以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
図1は、本発明の実施の形態に従う分析装置の構成例を説明する概略図である。本発明の実施の形態に従う分析装置100は、荷電粒子ビームを試料に照射し、試料から発生する信号を検出して試料の観察および分析を行なうように構成される。分析装置100は、例えば、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)である。
図1を参照して、本発明の実施の形態に従うEPMA100は、波長分散型X線分光器を含む分析装置であって、電子ビーム照射部50およびコンピュータ20を含み、入力機器21およびディスプレイ22と通信する。
電子ビーム照射部50は、電子銃1と、偏向コイル2と、対物レンズ3と、試料ステージ4と、試料ステージ駆動部5と、複数の分光器6a,6bと、偏向コイル制御部7と、電子検出器8とを備える。電子銃1、偏向コイル2、対物レンズ3、試料ステージ4、分光器6a,6bおよび電子検出器8は図示しない計測室内に設けられる。X線の計測中は、計測室内は排気されて真空に近い状態とされる。
電子銃1は、試料ステージ4上の試料Sに照射される電子線Eを発生する励起源であり、収束レンズ(図示せず)を制御することによって電子線Eのビーム電流を調整することができる。偏向コイル2は、偏向コイル制御部7から供給される駆動電流により磁場を形成する。偏向コイル2により形成される磁場によって、電子線Eを偏向させることができる。
対物レンズ3は、偏向コイル2と試料ステージ4上に載置される試料Sとの間に設けられ、偏向コイル2を通過した電子線Eを微小径に絞る。試料ステージ4は、試料Sを載置するためのステージであり、試料ステージ駆動部5により水平面内で移動可能に構成される。
電子ビーム照射部50では、試料ステージ駆動部5による試料ステージ4の駆動、および/または偏向コイル制御部7による偏向コイル2の駆動により、試料Sの観察領域における電子線Eの照射位置を2次元的に走査することができる。通常は、走査範囲が比較的狭いときは、偏向コイル2による走査が行なわれ、走査範囲が比較的広いときは、試料ステージ4の移動による走査が行なわれる。以上より、電子銃1、偏向コイル2および対物レンズ3は、電子ビームを試料Sの観察領域に照射する「照射部」の一実施例を構成する。
分光器6a,6bは、電子線Eが照射された試料Sの観察領域から放出される特性X線を検出するための機器である。なお、図2では、2つの分光器6a,6bのみが示されているが、実際には、電子ビーム照射部50には、試料Sを取り囲むように全部で4つの分光器が設けられている。各分光器の構成は、分光結晶を除いて同じであり、以下では、各分光器を単に「分光器6」と称する場合がある。分光器6は、「第2の検出部」の一実施例に対応する。
分光器6aは、分光結晶61aと、検出器63aと、スリット64aとを含む。試料S上の電子線Eの照射位置と分光結晶61aと検出器63aとは、図示しないローランド円上に配置される。分光結晶61aは、図示しない駆動機構によって、直線62a上を移動しつつ傾斜される。検出器63aは、図示しない駆動機構によって、分光結晶61aに対する特性X線の入射角と回折X線の出射角とがブラッグの回折条件を満たすように、分光結晶61aの移動に応じて図示のように回動する。これにより、試料Sから放出される特性X線の波長走査を行なうことができる。
分光器6bは、分光結晶61bと、検出器63bと、スリット64bとを含んで構成される。分光器6bおよび図示されない分光器の構成は、分光結晶を除いて分光器6aと同様であるので、説明を繰り返さない。なお、各分光器の構成は、上記のような構成に限られるものではなく、従来より知られている各種の構成を採用することができる。
電子検出器8は、電子線Eの照射によって試料Sの観察領域から放出される電子を検出するための機器である。電子検出器8は反射電子を検出する。電子検出器8は、「第1の検出部」の一実施例に対応する。電子検出器8の検出信号はコンピュータ20に送られる。また、図示しない別の電子検出器によって、電子線Eが照射された試料Sから放出される二次電子を検出し、該検出信号をコンピュータ20に送信するように構成してもよい(。
偏向コイル制御部7は、コンピュータ20からの指示に従って、偏向コイル2へ供給される駆動電流を制御する。予め定められた駆動電流パターン(大きさ及び変更速度)に従って駆動電流を制御することにより、試料S上において電子線Eの照射位置を所望の走査速度で走査することができる。
コンピュータ20は、電子ビーム照射部50と通信可能に接続される。コンピュータ20は、内蔵するプログラム及びテーブルに従って、電子ビーム照射部50の各部の動作を制御するための制御信号を生成し、生成した制御信号を電子ビーム照射部50へ出力する。
また、コンピュータ20は、試料S上の観察領域における電子線Eの位置走査に応じて、観察領域の画像を生成する。具体的には、コンピュータ20は、電子検出器8により検出された反射電子の検出信号に基づいて、試料Sの観察領域の反射電子像を生成する。
コンピュータ20は、さらに、4つの分光器6により検出された特性X線に基づいて、試料Sの観察領域における分析対象元素の分布画像(X線像)を生成する。さらに、コンピュータ20は、分析対象のX線の波長走査を受信すると、受信した波長走査に基づいてX線スペクトルを作成する。コンピュータ20は、X線スペクトルに基づく定性分析および/または定量分析等を行なう。以下、このような定性分析および/または定量分析等を行なう観察領域を、特に分析領域とも称する。
EPMA100は、生成した観察画像および分析結果などの各種情報を分析者に提供するための出力機器としてディスプレイを有する。ディスプレイ22は、コンピュータ20と通信可能に構成される。ディスプレイ22は、電子ビーム照射部50の制御および電子ビーム照射部50で得られたデータに関する処理の情報を表示するための表示部を構成する。ディスプレイ22は、試料Sの分析領域を設定する際に分析者が観察する観察領域の画像(X線像および/または反射電子像)が表示される。また、ディスプレイ22は、反射電子および/または特性X線の分析に関する処理の情報も表示するように構成してもよい。このような構成において例えば、ディスプレイ22には、X線スペクトルならびにこれに基づく定性分析および定量分析の結果などが表示される。
よって、分析者は、ディスプレイ22の表示に基づいて電子ビーム照射部50を制御するための各種指示をコンピュータ20に与えることができる。また、分析者はディスプレイ22の表示に基づいて、コンピュータ20を用いて電子ビーム照射部50で検出されたデータを分析することができる。すなわち、分析者は、ディスプレイ22における、電子ビーム照射部50における観察条件を示す数値、観察画像(電子ビーム照射部50における観察条件を示す数値、および、観察画像(X線像、二次電子像、反射電子像等)、得られた特性X線、二次電子、反射電子の分析結果を示すグラフ等の表示を利用することができる。
入力機器21は、コンピュータ20に接続されており、コンピュータ20と通信可能に構成されている。入力機器21は、分析者の指令をコンピュータ20に入力するために用いられる。入力機器21は、例えばマウス等のポインティングデバイス、キーボードおよびタッチパネル等である。
上述のように、EPMA100は、電子ビームを試料S表面に照射し、試料表面から放出される信号を検出するように構成される。検出信号には、試料表面に含まれる元素に特有のエネルギーを有する特性X線、反射電子および二次電子等が含まれる。EPMA100では、検出された特性X線のエネルギーおよび強度を分析することにより、試料表面の観察対象領域に存在する元素の同定および定量を行なうことができる。
また、EPMA100では、検出された二次電子および反射電子により、試料表面の形状および組成を観察することができる。分析者は観察領域の二次電子像または反射電子像を観察しながら、試料表面上の分析領域を探すことができる。具体的には、分析者は観察領域の電子像を観察しながら、観察領域(すなわち、試料表面上の電子線Eの照射領域およびX線、電子線等の測定領域)を設定するとともに、試料表面上の分析領域(すなわち、定性分析および定量分析を行なう領域)を選択することができる。
図2は、コンピュータ20の構成を概略的に示す図である。
図2を参照して、コンピュータ20は、CPU23と、メモリ24と、入力インターフェイス(以下、入力I/Fとも称する)25と、表示コントローラ26と、通信インターフェイス(以下、通信I/Fとも称する)27とを備える。
コンピュータ20は、メモリ24に格納されるプログラムに従って動作するように構成される。メモリ24は、図示しないROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびHDD(Hard Disk Drive)を含む。
ROMは、CPU23にて実行されるプログラムを格納することができる。プログラムには、電子ビーム照射部50の制御、および、電子ビーム照射部50で検出されたデータの処理に関するプログラムが含まれる。RAMは、CPU23におけるプログラムの実行中に利用されるデータを一時的に格納することができ、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能することができる。HDDは、不揮発性の記憶装置であり、電子ビーム照射部50による検出信号およびその分析結果等の情報を格納することができる。HDDに加えて、あるいは、HDDに代えて、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置を採用してもよい。
CPU23は、電子ビーム照射部50およびEPMA100全体を制御する。CPU23は、メモリ24のROMに格納されているプログラムをRAM等に展開して実行する。
入力I/F25は、入力機器21に接続される。入力I/F25は、コンピュータ20が入力機器21と通信するためのインターフェイスであり、入力機器21から各種信号を受信する。
表示コントローラ26は、ディスプレイ22に接続される。表示コントローラ26はディスプレイ22に、ディスプレイ22の表示内容を指令する信号を出力する。ディスプレイ22がタッチパネルを備えるディスプレイである場合、表示コントローラ26はディスプレイ22から、ディスプレイ22への分析者のタッチ操作を示す信号を受信する。
通信I/F27は、電子ビーム照射部50に接続される。通信I/F27は、コンピュータ20が電子ビーム照射部50と通信するためのインターフェイスであり、電子ビーム照射部50との間で各種信号を入出力する。
コンピュータ20は、一般的な機能を持つコンピュータに、電子ビーム照射部50の制御、および、電子ビーム照射部50で検出されたデータの処理に関するソフトウェアをインストールし、メモリ24に専用のプログラムおよびデータを格納することで実現することができる。具体的には、コンピュータ20ではOSと呼ばれる基本ソフトウェアプログラムが常時動作している。この基本ソフトウェアプログラムは、ディスプレイ22への表示、入力機器21への操作入力の処理およびメモリ24へのアクセス等を受け持ち、並列的に処理可能である。
一方、電子ビーム照射部50の制御、および、電子ビーム照射部50で検出されたデータの処理に関するソフトウェアプログラムは、基本ソフトウェアプログラムの上で実行される。電子ビーム照射部50の制御に関するソフトウェアプログラムは、コンピュータ20のメモリ24に外部から供給され、CPU23が該供給されたプログラムコードを読み出して実行することにより実現される。
このような構成の分析装置において、上述のように、試料表面上における特定の元素の分布を観察したい場合、特性X線の検出信号から生成されるX線像、反射電子の検出信号からなる反射電子像、二次電子の検出信号からなる二次電子像等が用いられる。
X線像は、元素ごとに異なる波長を持つ特性X線の検出信号に基づくので、特定の元素の有無を確認できる。このようなX線像を観察する分析装置として、EPMAがある。EPMAは、波長分散型X線分光器を有しており、エネルギー分散型分光器に比べて、特性X線の分解能が高い一方、検出信号の信号強度が低い。そのため、このような分析装置において十分な輝度を有するX線像を取得するには、検出信号を繰り返し積算する、1画素辺りの測定時間を長く設定する等の方法が必要である。すなわち、EPMAにおいては、元素の有無を判断できるだけのX線像を取得するために時間がかかる。よって、EPMAでX線像のみを用いて所望の元素を含む領域を探索しようとすると、観察領域を変更するたびに十分な輝度を確保するための待機時間が必要となる。従って、広範囲で所望の元素を含む領域を探索するときには、分析者に手間をかける虞がある。
そのために、このような構成の分析装置では、観察を所望する領域の明確なX線像を取得する前に、まず観察を所望する領域を視野内に収めるための「視野探索」が行なわれる。
このような視野探索として、特許文献1に開示されるように、X線像の観察に先んじて、原子番号の大小を明暗に反映する反射電子像、試料の表面の形状を捉える二次電子像等を観察することで、分析領域を決定し、その後X線像に切り替えて組成分析を行なう構成が知られている。
しかし、反射電子像および二次電子像では、X線像とは異なり、観察領域に含まれる元素の種類を特定することはできない。そのため、特許文献1に開示される上記方法では、反射電子像および二次電子像で観察を所望する元素と異なる元素を、所望の元素と勘違いして観察を行ない、結果的に作業時間をロスしてしまう虞があった。
したがって、本発明の実施の形態では、特性X線による元素の特定と、反射電子による画像取得の速さという2つの長所を組み合わせて、視野探索を行なうことができるEPMA100を提供する。したがって、簡易な構成で分析者の作業効率を向上させる分析装置を提供することができる。
次に図3~図6を参照して、本発明の実施の形態に従う分析装置における、X線像および反射電子像を用いた視野探索を説明する。図3~図6は当該視野探索の第1~第4段階におけるディスプレイ22の表示をそれぞれ示した図である。
図3は、視野探索の第1段階におけるディスプレイの表示の一例を示す図である。EPMA100の起動後、試料に電子ビームが照射されると、ディスプレイ22には、分析者の指示により、観察を所望する特定の元素の特性X線に対応するX線像70aが表示された状態となる。その際、最初の視野において所望の元素の存在が確認される場合は、図3のように、X線像70aにおいて、背景71a内に、特定の元素が存在する領域72aおよび73aが存在する態様が表示される。最初の視野において、所望の元素の存在が確認されない場合は、分析者は、試料ステージ4を操作することで、視野を移動させることができる。この操作により、図3のように所望の元素を含む視野を得ることができる。
なお、上記のように、X線像は比較的信号強度が弱いので、リアルタイムの短時間の観察においては、特定の元素を含む領域72aおよび73aの像のごく一部の画素の信号のみがノイズフィルターの閾値を超えるため、表示されるX線像における元素の分布は粗くなる。よって、所望の元素を含む領域72aおよび73aの像は、背景71a中に明確に見えるわけではなく、視認性が悪い。なお、以下元素の像および元素の存在する領域の像は、簡単のために、それぞれ単に元素および元素の存在する領域とも称する。
なお、図3では、X線像70aの画素の輝度分布を示すヒストグラム80aもディスプレイ22上に表示する構成が示されている。ヒストグラム80aは、X線像70a中の特定の輝度(横軸)を示す画素の数(縦軸)を表している。ヒストグラム中の特に画素数が大きな輝度(すなわち、分布のピーク)は符号付きの矢印で示している。以上は図4~図6のヒストグラム80b~80dでも同様であるので、説明を繰り返さない。
このように構成すれば、X線像70aの画素において、輝度がどのように分布しているかが判別しやすいので、特定の元素の有無の確認に役立つ。たとえば、図3では、ヒストグラム80aには、ピーク81aおよびピーク82aが存在する。ここで、ピーク81aはピーク82aに比べ、輝度が低く、画素数が多いことから、背景71aの画素を示すと考えられる。一方、ピーク82aはピーク81aに比べ、輝度が高く、画素数が少ないことから、領域72aおよび73aの画素を示すと考えられる。よって、図3のヒストグラム80aからは、視野内に所望の元素が存在することが示唆される。
以上のことから、図3のX線像70aからは、特定の元素の存在が確認できるが、当該元素の分布状態の視認性は弱い。
図4は、視野探索の第2段階におけるディスプレイの表示の一例を示す図である。本発明の実施の形態に従うEPMA100においては、図3のように所望の元素の特性X線に対応するX線像70aがディスプレイ22に表示された状態となった後に、分析者の指示により、図4のようにX線像70aと同一視野の反射電子像70bが表示された状態になる。反射電子像70では、元素番号の小さな元素が含まれる背景71bは暗く見え、元素番号の大きな元素が含まれる領域72b~74bは明るく見える。
反射電子像70bは図3のX線像70aと同一の視野の像なので、図4の反射電子像70bにおける領域72b、73bは、X線像70a中の領域72aおよび73aと同一の位置にあることが分かる。ただし、上述のように、反射電子は特性X線より信号強度が強いため、反射電子像は一般にX線像より輝度が高い画像が得られる。よって、図4の反射電子像70bにおける領域72b、73bは、X線像70a中の同一位置の領域72aおよび73aより明るい像となる。
また、反射電子像の明暗は原子番号の大小に相関するため、領域74bのように、X線像70aでは観察されなかった領域も表示される。つまり、反射電子像は観察を所望する元素を明確に表示するが、一方で、所望の元素以外の元素も表示する状況が起こりうる。特に、試料に、観察を所望する元素に原子番号が近い元素が存在する領域が含まれる場合、反射電子像に表示される当該元素の輝度と所望の元素の輝度は近いため、反射電子像のみで当該元素と所望の元素を見分けることは困難である。よって、このまま視野を移動して試料の反射電子像の観察を続けると、移動した先の視野に含まれる元素が、観察を所望する元素か、それ以外の元素であるかを判別することが困難である状況が生じる可能性が懸念される。
なお、図4では、反射電子像70bの画素の輝度分布を示すヒストグラム80bもディスプレイ22上に表示される構成が示されている。ヒストグラム80bは、反射電子像70b中の特定の輝度(横軸)を示す画素の数(縦軸)を表している。ヒストグラム中の特に画素数が大きな輝度(すなわち、分布のピーク)は符号付きの矢印で示している。以上は図5および図6のヒストグラム80cおよび80dでも同様であるので、説明を繰り返さない。
このように構成すれば、反射電子像70bの画素において、輝度がどのように分布しているかが判別しやすいので、観察を所望する元素の有無の確認に役立つ。たとえば、図4では、ヒストグラム80bには、ピーク81b,82b,83bが存在する。ここで、ピーク81bは他の2つのピークに比べ、輝度が低く、画素数が多いことから、背景71bの画素を示すと考えられる。一方、ピーク83bは他の2つのピークに比べ、輝度が高く、画素数が少ないことから、領域74bに含まれる画素を示すと考えられる。さらに、ピーク82bは他の2つのピークに比べ、輝度、画素数共に中くらいの値であるため、領域72bおよび73bに含まれる画素を示すと考えられる。よって、図4のヒストグラム80bは、視野内の元素の種類、数および量等を理解する上で役立つ。
ヒストグラム80bの下部にあるボタン84~86については図5で後述する。
図5は、視野探索の第3段階におけるディスプレイの表示の一例を示す図である。図5では、図4と同じヒストグラム80bが表示されているが、図5のヒストグラム80bにおいては、ピーク82bを含む輝度範囲が選択されている点が異なる。
図4の反射電子像70bにおいて、観察視野に特定の元素を含む領域72b,73bが存在し、当該領域72b,73bはヒストグラム80bのピーク82bに対応することが確認された。しかし、上で説明したように視野を動かすと、新たな視野が所望の元素を含むか否かを判別することが困難であると予想される。そのため、図5においては、ヒストグラム80bにおいて、特定の元素に対応する、ピーク82bを含む所定の輝度範囲に含まれる反射電子像70cの画素に着色する。
図5では、入力機器21に対応するポインタ90もディスプレイ22上に表示する構成が開示されている。このようにポインタ90をディスプレイ22上に表示し、入力機器21により操作することで、分析者は容易にコンピュータ20への指示を入力できる。
また、図5では、所定の輝度範囲に含まれる反射電子像70bの着色の手段として、ヒストグラム80cの下部のボタン84~86が例示されている。ボタン84,85,86はそれぞれ緑(G:Green)、赤(R:Red)、青(B:Blue)の着色に対応する。具体的な着色の方法の例としては、分析者がボタン84~86のいずれかのボタンをポインタ90を用いて選択し、その後、ヒストグラム80bの任意の輝度範囲をポインタ90を用いて選択することで、反射電子像70cの画素の選択された輝度範囲に含まれる部分が着色される。
具体的には、図5では、分析者がポインタ90を用いて、選択した画素の着色に用いられるボタン84~86の一つである、「緑(G)」に対応するボタンを選択し、その上で、ヒストグラム80bでピーク82bを含む所定の輝度範囲を選択する。当該輝度範囲は、たとえば、反射電子像70cを観察しながら、所望の元素からなる領域を過不足無く含むように選択されるように構成することができる。このようにして、コンピュータ20は、ディスプレイ22に表示された反射電子像を構成する複数の画素のうち、輝度が所定の輝度範囲に含まれる画素を選択的に着色する。また、当該所定の輝度範囲は、ディスプレイ22に表示されたX線像70aを構成する複数の画素の中から選択された画素に対応する反射電子像70b中の画素の輝度に基づいて設定されている。
このことにより、反射電子像70cにおいて、所望の元素が存在する領域は、それ以外の領域と異なる色で表示されるため、より明確に表される。また、視野を移動しても、所望の元素には着色されているので、他の元素と混同することがなくなることが期待される。
なお、ボタンおよびボタンに対応する色の数は、3つに限定されず、いくつでもよい。さらに、着色される元素および対応する輝度範囲は、1つでは無く複数でもいい。たとえば、反射電子像70cの領域74bを構成する画素の輝度に対応する輝度範囲83bに含まれる画素を赤色に塗ることが可能である。このように構成すれば、反射電子像を用いた視野探しにおいて、領域72c,73cに対応する元素と、領域74bの元素の両方を一度に観察できるため効率がよい。また、領域72c,73cに対応する元素を含む領域と、領域74bの元素を含む領域の位置関係を確認することも可能である。
さらに、着色する輝度範囲の選択を含む着色の態様は、上記に限定されず、所定の輝度範囲に着色できるのであればどのような方法でもよい。
コンピュータ20は、「処理部」の一実施例に相当する。また、ポインタ90を操作する入力機器21は、所定の輝度範囲の設定の入力を受け付ける「入力部」の一実施例に対応する。
図6は、視野探索の第4段階におけるディスプレイの表示の一例を示す図である。図6は、図5において観察を所望する元素に対応する輝度範囲に含まれる画素に着色するように設定された後、視野を移動して別の所望の元素を含む領域が視野に含まれた状態を示す。
図6を参照して、領域76は、緑色(G)に着色されているため、観察を所望する元素を含む領域であることが分かる。一方、領域77は、緑色に着色されていないため、所望の元素とは異なる元素からなる領域である。
このようにして、分析者はX線像で特定の元素が存在する領域を確認した後、反射電子像で当該領域を構成する画素の輝度に対応する輝度範囲に含まれる画素に着色することで、視野を変えても特定の元素が存在する領域が着色されて見える。つまり、強い信号強度の画像で、特定の元素の有無を確認できる状態で視野探索ができる。よって、X線像および反射電子像のいずれか一方のみを使用して視野探索を行なうときに比べて、作業効率を向上させることができる。
ただし、反射電子像の輝度は原子番号の大小にも依存するが、ビーム電流の強度および検出器の設定にも依存するので、視野探索の途中でビーム電流の強度および検出器の設定を調整しないように気をつける必要がある。
また図3~図6においては、X線像と反射電子像のいずれか一方のみが表示されていたが、X線像と反射電子像の少なくとも一方が表示されている状態であればよい。たとえば視野探索の第1~第4段階を通じて、X線像と反射電子像とが共に表示され続ける構成であってもよい。
また、図3~図6において、分析者が入力機器21を用いて行なった操作の一部もしくは全てを、コンピュータ20内のプログラムもしくは外部のプログラムによって、自動で行なうように構成してもよい。例えば、X線像の一部の画素をユーザが選択する操作を行なうと、コンピュータ20は反射電子像において、選択された画素の輝度を含む輝度範囲を設定する。そしてコンピュータ20は反射電子像において設定された輝度範囲に含まれる画素を着色するという構成をとってもよい。
以下、図7を用いて本発明の実施の形態に係るEPMA100のコンピュータ20におけるEPMA100の制御について説明する。図7は、分析装置を用いた試料の分析を説明するフローチャートである。図7のフローチャートは、電子ビーム照射部50への試料の収納が完了した後に実行される。
図7を参照して、ステップ101において、コンピュータ20は、電子ビーム照射の指示を分析者から受け付ける。なお、電子ビーム照射の指示を受け付ける際もしくは受け付ける前に、電子ビーム照射の条件設定を受け付けるよう構成してもよい。続いて、ステップ102において、コンピュータ20は、電子ビーム照射部50に電子ビームを照射するよう指令する。
続いてステップ103において、コンピュータ20は、電子ビーム照射部50から特性X線の検出信号を受信し、当該検出信号を基にX線像を生成し、当該X線像を表示された状態にするための指令をディスプレイ22に出力する。
ステップ104において、コンピュータ20は、分析者の指示に基づいて、ディスプレイ22上のX線像の視野に所望の元素を含むように試料ステージ4を移動させ、視野を設定する指令を、電子ビーム照射部50に出力する。ステップ104の際、もしくはステップ104の直前に、コンピュータ20は分析者によるX線像の観察条件の設定を受け付け、電子ビーム照射部50に反映するための指令を出力するように構成してもよい。
次に、ステップ105において、コンピュータ20は、反射電子像を表示された状態にするための指令をディスプレイ22に出力する。
さらにステップ106において、コンピュータ20は、X線像で所望の元素が検出された領域に対応する反射電子像の領域を構成する画素の輝度に対応する輝度範囲に含まれる画素に着色を行なう。ここで、着色される画素の輝度範囲は、例えば、X線像で所望の元素が検出された領域に対応する反射電子像の領域を可能な限り過不足無く検出するように設定される。
続いて、ステップ107において、コンピュータ20は、分析者の指示に基づいて、反射電子像の視野に観察を所望する元素を含む別の領域が含まれるまで試料ステージを移動させ、視野を設定する。ステップ108において、コンピュータ20は、分析者の指示に基づいて、ディスプレイ22に表示されている反射電子像を保存する。続いてステップ108により、コンピュータ20は、ディスプレイ22にX線像を表示された状態にするための指令を出力する。ステップ109により、コンピュータ20は、分析者の指示に基づいて、ディスプレイ22に表示されたX線像を保存する。なお、X線像および反射電子像を保存するタイミングは上記の例に限定されず、視野の設定後、次の視野に移るまでの間ならいつでもよい。例えば、ステップ108において反射電子像と同一視野のX線像を同時に保存する構成としてもよい。
ステップ111において、コンピュータ20は、試料の観察を終了する指示を分析者から受け付けたか否かを判定する。ステップ111においてコンピュータ20が試料の観察を終了する指示を分析者から受け付けた場合(ステップ111にてYES)、コンピュータ20は電子ビーム照射部50を停止させ、処理を終了する。
ステップ111において、コンピュータ20が試料の観察を終了する指示を分析者から受け付けない場合(ステップ111にてNO)、コンピュータ20はステップ112において再びディスプレイ22に反射電子像を表示された状態にするための指令を出力し、ステップ107に戻る。
なお、ステップ103~112では反射電子像とX線像の表示は、表示が明記されている、もしくは、必要とされているステップ以外においては、表示されていてもいなくてもよい。たとえば、ディスプレイ22に常に反射電子像とX線像が表示されている状態で、コンピュータ20がステップ103~112を実行するよう構成してもよい。
このように本発明の実施の形態に従うEPMA100では、X線像で一度目的の組成を見いだすことで、以降はリアルタイムに更新される反射電子像上で同様の組成を持つ部分を探索できる。
また、反射電子像は最小で原子番号の差の約10分の1を判別できるため、元素単位、および、元素単位以下の組成をより細かく判別することが可能である。
特定の輝度で区分けする方法として、閾値以下もしくは以上の領域を二値化等で抽出し、抽出した領域の面積、周囲長、直径などを測定したり、円形度、アスペクト比などを解析し、統計的に処理して粒子を分離・抽出する「粒子解析」が知られている。このような粒子解析においては、対象の画像における輝度の分布にもとづいて粒子を分離するため、当該分離された粒子は、元素および/または組成と関連付けられていない。
本発明の実施の形態に従うEPMA100では、X線像を参照して元素(組成)をもとに輝度範囲を選択しているため、観察を所望する元素(組成)に対応する領域に適切に着目することができる。
なお、図7のステップ101~112において分析者が指示を出すとしたステップを、コンピュータ20内およびコンピュータ20外のプログラムにより自動的に制御されるよう構成してもよい。
以下、図8を用いて、図7のステップ103~107において分析者が指示を出すとしたステップを、コンピュータ20内のプログラムが自動的に制御するように変更した場合のフローチャートを示す。図8は、分析装置による試料の自動分析を説明するフローチャートである。
図8のフローチャートは、図7と同様にコンピュータ20により実行される。図8では、図7のステップ101~104,ステップ107~112の間に、追加される新たなステップ201~203が示されている。以下に、新たなステップ201~203を主に説明する。
ステップ103において、コンピュータ20はディスプレイにX線像を表示するための指令を出力する。ステップ104において、コンピュータ20は、ディスプレイ22上のX線像の視野に所望の元素を含むように試料ステージ4を移動させ、視野を設定する指令を、電子ビーム照射部50に出力する。
続くステップ201において、コンピュータ20は、視野内のX線像の輝度が基準以上の領域を選択する。例えば、コンピュータ20は、視野内のX線像の輝度が所定の閾値以上の画素が別の所定の閾値以上の密度で存在する領域を選択する。なお、このステップでは、X線像上の所望の元素が含まれる領域が適切に選択できる方法であれば、選択方法を問わない。
ステップ202において、コンピュータ20はステップ201で選択した領域と同じ位置の領域が選択された反射電子像を表示する。ステップ203において、コンピュータ20は、反射電子像の選択されている領域を構成する画素の輝度に対応する輝度範囲に含まれる画素を着色する。
続くステップ107において、コンピュータ20は、分析者の指示に基づいて、反射電子像の視野に観察を所望する元素を含む別の領域が含まれるまで試料ステージを移動させ、視野を設定する。ステップ108~110において、コンピュータ20は反射電子像およびX線像を表示する。
なお、図8では、コンピュータ20がディスプレイ22にX線像および反射電子像を表示する処理を示したが、このように構成すると、分析者がコンピュータ20の処理を目視で確認できるという利点がある。一方、分析者による目視の確認が必要でない場合は、コンピュータ20はディスプレイ22にX線像および反射電子像を必ずしも表示する必要は無く、全てコンピュータ20内部の計算にとどめてもよい。
以上のように、本発明の実施の形態に従うEPMA100は、X線像で検出された所望の元素を含む領域に対応する、反射電子像の画素の輝度範囲を着色することができる。よって、信号強度が高い反射電子像において、所望の元素を含む領域を選択的に観察することができる。よって、簡易な構成で分析者の作業効率を向上させる分析装置を提供することができる。
また、上記実施の形態は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。具体的には、上記実施の形態では分析装置としてEPMAを例示したが、電子線に代えてイオンビームを励起源として用いることもできる。また、上記実施の形態では反射電子を検出して反射電子像を作成し、特性X線を検出して特定の元素の二次元分布像(X線像)を生成する構成としたが、観察画像の生成に用いる信号として、他の信号(二次電子や蛍光等)を検出することも可能であり、種々の走査型荷電粒子顕微鏡において本発明の構成を用いることができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。