本発明の繊維強化樹脂組成物は、ポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂から選択された少なくとも1種のエステル結合含有熱可塑性樹脂と、繊維状補強材と、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(フルオレン化合物)とを含んでいる。
[エステル結合含有熱可塑性樹脂]
(ポリエステル樹脂)
本発明で使用するポリエステル樹脂は、特に制限されず、慣用の方法、例えば、直接重合法、エステル交換法、開環重合法などにより調製された慣用のポリエステル樹脂が使用でき、例えば、芳香族骨格を有していないポリエステル樹脂[例えば、脂肪族ポリエステル樹脂(例えば、ポリ乳酸、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)などのポリ(ヒドロキシC1-7アルカン-カルボン酸;ポリ(ε-カプロラクトン)などのポリ(C3-8ラクトン);ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペートなどのポリC2-6アルキレンC4-8アルカノエートなど);少なくとも脂環族骨格(シクロアルカン骨格)を有する脂環族ポリエステル樹脂(例えば、シクロヘキサンジメタノールとアジピン酸との重合体などのC5-10シクロアルカン環を有するジオールとC2-6アルキレン-ジカルボン酸との重合体など)など]などであってもよいが、機械的特性などの観点から、少なくとも芳香族骨格を有する芳香族ポリエステル樹脂であるのが好ましい。なお、これらのポリエステル樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
芳香族ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリアルキレンアリレート系樹脂;ポリアリレート系樹脂[例えば、ビスフェノールAなどの後述するビ又はビスフェノール類と、ベンゼンジカルボン酸(テレフタル酸など)などの後述する芳香族ジカルボン酸との重合体など];液晶性ポリエステル樹脂(例えば、p-ヒドロキシ安息香酸とp,p’-ビフェノールとテレフタル酸との共重合体、p-ヒドロキシ安息香酸と2-カルボキシ-6-ヒドロキシナフタレンとの共重合体、p-ヒドロキシ安息香酸とテレフタル酸とエチレングリコールとの共重合体など)などが挙げられる。これらの芳香族ポリエステル樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの芳香族ポリエステル樹脂のうち、ポリアルキレンアリレート系樹脂が好ましい。
ポリアルキレンアリレート系樹脂は、アルカンジオール、シクロアルカンジオール及びビス(ヒドロキシアルキル)シクロアルカンから選択される少なくとも1種のジオール成分(第1のジオール成分)と、芳香族ジカルボン酸成分(第1のジカルボン酸成分)とを含む重合成分で形成されていればよい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「成分」とは、特に断りのない限り、樹脂を形成するための重合成分(単量体又はモノマー)を意味するだけでなく、重合成分に対応し、ポリエステル樹脂を形成する単位を意味する場合がある。
アルカンジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、テトラメチレングリコール(1,4-ブタンジオール)、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-12アルカンジオールなどが挙げられる。
シクロアルカンジオールとしては、例えば、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロオクタンジオールなどのC5-10シクロアルカンジオールなどが挙げられ、ビス(ヒドロキシアルキル)シクロアルカンとしては、例えば、シクロヘキサンジメタノールなどのビス(ヒドロキシC1-6アルキル)C5-10シクロアルカンなどが挙げられる。
これらの第1のジオール成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。好ましい第1のジオール成分としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルカンジオール、ビス(ヒドロキシC1-6アルキル)C5-10シクロアルカン(例えば、シクロヘキサンジメタノールなど)、さらに好ましくはエチレングリコール、テトラメチレングリコールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルカンジオールなどが挙げられる。
第1のジカルボン酸成分である芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、単環式芳香族ジカルボン酸[例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などのベンゼンジカルボン酸;アルキルベンゼンジカルボン酸(例えば、4-メチルイソフタル酸などのC1-4アルキル-ベンゼンジカルボン酸など)など];多環式芳香族ジカルボン酸{例えば、縮合多環式芳香族ジカルボン酸[例えば、ナフタレンジカルボン酸(例えば、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸など)、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸などの縮合多環式C10-24アレーン-ジカルボン酸、好ましくは縮合多環式C10-14アレーン-ジカルボン酸など];アリールアレーンジカルボン酸(例えば、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸などのC6-10アリール-C6-10アレーン-ジカルボン酸など);ジアリールアルカンジカルボン酸(例えば、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸などのジC6-10アリールC1-6アルカン-ジカルボン酸など);ジアリールケトンジカルボン酸[例えば、4.4’-ジフェニルケトンジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)ケトン-ジカルボン酸など]など}などが挙げられる。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「ジカルボン酸」は、ジカルボン酸だけでなく、対応するエステル形成性誘導体を含む意味に用いる。エステル形成性誘導体としては、例えば、低級アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステルなどのC1-4アルキルエステルなど)、酸ハライド(酸クロリドなど)、酸無水物などが挙げられる。
これらの芳香族ジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの芳香族ジカルボン酸成分のうち、単環式芳香族ジカルボン酸、縮合多環式芳香族ジカルボン酸が好ましく、なかでも、テレフタル酸などのベンゼンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの縮合多環式C10-14アレーン-ジカルボン酸(特に、テレフタル酸などのベンゼンジカルボン酸)が好ましい。
また、ポリアルキレンアリレート系樹脂は、単一の第1のジオール成分及び単一の第1のジカルボン酸成分の組み合わせで形成されるホモポリエステルであってもよく、ホモポリエステルを形成する成分に加え、さらに、1又は複数の共重合成分を含むコポリエステルであってもよい。共重合成分は、前記第1のジオール成分及び第1のジカルボン酸成分から選択される少なくとも1種の成分であってもよく、他の共重合成分であってもよい。他の共重合成分は、例えば、第2のジオール成分、第2のジカルボン酸成分、ラクトン成分、ヒドロキシカルボン酸成分などに大別できる。
第2のジオール成分としては、例えば、ジ又はポリアルキレングリコール(ジ又はポリアルカンジオール)[例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリC2-6アルカンジオール(好ましくはジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのジ乃至テトラC2-4アルカンジオールなど)など];後述の芳香族ジオールの水添物(例えば、ビスフェノールAの水添物など);芳香族ジオール{ジヒドロキシアレーン(例えば、ヒドロキノン、レゾルシノールなどのジヒドロキシC6-10アレーンなど);芳香脂肪族ジオール[例えば、ベンゼンジメタノールなどのビス(ヒドロキシC1-6アルキル)C6-10アレーンなど];ビスフェノール類[例えば、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの慣用のビスフェノール類;後述する式(1A)で表される9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物において、各pが1、各nが0である化合物[例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC6-10アリール)フルオレン、9,9-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C1-4アルキル-ヒドロキシC6-10アリール)フルオレン、9,9-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-10アリール-ヒドロキシC6-10アリール)フルオレンなど]など];ビフェノール類[例えば、p,p’-ビフェノールなどのジヒドロキシ-ビC6-10アレーンなど];及びこれらのジオールのC2-4アルキレンオキシド(又はアルキレンカーボネート、ハロアルカノール)付加体[例えば、ビスフェノールAなどのビスフェノール類のヒドロキシル基1モルに対して、1~10モル程度(好ましくは1~5モル(例えば、1モル)程度)のエチレンオキシドが付加した付加体など]など}などが挙げられる。
第2のジカルボン酸成分としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸[例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、1,10-デカンジカルボン酸などの直鎖状又は分岐鎖状C2-18アルカン-ジカルボン酸(好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C4-12アルカン-ジカルボン酸など)などの飽和脂肪族ジカルボン酸など];脂環族ジカルボン酸[例えば、シクロアルカンジカルボン酸(例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などのC5-10シクロアルカン-ジカルボン酸など);架橋環式シクロアルカンジカルボン酸(例えば、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸などのジ又はトリシクロアルカンジカルボン酸など)など]などが挙げられる。
ラクトン成分としては、例えば、β-プロピオラクトン、α,α-ジメチル-β-プロピオラクトン(ピバロラクトン)、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどの置換基(例えば、メチル基などのC1-4アルキル基など)を有していてもよい4~7員環程度のラクトンなどが挙げられる。
ヒドロキシカルボン酸成分としては、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸[例えば、乳酸、3-ヒドロキシ酪酸などのヒドロキシC1-11アルカン-カルボン酸(好ましくはヒドロキシC2-6アルカン-カルボン酸など)など];脂環族ヒドロキシカルボン酸[例えば、ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸などのヒドロキシC5-10シクロアルカンカルボン酸など];芳香族ヒドロキシカルボン酸[例えば、p-ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシC6-10アレーン-カルボン酸など];及びこれらのヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体などが例示できる。
これらの共重合成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。コポリエステル中の共重合成分(の総量)の割合は、ホモポリエステルを形成する単位を主要な単位とする限り、特に制限されず、構成単位全体に対して、例えば、70モル%以下(例えば、0.1~50モル%程度)、好ましくは、30モル%以下(例えば、1~10モル%程度)であってもよい。
代表的なポリアルキレンアリレート系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリC2-10アルキレンC8-16アリレート(好ましくはポリC2-4アルキレンC8-12アリレートなど);ポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリC5-10シクロアルカン-ジC1-4アルキレンC8-16アリレート(好ましくはポリC5-8シクロアルカン-ジC1-2アルキレンC8-12アリレートなど)などが挙げられる。
これらのポリアルキレンアリレート系樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。好ましいポリアルキレンアリレート系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリC2-6アルキレンC8-16アリレートなどが挙げられ、ポリブチレンテレフタレートなどのポリC3-5アルキレンC8-12アリレートなどが特に好ましい。
これらのポリエステル樹脂は、ポリアルキレンアリレート系樹脂のように結晶性であってもよく、ポリアリレート系樹脂のように非晶性であってもよく、透明ポリエステル樹脂(非晶性透明ポリエステル樹脂)であってもよい。また、前述の共重合成分により、ポリエステル樹脂の結晶性を調整することもでき、例えば、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオールなどの非対称脂肪族ジオール成分;フタル酸、イソフタル酸などの非対称芳香族ジカルボン酸成分などを用いて結晶性を調整してもよい。
ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは、ポリスチレン換算で、例えば、3000~1000000程度の範囲から選択でき、例えば、5000~800000、好ましくは8000~600000、さらに好ましくは10000~500000(例えば、30000~300000)程度であってもよい。分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)などの慣用の方法を利用して測定できる。
(ポリカーボネート樹脂)
ポリカーボネート樹脂は、前述のポリエステル樹脂の項に記載のジオール成分などを重合成分として、慣用の方法[例えば、ホスゲンと縮合させるホスゲン法や、炭酸ジエステル(炭酸ジフェニルなど)と縮合させるエステル交換法など]により調製されていればよく、特に制限されない。代表的なポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族骨格を有していない脂環族ポリカーボネート樹脂(例えば、脂環族骨格(シクロアルカン骨格)を有する脂環族ポリカーボネート樹脂など)であってもよいが、機械的特性の観点から、少なくとも芳香族骨格を有する芳香族ポリカーボネート樹脂であるのが好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂は、少なくとも芳香族ジオール成分を含む重合成分で形成されている。芳香族ジオール成分としては、例えば、ジヒドロキシアレーン(例えば、ヒドロキノン、レゾルシノールなどのジヒドロキシC6-10アレーンなど);芳香脂肪族ジオール[例えば、ベンゼンジメタノールなどのビス(ヒドロキシC1-6アルキル)C6-10アレーンなど];ビスフェノール類{ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類[例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシC6-12アリール)C1-6アルカン;2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)などのビス(C1-6アルキル-ヒドロキシC6-12アリール)C1-6アルカンなど];ビス(ヒドロキシアリール)-アリールアルカン類[例えば、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-ジフェニルメタン(ビスフェノールBP)などのビス(ヒドロキシC6-12アリール)-(モノ又はジ)C6-12アリール-C1-6アルカンなど];ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類[例えば、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)などのビス(ヒドロキシC6-12アリール)C4-10シクロアルカンなど];ビス(ヒドロキシアリール)エーテル類[例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルなどのビス(ヒドロキシC6-12アリール)エーテルなど];ビス(ヒドロキシアリール)ケトン類[例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトンなどのビス(ヒドロキシC6-12アリール)ケトンなど];ビス(ヒドロキシアリール)スルフィド類[例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィドなどのビス(ヒドロキシC6-12アリール)スルフィドなど];ビス(ヒドロキシアリール)スルホキシド類[例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシドなどのビス(ヒドロキシC6-12アリール)スルホキシドなど];ビス(ヒドロキシアリール)スルホン類[例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)などのビス(ヒドロキシC6-12アリール)スルホンなど];後述する式(1A)で表される9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物において、各pが1、各nが0である化合物[例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC6-10アリール)フルオレン、9,9-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C1-4アルキル-ヒドロキシC6-10アリール)フルオレン、9,9-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-10アリール-ヒドロキシC6-10アリール)フルオレンなど]など};ビフェノール類[例えば、o,o’-ビフェノール、m,m’-ビフェノール、p,p’-ビフェノールなどのジヒドロキシ-ビC6-10アレーンなど];及びこれらのジオール成分のC2-4アルキレンオキシド(又はアルキレンカーボネート、ハロアルカノール)付加体[例えば、ビスフェノールAなどのビスフェノール類のヒドロキシル基1モルに対して、1~10モル程度(好ましくは1~5モル(例えば、1モル)程度)のエチレンオキシドが付加した付加体など]などが挙げられる。
これらの芳香族ジオール成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。好ましい芳香族ジオール成分としては、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールSなどの慣用のビスフェノール類;後述する式(1A)で表される9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物において、各pが1、各nが0である化合物など);ビフェノール類(例えば、p,p’-ビフェノールなどのビフェノールなど)などが挙げられ、なかでも、ビスフェノール類、特に、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシC6-10アリール)C1-4アルカンなどが好ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂は、単一の芳香族ジオール成分を重合成分とする単独重合体であってもよいが、さらに、1又は複数の共重合成分を含む重合成分で形成された共重合体であってもよい。共重合成分としては、前記芳香族ジオール成分であってもよく、他のジオール成分、例えば、前述のポリエステル樹脂の項に例示の第1のジオール成分、ジ又はポリアルキレングリコール、前述の芳香族ジオール成分の水添物などであってもよい。
また、芳香族ポリカーボネート樹脂は、共重合成分として、前述のポリエステル樹脂の項に例示の脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び/又はヒドロキシカルボン酸成分などを用いることにより、ポリエステルカーボネート樹脂を形成してもよい。
これらの共重合成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。共重合体中の芳香族ジオール成分(の総量)の割合は、構成単位全体に対して、例えば、30モル%以上(例えば、50~100モル%程度)であってもよい。
代表的な芳香族ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ジオール成分として、ビスフェノール類、ビフェノール類、及びこれらのC2-4アルキレンオキシド付加体から選択された少なくとも1種の芳香族ジオール成分を含むビスフェノール型ポリカーボネート樹脂であるのが好ましい。
具体的なビスフェノール型ポリカーボネート樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールF型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールAD型ポリカーボネート樹脂などのビス(ヒドロキシC6-12アリール)C1-6アルカン型ポリカーボネート樹脂;9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有するポリカーボネート樹脂などが挙げられ、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂などのビス(ヒドロキシC6-10アリール)C1-4アルカン型ポリカーボネート樹脂が好ましい。これらのビスフェノール型ポリカーボネート樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などにより測定でき、ポリスチレン換算で、例えば、10000~100000程度の範囲から選択でき、例えば、10000~70000、好ましくは15000~60000、さらに好ましくは20000~50000程度であってもよい。
また、ポリカーボネート樹脂は、非晶性であってもよい。
繊維強化樹脂組成物が、ポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂の双方を含む場合、その割合は、例えば、前者/後者(重量比)=0.1/99.9~99.9/0.1程度の広い範囲から選択でき、好ましくは10/90~90/10(例えば、20/80~80/20)、さらに好ましくは30/70~70/30(例えば、40/60~60/40)程度であってもよい。
エステル結合含有熱可塑性樹脂の割合は、エステル結合含有熱可塑性樹脂、繊維状補強材及びフルオレン化合物の総量100重量部に対して、例えば、30重量部以上(例えば、40~99.9重量部程度)、好ましくは50重量部以上(例えば、55~99重量部程度)、さらに好ましくは60重量部以上(例えば、65~98重量部程度)であってもよい。
[繊維状補強材]
繊維強化樹脂組成物は、繊維状補強材を含むことにより、機械的強度を飛躍的に向上できる。繊維状補強材としては、無機繊維(例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、ウィスカー、ワラストナイトなど)であってもよく、有機繊維[例えば、ポリエステル繊維(例えば、ポリアルキレンアリレート繊維など)、ポリアミド繊維(例えば、ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)など]であってもよい。
これらの繊維状補強材は単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。繊維状補強材のなかでも、少なくとも無機繊維(特にガラス繊維及び/又は炭素繊維)を含むのが好ましい。
ガラス繊維を形成するガラス成分としては、例えば、Eガラス(無アルカリ電気絶縁用ガラス)、Sガラス(高強度ガラス)、Cガラス(化学用ガラス)、Aガラス(一般用含アルカリガラス)、YM-31-Aガラス(高弾性ガラス)などが挙げられる。なかでも、機械的特性などの点から、Eガラス、Cガラス、Sガラスが好ましく、特にEガラスが好ましい。これらのガラス成分で形成されるガラス繊維は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維(例えば、等方性ピッチ系炭素繊維、メソフェーズピッチ系炭素繊維など)、気相成長炭素繊維などが例示できる。また、本明細書及び特許請求の範囲において、「炭素繊維」には、前記例示の炭素繊維に加えて、繊維状ナノ炭素材料を含む意味に用いる。
繊維状ナノ炭素材料としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カーボンナノファイバーなどが挙げられる。これらの繊維状ナノ炭素材料は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの繊維状ナノ炭素材料は、用途に応じて選択でき、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどを用いる場合が多い。
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであってもよく、生産性および製造コストの観点から、多層カーボンナノチューブであるのが好ましい。また、カーボンナノチューブは、その内部に金属(例えば、鉄など)やフラーレンなどを包含(又は包接)していてもよい。
なお、これらの繊維状ナノ炭素材料は、必要に応じて、凝集を抑制(又は分散を容易に)するために、例えば、強酸による酸化処理などにより、化学修飾されていてもよい。
これらの炭素繊維は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの炭素繊維のうち、機械的強度の点から、PAN系炭素繊維、カーボンナノチューブ(特にカーボンナノチューブ)が好ましい。
繊維状補強材は、長繊維であってもよいが、短繊維であるのが好ましい。繊維状補強材の平均繊維長は、例えば、0.1~10mm程度の範囲から選択でき、例えば、0.2~8mm、好ましくは0.5~6mm、さらに好ましくは1~4mm程度であってもよく、通常、2~7mm(例えば、3~6mm)程度であってもよい。また、繊維状補強材とエステル結合含有熱可塑性樹脂とフルオレン化合物との混合(又は混練)や成形加工によるせん断力などの影響により、組成物又は成形体中の繊維状補強材の平均繊維長は、混合前に比べて短くなっていてもよく、例えば、0.05~5mm、好ましくは0.1~3mm、さらに好ましくは0.2~1mm程度であってもよい。
また、繊維状ナノ炭素材料の平均繊維長は、例えば、10nm~1mm程度の範囲から選択でき、例えば、0.1~100μm、好ましくは0.5~10μm、さらに好ましくは1~3μm程度であってもよい。
繊維状補強材の平均繊維径は、特に制限されず、機械的強度などの点から、例えば、1~200μm(例えば、3~100μm)程度の範囲から選択でき、例えば、5~50μm、好ましくは6~20μm、さらに好ましくは8~15μm(例えば、10~13μm)程度であってもよく、通常、2~18μm(例えば、4~15μm)程度であってもよい。
また、繊維状ナノ炭素材料の平均繊維径は、例えば、0.5~100nm程度の範囲から選択でき、例えば、3~50nm、好ましくは5~30nm、さらに好ましくは8~15nm程度であってもよい。
繊維状補強材のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、例えば、10~10000程度の範囲から選択でき、例えば、30~5000(例えば、50~3000)、好ましくは80~1000(例えば、100~800)、さらに好ましくは150~500(例えば、200~300)程度であってもよく、通常、100~2000(例えば、150~1500)程度であってもよい。
また、繊維状ナノ炭素材料のアスペクト比は、例えば、10~2000000程度の範囲から選択でき、例えば、30~1000000(例えば、50~100000)、好ましくは70~10000(例えば、90~1000)、さらに好ましくは100~500(例えば、120~200)程度であってもよい。
繊維状補強材は、前記無機繊維及び/又は有機繊維で形成された布帛の形態であってもよい。代表的な布帛としては、例えば、炭素繊維クロス、ガラスクロスなどが挙げられる。
また、繊維の断面形状は、特に制限されず、例えば、円形状、楕円形状、多角形状などであってもよい。なお、繊維状補強材は、集束剤やシランカップリング剤などで表面処理されていてもよい。
繊維強化樹脂組成物において、エステル結合含有熱可塑性樹脂の総量100重量部に対する繊維状補強材の割合は、例えば、0.1~200重量部(例えば、1~100重量部)程度の範囲から選択でき、例えば、10~90重量部(例えば、20~80重量部)、好ましくは25~70重量部(例えば、30~60重量部)、さらに好ましくは35~55重量部(例えば、40~50重量部)程度であってもよい。また、繊維状補強材が、炭素繊維(特に、繊維状ナノ炭素材料など)である場合、比較的少ない添加量でも機械的強度を向上できる点から、特に好ましい。繊維状補強材の添加量が少ないと、エステル結合含有熱可塑性樹脂の分解(加水分解など)を有効に抑制できるようである。そのため、前記割合(エステル結合含有熱可塑性樹脂100重量部に対する繊維状補強材の割合)は、例えば、0.01~30重量部(例えば、0.1~10重量部)、好ましくは0.5~5重量部(例えば、1~3重量部)、さらに好ましくは1.5~2.5重量部(例えば、1.7~2.3重量部)程度であってもよい。
また、繊維状補強材の割合は、エステル結合含有熱可塑性樹脂、繊維状補強材及びフルオレン化合物の総量100重量部に対して、例えば、0.1~50重量部(例えば、1~45重量部)、好ましくは10~40重量部、さらに好ましくは20~35重量部程度であってもよい。また、繊維状補強材が繊維状ナノ炭素材料である場合、前記割合は、例えば、0.1~10重量部(例えば、0.5~8重量部)、好ましくは1~5重量部、さらに好ましくは1.5~3重量部程度であってもよい。
なお、繊維状補強材は、上記重量割合に限定されず、下記体積割合で含まれていてもよい。エステル結合含有熱可塑性樹脂の総量100体積部に対する繊維状補強材の割合は、例えば、0.1~200体積部程度の範囲から選択でき、例えば、1~100体積部(例えば、5~70体積部)、好ましくは10~50体積部(例えば、13~40体積部)、さらに好ましくは15~30体積部(例えば、18~25体積部)程度であってもよく、通常、10~40体積部(例えば、15~35体積部)程度であってもよい。また、繊維状補強材が繊維状ナノ炭素材料である場合、比較的少ない添加量でも機械的強度を向上できるため、前記割合は、例えば、0.01~30体積部(例えば、0.05~10体積部)、好ましくは0.1~5体積部(例えば、0.5~3体積部)、さらに好ましくは0.7~2.5体積部(例えば、1~2体積部)程度であってもよい。繊維状補強材の量が多すぎると、溶融流動性が低下するおそれがある。また、少なすぎると、機械的強度が向上できないおそれがある。通常、樹脂に繊維状補強材を混合(又は混練)すると、溶融粘度が著しく上昇するにも拘らず、本発明の樹脂組成物では、比較的多くの繊維状補強材を混合しても、良好な溶融流動性を発揮できる。
なお、前記体積(部)は重量と密度とから換算してもよく、混合するエステル結合含有熱可塑性樹脂と繊維状補強材との重量をそれぞれの密度(又は真密度)で除することで算出できる。そのため、前記体積(例えば、樹脂や繊維状補強材の体積)は、空隙(例えば、繊維間に形成される空隙など)を実質的に含まない体積を意味する。
[フルオレン化合物]
本発明の繊維強化樹脂組成物は、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物(フルオレン化合物)を含むため、機械的特性を損なうことなく、溶融流動性を改善できる。
上記のような特性を発現するフルオレン化合物は、反応性基又は官能基を有していない化合物[後述の式(1)においてpが0である化合物、例えば、9,9-ビスフェニルフルオレンなどの9,9-ビスアリールフルオレンなど]であってもよいが、通常、反応性基又は官能基を有している。
反応性基又は官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、N-置換アミノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基含有基(例えば、グリシジルオキシ基など)などが挙げられる。フルオレン化合物は、これらの反応性基を、単独で又は2種以上組み合わせて有していてもよい。
反応性基又は官能基は、9,9-ビスアリールフルオレンに直接的に結合していてもよく、適当な連結基(例えば、(ポリ)オキシアルキレン基など)を介して9,9-ビスアリールフルオレンに結合していてもよい。具体的なフルオレン化合物としては、例えば、下記式(1)で表される化合物などが挙げられる。
[式中、環Zは芳香族炭化水素環、R1及びR2は置換基、Xは基-[(OR3)n-Y](式中、Yは、ヒドロキシル基、メルカプト基、グリシジルオキシ基又は(メタ)アクリロイルオキシ基、R3はアルキレン基、nは0又は1以上の整数を示す。)又はアミノ基、kは0~4の整数、mは0以上の整数、pは1以上の整数を示す]。
上記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環[例えば、縮合二環式炭化水素(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8-20縮合二環式炭化水素、好ましくはC10-16縮合二環式炭化水素)、縮合三環式炭化水素(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合二乃至四環式炭化水素など];環集合炭化水素環(ビフェニル環、テルフェニル環、ビナフチル環などのビ又はテルC6-10アレーン環)が挙げられる。なお、2つの環Zは異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。好ましい環Zには、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環が含まれ、特に、ベンゼン環であってもよい。
前記式(1)において、基R1としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6-10アリール基)など]、アシル基(例えば、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基などのアルキルカルボニル基)などの非反応性置換基が挙げられ、特に、アルキル基などである場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-8アルキル基(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基、特にメチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基)などが例示できる。なお、フルオレン骨格中の異なるベンゼン環に置換した基R1の種類は互いに同一又は異なっていてもよい。また、置換数kが複数(2~4)である場合、フルオレン骨格中の同一のベンゼン環に置換した複数の基R1の種類は互いに同一又は異なっていてもよい。基R1の結合位置(置換位置)は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2-位、7-位、2-及び7-位などが挙げられる。好ましい置換数kは、0~1、特に0である。なお、2つの置換数kは、同一又は異なっていてもよい。
環Zに置換する置換基R2としては、通常、非反応性置換基、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-8アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロへキシル基などのC5-10シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6-10アリール基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基などのC1-8アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロへキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基など)などの基-OR[式中、Rは前記例示の炭化水素基を示す。];アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基などのC1-8アルキルチオ基など)などの基-SR(式中、Rは前記と同じ);アシル基(例えば、アセチル基などのC1-6アシル基など);アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ-カルボニル基など);ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジC1-4アルキルアミノ基など)などが挙げられる。
好ましい基R2としては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基など)、シクロアルキル基(例えば、C5-8シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、C6-10アリール基など)、アラルキル基(例えば、C6-8アリール-C1-2アルキル基など)など]、アルコキシ基(C1-4アルコキシ基など)などが挙げられる。さらに好ましい基R2には、アルキル基[例えば、直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6-10アリール基(特にフェニル基)など]などが含まれる。なお、基R2がアリール基であるとき、基R2は、環Zとともに、前記環集合炭化水素環を形成してもよい。
なお、2つの環Zにおいて、基R2の種類は同一又は異なっていてもよい。また、同一の環Zにおいて、置換数mが複数(2以上)である場合、同一の環Zに置換する2以上の基R2の種類は互いに同一又は異なっていてもよい。置換数mは、環Zの種類に応じて選択でき、例えば、0~8、好ましくは0~4(例えば、0~3)、さらに好ましくは0~2(例えば、0又は1、特に0)であってもよい。なお、2つの環Zにおいて、置換数mは、互いに同一又は異なっていてもよい。
前記式(1)の基Xにおいて、基R3で表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2-3アルキレン基が挙げられる。なお、2つの環Zにおいて、基R3の種類は同一又は異なっていてもよい。また、nが2以上であるとき、ポリオキシアルキレン基[-(OR3)n-]を構成する2以上のアルキレン基R3の種類は異なっていてもよく、通常、同一であってもよい。
オキシアルキレン基(OR3)の数(付加モル数)nは、0又は1以上(例えば、0~20程度)程度の範囲から選択でき、例えば、0~15(例えば、1~12)、好ましくは0~10(例えば、1~8)、さらに好ましくは0~7(例えば、1~6)、特に0~5(例えば、0~2、特に1~2)程度であってもよい。また、nは前記式(1)で表される化合物の分子集合体における平均値であってもよく、例えば、0~15(例えば、0~10)、好ましくは0~7(例えば、1~5)、さらに好ましくは0~5(例えば、1~4)、特に0~3(例えば、0~2、特に1~2)程度であってもよい。nが大きすぎると、機械的特性が低下するおそれがある。なお、置換数nは、2つの環Zに置換したそれぞれの基-[(OR3)n-Y]において、同一又は異なっていてもよい。また、pが2以上であるとき、同一の環Zに置換する2以上の基-[(OR3)n-Y]において、置換数nは同一又は異なっていてもよい。
好ましい基Xは、基-[(OR3)n-Y]であり、基Yはヒドロキシル基であるのが好ましい。なお、式(1)において、基Yがヒドロキシル基である化合物は、下記式(1A)で表される。
(式中、Z、R1、k、R2、m、R3、n、pは前記式(1)と同じ)。
基X(又は基-[(OR3)n-OH])の置換数pは、1以上(例えば、1~6)であればよく、例えば、1~4、好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2、特に1であってもよい。なお、置換数pは、それぞれの環Zにおいて、同一又は異なっていてもよく、通常、同一である場合が多い。
また、前記式(1)[又は(1A)]において、基X(又は基-[(OR3)n-OH])の置換位置は、特に限定されず、環Zの適当な置換位置に置換していればよい。例えば、基Xは、環Zがベンゼン環である場合、フェニル基の2-位、3-位及び/又は4-位に置換していればよく、好ましくは4-位に置換していてもよい。また、基Xは、環Zが縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9-位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5-位、6-位など)に少なくとも置換している場合が多い。
具体的なフルオレン化合物には、(a)9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類[例えば、(a1)9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類、(a2)9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類など];上記(a)の化合物のヒドロキシル基1モル当たりにアルキレンオキシド(C2-4アルキレンオキシドなど)が1~20モル(好ましくは1~10モル、さらに好ましくは1~5モル)程度付加した付加体、すなわち、(b)9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類[例えば、(b1)9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類、(b2)9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類など];これらの化合物において、ヒドロキシル基が、メルカプト基、グリシジルオキシ基又は(メタ)アクリロイルオキシ基に置換した化合物などが挙げられる。
(a1)9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類には、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなど];9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(モノ又はジC1-4アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレンなど];9,9-ビス(アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(モノ又はジC6-10アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレンなど];9,9-ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(3,4-ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3,5-ジヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ジ又はトリヒドロキシフェニル)フルオレンなど]などが挙げられる。
また、(a2)9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン類としては、前記(a1)9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類に対応し、フェニル基がナフチル基に置換した化合物、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレンなど]などが含まれる。
(b1)9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類には、例えば、前記式(1A)において、Zがベンゼン環、nが1である化合物、すなわち、(b1-1)9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類{例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシフェニル)フルオレンなど};9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(モノ又はジC1-4アルキル-ヒドロキシC2-4アルコキシフェニル)フルオレンなど};9,9-ビス(アリール-ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(モノ又はジC6-10アリール-ヒドロキシC2-4アルコキシフェニル)フルオレンなど};前記(b1-1)に対応して、前記式(1A)におけるnが2以上である化合物、すなわち、(b1-2)9,9-ビス(ヒドロキシポリアルコキシフェニル)フルオレン類{例えば、9,9-ビス(ヒドロキシジアルコキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス{4-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなど]などの9,9-ビス(ヒドロキシジ乃至デカC2-4アルコキシフェニル)フルオレンなど}などが含まれる。
また、(b2)9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類としては、前記(b1)9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類に対応し、環Zのベンゼン環をナフタレン環に置換した化合物、例えば、(b2-1)9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシナフチル)フルオレン類{例えば、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシナフチル)フルオレンなど};(b2-2)9,9-ビス(ヒドロキシポリアルコキシナフチル)フルオレン類{例えば、9,9-ビス(ヒドロキシジアルコキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9-ビス{6-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]-2-ナフチル}フルオレン、9,9-ビス{5-[2-(2-ヒドロキシプロポキシ)プロポキシ]-1-ナフチル}フルオレンなど]などの9,9-ビス(ヒドロキシジ乃至デカC2-4アルコキシナフチル)フルオレンなど}などが含まれる。
これらのフルオレン化合物のうち、前記式(1A)において、基-[(OR3)n-OH]を「A」で表すと、2つの置換数kがともに0である下記表1に示す化合物が好ましい。
上記表1のnは平均値であってもよく、n=2~10である化合物において、通常、n=2~8、好ましくはn=2~7(例えば、2~5)程度であってもよい。
なお、ポリエステル樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂の種類によっては、n=0である化合物又はnが1以上である化合物が、樹脂の溶融粘度を顕著に低減する場合がある。そのため、フルオレン化合物として、n=0である化合物、又はnが1以上である化合物を選択できる。n=0の化合物に比べて、nが1以上の化合物[例えば、n=1~10(好ましくは1~5、さらに好ましくは1~2)である化合物]は、樹脂組成物の機械的特性を損なうことなく、環Zがベンゼン環のみならず、ビフェニル環などの多環式芳香族炭化水素環であっても、樹脂組成物の溶融粘度を有効に低減する場合があるようである。また、エステル結合含有熱可塑性樹脂や繊維状補強材の種類などによっては、n=0である化合物の方が、より溶融粘度を低減し易い場合もある。そのため、フルオレン化合物のヒドロキシル基は、フェノール性又はアルコール性のいずれであってもよく、前記樹脂や補強材の種類などに応じて適宜選択でき、通常、フェノール性ヒドロキシル基よりもアルコール性ヒドロキシル基である場合が多いようである。
これらのフルオレン化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。これらの化合物のうち、溶融流動性と機械的特性とのバランスに優れる点から、(a1)9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類(例えば、9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレンなど);(b1)9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類(例えば、(b1-1)9,9-ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレン類など)が好ましく、なかでも、9,9-ビス(モノ又はジC1-4アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレンなど];9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9-ビス(ヒドロキシC2-4アルコキシフェニル)フルオレンなど)がさらに好ましく、特に、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC2-3アルコキシフェニル)フルオレンなどが好ましい。
なお、フルオレン化合物は、市販品を用いてもよく、慣用の方法[例えば、フルオレノン類とフェノール類又はヒドロキシ(ポリ)アルコキシアレーン類とを、酸触媒及び助触媒(3-メルカプトプロピオン酸など)の存在下で反応させる方法など]により合成してもよい。
なお、前記フルオレン化合物は、結晶又は非晶形態であってもよく、いずれの場合にも耐熱性が高い。結晶形態のフルオレン化合物の融点は、例えば、100~180℃(好ましくは110~170℃、さらに好ましくは115~165℃)程度であってもよく、非晶形態のフルオレン化合物のガラス転移温度は、例えば、50~100℃(好ましくは60~90℃、さらに好ましくは70~80℃)程度であってもよい。また、フルオレン化合物は、熱分解温度も高く、前記式(1)又は(1A)で表されるフルオレン化合物(例えば、n=0~2程度の化合物)の熱分解温度は、例えば、300~400℃(例えば、320~380℃)程度であってもよい。前記式(1)又は(1A)において、n=0の場合に比べて、nが1以上の整数である化合物の熱分解温度は高いようである。また、環Zがベンゼン環である場合に比べて、環集合炭化水素環(ビフェニル環など)、縮合多環式芳香族炭化水素環(例えば、ナフタレン環など)である化合物の熱分解温度はさらに高くなる。このように、フルオレン化合物は、高温でも分解することなく、樹脂組成物の溶融流動性を改善できる。
本発明者らは、エステル結合含有熱可塑性樹脂に、繊維状補強材の存在下、このようなフルオレン化合物を添加すると、機械的特性と溶融流動性を両立できることだけでなく、意外なことに、機械的強度が著しく低下する場合があることを見いだした。この低下の理由は定かではないが、混練過程において、繊維状補強材の存在により、繊維強化樹脂組成物に作用するせん断力に起因して発熱量が増加し、さらに、特定の割合でフルオレン化合物が共に存在することで、樹脂中のエステル結合(カーボネート結合に内在するエステル結合も含む)の分解(加水分解など)が促進されるためではないかと推測される。そのため、本発明では、繊維強化樹脂組成物中のフルオレン化合物の割合は、比較的少ない方が好ましい。
フルオレン化合物の割合は、エステル結合含有熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば、0.01~20重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.03~18重量部(例えば、0.05~15重量部)、好ましくは0.08~12重量部(例えば、0.1~10重量部)、さらに好ましくは0.3~8重量部(例えば、0.5~5重量部)程度であってもよく、0.8~4重量部(例えば、1~3重量部)程度であってもよく、通常、0.5~4.5重量部(例えば、0.8~3.5重量部)程度であってもよい。
また、フルオレン化合物の割合は、繊維状補強材100重量部に対して、例えば、0.01~100重量部(例えば、0.03~50重量部)程度の範囲から選択でき、例えば、0.05~30重量部(例えば、0.1~20重量部)、好ましくは0.3~15重量部(例えば、0.5~12重量部)、さらに好ましくは0.8~10重量部(例えば、1~8重量部)程度であってもよく、1.5~7重量部(例えば、2~6重量部)程度であってもよい。なお、繊維状補強材が繊維状ナノ炭素材料である場合、フルオレン化合物の割合は、繊維状補強材100重量部に対して、例えば、0.1~100重量部(例えば、1~80重量部)、好ましくは5~70重量部(例えば、10~65重量部)、さらに好ましくは15~60重量部(例えば、20~55重量部)程度であってもよい。
フルオレン化合物の割合は、エステル結合含有熱可塑性樹脂、繊維状補強材及びフルオレン化合物の総量100重量部に対して、例えば、0.01~20重量部(例えば、0.05~10重量部)程度の範囲から選択でき、例えば、0.1~5重量部(例えば、0.3~4重量部)、好ましくは0.5~3.5重量部(例えば、0.5~3重量部)、さらに好ましくは0.8~2.5重量部(例えば、1~2重量部)程度であってもよく、通常、0.6~2.8重量部(例えば、1.5~2.4重量部)程度であってもよい。
フルオレン化合物の割合が多すぎると、機械的特性(引張強さ、曲げ強さなど)が低下するおそれがある。なお、フルオレン化合物の割合が少なすぎると、溶融流動性を向上できないおそれがあるものの、本発明では、フルオレン化合物の量が比較的少量であっても、溶融流動性を有効に向上できる。
[樹脂組成物及び成形体]
本発明の繊維強化樹脂組成物は、通常、溶融流動性を著しく低下させる繊維状補強材を含んでいるにもかかわらず、機械的特性と溶融流動性とを両立できる。そのため、本発明は、エステル結合含有熱可塑性樹脂と繊維状補強材とを含む混合物に、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物を添加して、機械的特性を損なうことなく溶融流動性を改善する方法も包含する。
繊維強化樹脂組成物は、エステル結合含有熱可塑性樹脂に対して、繊維状補強材と9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物とを含んでいればよく、それぞれの割合は、前述の各項に記載の割合程度であってもよい。なお、繊維強化樹脂組成物は、さらに、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂[エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、環状オレフィン系樹脂など]、ハロゲン含有ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂など)、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)など)、スチレン系樹脂(ポリスチレン(PS);スチレン-メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)などの共重合体;耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、AXS樹脂[例えば、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル-塩素化ポリエチレン-スチレン共重合体(ACS樹脂)、アクリロニトリル-(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)-スチレン共重合体(AES樹脂)など]、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)などのゴムグラフトスチレン系共重合体など)、ポリアミド樹脂(PA)(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド樹脂;ポリ(m-フェニレンイソフタルアミド)、ポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)などのアラミド樹脂など)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリスルホン樹脂(PSF)(ポリエーテルスルホン(PES)などを含む)、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)(ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)を含む)、ポリイミド樹脂(ポリエーテルイミド(PEI)、液晶性ポリマー(LCP)を含む)、熱可塑性エラストマーなどが挙げられ、これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて含んでいてもよい。
また、必要に応じて、エステル結合含有熱可塑性樹脂は、前記他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイを形成してもよい。ポリマーアロイとしては、例えば、前記PMMAとのアロイ;スチレン系樹脂(例えば、PS、ABS樹脂など)とのアロイ;PAとのアロイ;PPEとのアロイ;LCPとのアロイなどが例示できる。これらのポリマーアロイは相溶化剤を含んでいてもよい。
なお、繊維強化樹脂組成物は、必要に応じて、各種添加剤[例えば、粉粒状の充填材又は補強剤(又は強化材)、着色剤(例えば、染顔料など)、導電剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、滑剤、安定剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤、核剤、結晶化促進剤など]を含んでいてもよい。これらの添加剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
繊維強化樹脂組成物は、エステル結合含有熱可塑性樹脂と、繊維状補強材と、フルオレン化合物と、必要に応じて他の成分(他の熱可塑性樹脂や添加剤など)とを、乾式混合、溶融混練などの慣用の方法で混合することにより調製できる。そのため、繊維強化樹脂組成物は、ペレットなどの形態であってもよい。また、繊維状補強材が布帛の形態である場合、繊維強化樹脂組成物は、エステル結合含有熱可塑性樹脂とフルオレン化合物と(必要に応じて他の成分と)を含む繊維強化樹脂組成物形成成分を繊維状補強材に溶融含浸して調製してもよい。そのため、樹脂組成物は、シート(プリプレグ又はスタンパブルシート)などの形態であってもよい。
本発明の繊維強化樹脂組成物の特性は、エステル結合含有熱可塑性樹脂、繊維状補強材及びフルオレン化合物の種類や割合によっても異なるが、高い溶融流動性を有している。そのため、ISO 1133に準じて測定したメルトフローレート(MFR)又はメルトフローインデックス(MFI)は、例えば、下記(i)~(iii)のうちの、いずれかに記載の範囲にあってもよい。
(i)温度240℃、試験荷重1.2kgfで測定したメルトフローレートが、例えば、1~200g/10分、好ましくは10~100g/10分、さらに好ましくは20~80g/10分程度であってもよい。
(ii)温度280℃、試験荷重1.2kgfで測定したメルトフローレートが、例えば、1~200g/10分、好ましくは7~100g/10分、さらに好ましくは15~70g/10分程度であってもよい。
(iii)温度300℃、試験荷重2.16kgfで測定したメルトフローレートが、例えば、1~100g/分(例えば、10~90g/分)程度の範囲から選択でき、例えば、1~50g/10分、好ましくは5~30g/10分、さらに好ましくは7~20g/10分程度であってもよく、例えば、30~80g/分(例えば、50~75g/分)程度であってもよい。
さらに、樹脂組成物は、良好な機械的特性を有している。JIS K7110に準じて測定した樹脂組成物のアイゾット衝撃強度(ノッチ付き)は、例えば、1~30kg・cm/cm2、好ましくは5~20kg・cm/cm2、さらに好ましくは7~15kg・cm/cm2程度であってもよく、3~15kg・cm/cm2程度であってもよい。また、JIS K7111に準じて測定した樹脂組成物のシャルピー衝撃強度(ノッチ付き)は、例えば、1~20kg・cm/cm2、好ましくは5~15kg・cm/cm2、さらに好ましくは7~12kg・cm/cm2程度であってもよい。
ISO 527に準じて測定した引張強さ(試験速度5mm/分)は、例えば、10~300MPa、好ましくは30~200MPa、さらに好ましくは50~150MPa程度であってもよい。また、引張伸びは、例えば、0~30%(例えば、0.1~20%)、好ましくは0.5~15%、さらに好ましくは1~10%(例えば、1.5~5%)程度であってもよい。
ISO 178に準じて測定した曲げ強さは、例えば、50~500MPa、好ましくは70~300MPa、さらに好ましくは90~250MPa程度であってもよい。また、曲げ弾性率は、例えば、0.5~25GPa(例えば、1~20GPa)、好ましくは1.5~15GPa、さらに好ましくは2~12GPa程度であってもよい。
ISO 75に準じて測定した荷重たわみ温度(曲げ応力:1.8MPa、フラットワイズ)は、例えば、80~250℃、好ましくは100~230℃、さらに好ましくは120~200℃程度であってもよい。
また、本発明は、前記樹脂組成物で形成された成形体も包含する。成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて選択でき、例えば、一次元的構造体(例えば、線状(又は糸状)など)、二次元的構造体(例えば、フィルム状、シート状、板状など)、三次元的構造体(例えば、ブロック状、棒状、中空状(管状又はチューブ状など)など)などであってもよい。
成形体は、例えば、圧縮成形法、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などの慣用の成形法を利用して製造することができる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。また、各種評価方法及び使用した原料を下記に示す。
(MFR)
ISO 1133に準じて、保持時間を5分とし、下記条件で測定した。
実施例1~3及び比較例1~2:温度240℃、試験荷重1.2kgf
実施例4~6及び比較例3~4:温度280℃、試験荷重1.2kgf
実施例7~16及び比較例5~6:温度300℃、試験荷重2.16kgf
実施例17~21及び比較例7:温度280℃、試験加重2.16kgf。
(アイゾット衝撃強度(ノッチ付き))
JIS K7110に準じて測定した。
(シャルピー衝撃強度(ノッチ付き))
JIS K7111に準じて測定した。
(引張強さ及び引張伸び)
ISO 527に準じて、試験速度5mm/分で測定した。
(曲げ強さ及び曲げ弾性率)
ISO 178に準じて測定した。
(荷重たわみ温度)
ISO 75に準じて、曲げ応力1.8MPa、フラットワイズ法で測定した。
[原料]
(ポリエステル樹脂又はポリカーボネート樹脂)
ポリブチレンテレフタレート(PBT):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ノバデュラン 5010R5」
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(PC1):帝人(株)製「パンライト L-1250Y」
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(PC2):帝人(株)製「パンライト L-1225LM」
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(PC3):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロンS-3000F」
(繊維状補強材)
ガラス繊維(GF1):日本電気硝子(株)製「ECS03 T-187H」、平均繊維径10.5±1.0μm、カット長3.0mm
ガラス繊維(GF2):日本電気硝子(株)製「ECS03 T-511」、平均繊維径13.5±1.0μm、カット長3.0mm
多層カーボンナノチューブ(CNT):Nanocyl社製「NC7000」、平均繊維径9.5nm、平均繊維長1.5μm
炭素繊維(CF):日本ポリマー産業(株)製「CFEPU-HC」、PAN系、カット長6.0mm
(フルオレン化合物)
9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン:大阪ガスケミカル(株)製「BPEF」
9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン:大阪ガスケミカル(株)製「BOPPEF」
9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン:大阪ガスケミカル(株)製「BNEF」
9,9-ビス[4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル]フルオレン:大阪ガスケミカル(株)製「BCF」。
(実施例1~3)
PBTとBPEFとを下記表2に示す割合でドライブレンドした。その後、二軸押出機(Warner & Pfleiderer社製「ZSK40」、L/D:41.75、スクリュー径:44mm)を用いて、温度250±10℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量60kg/時の条件で、BPEF含有PBTとGF1とを下記表2に示す割合で混練して、ペレット状の樹脂組成物を調製した。なお、GF1は、振動フィーダーを用いてサイドフィードした。得られた樹脂組成物を用いて、射出成型により、各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表2に示す。
(比較例1)
BPEFを予めドライブレンドすることなく、実施例1と同様の方法により、ペレット状樹脂組成物及び各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表2に示す。
(比較例2)
GF1を用いることなく、実施例1と同様の方法により、ペレット状樹脂組成物及び各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表2に示す。
表2から明らかなように、樹脂組成物中で同量のGF1を含む比較例1に比べて、実施例では、低分子化合物であるBPEFを含むにも拘らず、機械的特性を大きく低下させることなく、MFRを約60~700%程度も向上できた。BPEFをPBTとの合計重量に対して5重量%の割合で含有する実施例3では、比較例1及び実施例1~2と比べて、引張強さ及び曲げ強さにおいて、若干の低下が見られた。この理由は定かではないが、GF1及びBPEFの双方を含み、かつBPEFの割合が比較的高いため、PBTの分解が促進されたためではないかと推測される。また、GF1を含まない比較例2に比べて、実施例1~3では、著しく高い機械的特性を有している。
(実施例4~6)
PC1とBPEFとを下記表3に示す割合でドライブレンドした。その後、二軸押出機(Warner & Pfleiderer社製「ZSK40」、L/D:41.75、スクリュー径:44mm)を用いて、温度300±10℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量60kg/時の条件で、BPEF含有PC1とGF2とを下記表3に示す割合で混練して、ペレット状の樹脂組成物を調製した。なお、GF2は、振動フィーダーを用いてサイドフィードした。得られた樹脂組成物を用いて、射出成型により、各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表3に示す。
(比較例3)
BPEFを予めドライブレンドすることなく、実施例4と同様の方法により、ペレット状樹脂組成物及び各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表3に示す。
(比較例4)
GF2を用いることなく、実施例4と同様の方法により、ペレット状樹脂組成物及び各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表3に示す。
表3から明らかなように、樹脂組成物中で同量のGF2を含む比較例3に比べて、実施例では、低分子化合物であるBPEFを含むにも拘らず、機械的特性を大きく低下させることなく、MFRを約35~870%程度も向上できた。BPEFをPC1との合計重量に対して5重量%の割合で含有する実施例6では、比較例3及び実施例4~5と比べて、引張強さ及び曲げ強さにおいて、若干の低下が見られた。この理由は定かではないが、GF2及びBPEFの双方を含み、かつBPEFの割合が比較的高いため、PC1の分解が促進されたためではないかと推測される。また、GF2を含まない比較例4に比べて、実施例4~6では、著しく高い機械的特性を有している。
(実施例7及び8)
PC2とBPEFとを下記表4に示す割合でドライブレンドした。その後、二軸押出機(Warner & Pfleiderer社製「ZSK40」、L/D:41.75、スクリュー径:44mm)を用いて、温度260±10℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量60kg/時の条件で、BPEF含有PC2とCNTとを下記表4に示す割合で混練して、ペレット状の樹脂組成物を調製した。なお、CNTは、振動フィーダーを用いてサイドフィードした。得られた樹脂組成物を用いて、射出成型により、各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表4に示す。
(比較例5)
BPEFを予めドライブレンドすることなく、実施例7と同様の方法により、ペレット状樹脂組成物及び各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表4に示す。
表4から明らかなように、樹脂組成物中で同量のCNTを含む比較例5に比べて、実施例では、低分子化合物であるBPEFを含むにも拘らず、機械的特性を大きく低下させることなく、MFRを約90~130%程度も向上できた。
(実施例9~16)
PC3とフルオレン化合物(実施例9~10:BPEF、実施例11~12:BOPPEF、実施例13~14:BNEF、実施例15~16:BCF)とを下記表5に示す割合でドライブレンドした。その後、二軸押出機(Warner & Pfleiderer社製「ZSK40」、L/D:41.75、スクリュー径:44mm)を用いて、温度260±10℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量60kg/時の条件で、フルオレン化合物含有PC3とCNTとを下記表5に示す割合で混練して、ペレット状の樹脂組成物を調製した。なお、CNTは、振動フィーダーを用いてサイドフィードした。得られた樹脂組成物を用いて、射出成型により、各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表5に示す。
(比較例6)
フルオレン化合物を予めドライブレンドすることなく、実施例9と同様の方法により、ペレット状樹脂組成物及び各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表5に示す。
表5から明らかなように、樹脂組成物中で同量のCNTを含む比較例6に比べて、実施例9~16では、低分子化合物であるフルオレン化合物を含むにも拘らず、機械的特性を大きく低下させることなく、MFRを約10~70%程度も向上できた。
実施例9及び10(式(1A)において、Zがベンゼン環、mが0であるBPEF)、実施例11及び12(式(1A)において、Zがベンゼン環、mが1、R2がフェニル基であるBOPPEF)、並びに実施例13及び14(式(1A)において、Zがナフタレン環、mが0であるBNEF)を比べると、Zがベンゼン環であるBPEF及びBOPPEFでは、MFRをより一層向上できた。これらのうち、組成物全体に対して、0.5重量%のフルオレン化合物を含む場合にはBOPPEF(実施例11)が、1重量%のフルオレン化合物を含む場合にはBPEF(実施例10)がMFRの向上効果が高かった。いずれの実施例においても、フルオレン化合物の割合が組成物全体の1重量%の場合、曲げ強さ及び曲げ弾性率はほとんど変化しないため、実施例10が溶融流動性と機械特性とのバランスに最も優れていた。
また、実施例9及び10(式(1A)において、Zがベンゼン環、nが1のアルコール性ヒドロキシル基を有するBPEF)と、実施例15及び16(式(1A)において、Zがベンゼン環、nが0のフェノール性ヒドロキシル基を有するBCF)と比べると、アルコール性ヒドロキシル基を有するBPEFの方が、MFRをより向上できた。
(実施例17~21)
PC1とフルオレン化合物(実施例17~18:BPEF、実施例19:BOPPEF、実施例20:BNF、実施例21:BCF)とを下記表6に示す割合でドライブレンドした。その後、二軸押出機(Warner & Pfleiderer社製「ZSK40」、L/D:41.75、スクリュー径:44mm)を用いて、温度300±10℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量60kg/時の条件で、フルオレン化合物含有PC1とCFとを下記表6に示す割合で混練して、ペレット状の樹脂組成物を調製した。なお、CFは、振動フィーダーを用いてサイドフィードした。得られた樹脂組成物を用いて、射出成型により、各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表6に示す。
(比較例7)
フルオレン化合物を予めドライブレンドすることなく、実施例17と同様の方法により、ペレット状樹脂組成物及び各評価項目の試験片を作製した。配合割合及び評価結果を下記表6に示す。
表6から明らかなように、樹脂組成物中で同量のCFを含む比較例7に比べて、実施例17~21では、低分子化合物であるフルオレン化合物を含むにも拘らず、機械的特性を大きく低下させることなく、MFRを約14~80%程度も向上できた。特に、フェノール性ヒドロキシル基を有するBCFを用いた実施例21で、最もMFRを向上できた。