JP7260336B2 - 高張力鋼のスラブの冷却方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高張力鋼のスラブを鋳造後に冷却する方法に関する。
近年、強度を高めることを目的として、高張力鋼の炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)の濃度が高められている。また、同様の目的でクロム(Cr)、チタン(Ti)、ホウ素(B)等が添加される場合がある。しかし、これらの添加物が添加されることにより、鋳片を鋳造した後に冷却した際、割れ(以下、「置き割れ」と称する)が発生しやすい。
特許文献1には、高張力鋼の連鋳片の置き割れを抑制する方法が記載されている。特許文献1の方法では、高張力鋼では、連鋳片が150℃以下となった途端に、脆性が急激に増加することから、150℃よりも高温側の温度域温度帯域、具体的には500℃~150℃における冷却速度を制御する。
特開2007-83274号公報
高張力鋼の強度をさらに高めるため、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)の添加量を多くすることが考えられる。しかし、これらの元素の添加量が多くなることにより、置き割れが発生する頻度がより高くなる。
本発明は、高張力鋼において置き割れが発生しやすい鋼種でも、置き割れの発生を抑制することが可能な方法を提供することを目的とする。
本発明者らの研究から、以下のことがわかった。
スラブを冷却した際、スラブ長手方向に大きな内部応力が発生する。置き割れを引き起こす主な応力は、この長手方向の応力であることがわかった。さらに、置き割れは、この応力に直交する方向に発生した内部割れを起点に発生することがわかった。
本発明者らはさらに研究を進めたところ、内部割れ長さに応じて、置き割れが発生する内部応力の程度が異なることがわかった。このことから、内部割れ長さに応じて、内部応力を制御することにより、置き割れの発生を抑制できると考えられる。内部応力は冷却速度に依存することがわかったことから、内部割れ長さに応じて、冷却速度を制御することにより、内部応力を制御できることがわかった。
本発明は、上記知見を基になされたものである。具体的には、本発明の高張力鋼のスラブの冷却方法は、炭素(C)含有率が0.16mass%以上0.35mass%以下、ケイ素(Si)含有率が1.0mass%以上2.5mass%以下、マンガン(Mn)含有率が1.2mass%以上4.0mass%以下の高張力鋼のスラブを鋳造した後、切断し、冷却するに際し、
鋳造後、伝熱凝固計算によって算出されるスラブの軸心温度が700℃を超える範囲において、
伝熱凝固計算によって算出されるスラブの軸心冷却速度CR(℃/min.)が
CR≦2.5℃/min.
となるようにし、
伝熱凝固計算によって算出されるスラブの軸心温度が700℃になってから500℃に至るまでの範囲(500℃以上700℃以下の範囲)において、
鋳造後に測定されたスラブの内部割れ長さLまたは鋳造条件を基に求められた鋳造後のスラブの内部割れ長さLに基づいて、伝熱凝固計算によって算出されるスラブの軸心冷却速度CR(℃/min.)が以下を満たすように制御することを特徴とする高張力鋼のスラブの冷却方法。
スラブの内部割れ長さLが10mm以下のとき、CR≦4.1℃/min.とし、
スラブの内部割れ長さLが10mm超え30mm以下のとき、CR≦1.2℃/min.とし、
スラブの内部割れ長さLが30mm超え40mm以下のとき、CR≦0.7℃/min.とし、
スラブの内部割れ長さLが40mm超え100mmのとき、CR≦0.4℃/min.とする。
本発明によると、高張力鋼のスラブを鋳造後、室温(約20℃)まで冷却した際、置き割れが発生することを抑制することができる。また、高張力鋼において置き割れが発生しやすい鋼種でも、置き割れの発生なく、室温までスラブを冷却することができる。
切断された高張力鋼のスラブの斜視図である。 図1のIIの切断面を示す図である。 破壊靭性試験の結果を示す図である。 内部応力と内部割れ長さとの関係を示す図である。 内部応力と、内部割れ長さと、スラブの軸心冷却速度と、置き割れ発生の有無との関係を示す図である。 スラブを積んだ状態を示す図である。 内部応力と、内部割れ長さと、スラブの軸心冷却速度と、置き割れ発生の有無との関係を示す図である。
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
本実施形態に係る高張力鋼のスラブの冷却方法が対象とする高張力鋼について説明する。本実施形態が対象とする高張力鋼は、以下の組成を有する。
炭素(C)含有率:0.16mass%以上0.35mass%以下
ケイ素(Si)含有率:1.0mass%以上2.5mass%以下
マンガン(Mn)含有率:1.2mass%以上4.0mass%以下
本実施形態が対象とする高張力鋼は、上記の元素を添加されていることにより、780MPa以上の引張強度を有する。スラブのサイズは、例えば、厚さ230mm以上270mm以下、幅800mm以上1,400mm以下のサイズである。
本実施形態が対象とする高張力鋼の炭素を含めた合金の含有率の上限は、従来の高張力鋼の合金含有率の上限より高い。そのため、本実施形態の高張力鋼は、従来より高強度な鋼を含む。しかし、炭素含有率が高い場合、冷却した際、置き割れが発生する頻度が高い。そのため、本実施形態の高張力鋼は、従来より置き割れが発生しやすい鋼を含む。
上述した高張力鋼のスラブを鋳造した後、スラブを所定の長さに切断する。図1に、切断されたスラブXを示している。図1に示す幅方向、厚さ方向および長手方向は、互いに直交している。本実施形態では、切断されたスラブXを、加熱することなく、室温になるまで冷却する。
本発明者らは、スラブXを冷却した際に置き割れが発生する原因について研究した。その結果、以下のことがわかった。
スラブXを冷却した際、スラブXに内部応力が発生する。内部応力の大きさを、スラブXの幅方向、厚さ方向および長手方向で比較したところ、長手方向の応力が最も大きいことがわかった。そして、この長手方向の応力が、置き割れを引き起こす主な応力であることがわかった。
図2に、スラブXの長手方向に沿った切断面の一例を示している。図2に示す切断面は、図1のIIの切断面である。図2に示すように、スラブXに、内部割れが発生していることがある。内部割れは、スラブ長手方向に直交する方向に発生する。この方向は、応力の方向が最も大きい長手方向に直交する方向であった。置き割れは、長手方向の応力に直交する方向に発生した内部割れを起点に、内部応力によって発生することがわかった。
スラブXを冷却した際に生じる内部応力は、熱膨張・収縮による熱応力によるものと、変態膨張・収縮による変態応力によるものとの双方が作用した結果、発生する。熱応力は、スラブXの表面温度と内部温度の差によって生じ、冷却速度によって制御可能である。
従来の高張力鋼の冷却方法では、連鋳片の冷却速度を制御することにより、置き割れの発生を抑制していた。しかし、本実施形態の高張力鋼では、従来より炭素含有率の上限が高いため、連鋳片の冷却速度を制御するだけでは、置き割れの発生を抑制できない場合があることがわかった。このことから、本実施形態では、冷却速度によって制御可能な熱応力だけでなく、変態応力に着目した。また、スラブ置き割れの破面は脆性破面を呈しており、破壊現象であることから、置き割れの発生には割れの起点のサイズに着目した。その結果、以下のことがわかった。
変態応力は、スラブの表面側と内部側の変態発生のタイミングの差、および、変態後の材料の強度(組織)によって変わる。冷却時のスラブの組織がオーステナイト組織からフェライト組織、パーライト組織又はこれら両方が存在する組織に変態する場合、変態応力は小さい。しかし、スラブの組織が、ベイナイト組織やマルテンサイト組織に変わると、変態応力が大きくなる。
本実施形態の高張力鋼では、スラブが500℃以上700℃以下のときに変態(フェライト組織やパーライト組織への変態)を発生させると変態応力が低減する場合があることがわかった。すなわち、この温度範囲で冷却速度を制御することが重要である。一方、上記温度範囲より高温域では、スラブの組織が変態しないため、変態応力が発生しない。また、上記温度範囲より低温域で変態を発生させるとベイナイト組織やマルテンサイト組織が発生し、材料の強度が上がるため、変態応力が大きくなる。
変態応力が大きくなると熱応力と変態応力の合計である内部応力が大きくなり、室温まで冷却した際にスラブ内に残留する内部応力が大きくなる。そのため、500℃以上700℃以下の範囲で変態を発生させることにより、変態応力を抑制し、発生する内部応力を小さくし、その結果、スラブを室温まで冷却した際に置き割れを発生させる室温時の内部(残留)応力を低減することが重要である。
冷却時に発生する内部応力が大きいほど、室温まで冷却した時のスラブ内部の(残留)応力が大きくなり、置き割れが発生しやすいため、500℃以上700℃以下の範囲で適切な変態を発生させなかった場合には、置き割れが発生しやすい。一方、500℃未満の範囲および700℃を超える範囲での冷却速度も熱応力の変化には寄与するものの、寄与の程度は小さく、置き割れの直接原因にはならない。
上記知見から、本実施形態の高張力鋼では、スラブを鋳造後、冷却した際、スラブの温度が700℃になってから500℃に至るまで(500℃以上700℃以下のとき)、スラブに発生する内部応力が小さくなるように制御すれば、置き割れの発生を抑制できると考えた。
上述したように、置き割れは、脆性破壊現象であり、割れの起点に作用する内部(残留)応力が材料の破壊靱性を超える場合に発生し、破壊に至る応力は割れの起点のサイズに依存する。そこで、置き割れの発生と、内部割れと、内部応力との関係を調べた。
破壊靱性試験による破壊を、スラブの置き割れと考え、以下の条件で破壊靱性試験を実施した。
表1に示す鋼種のスラブを鋳造した。表1に示すA~Cの鋼種は、本実施形態の高張力鋼の鋼種である。鋳造後、スラブからサンプルを採取し、JISG0564の金属材料-平面ひずみ破壊じん(靱)性試験方法に準じて、破壊靱性試験を実施した。破壊靱性試験におけるサンプルの破壊、破壊の起点(切り欠き長さ)および破壊応力はそれぞれ、スラブの置き割れ、内部割れ(内部割れ長さ)および内部応力と考えることができる。
Figure 0007260336000001
図3に、破壊靭性試験の結果を示している。図3の縦軸は室温における破壊応力であり、図3の横軸は破壊の起点(切り欠き長さ)である。図3に示す曲線は破壊靱性の特性を示している。曲線の上側ではスラブが破壊するが、曲線の下側ではスラブが破壊しないことがわかった。
図3に示す破壊、破壊の起点(切り欠き長さ)および破壊応力をそれぞれ、スラブの置き割れ、内部割れ(内部割れ長さ)および室温での内部(残留)応力に置き換えると、図4に示す図が得られた。図4の縦軸は内部応力δであり、図4の横軸は内部割れ長さLである。図4に示す曲線は、置き割れが発生しない最大内部応力と考えることができる。曲線の上側の範囲は、「置き割れが発生する範囲」であり、曲線の下側の範囲は、「置き割れが発生しない範囲」である。
図4から、内部割れ長さLによって、置き割れが発生しない室温での内部(残留)応力δの範囲が異なることがわかった。内部割れ長さLが長くなるにつれて、置き割れが発生しない内部応力δが小さくなる。しかし、内部割れ長さLが長くても、内部応力δが「置き割れが発生しない範囲」にある場合、置き割れは発生しないことがわかった。言い換えると、内部割れ長さLが長くても、内部応力δを小さくすれば、置き割れの発生を抑制できることがわかった。一方、内部割れ長さLが短い場合、置き割れが発生しない内部応力δの範囲が広い。そのため、内部割れ長さLが短い場合、内部応力δが大きくても、置き割れの発生を抑制できる。
上記より、内部割れ長さLに応じて、内部応力δが「置き割れが発生しない範囲」になるように、内部応力δを制御することにより、置き割れの発生を抑制できると考えられる。
内部応力は、上述したように、熱応力と変態応力が作用した結果、発生する。熱応力および変態応力はスラブの冷却速度によって制御可能である。そのため、冷却速度と内部応力との関係を調べた。
<冷却速度>
スラブの冷却速度は、CASTEM(伝熱凝固プログラム)を用いて計算した。ここでは、上記表1に示す成分のスラブサンプルの各種試験により採取した物性値(比熱、凝固潜熱、熱伝導度、密度等)に基づき、下記表2に示す連続鋳造機の冷却条件(鋳造速度、比水量)と鋳造後の冷却条件を元に、境界条件として、鋳片表面とミスト、大気、ロールそれぞれの熱伝達係数を温度の関数として与えた。また、連続鋳造機の最終ロールを通過した直後のスラブ表面温度および、鋳造後の冷却時におけるスラブ表面温度を測定し、計算によって得られた表面温度履歴が実測値に合うようにスラブ表面の熱伝達係数を補正した。連続鋳造機の最終ロールとは、鋳型直下から鋳造方向に連なるロール群の内、鋳型から最も鋳造距離が大きい位置にあるロールである。また、後述する内部応力の解析において、スラブの幅方向中央、厚さ方向中央、且つ長手方向中央の位置で内部応力が最大となったことから、冷却速度として、スラブの幅方向中央、厚さ方向中央、且つ長手方向中央の位置の冷却速度を採用した。以下において、スラブの幅方向中央、厚さ方向中央、且つ長手方向中央位置の冷却速度を、「スラブの軸心冷却速度」又は単に「軸心冷却速度」と称することがある。
Figure 0007260336000002
<内部応力>
汎用ソフトウェアのABAQUSを用いて、数値解析により、内部応力を求めた。このとき、上述したCASTEMで計算された鋳片の温度分布を与え、その温度と冷却速度に応じた物性値(応力-歪関係、線膨張係数)を逐次与えることで、鋳片内の応力分布を計算した。この解析により、内部応力は、スラブの幅方向、厚さ方向、および長手方向のうち長手方向で最大となることがわかった。また、スラブの幅方向、厚さ方向、および長手方向の内部応力はそれぞれ幅方向中央、厚さ方向中央、および長手方向中央で最大となることがわかった。
冷却速度CRと室温での内部(残留)応力δから、内部応力δは冷却速度CRに依存することがわかった。このことから、冷却速度CRを制御することにより、内部応力δを制御できることがわかった。
冷却速度CRと内部応力δの関係、および、図4に示す内部応力δと内部割れ長さLと置き割れ発生の有無との関係から、図5に示す結果が得られた。図5には、内部応力δと、内部割れ長さLと、冷却速度CRと、置き割れ発生の有無との関係を示している。
図5に示す曲線は、置き割れが発生しない室温での最大内部(残留)応力δを示す曲線でもあり、置き割れが発生しない最大冷却速度CRを示す曲線でもある。曲線の上側の範囲は、「置き割れが発生する範囲」であり、曲線の下側の範囲は、「置き割れが発生しない範囲」である。内部割れ長さLによって、置き割れが発生しない冷却速度CRの範囲が異なる。図5から、内部割れ長さLに応じて、冷却速度CRが「置き割れが発生しない範囲」になるように、冷却速度CRを制御することにより、置き割れの発生を抑制することができると考えられる。
上記知見を確認するため、以下の実験を行った。
表3に示す鋳造速度および比水量でスラブを鋳造した。鋳片引き抜き開始時は、0.2m/min.で、約100秒間、鋳片を引き抜き抜いた。その後、0.12m/min.2の加速度で目標鋳造速度まで順次増速させた。鋳造後、スラブを所定の長さに切断し、室温で、表3に示すスラブ冷却状態になるように準備した。具体的には、スラブが連続鋳造機の最終ロールを通過した時から50分以内に、表3に示すスラブ冷却状態になるようにした。その後、表3に示すスラブ冷却状態でスラブを冷却した。表3に示すスラブ冷却状態は、スラブの軸心温度が700℃から500℃に至るまでの冷却状態である。その後、スラブを室温になるまで冷却させてから、スラブに置き割れが発生しているか(スラブ折損の有無)を確認した。
Figure 0007260336000003
以下、表3に示す条件を説明する。
表3に示す鋼種A~Cは、表1および表2に示す鋼種A~Cである。
表3に示す「スラブ冷却状態」を、以下に説明する。
・No.1の「水冷」
スラブをマンボ(枕木)に載せ、スプレーで、12時間、上方および下方からスラブに散水した。
・No.2とNo.5の「1枚空冷」
1枚のスラブをマンボ(枕木)に載せ、室温で96時間放置した。
・No.3の「8枚段積み(最上段)」
図6に示すように、8枚のスラブを積み、室温で96時間放置した。以下において、複数枚のスラブを積むことを「段積み」と称することがある。段積みは、8枚のスラブの幅方向および長手方向の中心が、同一鉛直線状に配置されるようにした。8枚のスラブのうち最上段のスラブに置き割れが発生したかを確認した。
・No.4の「8枚段積み(上から2枚目)」
No.3と同様に、8枚のスラブを積み、室温で96時間放置した。8枚のスラブのうち上から2枚目のスラブに置き割れが発生したかを確認した。
表3に示す「軸心冷却速度」は、表3に示す冷却状態で冷却しているときのスラブの軸心冷却速度である。「軸心冷却速度」は、伝熱凝固プログラムのCASTEMを用いて計算した値である。
表3に示す「内部割れ長さL」は、以下の方法によって測定した長さである。
鋳造後、所定の長さに切断したスラブを、長手方向に沿って切断した。切断面からサンプルを採取し、サンプルに酸を塗布した。酸により腐食した部分の長さを測定した。この長さを内部割れ長さLとした。腐食した部分が複数存在するときは、腐食した部分の長さが最も長いものを、内部割れ長さLとした。デンドライト樹間でミクロ偏析が大きい部分と内部割れを見分けるのが困難であるため、本方法での検出下限は10mmである。そのため、10mm未満の長さの割れは全て10mmとして取り扱った。
表3および図7に結果を示している。図7は、図5に、表3に示す結果をプロットしたものである。
表3から、No.1~4では置き割れが発生しなかったが、No.5では置き割れが発生した。置き割れが発生しなかったNo.1~4は、図7に示すように、「置き割れが発生しない範囲」に存在した。一方、置き割れが発生したNo.5は、「置き割れが発生する範囲」に存在した。このことから、図7の曲線の下側の範囲は「置き割れが発生しない範囲」であり、図7の曲線の上側の範囲は「置き割れが発生する範囲」であることを確認できた。
上記より、スラブを鋳造後、切断し、冷却する際、スラブの軸心の温度が700℃から500℃に至るまで(500℃以上700℃以下の範囲において)、内部割れ長さLに応じて、冷却速度CRが図7に示す「置き割れが発生しない範囲」になるように、冷却速度CRを制御することにより、置き割れの発生を抑制できる。
また、図7から以下のことがわかった。
No.1では、内部割れ長さLが10mm、スラブ軸心冷却速度が4.14℃/min.のとき、置き割れが発生しなかった。図7に示す曲線から、スラブ軸心冷却速度が4.14℃/min.以下で置き割れが発生しない最大内部割れ長さLは10mmである。このことから、内部割れ長さLが10mm以下のとき、スラブ軸心冷却速度を4.1℃/min.以下にすることにより、置き割れが発生しないといえる。
No.2では、内部割れ長さLが10mm、スラブ軸心冷却速度が1.21℃/min.のとき、置き割れが発生しなかった。図7に示す曲線から、スラブ軸心冷却速度が1.21℃/min.以下で起き割れが発生しない最大内部割れ長さLは30mmである。このことから、内部割れ長さLが30mm以下のとき、スラブ軸心冷却速度を1.21℃/min.以下にすることにより、置き割れが発生しないといえる。
No.3では、内部割れ長さLが10mm、スラブ軸心冷却速度が0.7℃/min.のとき、置き割れが発生しなかった。図7に示す曲線から、スラブ軸心冷却速度が0.7℃/min.以下で起き割れが発生しない最大内部割れ長さLは約40mmである。このことから、内部割れ長さLが40mm以下のとき、スラブ軸心冷却速度を0.7℃/min.以下にすることにより、置き割れが発生しないといえる。
No.4では、内部割れ長さLが10mm、スラブ軸心冷却速度が0.44℃/min.のとき、置き割れが発生しなかった。図7に示す曲線から、スラブ軸心冷却速度が0.44℃/min.以下で起き割れが発生しない最大内部割れ長さLは100mm以下である。このことから、内部割れ長さLが100mm以下のとき、スラブ軸心冷却速度を0.4℃/min.以下にすることにより、置き割れが発生しないといえる。
上記より、スラブを鋳造後、切断し、室温まで冷却する際、スラブの軸心温度が700℃から500℃に至るまで(500℃以上700℃以下の範囲において)、スラブの内部割れ長さLに応じて、スラブの軸心冷却速度CRを以下のように制御する。これにより、本実施形態の高張力鋼を冷却した際、置き割れの発生を抑制することができる。
スラブの内部割れ長さLが10mm以下のとき、
CR≦4.1℃/min.とする。
スラブの内部割れ長さLが10mm超え30mm以下のとき、
CR≦1.2℃/min. とする。
スラブの内部割れ長さLが30mm超え40mm以下のとき、
CR≦0.7℃/min. とする。
スラブの内部割れ長さLが40mm超え100mmのとき、
CR≦0.4℃/min. とする。
なお、スラブの軸心温度が700℃に至るまでは、上述したように、変態応力が発生しないため、スラブに発生する内部応力が小さい。そのため、スラブの軸心冷却速度CRを制御しなくても、置き割れが発生しにくい。そこで、スラブの軸心温度が700℃に至るまでは、例えば、スラブを放置(空冷)してもよい。1枚のスラブを放置(空冷)した場合、スラブの軸心冷却速度CRは2.5℃/min.以下である。そのため、スラブの軸心温度が700℃を超える範囲では、スラブの軸心冷却速度CRを以下のように制御するとよい。
CR≦2.5℃/min.
また、スラブの軸心温度が500℃を下回ったときも、700℃から500℃での冷却速度を制御していれば、既に変態が完了しており変態が起こらないか、500℃以下で変態が発生して内部応力が増加しても置き割れが発生しない内部割れの長さが前提となっている。そのため、スラブの軸心冷却速度CRを制御しなくても、置き割れが発生しにくい。そこで、スラブの軸心温度が500℃を下回ってからは、冷却速度を制御しなくてもよい。例えば、スラブの軸心温度が500℃を下回ってからも、500℃に至るまでの冷却状態を継続してもよい。また、500℃に至るまでの冷却状態をやめてもよい。
「スラブの軸心冷却速度CR」は、例えば、スラブの表面温度履歴(例えば、スラブ表面の冷却速度)から伝熱計算により算出することができる。また、「スラブの軸心冷却速度CR」は、例えば、スラブの鋳造条件、鋳造後の冷却条件等が決まれば、それらの条件に応じて算出することができる。例えば、「スラブの軸心冷却速度CR」として、(温度Aと温度Bの温度差)/(温度Aから温度Bとなる時間)によって得られた値を使用してもよい。「スラブの軸心温度が700℃から500℃に至るまでのスラブの軸心冷却速度CR」(スラブの軸心温度が500℃以上700℃以下におけるスラブの軸心冷却速度CR)は、例えば、鋳造後、スラブを700℃から500℃に至るまで冷却するときの荷姿(例えば、表3に示す「スラブ冷却状態」)、その荷姿にするまでの時間等によって、操業毎に制御可能である。
「スラブの軸心温度」は、CASTEM(伝熱凝固プログラム)を用いて計算したが、一般的な伝熱凝固計算により、例えば、市販のコードにより計算によって求められる。「スラブの軸心温度」とは、スラブの幅方向中央、厚さ方向中央、且つ長手方向中央の温度であり、スラブにおいて最も温度が高い位置の温度である。本実施形態では、スラブの内部に発生する応力を制御しようとしており、内部応力を制御するのは冷却速度である。その内部応力が最大となるのがスラブ軸心部であるため、スラブの冷却速度として「スラブの軸心冷却速度」を採用している。そのため、スラブの温度として、「スラブの軸心温度」を採用している。
「内部割れ長さL」は、例えば、スラブの鋳造条件(鋳造速度、比水量、スラブサイズ、ロールスタンドの使用状況等)を基に推測される長さでもよい。「内部割れ長さL」は、例えば、鋳造後のスラブの切断面において測定された実測値でもよい。複数の内部割れが発生した場合、最も長い内部割れ長さを「内部割れ長さL」とする。
また、例えば、「内部割れ長さL」として推測された長さが存在する場合、その長さを推測するために用いた鋳造条件と同じ鋳造条件でスラブを鋳造するとき、そのスラブの「内部割れ長さL」を、すでに存在する推測された長さとしてもよい。例えば、「内部割れ長さL」の実測値が存在する場合、その実測値が得られた鋳造条件と同じ鋳造条件でスラブを鋳造するとき、そのスラブの「内部割れ長さL」を上記実測値としてもよい。
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
X スラブ

Claims (1)

  1. 炭素含有率が0.16mass%以上0.35mass%以下、ケイ素含有率が1.0mass%以上2.5mass%以下、マンガン含有率が1.2mass%以上4.0mass%以下の高張力鋼のスラブを鋳造した後、切断し、冷却するに際し、
    鋳造後、伝熱凝固計算によって算出されるスラブの軸心温度が700℃を超える範囲において、
    伝熱凝固計算によって算出されるスラブの軸心冷却速度CR(℃/min.)が
    CR≦2.5℃/min.
    となるようにし、
    伝熱凝固計算によって算出されるスラブの軸心温度が700℃になってから500℃に至るまでの範囲において、
    鋳造後に測定されたスラブの内部割れ長さLまたは鋳造条件を基に求められた鋳造後のスラブの内部割れ長さLに基づいて、伝熱凝固計算によって算出されるスラブの軸心冷却速度CR(℃/min.)が以下を満たすように制御することを特徴とする高張力鋼のスラブの冷却方法。
    スラブの内部割れ長さLが10mm以下のとき、
    CR≦4.1℃/min.とし、
    スラブの内部割れ長さLが10mm超え30mm以下のとき、
    CR≦1.2℃/min.とし、
    スラブの内部割れ長さLが30mm超え40mm以下のとき、
    CR≦0.7℃/min.とし、
    スラブの内部割れ長さLが40mm超え100mmのとき、
    CR≦0.4℃/min.とする
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