本発明のインクジェット記録液セットは、少なくともインクジェットインクと前処理液を含むインクジェット記録液セットであって、前記インクジェットインクが、少なくとも顔料、顔料分散剤、水溶性有機溶媒及び水不溶性樹脂を含有し、当該水不溶性樹脂が、ポリエステル骨格、ポリオレフィン骨格又はポリウレタン骨格のいずれかを含む水不溶性樹脂であり、前記前処理液が、少なくとも凝集剤及び水不溶性樹脂微粒子を含有し、当該水不溶性樹脂微粒子が、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂粒子であることを特徴とする。この特徴は、下記各実施態様に共通する技術的特徴である。
前記ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂粒子におけるポリウレタン系樹脂(U)とポリオレフィン系樹脂(O)との質量比の値(U/O)が、40/60~95/5の範囲内であることが好ましい。ポリウレタン系樹脂の存在割合が上記範囲内であると、分散剤との相溶性が向上する傾向が見られ、耐溶剤性についても優れている。また、ポリオレフィン系樹脂の存在割合が上記範囲内であると、ポリオレフィン系フィルム基材に対する密着性に優れる。
さらに、前記前処理液中の凝集剤が、有機酸又は多価金属塩であることが好ましい。その理由としては、例えばカチオンポリマーのような凝集剤では凝集する力が弱く、濡れ広がりすぎてしまうため、隣接ドット同士が大きく重なり画質の劣化につながると考えられる。酸や多価金属塩のような、凝集する力が強い凝集剤を使用した場合、凝集と濡れ性とのバランスが良好となり、画質が向上するものと考えられる。
また、前記インクジェットインク中に含まれる前記水不溶性樹脂が、ポリオレフィン骨格又はポリウレタン骨格を有する水不溶性樹脂であることが相溶性の観点から好ましい。
さらに、本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクジェット記録液セットを使用することが好ましい。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
また、本発明における記録液セットとは、少なくとも、画像の形成を補助することが目的である非着色の液である前処理液と、画像を形成することが目的である着色された液であるインクジェットインクとを含む組み合わせを指している。それぞれの構成数は一つでも複数でも構わず、それらをまとめて記録液セットという。
《インクジェット記録液セットの概要》
本発明のインクジェット記録液セットは、少なくともインクジェットインクと前処理液を含むインクジェット記録液セットであって、前記インクジェットインクが、少なくとも顔料、顔料分散剤、水溶性有機溶媒及び水不溶性樹脂を含有し、当該水不溶性樹脂が、ポリエステル骨格、ポリオレフィン骨格又はポリウレタン骨格のいずれかを含む水不溶性樹脂であり、前記前処理液が、少なくとも凝集剤及び水不溶性樹脂微粒子を含有し、当該水不溶性樹脂微粒子が、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂粒子であることを特徴とする。
〔前処理液〕
本発明に係る前処理液は、少なくとも凝集剤及び水不溶性樹脂微粒子を含有し、当該水不溶性樹脂微粒子が、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂粒子であることを特徴とする。
本発明でいう前処理液は、基材にインクジェットプリント法によって画像を記録する際に、インクの画像形成を速めたり、前処理層の物理的性質を改善したり、画質を向上させる機能を有することができる。具体的には、本発明においては、本発明に係る前処理液をインクジェット印刷する面の基材上にあらかじめ塗布・乾燥し、本発明に係るインクジェットインク(インク)を印字することにより、基材が非吸収性であっても画質、耐擦過性、耐水性に優れ、非吸収性基材と前処理層との密着性に優れた記録を可能とすることができる。
(水不溶性樹脂微粒子)
前処理液は、水不溶性樹脂微粒子を含有している。本発明で使用する水不溶性樹脂微粒子は、インクジェット用のインク(インクジェットインク)を受容でき、インクに対して溶解性又は親和性を示す水不溶性樹脂の微粒子分散液である。
水不溶性樹脂微粒子とは、本来水不溶性であるが、ミクロな微粒子として樹脂が水系媒体中に分散する形態を有するものであり、乳化剤等を用いて強制乳化させ水中に分散している非水溶性樹脂、又は、分子内に親水性の官能基を導入して、乳化剤や分散安定剤を使用することなくそれ自身で安定な水分散体を形成する自己乳化できる非水溶性樹脂である。これらの樹脂は通常、水又は水/アルコール混合溶媒中に乳化分散させた状態で用いられる。
なお、本発明において、「水不溶性」とは、樹脂を105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下、好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である樹脂をいう。ただし、樹脂が塩生成基を有する場合、溶解量は、その種類に応じて、樹脂の塩生成基を酢酸又は水酸化ナトリウムで100%中和したときの溶解量である。
本発明に係る水不溶性樹脂微粒子は、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂粒子を含有することを特徴とする。
ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる状態は、種々の態様を取り得るが、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂中に複数の粒子として分散されていてもよく、また、ポリオレフィン系樹脂がコアを形成し、ポリウレタン系樹脂をシェルとするコア・シェル構造を形成してもよい。なお、ポリオレフィン系樹脂が一部表面に表出するように乳化されていてもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、他種の樹脂を含有してもよい。
水不溶性樹脂微粒子は、前処理液の全質量(100質量%)に対して、1~30質量%の範囲内で含有されていることが好ましく、2~20質量%の範囲内で含有されていることが、前処理液としての保存安定性やブルーミング(画像表面に樹脂や凝集剤が析出・結晶化する現象))を抑制する観点から好ましい。
(ポリオレフィン系樹脂)
ポリオレフィン系樹脂としては、不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物で変性されたポリオレフィン等の変性ポリオレフィンが挙げられる。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体の他、エチレン及び/又はプロピレンと、他のコモノマー、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンなどの炭素数2以上、好ましくは2~6のα-オレフィンコモノマーとのランダム共重合体又はブロック共重合体(例えば、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体など)が挙げられる。また、これらの他のコモノマーを2種類以上共重合したものでもよい。
また、これらのポリマーを2種以上混合して用いることもできる。
変性ポリオレフィンとしては、不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物及び/又は1分子あたり1個以上の二重結合を有する化合物で変性されたポリオレフィンが好ましく用いられる。
不飽和カルボン酸及び酸無水物としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸などの、α,β-不飽和カルボン酸及びその無水物が挙げられる。
これらは、それぞれ単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよく、2種以上併用した場合、塗膜物性が良好になることが多い。
上記1分子あたり1個以上の二重結合を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸系モノマーとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸、ジ(メタ)アクリル酸(ジ)エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、ジ(メタ)アクリル酸グリセリン、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリルアミド等が挙げられる。また、スチレン系モノマーとして、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。さらに、この他に併用し得るモノマーとしては、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、バーサチック酸のビニルエステル等のビニル系モノマーが挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸を示す。
ポリオレフィンの変性は、ポリオレフィンを一旦トルエン又はキシレンのような有機溶剤に溶解させ、ラジカル発生剤の存在下にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は1分子あたり1個以上の二重結合を有する化合物で行うことができる。または、ポリオレフィンの軟化温度又は融点以上まで昇温できる溶融状態で反応させることができるオートクレーブ、又は1軸又は2軸以上の多軸エクストルーダー中で、ラジカル発生剤の存在下若しくは不存在下にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は1分子あたり1個以上の二重結合を有する化合物を用いて行うことができる。
該変性反応に用いられるラジカル発生剤としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシエチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイドのようなパーオキサイド類や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類が挙げられる。これらの過酸化物を使用してグラフト共重合させる場合、その過酸化物量はポリオレフィン100質量部に対して0.1~50質量部の範囲内が好ましく、特に好ましくは0.5~30質量部の範囲内である。
以上の乳化原料としてのポリオレフィン系樹脂は、公知の方法で製造されたものでよく、それぞれの製造方法や変性度合については特に限定されない。
本発明に用いられるポリオレフィン系樹脂は、重量平均分子量が20000~100000の範囲内であることが好ましい。20000以上であると、塗膜の凝集力が強くなり、密着性や耐溶剤性(耐ガソホール性)のような塗膜物性が向上する。100000以下であると、有機溶剤に対する溶解性がよく、乳化分散体の粒子径の微小化が促進される。
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値であり、例えば、株式会社島津製作所製「RID-6A」(カラム:東ソー株式会社製「TSK-GEL」、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めることができる。
また、本発明では市販のポリオレフィン系樹脂を用いることもでき、ポリオレフィン構造を有する樹脂からなる樹脂微粒子として、日本製紙社製「アウローレン150A」(ポリオレフィン樹脂微粒子)、「スーパークロンE-415」(ポリプロピレン樹脂微粒子)、「アウローレンAE-301」(ポリオレフィン樹脂微粒子)、東洋化成社製「ハードレンNa-1001」等の市販品を用いることができる。
(ポリウレタン系樹脂)
ポリウレタン系樹脂としては、親水基を有するものが用いられる。親水基を導入することで、ポリオレフィン系樹脂に対する乳化剤としての機能を、ポリウレタン系樹脂に付与することができ、ポリオレフィン系樹脂の乳化分散体である複合樹脂粒子を得ることができる。
このような親水基としては、カルボキシ基(-COOH)及びその塩、スルホン酸基(-SO3H)及びその塩などが挙げられる。
上記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アミン塩などが挙げられる。これらの中でも、親水基としては、カルボキシ基又はその塩が好ましい。
複合樹脂粒子に使用し得るポリウレタン系樹脂は、分子内に水溶性官能基を有する自己乳化型ポリウレタンを分散させた水分散体、又は界面活性剤を併用して強力な機械剪断力の下で乳化した強制乳化型ポリウレタンの水分散体であることが好ましい。上記水分散体におけるポリウレタン系樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネート及び親水基含有化合物との反応により得られるものである。
ポリウレタン系樹脂水分散体の調製に使用し得るポリオールとして、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオールのいずれも使用することができる。中でも、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールを用いて、ウレタン系樹脂中に、カーボネート基又はエーテル基を有する構造とすることが、凝集剤との相溶性に優れるため好ましい。
ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の低分子ポリオールと、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフラン酸、エンドメチンテトラヒドロフラン酸、ヘキサヒドロフタル酸などの多価カルボン酸との縮合物を挙げることができる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンポリテトレメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールのような各種のポリエーテルポリオールを挙げることができる。
ポリカーボネートポリオールは、例えば、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート又はホスゲン等の炭酸誘導体と、ジオールとの反応により得ることができる。そのようなジオールの例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノールを挙げることができる。これらのうちで、1,6-ヘキサンジオールを用いたポリカーボネートポリオールが、耐候性及び耐溶剤性の観点から好ましい。
有機ポリイソシアネートとしては、ウレタン工業の分野において公知のものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)などの脂肪族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI、H12MDI)などの脂環族イソシアネートなどを挙げることができる。これらのうち、脂肪族イソシアネート及び/又は脂環族イソシアネートを用いることが好ましい。また、無黄変性を要求される場合には、脂肪族イソシアネートではHMDI、脂環族イソシアネートではIPDI、H12MDI、芳香族イソシアネートではXDI、TMXDIを使用することが好ましい。
これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
親水基含有化合物としては、分子内に1個以上の活性水素原子と上記親水基とを有する化合物が挙げられる。例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、グリシンなどのカルボン酸含有化合物、及び、そのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体、タウリン(すなわち、アミノエチルスルホン酸)、エトキシポリエチレングリコールスルホン酸などのスルホン酸含有化合物、及び、そのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体などを挙げることができる。
本発明に係るポリウレタン系樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネート及び親水基含有化合物とを混合し、公知の方法により、30~130℃で30分~50時間反応させることにより、まずウレタンプレポリマーが得られる。
得られたウレタンプレポリマーは、鎖伸長剤により伸長してポリマー化することで、親水基を有するポリウレタン系樹脂が得られる。
鎖伸長剤としては、水及び/又はアミン化合物が好ましく用いられる。鎖伸張剤として水やアミンを用いることにより、遊離イソシアネートと短時間で反応して、イソシアネート末端プレポリマーを効率よく伸長させることができる。
鎖伸長剤としてのアミンとしては、ポリアミン、例えば、エチレンジアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、メタキシレンジアミン、トルイレンジアミンなどの芳香族ポリアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジドのようなポリヒドラジノ化合物などが用いられる。アミンには、上記ポリアミンとともに、ポリマー化を大きく阻害しない程度で、ジブチルアミンなどの1価のアミンやメチルエチルケトオキシム等を反応停止剤として含んでいてもよい。
なお、ウレタンプレポリマーの合成においては、イソシアネートと不活性で、かつ、ウレタンプレポリマーを溶解しうる溶剤を用いてもよい。これらの溶剤として、ジオキサン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。反応段階で使用されるこれらの親水性有機溶剤は、最終的に除去されるのが好ましい。
また、ウレタンプレポリマーの合成においては、反応を促進させるために、アミン触媒(例えば、トリエチルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチルジアミン等)、スズ系触媒(例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、オクチル酸スズ等)、チタン系触媒(例えば、テトラブチルチタネート等)などの触媒を添加してもよい。
ポリウレタン系樹脂の分子量は、分岐構造や内部架橋構造を導入して可能な限り大きくすることが好ましく、分子量50000~10000000の範囲内であることが好ましい。分子量を大きくして溶剤に不溶とした方が、耐候性、耐水性に優れた塗膜が得られるからである。
また、本発明では、市販のポリウレタン系樹脂を用いることもでき、例えば、カチオン性又はノニオン性のポリウレタン樹脂微粒子を好ましく用いることができる。
カチオン性のポリウレタン樹脂微粒子としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス620」及び「スーパーフレックス650」(「スーパーフレックス」は同社の登録商標)、三洋化成工業株式会社製の「パーマリンUC-20」(「パーマリン」は同社の登録商標)、大原パラヂウム化学株式会社製の「パラサーフUP-22」などを挙げることができる。
ノニオン性のポリウレタン樹脂微粒子としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス500M」及び「スーパーフレックスE-2000」などを挙げることができる。
(複合樹脂粒子)
本発明に係る複合樹脂粒子は、ポリオレフィン系樹脂がポリウレタン系樹脂に乳化されてなる複合樹脂粒子であり、ポリオレフィン系樹脂が、上記親水基を有するポリウレタン系樹脂により乳化されて複合樹脂化したものである。すなわち、複合樹脂粒子において、ポリウレタン系樹脂は、水不溶性樹脂としてのポリオレフィン系樹脂と連続相である水との界面に存在して、水不溶性樹脂を保護する樹脂と異なる水不溶性樹脂層として機能している。このようにポリオレフィン系樹脂をポリウレタン系樹脂により乳化させてなる複合樹脂粒子とすることで、ポリオレフィン系樹脂単独の場合におけるポリウレタン系樹脂や凝集剤、架橋剤との相溶性の低下を抑制することができ、また、ポリオレフィン系樹脂とポリウレタン系樹脂をそれぞれ乳化させて単に混合する場合に比べて、塗膜物性を向上することができ、また、本発明に係る前処理液の安定性を改善することができる。
複合樹脂粒子におけるポリウレタン系樹脂(U)とポリオレフィン系樹脂(O)との質量比の値(U/O)は、40/60~95/5の範囲内であることが好ましく、40/60~80/20の範囲内であることが更に好ましい。ポリウレタン系樹脂の存在割合が上記範囲内であると、分散剤との相溶性が向上する傾向が見られ、また、耐溶剤性についても優れている。また、ポリオレフィン系樹脂の存在割合が上記範囲内であると、ポリオレフィン系フィルム基材に対する密着性に優れる。
複合樹脂粒子中におけるポリオレフィン系樹脂とポリウレタン系樹脂とを合わせた合計の樹脂濃度は、特に限定されないが、通常5質量%以上、好ましくは10~70質量%の範囲内である。
乳化に際しては、上記ポリウレタン系樹脂とともに、乳化剤として界面活性剤を用いることもできる。すなわち、本発明に係る複合樹脂粒子においては、更に界面活性剤を乳化剤として含有してもよい。界面活性剤を添加することにより、複合樹脂粒子の貯蔵安定性を更に向上することができる。
このような界面活性剤としては、アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤のいずれか一方、又は両方を用いることが好ましい。これらのアニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤とは、全樹脂質量100質量部に対して、両活性剤の合計で1~20質量部の範囲内で配合することが好ましい。配合量が20質量部以下であれば、耐水性や耐溶剤性が優れる傾向となる。
また、アニオン界面活性剤(X)とノニオン界面活性剤(Y)の配合質量比(X/Y)の値は、100/0~50/50の範囲内であることが好ましい。アニオン界面活性剤の配合量を上記範囲内とすることにより、乳化性や貯蔵安定性をより向上することができる。
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、N-アシルアミノ酸塩、カルボン酸塩、リン酸エステル等が挙げられる。これらの中でもスルホコハク酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩が良好である。また、塩の種類としては、特に限定されるものではないが、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、トリエタノールアミン塩などが好ましい。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類等が好ましい。
本発明に係る複合樹脂粒子には、他に酸化防止剤、耐光剤、可塑剤、発泡剤、増粘剤、着色剤、難燃剤、他の水性樹脂、各種フィラーを本発明の効果を阻害しない範囲において添加することができる。
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系又はセミカルバジド系などの酸化防止剤の溶液又はエマルションが挙げられる。
耐光剤としては、ヒンダードアミン(HALS)系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの耐光剤の溶液又はエマルションが挙げられる。
次いで、複合樹脂粒子の製造方法について説明する。
上述した複合樹脂粒子は、下記(I)又は(II)の製造方法により調製することができる。
(I)ポリオレフィン系樹脂を親水基を有するウレタンプレポリマーにより水に乳化させ、次いで、鎖伸長剤としてのアミン又はその水溶液を添加してウレタンプレポリマーを鎖伸長(高分子量化)する方法。
(II)親水基を有するウレタンプレポリマーを水に乳化し、更に鎖伸長剤としてのアミン又はその水溶液を添加してウレタンプレポリマーを鎖伸長させてポリウレタン系樹脂の水分散体を調製し、次いで、ポリオレフィン系樹脂をポリウレタン系樹脂の水分散体で乳化する方法。
まず、上記(I)の製造方法に係る実施形態について説明する。
この方法では、まず、ポリオレフィン系樹脂を溶剤に溶解して得られた樹脂溶液と、親水基を有するウレタンプレポリマーの溶液とを混合し、混合物に水を添加して撹拌することにより乳化させる。
上記溶剤としては、ヘキサン、イソヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、ベンゼンなどの有機溶剤、及び、超臨界状態にある二酸化炭素などの水以外の溶剤が挙げられる。
これらは、いずれか単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
また、乳化方法は、公知の強制乳化法、転相乳化法、D相乳化法、ゲル乳化法等のいずれの方法でも構わず、使用機器は、例えば、撹拌羽、ディスパー、ホモジナイザー等による単独撹拌、及びこれらを組み合わせた複合撹拌、サンドミル、多軸押出機の使用が可能である。また、該乳化に際して、ウレタンプレポリマーとともに、上記界面活性剤を混合してもよい。
次いで、上記乳化液を水で希釈した後に、鎖伸長剤としてのアミンを添加して、ウレタンプレポリマーの残存イソシアネート基を該鎖伸長剤により架橋させ、ポリウレタン系樹脂を高分子量化する。その後、有機溶剤を留去することで、ポリウレタン系樹脂の内部にポリオレフィン系樹脂を含有する複合樹脂粒子分散体(すなわち、水不溶性樹脂粒子が分散された分散体)が得られる。
このようにして得られる複合樹脂粒子分散体において、上記ポリオレフィン系樹脂が変性ポリオレフィンである場合、塩基性物質を加えることによりポリマー中に導入された酸成分を中和してもよい。中和により同部分を電離させることで、ポリマー分子が伸長されて系全体が粘度上昇を起こすため、複合樹脂粒子分散体はより安定性を増すことができる。また、この場合、塩基性物質の添加量によって所望のpHに調整することができる。
使用される塩基性物質としては、ポリオレフィン系樹脂中の酸部分を中和できるものであれば特に限定されず、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミン-2-メチル-1-プロパノール、モルホリン等の有機の塩基物質、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム等の無機の塩基性物質を挙げることができる。これらの塩基性物質を用いる際、1種類でもよいが2種類以上の塩基性物質を併用すると、本発明の目的がより効果的に達成される場合が多い。なお、塩基性物質としてアミンを用いる場合、ウレタンプレポリマーを鎖伸張させる前に添加するものとしては、遊離イソシアネートと反応しないように3級アミンが用いられる。一方、鎖伸張後に変性ポリオレフィンを中和する場合、1級、2級、3級アミンのいずれも用いることができる。
中和するのに用いられる塩基性物質の量は、変性ポリオレフィンの変性度合いによっても異なるが、変性ポリオレフィン100質量部に対して0.1~10質量部の範囲内であることが好ましい。塩基性物質の量が0.1質量部以上では、pHが中性になり、そのため複合樹脂粒子分散体の保存性が向上する。一方、塩基性物質の量が10質量部以下では複合樹脂粒子分散体の保存安定性が良好であり、塩基性が強くなく親水性物質が多量に塗膜中に導入されないため、同塗膜の耐水性が向上する。
次に、上記(II)の製造方法に係る実施形態について説明する。
この方法では、まず、親水基を有するウレタンプレポリマーの溶液に水を添加して乳化させ、次いで、得られた乳化液に、鎖伸長剤としてのアミンを添加して、ウレタンプレポリマーの残存イソシアネート基を該鎖伸長剤により架橋させ、高分子量化したポリウレタン系樹脂の水分散体を調製する。
その後、ポリオレフィン系樹脂を溶剤に溶解して得られた樹脂溶液と、上記で得られた親水基を有するポリウレタン系樹脂の水分散体とを混合して、該親水基を有するポリウレタン系樹脂によりポリオレフィン系樹脂を乳化させ、次いで、水で希釈した後に、有機溶剤を留去することで、ポリウレタン系樹脂の内部にポリオレフィン系樹脂を含有する複合樹脂粒子分散体(すなわち、水不溶性樹脂粒子が分散された分散体)が得られる。
方法(II)における溶剤及び乳化方法は、方法(I)と同様である。また、方法(II)においても、ポリオレフィン系樹脂の乳化に際し、上記ポリウレタン系樹脂とともに、界面活性剤を混合してもよい。さらに、得られた複合樹脂粒子分散体において、塩基性物質により変性ポリオレフィンを中和してもよいのも、上記方法(I)と同様である。
複合樹脂粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、10~500nmの範囲内であることが好ましく、10~300nmの範囲内であることがより好ましく、10~200nmの範囲内であることが更に好ましい。
平均粒子径の測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、かつ該粒子径領域を精度よく測定できる。
(凝集剤)
本発明に係る前処理液には、顔料を含有するインクジェットインクと接触したときに、凝集物を生じさせる材料、すなわち凝集剤を含有することで、インクジェットインクとの相互作用が大きくなり、水溶性インクのドットをより固定化することができる。
凝集剤は、カチオン性樹脂、金属キレート剤、多価金属塩及び有機酸のいずれかを含有することが好ましく、多価金属塩及び有機酸のいずれかを含有することがより好ましい。
上記カチオン性樹脂及び多価金属塩は、塩析によって上記インクジェットインク中のアニオン性の成分(通常は色材、又は顔料等)を凝集させることができる。上記有機酸は、pH変動によって上記インクジェットインク中のアニオン性の成分を凝集させることができる。
上記カチオン性樹脂の例には、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン及びポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドなどが含まれる。
上記金属キレート剤の例には、アルミニウム、亜鉛、カドミウム、ニッケル、コバルト、銅、カルシウム、バリウム、チタン、マンガン、鉄、鉛、ジルコニウム、クロム、スズ等の金属に窒素含有基を有するアセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸エチル、サリチル酸メチル等が配位した金属キレート化合物などが含まれる。
上記多価金属塩の例には、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩及び亜鉛塩などの水溶性の塩が含まれる。
前処理液が含有する有機酸は、インクジェットインク中に含まれうる顔料を凝集し得るものであり、第一解離定数が3.5以下であることが好ましく、1.5~3.5の範囲内が好ましい。当該範囲内であると印字率が低い低濃度部における液寄りが更に防止され、印字率が高い高濃度部におけるビーディングが更に改善される。
有機酸は、塩基により完全には中和されていないものを用いることが好ましい。塩基による中和とは、これらの酸の酸性基と、正に帯電した他の元素又は化合物(例えば、金属などの無機化合物)と、がイオン結合していることを意味する。また、完全には中和されていないとは、有機酸が有する酸性基のうち、上記イオン結合を形成していない酸性基が存在することを意味する。イオン結合を形成していない酸性基を有する有機酸を用いることで、前処理液に含むポリウレタン構造を有する複合樹脂粒子との相溶性が高く、透明な前処理層を形成することができることから、多価金属塩などを用いる場合よりも、形成された画像の色調が鮮やかになると考えられる。また、有機酸を用いることで前処理液の保存安定性を維持しやすく、前処理液を塗布、乾燥した後にブロッキングが起きにくい。上記観点から好ましい有機酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、シュウ酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、2-ピロリドン-5-カルボン酸、乳酸、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、又は、アクリルアミド及びその誘導体などを含むカルボキシ基を有する化合物、スルホン酸誘導体、又は、リン酸及びその誘導体などが含まれる。
前処理液における有機酸の含有量は、前処理液のpHを前記有機酸の第一解離定数未満に調整する量であればよい。処理液のpHが前記有機酸の第一解離定数未満となる量の有機酸を前処理液に含有させることにより、高速プリント時の滲みを効果的に抑制できる。
本発明に係る前処理液に含まれるポリウレタン構造を有する複合樹脂粒子により、インクジェット記録画像の滲み抑制と密着性を両立することが可能である。この理由について明確ではないが次のように推測している。
本発明において、前処理液により形成された前処理層上にインクジェットインクをプリントすることにより、前処理層からインクジェットインクに有機酸が溶解・拡散して顔料を凝集、固定化することで滲みや密着不良が抑制されるものと考えている。したがって、特にプリント速度が高速なほど、有機酸のインクジェットインク中への溶解・拡散速度を高めることが好ましい。有機酸の溶解・拡散速度を高めるためには、前処理層の樹脂がインクジェットインクにより膨潤又は溶解するとよい。一方で、膨潤性又は溶解性が高すぎると均一な皮膜が形成できず密着性が得られないと推定している。ポリウレタン構造を有する複合樹脂粒子は、その構造中に有するポリオール成分が、インクジェットインク中に含まれる有機溶剤により適度に膨潤して有機酸の拡散を促進し、イソシアネート成分のハードセグメントにより均一な皮膜状態を維持できることで密着性も確保できるものと考えている。また、前記ポリオール成分はポリカーボネート構造又はポリエーテル構造を有することが、前処理液の保存安定性において特に好ましい。
凝集剤は、前記前処理液中に0.1~20質量%の範囲内で存在することが、インクジェットインク中のアニオン性の成分を効果的に凝集させることができる点で好ましい。
水溶性中の凝集剤の含有量は、公知の方法で測定することができる。例えば、凝集剤が多価金属塩であるときはICP発光分析で、凝集剤が酸であるときは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で含有量を測定することができる。
なお、有機酸を用いる場合、有機酸の付量は、インクジェットインクに含まれるアニオン成分の中和当量以下に前処理液のpHを調整する量であることが好ましい。また、上記アニオン成分がカルボキシ基を有する化合物である場合、画像の滲みをより生じにくくする観点からは、上記有機酸の第一解離定数は3.5以下であることが好ましい。
本発明の前処理液の付量は、特に限定されず、適宜調整することができる。例えば、上記凝集剤が多価金属塩である場合は、多価金属塩の付量が0.1~20g/m2の範囲内とすることが好ましい。また、上記凝集剤が有機酸である場合は、有機酸の付量が水溶性インク中のアニオン成分の中和当量以下とすることが好ましい。
(水、その他の添加剤)
本発明に係る前処理液に含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。
また、本発明に係る前処理液の溶媒として、水の他に有機溶媒を含有することができる。溶媒は後段の前処理液の乾燥時除去することができる。
前処理液は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他、界面活性剤、架橋剤、防黴剤、殺菌剤等、他の成分を適宜配合することができる。
前処理液には、各種の添加剤を添加することができる。中でもカチオン媒染剤は、印字後の耐水性や耐湿性を改良するために好ましい。
カチオン媒染剤としては、第1~3級アミノ基及び第4級アンモニウム塩基を有するポリマー媒染剤が好ましく用いられるが、経時での変色や耐光性の劣化が少ないこと、染料の媒染能が充分高いこと等から、第4級アンモニウム塩基を有するポリマー媒染剤が好ましい。好ましいポリマー媒染剤は、上記第4級アンモニウム塩基を有するモノマーの単独重合体やその他のモノマーとの共重合体又は縮重合体として得られる。カチオン媒染剤の具体例は、例えば、「インクジェットプリンター技術と材料」268頁(シーエムシー社)に記載されている。
さらに、例えば特開昭57-74193号公報、同57-87988号公報及び同62-261476号公報に記載の紫外線吸収剤、特開昭57-74192号公報、同57-87989号公報、同60-72785号公報、同61-146591号公報、特開平1-95091号公報及び同3-13376号公報等に記載の退色防止剤、アニオン、カチオン又は非イオンの各種界面活性剤、特開昭59-42993号公報、同59-52689号公報、同62-280069号公報、同61-242871号公報及び特開平4-219266号公報等に記載の蛍光増白剤、消泡剤、ジエチレングリコール等の潤滑剤、防腐剤、増粘剤、帯電防止剤等、公知の各種添加剤を含有させることもできる。
本発明に係る前処理液を塗工液として基材上に直接塗布・乾燥することにより前処理層を作製することが好ましい。ここで前処理液に好ましく用いられる添加剤は十分に分散してから、塗工液として用いることが好ましい。
前処理液の塗布方式としては、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布方法又は米国特許2681294号記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法が好ましく用いられる。
(基材)
本発明に用いることができる基材は、非吸収性基材であることが好ましい。本発明では、吸収性とは、水に対する吸収性を表す。
非吸水性基材の例としては、公知のプラスチックのフィルムが使用できる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ナイロン等のポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリ乳酸フィルム等の生分解性フィルム等が挙げられる。また、ガスバリアー性、防湿性、保香性などを付与するために、フィルムの片面又は両面にポリ塩化ビニリデンをコートしたものや、金属酸化物を蒸着したフィルムも好ましく用いることができる。非吸水性フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでも好ましく用いることができる。これらの中では、ポリプロピレンフィルムと耐熱性の観点から、ポリエステルフィルムが、好ましくポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。
本発明においては、基材は、厚さが、好ましくは10~120μm、より好ましくは12~60μmの範囲内である。
基材は、その表面に濡れ性やガス透過性を制御するため、表面加工されていても良い。
〔インクジェットインク〕
本発明のインクジェット記録液セットに係るインクジェットインク(単に「インク」ともいう)は、少なくとも顔料、顔料分散剤、水溶性有機溶媒及び水不溶性樹脂を含有する。
(水不溶性樹脂)
本発明に係るインクジェットインクは、水不溶性樹脂を含有し、当該水不溶性樹脂が、ポリエステル骨格、ポリオレフィン骨格又はポリウレタン骨格のいずれかを含む水不溶性樹脂である。当該水不溶性樹脂が、ポリオレフィン骨格又はポリウレタン骨格を有する水不溶性樹脂であることが好ましい。
本発明に係る水不溶性樹脂として、好ましくは、ポリウレタン骨格を含む水不溶性樹脂である。
水不溶性樹脂の数平均分子量としては、3000~500000の範囲内のものを用いることができ、好ましくは、7000~200000の範囲内のものを用いることができる。
(ポリエステル樹脂)
水不溶性樹脂に含有されるポリエステル骨格を有するポリエステル樹脂は、多価アルコール成分と多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸エステル等の多価カルボン酸成分とを用いて得ることができる。
前記多価アルコール成分としては、2価のアルコール(ジオール)、具体的には炭素数2~36の範囲内のアルキレングリコール(エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール等)、炭素数4~36の範囲内のアルキレンエーテルグリコール(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等)、炭素数6~36の範囲内の脂環式ジオール(1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等)、前記脂環式ジオールの炭素数2~4の範囲内のアルキレンオキシド(エチレンオキシド(以下、EOと略記する。)、プロピレンオキシド(以下、POと略記する。)、ブチレンオキシド(以下、BOと略記する。))付加物(付加モル数1~30の範囲内)又はビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等)の炭素数2~4の範囲内のアルキレンオキシド(EO、PO、BO等)付加物(付加モル数2~30の範囲内)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記多価カルボン酸成分としては、2価のカルボン酸(ジカルボン酸)、具体的には炭素数4~36の範囲内のアルカンジカルボン酸(コハク酸、アピジン酸、セバシン酸等)、アルケニルコハク酸(ドデセニルコハク酸等)、炭素数4~36の範囲内の脂環式ジカルボン酸(ダイマー酸(2量化リノール酸)等)、炭素数4~36の範囲内のアルケンジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸等)、又は炭素数8~36の範囲内の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸又はこれらの誘導体、ナフタレンジカルボン酸等)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ポリエステル樹脂の数平均分子量としては、1000~50000の範囲内が好ましく、2000~20000の範囲内がより好ましい。
前記ポリエステル樹脂としては、市販品を使用してもよく、前記市販品としては、例えば、商品名:エリーテルKA-5034(ユニチカ社製、数平均分子量:8500)、エリーテルKA-5071S(ユニチカ社製、数平均分子量:8500)、エリーテルKA-1449(ユニチカ社製、数平均分子量:7000)、エリーテルKA-0134(ユニチカ社製、数平均分子量:8500)、エリーテルKA-3556(ユニチカ社製、数平均分子量:8000)、エリーテルKA-6137(ユニチカ社製、数平均分子量:5000)、エリーテルKZA-6034(ユニチカ社製、数平均分子量:6500)、エリーテルKT-8803(ユニチカ社製、数平均分子量:15000)、エリーテルKT-8701(ユニチカ社製、数平均分子量:13000)、エリーテルKT-9204(ユニチカ社製、数平均分子量:17000)、エリーテルKT-8904(ユニチカ社製、数平均分子量:17000)、エリーテルKT-0507(ユニチカ社製、数平均分子量:17000)、エリーテルKT-9511(ユニチカ社製、数平均分子量:17000)、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(ポリオレフィン樹脂)
水不溶性樹脂に含有されるポリオレフィン骨格を有するポリオレフィン樹脂としては、不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物で変性されたポリオレフィン等の変性ポリオレフィンでもよい。
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体の他、エチレン及び/又はプロピレンと、他のコモノマー、例えば1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンなどの炭素数2以上、好ましくは2~6のα-オレフィンコモノマーとのランダム共重合体又はブロック共重合体(例えば、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体など)が挙げられる。また、これらの他のコモノマーを2種類以上共重合したものでもよい。また、これらのポリマーを2種以上混合して用いることもできる。
変性ポリオレフィンとしては、不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物及び/又は1分子当り1個以上の二重結合を有する化合物で変性されたポリオレフィンが好ましく用いられる。
不飽和カルボン酸及び酸無水物としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸などの、α,β-不飽和カルボン酸及びその無水物が挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用してもよく、また2種以上併用してもよく、2種以上併用した場合、塗膜物性が良好になることが多い。
上記1分子当り1個以上の二重結合を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸系モノマーとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸、ジ(メタ)アクリル酸(ジ)エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、ジ(メタ)アクリル酸グリセリン、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリルアミド等が挙げられる。また、スチレン系モノマーとして、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。さらに、この他に併用し得るモノマーとしては、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、バーサチック酸のビニルエステル等のビニル系モノマーが挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸を示す。
ポリオレフィンの変性は、ポリオレフィンを一旦トルエン又はキシレンのような有機溶媒に溶解せしめ、ラジカル発生剤の存在下にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は1分子当り1個以上の二重結合を有する化合物で行うか、又は、ポリオレフィンの軟化温度又は融点以上まで昇温できる溶融状態で反応させうるオートクレーブ、又は1軸又は2軸以上の多軸エクストルーダー中で、ラジカル発生剤の存在下又は不存在下にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物及び/又は1分子当り1個以上の二重結合を有する化合物を用いて行う。
該変性反応に用いられるラジカル発生剤としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシエチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイドのようなパーオキサイド類や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類が挙げられる。これらの過酸化物を使用してグラフト共重合せしめる場合、その過酸化物量はポリオレフィンに対して0.1~50質量部の範囲内が望ましく、特に好ましくは0.5~30質量部の範囲内である。
以上のポリオレフィン樹脂は、公知の方法で製造されたものでよく、それぞれの製造方法や変性度合については特に限定されない。
本発明に用いられるポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量が20000~100000の範囲内であることが好ましい。20000以上であると、塗膜の凝集力が強くなり、密着性や耐溶剤性(耐ガソホール性)のような塗膜物性が向上する。100000以下であると、有機溶媒に対する溶解性が良く、乳化分散体の粒子径の微小化が促進される。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値であり、例えば、株式会社島津製作所製「RID-6A」(カラム:東ソー株式会社製「TSK-GEL」、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めることができる。
また、本発明では市販のポリオレフィン樹脂を用いることもでき、ポリオレフィン骨格を有する樹脂からなる樹脂微粒子として、日本製紙社製「アウローレン150A」(ポリオレフィン樹脂微粒子)、日本製紙社製「スーパークロンE-415」(ポリプロピレン樹脂微粒子)、日本製紙社製「アウローレンAE-301」(ポリオレフィン樹脂微粒子)、東洋化成社製「ハードレンNa-1001」等の市販品を用いることができる。
(ポリウレタン樹脂)
水不溶性樹脂に含有されるポリウレタン骨格を有するポリウレタン樹脂としては、親水基を有するものが用いられる。
かかる親水基としては、カルボキシ基(-COOH)及びその塩、スルホン酸基(-SO3H)及びその塩などが挙げられる。上記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アミン塩などが挙げられる。これらの中でも、親水基としては、カルボキシ基又はその塩が好ましい。
本発明に係る水不溶性樹脂に含有されるポリウレタン樹脂は、分子内に水溶性官能基を有する自己乳化型ポリウレタンを分散させた水分散体、又は界面活性剤を併用して強力な機械剪断力の下で乳化した強制乳化型ポリウレタンの水分散体であることが好ましい。上記水分散体におけるポリウレタン樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネート及び親水基含有化合物との反応により得られるものである。
ポリウレタン樹脂水分散体の調製に使用し得るポリオールとして、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオールのいずれも使用することができる。中でも、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールを用いて、ウレタン系樹脂中に、カーボネート基又はエーテル基を有する構造とすることが好ましい。
ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の低分子ポリオールと、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフラン酸、エンドメチンテトラヒドロフラン酸、ヘキサヒドロフタル酸などの多価カルボン酸との縮合物を挙げることができる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンポリテトレメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールのような各種のポリエーテルポリオールを挙げることができる。
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート又はホスゲン等の炭酸誘導体と、ジオールとの反応により得ることができる。そのようなジオールの適当な例として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-及び1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-及び1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノールを挙げることができる。これらのうちで、1,6-ヘキサンジオールを用いたポリカーボネートポリオールが、耐候性及び耐溶剤性の観点から好ましい。
次に有機ポリイソシアネート化合物としては、ウレタン工業の分野において公知のものを使用することができ、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)などの脂肪族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI、H12MDI)などの脂環族イソシアネートなどを挙げることができ、これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、脂肪族イソシアネート及び/又は脂環族イソシアネートを用いることが好ましい。また、無黄変性を要求される場合には、脂肪族イソシアネートではHMDI、脂環族イソシアネートではIPDI、H12MDI、芳香族イソシアネートではXDI、TMXDIを使用することが好ましい。
親水基含有化合物としては、分子内に1個以上の活性水素原子と上記親水基とを有する化合物が挙げられる。例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、グリシンなどのカルボン酸含有化合物、及び、そのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体;タウリン(即ち、アミノエチルスルホン酸)、エトキシポリエチレングリコールスルホン酸などのスルホン酸含有化合物、及び、そのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体などを挙げることができる。
本発明に係るポリウレタン樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネート及び親水基含有化合物とを混合し、公知の方法により、30~130℃で30分~50時間反応させることにより、まずウレタンプレポリマーが得られる。
得られたウレタンプレポリマーは、鎖伸長剤により伸長してポリマー化することで、親水基を有するポリウレタン系樹脂が得られる。鎖伸長剤としては、水及び/又はアミン化合物が好ましく用いられる。鎖伸張剤として水やアミン化合物を用いることにより、遊離イソシアネートと短時間で反応して、イソシアネート末端プレポリマーを効率よく伸長させることができる。
鎖伸長剤としてのアミン化合物としては、ポリアミン、例えば、エチレンジアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、メタキシレンジアミン、トルイレンジアミンなどの芳香族ポリアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジドのようなポリヒドラジノ化合物などが用いられる。アミン化合物には、上記ポリアミンとともに、ポリマー化を大きく阻害しない程度で、ジブチルアミンなどの1価のアミンやメチルエチルケトオキシム等を反応停止剤として含んでいてもよい。
なお、ウレタンプレポリマーの合成においては、イソシアネートと不活性で、かつ、ウレタンプレポリマーを溶解しうる溶剤を用いてもよい。これらの溶剤として、ジオキサン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。反応段階で使用されるこれらの親水性有機溶媒は、最終的に除去されるのが好ましい。
また、ウレタンプレポリマーの合成においては、反応を促進させるために、アミン触媒(例えば、トリエチルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチルジアミン等)、スズ系触媒(例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、オクチル酸スズ等)、チタン系触媒(例えば、テトラブチルチタネート等)などの触媒を添加してもよい。
ポリウレタン樹脂の分子量は、分岐構造や内部架橋構造を導入して可能な限り大きくすることが好ましく、分子量50000~10000000の範囲内であることが好ましい。分子量を大きくして溶剤に不溶とした方が、耐候性、耐水性に優れた塗膜が得られるからである。
また、本発明では市販のポリウレタン樹脂を用いることもでき、例えば、カチオン性又はノニオン性のポリウレタン樹脂微粒子を好ましく用いることができる。
以下に、カチオン性又はノニオン性のポリウレタン樹脂微粒子の具体例を挙げる。カチオン性のポリウレタン樹脂微粒子としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス620」及び「スーパーフレックス650」(「スーパーフレックス」は同社の登録商標)、三洋化成工業株式会社製の「パーマリンUC-20」(「パーマリン」は同社の登録商標)、大原パラヂウム化学株式会社製の「パラサーフUP-22」などを挙げることができる。ノニオン性のポリウレタン樹脂微粒子としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス500M」及び「スーパーフレックスE-2000」などを挙げることができる。
(顔料)
インクジェットインクに含有される顔料としては、アニオン性の分散顔料、例えば、アニオン性の自己分散性顔料や、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散したものを用いることができ、特に、アニオン性の高分子分散剤により顔料を分散したものが好適である。
顔料としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、不溶性顔料、レーキ顔料等の有機顔料及び、酸化チタン等の無機顔料を好ましく用いることができる。
なお、インク吐出安定性と密着性の確保が一般に困難な酸化チタンにおいて、本発明により特に好適に滲みを生じにくくし、かつ、密着性を高めることができる。
酸化チタンには、アナターゼ型、ルチル型及びブルーカイト型の三つの結晶形態があるが、汎用なものとしてはアナターゼ型とルチル型に大別できる。特に限定するものではないが、屈折率が大きく隠蔽性が高いルチル型が好ましい。具体的には、富士チタン工業株式会社のTRシリーズ、テイカ株式会社のJRシリーズや石原産業株式会社のタイペークなどが挙げられる。
不溶性顔料としては、特に限定するものではないが、例えば、アゾ、アゾメチン、メチン、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、キナクリドン、アントラキノン、ペリレン、インジゴ、キノフタロン、イソインドリノン、イソインドリン、アジン、オキサジン、チアジン、ジオキサジン、チアゾール、フタロシアニン、ジケトピロロピロール等が好ましい。
好ましく用いることのできる具体的な有機顔料としては、以下の顔料が挙げられる。
マゼンタ又はレッド用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド202、C.I.ピグメントレッド222、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
オレンジ又はイエロー用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー15:3、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー155等が挙げられる。特に色調と耐光性のバランスにおいて、C.I.ピグメントイエロー155が好ましい。
グリーン又はシアン用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
また、ブラック用の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、C.I.ピグメントブラック6、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
(顔料分散剤)
顔料を分散させるために用いる顔料分散剤は、格別限定されないがアニオン性基を有する高分子分散剤が好ましく、分子量が5000以上、200000以下のものを好適に用いることができる。
高分子分散剤としては、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体に由来する構造を有するブロック共重合体、ランダム共重合体及びこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等を挙げることができる。
高分子分散剤は、アクリロイル基を有することが好ましく中和塩基で中和して添加することが好ましい。ここで中和塩基は特に限定されないが、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等の有機塩基であることが好ましい。特に、顔料が酸化チタンであるとき、酸化チタンは、アクリロイル基を有する高分子分散剤で分散されていることが好ましい。
また、高分子分散剤の添加量は、顔料に対して、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、10~40質量%の範囲内がより好ましい。
顔料は、顔料を上記高分子分散剤で被覆した、いわゆるカプセル顔料の形態を有することが特に好ましい。顔料を高分子分散剤で被覆する方法としては、公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、転相乳化法、酸析法、又は、顔料を重合性界面活性剤により分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法などを好ましく例示できる。
特に好ましい方法として、水不溶性樹脂を、メチルエチルケトンなどの有機溶剤に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的、若しくは完全に中和後、顔料及びイオン交換水を添加し、分散したのち、有機溶剤を除去し、必要に応じて加水して調製する方法を挙げることができる。
インクジェットインク中における顔料の分散状態の平均粒子径は、50nm以上、200nm未満であることが好ましい。これにより、顔料の分散安定性を向上でき、インクジェットインクの保存安定性を向上できる。顔料の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができるが、動的光散乱法による測定が簡便で、且つ該粒子径領域を精度よく測定できる。
顔料は、分散剤及びその他所望する諸目的に応じて必要な添加物とともに、分散機により分散して用いることができる。
分散機としては、従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等を使用できる。中でもサンドミルによって顔料を分散させると、粒度分布がシャープとなるため好ましい。また、サンドミル分散に使用するビーズの材質は、格別限定されないが、ビーズ破片の生成やイオン成分のコンタミネーションを防止する観点から、ジルコニア又はジルコンであることが好ましい。さらに、このビーズ径は、0.3~3mmの範囲内であることが好ましい。
インクジェットインクにおける顔料の含有量は格別限定されないが、酸化チタンについては、7~18質量%の範囲内が好ましく、有機顔料については0.5~7質量%の範囲内が好ましい範囲である。
(水溶性有機溶媒)
インクジェットインクに含有される水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール類、多価アルコール類、アミン類、アミド類、グリコールエーテル類、炭素数が4以上である1,2-アルカンジオール類など公知の水溶性有機溶媒を使用できる。水溶性有機溶媒は前処理液の乾燥時に除去することができる。
(水、その他の添加剤)
本発明に係るインクジェットインクに含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、又は純水であり得る。
本発明に係るインクジェットインクは、必要に応じて、界面活性剤、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤を含有することができる。
〔インクジェット記録方法〕
本発明のインクジェット記録方法は、上述したインクジェット記録液セットを使用することを特徴とする。このインクジェット記録液セットを用いる方法であれば、例えば、1台のインクジェットプリンターを用いて、非吸収性基材の表面に、前記本発明のインクジェット記録液セットを構成する前処理液の塗布と、インクによる印刷とを連続して効率よく行うことができる。そして基材間のドット径のばらつきの少ない、画質の優れた文字や図柄等を印刷することが可能となる。
例えばフルカラーの文字や図柄等を、インクジェットプリント法によって印刷する場合は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、及びブラック(K)の4色、又はさらにライトシアン(LC)、ライトマゼンタ(LM)を加えた6色のインク等と、前処理液とを含むインクセットを1台のインクジェットプリンターのインクの供給部(インクカートリッジ等)に充填する。
そして、まず前処理液を充填した供給部から、ヘッドのノズルを通して、前記前処理液を、前記ポリオレフィン系プラスチック等の非吸収性基材の表面の、インクによって任意の文字や図柄等を印刷する領域、又は前記表面の略全面に塗布して前処理液層を形成する。
次いで、前記前処理液層を必要に応じて乾燥させたのち、その表面に、通常のインクジェットプリント法と同様に、前記各色のインクを、それぞれの供給部から、ヘッドのノズルを通して、形成画像に対応させて順次、断続的に吐出させることにより、任意の文字や図柄等を、前記非吸収性基材の表面に印刷することができる。
本発明において使用できるインクジェットヘッドはオンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また、吐出方式としては電気-機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気-熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等などいずれの吐出方式を用いてもかまわない。
記録媒体の搬送速度は、例えば1m/min以上120m/minの間で設定することができる。搬送速度が速いほど画像形成速度が速まる。本発明によれば、シングルパスのインクジェット画像形成方法で適用可能な、線速50m/min以上120m/min以下という非常に速い線速でも滲みの発生をより抑制し、かつ、密着性の高い画像を得ることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
〔実施例1〕
《ウレタンポリマー溶液の調製》
以下のようにして、ウレタンポリマー溶液を調製した。
〈ウレタンポリマー溶液U1の調製〉
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、ポリエステルポリオール(商品名テスラック 2461、日立化成(株)製)を182質量部と、ポリエチレングリコール(PEG、分子量600、商品名PEG600、第一工業製薬(株))を22.0質量部と、トリメチロールプロパンを5.6質量部と、N-メチル-N,N-ジエタノールアミンを43.8質量部と、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを204質量部と、メチルエチルケトン(MEK)216質量部を反応容器にとり(3級アミンの添加量9.6質量%、PEGの添加量4.8質量%)、75℃に保ちながら反応を行い、ウレタンプレポリマーを得た。
このウレタンプレポリマーにジメチル硫酸を46.4質量部添加し、60℃で60分間反応させて、NCO含有率が2.2%であり、不揮発分約50%であるカチオン性ウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
《複合樹脂粒子分散体の調製》
以下のようにして、複合樹脂粒子分散体A~Fを調製した。
〈複合樹脂粒子分散体Aの調製〉
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、ポリオレフィン系樹脂(商品名:アウローレン150S、日本製紙(株)製70.0質量部、メチルシクロヘキサン240.0質量部及びメチルエチルケトン48.0質量部を投入し、80℃に昇温して加熱溶解させた。溶解後、内温を40℃に保ち、ウレタンプレポリマー溶液(不揮発分約50%)60質量部を添加し、混合した。この溶液に58.0質量部の水を加え、ホモジナイザーを使用して乳化した後、260質量部の水を徐々に加え希釈し、これにエチレンジアミン1.0質量部と水12質量部とを混合した水溶液を徐々に添加し、1時間撹拌してポリマー化を行った。これを50℃減圧下、脱溶剤を行い、不揮発分(粒子としての固形分)約30質量%の複合樹脂粒子分散体Aを得た。
〈複合樹脂粒子分散体B~Fの調製〉
複合樹脂粒子分散体Aの調製において、上記ウレタンプレポリマー溶液(U)及びポリオレフィン系樹脂(O)の固形分の質量比の値(U/O)を表Iに記載のとおりに変更した以外は同様にして、不揮発分(粒子としての固形分)約30質量%の複合樹脂粒子分散体B~Fを調製した。
《前処理液の調製》
〈前処理液1の調製〉
下記に示す各添加剤を撹拌しながら順次添加した後、5.0μmのフィルターにより濾過して前処理液1を得た。なお、濾過前後で、実質的な組成変化はなかった。
複合樹脂粒子分散体A:ウレタンポリマー溶液とポリオレフィン系樹脂溶液としてアウローレン150Sを用いて、ポリウレタン系樹脂(U)、ポリオレフィン系樹脂(O)の質量比率(U/O)=30/70、固形分30質量%で乳化分散させた複合樹脂粒子分散体) 20.0質量部
凝集剤:PAS-H-1L(カチオンポリマー、ニットーボーメディカル(株))
4.0質量部
イオン交換水(残部:全量が100.0質量部となる量) 76.0質量部
なお、実施例において、前処理液組成における樹脂及び凝集剤配合量(質量部)は、固形分換算した値である。
〈前処理液2~14の調製〉
前処理液1の調製において、複合樹脂粒子分散体の種類、凝集剤の種類と配合量(含有量)を表Iに記載のとおりに変更した以外は同様にして、前処理液2~14を調製した。
〈前処理液15の調製〉
前処理液1の調製において、複合樹脂粒子分散体Aの代わりに複合樹脂粒子分散体Aと同質量の固形分のビニブラン2687を用いた以外は同様にして、前処理液15を調製した。
以下に用いた材料の詳細を記す。
ビニブラン2687:アクリル系樹脂、固形分30%(日信化学工業(株)製)
PAS-H-1L:カチオン性のアリルアミン系樹脂(ニットーボーメディカル(株)製)
《インクジェットインク》
〔顔料分散体〕
(顔料分散体Aの調製)
高分子分散剤としてアクリロイル基を有する高分子分散剤(TEGO Dispers715W、酸価120、有効成分40質量%、Evonik Tego Chemie社製)31.5質量%、顔料としてピグメントブルー15:3を18質量%とエチレングリコール20質量%と、残部としてイオン交換水(残部;全量が100質量%となる量)を加えた混合液をプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、顔料の含有量が18質量%の顔料分散体Aを調製した。この顔料分散体Aに含まれる顔料粒子の平均粒子径は、128nmであった。なお、粒径測定はマルバーン社製ゼータサイザ1000HSにより行った。
〈インクジェットインク1の調製〉
上記調製した顔料分散体Aを撹拌しながら、顔料固形分が5.0質量部となるように下記に示す各添加剤を順次添加して、インク組成物を調製した後、0.8μmのフィルターにより濾過してインクジェットインク1を得た。濾過前後で実質的な組成変化はなかった。
顔料固形分 5.0質量部
プロピレングリコール 20.0質量部
エチレングリコール 10.0質量部
界面活性剤(オルフィンE1010 日信化学工業(株)製) 1.0質量部
イオン交換水(残部:全量が100.0質量部となる量) 64.0質量部
《インクジェットインク2~6の調製》
インクジェットインク1の調製において、水不溶性樹脂の種類と配合量(含有量)をそれぞれ表IIのように変えてインクジェットインクNo.2~6を調製した。
インクジェットインクの調製に用いた材料の詳細を以下に示す。
ビニブラン2687(アクリル系樹脂、固形分30%、日信化学工業(株)製)
エリーテルKT-0507(エステル系樹脂、固形分25%、ユニチカ(株)製)
アローベースSB-1200(オレフィン系樹脂、固形分25%、ユニチカ(株)製)
スーパークロンE-480T(オレフィン系樹脂、固形分30%、日本製紙(株)製)
WBR-016U(ウレタン系樹脂、固形分30%、大成ファインケミカル(株)製)
ビニブラン2684(アクリル系樹脂、固形分30%、日信化学工業(株)製)
《前処理層の形成》
基材として、PETとOPPの2種を用い、それぞれ上記調製した前処理液1~15をバーコーター#10を用いて塗布し、その後60℃で5分環乾燥させ、厚さ3.2μmの前処理層を各々の基材に有する記録媒体を作製した。
PET:厚さ50μmのポリエステルフィルム(フタムラ化学(株)製太閤ポリエステル50μm)
OPP:延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学(株)製OPP-AQ 60μm)
〔インクジェット記録液セットを用いた印画サンプルの作製〕
表IIIに記載のようにして、インクジェット記録液セット1~21(前処理液とインクジェットインク)を用いてPET及びOPPに下記条件でそれぞれの記録媒体上に印刷をした。
ドロップオンデマンドピエゾ方式のインクジェットヘッド(ノズル数636、ノズル間隔84.5μm)を搭載したステージ移動型インクジェットプリンターにより、前処理液が付与されたそれぞれの記録媒体上にインク液滴体積7.5pL、300dpiのヘッドを三つ使用して記録密度が900dpiとなる条件で、ベタ画像中のインクを吐出しないことにより形成される抜き文字(6ポイント文字)を、ステージの走査速度を線速50m/分、1走査により印刷した。同様にして、300dpiのヘッドを三つ使用して記録密度が900dpiとなる条件で、ベタ画像を、線速50m/分で1走査により印刷した。本明細書でいうdpiとは、2.54cmあたりのドット数を表す。なお、インク液滴体積は、インクごとに射出電圧を調整することにより制御した。また、インクジェット印刷時の環境は室温25℃で、記録媒体の温度も同様に25℃条件で行った。
《評価》
それぞれのインクジェット記録液セットを用いて上記2種の基材に印画した後の密着性、耐擦過性、画質及び耐水性ムラを評価した。
〔密着性〕
非吸収性基材であるPET又はOPPと前処理層との密着性を、クロスカット法により評価した。すなわち、上記形成したベタ画像について、1mm間隔で5×5の碁盤目状にカッターで切れ込みを入れて25のマス目を作製し、テープ剥離試験を行い、下記の基準で密着性を評価した。
○:テープによる剥がれなく良好
△:碁盤目状の切れ込み1マス以上6マス以下剥がれるが、実用状許容できるレベル
×:碁盤目状の切れ込み7マス以上が剥がれ実用上許容できないレベル
〔耐擦過性〕
上記ベタ部をコットン(旭化成株式会社製、BEMCOT M-3)で400gの荷重をかけて50回擦過し、下記基準により耐擦過性を判定した。
○:目視で傷が確認できない
△:目視で傷が確認できるが実用上問題ない
×:目視で傷が確認でき、一部若しくは全面に基材が露出し問題がある
〔画質〕
PET及びOPP上に得られたそれぞれのベタ画像と6ポイントの印字した文字を目視で観察し、ベタ画像の均一性及び文字の滲みを30cmの距離で観察し、以下の評価基準に従って評価した。
○:白筋なくベタ画像が埋まっている。6ポイントの文字が細部の潰れなく再現できている
△:ベタ画像に3~4本の白筋が見られる。又は6ポイントの文字が細部の潰れなく再現できている
×:ベタ画像に5本以上の白筋が見られる。又は6ポイントの文字の細部が潰れている
〔耐水性〕
上記形成した画像を40℃で3日保管したのち、ベタ部分が切断端面となるようにして10cm×1cmの短冊状に切断して試験片とした。試験片を熱水30分処理し、処理後の試験片の様子を目視で確認し、画像の耐水性を以下の基準で評価した。
◎:試験片に全く剥がれがない
○:試験片に一部剥がれが生じているが、大きな剥がれはない
△:試験片に大きな剥がれが生じている
×:試験片フィルムから画像部分が全て剥がれ落ちている
以上の結果を表IIIに示す。
表IIIより、本発明に係るインクジェット記録液セットを用いた場合は、密着性、耐擦過性、画質が良好で、かつ耐水性にも優れていることが分る。