JP7207004B2 - 電動車両の制御装置 - Google Patents

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Description

この発明は、少なくともモータを駆動力源とする電動車両であって、モータが出力するトルクで発進および走行する電動車両の制御装置に関するものである。
特許文献1には、モータを駆動力源とする電動車両が記載されている。この特許文献1に記載された電動車両は、シフトポジションが走行ポジションにあり、アクセルペダルが操作されておらず、かつ、車速が所定値以下である場合に、ブレーキペダルの操作量にほぼ反比例するトルク(擬似クリープトルク)をモータから出力する。ブレーキペダルの操作量が大きい場合は小さな擬似クリープトルクが発生し、ブレーキペダルの操作量が小さい場合は大きな擬似クリープトルクが発生する。そのような擬似クリープトルクにより、極低速で電動車両を発進および走行させる、いわゆるクリープ走行が可能である。
また、特許文献2に記載された電動車両は、運転者のシフト操作によって選択されるシフトポジションに応じて、モータの出力トルクを駆動輪に伝達して走行する。また、モータの微小な出力トルク(擬似クリープトルク)によって極低速でのいわゆるクリープ走行が可能である。更に、この特許文献2に記載された電動車両は、所定の許可条件が成立する間は、モータによる擬似クリープトルクの出力を停止するクリープカットを実行する。例えば、ブレーキスイッチがONになる制動状態、かつ、車速が所定値以下になる停車状態で、クリープカットが行われる。そのようなクリープカットを行うことにより、モータの電力消費量を削減できる。そして、この特許文献2に記載された電動車両は、クリープカットの実行中に、選択されたシフトポジションが、例えば、D(ドライブ)ポジションやR(リバース)ポジションなどの走行ポジションである場合に、その走行ポジションでの駆動方向と同じ方向の極小さなトルク(がた詰めトルク)をモータで出力する。それにより、クリープカットの実行中に、がた詰めトルクによって駆動系統におけるがたが詰められた状態になり、クリープカット終了後のクリープ走行再開時や通常の発進・加速時に、歯車の歯打ち音やショックの発生を抑制できる。
特開2001-103618号公報 特開2011-250648号公報
従来、例えばエンジンを駆動力源として自動変速機を搭載した一般的な車両は、エンジンの出力トルクをトルクコンバータおよび自動変速機を介して駆動輪に伝達する。したがって、エンジンが稼働している間はトルクコンバータの作用によって常に微小な駆動トルク、すなわち、いわゆるクリープトルクが発生している。そのようなクリープトルクによって、車両をスムーズに発進させることができ、また、極低車速でのクリープ走行が可能である。
一方、上記の特許文献1および特許文献2に記載された電動車両では、モータで擬似クリープトルクを出力することより、上記のような従来の車両と同様に、電動車両を発進させること、および、クリープ走行させることができる。但し、擬似クリープトルクを発生させる際には、モータで電力を消費する。そこで、特許文献2に記載された電動車両のように、所定の条件の下でクリープカットを実行することにより、モータの電力消費量を削減し、電動車両のエネルギ効率を向上させることができる。
しかしながら、特許文献2に記載されているようなクリープカットを行う電動車両、あるいは、元来クリープトルクや擬似クリープトルクを出力しない電動車両では、例えば、運転者がブレーキペダルを踏み込んで電動車両を停止させている状態から、ブレーキペダルの踏み込みを戻して、電動車両を発進させる際に、運転者に違和感や不安感を与えてしまう可能性がある。例えば、前述したようなトルクコンバータを有する従来一般的な車両では、エンジンの稼働中は、常時、クリープトルクが発生している。そのため、運転者がブレーキペダルの踏み込みを戻す際には、車両の制動力が減少するのに伴い、クリープトルクによる駆動力が増大し、それに起因する車両挙動の変化や振動が発生する。運転者は、そのような車両挙動の変化や振動を体感することにより、車両の制動が解除されて発進可能な状態に移行する状況を認識できる。それに対して、上記のようなクリープトルクや擬似クリープトルクを出力しない電動車両、あるいは、クリープカットを行う電動車両では、運転者がブレーキペダルの踏み込みを戻す際に、従来のようなクリープトルクによる駆動力の変動や振動が発生せず、車両挙動が何も変化しない。したがって、運転者は、上記のような発進可能な状態に移行する状況を体感できない。そのため、例えば、従来一般的なクリープトルクを生じる車両の運転に慣れた運転者は、上記のようなクリープトルクや擬似クリープトルクを出力しない電動車両、あるいは、クリープカットを行う電動車両で、発進時にブレーキペダルの踏み込みを戻す際に、車両挙動が何も変化しないことに違和感を覚えたり、あるいは、シフトポジションが正しく設定されているかどうか不安に感じてしまったりするおそれがある。
この発明は、上記の技術的課題に着目して考え出されたものであり、クリープトルクや擬似クリープトルクを出力しない電動車両、あるいは、クリープカットを行う電動車両であっても、モータの電力消費を抑制しつつ、運転者に違和感や不安感を与えることなく、運転者が適切にブレーキを操作できる電動車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、この発明は、少なくともモータを有する駆動力源と、運転者のブレーキ操作に応じて制動力を発生するブレーキ装置と、前記制動力に関連するデータを検出する検出部と、前記モータを制御するコントローラとを備えた電動車両の制御装置であって、前記コントローラは、前記ブレーキ操作により前記電動車両を制動して停止させている状態で、前記運転者が前記制動力を0に戻すブレーキ戻し操作を行う際に、前記ブレーキ戻し操作に伴う車両挙動の変化を前記運転者に体感させる信号トルクを前記モータに出力させ、前記制動力が0に戻る前に、前記モータによる前記信号トルクの出力を終了させるとともに、前記信号トルクは、前記電動車両を発進させることなく停止状態を維持し、前記車両挙動の変化として前記運転者が体感可能な振動を生じさせる前記モータの出力トルクであることを特徴とするものである。
また、この発明は、前記運転者によって操作され、前記駆動力源の出力トルクを駆動輪に伝達して駆動力を発生させる走行ポジション、および、前記出力トルクを前記駆動輪に伝達せず前記駆動力を発生させない非走行ポジションの二系統のシフトポジションを選択的に設定するシフト装置を備えることができ、そのような構成の場合に、この発明における前記検出部は、前記シフト装置で設定される前記シフトポジションを検出し、この発明における前記コントローラは、前記シフト装置で前記走行ポジションが設定されている場合に、前記走行ポジションで前記電動車両を駆動する駆動トルクの回転方向と同方向の前記信号トルクを前記モータに出力させることを特徴としている。
また、この発明における前記コントローラは、前記駆動トルクの回転方向と同方向の前記信号トルクを前記モータに出力させた後に、前記駆動トルクの回転方向と逆方向の前記信号トルクを前記モータに出力させることを特徴としている。
また、この発明における前記コントローラは、前記信号トルクを出力することよって発生する駆動力の絶対値が前記制動力の絶対値を上回らないように前記モータを制御することを特徴としている。
そして、この発明における前記コントローラは、前記制動力が0に戻る際の低下速度が所定値よりも大きい場合は、前記信号トルクを前記モータに出力させないことを特徴としている。
この発明における電動車両の制御装置は、クリープトルクや擬似クリープトルクを出力しない電動車両、あるいは、クリープカットを行う電動車両を対象にしている。そして、運転者が、ブレーキ操作により、制動力を発生させて車両を停止させた状態から、ブレーキ戻し操作により、制動力を0に戻して車両を発進させる際に、そのブレーキ戻し操作の途中で駆動力が変化したことを運転者に体感させるための信号トルクを出力する。その場合、信号トルクによって電動車両が駆動されることがないように、また、信号トルクによって運転者が体感可能な車両挙動の変化や振動が生じるように、モータの出力トルクが制御される。従来、エンジンの出力トルクをトルクコンバータおよび自動変速機を介して駆動輪に伝達する一般的な車両では、不可避的にクリープトルクが発生し、運転者がブレーキ戻し操作を行う際には、低下する制動トルクに対してクリープトルクが相対的に大きくなることに起因して車両挙動の変化あるいは振動が発生する。運転者は、そのような車両挙動の変化や振動を体感することにより、制動力が低下してクリープトルクによる駆動力が作用し始めることを認識する。一方、クリープトルクや擬似クリープトルクを出力しない電動車両、あるいは、クリープカットを行う電動車両では、運転者がブレーキ戻し操作を行う際に、上記のようなクリープトルクに起因する車両挙動の変化や振動が生じない。それに対して、この発明における電動車両の制御装置によれば、運転者がブレーキ操作を戻す際に、モータが出力する信号トルクによって、運転者に車両挙動の変化あるいは振動を体感させることができる。そのため、運転者は、クリープトルクや擬似クリープトルクを出力しない電動車両、あるいは、クリープカットを行う電動車両であっても、違和感や不安感を覚えることなく、従来の車両を運転する感覚と同様の感覚で、適切に、ブレーキ装置を操作し、電動車両を発進させることができる。
また、この発明における電動車両の制御装置では、上記の信号トルクは、電動車両の停止状態を変化させることなく、かつ、運転者が体感できる電動車両の振動を生じさせるモータの出力トルク(駆動トルク)である。したがって、電動車両が停止している状態で運転者がブレーキ戻し操作を行った場合は、その際の停止状態が維持されて電動車両は発進することなく、ブレーキ戻し操作に伴う振動が発生する。また、その振動の発生に伴って車両挙動が変化する。信号トルクの出力によって上記のような振動が発生することにより、例えば、電動車両のサスペンションの伸縮位置が変化し、車体の姿勢が変動する。すなわち、電動車両の車両挙動が変化する。したがって、運転者は、シフトポジションを切り替えた場合に、上記のようなブレーキ戻し操作に伴う振動、および、そのような振動に起因する車両挙動の変化を適切にかつ確実に体感する。そのため、この発明における電動車両の制御装置によれば、クリープトルクや擬似クリープトルクを出力しない電動車両、あるいは、クリープカットを行う電動車両であっても、運転者に、違和感や不安感を与えることなく、従来の車両を運転する感覚と同様の感覚で、適切にブレーキ装置を操作させることができる。
また、この発明における電動車両の制御装置によれば、シフト装置がDポジションやRポジションなどの走行ポジションに設定され、上記のような運転者のブレーキ戻し操作が行われた際に、モータによって上記のような信号トルクが出力される。その場合、電動車両を走行させる駆動トルクと同じ回転方向の信号トルクを出力するように、モータが制御される。例えば、シフトポジションがDポジションに設定されている場合は、電動車両を前進させる回転方向の信号トルクが出力される。シフトポジションがRポジションに設定されている場合は、電動車両を後進させる回転方向の信号トルクが出力される。したがって、運転者は、走行ポジションを選択した後にブレーキ戻し操作を行って電動車両を発進させる際に、今後の走行方向を体感して認識することができる。そのため、運転者は、違和感や不安感を覚えることなく、従来の車両を運転する感覚により近い感覚で、ブレーキを操作し、電動車両を発進させることができる。
なお、前述した特許文献2に記載された電動車両における「がた詰めトルク」は、上記のような「信号トルク」と同様に、電動車両を走行させる駆動トルクと同じ回転方向のトルクである。しかしながら、この発明における「信号トルク」が、上記のように、運転者に車両挙動の変化や振動を体感させるためのトルクであるのに対して、特許文献2に記載された「がた詰めトルク」は、伝動系のがたを詰めて、運転者にショックや振動を体感させないようにするためのトルクである。そのため、特許文献2に記載された「がた詰めトルク」は、ショックを発生させずに伝動系のがたを詰めるための、極めて小さなトルクである。言い換えると、特許文献2に記載された「がた詰めトルク」は、運転者が体感できる車両挙動の変化あるいは車両の振動を生じさないようにするためのトルクである。それに対して、この発明における「信号トルク」は、電動車両の停止状態を変化させない範囲で、運転者が体感できる車両挙動の変化や振動を生じさせるためのトルクであり、相対的に大きなトルクである。したがって、この発明における「信号トルク」と、特許文献2に記載された「がた詰めトルク」とは、両者のトルクの性質や大きさ等が異なっている。
また、この発明における電動車両の制御装置によれば、運転者が、シフトポジションを走行ポジションに設定し、ブレーキ戻し操作を行って電動車両を発進させる際には、上記のように電動車両の走行方向と同じ回転方向の信号トルクが出力され、それに続いて、電動車両の走行方向と逆の回転方向の信号トルクが出力される。したがって、この場合に出力される信号トルクは、いわゆる両振り荷重(あるいは、交番荷重)となり、そのような信号トルクによって生じる車両挙動の変化や振動を、運転者に体感させ易くする。そのため、運転者は、走行ポジションを選択した後にブレーキ戻し操作を行って電動車両を発進させる際に、ブレーキ戻し操作に伴う車両挙動の変化や振動を確実に体感して認識することができる。
また、この発明における電動車両の制御装置によれば、モータによって信号トルクを出力する際には、その信号トルクが運転者のブレーキ操作によって発生している制動トルクを上回ることがないように、モータが制御される。したがって、電動車両が停止している状態で、ブレーキ戻し操作に伴って信号トルクを出力する場合に、ブレーキ装置が発生する制動力により、電動車両の停止状態を確実に維持することができる。そのため、モータが出力する信号トルクによって、運転者に車両挙動の変化あるいは振動を適切に体感させることができる。
そして、この発明における電動車両の制御装置では、運転者のブレーキ戻し操作の操作速度が速く、信号トルクの出力が間に合わないような場合は、信号トルクを出力しない。そのため、例えば、運転者のブレーキ戻し操作のタイミングとずれて信号トルクを出力してしまうことにより、運転者に違和感を与えてしまったり、信号トルクで車両を走行させてしまったりする事態を回避できる。
この発明で制御対象にする電動車両の構成(駆動系統および制御系統)の一例を示す図である。 この発明における電動車両のコントローラで実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。 図2のフローチャートで示す制御を実行する場合の“Phase”を説明するためのタイムチャートである。 図2のフローチャートで示す制御を実行した場合の車両の挙動を説明するためのタイムチャートである。 この発明における電動車両のコントローラで実行される制御の他の例(片側だけの駆動力を発生させる例)を説明するためのフローチャートである。 この発明における電動車両のコントローラで実行される制御の他の例(ブレーキ戻し操作の途中で操作速度が速められるケース)を説明するためのフローチャートである。 この発明における電動車両のコントローラで実行される制御の他の例(ブレーキ戻し操作の途中でブレーキ操作が行われるケース)を説明するためのフローチャートである。 この発明における電動車両のコントローラで実行される制御の他の例(ブレーキ戻し操作の操作速度が速すぎて駆動力の増大が間に合わないケース)を説明するためのフローチャートである。
この発明の実施形態を、図を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、この発明を具体化した場合の一例に過ぎず、この発明を限定するものではない。
この発明の実施形態で制御対象にする車両は、少なくとも一基のモータを駆動力源とする電動車両である。駆動力源として一基または複数のモータを搭載した電気自動車であってもよい。あるいは、駆動力源としてエンジンおよびモータを搭載したいわゆるハイブリッド車両でもよい。それら電気自動車またはハイブリッド車両のいずれであっても、駆動力源のモータが出力するトルクを駆動輪に伝達して駆動力を発生する。また、この発明の実施形態で制御対象にする電動車両は、運転者によって操作されるブレーキ装置およびシフト装置を備えている。ブレーキ装置は、運転者のブレーキ操作に応じた制動力を発生する。シフト装置は、駆動力源の出力トルクを駆動輪に伝達して駆動力を発生させる走行ポジションと、駆動力源の出力トルクを駆動輪に伝達せず、駆動力を発生させない非走行ポジションとの二系統のシフトポジションを選択的に設定する。そして、この発明の実施形態における電動車両の制御装置は、上記のような電動車両を制御対象にして、運転者がブレーキ装置を操作し、制動されて停止している電動車両の制動を解除する際に、電動車両の停止状態を変化させることなく、かつ、ブレーキ装置の操作に伴う車両挙動の変化を運転者に体感させるための信号トルクを、一時的に、モータに出力させるように構成されている。
図1に、この発明の実施形態で制御対象にする電動車両の駆動系統および制御系統の一例を示してある。図1に示す電動車両(以下、車両)Veは、駆動力源としてモータ1を搭載した電気自動車である。車両Veは、主要な構成要素として、駆動輪2、ブレーキ装置3、シフト装置4、検出部5、および、コントローラ(ECU)6を備えている。なお、上述したように、この発明の実施形態における駆動力源は、モータ1および他のモータ(図示せず)の複数のモータを備えていてもよい。また、モータ1およびエンジン(図示せず)を備えていてもよい。あるいは、モータ1およびエンジン(図示せず)、ならびに、動力分割機構や変速機などのトランスミッション(図示せず)を備えたハイブリッド駆動ユニットであってもよい。
モータ1は、例えば、永久磁石式の同期モータ、あるいは、誘導モータなどによって構成されており、駆動輪2に動力伝達可能に連結されている。モータ1は、少なくとも、電力が供給されることにより駆動されてトルクを出力する原動機としての機能を有している。また、モータ1は、外部からトルクを受けて駆動されることによって電力を発生する発電機として機能させてもよい。すなわち、モータ1は、原動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えたいわゆるモータ・ジェネレータであってもよい。モータ1には、インバータ(図示せず)を介して、バッテリ(図示せず)が接続されている。したがって、バッテリに蓄えられている電力をモータ1に供給し、モータ1を原動機として機能させて、駆動トルクを出力することができる。また、駆動輪2から伝達されるトルクによってモータ1を発電機として機能させて、その際に発生する回生電力をバッテリに蓄えることもできる。モータ1は、後述するコントローラ6によって出力回転数や出力トルクが電気的に制御される。また、モータ・ジェネレータであれば、上記のような原動機としての機能と発電機としての機能との切り替えなどが電気的に制御される。
駆動輪2は、駆動力源が出力する駆動トルクが伝達されること、すなわち、図1に示す例では、モータ1の出力トルクが伝達されることにより、車両Veの駆動力を発生する車輪である。図1に示す例では、駆動輪2は、デファレンシャルギヤ7、および、ドライブシャフト8を介して、モータ1の出力軸1aに連結されている。車両Veは、駆動トルク(モータ1の出力トルク)を後輪に伝達して駆動力を発生させる後輪駆動車であってもよい。また、この発明の実施形態における車両Veは、駆動トルクを前輪に伝達して駆動力を発生させる前輪駆動車であってもよい。あるいは、駆動トルクを前輪および後輪の両方に伝達して駆動力を発生させる四輪駆動車であってもよい。
なお、図1では示していないが、この発明の実施形態における車両Veは、駆動力源と駆動輪2との間に、所定の変速機構あるいは減速機構を備えていてもよい。例えば、モータ1の出力側に自動変速機を設け、モータ1の出力トルクを増減して駆動輪2側へ伝達する構成であってもよい。また、図1では示していないが、この発明の実施形態における車両Veは、駆動力源と駆動輪2との間に、トルクコンバータに代わる発進装置として、発進クラッチを備えていてもよい。例えば、車両Veが、駆動力源としてモータ1と共にエンジンを搭載するハイブリッド車両であれば、エンジンと駆動輪2との間に、発進クラッチを設けた構成であってもよい。その場合、発進クラッチは、例えば、伝達トルク容量を連続的に変化させることができる摩擦クラッチが用いられる。したがって、エンジンが出力するトルクを駆動輪2に伝達する際に、発進クラッチの係合状態を制御して伝達トルク容量を連続的に変化させることにより、スムーズな動力伝達を行うことができる。あるいは、スムーズな発進を行うことができる。
ブレーキ装置3は、車両Veの制動力を発生する装置であり、例えば、油圧式のディスクブレーキやドラムブレーキなど、従来一般的な構成が用いられる。ブレーキ装置3は、例えば、運転者によるブレーキペダルやブレーキレバーなどの操作装置(図示せず)の操作によって作動し、車両Veの制動力(制動トルク)を発生する。図1に示す例では、ブレーキ装置3は、運転者によるブレーキペダル9の踏み込み操作に応じて制動力を発生するように構成されている。したがって、ブレーキ装置3は、例えば油圧式のブレーキシステムであれば、ブレーキペダルの踏み込み量あるいは踏力に応じたブレーキ油圧が作用し、そのブレーキ油圧に応じた制動力を発生する。
シフト装置4は、例えば、シフトレバー(図示せず)やシフトパドル(図示せず)を有しており、運転者によって操作される。シフト装置4は、大別して、走行ポジションと非走行ポジションとの二系統のシフトポジションを選択的に設定する。走行ポジションは、駆動力源の出力トルクを駆動輪2に伝達し、駆動力を発生させるシフトポジションである。例えば、車両Veを前進走行させるD(ドライブ)ポジション、および、車両Veを後進走行させるR(リバース)ポジションが、走行ポジションに相当する。また、例えば、上記のような自動変速機で、Dポジションよりも大きな変速比を設定するB(ブレーキ)ポジションも、走行ポジションに相当する。一方、非走行ポジションは、駆動力源の出力トルクを駆動輪2に伝達せず、駆動力を発生させないシフトポジションである。例えば、N(ニュートラル)ポジション、および、P(パーキング)ポジションが、非走行ポジションに相当する。Nポジションでは、例えば、モータ1の出力トルクが0になるように制御され、車両Veが駆動されない状態になる。あるいは、上記のような自動変速機がニュートラルに設定されて、駆動力源と駆動輪2との間の動力伝達が遮断される。あるいは、上記のような発進クラッチが解放状態にされて、駆動力源と駆動輪2との間の動力伝達が遮断される。また、Pポジションでは、上記のようなNポジションの状態に加え、パーキングブレーキやパーキングロック機構などが作動して、駆動輪2の回転がロックされる。
検出部5は、車両Veを制御する際に必要な各種のデータや情報を取得するためのセンサ、機器、装置、および、システム等を総称している。特に、この発明の実施形態における検出部5は、後述するように、運転者がブレーキ装置3を操作して車両Veの制動を解除する際に、モータ1で信号トルクを出力する制御を適切に実行するためのデータを検出する。そのために、検出部5は、少なくとも、運転者のブレーキ操作に応じてブレーキ装置3で発生する制動力に関連するデータを検出するセンサを有している。例えば、運転者によるブレーキペダル9の操作状態(操作量、操作速度、踏力など)を検出するブレーキペダルセンサ5aや、ブレーキ装置3を作動させる油圧を検出するブレーキ油圧センサ5bなどを有している。その他に、検出部5は、例えば、シフト装置4で設定されるシフトポジションを検出するシフトポジションセンサ5c、車両Veの車速を検出するための車速センサ(または、車輪速センサ)5d、車両Veの加速度を検出するための加速度センサ5e、モータ1の回転数を検出するモータ回転数センサ(または、レゾルバ)5fなどの各種センサを有している。そして、検出部5は、後述するコントローラ6と電気的に接続されており、上記のような各種センサや機器・システム等の検出値または算出値に応じた電気信号を検出データとしてコントローラ6に出力する。
コントローラ6は、例えばマイクロコンピュータを主体にして構成される電子制御装置であり、この図1に示す例では、主に、モータ1を制御する。また、車両Veが自動変速機や発進クラッチなどを備えた構成であれば、コントローラ6は、それら自動変速機や発進クラッチをそれぞれ制御する。コントローラ6には、上記の検出部5で検出または算出された各種データが入力される。コントローラ6は、入力された各種データおよび予め記憶させられているデータや計算式等を使用して演算を行う。そして、コントローラ6は、その演算結果を制御指令信号として出力し、上記のような、モータ1の動作を制御するように構成されている。なお、図1では一つのコントローラ6が設けられた例を示しているが、コントローラ6は、例えば制御する装置や機器毎に、あるいは制御内容毎に、複数設けられていてもよい。
上記のように、この発明の実施形態で制御の対象にする車両Veは、モータ1を駆動力源とする電動車両であり、例えばエンジンの出力トルクを自動変速機を介して駆動輪に伝達する従来一般的な車両のようなトルクコンバータを備えていない。そのため、トルクコンバータを備えた従来の車両のようなクリープトルクを発生しない。モータ1が出力するトルクによって、擬似的なクリープトルクを生じさせることも可能であるが、例えば、前述した特許文献2で開示されているように、電力消費量を削減するためのクリープカットが実施される場合もある。前述したように、従来のクリープトルクや擬似クリープトルクを出力しない電動車両、あるいは、クリープカットを行う電動車両では、運転者がブレーキペダルの踏み込みを戻して電動車両の制動を解除する際に、クリープトルクによる車両挙動の変化や振動が生じない。そのため、従来のクリープトルクを生じる車両の運転に慣れた運転者の中には、ブレーキペダルの踏み込みを戻す際に、違和感を覚えたり、不安を感じてしまったりするおそれがある。そこで、この発明の実施形態における電動車両の制御装置は、運転者がブレーキ装置3を操作して車両Veの制動を解除する際に、そのブレーキ装置3の操作に伴う車両挙動の変化を生じさせる信号トルクを、モータ1で出力するように構成されている。
図2は、そのような信号トルクの出力制御の一例を示すフローチャートである。この図2のフローチャートで示す制御は、運転者によるブレーキペダル9の踏み込み操作(ブレーキ操作)が行われており、かつ、車両Veが停止している場合に実行される。例えば、ブレーキペダル9の操作量が所定の操作量以上、あるいは、ブレーキペダル9の踏力が所定の踏力以上であり、かつ、車速が0である場合に実行される。
図2のフローチャートにおいて、先ず、ステップS1で、車両Veの制動力Fbkが取得される。具体的には、運転者のブレーキ操作に応じて発生している車両Veの制動力Fbkが求められる。制動力Fbkは、例えば、ブレーキペダルセンサ5aで検出されるブレーキペダル9の操作量あるいは踏力、および、ブレーキ油圧センサ5bで検出されるブレーキ圧などに基づいて算出できる。また、この場合に、例えば、路面勾配、および、車両Ve周辺の風速やタイヤの転がり抵抗などの走行抵抗を考慮して制動力Fbkを算出してもよい。路面勾配および走行抵抗は、例えば加速度センサ5eの検出値に基づいて推定できる。
続いて、ステップS2では、駆動力上限Fupが算出される。駆動力上限Fupは、後述するように、モータ1で信号トルクを出力することによって発生する駆動力Fが、上記のように運転者のブレーキ操作によって発生している制動力Fbkの絶対値を超えないようにするために設定される駆動力側の閾値である。具体的には、駆動力上限Fupは、上記のステップS1で算出される制動力Fbkの絶対値から所定値Aを減算することによって算出できる。所定値Aは、例えば、走行実験やシミュレーションの結果を基に、予め設定されている。そのような所定値Aにより、駆動力上限Fupは、上記のように信号トルクによって発生する駆動力Fが、運転者のブレーキ操作およびブレーキ戻し操作によって発生する制動力Fbkの絶対値を超えないようにするための上限を規定するとともに、その駆動力Fによって運転者が体感可能な車両挙動の変化あるいは振動を発生するように、設定されている。後述するように、信号トルクに相当する駆動力Fが、この駆動力上限Fupを超えないように、モータ1の出力トルクが制御される。
ステップS3では、駆動力下限Flowが算出される。駆動力下限Flowは、後述するように、モータ1で、車両Veを走行させる駆動トルクの回転方向と逆方向の信号トルクを出力することによって発生する制動力が、上記のように運転者のブレーキ操作によって発生している制動力Fbkを上回ることがないように設定される制動力側の閾値である。具体的には、駆動力下限Flowは、上記のステップS2で設定される駆動力上限Fupに“-1”を乗算することによって算出できる。駆動力下限Flowは、上記のように信号トルクによって発生する制動力が、運転者のブレーキ操作およびブレーキ戻し操作によって発生する制動力Fbkを超えないようにするための上限を規定するように、設定されている。後述するように、信号トルクに相当する駆動力Fが、この駆動力下限Flowを超えないように、モータ1の出力トルクが制御される。
ステップS4では、この制御における現在のPhaseが“0”であるか否かが判断される。この発明の実施形態における信号トルクの出力制御では、図3に示すように、モータ1による信号トルクの出力状態、すなわち、信号トルクによって発生する駆動力Fの発生状態に応じた制御のPhaseをそれぞれ定義している。“Phase0”は、制御の開始時点から、最初に駆動力Fが変化し始めるまでの間の状態である。“Phase1”は、駆動力Fが第1目標値F1に向かって変化し始めた時点から、駆動力Fが第1目標値F1に到達するまでの間の状態である。“Phase2”は、駆動力Fが第1目標値F1に到達した時点から、駆動力Fが第2目標値F2に向かって変化するまでの間の状態である。“Phase3”は、駆動力Fが第2目標値F2に到達した時点から、駆動力Fが最終目標値Fendに向かって変化するまでの間の状態である。“Phase4”は、駆動力Fが最終目標値Fendに到達した時点以降の状態である。
制御の開始当初は、Phaseは“0”に設定されている。あるいは、Phaseは“0”にリセットされている。そのため、このステップS4では、現在のPhaseが“0”であることにより肯定的に判断されて、ステップS5へ進む。
ステップS5では、ブレーキ戻し操作中であるか否かが判断される。ブレーキ戻し操作は、例えば、運転者が踏み込んでいたブレーキペダル9を戻して、車両Veの制動を解除する操作、すなわち、車両Veの制動力Fbkを0に戻す操作である。前述したように、この発明の実施形態では、モータ1で信号トルクを出力することにより、上記のようなブレーキ戻し操作に伴う車両挙動の変化を一時的に発生させる。
したがって、未だ、運転者によるブレーキ戻し操作が行われていないことにより、このステップS5で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、この図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。それに対して、運転者によるブレーキ戻し操作が行われたことにより、ステップS5で肯定的に判断された場合は、ステップS6へ進む。
ステップS6では、車両Veの制動力Fbkが所定値Bよりも小さいか否かが判断される。この場合の所定値Bは、運転者によるブレーキ戻し操作の進行度合いを判断するための閾値である。制動力Fbkがこの所定値Bよりも小さくなった場合に、ブレーキ戻し操作に伴う車両挙動の変化を生じさせるための、モータ1による信号トルクの出力を開始する。所定値Bは、例えば走行実験やシミュレーションの結果を基に、予め設定されている。
したがって、未だ、制動力Fbkが所定値B以上であることにより、このステップS6で否定的に判断された場合は、以降の制御を実行することなく、この図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。それに対して、制動力Fbkが所定値Bよりも小さくなったことにより、ステップS6で肯定的に判断された場合は、ステップS7へ進む。
ステップS7では、Phaseが“1”に移行される。前述したように、“Phase1”では、駆動力Fが第1目標値F1に向けて変化させられる。図4のタイムチャートに示す例では、駆動力Fが第1目標値F1に向けて増大させられる。
続いて、ステップS8では、駆動力Fが駆動力上限Fupに到達したか否かが判断される。上記のステップS7で、Phaseを“1”に移行した回のルーチンでは、未だ、駆動力Fの増大は開始されていない。したがって、駆動力Fは、未だ、駆動力上限Fupに到達することはなく、このステップS8では、否定的に判断されて、ステップS9へ進む。
ステップS9では、駆動力Fが駆動力下限Flowに到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが駆動力下限Flow以下になったか否かが判断される。このステップS9は、後述するように、Phase2において、駆動力Fを低下させる場合の下限を判断するものである。この場合は、未だPhase1からPhase2に移行していない。そのため、このステップS9では否定的に判断されて、ステップS10へ進む。
ステップS10では、現在の駆動力Fの値が、駆動力Fmとして記憶される。例えば、コントローラ6に内蔵されたRAM[Random Access Memory]に格納される。駆動力Fmが格納されると、この図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。すなわち、この図2のフローチャートで示す今回のルーチンを終了する。
この図2のフローチャートで示す次回のルーチンでは、ステップS1からステップS3の制御が前回と同様に実行される。そして、ステップS4では、現在のPhaseが“1”であることによって否定的に判断されて、ステップS11へ進む。
ステップS11では、現在のPhaseが“1”であるか否かが判断される。上記のように、現在のPhaseは“1”であるので、このステップS11では肯定的に判断されて、ステップS12へ進む。
ステップS12では、モータ1による信号トルクの出力が開始される。すなわち、前回のルーチンで、Phase0からPhase1に移行されたことにより、モータ1が信号トルクとして駆動トルクを出力するように制御される。シフト装置4のシフトポジションが、例えばDポジションまたはBポジションなどの前進方向の走行ポジションに設定されていれば、車両Veを前進方向に走行させる駆動トルクの回転方向と同方向の信号トルクが出力される。シフト装置4のシフトポジションが、Rポジション、すなわち、後進方向の走行ポジションに設定されていれば、車両Veを後進方向に走行させる駆動トルクの回転方向と同方向の信号トルクが出力される。このような信号トルク、すなわち、モータ1が出力する駆動トルクにより、車両Veに駆動力Fが発生する。
具体的には、前回のルーチンで格納した駆動力Fmに駆動力ΔF1を加算した値となるように、駆動力Fが増大される。駆動力ΔF1は、Phase1における1ルーチン当たりの駆動力Fの変化量である。したがって、Phase1においては、前述の図3に示したように、駆動力ΔF1を傾き(変化の割合)にして、信号トルクの出力によって発生する駆動力Fが増大する。
続いて、ステップS13では、上記のようにステップS12で増大させた駆動力Fが第1目標値F1に到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが第1目標値F1以上になったか否かが判断される。
未だ、駆動力Fが第1目標値F1未満であることにより、このステップS13で否定的に判断された場合は、ステップS8へ進む。
この場合、ステップS8では、上記のようにステップS12で発生させた駆動力Fが駆動力上限Fupに到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが駆動力上限Fup以上になったか否かが判断される。図4のタイムチャートに示すように、時刻t11で、運転者によるブレーキ戻し操作が開始されると、それに続いて、モータ1により信号トルクが出力されて、駆動力Fが増大する。図3に示したように、駆動力Fは、第1目標値F1に向けて増大させられる。第1目標値F1は、信号トルクを出力することよって発生する駆動力Fの絶対値が、運転者のブレーキ操作およびブレーキ戻し操作によって発生する制動力Fbkの絶対値を上回らないように、そのブレーキ操作およびブレーキ戻し操作によって発生する制動力Fbkの絶対値よりも小さい値に設定される。
未だ、駆動力Fが駆動力上限Fup未満であることにより、このステップS8で否定的に判断された場合は、ステップS9へ進む。
ステップS9では、駆動力Fが駆動力下限Flowに到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが駆動力下限Flow以下になったか否かが判断される。このステップS9は、後述するように、Phase2において、駆動力Fを低下させる場合の下限を判断するものである。この場合は、未だPhase1からPhase2に移行していない。そのため、このステップS9では否定的に判断されて、ステップS10へ進む。
ステップS10では、従前と同様に、現在の駆動力Fの値が、駆動力Fmとして記憶される。駆動力Fmが格納されると、この図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。すなわち、この図2のフローチャートで示す今回のルーチンを終了する。
一方、次回以降のルーチンで、駆動力Fが第1目標値F1以上になった、すなわち、駆動力Fが第1目標値F1に到達したことにより、ステップS13で肯定的に判断された場合には、ステップS14へ進む。
ステップS14では、駆動力Fが、一旦、第1目標値F1に固定される。すなわち、増大させていた駆動力Fが第1目標値F1に到達したことより、その駆動力Fの増大を終了する。
ステップS15では、Phase が“2”に移行される。前述したように、“Phase2”では、駆動力Fが第2目標値F2に向けて変化させられる。図4のタイムチャートに示す例では、駆動力Fが第2目標値F2に向けて低下させられる。
続いて、ステップS8では、従前と同様に、駆動力Fが駆動力上限Fupに到達したか否かが判断される。上記のステップS15で、Phaseを“2”に移行した回のルーチンでは、駆動力Fが第1目標値F1に到達したことによって、駆動力Fの増大が一旦終了されている。したがって、駆動力Fは、通常は駆動力上限Fupに到達することはなく、このステップS8では、否定的に判断されて、ステップS9へ進む。
ステップS9では、駆動力Fが駆動力下限Flowに到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが駆動力下限Flow以下になったか否かが判断される。このステップS9は、Phase2において、駆動力Fを低下させる場合の下限を判断するものである。この場合は、今回のルーチンでPhase1からPhase2に移行したものの、未だ、駆動力Fは、第2目標値F2および駆動力下限Flowに向けた変化を開始していない。そのため、駆動力Fは、未だ、駆動力下限Flowに到達することはなく、このステップS9では否定的に判断されて、ステップS10へ進む。
ステップS10では、従前と同様に、現在の駆動力Fの値が、駆動力Fmとして記憶される。駆動力Fmが格納されると、この図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。すなわち、この図2のフローチャートで示す今回のルーチンを終了する。
この図2のフローチャートで示す次回のルーチンでは、ステップS1からステップS3の制御が前回と同様に実行される。そして、ステップS4では、現在のPhaseが“2”であることによって否定的に判断され、また、ステップS11では、現在のPhaseが“2”であることによって否定的に判断されて、ステップS16へ進む。
ステップS16では、現在のPhase が“2”であるか否かが判断される。上記のように、現在のPhase は“2”であるので、このステップS16では肯定的に判断されて、ステップS17へ進む。
ステップS17では、前回のルーチンで、Phase1からPhase2に移行されたことにより、駆動力Fが、第2目標値F2に向けて変化させられる。図3に示す例では、駆動力Fは、駆動力側(図3の縦軸における0よりも上側)に設定された第1目標値F1から、制動力側(図3の縦軸における0よりも下側)に設定された第2目標値F2に向けて変化させられる。言い換えると、駆動力Fは、Phase2において、第1目標値F1から0に向かって低下し、0から第2目標値F2に向かって制動力として増大する。第2目標値F2は、信号トルクを出力することよって発生する駆動力F、具体的には、車両Veを走行させる駆動トルクの回転方向と逆方向の信号トルクを出力することによって発生する制動力が、運転者のブレーキ操作およびブレーキ戻し操作によって発生する制動力Fbkを上回らないように、そのブレーキ操作およびブレーキ戻し操作によって発生する制動力Fbkよりも小さい値に設定される。
具体的には、前回のルーチンで格納した駆動力Fmに駆動力ΔF2を加算した値となるように、駆動力Fが低減される。駆動力ΔF2は、Phase2における1ルーチン当たりの駆動力Fの変化量である。駆動力ΔF2は、運転者のブレーキ戻し操作によって制動力Fbkが0に戻る前に、モータ1による信号トルクの出力を終了することが可能な値に設定される。したがって、Phase2においては、前述の図3に示したように、駆動力ΔF2を傾き(変化の割合)にして、信号トルクの出力によって発生する駆動力Fが低下する。
続いて、ステップS18では、上記のようにステップS17で低下させた駆動力Fが第2目標値F2に到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが第2目標値F2以下になったか否かが判断される。言い換えると、図4のタイムチャートに示すように、駆動力Fが0まで低下した後に、制動力として第2目標値F2以上になったか否かが判断される。
未だ、駆動力Fが第2目標値F2未満であることにより、このステップS18で否定的に判断された場合は、前述のステップS8、ステップS9、および、ステップS10へ進み、従前と同様の制御が繰り返される。
一方、次回以降のルーチンで、駆動力Fが第2目標値F2以上になった、すなわち、駆動力Fが第2目標値F2に到達したことにより、ステップS18で肯定的に判断された場合には、ステップS19へ進む。
ステップS19では、駆動力Fが、一旦、第2目標値F2に固定される。すなわち、低下させていた駆動力Fが第2目標値F2に到達したことより、その駆動力Fの低下を終了する。
ステップS20では、Phase が“3”に移行される。前述したように、“Phase3”では、駆動力Fが最終目標値Fendに向けて変化させられる。図4のタイムチャートに示す例では、駆動力Fが最終目標値Fendに向けて増大させられる。
続いて、ステップS8では、従前と同様に、駆動力Fが駆動力上限Fupに到達したか否かが判断される。上記のステップS20で、Phaseを“3”に移行した回のルーチンでは、駆動力Fが第2目標値F2に到達したことによって、駆動力Fの低下が終了された状態である。したがって、駆動力Fは、未だ、駆動力上限Fupに到達することはなく、このステップS8では、否定的に判断されて、ステップS9へ進む。
ステップS9では、駆動力Fが駆動力下限Flowに到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが駆動力下限Flow以下になったか否かが判断される。このステップS9は、Phase2において、駆動力Fを低下させる場合の下限を判断するものである。この場合は、今回のルーチンで、既に、Phase2からPhase3に移行したため、駆動力Fは、第2目標値F2および駆動力下限Flowに向かっては変化しない。そのため、駆動力Fは、通常は駆動力下限Flowに到達することはなく、このステップS9では否定的に判断されて、ステップS10へ進む。
ステップS10では、従前と同様に、現在の駆動力Fの値が、駆動力Fmとして記憶される。駆動力Fmが格納されると、この図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。すなわち、この図2のフローチャートで示す今回のルーチンを終了する。
この図2のフローチャートで示す次回のルーチンでは、ステップS1からステップS3の制御が前回と同様に実行される。そして、ステップS4では、現在のPhaseが“3”であることによって否定的に判断され、また、ステップS11では、現在のPhaseが“3”であることによって否定的に判断され、また、ステップS16では、現在のPhaseが“3”であることによって否定的に判断されて、ステップS21へ進む。
ステップS21では、現在のPhase が“3”であるか否かが判断される。上記のように、現在のPhase は“3”であるので、このステップS21では肯定的に判断されて、ステップS22へ進む。
ステップS22では、前回のルーチンで、Phase2からPhase3に移行されたことにより、駆動力Fが、最終目標値Fendに向けて変化させられる。図3に示す例では、駆動力Fは、制動力側に設定された第2目標値F2から、0もしくは0近傍の値に設定された最終目標値Fendに向けて増大させられる。言い換えると、駆動力Fは、Phase3において、第2目標値F2から最終目標値Fendに向かって制動力として低下する。
具体的には、前回のルーチンで格納した駆動力Fmに駆動力ΔF3を加算した値となるように、駆動力Fが増大される。駆動力ΔF3は、Phase3における1ルーチン当たりの駆動力Fの変化量である。駆動力ΔF3は、運転者のブレーキ戻し操作によって制動力Fbkが0に戻る前に、モータ1による信号トルクの出力を終了することが可能な値に設定される。したがって、Phase3においては、前述の図3に示したように、駆動力ΔF3を傾き(変化の割合)にして、信号トルクの出力によって発生する駆動力Fが増大する。言い換えると、駆動力ΔF3を傾きにして、信号トルクの出力によって発生する制動力が減少する。
続いて、ステップS23では、上記のようにステップS22で増大させた駆動力Fが最終目標値Fendに到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが最終目標値Fend以上になったか否かが判断される。言い換えると、図4のタイムチャートに示すように、駆動力Fが、制動力として最終目標値Fend以下になったか否かが判断される。
未だ、駆動力Fが最終目標値Fend未満であることにより、このステップS23で否定的に判断された場合は、前述のステップS8、ステップS9、および、ステップS10へ進み、従前と同様の制御が繰り返される。
一方、次回以降のルーチンで、駆動力Fが最終目標値Fend以上になった、すなわち、駆動力Fが最終目標値Fendに到達したことにより、ステップS23で肯定的に判断された場合には、ステップS24へ進む。
ステップS24では、駆動力Fが、最終目標値Fendに固定される。すなわち、増大させていた駆動力Fが最終目標値Fendに到達したことより、その駆動力Fの増大を終了する。
ステップS25では、Phase が“4”に移行される。このPhase4では、駆動力Fを最終目標値Fendに固定した状態が維持される。前述したように、最終目標値Fendは、0もしくは0近傍の値に設定されている。Phase4は、信号トルクの出力が終了され、また、運転者のブレーキ戻し操作によって車両Veの制動が解除される状態である。なお、例えば、車両Veが傾斜路に停止している場合には、その停止状態を維持するために駆動力が必要になることも想定される。そのような場合には、最終目標値Fendを、0ではなく、車両Veの停止状態を維持するために必要な駆動力の値に設定してもよい。そうすることにより、この発明の実施形態における車両の制御装置に、車両Veが傾斜路に停止した場合のずり下がり防止機能を持たせることができる。
続いて、ステップS8へ進み、従前と同様に、駆動力Fが駆動力上限Fupに到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが駆動力上限Fup以上になったか否かが判断される。この場合は、既にPhase4に移行しており、駆動力Fは最終目標値Fend、すなわち、0もしくは0近傍の値に固定されている状態である。そのため、駆動力Fは駆動力上限Fupに達することはなく、このステップS8では否定的に判断されて、ステップS9へ進む。
ステップS9では、従前と同様に、駆動力Fが駆動力下限Flowに到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが駆動力下限Flow以下になったか否かが判断される。この場合も、既にPhase4に移行しており、駆動力Fは最終目標値Fend、すなわち、0もしくは0近傍の値に固定されている状態である。そのため、駆動力Fは必然的に駆動力下限Flowよりも大きくなり、このステップS9では否定的に判断されて、ステップS10へ進む。
ステップS10では、従前と同様に、現在の駆動力Fの値が、駆動力Fmとして記憶される。駆動力Fmが格納されると、この図2のフローチャートで示すルーチンを一旦終了する。すなわち、この図2のフローチャートで示す今回のルーチンを終了する。
この図2のフローチャートで示す次回のルーチンでは、ステップS1からステップS3の制御が前回と同様に実行される。そして、ステップS4では、現在のPhaseが“4”であることによって否定的に判断され、また、ステップS11では、現在のPhaseが“4”であることによって否定的に判断され、また、ステップS16では、現在のPhaseが“4”であることによって否定的に判断され、また、ステップS21では、現在のPhaseが“4”であることによって否定的に判断されて、ステップS26へ進む。
ステップS26では、前述のステップS24と同様に、駆動力Fが、最終目標値Fendに固定される。すなわち、増大させていた駆動力Fが最終目標値Fendに到達したことより、その駆動力Fの増大を終了する。
その後、前述のステップS8、ステップS9、および、ステップS10へ進み、従前と同様の制御が繰り返される。したがって、この場合は、Phase4の状態が維持される。
上記のように信号トルクの出力制御が実行されると、車両Veは、モータ1が信号トルクを出力することによる駆動力Fが発生する。この場合の駆動力Fは、先ず、車両Veを走行させる駆動トルクの回転方向と同方向の信号トルクを出力することによって発生する駆動力Fである。具体的には、図4のタイムチャートに示すように、時刻t12から時刻t13の間で、駆動力Fは、駆動力側(図4の縦軸における0よりも上側)に、運転者のブレーキ戻し操作によって低下する制動力Fbkの絶対値を超えることがない範囲で増大する。理想的には、駆動力Fは、その駆動力Fの増大によって運転者が体感可能な車両挙動の変化が生じるレベルまで増大する。このような駆動力Fの増大により、車両Veが走行することのない範囲で加速度が発生する。この場合の加速度は、例えば加速度センサ5eで検出可能な微視的な加速度である。したがって、そのような微小な加速度の変化が、運転者のブレーキ戻し操作に伴う振動や車両挙動の変化となり、運転者は、上記のようなブレーキ戻し操作を行う際に、そのような車両Veの振動振動や車両挙動の変化を体感する。
また、上記のような信号トルクによって駆動力Fを発生させる場合、車両Veを走行させる駆動トルクと同じ回転方向の信号トルクを出力するように、モータ1が制御される。例えば、シフト装置4のシフトポジションがDポジションに設定されている場合は、車両Veを前進させる回転方向の信号トルクが出力される。シフト装置4のシフトポジションがRポジションに設定されている場合は、車両Veを後進させる回転方向の信号トルクが出力される。したがって、運転者は、走行ポジションを選択してブレーキ戻し操作を行った後に車両Veを発進させる際に、今後の走行方向を体感して認識することができる。そのため、運転者は、違和感や不安感を覚えることなく、従来の車両を運転する感覚により近い感覚で、ブレーキ装置3を操作して、車両Veを発進させることができる。
この発明の実施形態における信号トルクは、運転者のブレーキ戻し操作に伴う車両挙動の変化を運転者に体感させるために出力される。そのため、上記のように、運転者が体感可能な車両挙動の変化が生じるレベルまで駆動力Fを増大させた後は、その駆動力Fを低下させる方向の信号トルクが出力される。具体的には、車両Veを走行させる駆動トルクの回転方向と逆方向の信号トルクを出力することにより、駆動力Fを低下させる。図4のタイムチャートに示す例では、駆動力Fは、時刻t13から時刻t14の間で、駆動力側から0に向かって減少し、更に、時刻t14から時刻t15の間で、0から制動力側(図4の縦軸における0よりも下側)に向かって減少する。言い換えると、時刻t14から時刻t15の間で、車両Veを走行させる駆動トルクの回転方向と逆方向の信号トルクを出力することによって発生する制動力が増大する。その場合の信号トルクの出力によって発生する制動力は、運転者のブレーキ戻し操作によって低下する制動力Fbkを超えることがない範囲で増大する。
したがって、上記のように運転者のブレーキ戻し操作によって制動力Fbkが低下するのに伴い、信号トルクの出力によって発生する制動力も低下される。図4のタイムチャートに示す例では、信号トルクの出力によって発生する制動力は、時刻t15から時刻t16の間で、制動力側から0に向かって減少する。言い換えると、時刻t15から時刻t16の間で、車両Veを走行させる駆動トルクの回転方向と同方向の信号トルクを出力することによって発生する駆動力Fが、0に向かって増大する。その場合、駆動力Fは、前述したように、駆動力ΔF3を傾きにして変化する。そのため、運転者のブレーキ戻し操作によって低下する制動力Fbkが0に戻る前の時刻t16で、駆動力Fが0になる。時刻t16で、駆動力Fが0になると、すなわち、モータ1による信号トルクの出力を終了させると、この発明の実施形態における信号トルクの出力制御が終了する。
このように、この発明の実施形態における電動車両の制御装置では、運転者が、シフトポジションを走行ポジションに設定し、ブレーキ戻し操作を行った後に車両Veを発進させる際には、先ず、車両Veの走行方向と同じ回転方向の信号トルクが出力される。その後、それに続いて、車両Veの走行方向と逆の回転方向の信号トルクが出力される。したがって、この場合に信号トルクの出力によって発生する駆動力Fは、いわゆる両振り荷重(あるいは、交番荷重)となり、そのような駆動力Fによって生じる車両挙動の変化や振動を、運転者に体感させ易くする。そのため、運転者は、ブレーキ戻し操作を行った後に車両Veを発進させる際に、ブレーキ戻し操作に伴う車両挙動の変化や振動を確実に体感して認識することができる。
なお、上述した制御例では、駆動力Fが両振り荷重となるように、信号トルクを出力する例を示しているが、この発明の実施形態における電動車両の制御装置では、例えば、図5のタイムチャートに示すように、駆動力側(図5の縦軸における0よりも上側)の駆動力Fのみを発生させてもよい。上述した図2のフローチャートにおいて、第2目標値F2を0にすることにより、図5のタイムチャートに示すような片側だけの駆動力Fを発生させるように制御することができる。そのような片側だけの駆動力Fであっても、ブレーキ戻し操作に伴う車両挙動の変化や振動を運転者に体感させることは可能である。また、駆動力Fを両振り荷重となるように制御する場合と比較して、制御内容を簡素化して、コントローラ6の負荷を軽減できる。
また、上述した制御例では、運転者によるブレーキ戻し操作が一定の操作速度で行われており、駆動力Fを、第1目標値F1および第2目標値F2に基づいて変化させている。但し、運転者のブレーキ戻し操作は、常に一定の操作速度で行われるとは限らず、例えば、図6のタイムチャートに示すように、ブレーキ戻し操作の途中で操作速度が速められるケースもある。そのようなケースに対応する制御例を説明する。
図2のフローチャートにおいて、例えば、Phase1の状態で、駆動力Fを第1目標値F1に基づいて変化させている際に、ステップS12で増大させた駆動力Fが、未だ、第1目標値F1未満であることにより、ステップS13で否定的に判断された場合は、ステップS8へ進む。
ステップS8では、従前と同様に、駆動力Fが駆動力上限Fupに到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが駆動力上限Fup以上になったか否かが判断される。上記のようにブレーキ戻し操作の途中で操作速度が速められると、第1目標値F1に向けて増大させている駆動力Fが、第1目標値F1に到達する以前に、駆動力上限Fupに達してしまう場合がある。そのような場合は、上記のようにステップS13で否定的に判断された後に、駆動力Fが駆動力上限Fupに到達したことにより、ステップS8で肯定的に判断されて、ステップS27へ進む。
ステップS27では、駆動力Fが、一旦、駆動力上限Fupに固定される。すなわち、増大させていた駆動力Fが駆動力上限Fupに到達したことより、その駆動力Fの増大を終了する。
ステップS28では、Phase が“2”に移行される。そして、次回以降のルーチンで、駆動力Fが、第2目標値F2およびに駆動力下限Flow向けて低下させられる。その後、前述のステップS9、および、ステップS10へ進み、従前と同様の制御が繰り返される。
あるいは、例えば、Phase2の状態で、駆動力Fを第2目標値F2に基づいて変化させている際に、ステップS17で低下させた駆動力Fが、未だ、第2目標値F2未満であることにより、ステップS18で否定的に判断された場合は、ステップS8へ進む。
この場合は、現在のPhase が“2”であるため、ステップS8では否定的に判断されて、ステップS9へ進む。
ステップS9では、従前と同様に、駆動力Fが駆動力下限Flowに到達したか否かが判断される。具体的には、駆動力Fが駆動力下限Flow以下になったか否かが判断される。例えば、図6のタイムチャートに示すように、ブレーキ戻し操作の途中で操作速度が速められると、第2目標値F2に向けて低下させている駆動力Fが、第2目標値F2に到達する以前に、駆動力下限Flowに達してしまう場合がある。そのような場合は、上記のようにステップS18で否定的に判断された後に、駆動力Fが駆動力下限Flowに到達したことにより、ステップS9で肯定的に判断されて、ステップS29へ進む。
ステップS29では、駆動力Fが、一旦、駆動力下限Flowに固定される。すなわち、低下させていた駆動力Fが駆動力下限Flowに到達したことより、その駆動力Fの低下を一旦終了する。
ステップS30では、Phase が“3”に移行される。そして、次回以降のルーチンで、駆動力Fが、第2目標値F2およびに駆動力下限Flow向けて低下させられる。その後、前述のステップS9、および、ステップS10へ進み、従前と同様の制御が繰り返される。
したがって、図6のタイムチャートに示すように、時刻t21で、運転者によるブレーキ戻し操作が開始されると、それに続いて、時刻t22から時刻t23の間で、駆動力Fが増大する。時刻t23で、駆動力Fが駆動力上限Fupに到達したことより、Phase が“2”に移行され、駆動力Fは、0に向かって低下する。Phase2で駆動力Fが低下されている際に、時刻t24でブレーキ戻し操作の操作速度が速められると、ブレーキ戻し操作によって低下する制動力Fbkおよび駆動力上限Fupの変化勾配が変化し、それに伴って、時刻t25で、駆動力Fが、再度、駆動力上限Fupに到達する。この場合も、駆動力Fの目標値が書き替えられることにより、駆動力Fは、駆動力上限Fupおよび制動力Fbkの絶対値を超えることなく、0に向かって低下する。そのため、上記のように、運転者がブレーキ戻し操作の途中で操作速度を速めた場合であっても、車両Veの停止状態を確実に維持しつつ、また、運転者が体感可能な車両挙動の変化や振動を適切に生じさせる駆動力Fを発生させることができる。
図7のタイムチャートは、運転者がブレーキ戻し操作の途中でブレーキ操作を行ったケースを示している。この図7のタイムチャートに示す例では、時刻t31で、運転者によるブレーキ戻し操作が開始された後に、未だ、ブレーキ戻し操作が完了していない、すなわち、制動力Fbkが0に戻されていない時刻t32で、ブレーキ操作(例えば、ブレーキペダル9の踏み増し)が行われている。このケースでは、初めのブレーキ戻し操作に対応して信号トルクの出力による駆動力Fの増大が行われるが、後のブレーキ操作に対しては、特に駆動力Fの増減は行われない。この場合、初めのブレーキ戻し操作に対応した駆動力Fの増大により、車両挙動の変化や振動を運転者に体感させている。また、ブレーキ操作が再度行われたことから、当面、運転者に車両Veを発進させる意図はないと推定できる。そのため、この場合は、後のブレーキ操作に対応する駆動力Fの制御は必要ないと判断することができ、信号トルクは出力しない。
図8のタイムチャートは、運転者のブレーキ戻し操作の操作速度が速すぎて、信号トルクの出力による駆動力Fの増大が間に合わないケースを示している。この図8のタイムチャートに示す例では、時刻t41で、運転者によるブレーキ戻し操作が開始された後に、時刻t42で、ブレーキ戻し操作が完了している、すなわち、制動力Fbkが0に戻されている。この時刻t41から時刻t42の期間におけるブレーキ戻し操作による制動力Fbkの低下速度は、所定速度よりも速くなっている。この場合の所定速度は、運転者のブレーキ戻し操作によって制動力Fbkが0に戻る際の低下速度が、信号トルクの出力による駆動力Fの増大が間に合わないほど速いか否かを判断する閾値である。制動力Fbkの低下速度が所定速度よりも速い場合に、信号トルクの出力による駆動力Fの増大が間に合わないと判断される。そのため、この図8のタイムチャートに示す例では、制動力Fbkの低下速度が所定速度よりも速いことにより、信号トルクの出力による駆動力Fの増大は行われていない。したがって、運転者のブレーキ戻し操作の操作速度が速く、駆動力Fの増大が間に合わないような場合は、信号トルクを出力しない。そのため、例えば、運転者のブレーキ戻し操作のタイミングとずれて駆動力Fが増大してしまうことにより、運転者に違和感を与えてしまったり、そのような駆動力Fで車両を走行させてしまったりする事態を回避できる。
以上のように、この発明の実施形態における電動車両の制御装置は、クリープトルクや擬似クリープトルクを出力しない車両Ve、あるいは、クリープカットを行う車両Veを制御対象にしている。そして、運転者が、ブレーキ操作によって制動力Fbkを発生させて車両Veを停止させた状態から、ブレーキ戻し操作によって制動力Fbkを0に戻して車両Veを発進させる際に、そのブレーキ戻し操作によって制動力Fbkが低下したことを運転者に体感させるための信号トルクを出力する。その信号トルクによって車両Veが駆動されることがないように、また、信号トルクによって運転者が体感可能な車両挙動の変化や振動が生じるように、モータ1の出力トルクが制御される。したがって、この発明の実施形態における電動車両の制御装置によれば、運転者がブレーキ戻し操作を行う際に、モータ1が出力する信号トルクによって駆動力Fを発生させて、運転者に車両挙動の変化あるいは振動を体感させることができる。そのため、運転者は、クリープトルクや擬似クリープトルクを出力しない車両Ve、あるいは、クリープカットを行う車両Veであっても、違和感や不安感を覚えることなく、従来の車両を運転する感覚と同様の感覚で、適切に、ブレーキ装置3を操作し、車両Veを発進させることができる。
1…モータ(駆動力源)、 1a…(モータの)出力軸、 2…駆動輪、 3…ブレーキ装置、 4…シフト装置、 5…検出部、 5a…ブレーキペダルセンサ、 5b…ブレーキ油圧センサ、 5c…シフトポジションセンサ、 5d…車速センサ(車輪速センサ)、 5e…加速度センサ、 5f…モータ回転数センサ(レゾルバ)、 6…コントローラ(ECU)、 7…デファレンシャルギヤ、 8…ドライブシャフト、 9…ブレーキペダル、 Ve…車両(電動車両)。

Claims (5)

  1. 少なくともモータを有する駆動力源と、運転者のブレーキ操作に応じて制動力を発生するブレーキ装置と、前記制動力に関連するデータを検出する検出部と、前記モータを制御するコントローラとを備えた電動車両の制御装置であって、
    前記コントローラは、
    前記ブレーキ操作により前記電動車両を制動して停止させている状態で、前記運転者が前記制動力を0に戻すブレーキ戻し操作を行う際に、前記ブレーキ戻し操作に伴う車両挙動の変化を前記運転者に体感させる信号トルクを前記モータに出力させ、前記制動力が0に戻る前に、前記モータによる前記信号トルクの出力を終了させるとともに、
    前記信号トルクは、
    前記電動車両を発進させることなく停止状態を維持し、前記車両挙動の変化として前記運転者が体感可能な振動を生じさせる前記モータの出力トルクである
    とを特徴とする電動車両の制御装置。
  2. 請求項1に記載の電動車両の制御装置であって、
    前記運転者によって操作され、前記駆動力源の出力トルクを駆動輪に伝達して駆動力を発生させる走行ポジション、および、前記出力トルクを前記駆動輪に伝達せず前記駆動力を発生させない非走行ポジションの二系統のシフトポジションを選択的に設定するシフト装置を備え、
    前記検出部は、前記シフト装置で設定される前記シフトポジションを検出し、
    前記コントローラは、前記シフト装置で前記走行ポジションが設定されている場合に、前記走行ポジションで前記電動車両を駆動する駆動トルクの回転方向と同方向の前記信号トルクを前記モータに出力させる
    ことを特徴とする電動車両の制御装置。
  3. 請求項2に記載の電動車両の制御装置であって、
    前記コントローラは、前記駆動トルクの回転方向と同方向の前記信号トルクを前記モータに出力させた後に、前記駆動トルクの回転方向と逆方向の前記信号トルクを前記モータに出力させる
    ことを特徴とする電動車両の制御装置。
  4. 請求項1から3のいずれか一項に記載の電動車両の制御装置であって、
    前記コントローラは、前記信号トルクを出力することよって発生する駆動力の絶対値が前記制動力の絶対値を上回らないように前記モータを制御する
    ことを特徴とする電動車両の制御装置。
  5. 請求項1から4のいずれか一項に記載の電動車両の制御装置であって、
    前記コントローラは、前記制動力が0に戻る際の低下速度が所定値よりも大きい場合は、前記信号トルクを前記モータに出力させない
    ことを特徴とする電動車両の制御装置。
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