以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電気抵抗圧入接合構造が適用されたクラッチドラムを有するクラッチ装置を備えた自動変速機10を一例として示す。この自動変速機10は、FR式の車両に搭載される縦置き式の自動変速機である。
自動変速機10は、変速機ケース11と、該変速機ケース11内に挿入されかつ上記車両の駆動源(エンジン、モータ等)からの動力が入力される入力軸12と、変速機ケース11内に収容されかつ入力軸12を介して上記駆動源からの動力が伝達される変速機構14と、変速機ケース11内に挿入されかつ変速機構14からの動力をプロペラシャフトに出力する出力軸13とを有している。
入力軸12と出力軸13とは、車両前後方向に沿って同軸に配置されており、自動変速機10が上記車両に搭載された状態で、入力軸12が車両前側に位置しかつ出力軸13が車両後側に位置している。以下の説明では、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)における上記駆動源側(図1の左側)を前側といい、入力軸12の軸方向における上記駆動源とは反対側(図1の右側)を後側という。
変速機構14は、入力軸12の軸方向に並ぶ、第1プラネタリギヤセットPG1(以下、第1ギヤセットPG1という)、第2プラネタリギヤセットPG2(以下、第2ギヤセットPG2という)、第3プラネタリギヤセットPG3(以下、第3ギヤセットPG3という)、及び、第4プラネタリギヤセットPG4(以下、第4ギヤセットPG4という)を有している。これら第1ギヤセットPG1、第2ギヤセットPG2、第3ギヤセットPG3及び第4ギヤセットPG4は、前側からこの順に並んでいて、入力軸12から出力軸13への複数の動力伝達経路を形成する。第1~第4ギヤセットPG1~PG4は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。
第1ギヤセットPG1は、回転要素として、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1及び第1キャリヤC1を有する。第1ギヤセットPG1は、シングルピニオン型であって、第1キャリヤC1に支持されかつ第1ギヤセットPG1の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP1が第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1の両方に噛み合わされている。
第2ギヤセットPG2は、回転要素として、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2及び第2キャリヤC2を有する。第2ギヤセットPG2も、シングルピニオン型であって、第2キャリヤC2に支持されかつ第2ギヤセットPG2の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP2が第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2の両方に噛み合わされている。
第3ギヤセットPG3は、回転要素として、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3及び第3キャリヤC3を有する。第3ギヤセットPG3も、シングルピニオン型であって、第3キャリヤC3に支持されかつ第3ギヤセットPG3の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP3が第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3の両方に噛み合わされている。
第4ギヤセットPG4は、回転要素として、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4及び第4キャリヤC4を有する。第4ギヤセットPG4も、シングルピニオン型であって、第4キャリヤC4に支持されかつ第4ギヤセットPG4の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP4が第4サンギヤS4及び第4リングギヤR4の両方に噛み合わされている。
第1ギヤセットPG1の第1サンギヤS1は、入力軸12の軸方向に2分割されており、相対的に前側に配置された前側第1サンギヤS1aと相対的に後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。つまり、第1ギヤセットPG1は、ダブルサンギヤ型のギヤセットである。前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、同じ歯数の歯を有して、第1キャリヤC1に支持されたピニオンP1に噛合しているため、これら前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの回転数は常に等しくなる。すなわち、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、常に同じ回転速度で回転し、一方のギヤの回転が停止しているときには他方のギヤの回転も停止する。
第1サンギヤS1(厳密には、後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時転結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。また、入力軸12は第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸13は第4キャリヤC4に常時連結されている。具体的には、入力軸12は、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの間を通る動力伝達部材18を介して第1キャリヤC1と連結されている。後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達軸15を介して連結されている。第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とは、動力伝達部材16を介して連結されている。
変速機構14は、第1~第4ギヤセットPG1~PG4により形成される上記複数の動力伝達経路の中から1つを選択して動力伝達経路を切り換えるための5つの摩擦締結要素(第1クラッチ20、第2クラッチ21、第3クラッチ22、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24)を有している。
第1クラッチ20は、入力軸12及び第1キャリヤC1と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第1クラッチ20は、第1ギヤセットPG1の前側に配設されている。
第2クラッチ21は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第2クラッチ21は、第1クラッチ20の前側に配設されている。
第3クラッチ22は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。第3クラッチ22は、第2クラッチ21の前側に配設されている。
第1ブレーキ23は、第1サンギヤS1(厳密には前側第1サンギヤS1a)と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。第1ブレーキ23は、第3クラッチ22の前側における変速機ケース11の近傍に配置されている。第1ブレーキ23の締結時には、第1サンギヤS1が変速機ケース11に固定される。
第2ブレーキ24は、第3リングギヤR3と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。第2ブレーキ24の締結時には、第3リングギヤR3が変速機ケース11に固定される。
上記各摩擦締結要素は、該各摩擦締結要素の締結油圧室への作動油の供給により締結される。図2の締結表に示すように、5つの摩擦締結要素から3つの摩擦締結要素を選択的に締結することにより、前進の1速~8速及び後退速が形成される。尚、図2の締結表では、○印が、摩擦締結要素が締結していることを示し、空欄が、摩擦締結要素が締結を解除(解放)していることを示す。
具体的には、第1クラッチ20、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、1速が形成される。第2クラッチ21、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、2速が形成される。第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第2ブレーキ24の締結により、3速が形成される。第2クラッチ21、第3クラッチ22及び第2ブレーキ24の締結により、4速が形成される。第1クラッチ20、第3クラッチ22及び第2ブレーキ24の締結により、5速が形成される。第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第3クラッチ22の締結により、6速が形成される。第1クラッチ20、第3クラッチ22及び第1ブレーキ23の締結により、7速が形成される。第2クラッチ21、第3クラッチ22及び第1ブレーキ23の締結により、8速が形成される。第3クラッチ22、第1ブレーキ23及び第2ブレーキ24の締結により、後退速が形成される。6速では、入力軸12の回転速度と出力軸13の回転速度が同じになる。
図3に、本発明の実施形態に係る電気抵抗圧入接合構造が適用されたクラッチドラムの例として、クラッチドラム5~7を具体的に示す。尚、図3中、Cは、入力軸12の中心軸(出力軸13の中心軸)であり、クラッチドラム5~7の中心軸(後述の第1筒状部材50,60,70及び第2筒状部材51,61,71の筒軸)でもある。クラッチドラム5~7の軸方向は、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)と一致する。
クラッチドラム5は、第1クラッチ20、第2クラッチ21及び第3クラッチ22(これらは、クラッチ装置に相当する)に共通のクラッチドラムであって、後側の端部で第3ギヤセットPG3の第3サンギヤS3(図4では、記載を省略)に連結され、前側の端部で連結部材8に連結される。
クラッチドラム6は、第2クラッチ21のクラッチドラムであって、クラッチドラム5の径方向内側に位置する。このクラッチドラム6は、その後側の端部で第1ギヤセットPG1の第1リングギヤR1に連結される。クラッチドラム6の前側の端部には、複数の摩擦板31が取り付けられている。これらの摩擦板31は、第2クラッチ21の締結時に、連結部材8において摩擦板31と交互に並ぶように取り付けられた複数の摩擦板35と係合する。
クラッチドラム7は、第3クラッチ22のクラッチドラムであって、クラッチドラム5の径方向内側でかつクラッチドラム6の径方向外側に位置する。このクラッチドラム7は、その後側の端部で第2ギヤセットPG2の第2リングギヤR2に連結される。クラッチドラム7の前側の端部には、複数の摩擦板32が取り付けられている。これらの摩擦板32は、第3クラッチ22の締結時に、連結部材8において摩擦板32と交互に並ぶように取り付けられた複数の摩擦板36と係合する。
クラッチドラム5は、金属板材で成形された第1筒状部材50(第1部材)と、該第1筒状部材50の筒軸方向の一側(後側)において該第1筒状部材50と同軸に配置された第2筒状部材51(第2部材)とを備える。すなわち、第1筒状部材50は、クラッチドラム5の軸方向の一部を構成し、第2筒状部材51は、クラッチドラム5の軸方向の他の部分を構成する。第2筒状部材51は、第1筒状部材50とは異なる材料の金属板材で成形された有底筒状部材とされ、第1筒状部材50側(前側)が開口している。
クラッチドラム6も、クラッチドラム5と同様に、金属板材で成形された第1筒状部材60(第1部材)と、該第1筒状部材60の筒軸方向の一側(後側)において該第1筒状部材60と同軸に配置された第2筒状部材61(第2部材)とを備える。すなわち、第1筒状部材60は、クラッチドラム6の軸方向の一部を構成し、第2筒状部材61は、クラッチドラム6の軸方向の他の部分を構成する。第2筒状部材61は、第1筒状部材60とは異なる材料の金属板材で成形された有底筒状部材とされ、第1筒状部材60側(前側)が開口している。
クラッチドラム7も、クラッチドラム5と同様に、金属板材で成形された第1筒状部材70(第1部材)と、該第1筒状部材70の筒軸方向の一側(後側)において該第1筒状部材70と同軸に配置された第2筒状部材71(第2部材)とを備える。すなわち、第1筒状部材70は、クラッチドラム7の軸方向の一部を構成し、第2筒状部材71は、クラッチドラム7の軸方向の他の部分を構成する。第2筒状部材71は、第1筒状部材70とは異なる材料の金属板材で成形された有底筒状部材とされ、第1筒状部材70側(前側)が開口している。
本実施形態では、第1筒状部材50,60,70の材料は、第2筒状部材51,61,71の材料よりも融点が低い材料である。具体的に、クラッチドラム5~7の軽量化のために、第1筒状部材50,60,70の材料は、アルミニウム又はアルミニウム合金であり、トルク伝達のために強度が必要な第2筒状部材51,61,71の材料は、鋼である。尚、クラッチドラム5~7の軽量化のために、第1筒状部材50,60,70の材料が、マグネシウム又はマグネシウム合金であってもよい。
クラッチドラム5における第1筒状部材50の後側の端部及び第2筒状部材51の前側の端部は、互いに接合されている。すなわち、第1筒状部材50の外周面に設けられた接合部50aと第2筒状部材51の内周面に設けられた接合部51aとが、互いに圧入されかつ電気抵抗接合されている。
クラッチドラム6における第1筒状部材60の後側の端部及び第2筒状部材61の前側の端部も、クラッチドラム5と同様に、互いに接合されている。すなわち、第1筒状部材60の外周面に設けられた接合部60aと第2筒状部材61の内周面に設けられた接合部61aとが、互いに圧入されかつ電気抵抗接合されている。
クラッチドラム7における第1筒状部材70の後側の端部及び第2筒状部材71の前側の端部も、クラッチドラム5,6と同様に、互いに接合されている。すなわち、第1筒状部材70の外周面に設けられた接合部70aと第2筒状部材71の内周面に設けられた接合71aとが、互いに圧入されかつ電気抵抗接合されている。
以下、クラッチドラム7の電気抵抗圧入接合構造について、図4により詳細に説明する。この説明において、第1筒状部材70の筒軸方向(第2筒状部材71の筒軸方向)を、単に筒軸方向という。クラッチドラム5,6の電気抵抗圧入接合構造も、クラッチドラム7の電気抵抗圧入接合構造と同様であるので、その説明は省略する。
第1筒状部材70の外周面及び第2筒状部材71の内周面には、互いに圧入されかつ電気抵抗接合された接合部70a,71aが周方向全周に亘ってそれぞれ設けられている。第1筒状部材70の外周面における接合部70aの接合前は、接合部70aよりも僅かに大径の接合予定部70bとされている(図4の二点鎖線及び図5参照)。一方、第2筒状部材71の内周面における接合部71aの接合前は、接合部71aよりも僅かに小径の接合予定部71bとされている(図4の二点鎖線及び図5参照)。すなわち、接合予定部71bは、接合予定部70bよりも僅かに小径であるが、接合後における接合部70a,71aは同じ径になる。
第1筒状部材70は、接合部70a(71a)に対して上記筒軸方向の第2筒状部材71とは反対側(前側)に隣接して設けられかつ外径が接合部70aと略同径で上記筒軸方向に延びる軸方向延設部70cを有している。この軸方向延設部70cの外径は、厳密には、接合予定部70bと同径であって、接合部70aよりも僅かに大径とされる(図4及び図5では、誇張して描いている)。
また、第1筒状部材70は、軸方向延設部70cの反接合部70a側(前側)の端部から径方向外側に延びる径方向延設部70dと、接合部70a(71a)に対して上記筒軸方向の第2筒状部材71側(後側)に隣接して設けられた、外径が接合部70aよりも小径の小径部70eとを更に有する。本実施形態では、小径部70eは、後側に向かって徐々に小径となるテーパ状に形成されているが、接合部70aとの間に段差を有して、小径部70eの上記筒軸方向の全体が一定の径であってもよい。
さらに、本実施形態では、第1筒状部材70は、小径部70eの反接合部70a側(後側)の端部から径方向内側に延びるフランジ部77fを更に有する。
第2筒状部材71は、接合部71a(70a)に対して上記筒軸方向の第1筒状部材70側(前側)に隣接して設けられた、内径が接合部71aよりも大径の大径部71cと、接合部71aに対して上記筒軸方向の第1筒状部材70とは反対側(後側)に隣接して設けられかつ内径が接合部71aと略同径で上記筒軸方向に延びる軸方向延設部71dとを有している。本実施形態では、大径部71cは、前側に向かって徐々に大径となった後に一定の径で前側に延びているが、接合部71aとの間に段差を有して、大径部71cの上記筒軸方向の全体が一定の径であってもよい。軸方向延設部71dの内径は、厳密には、接合予定部71bと同径であって、接合部71aよりも僅かに小径とされる。また、第2筒状部材71は、軸方向延設部71dの反接合部71a側(後側)の端部から径方向内側に延びる径方向延設部71eを更に有する。
本実施形態では、第1筒状部材70の外周面と第2筒状部材71の内周面との間において接合部70a,71aに対して上記筒軸方向の第2筒状部材71とは反対側(前側)の近傍に、第1筒状部材70の軸方向延設部70c及び径方向延設部70dと第2筒状部材71の大径部71cとにより囲まれた第1バリ収容空間部91が形成されている。
第1筒状部材70の径方向延設部70dの後側の面、及び、第2筒状部材71の大径部71cの前側の面には、互いに当接する当接部70g,71fが設けられている。第1バリ収容空間部91は、当接部70g,71fの互いの当接により閉じられている。当接部70g,71fは、接合部70a,71a(接合予定部70b,71b)の圧入により互いに当接する。すなわち、該圧入の完了と略同時に、当接部70g,71fは互いに当接することになる。
第1バリ収容空間部91は、第1筒状部材70及び第2筒状部材71の接合部70a,71a(接合予定部70b,71b)の圧入時に接合部70a,71aから前側に延出したバリ95(図4参照)を収容する。この収容されたバリ95が第1バリ収容空間部91から出ないように、第1筒状部材70の軸方向延設部70c及び径方向延設部70dと第2筒状部材71の大径部71cとによって、第1バリ収容空間部91の全体が囲まれている。
本実施形態では、第1筒状部材70の外周面と第2筒状部材71の内周面との間において接合部70a,71aに対して上記筒軸方向の第2筒状部材71側(後側)の近傍に、第1筒状部材70の小径部70eと第2筒状部材71の軸方向延設部71d及び径方向延設部71eとにより囲まれた第2バリ収容空間部92が形成されている。
第1筒状部材70のフランジ部70fの後側の面、及び、第2筒状部材71の径方向延設部71eの前側の面には、互いに当接する当接部70h,71gが設けられている。第2バリ収容空間部92は、当接部70h,71gの互いの当接により閉じられている。当接部70h,71gも、当接部70g,71fと同様に、接合部70a,71a(接合予定部70b,71b)の圧入により互いに当接する。すなわち、該圧入の完了と略同時に、当接部70h,71gも互いに当接することになる。
第2バリ収容空間部92は、第1筒状部材70及び第2筒状部材71の接合部70a,71a(接合予定部70b,71b)の圧入時に接合部70a,71aから後側に延出したバリ96(図4参照)を収容する。この収容されたバリ96が第2バリ収容空間部92から出ないように、第1筒状部材70の小径部70eと第2筒状部材71の軸方向延設部71d及び径方向延設部71eとによって、第2バリ収容空間部92の全体が囲まれている。
このように本実施形態では、第1筒状部材70及び第2筒状部材71の折り曲げ形状によって、接合部70a,71a(接合予定部70b,71b)の圧入の完了と略同時に、上記のような、閉じられた第1及び第2バリ収容空間部91,92が形成されることになる。
本実施形態では、第1筒状部材70がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成され、第2筒状部材71が鋼で構成されているので、接合部70a,71a(接合予定部70b,71b)の圧入時に接合部70a,71aから前側に延出するバリ95の方が、後側に延出するバリ96よりも多く延出する。
このため、第1バリ収容空間部91の容積が、第2バリ収容空間部92の容積よりも大きくされている。一方、第1バリ収容空間部91の容積(ここでは、上記筒軸方向の長さ)は、スペースの関係から出来る限り小さくすることが好ましい。本実施形態では、第1バリ収容空間部91の上記筒軸方向の長さが、バリ95の長さよりも短くされている。
この場合、接合部70a,71aの圧入の進行に伴って接合部70a,71aから延出するバリ95が、後述の如く、当接部70g,71fの間に挟まる可能性がある。
そこで、本実施形態では、バリ95が当接部70g,71fの間に挟まるのを防止するために、第1バリ収容空間部91の内壁面(本実施形態では、第1筒状部材70の径方向延設部70dの後側の面における当接部70gよりも径方向内側の部分)に、接合部70a,71aの圧入の進行に伴って接合部70a,71aから延出するバリ95の延出方向を、当接部70g,71fに向かわないように偏向する偏向部としての突起部81(図3では、記載を省略している)が、上記内壁面に対して後側に突出するように形成されている。突起部81は、第1筒状部材70をプレス成形する際に他の部分と共にプレスにより形成するか、又は、第1筒状部材70のプレス成形後に、突起部81に隣接する部分を、突起部81を形成する部分が盛り上がるように凹ませることで形成することが可能である。或いは、第1バリ収容空間部91の内壁面に別部材を貼り付けて突起部81を構成してもよい。
次に、クラッチドラム7の第1筒状部材70と第2筒状部材71との電気抵抗圧入接合方法について、図5により説明する。尚、図5に示すように、この電気抵抗圧入接合方法では、第1筒状部材70及び第2筒状部材71は、それらの筒軸(図5では、右側のかなり離れた位置に位置するので、描かれていない)が上下方向に延びるように配置されるので、この電気抵抗圧入接合方法の説明では、車両に搭載された場合の後側を上側といい、車両に搭載された場合の前側を下側という。クラッチドラム5,6の電気抵抗圧入接合方法についても、クラッチドラム7の電気抵抗圧入接合方法と同様であるので、その説明は省略する。
先ず、アルミニウム又はアルミニウム合金の板材をプレス成形して第1筒状部材70を成形するとともに、鋼の板材をプレス成形して第2筒状部材71を成形する。これらの成形時において、第1筒状部材70の外周面及び第2筒状部材71の内周面に、互いに圧入されかつ電気抵抗接合される接合予定部70b,71bを周方向全周に亘ってそれぞれ設けるとともに、第1筒状部材70には、上述した、軸方向延設部70c、径方向延設部70d(当接部70g)、小径部70e、フランジ部70f、及び突起部81を設け、第2筒状部材71には、上述した、大径部71c(当接部71f)、軸方向延設部71d、及び径方向延設部71eを設ける。尚、接合予定部70b,71bは、最終的に切削することにより、正確な寸法に仕上げる。
上記成形後の第1筒状部材70の形状は、接合予定部70b以外は、上述した接合後の第1筒状部材70の形状と同じであり、上記成形後の第2筒状部材71の形状は、接合予定部71b以外は、上述した接合後の第2筒状部材71の形状と同じである。
続いて、上記成形した第1筒状部材70の上側に、上記成形した第2筒状部材71を該第1筒状部材70と同軸に配置して、第1筒状部材70の外周面と第2筒状部材の内周面とを互いに圧入しかつ電気抵抗接合する。
具体的には、リング状をなす銅製の下側電極97と、該下側電極97の上側に、下側電極97と同軸に配置された、リング状をなす銅製の上側電極98とを備えた加圧通電装置を用意する。下側電極97及び上側電極98は、加圧部材を兼用しており、上側電極98が下側電極97に向かって移動することで、下側電極97と上側電極98との間に配置された部材を加圧することが可能に構成されている。
そして、下側電極97上に第1筒状部材70の径方向延設部70dが載るように、第1筒状部材70をセットする。このとき、第1筒状部材70の筒軸が、下側電極97の中心軸と略一致する。
続いて、下側電極97上の第1筒状部材70の上部に、第2筒状部材71をセットする。このとき、第1筒状部材70の接合予定部70bの上端に第2筒状部材71の接合予定部71bの下端が当接するとともに、第2筒状部材71の筒軸が第1筒状部材70の筒軸と略一致している。図5では、この当接した状態を示している。
次いで、上側電極98を下側電極97に向けて移動させて、下側電極97及び上側電極98により第1及び第2筒状部材70,71を加圧することで、第1筒状部材70及び第2筒状部材71の接合予定部70b,71bを互いに圧入する。このとき、下側電極97及び上側電極98を介して、第1及び第2筒状部材70,71間に通電する。このように、下側電極97及び上側電極98によって、接合予定部70b,71bを互いに圧入しかつ電気抵抗接合する。
接合予定部70b,71bの圧入時に、接合予定部70b,71bの表面が削られて、バリ95,96が生じる。本実施形態では、特に融点の低い側の部材である第1筒状部材70の接合予定部70bの表面が多く削られ、接合予定部70bに対する接合予定部71bの下側への移動に伴って、多くのバリ95が、接合予定部70b,71b(接合部70a,71a)から下側に延出する。また、少量ではあるが、接合予定部70b,71b(接合部70a,71a)から上側に延出するバリ96も生じる。
バリ95は、接合予定部70b,71b(接合部70a,71a)の圧入の進行に伴って、基本的に、接合予定部70b,71bから軸方向延設部70cの径方向外側の面に沿って下側に延出した後、径方向延設部70dの上側の面に沿って当接部70gへと向かう。仮に、径方向延設部70dの上側の面に突起部81が形成されていないとすると、当接部70g,71fが互いに当接する前にバリ95が当接部70g,71fの間にまで達して、当接部70g,71fの当接によりバリ95が当接部70g,71fの間に挟まれる可能性が高い。
これに対し、本実施形態では、径方向延設部70dの上側の面に突起部81が形成されているので、当接部70gへと向かうバリ95の延出方向が突起部81によって偏向され、これにより、図4に示すように、バリ95は、突起部81で反転するように上側(車両に搭載された場合の後側)へと向かうことになる。
第1筒状部材70及び第2筒状部材71の接合予定部70b,71bの圧入の完了と略同時に、当接部70g,71fが互いに当接するとともに、当接部70h,71gも互いに当接する。これにより、第1筒状部材70の外周面と第2筒状部材71の内周面との間に、閉じられた第1及び第2バリ収容空間部91,92が形成され、第1及び第2バリ収容空間部91,92に、バリ95,96がそれぞれ収容されることになる。
上記のようにバリ95は突起部81で反転するので、当接部70g,71fが互いに当接する際に、当接部70g,71fの間にバリ95は存在せず、この結果、バリ95が当接部70g,71fの間に挟まれることはなくなる。
したがって、本実施形態では、第1バリ収容空間部91の上記筒軸方向の長さがバリ95の長さよりも短くても、バリ95が当接部70g,71fの間に挟まれるのを防止することができる。この結果、当接部70g,71fの間に挟まれたバリ95がちぎれて第1バリ収容空間部91の外側に出ることはなく、また、第1筒状部材70と第2筒状部材71との位置関係を正確な位置関係に維持することができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上記実施形態では、第1筒状部材70の外周面と第2筒状部材71の内周面との間において接合部70a,71aに対して上記筒軸方向の両側に、第1及び第2バリ収容空間部91,92をそれぞれ形成するようにしたが、バリ95がどのように延出するかは、第1及び第2筒状部材70,71の形状、材料、下側電極97及び上側電極98による第1筒状部材70及び第2筒状部材71の加圧の仕方等によって変わり、バリ95,96のうちの一方しか延出しない場合もある。したがって、バリ95,96がどのように延出するかを事前に調べておき、バリ95,96のうちの一方しか延出しない場合には、バリ95が延出する側のみにバリ収容空間部を形成するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、第1及び第2バリ収容空間部91,92のうち第1バリ収容空間部91の内壁面にしか突起部81を設けていないが、バリ95,96が共に多く延出する場合には、第1及び第2バリ収容空間部91,92の両方の内壁面に、突起部81のような偏向部を形成してもよい。
さらに、上記実施形態では、突起部81を、第1筒状部材70の径方向延設部70dの後側の面に設けたが、例えば図6に示すように、第1筒状部材70の軸方向延設部70cと第2筒状部材71の大径部71cとにそれぞれ突起部81を設けるようにしてもよい。
また、偏向部としては、突起部81には限られず、図7に示すように、第1バリ収容空間部91の内壁面に対して凹む凹部82で構成することも可能である。図7の例では、偏向部は、大径部71c(前側に向かって徐々に大径となる部分)に設けられた突起部81と、第1筒状部材70における軸方向延設部70cと径方向延設部70dとの境界部分に設けられた凹部82とで構成されている。図7の例では、バリ95が接合部70a,71aから大径部71cの径方向内側面に沿って延出する場合に、有効である。バリ95が接合部70a,71aから軸方向延設部70cの径方向外側の面に沿って延出する場合には、偏向部は、第1筒状部材70における軸方向延設部70cと径方向延設部70dとの境界部分に設けられた凹部82のみで構成することも可能である。上記のような凹部82は、切削により形成する。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。