JP7263871B2 - テンプ、ムーブメントおよび機械式時計 - Google Patents
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Description
従来のヒゲ玉は、ヒゲゼンマイに対向する外面部が、ヒゲ玉が固定されたテン真の中心軸を中心点とする円弧に沿った曲面となるように製造されている。このため、アルキメデス曲線に沿って形成されるヒゲゼンマイと、前記外面部の間隔は、徐々に広がるように構成される。
図1は、時計1を示す正面図である。時計1は、ユーザーの手首に装着される腕時計であり、円筒状の外装ケース2を備え、外装ケース2の内周側に、文字板3が配置されている。外装ケース2の二つの開口のうち、表面側の開口は、カバーガラスで塞がれており、裏面側の開口は裏蓋で塞がれている。
各指針4A~4Cおよびパワーリザーブ針5は、時計ムーブメント10の指針軸に取り付けられ、時計ムーブメント10により駆動される。
文字板3には、カレンダー小窓3Aが設けられており、カレンダー小窓3Aから、日車6が視認可能となっている。
リューズ7を0段位置で回転すると、後述するように、ゼンマイを巻き上げることができる。ゼンマイの巻上げに連動して、パワーリザーブ針5が移動する。本実施形態の時計1は、ゼンマイをフルに巻き上げた場合に、約40時間の持続時間を確保できる。
リューズ7を1段位置に引いて回転すると、日車6を移動して日付を合わせることができる。リューズ7を2段位置に引くと秒針4Cが停止し、2段位置でリューズ7を回転すると、時針4A、分針4Bが移動して時刻を合わせることができる。
次に、時計ムーブメント10について図2を参照して説明する。
時計ムーブメント10は、地板11、一番受け12、テンプ受け13を備えている。地板11と一番受け12との間には、ゼンマイが収納された香箱車(一番車)21と、二番車(図示略)と、三番車23、四番車24、ガンギ車(五番車)25が配置されている。また、地板11とテンプ受け13との間には、アンクル26、調速機27等が配置されている。
手巻き機構30は、一番受け12に回転自在に軸支された、巻真31、つづみ車32、きち車33、丸穴車40、第1中間車51、第2中間車52を備え、リューズ7の回転操作による回転を、角穴車60に伝達し、角穴車60および香箱真を回転させてゼンマイを巻き上げるものである。なお、丸穴車40は、きち車33に噛み合う第1丸穴車41と、第1丸穴車41と一体に回転して第1中間車51に噛み合う第2丸穴車42とで構成されている。
図3は、調速機27を示す断面図であり、図4は、調速機27を示す平面図である。なお、図4では、振り座430、ヒゲ持450、緩急針460については、図示を省略している。
調速機27は、図3、図4に示すように、テンプ400を備える。テンプ400は、テン真410、テン輪420、ヒゲ玉440、ヒゲ持450、緩急針460、ヒゲゼンマイ70を含んで構成される。
テン真410は、地板11およびテンプ受け13に回転自在に支持されている。したがって、地板11およびテンプ受け13は、テン真410を軸支する支持部材である。
テン真410には、テン輪420、振り座430、ヒゲ玉440が固定され、これらが一体で回転するように構成されている。ヒゲゼンマイ70は、その内端部71がヒゲ玉440に固定され、外端部73は、ヒゲ持450に固定されている。緩急針460は、ヒゲ棒461およびヒゲ受462を含んで構成され、ヒゲゼンマイ70の最外周部分は、ヒゲ棒461およびヒゲ受462の間を通過している。
ヒゲゼンマイ70は、Cr,Ni,Co等を含む合金であるコエリンバー等の板状の弾性材料により形成されている。
ヒゲゼンマイ70は、ヒゲ玉440に形成された溝部441に挿入され、ヒゲ玉440に固定された内端部71と、内端部71から連続し、テン真410の軸方向に沿った方向から見た平面視において、テン真410の中心軸Oを中心にして巻回する巻回部72と、巻回部72の内端部71とは反対側の端部から連続し、ヒゲ持450に固定される屈曲部を備えた外端部73とを備えている。
すなわち、巻回部72は、ヒゲ玉440の溝部441に挿入されていない部分であり、かつ、前記平面視でアルキメデス曲線に沿って湾曲している湾曲部分を意図している。なお、本実施形態では、巻回部72の最外周の途中に、屈曲部722が形成されているが、屈曲部722のように、湾曲部分と湾曲部分とを連結する部分は、巻回部72の一部として考える。
ここで、14巻とは、巻出し部721を起点とした場合の巻回方向の回転角度を角度θとした場合、角度θが、5040度(=360度×14)であることを意図している。
なお、以下の説明では、巻回部72のN巻目(Nは整数)という表現を用いるが、これは、角度θが(N-1)×360度以上、N×360度未満の範囲である巻回部72の周回部分を示す。
例えば、1巻目とは、角度θが0度以上360度未満の範囲の周回部分であり、2巻目とは、角度θが360度以上720度未満の範囲の周回部分である。
巻回部72は、前述したように、平面視でアルキメデス曲線に沿って巻かれており、各周回部分の間隔はそれぞれ一定とされている。
ヒゲ玉440は、前述した溝部441を有するとともに、テン真410が通る中心孔から溝部441の長手方向と直交する方向に延びるスリット442を有する。ヒゲ玉440の中心孔にテン真410を嵌合した際には、スリット442が開くようにヒゲ玉440が弾性変形し、その反力によりテン真410が締め付けられ、テン真410とヒゲ玉440とが固定される。
ヒゲ玉440の周面は、溝部441の両側が開口する切欠き面443、444と、第1外面部445と、第2外面部448とを備える。切欠き面443、444は、前記平面視で、図5に二点鎖線で示すテン真410の中心軸Oを中心とした曲率半径Rの仮想円C1を想定した場合、仮想円C1から中心軸O側に窪んだ形状とされ、溝部441が開口する平面と、この平面と前記第1外面部445、第2外面部448とを結ぶ平面とを備える。各平面の交差角度は鈍角とされ、ヒゲゼンマイ70の巻回部72が接触しないように形成されている。
ヒゲゼンマイ70の巻回部72は、溝部441の長手方向の両端に形成される開口のうち、一方の切欠き面444の開口から引き出されている。
第2外面部448は、スリット442から切欠き面443までの領域に形成されている。第2外面部448は、仮想円C1に沿った面とされている。つまり、第2外面部448の前記平面視の形状は、テン真410の中心軸Oを中心とした曲率半径Rの円弧とされている。
第1円弧部446は、中心点O1から半径R1の円弧形状とされ、仮想線L3方向の一端が切欠き面444に接続され、仮想線L4方向の他端が第2円弧部447へと滑らかに連続されている。
第2円弧部447は、中心点O2から半径R2の円弧形状とされ、仮想線L4方向の一端が第1円弧部446から連続し、仮想線L2方向の他端がスリット442に接続されている。
具体的には、第1円弧部446の中心点O1は、中心軸Oから第1円弧部446とは反対側にずらしている。これにより、第1円弧部446の円弧形状は、仮想円C1よりも中心軸O寄りに変位されている。また、第2円弧部447の中心点O2は、中心軸Oからスリット442の向きにずらされている。また、第2円弧部447の半径R2は半径Rより小さくされている。これにより、第2円弧部447は、一端が第1円弧部446と連続しつつ他端がスリット442との接続部分で中心軸Oから半径Rとなるように設定されている。
本実施形態では、第1外面部445と巻回部72との間隔が、仮想線L5方向近傍で最大となり、この位置での間隔を0.1mmとすると、仮想線L2方向で間隔0.95mm、仮想線L4方向近傍で間隔0.94mm、仮想線L3方向で間隔0.95mmとされ、第1外面部445と巻回部72の1巻目72Aとの間には第1外面部445の全範囲にわたって略一定の間隔が保たれている。
一方、第2外面部448は、曲率半径が一定の曲面であるため、巻回部72の1巻目72Aとの間隔は徐々に拡大する。
本実施形態では、ヒゲ玉440と、ヒゲ玉440と一体に組み立てられるテン輪420、テン真410、および振り座430とを合わせた重心の、中心軸Oからのずれ量、つまり片重りの量が10μg・cm以下、つまり1.0×10-10kg・m以下となるようにしており、姿勢差による歩度変化を実使用上問題の無い範囲にするようにしている。
例えば、ヒゲ玉440は、切欠き面443,444および第1外面部445において、周面が仮想円C1から中心軸O側に窪んだ形状とされ、窪んだ重量分だけ中心軸Oに対して片重りを生じることになる。これに対し、ヒゲ玉440、テン輪420、テン真410、および振り座430の一部に、重りを追加または切欠き部を形成してヒゲ玉440の窪みに対してバランスをとることで、一体に回転するヒゲ玉440、テン輪420、テン真410、および振り座430の片重り量を10μg・cm以下としている。
ヒゲ玉440の第1外面部445が、ヒゲゼンマイ70の巻回部72のうち最も内周側の1巻目72Aに沿って形成され、第1外面部445と巻回部72の1巻目72Aとの間には第1外面部445の全範囲にわたって略一定の間隔が保たれ、各々の間隔が徐々に広がらないようにできる。これにより、時計1の落下などによって衝撃が加わった場合でも、ヒゲゼンマイ70の変位量が大きくならず、ヒゲゼンマイ70の変形を防止でき、時計1としての歩度変化が大きくなることを防止できる。
これに対し、本実施形態のように、ヒゲ玉440の第1外面部445と、ヒゲゼンマイ70の巻回部72のうち最も内周側の1巻目72Aとの間に、第1外面部445の全範囲にわたって略一定の間隔が保たれていれば、巻出し部721に近い仮想線L3方向の部分で所定の間隔を確保した際には、それより先の仮想線L4,L2の部分でも略一定の間隔となり、ヒゲゼンマイ70の変形を防止できる。
ここで、第1外面部445より先の部分、つまり第2外面部448においては、1巻目72Aとの間隔が拡大することになるが、巻出し部721からの長さが十分になるため、巻出し部721での根元応力の増大が小さく、歩度に影響するようなヒゲゼンマイ70の変形を生じさせることが避けられる。
試算では、ヒゲ玉440の溝部441に装着されるヒゲゼンマイ70として、幅0.05mm、厚さ0.01mmで長さが0.10~2.00mmまでの試験片を用い、各々をヒゲゼンマイ70の形状に合わせて設置したうえ、巻出し部721と反対側端をヒゲ玉440に対して0.1mmずつ近接離隔させ、巻出し部721での荷重Wおよび応力σを計算した。
その結果、図5の仮想線L3方向に相当する長さ0.5mmの位置での応力を100%とすると、長さが伸びるにしたがって応力は減少し、図5の仮想線L2方向に相当する長さ1.6mmの位置を超えると10%を下回った。
このことから、仮想線L3方向から仮想線L2方向までの第1外面部445を、第1外面部445と巻回部72の1巻目72Aとの間に略一定の間隔が保たれるようにすることで、時計1に外部からの衝撃が加わった場合でも、ヒゲゼンマイ70の変位量が大きくなることを防止できる。
なお、本発明は前記実施形態の構成に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
前記実施形態では、第1外面部445を、第1円弧部446および第2円弧部447の2つの円弧により、巻回部72の1巻目72Aに沿った形状を近似し、巻回部72の1巻目72Aとの間に略一定の間隔が保たれるようにした。これに対し、第1外面部445の平面視の形状を、第1外面部445に対向する巻回部72の1巻目72Aとの間隔が一定の曲線となるように正確に形成してもよい。このようにすれば、第1外面部445と対向するヒゲゼンマイ70の巻回部72の1巻目72Aとの間隔を一定にでき、前述した衝撃によるヒゲゼンマイ70の変形防止ないし時計1としての歩度の増大防止の効果を最大にできる。
前記実施形態では、時計1は、ユーザーの手首に装着される腕時計であるとしたが、懐中時計であってもよく、据え置き式の機械式時計であってもよい。
Claims (5)
- 支持部材に回転自在に支持されたテン真と、
前記テン真に固定されたテン輪と、
前記テン真に固定されたヒゲ玉と、
前記支持部材に固定されたヒゲ持と、
前記ヒゲ玉に内端部が固定され、前記ヒゲ持に外端部が固定されたヒゲゼンマイと、を備え、
前記ヒゲゼンマイは、前記内端部から連続して形成され、前記テン真の軸方向から見た平面視でアルキメデス曲線に沿って巻かれた巻回部を有し、
前記ヒゲ玉は、前記ヒゲゼンマイの内端部が固定される溝部を有し、前記巻回部の前記内端部側の端部である巻出し部から、前記平面視で前記溝部の長手方向と直交し、かつ、前記テン真の中心軸を結ぶ仮想線が前記巻回部と交差する位置までの範囲に、前記平面視の形状が曲線とされた第1外面部を備え、
前記第1外面部は、前記巻回部の最も内周側の1巻目に沿って形成されており、
前記第1外面部の前記平面視の形状は、中心点および半径が互いに異なる2つの円弧を連続させた曲線である
ことを特徴とするテンプ。 - 請求項1に記載のテンプにおいて、
前記ヒゲ玉は、前記第1外面部に加えて、前記巻回部の1巻目に対向する第2外面部を備え、
前記第2外面部の前記平面視の形状は、前記テン真の中心軸を中心点とする円弧である
ことを特徴とするテンプ。 - 請求項1または請求項2に記載のテンプにおいて、
前記テン真と、前記テン輪と、前記ヒゲ玉と、前記テン真を支持する振り座と、を合わせた片重りの量が10μg・cm以下である
ことを特徴とするテンプ。 - 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のテンプと、
前記支持部材としての地板およびテンプ受けと、
を備えることを特徴とするムーブメント。 - 請求項4に記載のムーブメントを備えることを特徴とする機械式時計。
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