JP7215035B2 - 植物師部組織を増産する植物体及びその利用 - Google Patents

植物師部組織を増産する植物体及びその利用 Download PDF

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本明細書は、植物師部組織を増産する植物体及びその利用に関する。
植物組織のうち、産業的に利用できる組織の割合は限られている。産業上有用な植物組織・細胞の前駆組織として師部(篩部)組織(及び師部細胞)が挙げられる。例えば、天然ゴムの原料となるラテックスはパラゴムノキ (Hevea brasiliensis)の乳管とよばれる組織の乳管細胞で生産される。また、ケナフ (Hibiscus cannabinus)の繊維は靭皮(じんぴ)とよばれる組織で構成される。乳管や靭皮はともに師部組織の一部が分化した組織で構成されている。したがって、師部組織・細胞の割合を増加させることができれば、これらの特殊な組織割合の増加が期待され、有用な原材料の安定供給と原価低減につなげることができる。
しかしながら、師部組織に着目してその増産を計ろうとする技術はごく少数である。例えば、出願人は、既に、植物の維管束形成層又は師部細胞で特異的に発現するプロモーター制御下に細胞増殖を促進するタンパク質(プロテインホスファターゼ2C(PP2C))をコードする細胞増殖促進遺伝子を植物体に導入し、その植物体の育成に成功し、かつ、師部組織を特異的に増大させる技術を提供している(特許文献1)。
この技術によれば、師部組織から繊維が採れる繊維植物において、単に師部組織の収量を増加させるだけでなく、木質部や随などの不要部分に対し師部組織の割合(師部比率)を増加させることができる(師部比率を野生株に比べて1.3倍増加)。また、この技術によれば、カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)35Sプロモーターを用いないため、こうしたプロモーターの使用によって目的以外の組織や器官も増加し、構造遺伝子の種類によっては、その過剰発現から生育阻害や代謝異常が抑制又は回避されている。
植物特異的な転写因子群として、発生や細胞分化、ストレス応答など幅広い植物生理過程に関与しているNAC転写因子が知られている。NAC転写因子は、NACドメインと呼ばれる保存された領域を共通に持つことが知られており、木質細胞の分化制御に関する研究報告は知られている(非特許文献1)。シロイヌナズナには100以上のNAC転写因子が見出されているが、NTL9はNAC転写因子のひとつである(非特許文献2)。
特開2015-53874号公報
Regulation of plant biomass production by transcription factors. 出村 拓. 蛋白質核酸酵素 Vol.54 No.3 (2009). A NAC transcription factor and SNI1 cooperatively suppress basal pathogen resistance in Arabidopsis thaliana.Kim HS, et al. Nucleic Acids Res, 2012 Oct. PMID 22826500
特許文献1の技術は、あくまで、植物の維管束構造を維持したままでの師部組織の増大を意図しているため、さらなる師部組織比率の向上は技術的に困難であると考えられた。植物師部組織構造をダイナミックに改変する新規育種技術が必要である。
本明細書は、植物師部組織の構造を改変する技術を提供する。
本発明者らは、種々の遺伝子改変植物体から、分裂組織において、皮層内側に沿ってドット状に分散している師部組織が、連続して環状構造を構成している植物体を見出した。さらに、当該植物体における変異の原因遺伝子を特定したところ、NTL9遺伝子の変異に基づくものであることがわかった。さらにまた、当該遺伝子の相補試験を行うことで、師部領域が野生型に復帰することを確認した。
すなわち、本発明者らは、植物師部組織の構造自体を改変できること及びそのための転写因子を見出すことに成功した。また、本発明者は、こうした改変によれば、茎部全体を増大させることなく、師部領域を特異的に増大させて師部組織比率を増加させることで、効率的に産業上有用な師部組織を得ることができるという知見を得た。
なお、これまで、NTL9の機能としては病害抵抗性や浸透圧シグナルに関する論文が報告されているのみで、植物維管束構造や組織の分化に関する知見は全くない。こうした知見に基づき、本明細書は、以下の手段を提供する。
(1)NTL9及びそのホモログである転写因子の機能が阻害されている、植物体。
(2)前記植物体が変異体若しくは形質転換体又はその子孫であるとき、前記植物体の前記師部組織領域の前記一断面における総断面積に対する師部組織比率は、前記植物体の野生株において前記一断面に対応する一断面における前記比率に比べて1.5倍以上である、(1)に記載の植物体。
(3)前記師部組織比率は、、前記野生株の前記比率に比べて2倍以上である、(2)に記載の植物体。
(4)前記師部組織領域は、前記茎の切片をトルイジンブルーによって染色して師部と同定される領域である、(2)又は(3)に記載の植物体。
(5)前記転写因子は、以下のいずれかである、(1)~(4)のいずれかに記載の植物体。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有し、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の転写活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列とアライメントしたとき、配列番号1で表されるアミノ酸配列の第9位~第159位のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するドメインを有し、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の転写活性を有するタンパク質
(d)配列番号1で表されるアミノ酸配列とアライメントしたとき、配列番号1で表されるアミノ酸配列の第9位~第159位のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するドメインを有するとともに、配列番号1で表されるアミノ酸配列の第485位~第500位のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するドメインを有し、全体として配列番号1で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有し、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の転写活性を有するタンパク質
(6)前記植物体は変異体若しくは形質転換体又はその子孫であるとき、前記植物体の前記師部組織領域の前記一断面における総断面積は、前記植物体の野生株において前記一断面に対応する一断面における師部組織領域の総断面積の2倍以上である、(5)に記載の植物体。
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の植物体を含む靱皮材料。
(8)NTL9及びそのホモログである転写因子から選択される転写因子の機能を阻害する工程、を備える、師部組織に富む植物体の生産方法。
(9)以下の(i)~(iii);
(i)NAC転写ファミリーに属する転写因子
(ii)NACドメインとカルシウム結合ドメインを含む(b)の転写因子
(iii)NTL9及びそのホモログである転写因子
からなる群から選択される1種又は2種以上の機能を植物体において阻害する工程と、
前記機能の阻害による前記植物体の師部組織の増大を評価する工程と、
を備える、師部組織に富む植物体又はその作製のための転写因子のスクリーニング方法。
シロイヌナズナ野生株(Col-0)と師部環状株の花序茎基部から20ミリのトルイジンブルー染色結果(A)及び師部抽出結果(B)を示す図である。 シロイヌナズナ野生株(Col-0)と師部環状株の花序茎基部から20ミリの茎断面積(A)、師部断面積(B)及び師部比率(C)を示す図である。 師部環状株におけるNTL9遺伝子の変異部位の解析結果を示す図である。 師部環状株の相補性検定結果を示す図である。Aは野生株(Col-0)、Bは師部環状株、CはNTL9遺伝子(NTL9プロモーター)を導入した師部環状株、DはNTL9遺伝子(35Sプロモーター)を導入した師部環状株を示す。 師部環状株の増産組織の解析結果を示す図である。A~Cは野生株(Col-0)であり、Aはコントロール、Bは師部特異的プロモーターによるGFP発現状態を示し、Cは維管束形成層特異的プロモーターによるGFP発現状態を示し、D~Fは師部環状株であり、Dはコントロール、Eは師部特異的プロモーターによるGFP発現状態を示し、Fは維管束形成層特異的プロモーターによるGFP発現状態を示す。
本明細書の開示は、NTL9及びそのホモログである転写因子の機能が阻害されている植物体に関する。本植物体は、かかる転写因子の機能の阻害によって、師部組織の領域が増大されうる。例えば、本植物体においては、成長前期においては、通常、所定の形態を保持する維管束に伴う師部組織が、本来の維管束構造では師部組織が存在しない部位に存在しうる。本植物体は、延在した師部組織を含む増大師部組織領域を備えている。
維管束植物の一例としてのシロイヌナズナにおいては、茎成長前期においては、本来的には、皮層に沿ってその内側に分離して存在する師部組織が、皮層に沿って概ね連続して存在して環状構造を形成する環状師部組織領域を備えることができる。
本植物体によれば、茎成長前期において、こうして増大された師部組織領域を備えることで、茎部断面における師部組織の断面積が増大している。茎部断面において、新たな部位に師部組織を備えることになるため、茎部自体を増大させることなく効率的に師部組織を増大させ、取得できる。
以下、本開示の各種実施形態について詳細に説明する。
(植物体)
本植物体は、NTL9又はそのホモログの機能が阻害されている。NTL9(NAC Transcription facter-like 9)とは、NAC転写因子ファミリーに属する転写因子タンパク質であり、NAC ドメインをそのN末端側に、カルシウム結合タンパク質カルモジュリンに結合するCaM結合ドメインをC末端側に備えている。
NTL9については、浸透圧シグナル、病害抵抗性等の制御について知られているが(A NAC transcription factor and SNI1 cooperatively suppress basal pathogen resistance in Arabidopsis thaliana, Kim HS, et al. Nucleic Acids Res, 2012 Oct. PMID 22826500(NTL9をカルシウム結合型NAC転写因子として同定), Regulation of leaf senescence by NTL9-mediated osmotic stress signaling in Arabidopsis, Yoon HK, et al. Mol Cells, 2008 May 31. PMID 18443413(浸透圧シグナル), The Pseudomonas syringae type III effector HopD1 suppresses effector-triggered immunity, localizes to the endoplasmic reticulum, and targets the Arabidopsis transcription factor NTL9. Block A, et al. New Phytol, 2014 Mar. PMID 24329768、Identification of a calmodulin-binding NAC protein as a transcriptional repressor in Arabidopsis, Kim HS, et al. J Biol Chem, 2007 Dec 14. PMID 17947243、Independently evolved virulence effectors converge onto hubs in a plant immune system network, Mukhtar MS, et al. Science, 2011 Jul 29. PMID 21798943(以上、病害抵抗性)維管束構造の組織や分化に関する報告はない。
NTL9の機能とは、シロイヌナズナが本来備えている師部組織に関する遺伝子の転写を制御するものである。より具体的には、NTL9の機能は、師部組織領域の形成領域に関する遺伝子を制御し、師部組織領域の増大を抑制する活性である。例えば、本発明者らによれば、植物体において、NTL9又はそのホモログの活性を抑制した場合に、師部組織領域が増大される成長段階において、NTL9又はそのホモログは、師部組織領域の形成に関する遺伝子を制御し、師部組織領域の増大を抑制する活性を有している、ということができる。本発明者らによれば、かかるNTL9の機能は、茎成長前期において維管束(間)形成層の分化の制御に関連する遺伝子の転写を制御する活性を有していることに基づくものと考えられる。
NTL9としては、例えば、モデル植物としてのシロイヌナズナにおいて、配列番号1で表されるアミノ酸配列(配列番号1、下表の番号1)(アクセッション番号:NP_567986.3(At4G35580.1)からなるタンパク質が挙げられる。
NTL9ホモログとしては、シロイヌナズナにおけるNTL9と同等の転写活性を有しうる。NTL9ホモログが、シロイヌナズナNTL9と同等の転写活性を有しているか否かは、例えば、当該タンパク質の機能阻害によって、増大された師部組織領域を発現する表現型を獲得するか否かで評価できる。あるいは、NTL9機能を相補することで、その植物本来の師部組織構造の表現型に復帰するということで評価できる。
NTL9ホモログは、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対してアライメントしたとき、NACドメイン(配列番号1で表されるアミノ酸配列の9位~159位)におけるアミノ酸配列同一性が、好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、なお好ましくは85%以上であり、一層好ましくは90%以上であり、より一層好ましくは95%以上であり、さらに一層好ましくは97%以上であり、なお一層好ましくは98%以上である。また、NTL9ホモログは、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対してアライメントしたとき、NACドメインにおけるアミノ酸配列は、例えば、1個~20個の置換等の変異、1個~15個の同変異、1~10個の同変異、1個~5個の同変異を有するものであってもよい。
また、NTL9ホモログは、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対してアライメントしたとき、CaM結合ドメイン(配列番号1で表されるアミノ酸配列の485位~500位)におけるアミノ酸配列同一性は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、なお好ましくは85%以上であり、一層好ましくは90%以上であり、より一層好ましくは95%以上であり、さらに一層好ましくは97%以上であり、なお一層好ましくは98%以上である。また、NTL9ホモログは、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対してアライメントしたとき、前記CaM結合ドメインにおけるアミノ酸配列同一性は、例えば、1個~5個の置換等の変異、1個~4個の同変異、1~3個の同変異、1個~2個の同変異を有するものであってもよい。
NTL9ホモログは、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対する同一性が、特に限定するものではないが、例えば、30%以上、また例えば40%以上、また例えば50%以上、また例えば60%以上、また例えば70%以上、また例えば75%以上、また例えば80%以上、また例えば85%以上、また例えば90%以上、また例えば95%以上である。また、NTL9ホモログは、前記アミノ酸配列において、例えば1個~50個、また例えば1個~40個、また例えば1~30個、また例えばまた例えば1個~10個の置換等の変異を有するものであってもよい。
こうしたアミノ酸配列における変異は、置換変異であることが好ましく、その場合、同様の性質を有するアミノ酸残基への置換であることが好ましい。
NTL9に基づくBLASTによる検索結果を表1に示す。
Figure 0007215035000001
Figure 0007215035000002
Figure 0007215035000003
表1中、「-」は、ホモロジーが検出できないことを示す。
また、他のNTL9ホモログとしては、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対して、例えば80%以上、また例えば82%以上、また例えば83%以上、また例えば84%以上、また例えば85%以上、また例えば86%以上、また例えば87%以上、また例えば88%以上の同一性を有し、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対してアライメントしたとき、前記NACドメインに対して、例えば、90%以上、また例えば、95%以上、また例えば97%以上、また例えば98%以上、また例えば99%以上、また例えば100%の同一性を有するドメインを有していることが好ましい。さらに、この種のNTL9ホモログは、配列番号1で表されるアミノ酸配列とアライメントしたとき、CaM結合ドメインのアミノ酸配列に対して、例えば80%以上、また例えば82%以上、また例えば83%以上、また例えば84%以上、また例えば85%以上、また例えば86%以上、また例えば87%以上、また例えば88%以上、また例えば90%以上、また例えば95%以上、また例えば97%以上、また例えば98%以上、また例えば99%以上、また例えば100%の同一性を有するドメインを有していることが好ましい。この種のNTL9ホモログとしては、例えば、表1における番号4~11のタンパク質が挙げられる。
他のNTL9ホモログとしては、例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対して44%~58%の同一性を有しており、前記NACドメインに対して、例えば、70%以上、また例えば75%以上、また例えば80%以上、また例えば85%以上、また例えば90%以上、また例えば95%以上の同一性を有するドメインを有していることが好ましい。この種のNTL9ホモログとしては、例えば、表1における番号12以降のタンパク質が挙げられる。
本明細書における植物体としては、維管束を有する植物体であることが好適である。維管束を有する植物体としては、特に限定するものではないが、シダ植物、裸子植物、被子植物などの種子植物が挙げられる。なかでも、被子植物であり、単子葉類及び双子葉類が挙げられ、なかでも、本明細書においては双子葉類が挙げられる。双子葉類としては、例えば、アブラナ科、アオイ科、パパイア科、フクロユキノシタ科、ミカン科、アカネ科、フトモモ科、トウダイクサ科、クルミ科、クワ科、ヤナギ科、ブドウ科及びロメモドキ科等が挙げられる。また、具体的には以下の植物等が挙げられる。なお、特に師部組織の利用を考慮すると、ケナフなどのアオイ科植物等が挙げられる。
なお、表1に示したNTL9ホモログの起源である植物名を以下の表に示す。
Figure 0007215035000004
本明細書において、植物体という場合には、当該植物又はその子孫の植物における、苗、生育した個体のほか、種子(発芽種子、未熟種子を含む)、器官又はその部分(葉、根、茎、花、雄蕊、雌蘂、それらの片を含む)、植物培養細胞、カルス、プロトプラストを含む。また、「植物の子孫」というとき、当該植物の有性生殖または無性生殖により得られる子孫をいい、当該植物のクローンを含む。植物体については、当該植物体やその子孫から繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に当該植物の子孫を作出することが可能である。
植物体において、NTL9又はそのホモログの機能を阻害するとは、NTL9の転写因子としての機能の少なくとも一部を失わせることを意味する。転写因子としての機能の喪失としては、例えば、タンパク質-タンパク質間の相互作用の機能の消失、DNA結合能の消失、又はこれら機能の消失若しくはその他の原因による転写調節機能の消失及び/又は機能の逆転などを挙げることができる。このように、転写制御因子の機能が阻害されることにより、当該転写因子の標的遺伝子の発現が抑制又は促進される。あるいは、当該転写制御因子の機能が阻害されることにより、当該転写制御因子の標的遺伝子の発現が抑制又は促進され、そのさらに下流の遺伝子の発現が抑制又は促進される。すなわち、本明細書中において、「転写因子の機能を阻害する」とは、こうした全ての態様を含むことができる。
NTL9又はそのホモログの機能を阻害するには、特に限定するものではないが、例えば、植物体内における目的の転写因子の遺伝子又はタンパク質の発現を抑制することであってもRNAの合成阻害であってもタンパク質の合成阻害であってもよい。遺伝子の発現を抑制するとは、当該遺伝子を欠損させること、当該遺伝子の発現量を抑制又は減少させることを含む意味である。また、遺伝子の発現量を減少させる方法としては、特に限定されないが、当該遺伝子の発現制御領域を改変して転写量を低減する方法、当該遺伝子の転写産物を選択的に分解する方法等を挙げることができる。また、遺伝子のコード領域に変異を導入して不活性な変異タンパク質を発現させる方法等が挙げられる。
本明細書において、NTL9又はそのホモログの機能を阻害する手法としては、所謂、トランスポゾン法、トランスジーン法、転写後遺伝子サイレンシング法、RNAi法、ナンセンス仲介減衰(Nonsense mediated decay, NMD)法、リボザイム法、アンチセンス法、miRNA(micro-RNA)法、siRNA(small interfering RNA)法、コサプレッション(co-suppression)法、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(Zinc finger nuclease (ZFN) )法、TALE(Transcription Activator-Like Effector)ヌクレアーゼ法、CRES-T法及びCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)法等を挙げることができる。また、例えば、特開2009-240248号公報にも開示されるように、NTL9又はホモログのC末端側のCaM結合ドメインに変異や欠損を導入した不活性型NTL9を発現させるようにしてもよい。この場合には、師部組織特異的に作動するプロモーターを用いることが好適である。
NTL9又はそのホモログの機能の阻害は、植物体の全体に亘って、NTL9の発現を抑制し又は当該遺伝子がコードするタンパク質の機能を阻害しても良いし、植物組織の少なくとも一部において遺伝子の発現を抑制し又は当該遺伝子がコードするタンパク質の機能を阻害しても良い。ここで植物組織とは、葉、茎、種子、根及び花等の植物器官を含む意味である。
こうした機能阻害に際して行う遺伝子又は組換えベクターの導入にあたっては、アグロバクテリウム法、PEG-リン酸カルシウム法、エレクロトポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法及びマイクロインジェクション法等、従来公知の方法を適宜用いることができる。
また、こうした植物体の作製にあたっての植物体の選択、次世代植物の取得についても、従来公知の方法を適宜用いることができる。
本植物体は、例えば、以下の表現型を備えることができる。例えば、シロイヌナズナなどの並立型の維管束構造を有する植物体においては、茎の一断面に、実質的に連続して内在する環状構造を形成する増大師部組織領域を備えることができる。通常、維管束を有する植物体では、成長前期段階においては、維管束は、環状構造をとらないで、茎内部において皮層にそった内周側に分散して配列して維管束を備えている。そして、その後の成長後期段階における維管束形成層が維管束間に形成されて維管束が環状化されていく。かかる植物体は、成長前期組織において、既に維管束が実質的に連続して環状構造を形成することができる。本植物体がかかる成長前期組織を有する場合、成長後期において、従来に対して増大した師部組織領域を備えることができる。
実質的に連続して内在する環状構造とは、例えば、皮層の内側において存在する師部組織の配列によって想定される環の円周の70%以上を師部組織が占めることをいう。好ましくは、80%以上であり、より好ましくは90%以上である。
本植物体は、上記の態様の増大師部組織領域を備えるほか、当該植物体が本来的に備える維管束構造に従って、師部組織領域が増大された組織を備える植物体も包含する。NTL9又はそのホモログの機能阻害によって、師部組織の増大が生じる。
本植物体を特徴付ける茎は、維管束間形成層形成前の当該形成層形成されていない茎部分である。維管束間形成層が形成されると環状化構造が形成され始めるからである。かかる茎部分は、例えば、成長前期の花序茎の基部から下に10~30mm内の部分をいい、典型的には20mmである。
本植物体は、茎の一断面の総断面積に対する増大師部組織領域の総断面積の比率が5%以上である。より多い比率を備えることが好適であり、好ましくは10%以上である。
本植物体において、師部組織領域ないし増大師部組織領域は、茎の切片をトルイジンブルーによって染色して師部と同定される領域として把握することができる。また、当該同値によって把握される領域を師部組織領域ないし増大師部組織領域の面積とすることができる。また、同様に、トルイジンブルーによって染色した茎断面の全体から把握される領域の面積が茎の断面積とすることができる。なお、茎の一断面を得るための断面個所としては、例えば、花序茎の上部基部から下に10~30mm程度の成長前期にある個所が挙げられる。こうした切片のトルイジンブルーによる植物組織の染色は、当業者に公知の方法であって、特に限定するものではないが、後述する実施例に開示される方法を用いることができる。
こうした本植物体の師部組織領域の断面積は、その野生株の師部組織領域の断面積の、例えば、2倍以上、また例えば2.5倍以上、また例えば3倍以上を備えることができる。また、本植物体の師部組織領域の比率(茎断面の総断面積に対する師部組織領域断面積の比率、師部比率)は、その野生株や親株の例えば1.5倍以上、また例えば2倍以上、また例えば2.5倍以上、また例えば3倍以上であってもよい。
(本植物体の各種態様)
本植物体は、以上説明したように、NTL9又はそのホモログの機能を阻害した植物体であるが、かかる植物体は、遺伝子導入等によって得られる形質転換体であるほか、放射線等の照射などの突然変異手法によって得られる人工突然変異体でもありうる。また、本植物体は、NTL9やそのホモログの機能の阻害された又は当該阻害に無関係な天然の突然変異体であってもよい。
例えば、種々の遺伝子改変や電磁波照射による変異によって得られた植物体のライブラリから、本植物体を探索するには、花序茎の上部基部から10~30mm程度の成長段階前期にある茎切片について、トルイジンブルー染色等によって、維管束を含む植物組織を同定し、師部組織のパターンやその断面積を特定し、これらの結果から、環状構造を形成しているか否か、断面積の増大等を評価する。このようにして師部組織の増大を評価することで、遺伝的改変によることなく、本植物体を得ることができる。
(本植物体の用途)
本植物体は、師部組織が増大されているため、師部組織に由来する靱皮(靱皮繊維)の材料として好適である。靱皮(靱皮繊維)の材料としての植物体は、アサなどのアサ科植物、タイマ、コウゾなどのクワ科植物、ミツマタ、ガンピなどのジンジョウゲ科植物、アマなどのアマ科植物、チョマなどのイラクサ科植物、コウマなどのシナノキ科食物、ケナフなどのアオイ科植物、マニラアサなどのバショウ科植物等が挙げられる。
(本植物体の生産方法)
本明細書によれば、NTL9又はそのホモログの機能を阻害する工程を備える、本植物体の生産方法が提供される。本生産方法においては、NTL9又はそのホモログについて、上記のように機能を阻害する工程を備えることで、本植物体又は靱皮(繊維)材料を効率的に得ることができる。NTL9及びそのホモログ、植物体、機能阻害の手法等については、既に述べた各種態様を適宜適用することができる。
(師部組織領域に富む植物体又はそのための遺伝子のスクリーニング方法)
本明細書に開示されるスクリーニング方法は、植物体においてNAC転写因子ファミリーに属する転写因子から選択される1種又は2種以上の転写因子の機能を阻害する工程と、前記機能の阻害による前記植物体の師部組織の増大を評価する工程と、を備えることができる。本スクリーニング方法によれば、NTL9のホモログにおいてより有用な転写因子や、これら以外のNAC転写ファミリーに属する転写因子から、師部組織領域の増大した植物体又はそのために貢献できるタンパク質(遺伝子)をスクリーニングすることができる。
NAC転写因子ファミリーに属する転写因子は、N末端側にNACドメインを持つ転写因子であり、シロイヌナズナでは、ゲノム中に100以上存在することが判っている(Olsen et al., 2005. Trends in Plant Sci. 10: 79-87)。NAC転写因子は、花・茎頂・維管束・子葉・生殖組織等の形態形成だけでなく、病害抵抗性や生物的・非生物的ストレス抵抗性、ホルモン反応・光反応・自己細胞死・老化等、植物の様々な生命現象における遺伝子発現制御を担っていることが報告されている。
植物体では、NTL9又はそのホモログと組み合わせてあるいは独立して複数の転写因子の機能を阻害することで、表現型の改変が一層期待できる場合がある。
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
(師部環状株の単離)
茎の形質に着目し選抜した系統について、花序茎の切片の表現型を観察したところ、通常は皮層の内側に幾つかの部位に分かれて存在する茎の師部組織が環状化し師部組織の細胞が増加した変異株(以下、師部環状株と表記)を見出した。
(師部環状株の表現型解析)
シロイヌナズナ野生株(Col-0)と師部環状株の表現型を詳細に比較した。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)野生株(Col-0)および単離した師部環状株の種子を、3日間、吸水および低温処理した後、土壌(スーパーミックスA(サカタのタネ))を入れた直径6cmのポットに播種し、22℃、50μmol・m-2・s-1(光量子束密度)の照明下で、16時間明期/8時間暗期の長日条件で9週間栽培した。1週間に一度の頻度で約500mlのハイポネックス(1000倍希釈液)を施肥した。各系統につき、5個体ずつ準備した。
シロイヌナズナ植物体の第一花序茎の基部から20mm部分で切断した茎サンプル(長さ8mm)を5%アガロースに包埋した。マイクロスライサー(DTK-1000(堂阪イーエム))を使用して、包埋した茎サンプルの中央部(第一花序茎の基部から20mm対応部分)を100μmの厚さで切片作製を行った。この茎の横断切片を0.05%(w/v)トルイジンブルー溶液を用いて室温で1分間染色し、洗浄後、顕微鏡で観察した。
横断切片写真はAdobe Photoshop を使用して画像処理を行った。茎の横断面積およびトルイジンブルー溶液で紫色染色された師部組織の面積は Paint.NET (http://www.getpaint.net/) を使用して算出した。師部比率は、茎の横断面積における師部面積の割合を計算して求めた。結果を図1及び図2に示す。
図1Aはトルイジンブルー溶液で染色した茎の断面を、図1Bは画像処理により紫色に染色された領域(師部)を抽出した画像である。図2には、9週間生育させた植物体の茎の断面積A、茎の師部面積B及び師部比率Cの測定結果をまとめた。野生株は濃色のバーで、師部環状株は淡色のバーで表示した。
図1及び図2に示すように、野生株と師部環状株とは、その茎面積が概ね同一であったが、師部環状株の師部面積は、3.2倍に増大し、その師部比率も、3倍以上に増加していた。
(師部環状株の原因遺伝子の染色体上の座乗部位決定)
師部環状株の原因遺伝子をポジショナルクローニング法によって取得するために、変異株の遺伝子地図を作成し座乗部位を決定した。師部環状株(Col-0バックグラウンド)と野生株(Ler-0)を交配し交雑第一世代(F1)種子を得た。師部環状株と野生株Ler-0について、雌雄を入れ替えて交配し、得られたF1植物体の茎の維管束構造を観察した結果、ともに野生株と同じ表現型を示した。この結果から、師部環状株の原因遺伝子は劣性変異をもつこと、さらに、師部環状の表現型は細胞質ゲノムの遺伝型(少なくともCol-0とLer-0の場合)に影響を受けないことが明らかとなった。さらに、F1植物体の自家受粉によりF2種子を得た。また、師部が環状化した表現型が単一の遺伝子に起因する場合は、F2集団の野生型と変異型(師部環状)の表現型の分離比が3:1となる。F2集団の表現型の分離比および師部環状株と野生株Col-0の戻し交配から得られたF2集団の表現型の分離比について検定した結果、師部環状株は単一の原因遺伝子に起因していることがわかった。
次に、F2植物体集団から師部が環状化した株を選抜し、地図作成に供するマッピングラインとした。全ラインからゲノムDNAを抽出し、DNAマーカーを利用して遺伝子地図を作成した。師部環状株の原因遺伝子の座乗領域を4番染色体下腕側の約500kbの領域に絞ることができた。
(原因遺伝子の候補選定)
植物体のゲノム抽出はDNeasy(R)Plant Mini Kit (QIAGEN) を用いて行った。次世代シーケンサー (NGS) 解析により、師部環状株の全ゲノム配列を解読し、原因遺伝子の座乗領域について変異の有無・種類を解析した。その結果、図3に示すように、原因遺伝子候補としてNTL9 (NAC transcription factor-like 9: AT4G35580) 遺伝子を選定した(変異部位は全長1536塩基中、1396位に変異(1塩基挿入))。
(相補性検定による師部環状株の原因遺伝子の特定)
師部環状株の原因遺伝子を特定するためには、その遺伝子(野生型)を導入し、師部構造が正常に復帰するかどうかを確認(相補性検定)する必要がある。師部環状株に導入する野生型 NTL9 遺伝子として以下の2種類のコンストラクトを作成した。
[1]pBI NTL9(whole-genome)
pBI NTL9(whole-genome) を作製するために、まず、Arabidopsis thaliana (Col-0) のゲノムをテンプレートにして、プライマー (SalI-At4g35580-F1: 5′- gtcgacggtcagattatgatatatgtaaatatgtccatgatt -3′(配列番号2) とAt4g35580-EcoRI-R1 5′- gaattcagacgatttcaaaactacggaaacaaattgaatct -3′(配列番号3)) でPCR増幅し、 NTL9 のプロモーター領域と ORF を含むゲノム DNA 断片を単離した。この DNA 断片を pGEM(R)-T Easy ベクター (Promega) へクローニングし、pGEM At4g35580(genome) とした。次に、pGEM At4g35580(genome) をテンプレートにして、プライマー (SalI-At4g35580-F2: 5′- gcgccttaattaaactagtctcgaggtcgacggtcagattatgat -3′ (配列番号4)とAt4g35580-EcoRI-R2: 5′- acgacgttgtaaaacgacggccagtgaattcagacgatttcaaaa -3′(配列番号5)) でPCR増幅し、得られた NTL9 のプロモーター領域と ORF を含むゲノム DNA 断片を EcoRI と SalI で処理した pAtPP2CF1:GUS (1) へ In-Fusion(R) Dry-Down PCR Cloning Kit w/Cloning Enhancer (Clontech) を使用して(In-Fusion反応) クローニングし、pBI NTL9(whole-genome) を得た。
[2]pBI 35S: NTL9(genome)
pBI 35S: NTL9(genome) を作製するために、まず、Arabidopsis thaliana (Col-0) のゲノムをテンプレートにして、プライマー (SalI-At4g35580-F1: 5′- gtcgacggtcagattatgatatatgtaaatatgtccatgatt -3′ (配列番号6)とAt4g35580-EcoRI-R1 5′- gaattcagacgatttcaaaactacggaaacaaattgaatct -3′(配列番号7)) でPCR増幅し、 NTL9 のプロモーター領域と ORF を含むゲノム DNA 断片を単離した。この DNA 断片を pGEM(R)-T Easy ベクター (Promega) へクローニングし、pGEM At4g35580(genome) とした。次に、pGEM At4g35580(genome) をテンプレートにして、プライマー(At4g35580-F14: 5′- ccccgggtggtcagtcccttatgggtgctgtatcgatgga -3′(配列番号8) とAt4g35580-SacI-R: 5′- ttgaacgatcggggaaattcgagctctaattaagatgttggtacat -3′(配列番号9)) でPCR増幅し、ゲノム DNA 断片を得た。さらに、この DNA 断片をテンプレートにして、プライマー (XbaI-BamHI-PP2CF1-F2: 5′- ttggagagaacacgggggactctagaggatccccgggtggtcagtc -3′(配列番号10) とAt4g35580-SacI-R: 5′- ttgaacgatcggggaaattcgagctctaattaagatgttggtacat -3′(配列番号9)) でPCR増幅し、得られた NTL9 ORF を含むゲノム DNA 断片をBamHI と SacI で処理した pBI121 (Clontech) へ In-Fusion(R) Dry-Down PCR Cloning Kit w/Cloning Enhancer (Clontech) を使用して (In-Fusion反応) クローニングし、pBI 35: NTL9(whole-genome) を得た。
上記の2種類のベクターを野生型のシロイヌナズナ(Col-0)へfloral-dip法(Clough and Bent,1998)を用いて形質転換した。T1植物の選抜はカナマイシン(終濃度30μg/mL)とカルベニシリン(終濃度100μg/mL)を含むMS培地で行った。その後、スーパーミックスA(サカタのタネ)を使用して鉢上げした。
シロイヌナズナ野生株(Col-0)および相補検定用上記株の種子をSucrose(終濃度1%)を含むMS培地(0.5%GellanGum)に播種し、3日間の春化処理後、栽培室(22℃、16時間明条件(~50μmol・m-2・s-1白色蛍光灯)/8時間暗条件、湿度60%)で8週間生育させた。植物体の茎を前述したトルイジンブルー溶液を用いた表現型解析方法で観察した。結果を図4に示す。
図4に示すように、いずれのコンストラクトにおいても野生型に復帰した株が存在し、NTL9遺伝子が変異株の原因遺伝子と特定できた。
(師部環状株の環状部位の組織の特定)
シロイヌナズナの茎はまず、同心円状に師部組織、形成層、木部組織からなる維管束が形成される。その後、茎生長後期には維管束間に新たに形成層 (維管束間形成層) が形成され、当該部分に師部・木部組織が形成される。このようにして、各維管束が連結され環状構造をとる(文献2、3)。光学顕微鏡観察では師部環状株の茎は、十分に成熟した野生株の茎で観察される環状の維管束構造を示した。しかしながら、環状につながった維管束構造を細胞の形態のみで、師部組織あるいは形成層と判断することはできない。そこで、師部環状株で観察される環状部位の組織を正確に特定するため、師部組織、あるいは形成層で特異的に発現するよう設計したマーカー遺伝子を導入し、観察を行った。マーカー遺伝子には、細胞膜結合型 GFP (GFP-RCI2a) 遺伝子を選定した (文献4)。
師部組織特異的に発現誘導するプロモーターとして、師部で発現するSUC2 (At1g22710,ショ糖/H+共輸送体) 遺伝子のプロモーター、形成層特異的に発現誘導するプロモーターとしてTDR (At5g61480, 受容体リン酸化酵素) 遺伝子プロモーターを選定し、以下の2種類のコンストラクトを作成した(文献1)。
[1]pBI TDRpro: GFP-RCI2a
シロイヌナズナ (Col-0) cDNAをテンプレートにして、プライマー (RCI2a-F1: 5'- atgagtacagctactttcgt -3'(配列番号11) と RCI2a-R1: 5'- aatggttaatggtggtcct -3'(配列番号12)) でPCR増幅し RCI2a の cDNA 断片を単離した。このDNA 断片を pGEM(R)-T Easy ベクター (Promega) へクローニングし、pGEM RCI2a(cDNA) とした。pGEM RCI2a(cDNA) をテンプレートにして、プライマー ((Ala)n-RCI2a-F: 5'- cagctgcagctgcagctgcaatgagtacagctactttcgt -3'(配列番号13)と RCI2a-SacI-R1: 5'- ttgaacgatcggggaaattcgagctcaatggttaatggtggtcct -3'(配列番号14)) でPCR増幅し RCI2a の DNA 断片を単離し RCI2a PCR断片とした。pBI 35S: GFP-AtPP2CF1 (文献1) をテンプレートにして、プライマー (BamHI-GFP-F: 5'- aggatccccgggtggtcagtcccttatggtgagcaagggcgagga -3 (配列番号15)と (Ala)10-GFP-R1: 5'- tgcagctgcagctgcagctgcagctgcagccttgtacagctcgtccatg -3'(配列番号16)) でPCR増幅し GFP のDNA 断片を単離し GFP PCR 断片とした。RCI2a PCR断片とGFP PCR 断片を混合した溶液をテンプレートにして、特定のプライマーを加えずにPCR増幅した (1st PCR反応)。
この反応液をテンプレートにしてプライマー (XbaI-BamHI-F: 5'- ttggagagaacacgggggactctagaggatccccgggtggtcagtc -3' (配列番号17)と RCI2a-SacI-R1) でPCR増幅し GFP-RCI2a の DNA 断片 を単離した。この DNA 断片をpBI121 の BamHI と SacI 切断サイトへ In-Fusion反応でクローニングし、pBI 35S: GFP-RCI2a を得た。
pBI35S:GFP-RCI2a をテンプレートにして、プライマー (TDR-GFP-F と RCI2a-SacI-R1: 5'- ttgaacgatcggggaaattcgagctcaatggttaatggtggtcct -3')(配列番号18) でPCR増幅しGFP-RCI2a の DNA 断片を単離した。これら DNA 断片をpBI101N2 (1) の HindIII と SalI 切断サイトへ In-Fusion(R) Dry-Down PCR Cloning Kit w/Cloning Enhancer (Clontech) を使用して(In-Fusion反応) クローニングし、pBI TDRpro: GFP-RCI2a を得た。
[2]pBI SUC2pro: GFP-RCI2a
上記で作製した pBI35S:GFP-RCI2a をテンプレートにして、プライマー (SUC2-GFP-F と RCI2a-SacI-R1: 5'- ttgaacgatcggggaaattcgagctcaatggttaatggtggtcct -3'‘(配列番号18) でPCR増幅しGFP-RCI2a の DNA 断片を単離した。これら DNA 断片をpBI101N2 (文献1) の HindIII と SalI 切断サイトへ In-Fusion(R) Dry-Down PCR Cloning Kit w/Cloning Enhancer (Clontech) を使用して (In-Fusion反応) クローニングし、pBI SUC2pro: GFP-RCI2a を得た。
上記の2種類のベクターを野生型のシロイヌナズナ(Col-0)へfloral-dip法(Clough and Bent,1998)を用いて形質転換した。T1植物の選抜はカナマイシン(終濃度30μg/mL)とカルベニシリン(終濃度100μg/mL)を含むMS培地で行った。その後、スーパーミックスA(サカタのタネ)を使用して鉢上げした。シロイヌナズナ野生株(Col-0)および細胞膜局在型GFP(GFP-RCI2a)株の種子をSucrose(終濃度1%)を含むMS培地(0.5%GellanGum)に播種し、3日間の春化処理後、栽培室(22℃、16時間明条件(~50μmol・m-2・s-1白色蛍光灯)/8時間暗条件、湿度60%)で7~8週間生育させた。シロイヌナズナ植物体の第一花序茎の基部から20mm部分で切断した茎サンプル(長さ8mm)を4%パラホルムアルデヒドinPBS溶液で固定した。1xPBSで洗浄後、5%アガロースに包埋し、マイクロスライサー(DTK-1000(堂阪イーエム))を使用して、包埋した茎サンプルの中央部(第一花序茎の基部から20mm対応部分)を100μmの厚さで切片作製を行った。切片サンプルをClearSee溶液(10%(w/v)Xylitol,15%(w/v)Sodium deoxycholate,25%(w/v)Urea)に2~3週間、浸潤し透明化した(文献5)。
透明化した植物体のGFP蛍光の観察には、蛍光顕微鏡(オリンパス)を使用した。蛍光観察には、GFP検出用のNIBA(Ex:470nm~490nm/Em:510nm~550nm、緑色)およびリグニン自家蛍光検出用のWU(Ex:330nm~385nm/Em:420nm、青色)の2種類のフィルタを用いて両画像を重ね合わせて解析した。結果を図5に示す。
図5Eに示すように、pBI SUC2pro: GFP-RCI2aを導入した師部環状株の花茎でのGFP観察を行った結果、師部組織でGFPの発現を確認できた。また、この師部環状株は、図5Bに示すpBI SUC2pro: GFP-RCI2aを導入した野生株と比べて、師部組織が増加していることも確認できた。また、図5Fに示すように、形成層での発現を確認するためのpBI TDRpro: GFP-RCI2aを導入した師部環状株では、師部と木部の間でGFP蛍光が観察されており、師部環状株において増加した組織が師部組織であることが確認できた。
文献1. Sugimoto, H., Kondo, S., Tanaka, T., Imamura, C., Muramoto, N., Hattori, E., Ogawa, K., Mitsukawa, N. and Ohto, C. (2014) Overexpression of a novel ArabidopsisPP2C isoform, AtPP2CF1, enhances plant biomass production by increasing inflorescence stem growth. J. Exp. Bot., 65, 5385-5400.
文献2 Altamura, M.M., Possenti, M., Matteucci, A., Baima, S., Ruberti, I. and Morelli, G. (2001) Development of the vascular system in the inflorescence stem of Arabidopsis. New Phytol., 151, 381-389.
文献3. Sanchez P1, Nehlin L, Greb T. (2011) From thin to thick: major transitions during stem development. Trends Plant Sci. 17, 113-21.
文献4.Cutler, S.R., Ehrhardt, D.W., Griffitts, J.S. and Somerville, C.R.(2000) Random GFP::cDNA fusions enable visualization of subcellular structures in cells of Arabidopsis at a high frequency. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 3718-3723.
文献5.Kurihara et al. (2015) ClearSee: a rapid optical clearing reagent for whole-plant fluorescence imaging. Development, 142, 4168-4179.
配列番号2~18:プライマー

Claims (6)

  1. 以下のいずれかのタンパク質の発現を抑制するか又は前記タンパク質の配列番号1で表されるアミノ酸配列の少なくとも第466位又は第466位に相当する位置以降に変異又は欠損を導入することで前記タンパク質を不活性化することにより、植物体の師部組織の比率を増大させる方法。
    (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質
    (b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性のアミノ酸配列を有し、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が有する、師部組織の成長を促進する維管束形成層の分化の抑制活性を有するタンパク質
    (c)配列番号1で表されるアミノ酸配列とアライメントしたとき、配列番号1で表されるアミノ酸配列の第9位~第159位のアミノ酸配列を有するとともに、配列番号1で表されるアミノ酸配列の第485位~第500位のアミノ酸配列を有し、全体として配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性のアミノ酸配列を有し、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質の師部組織の成長を促進する維管束形成層の分化の抑制活性を有するタンパク質
  2. 前記アミノ酸配列における第466位又は第466位に相当する位置のアミノ酸に対応する塩基配列において、一塩基挿入変異を導入することにより、前記タンパク質を不活性化する、請求項1に記載の方法。
  3. 前記植物体の前記師部組織の一断面における総断面積は、前記植物体の野生株において前記一断面に対応する一断面における師部組織の総断面積の1.5倍以上である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記植物体の前記師部組織の一断面における総断面積に対する師部組織比率が、前記植物体の野生株において対応する師部組織比率の1.5倍以上である、請求項1又は2に記載の方法。
  5. 前記植物体の前記師部組織の一断面における総断面積に対する師部組織比率が、前記植物体の野生株において対応する師部組織比率の2倍以上である、請求項1又は2に記載の方法。
  6. 前記師部組織は、前記茎の切片をトルイジンブルーによって染色して師部と同定される領域である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
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