JP5906080B2 - トビイロウンカ抵抗性のイネ品種 - Google Patents

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本発明は、非遺伝子組み換え法により作出されたトビイロウンカ抵抗性のイネの新品種、当該新品種の鑑別方法、及びイネ個体のトビイロウンカ抵抗性を高める方法に関する。
同一生物種に属するが、遺伝的構成が異なるために、ある形質において他の集団と異なる集団を品種という。すなわち、同じ種類の植物であったとしても、品種により、栽培の難易性や病虫害に対する抵抗性、収量、品質等が異なる。このため、農作物、特にイネやムギ類等の主要な作物においては、より優良な品種を得るための品種改良が古くから行われており、近年では、種苗会社等のみならず、国や県等の公的機関においても積極的に行われてきている。
近年、ゲノム解析技術は格段の進歩を遂げ、作物の改良を、高精度かつ容易に行えるようになった。とりわけ、DNAマーカー技術の進捗は著しく、同技術によって、有用な形質を備える新品種を作製することができるようになった。また、DNAマーカーを利用して、これまでに同定された重要遺伝子の有用アレルを含む染色体領域を置換することにより、他の多くの形質に対してほとんど影響を及ぼさずに、目的形質を特異的に改良することが出来るようになった(例えば、特許文献1参照。)。
トビイロウンカは、イネの株元に生息して植物体の汁を直接吸汁する、イネ栽培において最も深刻な被害をもたらす害虫の1つである。被害が甚大な場合は植物体が枯れ、さらに吸汁害が著しい場合には、坪枯れと呼ばれる現象のように水田全体に被害が及ぶ場合もある。その被害はアジアにおけるイネ栽培地域(熱帯〜亜熱帯〜温帯)の広い範囲に及ぶ。トビイロウンカは、ベトナムを中心とする東南アジアには通年生息しており、一部の個体群はジェット気流などに乗り、華南地方を経由し、例年8月中旬から日本へ飛来する。ベトナム及び中国南部より日本へ飛来したトビイロウンカは、九州地方を中心とした イネ栽培に深刻な被害をもたらす。
トビイロウンカの防除方法としては、農薬(殺虫剤)の散布の他、トビイロウンカ抵抗性品種を栽培することが挙げられる。トビイロウンカ抵抗性品種は、例えば、交雑育種法により育成される。具体的には、抵抗性品種と感受性品種を交雑し、交雑系統を自殖により遺伝的固定し、有望な形質を有する(トビイロウンカ抵抗性を有しかつ一般的な農業形質に優れる)品種を育成する。
日本において品種登録出願されているトビイロウンカ抵抗性品種は、イネ品種関東BPH1号のみである。イネ品種関東BPH1号は、イネ品種ヒノヒカリの準同質遺伝子系統であり、インド型系統であるイネ品種IR54742(GSK178−2)が持つ野生稲O.officinalis由来のトビイロウンカ抵抗性遺伝子bph11が導入されている。
一方で、トビイロウンカ抵抗性遺伝子に対する加害性は、時間と共に変化する。例えば、日本に飛来するトビイロウンカは、抵抗性遺伝子Bph1を持つイネ品種Mudgo及びイネ品種IR26や、抵抗性遺伝子Bph2を持つイネ品種ASD7に対しては、近年継続的に加害性を増している。一方で、抵抗性遺伝子Bph3を持つイネ品種水稲中間母本農10号や抵抗性遺伝子Bph4を持つイネ品種Babaweeに対する加害性には、顕著な変化は見られていない(例えば、非特許文献1参照。)。つまり、今後、トビイロウンカ抵抗性イネ品種の育種を行う際には、抵抗性遺伝子Bph1やBph2以外の抵抗性遺伝子を導入することが好ましい。
中でも、抵抗性遺伝子Bph3は、スペクトラムが広い。抵抗性遺伝子Bph3を有するイネ品種としては、スリランカ原産のイネ品種Rathu Heenati及びイネ品種PTB33が知られている。これらの第6染色体に、抵抗性遺伝子Bph3は存在する(例えば、非特許文献2参照。)。
特許第4409610号公報
農業環境技術研究所、「日本に飛来するトビイロウンカにおける抵抗性品種加害性の増大」、関東東山病虫研報、1999年、第46巻、第85〜88ページ。 ジャイリン(Jairin)、他4名、モル・ブリーディング(Mol Breeding)、2007年、第19巻、第35〜44ページ。 タナカ(Tanaka)、ペスト・サイエンス・アンド・マネジメント(Pest science and management)、2000年、第18〜19ページ。
近年の温暖化現象の影響により、九州より北東の地域にも、トビイロウンカの被害が拡大するおそれがある。一方で、イネ品種ヒノヒカリは、その出穂特性から、九州をその栽培中心地とする。従って、イネ品種ヒノヒカリの準同質遺伝子系統であるイネ品種関東BPH1号の栽培適地も九州である。つまり、九州よりも北の地域で栽培可能なトビイロウンカ抵抗性のイネ品種は育成されてこなかった。
本発明は、トビイロウンカへの抵抗性を有しつつ、一般的な農業形質についても優れたイネの新品種を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、野生稲のイネ品種Rathu Heenatiの第6染色体に存在する抵抗性遺伝子Bph3を含む領域の染色体断片を、イネ品種コシヒカリにホモで置換することにより、トビイロウンカへの抵抗性を有しつつ、一般的な農業形質についても優れたイネの新品種を育種できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
) 受託番号がFERM P−22183である、イネ品種コシヒカリえいち7号(Oryza sativa L.cultivar Koshihikari−eichi7 gou)、
) 前記(1)記載の品種の個体及び前記(1)記載の品種の個体の後代個体らなる群より選択される2個体を交配して得られる後代個体、
) あるイネ個体が、イネ品種コシヒカリえいち7号であるか否かを鑑別する方法であって、
イネ品種日本晴の第6染色体中の512,801番目のSNP(一塩基多型)に相当するSNP(イネ品種コシヒカリではG、イネ品種Rathu HeenatiではC)をDNAマーカーM1とし、
イネ品種日本晴の第6染色体の759,931番目のSNPに相当するSNP(イネ品種コシヒカリではA、イネ品種Rathu HeenatiではT)をDNAマーカーM2とし、
イネ品種日本晴の第6染色体の1,757,667番目のSNPに相当するSNP(イネ品種コシヒカリではC、イネ品種Rathu HeenatiではG)をDNAマーカーM3とし、
イネ品種日本晴の第6染色体の1,957,099番目のSNPに相当するSNP(イネ品種コシヒカリではG、イネ品種Rathu HeenatiではT)をDNAマーカーM4とし、
当該イネ個体のゲノム解析により、前記DNAマーカーM1〜M4をタイピングし、
得られたタイピング結果が、前記DNAマーカーM1はG(グアニン)であり、前記DNAマーカーM2はT(チミン)であり、前記DNAマーカーM3はG(グアニン)であり、前記DNAマーカーM4はGである場合に、当該イネ個体がイネ品種コシヒカリえいち7号であると鑑別することを特徴とする、イネ品種の鑑別方法、
を、提供するものである。
イネ品種コシヒカリえいち7号をはじめとする本発明の新品種は、コシヒカリよりもトビイロウンカへの抵抗性が高いが、品質や収穫量等のその他の特性はコシヒカリとほぼ同等な新品種である。
抵抗性遺伝子Bph3が存在する領域Lの近隣に設定したDNAマーカーM1〜M4の位置を模式的に示した図である。 イネ品種コシヒカリとイネ品種Rathu Heenatiの間で多型を示す分子マーカーのゲノム中における位置を、イネ品種日本晴のゲノム中の相当する位置に模式的に示した図である。 イネ品種コシヒカリえいち7号のゲノムを模式的に表した図である。 実施例1において、イネ品種コシヒカリ、イネ品種Rathu Heenati、及びイネ品種コシヒカリえいち7号の、放飼開始から5日間経過後のトビイロウンカの死亡率(%)を示した図である。
本発明及び本願明細書において「イネ品種日本晴の染色体のX番目の塩基からY番目の塩基までの領域」は、RGB(Rice Genome Research Program:http://rgp.dna.affrc.go.jp/publicdata.html)において公開されているイネ品種日本晴のゲノムDNAの塩基配列(TIGER バージョン2)に基づいて決定される領域である。
また、本発明及び本願明細書において、「イネ品種日本晴の染色体のX番目の塩基からY番目の塩基までの領域に相当する領域」とは、イネ個体の染色体中のイネ品種日本晴の染色体中の当該領域と相同性の高い領域であり、イネ品種日本晴の公知のゲノムDNAと当該イネ個体のゲノムDNAの塩基配列を、最もホモロジーが高くなるようにアラインメントすることにより決定することができる。また、イネ品種日本晴以外のイネ個体中の「イネ品種日本晴のSNP(Single Nucleotide Polymorphism、一遺伝子多型)に相当するSNP」は、当該SNPを含む領域において、イネ品種日本晴の公知のゲノムDNAと当該イネ個体のゲノムDNAの塩基配列を、最もホモロジーが高くなるようにアラインメントした場合に、当該SNPに対応する位置にある塩基を意味する。
本発明において品種とは、同一種の植物であって、遺伝的構成が異なるために、ある形質において同種内の他品種から明確に識別し得る集団を意味する。また、イネ品種日本晴及びイネ品種コシヒカリの遺伝子情報等は、例えば、国際的な塩基配列データベースであるNCBI(National center for Biotechnology Information)やDDBJ(DNA Data Bank of Japan)等において入手することができる。特にイネの各品種の遺伝子情報は、KOME(Knowledge−based Oryza Molecular biological Encyclopedia、http://cdna01.dna.affrc.go.jp/cDNA/)等において入手することができる。
本発明及び本願明細書において、DNAマーカーとは、異なる品種由来の染色体断片同士を識別し得る染色体上のDNA配列の差異を検出し得るものである。DNA配列の差異とは、具体的には、SNPである。
DNAマーカーによる、ある品種由来アレルとその他の品種由来アレルとの識別は、常法により行うことができる。例えば、各個体から抽出したDNAを鋳型とし、特定のSNPやSSRと特異的にハイブリダイズし得るプライマー等を用いてPCRを行い、電気泳動法等を用いてPCR産物の有無を検出し、各多型を識別することができる。また、各個体から抽出したDNAを制限酵素処理した後、電気泳動法等を用いてDNA断片のパターンを検出し、各多型を識別することができる。なお、特定のSNPと特異的にハイブリダイズし得るプライマー等は、該SNPの塩基配列に応じて、汎用されているプライマー設計ツール等を用いて常法により設計することができる。また、設計されたプライマー等は、当該技術分野においてよく知られている方法のいずれを用いても合成することができる。
なお、これらのDNAマーカーによる、ある品種由来アレルとその他の品種由来アレルとの識別は、常法により行うことができる。例えば、各個体から抽出したDNAを鋳型とし、特定のSNPやSSRと特異的にハイブリダイズし得るプライマー等を用いてPCRを行い、電気泳動法等を用いてPCR産物の有無を検出し、各多型を識別することができる。また、各個体から抽出したDNAを制限酵素処理した後、電気泳動法等を用いてDNA断片のパターンを検出し、各多型を識別することができる。なお、特定のSNPと特異的にハイブリダイズし得るプライマー等は、該SNPの塩基配列に応じて、汎用されているプライマー設計ツール等を用いて常法により設計することができる。また、設計されたプライマー等は、当該技術分野においてよく知られている方法のいずれを用いても合成することができる。
本発明者らは、九州以北の地域で広く栽培されている良食味系統であるイネ品種コシヒカリに、野生稲のイネ品種Rathu Heenatiの第6染色体に存在する抵抗性遺伝子Bph3を導入することにより、トビイロウンカへの抵抗性を有しつつ、イネ品種コシヒカリと同様の優れた品質を有する新品種を育種し得ると考えた。
トビイロウンカは、その遺伝的な変化により、従来は抵抗性を示していた品種を加害するトビイロウンカの個体群が出現する可能性がある。このため、迅速なトビイロウンカ抵抗性の育種が求められていた。しかしながら、従来技術においては、トビイロウンカへの抵抗性を有しつつ、一般的な農業形質についても優れた系統の選抜を、形質調査の結果のみから行う。つまり、形質調査の結果に基づいて、膨大な交雑系統群の中から目的とする系統を選抜する必要がある。こうした事情から、品種育成期間が長期間(一般的に10年以上)に及ぶという問題点がある。
そこで、本発明者らは、より迅速に育種を達成するために、トビイロウンカ抵抗性の新品種を、非遺伝子組み換え法により得られた後代個体からDNAマーカーを用いて所望の個体を選抜する特許文献1に記載の方法を用いて育種した。具体的には、イネ品種コシヒカリとイネ品種Rathu Heenatiを交配し、得られた後代個体に対して自家交配又は戻し交配を繰返し、DNAマーカーを用いた選抜により、イネ品種Rathu Heenatiの第6染色体に存在する抵抗性遺伝子Bph3を含む領域以外は、イネ品種コシヒカリ由来の染色体のみで構成される新品種を育種した。
まず、イネ品種コシヒカリ由来の染色体とイネ品種Rathu Heenati由来の染色体を識別するためのDNAマーカーを設定した。具体的には、まず、図1に示すように、イネ品種コシヒカリとイネ品種Rathu Heenatiの間で、多型を示す分子マーカーM1〜M4を、抵抗性遺伝子Bph3が存在する領域(Bph3領域、図1中、「Bph3」)を挟む形で設定した。図1中、「G」はイネ品種コシヒカリの染色体、「L」はイネ品種Rathu Heenati由来の染色体断片である。さらに、その他の全ゲノム領域を対象として、イネ品種コシヒカリとイネ品種Rathu Heenatiの間で多型を示す分子マーカーセットを、約10Mb置きに122個(DNAマーカー1〜122)を作製した。
なお、イネ品種Rathu Heenatiのゲノムの塩基配列は、解析されていなかった。つまり、DNAマーカーM1〜M4、DNAマーカー1〜122は、本発明者らにより初めて見出されたものである。
DNAマーカーM1は、イネ品種日本晴の第6染色体中の512,801番目のSNP(一塩基多型)に相当するSNP(イネ品種コシヒカリではG(グアニン)、イネ品種Rathu HeenatiではC(シトシン))である。DNAマーカーM2は、イネ品種日本晴の第6染色体の759,931番目のSNPに相当するSNP(イネ品種コシヒカリではA(アデニン)、イネ品種Rathu HeenatiではT(チミン))である。DNAマーカーM3は、イネ品種日本晴の第6染色体の1,757,667番目のSNPに相当するSNP(イネ品種コシヒカリではC、イネ品種Rathu HeenatiではG)である。DNAマーカーM4は、イネ品種日本晴の第6染色体の1,957,099番目のSNPに相当するSNP(イネ品種コシヒカリではG、イネ品種Rathu HeenatiではT)である。DNAマーカーM1〜M4及び識別に使用可能なプライマーの塩基配列を表1に示す。
Figure 0005906080
図2に、各DNAマーカーのゲノム中の位置を、イネ品種日本晴のゲノム中の相当する位置に模式的に示した。図中、実線部分は、イネ品種コシヒカリのゲノムに当該部分に相当する領域が存在する領域であり、点線部分はイネ品種コシヒカリのゲノムに当該部分に相当する領域が存在していない領域である。また、各DNAマーカーの位置を、表2〜4に示す。なお、各表の染色体中の位置情報は、イネ品種日本晴のゲノム中の相当するSNPの位置である。
Figure 0005906080
Figure 0005906080
Figure 0005906080
DNAマーカーを設定した後、イネ品種コシヒカリとイネ品種Rathu Heenatiの間で、イネ品種コシヒカリを戻し親とする戻し交雑を行い、得られたイネ個体に対してDNAマーカーM1〜M4及びDNAマーカー1〜122によるタイピングを行い、Bph3領域はイネ品種コシヒカリ由来の染色体断片とイネ品種Rathu Heenati由来の染色体断片のヘテロであり、その他の領域は全てイネ品種コシヒカリ由来の染色体であるイネ個体(以下、NILヘテロ)が得られるまで戻し交雑と自殖を繰り返した。その後、得られたNILヘテロの自殖後代から、DNAマーカーM1〜M4のタイピングし、両アレルにおいて、DNAマーカーM1及びM4がイネ品種コシヒカリタイプであり、DNAマーカーM2及びM3がイネ品種Rathu Heenatiタイプであるイネ個体、すなわち、Bph3領域がイネ品種Rathu Heenati由来の染色体断片のホモであるイネ個体を選抜した。得られたイネ個体は、トビイロウンカに対する抵抗性を有していた。本発明者らは、当該方法により、3年10ヶ月という非常に短い育成期間でトビイロウンカ抵抗性品種の育成を完了した。
本発明者らは、得られたイネ個体を、イネ品種コシヒカリえいち7号と命名した。図3はコシヒカリえいち7号のゲノムを模式的に表した図である。イネ品種コシヒカリえいち7号は、イネ品種Rathu Heenati由来のBph3領域を有しつつ、それ以外の領域はイネ品種コシヒカリ由来の染色体のみで構成される、イネ品種コシヒカリの準同質遺伝子系統であり、トビイロウンカ抵抗性を有しつつ、イネ品種コシヒカリが有する味等の優良形質を維持しているという非常に優れた品種である。そこで、出願人は、コシヒカリえいち7号を、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター中央第6)に新規植物として寄託した(寄託日:平成23年11月1日)。受託番号はFERM P−22183である。
また、イネ品種コシヒカリえいち7号を得た方法と同様にして、イネ品種コシヒカリとイネ品種Rathu Heenatiから、イネ品種コシヒカリの染色体中、イネ個体の第6染色体中の、イネ品種日本晴の第6染色体中の759,931番目の塩基から1,757,667番目の塩基までを含む領域に相当する領域が、イネ品種Rathu Heenatiの当該領域からなる染色体断片にホモ置換されており、かつ前記染色体断片の上流端が、イネ品種日本晴の第6染色体の512,802番目の塩基から759,931番目の塩基までを含む領域に相当する領域に存在し、かつ当該染色体断片の下流端が、イネ品種日本晴の第6染色体の1,757,667番目の塩基から1,957,098番目の塩基までを含む領域に相当する領域に存在しているイネ品種を作出することができる。得られたイネ品種は、イネ品種Rathu Heenati由来のBph3領域を含む染色体断片をホモで有するイネ品種コシヒカリの準同質遺伝子系統であるため、イネ品種コシヒカリえいち7号と同様に、トビイロウンカ抵抗性が高く、かつ品質や収穫量等の収穫期以外の特性はコシヒカリとほぼ同等なイネ品種である。
これらの結果から、イネ個体の第6染色体中の、少なくともDNAマーカーM2−AtからDNAマーカーM3−Cgまでの領域(すなわち、イネ品種日本晴の第6染色体中の759,931番目の塩基から1,757,667番目の塩基までを含む領域に相当する領域)を、イネ品種Rathu Heenatiの当該領域からなる染色体断片に置換することにより、当該イネ個体を元品種よりもトビイロウンカに対する抵抗性を高めることができることが明らかである。なお、イネ品種コシヒカリえいち7号の当該領域は、イネ品種Rathu Heenatiの当該領域からなる染色体断片により構成されているため、イネ品種コシヒカリえいち7号の当該領域からなる染色体断片によって置換してもよい。また、イネ品種Rathu Heenatiの当該領域からなる染色体断片を導入することによりトビイロウンカ抵抗性を付与するイネ個体は、当該領域がイネ品種コシヒカリと同一若しくは近似した塩基配列を有している品種であればよく、イネ品種コシヒカリに限定されるものではないが、消費者の嗜好性等から、イネ品種コシヒカリ又はそれを親品種として作出された新品種であることが好ましい。
また、導入されるイネ品種Rathu Heenati由来(若しくはイネ品種コシヒカリえいち7号由来)の染色体断片の上流端が、DNAマーカーM1−Gcよりも下流であってDNAマーカーM2−Atまでの領域(すなわち、イネ品種日本晴の第6染色体中の512,802番目の塩基から759,931番目の塩基までを含む領域に相当する領域)に存在し、その下流端が、DNAマーカーM3−CgからDNAマーカーM4−Gtよりも上流までの領域(すなわち、イネ品種日本晴の第6染色体中の1,757,667番目の塩基から1,957,098番目の塩基までを含む領域に相当する領域)に存在するように、当該染色体断片をイネ個体の第6染色体中に導入することにより、その他の形質に明らかな影響を及ぼすことなく、当該イネ個体を、元品種よりもトビイロウンカに対する抵抗性を高めることができる。
イネ品種コシヒカリえいち7号をはじめとする、イネ品種Rathu Heenati由来のBph3領域を有するイネ品種コシヒカリの準同質遺伝子系統は、元品種コシヒカリと同様の手法により、栽培し、自家交配や人工交配により米を収穫することができる。また、イネ品種コシヒカリえいち7号及びその後代個体は、元品種コシヒカリと同様に、新品種育成の親個体とすることができる。例えば、イネ品種コシヒカリえいち7号の個体と別の品種の個体とを交配し、得られた後代個体を、イネ品種コシヒカリえいち7号の個体と戻し交配することにより、新品種の育種を試みることもできる。
また、表1に記載の4種類のDNAマーカー(DNAマーカーM1−Gc、DNAマーカーM2−At、DNAマーカーM3−Cg、及びDNAマーカーM4−Gt)は、イネ品種コシヒカリえいち7号に特有のゲノム情報である。したがって、イネ品種コシヒカリえいち7号は、これらの4種類のDNAマーカーを適宜用いて鑑別することができる。
具体的には、本発明のイネ品種の鑑別方法は、あるイネ個体が、イネ品種コシヒカリえいち7号であるか否かを鑑別する方法であって、当該イネ個体のゲノム解析により、DNAマーカーM1−Gc、DNAマーカーM2−At、DNAマーカーM3−Cg、及びDNAマーカーM4−Gtをタイピングし、得られたタイピング結果が、イネ品種コシヒカリえいち7号の結果と一致する場合、すなわち、DNAマーカーM1−GcはGであり、DNAマーカーM2−AtはTであり、DNAマーカーM3−CgはGであり、DNAマーカーM4−GtはGである場合に、当該イネ個体がイネ品種コシヒカリえいち7号であると鑑別することを特徴とする。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
前述の方法により作出したイネ品種コシヒカリえいち7号のトビイロウンカに対する抵抗性を検定した。イネ品種コシヒカリ及びイネ品種Rathu Heenatiについても検定し、比較した。トビイロウンカ抵抗性の検定方法は、タナカらの方法(非特許文献3参照。)に準拠して行った。すなわち、イネ個体にトビイロウンカを放飼した後のトビイロウンカの死亡率を調べた。トビイロウンカ非抵抗性のイネの場合、トビイロウンカは葉の汁を吸うことができ、生存し得るが、トビイロウンカ抵抗性のイネの場合、トビイロウンカは葉の汁を吸うことができないため、死亡する。
検定のための植物サンプルとしては、各イネ品種のそれぞれについて15個体ずつ用いた。播種後1ヶ月程度育成した分げつ期の苗の登頂部を主茎の高さが約15cmとなるように切断した後、孵化から4週間程度育成したトビイロウンカ(羽化直後の短翅型雌成虫)を、苗1個体当たり5頭ずつ放飼した。5日間経過後、生存しているトビイロウンカの頭数を計数し、トビイロウンカの死亡率を算出した。
この結果、イネ品種コシヒカリでは、15個体中14個体において、放飼開始から5日間経過後に、5頭全てのトビイロウンカが生存していた、すなわち、トビイロウンカの死亡率は0%であった。また、イネ品種Rathu Heenatiでは、15個体中10個体において、放飼開始から5日間経過後のトビイロウンカの死亡率は100%であり、残る5個体においても、5頭のうち1頭しか生存しておらず、トビイロウンカの死亡率は80%であった。これに対して、イネ品種コシヒカリえいち7号では、15個体中10個体において、放飼開始から5日間経過後のトビイロウンカの死亡率は100%であり、残る5個体においても、5頭のうち1頭しか生存しておらず、トビイロウンカの死亡率は80%であった。図4に、イネ品種コシヒカリ、イネ品種Rathu Heenati、及びイネ品種コシヒカリえいち7号の、放飼開始から5日間経過後のトビイロウンカの死亡率(%)を示した。これらの結果から、イネ品種コシヒカリえいち7号は、イネ品種コシヒカリよりも明らかにトビイロウンカ抵抗性が高く、イネ品種Rathu Heenatiと同様にトビイロウンカ抵抗性品種であることが確認された。
[実施例2]
イネ品種コシヒカリえいち7号とイネ品種コシヒカリの形質を比較検討した(千葉県にて、2009年、2010年に実施)。形質の検討は、種苗法(平成10年法律第83号)第5条第1項に基づく品種登録出願のための特性審査に準拠して行った。検討結果を表5〜7に示す。この結果、イネ品種コシヒカリえいち7号は、トビイロウンカに対する抵抗性がイネ品種コシヒカリよりも明らかに高くなっていたが、それ以外の形質は基本的にイネ品種コシヒカリと同じであった。
Figure 0005906080
Figure 0005906080
Figure 0005906080
イネ品種コシヒカリえいち7号をはじめとする本発明の新品種は、イネ品種コシヒカリよりもトビイロウンカに対する抵抗性が高い以外は、イネ品種コシヒカリと同様の品質や収穫量を備えるため、特に農業の分野において利用が可能である。
FERM P−22183

Claims (3)

  1. 受託番号がFERM P−22183である、イネ品種コシヒカリえいち7号(Oryza sativa L.cultivar Koshihikari−eichi7 gou)。
  2. 請求項1記載の品種の個体及び請求項1記載の品種の個体の後代個体らなる群より選択される2個体を交配して得られる後代個体。
  3. あるイネ個体が、イネ品種コシヒカリえいち7号であるか否かを鑑別する方法であって、
    イネ品種日本晴の第6染色体中の512,801番目のSNP(一塩基多型)に相当するSNP(イネ品種コシヒカリではG、イネ品種Rathu HeenatiではC)をDNAマーカーM1とし、
    イネ品種日本晴の第6染色体の759,931番目のSNPに相当するSNP(イネ品種コシヒカリではA、イネ品種Rathu HeenatiではT)をDNAマーカーM2とし、
    イネ品種日本晴の第6染色体の1,757,667番目のSNPに相当するSNP(イネ品種コシヒカリではC、イネ品種Rathu HeenatiではG)をDNAマーカーM3とし、
    イネ品種日本晴の第6染色体の1,957,099番目のSNPに相当するSNP(イネ品種コシヒカリではG、イネ品種Rathu HeenatiではT)をDNAマーカーM4とし、
    当該イネ個体のゲノム解析により、前記DNAマーカーM1〜M4をタイピングし、
    得られたタイピング結果が、前記DNAマーカーM1はG(グアニン)であり、前記DNAマーカーM2はT(チミン)であり、前記DNAマーカーM3はG(グアニン)であり、前記DNAマーカーM4はGである場合に、当該イネ個体がイネ品種コシヒカリえいち7号であると鑑別することを特徴とする、イネ品種の鑑別方法。
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