JP4399605B2 - イネに耐虫性を付与するGrh2遺伝子及びその利用 - Google Patents
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Description
Breeding Science 48: 243-249 (1998) Crop science 44: 389-393 (2004) Adv. Agron. 45: 223-274(1991) Plant Breeding 124: 93-95 (2005)
(a)配列番号:1又は2に記載の塩基配列からなるDNA;
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(c)配列番号:1又は2に記載の塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(d)配列番号:1又は2に記載の塩基配列と少なくとも80%以上の相同性を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(e)配列番号:3に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;
(f)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(g)配列番号:3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA。
(h)配列番号:3又は4に記載の塩基配列からなるDNA;
(i)配列番号:3又は4に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(j)配列番号:3又は4に記載の塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(k)配列番号:3又は4に記載の塩基配列と少なくとも80%以上の相同性を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(l)配列番号:6に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;
(m)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(n)配列番号:6に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA。
ただし本発明の範囲からは、公知の配列を有するDNA及びタンパク質は除かれる。
本明細書において、「耐虫性を付与する機能を有するDNA」というときは、特別な場合を除き、耐虫性のない植物(又は耐虫性が高くない植物)にそのDNAを導入したとき、耐虫性とある(又は耐虫性が導入前より高くなる)ように形質転換することができるものであるときをいう。
例えば、イネにおいて形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールを用いてプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Datta SK: In Gene Transfer To Plants (Potrykus I and Spangenberg、 Eds) pp.66-74、 1995)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体を再生させる方法(Toki S、 et al: Plant Physiol 100: 1503、 1992)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou P、 et al: Biotechnology 9: 957、 1991)、及びアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei Y、 et al: Plant J 6: 271、 1994)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
(e')配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(f')配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質;
(g')配列番号:3に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質。
(l')配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(m')配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質;
(n')配列番号:6に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質。
従来、イネの品種改良は、(1)交雑による変異の創出、(2)放射線や化学物質による突然変異誘起などによって増大させた遺伝変異の中から、収量性や生物ストレス耐性などに関する有用変異を保有する系統を選抜する、等の方法により行われてきた。これらの方法には長期間を要し、各種形質の評価と選抜に多大な労力を要するなど問題点が多かった。さらに、変異の程度や方向性を制御できない点は従来の交雑育種の限界であった。しかしながら、本発明者等が単離したGrh2遺伝子を利用することにより,イネに耐虫性を付与することができ,イネ栽培における殺虫剤使用の低減をはかることができる。さらに、本発明の耐虫性遺伝子の利用により、イネの重要害虫であるツマグロヨコバイなどの吸汁性昆虫発生地域におけるイネ収量の安定化を実現することができる。本発明は、食糧の安定供給に貢献しうるものである。
安定な耐虫性品種を育成するためには、耐虫性機構の解明が不可欠である。水稲品種DV85が示すツマグロヨコバイ抵抗性は、2つのツマグロヨコバイ抵抗性遺伝子 (Grh2とGrh4)に支配され、両遺伝子が存在すると強い殺虫活性を示す(図1)。そこで、Grh2 とGrh4 をポジショナルクローニング法により単離し、その遺伝子機能を解明することを本研究の目的とした。Grh2を保有すると考えられるKasalath由来のBACクローンのゲノムシークエンスをもとに候補ゲノム領域内のサブクローンを用いた相補性検定により、Grh2候補遺伝子を特定した。
約12,000個体のGrh2大規模分離集団を用いて高精度連鎖地図を作成し、日本晴のBACクローンBb0030E22上のマーカーa28とa31に挟まれた約72kb中にGrh2候補ゲノム領域を絞り込んだ。しかしながら、その内側には組換え個体が存在せず、これ以上の絞り込みができなかった。そこで、KasalathのBACライブラリーよりGrh2候補ゲノム領域を含むBACクローンを取得し、サブクローン化してGrh2近傍の物理地図を作成した。Grh2候補ゲノム領域を含むサブクローンをGrh4のみを保有するツマグロヨコバイ感受性の近似同質遺伝子系統(NIL: GRHNIL37-2)に形質転換して相補性検定を行った。また、Grh2とGrh4を保有するNIL(GRHNIL54-4)に昆虫を放飼した後にRT-PCR法によりGrh2候補遺伝子の発現解析を行った。さらに、研究支援により解読された原品種DV85の候補遺伝子領域の塩基配列を日本晴ならびにKasalathと比較した。
Kasalath由来BACクローンB219B5上のCAPSマーカーa28とa31に挟まれた約55kbp中にGrh2候補ゲノム領域を絞り込んだ(図2A及びB)。この領域にはBACクローンB219B5の配列情報をもとにすると14個の候補遺伝子(KasPredgene12(KPg12)〜KasPredgene 25(KPg25))が予測された。マーカー間に挟まれたGrh2候補ゲノム領域内には、日本晴とKasalath間に大きなrearrangementが存在し、KPg24の右側の塩基配列では日本晴ゲノム上に多くの挿入配列が確認され、KPd24とKPd12の間の約30kbpの塩基配列が日本晴ゲノム上では欠失していた。なお、近傍マーカーのプライマー情報を配列表の配列番号13〜24に示した。
(1.1)形質転換体の作成
(1.1.1)ベクターの調製
Grh2候補ゲノム領域内の7つのサブクローン、KpnI (19.5kb)、XhoI (8.5kb)、BglII (8.2kb)、XmaJI (8.5kb)(図2参照)等を作成し、Ti-プラスミドベクターpPZP2H-lac (Fuse et al.、Plant Biotechnol. 18: 219-222、2001) に組み込んだ。得られた組換えベクターは、大腸菌(TOYOBO社、COMPETENT high DH5α)に導入し、この菌液をストレプトマイシンを20mg/l、 X-gal(5-Bromo-4-Chloro-3-Indolyl-β-D-galactopyranoside)を20mg/l、 IPTG(Isopropyl-Thio-β-D-Galactopyranoside) を200mg/l含むLB寒天培地にプレーティングし、37℃で1晩培養した。得られたコロニーのうち、白いものをストレプトマイシンを20mg/l含むLB液体培地にピックアップ後、37℃で1時間培養し、スクリーニングを行った。すなわち、得られた菌液を下記のプライマー対:
コンストラクトKpnI (19.5kb), XhoI (8.5kb), BglII (8.2kb)のスクリーニングに用いたプライマー;
Grh2a 1f(forward primer)ACTGGAGGCACCATCATCAC(配列番号:25)
Grh2a 1r(reverse primer)CACCCAGAAACCTGCTCATC(配列番号:26)
コンストラクトXmaJI (8.5kb)のスクリーニングに用いたプライマー;
Grh2b-1f(forward primer)GTTCCATCTCCCAACGGTTC(配列番号:29)
Grh2b-1r(reverse primer)CTGGATCGAGCTGTTTGAGC(配列番号:30)
にてPCR増幅した。
得られたベクター2μgを凍結融解法を用いてアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens EHA101)に導入し、選択マーカーによるスクリーニング、PCRによる目的産物の確認を経て、形質転換用アグロバクテリウムを準備した。
得られた形質転換カルスはキネチン(2mg/l)及びナフタレン酢酸(0.02mg/l)を含む再分化培地(Regeneration medium III培地)に移し、30℃の明所で12週間〜16週間培養することにより再分化シュートを得た。このシュートを再生培地(MSホルモンフリー培地)に移し、幼植物を得た。この再分化植物を温室に移して25℃で育成した。
(1.2.3)供試虫:
1991年に、福岡県粕屋郡粕屋町で採集したツマグロヨコバイ個体群を供試した。同個体群は、杉本(1969)に従って、25℃、16時間人工照明、湿度60%の恒温室内で累代飼育した。餌としてツマグロヨコバイ感受性である水稲品種日本晴の幼苗を与えた。
岸野・安藤(1978)および井辺・岩崎(1987)の方法に準じて、個体ごとにツマグロヨコバイ抵抗性を評価した。試験管に約3mlの水と幼苗を入れ、1〜2齢幼虫を7頭前後放飼した後、棉栓で封じた。検定は、25℃、16時間人工照明、湿度60%の恒温室内で行った。幼虫放飼後、4日目における幼虫死亡率を求めて抵抗性の評価を行った。死亡率が30%未満の個体を感受性、30〜70%未満の個体を中度抵抗性、70〜100%の個体を強度抵抗性と判定した。
KPg24もしくはKPg12 を含むコンストラクトによる形質転換体でのみ中度抵抗性個体が出現し、これら以外のコンストラクトによる形質転換体では感受性であった。KPg24のみを含むコンストラクトによる相補性検定の結果、T0植物54個体中5個体がツマグロヨコバイ幼虫死亡率が30〜70%の中度抵抗性を示し、これらを含む9個体でツマグロヨコバイ幼虫の死亡が確認された(表1)。なお、幼虫死亡率が30%未満であっても、死亡したということは、その形質転換体において抵抗性が発現していることを意味する。
そこで、両候補遺伝子をもつコンストラクトを作成して相補性検定を行った結果、強度抵抗性を示すNILと同程度の抵抗性を示す植物が得られた。その内訳はT0植物38個体中25個体が強度抵抗性、4個体が中度抵抗性、9個体が感受性であった(表3)。
Grh2とGrh4を保有する強度抵抗性のDV85と感受性の台中65号を用いて14個の候補遺伝子のRT-PCR法による発現解析を行った結果、両系統ともGrh2a とGrh2bの発現が確認された。Grh2aでは完全長cDNAを取得し、全領域でmRNAの発現を確認した。
特定したGrh2aならびにGrh2b内の塩基配列を感受性品種日本晴とGrh2を保有する抵抗性品種Kasalathならびに強度抵抗性を示す現品種のDV85間で比較した結果、双方の遺伝子の塩基配列はKasalathとDV85では全く同じであった。一方、日本晴との比較において、日本晴BACクローンBb0030E22上の Grh2候補ゲノム領域にはGrh2aとGrh2bに相同な予測遺伝子がそれぞれ2つずつ重複して存在していた(図8)。すなわちGrh2aに相同性のあるものとして日本晴予測遺伝子NipPredg(NPg)23、NPg26が予測され、Grh2b に相同性のあるものとしてNPg24、NPg27が予測された。双方の遺伝子の塩基配列を比較すると、アミノ酸変異に寄与するSNPや挿入・欠失が多数存在した。
1999年に長崎県で採集されたトビイロウンカ個体群(1999-BPH)を用いて、ツマグロヨコバイ抵抗性遺伝子に対する近似同質遺伝子系統(Grh2-NIL, Grh2+Grh4-NIL) のトビイロウンカ抵抗性検定を行った。評価方法は、Tanaka. And Matsumura (2000)を改変した個体別評価方法を用いた。すなわち、羽化後24時間以内のトビイロウンカ短翅型メス成虫を、ケージで囲った分ゲツ期のイネ個体に放飼した。放飼後のメス成虫を毎日観察し、放飼5日後のメス成虫の死亡率ならびに蔵卵メス率を求めて、抗生作用の程度を評価した。死亡率30%未満を感受性、死亡率30%以上70%未満を中度抵抗性、死亡率70%以上を抵抗性と判断した。(引用文献:Tanaka, K. and M. Matsumura, (2000), Development of virulence to resistant rice varieties in the brown planthopper, Nialparvata lugens (Homoptera: Delphacidae), immigrating into Japan. Appl. Entomol. Zool. 35(4);529-533.)
結果:
結果を下表に示した。
なお、本明細書の実施例で得られた配列の相同性に関する情報を下表に示した。
Claims (15)
- 下記の(a)、(b)、(c)、(e)又は(f)のDNA:
(a)配列番号:1又は2に記載の塩基配列からなるDNA;
(b)配列番号:1又は2に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(c)配列番号:1又は2に記載の塩基配列において1〜9個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(e)配列番号:3に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;
(f)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1〜9個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA。 - イネ属植物由来である、請求項1に記載のDNA。
- 下記の(h)、(i)、(j)、(l)又は(m)のDNA:
(h)配列番号:4又は5に記載の塩基配列からなるDNA;
(i)配列番号:4又は5に記載の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(j)配列番号:4又は5に記載の塩基配列において1〜9個の塩基が置換、欠失、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA;
(l)配列番号:6に記載のアミノ酸配列をコードするDNA;
(m)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1〜9個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードし、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するDNA。 - イネ属植物由来である、請求項3に記載のDNA。
- 請求項1若しくは2及び/又は請求項3若しくは4に記載のDNAを含む組換えベクターの利用により形質転換された、形質転換植物体又はその一部。
- イネ属植物である、請求項5に記載の形質転換植物体又はその一部。
- 請求項1若しくは2及び/又は請求項3若しくは4に記載のDNAを含む組換えベクターを用いることを特徴とする、植物の耐虫性を高める方法。
- イネ品種の耐虫性を高める方法である、請求項7に記載の方法。
- 請求項1若しくは2及び/又は請求項3若しくは4に記載のDNAを含む組換えベクターを用いることにより改良された、耐虫性イネ品種。
- 請求項9に記載の耐虫性イネ品種を利用することにより得られる、収穫物。
- 植物における請求項1又は3に記載のDNAの全部又は一部の存在の有無を検出することを含む、植物の耐虫性を評価する方法。
- 植物における請求項1又は3に記載のDNAの全部又は一部の存在の有無を検出することを含む、植物品種の判定方法。
- 請求項1又は3に記載のDNAの塩基配列と、請求項1又は3に記載のDNAを機能可能に有さない植物の請求項1又は3に記載のDNAに対応するゲノム領域の塩基配列とを、コンピュータを用いて比較する工程を含む、植物の耐虫性評価又は植物品種の判定のためのオリゴヌクレオチドの、設計方法。
- 下記の(e’)又は(f’)のタンパク質:
(e’)配列番号:3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(f’)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1〜9個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質。 - 下記の(l’)又は(m’)のタンパク質:
(l’)配列番号:6に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(m’)配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1〜9個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、かつ植物に耐虫性を付与する機能を有するタンパク質。
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