以下、図面を参照しながら、磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置と呼ぶ)の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合に行う。
(実施形態)
図1は、本実施形態におけるMRI装置1の全体構成を示すブロック図である。MRI装置1は、静磁場磁石101と、傾斜磁場コイル103と、傾斜磁場電源105と、寝台107と、寝台制御回路(寝台制御部)109と、送信回路(送信部)113と、送信コイル115と、受信コイル117と、受信回路(受信部)119と、シーケンス制御回路(シーケンス制御部)121と、インタフェース(受付部)125と、ディスプレイ(表示部)127と、記憶装置(記憶部)129と、処理回路(処理部)131とを備える。MRI装置1における架台10は、静磁場磁石101と、傾斜磁場コイル103と、送信コイル115とを有する。また、架台10は、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間に、中空の円筒形状のシムコイルを有していてもよい。
静磁場磁石101は、例えば中空の略円筒状に形成された磁石である。静磁場磁石101は、被検体Pが挿入される空間に相当するボア111に一様な静磁場を発生する。静磁場磁石101としては、例えば、超伝導磁石などが使用される。
傾斜磁場コイル103は、例えば中空の略円筒状に形成されたコイルである。傾斜磁場コイル103は、静磁場磁石101の内側に配置される。傾斜磁場コイル103は、互いに直交するX、Y、Zの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成される。Z軸方向は、静磁場の方向と同方向であるとする。また、Y軸方向は、鉛直方向とする。X軸方向は、Z軸方向およびY軸方向に垂直な方向とする。傾斜磁場コイル103は、静磁場に重畳させる傾斜磁場を発生する。具体的には、傾斜磁場コイル103における3つのコイルは、傾斜磁場電源105から個別に電流供給を受けて、X、Y、Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生させる。
傾斜磁場コイル103によって発生するX、Y、Z各軸の傾斜磁場は、例えば、周波数エンコード用傾斜磁場(リードアウト傾斜磁場ともいう)、位相エンコード用傾斜磁場およびスライス選択用傾斜磁場を形成する。周波数エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じて磁気共鳴(以下、MR(Magnetic Resonance)と呼ぶ)信号の周波数を変化させるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じてMR信号の位相を変化させるために利用される。スライス選択用傾斜磁場は、撮像断面を決めるために利用される。また、傾斜磁場コイル103によって発生されるX、Y、Z各軸の傾斜磁場は、グラジエントエコー法において、例えば、X-Y平面上のスピンの位相を再収束させるために、傾斜磁場の方向を2回反転させた再収束パルスとして用いられる。
傾斜磁場電源105は、シーケンス制御回路121による制御のもとで、傾斜磁場コイル103に電流を供給する電源装置である。
寝台107は、被検体Pが載置される天板1071を備えた装置である。寝台107は、寝台制御回路109による制御のもと、被検体Pが載置された天板1071を、ボア111内へ挿入する。寝台107は、例えば、長手方向が静磁場磁石101の中心軸と平行になるように、検査室内に設置される。
天板1071は、受信コイル117が接続可能な複数のコイルポートを有する。天板1071には、被検体Pが配置される。受信コイル117におけるケーブルの一端に設けられたコネクタは、複数のコイルポートのうち1つのコイルポート1073に接続される。なお、コイルポートの設置場所は、天板1071に限定されず、寝台107または架台10等に設けられてもよい。コイルポート1073からの信号線は、受信回路119に接続される。なお、受信コイル117が高周波磁場の送信機能を有する場合、図1には図示されていないが、コイルポート1073からの信号線は、受信回路119に加えて送信回路113にも接続される。
寝台制御回路109は、寝台107を制御する回路であり、インタフェース125を介した操作者の指示により寝台107を駆動することで、天板1071を長手方向、上下方向、場合によっては左右方向へ移動させる。
送信回路113は、シーケンス制御回路121の制御により、ラーモア周波数で変調された高周波パルスを送信コイル115に供給する。
送信コイル115は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRFコイルである。送信コイル115は、送信回路113からの出力に応じて、高周波磁場に相当するRF(Radio Frequency)パルスを発生する。送信コイル115は、例えば、全身用コイル(以下、WB(whole body)コイルと呼ぶ)である。WBコイルは、送受信コイルとして使用されてもよい。また、送信コイル115は、1つのコイルにより形成されるWBコイルであってもよい。
受信コイル117は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRFコイルである。受信コイル117は、高周波磁場によって被検体Pから放射されるMR信号を受信する。受信コイル117は、受信されたMR信号を受信回路119へ出力する。受信コイル117は、例えば、1以上、典型的には複数のコイルエレメントを有するコイルアレイである。なお、図1において送信コイル115と受信コイル117とは別個のRFコイルとして記載されているが、送信コイル115と受信コイル117とは、一体化された送受信コイルとして実施されてもよい。送受信コイルは、被検体Pの撮像部位に対応し、例えば、頭部コイルのような局所的な送受信RFコイルである。
受信回路119は、シーケンス制御回路121の制御により、受信コイル117から出力されたMR信号に基づいて、デジタルのMR信号(以下、MRデータと呼ぶ)を生成する。具体的には、受信回路119は、受信コイル117から出力されたMR信号に対して各種信号処理を施した後、各種信号処理が施されたデータに対してアナログ/デジタル(A/D(Analog to Digital))変換を実行する。受信回路119は、A/D変換されたデータを標本化(サンプリング)する。これにより、受信回路119は、MRデータを生成する。受信回路119は、生成されたMRデータを、シーケンス制御回路121に出力する。
シーケンス制御回路121は、処理回路131から出力された撮像プロトコルに従って、傾斜磁場電源105、送信回路113および受信回路119などを制御し、被検体Pに対する撮像を行う。撮像プロトコルは、検査に応じた各種パルスシーケンスを有する。撮像プロトコルには、傾斜磁場電源105により傾斜磁場コイル103に供給される電流の大きさ、傾斜磁場電源105により電流が傾斜磁場コイル103に供給されるタイミング、送信回路113により送信コイル115に供給される高周波パルスの大きさや時間幅、送信回路113により送信コイル115に高周波パルスが供給されるタイミング、受信コイル117によりMR信号が受信されるタイミングなどが設定されている。
インタフェース125は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける回路を有する。インタフェース125は、例えば、マウスなどのポインティングデバイス、あるいはキーボードなどの入力デバイスに関する回路を有する。なお、インタフェース125が有する回路は、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品に関する回路に限定されない。例えば、インタフェース125は、本MRI装置1とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、受け取った電気信号を種々の回路へ出力するような電気信号の処理回路を有していてもよい。インタフェース125には、心電計、脈波計、心音計、脈波計、呼吸センサに代表される図示していない生体信号計測器、不図示の外部記憶装置およびネットワークが接続されてもよい。例えば、インタフェース125は、被検体Pに装着されたECG電極から送出される心電波形のR波を処理回路131に出力する。
ディスプレイ127は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、または当技術分野で知られている他の任意のディスプレイ、モニタなどの表示デバイスである。
ディスプレイ127は、処理回路131におけるシステム制御機能1311による制御のもとで、画像生成機能1313により生成された各種MR画像、後述するT1シーケンス決定機能1315により選択されたT1シーケンス、T1マップ生成機能1317により生成されたT1マップ、撮像および画像処理に関する各種情報などを表示する。T1マップは、画素ごとに縦緩和時間の値(T1値)を配置させた画像である。
T1シーケンスは、心拍又は脈拍の同期下で縦磁化の緩和曲線に沿った複数のタイミングでMRデータを収集するパルスシーケンスであって、インバージョンパルス(以下、反転パルスと呼ぶ)からデータ収集までの反転時間(TI:Inversion Time)の値と収集パターンとにより構成される。T1シーケンスは、例えば、心臓などの周期的な動きを示す臓器を撮像対象として実行され、T1マップの生成に関するMR信号を収集するためのパルスシーケンスである。収集パターンとは、T1シーケンスにおいて縦磁化の極性を反転させる複数の反転パルスのうち初回の反転パルスの前の心拍または脈拍において実行される撮像(以下、反転前撮像と呼ぶ)と、初回の反転パルスの後の複数の心拍または脈拍のうち少なくとも1つの心拍または1つの脈拍においてMRデータを収集しない心拍または脈拍(以下、非読み出し期間と呼ぶ)と、縦磁化の緩和の回復を待たずに実行される複数の反転パルス(以下、未緩和IRパルスと呼ぶ)と、を模式的に示す収集規則に相当する。
記憶装置129は、画像生成機能1313を介してk空間に充填されたMRデータ、画像生成機能1313により生成された画像データ、T1マップ生成機能1317により生成されたT1マップなどを記憶する。また、記憶装置129は、心拍又は脈拍と、MR信号の収集タイミングと、反転パルスとの関係(以下、パルス関係と呼ぶ)に応じた複数の収集パターンを記憶する。記憶装置129は、各種撮像プロトコル、撮像プロトコルを規定する複数の撮像パラメータを含む撮像条件などを記憶する。パルス関係は、T1シーケンスにおける少なくとも一つの撮像パラメータに相当する。記憶装置129は、処理回路131で実行される各種機能に対応するプログラムを記憶する。
記憶装置129は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの半導体メモリ素子、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(Solid State Drive)、光ディスクなどである。また、記憶装置129は、CD-ROMドライブやDVDドライブ、フラッシュメモリなどの可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置などであってもよい。
処理回路131は、ハードウェア資源として、図示していないプロセッサ、ROM(Read-Only Memory)やRAMなどのメモリなどを有し、本MRI装置1を制御する。処理回路131は、システム制御機能1311、画像生成機能1313、T1シーケンス決定機能1315、T1マップ生成機能1317を有する。システム制御機能1311、画像生成機能1313、T1シーケンス決定機能1315、T1マップ生成機能1317にて行われる各種機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶装置129へ記憶されている。処理回路131は、これら各種機能に対応するプログラムを記憶装置129から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読みだした状態の処理回路131は、図1の処理回路131内に示された複数の機能等を有することになる。
なお、図1においては単一の処理回路131にてこれら各種機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路131を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。換言すると、上述のそれぞれの機能がプログラムとして構成され、1つの処理回路が各プログラムを実行する場合であってもよいし、特定の機能が専用の独立したプログラム実行回路に実装される場合であってもよい。
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))などの回路を意味する。
プロセッサは、記憶装置129に保存されたプログラムを読み出し実行することで各種機能を実現する。なお、記憶装置129にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、寝台制御回路109、送信回路113、受信回路119、シーケンス制御回路121なども同様に、上記プロセッサなどの電子回路により構成される。また、処理回路131が有するシステム制御機能1311、画像生成機能1313、T1シーケンス決定機能1315、T1マップ生成機能1317は、それぞれシステム制御部、画像生成部、T1シーケンス決定部、T1マップ生成部の一例である。
処理回路131は、システム制御機能1311により、MRI装置1における各種回路等を制御する。具体的には、処理回路131は、記憶装置129に記憶されているシステム制御プログラムを読み出してメモリ上に展開し、展開されたシステム制御プログラムに従って本MRI装置1の各回路を制御する。例えば、処理回路131は、システム制御機能1311により、インタフェース125を介して操作者から入力される撮像条件に基づいて、撮像プロトコルを記憶装置129から読み出す。なお、処理回路131は、撮像条件に基づいて、撮像プロトコルを生成してもよい。処理回路131は、撮像プロトコルをシーケンス制御回路121に送信し、被検体Pに対する各種撮像を制御する。
処理回路131は、画像生成機能1313により、MRデータをk空間に充填する。処理回路131は、k空間に充填されたMRデータに対して例えばフーリエ変換を行うことにより、MR画像を生成する。画像生成機能1313、T1シーケンス決定機能1315、T1マップ生成機能1317については、後程説明する。
以上が、本実施形態におけるMRI装置1の全体構成についての概略的な説明である。以下、本実施形態に関するT1マップの生成に関する撮像を含む処理(以下、T1マップ生成処理と呼ぶ)について説明する。T1マップ生成処理の実行に先立って、インタフェース125は、不図示の心電計から被検体Pの心拍を取得する。なお、インタフェース125は、不図示の脈波計から被検体Pの脈拍を取得してもよい。図2は、T1マップ生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
(T1マップ生成処理)
(ステップSa1)
インタフェース125は、T1シーケンスにおけるパルス関係の設定を、操作者から受け付ける。例えば、インタフェース125は、心拍数の範囲または脈拍数の範囲と、複数の反転時間と、反転パルスの回数(以下、インバージョン回数と呼ぶ)とのうち少なくとも一つを受け付ける。インタフェース125は、パルス関係の設定を、処理回路131へ出力する。
図3は、パルス関係の一例を反転時間とともに示す図である。図3に示すように、パルス関係は、第1反転パルスIR1の前の心拍において実行される反転前撮像と、第1反転パルスIR1の実行後においてMR信号の読み出しを実行しない(すなわちRFパルスを被検体Pに印加しない)複数の心拍にそれぞれ対応する複数の非読み出し期間と、複数の未緩和IRパルスと、を有する。図3において、複数の収集タイミングは、記号「*」で示されている。具体的には、図3に示す複数の収集タイミングは、反転前撮像を示す第1撮像I1と、反転時間TIが60ms+RR間隔に相当する第2撮像I2と、反転時間TIが60ms+2×RR間隔に相当する第3撮像I3と、反転時間TIが60ms+4×RR間隔に相当する第4撮像I4と、反転時間TIが97msに相当する第5撮像I5と、反転時間TIが97ms+RR間隔に相当する第6撮像I6と、反転時間TIが157msに相当する第7撮像I7と、反転時間TIが157ms+RR間隔に相当する第8撮像I8と、反転時間TIが253msに相当する第9撮像I9との9つである。
図3に示すように、複数の収集タイミングのうち初期の収集タイミングとして、被検体Pへの第1反転パルスIR1の印加の前に、反転前撮像を示す第1撮像I1においてMR信号を収集する。図3において、非読み出し期間は、記号「-」で示されている。図3に示す非読み出し期間は、第1反転パルスIR1の直後の第2心拍のNIと、第5心拍のNIとに設定されている。図3における複数の未緩和IRパルスは、第2反転パルスIR2と、第3反転パルスIR3と、第4反転パルスIR4とに相当する。図3に示すように、図3に示すパルス関係は、4つの異なる反転時間(TI=60ms、TI=97ms、TI=157ms、TI=253ms)と、2つの非読み出し期間と、3つの未緩和IRパルスとにより規定される。
(ステップSa2)
処理回路131は、T1シーケンス決定機能1315により、ステップSa1において受け付けた設定に基づいて、複数の収集パターンから一つの収集パターンを選択する。収集パターンを模式的に示す一例として、反転パルスを記号「/」で示し、収集タイミングを記号「*」で示し、非読み出し期間を記号「-」で示した場合、図3に対応する収集パターンは、「*/-**-*/**/**/*」となる。処理回路131は、選択された収集パターンを、撮像条件の設定画面としてディスプレイ127に表示させる。このとき、処理回路131は、選択された収集パターンとともに、インタフェース125を介して受け付けた設定を、ディスプレイ127に表示させてもよい。
図4は、複数の収集パターンにそれぞれ対応する複数のT1シーケンスの一例を示す図である。記憶装置129は、複数のパルス関係の設定に対する複数の収集パターンの対応表を記憶する。なお、記憶装置129に記憶される複数の収集パターンは、図4に示す収集パターンに限定されない。
例えば、処理回路131は、複数の反転時間として、TI=60ms、TI=97ms、TI=157ms、およびTI=253msが、インタフェース125を介して入力されると、図4に示す複数の収集パターンのうち、「*/-**-*/**/**/*」を示す収集パターンを選択する。また、パルス関係として、50乃至75bpm(beats per minite)に対応する心拍数の範囲または脈拍数の範囲と、3のインバージョン回数とが受け付けられた場合、処理回路131は、T1シーケンス決定機能1315により、複数の収集パターンのうち、「*-/*-*-*-/-*/*」を示す収集パターンを選択する。
図4に示す複数のT1シーケンスは、反転前撮像と、後述の3つの基準のうち少なくとも一つとを有する収集パターンと、複数の反転時間の組み合わせとを有する。以下、反転前撮像と、3つの基準とについて詳述する。
(1)反転前撮像
MOLLI法を用いて収集されたデータを用いたT1値の算出において、無限大の反転時間すなわち縦磁化の完全回復時におけるMR信号の信号値を示すパラメータA、および反転パルスの効率(以下、インバージョン効率と呼ぶ)に1を加えたパラメータB’は、間接的に計算される。パラメータAは、例えば、MOLLI法の実行前における熱平衡状態の縦磁化に対応するMR信号の信号値(以下、熱平衡信号値と呼ぶ)を基準とした相対信号値である。このため、T1値の計算過程において算出されるパラメータAとパラメータB’とにおける計算誤差が、T1値の誤差要因となる。例えば、T1値の計算過程において、MR信号の読み出し時におけるRFパルスの印加による信号値の変化(以下、読み出し変化と呼ぶ)、完全回復前に反転パルスを印加すること、インバージョン効率が1でないことなどの要因がパラメータAの値とパラメータB’の値とに影響を及ぼす。これにより、算出されたT1値に系統誤差が発生する。読み出し変化を正しく見積もるためには、RFパルスの送信強度の分布を示すB1マップにおける複数の画素各々の画素値に相当する実効のフリップ角が必要となる。実効のフリップ角を求めるためには、例えば、ダブルアングル(double angle)法などの追加撮像がMOLLI法に加えて必要となり、撮像時間が伸びる問題がある。
一方、本実施形態におけるT1シーケンスにおける反転前撮像によれば、縦磁化の完全回復時に近いMR信号の信号値を収集することができる。反転前撮像により収集された信号値は、熱平衡信号値に相当する。また、反転前撮像により収集された信号値は、次の反転パルスの直後において収集された信号値との関係、例えば比較に基づいて、インバージョン効率を決定するために用いられてもよい。これにより、熱平衡信号値を用いた後述のステップSa6の処理においてインバージョン効率の見積もりの精度が向上するため、おおよそのフリップ角であっても読み出し変化の見積もりの精度が向上する。これらのことから、後述のステップSa6の処理において決定されたT1値に対するフリップ角の影響を大幅に低減することができる。すなわち、反転前撮像により収集された信号値をT1値の算出に用いることにより、高い精度でT1値を算出することができる。
(2)第1の基準
収集タイミングとT1値の計算との関連性について説明する。縦磁化の緩和の物理的な過程において、MR信号の信号値(信号強度ともいう)は、反転パルスの印加後の負の値から連続的に正の値に、T1値に依存して熱平衡信号値に向かって回復する。このため、T1値の算出には、符号付の信号値が用いられる。信号値として、複数の反転時間にそれぞれ対応する複数のMR画像における同一位置の画素値が用いられる。MR画像における画素値は信号値の絶対値で表わされているため、T1値の算出の前段において、複数のMR画像における信号値に対して、負の符号を回復させる必要がある。
複数のMR画像に亘る同一位置における複数の画素にそれぞれ対応する複数の信号値(以下、絶対値と呼ぶ)F
Niから符号が逆転している信号値を選択し、選択された信号値の符号を逆転させることで、符号付の信号値(以下、符号付信号値と呼ぶ)F
iを生成する。ここで、添え字iは、T1シーケンスの実行によってMR画像が生成された順番を示す自然数(i=1,…,N)である。Nは、T1シーケンスの実行によって生成されたMR画像の総数である。単純な方法では、絶対値が反転時間の昇順に並んでいる場合、以下に示す場合分けのように、特定のiに相当するNpより前(i<Np)に生成されたMR画像における絶対値に-1をかけることにより、符号付信号値が生成される。
雑音の影響を除くと符号付信号値は反転時間に対して概ね昇順であるため、上記の方法により符号付信号値を生成することができる。しかしながら、T1シーケンスにおける反転パルスの間隔や反転時間によっては、例えば、図11に示すように、Np以降の絶対値は反転時間に対して昇順にならない場合もある。このような場合、誤って生成された符号付信号値を用いてT1値が計算されることとなり、計算されたT1値は、大きな計算誤差を有することとなる。
これらのことから、第1の基準として、T1シーケンスにおける複数の収集タイミングは、反転パルスの印加時点から複数の収集タイミング各々までの反転時間の昇順に沿ってMR信号の信号強度が単調増加となるように設定される。また、図4における収集パターンでの記号「-」に示すように、第1の基準に従って非読み出し期間を反転パルス「/」の後に任意に設定できるため、反転時間の昇順に沿って符号付信号値が単調増加となるように符号を回復させることができ、T1値の計算精度を向上させることができる。なお、非読み出し期間において、MR信号の収集時と同様に、傾斜磁場が印加されてもよい。このとき、受信コイルにおける傾斜磁場による渦の影響を撮像時と同様に保つことができるため、撮像時における発生音のパターンをT1シーケンスの実行期間に亘って均一にすることができる。これにより、T1シーケンスの実行期間において、被検体Pに対する心理的な負担を低減することができる。
以下、第1の基準に関する収集タイミングの決定手順の一例について説明する。収集タイミングは、処理回路131において決定されてもよいし、本MRI装置1とは異なる装置、例えばワークステーションなどにより予め決定されてもよい。
ある収集パターンにおいて収集される符号を伴った複数の信号強度が、複数の反転時間各々においてシミュレーション等を用いて予測される。次いで、複数の反転時間のうちある反転時間における予測値からこの反転時間より長い反転時間に対応する信号強度を差分することにより、信号強度の降下幅が計算される。計算された降下幅のうち最大値(以下、最大降下幅と呼ぶ)が、複数の反転時間各々に対して特定される。信号強度の予測に関する収集パターンでの非読み出し期間において、仮に信号を収集した場合に予測される信号強度(以下、仮予測値と呼ぶ)が、上述の手順と同様にして計算される。計算された仮予測値を用いて、上述の手順と同様にして最大値(以下、仮最大降下幅と呼ぶ)が特定される。全ての仮最大降下幅より最大降下幅が小さいか、最大降下幅が0以下となるように、複数の収集タイミングが決定される。
図4に示すT1シーケンスMI1が低心拍数の被検体Pに対して実行された場合、符号付信号値はほとんどの場合で昇順になる。図5は、信号値の符号の回復の一例を示す図である。図5におけるグラフの横軸は、反転時間(TI)を示している。また、図5におけるグラフの縦軸は、MR画像における画素の信号値(画素値)を示している。図5における上段のグラフ5UGは、複数の反転時間に対する、複数の反転時間各々において収集されたMR信号に基づいて生成された複数のMR画像における同一の画素の信号値の分布を示している。MR画像における画素値は信号値の絶対値で表わされているため、図5における上段のグラフ5UGに示すように、全ての信号値は、正となる。
図5における下段のグラフ5DGは、グラフ5UGにおける最小の信号値の反転時間より小さい反転時間における2つの信号値を横軸に対して対称的に反転させた一例を示す図である。図5における下段のグラフ5DGに示すように、複数の符号付信号値は、反転時間の増加に合わせて単調増加、すなわち反転時間の昇順に合わせて昇順となり、高い精度でT1値を算出ことができる。換言すれば、第1の基準に基づいたT1シーケンスの実行により、T1値における計算誤差を低減させることができる。
(3)第2の基準
図4において、心拍数範囲が広範囲であって、インバージョン回数が4であるT1シーケンスMI2は、第1反転パルスの印加後の4心拍目において、非読み出し期間を有する。T1シーケンスMI2の収集パターンは、図3に示すような「*/-**-*/**/**/*」である。また、T1シーケンスMI2における反転時間は、小さい順に60、97、157、253である。第1反転パルスIR1の印加後の4心拍目NIにおいて読み出しすなわちMR信号の収集を行った場合、高い心拍数における読み出しの間隔が短くなるため、長いT1値に関する計算誤差が大きくなる。このため、連続した心拍で撮像を行う場合、撮像を休止する心拍すなわち非読み出し期間をパルスシーケンスに組み込むことが、長いT1値を精度良く算出するために必要である。
図6は、10°または13°のフリップ角を用いたT1シーケンスMI2を異なる心拍数に対して実行した場合のT1値の相対誤差の一例を示す図である。図6に示すように、収集パターンが「*/-**-*/**/**/*」である場合、算出されたT1値の相対誤差は、心拍数およびフリップ角によらず、2%以下の小さい値となる。
図7は、T1シーケンスMI2における反転時間と同様な反転時間と、10°または13°のフリップ角と、「*/-****/**/**/*」である収集パターンとを有するパルスシーケンスを異なる心拍数に対して実行した場合のT1値の相対誤差の一例を、比較例として示す図である。図7に示すように、収集パターンが「*/-****/**/**/*」である場合、算出されたT1値の相対誤差は、図6に示すT1値の相対誤差に比べて、心拍数およびフリップ角が大きくなるに従って、大きくなる。
これらのことから、1回の反転パルスの後に4心拍以上に亘って撮像を実行する場合は、2心拍目あるいは3心拍目に読み出しを行わないことすなわち非読み出し期間を設けることの方が、T1値の算出精度が高くなる傾向になる。このような非読み出し期間が収集パターンが組み込まれていれば、他の反転パルスの後において2心拍目あるいは3心拍目に撮像を行ってもよい。
以上のことから、第2の基準として、反転パルスの印加後に続く3心拍以上または3脈拍以上に亘って撮像が実行される場合、T1シーケンスは、反転パルスの印加時点と反転パルスの印加後に実行される次の反転パルスの印加時点との間に含まれる複数の心拍または脈拍のうち、少なくとも1つの心拍又は脈拍においてMRデータを収集しない非読み出し期間を有する。換言すれば、第2の基準に関するT1シーケンスは、ある反転パルスの後に3心拍以上に亘る複数の収集に関する反転パルス(以下、撮像関連反転パルスと呼ぶ)が含まれる収集パターンにおいて、撮像関連反転パルスによる複数の収集にそれぞれ対応する複数の心拍の間に1つ以上の非読み出し期間を有する。すなわち、第2の基準は、撮像関連反転パルスに関する複数の収集に関する複数の心拍において、どこかひとつの心拍で、読み出しを行わないことにある。
(4)第3の基準
図4におけるT1シーケンスMI2は、図3に示すように第1の反転パルスIR1の直後に非読み出し期間を有する。図8は、T1シーケンスMI2における反転時間と同様な反転時間と、10°または13°のフリップ角と、「*/***-*/**/**/*」である収集パターンとを有するパルスシーケンスを異なる心拍数に対して実行した場合のT1値の相対誤差の一例を、比較例として示す図である。図8に示すように、収集パターンが「*/*****/**/**/*」である場合、算出されたT1値の相対誤差は、図6に示すT1値の相対誤差に比べて、フリップ角が大きくなるかつ心拍数が低くなるに従って、大きくなる。すなわち、図8に示すように、心拍数が低いときの長いT1値の算出精度は、図6の算出精度に比べて低下している。このような算出精度の低下は、反転時間が短いときに生じやすい傾向がある。この現象は、反転時間が短い時点に関する撮像は、反転パルスの直後にMR信号の収集を行わないこと、または反転パルスの直前にMR信号の収集を行わないことで回避できる。
MR信号の読み出しすなわちMR信号の収集による信号値の低下の直後に反転パルスを行って再び短い反転時間で撮像を行うと、MR信号の収集間隔は短くなる。このため、長いT1値の場合は、反転パルスの後に収集される信号値は小さくなる。従って、このような撮像では、長いT1値の場合に、2回目の撮像ではT1値の算出に用いられる新たな情報(信号値)が得られないことになる。これらのことから、長いT1値を精度よく計測するためには反転パルスをまたいで連続して非読み出し期間を含む収集パターンが好適である。
以上のことから、第3の基準として、反転パルスの直前の心拍または脈拍において、または反転パルスの直後の心拍または脈拍において、T1シーケンスは、MRデータを収集しない非読み出し期間を有する。なお、第3の基準として、上記内容に加えて、T1シーケンスは、短い間隔、例えば5心拍以下または5脈拍以下の間隔で、反転パルスを被検体Pに印加してもよい。
第3の基準により、縦磁化が完全に回復する前に反転パルスが印加されるような、短い反転時間を有する収集パターンを設定することができる。縦磁化が完全に回復する前における反転パルスの実行により、この反転パルスの前後におけるMR信号の2収集の間の時間間隔に相当する反転時間でMR信号を収集を行ったときと同様な情報(信号値)を得ることができる。縦磁化の回復を待ってからMR信号の収集を行うMOLLI法などの通常の収集法では、長いT1値を精度良く算出するためには、長い反転時間でのMR信号の収集が必要である。一方、本実施形態における収集パターンのように、縦磁化が完全に回復する前に反転パルスを印加する場合、実施の収集に関する反転時間が短くても、長いT1値を精度良く算出することができる。
(ステップSa3)
インタフェース125を介してパルス関係の設定の変更指示が入力されると、処理回路131は、T1シーケンス決定機能1315により、ステップSa1の処理およびステップSa2の処理を繰り返す(ステップSa3のYes)。インタフェース125を介してパルス関係の設定の決定指示が入力されると、処理回路131は、選択された収集パターンと受け付けた設定とを用いて、T1シーケンスを決定する。なお、処理回路131は、被検体の心拍数、造影剤使用の有無、心拍変動の頻度などを含む撮像条件に基づいて、自動的にT1シーケンスを決定してもよい。
例えば、ステップSa1で受け付けた設定として、TI=60ms、TI=170ms、およびTI=482msがインタフェース125を介して入力され、「*-/*-*-*-/-*/*」を示す収集パターンが選択された場合、処理回路131は、決定指示の入力により、以下に示すようなT1シーケンスを決定する。
収集パターン:*-/*-*-*-/-*/*
反転時間TIの値
・第1反転パルス前の第1撮像におけるTI:482ms(TI=∞に相当)
・第1反転パルス後の第2撮像におけるTI:482ms
・第2撮像後の第3撮像におけるTI:(482+2×RR間隔)ms
・第3撮像後の第4撮像におけるTI:(482+4×RR間隔)ms
・第2反転パルス後の第5撮像におけるTI:(170+RR間隔)ms
・第3反転パルス後の第6撮像におけるTI:60ms
処理回路131は、決定されたT1シーケンスを、シーケンス制御回路121に出力する。MR信号の読み出し前に横磁化を消去するスポイラーパルス(spoiler pulse)を有するFFE(Fast Field Echo)シーケンス、すなわちスポイルドグラジエントエコー(spoiled gradient echo)法が、T1シーケンスにおける撮像法として用いられる。スポイラーパルスとして、グラジエントスポイラーまたはRFスポイラーが用いられる。以下、「*-/*-*-*-/-*/*」を示す収集パターンを有するT1シーケンスが、シーケンス制御回路121により実行されるものとして説明する。
(ステップSa4)
シーケンス制御回路121は、選択された収集パターンと受け付けた設定とを用いたT1シーケンスに従って、心拍の同期(心電同期)または脈拍の同期のもとで、被検体Pに対して撮像を実行する。処理回路131は、決定されたT1シーケンスに従って、複数の反転時間各々に対応するMR信号を収集する。
(ステップSa5)
処理回路131は、画像生成機能1313により、収集されたMR信号を用いて複数の反転時間各々に対応するMR画像を生成する。生成されたMR画像は、反転時間と対応付けられて、記憶装置129に記憶される。MR画像における複数の画素各々の画素値は、画素に対応する位置における縦磁化の大きさを反映した信号強度に対応する。
(ステップSa6)
処理回路131は、T1マップ生成機能1317により、T1シーケンスにおける撮像条件と、T1値をパラメータとして用いて縦磁化の変化をシミュレートするモデルとを用いて、複数の反転時間各々に対応する信号値と複数のMR画像各々における画素値との差が最小となるように、T1値を決定する。これにより、処理回路131は、MR画像におけるT1値の決定を画素ごとに実行する。
具体的には、処理回路131は、T1マップ生成機能1317により、黄金分割法などの各種最適化手法を用いて、T1値を最適化における変数(未知数)とした目的関数の値を最小にするようなT1値を、画素ごとに決定する。目的関数におけるパラメータは、素朴には、熱平衡信号値A、インバージョン効率B、およびT1値の3つである。後程説明するように、熱平衡信号値Aおよびインバージョン効率Bは算出されたT1値から算出可能であるため、目的関数におけるパラメータは、実質的には、T1値の1変数となる。以下、目的関数について説明し、次いでモデルについて説明する。
MR信号の信号値f
iは、モデルを用いた簡易的なシミュレーションにより計算された画素ごとの相対信号値g
iを用いて、以下の式(1)で表される。
ここで、g
iはi番目のMR画像の収集の時点において、モデルを用いた簡易的なシミュレーションにより計算された画素ごとの相対信号値(縦磁化が完全に緩和した状態で撮像したときの信号値を1に正規化したときの信号値)、t
iはi番目のMR画像の収集時点における反転時間、T
IRiはi番目のMR画像の収集前に反転パルスを印加するとき、この反転パルスと次の反転パルスとの間の時間間隔である。なお、反転パルスを伴わない場合のMR画像の収集時は、T
IRi=0とする。
式(1)を(i=1,…,N)に対して列ベクトルとしてまとめると、以下の式(2)のように表わされる。
インバージョン効率Bが1.0と0.9との間で線形に変化すると仮定すると、式(1)は、変数cとdとを用いて以下のように表される。
ここで、c=Ab、d=A(1-b)=A-Ab=A-cである。変数bとインバージョン効率Bとは、b=0のときB=1.0、b=1のときB=0.9の線形関係にあるため、B=1.0-0.1bと表される。また、d=A-c=c/b-cであるため、b=c/(c+d)となる。このため、A=c+d、B=1.0-0.1c/(c+d)である。また、cおよびdは、c=10A-10AB、d=A-c=-9A+10ABと表わせる。ここで、
とおき、p
iおよびq
iを(i=1,…,N)に亘って列ベクトルとしてまとめると、式(2)は以下の式(3)で表される。
式(4)の両辺にインバージョン効率の代表値B
fixを用いた
を加えて変形すると
式(5)における行列Hは、T1シーケンスの実行により生成されたMR画像の画素値をF
iとすると、F
iを縦に並べた列ベクトル(以下、実測ベクトルと呼ぶ)
を用いて、以下のように表わせる。
線形最適化の公式により、式(5)の方程式におけるパラメータ
の推定値は、以下の式(6)で表される。
ここで、λ
B
2は、正則化パラメータである。式(6)で得られるパラメータν
1(T
1)およびν
2(T
2)は、以下の式(7)を最小化することにより得られる。
式(7)における次元を信号値の2乗とするために、式(7)の両辺にA
2
を乗じると、以下の式が得られる。
式(8)における右辺はT1値のみの関数となっている。このため、処理回路131は、T1マップ生成機能1317により、式(8)の右辺を最小にするT1値を計算することで、T1の推定値
を算出することができる。T1値の推定値が得られたとき、処理回路131は、T1マップ生成機能1317により、熱平衡信号値Aおよびインバージョン効率Bの推定値
を、
の計算により求めることができる。モデルを用いた簡易的なシミュレーションの結果である相対信号値g
iを式(3)に適用した結果の信号値
は、
と表される。実測ベクトルとシミュレーション結果の信号値との差分
と、パラメータBに対するペナルティ項とを用いて、目的関数s’は、以下の式(9)で定義される。
処理回路131は、T1マップ生成機能1317により、式(9)を用いてT1値の計算を実行する。式(9)において、ペナルティ項における正則化パラメータλBの値は、例えば0.05、インバージョン効率の代表値Bfixの値は、例えば0.93である。正則化パラメータλBの値として1などの大きな値を用いると、パラメータBはほぼBfixの値に固定され、処理回路131は、2変数(熱平衡信号値AおよびT1値)での推定を行うことができる。このとき、T1値の計算において、Bfixの値の使用による系統誤差が増加するが、雑音に対する安定性は向上する。なお、熱平衡信号値Aは反転前撮像により収集されたMR信号の信号値により概ね決定されるため、式(9)に示すように、目的関数s’における完全に自由なパラメータはT1値のみとなる。
以下、相対信号値giの算出に用いるモデルによる簡易的なシミュレーションについて説明する。T1シーケンスにおける撮像として定常状態歳差運動(Steady-State Free Precession:SSFP)を用いる場合には、1画素または1ボクセルに含まれるスピンの挙動が複雑になる。このため、どのような信号値が計測されるかを正確に求めるためには複雑な計算が必要となる。しかしながら、T1シーケンスとしてスポイルドグラジエントエコー法を用いる場合、RFパルスの印加に続くMR信号の読み出しの後、次のRFパルスの印加の前に横磁化を消すスポイラーパルスが印加されるため、横磁化は0となる。このため、処理回路131は、T1マップ生成機能1317において、比較的単純な計算で、反転時間ごとのMR信号の信号値を計算することができる。T1シーケンスの実行期間に亘るMR信号の信号値の計算において、以下に示す複数のパラメータが必要である。
・T1シーケンス(収集パターンと収集タイミング(複数の反転パルス各々に関する撮像時の反転時間の値))
・複数の反転パルスにおいて隣接する反転パルスの時間間隔
・心拍のトリガの間隔
T1シーケンスの実行時においては心電波形におけるR波をトリガとして用いる。通常R波の間隔は一定ではないがR波のリズムが一定であると仮定すると、処理回路131は、T1マップ生成機能1317により、被検体Pの心拍数からトリガの間隔を決定することができる。
・エコー時間(TE:echo time)
・繰り返し時間(TR:repetition time)
・フリップ角(FA:flip angle)
・位相エンコードのステップ(phase encoding step)数
・インバージョン効率B
・T1値(撮像対象のパラメータであって、シミュレーション時の初期値)
本シミュレーションにおいて、図3、図4に示すように、収集タイミング同士の間隔、非読み出し期間同士の間隔、および収集タイミングと非読み出し期間との間隔は、トリガの間隔に等しいものとする。
本シミュレーションにおける撮像シーケンスとして、スポイラーパルスを伴うFFE(スポイルドグラジエントエコー)を、一例として想定する。ここで、スポイラーパルスの印加後において、横磁化は完全に消失していると仮定する。加えて、T1シーケンスにおける一連の撮像において、MR信号の読み出しに関するシーケンスは、同じものを用いるものと仮定する。MR信号の読み出しに関するシーケンスは、例えば、k空間におけるMRデータの配置に関するスキャンシーケンスであって、例えば、セントリックオーダー(centric order)法である。k空間の中心がMR画像のコントラストに最も寄与するため、セントリックオーダー法により得られたMR画像の画素値を式(9)の目的関数に用いることで、インバージョン効率Bの推定精度が向上する。なお、MR信号の読み出しに関するシーケンスは、セントリックオーダー法に限定されず、例えば、シーケンシャルオーダー法、ラジアルスキャンなどの他のスキャンシーケンスを用いてもよい。上記仮定により、T1シーケンスの実行により得られたMR画像の画素値は、縦磁化に比例する。以下、定常状態(無限遠時刻)でのMR信号の信号値すなわち熱平衡信号値を1として、信号値の大きさを相対的なもの(相対信号値)として表わすこととする。以下、本シミュレーションにおける信号値の各種変化(以下、信号変化と呼ぶ)のモデルについて説明する。
(1)T1値に依存する縦磁化の減衰
ある時刻における信号値がs(0)であるとき、ある時刻から時間tだけ経過後の信号値s(t)は、以下の式により表される。
(2)安定化パルスによる信号減衰
安定化パルスとは、撮像時における最初のRFパルスの印加直前であってMR信号の安定化のために、撮像ごとに被検体Pに印加される複数のRFパルスである。すなわち、安定化パルスは、T1シーケンスにおける複数の収集各々におけるRFパルスの印加前に、被検体Pに印加される。1つの撮像において用いられる安定化パルスの印加回数Ndは、T1シーケンスにおける複数の収集に亘って一定であるものとする。なお、MR信号の収集時点において、安定化パルスを実行しない場合、本項目による信号減衰の見積もりは不要となる。
上述のように、処理回路131は、T1マップ生成機能1317により、本シミュレーションにおいて無限遠時刻での信号値を1として計算を実行する。処理回路131によるシミュレーションの結果を目的関数の式(9)に適用する場合、無限遠時刻においてMR信号を仮に行った場合に測定される信号値を1に規格化した方が、実測値との整合性の観点等から都合がよい。このため、処理回路131は、無限遠時刻での熱平衡信号値である1と無限遠時刻において仮に測定した場合の信号値との比(1/S
Nd)をMR信号の収集各々においてシミュレーションにより計算された信号値(以下、シミュレーション計算値と呼ぶ)に乗ずる。シミュレーション計算値と上記比との乗算値s”は、シミュレーション計算値S
cと上記比とを用いて、S”=S
c/S
Ndと表せる。安定化パルスの印加前の信号値をs
jとすると、フリップ角αによる縦磁化の減衰により信号値は、s
j×cos(α)となる。その後、繰り返し時間T
Rの経過後、再び安定化パルスが印加される。一方、繰り返し時間T
Rの間の信号変化は、
である。このため、安定化パルスの印加直後から繰り返し時間T
Rまでの信号変化は、
と表される。式(12)に示す信号変化は、1つの撮像において安定化パルスの印加回数N
dに亘って繰り返される。このため、無限遠時刻において仮に測定した場合、s
j=s
0=1として式(12)をN
d回に亘って繰り返して計算することで、N
d回に亘る安定化パルスの印加後の信号値S
Ndが得られる。なお、N
d回に亘る安定化パルスの印加後の信号値は、安定化パルスの印加回数、繰り返し時間、およびフリップ角に応じて処理回路131により計算されてもよいし、安定化パルスの印加回数、繰り返し時間、およびフリップ角に応じた対応表の形式で記憶装置129に記憶されていてもよい。
(3)反転パルスによる信号変化
反転パルスにより、縦磁化は、インバージョン効率Bを用いて-B倍される。
(4)MR信号の読み出しによる信号変化
RFパルスの印加を伴うMR信号の読み出し期間における信号変化は、安定化パルスの印加期間における信号変化を示す式(12)と同じである。このため、式(12)においてj=0の時のs
0をMR信号の読み出し前の信号値とすると、位相エンコードのステップ数が60である場合、読み出し直後すなわち1つの撮像終了後における信号値は、s
60となる。このとき、式(12)は信号値をs
jに関する漸化式となっているため、s
60を算出するためには、60回に亘って式(12)を再帰的に計算する必要がある。処理回路131における計算の高速化のために、例えば、以下に示す近似式f(x)を用いて、s
60を算出してもよい。
式(13)におけるf(x)は、読み出し前の信号値s
0をf(0)、フリップ角をαとしたとき、時間xの後の信号値である。なお、式(13)は、安定化パルスによる信号減衰の算出に用いられてもよい。また、T1シーケンスにおける撮像としてSSFPを用いる場合には、上記モデルをSSFPにおける縦磁化の変化に合わせて変更することで、相対信号値g
iが算出される。
本ステップSa6の処理をまとめると、処理回路131は、T1マップ生成機能1317により、縦磁化の緩和過程における縦磁化の変化と、反転パルスによる縦磁化の変化と、MR信号の収集に用いられるRFパルスによる縦磁化の変化と、RFパルスの印加直前であってMR信号の安定化のために被検体に印加される安定化パルスによる縦磁化の変化とを算出するモデルに基づいて、複数の収集タイミングにおけるMR信号の信号値を計算する。次いで、処理回路131は、複数の収集タイミングで収集されたMR信号に基づいて生成された複数のMR画像における画素値に、計算された信号値を整合させるようにT1値を算出する。具体的には、処理回路131は、式(10)、式(13)、反転パルスによる信号変化を区分的に用いて、T1シーケンスの実行による信号値を、画素ごとに算出する。
より詳細には、処理回路131は、T1マップ生成機能1317により、T1シーケンスの実行に関する撮像パラメータおよびT1シーケンスにおける収集パターンに基づいて、T1シーケンスの実行期間における信号変化の過程を、(1)T1値に依存する縦磁化の減衰、(2)安定化パルスによる信号減衰、(3)反転パルスによる信号変化、および(4)MR信号の読み出しによる信号変化に従って時間的に区分する。次いで、処理回路131は、区分された範囲各々において、式(10)、式(13)等を用いて、縦磁化の変化を計算する。これにより、処理回路131は、T1シーケンスの実行期間に亘って時間的に変化する信号値を算出する。次いで、処理回路131は、複数の反転時間各々において、対応する画素値(あるいは符号付信号値、あるいは符号付信号値を熱平衡信号値で正規化した値)と算出された信号値とを比較することにより、両者が整合するT1値を決定する。すなわち、処理回路131は、目的関数s’の値(以下、関数値と呼ぶ)が最小となるように、T1値を決定する。
図9は、収集パターンが「*-/*-*-*-/-*/*」である場合のT1シーケンスに関して、ある画素における相対信号値の計算結果の一例を示す図である。図9に示すように、第1反転パルスIR1の2心拍前に実行される第1撮像I1すなわち反転前撮像の反転時間は、事実上無限大に相当する。第1撮像I1により生成された第1MR画像の画素値は、式(9)の目的関数s’の右辺におけるベクトルFの成分F1に相当する。また、図9に示す第1反転パルスIR1の後の第2撮像I2の反転時間は、482msである。第2撮像I2により生成された第2MR画像の画素値は、式(9)におけるベクトルFの成分F2に相当する。第2撮像I2の後の第3撮像I3の反転時間は、(482+2×RR間隔)msである。第3撮像I3により生成された第3MR画像の画素値は、式(9)におけるベクトルFの成分F3に相当する。第3撮像I3の後の第4撮像I4の反転時間は、(482+4×RR間隔)msである。第4撮像I4により生成された第4MR画像の画素値は、式(9)におけるベクトルFの成分F4に相当する。第2反転パルスIR2の後の第5撮像I5の反転時間は、(170+RR間隔)msである。第5撮像I5により生成された第5MR画像の画素値は、式(9)におけるベクトルFの成分F5に相当する。第3反転パルスIR3の後の第6撮像I6の反転時間は、60msである。第6撮像I6により生成された第6MR画像の画素値は、式(9)におけるベクトルFの成分F6に相当する。
k空間の中心行すなわちky=0におけるMR信号がMR画像におけるコントラストの中心に最も寄与する。このため、目的関数の計算に用いられるgiとして、例えば、複数の収集各々においてk空間の中心行すなわちky=0におけるMR信号の収集時点(以下、中心収集時点と呼ぶ)の相対信号値が用いられる。例えば、図9に示す第1乃至第6撮像に用いられるスキャンシーケンスとしてセントリックオーダー法が用いられる場合、目的関数の計算に用いられるg1乃至g6として、例えば、図9に示すように、撮像の開始時点での相対信号値が用いられる。なお、複数のgiは、中心収集時点の相対信号値に限定されず、複数の収集各々における撮像時間において任意の時点の相対信号値がgiとして用いられてもよい。F1乃至F6および図9に示すg1乃至g6は、目的関数の値である関数値を計算するために用いられる。処理回路131は、関数値が最小となるように、すなわち目的関数の値が最小となるように、T1値を決定する。T1値の決定は、画素ごとに実行される。
(ステップSa7)
処理回路131は、T1マップ生成機能1317により、画素ごとに決定されたT1値を用いて、T1マップを生成する。処理回路131は、生成されたT1マップを、ディスプレイ127に表示する。ステップSa5およびステップSa6の処理をまとめると、処理回路131は、複数の収集タイミングで収集されたMR信号を用いて、T1値の分布を表すT1マップを生成し、生成されたT1マップをディスプレイ127に表示する。
以上に述べた構成によれば、以下に示す効果を得ることができる。
本実施形態におけるMRI装置1によれば、心拍又は脈拍の同期下で縦磁化の緩和曲線に沿った複数の収集タイミングでMR信号を収集するパルスシーケンスを実行し、複数の収集タイミングで収集されたMR信号を用いて、T1値の分布を表すT1マップを生成し、当該パルスシーケンスにおいて、縦磁化の極性を反転させる反転パルスの印加後に続く複数の心拍又は脈拍のうち、少なくとも1つの心拍又は脈拍において磁気共鳴信号を収集しないことを実行することができる。すなわち、本MRI装置1によれば、縦磁化の極性を反転させる第1反転パルスの印加後に印加される第2反転パルスと第1反転パルスとの間に含まれる複数の心拍または複数の脈拍のうち、少なくとも一つの心拍または少なくとも一つの脈拍において磁気共鳴信号を収集せず、磁気共鳴信号が収集されない心拍の次の心拍または磁気共鳴信号が収集されない脈拍の次の脈拍において磁気共鳴信号を収集することができる。
また、本MRI装置1によれば、パルスシーケンスに関して、心拍又は脈拍と、収集タイミングと、第1反転パルスと、第2反転パルスとの関係に関する設定を、操作者から受け付けることができる。本MRI装置1によれば、シーケンス制御部(シーケンス制御回路)により実行されたパルスシーケンスにおける、心拍又は脈拍と、収集タイミングと、第1反転パルスと、第2反転パルスとの関係に応じて、T1マップにおける各画素のT1値を算出することができる。本MRI装置1によれば、第2反転パルスは、第1反転パルスの印加後において、縦磁化が完全に回復する前に第2反転パルスを印加することができる。本MRI装置1によれば、パルスシーケンスにおいて、複数の収集タイミングのうち初期の収集タイミングとして、第1反転パルスの印加の前にMR信号を収集することができる。
また、本MRI装置1によれば、パルスシーケンスにおける複数の収集タイミングを、第1反転パルスの印加時点から複数の収集タイミング各々までの反転時間の昇順に沿って、符号が付与されたMR信号の信号値が単調増加となるように設定することができる。本MRI装置1によれば、パルスシーケンスの実行において、第1反転パルスの印加後に続く3心拍または3脈拍以上に亘って撮像が実行される場合、第1反転パルスの印加時点と第2反転パルスの印加時点との間に含まれる複数の心拍または複数の脈拍のうち、少なくとも1つの心拍又は少なくとも1つの脈拍においてMR信号を収集しないことができる。本MRI装置1によれば、パルスシーケンスの実行において、第1反転パルスの直前の心拍または脈拍において、または第1反転パルスの直後の心拍または脈拍において、MR信号を収集しないことができる。本MRI装置1によれば、パルスシーケンスの実行において、5心拍以下または5脈拍以下の間隔で、第1反転パルスを印加することができる。
また、本MRI装置1によれば、縦磁化の緩和過程における縦磁化の変化と、第1反転パルスおよび第2反転パルスによる縦磁化の変化と、MR信号の収集に用いられるRFパルスによる縦磁化の変化と、RFパルスの印加直前であってMR信号の安定化のために被検体に印加されるパルスによる縦磁化の変化とを算出するモデルに基づいて、複数の収集タイミングにおけるMR信号の信号値を計算し、収集されたMR信号に基づいて生成された複数のMR画像における画素値に、計算された信号値を整合させるようにT1値を算出することができる。
以上のことから、本実施形態におけるMRI装置1によれば、画像の読み出し(MR信号の収集)による信号値の時間変化、および縦磁化の完全回復前に反転パルスの印加を行う効果などを上記シミュレーションに取り入れて計算が実行されるため、図4に示すようなT1シーケンスの実行により収集されたMR信号に基づく複数のMR画像を用いて、T1値を算出することができる。これにより、本MRI装置1によれば、息止め時間を延長することなく短い息止め時間すなわち短時間で、高精度にT1値を決定することができる。加えて、本MRI装置1によれば、例えば図4に示すように、広い範囲の心拍数に対してT1値を決定することができる。また、本MRI装置1によれば、反転前撮像によりT1値の計算に用いられる信号値の数を増やすことができ、高精度にT1値を決定することができる。
本実施形態の適用例として、本MRI装置1の技術的思想をクラウド等で実現する場合には、インタネット上のサーバーは、例えば図1の構成図における記憶装置129および処理回路131を有するものとなる。このとき、T1マップ生成機能1317等は、当該機能を実行するプログラム(医用処理プログラム)をサーバーの処理回路131にインストールし、これらをメモリ上で展開することによって実現される。また、本実施形態に記載のT1マップ生成処理は、磁気共鳴イメージング方法として実現することもできる。
(応用例)
応用例と実施形態との主な相違は、T1マップ生成処理の手順におけるステップSa1乃至ステップSa3で実行される処理にある。以下、ステップSa1乃至ステップSa3における処理内容とそれぞれ相違する処理(ステップSb1乃至ステップSb3)について説明する。図12は、本実施形態の応用例におけるT1マップ生成処理の一例を示す図である。
(ステップSb1)
処理回路131は、T1シーケンス決定機能1315により、記憶装置129に記憶された複数の収集パターンのうち操作者に推奨される収集パターン(以下、推奨パターンと呼ぶ)を特定するために用いられる情報(以下、設定情報と呼ぶ)を入力するための入力画面を、例えばグラフィカルユーザインタフェース(GUI)としてディスプレイ127に表示させる。設定情報は、パルスシーケンス(T1シーケンス)の設定に関する少なくとも一つの設定パラメータを有する。設定パラメータは、例えば、パルスシーケンスにおけるRFパルスのフリップ角、撮像対象に関するT1値(以下、対象T1値と呼ぶ)などである。GUIには、設定パラメータの入力項目が設けられる。なお、入力画面には、反転パルス、収集タイミング、非読み出し期間などを任意に調整可能なGUIを有していてもよい。この場合、収集パターンは、操作者の所望に応じて、任意に調整可能となる。
なお、設定情報は、心拍数または脈拍数を入力項目としてさらに有していてもよい。入力項目としての心拍数または脈拍数は、単一の値に限定されず、上限値と下限値とで規定される心拍数範囲または脈拍数範囲であってもよい。以下、説明を具体的にするために、設定情報は、心拍数(bpm)、対象T1値(ms)、フリップ角(度)を、複数の入力項目として有するものとする。
インタフェース125は、心電計から被検体Pの心拍数を取得する。なお、インタフェース125は、脈波計から被検体Pの脈拍数を取得してもよい。
ディスプレイ127は、入力画面を表示する。具体的には、ディスプレイ127は、入力画面における複数の入力項目各々において操作者により各種数値が入力可能な状態で、入力画面を表示する。なお、ディスプレイ127は、カーソルが位置する入力項目に応じて、当該入力項目に関する複数の入力候補を、例えばプルダウン形式で表示してもよい。
また、ディスプレイ127は、入力画面における心拍数の入力項目において、取得された心拍数の平均値を表示してもよい。なお、ディスプレイ127は、入力画面における心拍数の入力項目において、取得された心拍数に基づく心拍数範囲を表示してもよい。このとき、心拍数範囲は、例えば、所定の期間に亘って取得された複数の心拍数に基づく95%信頼区間に相当する。また、ディスプレイ127は、入力画面における脈拍数の入力項目において、取得された脈拍数の平均値を表示してもよい。なお、ディスプレイ127は、入力画面における脈拍数の入力項目において、取得された脈拍数に基づく脈拍数範囲を表示してもよい。このとき、脈拍数範囲は、例えば、所定の期間に亘って取得された複数の脈拍数に基づく95%信頼区間に相当する。なお、心拍数範囲および脈拍数範囲は、95%信頼区間に限定されず、任意に設定可能である。撮像条件としてフリップ角が入力されていた場合、ディスプレイ127は、入力画面におけるフリップ角の入力項目において、撮像条件におけるフリップ角を表示してもよい。
撮像条件として撮像対象(例えば臓器など)が入力されていた場合、処理回路131は、T1シーケンス決定機能1315により、撮像対象に対するT1値の対応表(以下、対象T1値対応表と呼ぶ)と入力された撮像対象とに基づいて、T1値を決定してもよい。このとき、処理回路131は、入力画面における対象T1値の入力項目において、決定されたT1値を、ディスプレイ127に表示してもよい。対象T1値対応表は、予め記憶装置129に記憶される。
インタフェース125は、操作者の指示により、入力画面における複数の入力項目各々に対して数値を入力する。インタフェース125は、複数の入力項目における複数の数値を処理回路131に出力する。
(ステップSb2)
処理回路131は、T1シーケンス決定機能1315により、パルスシーケンスの設定に関する少なくとも一つの設定パラメータを有する設定情報に基づいて、パルスシーケンス(T1シーケンス)として推奨される少なくとも一つの推奨シーケンスを決定する。具体的には、処理回路131は、複数の入力項目にそれぞれ対応する複数の数値に基づいて、複数の推奨シーケンスにそれぞれ対応する複数の推奨パターンを決定する。例えば、心拍数の入力項目において60が入力された場合、処理回路131は、図4に示す複数の収集パターンのうち、広範囲(50~100bpm)と低心拍数(50~75bpm)とに含まれる10個の収集パターンを特定する。次いで、処理回路131は、入力項目におけるフリップ角を用いたシミュレーションを、特定された10個の収集パターン各々に対して実行する。処理回路131は、当該シミュレーションの実行により、T1値を計算する。処理回路131は、特定された10個の収集パターン各々に対して計算されたT1値(以下、推定T1値と呼ぶ)のうち、対象T1値に近い複数の収集パターンを、複数の推奨パターンとして決定する。なお、処理回路131は、複数の推定T1値各々を用いて、複数の推奨パターンにそれぞれ対応するT1回復曲線を計算してもよい。このとき、処理回路131は、複数の推奨パターンにそれぞれ対応するT1回復曲線を示すグラフ(以下、T1回復グラフと呼ぶ)を生成してもよい。
処理回路131は、T1シーケンス決定機能1315により、推奨シーケンスと設定パラメータとに基づいて、設定パラメータを変化させてT1値の精度を計算する。具体的には、処理回路131は、入力項目におけるフリップ角を用いたシミュレーションを複数の推奨パターン各々に対して心拍数を変化させて実行する。処理回路131は、当該シミュレーションの実行により、複数の心拍数に対するT1値の相対誤差を、T1値の精度として計算する。複数の推奨パターン各々において、複数の心拍数に対するT1値の相対誤差は、心拍数に対するT1値のロバスト性(以下、心拍ロバスト性と呼ぶ)の程度を示している。このとき、処理回路131は、複数の推奨パターン各々に対する心拍ロバスト性を示すグラフ(以下、精度心拍グラフと呼ぶ)を生成してもよい。また、処理回路131は、精度心拍グラフの代わりに、複数の推奨パターン各々に対する心拍ロバスト性を示す一覧表(以下、心拍ロバスト一覧表と呼ぶ)を生成してもよい。
また、処理回路131は、T1シーケンス決定機能1315により、入力項目におけるフリップ角を用いたシミュレーションを複数の推奨パターン各々に対してT1値を変化させて実行してもよい。処理回路131は、当該シミュレーションの実行により、複数のT1値に対するT1値の相対誤差を、T1値の精度として計算する。複数の推奨パターン各々において、複数のT1値に対するT1値の相対誤差は、T1値に対するT1値のロバスト性(以下、T1ロバスト性と呼ぶ)の程度を示している。このとき、処理回路131は、複数の推奨パターン各々に対するT1ロバスト性を示すグラフ(以下、精度T1グラフと呼ぶ)を生成してもよい。また、処理回路131は、精度T1グラフの代わりに、複数の推奨パターン各々に対するT1ロバスト性を示す一覧表(以下、T1ロバスト一覧表と呼ぶ)を生成してもよい。
また、処理回路131は、T1シーケンス決定機能1315により、複数の推奨パターン各々に対して入力項目におけるフリップ角を変化させてシミュレーションを実行してもよい。処理回路131は、当該シミュレーションの実行により、複数のフリップ角に対するT1値の相対誤差を、T1値の精度として計算する。複数の推奨パターン各々において、複数のフリップ角に対するT1値の相対誤差は、フリップ角に対するT1値のロバスト性(以下、フリップロバスト性と呼ぶ)の程度を示している。このとき、処理回路131は、複数の推奨パターン各々に対するフリップロバスト性を示すグラフ(以下、精度フリップグラフと呼ぶ)を生成してもよい。また、処理回路131は、精度フリップグラフの代わりに、複数の推奨パターン各々に対するフリップロバスト性を示す一覧表(以下、フリップロバスト性一覧表と呼ぶ)を生成してもよい。
処理回路131は、T1シーケンス決定機能1315により、推奨パターン各々におけるインバージョン回数、収集心拍数、複数のTIなどに基づいて、推奨パターン各々における息止め時間、撮像時間などを決定する。処理回路131は、複数の推奨パターンに対する息止め時間、撮像時間、心拍ロバスト性、推定T1値などを示す一覧表(以下、選択指針対応表と呼ぶ)を生成する。
処理回路131は、複数の入力項目各々に対して入力された数値を示すGUI(以下、入力後GUIと呼ぶ)とともに、選択指針一覧表をディスプレイ127に表示させる。図13は、ディスプレイ127の表示画面1270に表示された入力後GUI1271と選択指針一覧表1273との一例を示す図である。複数の入力項目において数値が入力されて決定ボタンが押下されると、図13の表示画面1270に示すように、選択指針一覧表1273が入力後GUI1271とともにディスプレイ127に表示される。図13における選択指針一覧表における収集パターン1乃至4は、例えば、図4に示すような記号を用いた形式で示されてもよい。
ディスプレイ127は、推奨シーケンスと設定パラメータとT1値の精度とを表示する。例えば、ディスプレイ127は、選択指針一覧表1273および入力後GUI1271とを表示する。なお、ディスプレイ127は、選択指針一覧表1273および入力後GUI1271とに加えて、T1回復グラフと精度心拍グラフと精度T1グラフと精度フリップグラフとのうち少なくとも一つを表示してもよい。なお、ディスプレイ127は、選択指針一覧表1273および入力後GUI1271に加えて、精度心拍グラフの代わりに心拍ロバスト一覧表を表示し、精度T1グラフの代わりにT1ロバスト一覧表を表示し、精度アングルグラフの代わりにアングルロバスト一覧表を表示してもよい。
図14は、T1回復グラフの一例を示す図である。図14に示すように、T1回復グラフには、複数の推奨パターンにそれぞれ対応する複数のT1回復曲線が示されている、図14に示すOT1は、対象T1値により生成されたT1回復曲線を示している。図14に示すRP1は、選択指針一覧表1273における複数の推奨パターンのうち収集パターン1に関する推定T1値により生成されたT1回復曲線を示している。図14に示すRP2は、選択指針一覧表1273における複数の推奨パターンのうち収集パターン2に関する推定T1値により生成されたT1回復曲線を示している。図14に示すRP3およびRP4は、選択指針一覧表1273における複数の推奨パターンのうち収集パターン3に関する推定T1値により生成されたT1回復曲線、および選択指針一覧表1273における複数の推奨パターンのうち収集パターン4に関する推定T1値により生成されたT1回復曲線を、それぞれ示している。
図15は、精度心拍グラフの一例を示す図である。図15に示すAP1およびAP2は、選択指針一覧表1273における複数の推奨パターンのうち収集パターン1に関する心拍ロバスト性、および選択指針一覧表1273における複数の推奨パターンのうち収集パターン2に関する心拍ロバスト性を、それぞれ示している。図15に示すAP3は、選択指針一覧表1273における複数の推奨パターンのうち収集パターン3に関する心拍ロバスト性を示している。図15に示すAP4は、選択指針一覧表1273における複数の推奨パターンのうち収集パターン4に関する心拍ロバスト性を示している。図15における区間CIは、95%信頼区間を示している。図15に図示していないが、95%信頼区間において、上限の心拍数および下限の心拍数が表示されてもよい。なお、精度心拍グラフにおける信頼区間の表示は、95%に限定されず、任意に設定可能である。図13および図15に示すように、収集パターン4に関する心拍ロバスト性AP4は、他の推奨パターンに比べて心拍数に対するロバスト性が高くなっている。
図16は、精度T1グラフの一例を示す図である。精度T1グラフは、選択指針一覧表1273における複数の推奨パターンのうち特定の収集パターンに関するT1ロバスト性を示している。また、精度T1グラフは、T1値が1700msまでは誤差10%以内で特定の収集パターンを用いてT1値を計測できることを示している。また、精度T1グラフは、T1値が1700msを超えると当該特定の収集パターンでは計測されるT1値の精度が低下することを示している。
図17は、心拍数に応じた精度フリップグラフの一例を示す図である。図17に示す精度フリップグラフは、選択指針一覧表1273における複数の推奨パターンのうち特定の収集パターン、例えば図4に記載の収集パターンの上から3つ目の収集パターン(心拍数範囲:50~100bpm)に関するフリップロバスト性を、心拍数ごとに示している。精度フリップグラフは、収集パターンが50~100bpmの広範囲の心拍数範囲に含まれたとしても、フリップ角によっては、計測されるT1の精度が低下することを示している。
(ステップSb3)
インタフェース125を介して入力項目の変更指示があると、処理回路131は、T1シーケンス決定機能1315により、本応用例のステップSa1の処理およびステップSb2の処理を繰り返す(ステップSb3のYes)。インタフェース125を介して、選択指針一覧表1273における複数の推奨パターンのうち収集パターンが選択されると、選択された収集パターンに対応するT1シーケンスを決定する(ステップSb3のNo)。次いで、処理回路131は、決定されたT1シーケンスをシーケンス制御回路121に出力する。本ステップに続くステップSa4において、シーケンス制御回路121は、決定されたT1シーケンスに従ってMR信号を収集する。以降の処理は、本実施形態と同様なため、説明は省略する。
本応用例によれば、実施形態に記載の効果に加えて、以下に示す効果を得ることができる。
本MRI装置1によれば、パルスシーケンスの設定に関する少なくとも一つの設定パラメータを有する設定情報に基づいて、パルスシーケンスとして推奨される少なくとも一つの推奨シーケンスを決定し、推奨シーケンスと設定パラメータとに基づいて、設定パラメータを変化させてT1値の精度を計算し、推奨シーケンスと設定パラメータと前記精度とを表示することができる。また、本磁気共鳴イメージング装置1によれば、設定パラメータとして、心拍または脈拍と、T1値と、パルスシーケンスにおけるRFパルスのフリップ角とのうち少なくとも一つを用い、T1値の精度として、設定パラメータに対するT1値の相対誤差を示すグラフまたは一覧表を用いることができる。
これらのことから、本MRI装置1によれば、操作者は、収集パターンの選択の指針となる設定パラメータ、心拍ロバスト性、T1ロバスト性、フリップロバスト性などを考慮して、収集パターンを選択することができ、選択された収集パターンを用いて、高精度なT1値を有するT1マップを生成することができる。
以上述べた実施形態等の磁気共鳴イメージング装置1によれば、高精度なT1値を有するT1マップを生成することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。