JP7254284B2 - 正極材の製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法 - Google Patents
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Description
スピネル型構造を有したLiMn2O4のMnの一部をNiで置換固溶することで合成されたLiNi0.5Mn1.5O4(以下、「LNMO」とも呼ぶ。)正極は、約5V(4.7V)もの高電圧で作動することが知られている。このLNMOのエネルギー密度は686Wh/kgであり、他の正極材料よりも大きいことから、電気自動車用リチウムイオン二次電池の正極として期待されている(例えば、特許文献1や非特許文献1を参照)。
しかしながら、このLNMOは、上述のように高電圧で動作するため、電解液が正極上で酸化分解されることから、高温下や高レートでの放電容量が乏しいという課題がある。
(態様1)
LiNiΧMn2-ΧO4(但し、0.3≦Χ≦0.7)を前駆体として用意する第1工程と、
該前駆体にポリシラザンを添加して混合する第2工程と、
第2工程で得られた混合物を700℃~1,000℃の範囲で焼成し、前記ポリシラザン中のSi成分をLiNiΧMn2-ΧO4にドーピングする第3工程と、を含み、かつ、
前記ポリシラザンは、下記化学式(1)で表されるポリシラザンであることを特徴とする正極材の製造方法。
(態様2)
第2工程では、前記前駆体に対して前記ポリシラザン由来のSiO2が0.1wt%~2wt%となるように、前記ポリシラザンを添加することを特徴とする態様1に記載の正極材の製造方法。
(態様3)
第1工程では、前記前駆体の原料として、Li2CO3、NiO、及び、MnO2を化学量論比に基づいて秤量して混合し、該混合物を500℃~1,000℃で焼成することで作成したLiNiΧMn2-ΧO4(但し、0.3≦Χ≦0.7)を使用することを特徴とする態様1又は2に記載の正極材の製造方法。
(態様4)
態様1~3のいずれか1項に記載の製造方法によって合成された正極材を使用することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
本発明の正極材の原料は、LiNiΧMn2-ΧO4(但し、0.3≦Χ≦0.7)(以下、「LNMO」又は「LNMO前駆体」と呼ぶ。)である。LNMO前駆体は、例えば、Li2CO3、NiO、及びMnO2を固相反応により合成することが出来る。この反応の際に各原料の混合物を500℃~1,000℃の範囲で焼成することが好ましい。また、焼成時間としては、1~12時間程度であることが好ましい。
LNMO前駆体に添加するポリシラザンは、以下の化学式(1)で表される化合物である。
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.6mL/min
検出器:UV検出器
カラム:(下記2種類 いずれも東ソー社製)
TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperMultiporeHZ-M(4.6mmI.D.×15cm×4)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(SiO2換算量で濃度0.5質量%のTHF溶液)
本発明のポリシラザンは、有機溶媒に溶解して使用する。有機溶媒としては、ポリシラザンを溶解する有機溶媒であれば特に限定されない。例えば、n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、n-オクタン、i-オクタン、2,2,4-トリメチルペンタン(イソオクタン)、n-ノナン、i-ノナン、n-デカン、i-デカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン(イソドデカン)などの飽和鎖状脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、p-メンタン、デカヒドロナフタレンなどの飽和環状脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼンやテトラヒドロナフタレンなどの芳香族炭化水素、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジヘキシルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル、ブトキシエチルエーテルなどのアルキルエーテル類やアニソール、ジフェニルエーテルなどのアリールエーテル類、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、カプロン酸エチルなどのエステル化合物などが例示される。
本発明におけるポリシラザンの添加量は、前駆体に対してポリシラザン由来のSiO2が0.1wt%~2wt%になるように設定し、さらに好ましくは、ポリシラザン由来のSiO2が0.2wt%~1wt%になるように設定する。
本発明のLNMO/Siは、例えば、後述する図1に例示の合成フローにより、先ず、LNMO(前駆体)を合成(又は市販品を用意)し、次いで、この前駆体に上記ポリシラザンを添加・混合し、該混合物を所定の温度で焼成することでSi成分をドーピングしたLNMO(「LNMO/Si」とも呼ぶ。)を作製する。上記焼成温度の範囲として、700℃~1,000℃であることが好ましく、850~1,000℃であることがさらに好ましい。
図2に、比較例1及び実施例1~3の粉末試料の粉末XRDパターンを示す。図3に、実施例1~3及び比較例1の粉末試料の結晶構造を示したSEM画像を示す。
固相反応によりLNMO前駆体を合成した(図1を参照)。具体的には、Li2CO3(純度99.0%、関東化学株式会社製)、NiO(純度99.0%,富士フイルム和光純薬株式会社製)、MnO2(純度99.0%,株式会社高純度化学研究所製)を化学量論比に基づいて秤量した。これらの原料に分散媒としてトルエン(純度99.5%,関東化学株式会社製)を加えて、ボールミルを用いて200rpmの速度で2時間、上記原料を混合した。得られた混合物をアルミナボートに入れ、流量50ml/minの空気中で、700℃/10時間の条件で、この混合物を焼成した後、室温まで冷却し、LNMO(前駆体)を得た。なお、得られたLNMO(前駆体)はメノウ乳鉢で粉砕した。
純度99%以上のジクロロシラン0.19molを、窒素を同伴させて-10℃の脱水ピリジン300mlに撹拌しながら吹き込んだ。その後、純度99%以上のアンモニアを0.57mol吹き込み、生成した塩を加圧濾過により取り除くことでポリシラザンを合成した。このポリシラザンのピリジン溶液を150℃に加熱し、ピリジンを150ml溜去した。次にジブチルエーテルを300ml加え、共沸蒸留によりピリジンを取り除き、溶液全体を100質量部としたときにポリシラザンが5質量部となるようにジブチルエーテルを添加してポリシラザン溶液を調製した。このポリシラザン溶液に含まれるポリシラザンの重量平均分子量は3,800であった。
上記工程で合成したLNMO(前駆体)0.5gに、ポリシラザンを後述の条件で添加して混合し、該混合物を焼成することで、LNMO/Siを作製した。詳しくは、ポリシラザン由来のSiO2がLNMO(前駆体)に対しておのおの0.2wt%(実施例1)、0.5wt%(実施例2)、1.0wt%(実施例3)となるように上記で調製したポリシラザン溶液をLNMO(前駆体)に添加し、メノウ乳鉢で混合した。その後、流量50ml/minの空気中で900℃/6時間の条件でこれらの混合物を焼成し、本実施例の正極材である「LNMO/Si 1」、「LNMO/Si 2」、及び「LNMO/Si 3」を得た。得られた試料を使用して、後述の特性を評価した。
実施例1~3のLNMO/Si作製の工程と略同様の工程であるものの、上記ポリシラザン溶液を添加しないLMNO前駆体を流量50ml/minの空気中で900℃/6時間の条件で焼成したLNMOからなる正極材(比較例1)を得た。実施例1~3と比較するため、後述の特性を評価した。
実施例1~3及び比較例で得られた粉末試料を、粉末X線回折測定(マックサイエンス製,MX-Labo)を用いて結晶相を同定した。同定には、Inorganic Crystal Structure Database(ICSD)に収蔵されているLNMOのパターンを比較対象として用いた。
図2に、比較例1の粉末試料(図中の「LNMO」を参照)と、本実施例の粉末試料(SiO2添加量に応じた3種類、図中の「LNMO/Si 1」,「LNMO/Si 2」,「LNMO/Si 3」を参照)の粉末XRDパターンを示す。ここで、図中最下段に示すICSDより引用したLNMO(♯239165)との比較により、いずれのサンプルでもLNMOが主相で得られていると判断した。
また、実施例1~3及び比較例1の粒子形状や粒子径の観察をするために、走査型電子顕微鏡(JSM-5310MVB,日本電子データム株式会社製)を使用した。試料台の上にカーボンシートを貼り、そこに少量の粉末試料をのせ、15kVの電圧で観察した。
図3(a)に比較例1(LNMO)のSEM画像を示し、図3(b)~(d)に、実施例1~3(上述した「LNMO/Si 1」,「LNMO/Si 2」,「LNMO/Si 3」)のSEM画像を示す。図3(a)より、ポリシラザンを加えていないLNMOは球状の粒子であることが確認された。これに対し、図3(b)~(d)に示すように、LNMOにポリシラザンを加えて焼成することにより、粒子形状が「八面体状の角のある形状」に変化することが判明した。本発明での上記粒子形状の発現は、LNMOの一部の元素がSiにより置換されているものと考えられる。これは、上記工程により、LNMOにポリシラザン中のSi成分がドーピングし、反応してこの八面体形状への結晶成長が促されたと推測される。
このような形状変化は、LNMOへのWO3ドーピングなどでも報告されている(非特許文献4)。この非特許文献4では、通常のLNMO粒子は(100)、(110)、(111)、(311)の面からなる球形結晶構造を持つ一方で、WO3でドープされたLNMO粒子は、(110)、(111)の面が成長した八面体の結晶構造が得られることが判っている。これと同様に、本発明においても、ポリシラザンをLNMOへ添加することにより、LNMOの結晶形態が特異的に変化し、八面体の形状を成す結晶構造が得られたものと推測される。
次に、比較例1及び以下の実施例4,5の粉末試料を利用して正極材料を作製するとともに、負極材料及び電解液も作製した。これらを組み合わせて電気化学セルを作製した。なお、実施例4,5の試料は、上述の実施例1~3と同様の工程で作製されたが、ポリシラザン添加工程の際に、ポリシラザン由来のSiO2がLNMO(前駆体)に対しておのおの0.1wt%(実施例4)、0.8wt%(実施例5)となるようにポリシラザン溶液をLNMO(前駆体)に添加したものである。
実施例4,5又は比較例で得られた粉末試料、導電助剤のアセチレンブラック(デンカ株式会社製)、結着剤のポリフッ化ビニリデン(PVDF#9130,株式会社クレハ)を85:8:7の質量比になるように秤量し、軟膏壺(UG型3-52,12ml,馬野化学容器株式会社製)に加えた。そこに溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(99.0%,関東化学株式会社製)を攪拌装置(AR-100,株式会社シンキ―製)で20分間攪拌し、次いで、5分間脱泡した。その後再び1分間攪拌し、スラリー状になった試料をアルミ箔の上に塗布した。次に、真空乾燥機(AVO-200NS,アズワン株式会社製)を用いて75℃で40分間真空加熱し、真空状態のまま室温まで4時間かけて冷却した。その後、プレス器で20MPaの圧力を上記試料にかけ、130℃で5.5時間、真空加熱した後、真空状態のまま室温まで4時間かけて冷却した。
負極には円形にくり抜いた金属リチウム箔を使用した。金属リチウム箔の切り抜きはアルゴンガスを充填したグローブボックス(UN650F,株式会社UNICO製)内で行った。
電解液には、「1mol/L ヘキサフルオロリン酸リチウムEC:DMC(1:1v/v%)溶液」(キシダ化学株式会社製,EC:炭酸エチレン、DMC:炭酸ジメチル)を用いた。この電解液はアルゴンガスを充填したグローブボックス内で取り扱った。
セル(HSフラットセル,宝泉株式会社製)の組み立ては、アルゴンガスを充填したグローブボックス内で行った。セルの下蓋の中に、下側から、負極材料(金属リチウム箔)、これを保護する不織布、正極材料と負極材料との間の直接的な接触を防ぐセパレーター、正極材料を保護するための不織布、正極材料の順で載置したうえで、電解液を加えた。そして、このセルの上蓋を閉じ、密閉することで、電気化学セルを組み立てた。
上述のように組み立てたセルについて、充放電装置(HJ-101SM6,北斗電工株式会社製、PFX2011,菊水電子工業株式会社製)で充放電測定を行った。電流密度はCレートを基準とした。なお、Cレートとは、1時間で正極の理論容量を全て引き抜く電流密度を1Cとして規定し、放電時間及び充電時間の速度を表すものである。0.1C、0.5C、1C、5C、10C、最後にもう一度0.1Cで充電・放電容量を測定した。それぞれのCレートで5サイクルずつ、計30サイクル行った。測定開始前には2時間の予備放電時間を設け、0.1Cでは充電と放電の間に30min、0.5Cでは15min、1Cでは15minの休止時間を設けた。5C、10Cでは休止時間は設けなかった。
以下の表1に、上記方法により測定された実施例4,5(ポリシラザン添加量を変えた2種類)、比較例1(添加無し)を用いた電気化学セルの容量維持率の比較結果を示す。各レートにおいて、実施例4,5の結果と、比較例1の結果とを比較し、比較例1よりも容量維持率が増加していた場合には、表1中に丸印又は二重丸印を付した。なお、丸印は100%~105%未満の範囲で増加した場合に付し、二重丸印は105%以上の範囲で増加した場合に付した。
Claims (4)
- LiNiΧMn2-ΧO4(但し、0.3≦Χ≦0.7)を前駆体として用意する第1工程と、
該前駆体にポリシラザンを添加して混合する第2工程と、
第2工程で得られた混合物を700℃~1,000℃の範囲で焼成し、前記ポリシラザン中のSi成分をLiNiΧMn2-ΧO4にドーピングする第3工程と、を含み、かつ、
前記ポリシラザンは、下記化学式(1)で表されるポリシラザンであることを特徴とする正極材の製造方法。
- 第2工程では、前記前駆体に対して前記ポリシラザン由来のSiO2が0.1wt%~2wt%となるように、前記ポリシラザンを添加することを特徴とする請求項1に記載の正極材の製造方法。
- 第1工程では、前記前駆体の原料として、Li2CO3、NiO、及び、MnO2を化学量論比に基づいて秤量して混合し、該混合物を500℃~1,000℃で焼成することで作成したLiNiΧMn2-ΧO4(但し、0.3≦Χ≦0.7)を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の正極材の製造方法。
- 請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法によって合成された正極材を使用することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
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