<塗布装置の全体構成>
図1は本発明に係る基板処理装置の一実施形態である塗布装置の全体構成を模式的に示す図である。この塗布装置1は、図1の左手側から右手側に向けて水平姿勢で搬送される基板Sの表面Sfに流体である塗布液(処理液)を塗布するスリットコータである。例えば、ガラス基板や半導体基板等各種の基板Sの表面Sfに、レジスト膜の材料を含む塗布液、電極材料を含む塗布液等、各種の処理液を塗布し均一な塗布膜を形成する目的に、この塗布装置1を好適に利用することができる。
なお、以下の各図において装置各部の配置関係を明確にするために、図1に示すように右手系XYZ直交座標を設定する。基板Sの搬送方向を「X方向」とし、図1の左手側から右手側に向かう水平方向を「+X方向」と称し、逆方向を「-X方向」と称する。また、X方向と直交する水平方向Yのうち、装置の正面側(図において手前側)を「-Y方向」と称するとともに、装置の背面側を「+Y方向」と称する。さらに、鉛直方向Zにおける上方向および下方向をそれぞれ「+Z方向」および「-Z方向」と称する。
まず図1を用いてこの塗布装置1の構成および動作の概要を説明し、その後で本発明の技術的特徴を備えるスリットノズルの詳細な構造および開口寸法の調整動作について説明する。塗布装置1では、基板Sの搬送方向Dt、つまり(+X方向)に沿って、入力コンベア100、入力移載部2、浮上ステージ部3、出力移載部4、出力コンベア110がこの順に近接して配置されており、以下に詳述するように、これらにより略水平方向に延びる基板Sの搬送経路が形成されている。
処理対象である基板Sは図1の左手側から入力コンベア100に搬入される。入力コンベア100は、コロコンベア101と、これを回転駆動する回転駆動機構102とを備えており、コロコンベア101の回転により基板Sは水平姿勢で下流側、つまり(+X)方向に搬送される。入力移載部2は、コロコンベア21と、これを回転駆動する機能および昇降させる機能を有する回転・昇降駆動機構22とを備えている。コロコンベア21が回転することで、基板Sはさらに(+X)方向に搬送される。また、コロコンベア21が昇降することで基板Sの鉛直方向位置が変更される。このように構成された入力移載部2により、基板Sは入力コンベア100から浮上ステージ部3に移載される。
浮上ステージ部3は、基板の搬送方向Dtに沿って3分割された平板状のステージを備える。すなわち、浮上ステージ部3は入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33を備えており、これらの各ステージの表面は互いに同一平面の一部をなしている。入口浮上ステージ31および出口浮上ステージ33のそれぞれの表面には浮上制御機構35から供給される圧縮空気を噴出する噴出孔がマトリクス状に多数設けられており、噴出される気流から付与される浮力により基板Sが浮上する。こうして基板Sの裏面Sbがステージ表面から離間した状態で水平姿勢に支持される。基板Sの裏面Sbとステージ表面との距離、つまり浮上量は、例えば10マイクロメートルないし500マイクロメートルとすることができる。
一方、塗布ステージ32の表面では、圧縮空気を噴出する噴出孔と、基板Sの裏面Sbとステージ表面との間の空気を吸引する吸引孔とが交互に配置されている。浮上制御機構35が噴出孔からの圧縮空気の噴出量と吸引孔からの吸引量とを制御することにより、基板Sの裏面Sbと塗布ステージ32の表面との距離が精密に制御される。これにより、塗布ステージ32の上方を通過する基板Sの表面Sfの鉛直方向位置が規定値に制御される。浮上ステージ部3の具体的構成としては、例えば特許第5346643号に記載のものを適用可能である。なお、塗布ステージ32での浮上量については後で詳述するセンサ61、62による検出結果に基づいて制御ユニット9により算出され、また気流制御によって高精度に調整可能となっている。
なお、入口浮上ステージ31には、図には現れていないリフトピンが配設されており、浮上ステージ部3にはこのリフトピンを昇降させるリフトピン駆動機構34が設けられている。
入力移載部2を介して浮上ステージ部3に搬入される基板Sは、コロコンベア21の回転により(+X)方向への推進力を付与されて、入口浮上ステージ31上に搬送される。入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33は基板Sを浮上状態に支持するが、基板Sを水平方向に移動させる機能を有していない。浮上ステージ部3における基板Sの搬送は、入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33の下方に配置された基板搬送部5により行われる。
基板搬送部5は、基板Sの下面周縁部に部分的に当接することで基板Sを下方から支持するチャック機構51と、チャック機構51上端の吸着部材に設けられた吸着パッド(図示省略)に負圧を与えて基板Sを吸着保持させる機能およびチャック機構51をX方向に往復走行させる機能を有する吸着・走行制御機構52とを備えている。チャック機構51が基板Sを保持した状態では、基板Sの裏面Sbは浮上ステージ部3の各ステージの表面よりも高い位置に位置している。したがって、基板Sは、チャック機構51により周縁部を吸着保持されつつ、浮上ステージ部3から付与される浮力により全体として水平姿勢を維持する。なお、チャック機構51により基板Sの裏面Sbを部分的に保持した段階で基板Sの表面の鉛直方向位置を検出するために板厚測定用のセンサ61がコロコンベア21の近傍に配置されている。このセンサ61の直下位置に基板Sを保持していない状態のチャック(図示省略)が位置することで、センサ61は吸着部材の表面、つまり吸着面の鉛直方向位置を検出可能となっている。
入力移載部2から浮上ステージ部3に搬入された基板Sをチャック機構51が保持し、この状態でチャック機構51が(+X)方向に移動することで、基板Sが入口浮上ステージ31の上方から塗布ステージ32の上方を経由して出口浮上ステージ33の上方へ搬送される。搬送された基板Sは、出口浮上ステージ33の(+X)側に配置された出力移載部4に受け渡される。
出力移載部4は、コロコンベア41と、これを回転駆動する機能および昇降させる機能を有する回転・昇降駆動機構42とを備えている。コロコンベア41が回転することで、基板Sに(+X)方向への推進力が付与され、基板Sは搬送方向Dtに沿ってさらに搬送される。また、コロコンベア41が昇降することで基板Sの鉛直方向位置が変更される。出力移載部4により、基板Sは出口浮上ステージ33の上方から出力コンベア110に移載される。
出力コンベア110は、コロコンベア111と、これを回転駆動する回転駆動機構112とを備えており、コロコンベア111の回転により基板Sはさらに(+X)方向に搬送され、最終的に塗布装置1外へと払い出される。なお、入力コンベア100および出力コンベア110は塗布装置1の構成の一部として設けられてもよいが、塗布装置1とは別体のものであってもよい。また例えば、塗布装置1の上流側に設けられる別ユニットの基板払い出し機構が入力コンベア100として用いられてもよい。また、塗布装置1の下流側に設けられる別ユニットの基板受け入れ機構が出力コンベア110として用いられてもよい。
このようにして搬送される基板Sの搬送経路上に、基板Sの表面Sfに塗布液を塗布するための塗布機構7が配置される。塗布機構7はスリットノズル71を有している。また、図示を省略するが、スリットノズル71には位置決め機構が接続されており、位置決め機構によりスリットノズル71は塗布ステージ32の上方の塗布位置(図1中で実線で示される位置)やメンテナンス位置に位置決めされる。さらに、スリットノズル71には、塗布液供給機構8が接続されており、塗布液供給機構8から塗布液が供給され、ノズル下部に下向きに開口する吐出口から塗布液が吐出される。なお、スリットノズル71については後で詳述する。
スリットノズル71には、図1に示すように、基板Sの浮上高さを非接触で検知するための浮上高さ検出センサ62が設置されている。この浮上高さ検出センサ62によって、浮上した基板Sと、塗布ステージ32のステージ面の表面との離間距離を測定することが可能であり、その検出値に伴って、制御ユニット9を介して、スリットノズル71が下降する位置を調整することができる。なお、浮上高さ検出センサ62としては、光学式センサや、超音波式センサなどを用いることができる。
スリットノズル71に対して所定のメンテナンスを行うために、図1に示すように、塗布機構7にはノズル洗浄待機ユニット79が設けられている。ノズル洗浄待機ユニット79は、主にローラ791、洗浄部792、ローラバット793などを有している。そして、スリットノズル71がメンテナンス位置に位置決めされた状態で、これらによってノズル洗浄および液だまり形成を行い、スリットノズル71の吐出口を次の塗布処理に適した状態に整える。
この他、塗布装置1には、装置各部の動作を制御するための制御ユニット9が設けられている。制御ユニット9は、所定のプログラムや各種レシピなどを記憶する記憶部、当該プログラムを実行することで装置各部に所定の動作を実行させるCPUなどの演算処理部、液晶パネルなどの表示部およびキーボードなどの入力部を有している。
以下、スリットノズル71の具体的な構成例および吐出口の開口寸法の調整方法などについて詳述する。なお、ここでいう開口寸法の調整とは、開口寸法が一定あるいは予め定められた規定値となることを目指す調整ではなく、吐出の結果として基板Sの表面に形成される塗布膜の厚さを均一にすることを目指す調整である。
<第1実施形態>
図2は図1の塗布装置で使用されるスリットノズルの第1実施形態を示す図である。より具体的には、図2(a)はこの実施形態のスリットノズル71の外観斜視図であり、図2(b)はスリットノズル71の主要構成を模式的に示す分解組立図である。スリットノズル71は、第1本体部711、第2本体部712およびシム板713が複数の固定ねじ716によって相互に結合された構造を有している。図2(b)に一点鎖線矢印で示すように、第1本体部711と第2本体部712とが、シム板713を挟んでX方向に対向する状態で結合されてスリットノズル71が構成される。
第1本体部711および第2本体部712は、例えばステンレス鋼やアルミニウム等の金属ブロックから削り出されたものである。また、シム板713は同様の金属材料で形成された薄板状部材である。
第1本体部711の第2本体部712と対向する側の主面、つまり(+X)側の主面は、YZ平面と平行な平坦面711aとなるように仕上げられている。以下では、この平坦面711aを「第1平坦面」と称する。また、第1本体部711の下部は下向きに突出して第1リップ部711cを形成している。Z方向における平坦面711aの中央部には、Y方向を長手方向としX方向を深さ方向とする略半円柱形状の溝711dが設けられている。この溝711dは、塗布液の流路におけるマニホールドとして機能するものであり、図示しない塗布液供給口を介して塗布液供給機構8と接続される。
一方、第2本体部712の第1本体部711と対向する側の主面、つまり(-X)側の主面は、YZ平面と平行な平坦面712aとなっている。以下では、この平坦面712aを「第2平坦面」と称する。また、第2本体部712の下部は下向きに突出して第2リップ部712cを形成している。平坦面711bと、第2平坦面712aとが隔てて対向するように、第1本体部711と第2本体部712とがシム板713を介して結合される。
第1本体部711と第2本体部712とが結合された状態では、第1平坦面711aと第2平坦面712aとは、シム板713の厚さに相当する微小なギャップを隔てて平行に対向することとなる。このように互いに対向する対向面(第1平坦面711a、第2平坦面712a)の間のギャップ部分がマニホールドからの塗布液の流路となり、その下端が基板Sの表面Sfに向けて下向きに開口する吐出口715として機能する。吐出口715は、Y方向を長手方向とし、X方向における開口寸法が微小なスリット状の開口である。
シム板713は下向きに開口する逆U字型に形成されている。第1本体部711と第2本体部712との間のギャップにシム板713が挟み込まれることで、ギャップ空間のうち、溝711dよりも上方の上端部、および、Y方向における両側端部はシム板713により閉塞される。これにより、ギャップ空間のうちシム板713に閉塞されていない空間が、マニホールドとしての溝711dと吐出口715とを接続する塗布液の流路を規定することになる。言い換えれば、シム板713は、塗布液の流路となる部分が切り欠かれ、吐出口以外の塗布液の流路の周囲を囲むような形状とされている。
図を見やすくするために図2(a)においては記載が省略され、また図2(b)では一部のみが記載されているが、第1本体部711、第2本体部712およびシム板713には、これらを結合する固定ねじ(例えばボルト)716を挿通するための孔が設けられている。具体的には、第1本体部711の平坦面711aのうち溝711dよりも上方に、雄ねじである固定ねじ716と螺合する雌ねじが形成されたねじ孔711fが設けられている。一方、第2本体部712には、ねじ孔711fと対応する位置に、X方向に貫通する貫通孔712fが設けられている。またシム板713にも、ねじ孔711fと対応する位置に貫通孔713fが設けられている。
そして、第2本体部712の貫通孔712fに挿通される固定ねじ716がシム板713の貫通孔713fを介して第1本体部711のねじ孔711fに螺合されることにより、第1本体部711、第2本体部712およびシム板713が互いに一体的に結合される。図2(b)では固定ねじ716およびこれを挿通するための孔が2つだけ示されているが、実際には、図にドットを付した領域に多数の孔が列状に配置されており、それらの孔にそれぞれ固定ねじ716が挿通される。つまり、塗布液の流路を取り囲むように固定ねじ716が配置されており、これにより第1本体部711、第2本体部712およびシム板713が強固に固結された結合体であるスリットノズル71が構成される。孔の配置については後で説明する。
図3はスリットノズルの断面構造を示す図であり、より具体的にはスリットノズル71のXZ平面を切断面とする断面図である。図3(a)に示すように、第1本体部711と第2本体部712とが、溝711dより上方において、シム板713を介して固定ねじ716により固定されている。後述するように、固定ねじ716(716a,716b)は上下方向(Z方向)に位置を異ならせて複数配置される。これにより、溝711dよりも下方では、第1平坦面711aと第2平坦面712aとがギャップを隔てて対向し、該ギャップ空間が塗布液の流をとなるとともに、その下端が下向きに開口する吐出口715をなす。長手方向(Y方向)と直交する幅方向(X方向)における吐出口715の開口幅Waは、シム板713の厚さによって規定される。
ここで、上下に配置された固定ねじ716のうち下側の固定ねじ716bのねじ込み量(締め付け量)を、上側の固定ねじ716aのねじ込み量よりも大きくすると、図3(b)に示すように、締め付け力の増加によりシム板713が僅かに弾性変形することで、ギャップ下端の吐出口715の開口幅Wbは元の開口幅Waよりも少し小さくなる。また、これとは逆に、上側の固定ねじ716aのねじ込み量を、下側の固定ねじ716bのねじ込み量よりも大きくすると、図3(c)に示すように、ギャップ下端の吐出口715の開口幅Wcは元の開口幅Waよりも少し大きくなる。
このように、固定ねじ716のねじ込み量を増減することで、吐出口715の開口幅を調整することが可能である。固定ねじ716は、吐出口715の長手方向であるY方向に沿って多数配列されており、それらの固定ねじ716を個別に調整することで、長手方向の各位置において吐出口715の開口幅を調整することが可能である。
図4はシム板の構造を示す図である。図4(a)はシム板713の平面形状を示している。金属製の薄板状部材であるシム板713の包絡外形は、第1本体部711の第1平坦面711aおよび第2本体部712の第2平坦面712aの外形と概ね同じである。ただし、吐出口715となる下端部側には切り欠き部713dが設けられており、この切り欠き部713dにより第1平坦面711aと第2平坦面712aとの間に形成される空間が、塗布液の流路となる。
言い換えると、シム板713は、吐出口715の長手方向(Y方向)における両端部に対応する位置を少なくとも含んでY方向に延びる略一様な幅を有する帯状部位713aと、帯状部位713aの両端部から下向きに、つまり(-Z)方向に延びる延伸部位713b、713bとを有している。帯状部位713aは、流路のうち吐出口715とは反対側の背面における隔壁として機能する。一方、延伸部位713b,713bは、流路のうちY方向における両端部の側面を規定する隔壁として機能する。
シム板713には固定ねじ716を挿通するための貫通孔713fが多数設けられている。シム板713のうち切り欠き部713dよりも上方の帯状部位713aにおいては、Y方向(吐出口715の長手方向)におけるシム板713の全域にわたって、Y方向に列状に配列された複数の貫通孔713fが設けられている。より具体的には、Z方向の位置を互いに異ならせた仮想的な3本の直線L1,L2,L3のそれぞれに沿って、Y方向に一定ピッチで複数の貫通孔713fが配列されている。つまりこの例では、複数の貫通孔713fからなるY方向の列が、Z方向に3列並べられている。第1本体部711におけるねじ孔711f、第2本体部712における貫通孔712fもこれと同様の配列となっている。
前述したように、Z方向に位置を異ならせて複数の固定ねじ716を設けることで、そのねじ込み量の増減で吐出口715の開口幅を調整することが可能である。そして、吐出口715の長手方向であるY方向に沿って、かつ吐出口715の両端間の全域に亘って固定ねじ716を分散配置することで、長手方向の各位置でそれぞれ開口幅の調整を行うことができる。
原理的には、固定ねじ716の列が上下に2列あれば開口幅を増減する調整が可能である。この例のように3列とした場合には、以下のような応用が可能である。例えば、まず上下方向における中央の列(直線L2に沿った列)の固定ねじ716により第1本体部711と第2本体部712とを結合させることで、吐出口715の開口幅をシム板713の厚さと同じにすることができる。その上で、上側の列および下側の列についても固定ねじ716を仮止めしておき、必要に応じて上下いずれかの列に属する固定ねじ716を増し締めすることにより、開口幅を増減することができる。
ところで、本願発明者の知見では、開口幅の増減に対する吐出量の変化、つまり開口幅の調整に対する吐出量の応答感度は、吐出口の中央部で高く、端部で低い。このため、開口幅の変化量が同じであれば、中央部では比較的大きく吐出量が変化するのに対して、端部では吐出量の変化が小さい。また、塗布膜のうち幅方向における中央部分では膜厚が比較的安定しているのに対し、端部付近では、例えば流路の側壁面との摩擦等に起因して、膜厚の変動が生じやすい傾向にある。さらに、図2(b)および図4(a)に示すように、スリットノズル71の両端部近傍では、3本の直線L1,L2,L3に沿って配置されたもの以外に、より吐出口715に近い位置に、塗布液の流路をその幅方向における両側から挟むように固定ねじ716が配置される。このような固定ねじ716は、直線L1,L2,L3に沿って配置された固定ねじ716の調整に対する開口幅の変化を抑制することになる。
このため、長手方向における吐出口715の中央部と端部との間で、仮に固定ねじ716を同じ回転角度だけ回転させたとしても、それによる吐出量の変化量、引いては塗布膜の膜厚の変化量は、中央部と端部とで異なることになる。言い換えれば、吐出量を同等に変化させるために必要な固定ねじ716の調整量(回転角度)が、固定ねじ716の位置によって相違することになる。そうすると、吐出口の全体で吐出量を揃えて厚さの均一な塗布膜を得るための調整作業が、非常に煩雑なものとなってしまう。これを防止するために、吐出量の応答感度、つまり同じ調整量に対する吐出量の変化量が、吐出口の長手方向における全域にわたって同等であることが好ましい。そのためには、特に端部における応答感度を向上させることが求められる。また、端部近傍で膜厚変動が生じやすいという現象に対応するためにも、中央部に対して端部における開口幅の調整範囲が広いことが望ましい。そこで本実施形態のスリットノズル71では、次に説明するように、シム板713の断面形状を位置により異ならせることで、この要求に対応している。
図4(b)は図4(a)のA-A線断面図である。吐出口715のうち両端部に近い端部領域Reを除いた中央領域Rcに対応する位置においては、シム板713の帯状部位713aは一定の厚さを有している。すなわち、図4(b)に示すようにその断面形状は概ね矩形である。このときの厚さは、シム板713を構成する薄板材料自体の厚さとすることができる。この場合、帯状部位713aのY方向の両主面は、それぞれ第1平坦面711a、第2平坦面712aに当接した状態となっている。つまり、帯状部位713aのうち第1平坦面711aおよび第2平坦面712aに当接する面を「当接面」というとき、当接面の幅、つまり上下方向における長さは、帯状部位713aの幅と同じである。
一方、図4(c)は図4(a)のB-B線断面図であるが、C-C線断面も形状は同じである。これらは吐出口715の端部に近い端部領域Reにおける帯状部位713aの断面形状を表している。図4(c)の左端に示される断面形状では、帯状部位713aは上下端部において次第に薄くなっている。また、中央に示される断面形状では、帯状部位713aのX方向の両主面のうち一方は平坦であり、他方側でのみ厚さが変化している。また、右端に示される断面形状では、その下部で厚さが減少しているが、上部側では厚さが一定である。
図4(c)に示す断面形状は上下端部が先細りとなったものであるが、これに代えて例えば図4(d)に示すように、上下方向における両端部で中央部よりも薄くなるステップ状の厚さ変化であってもよい。この場合でも、左端に示される断面形状では帯状部位713aの両主面の両方に段差が設けられ、中央の断面形状では一方主面のみに段差が設けられる。また、右端に示す断面形状では下部側のみに段差が設けられている。
これらの断面形状で示される帯状部位713aのうち、中央領域Rcにおける厚さと同じ厚さを有する部分を「厚肉部Pa」と称することとする。また、これより薄くなっている部分を「薄肉部Pb」と称することとする。そうすると、端部領域Reにおける帯状部位713aの断面形状は、厚肉部Paに対しその上下方向の少なくとも一方に隣接して薄肉部Pbを設けたものということができる。
シム板713の帯状部位713aをこのような断面形状としたことにより、帯状部位713aの(-Y)側主面と第1平坦面711aとの当接状態は次のようになる。すなわち、帯状部位713aの(-Y)側主面は、厚肉部Paでのみ第1平坦面711aに当接し、薄肉部Pbでは第1平坦面711aに当接しない。したがって、先に定義した当接面の幅は厚肉部Paの幅となり、これは帯状部位713a自体の幅よりも小さい。つまり、この部分ではシム板713の実効的な幅が狭くなっている。
薄肉部Pbは第1平坦面711aと第2平坦面712aとの間の空間を完全に閉塞するものでないため、ギャップを規定する作用を果たさない。これにより、第1本体部711と第2本体部712との間に介在して両者のギャップを規定するシム板713の作用は、吐出口715の端部領域Reにおいて中央領域Rcよりも弱められている。つまり、固定ねじ716のねじ込み量の変化によるシム板713の変形が、端部領域Reにおいて中央領域Rcよりも生じやすくなっている。その結果、固定ねじ716に同じ角度の回転入力を与えたときの開口幅の変化が、吐出口715の中央部よりも端部において大きくなる。
このように、同じ回転入力に対する開口幅の変化量を中央部よりも端部において大きくすることで、前記した中央部と端部との間での応答感度の差を軽減しあるいは解消することが可能である。つまり、同じ回転入力に対する吐出量の変化量を、吐出口715の中央部と端部とで同等とすることができる。これにより、吐出口の中央部および端部のいずれにおいても、固定ねじ716への回転入力に対応する吐出量の変化が同等となり、オペレータにとっては吐出量を均一化するための調整作業を効率よく行うことが可能になる。
端部領域Reにおけるシム板713の厚さプロファイルを適宜に設定することによって、中央部と端部との間における応答感度の違いを実用上問題のないレベルにまで抑えることが可能であると考えられる。具体的な厚さプロファイルについては、吐出口715の開口幅の大きさや使用される塗布液の粘度等に基づいて、例えば実験的に求めることができる。
なお、シム板713においては、固定ねじ716を挿通させるための貫通孔713fが多数設けられる。これらの貫通孔713fのうち帯状部位713aに設けられるものについては、いずれも厚肉部Paを貫通するように穿設されることが望ましい。その理由は、厚肉部Paにのみ貫通孔713fが設けられることで、貫通孔を介した液漏れが防止されるからである。薄肉部Pbにおいては第1平坦面711aまたは第2平坦面712aとの間に幾らかの隙間が生じるから、この部分に貫通孔が設けられると、流路内に供給される塗布液がこの隙間を介して貫通孔に漏れ出すおそれがある。
図5はシム板の変形例を示す図である。前記したように、シム板に設けられる貫通孔713fの配置(すなわち固定ねじ716の配置)については、Z方向に位置を異ならせて2箇所以上あればよい。つまり、固定ねじ716の列が少なくとも2列あればよい。この場合、図5(a)に示す変形例のシム713Aのように、固定ねじ716を挿通するための上下2つの貫通孔713fが、Y方向において同じ位置にあってもよい。また、図5(b)に示す変形例のシム713Bのように、固定ねじ716を挿通するための上下2つの貫通孔713fのY方向における位置が互いに異なる、いわゆる千鳥配置とされてもよい。なお、これらの変形例において第1本体部711、第2本体部712において基本的に変更は不要であるが、シム板における貫通孔713fの配置変更に応じてねじ孔等の位置については変更が必要である。
上下方向に4つ以上の固定ねじを設けることも考えられる。しかしながら、この場合には、固定ねじを1つずつ調整する際に、他の固定ねじによって開口幅の変化が規制されてしまうことがあり得る。このため、開口幅を必要な範囲で変化させることが困難になり、また調整のための作業量が膨大なものとなってしまうおそれがある。以上のことから、固定ねじ716の配置については、上下方向に2列または3列に配列することが好ましいということができる。
図6はシム板の他の変形例を示す図である。図4(a)に示すシム板713は、帯状部位713aのうち端部領域Reに対応する部分において、厚さが上下両端部で薄くなるような断面形状を有している。一方、図6に示す変形例のシム板713Cは、端部領域Reに対応する位置で帯状部位713cの上下端部に切り欠き部713kを設けた構造を有している。つまり、この場合には帯状部位713cの厚さではなく幅を変化させている。このような構造によっても、端部領域Reに対応する位置で、シム板713Cによるギャップ規定作用が中央領域Rcよりも弱められることになる。したがって上記実施形態と同様に、固定ねじ716の調整量に対する吐出口715の開口幅の変化が中央部よりも端部において大きくなり、中央部と端部との間での吐出量の変化量の差異を低減することができる。
<第2実施形態>
次に、塗布装置1に適用可能なスリットノズルの第2実施形態について説明する。上記実施形態では、スリットノズルの長手方向(Y方向)において単一の吐出口が設けられている。しかしながら、この種の塗布装置では、吐出口を長手方向において複数に分割し、複数の塗布膜を同時に形成するような利用形態も存在する。次に示す第2実施形態のスリットノズル71Dは、このようなニーズに対応するものである。
図7は図1の塗布装置で使用されるスリットノズルの第2実施形態を示す図である。より具体的には、図7(a)はこの実施形態のスリットノズル71Dの主要構成を模式的に示す分解組立図である。また、図7(b)はこの実施形態におけるシム板713Dの形状を示す図である。なお、図7および以下の説明において、第1実施形態における構成と同一の構成に対しては同一の符号を付し、詳しい説明を省略することとする。
図7(a)に示すように、この実施形態のスリットノズル71Dでは、ノズル下端に2つの吐出口715a,715bがY方向に並べて形成されている。このようなノズルを用いることで、Y方向に離隔した2つの塗布膜を同時に形成することが可能である。
この実施形態のスリットノズル71Dは、第1本体部711と第2本体部712との間に挟み込まれるシム板713Dの形状が第1実施形態のものとは異なっている。シム板713Dの中央部には突出部位713qが設けられ、そのためY方向において2分割された切り欠き部713p,713rが形成されている。これにより、突出部位713qは流路の隔壁として作用し、塗布液の流路は2つに区画される。突出部位713qは第1および第2リップ部711c,712cの下端に対応する位置まで延びており、これらの下端には、それぞれがY方向を長手方向とし、かつY方向に並ぶ2つの吐出口715a,715bが形成されることになる。この場合も、第1本体部711、第2本体部712においては、シム板における貫通孔713fの変更に応じてねじ孔等の位置の変更が必要である。
この場合、2つの吐出口715a,715bのそれぞれで「中央部と端部とで応答感度を揃える」という目的を達成するために、シム板713Dの厚さプロファイルは以下のように設定される。すなわち、図7(b)に示されるように、2つの吐出口715a,715bそれぞれの中央部に対応する中央領域Rcにおけるシム板713Dの帯状部位713dの断面、すなわちA-A線断面およびB-B線断面における形状は、図4(b)に示されるように、一様な厚さを有するものとなっている。
一方、2つの吐出口715a,715bそれぞれの端部近傍に対応する端部領域Reにおけるシム板713Dの断面、すなわちC-C線断面、D-D線断面、E-E線断面およびF-F線断面における形状は、図4(c)または図4(d)に示されるように、上下両端部において中央寄よりも厚さが減少するようなものとなっている。
このような構成とすることにより、吐出口715a,715bのそれぞれにおいて上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、固定ねじに対する調整入力に対する吐出量の応答感度を吐出口の中央部から端部までの間で揃えて、調整作業を効率よく行うことが可能となる。この実施形態についても、図5および図6に示した変形例の技術思想を適用して適宜変形することが可能である。
このように、上記した各実施形態では、スリットノズルを構成する2つの部材に挟み込まれるシムの形状を部分的に変更する、より具体的には、吐出口の端部に対応する位置で、中央部に対応する位置よりもシムを部分的に薄くするまたは幅を狭くすることにより、吐出口の端部近傍において、中央部よりも開口幅の変化を顕著なものとすることができる。これにより、調整入力に対する吐出量の応答感度が中央部と端部とで異なる、より具体的には端部において中央部よりも応答感度が低下するという問題を抑制して、長手方向における吐出口の全域において応答感度を揃えることが可能となる。その結果、これらの実施形態では、均一な塗布膜を得ることのできる塗布条件をより効率よく実現することが可能となる。
<その他>
以上説明したように、上記各実施形態においては、塗布装置1が本発明の「基板処理装置」に相当している。また、第1本体部711の第1平坦面711a、第2本体部712の第2平坦面712aが、本発明の「平坦面」に相当している。また、シム板713が本発明の「スペーサ部材」として機能する一方、固定ねじ716が本発明の「ねじ部材」として機能している。そして、列状に配置された複数の固定ねじ716が一体として、本発明の「結合部」として機能している。
また、上記実施形態の塗布装置1は本発明の「基板処理装置」に相当するものであり、入力コンベア100、入力移載部2、浮上ステージ部3、出力移載部4、出力コンベア110、基板搬送部5等が一体として本発明の「相対移動機構」を構成している。また、塗布液供給機構8が、本発明の「処理液供給部」として機能している。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態のシム板713等では、端部領域Reにおいて帯状部位713aの厚さおよび幅の一方を減少させている。これに代えて、帯状部位713aの厚さおよび幅の両方を変化させるようにしてもよい。
また、上記実施形態ではスリットノズル71の下方で基板Sを搬送することでスリットノズル71と基板Sとの相対移動が実現されている。しかしながら、これらの相対移動の実現方法は上記に限定されない。例えばステージ上に保持された基板に対しスリットノズルが走査移動する構成においても、本発明は有効に機能する。また、基板の搬送形式は上記のような浮上式のものに限定されず、例えばローラ搬送、ベルト搬送、移動ステージによる搬送など各種のものを適用可能である。
さらに、上記実施形態では、基板Sの表面Sfに塗布液を供給する塗布装置1に対して本発明を適用しているが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、スリットノズルに処理液を送給することで当該スリットノズルから基板の表面に処理液を供給しながらスリットノズルに対して相対的に移動させて所定の処理を施す基板処理技術全般に適用可能である。
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係るスリットノズルは、帯状部材の幅および厚さが中央領域では略一定である一方、端部領域では、長手方向と垂直な切断面における帯状部位の断面は、中央領域における厚さと同じ厚さの厚肉部と、これより薄い薄肉部とを含むものであってよい。このような構成によれば、帯状部材の厚さを部分的に異ならせることで当接面の幅を変化させる。
この場合、断面において、薄肉部は厚肉部の両端部の少なくとも一方に隣接するものつすることができる。このような構成では、厚肉部がギャップを閉塞することで流体の漏れを防止しつつ、薄肉部を設けたことによる応答感度の改善効果を得ることができる。
また例えば、中央領域では帯状部材の幅および厚さが略一定である一方、端部領域では帯状部材の幅が中央領域よりも小さい構成とすることもできる。このような構成では、帯状部材の幅を変化させる。このように、帯状部材の厚さおよび幅の少なくとも一方を変化させることで、帯状部位によるギャップ規定作用に位置による差を生じさせることができる。
また例えば、結合部は、スペーサ部材を貫通して第1本体部と第2本体部とを締結するねじ部材を複数有し、吐出口の長手方向に沿って一列に配列された複数のねじ部材からなる列が長手方向に直交する方向に複数列設けられる構成であってもよい。このような構成によれば、各ねじ部材のねじ込み量(締め込み量)を個別に調整することで、吐出口の各位置において開口幅を変化させることができる。この場合において、複数のねじ部材からなる列は、2列または3列が好ましい。
また例えば、帯状部位にはねじ部材を挿通させるための貫通孔が設けられ、複数のねじ部材に対応する複数の貫通孔は同じ深さを有するものであってよい。このような構成によれば、貫通孔の周囲で第1本体部とスペーサ部材との間、または第2本体部とスペーサ部材との間に隙間が生じるのを防止し、該隙間および貫通孔を介して流体が外部へ漏れ出すのを未然に防止することができる。
また、本発明に係る基板処理装置は、基板の表面に、処理液による一様な塗布膜を形成するものであってもよい。スリットノズルを用いて一様な塗布膜を形成する場合においては、ノズルの吐出口の中央部と端部とで吐出量が異なり、これによって塗布膜の厚さにばらつきが生じることがある。このような装置に本発明を適用することにより、吐出口の全域にわたって一様な塗布膜を形成するための調整作業を効率的に行うことが可能となる。