JP7242094B2 - 排水処理施設の運転管理システム - Google Patents

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Description

本発明は、活性汚泥を使用した排水処理施設の運転管理システム、診断方法及び運転管理方法に関する。
近年、地球環境の問題が注目されており、水の重要性への認識が高まってきている。そのため、排水処理施設の運転を適切に維持、管理する必要性が増している。排水処理施設の一般的なフローは、次のとおりである。まず、前処理段階で粗ごみを分離する設備(スクリーン)がある。ここで、無駄に流入するSS分を除去する。次に浄化の中心である生物処理となる。ここで、エアレーション(送風・曝気)で微生物が働くために必要な空気を排水の中に送り込む。最後に、浄化された水と微生物を分離し、浄化された処理水が消毒された後、河川などに放流される。排水処理施設における最大の目的は、発生した排水を使用前の水質同様、あるいはそれ以上に蘇生して放流することにある。放流水質の目安は、行政が定めた放流水質基準内で安定した水ということとなる。これからの時代における水は、私達が生存するためにも、経済性の観点からも、重要で貴重な存在となっている。しかしながら、現在の運転維持管理の方法や体制は極めて不十分である。多くの排水処理施設では、計測器はpH計とSV計程度しか備えられておらず、その使用方法も一般的にpHはどの程度がよいとか、SVはどの程度がよいとかいった程度である。また、種々の計測器を備えた排水処理施設においても、計測器や計測された値は有効に活用されず、排水処理施設の運転の維持や管理は、担当者の経験や勘に頼るところが多い。例えば、特開平11-90480では、オキシデーションデッチにDO計を設置し、DO計測値により、間歇曝気方式或いは曝気用送風機の回転数制御による曝気槽の運転管理方式を開示しているが、DO計測値のみを使用するこの方式を曝気槽一般に適用することは、上記のとおり適切な運転管理方法とはいえない。排水処理施設の運転管理は、このような状況であるため、周期的に、または突然として排水処理施設の運転が不安定状態に陥ることがあり、その回復には早くて2週間、長いと2ケ月程度かかるため、水質基準を満たせずに放流しなければならい事態や活性汚泥が越流する事態がおきている。
特開平11-90480
本発明は、上記問題点を解決し、人の経験や勘によらずに、排水処理施設の運転を適切に維持、管理できる排水処理施設の運転管理システム、排水処理施設の状況を適切に把握できる排水処理施設の診断方法及びこれらを利用した運転管理方法を提供することを課題とする。
排水処理施設では、微生物による生物処理が核となるが、排水処理施設で使用される活性汚泥中には、様々な種類の微生物が数多く存在している。そのため、微生物の塊である活性汚泥の変化を理論的に解明することは難しく、また各排水処理施設を取り巻く環境、例えば、流入負荷の種類、量、活性汚泥の状態、気温や湿度等の気候などは、処理施設ごとに異なる。これらのことが排水処理施設の適切な運転維持、管理の方法が開発されてこなかった大きな理由である。本発明者は、多くの種類の排水処理施設を数多く調査、観察することにより、排水処理施設の安定処理状態が不安定処理状態になる前に起こる現象とデータ、不安定処理状態が安定状態へと向かう過程での現象とデータを様々な角度から集積した。そして、排水処理施設ごとに適正条件は異なること、活性汚泥の状態を的確に把握し、適切な維持・改善対策を採用するには、SV30、SV比較差、SV24時間、pH、ORP、汚泥ORP、透視度等の複数の指標を組み合わせて判断することが必要であること、活性汚泥の状態は、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量の三要素の関係で決まることに着目した。そこで、検討を進めたところ、活性汚泥の状態は、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量が適正か、過多か、不足かの組合せによりパターン化できること、このパターンに対応させて各種指標の関係を予め設定しておけば、各種指標の測定結果から前記パターンのうちのいずれのパターンかが判断でき、活性汚泥の状態を簡易に把握できることを見いだした。具体的には、各指標について基準値を設定し、基準値範囲内、基準値を超過、又は基準値未満の区分を設け、このように区分された各指標の組合せと前記パターンとを対応させておけばよく、基準値については排水処理施設ごとに設定すればよいことを見いだした。それにより、各指標を測定し、その測定値と基準値を対比した区分の組合せを前記パターンに対応した指標の区分の組合せと照合でき、活性汚泥の現状と一致するパターンを選びだせるので、今までのように人の経験や勘に頼らずに、さらに今までよりも的確に排水処理施設の現状を把握できる運転管理システムを得ることができる。また、この運転管理システムによれば、排水処理施設の現状把握を流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量の三要素の適否の観点から行うので、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のいずれを増減させるかといった今後の対策もとりやすくなる。本発明は、こうして完成されたものである。
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
(1)排水処理施設の運転管理システムであって、曝気槽の状態を示す複数の指標について、前記指標ごとに基準値を記憶する記憶手段、前記指標の測定値を入力する入力手段、入力された前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分する対比手段、診断パターンを記憶する記憶手段であって、前記診断パターンが、前記基準値を基準として、前記指標ごとの基準値範囲内、基準値超過又は基準値未満の区分の組合せにより分類されている記憶手段、前記測定値の各指標の区分の組合せと前記診断パターンの各指標の区分の組合せを照合し、区分の組合せが一致した診断パターンを抽出する照合手段、及び前記区分の組合せが一致した診断パターンを表示する表示手段を備える前記排水処理施設の運転管理システム。
(2)曝気槽の状態を示す複数の指標が、SV30、SV比較差、SV24時間、pH、ORP、汚泥ORP及び透視度から選ばれる2種以上であることを特徴とする上記(1)の運転管理システム。
(3)診断パターンが、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量についての適正、過多又は不足の観点から分類されていることを特徴とする上記(1)又は(2)の運転管理システム。
(4)指標として、SV外観観察を含むことを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかの運転管理システム。
(5)診断パターンの表示が、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれについての適正、過多又は不足の表示を含むことを特徴とする上記(1)~(4)のいずれかの運転管理システム。
(6)診断パターンの表示が、診断パターンごとに設定された今後の対処方法の表示を含むことを特徴とする上記(1)~(5)のいずれかの運転管理システム。
(7)排水処理施設の診断方法であって、曝気槽の状態を示す複数の指標について、前記指標ごとに基準値を設定するステップ、前記基準値を基準として、前記指標ごとの基準値範囲内、基準値超過又は基準値未満の区分の組合せにより分類された診断パターンを設定するステップ、前記指標を測定し測定値を得るステップ、得られた前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分するステップ、前記測定値の各指標の区分の組合せと前記診断パターンの各指標の区分の組合せを照合するステップ、及び前記照合するステップにより区分の組合せが一致した診断パターンを診断結果とするステップを含む前記排水処理施設の診断方法。
(8)排水処理施設の診断方法であって、曝気槽の状態を示す指標として、SV30、SV比較差、SV24時間、pH、ORP、汚泥ORP及び透視度から選ばれる少なくとも3種を選択するステップ、前記選択した指標について基準値を設定するステップ、前記選択した指標を測定し測定値を得るステップ、得られた前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分するステップ、前記区分から、各指標が示す可能性として、過負荷、適正負荷、負荷不足、汚泥量過多、汚泥量適正、汚泥量不足、酸素過多、適正酸素量及び酸素不足から1つ又は2つ以上を選択するステップ、及び各指標について選択された可能性を総合して、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量の適正、過多又は不足の観点から排水処理施設の状態を診断するステップを含む前記排水処理施設の診断方法。
(9)上記(7)又は(8)の診断方法による診断結果に基づいて、酸素量の増減、引き抜き汚泥量の増減及び/又は流入負荷量の増減を行う排水処理施設の運転管理方法。
(10)排水処理施設の運転管理装置であって、曝気槽の状態を示す複数の指標について、前記指標ごとの基準値を入力する入力装置と入力された前記基準値を記憶する記憶装置、前記指標の測定値を入力する入力装置と入力された前記測定値を記憶する記憶装置、入力され記憶された前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分する対比手段、診断パターンを記憶する記憶装置であって、前記診断パターンが、前記基準値を基準として、前記指標ごとの基準値範囲内、基準値超過又は基準値未満の区分の組合せにより分類されている記憶装置、前記測定値の各指標の区分の組合せと前記診断パターンの各指標の区分の組合せを照合し、区分の組合せが一致した診断パターンを抽出する照合手段、及び前記区分の組合せが一致した診断パターンを表示する表示装置を備える前記排水処理施設の運転管理装置。
本発明の排水処理施設の運転管理システム及び診断方法によると、予め選択した指標を測定し、その測定結果を入力するだけで、排水処理施設における活性汚泥の状態を把握することができる。また、複数の観点から活性汚泥の状態をとらえるので、的確な評価を得ることができる。本発明の排水処理施設の運転管理システム及び運転管理方法によると、本発明により得られる診断結果にもとづき対策を選択するので、活性汚泥の健康状態の維持、排水処理施設の安定した運転にとって適切な対策を講じることができる。
本発明における診断パターンの一実施形態を示す図である。 本発明における診断パターンの一実施形態を示す図である。 本発明における診断パターンの表示の一実施形態を示す図である。 本発明における診断パターンの日ごとの変化を示す表示の一実施形態を示す図である。
本発明の排水処理施設の運転管理システムは、曝気槽の状態を示す複数の指標について、前記指標ごとに基準値を記憶する記憶手段、前記指標の測定値を入力する入力手段、入力された前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分する対比手段、診断パターンを記憶する記憶手段であって、前記診断パターンが、前記基準値を基準として、前記指標ごとの基準値範囲内、基準値超過又は基準値未満の区分の組合せにより分類されている記憶手段、前記測定値の各指標の区分の組合せと前記診断パターンの各指標の区分の組合せを照合し、区分の組合せが一致した診断パターンを抽出する照合手段、及び前記区分の組合せが一致した診断パターンを表示する表示手段を備えることを特徴とする。まず、本発明の運転管理システムは、曝気槽の状態を示す複数の指標について、前記指標ごとに基準値を記憶する記憶手段を備える。本発明における曝気槽の状態を示す複数の指標は、SV30、SV比較差、SV24時間、pH、ORP、汚泥ORP及び透視度から選ばれる2種以上であることが好ましく、3種であることがより好ましい。SV30とは、最終曝気槽(生物処理槽)内の活性汚泥分散液(曝気槽水)を1Lのメスシリンダーに1L入れ、30分間静置した後の沈殿物の割合を%で表したものであり、SV24時間は、同様の方法で24時間静置した後の沈殿物の割合を%で表したものである。SV比較差とは、SV計を2本用意し、それぞれに最終曝気槽水を30%(300mL)入れ、1本のSV計には水を70%(700mL)入れて100%(1L)とし、他方には脱酸素状態の水(脱酸素水)を70%(700mL)入れて100%(1L)として、2本のSV30分計測値の差を求めたものである。pHは最終曝気槽水のpHであり、酸化還元電位を表すORPには、最終曝気槽水を静置し沈殿分離した上澄水を計測したORPと、前記で沈殿分離した沈降汚泥内を計測した汚泥ORPがある。透視度は、一般的には1mm幅の2本の線が分かれて見える深さ(cm)で表され、最終処理水を透視度計を用いて測定される。これらの指標は、排水処理施設で一般的に用いられる従来公知の方法を利用して測定することができる。これらの指標の適正な値は、排水処理施設ごとに異なるため、運転管理を行う施設ごとに基準値を設定する。基準値の設定方法としては、例えば、各指標を1か月間測定し、処理水の状態が安定しているときの測定値を判別し、処理水の状態が不安定になる際の測定値の上限値及び下限値を適正な範囲として基準値(基準値の範囲)を設定する。設定された基準値は記憶手段に記憶される。
本発明の運転管理システムは、前記指標の測定値を入力する入力手段、及び入力された前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分する対比手段を備える。本発明の運転管理システムでは、前記入力手段により入力された測定値は、前記対比手段により前記基準値と対比され、基準値範囲内(測定値が基準値の範囲内にある:以下、単に「適正」ともいう)、基準値超過(測定値が基準値の範囲より大きい:以下、単に「超過」ともいう)及び基準値未満(測定値が基準値の範囲より小さい:以下、単に「未満」ともいう)のいずれかに区分される。一方で、本発明の運転管理システムは、診断パターンを記憶する記憶手段であって、前記診断パターンが、前記基準値を基準として、前記指標ごとの基準値範囲内、基準値超過又は基準値未満の区分の組合せにより分類されている記憶手段を備える。区分の組合せとは、例えば、SV30が超過、pHが超過、ORPが未満といった組合せである(以下、前記の場合、[SV30、pH、ORP]=[超過、超過、未満]とも示す)。基準値の状態と比べた各指標が示す状態を複数の指標により複数の観点からみることにより、曝気槽の状態を的確に把握でき、曝気槽の状態を診断パターンに分類できる。本発明の運転管理システムは、前記測定値の各指標の区分の組合せと前記診断パターンの各指標の区分の組合せを照合し、区分の組合せが一致した診断パターンを抽出する照合手段を備える。照合手段では、例えば、入力された測定値の区分の組合せが[SV30、pH、ORP]=[超過、超過、未満]である場合、同じく[SV30、pH、ORP]=[超過、超過、未満]である診断パターンと区分の組合せが一致するので、予め設定し記憶された診断パターンのうち前記診断パターンが抽出される。本発明の運転管理システムは、前記区分の組合せが一致した診断パターンを表示する表示手段を備える。
本発明の運転管理システムは、診断パターンが、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量について、適正、過多又は不足の観点から分類されていることが好ましい。排水処理における三大要素は、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量であり、前記三要素のバランスが重要である。流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれにおいて、適正とは、各量が適正な量であることを示し、過多とは各量が適正な量を超えていることを示し、不足とは各量が適正な量より少ないことを示す。本発明においては、診断パターンが、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量についての適正、過多又は不足の観点から分類され、こうして分類された診断パターンに対応する各種指標の範囲内、超過又は未満の区分の組合せが各診断パターンに割り当てられていることが好ましい。排水処理施設の状況を、前記三要素により把握することにより、酸素量の増減、引き抜き汚泥量の増減、流入負荷量の増減等の今後の対処方法の指針がたてやすくなる。例えば、SV30測定値が超過の場合、活性汚泥が膨化した状態を示すが、活性汚泥は酸素過多だけでなく、酸素不足又は過負荷でも膨化する。SV30の計測では、活性汚泥の一時的膨化がボリュームにシビアに表現される。SV24時間の計測は、この一時的なブレがないのでSV30が膨化したことを確認できる。また、ORPの数値は酸素量の目安を示しており、酸素過多か過負荷かの目安となる。これらの指標を組み合わせることにより、活性汚泥が現在、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量の観点からどのような状態にあるかを判断できる。また、pHもその変化が曝気槽の処理状態の変化を表しており、透視度は、一般的に上澄水の色が明るく透明度があるときは、負荷不足又は酸素過多が考えられ、上澄水の色が暗く透明度が悪い時は、過負荷、酸素不足又は汚泥不足が考えられる。SV比較差は、例えば、水を入れたSV計は、水には酸素が十分に溶存しているため活性汚泥にさらに酸素を供給した状態を示している。水をいれたSV測定値(以下、SV(水)ともいう)が脱酸素水をいれたSV測定値(以下、SV(脱酸素水)ともいう)よりやや高い場合は、安定負荷状態、安定活性汚泥量状態を条件に、適正酸素状態(適正溶存酸素状態)の活性汚泥と判断でき、前記差が大きい場合は、酸素過多の状態と判断できる。
例えば、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量についての適正、過多又は不足の観点から分類された診断パターンと、各種指標の基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満の区分の組合せとは、以下のように対応させることができる。例えば、SV比較差が超過、ORPが超過、透視度が未満の場合(パターン1)、透視度の低下は、負荷の未処理でも起こり、解体した汚泥の影響でも起こる。しかしこの場合、ORPが高くなっていることから負荷の処理が進み酸素過多になっていることが考えられ、SV比較差も酸素過多を示している。そこで、前記3種の指標を組み合わせることにより、現在の状態は、酸素過多環境の継続で、活性汚泥がダメージを受け自己消化している状態であることが診断できる。この状態は、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量についての適正、過多又は不足の観点から分類すると、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれが適正であるものの、活性汚泥がバランスを崩した状態のため、健康な活性汚泥を育成するために、負荷量を十分に与え、または酸素量を注意深く抑制する必要がある。ここで、SV比較差が超過とは、SV(水)がSV(脱酸素水)より設定した基準値以上に大きい場合であり、SV比較差が未満とは、SV(水)がSV(脱酸素水)より設定した基準値以上に小さい場合であり、SV比較差が適正とは、SV(水)とSV(脱酸素水)の差が設定した基準値の範囲内にある場合である。また、SV24時間が超過、pHが適正(負荷に窒素成分が少ない場合)、汚泥ORPが適正の場合(パターン2)、pH及び汚泥ORPが適正なので、負荷は処理されているが、SV24時間が超過ということは、SSが増加傾向にあることが診断できる。この状態は、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量についての適正、過多又は不足の観点から分類すると、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量は適量であるものの、SSが増加傾向にあるため、余剰汚泥引抜量と酸素量を増量し、有用な活性汚泥を育成する必要がある。また、SV30が超過、pHが超過(負荷に窒素成分が多い場合)、ORPが超過の場合(パターン3)、SV30が超過の場合、酸素量が多い、又は活性汚泥量が少ないことが考えられるが、pHが超過していることから負荷の処理ができておらず、ORPが高いことから酸素過多の状態であることがわかる。したがって、酸素過多であるが、活性汚泥が不足しているため未処理負荷が残っている状態(活性汚泥不足(酸素過多))と診断できる。この状態は、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量についての適正、過多又は不足の観点から分類すると、流入負荷量は適正、活性汚泥量は不足、酸素量は過多と分類できる。このように、各指標単独では、判別がつかないあるいは判別を間違える可能性があるところ、本発明のように複数の指標を組み合わせることにより、適正な診断を行うことができる。さらに、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量についての適正、過多又は不足の観点から分類したパターンを、各種指標の基準値範囲内、基準値超過又は基準値未満の区分の組合せと対応させることができ、これを酸素量の状態を示すパターンとしてパターン化しておけば、各種指標の測定値を基準値と対比した区分の組合せと照合することにより、簡易に、しかも適切に現状を把握することができる。
本発明の運転管理システムでは、診断パターンの表示が、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれについての適正、過多又は不足の表示を含むことが好ましい。前記表示を含むと、排水処理施設の現状が運転管理システムの利用者(使用者)に分かりやすく伝わる。このような単純で明確な表現とすることにより、誤解なく容易に排水処理施設の現状を利用者に伝えることができる。本発明の運転管理システムでは、診断パターンの表示が、診断パターンごとに設定された今後の対処方法の表示を含むことが好ましい。診断パターンに応じた対処方法を予め設定しておけば、診断パターンと共に対処方法も表示されるため、システムの利用者は、単に排水処理施設の現状を把握できるだけでなく、今後の対処法を知ることができる。本発明の運転管理システムは、指標としてSV24時間外観観察を含むことが好ましい。SV24時間外観観察の場合は、基準値と対比した範囲内、超過及び未満による区分でなく、SV試験における汚泥の浮上の程度、糸状性細菌の有無や長さ等によって区分できる。SV24時間外観観察を指標として使用する場合は、診断パターンを分類する条件としてSV24時間外観観察の状態を加える。SV24時間外観観察には、脱窒の観点からの観察と糸状性細菌の観点からの観察が含まれる。指標にV24時間外観観察を加える場合は、使用する指標として全指標から少なくとも4種を選択することが好ましい。
本発明の排水処理施設の診断方法は、曝気槽の状態を示す複数の指標について、前記指標ごとに基準値を設定するステップ、前記基準値を基準として、前記指標ごとの基準値範囲内、基準値超過又は基準値未満の区分の組合せにより分類された診断パターンを設定するステップ、前記指標を測定し測定値を得るステップ、得られた前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分するステップ、前記測定値の各指標の区分の組合せと前記診断パターンの各指標の区分の組合せを照合するステップ、及び前記照合するステップにより区分の組合せが一致した診断パターンを診断結果とするステップを含むことを特徴とする。本発明の排水処理施設の診断方法における指標は、SV30、SV比較差、SV24時間、pH、ORP、汚泥ORP及び透視度から選ばれることが好ましく、これらから選ばれる2種以上であることが好ましく、3種以上であることがより好ましい。また、測定する指標及び診断パターンを分類する指標にSV24時間外観観察を加えてもよい。SV24時間外観観察の場合は、基準値と対比した範囲内、超過及び未満による区分でなく、SV試験における汚泥の浮上の程度、糸状性細菌の有無や長さ等によって区分される。SV24時間外観観察には、脱窒の観点からの観察と糸状性細菌の観点からの観察が含まれる。指標にSV24時間外観観察を加える場合は、使用する指標としてSV24時間外観観察を加えた全指標から少なくとも3種を選択することが好ましく、4種を選択することがより好ましい。基準値の設定、診断パターンの設定、指標の測定、測定値と基準値の対比と測定値の区分、測定結果と診断パターンの照合と抽出に関しては、上述した本発明の運転管理システムの場合と同様である。
本発明の排水処理施設の診断方法は、曝気槽の状態を示す指標として、SV30、SV比較差、SV24時間、pH、ORP、汚泥ORP及び透視度から選ばれる少なくとも3種を選択するステップ、前記選択した指標について基準値を設定するステップ、前記選択した指標を測定し測定値を得るステップ、得られた前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分するステップ、前記区分から、各指標が示す可能性として、過負荷、適正負荷、負荷不足、汚泥量過多、汚泥量適正、汚泥量不足、酸素過多、適正酸素量及び酸素不足から1つ又は2つ以上を選択するステップ、及び各指標について選択された可能性を総合して、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量の適正、過多又は不足の観点から排水処理施設の状態を診断するステップを含むことを特徴とする。また、測定する指標及び診断パターンを分類する指標にSV24時間外観観察を加えてもよいこと、その場合の区分の仕方は、上記の排水処理施設の診断方法の場合と同様であり、指標にSV24時間外観観察を加える場合は、使用する指標として全指標から少なくとも3種又は4種を選択することが好ましい。指標の測定結果と基準値とを対比した結果から、各指標が示す可能性として、過負荷、適正負荷、負荷不足、汚泥量過多、汚泥量適正、汚泥量不足、酸素過多、適正酸素量及び酸素不足から1つ又は2つ以上を選択できることは、上記運転管理システムで述べたとおりである。1つの指標の測定結果は、複数の可能性を示すので、1つの指標だけから活性汚泥の状態を判断することは難しい。本発明の排水処理施設の診断方法では、複数の指標の測定結果をもとに、各指標の測定結果を突き合わせて総合的に判断するので、各指標の示す可能性が一致していれば、その状態にあることを確認でき、また、一致していないときは、それらの不一致の状況や原因を総合的に判断することにより、適切な判断ができる。これにより、活性汚泥の状態を的確にとらえることができる。また、上記で示した各指標が示す可能性は、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量の適正、過多又は不足に関係しているので、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量の適正、過多又は不足の観点から排水処理施設の状態を診断することができる。本発明の排水処理施設の運転管理方法は、上記本発明の診断方法による診断結果に基づいて、酸素量の増減、引き抜き汚泥量の増減及び/又は流入負荷量の増減を行うことを特徴とする。本発明の排水処理施設の診断方法によれば、診断結果が流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量の適正、過多又は不足の観点から示されるので、その結果に合わせて、酸素量の増減、引き抜き汚泥量の増減及び流入負荷量の増減から選ばれるいずれの対策をとるかを容易に判断することができる。また、前記対策は必ずしも1種とは限らず、複数の対策を講じる場合もある。
本発明の運転管理システムにおいて、基準値を記憶する記憶手段、測定値を入力する入力手段、対比手段、診断パターンを記憶する記憶手段、照合手段及び診断パターンを表示する表示手段は、1つの装置内、例えばパソコン等に組み込まれていてもよいが、測定値を入力する入力手段及び診断パターンを表示する表示手段をタブレット等の端末に組み込み、他の手段はサーバ等に組み込んで、両者間を通信でつないでデータをやりとりするようにしてもよい。本発明における記憶手段としては、特に制限されず、例えば、データベース、サーバ、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、ハードディスク(HD)、光ディスク、フロッピー(登録商標)ディスク(FD)等を挙げることができる。本発明における入力手段としては、特に制限されず、例えば、コンピュータ等に接続して通常使用される入力装置を使用することができる。本発明における対比手段及び照合手段としては、特に制限されず、例えば、記憶装置に格納されたプログラムに基づいて所定の処理を行なう中央処理装置(CPU)等を挙げることができる。本発明における表示手段としては、特に制限されず、例えば、液晶表示装置等の各種ディスプレイを使用することができる。
本発明の排水処理施設の運転管理装置は、曝気槽の状態を示す複数の指標について、前記指標ごとの基準値を入力する入力装置と入力された前記基準値を記憶する記憶装置、前記指標の測定値を入力する入力装置と入力された前記測定値を記憶する記憶装置、入力され記憶された前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分する対比手段、診断パターンを記憶する記憶装置であって、前記診断パターンが、前記基準値を基準として、前記指標ごとの基準値範囲内、基準値超過又は基準値未満の区分の組合せにより分類されている記憶装置、前記測定値の各指標の区分の組合せと前記診断パターンの各指標の区分の組合せを照合し、区分の組合せが一致した診断パターンを抽出する照合手段、及び前記区分の組合せが一致した診断パターンを表示する表示装置を備えることを特徴とする。本発明の排水処理施設の運転管理装置における入力装置、記憶装置、表示装置、対比手段及び照合手段は、本発明の運転管理システムで述べたものと同様である。本発明の運転管理装置において、各種入力装置、記憶装置、表示装置、対比手段及び照合手段は、1つの装置内、例えばパソコン等に組み込まれてもよく、入力装置や表示装置はパソコン本体に接続されていてもよい。また、指標の測定値を入力する入力装置と診断パターンを表示する表示装置は、例えば、タブレット端末等の携帯用の端末に組み込み、他の装置や手段はサーバ等に組み込んで、両者間を通信でつないでデータをやりとりするようにしてもよい。
以下に、本発明の排水処理施設の運転管理システムの一実施形態を述べる。本運転管理システムでは、曝気槽の状態を示す複数の指標の基準値(適正値ともいう)を記憶する記憶手段は、少なくともSV30、SV比較差、SV24時間、pH(窒素成分多)、pH(窒素成分少)、ORP、汚泥ORP及び透視度に対する基準値を記憶できる。また、入力手段は、SV30、SV比較差、SV24時間、SV24時間外観(脱窒の観点)、SV24時間外観(糸状性細菌の観点)、pH(窒素成分多)、pH(窒素成分少)、ORP、汚泥ORP及び透視度の測定結果及び観察結果を入力することができる。本運転管理システムでは、診断パターンは、前記各指標の適正、超過又は未満の区分の組合せとSV24時間外観の状態の組合せにより、[過負荷・糸状性細菌優勢]、[過負荷]、[活性汚泥不足]、[活性汚泥不足(SSが多い)]、[活性汚泥不足(酸素不足)]、[活性汚泥不足(酸素過多)]、[SS過多(活性汚泥適量)]、[酸素不足]、[健康]、[負荷不足]、[酸素過多]、[酸素過多・糸状性細菌優勢]、[自己消化]、[脱窒傾向]、[糸状性細菌優勢傾向]の15パターンに分類されている。また、前記15のパターンに該当しない場合のために[経過観察]の分類、及び計測項目が足りない場合のために[データ不足]の分類も設けられている。本運転管理システムでは、前記指標のうち3個以上の指標に関する測定値(SV24時間外観を含む場合は4個以上)を使用することが好ましく、測定値がそれに満たない場合には、[データ不足]の分類とされる。本運転管理システムでは、サーバと送受信できるタブレット、パソコン(PC)等で測定値を入力し、診断パターンの表示を見ることができる。そのため、利用者は排水処理施設の現場で測定値を入力し、診断パターンを見ることができる。また、1台のサーバで複数の排水処理施設のデータを処理することができる。本運転管理システムでは、まず、各指標の基準値を設定し、設定した基準値はサーバと接続したPC、タブレット等から入力される。利用者が、排水処理施設の現場で、各指標の測定値をPC、タブレット端末等に入力すると、入力されたデータはサーバに送信され、送信されたデータは基準値と対比されて「適正」、「超過」及び「未満」のいずれかに区分される。この区分の組合せと、前記診断パターンが有する区分の組合せが照合され、一致する診断パターンが抽出される。抽出された診断パターンを、利用者は現場でPC、タブレット端末等により見ることができる。本運転管理システムにおける診断パターンの表示は、「症状」として図1及び2に示すとおり、言葉と、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量の適正又は過不足を示す図で表示される。図1及び2における「負荷」の円は流入負荷量の状態、「活性汚泥」の円は活性汚泥の状態、「酸素」の円は酸素量の状態を表す。さらに、本運転管理システムでは、図3のように、症状の「解説」、「処方(今後の対処方法)」、「処方例」及び「予測」が表示される。また、本運転管理システムでは、図4に示すように、日ごとの診断パターンの変化が一覧できる一覧表も表示される。本運転管理システムの利用者は、表示された「症状」並びに「処方」及び「処方例」を見て対策を講じることができ、「予測」を見て予想される事態や今後の留意点を知ることができる。本運転管理システムでは、天気、気温、湿度、降水量等の天候に関係する要因は、天気予報会社と提携し、そこからのデータを受信することにより自動で運転管理システムに入力される。
本発明の排水処理施設の運転管理システム、排水処理施設の診断方法及び排水処理施設の運転管理方法は、流入負荷の種類の異なる種々の排水処理施設で好適に適用でき、汚泥の健康状態を的確に把握することができる。活性汚泥の状態に応じた適切な対策を知ることができる。

Claims (7)

  1. 排水処理施設の運転管理システムであって、
    曝気槽の状態を示す複数の指標について、前記指標ごとに基準値を記憶する記憶手段であり、前記曝気槽の状態を示す複数の指標が、SV30、SV比較差、SV24時間、pH、ORP、汚泥ORP及び透視度から選ばれる3種以上である記憶手段
    前記指標の測定値を入力する入力手段、
    入力された前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分する対比手段、
    診断パターンを記憶する記憶手段であって、前記診断パターンが、前記基準値を基準として、前記指標ごとの基準値範囲内、基準値超過又は基準値未満の区分の組合せにより、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量についての適正、過多又は不足の組合せの観点から分類されている記憶手段、
    前記対比手段により区分された前記測定値の各指標の区分の組合せと、前記記憶手段に記憶された前記診断パターンの各指標の区分の組合せを照合し、区分の組合せが一致した診断パターンを抽出する照合手段、及び
    前記区分の組合せが一致した診断パターンを表示する表示手段
    を備える前記排水処理施設の運転管理システム。
  2. 指標として、SV外観観察を含むことを特徴とする請求項1記載の運転管理システム。
  3. 診断パターンの表示が、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれについての適正、過多又は不足の表示を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の運転管理システム。
  4. 診断パターンの表示が、診断パターンごとに設定された今後の対処方法の表示を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の運転管理システム。
  5. 排水処理施設の診断方法であって、
    曝気槽の状態を示す複数の指標について、前記指標ごとに基準値を設定するステップであり、前記曝気槽の状態を示す複数の指標が、SV30、SV比較差、SV24時間、pH、ORP、汚泥ORP及び透視度から選ばれる3種以上であるステップ
    前記基準値を基準として、前記指標ごとの基準値範囲内、基準値超過又は基準値未満の区分の組合せにより、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量についての適正、過多又は不足の組合せの観点から分類された診断パターンを設定するステップ、
    前記指標を測定し測定値を得るステップ、
    得られた前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分するステップ、
    前記測定値の各指標の区分の組合せと前記診断パターンの各指標の区分の組合せを照合するステップ、及び
    前記照合するステップにより区分の組合せが一致した診断パターンを診断結果とするステップ
    を含む前記排水処理施設の診断方法。
  6. 排水処理施設の診断方法であって、
    曝気槽の状態を示す指標として、SV30、SV比較差、SV24時間、pH、ORP、汚泥ORP及び透視度から選ばれる少なくとも3種を選択するステップ、
    前記選択した指標について基準値を設定するステップ、
    前記選択した指標を測定し測定値を得るステップ、
    得られた前記測定値を、前記指標ごとに前記基準値と対比して、基準値範囲内、基準値超過及び基準値未満のいずれかに区分するステップ、
    前記区分から、各指標が示す可能性として、過負荷、適正負荷、負荷不足、汚泥量過多、汚泥量適正、汚泥量不足、酸素過多、適正酸素量及び酸素不足から1つ又は2つ以上を選択するステップ、及び
    各指標について選択された可能性の組合せと、流入負荷量、活性汚泥量及び酸素量のそれぞれの量の適正、過多又は不足の組合せの観点から排水処理施設の状態を診断するステップ
    を含む前記排水処理施設の診断方法。
  7. 請求項5又は6記載の診断方法による診断結果に基づいて、酸素量の増減、引き抜き汚泥量の増減及び/又は流入負荷量の増減を行う排水処理施設の運転管理方法。
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