JP7217555B2 - 水不溶性炭水化物を離解する方法 - Google Patents

水不溶性炭水化物を離解する方法 Download PDF

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Description

特許法第30条第2項適用 ウェブサイト:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jag/advpub/0/advpub_jag.JAG-2021_0009/_article/-char/jaにおける、Journal of Applied Glycoscience、2021年68巻4号p.77-87に掲載される徳安 健らによる論文の速報版の公開(令和3年10月4日)
特許法第30条第2項適用 Journal of Applied Glycoscience 2021年68巻4号p.77-87として掲載された徳安 健らによる論文の発表(令和3年11月20日)
特許法第30条第2項適用 ウェブサイト:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nfri/144062.html、およびhttps://www.naro.go.jp/english/laboratory/nfri/press/natapuree/index.htmlにおける国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構によるプレスリリースの公開(令和3年10月4日)
特許法第30条第2項適用 ウェブサイト:https://conference-park.jp/conference/32における国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構主催第39回公開講演会における徳安 健による発表に関する要旨集の公開(令和3年11月1日)
特許法第30条第2項適用 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構主催第39回公開講演会における徳安 健による発表(令和3年11月10日)
特許法第30条第2項適用 化学工業日報 令和3年10月8日付け第3面(健康社会)における徳安 健らによる発明に関する記事の公開(令和3年10月8日)
特許法第30条第2項適用 日本経済新聞社に対するウェブ説明会における徳安 健らによる発表(令和3年11月9日)
特許法第30条第2項適用 「食品の試験と研究」第56号(令和3年度版)における徳安 健による解説記事の公開(令和3年11月12日)
特許法第30条第2項適用 食品産業新聞社ウェブサイト:https://www.ssnp.co.jp/news/rice/2021/11/2021-1125-1013-16.htmlにおける徳安 健らによる発明に関する記事の公開(令和3年11月25日)
本開示は、水溶性多糖と水不溶性炭水化物とを含む複合体、およびそれを製造する方法に関する。
セルロース繊維を解織してセルロースナノファイバーを製造する技術に関しては、主に植物由来パルプを原料としたTEMPO酸化・リン酸エステル化、酵素加水分解法のような化学的方法や、グラインダー、ホモジナイザー、水中対向衝突法などが知られている。
バクテリアセルロースを離解することで、紙質感の低い良質なセルロースファイバーが得られると期待されており、例えば、バクテリアセルロースをパルプ解織装置で処理した後にホモジナイザーで加圧解織処理を行い、チョコレートドリンク、クラムペースト、アイスクリーム、豆腐、かまぼこ、ハンバーガーパテ、ソーセージ、及び餡などに添加する技術が知られている。また、ナタデココをブレンダーで20,000rpmで10分間処理した後、高圧均質化処理(最大600barで10回通過)する方法や、高剪断ブレンダーで解織し、さらに超音波装置で処理する方法も知られている。
このようにセルロースを離解することで得られるセルロース離解物については、食品分野において種々の応用が期待されている。また、セルロースを主成分とする植物茎葉部、キチンやそれを主成分とする甲殻類外殻などの水不溶性炭水化物を離解することで、食品産業のみならず、プラスチック、繊維、膜、紙などの非可食品産業においても利用性が向上することから、高い注目を集めている。
本発明者らは、セルロースに象徴される水不溶性炭水化物の離解工程において起こり得る新たなセルロース表面の出現が、近傍のセルロース同士の会合を起こし、繊維の絡み合いを促すために離解がうまくいかないという仮説に基づき、鋭意研究を行った結果、水不溶性炭水化物の離解工程において、水不溶性炭水化物と相互作用を示す多糖が離解時に共存することが、有用な水不溶性炭水化物の離解物を提供するために有効であることを見出した。
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
水溶性多糖と水不溶性炭水化物とを含む複合体。
(項目2)
前記水不溶性炭水化物が、水に溶解した前記水溶性多糖との共存下で離解されている、上記項目に記載の複合体。
(項目3)
前記水溶性多糖が、キシランまたはその誘導体、β-グルカンまたはその誘導体、マンナンまたはその誘導体、水溶性セルロース誘導体またはその塩、キトサンまたはその誘導体、アルギン酸またはその塩またはそれらの誘導体、カラギーナン、ジェランガム、ペクチンまたはその部分構造物またはそれらの誘導体、またはそれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目4)
前記β-グルカンまたはその誘導体が、(1-3),(1-4)β-グルカンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目5)
前記β-グルカンまたはその誘導体が、タマリンドシードガムを含む、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目6)
前記水不溶性炭水化物がバクテリアセルロースを含む、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目7)
前記水不溶性炭水化物が食品用ブレンダーまたは食品用ミキサーによって離解される、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目8)
水不溶性炭水化物の離解後に水不溶性炭水化物を混合した組成物と比較した場合に、前記複合体は、該組成物よりも大きい体積を有する、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目9)
前記水溶性多糖が(1-3),(1-4)β-グルカンであり、前記水不溶性炭水化物がセルロースである、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目10)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体を含む、結着させる対象の結着性向上剤。
(項目11)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体を含む、混合する対象の粘着性抑制剤。
(項目12)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体を含む、混合する飲食品の食感変化剤。
(項目13)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体を含む、混合する対象の増粘安定性変化剤。
(項目14)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体を含む、透水の抑制または制御剤。
(項目15)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体を含む、生分解性素材または生体適合性素材。
(項目16)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体を含む、紙、繊維、またはプラスチックの改質剤。
(項目17)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体を含む、飲食品の繊維質感向上剤。
(項目18)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体と水不溶性粒子とが結着した組成物に、上記項目のいずれか一項に記載の複合体または上記項目のいずれか一項に記載の抑制または制御剤が被覆された、水中での崩壊性が抑制された組成物。
(項目19)
前記水不溶性粒子が、澱粉、セルロース、またはβ-1,3-グルカンから選択される少なくとも一種類の材料を含む粒子を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目20)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体から得られる飲食品。
(項目21)
菓子、麺、クリーム、エマルジョン、3Dプリント食品、肉代替物、脂質代替物、食品結着剤、分散媒、とろみ付与剤、ペースト調製剤、色素吸着剤、吸水調整剤、及び寒天混合ゲルを含む、上記項目のいずれか一項に記載の飲食品。
(項目22)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体と飲食品との混合物を含む、3Dフードプリンタ用飲食品。
(項目23)
上記項目のいずれか一項に記載の複合体とゲル化剤とを含む飲食品。
(項目B1)
結着させる対象の結着性を向上させるための、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目B2)
混合する対象の粘着性を抑制させるための、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。(項目B3)
混合する食品の食感を変化させるための、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目B4)
混合する対象の増粘安定性を変化させるための、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目B5)
透水を抑制または制御するための、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目B6)
生分解性素材または生体適合性素材として使用するための、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目B7)
紙、繊維、またはプラスチックの改質剤として使用するための、上記項目のいずれか一項に記載の複合体。
(項目A1)
水溶性多糖と水不溶性炭水化物とを含む複合体を製造する方法であって、
水に溶解した水溶性多糖との共存下で、水不溶性炭水化物を離解する工程
を含む、方法。
(項目A2)
前記複合体が、食品素材の結着性を向上させる、上記項目に記載の方法。
(項目A3)
前記水溶性多糖が、キシランまたはその誘導体、β-グルカンまたはその誘導体、マンナンまたはその誘導体、水溶性セルロース誘導体またはその塩、キトサンまたはその誘導体、アルギン酸またはその塩またはそれらの誘導体、カラギーナン、ジェランガム、ペクチンまたはその部分構造物またはそれらの誘導体、またはそれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A4)
前記β-グルカンまたはその誘導体が、(1-3),(1-4)β-グルカンを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A5)
前記β-グルカンまたはその誘導体が、タマリンドシードガムを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A6)
前記水不溶性炭水化物がバクテリアセルロースを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A7)
前記水不溶性炭水化物が食品用ブレンダーまたは食品用ミキサーによって離解される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A8)
水不溶性炭水化物の離解後に水不溶性炭水化物を混合した組成物と比較した場合に、前記複合体は、該組成物よりも大きい体積を有する、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A9)
前記離解時の前記水不溶性炭水化物の濃度が、前記水不溶性炭水化物、前記水、及び前記水溶性多糖を足した重量に対する比として、少なくとも約0.001である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目A10)
3Dフードプリンタ用飲食品を製造する方法であって、
水に溶解した水溶性多糖との共存下で、水不溶性炭水化物を離解する工程と、
前記離解する工程によって得られる、前記水溶性多糖と前記水不溶性炭水化物とを含む複合体と、任意の飲食品の原料とを混合する工程と
を含む、方法。
(項目A11)
均質性の高いゲルを形成する方法であって、
水に溶解した水溶性多糖との共存下で、水不溶性炭水化物を離解する工程と、
前記離解する工程によって得られる、前記水溶性多糖と前記水不溶性炭水化物とを含む複合体と、ゲル化剤とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を溶媒中で分散させる工程と、
前記混合物に加熱及び/または冷却処理を行う工程と
を含む、方法。
(項目A12)
前記加熱及び/または冷却処理がレーザー加工を含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
本開示の方法によって得られる水不溶性炭水化物の離解物は、様々な物質や工程に適用することができ、器具との付着性低減などの効果も有することから、自動調理工程、特に3Dフードプリンタにおける素材として有用である。
また本技術は、食品、繊維、日用品等の製造に活用できる新素材を提供することができる。特に、食品加工工程においては、低カロリー・無カロリーの脂質代替物、肉代替物、エマルジョン素材、ソース・たれ・クリームなどとして利用できる。また食感調整や素材の結着材料として活用でき、離解された水不溶性炭水化物や離解時に共存する多糖により、食物織維源としても利用できる。さらに、本技術は、咀嚼や飲み込みに問題がある者に対する生活の質を維持するための「スマイルケア食」に代表されるような食品の製造にも利用できる。また、3Dフードプリンタにおける水移動の制御、粉末の分散性向上、色素等の成分保持などを通じたペースト特性の制御による素材の適用範囲の拡大、混練時における容器への付着防止にも役立つ。
さらに、結着性、成形性、生分解性、生体適合性等の機能をもつ非可食素材として、プラスチック代替物、膜、粉末、繊維、固体貯蔵物などへの適用が期待される。
図1Aは、ナタデココセルロースの多糖存在下での離解物(8倍希釈物)のスクリーン透過率を示すグラフである。 図1Bは、対照区(BC+キシログルカン(離解後に添加))及び試験区(BC+キシログルカン(離解前に添加))における分散性の差を示す写真である。 図2は、本開示の一実施形態における複合体の着色試料(左)及びその加熱調理品(右)を示す写真である。 図3は、本開示の一実施形態に係る複合体の混練操作時における付着例を示す写真である。左:対照試料、右:β-グルカン添加・離解物添加試料 図4は、対照試料(左)及びβ-グルカン添加・離解物添加試料(右)を焼き上げたものを示す写真である。 図5は、β-グルカン添加・離解物由来(左)及びキトサン添加・離解物由来(右)の薄膜を示す写真である。 図6は、キトサン添加・離解物の射出・ゲル化物(左)、および澱粉を混合したアルギン酸ナトリウム添加・離解物の射出・ゲル化物(右)を示す写真である。 図7は、本開示の一実施形態に係る複合体による、とろみをもつ醤油タレを示す写真である。 図8は、シリンジ設置様式の模式図(左)及びそのシリンジの設置後の写真(右)である。 図9は、本開示の一実施形態に係る複合体(ゲル)を射出したときの写真である。 図10は、射出後の成形物(上左;ヒモ状、上右:うず上)及び加熱後の成形物(下)を示す写真である。 図11は、米澱粉を水と混合した物(左)及び米澱粉をBCのβ-グルカン添加・離解物と混合した物(右)を示す写真である。写真の上側が高く、下側が低くなるよう斜めに配置。左の試料では、液状の混合物が流れて一方に寄っている。 図12は、米澱粉とBCのβ-グルカン添加・離解物と混合したものによる成形物(皿上)を示す写真である。 図13は、図12の成形物を電子レンジで蒸し加熱した後に取り出したものを示す写真である。 図14は、肉代替食品に水を添加したもの(左)及びBCのβ-グルカン添加・離解物を加えて成形したもの(右)を示す写真である。 図15は、オーブントースターで焼き上げた後の成形物を示す写真である。 図16は、加熱処理前の成形物(左図左:(1)、左図右:(2)、右図左:(3)、右図右:(4))を示す写真である。 図17は、加熱後の成形物(左下:(1)、左上:(2)、右上:(3)、右下:(4))を示す写真である。 図18は、オーブントースターで焼き上げた後の成形物を示す写真である。 図19は、ホイップクリーム様食品を示す写真である。左:泡立て後、右:押し出し・配置後 図20は、粉砕時間を変えた際のダマ状の粉砕物の浮遊の様子を示す写真である。左から右へ、粉砕時間5秒、10秒、15秒、20秒、25秒及び30秒後の試料である。 図21は、BC離解物と米澱粉の混練物(左)及び茹でた後の麺様食品(右)を示す写真である。 図22は、米澱粉とBC離解物を混練後に粒状に配置したもの(左)及びそれらを茹でた後の粒状食品(右)を示す写真である。 図23は、ジャガイモ粉末とBC離解物の混練物(左)及び茹でた後の団子状食品(右)を示す写真である。右図の最も右に位置する一個のみが、茹でる前の団子様食品を示す。 図24は、ジャガイモペーストの射出物を示す写真である。 図25は、茹で上げた後にざる上で流水冷却した短麺を示す写真である。 図26は、大豆粉懸濁物に水(左)またはBCから得た(1-3),(1-4)β-グルカン添加・離解物(右)を添加して5時間後の状態を示す写真である。 図27は、クルクミン分散物に水(左)またはBCから得た(1-3),(1-4)β-グルカン添加・離解物(右)を添加し、遠心分離したものを示す写真である。 図28は、グルカンから構成される円盤状の乾燥組成物(横から見たもの)を示す写真である。試料の上部中央の半球状の凸部分は、上部に置いた水滴が内部に浸透せずに残っている状態を示す。 図29は、稲わら由来のわら半紙状の膜を示す写真である。 図30は、本開示の一実施形態に係る複合体を添加した米粉を加熱した写真である。 図31は、本開示の一実施形態に係る複合体を添加した薄力粉の沈降率を示すグラフである。 図32は、本開示の一実施形態に係る複合体を添加した米粉の沈降率を示すグラフである。 図33は、キサンタンガムを添加した薄力粉および米粉の沈降率を示すグラフである。各キサンタンガム濃度におけるデータを示し、左棒が薄力粉、右棒が米粉を示す。 図34は、本開示の一実施形態に係る複合体、またはキサンタンガムを添加した薄力粉および米粉の分散状態を示す写真である。 図35左は、本開示の一実施形態に係る複合体と薄力粉とを混和して得たスラリーのシリンジ充填物の写真を示す。図35右は、そのシリンジからの薄力粉スラリーの吐出物の写真を示す。 図36は、本開示の一実施形態に係る複合体と薄力粉とを混和して得たスラリーのシート状成形物、並びにそのスラリーにターメリック粉末またはパセリ粉末を混合して調製したシート状成形物を示す写真である。 図37は、本開示の一実施形態に係る複合体を添加したことによる野菜ペーストの硬度上昇を示すグラフである。
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
本明細書において、「離解」とは、バクテリアセルロースやパルプなどの繊維に代表されるような水不溶性炭水化物を解繊し、または解きほぐし、スラリー状にすることをいう。また、離解した物は、「離解物」という。
本明細書において「多糖」とは、複数の単糖が重合したものをいい、本開示では代表的に五糖以上の任意の単糖を含む。多糖に使用される単糖は特に限定されるものではないが、例えば、グルコース、ガラクトース、フラクトース、キシロース、アラビノース、ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンノース、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン、ラムノース、アンヒドロガラクトースなどを含み、これらの側鎖が修飾されたもののうち、1種類または複数種類から構成されるものを含むことができる。単糖の結合様式は、直鎖状、枝分かれ状、及び環状に加えて、それらのうち複数の様式をとるものや、他の糖、タンパク質、または脂質などの糖以外の物質と結合しているものも含まれる。
本明細書において、「水溶性多糖」とは、水溶性の多糖類を意味し、天然物としても多種の化合物が存在するが、本明細書では天然物の他、人工的に合成したものを用いてもよい。本明細書において、水溶性多糖には、そのままでは水溶性ではないものの、酸やアルカリによって処理した後、または加熱処理などした後に水溶性となる多糖類も含まれる。例えば、これらに限られるものではないが、キシランまたはその誘導体(グルクロン酸残基、アラビノース残基等で置換されている状態のものを含む。)、β-グルカンまたはその誘導体((1-3),(1-4)β-グルカン、キシログルカン、キサンタンガム、タマリンドシードガム(主成分:キシログルカン)など)、マンナンまたはその誘導体(ガラクトマンナンなど)、水溶性セルロース誘導体またはその塩(カルボキシメチルセルロース塩、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどセルロースを化学修飾した多糖を含む。)、キトサンまたはその誘導体(部分脱アセチル化キチンなど)、アルギン酸またはその塩またはそれらの誘導体、カラギーナン、ジェランガム、ペクチンまたはその部分構造物またはそれらの誘導体、及びそれらの任意の組み合わせを含むことができる。
本明細書において「炭水化物」とは、基本的に単糖を主要構成成分とする物質をいい、可食性炭水化物としては、消化性糖質および食物繊維を含む。炭水化物には、天然物としても多種の化合物が存在するが、本明細書で用いられる炭水化物は、人工的に合成したものであってもよく、炭水化物以外の物質を含む状態で存在していても良い。また、非可食性の植物細胞壁、微生物菌体内または菌体外多糖、種子、根、塊茎等における貯蔵性多糖、動物軟骨内多糖、動物細胞外マトリックス多糖、細胞外骨格多糖なども本明細書における炭水化物に含まれる。
本明細書において、「水不溶性炭水化物」とは、水不溶性の炭水化物全般を意味する。水不溶性炭水化物は、例えば、バクテリアセルロース(ナタデココ)、澱粉、キチン、キトサン、パラミロン、ペプチドグリカン、マンナン、植物セルロース(パルプ)、植物繊維質(野菜粉など)などの水不溶性のセルロースを主成分とする植物組織、カニ殻、海老殻、動物組織、昆虫粉末、藻類菌体、糸状菌菌体、酵母菌体、細菌菌体(納豆菌菌体、乳酸菌菌体など)などを含むことができる。また水不溶性炭水化物は、複数種類の炭水化物から構成される水不溶物であっても良い。
本明細書において「複合体」とは、複数の構成単位が複合して形成される物質を言い、ここで複合する状態は、水または水溶液中における水不溶性炭水化物の表面近傍、つまり固液界面近傍に、水または水溶液に溶解している水溶性多糖が非共有結合を主とした相互作用により存在している状態をいう。
本明細書において「共存下」とは、水不溶性炭水化物と水溶性多糖とが同時に同じ系内に存在することをいい、本開示の水不溶性炭水化物の離解操作を行う際に、水溶性多糖が溶解した状態で存在していることをいう。本開示の離解操作を行う際には、共存下にある水溶性多糖の少なくとも一部は、新たに水不溶性炭水化物との複合体を形成できる状態にある。水不溶性炭水化物の離解操作後に水溶性多糖を加える態様は本明細書の「共存下」とはいえず、既に水溶性多糖が水不溶性炭水化物との複合体を形成してしまっているようなものを離解する態様も、本明細書の「共存下」での離解とはいえない。
本明細書において、「結着性」とは、肉片、大豆粉、ジャガイモ粉などの物質に水や脂肪等を加えて練り合せた場合、それらが互いに密着する性質を意味し、肉や脂が練り合わされるときのくっつき易さの程度を示す。結着性は、例えば、結着対象となる物質を結着した後に、それに振動を与えて崩壊度合いを測定するなどして評価することができる。
本明細書において、「粘着性」とは、粘り着く性質のことであり、接着性、またはべとつきともいう。粘着性は、例えば、ペーストの攪拌時の粘り気の強さ、攪拌器具や容器への付着度の目視、成形後にプローブを接触させて、それを引き離す際の応力を測定するなどして評価することができる。
本明細書において、「増粘安定性」とは、粘度を高め、ゾル・ゲルの安定性を高めることをいい、粘性を上げて液状の食品を安定化したり、固形物の分散性を安定化したり、またはゲル化することで形状を安定化して食感を付与したりすることができる。増粘安定性は、例えば、粘度の測定、流動性の特性、粘弾性の測定などによって評価することができる。
本明細書において、「生分解性素材」とは、自然界の土の中や水中に存在する微生物の働き、またはこの微生物の働きに、環境中における化学反応、物理的な破壊などの作用が加わることによって、環境への悪影響が問題とならない低分子化合物に分解される高分子をいう。生分解性は、例えば、微生物培地に分散させて、微生物の成育に伴い濁度が低下することで評価することができる。
本明細書において、「生体適合性素材」とは、生体に接触した場合に、物理的、化学的な生体への悪影響が問題にならず、免疫反応などの生理学的な拒絶反応などの問題を生じない性質を有する材料をいう。生体適合性は、例えば、用途に応じて、生化学試験、細胞試験、動物試験、ヒト試験等を行うことで確認することができる。
本明細書において、素材の「透水」とは、素材が水と接触した際に、素材の接触面から吸水して素材内部に水を染み込ませる過程をいう。透水性は、流路が確保されているか否かなどの素材の構造による影響を受けるが、例えば、素材と気体との界面において、水滴を配置し、その水滴が速やかに素材の内側に入り込んでいくか否かを観察することにより評価することができる。
本明細書において「食品用ブレンダー」または「食品用ミキサー」とは、一般流通過程において入手可能ないわゆる家庭用のブレンダーまたはミキサーをいい、例えば、1回の処理で約20リットル以下であり、連続的処理を行う場合に約1時間あたり約50リットル以下の処理能力であるものであり、家庭用電機販売店・ネット販売サイトで家庭、ケーキ店、食材製造店、レストラン、小規模の食品製造店等向けに売られているものを含む。食品用ブレンダーまたは食品用ミキサーとしては、一人分~十数人分の食品をブレンド及び/またはミックスするための装置ないし機器を挙げることができる。工業用の、例えば1回の処理で約20リットルを越えたり、連続的処理を行うことで約1時間あたり約50リットルを越えたりするような処理能力をもつ製造用機械としてのブレンダー、ミキサー、高圧処理装置、超音波破砕装置などの試験研究用装置、パルプ産業用のいわゆるリファイナー・解繊装置、マスコロイダー(増幸産業(株))、ボールミル、ビーズミルなどの工業用装置は含まれない。
本明細書において「食感」とは、食物を飲食した際に感じる五感のうち、歯や舌を含む口腔内の皮膚感覚を指す。具体的には歯ごたえ、舌触り、喉ごしなどがこれにあたる。味覚など他の感覚とともに「おいしさ」を構成するうえで重要な要素である。食感は、例えば、ヒト試験の他、動的粘弾性測定装置、咀嚼モデル等を用いた機器計測法を用いて評価することができる。
本明細書において、紙などの「改質剤」とは、対象となる物質に対して添加する場合に、添加前と比較して、その物質の性質が向上するような添加物をいい、例えば、紙の改質剤は、紙の平滑性が増したり、力学的特性が向上したり、撥水性が付与されたり、色調が変化したり、生分解性が変化したりすることができる。
本明細書において、「膜成形性」とは、膜を成形する際の性質をいい、成膜性ともいう。例えば、成膜性の高い素材は、膜を調製した際に、望まない形状に収縮したり、不均質で凸凹がある平面が得られなかったり、土台のスクリーンや台からの剥離性が低かったりするような成膜上の問題を少なくすることができる。この特性は成膜方法に依存し、副資材の添加により成膜性を向上させることもできる。
本明細書において、「高分散性」とは、水、水溶液、ゾルなどの溶質中に分散する粒子、またはコロイドなどの水不溶性分子が、時間とともに会合したり浮遊・沈澱したりして、初期の分散状態を保てなくなる性質に対して、それが起こらないかまたは起こりにくい特性をいう。
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。したがって、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができる。
本開示の一局面において、水溶性多糖と水不溶性炭水化物とを含む複合体が提供される。一実施形態において、本開示の複合体は、水不溶性炭水化物を、水に溶解した水溶性多糖との共存下で離解することで得られる。本明細書において、本開示の複合体は、ナタデココ脱糖物を原料とする場合を特にNPまたはナタピューレと呼ぶことがある。
本開示の複合体において利用することができる水不溶性炭水化物としては、バクテリアセルロース(ナタデココ)、澱粉、キチン、キトサン、パラミロン、ペプチドグリカン、マンナン、植物セルロース(パルプ)、植物繊維質(野菜粉など)などの水不溶性のセルロースを主成分とする植物組織、カニ殻、海老殻、動物組織、昆虫粉末、藻類菌体、糸状菌菌体、酵母菌体、細菌菌体(納豆菌菌体、乳酸菌菌体など)などを挙げることができる。植物セルロースやバクテリアセルロースなどの水不溶性炭水化物は、離解の際に絡まりやすく、離解性が低いため、水不溶性炭水化物だけを水に懸濁させた状態では、食品用ブレンダーや食品用ミキサーなどでは離解することができず、パルプ産業用の高出力のグラインダーやホモジナイザー、高圧処理装置、超音波処理装置などの特殊な装置を用いて離解する必要があった。本開示においては、このような特殊な装置を用いてしか離解できなかった水不溶性炭水化物を、食品用ブレンダーや食品用ミキサーなどでも容易に離解し得る技術を提供する。
バクテリアセルロースは、ナタデココなどとして製造されるゲル状の様態を示し、必要に応じて、公知の方法に従い、菌体などの共存物を除去し洗浄したり裁断したりした素材を用いることができる。裁断物として糖液などの安定化剤中で流通されるものの場合、必要に応じて脱糖・洗浄したものを用いることができる。また、乾燥物として流通している原料は、離解工程において吸水された状態にすることが望ましい。植物セルロース(パルプ)は、木材、草本、藻類などに由来する植物組織の裁断物であり、より好適には、細胞壁成分や細胞内成分などのセルロースと共存する成分の少なくとも一部が除去されて、セルロース含有量を向上させた原料であることが望ましい。その他の水不溶性炭水化物でも同様に、粉砕に適する形状に裁断されたうえで、炭水化物の含有量を向上することで離解効率の向上を図ることが望ましい。
離解時の水不溶性炭水化物の濃度は、水不溶性炭水化物、水、及び、水溶性多糖を足した重量に対する比として、約0.001~約0.5、より好ましくは約0.001~約0.3とすることができる。
本開示の一実施形態において、水不溶性炭水化物の離解時に、水に溶解した水溶性多糖と共存させることで、食品用ブレンダーや食品用ミキサーなどでも離解することができ、このようにして得た複合体は水不溶性炭水化物と水溶性多糖とが混在して存在している。一実施形態において、本開示の方法において、水不溶性炭水化物の離解は、ボールミルなどの産業用機械を用いた、より過酷な条件での離解であってもよい。また他の実施形態において、水に溶解した水溶性多糖との共存下で水不溶性炭水化物を、食品用ブレンダーや食品用ミキサーなどを用いて離解して得た複合体は、さらに、一層細かい離解物とするため、ボールミルなどの産業用機械で処理することもできる。これにより、本開示の複合体を流路に通す場合に、流路の閉塞リスクのさらなる低減を期待できる。
本開示の一実施形態において、水不溶性炭水化物の離解時に、1または複数種類の水溶性多糖を添加することができる。本開示の一実施形態において、水溶性多糖としては、水不溶性セルロースなどの表面と相互作用する多糖であることが好ましく、例えば、これらに限られるものではないが、キシランまたはその誘導体(グルクロン酸残基、アラビノース残基、アセチル基、4-O-メチルグルクロン酸残基、フェルロイル基等で置換されている状態のものを含む。)、β-グルカンまたはその誘導体((1-3),(1-4)β-グルカン、キシログルカン、キサンタンガム、タマリンドシードガム(主成分:キシログルカン)など)、マンナンまたはその誘導体(ガラクトマンナンなど)、水溶性セルロース誘導体またはその塩(カルボキシメチルセルロース塩、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどセルロースを化学修飾した多糖を含む。)、キトサンまたはその誘導体(部分脱アセチル化キチンなど)、アルギン酸またはその塩またはそれらの誘導体、カラギーナン、ジェランガム、ペクチンまたはその部分構造物またはそれらの誘導体、及びそれらの任意の組み合わせを含むことができる。一実施形態において、β-グルカンまたはその誘導体は、(1-3),(1-4)β-グルカンを含むことができ、精製された(1-3),(1-4)β-グルカンだけではなく、オオムギ、小麦、オーツ麦などの(1-3),(1-4)β-グルカンを含む抽出物も本開示の水溶性多糖として用いることができる。このような抽出物を得る際には、オオムギなどに内在する(1-3),(1-4)β-グルカン分解酵素を失活させる必要があり、オオムギなどを焙煎した後に粉砕して抽出液を得たり、粉砕後に加熱処理してから抽出液を得たりするなどの方法が有効である。また抽出物の中には、(1-3),(1-4)β-グルカン以外の糖、例えばキシランの誘導体などの水溶性多糖も存在する場合もある。水溶性多糖の中には、増粘安定剤として入手しやすいものもあるが、オオムギ、小麦、オーツムギなどの(1-3),(1-4)β-グルカンを含む抽出物、米ぬかやフスマのようにキシラン誘導体を含む抽出物などは、食品素材から容易に得られる水溶性多糖であり、本開示による複合体の製造を家庭や小規模の製造現場で容易に行うことができるようになる。
本開示の一実施形態において、これらの水溶性多糖は、必要に応じて酸やアルカリを添加したり、加熱することによって、溶解または高度に膨潤させてから水不溶性炭水化物の離解時に共存させることもできる。また本開示の一実施形態において、水溶性多糖にオートクレーブ殺菌やレトルト殺菌等の湿潤食品用の殺菌技術を適用することで、保存性を高めて品質を維持することもできる。離解時における水溶性多糖と水不溶性炭水化物との効果的な重量比は、水溶性多糖と水不溶性炭水化物との相互作用の特性、水溶性多糖のもつ相互作用に関与する部分構造の特性、水不溶性炭水化物中における炭水化物の純度、水不溶性炭水化物中において相互作用に関係する表面の潜在的な露出可能量、離解時の処理条件に依存する表面の露出度、離解時の系内における共存物質の影響などによって変動する。例えば、一実施形態において、水溶性多糖は、水不溶性炭水化物との重量比で、約0.01~約2の量で添加することができる。水不溶性炭水化物の離解時において、水不溶性炭水化物と、水に溶解した水溶性多糖とが共存していればよく、必要に応じて、その他の物質を添加することもできる。例えば、本開示の複合体を食品などとして用いる場合には、本開示の複合体を得る際に、調味料や様々な副成分を添加することもできる。
本開示の一実施形態において、水不溶性炭水化物は、水に溶解した水溶性多糖と共存させることで、食品用ブレンダーまたは食品用ミキサーによって離解することができ、その処理時間は約1秒~約120分、好ましくは約5秒~約60分、さらに好ましくは約10秒~約10分とすることができる。一実施形態において、食品用ブレンダーまたは食品用ミキサーによる処理は、機械の加熱を避けるため、例えば、約10秒間、約20秒間、または約30秒間の処理を複数回にわけて、全体として約1分、約5分、約7分、または約10分などとすることもできる。一実施形態において、その処理温度は、共存させる水溶性多糖の特性によって適宜変更することができる。一実施形態において、離解対象となる水不溶性炭水化物として水不溶性セルロースを用いる場合には、水分子が液体である約0℃~約100℃において安定であり、水溶性多糖やその他の添加物の影響を考慮しない場合には、この温度帯で処理することができる。また他の実施形態において、本開示の複合体を肉代替品として用いる場合には、製品のハンドリング性を向上しつつ、繊維質感を残す方が適切な質感表現をすることができることがある。また他の実施形態において、本開示の複合体を膜成形用の素材として用いる場合には、水不溶性炭水化物の離解により生じるべき繊維と水溶性多糖とのネットワーク形成を最適化するため、適切な粉砕条件を選定することもできる。例えば、膜成形用の素材としては、可食性の膜、(キトサンで)抗菌性コート膜、オブラート代替物、生分解性のシート素材、医療用膜(人工皮膚等)、吸水性膜素材、必要に応じて水溶性多糖由来の官能基を使って誘導体化した上で、透水性、撥水性、生体認識性、触媒作用性、色調、蛍光性、凝集性などを利用した機能性膜素材などを挙げることができる。
水不溶性炭水化物を離解する際には、水不溶性炭水化物に剪断力を加えることで、二つ以上の塊に引きちぎるような処理を行う。つまり、本開示においては、上記のような水不溶性のセルロース鎖が会合した状態にあるバクテリアセルロースなどの水不溶性炭水化物の離解時に、水不溶性炭水化物と相互作用する物質(例えば、水溶性多糖)を共存させることで、離解時における水不溶性炭水化物を構成する炭水化物同士の再会合による離解抑制を阻止し、簡易に離解物を得ることができる。一旦離解した炭水化物同士の再会合が起こる際には、例えばバクテリアセルロースでは、離解時に、非晶質の炭水化物の遊離が起こり、その非晶質の炭水化物が、剥がれた場所またはその近傍に位置する炭水化物結晶の疎水面と相互作用を起こすものと考えられる。本発明者らは、非晶質の炭水化物が遊離しても、結晶の疎水面が別の物質で保護されていれば、再会合に繋がるような相互作用を起こしにくくなるとの仮説を立て、水不溶性炭水化物と相互作用する物質(例えば、水溶性多糖)を添加し、仮説どおりに離解が促進されたことを確認し、本願発明に至った。
上記のとおり、本願発明においては、離解中に発生する新たな水不溶性炭水化物(バクテリアセルロースなど)の疎水面を水溶性多糖で覆うことにより、水溶性多糖と水不溶性炭水化物とを含む複合体を提供する。したがって、水不溶性炭水化物の離解時に水に溶解した水溶性多糖を共存させない場合と比べて、本開示の複合体は、離解時における一旦離解した炭水化物同士の再会合が生じにくくなり、これにより、再会合する位置が離れていたり、または再会合の強度が弱まったりすることで、最終的に得られる超分子(共有結合と非共有結合により纏まった構造をとる分子)の構造が拡がることとなる。このような再会合の発生頻度の違いが、水不溶性炭水化物の離解時に水に溶解した水溶性多糖を共存させて得た本開示の複合体と、水不溶性炭水化物が離解した後に水溶性多糖を混合して得た組成物とで、(剪断による高分子の分解を除いて)基本的な化学構造は両者で等しいにも拘わらず、本願発明の複合体は、分散性が高い物質となっている。
本開示の一実施形態において、本開示の複合体が従来の離解手段と比べて高度に離解しているかどうかは、任意の手段で確認することができ、例えば、水不溶性炭水化物の離解後に水溶性多糖を混合した組成物と比較した場合に、本開示の複合体は、当該組成物よりも大きい体積を有することになるため、体積を比較することによって確認することができる。この場合、増加する体積としては、例えば、約1.01倍以上、約1.05倍以上、約1.1倍以上、約1.2倍以上、約1.5倍以上、約1.7倍以上、約2.0倍以上、約2.5倍以上、約3.倍以上などとすることができる。
他の実施形態において、離解の評価は、メッシュの透過率を用いて評価することもできる。例えば、水不溶性炭水化物の離解後に水溶性多糖を混合した組成物と比較した場合に、本開示の複合体は、孔径500マイクロメートルのメッシュ通過画分の量を増加させることができる。また他の実施形態において、本開示の複合体を製造する際に、保水力が高い多糖を用いた場合には、多くの水分を抱え込んだ層を形成してメッシュを通過しにくくなり、この場合には、メッシュを通過しないことで、保水力が高く膜成形性に適した素材としての価値を評価することができる。
他の実施形態において、離解の評価は、複合体における遊離状態の水溶性多糖の割合を用いて評価することもできる。例えば、水不溶性炭水化物の離解後に水溶性多糖を混合した組成物と比較した場合に、本開示の複合体では、水溶性多糖を効率的に複合体中に取り込むことができるため、遊離状態の水溶性多糖の割合を低下させることができる。例えば、本開示の複合体では、水不溶性炭水化物の離解後に水溶性多糖を混合した組成物と比較して、約90%未満、約70%未満、約50%未満、約30%未満、約10%未満、約5%未満、約3%未満、または約1%未満の遊離状態の水溶性多糖を含むことができる。
本離解操作は、水不溶性炭水化物と水溶性多糖との相互作用を誘導して、新たな構造をもつ複合体とすることで、水不溶性炭水化物の分散性を改善し、成形性を与えたり、水保持特性を改変して結着性、増粘安定性等を与えたりすることで、新たな素材価値をもつ離解物を創り出すものである。
従来、この水不溶性炭水化物の離解工程は効率化できていない。例えば、バクテリアセルロースゲルを水中で離解しても、多くの塊(ダマ)が残り、このダマを見かけ上なくすためには、既往成果に示されているよう、高圧ホモジナイザー、超音波破砕装置などを用いて、繰り返し、または徹底的に剪断力を与え続ける必要がある。このように、大量の剪断エネルギーを投入することで、最終的には分散性の離解物を得ることができるが、特殊な装置と処理時間、処理容量などの問題により、離解物の産業利用範囲が制約を受けることとなる。
このようなダマの生成・残存に見られるように、離解が上手くいかない理由は、剪断力を与えても、水不溶性炭水化物が上手く引きちぎれない可能性、あるいは引きちぎれた後に再会合する可能性が考えられる。水不溶性炭水化物は、様々な相互作用により水不溶性となっているが、最重要な相互作用として、炭水化物分子間の非共有結合的な会合が挙げられる。水不溶性炭水化物は、この分子間会合力が強いため、水への溶解性や十分な水和・分散性を示さずに不溶性の構造を保つ。この水不溶性炭水化物に対して剪断力をかけて、会合していた一部の炭水化物分子が上手く離解したとしても、離解して引きちぎられそうになっている塊の中に存在する、会合構造が維持されている部分の結合力により、塊全体として引きちぎられない状態を維持するものと考えられる。そして、一時的に会合相手から引きちぎられた一部の炭水化物分子部分は、同じまたは別の水不溶性炭水化物表面と再会合し、剪断に対する抵抗力を維持・再生することとなるものと考えられる。
本発明者らは、このような中で、剪断力によって水不溶性炭水化物が部分的に離解した状態になった後、再会合する可能性を低減することにより、再会合しやすい空間内から離解した部分を引き離して、効率的に引きちぎることが重要と考えた結果、本発明に至った。具体的には、水不溶性炭水化物と相互作用を有する水溶性多糖を溶解状態で共存させることによって、効率的に離解物が得られることを見出した。溶解状態の水溶性多糖は、水不溶性炭水化物が剪断力を受けることで生じる新たな炭水化物表面に対して相互作用し、複合体を形成することにより、水不溶性炭水化物の再会合を抑制し、塊同士が十分に引き離されるまでの時間を与えるものと推察された。
水不溶性炭水化物は、離解工程により最終的には水分散物に変換されるが、本発明における離解工程により得られる水分散物は、水不溶性炭水化物の再会合様式が、水溶性多糖を溶解状態で共存させていない離解工程により得られる水分散物のものと異なることから、異なる素材と見なされる。本発明における実施例においても、同離解条件により作られた両者の特性、例えば水分散性や水溶性多糖の吸着量が異なることを示している。
バクテリアセルロースと水溶性多糖の混合研究については、生産菌の培養特に培地に水溶性多糖を添加することで、最終製品の特性を向上させるための技術、またはセルロースと細胞壁多糖との相互作用解析モデルとしての研究がされている。しかしながら、これらの研究は、上記のような離解時に新たに生じるセルロース表面と水溶性多糖との相互作用を意図したものではない。また水溶性多糖と溶媒との相互作用などに注目し、離解後のセルロースを水溶性多糖と共存させるための技術や、バクテリアセルロースの離解前に多糖を添加する技術も提案されているが、これらの技術では上記のような、離解時に新たに生じるセルロース表面と水溶性多糖との相互作用により、セルロース-セルロース間の再会合による離解抑制を阻止できるものではないため、本開示の複合体とは異なるものとなる。
一実施形態において、本開示の複合体は、懸濁液状、ゾル状、またはゲルに近いゾル状などとなり、その状態は水不溶性炭水化物の由来、各成分の組成比、水溶性多糖の特徴、処理条件などによって制御することができる。本開示の一実施形態において、本開示の複合体は、クリーム状から脂身状の物質として調製することができ、油脂代替物、肉代替物、エマルジョン用素材として使用することができる。本開示の複合体は小腸で消化吸収されない素材から作られるため、無~低カロリーとなるとともに、食物繊維として機能することもできる。また(1-3),(1-4)β-グルカンのように、多糖に三次機能性が期待されるものもある。
一実施形態において、大豆粉やジャガイモ粉などと本開示の複合体(例えば、(1-3),(1-4)β-グルカンとの共存下での離解によって得られた複合体)とを練り合わせる場合、水単独で結着させた場合と比較して、高水分条件下での結着性に優れる。また穀物、芋、豆、野菜や果物などに由来する粉粒体は、細胞壁の一部が断片化して露出しており、ペクチンやキシログルカン、(1-3),(1-4)β-グルカンなどの吸水性が高い物質が露出または溶出した状態で乾燥処理されている。離解された水不溶性炭水化物、例えばセルロースの表面は、これらの吸水性が高い物質との相互作用性が高いことから、水中で分散する複合体に対して結合性を示す。このことが、繊維構造をもつ複合体が物理的に粉粒体の分散を安定化することとともに、高い結着性の原因となっているものと考えられる。大豆粉やジャガイモ粉を水と一緒に混合した場合と比較して、練り合わせる際の粘着性が低下し、容器や器具への付着を防ぐことができる。また上記のとおり、穀物、芋、豆、野菜や果物などに由来する粉粒体は、細胞壁の一部が断片化して露出しており、ペクチンやキシログルカン、(1-3),(1-4)β-グルカンなどの吸水性が高い物質が露出または溶出した状態で乾燥処理されている。そのため、吸水段階では、その高い吸収力により、水が接した粉粒体のみが大きく膨張し、まだ水に接していない粉粒体に水が行き渡りにくくなることから、局所的吸水物(いわゆるダマ)が生じる。この現象は、通常の調理過程のみならず、3Dフードプリンタにおける自動加工時における操作性及び再現性を低下させる重大な問題となる。それに対して、本開示の複合体と共存させる形で粉粒体と水とを接触させた場合には、水の高い保持力をもつ複合体から粉粒体への水の移動速度が遅くなり、混練攪拌している間に粉粒体の過度な吸水が起こりにくくなる結果、粘着性の発現が抑制されてダマができにくくなるものと考えられる。時間が経つにつれて、吸水力の高い物質が水を吸っていき、粘性が向上する可能性があるが、3Dフードプリンタなどの操作時間がさほど長くない場合、本開示の複合体の共存下での粉粒体のペースト化工程を効率化できるものと期待される。また他の実施形態において、本開示の複合体を大豆粉や微結晶セルロースと練り合わせてオーブンで加熱することで、本開示の複合体の代わりに水と一緒に混合した場合には粉質の食感であったのに対して、得られた焼き菓子状の成型物の食感を良質な噛み応えのあるものとすることができる。
本開示の一実施形態において、本開示の複合体は、結着させる対象の結着性を向上させることができ、これは本開示の複合体の成分との相互作用(非共有結合)によって生じると考えられる。例えば、植物細胞壁、海藻細胞壁、動物性組織、微生物組織などと相互作用することによって対象の結着性が向上すると考えられる。他の実施形態において、本開示の複合体が電荷を持つ場合(水溶性多糖としてキトサンやアルギン酸、グルクロノキシランを用いた場合など)では、混合対象が逆の電荷を持っている場合や、カルシウムなどのイオンを介してお互いが静電相互作用で結合する場合に結着性が向上すると考えられる。また他の実施形態において、本開示の複合体は、イオン化する成分・組織と相互作用することがあり、セルロースなどの不溶性炭水化物には疎水性を示す部分があることから、疎水性の成分を吸着させることもできる。このように、液中に存在する極性・非極性の成分などとも相互作用することができる。
本開示の一実施形態において、本開示の複合体は、食品素材と混合して結着性の高い素材とした後、成形及び/または乾燥することで、乾燥固形物を得ることができる。例えば、本開示の複合体と食品素材とを混合して棒状に加工した大豆、芋、キャベツ等の野菜粉末由来の素材を得ることができる。このような乾燥固形物は、固形状のカレールーのように取扱性が優れることに加えて、例えば、鉛筆削りで削るように切削するなどの方法で、所望する量だけ利用することができる。また、切削後に得られる部分の形(厚みや形状など)を制御することで、ユニークな食感を付与できる。この技術は、3Dフードプリンタのカートリッジの新たな形状を提案し、例えば、プログラムされた量の素材を機械的に削り出すような自動操作により、一定量の素材を再現性良く供給することができるようになる。
本開示の一実施形態において、本開示の複合体は、混合する対象の粘着性を抑制することができる。上記のとおり、本開示の複合体を混合する対象の結着性が向上し、その混合対象が硬くなるため、結着性が向上して硬くなった混合物は、他の物質に長く付着することなく、粘着性が低下した状態となる。
一実施形態において、本開示の複合体は、混合する対象の増粘安定性を変化させることができる。本開示の複合体の重要な機能として、結着性の向上や分散性の向上を挙げることができる。また結着性の向上に基づいて増粘安定性を生じさせることもでき、上記のような、本開示の複合体と混合対象との相互作用により、その全体が硬くなり粘度が上がることが考えられる。また、相互作用が低い場合には、混合する対象が分散することや水を抱えて実際の水の濃度を下げることなどによって、増粘効果を示すことが考えられる。
本開示の一実施形態において、本開示の複合体は、必要に応じて、副資材を添加することで、物性や特性を改変することもできる。例えば、本開示の複合体を食品素材や食品として利用する場合には、調味料、砂糖、澱粉、油脂、タンパク質、無機塩、ゲル化剤、他の食品やその加工物、栄養成分、機能性成分などを加えることができる。セルロースは、これらの副資材との適合性は高いが、多糖に対するこれらの資材の適合性、あるいは複合体を構成するセルロースと多糖との相互作用への影響は、多糖や離解条件などによって異なるため、その適用範囲は個別に決定することが好ましい。例えば、塩やpHによる効果は、多糖によっては、帯電効果やそれに伴う分散効果に影響を及ぼし、分散状態を制御することができる。
一実施形態において、多糖のゲル化能を活用して、分散物の形状を制御することもできる。例えば、キトサンを多糖として添加して本開示の複合体を調製した後、これをアルカリ水中に添加することで、ゲル化させる方法、アルギン酸ナトリウムを多糖として添加して本開示の複合体を調製した後、これをカルシウムイオンを含む水中に添加することでゲル化させる方法などを挙げることができる。また一実施形態において、例えば、寒天粒子、カードラン粒子などのゲル化する前の粒子状のゲル化剤を本開示の複合体と混合して水中で分散させた後、これを加熱処理または加熱・冷却処理に供することで、均質性の高いゲルを形成することができる。したがって、一実施形態において、均質性の高いゲルは、水に溶解した水溶性多糖との共存下で、水不溶性炭水化物を離解する工程と、前記離解する工程によって得られる、前記水溶性多糖と前記水不溶性炭水化物とを含む複合体と、ゲル化剤とを混合して混合物を得る工程と、前記混合物を溶媒中で分散させる工程と、前記混合物に加熱及び/または冷却処理を行う工程とを含む、方法によって形成することができる。
一実施形態において、加熱処理としてレーザー加工を含むことができる。レーザー加工としては、本分野に周知の機器を用いて行うことができ、対象物の一部分に光を当て、照射部分の周辺を加熱したり光化学反応を誘導したりすることで、直接的あるいは間接的に照射部分またはその周辺の構造を改変することできる。食品の構造改変に関しては、例えば、青色レーザー光を用いることができる。青色レーザー光を使う際には、照射部分が光を吸収する必要があることから、適切に着色されていることが重要となる。着色の際には、例えば、以下の食品素材を用いることができるが、食品の加熱や調味・着色を経た色調の利用、農産物の着色部などを利用することもでき、これらに限定されるものではない。
赤色系素材の例:パプリカ、唐辛子、紫玉ねぎ、紫芋、人参、トマト、ビーツ、苺、桜、西瓜、ブルーベリー
緑色系素材の例:ほうれん草、小松菜、春菊、キャベツ、ブロッコリー、ピーマン、ケール、大葉、抹茶、枝豆、パセリ、バジル
黄・茶色系素材の例:黄パプリカ、ターメリック、南瓜、檸檬、蜜柑、柚子、マンゴー、パイン、コリアンダー、クミン
一実施形態において、本開示の複合体は、食品用ゲルの形成時に共存する、水より比重の高い水不溶性粒子の分散を可能とする。水より比重の高い水不溶粒子の例としては、例えば、穀物、豆、野菜、果物等に由来する植物性粉粒体、動物や魚介類由来の粉粒体、微生物由来の粉粒体、これらの食品素材の加工品由来の粉末などが挙げられる。また、食品用ゲルとしては、アルギン酸カルシウムゲル、ペクチンゲル、寒天ゲル、カラギーナンゲル、ゼラチンゲル、澱粉ゲル、カードランゲルなどが挙げられる。これらのゲルを構成する素材が固まる前に、水より比重の高い水不溶性粒子を加えて、ゲルを固めることになる。しかし、この水不溶性粒子の大部分は、ゲルが固まる前に沈降するため、均質分散させるためには、固まる直前に攪拌しながら注意深く分散させるなどの手間がかかる。また、ゲル化する前に、キサンタンガムなどの増粘安定剤や砂糖などの比重調整剤を加えて、沈降を抑制することができるが、食感や味質に影響を及ぼす。本開示の複合体を共存させることで、水より比重が高い水不溶性粒子と複合体との相互作用や物理的トラップにより、沈降速度が低下し、分散性が向上する。したがって、一実施形態において、本開示の複合体とゲル化剤とを含む飲食品を提供することができ、本開示の複合体とゲル化剤とを混合してからレーザー加工などをおこなって飲食品の形態としてもよく、または本開示の複合体に対してレーザー加工などをおこなった後に、ゲル化剤や液滴などを配置してもよい。
一実施形態において、本開示の複合体は、食品粉末と混合して分散させ、所望の物性を付与することで、口当たりの良い軟らかい食品を調製することができる。例えば、ナタピューレ(ナタデココ脱糖物を原料とする本開示の複合体)と穀粉を混合し、穀粉を分散させたものを加熱し、穀粉を糊状に改質した素材とすることで、液状の粥様~自立するホイップクリーム様の物性を与えることが可能となる。この素材は、咀嚼や飲み込みが困難な者に対して負荷が少ない食品とすることができる。本開示の技術を用いて低濃度の粉を分散させることで、食品調理工程が簡素化するとともに、自動調理工程への適合性が向上する。また、本開示の一実施形態において、本開示の複合体を用いることで、ホイップクリーム様の物性を備えた素材を提供することができ、素材に油脂代替品または脂質代替物としての価値を与え、菓子等の食品の調理加工において用いることができる。
また、一実施形態において、本開示の複合体の調製方法や混在する成分を調整することで、ゲルに近い形状の食品素材を提供することも可能である。例えば、高濃度のタマリンドシードガム水溶液を用いて調製した本開示の複合体を用いることにより、比較的流動性が低いゲルに近いゾル状の素材を提供することができ、この特性はグアーガムの添加によりさらに向上する。これらの素材は、高濃度の増粘安定剤にみられるような粘りが少なく、口当たりの良い特性を示す。さらに、他の実施形態において、本開示の複合体(例えばナタピューレ)と穀粉等の澱粉系粉末を混合し、粉末を分散させたものを直接、または適宜、予備加熱またはゲル化剤や色素などの素材の添加を行った後に加熱させ、水分を減らすことで、シート状または粒状の半乾燥物または乾燥物とすることができる。
一実施形態において、本開示の複合体は、必要に応じて、副資材と混合した後、加熱、冷却、乾燥などを行うことができる。焼き焦がすなどの特殊な場合を除き、通常の条件での食品製造時においては、セルロースの化学構造の変化は少ない。添加する多糖は、pH、温度の影響を受けるほか、共存する生鮮食材由来の酵素による影響も受けることもある。また乾燥などによってフィルム、繊維などの構造物に成形できる素材もあり、乾燥後に粉末化することもできる。乾燥物は保存性が高くなり、素材に応じた条件を選択することで、加水して形状を一部または全部戻し、分散物とすることもできる。さらに、生体適合性素材、生分解性素材などとしての適用もできる。例えば、生分解性素材や生体適合性素材としては、バイオコンポジット製造時におけるフィラーとして用いることができ、また紙にする際には、セルロース繊維との親和性に加えて、収縮したり偏在化したりしないという成形性も重要となり、本開示の複合体における膜成形性は有用である。
本開示の複合体のうち、例えば、不溶性炭水化物としてセルロースを、そして水溶性多糖として(1-3),(1-4)β-グルカンを選択することで得られる離解物(複合体)は、良好な膜成形性を示すのみならず、乾燥後に透水抑制機能を有する膜を形成する。本複合体は、水に懸濁した状態で得られることから、これを表面を膜で覆いたい構造物に対して、塗布、散布、浸漬などの操作によって接触させて、乾燥することで、構造物表面に透水性が低い被膜を形成できる。本被膜の形成によって、構造物に吸水させた際に、構造物表面からの水の浸透を抑制し、構造物の物性変化速度を遅くすることができる。そして、この作用によって、柔らかいスポンジ状の構造物の内部に離解物の懸濁液を含浸し、その後、乾燥させて透水抑制機能をもつ膜を形成させた組成物を調製することができる。この組成物を吸水させた際には、膜の存在によって内部の吸水特性が変化することで、内部の物性変化を遅らせて、硬さや独特の食感を付与することが可能となる。この方法により、果実や野菜の裁断物や粉砕物に由来する構造物の特性改変に応用することができる。
したがって、本開示の一実施形態において、本開示の複合体を含む、透水の抑制または制御剤を提供することができる。本開示の複合体を被膜として内部の物質の物性変化を制御することができ、内部の物質の状態としては、粉末や液体など、どのような形態であってもよい。例えば、内部の物質が液体の場合、本開示の複合体を膜として内部に液体を保持することができる。これにより、例えば3Dプリント食品のような新食品を設計する際に、味や香りが詰まった液滴を埋め込んだり、ジューシーなソースを中に安定に埋め込んで咀嚼時に液がでたりさせることができる。膜を置いて、その上に小さい碁盤状の仕切りを作り、個々の四角の中に異なる色や味質をもつドロップを置くことも可能である。
他の実施形態において、本開示の複合体を膜として3Dプリント食品のような新食品を設計する際に、生春巻きのように、野菜などの具を丸め込んだりすることもできる。この場合には、内部の素材の拡散を抑える作用を発揮することができる。また膜を硬くすることで、石焼きビビンバの焦げ目のような質感を出すことも可能であり、本開示の複合体の透水性が低いことから、その焦げ目食材が、周囲の水を急激に吸って軟化するようなことを避けることができる。
本開示の複合体を膜として内部に液体を保持する場合、液-液界面に本開示の複合体の膜が存在することとなり、拡散速度を遅らせることも可能である。また一実施形態において、本開示の複合体の膜に電荷をもたせた場合には、イオン選択性の膜とすることもできる。また、例えば、本開示の複合体の膜で隔てた一方にカルシウムイオンが溶解した水溶液を、反対側にアルギン酸が溶解した水溶液を置くと、膜の近傍で両者がゲル化して薄い膜を形成することになる。ゲルの膜ができると透水性がさらに低下するため、両側の液体を安定に保持することができ、二重被覆されていない部分のみから液体を放出させたりすることも可能である。
他の実施形態において、本開示の複合体に微粒子を分散させた懸濁物を成膜すると、膜が閉塞されるため透水性が低下する。したがって、本開示の複合体の膜で隔てた一方に微粒子の懸濁液をおくと、当該膜の透水性を低くすることができる。他の実施形態において、本開示の複合体の膜に粉末を接触させることによって、吸水特性を変化させたり、本開示の複合体の膜の界面に気体(空隙)をおくことで、液体の透水性を低下させることもできる。
一実施形態において、本開示の複合体は、必要に応じて、加水して分散した際に、目視で不均質な繊維質の分散が見られるかどうか、またはその程度によって特性改変の目安とすることができる。本開示の複合体を必要に応じて加水して分散したあと、約0.5mmのメッシュのスクリーンを通過させて、通過前後における濁度(例えば、600nmの光の透過率)の差を測定することで評価することができる。透過性が良い複合体で、分散性が高い粒状になっているものについては、クリーム状、またはエマルジョン用素材としての利用性が高い。その一方で、通過性が低い複合体にも、繊維質の分散度が高いものも存在し、このような試料では、濾過速度が顕著に低減するが、セルロースと多糖とがネットワークを形成し、成膜性をもつ素材としての価値を有する。このような試料では、成膜、乾燥工程を行うこともできる。このように、本開示の複合体は、様々な物質や工程への高い対応能力をもち、器具のとの付着性低減なども有することから、自動調理工程、特に3Dフードプリンタにおける素材として重要となる。一実施形態において、本開示の複合体をクリーム状の物質とする場合には、取扱いやすくなり、水溶性多糖の性質によって生分解特性、生体親和性・生物機能性(適合性、そして相互作用性)を変化させることもできる。例えば、キトサンを含むクリームでは、抗菌性を持たせることができる。したがって、一実施形態において、3Dフードプリンタでの加工のために用いることのできる飲食品(素材または材料)として、本開示の複合体と飲食品との混合物を用いることができる。このような3Dフードプリンタ用飲食品は、水に溶解した水溶性多糖との共存下で、水不溶性炭水化物を離解する工程と、前記離解する工程によって得られる、前記水溶性多糖と前記水不溶性炭水化物とを含む複合体と、任意の飲食品の原料とを混合する工程とを含む、方法によって製造することができる。
一実施形態において、本開示の複合体は、糖質工学技術により高機能化することもできる。多糖を酵素的手法や化学的手法によって分解・修飾することができる。例えば、多糖を分解して相互作用を低減することで、ネットワークの構造を制御し、物性改変につなげたり、多糖を糖転移酵素の作用によって繋ぎ替えたり、官能基を導入することもできる。また水溶液中での正または負のチャージを利用して他の物質との新たな相互作用を促進したり、多糖上の水酸基、カルボキシ基、アミノ基などの官能基を修飾することで新たな機能を付与したり、ネットワーク構造を構築することもできる。さらに、多糖の主鎖または側鎖の分子構造や高次構造を認識する他の糖質やタンパク質、脂質などの相互作用により、新機能性素材を生産することもできる。
一実施形態において、本開示の複合体は、セルロースナノファイバー、リグノセルロースナノファイバーやキチンナノファイバーの製造工程に適合させる形で離解し調製することもできる。これらのナノファイバーの調製工程では、湿式グラインダー、ビーズミル、ボールミルなどの湿式粉砕を行う。例えば、稲わらなどの草本系繊維質を処理するためのRURALプロセス(後述の実施例28を参照)により繊維構造を改変した試料を水不溶性炭水化物として、(1-3),(1-4)β-グルカンを水溶性多糖として水とともに添加し、ボールミルを用いて湿式粉砕することで、複合体を調製することができる。この複合体は、例えば、メッシュ上に保持された画分を乾燥させることで、不織布様またはわら半紙様のシートとすることができる。このシートを用いることで、生分解性の使い捨て食器、食品包装容器等、プラスチック代替製品を製造することが可能となる。
一実施形態において、本開示の複合体は、複合体化処理を行っていない水不溶性炭水化物などの水不溶性粒子と混練することにより水不溶性粒子を結着させた後、これを乾燥することで、高密度な塊状組成物とすることができる。この組成物は、例えば、カレー粉とカレーペーストに対するブロック状のカレールーの価値と同様に、飛散性が低く操作性が高い素材、貯蔵時の密度が高く安定性が高い素材、測り取り時の操作性が高い素材としての価値をもつものと期待される。
本実施形態による組成物の一例として、グルカンのみで構成される高密度組成物が挙げられる。この場合、複合体処理を行っていない水不溶性炭水化物などの水不溶性粒子の例として、澱粉、セルロース、β-1,3-グルカンなどの水不溶性グルカンを用いることができる。また、結着させる複合体としては、例えば、水不溶性炭水化物としてバクテリアセルロースを、そして水溶性多糖として(1-3),(1-4)β-グルカンを用いた離解物が挙げられる。これらを混練し、水不溶性粒子を結着させた後、水不溶性粒子の吸水・不可逆変化が抑制できる温度、例えば澱粉を用いた場合には、その糊化開始温度よりも低い温度で、常圧または減圧状態での乾燥を行うことで、本実施形態による組成物を得ることができる。結着時または乾燥時においては、粘土状の含水物を扱うこととなるが、この時に、所望の形状に成形することができる。成形する際には、乾燥時の収縮や亀裂発生などを考慮する必要がある。
本実施形態による組成物の表面には、水不溶性粒子が部分的に露出しており、徐々に剥がれ落ちたり、表面からの吸水、水中での短時間での崩壊などの原因となったりする。これを防ぐために、本開示における複合体を表面に塗布し乾燥させることで、透水性を低下することができる。この透水性を制御するための複合体としては、水溶性多糖として(1-3),(1-4)β-グルカンを用いた離解物が有効である。この表面処理によって、可食性グルカンのみで構成される、崩壊性や透水性が抑制された高密度組成物を製造することができる。この組成物は、貯蔵性が優れた糖の塊として、有機炭素資源・食資源の新たな循環制御方法を提供する。
また、これらの方法により得られる、透水性が制御された組成物では、透水性の度合いに応じた水不溶性粒子の機能発現が可能となる。例えば、澱粉の糊化、崩壊に応じた機能性成分や栄養の徐放性、組成物の物理的な崩壊性などを制御することができる。
(実施例1:各種セルロースの多糖存在下での離解物生成(1))
本実施例では、各種セルロースの多糖存在下で離解物が生成するかどうかを確認した。以下に詳細を示す。
(方法および材料)
バクテリアセルロース(BC、国内産ナタデココ(業務用)、フジッコ株式会社)の脱糖方法。業務用ナタデココ3kgを20L容容器に入れ、水道水15Lを加え緩やかに攪拌した。24時間毎に水を計5回交換して脱糖を行った。脱糖物の固形分率(0.5%)を湿重量100gとり、40mLの0.7%多糖溶液を添加した後、家庭用(食品用)ミキサー(パワーブレンダーSPB-650J、コンエアージャパン合同会社)で速度(15,000rpm)、30秒×4回粉砕することで離解した。なお0.7%多糖溶液は、水をマグネチックスターラーで懸濁しつつ、所定量の多糖を少量ずつ添加することにより調製した。その際、キシログルカンは溶解が不十分のため、電子レンジで加熱することにより完全に溶解させた。その後、その離解物の一部(5g)を35mLのイオン交換水で8倍希釈物とした。その液は、0.5mmメッシュのスクリーンを通過させた。
Figure 0007217555000001
(結果)
その結果、多糖存在下で粉砕させた試料では脱糖BCのみを用いた場合と異なる特性を示した。また、8倍希釈物及びスクリーン通過操作後の濾液について、600nmの濁度を測定し、その比をとることでスクリーン透過率(%)を計算した(図1A)。
このように、各多糖を含む離解物では、スクリーン通過分が劇的に上昇した。セルロース繊維の絡まりが抑制されて微粒子化したものと考えられる。
次に、上記方法を用いて脱糖したバクテリアセルロース(BC、森永製菓)(固形分率0.68%)を100gとり、40mLのSQ水、または0.7%多糖溶液(キシログルカン、(1-3),(1-4)β-グルカンまたはキサンタンガム)を添加した後、家庭用(食品用)ミキサー(パワーブレンダーSPB-650J、コンエアージャパン合同会社)で速度(15,000rpm)、30秒×4回粉砕した。なお0.7%多糖溶液は実施例1の方法により調製した。得られたゾル状のBC破砕物20gを50mL容プラスチックチューブに取り、SQ水5.7mLを加えた後、室温で1時間往復振盪(150rpm)を行った。対照区として、40mLのSQ水と共に粉砕したBC破砕物20gを50mL容プラスチックチューブに取り、各試験区に相当する多糖溶液を加えて、試験区と同じ多糖濃度にした後に、同様に振盪を行った。その後、各プラスチックチューブにSQ水を加えて全体積を45mLとした後、高速冷却遠心機(Suprema25,TOMY)及びスウィングローター(TS-36N)を用いて3,500rpm、4℃、10分遠心分離を行った。遠心後に沈殿したBC破砕物の見かけ容積を測定した。
その結果、以下の表に示す値を得た。
Figure 0007217555000002
離解後に多糖を添加した試料(対照区)と比較して、離解前に多糖を添加した試料(試験区)では、1.7~1.8倍に分散した。このように、離解工程において多糖を加えるタイミングによって、得られるBC離解物の特性が異なり、離解時に多糖を加えておくことで、ユニークな特性を示す素材が得られることが見出された。
続けて、対照区(BC+キシログルカン(離解後に添加))及び試験区(BC+キシログルカン(離解前に添加))の上清の一部を回収し、硫酸加水分解後のグルコース濃度を測定することで、キシログルカン濃度を推定した(J.Appl.Glycosci.,66,11-19(2019).)。なお、セルロース由来のグルコース残基は全て沈澱部に存在しているものと仮定した。その結果、対照区では、添加したキシログルカンの23%が遊離状態であったが、試験区では3%のみが遊離状態であり、成分組成が異なっている。後者における処理条件の方が、キシログルカンをより効率的に巻き込んだBC破砕物が得られることを示している。
(実施例2:各種セルロースの多糖存在下での離解物生成(2))
本実施例では、実施例1と同様に、別の多糖を行って同じ試験を行った。
(方法および材料)
大麦由来の(1-3),(1-4)β-グルカンは実施例1の方法で水に分散後、電子レンジによる加熱により溶解させた。キトサンは水の代わりに塩酸水溶液(pH2.0)を用い、実施例1の方法で溶解させた。アルギン酸は実施例1の方法で水に分散、溶解させてから用いた。
Figure 0007217555000003
(結果)
その結果、多糖存在下で粉砕させた試料では脱糖BCのみを用いた場合と異なる特性を示した。セルロースと多糖との間でネットワークが形成されることで、水保持能力が向上し、透水性が低下したものと考えられ、ゲル様の性質を観察することができた。
(実施例3:離解物の応用:脂身)
本実施例では、本開示の離解物の応用例を示す。
(材料および方法)
実施例2のβ-グルカン添加・離解物の一部を分注して遠心分離(18,900g、3分、室温)後に、上澄を除去したゾル状画分を回収し、ムラサキイモ色素(酸性エタノール抽出物)及びニンジン色素(エタノール抽出物)を数滴滴下し、鳥挽肉状の試料を得た(図2左)。これを、キャノーラ油を敷いた調理用鉄板上に移し、醤油を数滴滴下して1分程度加熱調理した。
(結果)
得られた試料(図2右)は、脂身肉様の舌ざわりで、舌で押すと脂身肉様に分散した。
(実施例4:離解物の応用:クッキー状食品)
本実施例では、本開示の離解物の応用例を示す。
(材料および方法)
大豆粉(みたけ食品工業(株))5gにイオン交換水6mL(対照試料)または実施例2のβ-グルカン添加・離解物6.0mLを加えて薬さじで練り混ぜ、それぞれに対して、予め微結晶セルロース(旭化成(株)、セオラスFD-101)2gとイオン交換水4mLとを薬さじで練り混ぜたものと混合した。その際には、対照試料では薬さじや壁面に混練物が付着したのに対して、β-グルカン添加・離解物を含む試料では付着(粘着)が少なかった。
その後、これを直径2cm、高さ7mmの円筒形クッキー状に手作業で成形し、オーブントースター(縦型オーブントースター KDTO-001、ライソン(株))で250W(上段ヒーターのみ、台までの距離6cm)、5分間加熱した。
(結果)
得られた試料(図4)の噛み応えを調べたところ、対照試料では噛んだ際に粉状に崩壊したが、β-グルカン添加・離解物を加えた試料では、噛んだ際の弾力があり粉状の崩壊が抑制された。
(実施例5:離解物の応用:薄膜)
本実施例では、本開示の離解物を利用した薄膜の生成例を示す。
(材料および方法)
実施例2のβ-グルカン添加・離解物及びキトサン添加・離解物を用いて、実施例1の方法に従い調製した8倍希釈物を、それぞれ0.5mmメッシュのナイロン製の網の上部から流し込み、非通過画分を保持した。これを60℃で乾燥させることで、それぞれの薄膜を得た。
(結果)
結果を図5に示す。各図の左側の半円は膜製造に用いたナイロンスクリーン、右側はこの上から剥離した膜である。(1-3),(1-4)β-グルカンを用いて製造した乾燥薄膜上に水滴を載せた場合、水滴は膜上に残存したが、キトサンを用いて製造した乾燥薄膜上に載せた場合、水滴は直ちに膜に吸収された。なお、同濃度の(1-3),(1-4)β-グルカン水溶液をナイロン網上に配置してみたが、網上には殆ど保持されずに網から落下したことから、この成膜性は、複合体による特徴と考えられる。このことから、本開示の方法によるバクテリアセルロースと(1-3),(1-4)β-グルカンとで製造した複合体の膜は吸水性が著しく低いことがわかる。
このように乾燥時に以上収縮することなく抄紙工程と同様の手順で薄膜成形を行うことが可能であった。この膜は、水溶性多糖を含む複合体から構成されており、比較的相互作用の選択性が低いセルロースに対して、高度な相互作用に関係する水溶性多糖を結合した状態とすることで、相互作用活性をもつ物質の効果的な提示が可能となる。(1-3),(1-4)β-グルカンを提示させた素材は、可食性素材として多様な成形加工食品の製造に適用可能である。それに加えて、キトサンは、抗菌性を有することが知られており、抗菌性を有する膜としての食品用シート等における機能発現が期待される。キトサンは、化学反応性の高いアミノ基を表面に有しており、相互作用性を示す金属塩の捕集や計測、化学修飾による発色・蛍光物質をもつ誘導体化、タンパク質の提示等を通じた高機能素材化が可能となる。
(実施例6:離解物の応用:麺)
本実施例では、本開示の離解物を利用した麺の生成例を示す。
(材料および方法)
実施例2のキトサン添加・離解物の一部を、10mL容のプラスチックシリンジ内に充填し、マグネチックスターラーで攪拌した状態の0.01M水酸化ナトリウム水溶液(100mL)へ毎分5mLの速度で押し出し滴下した。その結果、離解物は、液中で麺状にゲル化した。また、3gのアルギン酸ナトリウム添加・離解物に対して米澱粉(モチールB、上越スターチ(株))を混合して、マグネチックスターラーで攪拌した状態の200mM塩化カルシウム水溶液中(100mL)へ毎分5mLの速度で押し出し滴下した。
(結果)
その結果、図6に示すように、離解物と澱粉の混合物は、液中で白色麺状にゲル化した。
以上のことから、食感をもつゲル化食品の製造に加えて、機能性物質を含むビーズ状成形物等の製造が可能となり、可食・非可食製品の機能を拡張することができる。後述の実施例26で示した、寒天ゲル中の粉末が分散性を保つというような複合体の安定化作用も期待できる。3Dフードプリンタでの多様な食感表現、栄養や機能性成分、味質・香り成分の保持と飛散制御のための手段となる。
(実施例7:離解物の応用:失活操作の効果)
本実施例では、本開示の離解物の失活酵素の影響を観察した。
(材料および方法)
実施例2のβ-グルカン添加・離解物の0.75mLをチューブにとり、イオン交換水で二倍に希釈して上下反転してゾルを分散させたものを2本用意した。その後、リケナーゼ(Magazyme社、E-LiCHN、Lot60101a)0.005mLを、0.1mLのイオン交換水
に溶かし、Vortexミキサーで攪拌したものを2つ用意し、1つは100℃のヒートブロック中で10分間保温して失活させた。それぞれのリケナーゼ溶液を0.075mLとり、β-グルカン添加・離解物の分散液が入ったチューブに添加した。これを60℃で反応させた。
(結果)
その結果、失活酵素を入れた方では変化が見られなかったが、失活操作を行わなかったリケナーゼを入れた区では、3分後には白濁度合いの低下及び流動性向上を確認できた。
(実施例8:離解物の応用:醤油タレ)
本実施例では、本開示の離解物を利用した醤油タレの生成例を示す。
(材料および方法)
実施例1のキシログルカン添加・離解物の1mLをチューブにとり、遠心分離(18,900g、3分、室温)後に、上澄を除去したゾル状画分を回収した。これに0.6mLの醤油を添加して混合することで、とろみをもつ醤油タレを調製した。
(結果)
結果を図7に示す。
このように、水溶性の液状調味料を複合体と混合することで、流動性を抑えたゾル状の食品を提供できる。中食製品の輸送時における内容物の飛び散りを抑制するのみならず、3Dフードプリンタでの自動操作時などにおける吐出の際の安定性、塗布の際の安定性、薄層状態での乾燥抑制、親水層または疎水性層による成分移動の抑制などの効果を示すことと期待される。肌保護用クリーム、リンス、研磨剤、消毒剤などへの適用も期待される。
(実施例9:離解物の応用:3Dフードプリンタなどに利用可能なひも状・渦状物)
本実施例では、本開示の離解物を利用した、3Dフードプリンタなどに利用可能なひも状・渦状物の生成例を示す。
(材料および方法)
実施例2のBCのアルギン酸ナトリウム添加・離解物9mL(懸濁物A)及び実施例1のBCのキシログルカン添加・離解物9mLに0.225mLの4M CaClを加えたもの(懸濁物B)をそれぞれ、10mLシリンジに充填し、定速送液装置(PicoPlus、Harvard Apparatus社)にセットし、押し出した後に両者が混合する様に三方流路で合流
させて外部に押し出せるよう設計し、同時に0.5mL/minで押し出した。混合から射出まで8mm。図8に使用したシリンジ設置様式の模式図(左)及び設置後の写真(右)を示す。
(結果)
結果を図9~10に示す。
その結果、懸濁物Aと懸濁物Bの混合が流路内で起こり、図8(右)の写真に示す射出物を受けるためのシャーレ内のSQ水中にヒモ状のゲルが確認された(図9)。
次に、懸濁物B(4mL)に片栗粉(1.5g)を添加して良く練り合わせてからシリンジに充填して(懸濁物C)を、上記試験と同様にして、懸濁物Bの入ったシリンジと交換してセットし、懸濁物Aと同時に押し出すことにより澱粉が入ったゲルを台状に成形した。その後、これを手で持ち上げて、クッキングペーパー上に載せた後、オーブントースター(縦型オーブントースター KDTO-001、ライソン(株))で250W(上段ヒーターのみ、台までの距離6cm)で5分加熱し、澱粉を糊化することで、とろみがあるが、べと付きが抑えられて手で持ち上げられる成形物を得た(図10)。これを噛むと、やや弾力があるが容易に噛み切れた。
(実施例10:離解物の応用:グミ状物)
本実施例では、本開示の離解物を利用したグミ状物の生成例を示す。
(材料および方法)
実施例2のBCのβ-グルカン添加・離解物6mLに対して、米澱粉(ファインスノウ、上越スターチ)を4g添加して混練した後、10mL容シリンジ内に充填した。次に内容物をシリンジから3mL/minで射出し、直径15cmの皿の側面に成形物を作った。その後、成形物と接触しないように皿の中央部に1mLのSQ水を落としてから、食品包装用ラップフィルム(サランラップ、旭化成ホームプロダクツ(株))で上部全体を覆い、電子レンジ(EM-A20(W)三洋電機(株))で500Wで2分間蒸し加熱した。
(結果)
結果を図11~13に示す。
上記の結果、成形物は、外側は固くてパリッとかみ砕ける状態となり、内側まで固くなっているものが多かったが、直径5mm程の粒状に成形したものは、内側がグミのような弾力をもっていた。
なお、実施例2のBCのβ-グルカン添加・離解物の代わりに、同量のSQ水を加えた米澱粉では、粘性が低く流動性が高い液状の懸濁物となったため、この条件下では成形できなかった。
(実施例11:離解物の応用:ハンバーグ)
本実施例では、本開示の離解物を利用したハンバーグの製造例を示す。
(材料および方法)
肉代替食品(大豆と玄米のベジミンチ、(株)マイセンファインフード)4gを乳鉢で5分間潰して円柱状の部分を2mm径以下の粒状にした後、SQ水6mLまたは実施例2のBCのβ-グルカン添加・離解物6mLを加えてスパーテルで混練した。SQ水を加えた試料では結着せずにそぼろ状のままであったが、BCのβ-グルカン添加・離解物を加えた試料では結着して成形できた。
この成形物を、ハンバーグ様食品としてオーブントースター(縦型オーブントースター KDTO-001、ライソン(株))で250W(上段ヒーターのみ、台までの距離6cm)、片面5分間、計10分間加熱した。
(結果)
結果を図14~15に示す。その結果、加熱の間、粒の分離は観察されず、結着した状態を維持していた。また、噛んだ際にそぼろ状にならずに噛み応えが残った。
(実施例12:離解物の応用:菓子)
本実施例では、本開示の離解物を利用した菓子の製造例を示す。
(材料および方法)
野菜粉末(ムラサキイモ、カボチャ、ホウレンソウ、ホウレンソウ/米澱粉(ファインスノウ)=3:1)を各2gずつ測りとり、実施例2のBCのβ-グルカン添加・離解物3mLと混合し練り混ぜてペースト状にした(粉末の順に(1)~(4))。その後、(1)と(2)は、直径8mm高さ3mmの円筒状に、(3)と(4)は長径16~20mm短径8~12mm高さ2mmの葉状に成形して、直径15cmの皿の側面に成形物を、4個ずつ間隔をあけて配置した。その後、成形物と接触しないように皿の中央部に1mLのSQ水を落としてから、食品包装用ラップフィルム(サランラップ、旭化成ホームプロダクツ(株))で上部全体を覆い、電子レンジ(EM-A20(W)三洋電機(株))で500 Wで2分間蒸し加熱した。
(結果)
結果を図16~17に示しつつ説明する。
上記の結果、(1)は中央部が1.5倍に膨らみ、外はパリッとして中は硬めの干し芋かチューインガムのような弾力があった。(2)は中央が二倍に膨らみ、外はカリカリ・サクサクした菓子状で、中はやや干し柿様の弾力があった。(3)は高さ方向に膨らまず縦横方向に収縮し、暗い深緑となった。焦げ様の噛み応えであった。(4)は縦横方向の収縮は観察されず、縦方向に1.5-2倍膨らんだ。黒色に近い色となり、薄焼き煎餅様のカリカリした食感となった。
(実施例13:離解物の応用:各種糖の効果)
本実施例では、本開示の離解物を利用した各種糖の効果を示す。
(材料および方法)
BC(ナタデココプレーン、森永乳業株式会社)の脱糖操作は、実施例1と同様の方法で行った。できあがった脱糖物の固形分率は0.68%となった。これを湿重量100gとり、40mLの0.7%多糖溶液(実施例1の方法で水に分散させて溶解。κ-カラギーナンは分散後、電子レンジによる加熱操作により溶解)を添加した後、家庭用ミキサー(パワーブレンダーSPB-650J、コンエアージャパン合同会社)で速度(15,000rpm)、30秒×4回粉砕することで離解した。その後、その離解物の一部(5g)を35mLのイオン交換水で8倍希釈物とした。その液は、0.5mmメッシュのスクリーンを通過させた。
Figure 0007217555000004
(結果)
その結果、多糖存在下で粉砕させた試料では脱糖BCのみを用いた場合と異なる特性を示した。
オオムギ抽出物は、もち大麦(もち麦、株式会社はくばく)を70℃で12時間乾燥した後、これをカッターミル粉砕機(MF 10.1 カッター式ヘッド、IKA Japan K.K.)で粉砕(2mmスクリーンメッシュパス)したもの30gに、40℃で90mLの水を添加して、1時間振盪(180r.p.m)後に遠心分離(23,000xg、5分、室温)を行い、上澄み部40mLを用いた。この上澄み部に含まれる(1-3),(1-4)β-グルカン量は、(1-3),(1-4)β-グルカン測定キット(メガザイム社)を用いて測定した結果、0.8%となった。
表3において、オオムギ抽出物に添加前にリケナーゼで処理したものを用いて、脱糖BCを離解した結果、離解が不十分な部分が混在する離解物が得られたことから、(1-3),(1-4)β-グルカンが、オオムギ抽出物中の離解促進に寄与する主成分の一つであることが明らかとなった。
(実施例14離解物の応用:肉代替物)
本実施例では、本開示の離解物を利用した肉代替物の生成を示す。
(材料および方法)
実施例13のBCから得たβ-グルカン添加・離解物を用いて、実施例11の肉代替食品の調製を行い、同様の操作が可能であることを確認した。
(結果)
結果を図18に示す。
(実施例15:離解物の応用:ホイップクリーム様食品)
本実施例では、本開示の離解物を利用したホイップクリーム様食品の生成を示す。
(材料および方法)
実施例2のBCのβ-グルカン添加・離解物(100mL)を遠心分離(25,000g、10分、4℃)で沈殿部として回収し、エリスリトールを添加(最終濃度6%(w/V))したものを32gとり、ボウル上に移した。そのボウルに、ホイップかるい口どけ(雪印メグミルク、植物性脂肪30%)40mLを加えて、泡立て器で2分攪拌して泡状にした(図19左)。この一部を取り出し、星形のホイップクリーム押出口から押し出して黒色の板上に配置した(図19右)。
(結果)
半量を低カロリーの食物繊維由来の複合体に置換しても、クリーム状構造を形成することができ、無カロリーの甘味料による甘味付けも行うことができた。このように、本離解物を適用することで、カロリー制限したお菓子の調理、製造の可能性が広がるものと期待される。
(実施例16:離解物の応用:ダマ状の粉砕物の浮遊)
本実施例では、本開示の離解物のダマ状の粉砕物の浮遊に関する状況を分析した。
(材料および方法)
実施例13の方法にならい、脱糖後のBC湿重量100gに0.7%(w/v)多糖溶液(多糖:β-グルカン、オオムギ由来)40mLを添加してミキサーで短時間(5秒~30秒)粉砕した。
(結果)
粉砕時間を長くすることにより、ダマ状の粉砕物の浮遊量が減ることが確認された。このように、粉砕条件を変えることで、粉砕物中の繊維質の形状を制御することが可能であることが分かり、繊維質感を残したい条件等への柔軟な対応が可能となる。
(実施例17:離解物の応用:麺様食品)
本実施例では、本開示の離解物を用いた麺様食品の製造例を示す。
(材料および方法)
実施例2の方法で調製したBCのβ-グルカン添加・離解物6mLに対して、米澱粉(ファインスノウ、上越スターチ)を6g添加して混練した後、30分間、乾燥しないようにラップで覆い、その後、3Dフードプリンタなどに用いる10mL容シリンジ内に充填した。次に内容物をシリンジから3mL/minで射出し、沸騰水(煮立っている状態、IH鍋ケトル「コトル」TOM-17、(株)シービージャパン)1Lが入った鍋に加えた。1分後、ザルで回収し、冷水で洗浄した。
(結果)
結果を図21~22に示す。
本処理の結果、10cm程度の半透明の麺が得られ、噛み切る際のシコシコ感をもつ弾力、口中を滑らす際のツルツル感を有していた。口中に入れたままでは崩壊しないが、容易に噛み切ることができた。
同試料をシリンジから、上下高さ5~8mm程度の粒状に皿の上に並べ、10分ほど常温で風乾した。その後、沸騰水1Lに加えて、2分間処理した。その後、上記と同様に回収、冷却洗浄した。本処理の結果、半透明の粒が得られて、同様の弾力とツルツルした感触を有し、口中に入れたままでは崩壊しないが、容易に噛み切ることができた。
(実施例18:離解物の応用:タピオカ様食品)
本実施例では、本開示の離解物を用いたタピオカ様食品の製造例を示す。
(材料および方法)
実施例2の方法で調製したBCのβ-グルカン添加・離解物3mLに対して、ジャガイモ粉末を3g添加して混練した後、30分間、乾燥しないようにラップで覆い、その後、直径8mm程度の団子状に成形した。これを、同様の方法で新たに用意した沸騰水1Lに加えて、2分間処理した後、箸で拾い上げて皿上に回収した。
(結果)
得られた団子状の食品は、茹でる前よりも少し大きくなり、表面の剥離や球状構造の崩壊は観察されず、タピオカ様のモチモチした弾力を有しており、口中に入れたままでは崩壊しないが、容易に噛み切ることができた。
(実施例19:離解物の応用:ボールミルによる離解物の製造例)
本実施例では、本開示の離解物を用いたボールミルによる離解物の製造例を示す。
(材料および方法)
幅1mm~2mm、長さ30mm程度に裁断した濾紙(Filter paper 1, Whatman社)、ビートパルプ粉末またはレモン乾燥粉末250mgを水10mL、もしくは1%キシログルカン溶液10mLと混合した。1%キシログルカン溶液は実施例1と同様の方法で調製した。ボールミル(MM301,ヴァーダー・サイエンティフィック株式会社)を用い、50mL容ステンレス粉砕ジャー、及びステンレス製25m径粉砕ボールを用いて破砕を行った(振盪速度15回/秒、2分)。
(結果)
その結果、濾紙、ビートパルプ粉末由来、及びレモン乾燥粉末由来の全ての試料について、高粘性の粉砕物が得られた。濾紙の粉砕物を目視で確認した結果、水を用いて粉砕した場合と比較して、キシログルカン溶液で粉砕したものの方が細かく分散していた。
(実施例20:離解物の応用:卵焼き)
本実施例では、本開示の離解物を用いた卵焼きの製造例を示す。
(材料および方法)
実施例2の方法でBCから得た(1-3),(1-4)β-グルカン添加・離解物を用いて、これを遠心分離し(32,300xg,10分、4℃)沈澱部を回収することで、3倍に濃縮した白色クリーム状の離解物を得た。卵液(鶏卵中の黄身と白身を無加水で溶いたもの。)22.5mLに対して、5mLの水(対照区)または5gの前記クリーム状離解物(試験区)を加えて、泡立て器で2分間攪拌した。
(結果)
その結果、対照区では流動性が高く小さい気泡を多く巻き込んだ卵液となったのに対して、試験区では粘性が高く気泡が少ない卵液となった。両者から卵焼きを作った結果、対照区ではふわふわして軽く噛みきれる卵焼きとなったのに対して、試験区では身が詰まり弾力をもった卵焼きとなった。
(実施例21:離解物の応用:3Dフードプリンタなどに利用可能な極細固麺状食品)
本実施例では、本開示の離解物を用いた極細固麺状食品の製造例を示す。
(材料および方法)
実施例2の方法でBCから得た(1-3),(1-4)β-グルカン添加・離解物を3mL取り、スパーテルを用いて1.5gのジャガイモ粉末と混練した後、10mL容プラスチックシリンジに充填した。このシリンジの先端にアダプタ(バイオラッド社Low Pressure Fittings Kit 731-8223の出口をステンレス管で内径1mmに狭めたもの。)をセットした後、定速送液装置(PicoPlus、Harvard Apparatus社)にセットし、0.5mL/minで押し出した。出てきたペーストは、1.5cm下のプラスチックトレイで受け、手動でトレイを左右・前後に振りながら切れないように配置した(図24)。
(結果)
結果を図24に示す。
ペーストは小さく捻れたり切断されたりすることなく、見かけ上ほぼ一定の径で、ほぼ直線的に配置された。このペーストを室温で風乾することで、簡単には崩壊しない極細固麺状の構造物を得た。
(実施例22:離解物の応用:麺状食品)
本実施例では、本開示の離解物を用いた麺状食品の別の製造例を示す。
(材料および方法)
実施例2の方法でBCから得た(1-3),(1-4)β-グルカン添加・離解物を25mL取り、100℃に加温したものを、米粉(日本晴、湿式気流粉砕物)30gの入ったボウル内に半量ずつ添加し、良く混練した。さらに100℃の湯5mLを加えて混ぜたものを、米澱粉を敷いた調理板上に置いて、棒で厚さ6mmの平たい生地とした。これを包丁で幅6mmの短麺状に切った後、沸騰水中に投入し、麺が浮かんだ時点で加熱を停止し、直ちにザルに出して流水で冷却した。
(結果)
結果を図25に示す。
茹で工程による麺の崩壊や切断は起こらず、表面が滑り強い噛み応えのある麺となった。
(実施例23:離解物の応用:沈殿状態の観察)
本実施例では、本開示の離解物の沈殿状態の観察結果を示す。
(材料および方法)
試験管内の大豆粉(みたけ食品工業(株))をイオン交換水で懸濁させた5%(w/w)懸濁物4mLに対して、イオン交換水または実施例2の方法でBCから得た(1-3),(1-4)β-グルカン添加・離解物を1mL加えて再度攪拌・懸濁した後、室温で静置した。
(結果)
結果を図26に示す。5時間後に、イオン交換水を追加添加した試料では、大豆粉の沈澱が観察されたのに対して、離解物を加えた試料では、沈澱が観察されなかった。
(実施例24:離解物の応用:吸着状態の観察)
本実施例では、本開示の離解物の吸着状態の観察結果を示す。
(材料および方法)
試験官内の0.25%クルクミン(和光純薬工業(株))分散液2mL(橙色)に対して、イオン交換水または実施例2の方法でBCから得た(1-3),(1-4)β-グルカン添加・離解物を0.5mL加えて攪拌した。5分室温で静置した後、再度攪拌した直後に液を1.5mL、プラスチックチューブ(2mL容)に移し、室温で15秒間遠心分離(定速:CAPSULE HF-120、(株)トミー精工)した。
(結果)
その結果、水を添加した試料では、分散させたクルクミンが試験管の壁面に薄く付着していたのに対して、離解物を添加した試料では、遠心分離によって下方に固まった離解物中に吸着していることが確認された(図27)。
(実施例25:離解物の応用:ゲル状態の観察)
本実施例では、本開示の離解物のゲル状態の観察結果を示す。
(材料および方法)
水1mLまたは実施例2の方法でBCから得た(1-3),(1-4)β-グルカン添加・離解物1mLを試験管に取り70℃に加温した後、90℃に加温した2%寒天水溶液を1mL添加し、直ちに攪拌混合して室温で1時間静置し空冷した。
(結果)
その結果、水-寒天試料では透明のゲルが、そして離解物―寒天試料では半透明のゲルが生成した。前者は脆く口中で砕けたが、後者は口中で噛み応えが残り良質な食感となった。
(実施例26)
実施例2の方法でBCから得た(1-3),(1-4)β-グルカン添加・離解物を50%(v/v)含み、寒天を1%含む液を6mL、または、上記離解物を含まない1%寒天6mLをプラスチックチューブに入れて、それぞれ100℃に加熱して寒天を溶解させた後、80℃に冷まし、それぞれのチューブに1.2gの大豆粉末を添加し懸濁した。これを4℃に維持した平面状のヒートブロック上に0.5mL滴下したところ、Cでは1.7cmに拡がって固まったのに対して、Sでは1.0cmの幅で固まった。また、両チューブを80℃で30分静置すると、離解物を含まないチューブでは大豆粉の沈澱が観察されたが、離解物を含むチューブでは懸濁状態を保った。
(実施例27)
本実施例においては、不溶性多糖としてキチンを用いて、水溶性多糖の存在下で粉砕した例を示す。セルロースや植物細胞壁のみならず、甲殻類の殻由来の多糖でも本開示の複合体を製造することができることを確認した。
キチン(フナコシ、商品番号82004068)680mgを140mLの水または0.2%キシログルカン水溶液に懸濁し、実施例1の方法にならい家庭用ミキサーで30秒x8回粉砕した。それぞれ試料C及び試料Sとする。その後、キチンの離解物懸濁液を32mL取り出し、試料Cには1%キシログルカン水溶液を、そして試料Sには水を各6.1mL添加し、両者を室温で100rpmで1時間水平振盪した。その後、0.5mm孔径のメッシュを通過した画分を回収し、セル長1cmのキュベット中で600nmでの濁度を測定した結果、試料C及び試料Sでそれぞれ0.20及び0.23であり、離解時にキシログルカンを添加した試料Sの方がメッシュ通過粒子の量が15%多くなった。
(実施例28)
本実施例においては、本開示の方法を用いて、グルカンのみから構成される高密度な固形物が製造できることを確認した。この素材は、外に膜を張って水分の吸い方を制御することにより、中の澱粉の糊化特性を制御できる機能性素材ともなり得る。
実施例13の方法に従い、バクテリアセルロースと(1-3),(1-4)β-グルカンとで作った懸濁物を実施例20の方法で濃縮した白色クリーム状の離解物を2.00g、米澱粉(ファインスノウ)2.00gを加えて10分間スパーテルで混練した。これを、直径15mm、高さ8mm程度の円盤型に成形し、ナイロンメッシュ上、60℃のオーブンで乾燥した。48時間乾燥して1.84gの円盤型成形物を得た。この円盤型成形物の周囲に、実施例5で用いた脱糖BCのβ-グルカン添加・離解物をさらに8倍希釈した物を塗布し、ナイロンメッシュ上、60℃のオーブンで乾燥した。この成形物をオーブンから取り出し、室温条件下で、円盤型成形物の上部水滴を置いた結果、10分後も内部に浸透されずに維持された(図28)。この成形物は、澱粉、(1-3),(1-4)β-グルカン及びセルロースから成る、グルカンのみで構成される可食性の乾燥組成物であり、吸水挙動が制御された、高密度のグルコース貯蔵物質としての役割を果たす。
以上のとおり、バクテリアセルロースと(1-3),(1-4)β-グルカン由来の離解物を、澱粉を混合して固めることで、高密度なグルカンの塊になり、可食性・貯蔵性多糖として期待することができる。また、中に入っている澱粉が吸水して糊化する際の様式が、離解物の混ざり具合(離解物の吸水速度に依存する水の移動度、そして澱粉の吸水糊化時の抵抗力)に依存することから、新たな糊化特性をもつ素材が作れることも期待できる。
(実施例29)
本実施例においては、本開示の方法により、草本繊維質資源からシートを製造できることを確認した。稲わらをアルカリ処理した繊維質に対して、(1-3),(1-4)β-グルカンを加えて粉砕処理を行った後、これを実施例5の方法にならい膜素材として成形した。
既報(YamagishiK. et al., The RURAL(reciprocal upgrading for recycling of ash and lignocellulosics)process: a simple conversion of agricultural resources tostrategic primary products for the rural bioeconomy, Bioresource Technology Reports,2020)に従い、稲わら(品種:コシヒカリ)を鶏糞燃焼灰(25%w/w)と混合し、14日間湿式貯蔵を行った後、稲わらの乾燥重量に対して62.5倍量の水により洗浄を行った。本処理後の稲わら(乾燥重量0.5g相当)を、(1-3),(1-4)β-グルカン0.52%(w/v)水溶液19.5mLと混合し、ステンレスミル(レッチェ社、50ml容、ステンレスボール(φ2cm)含む)の中に入れ、ボールミル(レッチェ社、MM-301)を用いて破砕処理を行った。破砕条件は15往復/秒、室温で4分間とした。その後、得られた懸濁物を1.5mLとり、実施例5の方法に従い、0.5mmメッシュのナイロン製の網の上部から流し込み、非通過画分を保持した。これを60℃で乾燥させることで、わら半紙状の稲わら由来の膜を得た(図29)。
以上のとおり、資源を汎用品や工芸品に変えたり、バイオマス由来の素材に成形することが期待できる。
(実施例30:タマリンドシードガムからの本開示の複合体の調製)
タマリンドシードガム粉末4gをイオン交換水400mLに懸濁し、85℃に加温しつつ攪拌することで懸濁液を調製した。これを120℃で15分間オートクレーブ処理した後、メスシリンダーを用いて400mLにメスアップすることで1%(w/v)タマリンドシードガム水溶液とした。これを0.7%に希釈し、その40gをナタデココ脱糖物100gと混合後、140mLのミキサー粉砕系で粉砕し、本開示の複合体(本明細書において「NP」(ナタピューレ)と称することがある)140gを得た。
(実施例31:小型ミキサーでの本開示の複合体の調製と300μmメッシュ濾過試験)
ナタデココ脱糖物20g(固形物濃度0.7%)に対して、27mLのイオン交換水または水溶性多糖溶液(固形物濃度0.35%)を添加し、小型ミキサー(FML-17、トステム)を用いて室温で120秒粉砕した。これにより得られた懸濁物を、それぞれ、NPw(水溶性多糖を加えずに水だけでナタデココ脱糖物を離解したもの)、NPxg(水溶性多糖としてタマリンドシードガムを用いたもの)、NPcmc(水溶性多糖としてカルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩を用いたもの)、及びNPbx(水溶性多糖としてバーチウッドキシランを用いたもの)とした。それぞれの懸濁物を水で4.7倍に希釈したものを試料A、これを孔径300μmのメッシュを通過させた試料Bとして回収し、それぞれの試料の600nmの吸光度を濁度として測定し、試料A、Bの値を各々分母、分子として300μmメッシュの通過率(%)とした。結果を表5に示す。
Figure 0007217555000005
(実施例32:NPtgと各種溶質との相互作用)
実施例31に記載した方法にならい、ナタデココ脱糖物20g(固形物濃度0.7%)と高濃度のタマリンドシードガム溶液(1.2% w/w)27gを小型ミキサーで混和し、NP(NPtg)を調製した。NPtg(4g)に対し、表6に示す各種溶質を懸濁または溶解した試料1gを50mL容プラスチックチューブ内で十分混和した後、チューブを直立した状態で3時間室温下に静置した。その後、各チューブを速やかに倒して寝かせ、20秒後に液面先端の程度距離を測定した。対照区である水添加区(液面流動距離 3.0cm)に対し、各溶液添区における液面流動距離を相対値として計算した(各溶液添区における液面流動距離(cm)/水添加区における液面流動距離(3.0cm))×100(%))。
その結果、添加した下記溶質では液面流動距離の増加または低下が観察された。このことで、様々な添加物を加えることで、NPの物性を制御できることが明らかとなった。特に、ガラクトマンナン添加により流動性は大きく低下し、粘り気の極めて低いゲル様の特性を示した。このような特性をもつ素材の調製は、咀嚼・飲み込みの能力が劣る者に対する食品の提供の際や、特に自動調理を考えた際に有効な工程となる。
Figure 0007217555000006

(実施例33:NPtgと米粉の混合物)
実施例32において調製したNPtg(5g)に対して、米粉(日本晴、湿式気流粉砕物)を500mg添加して分散させた後、95℃で15分処理した。これを取り出すとクリーム状の食品が生成された(図30)。加熱後の糊化物を強く長時間攪拌しなくても、均質性をもつクリーム状に加工できることから、このクリーム状食品は、菓子などの食品加工時に無脂質・低脂質素材として役に立つことに加えて、自動操作等による簡単な工程によって咀嚼・飲み込みの能力が劣る者に対する食品の提供を可能とするための素材となる。
(実施例34:米粉と本開示の複合体との相互作用(RVA))
米粉(コシヒカリ、湿式気流粉砕)3.0gを用いて、水または種々の本開示の複合体(複合体由来の固形物濃度0.14%)2mLとアルミ缶内で混合後、パドルとともにRapid Visco Analyzer(RVA, RVA4、Newport Scientific, Australia)にセットして、標準測定条件で粘度を測定し、粘度変化を解析した。測定条件は、初期温度50℃、スタートから10秒間960rpmで分散し、その後160rpmにして50℃で1分間保持した後、12℃/分で95℃まで昇温し、2分30秒95℃で保持し、その後12℃/分で50℃まで降温、2分間50℃で保持するプログラム粘度測定を行い、それぞれの試料につき最高粘度、最終粘度のパラメーターを得た。その結果、最高粘度(cP)は、水、NPbg(水溶性多糖として(1-3),(1-4)-β-グルカンを用いたもの)、NPxg(水溶性多糖としてタマリンドシードガムを用いたもの)、NPcmc(水溶性多糖としてカルボキシメチルセルロース・ナトリウム塩を用いたもの)、NPal(水溶性多糖としてをアルギン酸ナトリウム用いたもの)、NPch(水溶性多糖としてキトサンを用いたもの)、NPgg(水溶性多糖としてグアーガムを用いたもの)、及びNPbx(水溶性多糖としてバーチウッドキシランを用いたもの)に対して、それぞれ、4980、5911、5732、5380、5437、5987、5556、及び5635となった。また、測定終了時点の最終粘度(cP)も、4204、4609、4359、4432、4893、4307、4262、及び4297となった。このように、本開示の複合体は、米粉の糊化時及び糊化後の粘度を高める作用をもつことがわかった。
(実施例35:小麦粉と本開示の複合体との相互作用(RVA))
実施例34と同様の方法で、小麦粉(薄力小麦粉、日清製粉株式会社)3.0gを用いて、水または種々の本開示の複合体(複合体由来の固形物濃度0.145%)25mLとアルミ缶内で混合後、パドルとともにRVAにセットして、粘度変化を解析した。その結果、最高粘度は、水、NPbg、NPxg、NPcmc、NPal、NPch、NPgg、及びNPbxに対して、それぞれ、1566、2348、2179、1994、1946、2134、2025、及び2072となった。また、測定終了時点の最終粘度(cP)も、2187、3160、3076、2867、2770、2843、2763、及び2811となった。このように、本開示の複合体は、小麦粉の糊化時及び糊化後の粘度を高める作用をもつことがわかった。
(実施例36:小麦粉・米粉の分散性)
薄力粉3.1g(乾燥重量相当)を水、又は水に対し2.5%~20%相当(w/w)の比率でNPw、NPxgを混合した溶液21.9gと混合し、十分に攪拌してスラリー状にした後、直径15mmのガラス試験管にその10gを添加した。18時間4℃下で静置後、水面から沈降した薄力粉の界面までの距離(h)を測定した。本開示の複合体を含まない試料(水)における沈降距離を(hw)とし、各試料における沈降率を(h/hw)×100(%)とした。また、米粉(品種:日本晴)を用いても同様の試験を行った。対照試験として、食品の分散剤として一般的に用いられる多糖類(キサンタンガム)について、薄力粉を用いて同様の試験を行った結果、NPxg混合率12.5%(固形物濃度0.09%、沈降率11.4%)とほぼ同程度の値(13.9%)の値を示す濃度は0.6%(w/w)であった。これにより、NPがキサンタンガムより低濃度で分散性を付与することがわかる。また、NPxg混合率15%(固形物濃度0.10%)時の米粉沈降率(11.8%)と同程度の値(19.3%)を示すキサンタンガム濃度は0.5%であった。これにより、NPがキサンタンガムより低濃度で分散性を付与することがわかる。NPxgスラリー及びキサンタンガムスラリーの物性を比較するため、NPxg混合率12.5%の薄力粉、NPxg混合率15%の米粉スラリー、及びキサンタンガム0.6%(w/w)を含む薄力粉、キサンタンガム0.5%(w/w)を含む米粉スラリー(薄力粉および米粉の濃度は同一(12.5%(w/w))を用意し、各々10mLを10mL容のディスポシリンジに詰めた後にシリンジ出口を下にして立てて、その5mLがシリンジから自然落下するのに必要な時間を測定した。結果を図31~34に示した。
その結果、NPxg混合試料では薄力粉、米粉共に5秒であったのに対し、キサンタンガム0.6%(w/w)を含む薄力粉スラリーでは45秒、キサンタンガム0.5%(w/w)を含む米粉スラリーでは82秒であった。このことから、薄力粉及び米粉分散液に対するNPxgの添加は、高い流動性が必要な際に有効と考えられた。
(実施例37:小麦粉および本開示の複合体を用いた野菜粉末シート/色付ドットの作製)
薄力粉20g(乾燥重量相当)を水75g及びNPxg 25gと混和してスラリーを調製し、その一部(各20g)をターメリック粉末(市販品)またはパセリ粉末(市販品をボールミルで微粉末化した試料)0.4gと混和して着色ペーストを調製した。着色ペースト、及び無着色のペーストを10mL用ディスポシリンジに充填し、金属板上に吐出した。さらに、各ペーストを加熱したテフロンプレート上に吐出し、水分がほぼ蒸発したと思われた時点で、得られたシート状成形物をプレートから剥離した。結果を図35及び36に示した。
(実施例38:各種野菜への添加と硬さの変化)
市販キャベツ粉末、ジャガイモ粉末、大豆粉末、及びレモン粉末を所定量の水と混和し、ペースト試料を調製した。含水率(乾物量(DM)/全重量)は各々22.5%、25%、37%及び17.5%に設定した。また、上記試料に対して、加水量の20%をNPwまたはNPxgに置き換えたペースト100gを調製した。直径6cm、高さ1cmのプラスチックシャーレに30gを詰めた分析試料を各のペーストにつき3枚調製し、レオメーター(サン科学、CR-500DX)を用いてテクスチャープロファイルを測定した。主要な測定パラメーターとして、直径10mm,高さ20mmの樹脂製円柱状プランジャーを使用して1mm/sにて表面から5mmの深さまでペーストを等速圧縮し、その後,直ちに同じ速度で逆向きにプランジャーを引き上げる工程を採用し、圧縮時の最大応力(N)を硬さの指標とした。測定は3回繰り返し,平均値及び標準偏差を求めた。結果を図37に示した。
その結果、NPw、NPxgの添加により硬度が上昇することが分かったが、特にその効果はNPxgを添加したペーストにおいて顕著であり、NPxg無添加の試料に対して、キャベツ、ジャガイモ、大豆及びレモン粉末において、硬さがそれぞれ2.0倍、1.7倍、21.5倍及び2倍に上昇した。
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2021年5月25日に出願された特願2021-87567に対して優先権主張をするものであり、その内容はその全体があたかも本願の内容を構成するのと同様に参考として援用される。
本開示によれば、豊富な資源であるセルロースなどの水不溶性炭水化物を多様な物性表現が可能な機能性素材として食品分野や他の材料分野で利活用することができる。特に食品分野では、簡単な処理工程によって低カロリーで多様な特性の食品を製造することができ、調理加工技術の向上および多様化に大きく貢献することができる。セルロースなどの水不溶性炭水化物の食品分野への展開、自動調理・加工工程における食表現の高度化、肉・油脂製品代替物の提供などを通じて、資源高度利用と健康維持向上の両立に貢献することができる。また、非可食素材分野においても、生分解性素材の創出などを通じて、セルロース系素材などの水不溶性炭水化物の利用価値を向上することで、農産廃棄物、森林資源などを高度利用するための次世代型生物資源産業の創出を加速することができる。

Claims (9)

  1. 水中での崩壊性が抑制された組成物であって、該組成物は、第一の複合体と水不溶性粒子とが結着した組成物に、第二の複合体または抑制または制御剤が被覆されたものであり、
    該第一の複合体は、水溶性多糖と水不溶性炭水化物とを含む複合体であって、該水不溶性炭水化物が、水に溶解した該水溶性多糖との共存下で離解されており、水不溶性炭水化物の離解後に水不溶性炭水化物と水溶性多糖とを混合した組成物と比較した場合に、該複合体の離解性が高いことを特徴とし、
    該第二の複合体は、水溶性多糖と水不溶性炭水化物とを含む複合体であって、該水不溶性炭水化物が、水に溶解した該水溶性多糖との共存下で離解されており、水不溶性炭水化物の離解後に水不溶性炭水化物と水溶性多糖とを混合した組成物と比較した場合に、該複合体の離解性が高く、該水溶性多糖が(1-3),(1-4)β-グルカンであり、該水不溶性炭水化物がセルロースであることを特徴とし、
    該抑制または制御剤は、第三の複合体を含む透水の抑制または制御剤であり、
    該第三の複合体は、水溶性多糖と水不溶性炭水化物とを含む複合体であって、該水不溶性炭水化物が、水に溶解した該水溶性多糖との共存下で離解されており、水不溶性炭水化物の離解後に水不溶性炭水化物と水溶性多糖とを混合した組成物と比較した場合に、該複合体の離解性が高いことを特徴とする、組成物。
  2. 前記水不溶性粒子が、澱粉、セルロース、またはβ-1,3-グルカンから選択される少なくとも一種類の材料を含む粒子を含む、請求項に記載の組成物。
  3. 前記第一および/または第三の複合体における前記水溶性多糖が、キシランまたはその誘導体、β-グルカンまたはその誘導体、マンナンまたはその誘導体、水溶性セルロース誘導体またはその塩、キトサンまたはその誘導体、アルギン酸またはその塩またはそれらの誘導体、カラギーナン、ジェランガム、ペクチンまたはその部分構造物またはそれらの誘導体、またはそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1または2に記載の組成物。
  4. 前記β-グルカンまたはその誘導体が、(1-3),(1-4)β-グルカンを含む、請求項3に記載の組成物。
  5. 前記β-グルカンまたはその誘導体が、タマリンドシードガムを含む、請求項3に記載の組成物。
  6. 前記水不溶性炭水化物がバクテリアセルロースを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
  7. 前記水不溶性炭水化物が食品用ブレンダーまたは食品用ミキサーによって離解される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
  8. 水不溶性炭水化物の離解後に水不溶性炭水化物と水溶性多糖とを混合した組成物と比較した場合に、前記第一、第二、および/または第三の複合体は、該組成物よりも大きい体積を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
  9. 前記第一および/または第三の複合体における前記水溶性多糖が(1-3),(1-4)β-グルカンであり、前記水不溶性炭水化物がセルロースである、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
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