JP7260725B1 - ペプチド製造方法、保護基の除去方法、及び除去剤 - Google Patents

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Abstract

ダブルヒット体やジケトピペラジンの生成を抑制し、フルオレン骨格を有する保護基を脱保護した後に生じ得る副生成物であるフルベン骨格を有する化合物を容易に捕捉し、該副生成物との捕捉体を容易に分離することができる保護基の除去方法、保護基を除去する工程を含むペプチドの製造方法、及び保護基の除去剤を提供することを課題の1つとする。本発明の一態様に係るペプチド製造方法は、有機溶媒中、N末端がフルオレン骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物と、下記式(Z1)で表される捕捉剤と、を接触させて、前記保護基由来のフルベン骨格を有する副生成物と前記捕捉剤とが結合した捕捉体を得る工程と、得られた前記捕捉体を前記有機溶媒から分離する工程と、を含む。【化1】TIFF0007260725000066.tif34169

Description

本発明の一態様は、新規なベンジル化合物に関し、特にタグ合成法を用いてペプチドを合成する方法に用いられる新規なベンジル化合物、及び当該ベンジル化合物を用いるペプチド合成方法に関する。また、本発明の一態様は、液相ペプチド合成において、フルオレン骨格を有する保護基の脱保護反応時に発生するフルベン骨格を有する副生成物を効率的に捕捉し、洗浄による除去を効率的に行う方法、及び本方法を用いたペプチド製造方法などにも関する。
従来、ペプチドを合成する方法として、固相ペプチド合成法(SPPS法)と液相ペプチド合成法(LPPS法)が知られている。固相ペプチド合成法は、アミノ酸の縮合反応において、不要物質をろ過することによりペプチドを精製するため、比較的、簡便にペプチドを合成することができることから、長鎖のペプチド合成に適している。しかしながら、固相ペプチド合成法は、過剰量のアミノ酸や洗浄溶媒を使用するため、合成コストが高く、大量のペプチド合成には不向きであるとされている。
これに対して、液相ペプチド合成法は、大量のペプチド合成に使用される。しかしながら、液相ペプチド合成法では、ペプチド鎖が長くなるとその伸長が難しくなりやすく、長鎖のペプチド合成に課題がある。
そこで、上述の固相ペプチド合成法及び液相ペプチド合成法の利点を併せ持つ合成法が検討されている(例えば、特許文献4参照。)。該合成方法は、溶液中で可溶性の保護基(アミノ酸のC末端の保護基をいい、以下、「タグ」ともいう。)を用いてペプチドを合成する方法であり、例えば、長鎖アルキル基を有するタグに、アミノ酸を結合させ、順次伸長反応を繰り返すことによりペプチドを合成する。この合成方法によれば、各伸長段階で、タグに結合したペプチドのみを固体化(例えば、結晶化)させることにより、固体化した物質の分離・精製を容易に実施できる。
また、液体の相分離に伴って、溶解しているタグに結合したペプチド成分のみを特定の相に選択的に溶解させることにより、他の不要成分と分離する方法も知られている(以下、「液相タグ法」ともいう。例えば、特許文献1~9参照、及び非特許文献1~3参照。)。該方法によれば固体化を伴うことなく不要成分を分離することができるため、反応工程の迅速化及び簡便化に寄与することができる。
ところで、液相タグ法においては、有機溶媒中にて連続的にワンポットで実施することから、有機溶媒としては、比重が1以下であり、水層と混和しないものを用いることが望ましい。これに加えて、環境保護の観点より、有機溶媒としてはハロゲン系以外のものを使用することが望ましい。
しかしながら、特許文献4に開示されている3,4,5位に、それぞれ炭素数18個からなる直鎖アルキル基を有するベンジルアルコール型のタグ、及び特許文献2で開示されている3,5位に、それぞれ炭素数22個からなる直鎖アルキル鎖を有するベンジルアルコール型のタグは、上述の条件を満たす有機溶媒に対して溶解性が低いため、ペプチド合成中の反応系からの析出が生じるだけでなく、反応後の化合物の分離・精製が困難になることもしばしばであった。
かかる状況を鑑み、液相タグ法に用いられるタグとして、有機溶媒への溶解性及び疎水性の高いタグが開発されてきた(例えば、特許文献3、6参照)。例えば、特許文献3には、分岐鎖を1以上有する脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有し、総分岐鎖数が3以上であって、かつ総炭素数14以上300以下である有機基を置換基として有する分岐鎖含有芳香族化合物が開示されている。
また、特許文献6には、末端に-O-Si-構造を含む基を有するベンジル化合物が開示されている。特許文献6に記載のベンジル化合物は、有機溶媒への溶解性も高く液相合成法に有用に利用できる。
ところで、液相タグ法などの液相ペプチド合成法においては、Fmoc基をアミノ酸のアミノ基保護基として用いる手法が多く用いられている。Fmoc基を塩基で脱保護した際には該Fmoc基由来の副生成物であるジベンゾフルベン(DBF)が生じる。これを除去するために、DBFの除去試薬を用い、DBFと除去試薬の付加体(以下DBF-捕捉体と略称することがある。)として分液洗浄により除去する手法が知られている。
例えば、特許文献1には、Fmoc基の脱保護時においてチオール含有カルボン酸又はチオール含有スルホン酸を加え、DBF-捕捉体を発生させ、アルカリ性の分液洗浄により除去する方法が記載されている。
しかし、この方法では、捕捉剤として加えるチオール含有カルボン酸とアミノ酸とが反応することによりチオエステルが生じる。このチオエステルは、活性エステルであるため、脱Fmoc後に発生するアミノ基と反応しダブルヒット体を形成する虞がある。また、ペプチド配列に特にシステイン残基が含まれる場合、チオール化合物でのDBFの捕捉は、該ペプチド配列に含まれるシステイン残基の側鎖部位のチオール構造と反応し、他の副生成物が生成する虞がある。
これに対して、チオエステルと、Fmoc基が脱保護されたペプチドのアミノ基との反応によるダブルヒット体の形成を抑制する方法が提案されてきた(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、Fmoc基の脱保護において生じるDBFと二価以上の水溶性アミン(例えばN-メチルピペラジン)と反応させ、DBF-捕捉体を得た後、酸性の分液洗浄により除去する方法が記載されている。
また、特許文献9及び非特許文献4には、N末端のFmoc基が脱保護される塩基性条件として、ジエチルアミンなどの試薬の存在下であることが開示されている。
日本国特許第6136934号公報 日本国特許第6703668号公報 日本国特許第5929756号公報 日本国特開2000-44493号公報 日本国特許第7063408号公報 日本国特許第6116782号公報 日本国特許第6703669号公報 日本国特許第5768712号公報 日本国特許第5201764号公報 国際公開第2019/069978号
A.Livingston et al、Angew.Chem.Int.Ed.60(2021)7786-7795. C.Qin et al、Org.Lett.22(2020)3323-3328. Y.Okada,K.Chiba et al、Org.Process.Res.Dev.23(2019)2576-2581. N.Nishizawa, et al、Org.Process.Res.Dev.25(2021)2029-2038. J.Chem.Soc.Perkin Trans.1,3043,1992.
しかしながら、特許文献3に記載の分岐鎖含有芳香族化合物は、分岐鎖を製造するのにプラチナ-炭素等の高価な貴金属の還元触媒を必要とすることから、大量生産に適用する場合、コスト増につながるため、改善の余地があった。また、特許文献6に記載のベンジル化合物は、酸性分液等の条件によりO-Si結合が切断され、少なからず分解してしまう可能性があり、改善の余地があった(非特許文献5も参照のこと)。
上記の事情を鑑み、分岐鎖構造やO-Si結合を含む構造以外の構造で、液相タグ法に用いることが可能なタグの開発が望まれていた。
また、特許文献2に記載の方法によれば、二価以上の水溶性アミンを用いており、中和するために大量の酸を用いる必要があるなど操作上の課題がある。また、N-メチルピペラジンに代表される水溶性二価アミンおよび、特許文献10及び非特許文献4に用いられるジエチルアミンは十分な塩基性を有する。このため、縮合反応時に余剰のアミノ酸と縮合剤から発生するアミノ酸活性エステルを不活性化する目的で水溶性二価アミンを加える際に、意図しないFmoc基の脱保護反応が進行してしまう可能性がある。これによりジケトピペラジンが生成するなど他の副反応が進行する虞がある。
従って、本発明の目的の1つは、以上の問題を解決し、タグの有機溶媒への溶解性を向上させることで、ペプチド合成中、また反応後の分液中に析出又は不溶化することがないタグ及びその製造方法、並びにそのタグを用いたペプチドの合成方法を提供することにある。
従って、本発明の目的の1つは、ダブルヒット体やジケトピペラジンの生成を抑制し、フルオレン骨格を有する保護基を脱保護した後に生じ得る副生成物であるフルベン骨格を有する化合物を容易に捕捉し、該副生成物との捕捉体を容易に分離することができる保護基の除去方法、保護基を除去する工程を含むペプチドの製造方法、及び保護基の除去剤を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ベンジルアルコールを有するベンゼン環にオキシアレン基を介して、置換基を有する芳香環化合物、またはアルキル基及びアラルキル基を導入することで有機溶媒に対する溶解性が優れ、疎水性の高いベンジル化合物を提供できることを発見し、本発明の一態様を完成するに至った。
すなわち、本発明の一態様に係るベンジル化合物は、下記式(X1):
Figure 0007260725000001
[式中、
m個のQ及びQは、それぞれ酸素原子であり、
m個のRは、それぞれ独立して、アルキレン基であり、
m個のRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、
k個のRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、
Xは、ヒドロキシル基であり、
mは、2又は3の整数であり、
kは、0以上(5-m)以下の整数を示す。]
で表されるベンジル化合物(X1)である。
また、本発明者らは、有機溶媒への溶解性が高いことに加えて疎水性の高いタグを用いれば、水層と混和しない有機溶媒中でより均一にペプチドを合成することができることに加えて、反応後に水層を介して分液により不要物を除去する際に、該タグに結合したペプチドが析出又は不溶化することなく、また水層への該タグに結合したペプチドのロスも抑えられ、収率の向上につながるのではないかという着想に基づいて鋭意検討を行った。
しかしながら、その結果、驚くべきことに、必ずしも疎水性が高ければ高いほど長鎖のペプチドの分液に適するとは限らないこと、すなわち、長鎖のペプチドを分液により分離・精製するためには、一定以下の疎水性を有するタグが適切であるとの新たな知見を得、当該知見に基づき本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の一態様に係るベンジル化合物は、下記式(Y1):
Figure 0007260725000002
[式中、
m個のQは、それぞれ酸素原子を表し、
m個のRは、それぞれ独立して、下記式(YA):
Figure 0007260725000003
(式中、
*は、結合位置を示し、
1a、R1b、R1c、R1d及びR1eは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、
は、0以上6以下の整数を示し、該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基であり、
は、0以上6以下の整数を示し、該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基であり、
但し、R1a、R1b、R1c及びR1dのうち少なくとも2つ以上は水素原子である。)
で表わされる基であり、
k個のRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、又はハロゲン原子を表し、
Xは、ヒドロキシル基を表し、
mは、2又は3の整数を表し、
kは、0以上(5-m)以下の整数を示し、
m個の[Q-R]のうち少なくとも1つは、前記Xを含む置換基に対してメタ位に置換されている。]
で表されるベンジル化合物(Y1)である。
また、本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、環状アミンのうち特に窒素原子を1つのみ含む特定の環状アミンを捕捉剤として用いることにより、Fmoc基等のフルオレン骨格を有する保護基の脱保護反応において生じるDBF等のフルベン骨格を有する副生成物を捕捉し、該副生成物との捕捉体を反応系から分離することにより前記の副生成物を容易に除去できることを見いだし、本発明の一態様を完成した。
すなわち、本発明の一態様に係るペプチド製造方法は、
有機溶媒中、N末端がフルオレン骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物と、下記式(Z1)で表される捕捉剤と、を接触させて、前記保護基由来のフルベン骨格を有する副生成物と前記捕捉剤とが結合した捕捉体を得る工程と、
得られた前記捕捉体を前記有機溶媒から分離する工程と、
を含む、
ペプチド製造方法である。
Figure 0007260725000004
前記式(Z1)において、
Nは、窒素原子であり、
Hは、水素原子であり、
Xは、-CH-、-O-、-S-、又は-(SO)-で表される2価の基であり、
個のR1a、n個のR1b、n個のR2a、n個のR2b、n個のR3a、及びn個のR3bは、それぞれ独立して、H、-OH、-OR(Rはアルキル基である。)、-SH、-SR(Rは、前記-ORのものと同義である。)、-(SO)H、又は-(SO)R(Rは、前記-ORのものと同義である。)で表される1価の基であり、
2a又はR2bと、R3a又はR3bと、は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよく、
、n及びnは、それぞれ独立して、1又は2であり、
mは、0又は1の整数である。
また、本発明の一態様に係る保護基の除去方法は、有機溶媒中、N末端がフルオレン骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物と、下記式(Z1)で表される捕捉剤と、を接触させて、前記保護基由来のフルベン骨格を有する副生成物と前記捕捉剤とが結合した捕捉体を得る工程と、
得られた前記捕捉体を前記有機溶媒から分離する工程と、
を含む、
保護基の除去方法である。
Figure 0007260725000005
前記式(Z1)において、
Nは、窒素原子であり、
Hは、水素原子であり、
Xは、-CH-、-O-、-S-、又は-(SO)-で表される2価の基であり、
個のR1a、n個のR1b、n個のR2a、n個のR2b、n個のR3a、及びn個のR3bは、それぞれ独立して、H、-OH、-OR(Rはアルキル基である。)、-SH、-SR(Rは、前記-ORのものと同義である。)、-(SO)H、又は-(SO)R(Rは、前記-ORのものと同義である。)で表される1価の基であり、
2a又はR2bと、R3a又はR3bと、は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよく、
、n及びnは、それぞれ独立して、1又は2であり、
mは、0又は1の整数である。
また、本発明の一態様に係る除去剤は、下記式(Z1)で表される捕捉剤と、塩基性の脱保護剤と、を含む、フルオレン骨格を有する保護基の除去剤である。
Figure 0007260725000006
前記式(Z1)において、
Nは、窒素原子であり、
Hは、水素原子であり、
Xは、-CH-、-O-、-S-、又は-(SO)-で表される2価の基であり、
個のR1a、n個のR1b、n個のR2a、n個のR2b、n個のR3a、及びn個のR3bは、それぞれ独立して、H、-OH、-OR(Rはアルキル基である。)、-SH、-SR(Rは、前記-ORのものと同義である。)、-(SO)H、又は-(SO)R(Rは、前記-ORのものと同義である。)で表される1価の基であり、
2a又はR2bと、R3a又はR3bと、は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよく、
、n及びnは、それぞれ独立して、1又は2であり、
mは、0又は1の整数である。
本発明の一態様によれば、有機溶媒への溶解性が向上することに加えて、液-液層分離の操作により、ペプチド縮合反応後の分離、精製が容易であるベンジル化合物を提供することができる。
また、本発明の一態様によれば、DBFを容易に捕捉し、DBF-捕捉体を容易に取り除くことができる。また、本発明で用いる環状アミンは塩基性が低いため、意図しないFmoc基の脱保護を抑制でき、副反応の進行が抑制されることができる。
〔実施形態1〕
[ベンジル化合物]
本発明の実施形態1に係るベンジル化合物は、下記式(X1)
Figure 0007260725000007
で表されるベンジル化合物(X1)である。
mは、置換基(-[Q-R-Q-R])の数を表す。mは、2又は3の整数である。mが2の場合、置換基(-[Q-R-Q-R])は、3位及び5位又は2位及び4位に存在することが好ましい。この場合、2つの置換基(-[Q-R-Q-R])は、2位及び4位に存在することがより好ましい。mが3の場合、隣接する位置に存在することが好ましい。この場合、3つの置換基(-[Q-R-Q-R])は、3位、4位及び5位に存在することがより好ましい。
kは、置換基(-R)の数を示す。kは、0以上(5-m)以下の整数である。具体的には、mが2の場合、kは、0以上3以下の整数であり、mが3の場合、kは、0以上2以下の整数である。
m個のQ及びQは、それぞれ酸素原子を表す。
Xは、ヒドロキシル基を示す。
m個のRは、それぞれ独立して、アルキレン基である。例えば、Rは、炭素数2~16の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基である。当該アルキレン基の炭素数は、本発明のベンジル化合物(X1)に結合させたペプチドを有機溶媒への溶解性を向上させる点から、2以上が好ましく、6以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、また、16以下が好ましく、14以下がより好ましく、12以下がさらに好ましい。当該アルキレン基の具体例として、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ナノメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、テトラデカメチレン基、トリデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ペンタデカメチレン基、ヘキサデカメチレン基等が挙げられる。
m個のRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基である。例えば、Rは、炭素数5~28のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数5~28のアラルキル基、又は置換基を有する炭素数7~12のアリール基である。
該アルキル基の炭素数は、本実施形態に係るベンジル化合物(X1)に結合させたペプチドを有機溶媒への溶解性を向上させる点から、5以上が好ましく、6以上がより好ましく、7以上がさらに好ましく、また、28以下が好ましく、24以下がより好ましく、22以下がさらに好ましい。
また、アルキル基としては、直鎖状のアルキル基(すなわち分岐鎖を有しないアルキル基)、又は総数が1若しくは2の分岐鎖を有するアルキル基であって、具体的には、下記式(XA):
Figure 0007260725000008
で表される基であることが好ましい。
式(XA)中、
*は、隣接するQとの結合位置を示す。以下、同様の説明は、省略する場合がある。nは、0以上16以下の整数であり、nは、0以上16以下の整数である。好ましくは、nは、0以上6以下の整数であり、nは、0以上13以下の整数である。
2a、R2b、R2c、R2d及びR2eは、それぞれ独立して、水素原子、又はアルキル基である。前記のアルキル基は、置換基を有してもよく、この置換基は、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子である。なお、R2a、R2b、R2c及びR2dのうち少なくとも2つ以上は、水素原子である。
上記式(XA)で表される基の具体例として、ペンチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、1-メチル-1-ドデシル基、1-メチル-1-ヘキサデシル基、1-エチル-1-ヘプタデシル基、1-プロピル-1-デシル基、1-ブチル-1-デシル基、2-メチル-1-ドデシル基、2-メチル-1-ヘキサデシル基、2-ブチル-1-オクチル基、2-ブチル-1-ドデシル基、2-ブチル-1-オクタデシル基、2-ヘキシル-1-デシル基、2-ヘキシル-1-ドデシル基、2-ヘプチル-1-ドデシル基、2-オクチル-1-ドデシル基、2-オクチル-1-テトラデシル基、2-デシル-1-テトラデシル基、2-ドデシル-1-テトラデシル基、2-ドデシル-1-ヘキサデシル基、3-メチル-1-テトラデシル基、4-エチル-1-オクチル基、6-メチル-1-ヘプチル基、9-メチル-1-ドデシル基、12-メチル-1-トリデシル基、15-メチル-1-ヘキサデシル基、2-テトラデシル-1-オクタデシル基が挙げられる。
中でも、該アルキル基として、ペンチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2-ブチル-1-オクチル基、2-ヘキシル-1-ドデシル基、2-オクチル-1-ドデシル基、2-デシル-1-テトラデシル基、2-ドデシル-1-ヘキサデシル基等が好ましい例として挙げられる。
置換基を有してもよいアラルキル基の炭素数は、本実施形態に係るベンジル化合物(X1)に結合させたペプチドを有機溶媒への溶解性を向上させる点から、5以上が好ましく、6以上がより好ましく、7以上がさらに好ましく、また、28以下が好ましく、24以下がより好ましく、22以下がさらに好ましい。また、該アリール置換基としては、ハロゲン原子を含む置換基が好ましい。該アルキル基の具体例として6-フェニル-1-ヘキシル基、8-フェニル-1-オクチル基、10-フェニル-1-デシル基、12-フェニル-1-ドデシル基等が挙げられる。
置換基を有してもよいアリール基の炭素数は、本実施形態に係るベンジル化合物(X1)に結合させたペプチドを有機溶媒への溶解性を向上させる点から、6以上が好ましく、7以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、また、16以下が好ましく、14以下がより好ましく、12以下がさらに好ましい。また、該アリール基の置換基としては、置換基を有してもよいアルキル基が好ましく、ハロゲン原子を含むアルキル基がより好ましい。換言すれば、Rは、ハロゲン原子を含む置換基を有するアリールが好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素が挙げられ、このうちフッ素が特に好ましい。
該アリール基の具体例として、3-トリフルオロメチルフェニル基、3,5-ビストリフルオロメチルフェニル基、4-フルオロ-3-トリフルオロメチルフェニル基、4-クロロ-2-フルオロフェニル基、2-イソプロピルフェニル基、2,6-イソプロピルフェニル基、2-sec-ブチルフェニル基、5-イソプロピル-2-メチルフェニル基等が挙げられる。
k個のRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子である。例えば、Rは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又はハロゲン原子である。該アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられ、このうちメチル基が特に好ましい。該アルコキシ基の具体例として、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基等が挙げられ、このうちメトキシ基が特に好ましい。該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられ、このうちフッ素原子が特に好ましい。
<ベンジル化合物の具体例>
(好適な置換基(-[Q-R-Q-R]))
上述した置換基(-[Q-R-Q-R])としては、その有用性を考慮すると、下記式(XB1)乃至(XB3)で表される置換基を好ましいものとして挙げることができる。なお、式(XB1)乃至(XB3)において「*」は、式(X1)内のベンゼン環を構成する炭素原子との結合位置を表す。
Figure 0007260725000009
(好適なベンジル化合物)
上記式(X1)に示すベンジル化合物(X1)としては、その有用性を考慮すると、下記式(X1A)乃至(X1D)で表される化合物を好ましいものとして挙げることができる。
Figure 0007260725000010
式(X1A)で表されるベンジル化合物は、式(X1)で表されるベンジル化合物において、上記式(XB1)で表される3つの置換基が3位、4位及び5位の位置に置換された化合物(3,4,5-トリス(11-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェノキシ)ウンデシル)オキシ)フェニル)メタノール)である。
式(X1B)で表されるベンジル化合物は、式(X1)で表されるベンジル化合物において、上記式(XB2)で表される2つの置換基が2位及び4位の位置に置換された化合物(2,4-ビス((12-((2-オクチルドデシル)オキシ)ドデシル)オキシ)フェニル)メタノール)である。
式(X1C)で表されるベンジル化合物は、式(X1)で表されるベンジル化合物において、上記式(XB2)で表される3つの置換基が3位、4位及び5位の位置に置換された化合物(3,4,5-トリス((12-((2-オクチルドデシル)オキシ)フェニル)メタノール)である。
式(X1D)で表されるベンジル化合物は、式(X1)で表されるベンジル化合物において、上記式(XB3)で表される2つの置換基が2位及び4位の位置に置換された化合物(2,4-ビス((12-((2-デシルテトラデシル)オキシ)ドデシル)オキシ)フェニル)メタノール)である。
[ベンジル化合物の製造方法]
次に、ベンジル化合物(X1)の製造方法の詳細について説明する。以下の説明では、[1]式(X1)のRがアリール基以外の置換基であるベンジル化合物(X1)を製造する方法、及び[2]式(X1)のRがアリール基であるベンジル化合物(X1)を製造する方法に分けてそれぞれを説明する。
[1]Rがアリール基以外の置換基であるベンジル化合物(X1)を製造する方法
本実施形態に係るベンジル化合物(X1)を製造する方法としては、特に限定されるものではない。以下、一例を説明する。例えば、ジアルキルブロマイドとアルキルアルコールとを適当な溶媒に溶解させて塩基存在下に加熱して、アルキルエーテル化されたモノブロマイド得る(以下、「工程Xa1」ともいう。)。得られたモノブロマイドとヒドロキシベンズカルボニル化合物(ヒドロキシベンズアルデヒド化合物とヒドロキシベンズエステル化合物を含む)とを適当な溶媒に溶解させて、炭酸カリウム等の塩基存在下に加熱して、アルキルエーテル化されたベンズアルデヒド化合物又はベンズエステル化合物を得る(以下、「工程Xa2」ともいう。)。その後に、アルキルエーテル化されたベンズアルデヒド化合物又はベンズエステル化合物を適当な溶媒に溶解させて、金属水素化物等の還元剤を用いてホルミル基又はエステル基を還元し(以下、「工程Xa3」ともいう。)、ベンジルアルコール化合物として得る方法が挙げられる。
(工程Xa1)
上記工程Xa1において、ジアルキルブロマイドとアルキルアルコールとの反応に使用する塩基としては、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、リチウムヘキサメチルジシラジド(LHMDS)、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド(NaHMDS)等の有機塩基、水素化ナトリウム(NaH)、水素化リチウム(LiH)等の無機塩基が挙げられる。塩基の使用量は、特に制限されるものではないが、アルキルアルコール1モルに対して、1.0モル以上10モル以下使用することが好ましく、1.0モル以上5モル以下使用することがより好ましい。
溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、4-メチルテトラヒドロピラン(MTHP)、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類、N-メチルピロリドン等のラクタム類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。このうち、反応を円滑に進行させる点で、トルエンを用いることが好ましい。
溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、アルキルアルコール1gに対して、5mL以上100mL以下使用することが好ましく、10mL以上50mL以下使用することがより好ましい。また、混合溶媒を用いる場合は、混合溶媒の合計量が前記の範囲を満足すればよい。以下、同様の説明は、省略する場合がある。
反応温度は、特に制限されるものではないが、例えば、70℃~150℃の範囲で行えばよい。また、反応時間は、特に制限されるものではないが、例えば、1時間~24時間で行えばよい。
(工程Xa2)
上記工程Xa2において、アルキルエーテル化されたモノブロマイドとベンズアルデヒド化合物又はベンズエステル化合物との反応に使用する塩基としては、トリエチルアミン(TEA)、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデカ-7-エン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノン-5-エン(DBN)、1,4-ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン(DABCO)、ピリジン、イミダゾール、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、LDA、酢酸ナトリウム(NaOAc)、ナトリウムメトキシド(MeONa)、カリウムメトキシド(MeOK)、リチウムヘキサメチルジシラジド(LHMDS)、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド(NaHMDS)等の有機塩基、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO),炭酸カリウム(KCO)、炭酸セシウム(CsCO)、ナトリウムヒドリド(NaH)等の無機塩基が挙げられる。この中でも、塩基としては、反応を円滑に進行させる点で、KCOを用いることが好ましい。塩基の使用量は、特に制限されるものではないが、ベンズアルデヒド化合物又はベンズエステル化合物1モルに対して、1モル以上10モル以下使用することが好ましく、2モル以上8モル以下使用することがより好ましい。
溶媒としては、工程Xa1で説明した溶媒を用いてよい。溶媒としては、反応を円滑に進行させる点で、DMF、又は、DMFとCPME若しくはMTHPとの混合溶媒を用いることが好ましく、DMFを用いることがより好ましい。溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、ベンズアルデヒド化合物又はベンズエステル化合物1gに対して、30mL以上200mL以下使用することが好ましく、50mL以上180mL以下使用することがより好ましい。
反応温度は、特に制限されるものではないが、例えば、50℃~150℃の範囲で行えばよい。また、反応時間は、特に制限されるものではないが、例えば、1時間~24時間で行えばよい。
(工程Xa3)
上記工程Xa3において、アルキルエーテル化されたベンズアルデヒド化合物のホルミル基又はベンズエステル化合物のエステル基を還元し、ベンジルアルコール化合物を得るために使用する還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化トリエチルホウ素化リチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化ジイソブチルアルミニウムが挙げられる。なお、ベンズアルデヒド化合物のホルミル基の還元に使用する還元剤としては、水素化ホウ素ナトウムが好ましく、ベンズエステル化合物のエステル基の還元に使用する還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化トリエチルホウ素化リチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化ジイソブチルアルミニウムが好ましい。なお、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いる場合、例えば、該還元剤の還元力を高めるため、ヨウ素、硫酸、ボラントリフルオロエーテラート(BF・EtO)等を共存させて反応させることが好ましい。
溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、THF、CPME、MTHP、ジオキサン等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。ホルミル基の還元に使用する溶媒としては、反応を円滑に進行させる点で、アルコール類及びエーテル類の混合溶媒を用いることが好ましい。溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、ベンズアルデヒド化合物1gに対して、1mL以上100mL以下使用することが好ましく、5mL以上50mL以下使用することがより好ましい。また、アルコール類及びエーテル類の混合溶媒を用いる場合、アルコール類1mLに対して、エーテル類を1mL以上10mL以下使用することが好ましい。
エステル基の還元に使用する溶媒としては、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、THF、CPME、MTHP、ジオキサン等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。メチルエステル基の還元に使用する溶媒としては、反応を円滑に進行させる点で、THF、CPME、MTHPを用いることが好ましい。溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、エステル化合物1gに対して、1mL以上100mL以下使用することが好ましく、5mL以上50mL以下使用することがより好ましい。
反応温度は、特に制限されるものではないが、例えば、-10℃~90℃の範囲で行えばよい。また、反応時間は、特に制限されるものではないが、例えば、1時間~24時間で行えばよい。
[2]式(X1)のRがアリール基であるベンジル化合物(X1)を製造する方法
式(X1)のRにアリール基を持つベンジル化合物を製造する方法としては、特に限定されるものではない。以下、一例を説明する。例えば、ブロモアルキルアルコールと置換基を有するフェノール化合物を塩基存在下に加熱して、アリールエーテル化されたブロモアルキルアルコール化合物を得る(以下、「工程Xb1」ともいう。)。アリールエーテル化されたブロモアルキルアルコールを得た後、水酸基を臭素原子に置換したブロモアルキルアリールエーテル化合物を得る(以下、「工程Xb2」ともいう。)。
得られたブロモアルキルアリールエーテル化合物とヒドロキシベンズアルデヒド化合物又はヒドロキシベンズエステル化合物とを炭酸カリウム等の塩基存在下に加熱して、アルキルエーテル化されたベンズアルデヒド化合物又はベンズエステル化合物を得る(以下、「工程Xb3」ともいう。)。アルキルエーテル化されたベンズアルデヒド化合物又はベンズエステル化合物を得た後に、該化合物を適当な溶媒に溶解させて、還元剤を用いてホルミル基又はエステル基を還元し(以下、「工程Xb4」ともいう。)、ベンジルアルコールとして得る方法が挙げられる。
(工程Xb1)
上記工程Xb1において、ブロモアルキルアルコールと置換基を有するフェノール化合物との反応に使用する塩基としては、TEA、DIPEA、DBU、DBN、DABCO、ピリジン、イミダゾール、DMAP、LDA、NaOAc、MeONa、MeOK、LHMDS、NaHMDS等の有機塩基、NaCO、NaHCO,KCO、CsCO、NaH等の無機塩基が挙げられる。この中でも、塩基としては、反応を円滑に進行させる点で、KCOを用いることが好ましい。塩基の使用量は、特に制限されるものではないが、置換基を有するフェノール化合物1モルに対して、1モル以上10モル以下使用することが好ましく、1モル以上5モル以下使用することがより好ましい。
溶媒としては、工程Xa1で説明した溶媒を用いてよい。溶媒としては、反応を円滑に進行させる点で、DMFを用いることが好ましい。溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、置換基を有するフェノール化合物1gに対して、2mL以上100mL以下使用することが好ましく、4mL以上50mL以下使用することがより好ましい。
反応温度は、特に制限されるものではないが、例えば、40℃~150℃の範囲で行えばよい。また、反応時間は、特に制限されるものではないが、例えば、1時間~24時間で行えばよい。
(工程Xb2)
上記工程Xb2において、アリールエーテル化されたブロモアルキルアルコールの水酸基を臭素原子に変換する反応で使用する試薬としては、トリフェニルホスフィン及び四臭化炭素を含む試薬、あるいは臭化水素酸を含む試薬等が挙げられる。該試薬の使用量は、特に制限されるものではないが、アリールエーテル化されたブロモアルキルアルコール1モルに対して、0.5モル以上10モル以下使用することが好ましく、1モル以上5モル以下使用することがより好ましい。
溶媒としては、工程Xa1で説明した溶媒や、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。溶媒としては、反応を円滑に進行させる点で、ハロゲン化炭化水素類を用いることが好ましい。溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、アリールエーテル化されたブロモアルキルアルコール1gに対して、0.5mL以上100mL以下使用することが好ましく、1mL以上50mL以下使用することがより好ましい。
反応温度は、特に制限されるものではないが、例えば、20℃~150℃の範囲で行えばよい。また、反応時間は、特に制限されるものではないが、例えば、1時間~24時間で行えばよい。
(工程Xb3)
上記工程Xb3において、ブロモアルキルアリールエーテルとベンズアルデヒド化合物又はベンズエステル化合物との反応に使用する塩基としては、工程Xb1で説明した塩基を用いることができる。なお、工程X3bでは、工程X1bで用いた塩基と同一の塩基を用いてもよく、異なる塩基を用いてもよい。但し、製造の効率化やコストの低減に繋がる点で、工程X1bで用いた塩基と同一の塩基を用いることが好ましい。塩基の使用量は、特に制限されるものではないが、ベンズアルデヒド化合物又はベンズエステル化合物1モルに対して、1モル以上50モル以下使用することが好ましく、3モル以上30モル以下使用することがより好ましい。
溶媒としては、工程Xa1で説明した溶媒を用いてよい。溶媒としては、反応を円滑に進行させる点で、DMFを用いることが好ましい。溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、ベンズエステル化合物1gに対して、30mL以上200mL以下使用することが好ましく、50mL以上180mL以下使用することがより好ましい。
反応温度は、特に制限されるものではないが、例えば、40℃~150℃の範囲で行えばよい。また、反応時間は、特に制限されるものではないが、例えば、1時間~24時間で行えばよい。
(工程Xb4)
アルキルエーテル化されたベンズアルデヒド化合物のホルミル基又はベンズエステル化合物のエステル基を還元し、ベンジルアルコール化合物を得るために使用する還元剤としては、上述の工程Xa3で使用する還元剤を用いることができる。
溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、THF、CPME、MTHP、ジオキサン等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。
反応温度は、特に制限されるものではないが、例えば、-10℃~90℃の範囲で行えばよい。また、反応時間は、特に制限されるものではないが、例えば、1時間~24時間で行えばよい。
[ペプチド合成]
本発明のベンジル化合物(X1)をアミノ酸C末端の保護基として用いるペプチド合成方法は、例えば次の工程(X1)~(X5)を含む製法である。このペプチド合成方法は、各縮合工程で得られるC末端保護ペプチドの分離を液-液分離することができることから、精製工程が容易となる。
工程(X1)本発明のベンジル化合物(X1)を、可溶性溶媒に溶解させる工程(溶解工程)、
工程(X2)上記工程で得られた溶媒に溶解された本実施形態に係るベンジル化合物(X1)と反応基質を縮合させる工程(縮合反応工程)、
工程(X3)上記で得られた縮合物を含む反応溶媒に塩基を添加し、反応不要物であるアミノ酸活性エステルの捕捉(スカベンジ)及びペプチドN末端保護基の脱保護を実施し、該保護基由来の副生成物を塩基で捕捉(スカベンジ)する工程(脱保護及びスカベンジ反応工程)、
工程(X4)上記工程で得られた縮合物及びスカベンジ物含む反応液に酸性水溶液を加えて洗浄し、分層して、スカベンジ物及び反応不要物(縮合剤、活性化剤、塩基)を水層へ除去する工程(分層工程)、及び、
工程(X5)ペプチドC末端より本実施形態に係るベンジル化合物(X1)及びペプチド側鎖の保護基を除去し、精製を行い、目的のペプチドを得る工程(脱保護、精製工程)。
以下、それぞれの工程について説明する。以下の説明においては、本実施形態に係るベンジル化合物(X1)(以下、「タグX」とも呼ぶ)にN(Nはアミノ酸のα位のアミノ基を示す)-9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(N-Fmoc)保護アミノ酸の導入、及びタグ-保護ペプチドへN―Fmoc保護アミノ酸の縮合反応を例として記載している。使用するN-Fmoc保護アミノ酸は側鎖に保護基があってもよい。アミノ酸のN末端の保護基としてFmoc基を例としているが、アミノ酸の保護基はこれに限定されるものではない。例えばベンジルオキシカルボニル基(Cbz基)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc基)、アリルオキシカルボニル基(Alloc基)等が挙げられる。
〔工程(X1)(溶解工程)〕
当該工程は、タグXを可溶性溶媒に溶解させる工程である。
可溶性溶媒としては、ペプチド合成に用いられている一般的な有機溶媒を反応に用いることができる。例えば、ジエチルエーテル、THF、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチル-t-ブチルエーテル、CPME、MTHP等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等の酢酸エステル類、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素類が挙げられる。良好な反応性、分液性及び工業的に使用できるとの観点から、メチル-t-ブチルエーテル、CPME、MTHP、酢酸イソプロピル、クロロホルム、トルエンが好ましく、CPME、MTHP、酢酸イソプロピル、トルエンがより好ましく、CPME、MTHPが特に好ましい。
また、上記可溶性溶媒には、反応における基質の溶解性を向上させるため、抽出時における未反応物及び副生成物の水層への溶解性を向上させるため、あるいは分液性を向上させるために、DMF、ジメチルアセトアミド、DMSO、スルホラン、N-メチルピロリドン、N,N‘-ジメチルプロピレン尿素(DMPU),アセトニトリル等の極性溶媒と適宣の割合で混合して使用することが好ましい。
〔工程(X2)(縮合反応工程)〕
当該工程は、上記工程(X1)で得られた可溶性溶媒に溶解したタグXにとN-Fmoc保護アミノ酸を導入し、エステル化反応及びタグX-保護ペプチドへN―Fmoc保護アミノ酸を導入し、アミド化反応を実施する工程である。
N-Fmoc保護アミノ酸の使用量としては、タグX1モルに対して、1~4モル、好ましくは1~2モルであり、特に好ましくは1.05~1.3モルである。
タグXにN-Fmoc保護アミノ酸を導入する反応においては、反応に影響を及ぼさない溶媒中、ジメチルアミノピリジン(DMAP)触媒下、縮合剤を加えることにより、エステル結合が形成される。
また、タグX-保護ペプチドへN―Fmoc保護アミノ酸の縮合反応においては、反応に影響を及ぼさない溶媒中、縮合剤及び活性化剤を加えることにより、アミド結合が形成される。
縮合剤としては、反応が進行すれば特に制限はなく、ペプチド合成において一般的に用いられる縮合剤を用いることができる。
例えば、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホニウムクロリド(DMT-MM)、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU(6-Cl))、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、O-(6-クロロベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TCTU)、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルホリノ-カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)を挙げることができ、好ましくは、DMT-MM、HBTU、HATU、COMU、EDCIまたはEDCI・HClである。縮合剤の使用量は、タグX又はタグX保護ペプチドに対して、通常1~4当量、好ましくは1~2当量、より好ましくは1.05~1.5当量、さらに好ましくは1.05~1.3当量である。
縮合反応工程において、反応を促進し、ラセミ化などの副反応を抑制するために、好ましくは、活性化剤が添加される。ここで活性化剤とは、縮合剤との共存化で、アミノ酸を、対応する活性エステル、対称酸無水物などに導いて、ペプチド結合(アミド結合)を形成させやすくする試薬である。活性化剤としては、ペプチド合成において一般的に用いられる活性化剤が、本発明においても制限なく用いることができ、例えば、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-トリアゾール-4-カルボン酸エチル(HOCt)3-ヒドロキシ-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン(HOOBt)、N-ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、N-ヒドロキシフタルイミド(HOPht)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド(HONb)、ペンタフルオロフェノール、シアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル(Oxyma)等を挙げることができ、好ましくは、HOBt、HOAt、HOCt,HOOBt、HONb、HOSu、Oxymaである。活性化剤の使用量は、タグX保護ペプチドに対して、通常0.1~2当量、好ましくは0.2~1.5当量、より好ましくは0.3~1.0当量である。
縮合反応工程で使用する溶媒は、ペプチド合成において一般的に用いられる溶媒が制限なく用いることができ、これに限定されないが、例えば、前記した可溶性溶媒又は可溶性溶媒と極性溶媒との混合溶媒が挙げられる。
溶媒の使用量は、反応が進行しさえすれば、特に制限はないが、タグX保護ペプチド等を溶解した濃度が、通常0.1mM~1Mとなる量であり、好ましくは1mM~0.5Mとなる量である。
反応温度は、ペプチド合成において一般的に用いられる温度が、本発明においても用いられ、例えば、通常-20~40℃、好ましくは0~30℃の範囲内である。反応時間は、通常0.5~30時間(1残基の縮合時間)である。
〔工程(X3)(脱保護及びスカベンジ反応工程)〕
当該工程は、アミノ酸の縮合反応工程の後に、第1の塩基を反応溶媒に添加することで、未反応のアミノ酸活性エステルを捕捉(スカベンジ)して捕捉体を形成し、不活性化する。さらに第1の塩基及び第2の塩基を加えることで、N-Fmoc保護ペプチドの脱Fmoc基反応を進行させ、Fmoc基由来の副生成物であるジベンゾフルベンについても第1の塩基が捕捉体を形成し、不活性化する。
未反応のアミノ酸活性エステルをスカベンジするために用いる第1の塩基の量は、特に限定はされないが、理論上残存するアミノ酸当量に対して、通常1~5当量、好ましくは1~3当量である。
N-Fmoc保護ペプチドのFmoc基を脱保護するために必要な第2の塩基の量は、反応系中に存在するFmoc基に対して、1当量~12当量が好ましく、2当量~10当量がより好ましく、3当量~8当量が特に好ましい。
脱Fmoc基由来のジベンゾフルベンをスカベンジするために使用する第1の塩基の量は、反応系中に存在するFmoc基に対して5当量~50当量が好ましく、8当量~40当量がより好ましく、10当量~35当量が特に好ましい。
〔工程(X4)(分層工程)〕
当該工程は、上記工程(X3)の溶液に酸性水溶液を加えて中和し、さらに酸性溶液を添加し、第1の塩基の捕捉体及び反応不要物(縮合剤、活性化剤、塩基)を水層へ除去する工程である。第1の塩基にスカベンジされたアミノ酸活性エステル及びジベンゾフルベンは、酸性洗浄により、容易に水層へ除去できる。
中和に使用する酸としては、反応溶液中の塩基を中和できるものであれば限定はされないが、例えば塩酸、硫酸、リン酸、酢酸等の水溶液が挙げられる。例えば塩酸を用いる場合は、1M~12M、好ましくは3M~12M、より好ましくは、5M~12Mの塩酸を用いる。ここでいう中和とは、反応溶液が中性のpHになれば良く、pHが7.0以下になっても良い。
上記酸で中和した反応溶液に、さらに、酸性水溶液を加えて洗浄し、次いで分液し、水層を除去し、有機層を回収する。
用いる酸性水溶液は、特に限定されないが、例えば、塩酸水溶液、希硫酸水溶液、リン酸水溶液、酢酸水溶液が挙げられ、好ましくは塩酸水溶液である。酸性水溶液のpHは1~5、好ましくは1~4、より好ましくは1~3である。
洗浄に用いる酸性水溶液の量は、洗浄効果を示す限り特に制限はないが、反応液に対して、0.1~4倍量、好ましくは0.3~3倍量、より好ましくは0.5~2倍量である。
洗浄、分液、水層の廃棄回数は特に制限はなく、1回でも良く、複数回行っても良い。回数は反応系中の化合物の種類や不要物の量等によって適宣選択される。
洗浄を行う際の温度は、特に制限はないが、10℃~50℃、好ましくは15℃~45℃、より好ましくは20℃~40℃である。
当該工程は基本的に酸性水溶液により、第1の塩基の捕捉体及び不要物の除去をおこなうが、酸性水溶液による洗浄以外に他の洗浄工程を追加しても良い。例えば弱塩基性での洗浄や食塩水での洗浄が挙げられる。
弱塩基性水溶液としては、例えばpH8~12の炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液又は炭酸カリウム水溶液等を挙げることができる。
食塩水としては5wt%~飽和食塩水を挙げることができる。
〔工程(X5)(脱保護、精製工程)〕
当該工程は、ペプチドC末端よりタグX及びペプチド側鎖の保護基を除去し目的のペプチドを得る工程である。
ペプチドC末端よりタグX及びペプチド側鎖の保護基を除去する方法としては、特に限定はなく、公知の脱保護方法を使用すればよいが、好ましくは酸処理により行われる。例えばトリフルオロ酢酸(TFA)を用いた脱保護法を用いることができる。
アミノ酸配列によってはTFAに水、チオアニソール、1,2-エタンジチオール、フェノール、トリイソプロピルシラン等の分子を適宣な組成で組み合わせて使用しても良い。
脱保護されたペプチドは、ペプチド合成で常用される精製方法に従って、単離、精製することができる。例えば、抽出洗浄、晶析、クロマトグラフィーによって、目的であるペプチドを単離精製することができる。
〔実施形態2〕
[ベンジル化合物]
本発明の実施形態2に係るベンジル化合物は、下記式(Y1)
Figure 0007260725000011
であらわされるベンジル化合物(Y1)である。式中、
m個のQは、それぞれ酸素原子を表す。
また、式(Y1)で表されるベンジル化合物の総炭素数は、好ましくは、30以上80以下であり、より好ましくは、40以上60以下である。
(R
発明者らは、上記式(Y1)で表されるベンジル化合物を用いて、液相タグ法により、ぺプチドを合成するにあたり、特に疎水性の高いベンジル化合物を用いてペプチド合成を実施した場合、ペプチド鎖長が長くなるに従い、反応終了後の分離・精製の工程(後述する、「分液工程」参照。)に係る分液操作において、分液不良(有機層と水層とを攪拌後、再度、有機層と水層とに分離するまでに長時間を有する)を引き起こすことを確認した(後述する比較例Y3、及び表Y4参照。)。
本分液不良は、疎水性の高いベンジル化合物にペプチドが結合した成分を含む有機層と水層とが分液時にエマルション(ミセル構造)を形成するためと推測している。そのため、分液操作を良好に行う観点から、ベンジル化合物の疎水性は、高すぎないことが好ましい。ベンジル化合物の疎水性は、例えば、R及びRに含まれる炭素の数で調整することができる。
本実施形態では、例えば、上記式(Y1)中のm個のRの炭素数(以下、「側鎖炭素数」ともいう。)は、それぞれ24~84の範囲であることが好ましく、側鎖炭素数が30~72であることがより好ましく、側鎖炭素数が36~48であることが特に好ましい。また、該m個のRは、それぞれ、総数が1又は2の分岐鎖を有する。また、該m個のRは、それぞれ、アルキル基である。
すなわち、Rは、総数が1つ又は2つの分岐鎖を有するアルキル基であり、総数が1つ又は2つの分岐鎖を有し、炭素総数が24~84のアルキル基であることが好ましく、総数が1つ又は2つの分岐鎖を有し、側鎖炭素数が30~72のアルキル基であることがより好ましく、総数が1つ又は2つの分岐鎖を有し、側鎖炭素数が36~48のアルキル基であることが特に好ましい。
また、上記の中でも、Rとしては、総数が1つの分岐鎖を有するアルキル基であることが特に好ましく、該分岐鎖の位置としては、Qに対して1~7位の位置に存在することが好ましく、Qに対して1~4位の位置に存在することがより好ましく、Qに対して2位の位置に存在することがさらに好ましい。また、Rが2つの分岐鎖を有する場合、これら2つの分岐鎖は、互いに炭素0~6個分、離間して存在し、好ましくは、炭素0~3個分、離間して存在する。
また、上記の分岐鎖は、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基である。中でも、分岐鎖は、置換基を有してもよい、炭素数2~12のアルキル基が好ましく、置換基を有してもよい、炭素数4~10のアルキル基がより好ましい。この置換基としては、例えば、フッ素、塩素等のハロゲン原子である。
上記をまとめると、m個のRは、具体的には、それぞれ独立して、下記式(YA):
Figure 0007260725000012
であらわされる基であることが好ましい。式(YA)中、
*は、結合位置を示す。以下、同様の説明は省略する場合がある。
は、0以上6以下の整数であり、nは、0以上6以下の整数である。好ましくは、nは、0以上3以下の整数を示し、nは、0以上3以下の整数である。なお、該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基であり該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基である。
1a、R1b、R1c、R1d及びR1eは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基である。前記のアルキル基は、置換基を有してもよく、この置換基は、例えば、フッ素、塩素等のハロゲン原子である。但し、R1a、R1b、R1c及びR1dのうち少なくとも2つ以上は水素原子である。ここで、R1a、R1b、R1c及びR1dは、全てが水素原子であってもよいが、好ましくは、R1a、R1b、R1c及びR1dの全てが水素原子である場合を除く。上記式(YA)で表される基の具体例は、上記式(XA)で表される基の具体例と同義であるため、その説明を省略する。
特に、Rは、1つの分岐鎖を有する有機基であって、当該分岐鎖がQに対して2位の位置に存在するものが好ましい。すなわち、m個のRは、それぞれ独立して、下記式(YA’):
Figure 0007260725000013
で表される基であることが好ましい。
ここで、前記R1fの炭素数と前記R1gの炭素数との差は、2であることが好ましい。また、R1fは、置換基を有してもよい、炭素数4以上12以下の直鎖状のアルキル基であることが好ましく、置換基を有してもよい、炭素数4以上10以下の直鎖状のアルキル基であることがより好ましく、置換基を有してもよい、炭素数6の直鎖状のアルキル基であることが最適である。この置換基としては、例えば、フッ素、塩素等のハロゲン原子である。
1gは、置換基を有してもよい、炭素数6以上14以下の直鎖状のアルキル基であることが好ましく、置換基を有してもよい、炭素数6以上12以下の直鎖状のアルキル基であることがより好ましく、置換基を有してもよい、炭素数8の直鎖状のアルキル基であることが最適である。この置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子である。
すなわち、上記(YA’)で表される基として、2-n-ブチル-1-オクチル基、2-へキシル-1-デシル基、2-オクチル-1-ドデシル基、2-デシル-1-テトラデシル基、2-ドデシル-1-ヘキサデシル基等が好ましい例として挙げられる。
(R
k個のRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、又はハロゲン原子である。k個のRの具体例としては、実施形態1におけるk個のRについて上述した具体例と同じものが挙げられる。k個のRは、水素原子であることがより好ましい。
Xは、ヒドロキシル基を表す。
mは、2又は3の整数を表す。
kは、0以上(5-m)以下の整数を示し、
m個の[Q-R]のうち少なくとも1つは、前記Xを含む置換基に対してメタ位に置換されていることが好ましい。
式(Y1)で表されるベンジル化合物は、長鎖のペプチド合成におけるタグとして用いることが特に好ましい。例えば、式(Y1)で表されるベンジル化合物は、ペプチドの残基数が5以上のペプチドの合成に用いることが好ましく、残基数が7以上のペプチドの合成に用いることが好ましく、残基数が10以上のペプチドの合成に用いることがさらに好ましい。
<ベンジル化合物の具体例>
(好適な置換基(-[Q-R])
上述した置換基(-[Q-R])としては、その有用性を考慮すると、下記式(YB1)乃至(YB3)で表される置換基を好ましいものとして挙げることができる。なお、式(YB1)乃至(YB3)において「*」は、式(Y1)内のベンゼン環を構成する炭素原子との結合位置を表す。
Figure 0007260725000014
(好適なベンジル化合物)
上記式(Y1)に示すベンジル化合物(Y1)としては、その有用性を考慮すると、下記式(Y1A)乃至(Y1D)で表される化合物を好ましいものとして挙げることができる。
Figure 0007260725000015
式(Y1A)で表されるベンジル化合物は、式(Y1)で表されるベンジル化合物において、上記式(YB1)で表される3つの置換基が、ヒドロキシル基(-OH)に対して3位、4位及び5位の位置にそれぞれ置換された化合物(3,4,5-トリス((2-ブチルオクチル)オキシ)フェニル)メタノールである。
式(Y1B)で表されるベンジル化合物は、式(Y1)で表されるベンジル化合物において、上記式(YB2)で表される3つの置換基が、ヒドロキシル基(-OH)に対して3位、4位及び5位の位置にそれぞれ置換された化合物(3,4,5-トリス((2-ヘキシルデシル)オキシ)フェニル)メタノールである。
式(Y1C)で表されるベンジル化合物は、式(Y1)で表されるベンジル化合物において、上記式(YB3)で表される3つの置換基が、ヒドロキシル基(-OH)に対して3位、4位及び5位の位置にそれぞれ置換された化合物(3,4,5-トリス((2-デシルテトラデシル)オキシ)フェニル)メタノールである。
式(Y1D)で表されるベンジル化合物は、式(Y1)で表されるベンジル化合物において、上記式(YB3)で表される3つの置換基が、ヒドロキシル基(-OH)に対して3位及び5位の位置にそれぞれ置換された化合物(3,5-ビス((2-デシルテトラデシル)オキシ)フェニル)メタノールである。
[ベンジル化合物の製造方法]
次に、ベンジル化合物(Y1)の製造方法の詳細について説明する。
本実施形態に係るベンジル化合物(Y1)を製造する方法としては、特に限定されるものではない。以下、一例を説明する。例えば、アルキルハライドとヒドロキシベンズエステル化合物とを適当な溶媒に溶解させて、炭酸カリウム等の塩基存在下に加熱して、アルキルエーテル化されたベンズエステル化合物を得る(以下、「工程Ya1」ともいう。)。ここで、アルキルハライドは、アルキル基の先端にハロゲン原子が結合した化合物である。このハロゲン原子としては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素等が該当し、反応性を考慮すると、好ましくは、臭素又はヨウ素であり、さらにコストを考慮すると、臭素がより好ましい。すなわち、アルキルハライドとしては、アルキルブロマイド又はアルキルヨードが好ましく、アルキルブロマイドがより好ましい。アルキルハライドは、市販品を用いても良く、アルキルハライドの原料に相当するヒドロキシル体を公知の方法でハロゲン化したものを用いても良い。
本実施形態では、アルキルブロマイドとヒドロキシベンズエステル化合物とを適当な溶媒に溶解させて、炭酸カリウム等の塩基存在下に加熱して、アルキルエーテル化されたベンズエステル化合物を得る。なお、該アルキルブロマイドは市販品を用いても良く、またアルキルブロマイドの原料に相当するヒドロキシル体を公知の方法でブロモ化したものを用いても良い。その後に、アルキルエーテル化されたベンズエステル化合物を適当な溶媒に溶解させて、金属水素化物等の還元剤を用いてエステル基を還元し(以下、「工程Ya2」ともいう。)、ベンジルアルコール化合物として得る方法が挙げられる。
(工程Ya1)
上記工程Ya1において、アルキルブロマイドとヒドロキシベンズエステル化合物との反応に使用する塩基としては、トリエチルアミン(TEA)、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデカ-7-エン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ〔4.3.0〕ノン-5-エン(DBN)、1,4-ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン(DABCO)、ピリジン、イミダゾール、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、酢酸ナトリウム(NaOAc)、ナトリウムメトキシド(MeONa)、カリウムメトキシド(MeOK)、リチウムヘキサメチルジシラジド(LHMDS)、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド(NaHMDS)等の有機塩基、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO),炭酸カリウム(KCO)、炭酸セシウム(CsCO)、ナトリウムヒドリド(NaH)等の無機塩基が挙げられる。この中でも、塩基としては、反応を円滑に進行させる点で、KCOを用いることが好ましい。塩基の使用量は、特に制限されるものではないが、ヒドロキシベンズエステル化合物1モルに対して、1モル以上10モル以下使用することが好ましく、2モル以上8モル以下使用することがより好ましい。
溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、4-メチルテトラヒドロピラン(MTHP)、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類、N-メチルピロリドン等のラクタム類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。このうち、反応を円滑に進行させる点で、DMF又はDMFとCPMEとの混合溶媒を用いることが好ましい。溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、ヒドロキシベンズエステル化合物1gに対して、10mL以上200mL以下使用することが好ましく、15mL以上150mL以下使用することがより好ましい。
反応温度は、特に制限されるものではないが、例えば、50℃~150℃の範囲で行えばよい。また、反応時間は、特に制限されるものではないが、例えば、1時間~24時間で行えばよい。
(工程Ya2)
上記工程Ya2において、アルキルエーテル化されたベンズエステル化合物のエステル基を還元し、ベンジルアルコール化合物を得るために使用する還元剤としては、例えば、金属水素化合物を用いてよい。金属水素化合物としては、水素化13族アルカリ金属化合物が好ましい。具体的には、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化トリエチルホウ素化リチウム等の水素化ホウ素アルカリ金属化合物や、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化ジイソブチルアルミニウム等の水素化アルミニウム化合物が挙げられる。還元剤の使用量は、特に制限されるものではないが、アルキルエーテル化されたベンズエステル化合物1モルに対して、1モル以上10モル以下使用することが好ましく、2モル以上5モル以下使用することがより好ましい。
なお、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いる場合、例えば、該還元剤の還元力を高めるため、ヨウ素、硫酸、ボラントリフルオロエーテラート(BF・EtO)等を共存させて反応させることが好ましい。
アルキルエーテル化されたベンズエステル化合物のエステル基の還元に使用する溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、THF、CPME、MTHP、ジオキサン等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、またはこれらの混合溶媒が挙げられる。これらの中でも特に、メチルエステル基の還元に使用する溶媒としては、反応を円滑に進行させる点で、THF、CPME、MTHPを用いることが好ましい。溶媒の使用量は、特に制限されるものではないが、エステル化合物1gに対して、1mL以上100mL以下使用することが好ましく、5mL以上50mL以下使用することがより好ましい。
反応温度は、特に制限されるものではないが、例えば、-10℃~90℃の範囲で行えばよい。また、反応時間は、特に制限されるものではないが、例えば、1時間~24時間で行えばよい。
[ペプチド合成]
本発明のベンジル化合物(Y1)をアミノ酸C末端の保護基(すなわち、タグ)として用いるペプチド合成方法は、例えば次の工程(Y1)~(Y6)を含む製法である。このペプチド合成方法は、縮合反応工程及びペプチド伸長工程で得られる、アミノ酸のC末端が保護されたペプチド(以下、「C末端保護ペプチド」ともいう。)の分離を液-液分離することができることから、精製工程が容易となる。
工程(Y1)本発明のベンジル化合物(Y1)を、可溶性溶媒に溶解させる工程(溶解工程)、
工程(Y2)上記工程で得られた該可溶性溶媒に縮合剤及び活性化剤を添加し、該可溶性溶媒に溶解されたベンジル化合物(Y1)と、N末端がN末端保護基により保護された第1のアミノ酸(以下、「N末端保護アミノ酸」ともいう。)とを縮合して第1の縮合物を生成する工程(縮合反応工程)、
工程(Y3)上記工程(Y2)で得られた第1の縮合物(前記のN末端保護アミノ酸と前記のベンジル化合物(Y1)から-OH基を除いたものとが縮合したもの)を含む可溶性溶媒(反応溶媒)に第1の塩基を添加し、残存したアミノ酸活性エステル(工程(Y2)の余剰分のアミノ酸のC末端のカルボン酸に縮合剤、ついで活性化剤が反応したもの)をスカベンジ(捕捉)し、さらに可溶性溶媒(反応溶媒)に第1の塩基及び第2の塩基を添加し、第1の縮合物を構成するN末端保護アミノ酸からのN末端保護基の脱保護を実施し、該N末端保護基由来の副生成物(ジベンゾフルベン)を第1の塩基でスカベンジする工程(脱保護及びスカベンジ反応工程)、
工程(Y4)上記工程(Y3)で得られた第2の縮合物(第1の縮合物からN末端保護基が外れた縮合物をいう)、捕捉体(第1の塩基とアミノ活性エステルとが結合したもの、及び第1の塩基とジベンゾルフルベンとが結合したものを含む総称をいう)及び反応不要物(縮合剤由来の副生成物、活性化剤、塩基、水溶性有機溶媒)を含む反応液(可溶性溶媒)へ酸性水溶液を加えて洗浄し、水層と有機層とに分液して、捕捉体及び反応不要物を水層へ除去し、前記水層から分離された有機層(反応溶媒)に、上記工程(Y3)の第1の縮合物からN末端保護基が脱保護された第2の縮合物(すなわち、C末端保護ペプチド)を得る工程(分液工程)、
工程(Y5)上記工程(Y4)で得られた第2の縮合物を含む反応溶媒にN末端が保護された第2のアミノ酸を加えて、工程(Y2)と同様の方法で、第2の縮合物とN末端が保護された第2のアミノ酸とを縮合させて第3の縮合物を得る縮合反応に続き、工程(Y3)及び工程(Y4)と同様の方法を施し、前記の第3の縮合物からN末端保護基が脱保護された第4の縮合物を得る工程(ペプチド伸長工程)。
工程(Y5)は、以下のサブ工程(Y5-1)乃至工程(Y5-3)を繰り返す工程を含む:
工程(Y5-1)N末端が保護されていないアミノ酸と、C末端がベンジル化合物(Y1)で保護されたアミノ酸とを含み、総数(「残基数」ともいう)がn個(nは、2以上の自然数であり、好ましくは5以上の自然数である)のアミノ酸を含んでなる第2nの縮合物に、N末端が保護された第nのアミノ酸を縮合して残基数(n+1)個のアミノ酸を含んでなる第(2n+1)の縮合物を生成する工程、
工程(Y5-2)残存したアミノ酸活性エステルをスカベンジし、次いで第(2n+1)の縮合物からN末端保護基の脱保護を実施して、該N末端保護基由来の副生成物をスカベンジする工程、及び、
工程(Y5-3)可溶性溶媒に酸性水溶液を加えて洗浄し、分液して、捕捉体及び反応不要物を水層へ除去し、有機層(反応溶媒)に上記工程(Y5-2)で得られた第(2n+2)の縮合物(第(2n+1)の縮合物からN末端保護基が外れて脱保護された縮合物をいう)を得る工程、並びに、
工程(Y6)工程(Y5)で得られたペプチドのC末端よりベンジル化合物(Y1)及びペプチド側鎖の保護基を除去し、精製を行い、目的のペプチドを得る工程(脱保護、精製工程)。
なお、工程(Y5)は、工程(Y2)~(Y4)を繰り返すことによって実施されてもよい。換言すれば、工程(Y2)がサブ工程(Y5-1)を含んでおり、工程(Y3)がサブ工程(Y5-2)を含んでおり、工程(Y4)がサブ工程(Y5-3)を含んでおり、このような工程(Y2)~(Y4)を繰り返すことによって、サブ工程(Y5-1)~(Y5-3)を含む工程(Y5)が実施されてもよい。
以下、それぞれの工程について説明する。以下の説明においては、実施形態1に係るベンジル化合物(X1)に代わり、ベンジル化合物(Y1)(以下、「タグY」とも呼ぶ)を用いる場合を例として記載している。
〔工程(Y1)(溶解工程)〕
当該工程は、ベンジル化合物(Y1)を可溶性溶媒に溶解させる工程である。工程(Y1)は、上述した工程(X1)と同様に実施することができるため、その詳細な説明を省略する。
〔工程(Y2)(縮合反応工程)〕
当該工程は、上記工程(Y1)で得られた可溶性溶媒に溶解したタグYとN-Fmoc保護アミノ酸を導入し、エステル化反応及びタグY-保護ペプチドへN―Fmoc保護アミノ酸を導入し、アミド化反応を実施する工程である。工程(Y2)は、上述した工程(X2)と同様に実施することができるため、その詳細な説明を省略する。
〔工程(Y3)(脱保護及びスカベンジ反応工程)〕
当該工程は、アミノ酸の縮合反応工程の後に、第1の塩基を反応溶媒に添加することで、未反応のアミノ酸活性エステルを捕捉(スカベンジ)して捕捉体を形成し、不活性化する。さらに第1の塩基及び第2の塩基を加えることで、N-Fmoc保護アミノ酸の脱Fmoc基反応を進行させ、Fmoc基由来の副生成物であるジベンゾフルベンについても第1の塩基が捕捉体を形成し、不活性化する。工程(Y3)は、上述した工程(X3)と同様に実施することができるため、その詳細な説明を省略する。
〔工程(Y4)(分液工程)〕
当該工程は、上記工程(Y3)の溶液に酸性水溶液を加えて中和し、第1の塩基の捕捉体及び反応不要物(縮合剤、活性化剤、塩基、水溶性有機溶媒)を分液により水層へ除去する工程である。第1の塩基にスカベンジされたアミノ酸活性エステル及びジベンゾフルベンは、酸性洗浄により、水層へ除去できる。
中和に使用する酸としては、反応溶液中の塩基を中和できるものであれば限定はされないが、例えば塩酸、硫酸、リン酸、酢酸等の水溶液が挙げられる。例えば塩酸を用いる場合は、0.5M~12M、好ましくは1M~12M、より好ましくは、1M~6Mの塩酸を用いる。ここでいう中和とは、反応溶液が中性のpHになれば良く、pHが7.0以下になっても良い。また、分液性を良くするために、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系の分液促進溶媒をさらに加えてもよい。発明者らは、分液性が低下する原因として、タグY-ペプチド分子同士が疎水性相互作用及び水素結合により会合し、ミセル構造が形成されることによって分液性が低下すると推測している。上述の分液促進溶媒を加えることによって、タグYの側鎖間の疎水性相互作用あるいはペプチド分子間の水素結合を弱めて、ミセル構造の形成が抑制されるため、分液性が向上するものと推定される。なお、分液促進溶媒を加える工程に代えて又は該工程とともに、工程(Y3)の溶液を加熱する工程を行うことも分液性を向上させる点で有効である。
上記酸で中和した反応溶液に、さらに、酸性水溶液を加えて洗浄し、次いで分液し、水層を除去し、有機層を回収する。酸性水溶液を用いた洗浄は、上述した工程(X4)における洗浄と同様に実施することができるため、その詳細な説明を省略する。
当該工程(Y4)は基本的に酸性水溶液により、第1の塩基の捕捉体及び不要物の除去をおこなうが、酸性水溶液による洗浄では除きにくい不要物がある場合に、他の洗浄工程を酸性水溶液による洗浄の前後に追加しても良い。例えば塩基性水溶液での洗浄や食塩水での洗浄が挙げられる。
塩基性水溶液としては、例えばpH8~13の炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液又は炭酸カリウム水溶液等を挙げることができる。
食塩水としては5wt%~飽和食塩水を挙げることができる。酸性水溶液による洗浄後、塩基性水溶液による洗浄をおこない、溶液のpHを中性~弱塩基性とする。塩基性水溶液としては前記の水溶液をあげることができる。
〔工程(Y5)(ペプチド伸長工程)〕
当該工程は、上記工程で得られたタグY-保護ペプチドを含む反応溶媒にN末端が保護されたアミノ酸を加えて、上記工程(Y5-1)~工程(Y5-3)を繰り返し、ペプチドを伸長する工程である。ただし、該工程の縮合反応には、上記工程(Y2)で使用したDMAPは使用せず、下記に明示する活性化剤を使用する。
N-Fmoc保護アミノ酸の使用量としては、ベンジル化合物(Y1)1モルに対して、1~4モル、好ましくは1~2モルであり、特に好ましくは1.05~1.5モルである。
ペプチド伸長工程において、使用する縮合剤は工程(Y2)に記載の縮合剤と同様のものを用いることができる。
ペプチド縮合反応を促進し、ラセミ化などの副反応を抑制するために、好ましくは、活性化剤が添加される。ここで活性化剤とは、縮合剤との共存化で、アミノ酸を、対応する活性エステル、対称酸無水物などに導いて、ペプチド結合(アミド結合)を形成させやすくする試薬である。活性化剤としては、ペプチド合成において一般的に用いられる活性化剤が、本発明においても制限なく用いることができ、例えば、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、1-ヒドロキシ-1H-1,2,3-トリアゾール-4-カルボン酸エチル(HOCt)3-ヒドロキシ-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン(HOOBt)、N-ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、N-ヒドロキシフタルイミド(HOPht)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド(HONb)、ペンタフルオロフェノール、シアノ(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル(Oxyma)等を挙げることができ、好ましくは、HOBt、HOAt、HOCt,HOOBt、HONb、HOSu、Oxymaである。活性化剤の使用量は、タグY保護ペプチドに対して、通常0.1~2当量、好ましくは0.2~1.5当量、より好ましくは0.3~1.0当量である。
ペプチド伸長工程で使用する溶媒は、ペプチド合成において一般的に用いられる溶媒が制限なく用いることができ、これに限定されないが、例えば、工程(Y1)に記載した可溶性溶媒又は可溶性溶媒と極性溶媒との混合溶媒が挙げられる。
溶媒の使用量は、反応が進行しさえすれば、特に制限はないが、タグY保護ペプチド等を溶解した濃度が、通常0.1mM~1Mとなる量であり、好ましくは1mM~0.5Mとなる量である。
反応温度は、ペプチド合成において一般的に用いられる温度が、本発明においても用いられ、例えば、通常-20~40℃、好ましくは0~30℃の範囲内である。反応時間は、通常0.5~30時間(1残基の縮合時間)である。
〔工程(Y6)(脱保護、精製工程)〕
当該工程は、ペプチドC末端よりベンジル化合物(Y1)及びペプチド側鎖の保護基を除去し目的のペプチドを得る工程である。工程(Y6)は、上述した工程(X5)と同様に実施することができるため、その詳細な説明を省略する。
〔実施形態3〕
以下、本発明に係る実施形態3について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
なお、以下、説明の便宜上、<1>N末端がフルオレン骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物から前記の保護基を除去する除去方法、<2>前記の保護基を除去する工程を含むペプチドの製造方法、<3>前記の保護基の除去剤の順にそれぞれ詳細を説明する。
<1>保護基の除去方法
本実施形態に係る保護基の除去方法は、有機溶媒中、N末端がフルオレン骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物と、捕捉剤と、を接触させて、前記保護基由来のフルベン骨格を有する副生成物と前記捕捉剤とが結合した捕捉体を得る工程と、得られた前記捕捉体を前記有機溶媒から分離する工程と、を含む。
(アミノ基含有化合物)
アミノ基含有化合物とは、第1級アミノ基又は第2級アミノ基を有する化合物を意味する。アミノ基含有化合物は、例えば、単体のアミノ酸や、複数のアミノ酸がペプチド結合して形成されたペプチド、アミノ酸等を含む。
(フルオレン骨格を有する保護基)
フルオレン骨格を有する保護基は、アミノ基含有化合物のN末端のアミノ基中の窒素原子に結合して該アミノ基含有化合物のN末端を保護する基である。この保護基は、下記式(Z2)で表される、フルオレンの構造を含む1価の保護基である。
Figure 0007260725000016
式(Z2)において、Rは、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキルオキシカルボニル基である。R5a~R5d、及びR6a~R6dは、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1~6のアルコキシ基、置換基を有してもよいスルホン基、又は置換基を有してもよいスルホニル基である。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルキル基があげられる。「*」は、アミノ基含有化合物のN末端のアミノ基との結合位置を表す。
は、好ましくは、炭素数1~3のアルキルオキシカルボニル基であり、中でもより好ましくは、メチルオキシカルボニル基である。R5a~R5d、及びR6a~R6dは、好ましくは、それぞれ水素原子である。
すなわち、上記式(Z2)で表されるフルオレン骨格を有する保護基としては、その有用性を考慮すると、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc基)をその好適な例として挙げることができる。
N末端がフルオレン骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物とは、アミノ基含有化合物が有する第1級アミノ基又は第2級アミノ基の少なくとも一つが、前記のフルオレン骨格を有する保護基で保護された化合物を意味する。
(捕捉剤)
捕捉剤は、前記のアミノ基含有化合物から脱保護された保護基と結合することにより該保護基を捕捉して、捕捉体(式(Z3)参照)を生成する反応剤である。捕捉剤は、脱保護された保護基を捕捉する機能に加えて、前記の保護基で保護されたアミノ基含有化合物から該保護基を脱保護する機能も有している。捕捉剤は、下記式(Z1)で表される化合物である。すなわち、捕捉剤は、窒素原子を1つ含む環状アミン(式(Z1A)参照)、及び該環状アミンを含む塩酸塩(式(Z1B)参照)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である。
Figure 0007260725000017
式(Z1)において、Nは、窒素原子である。Hは、水素原子である。
Xは、-CH-、-O-、-S-、又は-(SO)-で表される2価の基である。Xは、好ましくは、-O-又は-(SO)-である。Xに酸素原子を含めることで、塩基性が低くなり、これにより副反応を抑制することができる。Xは、最適には、-O-である。
個のR1a、n個のR1b、n個のR2a、n個のR2b、n個のR3a、及びn個のR3bは、それぞれ独立して、H、-OH、-OR(Rはアルキル基である。)、-SH、-SR(Rは、前記-ORのものと同義である。)、-(SO)H、又は-(SO)R(Rは、前記-ORのものと同義である。)で表される1価の基である。また、R2a又はR2bと、R3a又はR3bと、は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよい。
個のR1a、n個のR1b、n個のR2a及びn個のR2bのうち、窒素原子と隣り合う炭素原子に結合するものは、水素原子であることが好ましい。捕捉剤の安定性が高まるためである。また、n個の一対のR1a及びR1b、n個の一対のR2a及びR2b及びn個の一対のR3a及びR3bは、それぞれ一方が水素原子であることが好ましい。最適には、n個のR1a、n個のR1b、n個のR2a、n個のR2b、n個のR3a、及びn個のR3bは、それぞれ水素原子である。
、n及びnは、それぞれ独立して、1又は2である。n、n及びnの和は、3又は4であることが好ましい。すなわち、式(Z1)で表される捕捉剤としては、下記式(Z1a)又は式(Z1b)で表されるものであることが好ましい。式(Z1a)で表される捕捉剤は、式(Z1)において、n、n及びnの和が3の化合物である。式(Z1b)で表される捕捉剤は、式(Z1)において、n、n及びnの和が4の化合物である。mは、0又は1の整数である。
Figure 0007260725000018
Figure 0007260725000019
上記式(Z1a)及び(Z1b)において、N、H、X、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、n、n、n及びmは、式(Z1)のものと同義である。
mが0の場合、捕捉剤は、下記式(Z1A)で表される窒素原子を1つ含む環状アミンである。mが1の場合、捕捉剤は、下記式(Z1B)で表される塩酸塩である。なお、好ましくは、mは、0である。
Figure 0007260725000020
Figure 0007260725000021
上記式(Z1A)及び(Z1B)において、N、H、X、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、n、n、及びnは、式(Z1)のものと同義である。
すなわち、捕捉剤は、環状であって、かつ、酸素元素又は硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含むアミンである。このアミンは、水溶性のものであることが好ましい。また、該捕捉剤は、1級又は2級のアミンであることが好ましい。
(好適な捕捉剤)
上記式(Z1)で表される捕捉剤は、好ましくは、アミノ基を1つ有する環状アミンである。捕捉剤は、例えば、モルホリン、ピペリジン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、及びチオモルホリンジオキシドからなる群より選択される少なくとも1種であり、好ましくは、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、及びチオモルホリンジオキシドからなる群より選択される少なくとも1種であり、より好ましくは、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、及び4-ヒドロキシピペリジンからなる群より選択される少なくとも1種であり、より好ましくは、モルホリンである。
捕捉剤の添加量は、反応系に存在する保護基の量に対して、5~100当量であり、好ましくは5~50当量であり、より好ましくは10~30当量である。捕捉剤の添加量がこの範囲より少ないと、フルオレン骨格を有する保護基の脱保護反応により生じるフルベン骨格を有する副生成物の捕捉が不十分となり、不純物を酸性分液洗浄で除去しにくくなる。捕捉剤の添加量がこの範囲より多いと、酸性分液洗浄時に有機層に捕捉剤が残存し、副反応の懸念がある。
(有機溶媒)
アミノ基含有化合物と上記式(Z1)で表される捕捉剤との接触は、有機溶媒中で行われる。この有機溶媒は、後述する液相タグ法において、ペプチドの伸長(合成)反応に用いる反応溶媒と同一の溶媒を用いることが好ましい。順次ペプチドの伸長反応を繰り返す際に、保護基の除去とペプチドの伸長との間で互いに悪影響を与えないようにでき、また、操作を容易とするためである。有機溶媒としては、工程(X1)について上述した可溶性溶媒と同様のものと使用することができるため、その詳細な説明を省略する。
(接触させる方法)
各成分を接触させる方法は、特に制限されるものではない。例えば、攪拌機構を備えた反応容器内で各成分を混合してよい。各成分を混合することにより、アミノ基含有化合物と捕捉剤とを接触させることができる。各成分を混合する手順は、特に制限されない。例えば、アミノ基含有化合物を有機溶媒中で合成した後、このアミノ基含有化合物を含む有機溶媒(以下、「反応溶液」ともいう。)に捕捉剤を混合してもよい。
〔脱保護剤〕
保護基の脱保護反応を促進するために、脱保護剤をさらに混合してもよい。脱保護剤を混合することにより、アミノ基含有化合物と脱保護剤とを接触させることができる。脱保護剤としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1.5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1、4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)トリエチルアミン、及びトリブチルアミン等の有機塩基、並びに、カリウムtert-ブトキシド、及びナトリウムtert-ブトキシド等の無機塩基からなる群より選択される少なくとも1種の塩基を挙げることができ、より好ましくは、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1.5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1、4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)であり、さらに好ましくは、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)である。
本工程において添加する脱保護剤の量は、反応系中に存在する保護基に対して、1当量~12当量が好ましく、2当量~10当量がより好ましく、3当量~8当量が特に好ましい。
脱保護剤を添加する手順は特に制限されるものではない。例えば、捕捉剤とともに反応溶液に混合してもよく、捕捉剤を反応溶液に混合する前に脱保護剤を反応溶液に混合してもよい。
(捕捉体)
アミノ基含有化合物と上記式(Z1)で表される捕捉剤とを接触させることにより、下記式(Z3)で表される捕捉体を得る。この捕捉体は、下記式(Z2’)で表されるフルベン骨格を有する副生成物と上記式(Z1)で表される捕捉剤とが結合したものである。下記式(Z2’)で表される副生成物は、式(Z2)で表される保護基の脱保護により生じるものである。
Figure 0007260725000022
Figure 0007260725000023
上記式(Z2’)及び式(Z3)において、N、H、X、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、R5a、R5b、R5c、R5d、R6a、R6b、R6c、R6d、n、n、及びnは、式(Z1)及び式(Z2)のものと同義である。
(捕捉体を分離する工程)
次に、得られた捕捉体を分離する工程、すなわち上記の反応溶液から取り出す工程について説明する。以下に示す方法は、捕捉体を分離する方法の一例であり、下記に示す方法に限定されるものではない。
例えば、上記の反応溶液に酸性水溶液を加えて中和し、捕捉体を分液により水層へ誘導する。捕捉体は、酸性洗浄により、水層へ誘導し、捕捉体を反応溶液から分離することができる。
中和に使用する酸としては、反応溶液中の塩基を中和できるものであれば限定はされないが、例えば塩酸、硫酸、リン酸、酢酸等の水溶液が挙げられる。例えば塩酸を用いる場合は、0.5M(「M」は、mol/Lを示す。以下、同様の説明は省略する。)~12M、好ましくは1M~12M、より好ましくは、1M~6Mの塩酸を用いる。ここでいう中和とは、反応溶液が中性のpHになれば良く、pHが7.0以下になっても良い。また、分液性を良くするために、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系の分液促進溶媒をさらに加えてもよい。発明者らは、分液性が低下する原因として、タグ-ペプチド分子同士が疎水性相互作用及び水素結合により会合し、ミセル構造が形成されることによって分液性が低下すると推測している。上述の分液促進溶媒を加えることによって、タグの側鎖間の疎水性相互作用あるいはペプチド分子間の水素結合を弱めて、ミセル構造の形成が抑制されるため、分液性が向上するものと推定される。なお、分液促進溶媒を加える工程に代えて又は該工程とともに、反応溶液を加熱する工程を行うことも分液性を向上させる点で有効である。
上記の酸で中和した反応溶液に、さらに、酸性水溶液を加えて洗浄し、次いで分液し、水層を分離し、有機層を回収する。
用いる酸性水溶液は、特に限定されないが、例えば、塩酸水溶液、希硫酸水溶液、リン酸水溶液、酢酸水溶液が挙げられ、好ましくは塩酸水溶液である。酸性水溶液のpHは1~5、好ましくは1~4、より好ましくは1~3である。
洗浄に用いる酸性水溶液の量は、洗浄効果を示す限り特に制限はないが、反応溶液に対して、0.1~4倍量、好ましくは0.3~3倍量、より好ましくは0.5~2倍量である。
洗浄、分液、水層の廃棄回数は特に制限はなく、1回でも良く、複数回行っても良い。回数は反応系中の化合物の種類や捕捉体の量等によって適宣選択される。
洗浄を行う際の温度は、特に制限はないが、10℃~50℃、好ましくは15℃~45℃、より好ましくは20℃~40℃である。
当該工程は基本的に酸性水溶液により、捕捉体の除去をおこなうが、酸性水溶液による洗浄では除きにくい捕捉体がある場合に、他の洗浄工程を酸性水溶液による洗浄の前後に追加しても良い。例えば塩基性水溶液での洗浄や食塩水での洗浄が挙げられる。
塩基性水溶液としては、例えばpH8~13の炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液又は炭酸カリウム水溶液等を挙げることができる。
食塩水としては5wt%~飽和食塩水を挙げることができる。
酸性水溶液による洗浄後、塩基性水溶液による洗浄を行い、溶液のpHを中性~弱塩基性とする。塩基性水溶液としては前記の水溶液をあげることができる。
[Fmoc基の除去方法]
次に、好適な保護基の除去方法として、保護基がFmoc基である場合を例に挙げて詳細を説明する。本実施形態に係るFmoc基の除去方法は、捕捉剤としての環状アミン、保護基としてのFmoc基で保護されたアミノ基含有化合物及び任意の脱保護剤を混合して、Fmoc基の脱保護により生じるジベンゾフルベン(DBF)と環状アミンとが結合した捕捉体(以下、「DBF-捕捉体」ともいう。)及びFmoc基が脱保護されたアミノ基含有化合物を得る工程と、得られた反応混合物を酸性水溶液で洗浄することによって、DBF-捕捉体を除去し、アミノ基含有化合物を得る工程と、を含むことを特徴とする。DBF-捕捉体は、本発明の「捕捉体」の一例である。
Fmoc基で保護されたアミノ基含有化合物とは、アミノ基含有化合物が有する第1級アミノ基又は第2級アミノ基の少なくとも一つが、Fmoc基で保護された化合物を意味する。
本明細書中の環状アミンとは、1つのアミノ基を有する環状のアミンであり、例えば、上述したように、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、及びチオモルホリンジオキシドを挙げることができ、好ましくは、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジンであり、より好ましくは、モルホリンである。
Fmoc基除去工程における環状アミンの添加量は、反応系に存在するFmoc基の量に対して、5~100当量であり、好ましくは、5~50当量であり、より好ましくは10~30当量である。環状アミンの添加量がこの範囲より少ないと、Fmoc基脱保護反応により生じるDBFの捕捉が不十分となり、不純物を酸性分液洗浄で除去しにくくなる。
脱保護剤は、Fmoc基で保護されたアミノ基含有化合物からFmoc基を脱離する反応剤である。Fmoc基除去工程における脱保護剤としては、上述したように、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1.5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1、4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、トリエチルアミン、及びトリブチルアミン等の有機塩基や、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド等の無機塩基を挙げることができ、より好ましくは、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1.5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1、4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)であり、さらに好ましくは、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)である。
Fmoc基を脱保護するために必要な脱保護剤の量は、反応系中に存在するFmoc基に対して、1当量~12当量が好ましく、2当量~10当量がより好ましく、3当量~8当量が特に好ましい。なお、脱保護剤は、必須の反応剤ではなく必ずしも添加しなくてもよい。ただし、前記の捕捉剤とともに脱保護剤を用いることで、Fmoc基の脱保護反応の反応速度を速めることができるため、脱保護剤を用いることが好ましい。
用いる酸性水溶液は、特に限定されないが、例えば、塩酸水溶液、希硫酸水溶液、リン酸水溶液、酢酸水溶液が挙げられ、好ましくは塩酸水溶液である。酸性水溶液のpHは1~5、好ましくは1~4、より好ましくは1~3である。
本発明のFmoc基脱保護反応によって得られた溶液を濃縮することにより、Fmoc基が脱保護されたアミノ基含有化合物を単離することができる。さらに、得られたアミノ基含有化合物の溶液をそのまま、後述の液相合成法によるペプチド製造方法の原料として用いることもできる。
<2>保護基を除去する工程を含むペプチドの製造方法
[液相合成法によるペプチドの製造方法]
保護基で保護されたアミノ基含有化合物が、C末端を可溶性担体と結合させたC-保護ペプチド等である場合、本発明の保護基の除去方法を、液相合成法によるペプチドの製造方法で好適に使用することができる。
以下、上述した保護基の除去方法を含む、ペプチド合成法について説明する。
このペプチドの合成方法は、C末端が特定の液相ペプチド合成用担体で保護されたアミノ酸、ペプチド又はアミノ酸アミド等のアミノ基含有化合物(以下、「C末端担体保護ペプチド」ともいう。)と、N末端が上述した保護基(式(Z2)参照。)で保護されたアミノ基含有化合物(以下、「N末端保護ペプチド」ともいう。)を縮合する工程(工程Z1)、縮合反応後に残存する活性エステルをクエンチする工程(工程Z2)、縮合したペプチド(以下、「N末端保護-C末端担体保護ペプチド」ともいう。)から保護基を脱保護する工程(工程Z3)、反応溶液を酸性水溶液で洗浄する工程(工程Z4)、及び、C末端の担体及び側鎖保護基を脱保護する工程(工程Z5)を含む。上述のペプチドの合成方法において、N末端の保護基の脱保護後に生じるフルベン骨格を有する副生成物を、環状アミンを用いて捕捉することを特徴とするペプチド製造方法である。
以下、説明の便宜上、保護基としてFmocを例に挙げ、Fmoc基の除去方法を含むペプチド液相合成法について詳細に説明する。なお、保護基は、Fmoc基に限定されるものではなく、以下に示す方法は、上記式(Z2)で示す保護基で保護されたアミノ基含有化合物にも適用できる。
(工程Z1:縮合工程)
有機溶媒中、縮合剤の存在下、液相ペプチド合成用担体で保護されたC末端担体保護ペプチド」と、N末端がFmoc基で保護されたアミノ酸又はペプチド(以下、「N-Fmoc保護アミノ酸又はペプチド」ともいう。)を縮合させて、アミノ酸残基が伸長したペプチド(以下、「N-Fmoc保護-C末端担体保護ペプチド」ともいう。)が得られる。
〔液相ペプチド合成用担体〕
《1》工程Z1で用いる液相ペプチド合成用担体は、例えば、以下の化合物が挙げられる。
すなわち、該液相ペプチド合成用担体の一例は、上記式(X1)で表されるベンジル化合物(X1)である。ベンジル化合物(X1)の構成は、上述した実施形態1と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
上記式(X1)で表されるベンジル化合物(X1)としては、その有用性を考慮すると、下記式(X1A)乃至(X1D)で表される化合物を好ましいものとして挙げることができる。
Figure 0007260725000024
《2》液相ペプチド合成用担体の他の例は、下記式(Y1)で表されるベンジル化合物(Y1)である。ベンジル化合物(Y1)の構成は、上述した実施形態2と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
Figure 0007260725000025
上記式(Y1)で表されるベンジル化合物(Y1)としては、その有用性を考慮すると、下記式(Y1A)乃至(Y1D)で表される化合物を好ましいものとして挙げることができる。
Figure 0007260725000026
工程Z1で用いる液相ペプチド合成用担体は、式(X1)で表されるベンジル化合物(X1)及び式(Y1)で表されるベンジル化合物(Y1)に限定されず、これらのベンジル化合物以外の化合物であってもよい。
《3》液相ペプチド合成用担体の他の例は、下記式(Z6)で表される化合物を好ましいものとして挙げることができる。
Figure 0007260725000027
《4》液相ペプチド合成用担体の他の例は、下記式(Z7)で表される化合物を挙げることができる。
Figure 0007260725000028
《5》液相ペプチド合成用担体の他の例は、下記式(Z8-1)、(Z8-2)、及び(Z8-3)で表される化合物を挙げることができる。
Figure 0007260725000029
Figure 0007260725000030
Figure 0007260725000031
《6》液相ペプチド合成用担体の他の例は、下記式(Z9)で表される化合物を挙げることができる。
Figure 0007260725000032
《7》液相ペプチド合成用担体の他の例は、下記式(Z10)で表される化合物を挙げることができる。
Figure 0007260725000033
〔アミノ酸〕
N-Fmoc保護-C末端担体保護ペプチド等及びC末端担体保護ペプチドや、N-Fmoc保護アミノ酸を構成する基本構造となるアミノ酸は、天然アミノ酸又は非天然アミノ酸のいずれでもよい。また、このアミノ酸は、L体又はD体のいずれでもよい。天然アミノ酸としては、Arg,Lys,Asp,Asn,Glu,Gln,His,Pro,Tyr,Trp,Ser,Thr,Gly,Ala,Met,Cys,Phe,Leu,Val,Ile、β―Ala等が挙げられる。非天然アミノ酸としては、Tle(tert-ロイシン)等が挙げられる。
アミノ酸は側鎖官能基を有しても良い。側鎖のアミノ基はFmoc基以外の保護基、例えばBoc基,Cbz基,Alloc基,Ac基等で保護されていることが望ましい。
側鎖カルボキシ基の保護基としては、メチル基、エチル基、tBu基等のアルキル基、ベンジル基、p―メトキシベンジル基等のベンジル系の置換基が挙げられる。アミド基の保護基としてはトリチル(Tr)基等が挙げられる。側鎖ヒドロキシ基の保護基としては、ベンジル基、tBu基等が挙げられる。側鎖イミダゾール基の保護基としては、Boc基,Trt基、Bom(ベンジルオキシメチル)基等が挙げられる。側鎖グアニジル基の保護基としては、ニトロ基、Pbf基等が挙げられる。チオール基の保護基としては、Trt基,Acm基,Dpm基,Ddm基,tBu基,S―tBu基,Mmt基,Npys基等が挙げられる。
N-Fmoc保護アミノ酸の使用量としては、液相ペプチド合成用担体1モルに対して、1~4モル、好ましくは1~2モルであり、特に好ましくは1.05~1.3モルである。
〔縮合剤〕
縮合剤としては、反応が進行すれば特に制限はなく、ペプチド合成において一般的に用いられる縮合剤を用いることができる。縮合剤は、工程(X2)(縮合反応工程)の文脈において説明されたものを用いることができるため、その詳細な説明を省略する。
ペプチド縮合反応を促進し、ラセミ化などの副反応を抑制するために、好ましくは、活性化剤が添加される。活性化剤は、工程(X2)(縮合反応工程)の文脈において説明されたものを用いることができるため、その詳細な説明を省略する。
〔反応溶媒〕
縮合反応工程で使用する反応溶媒(以下、単に「溶媒」ともいう。)は、ペプチド合成において一般的に用いられる溶媒が制限なく用いることができ、これに限定されないが、例えば、可溶性溶媒又は可溶性溶媒と極性溶媒との混合溶媒が挙げられる。可溶性溶媒は、工程(X1)(溶解工程)の文脈において説明されたものを用いることができるため、その詳細な説明を省略する。
また、上記可溶性溶媒には、反応における基質の溶解性を向上させるため、抽出時における未反応物及び副生成物の水層への溶解性を向上させるため、あるいは分液性を向上させるために、DMF、ジメチルアセトアミド、DMSO、スルホラン、N-メチルピロリドン、N,N‘-ジメチルプロピレン尿素(DMPU),アセトニトリル等の極性溶媒と適宣の割合で混合して使用することが好ましい。混合の割合は、反応が進行さえすれば、特に制限はないが、可溶性溶媒と極性溶媒の比が50:50~95:5となる量であり、好ましくは70:30~90:10となる量である。
溶媒の使用量は、反応が進行しさえすれば、特に制限はないが、タグを溶解した濃度が、通常0.1mM~1Mとなる量であり、好ましくは1mM~0.5Mとなる量である。
反応温度は、ペプチド合成において一般的に用いられる温度が、本発明においても用いられ、例えば、通常-20~40℃、好ましくは0~30℃の範囲内である。反応時間は、通常0.5~30時間(1残基の縮合時間)である。
なお、この反応溶媒は、本発明の「有機溶媒」の一例であり、後述する工程Z3及び工程Z4で用いることができる。
(工程Z2:活性エステルクエンチ工程)
上記工程Z1で得られたN-Fmoc保護-C末端担体保護ペプチドを含む反応溶媒にアミンを添加し、残存したアミノ酸活性エステル(工程Z1の余剰分のアミノ酸のC末端のカルボン酸に縮合剤、ついで活性化剤が反応したものをいう。)の捕捉(スカベンジ)を行う。本工程で用いるアミンを第1のスカベンジャーと称する場合がある。
工程Z2において用いることができる第1のスカベンジャーとしてのアミンは、好ましくは1級又は2級の水溶性アミンであり、例えば、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、チオモルホリンジオキシド、1-メチルピペラジン、4-アミノピペリジン、N,N―ジメチルエチレンジアミン、エチレンジアミンを挙げることができ、好ましくは、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、チオモルホリンジオキシドであり、より好ましくは、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジンであり、さらに好ましくは、モルホリンである。
工程Z2におけるスカベンジャーとしてのアミンの添加量は、特に限定はされないが、理論上残存するアミノ酸当量に対して、通常1~5当量、好ましくは1~3当量である。
(工程Z3:Fmoc基脱保護及び捕捉工程)
上記工程Z2で得られた反応溶液に、脱保護剤を添加することで、N-Fmoc保護-C末端担体保護ペプチドからのN末端Fmoc基の脱保護を実施する。さらに、本工程ではFmoc基由来の副生成物(DBF)を第2のスカベンジャーで捕捉する工程が含まれる。なお、反応溶液は、本発明の「有機溶媒」の一例である。また、第2のスカベンジャーは、本発明の「捕捉剤」の一例である。DBFを第2のスカベンジャーで捕捉する工程は、本発明の「捕捉体を得る工程」の一例である。
本工程において添加する脱保護剤の量は反応系中に存在するFmoc基に対して、1当量~12当量が好ましく、2当量~10当量がより好ましく、3当量~8当量が特に好ましい。
脱保護剤は、特に限定されないが、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1.5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、1、4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、トリエチルアミン、及びトリブチルアミンを挙げることができ、好ましくはDBUである。
脱Fmoc基由来のDBFを捕捉するために使用する第2のスカベンジャーの量は、反応系中に存在するFmoc基に対して5当量~50当量が好ましく、8当量~40当量がより好ましく、10当量~35当量が特に好ましい。
工程Z3において用いることができる第2のスカベンジャーは、DBF捕捉剤としてのアミンである。このアミンは、上述したように、環状であって、かつ、酸素元素又は硫黄元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素を含み、好ましくは、1級又は2級の水溶性アミンであり、例えば、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、及びチオモルホリンジオキシドを挙げることができ、好ましくは、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジンであり、より好ましくは、モルホリンである。
なお、本工程における第2のスカベンジャーは、工程Z2(活性エステルクエンチ工程)で添加した第1のスカベンジャーと同じでも異なっても良い。ただし、操作を簡便にし、スカベンジャーの使用を低減するために、本工程Z3で使用する第2のスカベンジャーは、工程Z2で添加した第1のスカベンジャーと同じものを用いることが好ましい。この場合、工程Z2では、上述したアミンのうち、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、チオモルホリンジオキシド等の環状アミンを用いることが好ましい。
(工程Z4:酸性水溶液洗浄工程)
工程Z4は、本発明の「分離する工程」の一例である。すなわち、当該工程は、上記工程Z3の反応溶液に酸性水溶液を加えて中和し、第1のスカベンジャーとアミノ酸活性エステルとが結合したもの(以下、「アミノ酸活性エステル-捕捉体」ともいう。)、及び反応不要物(ここで、反応不要物とは、縮合剤、活性化剤、脱保護剤、上述した反応溶媒のうち極性溶媒等)を分液により水層へ除去する工程である。第1のスカベンジャーによりスカベンジされたアミノ酸活性エステル(すなわち、アミノ酸活性エステル-捕捉体)、及び第2のスカベンジャーによりスカベンジされたDBF(すなわち、DBF-捕捉体)は、酸性洗浄により、水層へ誘導して、これらを反応溶液から分離することができる。
中和に使用する酸は、工程(Y4)(分液工程)の文脈において説明されたものを用いることができるため、その詳細な説明を省略する。
上記の酸で中和した反応溶液に、さらに、酸性水溶液を加えて洗浄し、次いで分液し、水層を除去し、有機層を回収する。
用いる酸性水溶液は、特に限定されないが、例えば、塩酸水溶液、希硫酸水溶液、リン酸水溶液、酢酸水溶液が挙げられ、好ましくは塩酸水溶液である。酸性水溶液のpHは1~5、好ましくは1~4、より好ましくは1~3である。
洗浄に用いる酸性水溶液の量は、洗浄効果を示す限り特に制限はないが、反応溶液に対して、0.1~4倍量、好ましくは0.3~3倍量、より好ましくは0.5~2倍量である。
洗浄、分液、水層の廃棄回数は特に制限はなく、1回でも良く、複数回行っても良い。回数は反応系中の化合物の種類や反応不要物の量等によって適宣選択される。
洗浄を行う際の温度は、特に制限はないが、10℃~50℃、好ましくは15℃~45℃、より好ましくは20℃~40℃である。
当該工程は基本的に酸性水溶液により、アミノ酸活性エステル-捕捉体、DBF-捕捉体及び反応不要物の除去をおこなうが、酸性水溶液による洗浄では除きにくい反応不要物がある場合に、他の洗浄工程を酸性水溶液による洗浄の前後に追加しても良い。例えば塩基性水溶液での洗浄や食塩水での洗浄が挙げられる。
塩基性水溶液としては、例えばpH8~13の炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液又は炭酸カリウム水溶液等を挙げることができる。
食塩水としては5wt%~飽和食塩水を挙げることができる。酸性水溶液による洗浄後、塩基性水溶液による洗浄を行い、溶液のpHを中性~弱塩基性とする。塩基性水溶液としては前記の水溶液をあげることができる。
なお、本発明の方法を用いたペプチド合成では、Fmoc基の脱保護後の段階において、C末端担体保護ペプチドを固形化(結晶化)して、固液分離操作を用いてC末端担体保護ペプチドを回収しても良い。固形化は、担体保護ペプチドが溶解している溶媒の組成変化により、公知の方法を適宜参考にして行うことができ、例えば、担体保護ペプチドが溶解している溶液にそのまま又は、溶液を濃縮した後、メタノールやアセトニトリル、ヘキサン等の炭化水素系溶媒を加えるなどして、溶液の組成を変化させることにより行うことができる。
上述の工程Z1~Z4を繰り返すことによって、所望のアミノ酸残基を有するC末端担体保護ペプチドが得られる。最終的に、C末端の担体及び側鎖保護基を除去する工程[工程Z5]を経て、最終目的物であるペプチドが得られる。
(工程Z5:脱保護、精製工程)
当該工程は、ペプチドC末端より担体及びペプチド側鎖の保護基を除去し目的のペプチドを得る工程である。
ペプチドC末端より担体及びペプチド側鎖の保護基を除去する方法としては、特に限定はなく、公知の脱保護方法を使用すればよいが、好ましくは酸処理により行われる。例えばトリフルオロ酢酸(TFA)を用いた脱保護法を用いることができる。
アミノ酸配列によってはTFAに水、チオアニソール、1,2-エタンジチオール、フェノール、トリイソプロピルシラン等の分子を適宣な組成で組み合わせて使用しても良い。
担体及びペプチド側鎖の保護基が脱保護されたペプチドは、ペプチド合成で常用される精製方法に従って、単離、精製することができる。例えば、抽出洗浄、晶析、クロマトグラフィーによって、目的であるペプチドを単離精製することができる。
上述したFmoc基の除去方法をペプチド合成に用いれば、Fmoc基脱保護後に得られた中間体ペプチドを単離することなく、次の縮合工程に用いることができる。これによりペプチドのワンポット合成が可能となり、工業的生産に特に好適である。
<3>保護基の除去剤
上記式(Z2)で表される保護基の除去剤は、上記式(Z1)で表される捕捉剤と、塩基性の脱保護剤とを含む組成物である。捕捉剤及び脱保護剤は、上述したとおり、ここでは詳細な説明は省略する。
〔まとめ〕
上記から理解されるように、本発明の第1の態様に係るペプチド製造方法は、有機溶媒中、N末端がフルオレン骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物と、下記式(Z1)で表される捕捉剤と、を接触させて、前記保護基由来のフルベン骨格を有する副生成物と前記捕捉剤とが結合した捕捉体を得る工程と、
得られた前記捕捉体を前記有機溶媒から分離する工程と、
を含む、
ペプチド製造方法:
Figure 0007260725000034
前記式(Z1)において、
Nは、窒素原子であり、
Hは、水素原子であり、
Xは、-CH-、-O-、-S-、又は-(SO)-で表される2価の基であり、
個のR1a、n個のR1b、n個のR2a、n個のR2b、n個のR3a、及びn個のR3bは、それぞれ独立して、H、-OH、-OR(Rはアルキル基である。)、-SH、-SR(Rは、前記-ORのものと同義である。)、-(SO)H、又は-(SO)R(Rは、前記-ORのものと同義である。)で表される1価の基であり、
2a又はR2bと、R3a又はR3bと、は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよく、
、n及びnは、それぞれ独立して、1又は2であり、
mは、0又は1の整数である。
本発明の第2の態様に係るペプチド製造方法は、上述した第1の態様に係るペプチド製造方法の構成に加えて、前記N末端が前記保護基で保護されたアミノ基含有化合物と脱保護剤とを接触させる工程をさらに含む。
本発明の第3の態様に係るペプチド製造方法においては、上述した第2の態様に係るペプチド製造方法の構成に加えて、前記脱保護剤は、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1.5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1、4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、トリエチルアミン、及びトリブチルアミンからなる群より選択される少なくとも1種の塩基である。
本発明の第4の態様に係るペプチド製造方法は、上述した第1の態様~第3の態様のいずれか一態様に係るペプチド製造方法の構成に加えて、前記捕捉体を分離する工程は、前記有機溶媒に酸性水溶液を加えて洗浄した後、前記有機溶媒を水層と有機層とに分液し、次いで分液された前記水層を分離することを含む。
本発明の第5の態様に係るペプチド製造方法においては、上述した第1の態様~第4の態様のいずれか一態様に係るペプチド製造方法の構成に加えて、前記式(Z1)で表される捕捉剤は、モルホリン、ピペリジン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、及びチオモルホリンジオキシドからなる群より選択される少なくとも1種である。
本発明の第6の態様に係るペプチド製造方法においては、上述した第1の態様~第5の態様のいずれか一態様に係るペプチド製造方法の構成に加えて、前記式(Z1)で表される捕捉剤は、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、及びチオモルホリンジオキシドからなる群より選択される少なくとも1種である。
本発明の第7の態様に係る保護基の除去方法は、有機溶媒中、N末端がフルオレン骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物と、下記式(Z1)で表される捕捉剤と、を接触させて、前記保護基由来のフルベン骨格を有する副生成物と前記捕捉剤とが結合した捕捉体を得る工程と、
得られた前記捕捉体を前記有機溶媒から分離する工程と、
を含む、
保護基の除去方法:
Figure 0007260725000035
前記式(Z1)において、
Nは、窒素原子であり、
Hは、水素原子であり、
Xは、-CH-、-O-、-S-、又は-(SO)-で表される2価の基であり、
個のR1a、n個のR1b、n個のR2a、n個のR2b、n個のR3a、及びn個のR3bは、それぞれ独立して、H、-OH、-OR(Rはアルキル基である。)、-SH、-SR(Rは、前記-ORのものと同義である。)、-(SO)H、又は-(SO)R(Rは、前記-ORのものと同義である。)で表される1価の基であり、
2a又はR2bと、R3a又はR3bと、は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよく、
、n及びnは、それぞれ独立して、1又は2であり、
mは、0又は1の整数である。
本発明の第8の態様に係る除去剤は、下記式(Z1)で表される捕捉剤と、塩基性の脱保護剤と、を含む、フルオレン骨格を有する保護基の除去剤:
Figure 0007260725000036
前記式(Z1)において、
Nは、窒素原子であり、
Hは、水素原子であり、
Xは、-CH-、-O-、-S-、又は-(SO)-で表される2価の基であり、
個のR1a、n個のR1b、n個のR2a、n個のR2b、n個のR3a、及びn個のR3bは、それぞれ独立して、H、-OH、-OR(Rはアルキル基である。)、-SH、-SR(Rは、前記-ORのものと同義である。)、-(SO)H、又は-(SO)R(Rは、前記-ORのものと同義である。)で表される1価の基であり、
2a又はR2bと、R3a又はR3bと、は互いに結合し、これらが結合している炭素原子と共に環を形成してもよく、
、n及びnは、それぞれ独立して、1又は2であり、
mは、0又は1の整数である。
本発明の第9の態様に係るペプチド製造方法においては、上述した第8の態様に係る除去剤の構成に加えて、前記捕捉剤は、モルホリン、3-ヒドロキシピペリジン、4-ヒドロキシピペリジン、チオモルホリン、及びチオモルホリンジオキシドからなる群より選択される少なくとも1種である。
本発明の第10の態様に係るペプチド製造方法においては、上述した第8の態様または第9の態様に係る除去剤の構成に加えて、前記脱保護剤は、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、1.5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、1、4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、トリエチルアミン、及びトリブチルアミンからなる群より選択される少なくとも1種の塩基である。
本発明の第11の態様に係るベンジル化合物(Y1)は、下記式(Y1):
Figure 0007260725000037
[式中、
m個のQは、それぞれ酸素原子を表し、
m個のRは、それぞれ独立して、下記式(YA):
Figure 0007260725000038
(式中、
*は、結合位置を示し、
1a、R1b、R1c、R1d及びR1eは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、
は、0以上6以下の整数を示し、該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基であり、
は、0以上6以下の整数を示し、該nが1以上の場合、該nが付された括弧内に示される繰り返し単位は、アルキレン基であり、
但し、R1a、R1b、R1c及びR1dのうち少なくとも2つ以上は水素原子である。)
で表わされる基であり、
k個のRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、又はハロゲン原子を表し、
Xは、ヒドロキシル基を表し、
mは、2又は3の整数を表し、
kは、0以上(5-m)以下の整数を示し、
m個の[Q-R]のうち少なくとも1つは、前記Xを含む置換基に対してメタ位に置換されている。]
で表される。
本発明の第12の態様に係るベンジル化合物(Y1)においては、上述した第11の態様に係るベンジル化合物(Y1)の構成に加えて、総炭素数が40以上60以下である。
本発明の第13の態様に係るベンジル化合物(Y1)においては、上述した第11の態様または第12の態様に係るベンジル化合物(Y1)の構成に加えて、前記m個のRは、それぞれ独立して、1つの分岐鎖を有する有機基であって、
下記式(YA’):
Figure 0007260725000039
(式中、
*は、結合位置を示し、
1fは、炭素数4以上12以下の直鎖状のアルキル基であり、
1gは、炭素数6以上14以下の直鎖状のアルキル基である。)で表される基である。
本発明の第14の態様に係るベンジル化合物(Y1)においては、上述した第13の態様に係るベンジル化合物(Y1)の構成に加えて、前記R1fは、炭素数4以上10以下の直鎖状のアルキル基であり、
前記R1gは、炭素数6以上12以下の直鎖状のアルキル基である。
本発明の第15の態様に係るペプチドの製造方法は、上述した第11の態様~第14の態様のいずれか一態様に係るベンジル化合物を可溶性溶媒に溶解させる溶解工程と、
次いで、溶解された前記ベンジル化合物と、N末端がN末端保護基により保護されたアミノ酸とを縮合して第1の縮合物を生成する縮合反応工程と、
次いで、前記第1の縮合物を含む前記可溶性溶媒に第1の塩基を添加し、アミノ酸活性エステルをスカベンジし、さらに前記可溶性溶媒に前記第1の塩基及び第2の塩基を添加し、前記第1の縮合物から前記N末端保護基の脱保護を実施し、該N末端保護基由来の副生成物を前記第1の塩基でスカベンジする工程と、
次いで、前記スカベンジする工程で捕捉された捕捉体を含む前記可溶性溶媒へ酸性水溶液を加えて洗浄し、水層と有機層とに分液して、前記捕捉体及び不要物を水層へ除去し、前記有機層に、前記第1の縮合物から前記N末端保護基が脱保護された第2の縮合物を得る分液工程と、
を含む。
本発明の第16の態様に係るペプチドの製造方法においては、上述した第15の態様に係るペプチドの製造方法の構成に加えて、前記縮合反応工程は、N末端が保護されていないアミノ酸と、C末端が前記ベンジル化合物で保護されたアミノ酸とを含み、残基数がn個のアミノ酸を含んでなる第2nの縮合物に、N末端が保護された第nのアミノ酸を縮合して第(2n+1)の縮合物を生成する工程を含み、
前記スカベンジする工程は、前記第(2n+1)の縮合物から前記N末端保護基の脱保護を実施する工程を含み、
前記分液工程は、前記有機層に前記第(2n+1)の縮合物から前記N末端保護基の脱保護された第(2n+2)の縮合物を得る工程を含み、
前記nは、2以上の自然数である。
本発明の第17の態様に係るペプチドの製造方法においては、上述した第16の態様に係るペプチドの製造方法の構成に加えて、前記nが5以上である。
本発明の第18の態様に係るペプチドの製造方法においては、上述した第15の態様~第17の態様のいずれか一態様に係るペプチドの製造方法の構成に加えて、前記分液工程は、前記可溶性溶媒にケトン系の分液促進溶媒を加える工程をさらに含む。
本発明の第19の態様に係るベンジル化合物(X1)は、下記式(X1):
Figure 0007260725000040
[式中、
m個のQ及びQは、それぞれ酸素原子であり、
m個のRは、それぞれ独立して、アルキレン基であり、
m個のRは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基であり、
k個のRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子であり、
Xは、ヒドロキシル基であり、
mは、2又は3の整数であり、
kは、0以上(5-m)以下の整数を示す。]
で表される。
本発明の第20の態様に係るベンジル化合物(X1)においては、上述した第19の態様に係るベンジル化合物(X1)の構成に加えて、前記m個のRは、炭素数2以上16以下のアルキレン基である。
本発明の第21の態様に係るベンジル化合物(X1)においては、上述した第19の態様または第20の態様に係るベンジル化合物(X1)の構成に加えて、前記m個のRは、ハロゲン原子を含む置換基を有するアリール基である。
本発明の第22の態様に係るベンジル化合物(X1)においては、上述した第19の態様または第20の態様に係るベンジル化合物(X1)の構成に加えて、前記m個のRは、炭素数5以上28以下のアルキル基である。
本発明の第23の態様に係るベンジル化合物(X1)においては、上述した第22の態様に係るベンジル化合物(X1)の構成に加えて、前記m個のRは、直鎖状のアルキル基、又は総数が1若しくは2の分岐鎖を有するアルキル基であって、下記式(XA):
Figure 0007260725000041
(式中、
*は、結合位置を示し、
2a、R2b、R2c、R2d及びR2eは、それぞれ独立して、水素原子又はアルキル基を示し、
は、0以上16以下の整数を示し、
は、0以上16以下の整数を示す。
但し、R2a、R2b、R2c及びR2dのうち少なくとも2つ以上は水素原子である。)で表わされる基である。
次に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
まず、上述した本発明の実施形態1の実施例を挙げる。
<製造例>
実施例X1
化合物(X1-4)の合成
Figure 0007260725000042
実施例(X1-a)
3,5-ビストリフルオロメチルフェノール25g(100mmol)をDMF125mLに溶解し、11-ブロモウンデカノール27.6g(120mmol)、炭酸カリウム27.6g(200mmol)を加え、60℃で4時間攪拌した。反応溶液を室温に戻し、ろ過により固形分を除去した。ろ液にトルエン150mLおよび1M塩酸75mLを加えて分液洗浄を行い、さらに有機層を1M塩酸75mL、飽和食塩水100mLで洗浄した。硫酸ナトリウム50gを加えて有機層を乾燥した後、溶媒を減圧留去することで、化合物(X1-1)37.2g(収率93%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ1.10-1.60(m,16H),1.81-1.90(m,2H),3.63(t,2H,J=2.0Hz),4.04(t,1H,J=6.8Hz)、7.28(s,2H),7.43(s,1H)
実施例(X1-b)
化合物(X1-1)24g(60mmol)をジクロロメタン240mLに溶解し、トリフェニルホスフィン20.5g(78mmol)、四臭化炭素26.0g(78mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。反応溶液にシリカゲル36g加えて溶媒を留去し、シリカゲルに残渣を吸着させた。このシリカゲルをろ紙を敷いた桐山ロートの上に載せ、有機溶媒(ヘキサン:酢酸エチル=90:10)480mLでシリカゲルを洗浄し、目的物を溶出させた。溶媒を減圧留去することで、化合物(X1-2)27.0g(収率97%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ1.10-1.60(m,12H),1.81-1.90(m,4H),3.41(t,2H,J=6.8Hz),4.02(t,1H,J=6.4Hz)、7.29(s,2H),7.44(s,1H)
実施例(X1-c)
没食子酸メチル1.16g(6.33mmol)をDMF150mLに溶解し、化合物(X1-2)14.1g(30.4mmol)、炭酸カリウム16.6g(120mmol)を加え、60℃で18時間攪拌した。炭酸カリウムをろ過により除去した後、反応液に1M塩酸100mL、ヘキサン100mLを加えて分液洗浄を行い、さらに有機層を5%炭酸水素ナトリウム100mL、20%食塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=98:2~85:15)で精製し、化合物(X1-3)6.7g(収率79.6%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ1.20-1.60(m,48H),1.81-1.90(m,6H),3.87(s,3H),3.95-4.05(m、12H)、7.21(s,2H)、7.28(s,6H),7.42(s,3H)
実施例(X1-d)
化合物(X1-3)6.2g(4.66mmol)をTHF150mLに溶解し、水素化トリエチルホウ素リチウム20.96mL(1MTHF溶液、20.96mmol)を氷冷下加え、室温で2時間攪拌した。反応液に水(50mL)および1M塩酸20mLを加え反応を停止させたのち、酢酸エチル200mLを加えて分液洗浄を行い、さらに有機層を水100mLで2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10~60:40)で精製し、化合物(X1-4)3.8g(収率61.2%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ1.20-1.60(m,48H),1.81-1.90(m,6H),3.90-4.05(m、12H)、4.59(d、2H)、6.54(s、2H)、7.28(s,6H),7.42(s,3H)
ESI-MS:1303.77〔M
実施例X2
化合物(X2-3)の合成
Figure 0007260725000043
実施例(X2-a)
2-n-オクチル-1-ドデカノール8g(26.79mmol)をトルエン(無水)210mLに溶解し、ジブロモドデカン17.6g(53.59mmol)、NaH2.14g(53.59mmol)を加え、105℃で終夜攪拌した。反応溶液を室温に戻し、1M塩酸10mLを加えて10分間攪拌した。反応溶液に1M塩酸90mLを加えて分液洗浄を行い、さらに有機層を飽和食塩水100mLで3回洗浄し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン~ヘキサン:酢酸エチル=90:10)で精製し、化合物(X2-1)8.8g(収率60.1%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.88(t,6H,J=7.6Hz),1.20-1.59(m,51H),1.81-1.89(m,2H),3.25(d,2H,J=6.0Hz),3.35-3.43(m,4H)
実施例(X2-b)
2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド0.77g(5.61mmol)をDMF:シクロペンチルメチルエーテル(1:1)の混合溶媒116mLに溶解し、化合物(X2-1)7.6g(14.03mmol)、炭酸カリウム3.9g(28.06mmol)を加え、90℃で3時間攪拌した。炭酸カリウムをろ過により除去した後、反応液に1M塩酸100mL、ヘキサン100mLを加えて分液洗浄を行い、さらに有機層を5%炭酸水素ナトリウム100mL、20%食塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン~ヘキサン:酢酸エチル=90:10)で精製し、化合物(X2-2)4.4g(収率73.9%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.88(t,12H,J=6.6Hz),1.20-1.59(m,102H),1.74-1.88(m,4H),3.25(d,4H,J=6.6Hz),3.36(t,4H,J=6.6Hz),3.98-4.05(m,4H),6.41(d,1H,J=2.4Hz),6.51(dd,1H,J=2.4Hz,8.6Hz),7.79(d,1H,J=8.6Hz),10.33(s,1H)
実施例(X2-c)
化合物(X2-2)4.4g(4.08mmol)をTHF(無水):メタノール(10:3)の混合溶媒65mLに溶解し、氷冷下、水素化ホウ素ナトリウム0.31g(8.17mmol)を加えて10分間攪拌し、氷浴を外して室温にて1時間攪拌した。反応液にアセトン5mLを加えて反応を停止し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=96:4~ヘキサン:酢酸エチル=90:10)で精製し、化合物(X2-3)3.9g(収率89.9%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.88(t,12H,J=6.5Hz),1.20-1.59(m,102H),1.72-1.85(m,4H),2.24(t,1H),3.25(d,4H,J=6.5Hz),3.36(t,4H,J=6.5Hz),3.90-4.01(m,4H),4.61(d,2H,J=6.5Hz),6.41(dd,1H,J=2.7Hz,8.4Hz),6.45(d,1H,8.4Hz),7.13(d,1H)
ESI-MS:1069.13〔M
実施例X3
化合物(X3-2の合成)
Figure 0007260725000044
実施例(X3-a)
没食子酸メチル0.79g(4.29mmol)をDMF:MTHP(1:1)の混合溶媒132mLに溶解し、実施例(X2-a)で製造した化合物(X2-1)8.8g(16.12mmol)、炭酸カリウム2.65g(19.17mmol)を加え、90℃で終夜攪拌した。炭酸カリウムをろ過により除去した後、反応液に1M塩酸100mL、ヘキサン100mLを加えて分液洗浄を行い、さらに有機層を5%炭酸水素ナトリウム100mL、20%食塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン~ヘキサン:酢酸エチル=90:10)で精製し、化合物(X3-1)4.1g(収率61.1%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.88(t,18H,J=6.3Hz),1.20-1.86(m,147H),3.24(d,6H,J=6.3Hz),3.36(t,6H,J=6.3Hz),3.88(s,3H),3.98-4.40(m,6H),7.24(s,2H)
実施例(X3-b)
化合物(X3-1)3.2g(2.04mmol)をTHF(無水)30mLに溶解し、氷冷下、水素化ジイソブチルアルミニウム4.1mL(1.5Mトルエン溶液、6.16mmol)を加えて1時間攪拌し、室温でさらに2時間攪拌した。反応液にアセトン5mLを加えて反応を停止した後、シリカゲル30gを加えて室温で15分攪拌し、反応溶液をろ過、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=96:4~ヘキサン:酢酸エチル=85:15)で精製し、化合物(X3-2)2.3g(収率72.5%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.88(t,18H,J=6.6Hz),1.18-1.84(m,147H),3.25(d,6H,J=6.6Hz),3.36(t,6H,J=6.6Hz),3.60-3.66(m,1H),3.90-4.00(m,6H),4.59(d,2H,J=6.6Hz),6.55(s,2H)
ESI-MS:1549.41〔M
実施例X4
化合物(X4-3)の合成
Figure 0007260725000045
実施例(X4-a)
2-デシル-1-テトラデカノール1g(2.81mmol)をトルエン(無水)20mLに溶解し、ジブロモドデカン1.85g(5.63mmol)、NaH0.226g(5.63mmol)を加え、95℃で終夜攪拌した。反応溶液を室温に戻し、1M塩酸10mLを加えて10分間攪拌した。ヘキサン20mLを加えて、分液洗浄を行い、さらに有機層を飽和食塩水40mLで2回洗浄し、有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン~ヘキサン:酢酸エチル=90:10)で精製し、化合物(X4-1)1.18g(収率70.0%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.88(t,6H,J=6.8Hz),1.15-1.60(m,55H),1.81-1.89(m,2H),3.25(d,2H,J=6.3Hz),3.35-3.42(m,4H)
実施例(X4-b)
2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド0.106g(0.77mmol)をDMF:シクロペンチルメチルエーテル(1:1)の混合溶媒17.4mLに溶解し、化合物(X4-1)1.16g(1.92mmol)、炭酸カリウム0.532g(3.85mmol)を加え、90℃で4時間攪拌した。炭酸カリウムをろ過により除去した後、反応液にヘキサン20mL、1M塩酸36mL、を加えて分液洗浄を行い、さらに有機層を5%炭酸水素ナトリウム18mL、20%食塩水18mLで2回洗浄した。有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン~ヘキサン:酢酸エチル=90:10)で精製し、化合物(X4-2)0.33g(収率72.6%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.88(t,12H,J=7.5Hz),1.15-1.60(m,118H),1.74-1.88(m,4H),3.25(d,4H,J=6.2Hz),3.36(t,4H,J=6.2Hz),3.98-4.05(m,4H),6.41(d,1H,J=2.5Hz),6.51(dd,1H,J=3.1Hz,9.2Hz),7.79(d,1H,J=8.9Hz),10.33(s,1H)
実施例(X4-c)
化合物(X4-2)1.0g(0.837mmol)をTHF(無水):メタノール(10:3)の混合溶媒19.5mLに溶解し、氷冷下、水素化ホウ素ナトリウム0.070g(1.850mmol)を加えて10分間攪拌し、氷浴を外して室温にて1時間攪拌した。反応液にアセトン4mLを加えて反応を停止し、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10)で精製し、化合物(X4-3)0.55g(収率55.6%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.87(t,12H,J=6.5Hz),1.16-1.58(m,118H),1.71-1.83(m,4H),2.24(t,1H,J=6.5Hz),3.24(d,4H,J=6.2Hz),3.35(t,4H,J=6.2Hz),3.88-4.00(m,4H),4.59(d,2H,J=6.5Hz),6.40(dd,1H,J=2.2Hz,8.2Hz),6.44(d,1H,J=2.2Hz),7.11(d,1H,J=8.2Hz)
ESI-MS:1181.07〔M
実施例X5
<タグの有機溶媒に対する溶解性の確認>
実施例X1で製造した化合物(X1-4)、実施例X2で製造した化合物(X2-3)、実施例X3で製造した化合物(X3-2)、及び実施例X4で製造した化合物(X4-3)の各種溶媒に対する溶解度(25℃)を測定した。
〔実験方法〕
実施例X1~X4の化合物、及び比較例としての直鎖含有化合物(表X2の比較例X1及びX2参照。)を25℃で各溶媒に飽和させ、その溶解度(単位:重量%)を測定した(表X1、X2)。溶媒は、CPME、MTHP、トルエン、及びクロロホルムを用いた。
なお、比較例X1に示した直鎖C1837化合物は、特開2000-44494の実施例に記載の方法、比較例X2に示した直鎖C2245化合物は、Bioorganic&Medicinal chemistry letters,21,(2011),4476-4479に記載の方法を参考に合成したものを使用した。
表X1は、実施例X1(化合物(X1-4))、実施例X2(化合物(X2-3))、実施例X3(化合物(X3-2))、及び実施例X4(化合物(X4-3))の溶解度の結果を示す。表X2は、比較例X1及び比較例X2の溶解度の結果を示す。なお、表X2の括弧内の値は、実施例X1~X4の化合物の溶解度を一律50(重量%)と仮定した場合において、実施例X1~X4の溶解度が何倍に相当するか(すなわち、50を当該溶解度で除した値)を示している。
Figure 0007260725000046
Figure 0007260725000047
〔実験結果〕
実施例X1~X4の化合物はいずれも、溶解度が50(重量%)よりも大きい値であった。これに対して、比較例X1及びX2の化合物は、いずれも、50(質量%)未満であり、最大のものでも20.0(質量%)(比較例X2、クロロホルム)に留まった。また、表X2に示すように、実施例X1~X4の化合物の溶解度は、比較例X1及びX2の化合物の溶解度に対して、差が小さいものでも少なくとも2.5倍より大きく(比較例X2-クロロホルムとの比参照)、差が大きいものでは、17.2倍より大きかった(比較例X1-トルエンとの比参照)。
以上のように、実施例X1~X4の化合物はいずれも、対応する側鎖が直鎖である比較例X1及びX2に記載の化合物と比べて、種々の溶媒に対して2.5倍~17倍を超える高い溶解性を示すことを確認した。このことから、ペプチドの製造方法において、上記の化合物がペプチド合成における優れたタグとして機能し得ることを見出した。
実施例X6-1
<タグの疎水性の確認>
本発明の実施例X1~X4の化合物の疎水性の評価として、液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて評価した。
〔実験方法〕
本発明の一態様に係るタグ(実施例X1~X4の化合物)、比較例X1の直鎖C1837化合物及び比較例X2の直鎖C2245化合物の各10mg/10mL(THF)溶液を調整し、下記条件における液体クロマトグラフィー(HPLC)の保持時間(溶出時間)を比較した(表X3)。
Figure 0007260725000048
液体クロマトグラフィー(HPLC)条件:
カラム:InertSustainC18(3μm、4.6×125mm)
移動相B:THF、移動相A:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液
溶出液:移動相A/移動相B=25/75(アイソクラクティック)
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:紫外可視分光検出器(λ=220nm)
〔実験結果〕
表X3に示すように、比較例X1及びX2の化合物は、保持時間がそれぞれ13.6分、及び12.1分であったのに対して、実施例X1~X4は、それぞれ、8.4分、21.8分、60.2分、及び33.2分であった。実施例X2~X4は、いずれも、比較例X1及びX2の保持時間を大きく上回った。実施例X1は、比較例X1及びX2の保持時間と比較して小さい値ではあったものの、概ね同等の水準を保った。
以上のように実施例X1~X4の化合物は、いずれも対応する側鎖が直鎖である比較例X1及びX2の化合物と比べて、同等かそれ以上の保持時間を示したことから、ペプチドの製造方法において、上記の化合物がペプチド合成における優れたタグとして機能しえることを見出した。
実施例X6-2
<耐酸性>
本発明の化合物の側鎖部分の酸に対する安定性として、実施例X1で製造した化合物(X1-4)、及び実施例X3で製造した化合物(X3-2)を用いて評価した。
〔実験方法〕
本発明の化合物(X1-4)及び化合物(X3-2)50mgを各々、密閉サンプル管容器に計り取り、これに1wt%HCl/CPME 0.5mLを加えて、室温で攪拌した時の各化合物溶液のHPLCピークの純度(%)の経時変化を確認し、安定性を評価した。また、塩化水素ガスを含まないCPMEのみの上記と同濃度の溶液を調整し、この溶液の純度(%)を初期値とした。表X4は、初期値と攪拌3時間後の本発明の化合物(X1-4)及び化合物(X3-2)のHPLC純度%を示す。
Figure 0007260725000049
液体クロマトグラフィー(HPLC)条件:
カラム:InertSustainC18(3μm、4.6×125mm)
移動相B:THF、移動相A:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液
溶出液:移動相A/移動相B:表X5に示すグラジエント条件にて測定を実施した。
Figure 0007260725000050
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:紫外可視分光検出器(λ=220nm)
〔実験結果〕
表X4に示すように、実施例X1及び実施例X3の化合物のいずれも、3時間経過後も酸に対する安定がみられた。非特許文献5には、酸性溶媒(1wt%塩酸/メタノール)に対する、トリイソプロピルシリル基の半減期が55分であることが開示されている。実施例X1及びX3の化合物は、少なくともO-Si結合を有する化合物よりは酸に対して安定であることが示唆された。
以上のように実施例X1及びX3の化合物の液体クロマトグラフィーの経時的なピーク変化を確認したところ、いずれも分解は認められなかったことから、上記の化合物が酸に対して安定な優れたタグとして機能しえることを見出した。
<ペプチド合成例>
本発明の化合物(X1-4)及び化合物(X2-3)を使用し、ペプチド合成を行った。以下、式中において化合物(X1-4)をHO-Tag(X1-4)とも記載し、化合物(X2-3)をHO-Tag(X2-3)とも記載する。すなわち、Tag(X1-4)は、化合物(X1-4)から-OHを除いた部分を示し、Tag(X2-3)は、化合物(X2-3)から-OHを除いた部分を示す。
実施例X7:H-Tyr(OtBu)-Ile-Leu-OTag(X1-4)の合成
実施例X7-1:HO-Leu-OTag(X1-4)の合成
化合物(X1-4)1.3g(1.0mmol)をMTHP/DMF(8/2)の混合液20mLに溶解し、Fmoc-Leu-OH0.46g(1.3mmol)、EDCI・HCl0.25g(1.3mmol)及びDMAP0.012g(0.1mmol)を加えて室温で4時間攪拌した。モルホリン39μL(0.4mmol)を加え室温で30分間攪拌した。モルホリン1.74mL(20.0mmol)及びDBU1.04mL(7.0mmol)を加えて室温で1時間攪拌した。氷冷下、6M塩酸8.3mLを加え、さらに0.1M塩酸23.4mLを加えて分液した。有機層を2M塩酸10mL、0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液23.4mLで洗浄、分液し、有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過し、アミノ酸縮合物(HO-Leu-OTag(X1-4))を溶液として得た。
実施例X7-2:HO-Ile-Leu-OTag(X1-4)の合成
上で得られたHO-Leu-OTag(X1-4)の溶液にDMF4mL、Fmoc-Ile-OH0.46g(1.3mmol)、EDCI・HCl0.25g(1.3mmol)及びOxyma0.046g(0.3mmol)を加え室温で1時間攪拌した。モルホリン39μL(0.4mmol)を加え室温で30分間攪拌した。モルホリン1.74mL(20.0mmol)及びDBU1.04mL(7.0mmol)を加えて室温で1時間攪拌した。氷冷下、6M塩酸8.3mLを加え、さらに0.1M塩酸23.4mLを加えて分液した。有機層を2M塩酸10mL、0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液23.4mLで洗浄、分液し、有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥後、ろ過し、アミノ酸縮合物(HO-Ile-Leu-OTag(X1-4))を溶液として得た。
実施例X7-3:H-Tyr(OtBu)-Ile-Leu-OTag(X1-4)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Tyr(OtBu)-OHを用いた以外は実施例X7-2と同様の操作をおこない、H-Tyr(OtBu)-Ile-Leu-OTag(X1-4)を溶液として得た。得られた有機層を減圧下、溶媒を留去し、H-Tyr(OtBu)-Ile-Leu-OTag(X1-4)1.58g(収率90.3%)を得た。
ESI-MS:1749.13〔M+H〕
高い収率でH-Tyr(OtBu)-Ile-Leu-OTag(X1-4)が得られたことから、モルホリン等の窒素原子を1つのみ含む特定の環状アミンを捕捉剤として用いることにより、副生成物を容易に除去できることが確認できた。
この化合物を少量用い、トリフルオロ酢酸(TFA):水=9.5:0.5の混合溶液にてタグを脱保護して分析したところ、H-Tyr-Ile-Leu-OHのESI-MS:408.24〔M+H〕を確認した。
実施例X8:H-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(OtBu)-Ile-Leu-OTag(X2-3)の合成
タグとして化合物(X2-3)0.5g(0.46mmol)と1残基目~6残基目まで以下に示すアミノ酸を用いて、実施例X7-1~実施例X7-3と同様の操作を行い、
H-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(OtBu)-Ile-Leu-OTag(X2-3)を溶液として得た。
Figure 0007260725000051
得られた有機層を減圧下、溶媒を留去し、H-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(OtBu)-Ile-Leu-OTag(X2-3)0.80g(収率70.6%)を得た。
ESI-MS:2430.23〔M+H〕
この化合物を少量用い、トリフルオロ酢酸(TFA):水:チオアニソール:1,2-エタンジオール:フェノール=10:0.5:0.5:0.25:0.75の混合溶液にてタグを脱保護して分析したところ、H-Arg-Arg-Pro-Tyr-Ile-Leu-OHのESI-MS:817.50〔M+H〕を確認した。
[タグの製造]
次に、上述した本発明の実施形態2の実施例を挙げる。
<実施例Y1>
Figure 0007260725000052
実施例(Y1-a)
没食子酸メチル1.20g(6.516mmol)をDMF12mL及びシクロペンチルメチルエーテル(CPME)12mLに溶解し、5-ブロモメチルウンデカン7.15g(29.322mmol)、炭酸カリウム4.50g(32.580mmol)を加え、110℃で10時間攪拌した。反応液を室温に戻し、ろ過により固形分を除去した。ろ液にCPME20mL及び1M塩酸20mLを加えて分液洗浄を行い、さらに5%炭酸水素ナトリウム20mL、20%食塩水20mLで洗浄した。硫酸ナトリウムを適量加えて有機層を乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=97:3~90:10)で精製し、化合物(Y1-1)3.8g(収率84.6%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.84-0.96(m,18H),1.20-1.60(m,66H),1.71-1.85(m,3H),3.86-3.92(m,9H),7.24(s,2H)
実施例(Y1-b)
化合物(Y1-1)2.42g(3.511mmol)をTHF48mLに溶解し、氷冷下、水素化ジイソブチルアルミニウム7.0mL(1.5Mトルエン溶液、10.533mmol)を滴下し、氷冷下、2時間攪拌した。反応液に0.2M塩酸10mLを加えて反応を停止し、溶媒を減圧留去した。残渣に酢酸エチル100mLを加えた後、1M塩酸75mLで2回洗浄、続いて5%炭酸水素ナトリウム50mL、20%食塩水50mLで分液洗浄した。有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=95:5~90:10)で精製し、化合物(Y1-2)1.86g(収率80.2%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.84-0.94(m,18H),1.22-1.64(m,66H),1.72-1.84(m,3H),3.75-3.88(dd,J=7.2Hz,14.4Hz,6H)、4.60(d、J=7.2Hz,2H)、6.54(s,2H)
ESI-MS:683.54[M+Na]+
<実施例Y2>
Figure 0007260725000053
実施例(Y2-a)
没食子酸メチル3.01g(16.357mmol)をDMF30mL及びCPME30mLに溶解し、7-ブロモメチルペンタデカン19.98g(65.428mmol)、炭酸カリウム11.30g(81.785mmol)を加え、110℃で12時間攪拌した。反応液を室温に戻し、ろ過により固形分を除去した。ろ液にCPME30mL及び1M塩酸60mLを加えて分液洗浄を行い、さらに5%炭酸水素ナトリウム60mL、20%食塩水60mLで洗浄した。硫酸ナトリウムを適量加えて有機層を乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=96:4)で精製し、化合物(Y2-1)10.09g(収率71.9%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.83-0.94(m,18H),1.20-1.58(m,72H),1.70-1.85(m,3H),3.85-3.92(m,9H),7.24(s,2H)
実施例(Y2-b)
化合物(Y2-1)10.08g(11.755mmol)を無水THF120mLに溶解し、氷冷下、水素化ジイソブチルアルミニウム23.5mL(1.5Mトルエン溶液、35.267mmol)を滴下し、氷冷下、2時間攪拌した。反応液に0.2M塩酸10mLを加えて反応を停止し、溶媒を減圧留去した。残渣に酢酸エチル150mLを加えた後、1M塩酸75mLで2回洗浄、続いて5%炭酸水素ナトリウム75mL、20%食塩水75mLで分液洗浄した。有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=95:5~85:15)で精製し、化合物(Y2-2)7.43g(収率76.4%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.88(t,J=6.0Hz,18H),1.20-1.60(m,72H),1.72-1.84(m,3H),3.75-3.88(dd,J=6.0Hz,12.0Hz,6H)、4.60(d、J=6.0Hz,2H)、6.54(s,2H)
ESI-MS:829.74[M+H]+
<実施例Y3>
Figure 0007260725000054
実施例(Y3-a)
没食子酸メチル0.50g(2.715mmol)をDMF5mL及びCPME5mLに溶解し、11-ブロモメチルトリコサン4.62g(11.064mmol)、炭酸カリウム1.88g(13.602mmol)を加え、110℃で10時間攪拌した。反応液を室温に戻し、ろ過により固形分を除去した。ろ液にヘキサン20mL及び1M塩酸20mLを加えて分液洗浄を行い、さらに5%炭酸水素ナトリウム20mL、20%食塩水20mLで洗浄した。硫酸ナトリウムを適量加えて有機層を乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=98:2~95:5)で精製し、化合物(Y3-1)2.64g(収率81.5%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.84-0.91(m,18H),1.20-1.56(m,120H),1.70-1.84(m,3H),3.85-3.92(m,9H),7.24(s,2H)
実施例(Y3-b)
化合物(Y3-1)2.60g(2.177mmol)をTHF40mLに溶解し、氷冷下、水素化ジイソブチルアルミニウム4.4mL(1.5Mトルエン溶液、6.531mmol)を滴下し、氷冷下、2時間攪拌した。反応液に0.2M塩酸4mLを加えて反応を停止し、溶媒を減圧留去した。残渣に酢酸エチル40mLを加えた後、1M塩酸20mLで2回洗浄、続いて5%炭酸水素ナトリウム20mL、20%食塩水20mLで分液洗浄した。有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=95:5~90:10)で精製し、化合物(Y3-2)2.08g(収率82.3%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.84-0.92(m,18H),1.20-1.60(m,72H),1.72-1.84(m,3H),3.80(dd,J=7.0Hz,14.0Hz,6H)、4.60(d、J=7.0Hz,2H)、6.54(s,2H)
ESI-MS:1166.10[M+H]
<実施例Y4>
Figure 0007260725000055
実施例(Y4-a)
3,5-ジヒドロキシ安息香酸メチル1.35g(8.0mmol)をDMF70mLに溶解し、11-ブロモメチルトリコサン8.0g(19.2mmol)、炭酸カリウム3.32g(24.0mmol)を加え、90℃で7時間攪拌した。炭酸カリウムをろ過により除去した後、ろ液に水100mL、酢酸エチル100mLを加えて分液洗浄を行い、さらに有機層を水100mL、20%食塩水100mLで順次洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=98:2~80:20)で精製し、化合物(Y4-1)4.8g(収率71.0%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.83-1.00(m,12H),1.32-1.61(m,80H),1.81-1.90(m,2H),3.75-3.85(m、4H)、3.90(s,3H),6.34(s,1H),7.15(s,2H)
実施例(Y4-b)
化合物(Y4-1)4.8g(5.68mmol)をTHF80mLに溶解し、水素化ジイソプロピルアルミニウム11.4mL(1.5Mトルエン溶液,17.0mmol)を氷冷下加え、室温で3時間攪拌した。反応液に10%ロッシェル塩水溶液(100mL)を加え反応を停止させたのち、酢酸エチル200mLを加えて分液洗浄を行い、さらに有機層を水100mLで2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=95:5~80:20)で精製し、化合物(Y4-2)3.5g(収率75.7%)を得た。
H-NMR(400MHz,CDCl)δ0.83-1.00(m,12H),1.32-1.61(m,80H),1.81-1.90(m,2H),3.80(d、4H、J=5.2Hz)、4.62(s,2H),6.38(s,1H),6.50(s,2H)
ESI-MS:813.74[M+H]+
[タグの有機溶媒に対する溶解性の確認]
<実施例Y5>
実施例Y1で製造した化合物(Y1-2)、実施例Y2で製造した化合物(Y2-2)、実施例Y3で製造した化合物(Y3-2)、及び実施例Y4で製造した化合物(Y4-2)の各種溶媒に対する溶解度(25℃)を測定した。
〔実験方法〕
実施例Y1~Y4の化合物(Y1-2)、(Y2-2)、(Y3-2)及び(Y4-2)、及び比較例としての直鎖含有化合物(表Y2の比較例Y1及びY2参照。)を25℃で各溶媒に飽和させ、その溶解度(単位:重量%)を測定した(表Y1、Y2)。溶媒は、CPME、MTHP、トルエン、及びクロロホルムを用いた。
なお、比較例Y1に示した直鎖C1837化合物は、特開2000-44493の実施例に記載の方法、比較例Y2に示した直鎖C2245化合物は、Bioorganic&Medicinal chemistry letters,21,(2011),4476-4479に記載の方法を参考に合成したものを使用した。
表Y1は、実施例Y1(化合物(Y1-2))、実施例Y2(化合物(Y2-2))、実施例Y3(化合物(Y3-2))、及び実施例Y4(化合物(Y4-2))の溶解度の結果を示す。表Y2は、比較例Y1及び比較例Y2の溶解度の結果を示す。なお、表Y2の括弧内の値は、実施例Y1~Y4の化合物の溶解度を一律50(重量%)と仮定した場合において、実施例Y1~Y4の溶解度が何倍に相当するか(すなわち、50を当該溶解度で除した値)を示している。
Figure 0007260725000056
Figure 0007260725000057
〔実験結果〕
実施例Y1~Y4の化合物はいずれも、溶解度が50(重量%)よりも大きい値であった。これに対して、比較例Y1及びY2の化合物は、いずれも、50(質量%)未満であり、最大のものでも12.4(質量%)(比較例Y1、クロロホルム)に留まった。また、表Y2に示すように、実施例Y1~Y4の化合物の溶解度は、比較例Y1及びY2の化合物の溶解度に対して、差が小さいものでも少なくとも4.0倍より大きく(比較例Y1-クロロホルムとの比参照)、差が大きいものでは、38.5倍より大きかった(比較例Y2-トルエンとの比参照)。
以上のように、実施例Y1~Y4の化合物はいずれも、対応する側鎖が直鎖である比較例Y1及びY2に記載の化合物と比べて、種々の溶媒に対して4.0倍~38.5倍を超える高い溶解性を示すことを確認した。このことから、ペプチドの製造方法において、上記の化合物がペプチド合成における優れたタグとして機能し得ることを見出した。
[タグの疎水性の確認]
<実施例Y6>
実施例Y1~Y4の化合物(Y1-2)、(Y2-2)、(Y3-2)及び(Y4-2)の疎水性の評価として、液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて評価した。
〔実験方法〕
実施例Y1~Y4の化合物(Y1-2)、(Y2-2)、(Y3-2)及び(Y4-2)、比較例Y1の直鎖C1837化合物及び比較例Y2の直鎖C2245化合物の各10mg/10mL(THF)溶液を調製し、下記条件における液体クロマトグラフィー(HPLC)の保持時間(溶出時間)を比較した(表Y3)。
Figure 0007260725000058
液体クロマトグラフィー(HPLC)条件:
カラム:InertSustainC18(3μm、4.6×125mm)
移動相B:THF、移動相A:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液
溶出液:移動相A/移動相B=25/75(アイソクラクティック)
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:紫外可視分光検出器(λ=220nm)
〔実験結果〕
表Y3に示すように、実施例Y3及びY4に係る化合物(Y3-2)及び(Y4-2)は、比較例Y1及びY2よりも高い疎水性が得られた。また、実施例Y2に係る化合物(Y2-2)は、比較例Y1及びY2と比較して概ね同等の疎水性が得られた。これに対して、実施例Y1に係る化合物(Y1-2)の疎水性は、比較例Y1及びY2と比較して高いものではなかった。
[ペプチド合成例]
化合物(Y2-2)及び化合物(Y3-2)を使用し、ペプチド合成を行った。以下、式中において化合物(Y2-2)をHO-Tag(Y2-2)とも記載し、化合物(Y3-2)をHO-Tag(Y3-2)とも記載する。すなわち、Tag(Y2-2)は、化合物(Y2-2)から-OHを除いた部分を示し、Tag(Y3-2)は、化合物(Y3-2)から-OHを除いた部分を示す。
実施例Y7:PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
実施例Y7-1:HO-Leu-OTag(Y1-4)の合成
化合物(Y2-2)1.0g(1.21mmol)をMTHP/アセトニトリル(8/2)の混合液25mLに溶解し、Fmoc-Leu-OH0.554g(1.57mmol)、EDCI・HCl0.30g(1.57mmol)及びDMAP0.0147g(0.121mmol)を加えて室温で2時間攪拌した。モルホリン42.2μL(0.482mmol)を加え室温で30分間攪拌した。モルホリン2.11mL(24.1mmol)及びDBU1.26mL(8.44mmol)を加えて室温で1時間攪拌した。反応液を分液ロートに移し、20%食塩水18mL×2回を加えて洗浄、分液した。さらに有機層を2M塩酸18mL×3回を加えて洗浄、分液を行い、さらに0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液18mLで洗浄、分液した。有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥後、適量のMTHPで洗いこみをおこないながら、ろ過し、アミノ酸縮合物(HO-Leu-OTag(Y2-2))を溶液として得た。
実施例Y7-2:HO-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
上で得られたHO-Leu-OTag(Y2-2)の溶液にアセトニトリル5.0mL、Fmoc-Ile-OH0.511g(1.45mmol)、EDCI・HCl0.277g(1.45mmol)及びOxyma0.0514g(0.362mmol)を加え室温で1時間攪拌した。モルホリン42.2μL(0.482mmol)を加え室温で30分間攪拌した。モルホリン2.11mL(24.1mmol)及びDBU1.26mL(8.44mmol)を加えて室温で1時間攪拌した。反応液を分液ロートに移し、20%食塩水18mL×2回を加えて洗浄、分液した。さらに有機層を2M塩酸18mL×3回を加えて洗浄、分液を行い、さらに0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液18mLで洗浄、分液し、有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥後、適量のMTHPで洗いこみをおこないながら、ろ過し、アミノ酸縮合物(HO-Ile-Leu-OTag(Y2-2))を溶液として得た。
実施例Y7-3:H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Tyr(tBu)-OHを用いた以外は実施例Y7-2と同様の操作をおこない、H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)を溶液として得た。
実施例Y7-4:H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Pro-OHを用いた以外は実施例Y7-2と同様の操作をおこない、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)を溶液として得た。
実施例Y7-5:H-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Arg(Pbf)-OHを用い、また、反応溶媒としてMTHP/DMF(8/2)を用いた以外は実施例Y7-2と同様の操作をおこない、H-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)を溶液として得た。
実施例Y7-6:H-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Arg(Pbf)-OHを用い、また、反応溶媒としてMTHP/DMF(8/2)を用いた以外は実施例Y7-2と同様の操作をおこない、H-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)を溶液として得た。
実施例Y7-7:H-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Pro-OHを用い、また、3回目の2M塩酸分液時にアセトンを2mL加えて分液した以外は実施例Y7-2と同様の操作をおこない、H-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)を溶液として得た。
実施例Y7-8:H-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Lys(Boc)-OHを用い、また、3回目の2M塩酸分液時にアセトンを2mL加えて分液した以外は実施例Y7-2と同様の操作をおこない、H-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)を溶液として得た。
実施例Y7-9:H-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Asn(Trt)-OHを用いた以外は実施例Y7-2と同様の操作をおこない、H-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)を溶液として得た。
実施例Y7-10:H-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Glu(OtBu)-OHを用いた以外は実施例Y7-2と同様の操作をおこない、H-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)を溶液として得た。
実施例Y7-11:H-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Tyr(tBu)-OHを用いた以外は実施例Y7-2と同様の操作をおこない、H-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)を溶液として得た。
実施例Y7-12:H-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Leu-OHを用いた以外は実施例Y7-2と同様の操作をおこない、H-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)を溶液として得た。
実施例Y7-13:H-PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-PyroGlu-OHを用いた以外は実施例Y7-2と同様の操作をおこない、H-PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)を溶液として得た。
得られた有機層を減圧下、溶媒を留去し、氷冷下、残渣に80%アセトニトリル水溶液120mLを加えて、得られた沈殿物をろ過、減圧乾燥し、H-PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)(1.401g、0.40mmol、収率33.1%)を得た。(収率は出発原料である化合物(Y2-2)(1.21mmol)より計算した。)
ESI-MS:3497.94〔M〕
実施例Y7-1~Y7-13から構成される13回のペプチド伸長反応を行っても、高い収率でH-PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y2-2)が得られたことから、モルホリン等の窒素原子を1つのみ含む特定の環状アミンを捕捉剤として用いることにより、副生成物を容易に除去できることが確認できた。
この化合物を少量用い、トリフルオロ酢酸(TFA):水:トリイソプロピルシラン(TIS)=9.5:2.5:2.5の混合溶液加えて、室温で3時間攪拌し、タグ及びアミノ酸側鎖の保護基を脱保護して分析したところ、H-PyroGlu-Leu-Tyr-Glu-Asn-Lys-Pro-Arg-Arg-Pro-Tyr-Ile-Leu-OHのESI-MS:1672.77〔M+H〕を確認した。
実施例Y8:H-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y3-2)の合成
タグとして化合物(Y3-2)0.5g(0.428mmol)を用いて実施例Y7-1~実施例Y7-6と同様にペプチド合成を実施した。8残基目のFmoc-Lys(Boc)-OHを縮合後の分液において、2M塩酸での分液時に有機層と水層の分離に長時間要することを確認した。合成後の溶液を一昼夜、放置した後に分液した有機層をとり、質量分析を実施した結果、目的であるH-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Y3-2)の質量数を確認した。
ESI-MS:2849.49〔M〕
比較例Y3
H-Leu-OTag(比較例Y1)の合成
タグとして比較例Y1に示した化合物1.0g(1.09mmol)を用いて実施例Y7-1と同様に合成を実施した。Fmoc-Leu-OHを縮合後の分液において、多量の固形物が析出し、分液が困難であり、これ以上のペプチド合成が困難であることを確認した。
〔ペプチドの合成結果について〕
実施例Y7、実施例Y8及び比較例Y3のペプチド合成結果(残基数)と使用したベンジル化合物の溶解性及び疎水性を表Y4にまとめた。本発明のベンジル化合物の一例である化合物(Y2-2)及び化合物(Y3-2)と比較例Y1の直鎖C1837化合物とを比較した場合、有機溶媒へのベンジル化合物の溶解性が高いほどペプチド合成残基数が増大することを確認した。また、化合物(Y2-2)と化合物(Y3-2)とを比較した場合、中程度の疎水性を有している化合物(Y2-2)が最もペプチド合成残基数が増大することを確認した。
これらのことから、長鎖のペプチドを製造するためのタグとしては、有機溶媒への溶解性が高く、かつ、疎水性が高すぎず中程度であるものが適しているといえる。かかるタグとして、上記の実施例Y1~Y4に係るベンジル化合物(化合物(Y1-2)、(Y2-2)、(Y3-2)及び(Y4-2))が液相タグ法における長鎖のペプチド合成に有用であり、なかでも特に実施例Y2及びY3に係る化合物(Y2-2)及び(Y3-2)がより有用であり、実施例Y2に係る化合物(Y2-2)がさらに有用であることを確認した。
Figure 0007260725000059
次に、上述した本発明の実施形態3の実施例を挙げる。以下、下記に示された配列のペプチドを例として合成方法を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[Fmoc基の脱保護]
以下に本実施例で用いた脱Fmocスキームを示す。担体化合物として前記Y1B(担体(ZA)とも称する)を用いた場合を例として記載するが、本発明の方法で用いることができる担体化合物は、Y1Bに限定されない。また、各試薬の添加量も、一例を示しているにすぎず、これに限定されるものではない。なお、担体化合物Y1Bは、前記化合物Y2-2と同一である。
Figure 0007260725000060
出発原料をMTHP/DMF(8/2)の混合液に18v/wになるよう溶解し、モルホリン(20.0equiv)及びDBU(7.0equiv)を加えて室温で1時間攪拌した。反応溶液を分液ロートに移し、2N塩酸を加えて洗浄、分液をおこない、脱Fmoc体を溶液で得た。
[環状アミン捕捉剤を用いたペプチド合成法]
Figure 0007260725000061
出発原料であるFmoc-AA-OHをMTHP/DMF(8/2)の混合液に18v/wになるよう溶解し、Fmocアミノ酸(1.3equiv)、EDCI・HCl(1.3equiv)及びOxyma0.0514g(0.1equiv)を加え室温で1時間攪拌した。モルホリン(0.4equiv)を加え室温で30分間攪拌した。モルホリン(20.0equiv)及びDBU(7.0equiv)を加えて室温で1時間攪拌した。反応溶液を分液ロートに移し、20%食塩水(18v/w)×2回を加えて洗浄、分液した。さらに有機層を2M塩酸(18v/w)×3回を加えて洗浄、分液を行い、さらに0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液(18v/w)で洗浄、分液し、有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥後、適量のMTHPで洗いこみをおこないながら、ろ過し、アミノ酸縮合物を溶液として得た。
実施例Z1:PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-13)の合成
実施例Z1-1:HO-Leu-OTag(Z1-1)の合成
実施例Y7-1と同一の方法で、アミノ酸縮合物(HO-Leu-OTag(Z1-1))を溶液として得た。アミノ酸縮合物(HO-Leu-OTag(Z1-1))は、実施例Y7-1において合成されたアミノ酸縮合物(HO-Leu-OTag(Y2-2))と同一である。
実施例Z1-2:HO-Ile-Leu-OTag(Z1-2)の合成
実施例Y7-2と同一の方法で、アミノ酸縮合物(HO-Ile-Leu-OTag(Z1-2))を溶液として得た。アミノ酸縮合物(HO-Ile-Leu-OTag(Z1-2))は、実施例Y7-2において合成されたアミノ酸縮合物(HO-Leu-OTag(Y2-2))と同一である。
実施例Z1-3:H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-3)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Tyr(tBu)-OHを用いた以外は実施例Z1-2と同様の操作をおこない、H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-3)を溶液として得た。
実施例Z1-4:H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-4)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Pro-OHを用いた以外は実施例Z1-2と同様の操作をおこない、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-4)を溶液として得た。
実施例Z1-5:H-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-5)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Arg(Pbf)-OHを用い、また、反応溶媒としてMTHP/DMF(8/2)を用いた以外は実施例Z1-2と同様の操作をおこない、H-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-5)を溶液として得た。
実施例Z1-6:H-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-6)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Arg(Pbf)-OHを用い、また、反応溶媒としてMTHP/DMF(8/2)を用いた以外は実施例Z1-2と同様の操作をおこない、H-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-6)を溶液として得た。
実施例Z1-7:H-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-7)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Pro-OHを用い、また、3回目の2M塩酸分液時にアセトンを2mL加えて分液した以外は実施例Z1-2と同様の操作をおこない、H-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-7)を溶液として得た。
実施例Z1-8:H-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-8)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Lys(Boc)-OHを用い、また、3回目の2M塩酸分液時にアセトンを2mL加えて分液した以外は実施例Z1-8と同様の操作をおこない、H-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-8)を溶液として得た。
実施例Z1-9:H-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-9)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Asn(Trt)-OHを用いた以外は実施例Z1-2と同様の操作をおこない、H-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-9)を溶液として得た。
実施例Z1-10:H-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-10)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Glu(OtBu)-OHを用いた以外は実施例Z1-2と同様の操作を行い、H-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-10)を溶液として得た。
実施例Z1-11:H-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-11)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Tyr(tBu)-OHを用いた以外は実施例Z1-2と同様の操作をおこない、H-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-11)を溶液として得た。
実施例Z1-12:H-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-12)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Leu-OHを用いた以外は実施例Z1-2と同様の操作をおこない、H-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-12)を溶液として得た。
実施例Z1-13:PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-13)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-PyroGlu-OHを用いた以外は実施例Z1-2と同様の操作をおこない、H-PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-13)を溶液として得た。
実施例Z1-14:C末端担体及び側鎖官能基の脱保護
得られた有機層を減圧下、溶媒を留去し、氷冷下、残渣に80%アセトニトリル水溶液120mLを加えて、得られた沈殿物をろ過、減圧乾燥し、PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z1-13)(1.401g、0.40mmol、収率33.1%)を得た。
ESI-MS:3497.94〔M〕
この化合物を少量用い、トリフルオロ酢酸(TFA):水:トリイソプロピルシラン(TIS)=95:2.5:2.5の混合溶液加えて、室温で3時間攪拌し、C末端担体及びアミノ酸側鎖の保護基を脱保護して分析したところ、PyroGlu-Leu-Tyr-Glu-Asn-Lys-Pro-Arg-Arg-Pro-Tyr-Ile-Leu-OHのESI-MS:1672.77〔M+H〕を確認した。
実施例Z2:C末端担体Bを用いたPyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-13)の合成
なお、本実施例Z2で用いたC末端担体Bは以下の化合物(Z7)である。
Figure 0007260725000062
実施例Z2-1:H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-2)の合成
H-Ile-Leu-OTag(Z2-1)(1.32mmol)のMTHP溶液14.4mLにDMF3.6mL、Fmoc-Tyr(tBu)-OH0.789g(1.72mmol)、EDCI・HCl0.329g(1.72mmol)及びOxyma0.0563g(0.396mmol)を加え室温で1時間攪拌した。モルホリン45.7μL(0.528mmol)を加え室温で30分間攪拌した。モルホリン2.28mL(26.4mmol)及びDBU1.38mL(9.24mmol)を加えて室温で1時間攪拌した。氷冷下、6M塩酸10.89mLを加えた反応溶液を分液ロートに移し、0.1M塩酸18mLを加え洗浄、分液した。さらに有機層に2M塩酸18mLを加えて洗浄、分液を行い、さらに0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液18mLで洗浄、分液した。有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥後、適量のMTHPで洗いこみをおこないながら、ろ過し、アミノ酸縮合物(H-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-2))を溶液として得た。
実施例Z2-2:H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-3)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Pro-OHを用いた以外は実施例Z2-1と同様の操作をおこない、H-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-3)を溶液として得た。
実施例Z2-3:H-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-4)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Arg(Pbf)-OHを用いた以外は実施例Z2-1と同様の操作をおこない、H-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-4)を溶液として得た。
実施例Z2-4:H-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-5)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Arg(Pbf)-OHを用いた以外は実施例Z2-1と同様の操作をおこない、H-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-5)を溶液として得た。
実施例Z2-5:H-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-6)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Pro-OHを用いた以外は実施例Z2-1と同様の操作をおこない、H-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-6)を溶液として得た。
実施例Z2-6:H-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-7)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Lys(Boc)-OHを用い、また、以下の方法で分液した以外は実施例Z2-1と同様の操作をおこなった。反応溶液を分液ロートに移し、20%食塩水18mL×2回を加えて洗浄、分液した。さらに有機層を2M塩酸18mL×3回を加えて洗浄、分液を行い、さらに0.5M炭酸水素ナトリウム水溶液18mLで洗浄、分液し、有機層を適量の硫酸ナトリウムで乾燥後、適量のMTHPで洗いこみをおこないながら、ろ過し、アミノ酸縮合物(H-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-7))を溶液として得た。
実施例Z2-7:H-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-8)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Asn(Trt)-OHを用いた以外は実施例Z2-1と同様の操作をおこない、H-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-8)を溶液として得た。
実施例Z2-8:H-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-9)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Glu(OtBu)-OHを用いた以外は実施例Z2-1と同様の操作をおこない、H-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-9)を溶液として得た。
実施例Z2-9:H-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-10)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Tyr(tBu)-OHを用いた以外は実施例Z2-6と同様の操作をおこない、H-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-10)を溶液として得た。
実施例Z2-10:H-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-11)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-Leu-OHを用いた以外は実施例Z2-1と同様の操作をおこない、H-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-11)を溶液として得た。
実施例Z2-11:PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-12)の合成
縮合するアミノ酸にFmoc-PyroGlu-OHを用いた以外は実施例Z2-1と同様の操作をおこない、PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-12)を溶液として得た。
得られた有機層を減圧下、溶媒を留去し、氷冷下、残渣に80%アセトニトリル水溶液45mLを加えて、得られた沈殿物をろ過、減圧乾燥し、PyroGlu-Leu-Tyr(tBu)-Glu(OtBu)-Asn(Trt)-Lys(Boc)-Pro-Arg(Pbf)-Arg(Pbf)-Pro-Tyr(tBu)-Ile-Leu-OTag(Z2-12)(1.4g、0.86mmol、収率54%)を得た。(収率は出発原料である化合物(Z2-1)(1.32mmol)より計算した。)
ESI-MS:3497.94〔M〕
この化合物を少量用い、トリフルオロ酢酸(TFA):水:トリイソプロピルシラン(TIS)=9.5:2.5:2.5の混合溶液加えて、室温で3時間攪拌し、タグ及びアミノ酸側鎖の保護基を脱保護して分析したところ、PyroGlu-Leu-Tyr-Glu-Asn-Lys-Pro-Arg-Arg-Pro-Tyr-Ile-Leu-OHの生成をESI-MSにより確認した。ESI-MS:1672.77〔M+H〕
実施例Z3:各種塩基によるジケトピペラジン生成量の比較
Fmoc-Tyr(tBu)-Leu-OTag(Z3-1)のMTHP/DMF溶液(8:2)に、モルホリン(Z3-2)を5equiv加え室温で2時間攪拌した後、HPLCによる定量分析を行った。ジケトピペラジンの生成量は、ジケトピペラジン生成に伴い同時に生成するTag-OH(Z3-8)の量と等しい。従って、各種化合物の生成率は、Fmoc-Tyr(tBu)-Leu-OTag(Z3-1)、H-Tyr(tBu)-Leu-OTag(Fmoc基脱保護体、Z3-7)、及びジケトピペラジン生成により生じる担体化合物(Z3-8)の合計面積のうち、各化合物の面積の割合を計算することにより求めた。
Figure 0007260725000063
液体クロマトグラフィー(HPLC)条件:
カラム:InertSustainC18(3μm、4.6×125mm)
移動相B:THF、移動相A:0.1%トリフルオロ酢酸水溶液
溶出液:移動相A/移動相B:表Z5に示すグラジエント条件にて測定を実施した。
Figure 0007260725000064
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:紫外可視分光検出器(λ=220nm)
比較例Z1
モルホリン5equivに代えて、ジエチルアミン(Z3-4、特許文献9および非特許文献4に記載)を5equiv加えた以外は、実施例Z3と同様の操作を行い同様の定量分析を行った。
比較例Z2
モルホリン5equivに代えて、N-メチルピペラジン(Z3-5,特許文献2に記載)]を5equiv加えた以外は、実施例Z3と同様の操作を行い同様の定量分析を行った。
[実験結果]
表Z2に示すように、モルホリンは特許文献2に記載された化合物(N-メチルピペラジン、Z3-5)等の他の化合物に対してFmoc基の脱保護反応の進行が遅く、結果としてジケトピペラジン生成量が少ないことが判明した。これにより、本発明の環状アミンがペプチド合成における優れた捕捉分子として機能しうることを見出した。
Figure 0007260725000065
表Z2に示すように、モルホリンは、ジエチルアミンやN-メチルピペラジンと比して、ジケトピペラジンの生成率を抑制することができた。具体的には、モルホリンを用いた場合における、生成した各種化合物に対するジケトピペラジン生成の割合は、ジエチルアミンを用いた場合の6割程度に抑制され、N-メチルピペラジンを用いた場合の約半分程度まで抑制することができた。このように、副反応の進行が抑制されることを確認した。本発明で用いる環状アミンは塩基性が低いため、意図しないFmoc基の脱保護を抑制できたためと考えられる。

Claims (7)

  1. 有機溶媒中、N末端がフルオレン骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物と、塩基性の脱保護剤とを接触させる工程と、
    前記N末端が前記保護基で保護された前記アミノ基含有化合物と、モルホリン又はその塩酸塩である捕捉剤と、を接触させて、前記保護基由来のフルベン骨格を有する副生成物と前記捕捉剤とが結合した捕捉体を得る工程と、
    得られた前記捕捉体を前記有機溶媒から分離する工程と、
    を含む、
    ペプチド製造方法
  2. 前記脱保護剤は、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1.5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、1、4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、トリエチルアミン、及びトリブチルアミンからなる群より選択される少なくとも1種の塩基である、
    請求項に記載のペプチド製造方法。
  3. 前記捕捉体を分離する工程は、前記有機溶媒に酸性水溶液を加えて洗浄した後、前記有機溶媒を水層と有機層とに分液し、次いで分液された前記水層を分離することを含む、
    請求項1又は2に記載のペプチド製造方法。
  4. 前記脱保護剤は、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)である、
    請求項1又は2に記載のペプチド製造方法。
  5. 有機溶媒中、N末端がフルオレン骨格を有する保護基で保護されたアミノ基含有化合物と、塩基性の脱保護剤とを接触させる工程と、
    前記N末端が前記保護基で保護された前記アミノ基含有化合物と、モルホリン又はその塩酸塩である捕捉剤と、を接触させて、前記保護基由来のフルベン骨格を有する副生成物と前記捕捉剤とが結合した捕捉体を得る工程と、
    得られた前記捕捉体を前記有機溶媒から分離する工程と、
    を含む、
    保護基の除去方法
  6. モルホリン又はその塩酸塩である捕捉剤と、塩基性の脱保護剤と、を含む、フルオレン骨格を有する保護基の除去剤
  7. 前記脱保護剤は、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、1.5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン、1、4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、トリエチルアミン、及びトリブチルアミンからなる群より選択される少なくとも1種の塩基である、
    請求項に記載の除去剤。
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