以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。なお、本発明は、荷電マルチビーム描画装置を用いてレジスト層に所定の露光パターンを形成するための描画データを作成する工程に広く利用可能であるが、以下、説明の便宜上、荷電マルチビーム描画装置として、電子線描画装置を用いた実施例を述べることにする。もちろん、本発明は、電子ビーム以外の荷電粒子ビームを用いたマルチビーム描画装置に広く適用可能である。
<<< §1. マルチビーム電子線描画装置による描画原理 >>>
ここでは、本発明の理解を容易にするために、一般的なマルチビーム電子線描画装置による描画原理を簡単に説明しておく。図1は、この電子線描画装置の基本構造およびその描画原理を示す正面図である(一部は断面図)。
図示のとおり、電子銃10から照射された電子ビーム20は、電磁気的な作用を施すコンデンサレンズ30によって拡大され、アパーチャープレート40(図では、断面図として示す)に照射される。アパーチャープレート40には、多数の開口部41が形成されており、この開口部41を通過した電子ビーム21のみが、やはり電磁気的な作用を施すプロジェクションレンズ50を通して下方の試料基板60へと縮小投影され、その上面に形成されている被成形層(レジスト層)61の露光対象面に照射される。試料基板60は、移動ステージ70の上に載置され、図の左右方向および図の奥行き方向に移動させることができる。
最近では、512×512の二次元マトリックス状に配置された開口部41をもったアパーチャープレート40を用い、25万本以上の電子ビーム21によって被成形層61の上面を同時に露光して微細パターンを描画する機能をもった装置も実用化されている。通常、アパーチャープレート40の下面には、ブランキングプレート(図示省略)が配置されており、開口部41を通過した個々の電子ビーム21を個別にON/OFF制御する機能が設けられる。
ここでは、説明の便宜上、アパーチャープレート40に形成された個々の開口部41が、円形断面を有していたものとしよう。この場合、開口部41を通過した個々の電子ビーム21の断面は円形になる。したがって、被成形層61の上面(露光対象面)には、1本の電子ビーム21の照射により円形の照射スポットが形成される。たとえば、開口部41が直径4μmの円であり、プロジェクションレンズ50の縮小倍率が1/200であったとすると、露光対象面には、直径20nm程度の円形の照射スポット(厳密には、若干大きなスポットになる)が形成される。
一般に、円形断面を有する電子ビームのエネルギー密度は、その中心軸をピークとしたガウスの誤差関数に応じた分布になるとされている。このような前提では、1本の電子ビーム21によって被成形層61の露光対象面に形成される円形の照射スポットのエネルギー密度E(電子ビームの照射強度)は、図2のグラフMに示すようなガウスの誤差関数に応じた分布になる。このグラフの横軸は、nmの単位で示される一次元方向の位置を示しており、横軸上の数値0の位置は、1本の電子ビーム21の中心位置に対応する。実際には、露光対象面上には二次元的な広がりをもつ円形の照射スポットが形成され、そのエネルギー密度Eを示すグラフは、図2に示すグラフMを、その中心軸まわりに回転させた回転体になる。
図2のグラフにおける横軸上の寸法φは、こうして露光対象面上に形成される円形の照射スポットの直径に相当する。したがって、図2に示すようなエネルギー密度Eをもった1本の電子ビームが照射された場合、露光対象面上では直径φの円形内が露光することになり、各部の照射強度は中心から周囲に向かってガウスの誤差関数に応じた分布で減少する。通常、ビームの幅は、図2のグラフの半値幅の値を示すビーム径として示されるが、ここでは説明の便宜上、図2に示す寸法φをスポット径と呼び、ビーム径に対応する数値として取り扱うことにする。
断面形状を任意に設定可能なシングルビームVSB(Variable Shaped Beam)を用いたVSB描画装置の場合、被成形層61上には1本の電子ビームしか照射されないので、その断面形状を矩形等の任意形状に加工し、任意の強度に調節した状態で照射することが可能である。ところが、マルチビーム方式の電子線描画装置の場合、多数の電子ビーム21を用いて極めて高速な描画を行うことができるメリットを有しているが、個々のビームの断面形状を個別に制御したり、個々のビームの強度を個別に制御したりすることは困難である。実際、25万本ものビームを生成する装置の場合、微細なアパーチャープレートの開口部41を通過した個々の電子ビームを個別に成形したり、個別に強度調節したりする機構を設けることはできない。
結局、現在利用されている一般的なマルチビーム方式の電子線描画装置では、露光対象面上に直径φをもった多数の円形の照射スポットを形成することができるものの、照射スポットを任意の形状に成形することはできず、個々の電子ビームのON/OFF制御により描画を行う方法を採らざるを得ない。そこで、このマルチビーム方式の電子線描画装置の描画制御を行うために、二次元画素配列によって構成される描画データ(量子化マップとも呼ばれている)が利用される。
図3(a) は、この描画データを構成する二次元画素配列と、当該描画データに基づいて照射される電子ビームの強度分布との関係を示す平面図(上段(a) )およびグラフ(下段(b) )である。いま、露光対象面上にXY二次元座標系を定義し、この座標系上に図3(a) の右上隅にハッチングを施して示すような正方形状の画素Pを縦横に配置した二次元画素配列を定義する。ここでは、個々の画素Pの横方向(X軸方向)および縦方向(Y軸方向)の幅がいずれもdであるものとする。この幅dは、画素Pの横方向および縦方向のピッチに相当する。
ここで、個々の画素Pの中心位置に照射基準点Qを定義し、画素Pの画素値として、当該照射基準点Qに照射すべき電子線の強度を示す値を与えることにする。このような画素配列からなる描画データをマルチビーム方式の電子線描画装置に与えたとすれば、描画装置は、当該描画データに基づいて、露光対象面上に所定の強度分布をもった電子線露光を行うことができる。たとえば、図3に示す画素P1の中心に定義された照射基準点Q1に照射された電子ビームにより、露光対象面(XY平面)上には、円形の照射スポットS1による露光が行われ、画素P2の中心に定義された照射基準点Q2に照射された電子ビームにより、露光対象面(XY平面)上には、円形の照射スポットS2による露光が行われる。
この場合、照射スポットS1による露光強度(露光量)は画素P1のもつ画素値E1に基づいて決定され、照射スポットS2による露光強度は画素P2のもつ画素値E2に基づいて決定される。たとえば、個々の画素値E1,E2が、ガウスの誤差関数に応じた分布のピーク値を示しているものとすると、図3(a) に示す照射スポットS1,S2によるX軸方向に関する露光強度分布は、図3(b) に示すグラフのようになる。すなわち、照射基準点Q1を中心として照射された電子ビームによる露光強度分布はグラフM1のような幅φをもった山になり、照射基準点Q2を中心として照射された電子ビームによる露光強度分布はグラフM2のような幅φをもった山になる。ここで、幅φは、前述したとおり、円形の照射スポットの直径である。
なお、図3では、説明の便宜上、2つの画素P1,P2の照射基準点Q1,Q2について、それぞれ照射スポットS1,S2が形成されている状態を示すが、もちろん、実際には、すべての画素Pの中心位置にそれぞれ照射基準点Qが定義され、各照射基準点Qに対してそれぞれ電子ビームの照射が行われることになる。ここで、照射基準点Qの縦横の配置ピッチは、画素Pの縦横の配置ピッチと同様にピッチdということになる。
ところで、マルチビーム方式の電子線描画装置では、多数の電子ビームの強度を個別に制御することはできない。したがって、図3に示す例において、照射基準点Q1に照射される電子ビームも、照射基準点Q2に照射される電子ビームも、同じ強度の電子ビームにならざるを得ない。ただ、ブランキングプレートを制御することにより、個々の電子ビームを個別にON/OFFすることは可能である。そこで、個々の照射基準点Qごとに、それぞれ照射する電子ビームを個別にON/OFF制御し、露光時間を変えることにより露光強度を変える方法を採る。上例の場合、照射基準点Q1への照射時間を照射基準点Q2への照射時間よりも長く設定することにより、図3(b) のグラフに示すような露光強度分布が得られることになる。
このような露光時間の制御は、実際には、露光回数の制御という形で行われる。これは、図1に示すように、実際には、移動ステージ70を二次元的(図1の左右方向および奥行き方向)に移動させながら、多数の電子ビーム21を被成形層61上で二次元的に走査しながら描画を行うためである。
たとえば、数ナノ秒程度の露光時間を1回の電子ビーム照射時の単位露光時間と定めておき、1回の電子ビーム照射が完了するたびに、移動ステージ70をX軸方向にピッチdだけ移動させ、次の回の電子ビーム照射を行うようにすれば、特定の照射基準点Qに対しては、毎回異なる電子ビーム(隣接する電子ビーム)によって単位露光時間分の露光が行われることになる。このとき、毎回、個々の電子ビームごとに個別のON/OFF制御を行えば、段階的ではあるものの、個々の照射基準点Qごとに固有の露光強度を設定することが可能になる。
具体的には、たとえば、照射基準点Q1に対して10回の露光を行うことにより、図3(b) のグラフM1のような露光強度分布が得られるのであれば、照射基準点Q2に対して5回の露光を行うことにより、図3(b) のグラフM2のような露光強度分布が得られることになる。
図4は、このように、個々の照射基準点Qごとに露光回数を変えることにより、16通りの段階的な露光強度の制御を行う原理を示すグラフである。ここでは、図示の便宜上、段階0,5,10,15の4通りの段階についての例のみが示されているが、実際には、これらの間の中間段階も設定され、段階0~15までの全16通りの段階が設定される。図4に示す露光強度分布グラフM(15),M(10),M(5)は、それぞれピーク強度E(15),E(10),E(5)をもち、同一のスポット径φの広がりをもったガウスの誤差関数に応じた分布のグラフになっている。
たとえば、画素P(15),P(10),P(5),P(0)の画素値pがそれぞれp=15,p=10,p=5,p=0であった場合、これらの画素の中心位置に定義された照射基準点Q(15),Q(10),Q(5),Q(0)の近傍には、図4に示す露光強度分布グラフM(15),M(10),M(5),M(0)に相当する強度分布をもった露光が行われることになる。各露光強度分布グラフのピーク値は、それぞれの照射基準点位置における露光回数(=画素値p)に対応した値になる。
すなわち、画素値p=0に対応する照射基準点Q(0)には、電子ビームの照射は1回も行われず、グラフM(0)は、実際には実体のある山状のグラフにはならない。一方、画素値p=5に対応する照射基準点Q(5)には、電子ビームの照射が5回行われ、グラフM(5)は、ピーク強度E(5)をもった山になる。同様に、画素値p=10に対応する照射基準点Q(10)には、電子ビームの照射が10回行われ、グラフM(10)は、ピーク強度E(10)をもった山になり、画素値p=15に対応する照射基準点Q(15)には、電子ビームの照射が15回行われ、グラフM(15)は、ピーク強度E(15)をもった山になる。
ところで、図3では、互いに十分に離れた位置にある2つの画素P1,P2に、それぞれ別個の電子ビームを照射した例を述べた。この例のように、スポット径φ以上に離れた2つの照射基準点Q1,Q2に照射された電子ビームは、相互に干渉を及ぼすことはない。しかしながら、スポット径φに満たない距離に近接配置されている複数の照射基準点に照射された電子ビームについては、相互に干渉が生じることになる。通常、画素ピッチd(照射基準点Qのピッチ)は、電子ビームのスポット径φよりも小さな値に設定される。この場合、露光対象面は、複数の電子ビームによる重畳露光を受けることになる。
図5(a) は、画素ピッチdと個々の電子ビームのスポット径φとの関係により、露光対象面上に重畳露光が生じる状態の一例を示す平面図であり、図5(b) は、このような重畳露光が生じている場合の個々の電子ビームについての露光強度分布を示すグラフである。ここに示す例は、画素ピッチd(照射基準点Qのピッチ)と電子ビームのスポット径φとの間に、φ=4dとなるような関係を設定した場合の例である。図5(a) には、X軸方向に隣接して配置された5つの画素P1~P5と、これら各画素の中心位置に定義された5つの照射基準点Q1~Q5に対して照射された電子ビームによって形成される5つの円形照射スポットS1~S5が示されている。図示のとおり、各円形照射スポットS1~S5は相互に重なりを生じており、露光対象面の各部は、複数の照射スポットによる重畳露光を受けることになる。
図5(b) に示す露光強度分布グラフM1~M5は、それぞれ照射スポットS1~S5についてのX軸方向に関する露光強度分布を示している。個々の照射スポットS1~S5が部分的に重なりを生じているため、個々の露光強度分布グラフM1~M5も部分的に重なりを生じることになり、各部の実際の露光強度分布は、これら個々の露光強度分布グラフM1~M5の総和として与えられる。たとえば、図に太線で示されている画素P3内の照射基準点Q3には、円形照射スポットS3を生じさせる電子ビームが照射されることになる。この円形照射スポットS3の露光強度分布はグラフM3で示すような山になるが、図示のとおり、画素P3内には、隣接する別なグラフM1,M2,M4,M5の山の裾野も位置しているため、結局、画素P3内の総露光強度は、これらすべての山を重ね合わせた強度ということになる。
マルチビーム方式の電子線描画装置は、このような原理に基づいて、被成形層上に階調をもったグレースケールパターンを描画することができ、露光を受けた被成形層を現像することにより、所望の形状をもったパターン形成を行うことができる。
図6(a) は、X軸方向の幅Wをもつパターンの平面図であり、図6(b) は、当該パターンをマルチビームにより露光する原理を示すグラフである。図6(b) に横軸として示されているX軸は、図6(a) の横方向を示すX軸に対応するものであり、図6(b) のグラフは、図6(a) に示すパターンを描画する際のX軸方向に関する露光強度分布を示している。
図6(b) には、小さな山からなる9つの露光強度分布グラフM1~M9(以下、小山と呼ぶ)と、大きな山からなる1つの露光強度の分布グラフMM(以下、大山と呼ぶ)とが示されている。小山M1~M9は、それぞれ照射基準点Q1~Q9に照射される個別の電子ビームに基づく露光強度分布を示すものであり、図5(b) に示す例と同様に、互いに裾野に重なりを生じている。照射基準点Q1~Q9は、図示されていない画素P1~P9の中心点として定義される点であり、所定ピッチdで配置されている。そして、各小山M1~M9の高さ(ピーク強度)は、個々の画素P1~P9の画素値に応じた値になる。
図4に示す例の場合、画素値pは0~15の16段階、すなわち、4ビットのデータで表現され、p=0~15とすることにより、それぞれ高さが異なる16通りの小山M(p)を定義することができる。そして、小山M(p)に応じた強度分布を形成するために、合計p回の露光が行われる。図6(b) に示す小山M1~M9は、この16段階の小山のいずれかである。たとえば、両端の画素P1,P9の画素値がp=7、中間の画素P2~P8の画素値がp=15であった場合、図示のとおり、両端の小山M1,M9は中程度の高さをもった山になり、中間の小山M2~M8は最大の高さをもった山になる。
一方、図6(b) に示す大山MMは、すべての小山M1~M9を重畳したときに得られる総露光強度の分布を示すグラフであり、小山M1~M9の総和に相当するグラフということになる(図示の便宜上、正確な総和を示すものにはなっていない)。結局、照射基準点Q1~Q9に対して、それぞれ画素P1~P9の画素値に応じた回数の露光を実行すると、露光対象面上には、X軸方向に関して、大山MMによって示される総露光強度分布が得られることになる。
被成形層61に対して、このような露光を行うための電子線照射プロセスが完了すると、続いて、被成形層61に対する現像プロセスが実行される。被成形層61は、電子線照射によって組成変化を生じるレジスト層によって構成されており、一般的なレジストの場合、照射されるエネルギー密度が所定の臨界値を越えると、急激に組成変化を生じる非線形性を有している。したがって、図示する大山MMのように、なだらかな総露光強度分布が得られた場合であっても、被成形層61における総露光強度が所定の閾値Eth以上となる領域を露光領域a、総露光強度が所定の閾値Eth未満となる領域を非露光領域bとすれば、露光領域aの組成は非露光領域bの組成に比べて大きく変化する。
このため、被成形層61に対する現像プロセスを行うと、露光領域aと非露光領域bとの相違に基づくパターン形成を行うことができる。別言すれば、閾値Ethは、露光後のレジスト層を現像するプロセスにおいて、露光領域aの組成が非露光領域bの組成に比べて、パターニングの成形に影響を与える変化を生じるための総露光強度の臨界値ということになる。
具体的には、レジスト層としてポジ型レジスト材料を用いた場合、現像プロセスにより、被成形層61の露光領域aのみが現像液に溶解し、残存した非露光領域b内の被成形層によりパターン形成が行われ、レジスト層としてネガ型レジスト材料を用いた場合、現像プロセスにより、被成形層61の非露光領域bのみが現像液に溶解し、残存した露光領域a内の被成形層によりパターン形成が行われる。図6には、大山MMを、閾値Ethに相当するレベルで切ったときの幅Wに応じた幅を有する露光領域aが形成された例が示されている。
もちろん、グラフの縦軸のスケーリングや閾値Ethの値は、荷電マルチビーム描画装置のビーム特性(たとえば、ビーム断面のエネルギー密度分布)や、レジスト層の感光特性(たとえば、レジスト材料の感光感度や、前方散乱や後方散乱によるエネルギー吸収特性)などの条件によって変化することになるが、これらの条件を固定しておけば、グラフの縦軸上の閾値Ethも固定された値になる。したがって、得られるパターン幅Wは、大山MMの形状によって制御することができる。上述したように、大山MMは、小山M1~M9の総和として得られるものであるので、結局、個々の画素P1~P9の画素値を定義した描画データによって、パターン幅Wの制御が可能になる。
なお、これまでの説明では、便宜上、被成形層61に対するX軸方向に関するパターニングの原理を述べたが、実際のパターニングプロセスは、XY平面上に広がる被成形層に対して行われ、Y軸方向に関しても同様のパターニングが行われることになる。すなわち、図6(b) に示す大山MMは、X軸方向に関する露光強度分布を示すものであるが、描画データは、二次元画素配列として与えられるため、Y軸方向に関しても同様の露光強度分布が得られることになる。そして、図6(a) に示すパターンの上下方向の幅は、このY軸方向に関する露光強度分布に基づいて決定されることになる。
以上、従来用いられている一般的なマルチビーム電子線描画装置による描画原理を説明したが、もちろん、上述の説明は、マルチビーム電子線描画装置の一例を用いた説明であり、本発明を実施するにあたって用いるマルチビーム電子線描画装置は、上述の説明に用いた例に限定されるものではない。
<<< §2. 線状パターンを描画するための描画データ >>>
ここでは、§1で述べた描画原理に基づいて線状パターンを描画する場合に用いられる具体的な描画データについての説明を行う。図7(a) は、X軸方向の幅W=50nmをもつ線状パターンの平面図であり、図7(b) は、当該線状パターンを露光するための描画データを構成する画素配列を示す図である。半導体デバイスの製造プロセスでは、配線層など、微小な線幅をもった線状パターンを多数形成する必要がある。図7(a) に示す対象図形F1(ハッチング部分)は、そのようなプロセスで用いられる微小な線幅をもった細長い線状パターンである。
なお、実際の線状パターンは、線幅(図のX軸方向に関する幅)に比べて、線長(図のY軸方向に関する長さ)は極めて大きくなり、文字通り「1本の線」として把握されるべきパターンであるが、本願では、図示の便宜上、線長を大幅に縮小した線状パターン(図7(a) のハッチング部分のように「矩形」として把握されるパターン)を、パターニングの対象となる対象図形F1とした例について説明を行うことにする。
図7(b) に示す描画データは、被成形層上に図7(a) に示すような対象図形F1を形成するために、マルチビーム電子線描画装置に与えるデータであり、それぞれの画素に所定の画素値pが定義された二次元画素配列によって構成される。既に§1で説明したとおり、この二次元画素配列を構成する個々の画素Pは、被成形層上の露光対象面に縦横にそれぞれ所定ピッチdで配置された多数の照射基準点Qに照射すべき電子線強度を示す画素値pを有している。以下、この二次元画素配列の縦方向および横方向の画素ピッチdをd=10nmに設定した例について説明を行うことにする。したがって、照射基準点Qの縦方向および横方向のピッチdも同じくd=10nmに設定される。
図7(b) に示す描画データは、露光対象面(XY平面)上にこのような二次元画素配列を定義し、個々の画素にそれぞれ所定の画素値を付与したものである。この例の場合、個々の画素値pとして、p=0~15の範囲の数字を付与しているため、この描画データは、いわば4ビットの階調値をもったグレースケールの画像データということになり、個々の画素は、図4に示すような16通りの露光強度分布のうちの1つをその画素値pによって指定する役割を果たす。
なお、図7(b) に示す描画データの場合、個々の画素の画素値pは、p=0(最小値)もしくはp=15(最大値)のいずれかをとっており、中間の画素値p=1~14をとる画素は存在しない。これは、図7(a) に示す線状パターンの輪郭線が、画素の境界に一致しているため、中間の画素値を用いなくても、線状パターンの形成が可能になるためである。すなわち、図示の例の場合、線状パターン内に完全に含まれる画素については画素値p=15(最大値)を与え、線状パターンに含まれない画素については画素値p=0(最小値)を与えることにより、描画データが構成されている。
このような描画データを電子線描画装置に与えると、画素値p=0をもつ画素に対応する照射基準点位置には電子ビームの照射は1回も行われず、画素値p=15をもつ画素に対応する照射基準点位置には電子ビームの照射が15回行われることになる。その結果、図4に示す小山M(15)を足し合わせることにより、大山MMが形成され、露光対象面上には、所定の閾値Ethを基準にして、図7(a) に示すような露光領域a(総露光強度が閾値Eth以上となる領域)と非露光領域b(総露光強度が閾値Eth未満となる領域)とが形成されることになる。
図7(a) に示す例のように、対象図形F1の輪郭線が、画素の境界に一致するような設計を行うと、二次元画素配列上に対象図形F1を配置したときに、対象図形F1内に完全に含まれる画素(以下、完全画素と呼ぶ)と、対象図形F1を全く含まない画素(以下、空画素と呼ぶ)との2種類の画素のみが定義されることになる。そこで、完全画素については画素値p=15(最大値:電子ビームを最大回数だけ照射することを示す画素値)を与え、空画素については画素値p=0(最小値:電子ビームを1回も照射しないことを示す画素値)を与えるようにすれば、図7(b) に示すような描画データが得られる。
一般的なマルチビーム電子線描画装置を用いたパターニングプロセスの場合、通常、輪郭線が画素の境界に一致するような図形を示す描画データを与えた場合に、寸法誤差のない正確なパターンが形成されるような標準パターニング条件を設定した運用が行われる。したがって、一般に、線幅Wが、画素の線幅方向ピッチdの整数倍となるような図形を形成する場合、当該図形の輪郭線が、画素の境界に一致するような位置合わせを行った設計を行えば、標準パターニング条件により、寸法誤差のない正確なパターン形成を行うことができる。
図7に示す例の場合、画素ピッチd=10nmであり、しかも対象図形F1の線幅Wは50nmであるため、線幅Wは、画素ピッチdのちょうど5倍になっている。したがって、対象図形F1の設計時には、左右両側の輪郭線が画素の境界に一致するような設計を行い、上記標準パターニング条件でパターン形成処理(露光処理および現像処理)を行えば、ほぼ設計どおりの寸法をもった物理的パターンが得られる。すなわち、露光領域aとして残存する被成形層(被成形層がネガ型レジストの場合)、もしくは、非露光領域bとして残存する被成形層(被成形層がポジ型レジストの場合)によって、線幅50nmをもった物理的な線状パターンを形成することができる。
一方、画素ピッチdに満たないサブピクセルレベルの端数寸法の線幅をもった線状パターンを形成する場合には、輪郭線の内側直近部における当該端数寸法に相当する画素について、中間的な画素値を与えるようにすればよい。図8(a) は、X軸方向の幅W=54nmをもつ対象図形F2の平面図であり、図8(b) は、当該対象図形F2を露光するための描画データを構成する画素配列を示す図である。図7に示す対象図形F1の線幅WがW=50nmであったのに対して、図8に示す対象図形F2の線幅WはW=54nmであり、4nmだけ幅が広くなっている。図示の例の場合、画素ピッチdは10nmであるので、この4nmの幅増加分は、画素ピッチdに満たないサブピクセルレベルの端数寸法ということになる。
そこで、図8(b) に示す描画データでは、この4nmの幅増加分を、画素値pとして、p=6という中間的な階調値をもった画素列を設けることにより補填している。すなわち、図8に示す例の場合、W=54nmなる線幅をもつ対象図形F2について、その左側の輪郭線が画素の境界に一致するような設計を行っているため、第3列目~第7列目までの画素列については、図7に示す例と同様に、画素値p=15(最大値)が付与されているが、第8列目の画素列には、画素値p=6が付与されている。これは、この第8列目の画素列が、対象図形F2を部分的に含む画素(以下、不完全画素と呼ぶ)であるため、当該対象図形F2の含有率に応じて定まる階調値を画素値pとして与えた結果である。
上述したとおり、ここに示す例の場合、対象図形F2内に完全に含まれる完全画素(第3列目~第7列目までの画素)については最大画素値p=15を与え、対象図形F2を全く含まない空画素(第1,2,9,10列目の画素)については最小画素値p=0を与えることになる。そして、対象図形F2を部分的に含む不完全画素(第8列目の画素)については、対象図形F2の含有率「4/10」を最大画素値p=15に乗じることにより得られる積6を画素値として与えている。
この図8(b) に示す描画データを電子線描画装置に与えれば、画素値p=0をもつ画素に対応する照射基準点位置には電子ビームの照射は1回も行われず、画素値p=6,p=15をもつ画素に対応する照射基準点位置には、電子ビームの照射が、それぞれ6回,15回行われることになる。そして、これらの各露光処理によって形成される露光強度分布の小山を足し合わせることにより得られる大山MMについて、所定の閾値Ethを基準にした区分けを行うことにより、図8(a) に示すような露光領域a(総露光強度が閾値Eth以上となる領域)と非露光領域b(総露光強度が閾値Eth未満となる領域)とが形成され、実際に現像を行えば、線幅W=54nmをもった物理的な対象図形F2が形成されることになる。
図9(a) は、X軸方向の幅W=55nmをもつ対象図形F3の平面図であり、図8(b) は、当該対象図形F3を露光するための描画データを構成する画素配列を示す図である。図7に示す対象図形F1の線幅WがW=50nmであったのに対して、図9に示す対象図形F3の線幅WはW=55nmであり、5nmだけ幅が広くなっている。このため、図9(b) に示す描画データでは、この5nmの幅増加分を、第8列目の画素によって補填している。
具体的には、第8列目の画素については、対象図形F3の含有率「5/10」を最大画素値p=15に乗じることにより得られる積7.5を、画素値として与えればよい。ただ、ここに示す例の場合、画素値は0~15のうちのいずれかをとる必要があり、7.5という小数値を含んだ画素値をとることはできない。そこで、第8列目の画素については、図示のとおり、画素値p=7と画素値p=8とを交互に与えるようにし、画素値p=7.5を与えた場合に近い結果が得られるようにしている。
本願では、図7に示す対象図形F1の左右の輪郭線のように、画素の境界(輪郭)に位置する輪郭線を「ONグリッド輪郭線」と呼ぶ。したがって、図8に示す対象図形F2の左側の輪郭線や、図9に示す対象図形F3の左側の輪郭線も「ONグリッド輪郭線」ということになる。これに対して、図8に示す対象図形F2の右側の輪郭線や、図9に示す対象図形F3の右側の輪郭線のように、画素の境界(輪郭)に位置しない輪郭線を「OFFグリッド輪郭線」と呼ぶことにする。ここで「グリッド」とは、画素の境界(輪郭線)を示す格子を意味しており、格子上にある輪郭線が「ONグリッド輪郭線」、格子から外れた位置にある輪郭線が「OFFグリッド輪郭線」ということになる。後述するとおり、対象図形の輪郭線が、「ONグリッド輪郭線」であるのか、「OFFグリッド輪郭線」であるのかの相違は、本発明において重要な意味をもつ。
<<< §3. ONグリッドとOFFグリッドについての誤差比較実験 >>>
ここでは、本発明の理解を容易にするために、本願発明者が行ったONグリッドとOFFグリッドについての誤差比較実験の内容およびその結果を説明する。
<3.1 ONグリッドとOFFグリッドの相違>
背景技術の問題点として指摘したとおり、§1で述べた一般的な荷電マルチビーム描画装置を用いて微細なパターンを形成しようとすると、露光および現像プロセスを経て被成形層61上に実際に形成される実パターンは、元の対象図形に対して寸法誤差を生じる。このような寸法誤差は、様々な要因に基づいて生じることになり、この寸法誤差を低減するために、これまでも様々な誤差修正方法が提案されている。
本願発明者は、このような誤差要因の1つとして、「§2で述べたONグリッドとOFFグリッドの相違」が関係しているのではないか、との仮説の下に、具体的な実験を行い、当該仮説を実証した。以下、この仮説についての内容と、その実証結果を説明する。
まず、「ONグリッド輪郭線」と「OFFグリッド輪郭線」との相違を、もう一度確認しておく。ONグリッド輪郭線もOFFグリッド輪郭線も、描画の対象となる対象図形の輪郭線である点に変わりはない。ただ、描画データの二次元画素配列との位置関係を考えた場合、ONグリッド輪郭線C1は、図10(a) に示すように、画素の境界(輪郭線)を示す格子上に位置する輪郭線であり、OFFグリッド輪郭線C2は、図10(b) に示すように、画素の境界(輪郭線)を示す格子上には位置しない輪郭線である。
通常、ONグリッド輪郭線C1で隔てられた2つの領域のうち、一方の領域に所属する画素(対象図形の内側の画素)には最大画素値が与えられ、他方の領域に所属する画素(対象図形の外側の画素)には最小画素値が与えられる。図10(a) に示す例の場合、画素値として4ビットのデータを用いているため、ONグリッド輪郭線C1の右側(対象図形の内側)の画素には最大画素値p=15が与えられ、ONグリッド輪郭線C1の左側(対象図形の外側)の画素には最小画素値p=0が与えられている。別言すれば、ONグリッド輪郭線C1の近傍に位置するONグリッド画素は、対象図形内に完全に含まれる完全画素か、対象図形を全く含まない空画素か、のいずれかになるので、前者には最大画素値p=15を与え、後者には最小画素値p=0を与えればよい。
これに対して、OFFグリッド輪郭線C2の近傍に位置するOFFグリッド画素には、対象図形内に完全に含まれる完全画素および対象図形を全く含まない空画素の他に、対象図形を部分的に含む不完全画素が存在する。そこで、完全画素には最大画素値p=15を与え、空画素には最小画素値p=0を与え、不完全画素には中間の画素値p=1~14を与えることになる。図10(b) に示す例の場合、第1列目の空画素には最小画素値p=0が与えられ、第3~4列目の完全画素には最大画素値p=15が与えられ、第2列目の不完全画素には中間の画素値p=7もしくは8が与えられている。
なお、図10(b) では、第2列目の画素の画素値「7,8,7,8,7」を、OFFグリッド輪郭線C2に重ならないよう右にずらして記載してあるが、これらの画素値はいずれも第2列目の不完全画素の画素値である。この第2列目の各不完全画素についての対象図形の含有率は「5/10」であり、本来であれば、画素値7.5を与えるべきであるが、画素値は小数値をとることができないので、便宜上、画素値p=7と画素値p=8とを交互に与えている。
ONグリッド輪郭線C1とOFFグリッド輪郭線C2とについて、図10に示すような取り扱いを行えば、理論上は、誤差のない寸法精度をもったパターニングを行うことができるはずである。しかしながら、実際には、様々な要因によって、いわゆるエッジポジションエラーが発生し、理論的な寸法精度をもったパターニングを行うことは困難である。このため、設計上の対象図形の寸法と、実際に被成形層上に形成される実図形の寸法との間に誤差が生じることは避けられない。本願発明者は、以下に述べる誤差比較実験により、ONグリッド輪郭線C1の近傍に生じる寸法誤差e(on)と、OFFグリッド輪郭線C2の近傍に生じる寸法誤差e(off)との間に、普遍的な相違が生じることを見出した。以下、この誤差比較実験の結果を詳細に説明する。なお、以下の説明における寸法誤差e(on)およびe(off)は、誤差eの絶対値を指すものとする。
<3.2 誤差比較実験の内容>
本願発明者は、図1に例示した特定のマルチビーム方式の電子線描画装置を用いて、特定の材料からなるレジスト層(被成形層61)上に、テストパターンとなる所定の対象図形を露光し、これを現像して実パターンを得るプロセスについて、元となる対象図形の寸法と得られた実パターンの寸法との間に生じる誤差を求める処理を、様々な対象図形について実行する誤差比較実験を行った。
この実験では、電子線描画装置の動作条件(たとえば、ビーム断面のエネルギー密度分布などのビーム特性)や、用いるレジスト層についての化学的な感光感度、前方散乱、後方散乱などによるエネルギー吸収特性も考慮して誤差を求めている。この誤差比較実験の目的は、ONグリッド輪郭線C1の近傍に生じる寸法誤差e(on)と、OFFグリッド輪郭線C2の近傍に生じる寸法誤差e(off)とを比較することにある。
なお、この誤差比較実験では、§1で述べた例とは異なり、正方形断面をもつ電子ビームを用いた。すなわち、この誤差比較実験では、図1に示すアパーチャープレート40に形成された個々の開口部41が、正方形の断面を有する電子線描画装置を用いており、開口部41を通過した個々の電子ビーム21の断面は正方形になる。したがって、被成形層61の上面(露光対象面)には、1本の電子ビーム21の照射により正方形の照射スポットが形成される。
図11(a) は、描画データを構成する二次元画素配列と、当該描画データに基づいて照射される電子ビームの強度分布との関係を示す平面図(上段(a) )およびグラフ(下段(b) )である。図3が、円形断面をもつ電子ビームを用いた例であるのに対して、図11は、正方形断面をもつ電子ビームを用いた例ということになる。たとえば、図11に示す画素P1の中心に定義された照射基準点Q1に照射された電子ビームにより、露光対象面(XY平面)上には、正方形の照射スポットS1による露光が行われ、画素P2の中心に定義された照射基準点Q2に照射された電子ビームにより、露光対象面(XY平面)上には、正方形の照射スポットS2による露光が行われる。
もちろん、照射スポットS1による露光強度は画素P1のもつ画素値E1に基づいて決定され、照射スポットS2による露光強度は画素P2のもつ画素値E2に基づいて決定される。前述したように、円形の照射スポットによる露光強度分布は、ガウスの誤差関数に応じたものになるが、正方形の照射スポットによる露光強度分布は、ガウスの誤差関数を若干変形した台形状のグラフになる。具体的には、図11(a) に示す照射スポットS1,S2によるX軸方向に関する露光強度分布は、図11(b) に示すグラフM1,M2のようになる。図6には、多数の小山M1~M9によって大山MMが作成される例を示したが、個々の小山Mが台形状のグラフになる場合、これらの総和になる大山MMも台形状のグラフになる。
すなわち、照射基準点Q1を中心として照射された電子ビームによる露光強度分布はグラフM1のような幅φをもった台形状の山になり、照射基準点Q2を中心として照射された電子ビームによる露光強度分布はグラフM2のような幅φをもった台形状の山になる。ここで、グラフM1のエネルギー密度Eのピーク値はE1(画素P1の画素値)、グラフM2のエネルギー密度Eのピーク値はE2(画素P2の画素値)である。また、幅φは、正方形の照射スポットの一辺の長さに相当する。図11は、この正方形の一辺の長さφを、画素ピッチdの2倍、すなわち、φ=2dに設定した例である。
なお、図11では、説明の便宜上、照射スポットS1,S2が完全な正方形である例を示しているが、実際には、照射スポットS1,S2は完全な正方形ではなく、若干、輪郭に湾曲を生じた形になる。特に、正方形の4隅の角は、若干、丸みを帯びた形状になる。ただ、以下の説明では、便宜上、照射スポットが完全な正方形であるものとする取り扱いを行う。
図11に示す例のように、画素ピッチdに対して、一辺が2dの正方形状のビームスポットSを用いて露光を行う方式は、一般に「ダブル・グリッド」と呼ばれている。ダブル・グリッドでは、1本の正方形状の電子ビームによって、4画素分の面積に相当する領域が露光される。たとえば、画素ピッチd=10nmの場合、アパーチャープレート40に形成された1つの開口部41を通過する1本の電子ビームによって、露光対象面上には、一辺20nmの正方形からなる照射スポットが形成されることになる。
図12は、このダブル・グリッド方式の露光プロセスを示す平面図である。図12(a) には、2通りの対象図形の輪郭線C1,C2が示されている。いずれも、矩形パターンの上端部分の輪郭線になっている。図示のとおり、破線で示す輪郭線C1をもつ対象図形に比べて、一点鎖線で示す輪郭線C2をもつ対象図形の方が、若干大きな図形になっている。これらの対象図形に基づいて、露光対象面上に露光パターンを形成するには、§2で述べたように、所定の露光強度を示す画素値をもった画素の二次元配列によって構成される描画データを作成する必要がある。
図12(b) は、図12(a) に示す輪郭線C1をもつ対象図形の上端部分に基づいて作成された描画データを示す。この例の場合、図示のとおり、太い破線で示す輪郭線C1の各部は、いずれも画素の境界に位置するONグリッド輪郭線になっている。画素ピッチd=10nmの場合、輪郭線C1をもつ対象図形のX軸方向の幅は90nmになる。そして、輪郭線C1の内部に位置する完全画素には、画素値p=15が与えられ、輪郭線C1の外部に位置する空画素には、画素値p=0が与えられる。
一方、図12(c) は、図12(a) に示す輪郭線C2をもつ対象図形の上端部分に基づいて作成された描画データを示す。この例の場合、図示のとおり、太い一点鎖線で示す輪郭線C2の各部は、いずれも画素の内部を通過するOFFグリッド輪郭線になっている。画素ピッチd=10nmの場合、輪郭線C2をもつ対象図形のX軸方向の幅は100nmになる。そして、輪郭線C2上の不完全画素には、画素値p=4,7,8のいずれかが与えられる(角の画素には画素値p=4が与えられ、辺上の画素には画素値p=7,8が交互に与えられる)。また、不完全画素の内部に位置する完全画素には、画素値p=15が与えられ、不完全画素の外部に位置する空画素には、画素値p=0が与えられる。なお、図12(c) では、不完全画素の画素値を、OFFグリッド輪郭線C2に重ならないように内側にずらして記載してあるが、これらの画素値はいずれもOFFグリッド輪郭線C2上の不完全画素の画素値である。
図12(b) ,(c) に太線で示す照射スポットSは、1本の電子ビームによって、露光対象面上に形成される照射領域を示し、一辺が20nmの正方形になる(前述したとおり、実際には、若干湾曲している)。なお、この照射スポットSと二次元画素配列との位置関係は、実際には、図11(a) に示すように、画素の半ピッチ分縦横にずれたものになる。たとえば、図11(a) の画素P1の中心に定義された照射基準点Q1を中心として照射される電子ビームによって形成される照射スポットS1は、照射基準点Q1を中心とする一辺2dの正方形になるので、画素配列に対しては、半ピッチ分縦横にずれたものになる。ただ、図12(b) ,(c) では、照射スポットSが画素ピッチdの2倍の長さをもった正方形になることを示す便宜上、縦横に画素の半ピッチ分ずれた位置に照射スポットSを描いている。
もちろん、画素ピッチdに対する照射スポットSの大きさは、任意に設定することができる。たとえば、画素ピッチdに対して、一辺が4dの正方形状のビームスポットSを用いて露光を行うことも可能であり、このような方式は、一般に「クアッド・グリッド」と呼ばれている。クアッド・グリッドでは、1本の正方形状の電子ビームによって、16画素分の面積に相当する領域が露光される。たとえば、露光対象面上に、一辺20nmの正方形からなる照射スポットSが形成される場合に、クアッド・グリッド方式を適用するのであれば、画素ピッチd=5nmに設定すればよい。
図13は、このクアッド・グリッド方式の露光プロセスを示す平面図である。図13(a) には、3通りの対象図形の輪郭線C1,C2,C3が示されているが、いずれも、矩形パターンの上端部分の輪郭線である。図示のとおり、破線で示す輪郭線C1をもつ対象図形、二点鎖線で示す輪郭線C3をもつ対象図形、一点鎖線で示す輪郭線C2をもつ対象図形の順に、少しずつ大きな図形になっている。
図13(b) は、図13(a) に示す輪郭線C1およびC2をもつ対象図形の上端部分に基づいて作成された描画データを示す。この例の場合、図示のとおり、太い破線で示す輪郭線C1の各部と太い一点鎖線で示す輪郭線C2の各部は、いずれも画素の境界に位置するONグリッド輪郭線になっている。画素ピッチd=5nmの場合、輪郭線C1をもつ対象図形のX軸方向の幅は90nmになり、輪郭線C2をもつ対象図形のX軸方向の幅は100nmになる。そして、各輪郭線の内部に位置する完全画素には、画素値p=15が与えられ、各輪郭線の外部に位置する空画素には、画素値p=0が与えられる(図には、一部の画素の画素値のみを示す)。
一方、図13(c) は、図13(a) に示す輪郭線C3をもつ対象図形の上端部分に基づいて作成された描画データを示す。この例の場合、図示のとおり、太い二点鎖線で示す輪郭線C3の各部は、いずれも画素の内部を通過するOFFグリッド輪郭線になっている。画素ピッチd=5nmの場合、輪郭線C3をもつ対象図形のX軸方向の幅は95nmになる。そして、輪郭線C3上の不完全画素には、画素値p=4,7,8のいずれかが与えられる(図示省略)。また、不完全画素の内部に位置する完全画素には、画素値p=15が与えられ、不完全画素の外部に位置する空画素には、画素値p=0が与えられる。
図13(b) ,(c) に太線で示す照射スポットSは、1本の電子ビームによって、露光対象面上に形成される照射領域を示し、一辺が20nmの正方形になる(前述したとおり、実際には、若干湾曲している)。なお、ここでも、照射スポットSが画素ピッチdの4倍の長さをもった正方形になることを示す便宜上、縦横に画素の半ピッチ分ずれた位置に照射スポットSを描いている。
後述する§3.3では、上述したダブル・グリッド方式の露光プロセスと、クアッド・グリッド方式の露光プロセスと、について行った誤差比較実験の結果を示す。そこで、ここでは、露光によってレジスト層(被成形層)に形成される図形パターンの輪郭線近傍の露光強度分布を簡単に説明しておく。
図1に示す電子線描画装置における移動ステージ70は、試料基板60を図の左右方向(X軸方向)および図の奥行き方向(Y軸方向)に移動させる。したがって、図12(b) において、照射スポットSは、X軸方向およびY軸方向に、それぞれ画素ピッチdを移動単位として移動させる制御が可能である。このような移動制御を行うと、ダブル・グリッド方式の場合、1つの画素には、同じ照射スポットSが4回照射されることになる。前述したとおり、図1に示す電子線描画装置は、多数の電子ビーム21を照射する機能を有しているので、画素値p=15をもつ画素については、隣接する15個の照射スポットSが、それぞれ4回ずつ照射されることになる。
たとえば、図12(b) に示す二次元画素配列において、第4行第6列の画素(太線で示す照射スポットS内の右上の画素)に着目すると、当該着目画素は、照射スポットSが図示の位置(以下、基準位置という)にあるときに第1回目の照射を受け、照射スポットSが基準位置から画素ピッチdだけ+Y方向に移動したときに第2回目の照射を受け、照射スポットSが基準位置から画素ピッチdだけ+X方向に移動したときに第3回目の照射を受け、更に、照射スポットSが基準位置から画素ピッチdだけ+X方向および+Y方向に移動したときに第4回目の照射を受ける。これに対して、図13(b) に示すようなクアッド・グリッド方式による露光を行った場合は、図示されている照射スポットS内の各画素は、それぞれ16回ずつの照射を受けることになる。
ここで、図12(b) 、図13(b) に示すようなONグリッド輪郭線をもつ図形パターンと、図12(c) 、図13(c) に示すようなOFFグリッド輪郭線をもつ図形パターンと、を比較すると、前者に比べて後者は、輪郭線近傍において中間的な画素値をもつ不完全画素が存在するため、露光強度分布の立ち上がり、あるいは、立ち下がりの傾斜が、より緩慢になる。
<3.3 誤差比較実験の結果>
ここでは、ダブル・グリッド方式の露光プロセスと、クアッド・グリッド方式の露光プロセスと、について行った誤差比較実験の結果を示す。前述したように、この誤差比較実験の目的は、元になる対象図形の寸法と、この対象図形に基づく露光・現像プロセスによって得られる実パターンの寸法と、の間に生じる誤差そのものを測定することではなく、ONグリッド輪郭線C1の近傍に生じる寸法誤差e(on)と、OFFグリッド輪郭線C2の近傍に生じる寸法誤差e(off)とを比較することにある。
図14は、この誤差比較実験において、元になる対象図形として用いられた幅dx、長さdyの線状図形F4を示す平面図である。このような図形パターンは、一般に、「Iso-Space」と呼ばれており、長さdyに比べて、幅dxは極めて小さく、1本の細い線として把握される図形になっている。実際の実験では、長さdyを一定値に固定し、幅dxを所定範囲で変化させ、縦方向の輪郭線(長さdyをもつ輪郭線)について、X軸方向に関する位置の誤差を寸法誤差eとして求めた。なお、ここに示す誤差比較実験の目的は、上述したとおり、ONグリッド輪郭線の近傍に生じる寸法誤差e(on)と、OFFグリッド輪郭線の近傍に生じる寸法誤差e(off)とを比較することにあるので、以下の実験結果では、具体的な寸法値やドーズ量の値を示す代わりに、任意尺度の寸法値やドーズ量を示すことにする。したがって、図15,図16に示すグラフにおける縦軸および横軸の寸法値やドーズ量の値は、実際の物理量の数値に対応するものではなく、任意尺度の数値である。
図15は、図14に示す線状図形F4について、幅dxの設計寸法と実際に形成されるパターンに生じる寸法誤差eとの関係を求めた結果を示すグラフである。このグラフの横軸は、線状図形F4の幅の設計寸法dx(対象図形として与えられた図形パターンの寸法:任意尺度)、縦軸は、各設計寸法dxをもった対象図形に基づいて得られる実パターンについて生じたX軸方向に関する寸法誤差e(任意尺度)を示している。また、グラフ上の丸印のプロットはONグリッド輪郭線について得られた結果を示し、X印のプロットはOFFグリッド輪郭線について得られた結果を示している。
この実験では、図12に示すダブル・グリッド方式の露光プロセスが行われており、画素ピッチは所定値dに設定されている。そして、まず、所定の設計寸法dxの幅をもつ対象図形を、左右の両輪郭線がONグリッド輪郭線となるように配置して寸法誤差eを求め、以後、左右両輪郭線を所定寸法だけ左右両側に広げるようにし、それぞれ寸法誤差eを求める処理を行った。
具体的には、図15のグラフにおいて、設計寸法dx=20の対象図形では左右の両輪郭線がONグリッド輪郭線になるが(丸印のプロット)、設計寸法dx=25の対象図形では左右の両輪郭線がOFFグリッド輪郭線になり(X印のプロット)、設計寸法dx=30の対象図形では左右の両輪郭線がONグリッド輪郭線になり(丸印のプロット)、設計寸法dx=35の対象図形では左右の両輪郭線がOFFグリッド輪郭線になり(X印のプロット)、... というように、設計寸法dxを画素ピッチd単位で増加させてゆくと、丸印のプロット(ONグリッド輪郭線)とX印のプロット(OFFグリッド輪郭線)とが交互に出現する結果になっている。
この図15に示すグラフで留意すべき点は、丸印のプロットをなめらかに結ぶ曲線と、X印のプロットをなめらかに結ぶ曲線とが、それぞれ別個の曲線になる点である。これは、ONグリッド輪郭線の近傍に生じる寸法誤差e(on)と、OFFグリッド輪郭線の近傍に生じる寸法誤差e(off)との間に、大きな乖離が生じていることを示している。
この実験では、設計寸法dx=100をもつ対象図形について生じる寸法誤差eが0に近くなるような設定(たとえば、露光後の現像時間などの設定)を行っているため、dx=100の近傍を通るグラフの寸法誤差eが最小となっている。また、dx=50~200の区間において、ONグリッド輪郭線の寸法誤差(丸印のプロット)は、ほぼ0に近いものになっている。dx=50未満のONグリッド輪郭線の寸法誤差(丸印のプロット)は、dxの減少とともに絶対値が増加する傾向にあるが、これは設計寸法dxが小さくなると、パターニング系の解像度の限界に近づくためと考えられる。
一方、OFFグリッド輪郭線の寸法誤差(X印のプロット)は、全体的に、ONグリッド輪郭線の寸法誤差(丸印のプロット)に比べて、上方にずれた結果になっている。このことから、ONグリッド輪郭線の近傍に寸法誤差e(on)を生じさせる要因と、OFFグリッド輪郭線の近傍に寸法誤差e(off)を生じさせる要因と、の間には、何らかの根本的な相違があると考えられる。
図15に示す実験結果では、dx=50~200の区間に関しては、ONグリッド輪郭線近傍の寸法誤差e(on)に比べて、OFFグリッド輪郭線近傍に寸法誤差e(off)の方が大きくなっているが、これは、たまたまdx=100についての寸法誤差eが0に近くなるような設定を行ったためであり、一般論として、e(on)<e(off)という結果が得られるわけではない。たとえば、露光量と現像時間などの設定を変更すれば、図15に示す2本のグラフを全体的に下方に移動させることも可能であり、その場合は、e(on)>e(off)という結果を得ることができる。
結局、この実験が示す重要な点は、ONグリッド輪郭線の寸法誤差e(on)と、OFFグリッド輪郭線の寸法誤差e(off)との間には、常に差が生じるという点である。ここでは、この差を「寸法誤差の差Δe」と呼ぶことにする(Δe=e(off)-e(on))。本願発明者は、この寸法誤差の差Δeを、いろいろな条件を変えて測定してみた。以下、その結果を示す。
図16は、図14に示す「Iso-Space」の線状パターンを対象図形として用いて、ダブル・グリッド方式(図(a) )とクアッド・グリッド方式(図(b) )について、ドーズ量Zと寸法誤差eおよび寸法誤差の差Δeとの関係を示すグラフである。このグラフ横軸のドーズ量Zは、電子線描画装置による設定が可能な量であり、電子ビームによるエネルギー量(単位:任意尺度)を示している。また、縦軸左側目盛は、図15のグラフと同様に、寸法誤差e(単位:任意尺度)を示しており、縦軸右側目盛は、寸法誤差の差Δe(単位:任意尺度)を示している。
なお、対象図形となる線状パターンは1種類であるが、その配置をずらすことにより、左右の輪郭線がONグリッド輪郭線になる場合と、OFFグリッド輪郭線になる場合と、の2通りの場合について測定を行った。この図16においても、図15のグラフと同様に、丸印のプロットはONグリッド輪郭線について得られた寸法誤差e(on)を示し、X印のプロットはOFFグリッド輪郭線について得られた寸法誤差e(off)を示しており、いずれも縦軸左側目盛の尺度に応じた数値になる。これに対して、グラフ中の三角印のプロットは、寸法誤差の差Δe(Δe=e(off)-e(on))を示しており、縦軸右側目盛(縦軸左側目盛を10倍に拡大したもの)の尺度に応じた数値になる。
図16(a) に示すダブル・グリッドの結果も、図16(b) に示すクアッド・グリッドの結果も、ドーズ量Zが増えると寸法誤差eが増加する傾向を示しており、寸法誤差の差Δeも増加する傾向を示している。このように、寸法誤差の差Δeは、ドーズ量Zに応じて変化する量ということになる。また、寸法誤差の差Δeは、クアッド・グリッドに比べて、ダブル・グリッドの方が大きくなることもわかる。
図17は、ダブル・グリッド方式(σ=8nmの場合:吸収パラメータσの意味については、§3.4.4において後述する)における露光強度分布グラフであり、コンピュータシミュレーションによって得られたものである。各グラフの横軸はX軸方向の位置(単位:nm)、縦軸は各位置における露光強度(単位:任意尺度)を示している。より具体的には、図17(a) は、図14に示す幅dx=100nmをもつ線状パターンを、その左右の輪郭線がいずれもONグリッド輪郭線となるように配置した場合の露光強度分布グラフであり、図17(b) は、同じ線状パターンを、その左右の輪郭線がいずれもOFFグリッド輪郭線となるように配置した場合の露光強度分布グラフである。また、図17(c) は、これらのグラフを重ねて示した図である。
図17(a) に実線で示されている大山のグラフは、細線で示されている10個の小山のグラフの総和として得られるグラフである。このように、露光対象面上の露光強度の分布が、複数の小山の総和からなる大山で表されることは、図6で説明したとおりである。なお、前述したとおり、ここで説明する誤差比較実験では、正方形断面をもつ電子ビームを用いているため、個々の小山は、実際には、図11(b) に示すような台形状のグラフになるが、以下の図では、図示の便宜上、図2に示すようなガウスの誤差関数に応じた分布(本来は、円形断面を有する電子ビームのエネルギー密度として得られる分布)をもつ小山を代用して説明を行うことにする。
ここでは、この露光強度分布グラフのうち、ONグリッド輪郭線の近傍部分のグラフを「ONグリッドプロファイルPon」、OFFグリッド輪郭線の近傍部分のグラフを「OFFグリッドプロファイルPoff 」、一対の輪郭線に挟まれた中間部分のグラフを「中間部分プロファイルPmid 」と呼ぶことにする。別言すれば、「ONグリッドプロファイルPon」とは、対象図形のONグリッド輪郭線に直交する方向(図14の例の場合はX軸方向)に関する露光強度の分布を示すプロファイルであり、「OFFグリッドプロファイルPoff 」とは、対象図形のOFFグリッド輪郭線に直交する方向(同様に、図14の例の場合はX軸方向)に関する露光強度の分布を示すプロファイルである。
図17(a) は、左右の輪郭線がともにONグリッド輪郭線である場合の例であるので、実線で示す露光強度分布グラフの左側の立ち上がり部分および右側の立ち下がり部分は、いずれも「ONグリッドプロファイルPon」となり、その間の平坦な部分が「中間部分プロファイルPmid 」になる。
図10(a) に示すように、ONグリッド輪郭線C1の内側に配置された画素には最大画素値(p=15)が与えられ、外側に配置された画素には最小画素値(p=0)が与えられる。したがって、図17(a) に示す10個の小山は、いずれも同じ高さ(最大画素値p=15に相当する高さ)を有している。ただ、左端の小山の更に左に隣接する小山は存在せず、右端の小山の更に右に隣接する小山は存在しないため、グラフの左側部分には曲線を描いて立ち上がるONグリッドプロファイルPonが形成され、グラフの右側部分には曲線を描いて立ち下がるONグリッドプロファイルPonが形成されている。
一方、図17(b) は、左右の輪郭線がともにOFFグリッド輪郭線である場合の例であるので、破線で示す露光強度分布グラフの左側の立ち上がり部分および右側の立ち下がり部分は、いずれも「OFFグリッドプロファイルPoff 」となり、その間の平坦な部分が「中間部分プロファイルPmid 」になる。
図17(b) に破線で示されている大山のグラフは、細線で示されている11個の小山のグラフの総和として得られる。図10(b) に示すように、OFFグリッド輪郭線C2上に配置された画素には中間的な画素値が与えられるので、図17(b) に示す11個の小山のうち、両端を除く9個の小山は、いずれも同じ高さ(最大画素値p=15に相当する高さ)を有しているが、左端の小山および右端の小山は、半分の高さ(中間的な画素値p=7もしくは8に相当する高さ)を有している。このため、グラフの左側部分には曲線を描いて立ち上がるOFFグリッドプロファイルPoff が形成され、グラフの右側部分には曲線を描いて立ち下がるOFFグリッドプロファイルPoff が形成されている。
図17(c) は、図17(a) と図17(b) とを重ねた図である。図に実線で示す大山のグラフは、図17(a) に示すONグリッド輪郭線を両側にもつ露光強度分布を示し、図に破線で示す大山のグラフは、図17(b) に示すOFFグリッド輪郭線を両側にもつ露光強度分布を示している。両者を比較すると、平坦な中間部分プロファイルPmid については形状が一致しているが、左側の立ち上がり部分や右側の立ち下がり部分において、傾斜に相違が生じていることがわかる。すなわち、中間部分プロファイルPmid については一致するが、ONグリッドプロファイルPon(実線)とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)との間には、若干の相違が生じることになる。
図17(c) に示す露光強度分布グラフの左端部分および右端部分に注目し、ONグリッドプロファイルPon(実線)とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)との相違を観察すると、前者に比べて後者の傾斜が緩慢になっていることがわかる。しかも、ONグリッドプロファイルPon(実線)とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)とは、縦軸の目盛「1」をとる点を交点として交差している。
図17(a) に示す露光強度分布グラフ(実線)も図17(b) に示す露光強度分布グラフ(破線)も、同一の対象図形(幅dx=100nmをもつ線状パターン)に基づいて得られたものである。ただ、前者では、左右の輪郭線が、図10(a) に示すように、画素の境界に位置するように配置されているのに対して、後者では、左右の輪郭線が、図10(b) に示すように、画素の中心に位置するように配置されている点が異なっている。別言すれば、両者の相違は、対象図形の二次元画素配列に対する相対的な位置関係のみである。
結局、図17(c) に示す各グラフは、全く同じ対象図形であっても、その二次元画素配列に対する配置が、たまたま、両輪郭線がONグリッド輪郭線となる配置になるか、OFFグリッド輪郭線となる配置になるか、によって輪郭線近傍の露光強度分布に相違が生じることを示している。
半導体デバイスの設計者は、レイアウトパターン設計を行う際に、個々の対象図形の画素配列に対する配置まで意識しているわけではない。したがって、通常、設計者は、各輪郭線をONグリッド輪郭線にするかOFFグリッド輪郭線にするかを意図的に決めることはできず、各対象図形の輪郭線が、ONグリッド輪郭線となるかOFFグリッド輪郭線となるかは、偶然の要素に従って決まることになる。このため、同一寸法をもつ多数の対象図形を並べたパターンであっても、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線が混在した結果となり、輪郭線近傍の露光強度分布に、図17(c) に実線グラフと破線グラフで示す差が生じる。この差は、これまで問題点とされてきたエッジポジションエラーの発生原因の1つと考えられる。
<3.4 誤差比較のバリエーション>
以上述べた実験により、ONグリッド輪郭線の近傍に生じる寸法誤差e(on)と、OFFグリッド輪郭線の近傍に生じる寸法誤差e(off)との間には、寸法誤差の差Δe(e(off)-e(on))が存在し(図16参照)、このような寸法誤差の差Δeが生じる原因は、図17(c) に示すように、ONグリッドプロファイルPonの形状(実線)とOFFグリッドプロファイルPoff の形状(破線)との間に相違があることがわかった。ここでは、このような寸法誤差の差Δe(プロファイルPonとPoff の形状の相違)が、種々の実験パラメータを変えた場合にどのように変化するかを、より詳細に検討してみる。
<3.4.1 設計寸法dxとの関係>
まず、図15に示す実験結果を見てみよう。図15のグラフは、図14に示す線状図形F4のX軸方向の幅の設計寸法dxを種々変えたときの寸法誤差eを示すものであり、丸印のプロットを結んだONグリッド輪郭線についてのグラフと、X印のプロットを結んだOFFグリッド輪郭線についてのグラフとの差が、寸法誤差の差Δeに相当する。
図示のとおり、寸法誤差e自体は、設計寸法dxの変化に応じて若干変化する傾向にあるが、両グラフの差として示される寸法誤差の差Δeは、設計寸法dxの変化によらずに、ほぼ一定になっている。これは、図17(c) に示すように、実線グラフと破線グラフとの相違は、専ら左右の輪郭線近傍にあるONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff との間に生じ、平坦な中間部分プロファイルPmid の部分については差が生じないためと考えられる。
<3.4.2 ダブル/クアッド・グリッドとの関係>
図16(a) にはダブル・グリッド方式について、図16(b) にはクアッド・グリッド方式について、それぞれ実験によって求めた寸法誤差の差Δeが三角印のプロットによって示されている。両者を比較すると、ダブル・グリッド方式を採用した場合の寸法誤差の差Δeよりも、クアッド・グリッド方式を採用した場合の寸法誤差の差Δeの方が小さくなることがわかる。
図18は、クアッド・グリッド方式(σ=8nmの場合:吸収パラメータσの意味については後述)における露光強度分布グラフであり、図18(a) は、図14に示す幅dx=100nmをもつ線状パターンを、その左右の輪郭線がいずれもONグリッド輪郭線となるように配置した場合の露光強度分布グラフであり、図17(b) は、同じ線状パターンを、その左右の輪郭線がいずれもOFFグリッド輪郭線となるように配置した場合の露光強度分布グラフである。また、図17(c) は、これらのグラフを重ねて示した図である。
図17に示す各グラフと図18に示す各グラフとの相違は、前者がダブル・グリッド方式について得られたものであるのに対して、後者がクアッド・グリッド方式について得られたものである点だけである。ダブル・グリッド方式に比べてクアッド・グリッド方式の方が、画素ピッチdが小さくなるため、各グラフに描かれた小山の配置ピッチを比べると、図17に示す小山よりも図18に示す小山の方が、配置ピッチが小さくなり、より密に配されている(倍の密度で配されている)ことがわかる。その一方で、グラフ縦軸に示す露光強度の絶対量を同じにするため、個々の小山の高さは、図17に示す小山よりも図18に示す小山の方が低くなっている(高さが半分になっている)。
実線グラフと破線グラフとの形状の差について図17(c) と図18(c) とを比較すると、前者よりも後者の方が、差が小さくなっている。すなわち、ONグリッドプロファイルPonの形状と、OFFグリッドプロファイルPoff の形状との差は、ダブル・グリッド方式よりもクアッド・グリッド方式の方が小さくなる。これは、大山を構成するための個々の小山の配置ピッチが、ダブル・グリッド方式よりもクアッド・グリッド方式の方が小さくなるためと考えられる。
したがって、本願において問題となる「ONグリッドとOFFグリッドの相違」によって生じる寸法誤差は、クアッド・グリッド方式よりもダブル・グリッド方式の方がより顕著になる。後述するように、本願発明の特有の効果は、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に基づく誤差要因を排除することにあるので、本願発明は、クアッド・グリッド方式よりもダブル・グリッド方式に対して、より顕著な効果を発揮することになる。
<3.4.3 ドーズ量との関係>
図16(a) ,(b) に示すグラフの横軸は、ドーズ量Zになっており、いずれもドーズ量Zが増えると、寸法誤差の差Δeも増大する結果が得られている。これは、図17や図18において、ドーズ量Zを増やすと、露光強度分布グラフが縦軸方向に伸びるため、実線で示すONグリッドプロファイルPonの形状と、破線で示すOFFグリッドプロファイルPoff の形状との差が、より顕著になるためと考えられる。
<3.4.4 吸収パラメータσとの関係>
図17および図18に示す露光強度分布グラフは、吸収パラメータσ=8nmに設定した場合に得られた結果である。ここでは、この吸収パラメータσの意味と、この吸収パラメータσが寸法誤差の差Δeに及ぼす影響について述べる。
一般に、円形断面を有する電子ビームのエネルギー密度分布は、図2に示すように、ガウスの誤差関数に応じたものになり、正方形断面を有する電子ビームのエネルギー密度分布は、図11に示すように、ガウスの誤差関数を若干平坦化した台形状のものになる。したがって、この電子ビームの被照射面に形成される照射スポット内の、電子ビームの直接照射によって受ける露光強度分布も、図3(b) や図11(b) に示すようなものになる。
しかしながら、レジスト層が実際に受けるエネルギーには、電子ビームの照射から直接的に受けるものだけでなく、近接効果と呼ばれている間接的に受けるものも含まれている。この近接効果は、レジスト層に電子ビームを照射したときに、質量の小さい電子が、レジスト内で分子に散乱されながら拡がっていく現象(前方散乱)や、レジスト層の下にある金属基板などの表面付近で散乱されて跳ね返ってきた電子がレジスト層内で拡散してゆく現象(後方散乱)として説明される。
したがって、精度の高いパターニングを行うためには、図3(b) や図11(b) に示すような電子ビーム自身のエネルギー密度分布だけでなく、上述した近接効果によってレジスト層内に広がってゆく電子の挙動も考慮する必要がある。本願では、このような近接効果によって、電子ビームの非照射領域にもエネルギーが広がってゆく現象を、レジスト層による「吸収」と呼ぶことにする。レジスト層は、前方散乱や後方散乱という現象により、電子ビームが直接的には照射されなかった非照射領域であっても、エネルギーを吸収してゆくエネルギー吸収特性を有していることになる。
したがって、たとえば、図1に示すレジスト層61の感光特性は、当該レジスト層を構成する材料の化学的な感光感度だけでなく、材料分子の散乱特性(前方散乱特性)や試料基板60の表面の散乱特性(後方散乱特性)も考慮して定める必要がある。そこで、ここで行った誤差比較実験では、図3(b) や図11(b) に示すエネルギー密度分布の広がりを、吸収パラメータσを用いて修正することにより、前方散乱や後方散乱といったレジスト層のエネルギー吸収特性を考慮したシミュレーションを行っている。
吸収パラメータσは、ガウスの誤差関数における標準偏差に相当するものであり、図3(b) や図11(b) に示すエネルギー密度分布の広がり具合を調整するパラメータになる。電子ビームが直接的に照射されている照射領域が一定であっても、吸収パラメータσが大きくなれば、実際にエネルギーが吸収される領域はより広くなり、図3(b) や図11(b) に示す小山M1,M2の裾野が広がることになる。
図19は、ダブル・グリッド方式におけるレジスト層の吸収特性を考慮した露光強度分布を示すグラフである。図17に示す露光強度分布も図19に示す露光強度分布も、いずれもダブル・グリッド方式についてのものであるが、前者は、吸収パラメータをσ=8nmに設定して得られる小山を積算して得られる大山を示すものであるのに対して、後者は、吸収パラメータをσ=12nmに設定して得られる小山を積算して得られる大山を示すものになっている(前述したように、実際の実験は、正方形断面を有する電子ビームを用いて行っているため、各小山は、ガウスの誤差関数ではなく、台形状のものになる)。
両者の小山を比較するとわかるように、前者の小山の裾野に比べて、後者の小山の裾野はより広いものになっており、前者よりも後者の方が、前方散乱や後方散乱によるエネルギー吸収が活発に行われていることになる。なお、グラフ縦軸に示す露光強度の絶対量を同じにするため、個々の小山の高さは、図17に示す小山よりも図19に示す小山の方が低くなっている。
ここで、図17(c) と図19(c) とを比較すると、平坦部分となる中間部分プロファイルPmid についての差はほとんどないが、ONグリッドプロファイルPon(実線)およびOFFグリッドプロファイルPoff (破線)の形状には顕著な差が生じている。すなわち、これら各プロファイルPon,Poff の傾斜を比較すると、前者に比べて後者の方が緩慢になっており、プロファイルPon(実線)とプロファイルPoff (破線)との差も小さくなっていることがわかる。
図20は、ダブル・グリッド方式を採用した場合において、ONグリッド輪郭線をもつ対象図形(横幅dx=100nmの線状パターン)とOFFグリッド輪郭線をもつ同じ対象図形とについて、形成されるパターンの寸法の相違を、レジスト層の吸収特性(吸収パラメータσ)を6通りに変えた場合について示す表である。表の「吸収パラメータσ」の欄には、上述した小山の裾野の広がりを示す吸収パラメータσの値(5~14nm)が記載されており、「パターン寸法」の欄には、線状パターンを左右の両輪郭線がONグリッド輪郭線となるように配置したときの実パターン幅と、線状パターンを左右の両輪郭線がOFFグリッド輪郭線となるように配置したときの実パターン幅とが、単位nmの数値で記載されており、「OFF-ON」の欄には、上記2通りの実パターン幅の差が、単位nmの数値で記載されている。
より詳細に説明すれば、図20に示す表における「パターン寸法」の欄の「ONグリッド」の数値は、図17(a) や図19(a) に実線で示す大山を、縦軸目盛0.5の位置でスライスしたときに得られる幅を示しており、同欄の「OFFグリッド」の数値は、図17(b) や図19(b) に破線で示す大山を、縦軸目盛0.5の位置でスライスしたときに得られる幅を示している。
図20に示す表における「OFF-ON」の欄の数値を見ると、吸収パラメータσの値が大きくなるほど、ONグリッドとOFFグリッドとの差が小さくなっていることがわかる。これは、吸収パラメータσの値が大きくなると、各プロファイルPon,Poff の傾斜が緩慢になり、プロファイルPon(実線)とプロファイルPoff (破線)との差が小さくなるためである(図17(c) と図19(c) 参照)。後述するように、本発明の特有の効果は、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に基づく誤差要因を排除することにあるので、本発明は、吸収パラメータσの値が小さい場合(前方散乱や後方散乱の影響が小さい場合)ほど、より顕著な効果を発揮することになる。
<3.4.5 OFFグリッドの程度との関係>
これまで、対象図形の輪郭線を、画素配列に対する相対位置に応じて、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との2通りに分けて説明した。ここで、ONグリッド輪郭線は、図10(a) に示すように、画素の境界に位置する輪郭線C1として定義されるものであり、たとえば、図7(a) の対象図形F1の左右両方の輪郭線、図8(a) の対象図形F2の左側の輪郭線、図9(a) の対象図形F3の左側の輪郭線のように、画素との相対的な位置関係は1通りである(いずれも画素の境界線上に位置する)。
これに対して、OFFグリッド輪郭線は、図10(b) に示すように、画素の境界に位置しない輪郭線C2(別言すれば、画素の内部を通る輪郭線C2)として定義されるものであり、たとえば、図8(a) の対象図形F2の右側の輪郭線や図9(a) の対象図形F3の右側の輪郭線は、いずれもOFFグリッド輪郭線になる。ただ、画素との相対的な位置関係は、個々のOFFグリッド輪郭線ごとに異なる。すなわち、図8(a) の対象図形F2の右側の輪郭線は、画素の輪郭線から外側に4nm離れた位置にあるのに対して、図8(b) の対象図形F3の右側の輪郭線は、画素の輪郭線から外側に5nm離れた位置にある。
このように、同じOFFグリッド輪郭線であっても、OFFグリッドの程度(画素の境界線からの距離)には幅がある。そこで、本願では、OFFグリッドの程度まで考慮してOFFグリッド輪郭線を細く区別する必要がある場合には、画素ピッチ(画素の一辺の長さ)をd、画素の境界線から外側に離れた距離をkとして、k/dなる相対位置パラメータを用いて区別することにする。この相対位置パラメータk/dは、「画素配列の周期に対する輪郭線位置の位相」を示している。
たとえば、図8(a) の対象図形F2の右側の輪郭線の場合は、d=10nm、k=4nmなので、相対位置パラメータはk/d=2/5になる。そこで、この輪郭線を2/5-OFFグリッド輪郭線と呼ぶことにする。同様に、図9(a) の対象図形F3の右側の輪郭線の場合は、d=10nm、k=5nmにより、相対位置パラメータはk/d=1/2になるので、1/2-OFFグリッド輪郭線と呼ぶことにする。各輪郭線の位置を画素配列の周期に対する位相として表現するのであれば、画素ピッチdを画素配列の周期として、画素の境界線からの距離kに応じた位相を定義すればよい。たとえば、画素の左側の境界位置を位相0、右側の境界位置を位相2πとすれば、ONグリッド輪郭線の位置は位相0(もしくは2π)、2/5-OFFグリッド輪郭線の位置は位相「2π×2/5」、1/2-OFFグリッド輪郭線の位置は位相πになる。
これまで、§3.3以降で述べた誤差比較実験の結果において、OFFグリッド輪郭線と呼んでいるものは、すべて1/2-OFFグリッド輪郭線であり、図10(b) に示すように、各画素の中心を通る輪郭線である。本願発明者は、この1/2-OFFグリッド輪郭線の代わりに、1/5-OFFグリッド輪郭線、2/5-OFFグリッド輪郭線、3/5-OFFグリッド輪郭線、4/5-OFFグリッド輪郭線など、数種類のOFFグリッド輪郭線を用いた誤差比較実験を行ってみたが、ONグリッド輪郭線(実質的に、0/5-OFFグリッド輪郭線に相当)についての寸法誤差eと、OFFグリッド輪郭線についての寸法誤差eとの差Δeが最も大きくなるのは、いずれも1/2-OFFグリッド輪郭線の場合であった。
たとえば、図17(c) に破線で示すOFFグリッドプロファイルPoff は、1/2-OFFグリッド輪郭線について得られたプロファイルであり、その形状は、実線で示すONグリッドプロファイルPonの形状に対して所定量の相違が生じている。もし、このグラフに、1/5-OFFグリッド輪郭線や4/5-OFFグリッド輪郭線について得られたプロファイルを描いたとすると、そのプロファイルは、図の実線と破線との間に位置することになる。別言すれば、種々のOFFグリッドプロファイルPoff のうち、1/2-OFFグリッド輪郭線について得られたプロファイルは、ONグリッドプロファイルPonの形状に対して最も大きな相違を示すプロファイルということになる。
このように、1/2-OFFグリッド輪郭線について得られたOFFグリッドプロファイルPoff が、ONグリッドプロファイルPonに対して最も相違するプロファイルになる理由は、図10(b) に示す例のように、1/2-OFFグリッド輪郭線上に位置する画素には、最大画素値(図示の例の場合は15)の半分の画素値(図示の例の場合は、7もしくは8)が与えられるためと考えられる。
一般に、半分の画素値が与えられた画素については、半分の高さをもつ小山が形成される。たとえば、図17(b) に示す例において、破線で示す大山を形成するための11個の小山のうち、左右両端の小山は、中間の9個の小山の高さの半分の高さになっている。この半分の高さの小山の存在により、破線で示す大山の左右両端近くのOFFグリッドプロファイルPoff の形状が大きく影響され、図17(a) に実線で示す大山のONグリッドプロファイルPonの形状に対して差を生じさせる要因になる。
これに対して、1/5-OFFグリッド輪郭線や2/5-OFFグリッド輪郭線の場合、輪郭線上に位置する画素の画素値は最大画素値の半分よりも小さくなり、これに対応する小山の高さも小さくなる。したがって、この輪郭線上の小山の存在は、大山の左右両端近くのOFFグリッドプロファイルPoff の形状にそれほど大きな影響を及ぼさない。逆に、3/5-OFFグリッド輪郭線や4/5-OFFグリッド輪郭線の場合、輪郭線上に位置する画素の画素値は最大画素値に近づくことになり、これに対応する小山の高さも大きくなる。したがって、この輪郭線上の小山は、最大高さをもった中間部分の小山に近くなるので、この小山によって構成される大山のOFFグリッドプロファイルPoff の形状は、ONグリッドプロファイルPonの形状に近いものになる。
このような理由から、種々のOFFグリッド輪郭線の中でも、特に、1/2-OFFグリッド輪郭線の存在が、寸法誤差を生じさせる大きな要因になることがわかる。図15に示す例は、画素ピッチdの画素配列上に設計寸法dxをもった線状パターンを配置し、設計寸法dxを画素ピッチdの刻みで変化させた例であるが、X印のプロットで示すOFFグリッド輪郭線は、いずれも1/2-OFFグリッド輪郭線になっている。したがって、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に基づく誤差要因を排除するという本発明の手法は、大きな効果を奏することになる。
<3.5 誤差比較実験のまとめ>
最後に、§3で述べてきた誤差比較実験の結果をまとめると、寸法誤差の差Δe(ONグリッド輪郭線の寸法誤差e(on)と、OFFグリッド輪郭線の寸法誤差e(off)との差:Δe=e(off)-e(on))について、次のことが言える。
(1) 対象図形の設計寸法dx自体は、寸法誤差の差Δeには直接影響を与えない(§3.4.1参照)。
(2) クアッド・グリッド方式よりダブル・グリッド方式の方が、寸法誤差の差Δeが大きくなる(§3.4.2参照)。
(3) ドーズ量Zが増えると、寸法誤差の差Δeが大きくなる(§3.4.3参照)。
(4) 吸収パラメータσが大きいほど、寸法誤差の差Δeが小さくなる(§3.4.4参照)。
(5) 1/2-OFFグリッド輪郭線についての寸法誤差の差Δeが最大になる(§3.4.5参照)。
(6) ONグリッドプロファイルPonの形状よりOFFグリッドプロファイルPoff の形状の方が傾斜が緩慢になる(§3.3参照)。
<<< §4. 本発明の基本概念 >>>
本発明の目的は、荷電マルチビーム描画装置を用いてレジスト層に所定の露光パターンを形成する際に、エッジポジションエラーを排除して正確な寸法精度をもったパターニングを行うことにある。ここでは、そのような目的を達成するための本発明の基本概念を説明する。
<4.1 本発明の基本手順>
図21は、本発明に係る荷電マルチビーム描画装置の描画データ作成方法の基本手順を示す流れ図である。この流れ図に示す手順は、荷電マルチビーム描画装置(たとえば、図1に例示するようなマルチビーム方式の電子線描画装置)を用いてレジスト層61に所定の露光パターンを形成するための描画データを作成するための手順である。図示のとおり、この流れ図に示す描画データ作成方法の手順は、図形データ入力段階S10と、基本描画データ作成段階S20と、輪郭近傍修正段階S30と、を有している。実際には、これらの各段階S10,S20,S30は、コンピュータによって実行される処理であり、各段階S10,S20,S30をコンピュータに実行させるプログラムを用意し、このプログラムをコンピュータに組み込むことにより、荷電マルチビーム描画装置用の描画データを作成する装置を構成することができる。
図形データ入力段階S10では、描画の対象となる対象図形の輪郭線の情報を示す図形データを、コンピュータに入力する処理が行われる。たとえば、図7(a) に示すような矩形状の対象図形F1を描画の対象とする場合であれば、この矩形図形F1の輪郭線の情報を示す図形データ(たとえば、4頂点の座標値とそれらの接続関係を示すデータ)がコンピュータに入力される。実際には、半導体素子等の各領域や配線などを構成する多数の対象図形の輪郭線情報が図形データとして入力されることになる。
続く基本描画データ作成段階S20では、入力した図形データに対してラスタライズ処理を行うことにより、個々のビームの照射位置の露光強度を示す画素値をもった画素の二次元配列によって構成される基本描画データが作成される。たとえば、図7(a) に示す対象図形F1について、その輪郭線の情報を示す図形データが入力された場合、この図形データに対してラスタライズ処理を行うことにより、図7(b) に示すような基本描画データが作成される。この基本描画データは、それぞれ所定の画素値をもった画素の二次元配列であり、各画素の画素値は、当該画素に対応する位置に照射されるビームの露光強度を示している。
この基本描画データ作成段階S20で行われるラスタライズ処理の方法は、既に§2で述べたとおりである。具体的には、この基本描画データ作成段階S20では、対象図形の内部に完全に含まれる完全画素については画素値M(Mは2以上の整数)を、対象図形を全く含まない空画素については画素値0を、対象図形を部分的に含む不完全画素については対象図形の含有率に応じて定まる0~Mの階調値(0およびMを含む)を、それぞれ画素値として与える処理を行えばよい。
§2では、ラスタライズ処理の基本原理を説明したが、実際には、このラスタライズ処理は、荷電マルチビーム描画装置のビーム特性(ビーム断面の形状やエネルギー密度の分布など)およびレジスト層の感光特性(化学的な感光感度、前方散乱、後方散乱などによるエネルギー吸収特性など)を考慮して行われる。たとえば、荷電マルチビーム描画装置のビーム特性を考慮して図7(b) に示すような画素値分布が得られた後、必要に応じて、レジスト層の前方散乱や後方散乱などの感光特性を考慮して、これらの画素値に対する補正を行うことができる。
以上述べた図形データ入力段階S10および基本描画データ作成段階S20は、荷電マルチビーム描画装置に与える描画データを作成するための公知の方法であるが、既に述べたとおり、このような方法で作成された基本描画データを用いてパターニングを行うと、エッジポジションエラーの発生により、正確な寸法精度をもった実図形を形成することができない。その要因の1つは、§3で述べたとおり、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違である。
本発明に係る描画データ作成方法の特徴は、基本描画データ作成段階S20によって作成された基本描画データに対して、更に、輪郭近傍修正段階S30を実行して、修正描画データを作成する点にある。この輪郭近傍修正段階S30の目的は、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に起因する寸法誤差を排除することにある。具体的には、輪郭近傍修正段階S30では、基本描画データを構成する画素のうち、元の対象図形(図形データ入力段階S10で入力された図形データで示される図形)の輪郭線の近傍に位置する輪郭近傍画素の画素値に対して、画素配列の周期に対する当該輪郭線位置の位相に基づく修正(輪郭近傍画素と輪郭線との位置関係に基づく修正)を行うことにより修正描画データを作成する処理が行われる。
ここで、「画素配列の周期に対する輪郭線位置の位相」とは、§3.4.5で述べたように、画素ピッチ(画素の一辺の長さ)をd、画素の境界線からの距離をkとして、「2π・k/d」なる相対位置パラメータで示される値を意味し、たとえば、ONグリッド輪郭線は位相0(もしくは2π)、1/2-OFFグリッド輪郭線は位相πで表現されることになる。輪郭近傍修正段階S30では、輪郭近傍画素の画素値に対して、輪郭線位置の位相に基づく修正が行われる。
具体的には、この輪郭近傍修正段階S30では、対象図形を構成する個々の輪郭線について、画素の境界に位置するONグリッド輪郭線か、画素の境界に位置しないOFFグリッド輪郭線か、を認識する輪郭線のON/OFF認識処理を行い、ONグリッド輪郭線の近傍に位置するONグリッド画素の画素値と、OFFグリッド輪郭線の近傍に位置するOFFグリッド画素の画素値とを、必要に応じて、互いに異なる方法で修正する画素値の修正処理が行われることになる。
特に、図14に示すような細長い線状パターンの場合、左右の輪郭線位置についてのエッジポジションエラー(幅方向の寸法誤差)は、実用上、重要な問題になる。そこで、図形データ入力段階S10において、図14に示すような線状パターン(一対の短辺と一対の長辺とを有する矩形からなる線状パターン)の図形データが入力された場合は、輪郭近傍修正段階S30で、長辺を輪郭線とする輪郭近傍画素の画素値に対して修正を行い、レジスト層に形成される露光パターンの短辺の寸法を修正するようにすればよい。そうすれば、幅方向の寸法誤差を抑制することができる。輪郭近傍修正段階S30で行う具体的な画素値の修正方法については後に詳述する。
このように、荷電マルチビーム描画装置に用いる描画データを作成する際に、従来の一般的な方法で作成された基本描画データの中の輪郭近傍画素の画素値に対して、画素配列の周期に対する輪郭線位置の位相に基づく修正を行う点が本発明の特徴である。このような修正を行うと、画素の境界に位置するONグリッド輪郭線の近傍に位置する画素と、画素の境界には位置しないOFFグリッド輪郭線の近傍に位置する画素と、に対して、互いに異なる方法で修正が行われることになり、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に基づく誤差要因を排除することができる。その結果、微細なパターンについても精度の高いパターニングを行うことができるようになる。
なお、§1,§2では、たとえば図5に示す例のように、荷電ビームの照射スポットSが非照射面上で部分的に重なりを生じる重畳露光プロセスを前提とした説明を行ったが、本発明は、このような照射スポットに重なりを生じる重畳露光プロセスに限定されるものではない。たとえば、照射スポット径が10nm、画素ピッチdが10nmの場合、照射スポットは互いに隣接して形成されることになるが、このような隣接ビームを用いる描画装置についても、本発明を適用することが可能であり、十分な効果を期待することができる。
<4.2 本発明の第1のアプローチ(基本例)>
前述したように、本発明の基本原理は、輪郭近傍画素の画素値に対して、画素配列の周期に対する輪郭線位置の位相に基づく修正を行うことにある。より具体的には、対象図形の輪郭線が、ONグリッド輪郭線かOFFグリッド輪郭線かを認識して、ONグリッド輪郭線近傍の画素とOFFグリッド輪郭線近傍の画素とについて、異なる方法で画素値の修正を行うことにある。
ここでは、このような基本原理に基づいて画素値の修正を行うための第1のアプローチを説明する。図17(c) に示したように、ONグリッド輪郭線の近傍の露光強度分布を示すONグリッドプロファイルPon(実線)とOFFグリッド輪郭線の近傍の露光強度分布を示すOFFグリッドプロファイルPoff (破線)との間には乖離が生じている。乖離の程度は、§3.5で列挙した様々な条件によって左右され、この乖離の程度が大きければ大きいほど、寸法誤差の差Δe(ONグリッド輪郭線の寸法誤差e(on)とOFFグリッド輪郭線の寸法誤差e(off)との差)が大きくなる。
そして、個々の対象図形の輪郭線が、ONグリッド輪郭線になるか、OFFグリッド輪郭線になるかは、対象図形の位置によって定まり、実用上、設計者がコントロールすることはできない。しかも、ONグリッド輪郭線の寸法誤差e(on)を0に近づける設定を行うと、OFFグリッド輪郭線の寸法誤差e(off)が残ることになり、逆に、OFFグリッド輪郭線の寸法誤差e(off)を0に近づける設定を行うと、ONグリッド輪郭線の寸法誤差e(on)が残ることになる。このため、寸法誤差の差Δeが大きいと、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線が混在する実際のパターンでは、常に大きな寸法誤差が残ることになる。
このような問題を避けるためには、ONグリッドプロファイルPon(実線)の形状とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)の形状とが一致する方向に修正を加えればよい。ここで述べる第1のアプローチでは、このような基本方針にしたがって、輪郭近傍画素の画素値を修正する処理が行われる。
図22(a) は、図17(c) に示すグラフの左側部分(立ち上がり部分)の拡大図である。図示のとおり、ONグリッドプロファイルPon(実線)の形状とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)の形状との間には乖離が生じている。
図に細い実線で示す小山g1,g2,g3は、ONグリッドプロファイルPon(太い実線で示す大山)を構成するための個々の露光強度分布グラフ(個々の画素に対応する露光強度分布を示す)であり、これら小山g1,g2,g3の総和として、ONグリッドプロファイルPonが形成される。ONグリッドプロファイルPonは、図10(a) に示すようなONグリッド輪郭線C1の近傍の露光強度の分布を示すプロファイルであるから、小山g1,g2,g3は、いずれも画素値「15」に対応する高さを有している。
これに対して、図に細い破線で示す小山g11,g12,g13,g14は、OFFグリッドプロファイルPoff (太い破線で示す大山)を構成するための個々の露光強度分布グラフであり、これら小山g11,g12,g13,g14の総和として、OFFグリッドプロファイルPoff が形成される。OFFグリッドプロファイルPoff は、図10(b) に示すような1/2-OFFグリッド輪郭線C2の近傍の露光強度の分布を示すプロファイルであるから、小山g12,g13,g14は、いずれも画素値「15」に対応する高さを有しているが、左端の小山g11は、画素値「7」もしくは「8」に対応する高さを有している(ここに示す例では、便宜上、画素値「7.5」に対応する高さを有する小山としてシミュレーションを行っている)。
このように、ONグリッドプロファイルPonもOFFグリッドプロファイルPoff も、複数の小山の総和として形成される大山の輪郭線近傍部分であるので、輪郭線近傍の小山の高さを調整することにより、各プロファイルの形状を修正することができる。すなわち、輪郭近傍画素の画素値を修正することにより、各プロファイルの形状を修正することができる。
そこで、ここで述べる第1のアプローチでは、図21に示す輪郭近傍修正段階S30において、次のような処理を行う。まず、対象図形の輪郭線に直交する方向に関する露光強度の分布を示すプロファイルを求める。たとえば、図14に示すような線状パターンからなる対象図形F4の場合、前述したとおり、X軸方向の幅について、十分な寸法精度を確保することが重要になる。そこで、左右の輪郭線に直交する方向、すなわち、X軸方向に関する露光強度の分布を示すプロファイルを求める。
もちろん、対象図形F4として与えられた線状パターンの左右の輪郭線が、ONグリッド輪郭線になるか、OFFグリッド輪郭線になるかは、線状パターンが配置される位置に依存して決まることになる。輪郭線がONグリッド輪郭線の場合は、図22(a) に実線で示すONグリッドプロファイルPonが求められ、輪郭線がOFFグリッド輪郭線の場合は、図22(a) に破線で示すOFFグリッドプロファイルPoff が求められる。
このような各プロファイルは、図17~図19に例示したような露光強度分布グラフ(大山)の一部として求めることができる。前述したように、大山の露光強度分布グラフは、小山の露光強度分布グラフの総和として求めることができ、各小山の高さは対応する画素の画素値に基づいて決定される。各小山は、基本描画データとして与えられる各画素の画素値だけでなく、荷電マルチビーム描画装置のビーム特性(ビーム断面の形状やエネルギー密度の分布など)や、レジスト層の感光特性(化学的な感光感度、前方散乱、後方散乱などによるエネルギー吸収特性など)を考慮したシミュレーションによって求めることができる。たとえば、ビーム断面の面積が大きかったり、前方散乱や後方散乱の効果が大きかったりした場合には、各小山の裾野の幅が広がることになるし(§3.4.4で述べた吸収パラメータσ参照)、ビーム断面のエネルギー密度分布が異なれば、各小山の形状が異なることになる。
通常、半導体素子等のレイアウトパターンには、多数の対象図形が含まれているので、そこには、多数のONグリッド輪郭線と多数のOFFグリッド輪郭線が存在する。そして、各対象図形の輪郭線の座標は既知であり、二次元画素配列の位置座標も既知であるから、レイアウトパターン上の多数の輪郭線が、ONグリッド輪郭線であるのか、OFFグリッド輪郭線であるのかを認識することは容易にできる。そこで、たとえば、全ONグリッド輪郭線、あるいは、代表となる一部のONグリッド輪郭線の近傍について求めたプロファイルの平均をONグリッドプロファイルPonとし、全OFFグリッド輪郭線、あるいは、代表となる一部のOFFグリッド輪郭線の近傍について求めたプロファイルの平均をOFFグリッドプロファイルPoff とすれば、図22(a) に太い実線および太い破線で示すプロファイルPon,Poff が得られる。
そこで、太い実線で示すONグリッドプロファイルPonの形状と、太い破線で示すOFFグリッドプロファイルPoff の形状と、が一致もしくは近似するように、輪郭線の近傍画素の画素値の修正を行えばよい。両プロファイルPon,Poff の形状を一致させる方法としては、プロファイルPonの形状をプロファイルPoff の形状に近づける方法と、プロファイルPoff の形状をプロファイルPonの形状に近づける方法とが考えられるが(両方を相互に近づける方法については、第2のアプローチとして後述する。)、実用上は、前者を採用するのが好ましい(理由は後述する)。
図22(b) は、図22(a) に示されているプロファイルPonの形状を、プロファイルPoff の形状に近づける修正を行った結果を示すグラフであり、プロファイルPon′が修正後のプロファイルを示している。すなわち、図22(a) ,(b) において、OFFグリッドプロファイルPoff は変わりないが、図22(a) に示すONグリッドプロファイルPonは、図22(b) ではONグリッドプロファイルPon′に修正されている。図22(a) に示すプロファイルPonとプロファイルPoff との形状の差に比べて、図22(b) に示すプロファイルPon′とプロファイルPoff との形状の差は小さくなっており、プロファイルPon′はプロファイルPoff にかなり近い形状を有している。
ONグリッドプロファイルPonの形状を、OFFグリッドプロファイルPoff の形状に近づけるには、ONグリッド輪郭線の近傍に位置するONグリッド画素の画素値に対して修正を行えばよい。具体的には、図22(a) に示すように、ONグリッドプロファイルPonの傾斜に比べて、OFFグリッドプロファイルPoff の傾斜の方が緩慢になっているので、ONグリッドプロファイルPonの傾斜をより緩慢にすることにより、ONグリッドプロファイルPonの形状をOFFグリッドプロファイルPoff の形状に近づけることができる。
図23は、図22に示す修正を行うための具体的な方法を説明する図である。図23(a) は、図22(b) から、修正後のONグリッドプロファイルPon′(大山)およびこれを構成する小山のみを抽出して示すグラフである。修正前のONグリッドプロファイルPonが、図22(a) に示す小山g1,g2,g3の総和により構成されているのに対して、修正後のONグリッドプロファイルPon′は、図23(a) に示す小山g0,g1′,g2,g3の総和により構成されている。すなわち、小山g2,g3については何ら修正は施されていないが、小山g1は高さが減じられた小山g1′に修正され、その代わりに、低い小山g0が新たに加えられている。
各小山はそれぞれ所定の画素に対応しており、小山の高さは対応する画素の画素値に対応している。したがって、小山g1を小山g1′に変更するには、その位置に対応する画素の画素値を減じる修正を行えばよい。また、小山g0を新たに加えるには、その位置に対応する画素(修正前は画素値が0であった画素)の画素値を増加させる修正を行えばよい。図22(a) に示す小山g1,g2,g3は、いずれも最大高さ(画素値15に対応)をもつ小山であるが、図示の例の場合、小山g1については、高さを16%だけ減じて小山g1′とし、更に、最大高さの19%に相当する高さをもつ小山g0を新たに追加する修正を行うことにより、OFFグリッドプロファイルPoff の形状にほぼ近い形状をもった修正後のONグリッドプロファイルPon′を得ることができた。
図23(b) は、このような具体的な修正プロセスを示すダイアグラムである。修正前のONグリッドプロファイルPonを構成していた小山g1,g2,g3,… のうち、小山g2,g3,… についてはそのままであるが、小山g1については高さを16%だけ減じて小山g1′とし、この小山g1′の外側に、最大高さの19%に相当する高さをもつ小山g0を新規追加する修正が行われている。その結果、修正後のONグリッドプロファイルPon′は、小山g0,g1′,g2,g3,… によって構成されることになる。
図23(b) のダイアグラムによって示されている修正処理は、露光強度分布グラフ上で、ONグリッドプロファイルPonの形状をOFFグリッドプロファイルPoff の形状に近づけるためのものであり、小山の高さを16%だけ減じるとか、高さ19%の小山を追加するとかいう処理は、あくまでもグラフとして表現されたプロファイルの形状を修正する処理ということになる。一方、図21の輪郭近傍修正段階S30の処理は、基本描画データ作成段階S20で作成された基本描画データを構成する二次元画素配列内の輪郭近傍画素の画素値を修正する処理である。したがって、図23(b) のダイアグラムによって示されている修正処理は、実際には、輪郭近傍画素の画素値を修正する処理として実行する必要がある。
そこで、この画素値の修正処理を具体例として説明するために、図21の流れ図に示す基本手順を、図7(a) に示す対象図形F1に対して実行した場合を考えてみよう。この場合、図形データ入力段階S10において、図7(a) に示す対象図形F1の輪郭線の情報を示す図形データが入力され、基本描画データ作成段階S20におけるラスタライズ処理により、図7(b) に示す二次元画素配列からなる基本描画データが作成される。この基本描画データは、左右の輪郭線がともにONグリッド輪郭線となる対象図形についてのものになる。
そして、この図7(b) に示す基本描画データに基づく露光プロセスのシミュレーション(荷電マルチビーム描画装置のビーム特性およびレジスト層の感光特性を考慮したシミュレーション)により、対象図形F1の左側輪郭線の近傍について、図22(a) に太い実線で示すONグリッドプロファイルPonが得られたものとしよう。対象図形F1の右側輪郭線の近傍については、上記プロファイルを左右反転した形状のONグリッドプロファイルPonが得られることになる。
一方、図7(a) に示す対象図形F1を画素ピッチdの半分だけ左もしくは右にずらして配置した対象図形(左右の輪郭線がともにOFFグリッド輪郭線となる対象図形)についても同様の処理を行った結果、図22(a) に太い破線で示すOFFグリッドプロファイルPoff が得られたものとしよう。そして、ONグリッドプロファイルPonの形状をOFFグリッドプロファイルPoff の形状にほぼ一致させるために、図23(b) のダイアグラムによって示されている修正処理が必要であることが確認できたとする。
ここで述べる実施例の場合、OFFグリッドプロファイルPoff の形状はそのままとしつつ、ONグリッドプロファイルPonの形状を修正してOFFグリッドプロファイルPoff の形状に近づける処理が行われるので、画素値の修正対象となるのは、図7(b) に示す基本描画データ(左右の輪郭線がともにONグリッド輪郭線となる対象図形についての画素配列)である。図24は、図7(b) に示す基本描画データに対する画素値修正の具体例を示す図である。図24(a) は、図7(b) に示す基本描画データ(修正前のデータ)を示し、図24(b) は、この基本描画データに対して、図23(b) のダイアグラムによる修正処理を施すことにより得られた修正描画データを示している。
図24(a) に示す基本描画データは、左右の輪郭線がともにONグリッド輪郭線となる対象図形についてのものであるので、対象図形の左側輪郭線Cleftも右側輪郭線Crightも、画素の境界に位置している。ここで、二次元画素配列の各行の上部に記載された符号g1~g3は、当該行に位置する画素が、図22(a) に示す小山g1~g3に対応する画素であることを示している。図示のとおり、符号g1~g3が付された行の画素は、いずれも画素値「15」を有しており、これら各画素に対応する小山g1~g3は、図22(a) に示すように、最大高さをもった小山になっている。一方、輪郭線の外側の画素の画素値は「0」であり、これに対応する小山は存在しない。
図23(b) のダイアグラムによると、小山g2,g3はそのままの状態を維持するので、図24(b) において符号g2,g3が付された行の画素は、画素値「15」を維持している。これに対して、小山g1については「16%減」として小山g1′に修正する必要があるので、図24(b) において符号g1′が付された行の画素については、画素値を「15」から「12」もしくは「13」に減じる修正が行われている。実際には、元の画素値「15」から16%を減じた値は「12.6」になるが、画素値は0~15の範囲内の整数値しかとれないので、図示の例では便宜上、画素値「12」と「13」を交互に配するようにしている。
また、図23(b) のダイアグラムによると、小山g1の外側に、最大高さの19%に相当する高さをもった小山g0を新たに追加することになっているので、図24(b) において符号g0が付された行に配置された画素について、画素値「0」を「3」に修正する処理が行われている。最大画素値「15」の19%分の値は「2.85」であるが、図示の例では便宜上、画素値「3」に修正している。
結局、ここで述べた実施例の場合、輪郭近傍修正段階S30において、ONグリッド輪郭線の内側近傍のONグリッド画素(g1)に対しては画素値を減じ、外側近傍のONグリッド画素(g0)に対しては画素値を増加する修正を行うことになる。もちろん、実際の画素では、画素値が整数値しかとれないため、図23(b) のダイアグラムに示された正確な修正ができず、実際に得られる修正後のONグリッドプロファイルPon′は、図23(a) に示すプロファイルPon′とは正確には一致しないかもしれないが、それでも上記修正によって得られるプロファイルPon′の形状は、修正前のプロファイルPonの形状に比べれば、OFFグリッドプロファイルPoff の形状に近いものになる。
前述したように、実際の半導体素子等のレイアウトパターンには、多数の対象図形が含まれており、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線が混在している。ここで述べた実施例の場合、レイアウトパターン上の各輪郭線が、ONグリッド輪郭線であるのか、OFFグリッド輪郭線であるのかを認識した上で、ONグリッド輪郭線の近傍画素についてのみ、図24に例示するような画素値の修正が行われることになる。このような修正により、ONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff との形状の差を小さくすることができ、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に起因する寸法誤差を低減させることができる。
以上、ONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff とを一致させる方法として、プロファイルPonの形状をプロファイルPoff の形状に近づける方法を説明した。この方法では、図22(a) において、ONグリッドプロファイルPonの傾斜を緩慢にすることにより、OFFグリッドプロファイルPoff の傾斜に合わせる処理が行われる。
もっとも、一般論としては、エッジポジションエラーを低減するには、輪郭線近傍の露光強度分布グラフのプロファイルは急峻な方が好ましい。これは、レジスト層の現像プロセスでは、図6(b) に示すように、所定の閾値Ethに相当するレベルで切ったときの幅Wに応じた幅を有する露光領域aが形成されることになるが、レジストや現像液の材料、現像時の温度などの諸条件により、閾値Ethに変動が生じる可能性があるためである。輪郭線近傍のプロファイルが急峻であれば、閾値Ethに変動が生じても、寸法誤差の発生を小さく抑えることができる。
このような観点からは、図22(a) において、ONグリッドプロファイルPonの傾斜を緩慢にすることにより、OFFグリッドプロファイルPoff の傾斜に合わせるよりも、OFFグリッドプロファイルPoff の傾斜を急峻にすることにより、ONグリッドプロファイルPonの傾斜に合わせるようにするのが好ましい。しかしながら、実際には、各画素の画素値には下限値および上限値があるため、傾斜を緩慢にするための画素値修正は容易に行うことができるが、傾斜を急峻にするための画素値修正は困難であるという事情がある。
たとえば、図24に示す例の場合、行g1の画素値を減少させるとともに、行g0の画素値を増加させることにより、ONグリッドプロファイルPonの傾斜を緩慢にしている。対象図形の内部の画素値は最大画素値「15」であり、外部の画素値は最小画素値「0」であるから、前者を減少させ、後者を増加させる修正は容易に行うことができる。しかも、輪郭線を挟んで画素値の増加および減少を行うバランスのとれた修正が行われるため、輪郭線位置が左右にずれないような調整が可能になる。
これに対して、たとえば、図24(a) に示す状態において、ONグリッドプロファイルPonの傾斜をより急峻にすることはできない。傾斜をより急峻にするためには、対象図形の内部の画素値を増加させ、外部の画素値を減少させる修正を行う必要があるが、内部の画素値は最大画素値「15」であり、外部の画素値は最小画素値「0」であるため、更なる増加や減少は不可能である。OFFグリッドプロファイルPoff の場合も同様である。たとえば、図8に示す例において、左側のOFFグリッド輪郭線の近傍画素の画素値のうち、画素値「6」は減少させることが可能であるが、画素値「15」は増加させることができない。
もちろん、本発明は、OFFグリッドプロファイルPoff の傾斜をより急峻にすることにより、OFFグリッドプロファイルPoff の形状をONグリッドプロファイルPonの形状に近づける方法を採る実施形態を排除するものではなく、画素値の修正によって、そのような実施形態が可能であれば、そのような実施形態を採用してもかまわない。ただ、本願発明者は、上述した事情により、実用上は、ONグリッドプロファイルPonの傾斜をより緩慢にすることにより、ONグリッドプロファイルPonの形状をOFFグリッドプロファイルPoff の形状に近づける方法を採るのが好ましいと考えている。
前述したように、輪郭線近傍のプロファイルの傾斜を緩慢にすると、閾値Ethの変動が生じたときに、寸法誤差が発生するおそれがあるが、そのような寸法誤差は、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に起因する寸法誤差に比べれば小さなものであり、図24に示す方法による画素値の修正は、全体的な寸法誤差を低減する上で、十分な効果を奏することができる。
<4.3 本発明の第1のアプローチ(変形例)>
ここでは、§4.2で述べた本発明の第1のアプローチについての変形例を述べる。既に述べたとおり、第1のアプローチの基本方針は、ONグリッドプロファイルPon(実線)の形状とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)の形状とが一致する方向に修正を加える、というものであり、§4.2では、その具体的な方法として、ONグリッドプロファイルPonの形状をOFFグリッドプロファイルPoff の形状に近づける方法(図22に示す方法)と、その逆に、OFFグリッドプロファイルPoff の形状をONグリッドプロファイルPonの形状に近づける方法を説明した。
ここで述べる変形例では、図22(a) に示すように、ONグリッドプロファイルPon(実線)とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)を求めるところまでは、§4.2で述べた基本例と同様の処理が行われるが、これら両プロファイルの一方を修正して他方に近づけるという方針を採用する代わりに、これら両方に対して修正を加えて相互に歩み寄るという方針を採用する。すなわち、ONグリッドプロファイルPonの形状と、OFFグリッドプロファイルPoff の形状とが、それぞれ、両者の中間に位置する所定の参照プロファイルPref の形状に近づくように、画素値の修正が行われる。
図25は、このような変形例に基づく修正処理を説明する図である。図25(a) は、図22(a) と同様に、ONグリッドプロファイルPon(実線)の形状とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)の形状とを示すグラフであり、横軸Xは位置を示し、縦軸Eは露光強度を示している。図に一点鎖線で示すグラフは、参照プロファイルPref を示している。図示の例の場合、参照プロファイルPref として、ONグリッドプロファイルPonの傾斜とOFFグリッドプロファイルPoff の傾斜との中間的な傾斜をもつプロファイルが設定されており、プロファイルPref のグラフは、プロファイルPonのグラフとプロファイルPoff のグラフとの中間に位置している。
この変形例に基づく修正処理は、図25(b) のダイアグラムに示すとおり、ONグリッドプロファイルPonの傾斜をより緩慢にすることにより、ONグリッドプロファイルPonの形状を参照プロファイルPref の形状に近づけるとともに、OFFグリッドプロファイルPoff の傾斜をより急峻にすることにより、OFFグリッドプロファイルPoff の形状を参照プロファイルPref の形状に近づけることにより行われる。したがって、修正後のONグリッドプロファイルPon′の形状は参照プロファイルPref の形状に近いものになり、修正後のOFFグリッドプロファイルPoff′の形状も参照プロファイルPref の形状に近いものになる。その結果、修正後のONグリッドプロファイルPon′の形状と修正後のOFFグリッドプロファイルPoff′の形状とは近いものになり、§4.2で述べた基本例と同様の効果が得られる。
ここで、ONグリッドプロファイルPonの傾斜をより緩慢にして、参照プロファイルPref に近づけるための具体的な画素値修正方法は、§4.2で述べた基本例と同様である。すなわち、図24に示すように、ONグリッド輪郭線の内側近傍のONグリッド画素(g1)に対しては画素値を減じ、外側近傍のONグリッド画素(g0)に対しては画素値を増加する修正を行えばよい。一方、OFFグリッドプロファイルPoff の傾斜をより急峻にして、参照プロファイルPref に近づけるための具体的な画素値修正方法は、図26に示すとおりである。
図26(a) は、左右の輪郭線がともに1/2-OFFグリッド輪郭線となる対象図形についての基本描画データを示し、対象図形の左側輪郭線Cleftも右側輪郭線Crightも、画素の中心に位置している。このため、OFFグリッド輪郭線Cleft,Crightが位置するOFFグリッド画素の画素値は、最大画素値「15」の半分に相当する「7」もしくは「8」になっている(本来は「7.5」にすべきところ、整数値「7」と「8」を交互に配置している)。
ここで、OFFグリッドプロファイルPoff の傾斜をより急峻にするためには、図26(b) に示すように、OFFグリッド輪郭線上の画素に対して、画素値を減じる修正を行えばよい。図示の例の場合、各画素値を1ずつ減じる減少修正が行われている。ただ、前述したとおり、プロファイルの傾斜を急峻にする修正は、最大画素値および最小画素値の制限に阻まれるため、輪郭線位置にずれが生じる可能性がある。
たとえば、図26に示す例では、OFFグリッド輪郭線Cleft,Crightが位置するOFFグリッド画素に対して、画素値を1ずつ減少させる修正を行った場合、本来なら、これに応じて、その内側の画素の画素値を1ずつ増加させる修正を行ってバランスをとるべきであるが、内側の画素の画素値「15」は最大画素値になっているため、これ以上増加させることはできない。このため、輪郭線位置は若干内側にずれる可能性がある。ただ、このような輪郭線位置のずれに起因する寸法誤差が、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に起因する寸法誤差に比べて小さなものであれば、ここで述べる変形例において、OFFグリッドプロファイルPoff の傾斜をより急峻にするために図26に示す修正方法を採用することができる。
なお、図25(a) に示す例では、参照プロファイルPref をONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff とのちょうど中間位置に設定しているが、参照プロファイルPref の位置は、任意に設定することができる。たとえば、参照プロファイルPref をONグリッドプロファイルPonに近い位置に設定してもよいし、OFFグリッドプロファイルPoff に近い位置に設定してもよい。§4.2で述べた基本例は、OFFグリッドプロファイルPoff 自身を参照プロファイルPref とした例、もしくは、ONグリッドプロファイルPon自身を参照プロファイルPref とした例ということができる。
ここで述べた第1のアプローチ(変形例)では、ONグリッドプロファイルPonおよびOFFグリッドプロファイルPoff の双方を、予め定めた参照プロファイルPref に近づける修正が行われる。その結果、対象図形の輪郭線近傍のプロファイルは、すべて参照プロファイルPref に近いものになる。このように、第1のアプローチ(変形例)には、輪郭線近傍のプロファイル形状を任意の参照形状に統一するという付随的な効果がある。したがって、たとえば、参照プロファイルPref として、断面形状を任意に設定可能なシングルビームVSB(Variable Shaped Beam)を用いたVSB描画装置のプロファイルを採用するようにすれば、VSB描画装置に近い特性をもったパターニングを行うことが可能になる。
<4.4 本発明の第2のアプローチ>
これまで述べてきた第1のアプローチでは、図22(a) に示すONグリッドプロファイルPon(実線)の形状とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)の形状とが一致する方向に修正を加える、という基本方針により、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に起因する寸法誤差を低減させるという本発明の本質的な課題を解決した。ここでは、同じ課題を解決するための別なアプローチを説明する。
ここで説明する第2のアプローチの基本方針は、ONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff との交点位置の露光強度が、総露光強度の閾値Ethとなるように、画素値の修正を行う、というものである。図27は、このような第2のアプローチに基づく修正例を示すグラフである。
図27(a) は、図22(a) と全く同じグラフであり、ONグリッドプロファイルPonが太い実線の大山として描かれ、OFFグリッドプロファイルPoff が太い破線の大山として描かれている。前述したとおり、ONグリッドプロファイルPonの傾斜よりもOFFグリッドプロファイルPoff の傾斜の方が緩慢になっており、両プロファイルは交点N(図示の例の場合、露光強度を示す縦軸目盛「1」の位置の点)で交差している。
一方、図示の例の場合、総露光強度の閾値Ethは、露光強度を示す縦軸目盛「0.5」に設定されている。この閾値Ethについては、図6を参照して§1で説明したとおりである。すなわち、一般的なレジストの場合、照射されるエネルギー密度が所定の臨界値を越えると、急激に組成変化を生じる非線形性を有している。閾値Ethは、この急激な組成変化を生じさせる臨界値に相当するものであり、レジスト層に、パターニングの成形に影響を与えるほどの組成変化を生じさせるために必要な総露光強度の臨界を示す値ということができる。たとえば、図6に示す例の場合、総露光強度が所定の閾値Eth以上となる領域を露光領域a、総露光強度が所定の閾値Eth未満となる領域を非露光領域bとすれば、露光領域aの組成は非露光領域bの組成に比べて大きく変化する。
このため、被成形層61に対する現像プロセスを行うと、露光領域aと非露光領域bとの相違に基づくパターン形成を行うことができる。別言すれば、閾値Ethは、露光領域aの組成が非露光領域bの組成に比べて大きく変化するような総露光強度の臨界値ということになる。たとえば、レジスト層としてネガ型レジスト材料を用い、閾値Ethを図6に示す値に設定した場合、現像プロセスにより非露光領域bのみが現像液に溶解し、幅Wをもった露光領域aが残存する。当然、露光領域aの幅Wは、閾値Ethの値に応じて変動することになる。
この閾値Ethの値は、レジスト層の感光特性(レジスト材料の感光感度や、前方散乱や後方散乱によるエネルギー吸収特性など)によって変化することになるが、当該感光特性が定まれば、閾値Ethの値も定まる。ここでは、総露光強度の閾値Ethが、図27に示すグラフにおける縦軸目盛「0.5」の位置に設定されていたものとしよう。そうすると、図27(a) に示すグラフの場合、閾値Ethのレベルでグラフをスライスすると、OFFグリッドプロファイルPoff (破線)に対するスライス位置は、ONグリッドプロファイルPon(実線)に対するスライス位置よりも外側にずれているので、ONグリッド輪郭線をもつ対象図形よりも、OFFグリッド輪郭線をもつ対象図形の方が、実際に形成される図形の幅は広くなる。
逆に、総露光強度の閾値Ethが、図27に示すグラフにおける縦軸目盛「1.5」の位置に設定されていた場合は、当該閾値Ethのレベルでグラフをスライスすると、OFFグリッドプロファイルPoff (破線)に対するスライス位置は、ONグリッドプロファイルPon(実線)に対するスライス位置よりも内側にずれているので、ONグリッド輪郭線をもつ対象図形よりも、OFFグリッド輪郭線をもつ対象図形の方が、実際に形成される図形の幅は狭くなる。
それでは、総露光強度の閾値Ethが、図27に示すグラフにおける縦軸目盛「1」の位置に設定されていた場合はどうであろうか。この場合、ONグリッドプロファイルPon(実線)とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)とは、縦軸目盛「1」に位置する交点Nで交差しているため、当該閾値Ethのレベルでグラフをスライスすると、ONグリッド輪郭線をもつ対象図形についての実図形の幅とOFFグリッド輪郭線をもつ対象図形についての実図形の幅は等しくなる。
このように、ONグリッドプロファイルPon(実線)の形状とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)の形状とが異なっていたとしても、両者の交点Nの縦軸上の位置が、総露光強度の閾値Ethに一致していれば、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に起因する寸法誤差は生じないことになる。ここで述べる第2のアプローチでは、このような点に着目し、両プロファイルPon,Poff の形状を近づけるという方針ではなく、両プロファイルPon,Poff の交点の縦軸上の位置を、総露光強度の閾値Ethに近づけるという方針に基づいて、画素値の修正を行うことになる。
そのため、ここで述べる第2のアプローチを採用する場合は、レジスト層に、パターニングの成形に影響を与えるほどの組成変化を生じさせるために必要な総露光強度の臨界を示す閾値Ethを求め、対象図形の輪郭線に直交する方向に関する露光強度の分布を示すプロファイルを、荷電マルチビーム描画装置のビーム特性およびレジスト層の感光特性を考慮して求め、ONグリッド輪郭線の近傍について求めたONグリッドプロファイルPonと、OFFグリッド輪郭線の近傍について求めたOFFグリッドプロファイルPoff と、の交点位置の露光強度が、総露光強度の閾値Ethとなるように、画素値の修正を行えばよい。
具体的には、輪郭近傍修正段階S30において、ONグリッドプロファイルPonのグラフもしくはOFFグリッドプロファイルPoff のグラフ、またはその双方を、露光強度を示す軸方向(図示するグラフの縦軸方向)に移動することにより、交点位置の露光強度を閾値Ethに一致させるように、画素値の修正を行えばよい。実用上は、一方のグラフのみを、図示するグラフの縦軸方向に移動させる修正を行えば十分である。
たとえば、図27(a) に示す例において、総露光強度の閾値Ethが、図示のとおり、縦軸目盛「0.5」の位置に設定されていた場合、交点Nの縦軸方向の位置が縦軸目盛「0.5」の位置まで下がるように、OFFグリッドプロファイルPoff を図の下方に移動させればよい。図27(b) は、このような移動を行った状態を示すグラフである。図27(a) に示すOFFグリッドプロファイルPoff は、下方への移動により、図27(b) ではOFFグリッドプロファイルPoff ′になっている。そして、ONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff ′とは、交点N′で交差している。ここで、交点N′の縦軸方向の位置は、総露光強度の閾値Ethの位置に一致している。
OFFグリッドプロファイルPoff を移動して、OFFグリッドプロファイルPoff ′にするためには、OFFグリッド輪郭線の近傍画素に対して、画素値を増減する修正を行えばよい。図27に太い実線で示すONグリッドプロファイルPon(大山)は、細い実線で示す小山g1,g2,g3の総和であり、図27に太い破線で示すOFFグリッドプロファイルPoff (大山)は、細い破線で示す小山g11,g12,g13,g14の総和である。したがって、OFFグリッドプロファイルPoff を下方に移動するには、小山g11,g12,g13,g14の高さを減じればよい。
図示の例の場合、小山g11の高さを減じるだけで、OFFグリッドプロファイルPoff に対する必要な移動が完了している。すなわち、図27(b) に示す小山g11′は、図27(a) に示す小山g11の高さを若干減じたものになっているが、その他の小山g1~g3、g12~g14については、何ら変更は施されていない。すなわち、小山g11を小山g11′に変更することにより、OFFグリッドプロファイルPoff (大山)が、OFFグリッドプロファイルPoff′(大山)に変更されたことになり、下方への移動が行われたことになる。
なお、図27(a) ,(b) のグラフを見ればわかるように、OFFグリッドプロファイルPoff (大山)の移動は、小山g11を小山g11′に変更することによってなされるため、単なる平行移動ではなく、形状の変化を伴う移動になる。したがって、露光強度分布グラフ全体としては、上記移動を行った後も、なめらかに連続したグラフを維持している。
小山g11から小山g11′への変更は、実際には、小山g11に対応する画素の画素値を減少させる修正によって行うことができる。図27(b) には、両プロファイルPon,Poff′の交点N′の位置が、完全に閾値Ethの位置に一致している例が示されているが、画素値は0~15の範囲内の整数値しかとれないので、実際には、画素値の増減修正によって交点N′の位置を閾値Ethの位置に完全に一致させることは困難である。ただ、交点N′の位置が閾値Ethの位置に近づくような修正を行うことができれば、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に起因する寸法誤差を低減させる効果が得られる。したがって、実用上は、交点N′の露光強度と総露光強度の閾値Ethとが完全に一致しないまでも、両者が近似するような修正を行えば十分である。
図27では、OFFグリッドプロファイルPoff を下方に移動させる例を示したが、もちろん、場合によっては、上方に移動させる必要が生じることもある。たとえば、閾値Ethの値が縦軸目盛「1.5」の位置に設定されていた場合は、OFFグリッドプロファイルPoff を上方に移動させて、交点N′を縦軸目盛「1.5」の位置にもってゆく必要がある。また、OFFグリッドプロファイルPoff を上下方向に移動させる代わりに、ONグリッドプロファイルPonを上下方向に移動させるようにしてもよいし、双方を上下方向に移動させるようにしてもよい。
また、この第2のアプローチは、閾値Ethの値が変動しないことを前提としたものであるので、レジストや現像液の材料、現像時の温度などの諸条件の変化により閾値Ethの値が大きく変動することが予想される環境下で利用するのは好ましくない。このような環境下では、前述した第1のアプローチを採用する必要がある。
<<< §5. 具体的な画素値の修正方法 >>>
§4では、本発明の基本概念と、この基本概念に基づいてONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に起因する寸法誤差を解消するための、いくつかのアプローチを述べた。ここでは、これらのアプローチに基づいて基本描画データの画素値を修正するための具体的な方法を説明する。
<5.1 事前演算で求めたテーブルを参照する方法>
本発明に係る描画データ作成方法は、図21の流れ図に示すように、図形データ入力段階S10、基本描画データ作成段階S20、輪郭近傍修正段階S30によって構成されている。ここで、図形データ入力段階S10および基本描画データ作成段階S20は、従来から実施されている公知の段階であり、本願では、基本描画データ作成段階S20で作成された描画データ(画素の二次元配列)を基本描画データと呼んでいる。本発明の特徴は、この基本描画データを構成する画素のうち、図形データとして入力された対象図形の輪郭線近傍に位置する輪郭近傍画素の画素値を修正する輪郭近傍修正段階S30を行う点にある。
図28は、この輪郭近傍修正段階S30の具体的なプロセスの第1の形態(事前演算で求めたテーブルを参照する形態)を示す図である。この第1の形態に係る輪郭近傍修正段階S30は、図に矩形ブロックで示すとおり、各輪郭線のON/OFF認識処理S31と、画素値の修正処理S32とを含んでいる。一方、図の楕円ブロックは、これらの各処理に利用されるデータもしくはこれらの各処理によって生成されるデータを示している。
楕円ブロックで示されている図形データDfigureは、描画の対象となる対象図形の輪郭線の位置を示すデータであり、図示の例の場合、ベクトルデータ(たとえば、各頂点の座標値とそれらの接続関係を示すデータ)として与えられる。これまでは、説明の便宜上、単一の対象図形を例示してきたが、実際の半導体素子等のレイアウトパターンには、膨大な数の対象図形が含まれており、図形データDfigureは、これら膨大な数の図形に関する輪郭線の情報を含んだデータになる。
一方、楕円ブロックで示されている基本描画データDbasicは、基本描画データ作成段階S20で作成された基本描画データ(二次元画素配列からなるラスターデータ)である。この基本描画データDbasicは、図形データDfigureに対してラスタライズ処理を行うことにより作成されたデータであり、個々のビームの照射位置の露光強度を示す画素値をもった画素の集合体である。
各輪郭線のON/OFF認識処理S31は、図形データDfigureと基本描画データDbasicとを用いて実行される処理である。この処理により、対象図形を構成する個々の輪郭線について、画素の境界に位置するONグリッド輪郭線か、画素の境界に位置しないOFFグリッド輪郭線か、が認識される。図10(a) ,(b) に示す二次元画素配列のグリッドに関する位置情報は基本描画データDbasicとして与えられており、対象図形の輪郭線C1,C2に関する位置情報は図形データDfigureとして与えられているので、これらの情報に基づいて、輪郭線C1はONグリッド輪郭線、輪郭線C2はOFFグリッド輪郭線という認識を容易に行うことができる。
各輪郭線のON/OFF認識処理S31が完了すると、当該処理で得られた認識結果と、図形データDfigureおよび基本描画データDbasicが、画素値の修正処理S32へと引き渡される。この画素値の修正処理S32では、ONグリッド輪郭線の近傍に位置するONグリッド画素の画素値と、OFFグリッド輪郭線の近傍に位置するOFFグリッド画素の画素値とが、必要に応じて、互いに異なる方法で修正される。
この画素値の修正処理S32は、楕円ブロックで示されているビーム特性データDbeam、感光特性データDexposure、標準モデル修正テーブルTを参照して行われる。ビーム特性データDbeamは、露光プロセスに用いる荷電マルチビーム描画装置のビーム断面の形状やエネルギー密度の分布、露光方式などの条件を示すデータであり、感光特性データDexposureは、パターニングに用いるレジスト層の化学的な感光感度、前方散乱、後方散乱などによるエネルギー吸収特性などの条件を示すデータである。
これらの条件を参照して画素値の修正を行うのは、これらの条件によって、画素値の修正量が異なるためである。たとえば、図3に示すような円形の照射スポットで露光する場合と図11に示すような正方形の照射スポットで露光する場合とでは、修正量は異なってくる。また、図16に示す実験結果によれば、ドーズ量Zによって寸法誤差の差Δeが異なる。同様に、図17~図20に示す結果によれば、ダブル・グリッド方式かクアッド・グリッド方式かという露光方式に関する条件や、レジスト層の吸収パラメータσがいくつかというエネルギー吸収特性の条件によっても、寸法誤差の差Δeが異なってくる。したがって、画素値の修正量を決めるためには、ビーム特性データDbeamや感光特性データDexposureを参照する必要がある。
ここで述べる輪郭近傍修正段階S30の特徴は、予め標準モデル修正テーブルTを用意しておき、このテーブルを用いて画素値の修正を行う点である。標準モデル修正テーブルTは、個々のビーム特性および個々の感光特性の組み合わせごとに、それぞれ十分に精度が良い修正が可能になるように、予め事前演算で求めておくようにする。
たとえば、図14に示すような線状パターンからなる対象図形F4を標準モデル図形の1つとして定めた場合、この標準モデル図形を用いて、様々なビーム特性および様々な感光特性の組み合わせごとに、図22(a) に示すような輪郭線近傍の露光強度分布グラフ(ONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff)を求める。そして、§4で述べた様々なアプローチに応じて、ONグリッド輪郭線とOFFグリッド輪郭線との相違に起因する寸法誤差を解消するために、どの輪郭近傍画素の画素値に対して、どの程度の修正量を増加もしくは減少させる修正を行うかを定めておき、これを標準モデル修正テーブルTに収録しておけばよい。具体的には、個々のプロセス条件で実験を行い、その結果をフィードバックしながら、十分に精度が良い修正が可能な標準モデル修正テーブルTを作り込む作業を行うことになる。
もちろん、実際には、単一のパターンだけでなく、様々な種類のパターンを標準モデル図形として実験を繰り返し行い、それらの結果をルール化して標準モデル修正テーブルTに保存することになる。
このような標準モデル修正テーブルTを用意することができれば、画素値の修正処理S32では、この標準モデル修正テーブルTを参照することにより、画素値の修正を容易に行うことができる。たとえば、図形データDfigureとして、図7(a) に示す対象図形F1の輪郭線情報が与えられ、基本描画データDbasicとして、図7(b) に示す二次元画素配列が与えられ、ビーム特性データDbeamとして、図11(a) に示す正方形の照射スポット、図11(b) に示すエネルギー密度の分布、図12に示すダブル・グリッド方式を示すデータが与えられ、感光特性データDexposureとして、吸収パラメータσ=12nm、総露光強度の閾値Eth=0.5のようなデータが与えられた場合、これらの各条件の組み合わせについての標準モデル修正テーブルTの対応欄を参照すれば、どの輪郭近傍画素の画素値に対して、どのような修正を行えばよいかを決めることができる。
もちろん、どのアプローチを採用するかによって、修正が必要な画素が異なるので、ONグリッド輪郭線の近傍に位置するONグリッド画素の画素値およびOFFグリッド輪郭線の近傍に位置するOFFグリッド画素の画素値は、必ずしもすべて修正されるわけではなく、標準モデル修正テーブルTを参照した結果、必要に応じて修正がなされることになる。こうして画素値の修正が完了したら、修正後の画素値をもった二次元画素配列が、修正描画データDcorrectedとして得られることになる。荷電マルチビーム描画装置には、この修正描画データDcorrectedが与えられ、実際の露光描画プロセスが実行されることになる。
上述したように、標準モデル修正テーブルTには、個々のビーム特性および個々の感光特性の組み合わせごとに、予め事前演算で求めた画素値の修正量を収録しておく必要がある。したがって、標準モデル修正テーブルTを用意する事前演算には、多大な労力と時間がかかることになるが、標準モデル修正テーブルTが用意できれば、画素値の修正処理S32は、この標準モデル修正テーブルTを参照するだけの簡単な処理で済むため、短時間で済むメリットが得られる。
§4では、画素値を修正する具体的な方法として、いくつかのアプローチを提示した。そこで、以下、図28に示す輪郭近傍修正段階S30に対して、これら各アプローチを適用した場合の手順を簡単に述べておく。
(1) §4.2で述べた本発明の第1のアプローチ(基本例)の適用
第1のアプローチ(基本例)の基本方針は、基本描画データをそのまま用いて露光プロセスを行うと、図22(a) に示すようなONグリッドプロファイルPon(実線)とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)とを含む露光強度分布グラフが得られる場合に、一方のプロファイルが他方のプロファイルに近づくような修正を加える、というものである。
このようなアプローチを採用する場合、標準モデル修正テーブルTは、次のような方法で用意すればよい。まず、荷電マルチビーム描画装置のビーム特性およびレジスト層の感光特性ごとに、所定の標準モデル図形についてのONグリッドプロファイルおよびOFFグリッドプロファイルを、それぞれONグリッド標準プロファイルPon(std) およびOFFグリッド標準プロファイルPoff (std) として求める。そして、ONグリッド標準プロファイルPon(std) の形状と、OFFグリッド標準プロファイルPoff (std) の形状と、が近づく修正が行われるように、輪郭近傍画素の画素値に対する増減割合を、個々のビーム特性および個々の感光特性の組み合わせごとに標準モデル修正テーブルT内に定めればよい。
たとえば、ある特定の条件(特定のビーム特性および特定の感光特性の組み合わせ)について、ONグリッド標準プロファイルPon(std) およびOFFグリッド標準プロファイルPoff (std) が、図22(a) に示すプロファイルPonおよびPoff のようになったとすると、標準モデル修正テーブルTには、当該特定の条件についての輪郭近傍画素の画素値に対する増減割合として、図23(b) に示すような割合を定めておけばよい。この図23(b) に示す割合は、最大画素値「15」に対する割合になっており、図24に示すように、ONグリッド輪郭線の内側直近の画素g1については「16%減」、その外側の画素g0については「19%増」という増減割合を示すものである。
このような増減割合を標準モデル修正テーブルTに収録しておけば、輪郭近傍修正段階S30では、この標準モデル修正テーブルTを参照することにより、輪郭近傍画素の画素値の修正を行い、修正描画データDcorrectedを作成することができる。
所定の標準モデル図形として、画素の境界に位置するONグリッド輪郭線と、画素の境界に対して当該画素の半ピッチ分ずれた位置にある1/2-OFFグリッド輪郭線と、を含む図形を用いれば(たとえば、左側輪郭線がONグリッド輪郭線、右側輪郭線が1/2-OFFグリッド輪郭線となるような線状パターン)、ONグリッド輪郭線の近傍の露光強度を示すONグリッド標準プロファイルPon(std) と、1/2-OFFグリッド輪郭線の近傍の露光強度を示すOFFグリッド標準プロファイルPoff (std) とを求めることができる。この場合、標準モデル修正テーブルTに収録する画素値の増減割合は、ONグリッド輪郭線の形状と1/2-OFFグリッド輪郭線の形状とを一致させるための修正を目的としたものになる。
別言すれば、上記手法は、1/2-OFFグリッド輪郭線をOFFグリッド輪郭線の代表として取り扱う手法と言うことができる。前述したように、OFFグリッド輪郭線には、1/2-OFFグリッド輪郭線だけでなく、1/5-OFFグリッド輪郭線、2/5-OFFグリッド輪郭線など、画素の境界位置との距離(画素配列の周期に対する位相)が異なる様々な輪郭線が存在する。ただ、ONグリッド輪郭線に対するプロファイルの形状の差が最も大きくなるのは1/2-OFFグリッド輪郭線である。したがって、1/2-OFFグリッド輪郭線をOFFグリッド輪郭線の代表として取り扱う手法は合理的である。
ただ、上記手法では、1/5-OFFグリッド輪郭線や2/5-OFFグリッド輪郭線などについても、1/2-OFFグリッド輪郭線を想定した画素値の増減割合に基づく修正が行われることになるので、必要に応じて、1/2-OFFグリッド輪郭線を代表とせずに、各OFFグリッド輪郭線をそれぞれ区別して取り扱うようにしてもよい。
この場合、標準モデル修正テーブルTでは、1/5-OFFグリッド輪郭線や2/5-OFFグリッド輪郭線などを区別した修正量を定めておくようにし、各輪郭線のON/OFF認識処理S31では、ONグリッド輪郭線かOFFグリッド輪郭線かの二者択一的な認識ではなく、1/5-OFFグリッド輪郭線や2/5-OFFグリッド輪郭線などを区別した認識を行うようにすればよい。また、図22(a) に示すプロファイルPoff が複数通り得られることになるので、標準モデル修正テーブルTには、それぞれ別個の修正量が収録されることになり、画素値の修正処理S32では、個々の修正量に従って、個々のONグリッドプロファイルPonを、OFFグリッドプロファイルPoff に近づける修正を行うようにすればよい。
(2) §4.3で述べた本発明の第1のアプローチ(変形例)の適用
第1のアプローチ(変形例)の基本方針は、図25(a) に示すようなONグリッドプロファイルPon(実線)とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)が得られる場合に、両者の中間に位置する参照プロファイルPref を設定し、両者が参照プロファイルPref に近づくような修正を加える、というものである。
このようなアプローチを採用する場合、標準モデル修正テーブルTは、次のような方法で用意すればよい。まず、荷電マルチビーム描画装置のビーム特性およびレジスト層の感光特性ごとに、所定の標準モデル図形についてのONグリッドプロファイルおよびOFFグリッドプロファイルを、それぞれONグリッド標準プロファイルPon(std) およびOFFグリッド標準プロファイルPoff (std) として求める。そして、更に、これら両プロファイルPon(std) ,Poff (std) の中間に位置する参照標準プロファイルPref (std) を定める。
続いて、ONグリッド標準プロファイルPon(std) の形状が参照標準プロファイルPref (std) に近づき、OFFグリッド標準プロファイルPoff (std) の形状が参照標準プロファイルPref (std) に近づく修正が行われるように、輪郭近傍画素の画素値に対する増減割合を、個々のビーム特性および個々の感光特性の組み合わせごとに標準モデル修正テーブルT内に定めればよい。具体的な増減割合の決定方法は、上述した第1のアプローチ(基本例)の適用例と同様である。
このような増減割合を標準モデル修正テーブルTに収録しておけば、輪郭近傍修正段階S30では、この標準モデル修正テーブルTを参照することにより、輪郭近傍画素の画素値の修正を行い、修正描画データDcorrectedを作成することができる。
所定の標準モデル図形としては、上述した第1のアプローチ(基本例)の適用例と同様に、画素の境界に位置するONグリッド輪郭線と、画素の境界に対して当該画素の半ピッチ分ずれた位置にある1/2-OFFグリッド輪郭線と、を含む図形を用い、ONグリッド輪郭線の近傍の露光強度を示すプロファイルをONグリッド標準プロファイルPon(std) とし、1/2-OFFグリッド輪郭線の近傍の露光強度を示すプロファイルをOFFグリッド標準プロファイルPoff (std) とすればよい。すなわち、1/2-OFFグリッド輪郭線をOFFグリッド輪郭線の代表として取り扱うことになる。
もちろん、より精度の高い修正を行う必要がある場合には、1/2-OFFグリッド輪郭線を代表とせずに、各OFFグリッド輪郭線を、1/2-OFFグリッド輪郭線、1/5-OFFグリッド輪郭線、2/5-OFFグリッド輪郭線のように区別して取り扱うようにしてもよい。この場合、図25(a) に示すプロファイルPoff が複数通り得られることになるので、標準モデル修正テーブルTには、それぞれ別個の修正量が収録されることになり、画素値の修正処理S32では、個々の修正量に従って、個々のOFFグリッドプロファイルPoff を、参照標準プロファイルPref に近づける修正を行う必要がある。
(3) §4.4で述べた本発明の第2のアプローチの適用
第2のアプローチの基本方針は、図27に示すように、ONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff との交点位置の露光強度が、総露光強度の閾値Ethとなるように、画素値の修正を行う、というものである。
このようなアプローチを採用する場合、標準モデル修正テーブルTは、次のような方法で用意すればよい。まず、荷電マルチビーム描画装置のビーム特性およびレジスト層の感光特性ごとに、所定の標準モデル図形についてのONグリッドプロファイルおよびOFFグリッドプロファイルを、それぞれONグリッド標準プロファイルPon(std) およびOFFグリッド標準プロファイルPoff (std) として求める。そして、ONグリッド標準プロファイルPon(std) と、OFFグリッド標準プロファイルPoff (std) と、の交点位置の露光強度が、レジスト層の感光特性によって定まる総露光強度の閾値Ethになるような修正が行われるように、輪郭近傍画素の画素値に対する増減割合を、個々のビーム特性および個々の感光特性の組み合わせごとに標準モデル修正テーブルT内に定めればよい。
このような増減割合を標準モデル修正テーブルTに収録しておけば、輪郭近傍修正段階S30では、この標準モデル修正テーブルTを参照することにより、輪郭近傍画素の画素値の修正を行い、修正描画データDcorrectedを作成することができる。
所定の標準モデル図形としては、上述した第1のアプローチの適用例と同様に、画素の境界に位置するONグリッド輪郭線と、画素の境界に対して当該画素の半ピッチ分ずれた位置にある1/2-OFFグリッド輪郭線と、を含む図形を用い、ONグリッド輪郭線の近傍の露光強度を示すプロファイルをONグリッド標準プロファイルPon(std) とし、1/2-OFFグリッド輪郭線の近傍の露光強度を示すプロファイルをOFFグリッド標準プロファイルPoff (std) とすればよい。すなわち、1/2-OFFグリッド輪郭線をOFFグリッド輪郭線の代表として取り扱うことになる。
もちろん、第1のアプローチの適用例でも述べたように、より精度の高い修正を行う必要がある場合には、1/2-OFFグリッド輪郭線を代表とせずに、各OFFグリッド輪郭線を、1/2-OFFグリッド輪郭線、1/5-OFFグリッド輪郭線、2/5-OFFグリッド輪郭線のように区別して取り扱うようにしてもよい。この場合、図27(a) に示すプロファイルPoff が複数通り得られることになるので、標準モデル修正テーブルTには、それぞれ別個の修正量が収録されることになり、画素値の修正処理S32では、個々の修正量に従って、個々のOFFグリッドプロファイルPoff を所定量だけ移動し、交点位置を閾値Ethの位置へもってゆく修正を行う必要がある。
<5.2 ランタイム演算を行う方法>
§5.1では、事前演算で求めた標準モデル修正テーブルTを参照する方法を説明した。この方法では、画素値の修正は、テーブルを参照するだけの簡単な処理で済むというメリットが得られるが、標準モデル修正テーブルTを用意する事前演算には手間や時間が必要になる。
ここで述べるランタイム演算を行う方法は、個々のレイアウトパターンに適したオーダーメイドの修正量を試行錯誤による演算によって求める方法である。前述したテーブルを参照する方法に比べて、ランタイムでの演算時間が長くかかるため、十分な演算処理能力を備えたコンピュータを用いないと、実用的な時間内に処理が完了しないという問題はあるが、事前にテーブルを用意しておく必要はない。
図29は、輪郭近傍修正段階S30の具体的なプロセスの第2の形態(ランタイム演算を行う形態)を示す図である。この第2の形態に係る輪郭近傍修正段階S30は、図示のとおり、各輪郭線のON/OFF認識処理S31と、画素値の修正処理S32とを含んでおり、画素値の修正処理S32は、更に、画素値の補正ステップS32a、プロファイルの演算ステップS32b、許容誤差範囲内か否かの判定ステップS32cの各ステップを有している。一方、図の楕円ブロックは、これらの各処理に利用されるデータもしくはこれらの各処理によって生成されるデータを示している。
図29に各楕円ブロックで示されている図形データDfigure、基本描画データDbasic、ビーム特性データDbeam、感光特性データDexposure、修正描画データDcorrectedは、図28に示す同符号のデータと同じものであり、ここでは説明を省略する。また、図29に矩形ブロックで示された各輪郭線のON/OFF認識処理S31も、図28に示す同符号の処理と同じものであり、ここでは説明を省略する。図28に示す第1の形態(事前演算で求めたテーブルを参照する形態)と図29に示す第2の形態(ランタイム演算を行う形態)との相違は、前者の画素値の修正処理S32が、標準モデル修正テーブルTを参照することによって行われるのに対して、後者の画素値の修正処理S32が、ステップS32a,S32b,S32cからなる試行錯誤の繰り返しプロセスによって行われる点である。
まず、画素値の補正ステップS32aでは、輪郭近傍画素の画素値を予め定められた所定の試行量だけ増減する補正が行われる。具体的には、ONグリッド輪郭線の近傍に位置するONグリッド画素の画素値と、OFFグリッド輪郭線の近傍に位置するOFFグリッド画素の画素値に対して、必要に応じて、所定の試行量だけ増減する補正が行われる。所定の試行量としては、たとえば、画素値の増減量として、+1あるいは-1といった数値を定めておいてもよいし、最大画素値に対する増減割合として、+1%あるいは-1%といった数値を定めておいてもよい。
こうして、画素値の補正ステップS32aが完了したら、続いて、プロファイルの演算ステップS32bが行われる。このプロファイルの演算ステップS32bでは、補正後の画素値をもった描画データに基づいてONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff とが演算される。そして、次のステップS32c(判定ステップ)では、ステップS32bで演算されたONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff とに基づいて、判定対象(後述するように、各アプローチによって異なる)が許容誤差範囲内か否かが判定される。
ステップS32cにおいて、否定的結果(判定対象が許容誤差範囲を超えるとの判定結果)が得られた場合には、ステップS32cからステップS32aに戻り、再び、画素値の補正が行われる。こうして、ステップS32cにおいて、肯定的結果(判定対象が許容誤差範囲内との判定結果)が得られるまで、ステップS32aおよびS32bが繰り返し実行される。ここでは、ステップS32aおよびS32bの処理を補正試行処理と呼ぶことにする。結局、画素値の修正処理S32は、補正試行処理を、所定の判定対象が予め定めた許容誤差範囲内に収まるまで繰り返し実行する処理ということになる。
ステップS32cにおいて、肯定的結果が得られたら、画素値の修正処理S32は完了である。この場合、最終的に得られた描画データが修正描画データDcorrectedになる。荷電マルチビーム描画装置には、この修正描画データDcorrectedが与えられ、実際の露光描画プロセスが実行されることになる。このように、ここで述べるランタイム演算を行う方法では、ステップS32cにおいて肯定的結果が得られるまで、補正試行処理が繰り返し実行されることになるので、多大な演算時間が必要になる可能性があるが、実際のレイアウトパターンに対してオーダーメイドの修正量に基づく修正を行うことができるので、精度の高い修正が可能になる。
§4では、画素値を修正する具体的な方法として、いくつかのアプローチを提示した。そこで、以下、図29に示す輪郭近傍修正段階S30に対して、これら各アプローチを適用した場合の手順を簡単に述べておく。
(1) §4.2で述べた本発明の第1のアプローチ(基本例)の適用
第1のアプローチ(基本例)を適用する場合、図22(a) に示すようなONグリッドプロファイルPon(実線)とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)とが得られたときに、たとえば、プロファイルPonの形状をプロファイルPoff の形状に近づけるような修正を行うことになる。図28に示すテーブルを参照する形態の場合、テーブルを参照することにより、図23(b) に例示するような画素ごとの画素値の増減割合(16%減とか、19%増といった数値)が得られるので、この増減割合に応じて画素値を増減すればよい。
図29に示すランタイム演算を行う形態の場合、16%減とか、19%増といった具体的な数値は与えられないので、たとえば、最大画素値に対する増減割合として、+1%あるいは-1%といった数値を試行量として定めておくことになる。そして、画素値の補正ステップS32aでは、予め定めた方針に従って、輪郭近傍画素の画素値を予め定められた試行量だけ増減する補正を行う。たとえば、図22(a) に示す例において、プロファイルPonの形状をプロファイルPoff の形状に近づける方針を採る場合であれば、図24(a) に示す画素配列における輪郭近傍画素g1の画素値を試行量1%だけ減少させ、その外側に位置する輪郭近傍画素g0の画素値を試行量1%だけ増加させる補正を行えばよい。
最大画素値が「15」の場合、試行量1%の増減では、直ちには画素値に変化が生じることはないが、修正対象となる輪郭近傍画素の画素値について、試行量1%の増減があったことを記録しておけば、補正試行処理が繰り返されるたびに、試行量が累積してゆき、累積値が7%になった時点で画素値を1だけ増減させる補正が行われることになる。したがって、補正試行処理を繰り返してゆけば、図22(a) に示すプロファイルPonの形状は、徐々にプロファイルPoff の形状に近づいてゆくことになる。
第1のアプローチ(基本例)を適用した場合、判定ステップS32cにおける判定対象は、ONグリッドプロファイルPonの形状とOFFグリッドプロファイルPoff の形状との相違である。判定ステップS32cでは、両者の相違が、予め定めた許容誤差範囲内に収まったか否かが判定される。上記補正試行処理を繰り返してゆくと、図22(a) に示すONグリッドプロファイルPonは、図22(b) に示すONグリッドプロファイルPon′へと徐々に近づいてゆく。判定ステップS32cにおいて、プロファイルPon′の形状とプロファイルPoff の形状との相違が予め定めた許容誤差範囲内に収まったと判定された場合、その時点で得られている描画データが修正描画データDcorrectedになる。
なお、ランタイム演算を行う形態においても、OFFグリッド輪郭線としては、1/2-OFFグリッド輪郭線を代表とすることができる。たとえば、ONグリッドプロファイルPonの形状をOFFグリッドプロファイルPoff の形状に近づける場合、1/2-OFFグリッド輪郭線をOFFグリッドプロファイルPoff の代表とすれば、ONグリッドプロファイルPonの形状は1/2-OFFグリッドプロファイルPoff の形状に近づくことになる。
(2) §4.3で述べた本発明の第1のアプローチ(変形例)の適用
第1のアプローチ(変形例)を適用する場合、図25(a) に示すようなONグリッドプロファイルPon(実線)とOFFグリッドプロファイルPoff (破線)が得られたときに、両者の中間に位置する参照プロファイルPref を設定し、両者が参照プロファイルPref に近づくまで、補正試行処理を繰り返すことになる。
具体的には、画素値の補正ステップS32aにおいて輪郭近傍画素の画素値を予め定められた試行量だけ増減する補正を行い、プロファイルの演算ステップS32bにおいて補正後の画素値をもった描画データに基づいてONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff とをそれぞれ演算する、という補正試行処理を、ONグリッドプロファイルPonの形状と参照プロファイルPref の形状との相違、およびOFFグリッドプロファイルPonの形状と参照プロファイルPref の形状との相違が、予め定めた許容誤差範囲内に収まるまで繰り返し実行し、最終的に得られた描画データを修正描画データDcorrectedとすればよい。
ここでも、OFFグリッド輪郭線として、1/2-OFFグリッド輪郭線を代表とすることができるので、補正試行処理は、ONグリッドプロファイルPonの形状と参照プロファイルPref の形状との相違、および1/2-OFFグリッドプロファイルPoff の形状と参照プロファイルPref の形状との相違が、予め定めた許容誤差範囲内に収まるまで繰り返し実行すればよい。
(3) §4.4で述べた本発明の第2のアプローチの適用
第2のアプローチを適用する場合、図27に示すように、ONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff との交点位置の露光強度が、総露光強度の閾値Ethに近づくまで、補正試行処理を繰り返すことになる。
具体的には、画素値の補正ステップS32aにおいて輪郭近傍画素の画素値を予め定められた試行量だけ増減する補正を行い、プロファイルの演算ステップS32bにおいて補正後の画素値をもった描画データに基づいてONグリッドプロファイルPonとOFFグリッドプロファイルPoff とをそれぞれ演算する、という補正試行処理を、ONグリッドプロファイルPonと、OFFグリッドプロファイルPoff と、の交点位置の露光強度と、レジスト層の感光特性によって定まる総露光強度の閾値Ethと、の差が予め定めた許容誤差範囲内に収まるまで繰り返し実行し、最終的に得られた描画データを修正描画データDcorrectedとすればよい。
ここでも、OFFグリッド輪郭線として、1/2-OFFグリッド輪郭線を代表とすることができるので、補正試行処理は、ONグリッドプロファイルPonと、1/2-OFFグリッドプロファイルPoff と、の交点位置の露光強度と、レジスト層の感光特性によって定まる総露光強度の閾値Ethと、の差が予め定めた許容誤差範囲内に収まるまで繰り返し実行すればよい。