本明細書の開示は、(メタ)アクリロイル基を有するシルセスキオキサン誘導体(以下、単に、重合性シルセスキオキサン誘導体ともいう。)に耐酸化性を付与することで、重合性シルセスキオキサン誘導体の接着剤としての耐熱性をさらに向上させる技術に関する。本明細書の開示によれば、層状化合物が存在することで、重合性シルセスキオキサン誘導体の酸化を抑制し、ひいては重合性シルセスキオキサン誘導体の硬化物の安定性、特には熱に対する安定性(耐熱性)を向上させることができ、この結果、重合性シルセスキオキサン誘導体の硬化による接着強度を向上させることができる。なお、層状化合物によってかかる作用が生じる理由は必ずしも明らかではない。層状化合物が備えるガスバリア性やガス拡散抑制性が有機基の酸化抑制に関与しているものと考えられる。
本明細書の開示は、また、酸素吸蔵材が存在することで、重合性シルセスキオキサン誘導体の酸化を抑制し、ひいては重合性シルセスキオキサン誘導体の硬化物の安定性、特には熱に対する安定性(耐熱性)を向上させることができる。かかる作用は、酸素吸蔵材による自身の酸化/還元や酸素の吸着等によるものと考えられる。
重合性シルセスキオキサン誘導体は、(メタ)アクリロイル基を備えるほか、種々の有機基を備えることができる。重合性シルセスキオキサン誘導体が重合された場合には、(メタ)アクリロイル基や他の有機基の酸化による分解等は、重合性シルセスキオキサン誘導体の特性に大きな影響を与える場合がある。したがって、重合性シルセスキオキサン誘導体によって得られる硬化物に、層状化合物及び/又は酸素吸蔵材によって耐酸化性を付与することは有意義である。
以下、本開示に係る接着剤組成物及びその利用の各種実施形態について説明する。具体的には、接着剤組成物、接着方法及び装置等について説明する。
(接着剤組成物)
本明細書に開示される接着剤組成物(以下、単に、本組成物ともいう。)は、重合性シルセスキオキサン誘導体と、層状化合物及び/又は酸素吸蔵材と、を含有している。
(重合性シルセスキオキサン誘導体)
本明細書において、シルセスキオキサンとは、主鎖骨格がSi-O結合からなり、(RSiO1.5)単位からなるポリシロキサンである。シルセスキオキサン誘導体は、かかるポリシロキサン及び(RSiO1.5)(T単位)で表される単位を1又は2以上備える化合物である。
シルセスキオキサン誘導体は、例えば、構成単位(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)及び(1-5)を備える以下の式(1)で表すことができる。式(1)におけるv、w、x、y及びzは、それぞれ(1-1)~(1-5)の構成単位のモル数を表す。なお、式(1)において、v、w、x、yおよびzは、シルセスキオキサン誘導体1分子が含有する各構成単位のモル数の割合の平均値を意味する。
式(1)における構成単位(1-2)~(1-5)のそれぞれは、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。また、実際のシルセスキオキサン誘導体の構成単位の縮合形態は、式(1)で表される配列順序に限定されるものではなく、特に限定されない。
シルセスキオキサン誘導体は、式(1)における4つの構成単位、すなわち、構成単位(1-1)、構成単位(1-2)、構成単位(1-3)及び構成単位(1-4)から選択される構成単位において、少なくとも一つの重合性官能基を含むように組み合わせて備えることができる。
また、シルセスキオキサン誘導体は、構成単位(1-2)及び構成単位(1-3)を含むことができる。例えば、式(1)において、wは正の数である。例えば、式(1)において、w及びxが正の数であり、v、y及びzは0又は正の数である。また、シルセスキオキサン誘導体は、構成単位(1-2)のみから構成されていてもよい(wが正であり、他は0である。)
シルセスキオキサン誘導体において、構成単位(1-1)、構成単位(1-3)及び構成単位(1-4)からなる群から選択される1種又は2種以上を備えることができる。すなわち、式(1)において、v、x及びyの1種又は2種以上は正の数とすることができる。
<構成単位(1-1):Q単位>
本構成単位は、式(1)で表されるままであり、ポリシロキサンの基本構成単位としてのQ単位を規定している。シルセスキオキサン誘導体中における本構成単位の個数は特に限定するものではない。
<構成単位(1-2):T単位>
本構成単位は、ポリシロキサンの基本構成単位としてのT単位を規定している。本構成単位のR1は、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基(以下、単位、C1-10アルキル基ともういう。)、炭素原子数1~10のアルケニル基、炭素原子数1~10のアルキニル基、アリール基、アラルキル基、重合性官能基からなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。
R1は水素原子であってもよい。水素原子の場合、例えば、本構成単位及び/又は他の構成単位が、重合性官能基に包含されるヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を含む炭素原子数2~10の有機基(以下、単に、不飽和有機基ともいう。)を備える場合に、これらの単位間で架橋反応が可能となる。
R1は、C1-10アルキル基であってもよい。C1-10アルキル基は、脂肪族基及び脂環族基のいずれでもよく、また、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。かかるアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、などの炭素原子数1~6の直鎖アルキル基であり、また例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、などの炭素原子数1~4の直鎖アルキル基である。また例えば、メチル基である。
R1は、C1-10アルケニル基であってもよい。C1-10アルケニル基は、脂肪族基、脂環族基、芳香族基のいずれでもよく、また、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。アルケニル基の具体例としては、エテニル(ビニル)基、オルトスチリル基、メタスチリル基、パラスチリル基、1-プロペニル基、2-プロペニル(アリル)基、1-ブテニル基、1-ペンテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、フェニルエテニル基、アリル(2-プロペニル)基、オクテニル(7-オクテン-1-イル)基等が挙げられる。
R1は、C1-10アルキニル基であってもよい。C1-10アルキニル基は、脂肪族基、脂環族基及び芳香族基のいずれでもよく、また、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。アルキニル基の具体例としては、エチニル基、1-プロピニル基、1-ブチニル基、1-ペンチニル基、3-メチル-1-ブチニル基、フェニルブチニル基等が挙げられる。
R1は、アリール基であってもよい。炭素原子数は、例えば6個以上20個以下であり、また例えば同6個以上10個以下である。アリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
R1は、アラルキル基であってもよい。炭素原子数は、例えば7個以上20個以下であり、また例えば同7個以上10個以下である。アラルキル基としては、ベンジル基などのフェニルアルキル基が挙げられる。
R1は、重合性官能基であることが好ましい。重合性官能基としては、少なくとも、(メタ)アクリロイル基、すなわち、メタクリロイル基及びアクリロイル基のいずれか又は双方を備えることが好ましい。なお、メタクリロイルオキシ基は、メタクリロイル基の全体を含んでおり、メタクリロイルオキシ基は、メタクリロイル基に包含される。同様に、アクリロイルオキシ基は、アクリロイル基の全体を含んでおり、アクリロイル基に包含される。
さらに、重合性シルセスキオキサン誘導体は、(メタ)アクリロイル基以外の他の重合性官能基を備えることができる。かかる他の重合性官能基としては、例えば、熱硬化又は光硬化可能な重合性官能基が挙げられ、特に限定するものではなく、ビニル基、アリル基、スチリル基、α-メチルスチリル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、N-ビニルアミド基 、マレイン酸エステル基、フマル酸エステル基、N-置換マレイミド基、イソシアネート基、オキセタニル基及びエポキシ基を有する官能基等が挙げられる。
(メタ)アクリロイル基を有する重合性官能基としては、例えば以下の式で表される基又はこの基を含む基が好ましい。
上記式において、R5は、水素原子又はメチル基を表し、R6は、炭素数1~10のアルキレン基を表す。R6としては、炭素数2~10のアルキレン基が好ましい。
オキセタニル基としては、特に限定するものではないが、例えば、(3-エチル-3-オキセタニル)メチルオキシ基、(3-エチル-3-オキセタニル)オキシ基等が挙げられる。オキセタニル基を含む基としては、下記式で表される基、又はこの基を含むものが好ましい。
上記式において、R7は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R8は炭素数1~6のアルキレン基を表す。R7としては、水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、エチル基がより好ましい。R8としては、炭素数2~6のアルキレン基が好ましく、プロピレン基がより好ましい。
エポキシ基としては、特に限定するものではないが、例えば、β-グリシドキシエチル、γ-グリシドキシプロピル、γ-グリシドキシブチル等のグリシドオキシ基で置換された炭素数1~10のアルキル基、グリシジル基、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、γ-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基、β-(3,4-エポキシシクロヘプチル)エチル基、4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチル基、5-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ペンチル基等のオキシラン基を持った炭素数5~8のシクロアルキル基で置換された炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。
重合性官能基としては、既述の不飽和有機基、すなわち、ケイ素原子に結合する水素原子(ヒドロシリル基)とヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を持つ官能基であってもよい。不飽和有機基は、ヒドロシリル基における水素原子の存在により、当該水素原子とヒドロシリル化反応により重合してヒドロシリル化構造部分を形成する意味において重合性官能基としても機能しうる。かかる不飽和有機基の具体例としては、上記したアルケニル基及びアルキニル基等が挙げられる。特に限定するものではないが、例えば、ビニル基、オルトスチリル基、メタスチリル基、パラスチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、1-プロペニル基、1-ブテニル基、1-ペンテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、フェニルエテニル基、エチニル基、1-プロピニル基、1-ブチニル基、1-ペンチニル基、3-メチル-1-ブチニル基、フェニルブチニル基、アリル(2-プロペニル)基、オクテニル(7-オクテン-1-イル)基等が例示される。かかる不飽和有機基は、例えば、ビニル基、パラスチリル基、アリル(2-プロペニル)基、オクテニル(7-オクテン-1-イル)基であり、また例えば、ビニル基である。
なお、シルセスキオキサン誘導体は、重合性官能基を2種以上含むことができるが、その場合、全ての重合性官能基は、互いに同一であってよいし、異なってもよい。また、複数の重合性官能基が同一であり、さらに異なる重合性官能基を含んでいてもよい。
重合性官能基は、いずれも置換されていてもよい。かかる置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、塩素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基等のアルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、及びオキシ基(=O)、シアノ基、保護された水酸基のうちの少なくとも1つ以上で置換されていてもよい。
保護された水酸基が有する当該水酸基の保護基は、特に限定しないで公知の水酸基保護基を用いることができる。例えば、かかる保護基としては、-C(=O)Rで表されるアシル系の保護基(式中、Rは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等の炭素数1~6のアルキル基;又は、置換基を有する、若しくは置換基を有さないフェニル基を表す。置換基を有するフェニル基の置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基等)、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基等のシリル系の保護基;メトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、1-エトキシエチル基、テトラヒドロピラン-2-イル基、テトラヒドロフラン-2-イル基等のアセタール系の保護基;t-ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル系の保護基;メチル基、エチル基、t-ブチル基、オクチル基、アリル基、トリフェニルメチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、フルオレニル基、トリチル基、ベンズヒドリル基等のエーテル系の保護基;等が挙げられる。
シルセスキオキサン誘導体は、本構成単位の1種又は2種以上を組み合わせて備えることができる。例えば、1つの本構成単位のR1をアルキル基として、他の1つの構成単位のR1を重合性官能基とすることができる。また例えば、1つの本構成単位のR1を水素原子とし、他の1つの構成単位のR1を重合性官能基としての不飽和有機基とすることもできる。
シルセスキオキサン誘導体中における本構成単位のモル数の割合であるwは、正の数である。wは、特に限定するものではないが、例えば、w/(v+w+x+y)は、0.25以上であり、また例えば、0.3以上であり、また例えば、0.35以上であり、また例えば、0.4以上であり、また例えば0.5以上であり、また例えば0.6以上であり、また例えば、0.7以上であり、また例えば0.8以上であり、また例えば0.9以上であり、また例えば0.95以上であり、また例えば、0.99以上であり、また例えば、1である。
<構成単位(1-3):D単位>
本構成単位は、シルセスキオキサン誘導体の基本構成単位としてのD単位を規定している。本構成単位のR2は、水素原子、C1-10アルキル基、C1-10アルケニル基、C1-10アルキニル基、アリール基、アラルキル基、重合性官能基からなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。本構成単位におけるR2は、同一であってもよいし異なっていてもよい。
C1-10アルキル基、C1-10アルケニル基、C1-10アルキニル基、アリール基、アラルキル基、重合性官能基については、既に記載した各種態様を本構成単位についてもそのまま適用できる。
シルセスキオキサン誘導体は、本構成単位の1種又は2種以上を組み合わせて備えることができる。シルセスキオキサン誘導体は、少なくとも一部の本構成単位が、例えば、2つのR2がいずれも、C1-10アルキル基であり、また例えば、すべての本構成単位が、2つのR2がいずれも、C1-10アルキル基である。
シルセスキオキサン誘導体中における本構成単位のモル数の割合であるxは、0又は正の数である。xは、特に限定するものではないが、例えば、x/(v+w+x+y)は、0.25以上であり、また例えば、0.3以上であり、また例えば、0.35以上であり、また例えば、0.4以上である。同数値は、例えば、0.5以下であり、また例えば、0.45以下である。
<構成単位(1-4):M単位>
本構成単位は、シルセスキオキサン誘導体の基本構成単位としてのM単位を規定している。本構成単位のR3は、水素原子、C1-10アルキル基、C1-10アルケニル基、C1-10アルキニル基、アリール基、アラルキル基、重合性官能基からなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。水素原子、重合性官能基、及びC1-10アルキル基からなる群から選択される少なくとも1種とすることができる。本構成単位におけるR3は、それぞれ同一であってもよいし異なっていてもよい。
C1-10アルキル基、C1-10アルケニル基、C1-10アルキニル基、アリール基、アラルキル基、重合性官能基については、既に記載した各種態様を本構成単位についてもそのまま適用できる。
シルセスキオキサン誘導体は、本構成単位の1種又は2種以上を組み合わせて備えることができる。シルセスキオキサン誘導体は、少なくとも一部の本構成単位が、例えば、2つのR3がいずれも、C1-10アルキル基であり、また例えば、すべての本構成単位が、2つのR3がいずれも、C1-10アルキル基である。
シルセスキオキサン誘導体における本構成単位のモル数の割合であるyは0又は正の数である。yは、特に限定するものではないが、例えば、y/(v+w+x+y)は、0.25以上であり、また例えば、0.3以上であり、また例えば、0.35以上であり、また例えば、0.4以上である。同数値は、例えば、0.5以下であり、また例えば、0.45以下である。
<構成単位(1-5)>
本構成単位は、シルセスキオキサン誘導体におけるアルコキシ基又は水酸基を含む単位を規定している。すなわち、本構成単位におけるR4は、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基である。当該アルキル基は、脂肪族基及び脂環族基のいずれでもよく、また、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。典型的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素数2以上10以下のアルキル基であり、また例えば、炭素数1~6のアルキル基である。
本構成単位におけるアルコキシ基は、後述する原料モノマーに含まれる加水分解性基である「アルコキシ基」、又は、反応溶媒に含まれたアルコールが、原料モノマーの加水分解性基と置換して生成した「アルコキシ基」であって、加水分解・重縮合せずに分子内に残存したものである。また、本構成単位における水酸基は、「アルコキシ基」が加水分解後、重縮合せずに分子内に残存した水酸基等である。
シルセスキオキサン誘導体における本構成単位のモル数の割合であるzは、0又は正の数である。
<分子量等>
シルセスキオキサン誘導体の数平均分子量は、300~10,000の範囲にあることが好ましい。かかるシルセスキオキサン誘導体は、それ自体低粘性であり、有機溶剤に溶け易く、その溶液の粘度も扱い易く、保存安定性に優れる。数平均分子量は、塗工性、貯蔵安定性、耐熱性等を考慮すると、好ましくは300~8,000、また好ましくは300~6,000,また好ましくは300~3,000、また好ましくは300~2,000、また好ましくは500~2,000である。数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)により、例えば、後述の〔実施例〕における測定条件であり、標準物質としてポリスチレンを使用して求めることができる。
シルセスキオキサン誘導体は、液状であることが好ましい。シルセスキオキサン誘導体が液体の場合、フィラー混合の観点から、25℃における粘度が、例えば500mPa・s以上、より好ましくは1000mPa・s以上、さらに好ましくは2000mPa・s以上である。
<シルセスキオキサン誘導体の製造方法>
シルセスキオキサン誘導体は、公知の方法で製造することができる。シルセスキオキサン誘導体の製造方法は、国際公開第2005/010077号パンフレット、同第2009/066608号パンフレット、同第2013/099909号パンフレット、特開2011-052170号公報、特開2013-147659号公報等においてポリシロキサンの製造方法として詳細に開示されている。
シルセスキオキサン誘導体は、例えば、以下の方法で製造することができる。すなわち、シルセスキオキサン誘導体の製造方法は、適当な反応溶媒中で、縮合により、上記式(1)中の構成単位を与える原料モノマーの加水分解・重縮合反応を行う縮合工程を備えることができる。この縮合工程においては、構成単位(1-1)を形成する、シロキサン結合生成基を4個有するケイ素化合物(以下、「Qモノマー」という。)と、構成単位(1-2)を形成する、シロキサン結合生成基を3個有するケイ素化合物(以下、「Tモノマー」という。)と、構成単位(1-3)を形成する、シロキサン結合生成基を2個有するケイ素化合物(以下、「Dモノマー」という。)と、シロキサン結合生成基を1個有する構成単位(1-4)を形成する、ケイ素化合物(以下、「Mモノマー」という。)と、を用いることができる。
本明細書において、具体的には、構成単位(1-1)を形成するQモノマーと、構成単位(1-2)を形成するTモノマーと、構成単位(1-3)を形成するDモノマー及び、構成単位(1-4)を形成するMモノマーのうちの、少なくともTモノマーが用いられる。原料モノマーを、反応溶媒の存在下に、加水分解・重縮合反応させた後に、反応液中の反応溶媒、副生物、残留モノマー、水等を留去させる留去工程を備えることが好ましい。
原料モノマーであるQモノマー、Tモノマー、Dモノマー又はMモノマーに含まれるシロキサン結合生成基は、水酸基又は加水分解性基である。このうち、加水分解性基としては、ハロゲノ基、アルコキシ基等が挙げられる。Qモノマー、Tモノマー、Dモノマー及びMモノマーの少なくとも1つは、加水分解性基を有することが好ましい。縮合工程において、加水分解性が良好であり、酸を副生しないことから、加水分解性基としては、アルコキシ基が好ましく、炭素原子数1~4のアルコキシ基がより好ましい。
なお、シルセスキオキサン誘導体の合成にあたり、Dモノマーに替えて以下の式(2)及び式(3)で表されるシロキサン結合生成基を有するシリコーン化合物(以下、Dオリゴマーともいう。)を用いることもできる。
(上記式(2)及び(3)において、Xはシロキサン結合生成基であり、R9及びR12はそれぞれアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、R10、R11及びR13はそれぞれアルキル基、シクロアルキル基又はアリールであり、m及びnは正の整数である。)
Dオリゴマーが有するシロキサン結合生成基とは、シラン化合物中のケイ素原子との間に、シロキサン結合を生成し得る原子又は原子団を意味し、その具体例は、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基等のアルコキシ基、シクロヘキシルオキシ基等のシクロアルコキシ基、フェニルオキシ基等のアリールオキシ基、水酸基、水素原子等である。式2で表されるDオリゴマーは一分子中に2個のシロキサン結合生成基を有するものであるが、これらは同じ基であってもよいし異なる基であってもよい。
Dオリゴマーとしては、シロキサン結合生成基が水酸基であるものが入手が容易である。
Dオリゴマーが有するR9及びR12はそれぞれアルコキシ基、アリールオキシ基、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、一分子中に2個存在するR9及びR12はそれぞれ同じ基であってもよいし異なる基であってもよい。R9及びR12の具体例はメトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基、フェニルオキシ基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等である。
Dオリゴマーが有するR10、R11及びR13はそれぞれアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基であり、一分子中に複数個存在するR10及びR11はそれぞれ同じ基であってもよいし異なる基であってもよい。R10、R11及びR13の具体例はメチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等である。Dオリゴマーとしては、一分子中に複数個存在するR10及びR11がメチル基又はフェニル基であるものが、安価な原料から製造可能であるとともに本組成物を用いて得られる硬化物が特に接着性等の優れたものとなるために好ましく、特にすべてメチル基であるものがより好ましい。
縮合工程において、各々の構成単位に対応するQモノマー、Tモノマー又はDモノマー若しくはDオリゴマーのシロキサン結合生成基はアルコキシ基であり、Mモノマーに含まれるシロキサン結合生成基はアルコキシ基又はシロキシ基であることが好ましい。また、各々の構成単位に対応するモノマー及びオリゴマーは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
構成単位(1-1)を与えるQモノマーとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。構成単位(1-2)を与えるTモノマーとしては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、トリクロロシラン等が挙げられる。構成単位(1-2)を与えるTモノマーとしては、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、トリメトキシアリルシラン、トリエトキシアリルシラン、トリメトキシ(7-オクテン-1-イル)シラン、(p-スチリル)トリメトキシシラン、(p-スチリル)トリエトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン等が挙げられる。構成単位(1-3)を与えるDモノマーとしては、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジプロポキシジメチルシラン、ジプロポキシジエチルシラン、ジメトキシベンジルメチルシラン、ジエトキシベンジルメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン等が挙げられる。構成単位(1-4)を与えるMモノマーとしては、加水分解により2つの構成単位(1-4)を与えるヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサプロピルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジメチルビニルシランのほか、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、メトキシジメチルフェニルシラン、エトキシジメチルフェニルシラン、クロロジメチルシラン、クロロジメチルビニルシラン、クロロトリメチルシラン、ジメチルシラノール、ジメチルビニルシラノール、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリプロピルシラノール、トリブチルシラノール等が挙げられる。構成単位(1-5)を与える有機化合物としては、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、メタノール、エタノール等のアルコールが挙げられる。以上の説明によれば、シルセスキオキサン誘導体を得るためのこうしたモノマーを含む組成物も提供される。
縮合工程においては、反応溶媒としてアルコールを用いることができる。アルコールは、一般式R-OHで表される、狭義のアルコールであり、アルコール性水酸基の他には官能基を有さない化合物である。特に限定するものではないが、かかる具体例としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、2-エチル-2-ブタノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、シクロヘキサノール等が例示できる。これらの中でも、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、3-メチル-2-ペンタノール、シクロヘキサノール等の第2級アルコールが用いられる。縮合工程においては、これらのアルコールを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。より好ましいアルコールは、縮合工程で必要な濃度の水を溶解できる化合物である。このような性質のアルコールは、20℃におけるアルコールの100gあたりの水の溶解度が10g以上の化合物である。
縮合工程で用いるアルコールは、加水分解・重縮合反応の途中における追加投入分も含めて、全ての反応溶媒の合計量に対して0.5質量%以上用いることで、生成するシルセスキオキサン誘導体のゲル化を抑制することができる。好ましい使用量は1質量%以上60質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以上40質量%以下である。
縮合工程で用いる反応溶媒は、アルコールのみであってよいし、さらに、少なくとも1種類の副溶媒との混合溶媒としても良い。副溶媒は、極性溶剤及び非極性溶剤のいずれでもよいし、両者の組み合わせでもよい。極性溶剤として好ましいものは炭素原子数3若しくは7~10の第2級又は第3級アルコール、炭素原子数2~20のジオール等である。尚、副溶媒として第1級アルコールを用いる場合には、その使用量を、反応溶媒全体の5質量%以下にすることが好ましい。好ましい極性溶剤は、工業的に安価に入手できる2-プロパノールであり、2-プロパノールと、本発明に係るアルコールとを併用することにより、本発明に係るアルコールが加水分解工程で必要な濃度の水を溶解できないものである場合でも、極性溶剤と共に必要量の水を溶解でき、本発明の効果を得ることができる。好ましい極性溶剤の量は、本発明に係るアルコールの1質量部に対して20質量部以下であり、より好ましくは1~20質量部、特に好ましくは3~10質量部である。
非極性溶剤としては、特に限定するものではないが、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、アルコール、エーテル、アミド、ケトン、エステル、セロソルブ等が挙げられる。これらの中では、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素が好ましい。こうした非極性溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン等が、水と共沸するので好ましく、これらの化合物を併用すると、縮合工程後、シルセスキオキサン誘導体を含む反応混合物から、蒸留によって反応溶媒を除く際に、水分及び水に溶解した酸などの重合触媒を効率よく留去することができる。非極性溶剤としては、比較的沸点が高いことから、芳香族炭化水素であるキシレンが特に好ましい。非極性溶剤の使用量は、本発明に係るアルコールの1質量部に対して50質量部以下であり、より好ましくは1~30質量部、特に好ましくは5~20質量部である。
縮合工程における加水分解・重縮合反応は、水の存在下に進められる。原料モノマーに含まれる加水分解性基を加水分解させるために用いられる水の量は、加水分解性基に対して好ましくは0.5~5倍モル、より好ましくは1~2倍モルである。また、原料モノマーの加水分解・重縮合反応は、無触媒で行ってもよいし、触媒を使用して行ってもよい。加水分解・重縮合反応における触媒は、酸又はアルカリが用いられる。かかる触媒としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸に例示される酸触媒が好ましく用いられる。酸触媒の使用量は、原料モノマーに含まれるケイ素原子の合計量に対して、0.01~20モル%に相当する量であることが好ましく、0.1~10モル%に相当する量であることがより好ましい。
縮合工程における加水分解・重縮合反応の終了は、既述の各種公報等に記載される方法にて適宜検出することができる。なお、シルセスキオキサン誘導体の製造の縮合工程においては、反応系に助剤を添加することができる。例えば、反応液の泡立ちを抑える消泡剤、反応罐や撹拌軸へのスケール付着を防ぐスケールコントロール剤、重合防止剤、ヒドロシリル化反応抑制剤等が挙げられる。これらの助剤の使用量は、任意であるが、好ましくは反応混合物中のシルセスキオキサン誘導体濃度に対して1~10質量%程度である。
シルセスキオキサン誘導体の製造における縮合工程後、縮合工程より得られた反応液に含まれる反応溶媒及び副生物、残留モノマー、水等を留去させる留去工程を備えることにより、生成したシルセスキオキサン誘導体の安定性や使用性を向上させることができる。特に、反応溶媒として水と共沸する溶媒を用い、同時に留去することで、重合触媒として用いた酸や塩基を効率的に除去することができる。なお、留去には、用いた溶媒の沸点等にもよるが、100℃以下の温度で、適宜減圧条件を用いることができる。
(層状化合物)
本組成物は、層状化合物を含有することができる。層状化合物としては、特に限定するものではなく、公知の層状化合物の1種又は2種以上を用いることができる。層状化合物は、例えば、タルク(層状珪酸マグネシウム塩)などの珪酸塩層状化合物、窒化ホウ素、雲母やスメクタイト等の鉱物等が挙げられる。なかでも、タルクや窒化ホウ素が挙げられる。
層状化合物は、一般的に、粉末形態である。その粒子形状は特に限定するものではない。また、その平均粒子径も、特に限定するものではないが、例えば、10μm以下であることが好ましい。10μm以下であると、良好な耐酸化性が得られているからである。より好ましくは5μm以下である。また、より好ましくは、3μm以下であり、さらに好ましくは2.5μm以下である。また、その下限も特に限定するものではないが、例えば0.5μm以上であり、また例えば1.0μm以上である。なお、層状化合物の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって測定することができる。本明細書において、層状化合物の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径D50をいうものとする。測定にあたり、タルクなどの層状化合物の超音波を用いて分散させた分散液を用いることができる。
本組成物における層状化合物の含有量は、特に限定するものではなく、用いるシルセスキオキサン誘導体の酸化が抑制されるような有効量とすることができる。層状化合物は、シルセスキオキサン誘導体と層状化合物との総質量に対して、例えば5質量%以上、また例えば10質量%以上、また例えば15質量%以上、また例えば20質量%以上、また例えば25質量%以上、また例えば30質量%以上などとすることができる。また、同総量に対して、例えば50質量%以下、また例えば45質量%以下、また例えば40質量%以下などとすることができる。また、層状化合物の含有量は、シルセスキオキサン誘導体と層状化合物との総質量に対して、例えば、5質量%以上50質量%以下、また例えば、10質量%以上40質量%以下また例えば、20質量%以上40質量%以下などとすることができる。
(酸素吸蔵材)
本組成物は、酸素吸蔵材を含むことができる。酸素吸蔵材は、酸素貯蔵能を有する材料である。酸素吸蔵材としては、特に限定するものではなく、公知の酸素吸蔵材を用いることができるが、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア、酸化鉄(Fe2O3)、セリアジルコニア複合酸化物、ある種のペロブスカイト型金属酸化物等が挙げられる。なお、ジルコニア及びセリアジルコニア複合酸化物については、公知の安定化剤により安定化されていてもよい。酸素吸蔵材は、こうした金属酸化物に、他の金属原子がドープされたものであってもよい。酸素吸蔵材としては、例えば、セリア、セリアジルコニア複合酸化物を好ましく用いることができる。酸素吸蔵材は、こうした公知の酸素吸蔵材を1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
酸素吸蔵材は、一般的に、粉末形態である。粉末における粒子形状は、特に限定するものではない。また、その平均粒子径も、特に限定するものではないが、例えば、5μm以下であることが好ましい。5μm以下であると、その表面積によって高い酸素吸蔵能が発揮されると考えられる。より好ましくは1μm以下である。より好ましくは1μm以下である。また、さらに好ましくは500nm以下であり、より好ましくは100nm以下であり、なお好ましくは50nm以下であり、一層好ましくは30nm以下であり、より一層好ましくは20nm以下である。
なお、本明細書において、酸素吸蔵材の平均粒子径は、その平均粒子径が1μm未満の場合には、BET法により比表面積を求めた上で、粒子径を算出されるものである。すなわち、吸着質として窒素(N2)ガスを用いたガス吸着法により測定されたガス吸着量を、BET法(多点法又は1点法)で解析して得られる比表面積(m2/g、S)から、平均粒子径を求めることができる。なお、窒素ガス吸着量の測定にあたっては、真空下300℃で12時間以上脱気した試料に対して、77Kでガス吸着させるものとする。また、その平均粒子径が1μm以上の場合には、層状化合物の平均粒子径に関して説明する、レーザー回折・散乱法により算出されるものである。
本組成物における酸素吸蔵材の含有量は、特に限定するものではなく、用いるシルセスキオキサン誘導体の酸化が抑制されるような有効量とすることができる。酸素吸蔵材は、シルセスキオキサン誘導体と酸素吸蔵材との総質量に対して、例えば0.05質量%以上、また例えば0.1質量%以上、また例えば0.5質量%以上、また例えば1質量%以上、また例えば3質量%以上、また例えば5質量%以上、また例えば10質量%以上、また例えば15質量%以上などとすることができる。また、同総量に対して、例えば25質量%以下、また例えば20質量%以下などとすることができる。また、酸素吸蔵材の含有量は、シルセスキオキサン誘導体と酸素吸蔵材との総質量に対して、例えば、0.05質量%以上50質量%以下、また例えば、0.1質量%以上40質量%以下などとすることができる。
本組成物は、層状化合物及び酸素吸蔵材のいずれか一方又は双方を含むことができる。双方を含むと、それぞれの固有の効果が作用して、シルセスキオキサン誘導体の酸化を効果的に抑制して優れた耐熱性を得ることができる。両者を含有する場合においても、それぞれ既に説明した含有量の範囲で含まれうる。また、本組成物が、層状化合物と酸素吸蔵材との双方を含むとき、シルセスキオキサン誘導体と層状化合物と酸素吸蔵材との総質量に対して、層状化合物と酸素吸蔵材との総質量は、例えば、10質量%以上80質量%以下であり、また例えば、15質量%以上70質量%以下であり、また例えば、20質量%以上60質量%以下などとすることができる。
本組成物は、未硬化の(重合性官能基によって架橋ないし重合されていない)重合性シルセスキオキサン誘導体を含み、成膜又は成形前の組成物(典型的には液状体などの不定形状体である。)でありうる。
本組成物は、例えば、重合性シルセスキオキサン誘導体と、層状化合物及び/又は酸素吸蔵材と、を含有することができる。さらに、必要に応じて、硬化や重合に必要な開始剤及び/又は重合触媒(硬化剤)を含むことができる。本組成物が重合性シルセスキオキサン誘導体とともに層状化合物及び/又は酸素吸蔵材を備えることで、シルセスキオキサン誘導体が熱に曝されるとき、加熱されて硬化されるとき、又は硬化物が熱に曝されるときなどにおいて、シルセスキオキサン誘導体又はその硬化物の耐熱化が図られる。また、他の成分として、溶剤を含むことができる。
(重合開始剤)
本組成物は、重合性官能基によってシルセスキオキサン誘導体を重合するための重合開始剤を含むことができる。重合開始剤の種類は、シルセスキオキサン誘導体が備える重合性官能基の種類によって異なるが、光開始剤、熱開始剤、ラジカル重合開始剤などの種々の開始剤や硬化剤を用いることができる。当業者であれば、用いる重合性官能基や本組成物の用途を考慮して適切な重合開始剤や硬化剤の種類や使用量を適宜選択することができる。例えば、ラジカル重合開始剤としては、公知の有機過酸化物、アゾ化合物等を用いることができる。
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、パラメンタンハイドロペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド等が挙げられる。また、アゾ化合物としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、アゾビスイソカプロニトリル等が挙げられる。
重合開始剤の含有量は、特に限定するものではないが、シルセスキオキサン誘導体に対して、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.5~3質量%である。
(ヒドロシリル化触媒)
重合性官能基として、ヒドロシリル基水素原子の存在下に不飽和有機基を備える場合、シルセスキオキサン誘導体のヒドロシリル化による硬化(ヒドロシリル化)に用いるヒドロシリル化触媒としては、例えば、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等の第8属から第10属金属の単体、有機金属錯体、金属塩、金属酸化物等が挙げられる。通常、白金系触媒が使用される。白金系触媒としては、cis-PtCl2(PhCN)2、白金カーボン、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンが配位した白金錯体(Pt(dvs))、白金ビニルメチル環状シロキサン錯体、白金カルボニル・ビニルメチル環状シロキサン錯体、トリス(ジベンジリデンアセトン)二白金、塩化白金酸、ビス(エチレン)テトラクロロ二白金、シクロオクタジエンジクロロ白金、ビス(シクロオクタジエン)白金、ビス(ジメチルフェニルホスフィン)ジクロロ白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金等が例示される。これらのうち、特に好ましくは1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンが配位した白金錯体(Pt(dvs))、白金ビニルメチル環状シロキサン錯体、白金カルボニル・ビニルメチル環状シロキサン錯体である。なお、Phはフェニル基を表す。触媒の使用量は、シルセスキオキサン誘導体の量に対して、0.1質量ppm以上1000質量ppm以下であることが好ましく、0.5~100質量ppmであることがより好ましく、1~50質量ppmであることが更に好ましい。
本組成物がヒドロシリル化反応用の触媒を含有する場合、構成単位(1-5)中の残存アルコキシ基又は水酸基の脱水重縮合よりも、ヒドロシリル化反応が優先する場合があり、ヒドロシリル化構造部分を有しつつ、上記アルコキシ基又は水酸基をさらなる架橋反応可能に備える場合がある。
本組成物がヒドロシリル化触媒を含有する場合、シルセスキオキサン誘導体のゲル化抑制および保存安定性向上のため、ヒドロシリル化反応抑制剤が添加されてもよい。ヒドロシリル化反応抑制剤の例としては、メチルビニルシクロテトラシロキサン、アセチレンアルコール類、シロキサン変性アセチレンアルコール類、ハイドロパーオキサイド、窒素原子、イオウ原子またはリン原子を含有するヒドロシリル化反応抑制剤などが挙げられる。
本組成物は、成膜に供するための組成物であってもヒドロシリル化触媒を実質的に含有しないものであってもよい。後述するように、シルセスキオキサン誘導体は、ヒドロシリル化触媒の不存在下でも加熱処理によりヒドロシリル化反応を促進して硬化させることができる。本組成物において、ヒドロシリル化触媒を実質的に含有しないとは、意図的にヒドロシリル化触媒を添加しない場合のほか、シルセスキオキサン誘導体の量に対して、ヒドロシリル化触媒の含有量が、例えば、0.1質量ppm未満、また例えば、0.05質量ppm以下である。
(溶剤)
シルセスキオキサン誘導体は、そのまま用いることもできるが、必要に応じて溶剤で希釈して成膜のために供することもできる。溶剤は、シルセスキオキサン誘導体を溶解する溶剤が好ましく、その例としては、芳香族系炭化水素溶剤、塩素化炭化水素溶剤、アルコール溶剤、エーテル溶剤、アミド溶剤、ケトン溶剤、エステル溶剤、セロソルブ溶剤、脂肪族系炭化水素溶剤等の各種有機溶剤を挙げることができる。なお、Ptなどのヒドロシリル化触媒存在下では、Si-H基の分解を避けるため、アルコール以外の溶剤が好ましい。
(その他の成分)
本組成物は、硬化に供されるにあたり、さらに各種添加剤が添加されてもよい。添加剤としては、例えば、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン類(トリアルコキシシラン、トリアルコキシビニルシランなど)などの反応性希釈剤や、シルセスキオキサン誘導体が備える重合性官能基と同種又は類似の重合性官能基を備えるモノマーやオリゴマーなどが挙げられる。これら添加剤は、得られるシルセスキオキサン誘導体の硬化物が耐熱性を損なわない範囲で使用される。
本組成物は、重合性シルセスキオキサン誘導体を含むため、その重合性官能基に基づきシルセスキオキサン誘導体の硬化物を得ることができる。シルセスキオキサン誘導体及びその硬化物は、層状化合物及び/又は酸素吸蔵材の存在により耐酸化性が向上しているため、硬化前もそして硬化後も、十分な耐熱性を有することができる。硬化前の高温での貯蔵安定性に優れるほか、高温での硬化並びに硬化後に高温に曝されても、所期の接着強度を維持することができるという効果を奏することができる。
本組成物は、例えば、200℃、また例えば、250℃、また例えば、300℃、また例えば、350℃において、従来のシルセスキオキサン誘導体系接着剤組成物に対して優れた接着強度を発揮することができる。すなわち、本組成物は、例えば200℃以上350℃以下、また例えば250℃以上300℃以下の温度において、優れた接着強度を発揮することができる。
より具体的には、例えば、硬化後200℃で95時間後においても、硬化直後の接着強度に対して、例えば20%以下、また例えば15%以下、また例えば10%以下、また例えば5%以下の低下が観察されるに過ぎない。また例えば、硬化後200℃で430時間後においても、硬化直後の接着強度に対して、例えば20%以下、また例えば10%以下、また例えば5%以下の低下が観察されるに過ぎない。さらに例えば、200℃で1000時間保持した後においても、例えば20%以下、また例えば10%以下、また例えば5%以下の低下が観察されるに過ぎない。なお、接着強度は、実施例に開示する接着強度の測定方法により測定することができる。
また、例えば、硬化後250℃で95時間後においても、硬化直後の接着強度に対して、例えば30%以下、また例えば20%以下、また例えば15%以下、また例えば10%以下、また例えば5%以下の低下が観察されるに過ぎない。また例えば、硬化後250℃で430時間後においても、硬化直後の接着強度に対して、例えば20%以下、また例えば10%以下、また例えば5%以下の低下が観察されるに過ぎない。さらに例えば、250℃で1000時間保持した後においても、例えば20%以下、また例えば10%以下、また例えば5%以下の低下が観察されるに過ぎない。
より具体的には、例えば、硬化後350℃で1時間後においても、硬化直後の接着強度に対して、例えば20%以下、また例えば15%以下、また例えば10%以下、また例えば5%以下の低下が観察されるに過ぎない。
より具体的には、例えば、硬化後200℃で95時間後においても、硬化直後の接着強度に対して、例えば20%以下、また例えば15%以下、また例えば10%以下、また例えば5%以下の低下が観察されるに過ぎない。また例えば、硬化後200℃で400時間後においても、硬化直後の接着強度に対して、さらに例えば、200℃で1000時間保持した後においても、例えば20%以下、また例えば10%以下、また例えば5%以下の低下が観察されるに過ぎない。
(本組成物を用いた接着方法)
本明細書に開示される接着方法は、本組成物を用いて2以上の被接着部位を接着する工程を備えることができる。本接着方法によれば、本組成物に含まれる重合性シルセスキオキサン誘導体を、その重合性官能基に基づき硬化させて被接着部位間に硬化層を形成する。この硬化層を介して被接着部位を接着することができる。この硬化層は、耐熱性に優れている。このため、本接着方法によれば、従来に比してより高い温度への曝露及び/又はより長時間の高温曝露に対しても当初又は本来の接着強度を維持することができる。また、本組成物(未硬化状態)の耐熱性も優れているために、接着時における硬化条件も従来よりも高温での硬化が可能となっている。
本組成物の被加工体表面への供給は、特に限定するものではないが、例えば、スプレーコート法、キャスト法、スピンコート法、バーコート法等の通常の塗工方法を用いることができる。
本組成物の硬化方法は、重合開始剤等の種類等に基づいて、周知の方法より適宜選択でき、特に限定されないが、加熱する方法及び/又は活性エネルギー線の照射が挙げられる。例えば、加熱により硬化させる際の条件は、特に限定されないが、例えば、30~200℃が好ましく、より好ましくは50~190℃であり、さらに、好ましくは80~160℃である。また、硬化時間は適宜設定することができるが、例えば、1時間から数時間程度である。上記活性エネルギー線としては、例えば、赤外線、可視光線、紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等のいずれを使用することもできる。
本組成物を被着部位に供給後に、本組成物の硬化に先立って適宜乾燥することができる。加熱により乾燥してもよい。
本接着方法における被接着部位としては特に限定されないが、例えば、耐熱性等が要求される種々の材料、部品及び製品等が挙げられる。例えば、被接着部位を有する材料としては、プラスチック、金属、セラミックス、半導体、ガラス、紙、木等が挙げられる。また例えば、被接着部位を備える部品としては、こうした材料を有する種々の形状や用途の部品(部材)が挙げられる。また例えば、被接着部位を備える製品としては、例えば、ボイラー若しくはその周辺の製品、ブレーキ若しくはその周辺の製品、内燃機関又はその周辺の製品、内燃機関を有する移動体の排ガス管やマフラー若しくはその周辺の製品、過熱水蒸気等に曝される製品、各種の燃料電池若しくはその周辺の製品、二次電池若しくはその周辺製品等が挙げられる。また、半導体チップ、ウエハのほか、これらを備えるマイクロプロセッサ、半導体メモリ、電源用IC、通信用IC、半導体センサー及びMEMSが挙げられる。
(本組成物の硬化物:重合性シルセスキオキサン誘導体の硬化物と層状化合物及び/又は酸素吸蔵材を含有する組成物)
本組成物の硬化物(以下、単に、本硬化物ともいう。)は、重合性シルセスキオキサン誘導体が重合性官能基によって重合し硬化された硬化物と、層状化合物及び/又は酸素吸蔵材と、を含有する組成物である。重合性シルセスキオキサン誘導体の硬化物としては、構成単位(1-2)~(1-4)に備える重合性官能基による反応で架橋を促進することで硬化させた硬化物が挙げられる。本硬化物は、本組成物と同様、層状化合物及び/又は酸素吸蔵材を含有することにより、重合性シルセスキオキサン誘導体の硬化物の酸化が抑制されるため、当該硬化物の耐熱性も向上されており、かかる耐熱性の向上が接着強度の維持向上に貢献している。
重合性シルセスキオキサン誘導体の硬化物は、重合性シルセスキオキサン誘導体における重合性官能基の少なくとも一部が当該官能基が本来的に有する重合性に基づいて重合した構造部分を有するシルセスキオキサン誘導体の誘導体を含むことができる。また、重合性シルセスキオキサン誘導体の硬化物は、構成単位(1-2)~(1-4)に備える水素原子と不飽和有機基との間でのヒドロシリル化反応を生じさせてより架橋を促進することで硬化させた硬化物が挙げられる。かかる硬化物は、シルセスキオキサン誘導体におけるこれらの構成単位におけるヒドロシリル化反応する官能基(ヒドロシリル基及び不飽和有機基)の少なくとも一部がヒドロシリル化反応して形成された不飽和有機基に由来する炭素-炭素結合(一重結合又は二重結合)を含む構造部分(-Si-C-C-Si-、-Si-C=C-Si-)(ヒドロシリル化構造部分ともいう。)を有するシルセスキオキサン誘導体の誘導体を含むことができる。
本硬化物が、例えば、本明細書に開示される接着方法において、被接着部位における硬化層として形成されている場合、本硬化物は、概して、シルセスキオキサン誘導体の二次硬化物を含有している。重合性官能基による重合部分のほかヒドロシリル化構造部分が、実用的な膜強度や膜性能に貢献することができる。
本硬化物は、例えば、重合性官能基による架橋構造によって特徴付けられる。本硬化物は、例えば、1H NMR、29Si NMRを用いた、Q単位、T単位、D単位及びM単位、アルコキシ基などの構成単位や構造の規則性(不規則性)による検出、及びIRスペクトルによる特性基の検出により、その組成や構造を特定することができる。
(本組成物の硬化物によって接着された被接着部位を備える装置)
本明細書に開示される装置は、本組成物の硬化物によって接着された被接着部位を備えることができる。かかる装置は、また、上記した接着方法によって得られた装置であってもよい。装置は、特に限定されないが、例えば、既に上記接着方法において開示した部品や製品が挙げられる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、この実施例に何ら限定されるものではない。さらに、得られたシルセスキオキサン誘導体の粘度を、E型粘度計を用いて25℃で測定した。また、以下の説明において、部、%は、いずれも、質量部及び質量%を表すものとする。
(シルセスキオキサン誘導体と層状化合物及び/又は酸素吸蔵材との硬化物の実施例1~17)
T単位にメタクリロイル基を有するシルセスキオキサン誘導体(東亞合成株式会社製、MAC-SQ TM-100、粘度4000mPa・s)70部と、タルク(日本タルク、SG95、D50=2.5μm)30部と、熱ラジカル開始剤(日本油脂、バーチブルE、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート)0.07部とを、バイアルに量り取り、自転公転ミキサーを用いて、1800rpmで1分間混合し、実施例1の組成物を得た。
実施例1の組成物を、サンドブラストしたアルミ板に塗布して、同様に、サンドブラストしたアルミ板に貼り合わせして、120℃で1時間加熱(ヤマト科学株式会社製、DK63)後、さらに150℃で1時間加熱して、熱硬化させることで実施例1の試験片(を得た。
表1に示す成分各部を用いた以外は、実施例1に対するのと同様の操作を行って、実施例2~17の組成物を調製し、各試験片を調製した。
(シルセスキオキサン誘導体のみ又はシルセスキオキサン誘導体と他の成分との硬化物の比較例1~3)
シルセスキオキサン誘導体のみを用いる以外は、実施例1と同様にして比較例1の組成物を調製し、試験片を調製したほか、表1に示す成分を用いた以外は、実施例1に対するのと同様の操作を行って、比較例2及び3の組成物及び試験片を調製した。
(エポキシ樹脂硬化物の比較例4~5)
表1に示す成分を用いた以外は、実施例1に対するのと同様の操作を行って比較例4及び5の組成物を調製し、試験片を調製した。
これらの試験片の一部につき、350℃で1時間で加熱した。また、一部の試験片につき、200℃で95時間、430時間、1000時間、加熱した。いずれも、実施例1と同様にヤマト科学株式会社製のDK63を用いて加熱した。加えて、一部の試験片については、250℃で95時間、430時間、1000時間、加熱した。
温度処理前後の試験片について、引張せん断強度試験を行った。また、一部の試験片について、200℃加熱中での引張せん断試験をも行った。試験片の引張せん断強度の測定は、東洋精機株式会社製のStrograph20-Cを用いて行った。また、試験片につき、200℃加熱中での引張せん断の測定も行った。引張速度は、いずれも10ミリ/分とした。結果を表1に示す。
なお、表中の表記について以下に説明する。
MAC-SQ TM-100:メタクリロイル基T単位含有ラジカル硬化型シルセスキオキサン(東亞合成株式会社製)
AC-SQ TA-100:アクリロイル基T単位含有ラジカル硬化型シルセスキオキサン(東亞合成株式会社製)
エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂
タルクSG95:タルク(層状珪酸マグネシウム塩化合物)、D50=2.5μm(日本タルク株式会社製)
タルクSG2000:タルク(層状珪酸マグネシウム塩化合物)、D50=1μm(日本タルク株式会社製)
タルクP-3:タルク(層状珪酸マグネシウム塩化合物)、D50=5μm(日本タルク株式会社製)
六方晶系窒化ホウ素: hBN(Wako hBN)、平均粒子径2~3μm(和光純薬工業株式会社製)
セリアジルコニア複合酸化物:CeO2/ZrO2、平均粒子径5~10nm
セリア1:CeO2、平均粒子径5~10nm
セリア2:CeO2、平均粒子径5.5μm
ジルコニア:ZrO2、平均粒子径10~15nm
酸化第二鉄:Fe2O3、平均粒子径50nm以下
パーブチルE:t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(日本油脂株式会社製)
なお、タルクのD50は、タルクを超音波を用いて分散させた分散液を用いて、SALD200(島津製作所製)を用いて行った。など市販のレーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置を用いることができる。また、六方晶系窒化ホウ素の平均粒子径も、レーザー回折・散乱法によって得られた粒度分布に基づいて測定したD50とした。
セリアジルコニア複合酸化物、セリア1、ジルコニア及び酸化第二鉄の平均粒子径は、吸着質として窒素(N2)ガスを用いたガス吸着法により測定されたガス吸着量を、BET法(多点法)で解析して得られる比表面積(m2/g、S)から、平均粒子径を求めた。なお、窒素ガス吸着量の測定にあたっては、各試料を、真空下300℃で12時間以上脱気した後、77Kでガス吸着させた。また、セリア2については、粒子径の関係から、タルク等と同様、レーザー回折・散乱法によって測定した。
表1に示すように、層状化合物のみを含んで硬化させたシルセスキオキサン誘導体硬化物で接着された試験片(実施例1~5)、層状化合物及び酸素吸蔵材を含んで硬化させた誘導体硬化物で接着された試験片(実施例6~16)及び酸素吸蔵材のみを含んで硬化させた誘導体硬化物で接着された試験片(実施例17)は、いずれも、温度処理前後において、引張せん断強度の低下が優れて抑制されていた。なかでも、実施例1~17における350℃1時間加熱処理後の引張せん断強度の変化率と、シルセスキオキサン誘導体硬化物のみの比較例1、他の成分を含有するシルセスキオキサン誘導体硬化物による比較例2~3及びエポキシ樹脂を使用した比較例4の同変化率と対比すると、層状化合物及び/又は酸素吸蔵材を用いた実施例の試験片は、350℃での引張せん断強度の低下がよく抑制されていたことがわかった。また、シリカや炭酸カルシウムなどを添加しても、全く添加しないのと同様であった。なお、層状化合物の一種である鉱物として、雲母及びスメクタイトについて、それぞれ実施例1と同様にして硬化物を取得して、同様に接着強度を測定したところ、層状化合物の添加効果を得ることができることも確認した。
さらに、層状化合物及び酸素吸蔵材の双方を含む実施例6~16によれば、これら両者を含むことが加熱処理後の引張せん断強度の低下の抑制(耐熱化)に有効であり、これらが相乗的に作用していることがわかった。また、350℃1時間でも、200℃又は250℃下での長時間保持でも、高い耐熱化効果が得られることがわかった。また、重合性官能基としてメタクロイル基であってもアクリロイル基を有するシルセスキオキサン誘導体についてほぼ同等の耐熱化効果が得られたことがわかった。
さらにまた、層状化合物については、実施例1~5に示すように、シルセスキオキサン誘導体7部に対して3部の使用で十分な効果が得られていることから、シルセスキオキサン誘導体と層状化合物との総質量に対して、例えば5%以上50%以下,好ましくは10%以上40%以下、より好ましくは20%以上40%以下の範囲で耐熱化効果を発揮するであろうことがわかった。また、酸素吸蔵材については、実施例6~17に示すように、酸素吸蔵材は、シルセスキオキサン誘導体と酸素吸蔵材との総質量に対して、例えば0.007%以上であれば有効であり、また、0.4%以上であればより有効であり、さらに、10%以上であればさらに有効であり、さらにまた、20%以上であればなお有効であることがわかった。また、添加量は30%であっても十分な接着強度を示していた。以上のことから、酸素吸蔵材は、シルセスキオキサン誘導体と酸素吸蔵材との総質量に対して、例えば0.07%以上30%以下、好ましくは、0.4%以上20%以下などとすることができることがわかった。
また、酸素吸蔵材は、シルセスキオキサン誘導体硬化物に対しては、耐熱作用を示したが、エポキシ樹脂については耐熱化作用を十分には示していなかった。
以上のことから、層状化合物及び酸素吸蔵材のこうした作用は、シルセスキオキサン誘導体又はその硬化物に対してより有効に作用していることがわかった。
また、層状化合物であるタルク及び六方晶窒化ホウ素は、いずれも優れた耐熱化作用を発揮したが、平均粒子径が小さい場合がより耐熱化作用が大きいことがわかった。すなわち、平均粒子径が5μmを超えると、耐熱化効果がばらつく傾向があった。したがって、層状化合物は、平均粒子径が5μm未満であり、好ましくは4μm以下、より好ましくは3μm以下であることが好適であることがわかった。
また、実施例1~5と比較例1、酸素吸蔵材がより高い耐熱化作用を発揮することがわかった。酸素吸蔵材のなかでは、酸素吸蔵能が高いセリアジルコニア複合酸化物が最も高い耐酸化作用も高いことがわかった。また、酸素吸蔵材においても、平均粒子径が5μmを超えると耐酸化作用が低下する傾向があり、酸素吸蔵材の平均粒子径は、好ましくは5μm未満であり、より好ましくは4μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下であり、なお好ましくは2μm以下であり、一層好ましくは1μm以下であることがわかった。