴射量から燃料補正量を減量している。
それ故、図3に示すように、燃料制御部41は、イナーシャフェーズ開始タイミング(時刻t3)で燃料噴射量を急減して変速トルクダウンを開始すると共に、イナーシャフェーズ終了タイミング(時刻t5)で変速トルクダウンを終了することにより、エンジン回転数と摩擦締結要素回転数とを同期させている。
次に、変速制御部42について説明する。
変速制御部42は、乗員によるシフトレバー(図示略)操作によって選択された走行レンジ毎に、車速センサ56によって検出された車両の走行速度とアクセル開度センサ55によって検出されたアクセル開度とに基づき予め設定された変速マップ(図示略)を介して切替先のギヤ段を読み出し、変速用ソレノイドバルブ(図示略)をオンオフ制御している。そして、変速制御部42は、変速用ソレノイドバルブを介して各シフトバルブのスプール位置を切り替え、各摩擦締結要素をギヤ段毎の組み合わせになるように締結している。
また、変速制御部42は、変速開始と同時に、イナーシャフェーズを予測演算している。
イナーシャフェーズは、変速の進行途中で発生するフェーズ(相)の1つで、駆動系のイナーシャ変化を主因として変速機入力回転数が変化するフェーズである。従って、通常、変速初期のトルクフェーズでは、エンジン回転数はアクセル操作に応じて変化し、変速後期のイナーシャフェーズでは、変速によってエンジン回転数が変化する。
図3に示すように、車両の走行状態が変速マップの変速切替ライン、例えば、アクセル踏込状態を維持して5速から6速に切り替える変速切替ラインを横切ったパワーオンアップシフトの場合、変速制御部42は、変速指令信号とトルクダウン要求信号とを生成すると共に、変速指令信号及びトルクダウン要求信号を燃料制御部41に夫々出力している。
変速指令信号は、車両の走行状態が変速マップの変速切替ラインを横切った時刻t1で出力され、イナーシャフェーズ終了タイミングである実変速終了時刻t5から周辺要素の作動完了に必要な所定時間を経過した時刻t7に出力が停止される。トルクダウン要求信号は、イナーシャフェーズ開始タイミングである実変速開始時刻t3で出力され、実変速終了時刻t5で出力が停止されるように実変速終了時刻の所定時間前から減少される。
変速制御部42は、変速時、可動ベーン33を制御するための専用の閉要求信号を生成し、この閉要求信号をベーン制御部43に出力している。この閉要求信号の出力レベルは、可動ベーン33によるトルクダウン制御に対応した要求トルク演算値に相当している。
図3に示すように、閉要求信号出力期間の開始時刻t2は、イナーシャフェーズ開始タイミングである時刻t3から可動ベーン33の閉作動応答遅れを考慮した時点であり、閉要求信号出力期間の終了時刻t4は、イナーシャフェーズ終了タイミングである時刻t5から可動ベーン33の開作動応答遅れを考慮した時点である。尚、本実施例において、「変速時」とは、変速トルクダウン期間、或いは変速トルクダウン直後が含まれた変速指令信号が出力される期間を少なくとも含むものである。
次に、ベーン制御部43について説明する。
ベーン制御部43は、エンジン1の運転状態に基づいて目標過給圧を設定し、実過給圧が目標過給圧に収束するように各可動ベーン33の目標開度(%)を設定すると共に各可動ベーン33が目標開度になるように調整している。このベーン制御部43は、閉要求信号出力期間以外の場合、第1モードの条件で可動ベーン33を制御し、閉要求信号出力期間の場合、第2モードの条件で可動ベーン33を制御している。
ベーン制御部43は、可動ベーン33の開度を排気ガスエネルギによって規定する第1,第2開度特性マップM1,M2(第1,第2制御マップ)を有している。
図4に示すように、第1開度特性マップM1は、第1モードにおいて用いられるマップである。このマップには、零よりも大きい負荷に相当するアクセル開度毎(例えば、100%、50%、25%)にエンジン回転数と可動ベーン33の開度との関係が規定されている。これらの特性は、アクセル開度が大きい程開度が大きくなり、また、エンジン回転数が大きい程開度が大きくなるように設定されている。アクセル開度毎の特性は、始点から所定回転数まで開度が所定の増加率で増加し、所定回転数以上では開度が所定増加率よりも低い増加率で増加している。
図5に示すように、第2開度特性マップM2は、第2モードにおいて用いられるマップである。このマップには、零よりも大きい負荷に相当するアクセル開度毎(例えば、100%、50%、25%)にエンジン回転数と可動ベーン33の開度との関係が規定されている。第2開度特性マップM2のアクセル開度毎の特性は、第1開度特性マップM1のアクセル開度毎の特性よりも閉じ側、つまり、閉じ量が大きくなるように夫々設定されている。これらの特性は、第1開度特性マップM1と同様に、アクセル開度が大きい程開度が大きくなり、また、エンジン回転数が大きい程開度が大きくなるように設定されている。アクセル開度毎の特性は、始点から所定回転数まで開度が所定の増加率で増加し、所定回転数以上では開度が所定増加率よりも低い増加率で増加している。
ベーン制御部43は、可動ベーン33の構造上の一時的な作動遅れを抑制するため、第1,第2開度特性マップM1,M2を用いたフィードフォワード(F/F)制御と、目標過給圧と実過給圧を比較するフィードバック(F/B)制御を実行可能に構成されている。
F/F制御は、閉要求信号で表された要求トルク演算値とトルクダウン要求信号との差分によって負荷相当のアクセル開度を求め、このアクセル開度とエンジン回転数と第1,第2開度特性マップM1,M2のうちの何れかのマップを用いて可動ベーン33の開度θ1を演算している。ここで、第1開度特性マップM1に基づくF/F制御が基本ベーン制御に相当し、第2開度特性マップM2に基づくF/F制御が協調ベーン制御に相当している。
F/B制御は、目標過給圧と実過給圧との差分とF/Bゲインとを用いて実過給圧を目標過給圧に収束させるための可動ベーン33の補正用開度θ2を演算している。(図3参照)尚、第2モードにおけるF/Bゲインは、第1モードにおけるF/Bゲインよりも大きく(強く)なるように設定されている。第2モードでは、エンジン回転数が高く且つ燃料が供給される高負荷期間に可動ベーン33の閉じ量を大きくするため、可動ベーン33の作動応答性を高めるためである。
また、ベーン制御部43は、排気系機構のフェールセーフのため、排圧保護制御(排圧ベーン制御)を実行可能に構成されている。排圧保護制御は、排圧センサ54が検出する排気ガス圧力(排圧)が排圧拘束条件である圧力の判定閾値(Pa)以上のとき、タービ31の上流側の排圧を低減するための可動ベーン33の補正用開度θ3を演算している。
図3に示すように、時刻t3~t4において、排圧が設定圧力に相当する判定閾値以上に上昇した場合、可動ベーン33の閉じ量を排圧と判定閾値との差圧に応じて減少可能な開度θ3が演算される。基本的に、閉要求信号出力期間(時刻t2~t4)では、可動ベーン33の目標開度θは、所定の減少率で減少するように設定されている。しかし、排圧が判定閾値以上に上昇した場合には、可動ベーン33の目標開度θは、開度θ3によって開き側に補正される。尚、閉要求信号出力期間終了後、目標開度θは、協調ベーン制御から基本ベーン制御に切り替わるため、時刻t4で急増される。
また、排圧保護制御では、排圧センサ54の検出値のハンチング防止のため、第1モードの際、応答性が低いなまし処理を行っている。具体的には、第1モードでは、検出周期毎の複数の排圧検出値の平均値(移動平均)を所定の判定閾値と比較し、第2モードでは、なまし処理を解除して、検出周期毎の排圧検出値を所定の判定閾値と比較して排圧拘束条件の成否を判定している。しかも、第2モードの判定閾値は、第1モードの判定閾値よりも低い値に設定されている。閉要求信号出力期間では、可動ベーン33の閉じ量を大きくすることから、排圧の影響が受け易くなるためである。
以上により、ベーン制御部43は、変速状態により第1,第2モードを切り替えると共に、各々のモード毎にF/F制御による開度θ1をF/B制御による開度θ2及び排圧保護制御による開度θ3によって調停処理し、可動ベーン33の最終的な目標開度θを演算している。この目標開度θは、アクチュエータ38に指令信号として出力される。
次に、図6に示すフローチャートを参照しながら、ECU40によるベーン制御処理手順の一例について説明する。尚、図中、Si(i=1,2,…)は、各ステップを示す。
まず、S1にて、ECU40が各センサ51~56から入力された各種信号及び各種制御マップ等を読み込み、S2へ移行する。
S2にて、乗員がアクセルペダルを踏込操作しているか否かを判定する。
S2の判定の結果、乗員がアクセルペダルを踏込操作している場合、S3に移行する。S2の判定の結果、乗員がアクセルペダルを踏込操作していない場合、リターンする。
S3にて、自動変速機20が高速ギヤ段へのアップシフトを実行するか否か判定する。
S3の判定の結果、アップシフトを実行する場合、アクセル踏込状態でアップシフトが実行されるため、閉要求信号を生成すると共に出力する(S4)。
図3に示すように、パワーオンアップシフトが実行される場合、変速制御部42が、自動変速機20のイナーシャフェーズに基づいて、イナーシャフェーズ開始タイミング(時刻t3)から可動ベーン33の閉作動応答遅れ時間だけ早い時点(時刻t2)から始まり且つイナーシャフェーズ終了タイミング(時刻t5)から可動ベーン33の開作動応答遅れ時間だけ早い時点(時刻t4)で終了する閉要求信号を出力する。
S3の判定の結果、高速ギヤ段へのアップシフトを実行しない場合、リターンする。
次に、閉要求信号出力期間であるため、第2モードが設定され、第2開度特性マップM2が選択される(S5)。第2モードが設定された後、協調ベーン制御であるF/F制御(S6)と、F/B制御(S7)と、排圧保護制御(S8)とが並行して同時処理される。
S6~S8の完了後、F/F制御処理で演算された開度θ1に対してF/B制御処理で演算された開度θ2及び排圧保護制御処理で演算された開度θ3を調停して可動ベーン33の目標開度θを算出し、この目標開度θに対応した指令信号をアクチュエータ38に出力する(S9)。
S9の後、S10では、閉要求信号出力期間が終了したか否か判定する。
S10の判定の結果、閉要求信号出力期間が終了した場合、制御モードを第2モードから第1モードに切り替えて(S11)、リターンする。S10の判定の結果、閉要求信号出力期間が継続している(終了していない)場合、S6~S8にリターンし、次の開度θ1~θ3を演算する。
次に、上記エンジン1の制御装置の作用、効果について説明する。
このエンジン1の制御装置によれば、ECU40は、排気ガスのエネルギが大きいとき、排気ガスのエネルギが小さいときに比べて可動ベーン33の開度が大きくなるように設定された第1開度特性マップM1に基づき可動ベーン33の閉じ量を制御する基本ベーン制御を行うため、排気ガスのエネルギが小さいとき、可変ベーンの閉じ量を大きくすることにより排気ガスの流速を速め、タービン31の回転速度を上昇させることによって排気ガスエネルギを確保することができ、排気ガスのエネルギが小さいときでも、乗員によるアクセルペダルの踏込操作に対応して加速することができる。排気ガスのエネルギが大きいときとは、エンジン回転数が高いとき、或いはエンジン負荷が高いとき(アクセル開度が大きい、アクセルペダルの踏込量が大きいとき)等である。また、排気ガスのエネルギが大きいとき、可変ベーン33の閉じ量を小さくすることにより排気ガスの流速を遅くし、タービン31の回転速度を低下させることによって排圧を下げて燃費及び出力の向上を図ることができる。ECU40は、変速指令信号が出力され且つ排気ガスの排圧が判定閾値以上のとき、可動ベーン33の閉じ量を抑制する排圧保護制御を行うため、変速時、可変ベーン33の閉じ量増加に起因して排圧が上昇したときであっても、排圧を判定閾値未満に抑えることができる。
ECU40は、変速指令信号の出力時、予測される自動変速機20のイナーシャフェーズ開始タイミングt3よりも可動ベーン33の作動遅れ時間早い時点t2から始まると共に予測される自動変速機20のイナーシャフェーズ終了タイミングt5よりも可動ベーン33の作動遅れ時間早い時点t4で終了する間閉要求信号を生成すると共に、閉要求信号が出力されている間、第1開度特性マップM1よりも閉じ量が大きくなるように設定された第2開度特性マップM2に基づき可動ベーン33の閉じ量を制御する協調ベーン制御を行っている。これにより、可動ベーン33の閉じ量増加による排気ガスエネルギ増加を可動ベーン33の構造的イナーシャに係る時定数遅れを考慮して開始させることができ、実過給圧の低下を抑制して加速応答性を一層高めることができる。
排気ガスの排圧を検出する排圧センサ54を有し、ECU40は、閉要求信号が出力されている間、排圧センサ54から出力された排圧信号に対する応答性を低下させるなまし度合いを小さくするため、排圧センサ54から出力される排圧信号のハンチングを防止しつつ、排圧が上昇する協調ベーン制御期間に相当する閉要求信号出力期間の排圧を高周波で検出することができ、検出精度を向上することができる。
ECU40は、閉要求信号が出力されている間、閉要求信号が出力されていないときに比べて判定閾値を低く(小さく)するため、閉要求信号出力期間の排圧検出感度を閉要求信号出力期間以外の期間の排圧検出感度に比べて高くすることができる。
ECU40は、排気ガスの排圧が判定閾値以上のとき、可動ベーン33の閉じ量を小さくするため、可動ベーン33によって排圧を早期に低下させることができる。
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、Dレンジにおいて変速マップに基づき1速~6速に変速可能な自動変速機20の例を説明したが、少なくとも、パワーオンアップシフト時に変速トルクダウンを実行する変速機であれば良く、ギヤ段の数等変速機の仕様は任意に設定可能である。
2〕前記実施形態においては、閉要求信号出力期間(t2~t4)において、可動ベーン33の目標開度θが所定の減少率で減少するように設定された例を説明したが、排気ガスエネルギを条件として減少形態は任意に変更可能である。
図7に示すように、閉要求信号出力期間において、時刻t3で排気ガスエネルギの低下が開始された場合、可動ベーン33の閉じ量を大きくする、例えば、目標開度θを最小値に設定しても良い。特に、閉要求信号出力期間中、エンジントルクの低下が開始された時点で、ECU40が可動ベーン33の閉じ量を大きくする場合、エンジントルクの低下に同期して排気ガスエネルギを増加することができる。また、閉要求信号出力期間中、エンジン回転数の低下が開始された時点で、ECU40が可動ベーン33の閉じ量を大きくする場合、エンジン回転数の低下に同期して排気ガスエネルギを増加することができる。
3〕前記実施形態においては、排圧が判定閾値以上に上昇した場合、可動ベーン33の閉じ量を排圧と判定閾値との差圧に応じて減少する開度θ3に設定した例を説明したが、排圧が判定閾値以上に上昇したタイミングで可動ベーン33の開度を全開(100%)に設定しても良い。これにより、排圧を最速で低下させることができ、排気系機構の信頼性を確実に確保することができる。
4〕前記実施形態においては、排圧検出用信号系列処理として移動平均(フィルタ)の例を説明したが、検出能が変更可能であれば何れのデジタルフィルタでも良く、例えば、メディアンフィルタや1次ローパスフィルタ等も適用可能である。
5〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態や各実施形態を組み合わせた形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
1 エンジン
20 自動変速機
30 ターボ過給機
31 タービン
33 可動ベーン
40 ECU
54 排圧センサ
M1 第1開度特性マップ
M2 第2開度特性マップ

Claims (6)

  1. タービンに供給される排気ガスの流路面積を変更するために開度を調整可能な可動ベーン付きターボ過給機と、複数の変速段に切替可能な自動変速機の変速指令信号に基づいて燃料噴射量を低減するトルクダウン制御を実行可能な制御手段とを備えたエンジンの制御装置において、
    前記制御手段は、排気ガスのエネルギが大きいとき、前記排気ガスのエネルギが小さいときに比べて前記可動ベーンの開度が大きくなるように設定された第1開度特性に基づき前記可動ベーンの閉じ量を制御する基本ベーン制御を行うと共に、前記変速指令信号が出力され且つ排気ガスの排圧が設定圧力以上のとき、前記可動ベーンの閉じ量を抑制する排圧ベーン制御を行うことを特徴とするエンジンの制御装置。
  2. 前記制御手段は、前記変速指令信号の出力時、予測される前記自動変速機のイナーシャフェーズ開始タイミングよりも前記可動ベーンの作動遅れ時間早い時点から始まると共に予測される前記自動変速機のイナーシャフェーズ終了タイミングよりも前記可動ベーンの作動遅れ時間早い時点で終了する間閉要求信号を生成すると共に、前記閉要求信号が出力されている間、前記第1開度特性よりも閉じ量が大きくなるように設定された第2開度特性に基づき前記可動ベーンの閉じ量を制御する協調ベーン制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの制御装置。
  3. 排気ガスの排圧を検出する排圧検出手段を有し、
    前記制御手段は、前記閉要求信号が出力されている間、前記排圧検出手段から出力された排圧信号に対する応答性を低下させるなまし度合いを小さくすることを特徴とする請求項2に記載のエンジンの制御装置。
  4. 前記制御手段は、前記閉要求信号が出力されている間、前記閉要求信号が出力されていないときに比べて前記設定圧力を小さくすることを特徴とする請求項2又は3に記載のエンジンの制御装置。
  5. 前記制御手段は、排気ガスの排圧が設定圧力以上のとき、前記可動ベーンの閉じ量を小さくすることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
  6. 前記制御手段は、排気ガスの排圧が設定圧力以上のとき、前記可動ベーンの開度を全開にすることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
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