次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例であり、本発明の範囲は本実施の形態の範囲に限定されない。
本形態の方法は、原料パルプを解繊して繊維状セルロースを得るにあたり、原料パルプとしてパルプ粘度が所定の範囲にあるパルプを使用し、かつ解繊を平均繊維幅が0.1μm以上のマイクロ繊維セルロースに留まる範囲で行うことを特徴とするものである。また、このようにして得た繊維状セルロースと樹脂とを混練することで、繊維状セルロース複合樹脂を得るものである。以下、詳細に説明する。なお、本形態の方法によって得られる繊維状セルロースは、通常、液体中にセルロース繊維が分散された分散液の状態にある。ただし、本発明の方法によって得られる繊維状セルロースは、分散液の状態にあるものに限定されるものではなく、例えば、繊維状セルロースを含有する物質(含有物)であって水分率が極めて低い(セルロース繊維の濃度が極めて高い)状態にあるものや、水分を含まない状態にあるもの(乾燥体)も含む。また、繊維状セルロースは、樹脂粉末の添加等によって樹脂が含まれた状態にあってもよく、樹脂が含まれた状態にある場合は、複合(混練)にあたって新たに樹脂を添加しても、添加しなくてもよい。
(原料パルプ)
平均繊維幅0.1μm以上のマイクロ繊維セルロースは、原料繊維を微細化(解繊)処理して得ることができる。原料となる繊維としては、植物由来の繊維、動物由来の繊維、微生物由来の繊維等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、植物繊維であるパルプ繊維(原料パルプ)を使用するのが好ましい。原料繊維がパルプ繊維であると、安価であり、また、サーマルリサイクルの問題を避けることができる。
植物由来の繊維としては、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
木材パルプとしては、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、広葉樹サルファイトパルプ(LSP)、針葉樹サルファイトパルプ(NSP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)、古紙パルプ(DIP)、溶解パルプ(DP)の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。これらのパルプは、製紙用途で使用されているパルプであり、これらのパルプを使用することで、既存設備を有効に活用することができる。
なお、広葉樹クラフトパルプ(LKP)は、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプ(NKP)は、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。
また、古紙パルプ(DIP)は、雑誌古紙パルプ(MDIP)であっても、新聞古紙パルプ(NDIP)であっても、段古紙パルプ(WP)であっても、その他の古紙パルプであってもよい。
さらに、機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
溶解パルプ(DP)としては、例えば、広葉樹クラフト溶解パルプ(LDKP)、針葉樹クラフト溶解パルプ(NDKP)、広葉樹サルファイト溶解パルプ(LDSP)、針葉樹サルファイト溶解パルプ(NDSP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
以上のように、原料パルプとしては、多種多様なパルプ繊維を使用することができる。ただし、原料パルプとしては、パルプ粘度が2~20cPのパルプを使用するのが好ましく、パルプ粘度が4~18cPのパルプを使用するのがより好ましく、パルプ粘度が6~15cPのパルプを使用するのが特に好ましい。パルプ粘度が2cPを下回ると、解繊はし易くなるが、樹脂の補強強度に劣るものとなる。他方、パルプ粘度が20cPを上回ると解繊しにくくなりマイクロ繊維セルロースを得るのに多大なエネルギーを必要とするようになり、しかも十分にフィブリル化したマイクロ繊維が得られず、結果、樹脂の補強強度に劣るものとなる。この点、本形態においては、原料パルプの解繊を平均繊維幅が0.1μm以上のマイクロ繊維セルロースに留まる範囲で行うので、セルロースナノファイバーになるまで解繊する場合と異なり、繊維自体が強く保たれる。したがって、パルプ粘度が2cP(下限値)の原料パルプまでが使用可能となる。なお、パルプ粘度はセルロース重合度と相関関係にあるが、実測値と計算値は必ずしも一致しない。原料パルプは純粋なセルロースのみで構成されるものではなく、ヘミセルロース、リグニン等が含まれており、セルロース重合度は原料となるパルプ全体の物性を示すものではないためである。ヘミセルロースやリグニン等を含めたパルプ原料全体の特性であるパルプ粘度を調整することで本発明の効果が得られることを本発明者等は独自に見出した。
なお、解繊前に薬品処理(後述)を施すことでパルプ粘度を調整してもよい。
原料パルプとしては、αセルロース含有量が70%以上のパルプを使用するのが好ましく、αセルロース含有量が75%以上のパルプを使用するのがより好ましくαセルロース含有量が80%以上のパルプを使用するのが特に好ましい。αセルロース含有量が70%を下回ると、つまり、パルプ粘度の低いβセルロースやγセルロースの含有割合が増えると、樹脂の補強効果に劣る傾向がある。
原料パルプのαセルロース含有量は、使用するパルプ繊維の選択で調整することができる。例えば、広葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹半晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹半晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹晒サルファイトパルプ、広葉樹半晒サルファイトパルプ、広葉樹未晒サルファイトパルプ、針葉樹晒サルファイトパルプ、針葉樹半晒サルファイトパルプ、針葉樹未晒サルファイトパルプ、広葉樹クラフト溶解パルプ、針葉樹クラフト溶解パルプ、広葉樹サルファイト溶解パルプ、針葉樹サルファイト溶解パルプ等の中から1種又は2種以上を選択して用いることで上記範囲にαセルロース含有量を調整することができる。また、原料パルプのαセルロース含有量は、後述する解繊前の前処理によっても調整することができる。
原料パルプとしては、リグニン含有量が10%以下のパルプを使用するのが好ましく、リグニン含有量が8%以下のパルプを使用するのがより好ましく、リグニン含有量が6%以下のパルプを使用するのが特に好ましい。セルロースよりもリグニンの方が疎水性が高く、樹脂と相溶性が良い。しかし、リグニン含有量が10%を上回ると、セルロース量が減少し、樹脂の補強効果が劣る傾向がある。また、パルプからリグニンを限りなく除去しようとすると蒸解工程と漂白工程を長時間行う必要があり、同時にパルプ粘度が低下することから、補強効果が低下するおそれがある。そのため、リグニンはある程度残しつつ、補強効果のあるパルプ粘度の高いセルロース量を多くする必要があり、リグニン含有量を上記範囲とするものである。
原料パルプのリグニン含有量は、使用するパルプ繊維の選択で調整することができる。例えば、広葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹半晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹半晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹晒サルファイトパルプ、広葉樹半晒サルファイトパルプ、広葉樹未晒サルファイトパルプ、針葉樹晒サルファイトパルプ、針葉樹半晒サルファイトパルプ、針葉樹未晒サルファイトパルプ、広葉樹クラフト溶解パルプ、針葉樹クラフト溶解パルプ、広葉樹サルファイト溶解パルプ、針葉樹サルファイト溶解パルプ等の中から1種又は2種以上を選択して用いることで上記範囲にリグニン含有量を調整することができる。また、原料パルプのリグニン含有量は、後述する解繊前の前処理によっても調整することができる。
(前処理)
原料パルプは、解繊処理に先立って化学的手法によって前処理するのが好ましい。微細化(解繊)処理に先立って化学的手法によって前処理することで、微細化処理の回数を大幅に減らすことができ、微細化処理のエネルギーを大幅に削減することができる。
化学的手法による前処理としては、酸による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)等を例示することができる。
微細化処理に先立ってアルカリ処理を施すことで、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、微細化処理におけるパルプ繊維の分散を促進する効果がある。
アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を使用することができるが、製造コストの観点から、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
微細化処理に先立って酵素処理や酸処理、酸化処理を施すと、マイクロ繊維セルロースの保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。この点、マイクロ繊維セルロースの保水度が低いほど樹脂への分散性が向上し、マイクロ繊維セルロースの均質性が高いほど繊維状セルロース複合樹脂の破壊要因となる欠点が減少すると考えられ、結果として樹脂の延性を保持することができる強度の大きい繊維状セルロース複合樹脂が得られると考えられる。また、酵素処理や酸処理、酸化処理により、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解され、結果、微細化処理のエネルギーを低減することができ、繊維の均質性や分散性を向上することができる。しかも、分子鎖が整列していて剛直かつ保水度の低いと考えられるセルロース結晶領域の繊維全体に占める割合が上がると、分散性が向上し、アスペクト比は減少すると見られるものの、延性を保持しつつ機械的強度の大きい繊維状セルロース複合樹脂が得られる。
以上の各種処理の中では、酵素処理を行うのが好ましく、加えて酸処理、アルカリ処理、及び酸化処理の中から選択された1又は2以上の処理を行うのがより好ましい。以下、アルカリ処理について、詳しく説明する。
アルカリ処理の方法としては、例えば、アルカリ溶液中に、原料パルプを浸漬する方法が存在する。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、無機アルカリ化合物であっても、有機アルカリ化合物であってもよい。無機アルカリ化合物としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のリンオキソ酸塩等を例示することができる。また、アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム等を例示することができる。アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム等を例示することができる。アルカリ金属のリンオキソ酸塩としては、例えば、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属のリン酸塩としては、例えば、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等を例示することができる。
有機アルカリ化合物としては、例えば、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物及びその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等を例示することができる。具体的には、例えば、例えば、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム等を例示することができる。
アルカリ溶液の溶媒は、水及び有機溶媒のいずれであってもよいが、極性溶媒(水、アルコール等の極性有機溶媒)であるのが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であるのがより好ましい。
アルカリ溶液の25℃におけるpHは、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、特に好ましくは11~14である。pHが9以上であると、マイクロ繊維セルロースの収率が高くなる。ただし、pHが14を超えると、アルカリ溶液の取り扱い性が低下する。
(微細化(解繊)処理)
原料パルプの微細化処理は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー等を使用して原料パルプを叩解することによって行うことができる。ただし、微細化処理は、リファイナーを使用して行うのが好ましい。
リファイナーとは、パルプ繊維を叩解する装置であり、公知のものを用いることができる。リファイナーとしては、パルプ繊維に対して効率的に剪断力を付与し、予備的な解繊を進めることができること等の点から、コニカルタイプやダブルディスクリファイナー(DDR)及びシングルディスクリファイナー(SDR)が好ましい。微細化処理において、リファイナーを用いると、処理後の分離や洗浄が不要となる点からも好ましい。
なお、マイクロ繊維セルロース(MFC)は、セルロースやセルロースの誘導体からなる繊維である。通常のマイクロ繊維セルロースは、強い水和性を有し、水系媒体中において水和することで安定的に分散状態(分散液の状態)を維持する。マイクロ繊維セルロースを構成する単繊維は、水系媒体中において複数条が集合して繊維状をなす場合もある。
微細化(解繊)処理は、マイクロ繊維セルロースの数平均繊維径(繊維幅。単繊維の直径平均。)が0.1μm以上に留まる範囲で行うのが好ましく、0.1~15μmとなる範囲で行うのがより好ましく、0.2~10μmとなる範囲で行うのが特に好ましい。数平均繊維径(幅)が0.1μm以上となる範囲で行うことで、セルロースナノファイバーと異なって脱水が可能になり、また、樹脂の補強効果が向上する。
具体的には、平均繊維径を0.1μm未満にすると、セルロースナノファイバーであるのと変わらなくなり、補強効果(特に曲げ弾性率)が十分に得られなくなる。また、微細化処理の時間が長くなり、大きなエネルギーが必要になり、製造コストの増加につながる。しかも、たとえ樹脂粉末を添加する等したとしても脱水が困難になり、乾燥に大きなエネルギーが必要になる。乾燥に大きなエネルギーをかけるとマイクロ繊維セルロースが熱劣化し、補強効果の低下につながる。他方、平均繊維径が15μmを超えると、繊維の分散性に劣る傾向がある。繊維の分散性が不十分であると、補強効果に劣る。
マイクロ繊維セルロースの平均繊維長(単繊維の長さ)は、0.02~3.0mmとするのが好ましく、0.05~2.0mmとするのがより好ましく、0.1~1.5mmとするのが特に好ましい。平均繊維長が0.02mm未満であると、繊維同士の三次元ネットワークを形成できず、補強効果が著しく低下する恐れがある。なお、平均繊維長は、例えば、原料繊維の選定、前処理、解繊処理で任意に調整可能である。
本形態において、マイクロ繊維セルロースの繊維長は、0.2mm以下の割合が12%以上であるのが好ましく、16%以上であるのがより好ましく、26%以上であるのが特に好ましい。当該割合が12%未満であると、十分な補強効果を得られない可能性がある。他方、マイクロ繊維セルロースの繊維長は、0.2mm以下の割合の上限がなく、全て0.2mm以下であっても良い。
マイクロ繊維セルロースのアスペクト比は、樹脂の延性をある程度保持しつつ機械的強度を向上させるために、2~30000であるのが好ましく、10~10000であるのがより好ましい。
なお、アスペクト比とは、平均繊維長を平均繊維幅で除した値である。アスペクト比が大きいほど樹脂中において引っかかりが生じる箇所が多くなるため補強効果が上がるが、他方で引っかかりが多い分樹脂の延性が低下するものと考えられる。なお、無機フィラーを樹脂に混練した場合、無機フィラーのアスペクト比が大きいほど引張強度が向上するが、引張破断伸びは著しく低下するとの知見が存在する。
本形態において、マイクロ繊維セルロースのフィブリル化率は、1.0%以上であるのが好ましく、1.5%以上であるのがより好ましく、2.0%以上であるのが特に好ましい。また、フィブリル化率は、30.0%以下であるのが好ましく、20.0%以下であるのがより好ましく、15.0%以下であるのが特に好ましい。フィブリル化率が30.0%を超えると、水との接触面積が広くなり過ぎるため、たとえ平均繊維幅が0.1μm以上に留まる範囲で解繊したとしても、脱水が困難になる可能性がある。他方、フィブリル化率が1.0%未満では、フィブリル同士の水素結合が少なく、強硬な三次元ネットワークが不足となる。この点、本発明者等は、マイクロ繊維セルロースのフィブリル化率を1.0%以上にすると、マイクロ繊維セルロースのフィブリル同士が水素結合し、より強硬な三次元ネットワークを構築することを各種試験の過程で見出した。また、フィブリル化率を高くすると樹脂と接する界面が増加するが、後述するように多塩基酸を相溶化剤として又は疎水変性に利用すると、更に補強効果が向上することも見出した。
なお、原料パルプのパルプ粘度が低くなると、フィブリル化率が低くなる傾向がある。これは、パルプ粘度が低い程、低い解繊エネルギーでマイクロ繊維セルロースを得ることができ、逆にパルプ粘度が高い程、マイクロ繊維セルロースを得るために多くの解繊エネルギーが必要になるためである。したがって、解繊においてフィブリル化率を上記範囲内に留まらせる前提として原料パルプのパルプ粘度を特定しておくことが重要である。
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、50%以上であるのが好ましく、55%以上であるのがより好ましく、60%以上であるのが特に好ましい。結晶化度が50%未満であると、樹脂との相溶性は向上するものの、繊維自体の強度が低下するため、樹脂の補強効果に劣る傾向がある。
他方、マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、90%以下であるのが好ましく、88%以下であるのがより好ましく、86%以下であるのが特に好ましい。結晶化度が90%を超えると、分子内の強固な水素結合割合が多くなり繊維自体は剛直となるが、樹脂との相溶性が低下し、樹脂の補強効果に劣る傾向がある。また、マイクロ繊維セルロースの化学修飾がし難くなる傾向もある。なお、結晶化度は、例えば、原料繊維の選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
また、マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度は、2cP以上であるのが好ましく、4cP以上であるのがより好ましい。パルプ粘度が2cP未満であると、たとえマイクロ繊維セルロースに樹脂粉末を添加する等しても、マイクロ繊維セルロースの凝集を十分に抑制することができず、樹脂の補強効果が劣る傾向にある。
マイクロ繊維セルロースのフリーネスは、500cc以下が好ましく、300cc以下がより好ましく、100cc以下が特に好ましい。500ccを超えるとマイクロ繊維セルロースの繊維幅が15μmを超え、補強効果が十分でない。
マイクロ繊維セルロースの保水度は、380%以下であるのが好ましく、360%以下であるのがより好ましく、330%以下であるのが特に好ましい。保水度が380%を超えると、脱水性や乾燥性、樹脂との相溶性が劣る傾向にある。また、樹脂の補強効果を優れたものとするためには、マイクロ繊維セルロースを十分に乾燥し、樹脂への均一な分散を行う必要がある。しかるに、マイクロ繊維セルロースには凝集性があるため、乾燥処理や樹脂との混練処理等に際して凝集する可能性がある。そこで、マイクロ繊維セルロースの保水度を380%以下とし、脱水性や乾燥性、樹脂との相溶性を優れたものとすることで、乾燥処理や樹脂との混練処理等に際する凝集を抑制することができ、樹脂の補強効果を十分なものとすることができる。なお、保水度は、パルプ繊維、前処理工程、微細化処理工程で任意に調整可能である。
(分散液)
微細化処理して得られたマイクロ繊維セルロースは様々な状態にあり、通常は分散液の状態であるが、必要により更に水系媒体を混ぜる等して低濃度の分散液とする。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましいが、一部が水と相溶性を有する他の液体である水系媒体も好ましく使用することができる。他の液体としては、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
分散液は濃縮を行って固形分濃度を調節するのが好ましい。この分散液の固形分濃度は、1.0質量%以上であるのが好ましく、1.5質量%以上であるのがより好ましく、2.0質量%以上であるのが特に好ましい。また、分散液の固形分濃度は、70質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのがより好ましく、50質量%以下であるのが特に好ましい。固形分濃度が70質量%を上回ると、多塩基酸や樹脂粉末、その他の組成物との混合が困難となるおそれがある。なお、微細化処理して得られたマイクロ繊維セルロース(分散液)の固形分濃度は、通常、1.0~3.0質量%である。
本形態のマイクロ繊維セルロースは、ヒドロキシル基の一部又は全部が多塩基酸によって変性されていると好ましいものとなるが、この点については、後述する。
(樹脂粉末の添加)
マイクロ繊維セルロースの分散液には、必要により樹脂粉末を添加して混合する。樹脂粉末を混合すると、次いで脱水・乾燥したマイクロ繊維セルロース同士の水素結合が阻害され、分散性と共に再分散性が向上する。また、樹脂粉末を混合すると、脱水性が向上し、乾燥エネルギーを大きく減らすことができる。したがって、樹脂粉末の添加は、前述した分散液の濃縮に際して行うこともできる。
添加する樹脂としては、例えば、ペレット状の樹脂、シート状の樹脂等もあり得るが、本形態においては粉末状の樹脂(樹脂粉末)を使用する。なお、使用可能な樹脂の種類(成分)等については、後述する樹脂ペレットの場合と同様であるので、ここでの説明は省略する。
樹脂粉末の平均粒子径は、1~1500μmであるのが好ましく、10~1200μmであるのがより好ましく、100~1000μmであるのが特に好ましい。平均粒子径が1500μmを超えると、マイクロ繊維セルロースの分散性・再分散性や脱水性が十分に向上しないおそれがある。他方、平均粒子径が1μm未満であると、微細なためにマイクロ繊維セルロース同士の水素結合を阻害することができないおそれがあり、分散性・再分散性が十分に向上しないおそれがある。また、平均粒子径が1μm未満であると、脱水性も向上しないおそれがある。
マイクロ繊維セルロースの脱水性をより重視する場合、上記樹脂粉末の含有量(添加量)は、マイクロ繊維セルロース100質量部に対して、10~100000質量部であるのが好ましく、100~10000質量部であるのがより好ましい。樹脂粉末の含有量が10質量部を下回ると、脱水性が十分に向上しない可能性がある。他方、樹脂粉末の含有量が100000質量部を上回ると、マイクロ繊維セルロース含有による効果が得られなくなる可能性がある。
(脱水・乾燥)
マイクロ繊維セルロース又はマイクロ繊維セルロース及び樹脂粉末を含む繊維状セルロースは、乾燥及び脱水して繊維状セルロース乾燥体にする。なお、この繊維状セルロース乾燥体は、マイクロ繊維セルロースを含んでいるので単に「繊維状セルロース」ということもでき、また、「繊維状セルロース含有物」ということもできる。
本形態の繊維状セルロースは、セルロースナノファイバーではなく前述した平均繊維幅のマイクロ繊維セルロースを含んでいるので脱水することができる。この脱水性は、前述したようにマイクロ繊維セルロースの保水度が380%以下、あるいはフィブリル化率が30%以下であるとより向上する。さらに、本形態の繊維状セルロースが樹脂粉末を含んでいる場合は、脱水をより容易に行うことができる。乾燥に先立って脱水しておけば、乾燥に要するエネルギーが極めて小さなものとなり、マイクロ繊維セルロースの熱劣化が避けられるため、樹脂の補強効果が向上する。また、樹脂粉末を含んでいると、マイクロ繊維セルロースを繊維状セルロース乾燥体としても再分散しなくなる可能性が低い。
繊維状セルロースの脱水は、例えば、遠心分離脱水、真空脱水、加圧脱水等によることができる。
繊維状セルロースは、樹脂粉末を含んでいる場合及び含んでいない場合のいずれにおいても、含水率が93質量%以下になるまで、好ましくは85~30質量%になるまで、より好ましくは75~40質量%になるまで脱水するとよい。含水率が93質量%以下になるまで脱水することで、体積及び重量を減らすことができるため次工程への運送エネルギーを削減できる。また、次いで行う乾燥に要するエネルギーを減らすことができる。ただし、含水率が30質量%未満にまで脱水するのは脱水工程におけるエネルギー効率に劣り、このような含水率の実現は乾燥によるのが好ましい。
本形態のマイクロ繊維セルロースは、多塩基酸等によって変性される場合と、変性されない場合とがある。多塩基酸によって変性する場合、繊維状セルロース乾燥体(脱水・乾燥した繊維状セルロース)の水分率(含水率)は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0質量%が特に好ましい。水分率が5%を超えると、多塩基酸によってマイクロ繊維セルロースが変性しない可能性がある。また、水分率が高いと、例えば、次いで繊維状セルロース乾燥体を混錬する場合において、当該混練のエネルギーが膨大になり、経済的でない。また、混練エネルギーの増加は、マイクロ繊維セルロースの熱劣化、繊維切断等につながる可能性もある。
他方、多塩基酸によって変性しない場合、脱水・乾燥したマイクロ繊維セルロース乾燥体の水分率は、5質量%超が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上が特に好ましい。含水率が5質量%超であると、次いで繊維状セルロース乾燥体を混錬する場合において、多塩基酸によるセルロース繊維の変性が進まなくなり、得られる繊維状セルロース複合樹脂は多塩基酸を含有するようになる。
脱水処理には、例えば、ベルトプレス、スクリュープレス、フィルタープレス、ツインロール、ツインワイヤーフォーマ、バルブレスフィルタ、センターディスクフィルタ、膜処理、遠心分離機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
乾燥処理には、例えば、ロータリーキルン乾燥、円板式乾燥、気流式乾燥、媒体流動乾燥、スプレー乾燥、ドラム乾燥、スクリューコンベア乾燥、パドル式乾燥、一軸混練乾燥、多軸混練乾燥、真空乾燥、攪拌乾燥等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
脱水・乾燥処理の後には、例えば、粉砕処理を行ってもよい。粉砕処理には、例えば、ビーズミル、ニーダー、ディスパー、ツイストミル、カットミル、ハンマーミル等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
脱水・乾燥した繊維状セルロース乾燥体の形状は、粉末状、ペレット状、シート状等とすることができる。
粉末状とする場合、繊維状セルロース乾燥体の平均粒子径は、1~10000μmが好ましく、10~5000μmがより好ましく、100~1000μmが特に好ましい。平均粒子径が10000μmを超えると、粒子径が大きいため混練装置内に入らないおそれがある。他方、平均粒子径を1μm未満とするには粉砕処理にエネルギーを要するため、経済的でない。
繊維状セルロース乾燥体を粉末状とする場合、嵩比重は、0.01~1.5が好ましく、0.04~1がより好ましく、0.1~0.5が特に好ましい。嵩比重が1.5を超えるということはセルロースの比重が1.5を超えるということであるため、物理的に実現困難である。他方、嵩比重を0.01未満とするのは、移送コストの面から不利である。
(混練)
繊維状セルロース乾燥体は、樹脂を添加して混練し、もって繊維状セルロース複合樹脂とする。この際に添加する樹脂は、ペレット状(樹脂ペレット)であるのが好ましい。また、本工程に先立って、マイクロ繊維セルロースに樹脂粉末を添加している場合は、ここでの樹脂の添加を省略することもできる。本工程において樹脂を添加しない場合は、単に熱を加える等して混練することで、繊維状セルロース乾燥体が繊維状セルロース複合樹脂になる。なお、前述したように本形態における樹脂の種類(成分)等に関する説明は、前述した樹脂粉末にも該当する。
混練に際しては、又は混練に先立って、多塩基酸を添加し、セルロース繊維を多塩基酸によって変性し、又は混練物が多塩基酸を含有するようにすると好適である。なお、混練する際における繊維状セルロース乾燥体の水分率(含水率)が重要なのは、前述したとおりである。また、混練に際しては、通常、脱気することになる。
樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれをも使用することができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン、脂肪族ポリエステル樹脂や芳香族ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、メタアクリレート、アクリレート等のポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
ただし、ポリオレフィン及びポリエステル樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。また、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンを使用するのが好ましい。ポリプロピレンとしては、ホモポリマー、ランダムポリマー、ブロックポリマーの中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。さらに、ポリエステル樹脂としては、脂肪族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等を例示することができ、芳香族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート等を例示することができるが、生分解性を有するポリエステル樹脂(単に「生分解性樹脂」ともいう。)を使用するのが好ましい。
生分解性樹脂としては、例えば、ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル、カプロラクトン系脂肪族ポリエステル、二塩基酸ポリエステル等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、乳酸、リンゴ酸、グルコース酸、3-ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体や、これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、ポリ乳酸、乳酸と乳酸を除く上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリカプロラクトン、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体を使用するのが好ましく、ポリ乳酸を使用するのが特に好ましい。
この乳酸としては、例えば、L-乳酸やD-乳酸等を使用することができ、これらの乳酸を単独で使用しても、2種以上を選択して使用してもよい。
カプロラクトン系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリカプロラクトンの単独重合体や、ポリカプロラクトン等と上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
二塩基酸ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
生分解性樹脂は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂等を使用することができる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
樹脂には、無機充填剤が、好ましくはサーマルリサイクルに支障が出ない割合で含有されていてもよい。
無機充填剤としては、例えば、Fe、Na、K、Cu、Mg、Ca、Zn、Ba、Al、Ti、ケイ素元素等の周期律表第I族~第VIII族中の金属元素の単体、酸化物、水酸化物、炭素塩、硫酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、これらの化合物よりなる各種粘土鉱物等を例示することができる。
具体的には、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、シリカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ほう酸アルミニウム、アルミナ、酸化鉄、チタン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレーワラストナイト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、珪砂、硅石、石英粉、珪藻土、ホワイトカーボン、ガラスファイバー等を例示することができる。これらの無機充填剤は、複数が含有されていてもよい。また、古紙パルプに含まれるものであってもよい。
繊維状セルロース複合樹脂を得るにあたって、本工程で樹脂を添加し、また、本工程に先立って樹脂粉末を添加している場合、本工程での樹脂の添加量は、樹脂粉末の添加量を100質量部とした場合、1~10000質量部とするのが好ましく、10~1000質量部とするのがより好ましい。相対的に、樹脂粉末が多くなると(本工程での樹脂が少なくなると)嵩比重が低くなる傾向であるため混練機での生産量が低下してしまうという傾向がある。他方、樹脂粉末が少なくなると(本工程での樹脂が多くなると)樹脂中でのマイクロ繊維セルロースの分散性や脱水性が低下するという傾向がある。
マイクロ繊維セルロースと樹脂全体(本工程での樹脂、又は樹脂粉末及び本工程での樹脂、又は樹脂粉末)との配合割合は、繊維状セルロース100質量部とした場合、10~100000質量部とするのが好ましく、100~10000質量部とするのがより好ましい。配合割合が上記範囲内であると、繊維状セルロース複合樹脂の強度、特に曲げ強度及び引張り弾性率を著しく向上させることができ、しかも脱水性が優れることを理由として製造コストを下げることができる。なお、最終的に得られる繊維状セルロース複合樹脂に含まれるマイクロ繊維セルロース及び樹脂の含有割合は、通常、製造にあたって使用するマイクロ繊維セルロース及び樹脂の配合割合と同じとなる。
(多塩基酸)
ここで多塩基酸について説明を加える。
マイクロ繊維セルロースを変性する場合、その方法としては、例えば、エステル化、エーテル化、アミド化、スルフィド化等の疎水変性を挙げることができる。ただし、マイクロ繊維セルロースを疎水変性する方法としては、エステル化を採用するのが好ましい。
エステル化の方法としては、例えば、カルボン酸、カルボン酸ハロゲン化物、酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、メタクリル酸、リン酸、スルホン酸、無水多塩基酸及びこれらの誘導体等の疎水化剤によるエステル化を挙げることができる。ただし、疎水化剤としては、無水多塩基酸やその誘導体等の多塩基酸を使用するのが好ましい。
セルロース繊維を多塩基酸で変性する1つの好ましい形態は、セルロース繊維のヒドロキシル基の一部又は全部を下記構造式(1)又は構造式(2)に示す官能基で置換する方法である。
構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。
このような変性を行う多塩基酸としては、例えば、シュウ酸類、フタル酸類、マロン酸類、コハク酸類、グルタル酸類、アジピン酸類、酒石酸類、グルタミン酸類、セバシン酸類、ヘキサフルオロケイ酸類、マレイン酸類、イタコン酸類、シトラコン酸類、クエン酸類等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。だだし、フタル酸、フタル酸塩類及びこれら(フタル酸類)の誘導体の少なくともいずれか1種以上であるのが好ましい。
フタル酸類(誘導体)としては、フタル酸、フタル酸水素カリウム、フタル酸水素ナトリウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸アンモニウム、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジアリル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジノルマルヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリイソデシル等が挙げられる。好適には、フタル酸を使用するのが好ましい。
無水多塩基酸類としては、例えば、無水マレイン酸類、無水フタル酸類、無水イタコン酸類、無水シトラコン酸類、無水クエン酸類等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好適には無水マレイン酸類、より好適には無水フタル酸類を使用するのが好ましい。
無水フタル酸類としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヒドロキシ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4-エチニルフタル酸無水物、4-フェニルエチニルフタル酸無水物が挙げられる。ただし、好適には無水フタル酸を使用するのが好ましい。
無水多塩基酸を使用すると、セルロース繊維を変性する場合においてはヒドロキシル基の一部が所定の官能基によって置換され、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の相溶性が向上する。
一方、多塩基酸によってセルロース繊維を変性せず、多塩基酸を単に含有させる場合においては、当該多塩基酸が相溶化剤として機能し、相溶性が向上する。結果、得られる繊維状セルロース複合樹脂の強度、特に曲げ弾性率が向上する。
なお、多塩基酸を相溶化剤として機能させる場合は、セルロース繊維の変性の進み具合が問題にならないため、得られる繊維状セルロース複合樹脂の品質が安定化する。ただし、混練する際の繊維状セルロース乾燥体の含水率に留意する等して(この点については、前述したとおりである。)、セルロース繊維が変性してしまはないよう注意する必要がある。
無水多塩基酸としては、セルロース繊維を変性させる場合、単に含有させる場合のいずれにおいても、下記の構造式(3)又は構造式(4)を示すものを使用するのが好ましい。
構造式中のRは、直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の飽和炭化水素基又はその誘導基;直鎖状、分枝鎖状、若しくは環状の不飽和炭化水素基又はその誘導基;芳香族基又はその誘導基;のいずれかである。
上記構造式(3)又は構造式(4)を示す無水多塩基酸を使用することによってマイクロ繊維セルロース及び樹脂の相溶性が向上する。
多塩基酸の固形分での配合質量割合は、多塩基酸を変性に利用する場合、単に含有させる場合のいずれにおいても、0.1~50質量%であるのが好ましく、1~30質量%であるのがより好ましく、2~20質量%であるのが特に好ましい。
混練処理には、例えば、単軸又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。それらのなかで、二軸以上の多軸混練機を使用することが好ましい。二軸以上の多軸混練機を1機以上、並列又は直列にして、使用しても良い。
また、二軸以上の多軸混練機のスクリューの周速は、0.2~200m/分が好ましく、0.5~150m/分がさらに好ましく、1~100m/分が特に好ましい。周速が0.2m/分未満の場合は、うまく樹脂中にマイクロ繊維セルロースを分散させることができない。他方、周速が200m/分を超える場合、マイクロ繊維セルロースへのせん断力が過多となり、補強効果が得られない。
本形態において使用される混練機のスクリュー径と混練部の長さの比は、15~60が好ましい。比が15未満の場合は、混練部が短く、マイクロ繊維セルロースと樹脂とを混ぜることができない恐れがある。比が60を超える場合は、混練部が長すぎるため、マイクロ繊維セルロースへのせん断的負荷及び熱劣化が高くなり、補強効果が得られない恐れがある。
混練処理の温度は、樹脂のガラス転移点以上であり、樹脂の種類によって異なるが、80~280℃とするのが好ましく、90~260℃とするのがより好ましく、100~240℃とするのが特に好ましい。
混練に際しては、無水マレイン酸ポリプロピレンを添加しても良い。無水マレイン酸ポリプロピレンの添加量は、マイクロ繊維セルロースの配合量を100質量部として、好ましくは1~1000質量部、より好ましくは5~500質量部、特に好ましくは10~200質量部である。添加量が1質量部を下回ると効果が不十分である。他方、添加量が1000質量部を上回ると過剰添加となり、逆に樹脂マトリックスの強度を低下させる恐れがある。
混練に際しては、マイクロ繊維セルローススラリーのpHを調整する方法として、アミン類を添加しても良い。アミン類としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルプロパン-2-アミン、テトラメチルエチレンアミン、ヘキサメチルアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジン、アニリン、フェネチルアミン、トルイジン、カテコールアミン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オキサゾール、チアゾール、4-ジメチルアミノピリジン等を例示することができる。
アミン類の添加量は、マイクロ繊維セルロースの配合量を100質量部として、好ましくは1~1000質量部、より好ましくは5~500質量部、特に好ましくは10~200質量部である。添加量が1質量部を下回るとpH調整が不十分である。他方、添加量が200質量部を上回ると過剰添加となり、逆に樹脂マトリックスの強度を低下する恐れがある。
マイクロ繊維セルロースを疎水変性する場合の溶媒としては、溶媒なし(溶媒を使用しない)、プロトン性極性溶媒、非プロトン性極性溶媒、非極性溶媒、樹脂等を挙げることができる。ただし、溶媒としては、樹脂を使用するのが好ましく、本形態においては樹脂と混練する際に変性するので、溶媒を実質不要とすることができる。
プロトン性極性溶媒としては、例えば、ギ酸、ブタノール、イソブタノール、ニトロメタン、エタノール、メタノール、酢酸、水等を使用することができる。
非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン等を使用することができる。
非極性溶媒としては、例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、等を使用することができる。
マイクロ繊維セルロース及び樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差は、マイクロ繊維セルロースのSPMFC値、樹脂のSPPOL値とすると、SP値の差=SPMFC値-SPPOL値とすることができる。SP値の差は0.1~10が好ましく、0.5~8がより好ましく、1~5が特に好ましい。SP値の差が10を超えると、樹脂中でマイクロ繊維セルロースが分散せず、補強効果を得ることはできない。他方、SP値の差が0.1未満であるとマイクロ繊維セルロースが樹脂に溶解してしまい、フィラーとして機能せず、補強効果が得られない。この点、樹脂(溶媒)のSPPOL値とマイクロ繊維セルロース(溶質)のSPMFC値の差が小さい程、補強効果が大きい。なお、溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)とは、溶媒-溶質間に作用する分子間力を表す尺度であり、SP値が近い溶媒と溶質であるほど、溶解度が増す。
(その他の原料)
マイクロ繊維セルロースには、セルロースナノファイバー、ミクロフィブリルセルロース、ミクロフィブリル状微細繊維、微少繊維セルロース、ミクロフィブリル化セルロース、スーパーミクロフィブリルセルロース等と称される各種微細繊維の中から1種又は2種以上を含ませることができ、また、これらの微細繊維が含まれていてもよい。また、これらの微細繊維を更に微細化した繊維をも含ませることもでき、また、含まれていてもよい。ただし、全原料繊維中におけるマイクロ繊維セルロースの割合が10質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは60質量%以上となるようにする必要がある。
また、以上のほか、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた植物材料に由来する繊維を含ませることもでき、含まれていてもよい。
繊維状セルロース複合樹脂の原料としては、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の他、例えば、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤、ラジカル捕捉剤、発泡剤等の中から1種又は2種以上を選択して、本発明の効果を阻害しない範囲で使用することができる。
これらの原料は、マイクロ繊維セルロース(分散液)に混合しても、繊維状セルロース乾燥体及び樹脂の混練の際に併せて混練しても、これらの混練物に混練しても、その他の方法で混練してもよい。ただし、製造効率の面からは、繊維状セルロース乾燥体及び樹脂の混練の際に併せて混練するのが好ましい。
樹脂には、エチレン-αオレフィン共重合エラストマー又はスチレン-ブタジエンブロック共重合体が含有されていてもよい。α-オレフィンの例としては、ブテン、イソブテン、ペンテン、ヘキセン、メチル-ペンテン、オクテン、デセン、ドデセン等が挙げられる。
(成形処理)
繊維状セルロース乾燥体及び樹脂の混練物は、必要により再度混練処理を行った後、所望の形状に成形して繊維状セルロース複合樹脂とすることもできる。なお、混練物に変性マイクロ繊維セルロースが分散していても、成形加工性に優れている。
成形の大きさや厚さ、形状等は、特に限定されず、例えば、シート状、ペレット状、粉末状、繊維状等とすることができる。
成形処理の際の温度は、樹脂のガラス転移点以上であり、樹脂の種類によって異なるが、80~280℃とするのが好ましく、90~260℃とするのがより好ましく、100~240℃とするのが特に好ましい。
成形処理の装置としては、例えば、射出成形機、吹込成形機、中空成形機、ブロー成形機、圧縮成形機、押出成形機、真空成形機、圧空成形機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
成形処理は、公知の成形方法によることができ、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等によることができる。また、混練物を紡糸して繊維状にし、前述した植物材料等と混繊してマット形状、ボード形状とすることもできる。混繊は、例えば、エアーレイにより同時堆積させる方法等によることができる。
なお、この成形処理は、混練処理に続いて行うことも、混練物をいったん冷却し、破砕機等を使用してチップ化した後、このチップを押出成形機や射出成形機等の成形機に投入して行うこともできる。
(用語の定義、測定方法等)
明細書中の用語は、特に断りのない限り、以下のとおりである。
(平均繊維径)
固形分濃度0.01~0.1質量%のマイクロ繊維セルロースの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて5000倍、10000倍又は30000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
(平均繊維長・フィブリル化率)
平均繊維長とフィブリル化率は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定する。
(アスペクト比)
上記平均繊維長を平均繊維幅(径)で除した値である。
(結晶化度)
JIS-K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、マイクロ繊維セルロースは、非晶質部分と結晶質部分とを有し、結晶化度は、マイクロ繊維セルロース全体における結晶質部分の割合を意味することになる。
(パルプ粘度)
TAPPI T254-cm10に準拠して測定する。なお、パルプ粘度が高いほどマイクロ繊維セルロースの重合度が高いことを意味する。
(αセルロース含有量)
TAPPI T203-om83に準じて測定する。
(リグニン含有量)
TAPPI T222-om83に準じて測定する。
(フリーネス)
JIS P8121-2:2012に準拠して測定した値である。
(含水率(水分率))
繊維の水分率は、定温乾燥機を用いて、試料を105℃で6時間以上保持し質量の変動が認められなくなった時点の質量を乾燥後質量とし、下記式にて算出した値である。
繊維水分率(%)=[(乾燥前質量-乾燥後質量)÷乾燥前質量]×100
(保水度)
J A P A N T A P P I N o . 2 6 : 2 0 0 0 に準拠した保水度の測定法により、測定した値である。
次に、本発明の実施例を示し、本発明の作用効果を明らかにする。
(実施例1)
まず、表1に示すパルプ粘度、αセルロース含有量、及びリグニン含有量の原料パルプを解繊して平均繊維幅が0.1μm以上のマイクロ繊維セルロース(繊維状セルロース)を得た。次に、このマイクロ繊維セルロースを固形分濃度2.75重量%の水分散液とした。この水分散液365gは、ポリプロピレン粉末83gを添加し、マイクロ繊維セルロース含有物とした。このマイクロ繊維セルロース含有物は、105℃で加熱乾燥しマイクロ繊維セルロース乾燥体とした。この乾燥体の含水率は10%未満であった。マイクロ繊維セルロース乾燥体とフタル酸7gとを180℃、200rpmの条件で二軸混練機にて混練し、マイクロ繊維セルロース複合樹脂(繊維状セルロース複合樹脂)を得た。このマイクロ繊維セルロース複合樹脂をペレッターで2mm径、2mm長の円柱状にカットし、180℃で直方体試験片(長さ59mm、幅9.6mm、厚さ3.8mm)に射出成形した。
マイクロ繊維セルロース(MFC)の物性、及びマイクロ繊維セルロース、薬品(フタル酸)、及び樹脂粉末(PP)の配合割合は、表1に示した。
得られた繊維状セルロース複合樹脂の成型物について、曲げ試験を行った。結果は、表1に示した。なお、曲げ試験の評価方法は、次のとおりである。
(曲げ試験)
曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に準拠して測定した。表中には、評価結果を以下の基準で示した。
樹脂自体の曲げ弾性率を1として複合樹脂の曲げ弾性率(倍率)が1.5倍以上の場合 :○
樹脂自体の曲げ弾性率を1として複合樹脂の曲げ弾性率(倍率)が1.5倍未満の場合:×
(その他の実施例及び比較例)
表1に示すように、各種条件を変化させて実施例1と同様の試験を行った。結果は、表1に示した。なお、薬品は基本的に混練直前に添加することとした。