以下、本発明に係る画像形成装置の実施の形態を、タンデム型カラープリンター(以下、単に「プリンター」という。)を例にして説明する。
〔1〕全体構成
図1は、プリンター10の全体の構成を示す図である。同図では、プリンター10を正面視したときの左右方向をX軸方向、上下方向をY軸方向、X軸とY軸の双方に直交する方向をZ軸方向としている。Z軸方向は、装置前後方向に相当する。
同図に示すようにプリンター10は、画像形成部11と、給紙部12と、搬送部13と、定着部14と、全体制御部15と、操作部16を備えており、LAN等のネットワークに接続されて、外部端末(不図示)からのジョブの実行指示に基づいてプリントを実行する。
画像形成部11は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のそれぞれに対応する作像部20Y、20M、20C、20Kと、中間転写ベルト21などを備えている。
作像部20Y~20Kは、中間転写ベルト21に沿って所定間隔で直列に配置されている。作像部20Yは、感光体ドラム1と、その周囲に帯電器2、露光部3、現像部4、中間転写ベルト21を挟んで感光体ドラム1と対向する一次転写ローラー5および感光体ドラム1の表面を清掃するクリーナー6などが配設されてなり、感光体ドラム1にY色のトナー像を作像する。他の作像部20M~20Kは、基本的に作像部20Yと同じ構成であり、対応する色のトナー像を作像する。同図では、符号を省略している。
中間転写ベルト21は、無端状のベルトであり、駆動ローラー22と従動ローラー23に張架されて同図矢印方向に周回駆動される。
給紙部12は、給紙カセット31と、繰り出しローラー32と、搬送ローラー対33を含み、搬送部13は、レジストローラー対34と、中間転写ベルト21を介して二次転写位置37で駆動ローラー22に圧接される二次転写ローラー35と、排出ローラー対39を含む。
給紙カセット31は、記録用のシートとしての用紙Sを多数枚、例えば最大で500枚を収容可能なシート収容部である。給紙カセット31は、装置本体19内の収納位置から装置本体19に対してレールなどの部材(不図示)により装置正面側の補充位置まで引き出し可能に構成されている。
給紙カセット31に収容されていた全ての用紙Sの給紙が完了したために給紙カセット31内の用紙Sが空になった場合、ユーザーは、給紙カセット31を収納位置から補充位置まで引き出す操作を行うことで、給紙カセット31に新たな用紙Sを補充する操作を行うことができる。ユーザーは、用紙Sの補充後、給紙カセット31を補充位置から装置背面側に押し込む操作を行うことで元の収納位置まで戻す操作を行うことができる。給紙カセット31が収納位置に位置しているときに、用紙Sの給紙が可能になる。
給紙カセット31が収納位置から補充位置まで引き出されたことを給紙カセット31の開動作といい、補充位置から収納位置に戻されたことを給紙カセット31の閉動作という。この給紙カセット31の開動作から閉動作まで一連の開閉動作は、給紙カセット31内の用紙Sが空になる度に繰り返し実行され、この開閉動作が行われたことは、カセット開閉検出センサー311で検出される。カセット開閉検出センサー311による給紙カセット31の開閉動作が実行された旨の検出結果は、全体制御部15に送られる。
繰り出しローラー32は、給紙カセット31にセットされた用紙Sを搬送路38に向けて繰り出す。搬送ローラー対33は、繰り出しローラー32により繰り出された用紙Sをレジストローラー対34に向けて搬送する。
レジストローラー対34は、搬送ローラー対33から搬送されて来る用紙Sを二次転写位置37に送り出すタイミングをとるものであり、用紙Sのスキュー補正の機能も有している。具体的には、レジストローラー対34を停止させておき、搬送ローラー対33により搬送されて来る用紙Sの搬送方向先端を、停止しているレジストローラー対34のニップへ当接させる。これにより、用紙Sの先端部にループが形成される。このループの形成により用紙Sのスキューが補正される。そして、用紙Sを二次転写位置37に送り出すタイミング(後述)になると、レジストローラー対34の回転を開始して(用紙Sの搬送再開)、用紙Sを二次転写位置37に搬送する。
繰り出しローラー32と搬送ローラー対33は、給紙モーター17の回転駆動力により回転する。また、レジストローラー対34、二次転写ローラー35と、排出ローラー対39は、駆動モーター18の回転駆動力により回転する。なお、レジストローラー対34は、電磁クラッチ(不図示)を介して駆動モーター18の回転駆動力を受ける。この電磁クラッチの入り切りにより、レジストローラー対34のみを停止と回転を切り換えできる。
定着部14は、定着ローラー141と加圧ローラー142を圧接させて定着ニップ145を形成し、ヒーター143により定着ローラー142を加熱して、定着に必要な温度(定着温度:後述の第2目標温度に相当)を維持する。定着ローラー141の温度は、定着部温度検出センサー144により検出される。この検出結果は、全体制御部15に送られる。
全体制御部15は、外部の端末装置からの画像信号をY~K色用のデジタル信号に変換し、作像部20Y~20Kの露光部3の光源を駆動させるための駆動信号を生成する。生成された駆動信号により、作像部20Y~20K毎に、露光部3の光源が駆動されて光ビームが出射され、感光体ドラム1が露光走査される(画像書込)。
この露光走査を受ける前に、作像部20Y~20K毎に、感光体ドラム1が帯電器2により一様に帯電されており、光ビームの露光により、感光体ドラム1上に、形成すべき画像の静電潜像が作像され、作像された静電潜像が現像部4によりトナーで現像される。
各色のトナー像は、一次転写ローラー5と感光体ドラム1間に生じる電界による静電力の作用を受けて中間転写ベルト21上に一次転写される。この際、各色の作像動作は、そのトナー像が中間転写ベルト21上の同じ位置に重ね合わせて転写されるようにタイミングをずらして実行される。中間転写ベルト21上に重ね合わされた各色トナー像は、中間転写ベルト21の周回走行により二次転写位置37に向けて移動する。この作像動作に並行して、レジストローラー対34から用紙Sが二次転写位置37に向けて搬送される。
このとき、中間転写ベルト21上のトナー像が二次転写位置37に到達するタイミングと用紙Sの先端が二次転写位置37に到達するタイミングとが一致するように、レジストローラー対34の回転開始タイミング(用紙Sの搬送再開タイミング)が制御される。
具体的には、感光体ドラム1の周速と中間転写ベルト21の周回速度が同じ速度であり、最上流の作像部20Yの感光体ドラム1上に形成されたトナー像が中間転写ベルト21を介して二次転写位置37に到達するまでに移動する距離が予め分かっている。これより、中間転写ベルト21の周速が判れば、作像部20Yの感光体ドラム1への書き込み開始(作像開始に相当)から中間転写ベルト21上のトナー像が二次転写位置37に到達するまでに要する時間Qaが決まり、中間転写ベルト21上のトナー像が二次転写位置37に到達する時刻を推測できる。
一方、レジストローラー対34から二次転写位置37までの搬送路38上の距離(以下、Lという。)が予め決まっており、レジストローラー対34による用紙Sの搬送速度(以下、Vという。)は、中間転写ベルト21の周速と同じである。このため、距離Lを速度Vで除した時間Qbだけ上記の推測時刻から遡った時刻にレジストローラー対34の回転を開始すれば、中間転写ベルト21上のトナー像が二次転写位置37に到達するタイミングと用紙Sの先端が二次転写位置37に到達するタイミングとを一致させることができる。この遡った時刻Qcが用紙Sを二次転写位置37に送り出すタイミングになる。
例えば、時間Qa-Qb=α(≧0)としたとき、作像開始から所定時間αの経過時が時刻Qc、つまり用紙Sを搬送再開する時刻になる。なお、αが負になる装置構成の場合、作像開始と用紙Sの搬送再開のタイミングが上記とは逆の関係になる。
用紙Sの先端が二次転写位置37に到達すると、用紙Sは、周回走行される中間転写ベルト21と二次転写ローラー35により挟持搬送されつつ、二次転写ローラー35に生じる電界による静電力の作用を受けて、中間転写ベルト21上のトナー像が一括して用紙Sに二次転写される。
二次転写位置37を通過した用紙Sは、定着部14に搬送される。定着部14では、用紙Sの搬送方向先端が定着ローラー141に至る前に、定着部温度検出センサー144の検出結果に基づき定着ローラー141の温度がその用紙Sの種類に適した定着温度になっているように温調制御される。この温調制御については、後述する。
用紙Sが定着ローラー141と加圧ローラー142による定着ニップ145を通過する際にトナー像が加熱と加圧により用紙Sに定着された後、排出ローラー対39により機外に排出されて、収容トレイ49に収容される。
定着ローラー141と加圧ローラー142は、駆動モーター18の回転駆動力により回転するが、作像部20Y~20Kの感光体ドラム1や中間転写ベルト21などの回転体もこの駆動モーター18の回転駆動力で回転する。
上記では、Y~Kの4色を用いてカラープリントを行うカラーモードの例を説明したが、プリンター10は、カラーモードだけではなく、1色、例えばK色のみのモノクロプリントを行うモノクロモードも実行可能である。
モノクロモードの場合、Y、M、C色用の作像部20Y、20M、20Cが駆動されず、K色用の作像部20Kのみが駆動されて、中間転写ベルト21上にはK色のトナー像のみが転写され、二次転写位置37で中間転写ベルト21から用紙SにK色のトナー像が二次転写される点がカラーモードと異なっている。また、モノクロモードでは、上記の中間転写ベルト21上のトナー像が二次転写位置37に到達する時刻の推測は、作像部20Yを作像部20Kに置き換えることで行うことができる。
カラーモードとモノクロモードのいずれのプリントモードを実行するかはユーザーの指示によるが、プリントに供される画像データがカラーを含むデータかモノクロのみのデータかを自動で判別して、カラーを含むデータの場合、プリントモードをカラーモードに切り換え、モノクロのみのデータの場合、プリントモードをモノクロモードに切り換える制御をとることもできる。
搬送ローラー対33よりも用紙搬送方向下流側かつレジストローラー対34よりも用紙搬送方向上流側であり、搬送路38の近辺には、搬送路38上をレジストローラー対34に向かって搬送される用紙Sの種類を検出するためのメディアセンサー36が配設されている。検出された用紙Sの種類は、定着ローラー141の温調制御に用いられる。
メディアセンサー36は、例えば、反射型の光学センサーなどが用いられ、発光部から発せられた光を搬送中の用紙Sに照射し、その用紙Sからの反射光を受光部で受光して、受光量に応じた信号、例えば電圧を出力する。用紙Sの種類、例えば普通紙、厚紙、薄紙などの違いにより反射光の光量が異なり、出力電圧が異なる。
従って、予め用紙種類ごとにその用紙種類と出力電圧の大きさとを対応付けた情報を記憶等しておくことにより、メディアセンサー36の出力電圧の大きさから、搬送中の用紙Sの種類を判別することができる。メディアセンサー36は、用紙Sの種類を検出できるシート種類検出手段であれば、光学センサーに限られず、例えば超音波センサーなどを用いることもできる。メディアセンサー36の出力信号は、全体制御部15に送られる。
装置本体19内であり定着部14の周辺の位置に、温湿度検出センサー48が配置されている。温湿度検出センサー48は、定着部14の周辺空間の雰囲気環境、ここでは温度と湿度を検出する。その検出結果は、全体制御部15に送られる。
操作部16は、装置正面の、ユーザーの操作し易い位置に配置されている。操作部16には、例えばユーザーによるプリント枚数や濃度などのプリント条件の入力を受け付けるためのキーなどが設けられている。また、給紙カセット31に収容されている用紙Sの種類をユーザーが手動入力する用紙種類手動入力モードと、ユーザーの手動入力ではなく、メディアセンサー36で自動検出する用紙種類自動検出モードの選択をユーザーから受け付ける後述の用紙種類選択画面160(図3)などを表示するためのタッチパネル付きの表示部16aも設けられている。操作部16で受け付けられた入力情報は、全体制御部15に送られる。
〔2〕全体制御部の構成
図2は、全体制御部15の構成を示すブロック図である。
同図に示すように全体制御部15は、通信インターフェース(I/F)部61と、CPU62と、ROM63と、RAM64と、自動検出要否記憶部65と、累積プリント枚数記憶部66と、用紙種類使用履歴記憶部67と、ヒーター制御部68と、目標温度決定用テーブル69と、目標温度記憶部70と、用紙種類検出結果記憶部71を備え、それぞれが相互に通信可能になっている。
通信I/F部61は、ネットワーク、ここではLANカード、LANボードといったLANに接続するためのインターフェースであり、LANを介して外部(不図示)からのプリントジョブのデータを受信する。
CPU(Central Processing Unit)62は、ユーザーによる操作部16の入力情報などに基づき、ROM(Read Only Memory)63から必要なプログラムを読み出して、画像形成部11、給送部12、搬送部13、定着部14を統括的に制御して、プリントジョブを円滑に実行させる。
また、CPU62は、定着部温度検出センサー144の検出結果から定着ローラー141の温度を随時監視する。上記の用紙種類自動検出モードが選択されている場合、CPU62は、1枚の用紙Sに対するプリントジョブ実行時に、レジストローラー対34による用紙Sの搬送の一旦停止開始から、定着ローラー141の温度が目標の定着温度(第2目標温度)に向かって昇温している途中で所定温度、例えば目標の定着温度よりも5℃相当分だけ低い温度に達すると、画像形成部11による作像動作を開始させる。
この作像動作の開始のトリガーとなる所定温度は、作像動作を開始後、用紙Sがレジストローラー対34の搬送により二次転写位置37を介して定着ローラー141に至る時点で既に、定着ローラー141が昇温により目標の定着温度で維持される状態になるのに十分な昇温に要する時間を確保できる温度として予め実験などにより決められる。
従って、作像動作の開始後、レジストローラー対34により搬送され、二次転写位置37でトナー像が二次転写された用紙Sが定着ローラー141に至る時点では、定着ローラー141の温度が目標の温度で温調された状態になっており、用紙S上のトナー像に対する適した熱定着が実行される。
RAM(Random Access Memory)64は、CPU62のワークエリアを提供する。
自動検出要否記憶部65は、用紙種類自動検出モードと用紙種類手動入力モードのユーザーによる選択結果を示す自動検出要否情報を記憶している不揮発性の記憶部であり、このモードの選択は、操作部16の表示部16aに表示される用紙種類自動検出要否選択画面160(以下、「画面160」という。)を介して行われる。
図3は、画面160の表示例を示す図である。
同図に示すように画面160には、自動検出ボタン161と手動入力ボタン162が表示されている。手動入力ボタン162の下方には、異なる用紙種類を示す複数の表示ボタンが並べられた用紙種類ボタン群163が表示されている。なお、同図では用紙種類ボタン群163に、普通紙、厚紙、薄紙を含む5種類を示す5個のボタンが表示されているが、用紙種類がこれらに限られることはなく、プリンター10で通紙可能な1または複数の用紙種類を示すボタンを表示することができる。
ユーザーは、給紙カセット31に収容されている用紙Sの種類の入力操作を省略したい場合には、自動検出ボタン161をタッチ入力することができる。自動検出ボタン161がタッチ入力されると、ユーザーが自動検出を選択した旨の情報が自動検出要否情報として自動検出要否記憶部65に書き込まれる。
一方、ユーザーは、用紙種類の入力操作を自己で行う場合には、手動入力ボタン162をタッチ入力した後、用紙種類ボタン群163の中から登録すべき用紙種類を示す表示ボタンをタッチ入力することができる。例えば、給紙カセット31に現に収容されている用紙Sの種類が普通紙の場合、ユーザーは、普通紙ボタン164をタッチ入力すれば良い。
手動入力ボタン162がタッチ入力された後、用紙種類ボタン群163の表示ボタンがタッチ入力されると、ユーザーが手動入力を選択した旨および手動入力された用紙種類を示す情報が自動検出要否情報として自動検出要否記憶部65に書き込まれる。なお、自動検出要否記憶部65への自動検出要否情報の書き込みは、CPU62が上書きにより行うので、書き込みごとに、その書き込まれた情報に更新される。
図2に戻って、累積プリント枚数記憶部66は、プリンター10の新品時から現在までの間にプリントに供された用紙Sのトータルの累積プリント枚数(累積画像形成枚数)を示す累積プリント枚数情報を記憶している不揮発性の記憶部である。この累積プリント枚数情報は、CPU62により次のようにして更新される。
すなわち、1枚の用紙Sが給紙カセット31から繰り出されて搬送路38上を搬送(通紙)されるごとに、現在の累積プリント枚数を累積プリント枚数記憶部66から読み出し、読み出した現在の累積プリント枚数に「1」をインクリメントしたものを、新たな累積プリント枚数として累積プリント枚数記憶部66に上書きする。
用紙種類使用履歴記憶部67は、プリンター10の新品時から現在までの間にプリント時に使用された用紙Sの種類別の積算枚数を示す用紙種類使用履歴情報を記憶している不揮発性の記憶部である。
図4は、用紙種類使用履歴情報を示すテーブル670の内容例を示す図である。
同図に示すように用紙種類ごとに過去の使用履歴を示す積算枚数Piが対応付けて書き込まれている。この使用履歴情報は、CPU62により次のようにして更新される。すなわち、1枚の用紙Sが搬送路38に通紙される度に、その用紙Sがメディアセンサー36の検出位置を通過する際に、その用紙Sの種類がメディアセンサー36で検出される。検出された用紙種類に対応する現在の積算枚数Piをテーブル670から読み出し、読み出した現在の積算枚数Piに「1」をインクリメントしたものを、検出された用紙種類に対応する新たな積算枚数Piとして更新(上書き)する。
図2に戻って、ヒーター制御部68は、定着部温度検出センサー144の検出結果に基づき定着ローラー141の現在の温度を監視し、ヒーター143の点灯と消灯の切換制御により、定着ローラー141の温度を制御する。
具体的には、プリントを実行していない非画像形成時には、次のプリントの実行指示(画像形成の開始指示)を受け付けるまでの待機中に、定着ローラー141の温度が待機温度に維持されるようにヒーター143を制御する。待機中に定着ローラー141を予備的に加熱しておくことで、次のプリントの実行指示があったときに定着ローラー141の定着温度への昇温に要する時間の短縮を図れる。なお、待機温度を高く設定しすぎると省電力の効果が薄れるので、節電と昇温に要する時間の両方を加味して適した温度が待機温度として予め設定される。以下、プリンター10が待機中の状態を待機モードという。
待機モード時にプリントの実行指示を受け付けると、待機モードを解除して、定着ローラー141の待機温度から目標温度への昇温や維持などの制御を行う。この制御に、ヒーター制御部68は、用紙種類と温湿度検出センサー48の検出結果とカセット開閉検出センサー311の検出結果をも用いる。また、後述の特定の条件を満たすプリント時には、定着ローラー141の目標温度を待機温度から第1目標温度を経て第2目標温度に切り換える制御を行う。この制御の詳細については、後述する。
プリンター10のプリント動作中をプリントモードといい、プリント動作が完了すると、プリントモードから待機モードに遷移する。プリントの実行指示を受け付ける度に、待機モードからプリントモードを経て待機モードに戻るモード切り換えが繰り返される。
目標温度決定用テーブル69は、定着ローラー141の目標温度(待機温度、第1目標温度、第2目標温度)を決定するために用いられる不揮発性の記憶部に格納された温度テーブルである。
図5は、目標温度決定用テーブル69の内容例を示す図である。
同図に示すように目標温度決定用テーブル69には、待機温度欄691と定着温度欄692が設けられている。定着温度欄692は、異なる用紙種類、ここでは薄紙、再生紙、普通紙などに区分けされており、異なる用紙種類のそれぞれに、モノクロモードおよびカラーモードと、環境、ここではLL(低湿低温)、NN(常温常湿)、HH(高温高湿)との組み合わせごとに設定すべき定着温度が対応付けされている。
ここで、普通紙は、例えば坪量(g/m2)が60~119の範囲、薄紙は、例えば50~59の範囲、厚紙は、例えば120以上のものとすることができる。
また、LL(低)は、5℃10%RH、LL(高)は、10℃15%RH、NNは、20℃60%RH、HHは、30℃85%RHであるが、これらは一例であることはいうまでもなく、装置構成に応じた温湿度が設定される。環境(温湿度)は、温湿度検出センサー48で検出される。
待機温度は、プリントを実行していない非画像形成時に次のプリント指示があるまでの待機モード中の目標温度のことである。同図の例では、待機温度は、プリントモード(モノクロモードとカラーモード)や環境に関係なく、一律に同じ温度、具体的には100℃が設定されている。
定着温度は、用紙S上のトナー像を熱定着するのに必要な温度のことであり、用紙種類ごとにプリントモードと環境に応じて細かに設定されている。
例えば、普通紙についての定着温度は、モノクロモード、NN環境では125℃の設定であるのに対して、カラーモード、NN環境では135℃の設定になっている。これは、次の理由による。すなわち、モノクロモードでは、1色のトナー像のみが用紙S上に転写されるが、カラーモードでは、2色以上のトナー像が用紙S上に積層した状態で転写され、モノクロモードよりも定着に多くの熱量が必要になるので、その分、定着温度を高めに設定しておく必要があるからである。
定着ローラー141の3つの目標温度のうち、待機温度は、目標温度決定用テーブル69の待機温度欄691の設定温度である。第2目標温度は、目標温度決定用テーブル69の定着温度欄692の設定温度、つまり1枚の用紙Sごとに、その種類とプリントモードと環境に応じたその用紙Sに適する定着温度に等しい。第1目標温度は、後述の第1目標温度決定処理(図10)において、定着温度欄692の異なる設定温度のうちの一つが決定される。
図2に戻って、目標温度記憶部70は、第1目標温度と第2目標温度を示す目標温度情報を記憶している不揮発性の記憶部であり、用紙種類検出結果記憶部71は、メディアセンサー36で検出された用紙Sの種類を示す用紙種類情報を記憶している不揮発性の記憶部である。
図6は、目標温度情報700の内容例を示す図であり、第1目標温度と第2目標温度が書き込まれている。なお、第1目標温度と第2目標温度が決定される度に、目標温度記憶部70内で対応する記憶領域にその決定された目標温度が上書き保存される。
図7は、用紙種類情報710の内容例を示す図であり、検出された用紙Sの種類が書き込まれている。なお、メディアセンサー36による用紙種類の検出結果が用紙種類検出結果記憶部71に書き込まれるのは、上記の特定の条件が満たされた場合のみであるが、書き込みの度に上書き保存される。
〔3〕給紙搬送制御の内容
図8は、CPU62による給紙搬送制御の内容を示すフローチャートである。
同図に示すようにプリントの実行開始指示(画像形成の開始指示)が受け付けられると(ステップS1)、1枚の用紙Sの給紙を開始する(ステップS2)。
用紙Sの給紙開始とは、給紙カセット31から1枚の用紙Sを繰り出しローラー32で繰り出す動作をいう。この給紙開始により、繰り出しローラー32で繰り出された用紙Sが搬送ローラー対33を経て、停止中のレジストローラー対34に向けて搬送される。
搬送中の用紙Sの先端が搬送ローラー対33を通過後、メディアセンサー36の検出位置を通過する間に、その用紙Sの種類が検出される(ステップS3)。
搬送中の用紙Sの先端がメディアセンサー36の検出位置を通過後、停止中のレジストローラー対34に至ってから用紙Sの先端部に所定の大きさのループが形成されると、給紙を終了、つまり繰り出しローラー32と搬送ローラー対33を停止させる(ステップS4)。
給紙終了後、作像動作が開始されたか否かを判断する(ステップS5)。作像動作の開始は、上記のように定着ローラー141の温度が定着温度よりも所定温度だけ低い温度に達したことを契機に行われる。
作像動作の開始を判断すると(ステップS5で「Yes」)、作像開始から所定時間α経過時にレジストローラー対34の回転を開始して、用紙Sの搬送を再開する(ステップS6)。この用紙Sの搬送再開により、用紙Sが2次転写位置37、定着部14を経て排出ローラー39に向けて搬送される。なお、用紙Sの搬送再開時には、中間転写ベルト21、二次転写ローラー35、定着ローラー141や加圧ローラー142、排出ローラー対39も回転している。
用紙Sが2次転写位置37を通過する際に中間転写ベルト21上のトナー像が用紙Sに二次転写され、定着ニップ145を通過する際に用紙Sのトナー像が加熱と加圧により定着される。
定着部14を通過した用紙Sが排出ローラー対39に至ると、排出ローラー対39により用紙Sが排出されて(ステップS7)、当該制御を終了する。
〔4〕ヒーター制御部の処理内容
図9は、ヒーター制御部68による定着ローラー141の温度制御の内容を示すフローチャートである。
同図に示すようにプリントの実行開始指示があると(ステップS11)、待機モードからプリントモードに遷移し、1枚の用紙Sの給紙が開始されたか否かを判断する(ステップS12)。この給紙開始は、上記の給紙開始(ステップS2)の処理に相当する。
この給紙が給紙カセット31の開閉動作後の最初の給紙動作であるか否かを判断する(ステップS13)。この最初の給紙であることの判断は、カセット開閉検出センサー311が給紙カセット31の開閉動作の実行を検出した後の最初(1枚目)の給紙である場合に行われる。
給紙カセット31の開閉動作後の最初の給紙動作であることを判断すると(ステップS13で「Yes」)、用紙種類自動検出が選択されているか否かを判断する(ステップS14)。この判断は、自動検出要否記憶部65に記憶されている自動検出要否情報を参照することにより行われる。
用紙種類自動検出が選択されていることを判断すると(ステップS14で「Yes」)、第1目標温度決定処理を実行する(ステップS15)。この第1目標温度決定処理を実行する条件、つまりステップS13で「Yes」、S14で「Yes」の場合が上記の特定の条件を満たした場合に相当する。
図10は、第1目標温度決定処理のサブルーチンの内容を示すフローチャートである。
同図に示すように累積プリント枚数Pzを取得する(ステップS31)。累積プリント枚数Pzの取得は、累積プリント枚数記憶部66に現に記憶されている累積プリント枚数情報を読み出すことにより行われる。
累積プリント枚数Pzが所定値Tp以上であるか否かを判断する(ステップS32)。ここで、所定値Tpは、ユーザーが過去にどの種類の用紙を多く使用したかの傾向を判断するのに適した枚数として予め決められる値であり、例えば1000(枚)とすることができる。これは、次の理由による。
ユーザーが給紙カセット31に用紙を補充する操作を行う場合、一定枚数(例えば500枚)の用紙Sを包装した1つの束を開封し、その開封後の束をそのまま給紙カセット31にセットする操作を行うことがほとんどである。このような想定のもと、累積プリント枚数Pzの指標値でもある用紙Sの補充回数を目安に所定値Tpを決めようとした場合、1回目の補充、つまり500枚の用紙Sに対するプリントが実行された程度では、ユーザーによる過去の用紙種類の使用傾向を判断するのにはまだ枚数が少なすぎると考えられる。
一方で、3回目の補充、つまり1500枚の用紙Sに対するプリントが実行されていれば、それまでの間にユーザーによる用紙種類の使用傾向は十分に表れて来ていると考えられる。1回目の補充では少なすぎ、3回目の補充では多すぎると考えると、2回目の補充の枚数である1000枚が、ユーザーによる用紙種類の使用傾向を累積プリント枚数Pzから判断するのに適した所定値Tpの大きさと考えられたからである。なお、もちろん、所定値Tpが1000枚に限られることはなく、別の値をとることもできる。
所定値Tpを1000枚とした場合、3回目の用紙補充による給紙カセット31の開閉動作の終了時点で累積プリント枚数Pzが1000枚になっているはずなので、この給紙カセット31の開閉動作後の最初(1枚目)の用紙Sの給紙開始時点で、累積プリント枚数Pz≧所定値Tpの関係を満たしていることになる。
累積プリント枚数Pz≧所定値Tpの関係があることを判断すると(ステップS32で「Yes」)、使用頻度が所定値Tq以上の用紙種類が存在するか否かを判断する(ステップS33)。
ここで、使用頻度とは、異なる用紙種類ごとにその種類の用紙Sの積算枚数Piを累積プリント枚数Pzで除した割合(=Pi/Pz)として百分率(%)で表される。
所定値Tqは、ユーザーの過去の用紙種類の使用履歴から、所定値Tq以上の割合で頻繁に使用している用紙種類を、現に給紙カセット31にセットされている用紙Sの種類とみなすことができると想定される値(例えば、50%)として予め決められる。
この判断は、用紙種類使用履歴記憶部67のテーブル670(図4)に書き込まれている過去の用紙種類使用履歴を参照して、用紙種類ごとにその積算枚数Piの累積プリント枚数Pzに対する割合を計算することにより行われる。
例えば、現在の累積プリント枚数Pzが1000枚、所定値Tqが50%の場合、図4の例では普通紙の積算枚数Piが600枚なので、使用頻度が60%になり、使用頻度が所定値Tq以上の用紙種類として普通紙が存在していることが判断される。
肯定的な判断を行うと(ステップS34で「Yes」)、使用頻度の最も高い用紙種類に対応する定着温度を第1目標温度T1に決定して(ステップS35)、リターンする。
上記の図4の例では、使用頻度の最も高い用紙種類が普通紙であるので、図5に示す目標温度決定用テーブル69の定着温度欄692における「普通紙」の欄を参照して、現在のジョブで実行すべきプリントモードと現在の環境に応じた定着温度が第1目標温度T1に決定される。具体的に、プリントモードがカラーであり、現在の環境がNNの場合、第1目標温度T1は135℃に決定される。
一方、否定的な判断を行うと(ステップS34で「No」)、使用履歴に含まれる用紙種類に対応する定着温度のうち、最も低い定着温度を第1目標温度T1に決定して(ステップS36)、リターンする。
例えば、所定値Tqが70%の場合、上記の図4の例では否定的な判断が行われる。図4では、使用履歴に含まれる用紙種類は、普通紙、薄紙、厚紙の3種類である。例えば、図5においてプリントモードがカラー、現在の環境がNNの場合、使用履歴に含まれる薄紙に対する定着温度が125℃、普通紙に対する定着温度が135℃、厚紙に対する定着温度が150℃になっているので、これらの3つの定着温度のうち最も低い定着温度である125℃が第1目標温度T1に決定される。
累積プリント枚数Pz<所定値Tpの場合(ステップS32で「No」)、使用可能な全ての用紙種類に対応する定着温度のうち、最も低い定着温度を第1目標温度T1に決定して(ステップS37)、リターンする。Pz<Tpの場合、ユーザーによる用紙種類の使用傾向がまだ確立されていないとみなして使用履歴から第1目標温度T1を決めることを禁止し、使用可能な全ての用紙種類を対象に第1目標温度T1を決定するものである。
例えば、図5においてプリントモードがカラー、現在の環境がNNの場合、全ての用紙種類、すなわち薄紙、再生紙・・・インデックス紙のうち、最も低い定着温度が125℃なので、この125℃が第1目標温度T1に決定される。このように第1目標温度T1は、異なる用紙種類ごとにその種類に適した定着温度群の中の一つに決定されるので、待機温度T0よりも高い温度になる。
図9に戻って、ステップS16では、ヒーター143を制御して、定着ローラー141の温度を待機温度T0から、決定された第1目標温度T1に向けた昇温を開始する。この昇温開始を第1温調の開始という。
第1温調の開始から、後述のステップS21における定着ローラー141の第2目標温度T2の温調制御(第2温調)の開始までの間の途中で、定着ローラー141の温度が第1目標温度T1に達すると、第2温調の開始までの間、第1目標温度T1に維持される。
なお、ステップS12の給紙開始からステップS15の第1目標温度決定処理の完了までに要する時間は、ヒーター制御部68の処理能力にもよるが、極めて短い時間、例えば数ミリ秒程度なので、給紙開始と定着ローラー141の第1目標温度T1への昇温開始とは同時とみなせる。この昇温開始後、給紙動作により用紙Sがメディアセンサー36の検出位置を通過する際に用紙Sの種類が検出される(図8のステップS3)。
用紙Sの種類が検出されたことを判断すると(ステップS17で「Yes」)、検出された用紙種類を用紙種類情報710として用紙種類検出結果記憶部71に記憶させる(ステップS18)。
そして、検出された用紙種類に対応する目標温度を第2目標温度T2に決定する(ステップS19)。この第2目標温度T2の決定は、目標温度決定用テーブル69を参照して行われる。具体的には、検出された用紙種類が普通紙であり、プリントモードがカラーモード、環境がNNの場合、135℃に決定される。他の用紙種類、プリントモード、環境の場合も同様である。すなわち、目標温度決定用テーブル69において、検出された用紙種類、実行すべきプリントモード、検出された機内温湿度(環境)のそれぞれに対応する欄に書き込まれている温度に決定される。
第2目標温度T2が決定されると、定着ローラー141の目標温度を第1目標温度T1から第2目標温度T2に切り換えて(ステップS20)、第2目標温度T2の温度制御(第2温調)を開始する(ステップS21)。第2温調は、定着ローラー141の温度が第2目標温度T2に維持されるようにヒーター143を制御することにより行われる。
ここで、第1目標温度T1と第2目標温度T2が同じ場合、定着ローラー141の温度は、第1目標温度T1への昇温開始以降、これと同じ温度である第2目標温度T2で維持されるように温調制御される。第2目標温度T2の方が第1目標温度T1よりも高い場合、定着ローラー141の温度は、第1目標温度T1への昇温開始以降、第1目標温度T1を経て第2目標温度T2まで昇温された後、第2目標温度T2で維持されることになる。
第2目標温度T2の温調開始後、プリント動作が完了すると、プリントモードから待機モードに遷移して(ステップS22)、当該制御を終了する。待機モードへの遷移は、目標温度を第2目標温度T2から待機温度に切り換えることにより行われる。
このように給紙された用紙Sに対して、用紙種類がメディアセンサー36で検出される前に、定着ローラー141の待機温度から第1目標温度T1への昇温を前倒しで開始し、用紙種類がメディアセンサー36で検出されると、検出された用紙種類に適した定着温度(第2目標温度T2)で温調を行う制御を行う。
これにより、用紙種類がメディアセンサー36で検出された時点で、既に定着ローラー141の温度が待機温度から第1目標温度T1に向かって、ある程度、昇温している。従って、メディアセンサー36による用紙種類の検出が完了するのを待って、待機温度から定着温度への昇温を開始する構成よりも、定着ローラー141の定着温度への昇温に要する時間を短縮でき、その分FPOTの短縮化を図れる。
なお、第1目標温度T1は、メディアセンサー36による実際の用紙種類の検出結果に基づくものではないが、第1目標温度決定処理のステップS31~S35では、過去の用紙Sの使用履歴を用いる。これにより、例えば現在までの間、1種類、具体的には普通紙の使用がほとんどであった場合、現に給紙カセット31に収容されている用紙Sの種類は普通紙である蓋然性がかなり高く、実際の用紙種類の検出前に、収容されていると推定される普通紙に対応する定着温度を第1目標温度T1に決定することができる。
第1目標温度T1が、その後、実際に検出された用紙種類に応じた第2目標温度(定着温度)に一致していれば、第1目標温度T1への昇温が実質、定着温度への昇温に等しくなる。例えば、第1目標温度T1が定着温度よりもある程度、低い温度に決定された場合には、第1目標温度T1に昇温後、目標温度が定着温度に切り換わると、その時点からさらに昇温するという2段階の昇温の必要が生じ、定着ローラー141の待機温度から定着温度へ昇温に要する時間がかかる。
これに対し、第1目標温度T1が定着温度に一致していれば、2段階の昇温の必要がなく、定着ローラー141の待機温度から定着温度へ昇温に要する時間を短縮できる。
また、第1目標温度決定処理のステップS36、S37では、過去の用紙Sの使用枚数がまだ少ない場合や過去に使用された用紙種類の頻度にあまり差がない場合に、使用履歴から第1目標温度T1を決定する方法に代えて、設定可能な異なる定着温度群の中で最も低い温度に第1目標温度T1を設定する方法ととっている。
この方法によれば、第1目標温度T1が第2目標温度T2を超えることがないので、第1目標温度T1に昇温後、第2目標温度T2に降温させることが生ぜず、降温により生じる熱損失を防止できる。なお、熱損失や降温の程度がFPOTにほとんど影響を与えないような場合、第1目標温度T1>第2目標温度T2の関係を有する場合もあり得る。
一方、ステップS13で、給紙カセット31の開閉動作後の最初の給紙動作ではないこと、つまり2枚目以降の用紙Sの給紙であることを判断すると(ステップS13で「No」)、1枚目の用紙Sの給紙の際に検出され、用紙種類検出結果記憶部71に現に記憶されている用紙種類に対応する目標温度を第2目標温度に決定して(ステップS23)、ステップS20に進む。第2目標温度の決定は、上記のステップS19と同じ方法で行われる。また、用紙種類自動検出が選択されていない場合にも(ステップS14で「No」)、ステップS23に進む。
このように給紙カセット31の開閉動作後、2枚目以降の用紙の給紙動作の場合や用紙種類自動検出が選択されていない場合に、ステップS15~S19の処理、つまり第1目標温度の決定と昇温およびメディアセンサー36の検出結果を待って第2目標温度を決定する処理を行わないのは、次の理由による。
すなわち、ユーザーによる給紙カセット31の開閉動作は、給紙カセット31内の用紙Sが空になったために新たな用紙Sの束を給紙カセット31に補充する場面がほとんどと想定される。ユーザーによる用紙Sの給紙カセット31への補充は、上記のように同じ種類の一定枚数の用紙Sを包装した用紙束を開封したものを給紙カセット31にセットする操作であることが多い。この場合、給紙カセット31に補充された用紙Sの全ては、同じ種類のものになる。同じ種類の用紙Sとした場合、最初に繰り出された用紙Sの種類を判別できれば、2枚目以降の各用紙Sに対して用紙種類を判別する必要はない。つまり、2枚目以降の各用紙Sの種類は、1枚目の用紙Sの種類を援用すれば良いからである。
〔5〕実施例と比較例の定着ローラー141の温度制御の比較
図11(a)は、第1目標温度を用いる実施例の温度制御のタイミングチャートを示し、図11(b)は、第1目標温度を用いない比較例の温度制御のタイミングチャートを示す。図11(a)と(b)のそれぞれについて給紙カセット31の開閉動作後に最初に給紙される用紙Sに対する給紙搬送制御も合わせて示している。また、図11(a)と(b)では、待機モード中にプリント開始指示を受け付けた場合であり、プリント開始指示の受け付けにより待機モードからプリントモードに切り換わる場合を示している。
図11(a)の実施例に示すようにプリント開始指示を受け付けると(時点ta)、給紙カセット31から1枚目の用紙Sの給紙を開始するとともに、定着ローラー141の第1目標温度T1への昇温(定着立ち上げ)を開始する。この立ち上げ開始が第1温調の開始になり、図9に示すステップS16の処理に相当する。
第1温調に並行して、用紙Sの給紙により、給紙カセット31から1枚目の用紙Sが繰り出しローラー32により繰り出され、搬送ローラー対33を経て、停止中のレジストローラー対34に至った後、用紙Sの先端部に所定量のループが形成されると、繰り出しローラー32と搬送ローラー対33が停止して、用紙Sの搬送が一旦停止する(給紙動作の完了:時点tc)。用紙Sがメディアセンサー36の検出位置を通過する際に用紙種類が検出され(時点tb)、その用紙種類に応じた第2目標温度T2が決定されると(図9のステップS19)、定着ローラー141の温度を、決定された第2目標温度T2で温調制御する第2温調が開始される(図9のステップS21)。
第2温調の開始後、作像開始信号により作像開始が指示(HレベルからLレベルへの変化エッジの検出)されてから(時点td)、所定時間αが経過すると、レジストローラー対34の回転により用紙Sの搬送を再開する(時点te)。
定着ローラー141の温度が第2目標温度T2(定着温度)に達すると(時点tf)、これ以降、定着温度で維持される状態が継続される。この定着立ち上げに要する時間(時点ta~tf)がいわゆるウォームアップ時間になる。そして、搬送再開された用紙Sの搬送方向先端が二次転写位置37を経て定着ニップ145に到達し(時点tg)、その用紙Sが定着ニップ145を通過する際に定着が実行される。
一方、比較例では、プリント開始指示(時点ta)により用紙Sの給紙が開始されるが、用紙種類の検出完了(時点tb)まで待機モードが継続される。なお、実施例と比較例は、基準のプリント開始指示(時点ta)からの時間の経過時を時点tb、tc・・・で表している点で一致し、比較例の時点tbは、実施例の時点tbと同じ時刻であり、比較例の時点tcは、実施例の時点tcと同じ時刻である。
用紙種類が検出され(時点tb)、その用紙種類に応じた定着温度が決定されると、待機モードが終了して、定着ローラー141の待機温度から定着温度への昇温(定着立ち上げ)が開始される。
定着立ち上げ開始後、作像開始信号により作像開始が指示されてから(時点ti)、所定時間αが経過すると、レジストローラー対34の回転により用紙Sの搬送を再開する(時点tj)。作像開始以降の用紙搬送再開の動作は、比較例も実施例も同じである。
定着ローラー141の温度が定着温度に達すると(時点tm)、これ以降、定着温度で維持される状態が継続され、搬送再開された用紙Sの搬送方向先端が二次転写位置37を経て定着ニップ145に到達し(時点tn)、その用紙Sが定着ニップ145を通過する際に定着が実行される。
比較例では、用紙種類の検出完了(時点tb)までの間、待機温度が維持され、用紙種類の検出完了後、検出された用紙種類に応じた定着温度への昇温(定着立ち上げ)が開始されるので、作像開始のタイミング(時点ti)が実施例の作像開始のタイミング(時点td)よりも時間Tz、遅れる。
これに対し、実施例では、用紙種類の検出前、具体的には用紙Sの給紙開始と同期して、待機温度から第1目標温度T1への昇温を前倒しで開始し、用紙種類が検出されると、検出された用紙種類に適した定着温度(第2目標温度T2)で温調する制御としている。
従って、用紙種類が検出された時点tbでは、既に定着ローラー141の温度が待機温度から第1目標温度T1に向かって、ある程度、昇温していることになる。これにより、実施例では、比較例のように用紙種類の検出完了を待って、待機温度から定着温度への昇温を開始する構成よりも、プリント開始指示から定着ローラー141の定着温度への昇温までに要する時間を短縮でき、作像動作を時間Tz分、早く開始できる。作像動作を早く開始できることは、用紙搬送再開をより早く開始できることに等しく、それだけ比較例よりも、FPOTの短縮化を図れる。
ユーザーによる用紙種類手動入力モードで用紙種類が事前に登録されている場合には(図9のステップS14で「No」)、プリント開始指示(時点ta)からいきなり、事前に登録されている用紙種類に適した定着温度への昇温を開始できる。
一方、用紙種類自動入力モードでも、実施例において第1温調における第1目標温度T1が定着温度である第2目標温度T2に等しければ、プリント開始指示から定着温度への昇温を開始でき、実質、用紙種類が事前に登録されている場合と同様に、プリント開始指示から定着温度への昇温に要する時間を最短化することができる。
本発明は、画像形成装置に限られず、定着部の温調制御方法であるとしてもよい。また、その方法をコンピュータが実行するプログラムであるとしてもよい。また、本発明に係るプログラムは、例えば磁気テープ、フレキシブルディスク等の磁気ディスク、DVD-ROM、DVD-RAM、CD-ROM、CD-R、MO、PDなどの光記録媒体、フラッシュメモリ系記録媒体等、コンピュータ読み取り可能な各種記録媒体に記録することが可能であり、当該記録媒体の形態で生産、譲渡等がなされる場合もあるし、プログラムの形態でインターネットを含む有線、無線の各種ネットワーク、放送、電気通信回線、衛星通信等を介して伝送、供給される場合もある。
〔6〕変形例
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例が考えられる。
(6-1)上記実施の形態では、第1目標温度決定処理で第1目標温度T1を決定するとしたが、これに限られない。例えば、使用可能な異なる用紙種類のそれぞれに対応する異なる定着温度のうち、最も低い定着温度以下かつ待機温度よりも高い温度を第1目標温度T1として予め記憶部に記憶しておく構成をとることもできる。
具体的に、図5に示す目標温度決定用テーブル69では、異なる定着温度のうち最も低い温度が115℃であり、待機温度が100℃なので、100℃<第1目標温度T1≦115℃の条件を満たす温度、例えば115℃や110℃などを記憶しておくことができる。この構成では、図9に示す第1目標温度決定処理(ステップS15)において、記憶した第1目標温度T1を読み出す処理のみが行われる。なお、待機モードにおける待機温度が環境条件に応じて異なる待機温度に切り換えられる構成では、(最も高い待機温度)<第1目標温度T1≦(最も低い定着温度)という条件を満たす温度とすることができる。
(6-2)上記実施の形態では、プリント開始指示に伴う給紙開始から定着ローラー141(定着部材)の第1目標温度T1への昇温を開始する第1温調制御の例を説明したが、第1温調制御の開始(定着立ち上げの開始)タイミングはこれに限られない。
例えば、プリント開始指示の受け付けと給紙開始とが同期しておらず、プリント開始指示の受け付けの後に一定時間(1秒など)を開けて給紙開始を行う装置構成の場合、給紙開始とは関係なく、プリント開始指示の受け付けに伴って第1温調を開始する制御をとることもできる。具体的には、定着立ち上げをプリント開始指示の受け付けと同時に開始する場合やプリント開始指示の受け付けから所定時間経過時に開始する場合が含まれる。同様に給紙開始も、定着立ち上げと同時にしたり、定着立ち上げから所定時間経過時に開始したりすることもできる。
(6-3)上記実施の形態では、第1温度決定処理において使用頻度と所定値Tqの大小関係に基づき(ステップS33、S34)、使用頻度の最も高い用紙種類に対応する定着温度を第1目標温度T1に決定するか(ステップS35)、使用履歴に含まれる用紙種類に対応する定着温度のうち最も低い定着温度を第1目標温度T1に決定するか(ステップS36)を切り換えるとしたが、これに限られない。
例えば、使用頻度と所定値Tqの大小関係に関係なく、使用頻度の最も高い用紙種類に対応する定着温度を第1目標温度T1に決定しても良く、または使用履歴に含まれる用紙種類に対応する定着温度のうち最も低い定着温度を第1目標温度T1に決定するとしても良い。
また、累積プリント枚数Pzと所定値Tpの大小関係(ステップS32)に関係なく(ステップS31、S32を実行せず)、使用可能な全ての用紙種類に対応する定着温度のうち最も低い温度を第1目標温度T1に決定する(ステップS37)としても良い。
(6-4)上記実施の形態では、搬送ローラー対33を通過後、レジストローラー対34に向かう用紙Sがメディアセンサー36の検出位置を通過する際にその用紙種類を検出する構成例を説明したが、用紙種類の検出位置はこれに限られない。用紙種類の検出位置は、搬送される用紙Sが定着ローラー141に至るまでに、用紙種類の検出結果に応じた定着温度への定着ローラー141の昇温が完了している位置であれば良い。例えば、用紙種類の検出位置を繰り出しローラー32よりも搬送方向下流側かつ搬送ローラー対33よりも搬送方向上流側の位置とすることができる。また、給紙開始後ではなく、給紙カセット31に用紙Sが収容されている状態でその用紙Sの種類を検出、つまり給紙開始前に用紙種類を検出する構成もとり得る。この場合、メディアセンサー36を給紙カセット31内に配置することができる。
(6-5)上記実施の形態では、給紙カセット31の開閉動作後、最初に給紙された用紙Sに対してのみ、第1温調と第2温調を順に行う制御の例を説明したが、これに限られない。例えば、多数枚の用紙Sが予めセットされる給紙カセット31ではなく、1枚または少数枚の用紙Sをプリントジョブの実行の度にユーザーがセットする手差しトレイなどのシート収容部から給紙される用紙Sに対しては、1枚目だけではなく、2枚目以降のそれぞれの用紙Sに対してもこの制御を適用することができる。給紙カセット31から給紙される2枚目以降の各用紙Sについてこの制御を適用しても良い。
(6-6)上記実施の形態では、非画像形成時にヒーター143への供給電力をプリント時よりも低減させる待機モードに遷移して省電力を図る構成例を説明したが、これに限られない。例えば、実行中のプリントジョブが終了してから、次のプリントジョブの実行指示を受け付けるまでの間(非画像形成時)、ヒーター143への供給電力を遮断して定着ローラー141の温調制御を行わないモード(以下、ヒーターオフモードという。)を実行する構成をとることもできる。
この構成をとる場合、図11(a)の実施例では、プリント開始指示(時点ta)よりも前の非画像形成時では、待機モードに代えてヒーターオフモードが実行され、プリント開始指示に伴って、ヒーターオフモードからプリントモードに遷移する制御になる。
(6-7)上記実施の形態では、レジストローラー対34を用いて、搬送路38を搬送中の用紙Sを一旦停止させた後、中間転写ベルト21上のトナー像が二次転写位置37に到達するタイミングに合わせて、用紙Sの二次転写位置37への搬送再開の開始タイミングを制御する構成例を説明したが、用紙Sを一旦停止させる構成に限られることはない。
例えば、中間転写ベルト21上のトナー像が二次転写位置37に到達するタイミングと用紙Sの先端が二次転写位置37に到達するタイミングとが一致するように、レジストローラー対34の回転速度を調整、具体的には用紙Sの先端が二次転写位置37に到達するまでの間、通常のプリント時の搬送速度(システム速度)よりも落として用紙Sを低速で搬送する制御をとることもできる。この制御では、用紙Sの先端が二次転写位置37に到達すると、レジストローラー対34の回転速度が通常のプリント時の速度に戻される。
(6-8)上記実施の形態では、用紙Sを一定のシステム速度で搬送する構成例を説明したが、これに限られず、例えばメディアセンサー36により検出された用紙種類に応じて、レジストローラー対34から排出ローラー対39までの間の搬送速度を可変可能に制御する構成をとることもできる。例えば、厚紙の方が普通紙よりも熱定着に際し多くの熱量を必要とすることが通常なので、普通紙の搬送速度に対して厚紙の搬送速度を、その厚紙に必要な熱量が付与されるように一定量だけ遅くする制御をとることができる。
この制御では、給紙カセット31からレジストローラー対34までの間は、通常のシステム速度(第1速度)で用紙Sが搬送され、レジストローラー対34から排出ローラー対39までの間で用紙種類に応じた搬送速度(第2速度)に可変される。レジストローラー対34、定着ローラー141、排出ローラー対39などの回転速度、中間転写ベルト21の周速などがシステム速度から用紙種類に応じた速度に切り換えられる。
(6-9)上記実施の形態では、本発明に係る画像形成装置をタンデム型カラープリンターに適用した場合の例を説明したが、これに限られない。カラーの画像形成に代えて、モノクロの画像形成を実行する機能のみを有する画像形成装置に適用することもできる。
感光体や中間転写体などの像担持体上にトナー像などの画像を形成し、形成された画像を搬送される用紙などのシートに転写位置で転写し、画像が転写されたシートを定着部材まで搬送して定着部材で画像をシートに熱定着する画像形成装置において、シートが定着部材に搬送される前に、シートの種類をセンサー等の検出手段で検出し、その検出結果に応じた定着温度で温調制御された定着部材で上記の熱定着を行う構成に適用することができる。このような構成であれば、例えば複写機、FAX、MFP(Multiple Function Peripheral)等の画像形成装置一般に適用できる。さらに、上記の目標温度、用紙種類、閾値などが上記の値に限られず、装置構成に応じて適した値が決められる。
また、上記実施の形態及び上記変形例の内容をそれぞれ組み合わせるとしても良い。