JP7237326B2 - 弾性繊維およびその製造方法 - Google Patents

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特許法第30条第2項適用 第52回 卒業論文発表会要旨集 発行所:一般社団法人日本繊維製品消費科学会 関東支部 発行日:平成30年2月15日 [刊行物等] 一般社団法人日本繊維製品消費科学会 関東支部主催 第52回 卒業論文発表会 開催日:平成30年2月15日
本発明は、新規な弾性繊維、特にポリエーテルエステル系繊維、およびその製造方法に関する。
従来から、弾性繊維市場においては、芳香族ジイソシアネートと短鎖アルキレンジアミンとからなる構成単位をハードセグメントとし、長鎖ポリアルキレンエーテルグリコールと芳香族ジイソシアネートとからなる構成単位をソフトセグメントとするポリウレタンウレア樹脂系弾性繊維(スパンデックスの一般名称で知られている)が工業的生産の大部分を占めている。またポリウレタンウレア樹脂系弾性繊維において、短鎖アルキレンジアミンを短鎖アルキレンジオールに替え、長鎖ポリアルキレンエーテルグリコールを、長鎖ポリアルキレンエステルポリオールに替えて得られるポリウレタン樹脂もまた知られていた。
しかし、ポリウレタンウレア樹脂系弾性繊維およびポリウレタン樹脂系弾性繊維は、弾性繊維の最も基本的な特性である弾性特性(強度、伸び、ヒステリシス損失など)や弾性回復性(回復率として90%以上、または95%以上)には優れるものの、耐熱性、耐薬品性(耐塩素性、耐アルカリ性)などの点で、問題があった。
その後、ポリウレタンウレア樹脂系弾性繊維などが有する耐薬品性などを改善するなどの目的で、芳香族ジカルボン酸(主にテレフタル酸)と短鎖アルキレンジオール(主に1,4-ブタンジオールが用いられている)からなる構成単位をハードセグメントとし、長鎖ポリアルキレンエーテルグリコール(ポリテトラメチレンエーテルグリコールが殆ど使用され、繊維性能の改質のために一部、その共重合体が使用される場合がある。)と芳香族ジカルボン酸からなる構成単位をソフトセグメントとする、ポリエーテルエステル系弾性繊維について種々の検討がなされた。ポリエーテルエステル系樹脂は熱可塑性樹脂であることから、溶融紡糸法によって弾性繊維を得ることができる(特許文献1:特開2007-119571号公報)。
ポリエーテルエステル系弾性繊維は、ポリウレタンウレア樹脂系弾性繊維やポリウレタン樹脂系弾性繊維に比べて、耐湿熱性、耐光性、耐薬品性(耐塩素性、耐アルカリ性)、熱セット性などの点で優れるものの、弾性性能、特に弾性回復性(弾性回復率が80%程度以下である)などの点で、充分とは言えなかった。
また、上記のいずれの弾性繊維の場合でも、通常の合成繊維(ナイロン;PAやポリエステル;PET)の場合と異なり、工業的な生産における紡糸速度は、通常400~600m/分程度であり、生産性を上げるために高速化されたものであっても、その紡糸速度は最高でも1500m/分程度(非特許文献1:古谷哲朗、繊維機械学会誌、56, 3, P105 (2003))であって、弾性繊維は、通常の合成繊維に比べると生産性が低(即ち紡糸速度が遅い)かった。
最近になって、従来より高速な3000~10000(m/分)の紡糸速度で、熱可塑性弾性樹脂から溶融紡糸することにより、従来のポリエーテルエステル系弾性繊維より良好な弾性回復率、自由度を有する応力-歪特性などを有するポリエーテルエステル系弾性繊維となることが報告されている(特許文献2:特許第5999630号公報)。
一方、ポリエチレンテレフタレート(PET)および/またはポリブチレンテレフタレート(PBT)をハードセグメントとし、直鎖状ポリアルキレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステル系弾性体において、第1ゴデットローラーの速度V1=500~1600(m/分)、第2ゴデットローラーの速度V2=650~2500(m/分)のスピンドロー法(直接紡糸延伸)により延伸し、さらに巻き取りローラーまでの間で5%以上のリラックスを与えることにより、巻締り、巻姿、解舒性の改善といった別の課題を解決できることが知られていた(特許文献3:特開平6-136615号公報)。
以上の背景から、従来の弾性繊維に比べて種々の優れた物性を有する、新規な弾性繊維が求められていた。
特開2007-119571号公報 特許第5999630号公報 特開平6-136615号公報
古谷哲朗、繊維機械学会誌、56, 3, P105 (2003)
特に、優れた耐湿熱性、耐光性、耐薬品性などを有しつつ、従来のポリウレタンウレア樹脂系弾性繊維に近いかまたはそれを超える弾性回復率、応力-歪特性などを有するポリエーテルエステル系弾性繊維への強いニーズが市場に存在する。
さらに、従来のポリウレタンウレア樹脂系弾性繊維の製造においてはジメチルアセトアミドなどの極性溶媒を多量に使用するため、環境負荷の点で優れる溶融紡糸による製造が強く求められている。
本発明者などは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、熱可塑性弾性樹脂から弾性繊維を製造する際に、従来よりも遥かに速くかつ引取りロールの速度V1<延伸ロールの速度V2で溶融紡糸-連続延伸を行うことにより、驚くべきことに、単に高速で溶融紡糸したポリエーテルエステル系弾性繊維と異なる結晶構造など、およびより高い応力-歪特性などを有する新規なポリエーテルエステル系弾性繊維が、しかも高速で効率的に得られることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、以下のようである。
[1]弾性繊維を製造する方法であって、
ハードセグメントとソフトセグメントとを含む熱可塑性弾性樹脂を、引取りロール速度V1で溶融紡糸し、さらに連続して延伸ロール速度V2で延伸する工程を含むと共に、前記ハードセグメントが(a)芳香族ジカルボン酸単位と(b)アルキレングリコール単位とから構成され、前記ソフトセグメントが(a)芳香族ジカルボン酸単位と(c)ポリアルキレンエーテルグリコール単位とから構成され、
前記(b)アルキレングリコール単位が、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、1,3-プロパンジオールおよび1,4-ブタンジオールから選択される少なくとも1種に由来する単位であり、
前記(c)ポリアルキレンエーテルグリコール単位が、ポリトリメチレンエーテルグリコールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールから選択される少なくとも1種に由来する単位であって、下記の条件(1)~(3):
(1)V1<V2
(2)V1=1700~8000m/分
(3)V2=2500~10000m/分
をすべて満たすことを特徴とする方法。
[2]前記樹脂中における前記ソフトセグメントの長鎖ジオール成分の重量比が50%以上である、[1]に記載の方法。
[3]前記樹脂中における前記ソフトセグメントの長鎖ジオール成分の数平均分子量が600~10000である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記ソフトセグメントを構成する長鎖ジオール成分由来の構成単位のうち、少なくとも30重量%が、ポリトリメチレンエーテルグリコールに由来する単位からなる、[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]前記条件(3)がV2=3000~8000m/分である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6][1]~[5]のいずれか一項に記載の方法により製造される弾性繊維。
本発明の新規な弾性繊維は、以下に挙げる少なくともいずれかの利点を有する。
(1)環境負荷の点で優れ、かつ従来のポリエーテルエステル系弾性繊維と同等の弾性回復特性を維持しつつ、非常に高い応力-歪特性を得ることができる。
(2)従来のポリエーテルエステル系弾性繊維と異なる結晶構造などの構造を有する繊維が得られる。
また、本発明の新規な製造方法によれば、斯かる新規な弾性繊維を高速で効率的に製造することが可能である。
図1は、一般的な溶融紡糸・巻き取り装置の構成を模式的に示す図である。 図2は、高速溶融紡糸などで使用した溶融紡糸・計測装置の構成を模式的に示す図である。 図3は、高速溶融紡糸法における弾性繊維の弾性収縮を説明するための模式図である。 図4は、スピンドロー法による直接延伸を模式的に示す図である。 図5は、切り離し時の弾性収縮率の算出について説明する図である。 図6は、切り離し時の繊維の、高速溶融紡糸および第1ロールおよび第2ロールの各速度に対する弾性収縮率をプロットした図である。 図7は、切り離し時の弾性収縮率の算出(計算値)について説明する図である。 図8は、切り離し時の弾性収縮率の算出についての説明、および巻き取り速度に対する弾性収縮率の測定算出値および計算値をプロットした図である。 図9は、高速溶融紡糸および第1ロールおよび第2ロールの各速度における弾性繊維TPEE-1の広角X線回折(WAXD)像を示す図である。 図10は、各紡糸速度における、広角X線回折(WAXD)の赤道上の強度プロファイルを示す図である。 図11は、高速溶融紡糸および第1ロールおよび第2ロールの各速度におけるTPEE-1弾性繊維の小角X線散乱(SAXS)像を示す図である。 図12は、高速溶融紡糸およびスピンドロー法での巻き取り速度に対して長周期をプロットした図である。 図13は、引張試験により得た、高速溶融紡糸によるTPEE-1弾性繊維の応力-歪曲線を示す図である。 図14は、引張試験により得た、スピンドロー法によるTPEE-1弾性繊維の応力-歪曲線に高速溶融紡糸によるTPEE-1弾性繊維の応力-歪曲線を重ねて示した図である。 図15は、引張試験により得た、高速溶融紡糸によるTPEE-1弾性繊維の破断時の伸び率に対する強度とスピンドロー法によるTPEE-1弾性繊維の破断時の伸び率に対する強度を比較した図である。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
なお、以下の記載では、ある単量体に由来する共重合体の部分構造単位を、その単量体の名称に「単位」という言葉を付して表す。例えば、ポリトリメチレンエーテルグリコールに由来する部分構造単位は、「ポリトリメチレンエーテルグリコール単位」という名称で表される。
また、同一の部分構造単位を与える単量体を、その部分構造単位の名称の「単位」を「成分」に換えた名称で総称する。例えば、直接重合法では芳香族ジカルボン酸が芳香族ジカルボン酸単位を形成し、エステル交換法では芳香族ジカルボン酸ジエステルが芳香族ジカルボン酸単位を形成する。よって、これらの芳香族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸ジエステルを、「芳香族ジカルボン酸成分」という名で総称する。
・溶融紡糸法
本開示の弾性繊維の製造方法は、押出機などを用いて融点以上に原料となる樹脂を加熱して得た溶融状態の樹脂を、紡糸口より空気中などに吐出して冷却固化し、その後一定の速度で巻き取る、熱可塑性弾性樹脂を溶融紡糸、すなわち押出機などを用いて融点以上に原料となる樹脂を加熱して得た溶融状態の樹脂を、紡糸口より空気中などに吐出して冷却固化し、その後一定の速度で巻き取る工程を含む。
溶融紡糸法では、通常、本技術分野で公知の溶融紡糸・巻き取り装置が用いられる。
図1は、PETやPAなどの合成繊維を工業的に生産する場合に用いられる溶融紡糸・巻き取り装置の主な構成を模式的に示す図である。図1の溶融紡糸・巻き取り装置において、供給口から供給されたペレット状の樹脂は、押出機を通じて溶融されながら押出され、紡糸ヘッドに取り付けられた紡糸口より空気中に吐出される。吐出された溶融糸条は、細化されながら空気で冷却固化し、第1ゴデットローラーおよび第2ゴデットローラーを経て、最後に巻き取りロール(ボビン)に巻き付けられる。
なお、溶融紡糸・巻き取り装置の構成は、図1に示すものに限定されるものではなく、本開示における溶融紡糸の趣旨を妨げない範囲において、任意の変更を加えることが可能である。例えば、図1では、第1ゴデットローラーとして、ネルソンローラーを示しているが、弾性繊維の紡糸においては、通常、単一のゴデットローラーが用いられる。但し、本開示においては、第1ゴデットローラーの巻き取り速度がある程度高速度になると、繊維中で配向結晶化が進行するため、PETなどの場合と同様に第1ゴデットローラーと糸との間のすべりによる糸の速度変動を抑制するために、ネルソンローラーを用いるとよい場合もある。
・高速溶融紡糸法(本明細書中において「高速溶融紡糸」あるいは「高速紡糸」という場合がある)
本開示の溶融紡糸法では、紡糸速度を高速にすることができる。
一般的に高速溶融紡糸を行う場合、その目的は、結晶性の低い高弾性タイプの樹脂(ソフトセグメントの組成が大きい樹脂)を紡糸線上で付与される高い伸長応力を利用して配向結晶化させ、繊維間の膠着を起こさずに繊維を巻き取るためである。
これに関連して、第1ローラーと第2ローラーの速度を変える直接紡糸延伸法が知られていた(特許文献3:特開平6-136615号公報)。しかし、その課題は、弾性繊維において溶融紡糸した後の伸びによって生じた巻締り、巻姿、解舒性の改善であったことから、具体的には、第1ローラーの紡糸速度に対し、第2ローラーの速度を増加することによって延伸し、その後延伸ローラーから巻き取りローラーまでの間で5%以上のリラックスを与えることしか行われていなかった。
また高速の紡糸速度で溶融紡糸を行って弾性繊維を形成すると、紡糸工程中の配向結晶化により安定した高次構造が得られること、応力-歪特性を幅広く制御できること、弾性回復性に優れかつ低弾性率の繊維が得られることが報告されている(特許文献2:特許第5999630号公報)。
しかし、この文献は、高速溶融紡糸後にインライン延伸を加えてさらに異なる高次構造を得ることなどについては開示していない。
このように、高速溶融紡糸においては配向結晶化によって直接高次構造を得ること、スピンドロー法では、延伸により解舒性を良くすることなどしか行われておらず、高速紡糸後にさらなる構造変化を起こさせることは知られていなかった。
なお、正確には、上記の高速溶融紡糸法においても、インラインで延伸されることによって、下記で説明するスピンドロー法に含まれる場合があると考えられる。
しかし本明細書中においては、これらを区別するために、以下のように定義する。
すなわち、従来の溶融紡糸法のうち高速のものを「高速溶融紡糸法」という。
一方、第1ロールの引き取り速度で溶融紡糸を行い、引き続いて第1ロールと第2ロールの速度差で延伸を行う方法を「直接紡糸延伸法」あるいは「スピンドロー法」あるいは「インライン延伸法」という。
・そして本発明に係る弾性繊維の製造方法では、スピンドロー法の中でも、弾性樹脂を高速溶融紡糸した後、インラインで延伸する工程(「高速スピンドロー法」という)で行う。
スピンドロー法では、例えば、図1、図2に示した装置において、紡糸と延伸とを連続させて一工程で延伸糸を作る。この方法には、紡糸口から紡出された未延伸糸をいったんドラムに巻き取り、別置きの延伸撚糸機で延伸して延伸糸を作っていた従来法に対し、紡糸と延伸とを一工程で行える点で利点がある。
従来、弾性繊維のスピンドロー法において、紡糸過程を高速溶融紡糸とすると第1ロールに到達する前に配向結晶化が生じて繊維構造が既にでき上がってしまい、その後の第1と第2ロールとの間では、繊維を弾性変形させるだけであって、構造の変化は生じないとこれまで考えられていた。
しかし本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、ポリエーテルエステル系弾性繊維が、スピンドロー法において第1の紡糸速度V1で高速溶融紡糸を行い、インラインで連続して第2の紡糸速度V2で、V1<V2となるように高速で延伸すると、驚いたことに、単に高速溶融紡糸した場合の単なる弾性変形と比較して、V2においてさらに一定の構造変化を伴う変形(延伸)が生じており、さらに優れた弾性特性などを示すことを見出し、本発明に至ったものである。
・紡糸速度
本発明の弾性繊維の製造方法は、スピンドロー法において、当該溶融紡糸の工程を、従来よりも高速とし、かつインライン延伸を実施することを特徴とする。
これらの2段階の速度は、具体的には第1の紡糸速度V1、および第1の紡糸速度に続く第2の延伸速度V2であって、V1<V2の関係を満たす。
なお、本明細書中において、「紡糸速度V1」(「速度V1」または「V1」と略記する場合がある)とは、図4の模式図に示したように、第1ロールにおける引取速度V1として定義され、複数のロールが第1ロールとして存在する場合には、紡糸口直後の第1ロールに基づいて決定される。
そして「延伸速度V2」(「速度V2」または「V2」と略記する場合がある)とは、第1ロールの下流に配置された第2ロールによる巻き取り速度として定義され、複数のロールが第2ロールとして存在する場合には、最終的に糸を巻取る巻き取りロール(ボビン)に基づいて決定される。
なお、本明細書中においては、高速溶融紡糸法における紡糸速度も、便宜上V1で表す。
この場合にも、V1は上記スピンドロー法におけるV1と同じ定義を有する。
そして、V1は最終的に糸を巻取る巻き取りロール(ボビン)に基づいて決定されることができる。
具体的に、本開示のスピンドロー法におけるV1、V2は以下のようである。
V1の下限は、1500m/分以上、1600m/分以上、1700m/分以上、1800m/分以上、1900m/分以上、2000m/分以上、2100m/分以上、2300m/分以上、2600m/分以上、3000m/分以上であることができる。
V2の下限は、2000m/分以上、2100m/分以上、2200m/分以上、2300m/分以上、2400m/分以上、2500m/分以上、2600m/分以上、2700m/分以上、2800m/分以上、2900m/分以上、3000m/分以上、3100m/分以上、3200m/分以上、3300m/分以上、3400m/分以上、3500m/分以上、3600m/分以上、3700m/分以上、3800m/分以上、3900m/分以上、4000m/分以上、4100m/分以上、4200m/分以上、4300m/分以上、4400m/分以上、4500m/分以上であることができる。
紡糸速度V1および延伸速度V2がそれぞれこれらの下限以上であると、後述する紡糸時の配向結晶化が進行し、所望する理想状態のモルフォロジー(例えば、高結晶化度、高結晶配向性、ミクロ相分離構造など)および物性(例えば、優れた弾性回復性や、高い応力-歪特性など)が得られ、好適である。
一方、本開示の製造方法におけるV1の上限は、8000m/分以下、7500m/分以下、7000m/分以下、6500m/分以下、6000m/分以下、5700m/分以下、5500m/分以下、5200m/分以下、5000m/分以下、4700m/分以下、4500m/分以下、4200m/分以下、4000m/分以下、3700m/分以下、3500m/分以下、3200m/分以下であることができる。
V2の上限は、10000m/分以下、9000m/分以下、8500m/分以下、8000m/分以下、7500m/分以下、7000m/分以下、6500m/分以下、6000m/分以下、5500m/分以下、5000m/分以下であることができる。
V1およびV2がそれぞれこれらの上限以下であれば、ゴデットローラーなどの機械的制御に支障がなく好適である。
斯かる上限は樹脂の種類によっても異なるが、例えば、後述の成分(c)としてポリトリメチレンエーテルグリコールを用いた本開示のポリエーテルエステル樹脂を原料とする場合、V2は8000m/分を超える速度で溶融紡糸が可能であり、後述の成分(c)としてポリテトラメチレンエーテルグリコールを用いた本開示のポリエーテルエステル樹脂を原料とする場合、V2は5000m/分を超える紡糸速度で溶融紡糸が可能である。
また本開示において、ある一態様では、V1=1700(m/分)~2500(m/分)、1800(m/分)~2400(m/分)、1900(m/分)~2300(m/分)、または2000(m/分)~2200(m/分)、およびV2=2500(m/分)~10000(m/分)、2600(m/分)~8000(m/分)、2700(m/分)~7000(m/分)、2800(m/分)~6000(m/分)、2900(m/分)~5000(m/分)、または3000(m/分)~4000(m/分)であることができる。
なお、本開示のスピンドロー法において、具体的には図1中に示すように、第1ロールは、第1ゴデットローラーであることができ、第2ロールは巻き取りロール(ボビン)であることができる。
本開示において、上記定義の速度で溶融紡糸を行うことにより、上記規定の物性を有する理由は定かではないが、例えばV1=1700~8000m/分、V2=2500~10000m/分かつV1<V2で紡糸すると、2000~8000m/分の高速溶融紡糸により製造された弾性繊維に比較して、さらに配向結晶化などが進行しているものと考えられる。
・距離L(紡糸長)
本開示において、紡糸口からゴデットローラーまでの距離(図1においてLで示す距離)は、溶融樹脂の冷却の観点から、50cm以上、100cm以上であることができる。また、紡糸速度の高速化における空気抵抗応力増加の観点から、800cm以下、500cm以下、300cm以下であることができる。
・他の溶融紡糸条件
紡糸速度以外の溶融紡糸の条件は、樹脂によっても異なり、限定されないが、例としては以下の通りである。
紡糸温度は、樹脂の融点の観点から、180℃以上、200℃以上であることができ、また、熱分解温度の観点から、320℃以下、290℃以下であることができる。
吐出口径は、吐出圧力の上限の観点から、0.2mm以上、0.3mm以上であることができ、また、吐出安定性の観点から、2.0mm以下、1.0mm以下であることができる。
単孔当たりの吐出量は、紡糸安定性の観点から、0.2g/分以上、0.4g/分以上であることができ、また、繊維の繊度制御の観点から、5.0g/分以下、3.0g/分以下であることができる。
また、これら溶融紡糸の各種条件は、条件相互間の関係や、紡糸に用いる樹脂の種類、紡糸装置全体の設計などから生じる紡糸性の特徴、さらには最終的に製品とする弾性繊維の繊維径およびフィラメント数などに応じて、任意に選ぶことができる。
[熱可塑性弾性樹脂]
本開示で使用される熱可塑性弾性樹脂は、ハードセグメントとソフトセグメントとを含む樹脂である。
長いポリマーの線状分子鎖の中で、凝集力の大きい個所と、凝集力の低い個所を適切な含有比率に設計することにより、熱可塑性弾性樹脂(エラストマー)ができる。ここで、ポリマーの部分構造のうち、凝集力の大きい部分(或いは結晶構造を構成し得る部分)をハードセグメントと称し、凝集力の小さい部分(或いは結晶構造を構成し難く、そのため流動性を有する部分)をソフトセグメントと称する。
ハードセグメントは、例えば縮重合系のポリマーでみれば、連結部位の結合構造の凝集力が高いものが用いられる。例えば、尿素結合、ウレタン結合、アミド結合などは、水素結合力によって極めて高い凝集力を有し、エステル結合なども分子間力によって比較的高い凝集力を有する。凝集力の高い連結部位の構造であれば、上記の例にとらわれることなく、その他の縮合系ポリマーも対象とすることができる。また、ハードセグメントを構成する分子に芳香環やCが2~4程度の短いアルキレン鎖を含むことにより、単に分子間の結合力の問題だけでなく、結晶構造をより容易に形成し易いハードセグメントの構造とすることも重要な要素の一つと考えられる。
一方、ソフトセグメントはハードセグメントとは反対に、適度に分子量が大きく、異なるポリマー鎖間の同類の構造部分との水素結合または分子間力が小さいものであればよい。
従って、実際のポリマー中では、複数の分子鎖が絡み合う様に存在しているため、ハードセグメントが結晶化した場合には、その部位は極めて融点が高く、逆に、ソフトセグメントは融点が低く(通常は室温以下である)流動性の高い部位となり、この様な網目構造により、弾性などを含む種々の特性が表れる。
また、ポリマーにおいて配向性が高いとは、ランダムに絡み合い、かつ分子鎖の自由度が高い状態で存在するソフトセグメント(通常マトリックスとも称する)の中に、結晶化したハードセグメント(通常ミクロドメインとも称する)が規則正しい方向に平行に近い方向性を保って並ぶ(繊維の場合は、繊維軸方向に並ぶことになる)ことを言う。
本開示で使用される熱可塑性弾性樹脂のソフトセグメントを構成する長鎖ジオール成分の数平均分子量(Mn)は、良好な弾性特性を得る観点から、600以上、800以上、900以上、1000以上、1200以上、1400以上、1700以上、2000以上とすることができる。また、粘度を適度に抑えるなどの観点から、10000以下、8000以下、5000以下、3500以下とすることができる。なお、数平均分子量(Mn)は、各種の公知の手法(例えばゲル浸透クロマトグラフィー、末端基定量法など)により求めることができる。
本開示で使用される熱可塑性弾性樹脂のソフトセグメントを構成する長鎖ジオール成分の、樹脂全体に対する重量比は、樹脂に十分な弾性を付与する観点から、50重量%以上、60重量%以上、65重量%以上、70重量%以上、75重量%以上、80重量%以上とすることができる。また、樹脂の強度を維持する観点から、95重量%以下、93重量%以下、90重量%以下、85重量%以下とすることができる。
本開示で使用される熱可塑性弾性樹脂は、上述の定義によるハードセグメントおよびソフトセグメントのみからなっていてもよいが、他のセグメントを含んでいてもよい。但し、他のセグメントを含む場合でも、樹脂の(添加剤を除く)ポリマー鎖全体に占めるハードセグメントおよびソフトセグメント以外のセグメントの割合は、10重量%以下、5重量%以下、1重量%以下であることができる。
上述の定義によるハードセグメントとソフトセグメントとを含む熱可塑性弾性樹脂の例としては、ポリウレタンウレア樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエステル樹脂、ポリエーテルエステルアミド樹脂などが挙げられる。
これらの中でも本開示に係るポリエーテルエステル樹脂は、ハードセグメントとして芳香族ジカルボン酸-アルキレングリコール単位(後述の式(1))を有し、ソフトセグメントとして芳香族ジカルボン酸-ポリアルキレンエーテルグリコール単位(後述の式(2))を有する樹脂である。
前記ソフトセグメントを構成する長鎖ジオールは、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
本開示では、前記ソフトセグメントを構成する長鎖ジオール成分由来の構成単位のうち、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上が、ポリトリメチレンエーテルグリコールに由来する単位からなることができる。
本開示の製造方法において、熱可塑性弾性樹脂としては、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
本開示では、ハードセグメントとなる構成単位が、分子鎖の構造上から直線状の結晶構造(いわゆる棒状の結晶構造)を取り易いといった利点から、以下に説明するポリエーテルエステル樹脂(以降「本開示のポリエーテルエステル樹脂」という場合がある。)を用いることができる。また、該ポリエーテルエステル樹脂は、特性上、弾性繊維にした場合においても、既存の弾性繊維(ポリウレタンウレア樹脂などによる弾性繊維)に比べて、耐熱性、耐加水分解性、耐薬品性、耐光性などに優れるといった利点がある。
以下、本開示のポリエーテルエステル樹脂について詳しく説明する。
[ポリエーテルエステル樹脂]
本開示のポリエーテルエステル樹脂は、下記式(1)で表されるハードセグメントと、下記式(2)で表わされるソフトセグメントとを主な構成単位とする共重合体である。
Figure 0007237326000001
Figure 0007237326000002
式(1)および(2)において、R1は各々独立に、ベンゼン核を持つ炭素環式化合物および/又は非ベンゼノイド芳香族化合物由来の化学構造を表わす。なお、ここで「ベンゼン核」とは、芳香族性を持つ炭素六員環を表わし、「非ベンゼノイド芳香族化合物」とは、アズレンや芳香族性を示す複素環式化合物などの、ベンゼン核を持たないが芳香族性を示す化合物を表わす。
式(1)において、R2は、C2~8、例えば、C2~6のアルキレン基、直鎖状のC2~4アルキレン基を表わす。
式(2)において、nは、R3-Oの繰り返し数を表わす整数である。
式(2)において、R3は、C1~6アルキレン基を表わす。
なお、式(1)のハードセグメントは、下記式(a)で表される芳香族ジカルボン酸単位と、下記式(b)で表されるアルキレングリコール単位とに分けられる。
一方、式(2)のソフトセグメントは、下記式(a)の芳香族ジカルボン酸単位と、下記式(c)で表されるポリアルキレンエーテルグリコール単位とに分けられる(以降、夫々「単位(a)」、「単位(b)」、「単位(c)」という場合がある。)。
Figure 0007237326000003
Figure 0007237326000004
Figure 0007237326000005
式(a)~(c)において、R1、R2、R3およびnは、式(1)および(2)と同じ定義を表す。
以下、単位(a)~(c)およびその原料について説明する。
・単位(a)/成分(a):
単位(a)の原料(これを「芳香族ジカルボン酸成分」或いは単に「成分(a)」という場合がある。)としては、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸エステルなどが挙げられる。芳香族ジカルボン酸は、後述の直接重合法に用いられ、芳香族ジカルボン酸エステルは、後述のエステル交換法に用いられる。
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、限定されるものではないが、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、ジフェニル-4,4-ジカルボン酸、ジフェノキシジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸などが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルの具体例としては、上記芳香族ジカルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステルなどが挙げられる。
本開示の製造方法において、成分(a)は、いずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
・単位(b)/成分(b):
単位(b)の原料(これを「アルキレングリコール成分」(または短鎖ジオール成分とも称する)或いは単に「成分(b)」という場合がある。)としては、C2~8、C2~6のアルキレングリコールなどが挙げられる。具体例としては、限定されるものではないが、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソソルバイドなどが挙げられる。
本開示の製造方法において、成分(b)は、いずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
・単位(c)/成分(c): 単位(c)の原料(これを「ポリアルキレンエーテルグリコール成分」(または長鎖ジオール成分とも称する)或いは単に「成分(c)」という場合がある。)としては、C1~6のアルキレンエーテル鎖を繰り返し単位とするポリアルキレンエーテルグリコールが挙げられる。
斯かるポリアルキレンエーテルグリコール成分の具体例としては、限定されるものではないが、ポリメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリ-1,2-プロピレンエーテルグリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリネオペンチレンエーテルグリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック又はランダム共重合体、エチレンオキシドとテトラハイドロフラン(THF)とのブロック又はランダム共重合体、THFと2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールの共重合体などが挙げられる。
中でも、弾性繊維としての弾性特性に優れる点で、成分(c)としては、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどであることができる。
成分(c)としては、ポリトリメチレンエーテルグリコールが適する。成分(c)としてポリトリメチレンエーテルグリコールを用いた熱可塑性弾性樹脂を原料として得られる本開示の弾性繊維は、後述のように、従来実現が不可能とされてきた0℃以下の低温域でも、低引張弾性率および高弾性回復特性を維持するという利点がある。さらには、ポリトリメチレンエーテルグリコールが、植物由来による原料である1,3-プロパンジオールからなることより、今日的に重要視されている非石油由来物質(言い換えると、再生可能性材料;Renewable Materialsと称する場合がある。)に近い製品とみなされる利点もある。
なお、ポリトリメチレンエーテルグリコールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールは、それぞれ対応する単量体成分(例えば、それぞれ1,3-プロパンジオールなどおよびテトラヒドロフラン(THF)など)を重合して得られるが、得られた弾性繊維の弾性性能、特に低温条件下も含む高弾性回復特性やソフト性を改善させるなどの目的で、重合の際に、上記の単量体成分に、メチル基やエチル基などの側鎖を有するC4~9のアルキレングリコールを加えて共重合させることもある。共重合成分となるC4~9のアルキレングリコールの例としては、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチル-1,5-ペンタンジオール,3-エチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジエチル-1,5-ペンタンジオールなどが挙げられる。これら共重合成分を使用する場合、成分(c)に対するその使用比率は、5重量%以上、10重量%以上、30重量%以下、20重量%以下であることができる。これらの範囲内であれば、弾性性能、低温下を含む高弾性回復特性、ソフト性の改善が得られ適する。これらの共重合体成分は、いずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
成分(c)の重合度(即ち、式(2)および(c)におけるn)は、限定されるものではないが、通常は成分(c)の数平均分子量(Mn)に応じて決定することができる。成分(c)の数平均分子量(Mn)(これはソフトセグメントの数平均分子量(Mn)に概ね対応する。)は、良好な弾性特性を得る観点から、600以上、800以上、900以上、1000以上、1200以上、1400以上、1700以上、2000以上とすることができる。また、粘度を適度に抑える観点から、10000以下、8000以下、5000以下、3500以下とすることができる。なお、数平均分子量(Mn)は、各種の公知の手法(例えばゲル浸透クロマトグラフィー、末端基定量法など)により求めることができる。
本開示の製造方法において、成分(c)は、いずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
・成分(a)~(c)の比率:
本開示のポリエーテルエステル樹脂に使用される成分(a)~(c)の総量に対する成分(c)の含有率は、樹脂に十分な弾性を付与する観点から、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上とすることができる。樹脂の強度を維持する観点から、95重量%以下、93重量%以下、90重量%以下、85重量%以下とすることができる。
上記(a)~(c)を組み合わせた構造は、下記の実施例中に挙げるように、例えば、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート(PBT)であり、ソフトセグメントがポリテトラメチレングリコール(PTMG)の場合、具体的には、下記の構造を有することができる。
Figure 0007237326000006
・その他の成分
本開示のポリエーテルエステル樹脂は、上述の単位(a)~(c)に加えて、他の成分に由来する部分構造単位を併用してもよい。但し、その場合でも、本開示のポリエーテルエステル樹脂は、主に上述の単位(a)~(c)から構成される。具体的には、本開示のポリエーテルエステル樹脂に対する、上述の単位(a)~(c)の合計の量比(即ち、本開示のポリエーテルエステル樹脂の製造時に使用される全単量体成分の合計量に対する、成分(a)~(c)の合計量の比)は、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上であることができる。
本開示のポリエーテルエステル樹脂が、上述の成分(a)~(c)に加えて、他に併用していてもよい共重合成分としては、成分(a)以外の追加のカルボン酸成分や、成分(b)および(c)以外の追加のアルコール成分などが挙げられる。
追加のカルボン酸成分としては、コハク酸、アジピン酸、シュウ酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメシン酸などの3官能以上の多価カルボン酸;無水トリメリット酸などの多価カルボン酸無水物、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの多価アルコール成分;などが挙げられる。これらはいずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。脂肪族ジカルボン酸を使用する場合、その使用量は、成分(a)を含めたカルボン酸成分の総量に対して、50モル%未満、30モル%以下であることができる。上記の範囲内であれば、ブロック共重合体の耐熱性、品質が良好で適する。多価カルボン酸および/又はその無水物を使用する場合、その使用量は、成分(a)を含めた全カルボン酸成分の総量に対して、ジカルボン酸成分の20モル%以下、10モル%以下であることができる。
また、追加の多価アルコール成分を使用する場合も、その使用量は、成分(b)および(c)を含めた全グリコール成分の総量に対して、20モル%以下、10モル%以下であることができる。上記の範囲であれば、粘度が上がらず製造時の抜き出しができ、成形性が良く、成形物にブツなどが発生せず機械的物性が良好となり適する。
[ポリエーテルエステル樹脂の製造方法]
本開示のポリエーテルエステル樹脂を製造する方法は制限されず、従来公知の任意のポリエーテルエステル樹脂の製造方法を採用することができる。具体例としては、以下の方法が挙げられる。
(i)成分(a)として芳香族ジカルボン酸を用い、これを成分(b)および(c)、並びに必要に応じて用いられる他の単量体成分とエステル交換反応させ、続いて得られた反応生成物を減圧下で共重合(重縮合)する方法(以下「直接重合法」という場合がある。)。
(ii)成分(a)として芳香族ジカルボン酸エステルを用い、これを過剰量の成分(b)および(c)、並びに必要に応じて用いられる他の単量体成分とエステル交換反応させ、続いて得られた反応生成物を減圧下で共重合(重縮合)する方法(以下「エステル交換法」という場合がある。)。
その他にも、予め短鎖ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート)を作っておき、これに成分(b)および(c)を加えて重縮合する方法や、二軸押出機などを用いて、他の共重合ポリエステルを加えてエステル交換する方法などが挙げられるが、本開示ではいずれの方法を選択してもよい。
・触媒
本開示のポリエーテルエステル樹脂の合成時には触媒を使用してもよい。触媒を使用する場合、直接重合法ではエステル交換反応時および/又は重縮合反応時、エステル交換法ではエステル交換反応時および/又は重縮合反応時に使用することができる。いずれの反応に使用するかは任意であるが、直接重合法およびエステル交換法ともに、少なくとも重縮合反応時に触媒を用いるとよい。
エステル交換反応又はエステル交換反応と共重合反応に共通の触媒としては、Ti、Sn、Mg、Pb、Zr、Zn、Sb、Ge、Pなどの金属化合物を、それらの一種または二種以上の組み合わせおよび比率で用いることができる。具体的には、テトラアルキルチタネートなどのチタン化合物、モノ-n-ブチルモノヒドロキシスズオキサイドなどのスズ化合物などの公知のものを用いることができる。
触媒の使用量は、生成するポリエーテルエステル樹脂に対する比率で、0.001重量%以上、0.003重量%以上、また、0.5重量%以下、0.2重量%以下であることができる。
・結晶核剤
本開示のポリエーテルエステル樹脂は、共重合体として製造した後、各成分の種類や重量比率などによって、その結晶化速度が遅いために、樹脂自体が軟らかく、かつ、樹脂表面の粘着性が高くなる場合には、必要に応じて、特に制限なく、ステアリン酸ナトリウムなどの公知の結晶核剤を用いることができる。
結晶核剤の配合量は、樹脂全体(添加剤を除く)に対して、0.01重量%以上、0.1重量%以上、0.5重量%以上、また、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下とすることができる。
・酸化防止剤
本開示のポリエーテルエステル樹脂の製造時には、酸化防止剤を使用してもよい。
酸化防止剤は、ポリエーテルエステル樹脂の製造中又は製造後の任意の時期に加えることができる。特に、ポリアルキレンエーテルグリコール成分(c)が高温に曝される時点、例えば共重合反応に入る時点で、ポリアルキレンエーテルグリコール成分の酸化劣化を防止するために、共重合反応を阻害せず、また触媒の機能を損なわない限りにおいて、酸化防止剤を加えることが望ましい。
酸化防止剤の例としては、燐酸、亜燐酸の脂肪族、芳香族又はアルキル基置換芳香族エステル、ヒンダードフェノール化合物等のフェノール系誘導体などの公知の化合物のうち一種または二種以上の任意の組み合わせを用いることができる。
酸化防止剤の使用量は、ポリエーテルエステル樹脂成分の総重量を100%として、0.001重量%以上、0.01重量%以上、3重量%以下、2重量%以下の範囲であることができる。
・製造時の反応条件
本開示のポリエーテルエステル樹脂を製造する際の反応条件としては、公知の常用条件を用いることができる。例えば、直接重合法やエステル交換法においては、以下の通りである。
即ち、前段のエステル交換反応又はエステル交換反応は、120℃以上、140℃以上、280℃以下、270℃以下の反応温度で、1時間以上、10時間以下に亘って行なうことができる。反応温度が上記の範囲であれば、着色なく反応が進行し生産性が良好となり適する。また、反応時間が上記の範囲であれば、エステル交換反応又はエステル交換反応および後続の重合反応が良好に進行し適する。
また、後段の重縮合反応は、0.5kPa以下の減圧下、200℃以上、220℃以上、また、280℃以下、270℃以下の反応温度で、1時間以上、10時間以下に亘って行なうことができる。反応温度が上記の範囲であれば、着色なく反応が進行し生産性が良好となり適する。また、反応時間が上記の範囲であれば、着色なく重縮合反応が十分に進行し生成する共重合体の所望の重合度が得られ適する。
・その他
通常、上記のように溶融重縮合して得られた本開示のポリエーテルエステル樹脂は、その融点以上の温度で保持され、順次、反応缶などの反応器から吐出、ペレタイジングなどの成形が行なわれる。なお、ここで得られたペレットは、必要に応じて、さらに固相重合してもよい。
なお、得られた本開示のポリエーテルエステル樹脂に対し、必要に応じて、本開示の目的、効果を損なわない範囲で、任意の成分、すなわち、公知の充填剤、補強材、滑剤、染顔料、難燃化剤、光安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、架橋剤、摺動性改良剤、導電材などのうち一種または二種以上のこれらの組み合わせを配合することができる。
[弾性繊維]
上述した発明の効果を有する本開示の製造方法によって得られる弾性繊維(本開示の弾性繊維)の特徴により、本開示の繊維は、例えば、各種の衣料用繊維、工業用繊維や各種フィルターなどの繊維製品などとして使用することができる。
また、本開示の繊維は、自動車の内装用に使用される繊維製品としても適する。
以下に実施例を示して本開示をより詳細に説明する。但し、本開示はこれらの実施例に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更を加えて実施することが可能である。
ポリアルキレンエーテルグリコールの数平均分子量(Mn)
ポリアルキレンエーテルグリコール末端の水酸基を無水フタル酸でエステル化させ、未反応の無水フタル酸をフタル酸に分解後、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリで逆滴定(末端基滴定法)することにより水酸基価を求め、その値から算出した。
[熱可塑性弾性樹脂の製造]
<ポリエーテルエステル樹脂の製造例1>
窒素導入口、減圧口などを供えたエステル交換反応に適した反応槽の容量が1mの重合反応器を用いて、エステル交換法により目標とするポリエーテルエステル樹脂の重合反応を行った。反応槽に、テレフタル酸ジメチル48.22kg、1,4-ブタンジオール26.54kg、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(Mn;1984)159.39kgを仕込み、そこにTi系触媒を加え減圧置換後、窒素下で昇温しながらエステル交換反応を行った。その後、さらにTi系触媒とヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加し、続いて昇温、減圧し、245℃、0.1kPaで3時間重縮合反応を行った。反応終了後は、速やかに窒素置換と共に減圧を解除し、反応槽の底部より溶融状態の樹脂を抜出し、水槽で冷却固化させながらペレタイザーを用いてペレット状のポリエーテルエステル樹脂;TPEE-1を得た。
得られたポリエーテルエステル樹脂:TPEE-1のハードセグメントとソフトセグメントとの重量比(%)およびモル比(%)は、計算により各々以下の通りであった。
ハードセグメント/ソフトセグメントの重量比(%):18/82
ハードセグメント/ソフトセグメントのモル比(%):68/32≒約2/1
[弾性繊維の製造例:スピンドロー法による弾性繊維の製造]
図4にスピンドロー法(直接紡糸延伸)の装置構成を模式的に示す。ポリエーテルエステル樹脂;TPEE-1を用い、下記表1中に記載した第1ゴデットローラーの速度V1および第2ゴデットローラーの速度V2において直接紡糸延伸(スピンドロー法)し、弾性繊維TPEE-1を作製した。その他の紡糸条件は、紡糸温度210℃、吐出口(紡糸口)径0.5mm、1ホールのノズルを用い、吐出量は3g/分、紡糸長3.3mとした。
Figure 0007237326000007
[スピンドロー法により製糸可能な条件]
表1に記載のように、第1ロールにおけるV1=1.0(km/分)の場合、第2ロールにおけるV2>1.5(km/分)かつV2<3.0(km/分)で、巻き取り可能であった。
そして第1ロールにおけるV1=2.0(km/分)の場合、第2ロールにおけるV2>2.25(km/分)かつV2<3.75(km/分)で、巻き取り可能であった。
[弾性繊維の比較製造例:高速溶融紡糸による弾性繊維の製造]
図2に高速溶融紡糸などで使用した装置構成を模式的に示す。
上記の熱可塑性弾性樹脂TPEE-1を用いて、巻き取りロールの速度を0.5(km/分)、1.0(km/分)、2.0(km/分)、3.0(km/分)、4.0(km/分)、5.0(km/分)、6.0(km/分)、7.0(km/分)、8.0(km/分)、9.0(km/分)の各速度で高速溶融紡糸し、TPEE-1弾性繊維を作製した。その他の紡糸条件は、紡糸温度210℃、吐出口(紡糸口)径0.5mm、1ホールのノズルを用い、吐出量は3g/分、紡糸長3.3mとした。
なお以下の検討において、特に断らない限り、測定環境は、室温・室湿度である。
[切り離し時の弾性収縮率の検討]
紡糸機停止から3分後に繊維を切断し、その時測定した繊維長から弾性収縮率を算出した。
その際、弾性収縮率(%)を、図5中に模式的に示すように、ロールに巻かれた状態での初期繊維長(本明細書中において「ロール長」ともいう)をL、繊維をロールから切り離した後収縮させた最終繊維長をxとして測定し、(L-x)/L×100により算出した(以下、この値を「測定算出値」という。)。
図6中に、TPEE-1について、V1=1または2(km/分)、および各V2において、スピンドロー法により得た弾性繊維の弾性収縮率の測定算出値を、それぞれ延伸(1km/分)、(2km/分)として示す。この場合V1のいずれの速度においても、V2=1~4(km/分)の範囲において、弾性収縮率=約40~約70%と大きく収縮している。
比較例として、TPEE-1について、横軸の各V1について高速溶融紡糸した弾性繊維の測定算出値を高速紡糸として示す。この場合は、V1=1~4(km/分)の範囲において約0~約50(%)となった。
以上から、インライン延伸を行った後に第2ロールに直接巻き付けた弾性繊維は弾性変形しており、切り離し時に弾性収縮すること、および
高速溶融紡糸で得た弾性繊維(図3)と比較して、スピンドロー法で得た弾性繊維の方が、大きな弾性収縮をすることが示された。
[紡糸線上での延伸による歪が100%回復すると仮定した場合の切り離し時の弾性収縮率の検討]
高速溶融紡糸の結果から推定される、第1ロール上でのV1における弾性伸び、および第1-第2ロール間でのV2における、完全な弾性変形による伸びを仮定すると、期待される最大の弾性収縮率(計算値)を見積もることができる。
そこで初期繊維長をL、延伸倍率をa、延伸時の初期繊維長をa×Lとして、弾性収縮率(%)を、図7中に模式的に示すように、ロールに巻かれた状態での初期繊維長をL、繊維をロールから切り離した後収縮させた最終繊維長をxとして、(a×L-x)/(a×L)×100で算出し、この見積もった値を「計算値」として示す。
図8中に、TPEE-1について、V1=1または2(km/分)、および各V2において、スピンドロー法により得た弾性繊維の弾性収縮率の測定算出値を、それぞれ延伸(1km/分)、(2km/分)として示し、およびそれらの計算値を示す。
いずれの場合もV2=1.5~4(km/分)の範囲において、測定算出値は、弾性収縮率=約50~約70%と大きく収縮していた。
またそれらの計算値は、V1=1(km/分)の場合はほぼ整合していたが、V1=2(km/分)の場合は測定算出値の方が計算値より大きかった。
測定算出値が計算値より小さい値となる場合は、ロール間で延伸(塑性変形)が起こったことを意味すると思料される。しかしこのように、測定算出値が計算値より大きい値となる現象は、予測不能の極めて特異な現象と言える。
こうしたことから、なんらかの理論に拘束されることを意図しないが、高速スピンドロー法では、紡糸速度V1において配向結晶化が起こっているにも拘わらず高次構造の形成が完全には完了していない時点で延伸速度V2により大きな伸長応力が付与されたため、さらに構造変化が進み、それによって構造形成完了時に大きな弾性変形を内在していたと思料される。
[弾性繊維の広角X線回折(WAXD)の検討]
高速紡糸弾性繊維の広角X線回折(WAXD)を調べるために、X線発生装置(Rigaku、RMT-18HFVE)を用いて、電圧45kV、電流60mAで出力し、CCDカメラ(Rigaku、CCD MERCURY)を用いて、照射時間30秒で5回積算することにより回折像を得た。
図9は、各V1、V2におけるスピンドロー法により得た(図9中上部)および比較例として各V1について高速溶融紡糸して得た(図9中下部)TPEE-1弾性繊維の広角X線回折像を示す図である。図9の上部に示されるように、スピンドロー法ではいずれのV1、V2においてもハードセグメントに由来する高度に発達した高配向結晶の生成が確認された。
一方、図9の下部に示されるように、高速溶融紡糸でもV1の速度によらず同様の結果が得られた。
こうしたことから、広角X線回折上では、スピンドロー法と、比較例の高速溶融紡糸との間で差を見いだせなかった。
[弾性繊維の赤道上の強度プロファイルの検討]
弾性繊維の赤道上の強度プロファイルを、回折像のデータから抽出して得た。
図10は、各V1、V2においてスピンドロー法で得たTPEE-1弾性繊維の赤道上の強度プロファイルを示す図である。図10中に示されるように、延伸前の弾性繊維はV1=1(km/分)の場合は結晶構造がほとんど発達していないが、V1=2(km/分)の場合は十分に配向結晶化が進んでいた。一方、インライン延伸後の弾性繊維は発達した結晶構造を有していた。
[弾性繊維の小角X線散乱(SAXS)の検討]
高速紡糸弾性繊維の小角X線散乱(SAXS)を調べるために、X線発生装置(Rigaku、RMT-18HFVE)を用いて、電圧45kV、電流60mAで出力し、CCDカメラ(Rigaku、CCD MERCURY)を用いて、照射時間5分で5回積算することにより回折像を得た。
図11は、各V1、V2におけるスピンドロー法で得た(図11中上部)および比較例として各V1について高速溶融紡糸して得た(図11中下部)TPEE-1弾性繊維の小角X線散乱を示す図である。
図11中に示されるように、V1=1(km/分)のスピンドロー法では、低速域のV2で得た弾性繊維は、散漫な子午線方向に2点像であるのに対し、V2の速度の増加に伴い、先ず、子午線方向に明瞭な2点像が得られ、この2点像が徐々に方位角方向に広がるという特徴を示した。
しかし、V1=1(km/分)の場合、スピンドロー法ではV2が増加しても、高速溶融紡糸の対応するV1の結果と比較してあまり変化がなかった。
一方、V1=2(km/分)のスピンドロー法では、V2の速度の増加に伴いさらに子午線方向に明瞭な2点像が得られ、この2点像が徐々に方位角方向に広がる特徴が明確に現れた。
そして、V1=2(km/分)の場合、スピンドロー法におけるV2は、高速溶融紡糸の結果においてより高速側のV1にシフトした結果に相当していた。
こうしたことから、なんらかの理論に拘束されることを意図しないが、小角X線散乱では、V1=1(km/分)の場合には、スピンドロー法と、比較例の高速溶融紡糸とで差を見いだせなかったものの、V1=2(km/分)のスピンドロー法の場合では、紡糸速度V1における高次構造の形成が完了していない時点で延伸速度V2により大きな伸長応力が付与されたため、さらに構造変化が進み、それによって構造形成完了時に大きな弾性変形を内在していたと思料される。
[弾性繊維の長周期構造の検討]
弾性繊維の長周期を、小角X線散乱(SAXS)像のデータから求めた。
なお、長周期構造とは結晶(主にハードセグメント)と非晶(主にソフトセグメント)の繰り返し構造のことをいう。
図12は、各V1、V2においてスピンドロー法で得た、および比較例として横軸の各V1について高速溶融紡糸して得たTPEE-1弾性繊維の赤道上の長周期プロットを示す図である。図12中に示されるように、V1=2(km/分)のスピンドロー法で得た弾性繊維の結果は、V1=1(km/分)および高速溶融紡糸と比較して、特異的に長周期側にシフトしており、なんらかの構造上の差異を有することが示されたと思料する。
[弾性繊維の応力-歪曲線(SS曲線)および強度-破断時の伸び率曲線の検討]
初期長=20mmの弾性繊維について、公称歪に対する公称応力の特性、および破断時の伸び率に対する強度の特性を、引張試験機(SHIMADZU, AUTOGRAPH AG-1)を用いて300%/分の引張速度で測定した。
・応力-歪曲線
図13の(a)および図14の(a)は、TPEE-1弾性繊維について、比較例としてV1=0.5~9(km/分)にて高速溶融紡糸により得た公称歪(%)に対する公称応力(MPa)の曲線(応力-歪曲線)を示す図である。
図13の(b)は、TPEE-1弾性繊維について、図13(a)からV1=1、2、3(km/分)において高速溶融紡糸して得た弾性繊維の公称歪(%)に対する公称応力(MPa)の曲線を抽出したものである。
図13の(c)は、TPEE-1弾性繊維について、図13(a)から、V1=2、3、4(km/分)において高速溶融紡糸して得た弾性繊維の公称歪(%)に対する公称応力(MPa)の曲線を抽出したものである。
図14の(b)は、TPEE-1弾性繊維について、1_1.5、1_2、1_3(km/分)(それぞれ、「_」の前がV1、「_」の後がV2である)の紡糸速度においてスピンドロー法で得た公称歪(%)に対する公称応力(MPa)の曲線を示す図である。
比較のため、V1=1、2、3(km/分)において高速溶融紡糸して得た公称歪(%)に対する公称応力(MPa)の曲線も同図中に示す。
図14の(c)は、TPEE-1弾性繊維について、2_2.25、2_2.5、2_3、2_3.5、2_3.75、2_3.8(km/分)(それぞれ、「_」の前がV1、「_」の後がV2である)の紡糸速度においてスピンドロー法で得た公称歪(%)に対する公称応力(MPa)の曲線を示す図である。
比較のため、V1=2、3、4(km/分)において高速溶融紡糸して得た公称歪(%)に対する公称応力(MPa)の曲線も同図中に示す。
・破断時の強度-破断時の伸び率曲線
図15は、TPEE-1弾性繊維について、図13の(a)で示した高速溶融紡糸および図14(b)、(c)で示したスピンドロー法で得た応力-歪曲線について、破断時の強度と破断時の伸び率を示す図である。
これらの図に示されるように、高速溶融紡糸では、紡糸速度の増加に伴って、破断強度が増加するとともに、破断伸度は低下している。また、V1=2(km/分)以上になると破断強度は顕著に増加するものの100MPaには達しなかった。
これに対し、スピンドロー法によって得たTPEE-1弾性繊維は、高速溶融紡糸によって得たTPEE-1弾性繊維に比べて、より大きい破断伸度まで、高い破断強度を示した。
同程度の伸び率=約500~約800%において、高速溶融紡糸では、強度が約80~約95MPaであるのに対して、スピンドロー法では、強度が約100~約115MPaと、飛び抜けて顕著に強度が高くなっていることが見出された。
特に、得られたTPEE-1弾性繊維の中で、最も物性の良いV1=2(km/分)、V2=3(km/分)の繊維では、伸度が700%程度、強度が120MPa程度(密度は、概ね1.2g/d程度)であった。
このように、高速溶融紡糸法における速度V1とスピンドロー法における速度V2とが大きく変わらないにもかかわらず、スピンドロー法の方が、飛び抜けて顕著に強度が高くなることからすると、強度-破断時の伸び率曲線からも、スピンドロー法においては、V1後のV2において、弾性繊維になんらかの構造的変化が生じていることを示唆していると思料する。
[弾性繊維の伸長後の残留歪(弾性回復特性)の検討]
V1=3(km/分)おいて高速溶融紡糸にて得たTPEE-1弾性繊維と、V1=1または2(km/分)においてスピンドロー法にて得たTPEE-1弾性繊維について、2倍(100%伸長)~5.5倍(450%伸長)伸長した後の残留歪(%)を、以下の手順により、測定した。
測定には、引張試験機(SHIMADZU, AUTOGRAPH AG-1)を用いた。
試料長(L0)は50mmとし、高速溶融紡糸およびスピンドロー法により得たTPEE-1弾性繊維について、以下の手順で評価した。
1.速度1000(%/分、速度500mm/分に相当)で、100%伸長、150%伸長、200%伸長、250%伸長、300%伸長、350%伸長、400%伸長、450%伸長まで引張った。
2.引張後の保持時間をゼロとし、同じ速度(500mm/分)で初期長まで戻した。
3.その後、保持時間をゼロとし、同じ速度で引張り、応力の立ち上がり位置(L1)を確認した。
残留歪(%)を、下記式(I)を用いて導出した。
残留歪(%)=L1/L0×100(%) (I)
弾性繊維において、残留歪が小さいほど弾性回復特性が良好であり、残留歪0%とは
伸長後の弾性回復率(%)に置き換えると100%回復することを意味する。
伸長率を順次増加させながら、残留歪(%)を測定した。
表2に示す通り、伸長率(初期伸度)が400%を超える範囲で、V1=2(km/分)のTPEE-1弾性繊維は特異的に良好な弾性回復特性を示すことを見出した。
Figure 0007237326000008
以上から整理すると、高速スピンドロー法で得られた弾性繊維は、高速溶融紡糸の場合と比較して、以下のような特徴または利点を有する。すなわち、
a.高速溶融紡糸での収縮率、および追加伸長の倍率から求めた計算値以上の大きな収縮率を有していた。
b.V1=2(km/分)のスピンドロー法で得た弾性繊維は、切り離し時の弾性収縮率、小角X線散乱、長周期において、V1=1(km/分)および高速溶融紡糸と比較して、特異的であり、構造上の差異を有していた、
c.V1=1または2(km/分)のスピンドロー法で得た弾性繊維は、高速溶融紡糸で得られた同伸度の繊維と比較して、強度-破断時の伸び率曲線において顕著に高強度な力学的特性を示した。特に、V1=2(km/分)、V2=3(km/分)の場合に良好な傾向を示した。
d.V1=2(km/分)の高速スピンドロー法で得た弾性繊維は、V1=1(km/分)のスピンドロー法で得た弾性繊維と比較して、特異的に良好な弾性回復特性を示した。
そうしたことから、本発明に係る高速スピンドロー法およびそれによって得られた弾性繊維は、従来技術に対し、紡糸速度V1後の延伸速度V2によるなんらかの特異的な構造的な変化を有するものと思料する。
本発明によれば、従来の弾性繊維とは異なる種々の物性(優れた弾性回復性や、高い応力-歪特性など)を有する新規な弾性繊維が提供されるため、弾性繊維が適用される衣料および非衣料分野の各種用途に好適に使用することができる。

Claims (9)

  1. 弾性繊維を製造する方法であって、
    ハードセグメントとソフトセグメントとを含む熱可塑性弾性樹脂を、引取りロール速度V1で溶融紡糸し、さらに連続して延伸ロール速度V2で延伸する工程を含むと共に、
    前記ハードセグメントが(a)芳香族ジカルボン酸単位と(b)アルキレングリコール単位とから構成され、前記ソフトセグメントが(a)芳香族ジカルボン酸単位と(c)ポリアルキレンエーテルグリコール単位とから構成され、
    前記(b)アルキレングリコール単位が、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、1,3-プロパンジオールおよび1,4-ブタンジオールから選択される少なくとも1種に由来する単位であり、
    前記(c)ポリアルキレンエーテルグリコール単位が、ポリトリメチレンエーテルグリコールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールから選択される少なくとも1種に由来する単位であって、下記の条件(1)~(3):
    (1)V1<V2
    (2)V1=1700~8000m/分
    (3)V2=2600~10000m/分
    をすべて満たすことを特徴とする方法。
  2. 前記樹脂中における前記ソフトセグメントの長鎖ジオール成分の重量比が50%以上である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記樹脂中における前記ソフトセグメントの長鎖ジオール成分の数平均分子量が600~10000である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記ソフトセグメントを構成する長鎖ジオール成分由来の構成単位のうち、少なくとも30重量%が、ポリトリメチレンエーテルグリコールに由来する単位からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記条件(3)がV2=3000~8000m/分である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
  6. V2=2700~10000m/分である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
  7. V2=2800~10000m/分である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
  8. V2=2900~10000m/分である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 請求項1~8のいずれか一項に記載の方法により製造される弾性繊維。
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