JP7206793B2 - ラインパイプ用電縫鋼管、及び、ラインパイプ用熱延鋼板 - Google Patents
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Description
ラインパイプ用電縫鋼管の母材部の肉厚中央部において、フェライト分率が60~90%であり、有効結晶粒径が20μm以下であり、結晶粒径が20μm以上の結晶粒の面積率である粗大結晶粒率が20%以下である。
ラインパイプ用電縫鋼管の圧延方向に垂直な面をRD面、圧延面をND面、RD面及びND面に垂直な面をTD面と定義したとき、RD面とのなす角度が45°であり、かつ、TD面とのなす角度が45°である特定面において、{100}面の集積度が1.50~2.50である。
0.300≦C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/3+Nb/3≦0.350 (1)
2.00≦Ca/S≦5.00 (2)
ここで、式(1)及び式(2)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
ラインパイプ用熱延鋼板の板厚中央部において、フェライト分率が60~90%であり、有効結晶粒径が20μm以下であり、結晶粒径が20μm以上の結晶粒の面積率である粗大結晶粒率が20%以下である。
ラインパイプ用熱延鋼板の圧延方向に垂直な面をRD面、圧延面をND面、RD面及びND面に垂直な面をTD面と定義したとき、RD面とのなす角度が45°であり、かつ、TD面とのなす角度が45°である特定面において、{100}面の集積度が1.50~2.50である。
0.300≦C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/3+Nb/3≦0.350 (1)
2.00≦Ca/S≦5.00 (2)
ここで、式(1)及び式(2)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
0.300≦C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/3+Nb/3≦0.350 (1)
2.00≦Ca/S≦5.00 (2)
ラインパイプ用電縫鋼管の母材部の肉厚中央部において、フェライト分率が60~90%であり、有効結晶粒径が20μm以下であり、結晶粒径が20μm以上の結晶粒の面積率である粗大結晶粒率が20%以下である。
ラインパイプ用電縫鋼管の圧延方向に垂直な面をRD面、圧延面をND面、RD面及びND面に垂直な面をTD面と定義したとき、RD面とのなす角度が45°であり、かつ、TD面とのなす角度が45°である特定面において、{100}面の集積度が1.50~2.50である。
0.300≦C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/3+Nb/3≦0.350 (1)
2.00≦Ca/S≦5.00 (2)
ここで、式(1)及び式(2)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
ラインパイプ用熱延鋼板の板厚中央部において、フェライト分率が60~90%であり、有効結晶粒径が20μm以下であり、結晶粒径が20μm以上の結晶粒の面積率である粗大結晶粒率が20%以下である。
ラインパイプ用熱延鋼板の圧延方向に垂直な面をRD面、圧延面をND面、RD面及びND面に垂直な面をTD面と定義したとき、RD面とのなす角度が45°であり、かつ、TD面とのなす角度が45°である特定面において、{100}面の集積度が1.50~2.50である。
0.300≦C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/3+Nb/3≦0.350 (1)
2.00≦Ca/S≦5.00 (2)
ここで、式(1)及び式(2)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態のラインパイプ用電縫鋼管の母材部の化学組成、及び、ラインパイプ用熱延鋼板の化学組成は、いずれも、次の元素を含有する。
炭素(C)は、鋼の強度を高める。C含有量が低すぎれば、この効果が得られない。したがって、C含有量は0.010%以上である。一方、C含有量が高すぎれば、炭化物が生成し、鋼の低温靭性及び延性が低下する。C含有量が高すぎればさらに、溶接性が低下する。したがって、C含有量は0.060%以下である。以上より、本実施形態において、C含有量は0.010~0.060%である。C含有量の好ましい下限は0.025%であり、さらに好ましくは0.030%である。C含有量の好ましい上限は、0.058%である。
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。Si含有量が低すぎれば、この効果が得られない。したがって、Si含有量は0.05%以上である。一方、Si含有量が高すぎれば、鋼の低温靭性が低下する。したがって、Si含有量は、0.30%以下である。以上より、本実施形態において、Si含有量は0.05~0.30%である。Si含有量の好ましい下限は、0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Si含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.21%である。
マンガン(Mn)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。Mn含有量が低すぎれば、この効果が得られない。したがって、Mn含有量は0.50%以上である。一方、Mn含有量が高すぎれば、鋼の強度が高くなりすぎ、鋼の低温靭性が低下する。したがって、Mn含有量は2.00%以下である。以上より、本実施形態において、Mn含有量は、0.50~2.00%である。Mn含有量の好ましい下限は、0.80%であり、さらに好ましくは1.00%である。Mn含有量の好ましい上限は1.80%であり、さらに好ましくは1.50%である。
燐(P)は不純物である。Pは、鋼の低温靭性を低下する。したがって、P含有量はなるべく低い方が好ましい。本実施形態では、P含有量は0~0.030%である。P含有量の好ましい上限は0.020%であり、さらに好ましくは0.015%である。P含有量は0%であってもよい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、製造コストを高める。したがって、製造コスト低減の観点から、P含有量は、0%超であってもよく、0.001%以上であってもよく、0.005%以上であってもよい。
硫黄(S)は不純物である。Sは、Mnと結合してMnSを形成する。MnSは耐HIC性を低下する。MnSはさらに、低温靭性を低下する。したがって、本実施形態では、S含有量は0超~0.0010%である。S含有量の好ましい上限は0.0009%であり、さらに好ましくは0.0008%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は、製造コストを高める。したがって、製造コスト低減の観点から、S含有量は0.0001%以上であってもよく、0.0002%以上であってもよく、0.0005%以上であってもよい。
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Al含有量が低すぎれば、この効果が得られない。したがって、Al含有量は0.010%以上である。一方、Al含有量が高すぎれば、Al窒化物が粗大化し、鋼の低温靭性が低下する。したがって、Al含有量は0.035%以下である。以上より、本実施形態において、Al含有量は、0.010~0.035%である。Al含有量の好ましい下限は0.015%であり、さらに好ましくは0.020%である。Al含有量の好ましい上限は0.030%である。本明細書において、Al含有量は鋼中の全Al含有量を意味する。
窒素(N)は、窒化物を形成して、加熱工程中のオーステナイト粒の粗大化を抑制する。この場合、圧延工程においてオーステナイト粒が微細化し、変態後の結晶粒が微細になる。その結果、鋼の低温靭性が高まる。Nはさらに、固溶強化により鋼の強度を高める。N含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。したがって、N含有量は0.0010%以上である。一方、N含有量が高すぎれば、炭窒化物を粗大化し、鋼の低温靭性を低下する。したがって、N含有量は0.0080%以下である。以上より、本実施形態において、N含有量は0.0010~0.0080%である。N含有量の好ましい下限は、0.0020%であり、さらに好ましくは0.0025%である。N含有量の好ましい上限は0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
ニオブ(Nb)は、鋼中のCやNと結合して微細なNb炭窒化物等を形成する。本明細書において「炭窒化物等」とは、炭化物、窒化物、及び炭窒化物の総称である。Nb炭窒化物等は、ピンニング効果により、結晶粒の粗大化を抑制し、有効結晶粒径を小さくする。そのため、Nbは、鋼の低温靭性を高める。さらに、微細なNb炭窒化物等は、分散強化により鋼の強度を高める。Nb含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。したがって、Nb含有量は0.010%以上である。一方、Nb含有量が高すぎれば、Nb炭窒化物が粗大化し、鋼の低温靭性が低下する。したがって、Nb含有量は0.080%以下である。以上より、本実施形態において、Nb含有量は0.010~0.080%である。Nb含有量の好ましい下限は、0.015%であり、さらに好ましくは0.020%である。Nb含有量の好ましい上限は0.060%であり、さらに好ましくは0.050%である。
チタン(Ti)は、鋼中のNと結合してTiNを形成し、固溶したNによる鋼の低温靭性の低下を抑制する。さらに、微細なTiNが分散析出することにより、結晶粒の粗大化を抑制する。これにより、鋼の低温靭性が高まる。Ti含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。したがって、Ti含有量は0.005%以上である。一方、Ti含有量が高すぎれば、TiNが粗大化したり、粗大なTiCが生成したりする。この場合、鋼の低温靭性が低下する。したがって、Ti含有量は0.030%以下である。以上より、本実施形態において、Ti含有量は0.005~0.030%である。Ti含有量の好ましい下限は、0.007%であり、さらに好ましくは0.010%である。Ti含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.019%である。
ニッケル(Ni)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。Ni含有量が低すぎれば、この効果が得られない。したがって、Ni含有量は0.001%以上である。一方、Ni含有量が高すぎれば、この効果が飽和する。したがって、Ni含有量は、0.500%以下である。以上より、Ni含有量は0.001~0.500%である。Ni含有量の好ましい下限は、0.050%であり、さらに好ましくは0.070%である。Ni含有量の好ましい上限は0.250%であり、さらに好ましくは0.150%である。
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。Moはさらに、オーステナイト粒を微細化し、鋼の低温靭性を高める。Mo含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。したがって、Mo含有量は0.10%以上である。一方、Mo含有量が高すぎれば、鋼の現地溶接性が低下する。したがって、Mo含有量は0.30%以下である。以上より、本実施形態において、Mo含有量は0.10~0.30%である。Mo含有量の好ましい下限は、0.12%であり、さらに好ましくは、0.15%である。Mo含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.22%である。
酸素(O)は不純物である。Oは酸化物を形成して、鋼の耐水素誘起割れ性(耐HIC性)を低下する。Oはさらに、鋼の低温靭性を低下する。したがって、O含有量はなるべく低い方が好ましい。本実施形態において、O含有量は0~0.0030%である。O含有量の好ましい上限は0.0025%である。O含有量は、0%であってもよい。しかしながら、O含有量の過剰な低減は、製造コストを高める。したがって、製造コスト低減の観点から、O含有量は0%超であってもよく、0.0001%以上であってもよく、0.0005%以上であってもよい。
カルシウム(Ca)は、MnSの形態を制御して、球状化する。この場合、鋼の耐HIC性を高め、かつ、鋼の低温靭性を高める。Caが少しでも含有されれば、後述の式(1)及び式(2)を満たすことを条件として、上記効果が得られる。したがって、Ca含有量は0%超である。一方、Ca含有量が高すぎれば、粗大な酸化物系介在物が形成される。この場合、鋼の耐HIC性及び低温靭性が低下する。したがって、Ca含有量は0.0050%以下である。以上より、本実施形態において、Ca含有量は0超~0.0050%である。Ca含有量の好ましい下限は0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0012%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
上述のラインパイプ用電縫鋼管の母材部の化学組成、及び、ラインパイプ用熱延鋼板の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、V、Cr及びCuからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも、鋼の強度を高める。
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは鋼中のCやNと結合して微細な炭窒化物を形成し、鋼の強度を高める。微細なV炭窒化物はさらに、結晶粒の粗大化を抑制して鋼の低温靭性を高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、V含有量が高すぎれば、V炭窒化物が粗大化し、鋼の低温靭性が低下する。したがって、V含有量は、0~0.100%である。V含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。V含有量の好ましい上限は0~0.080%であり、さらに好ましくは0~0.070%である。
クロム(Cr)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Crは鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。Crが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cr含有量が高すぎれば、焼入れ性が高くなりすぎて鋼の低温靭性が低下する。したがって、Cr含有量は0~0.30%である。Cr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%である。Cr含有量の好ましい上限は0.20%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.05%である。
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、焼入れ性が高くなりすぎて鋼の低温靭性が低下する。したがって、Cu含有量は0~0.30%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cu含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.20%である。
マグネシウム(Mg)は、任意の元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、Mgは、脱酸剤及び脱硫剤として機能する。また、Mgはさらに、微細な酸化物を生じて、熱影響部(HAZ)の靭性の向上にも寄与する。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が高すぎれば、酸化物が凝集又は粗大化し易くなる。その結果、耐HIC性が低下したり、母材部又は溶接熱影響部の靱性が低下したりする。したがって、Mg含有量は0~0.0050%である。Mg含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Mg含有量の好ましい上限は0.0030%である。
希土類元素(REM)は、任意の元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、REMは、脱酸剤及び脱硫剤として機能する。しかしながら、REM含有量が高すぎれば、粗大な酸化物が生成される。その結果、耐HIC性が低下したり、母材部又は溶接熱影響部の靱性が低下したりする。したがって、REM含有量は0~0.0100%である。REM含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0010%である。REM含有量の好ましい上限は0.0070%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
上述の化学組成はさらに、式(1)を満たす。
0.300≦C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/3+Nb/3≦0.350 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。また、式(1)中の元素記号に対応する元素が含有されていない場合、式(1)中の対応する元素記号には「0」が代入される。
上述の化学組成はさらに、式(2)を満たす。
2.00≦Ca/S≦5.00 (2)
ここで、式(2)の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態によるラインパイプ用電縫鋼管の母材部の肉厚中央部のミクロ組織、及び、ラインパイプ用熱延鋼板の板厚中央部のミクロ組織は、フェライト、ベイナイト、及び、パーライトからなり、残部は、析出物及び/又は介在物である。ここで、肉厚中央部とは、肉厚をtmmと定義した場合、肉厚中央位置から肉厚方向に±20%の範囲を意味する。また、板厚中央部とは、板厚をtmmと定義した場合、板厚中央位置から板厚方向に±20%の範囲を意味する。
本実施形態ではさらに、ラインパイプ用電縫鋼管の母材部の肉厚中央部のミクロ組織、及び、ラインパイプ用熱延鋼板の板厚中央部でのミクロ組織において、有効結晶粒径が20μm以下である。有効結晶粒径が大きすぎれば、鋼の低温靭性が低下する。本実施形態では、上述の有効結晶粒径が20μm以下であるため、優れた低温靭性が得られる。有効結晶粒径の好ましい上限は、17μmであり、さらに好ましくは15μmである。
本実施形態ではさらに、ラインパイプ用電縫鋼管の母材部の肉厚中央部のミクロ組織、及び、ラインパイプ用熱延鋼板の板厚中央部でのミクロ組織において、結晶粒径が20μm以上のフェライト結晶粒の面積率である「粗大結晶粒率」が20%以下である。結晶粒が粗大である場合、鋼の低温靭性が低下する。粗大結晶粒率が20%以下であれば、優れた低温靭性が得られる。粗大結晶粒率の好ましい上限は、18%であり、さらに好ましくは15%である。粗大結晶粒率は低い程好ましい。
粗大結晶粒率(%)=(n/N)×100 (3)
本実施形態ではさらに、ラインパイプ用電縫鋼管の母材部の肉厚中央部、及び、ラインパイプ用熱延鋼板の板厚中央部において、圧延方向に垂直な面をRD面、圧延面をND面、RD面及びND面に垂直な面をTD面と定義したとき、RD面とのなす角度が45°であり、かつ、TD面とのなす角度が45°である特定面において、{100}面の集積度が1.50~2.50である。これにより、RD方向のき裂の伝播が抑制され、ラインパイプ用電縫鋼管、及び、ラインパイプ用熱延鋼板の低温靭性がさらに高まる。
特定面における{100}面の集積度は、EBSP-OIM(商標)を用いて測定する。具体的には、ラインパイプ用電縫鋼管の場合、ラインパイプ用電縫鋼管の母材部のうち電縫溶接部から周方向に90°ずれた位置の肉厚中央部から、試料を採取する。ラインパイプ用熱延鋼板の場合、ラインパイプ用熱延鋼板の板厚中央部から、試料を採取する。採取された試料をコロイダルシリカ研磨剤で30~60分研磨する。研磨された試料について、EBSP-OIMのEBSD法を用いて解析する。EBSD法での測定条件は、倍率:400倍、視野面積:200μm×500μm、測定ステップ:0.3μmとする。EBSD測定により、球面調和関数法を用いて、RD面とのなす角度が45°であり、かつ、TD面とのなす角度が45°である特定面に垂直な方向に対する逆極点図のTexture解析を実施して、RD面とのなす角度が45°であり、かつ、TD面とのなす角度が45°である特定面における{100}面の集積度を求める。
本実施形態のラインパイプ用電縫鋼管において、母材部のRD方向、つまり、電縫鋼管の軸方向の好ましい降伏強度YSは450~570MPaである。軸方向の降伏強度YSが450MPa以上であれば、ラインパイプ用途として十分な強度が得られている。また、軸方向の降伏強度YSが5740MPa以下であれば、ラインパイプ用電縫鋼管からなるパイプラインを海底等に敷設する場合において、曲げ変形又は座屈抑制に有利である。軸方向の降伏強度YSのさらに好ましい下限は460MPaであり、さらに好ましくは480MPaである。軸方向の降伏強度YSのさらに好ましい上限は540MPaであり、さらに好ましくは530MPaであり、さらに好ましくは520MPaである。
本実施形態のラインパイプ用電縫鋼管において、母材部のRD方向、つまり、電縫鋼管の軸方向の好ましい引張強度TSは535~760MPaである。軸方向の引張強度TSが535MPa以上であれば、ラインパイプ用途として十分な強度が得られている。また、軸方向の引張強度TSが760MPa以下であれば、ラインパイプ用電縫鋼管からなるパイプラインを海底等に敷設する場合において、曲げ変形又は座屈抑制に有利である。軸方向の引張強度TSの好ましい下限は538MPaであり、さらに好ましくは540MPaであり、さらに好ましくは545MPaである。軸方向の引張強度TSの好ましい上限は700MPaであり、さらに好ましくは650MPaであり、さらに好ましくは625MPaであり、620MPaであり、さらに好ましくは600MPaである。
本実施形態のラインパイプ用電縫鋼管のサイズは特に限定されない。たとえば、本実施形態のラインパイプ用電縫鋼管の肉厚は12~25mmであり、外径は304.8~660.4mmである。
上述のラインパイプ用熱延鋼板、及び、ラインパイプ用電縫鋼管の製造方法の一例を説明する。図4は、製造方法の一例を示すフロー図である。
上述の化学組成を有する素材を準備する。具体的には、上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて、素材(スラブ)を製造する。連続鋳造法により鋳片(スラブ)を製造してもよい。溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延して素材(スラブ)を製造してもよい。
加熱工程(S1)では、製造されたスラブを加熱炉で加熱する。加熱炉でのスラブの加熱温度は1200~1280℃であるのが好ましい。加熱温度が1200℃以上であれば、加熱時にNbCが溶解して、耐HIC性が向上する。加熱温度が1200℃未満であれば、加熱時にNbCが溶解せず、耐HIC性が劣化する。したがって、加熱温度は1200~1280℃である。好ましい加熱温度の下限は1220℃である。好ましい加熱温度の上限は1260℃である。
圧延工程(S2)では、加熱工程(S1)で加熱されたスラブを、粗圧延機及び仕上げ圧延機を用いて熱間圧延して、鋼板にする。圧延工程(S2)は、粗圧延工程(S21)及び仕上げ圧延工程(S22)を含む。
粗圧延工程(S21)では、準備されたスラブに対して粗圧延を実施して、粗圧延板(粗バー)を製造する。粗熱延機としては、リバース式であってもよいし、一列に配列された複数の圧延スタンドを備えるタンデム式であってもよい。粗圧延の累積圧下率は、本実施形態の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、好ましくは、60~75%である。
t0(s)≦-3.7T0+3686 (3)
F3=-3.7T0+3686と定義する。加熱温度が上記範囲内であり、t0(s)がF3以下であれば、再結晶せず、粗圧延で扁平化した結晶粒の形を保持しやすくなる。その結果、{100}面が特定面に集積しやすくなる。一方、t0(s)がF3を超えれば、再結晶するため、粗圧延で扁平化した結晶粒の形を保持できない。その結果、{100}面が特定面に集積しにくくなる。
仕上げ圧延工程では、得られた粗圧延板に対して、仕上げ圧延機により仕上げ圧延を実施して、鋼板を製造する。
累積圧下率(%)={1-(仕上げ圧延後の鋼板の板厚/仕上げ圧延前の粗バーの板厚)}×100
ROT(ランアウトテーブル)冷却工程(S3)では、圧延工程(S2)で製造された鋼板を冷却する。ROT冷却工程(S3)は、強冷却工程(S31)と徐冷却工程(S32)とを備えるのが好ましい。これにより、ラインパイプ用熱延鋼板の板厚中央部、及び、ラインパイプ用電縫鋼管の肉厚中央部において、フェライト分率が高まり、鋼の低温靭性が高まる。以下、この点について詳述する。
初めに、鋼板を強冷却する。強冷却はたとえば、水冷装置による水冷である。水冷直前の鋼板の表面温度は特に限定しないが、Ar3変態温度以上であるのが好ましい。水冷直前の鋼板の表面温度がAr3変態温度以上であれば、粒成長により結晶粒が粗大化することによる強度の低下を防止できる。
強冷却工程(S31)で強冷却した鋼板に対して、徐冷却を実施する。徐冷却工程(S32)での冷却速度をV2(℃/s)とする。V2は、熱伝導により計算される。冷却速度V2は、板厚中央部で2.0~4.0℃/sであるのが好ましい。冷却速度V2が遅すぎれば、次工程以降での、徐冷却停止温度T2及び巻取り温度T3が高くなりすぎる。この場合、結晶粒が粗大化し、鋼の低温靭性が低下する。冷却速度V2が速すぎれば、CCT線図において、鋼板温度がフェライト領域を通過して、パーライト領域及び/又はベイナイト領域に到達する。この場合、フェライト分率が低下し、鋼の低温靭性が低下する。したがって、冷却速度V2は2.0~4.0℃/sである。
巻取り工程(S4)では、ROT冷却工程(S3)により冷却された鋼板を巻取り、コイル状のラインパイプ用熱延鋼板を製造する。
コイル状のラインパイプ用熱延鋼板を巻き戻しながら、周知の方法により、ラインパイプ用電縫鋼管を製造する。具体的には、ラインパイプ用熱延鋼板を連続した成形ロールによる曲げ加工により筒状(オープンパイプ)にする。続いて、オープンパイプの突合せ部を電縫溶接法により溶接する。必要に応じて、電縫溶接部に対して周知のシーム熱処理を実施する。以上の工程により、本実施形態のラインパイプ用電縫鋼管を製造する。
各試験番号のラインパイプ用電縫鋼管から引張試験片を採取した。具体的には、ラインパイプ用電縫鋼管を軸方向に見てラインパイプ用電縫鋼管の溶接部から90°の位置(電縫鋼管から管周方向に90°ずれた位置)から全厚の管軸方向の引張試験片を採取した。引張試験片の横断面は弧状であり、引張試験片の長手方向は、鋼管の長手方向と平行であった。引張試験片のサイズは図5に示すとおりであり、平行部の長さは50.8mm、平行部の幅は38.1mmであった。図5中の数値は、試験片の対応する部位の寸法(単位はmm)を示す。引張試験片を用いて、API規格の5CTの規定に準拠して、常温(24℃)にて引張試験を実施した。試験結果に基づいて、ラインパイプ用電縫鋼管の降伏強度YS(MPa)及び引張強度TS(MPa)を求めた。
ラインパイプ用電縫鋼管について、上述の方法に基づいて、EBSP-OIMを用いて、母材部の肉厚中央部のフェライト分率、有効結晶粒径、及び粗大結晶粒率を測定した。有効結晶粒径測定でのEBSP-OIMの測定条件は倍率:400倍、視野面積:200μm×500μm、測定ステップ:0.3μmとした。EBSD-OIMにおける解析ソフトとして、TSLソリューションズ社製の「TSL OIM Analysis 7」を用いた。また、上記フェライト分率の測定において、母材部の肉厚中央部の金属組織における残部(つまり、フェライト以外の組織)の種類も確認した。なお、ラインパイプ用熱延鋼板の板厚中央部におけるフェライト分率、有効結晶粒径、及び、粗大結晶粒率も、ラインパイプ用電縫鋼管と同じ方法で測定した。その結果、ラインパイプ用熱延鋼板のフェライト分率、有効結晶粒径、及び、粗大結晶粒率はいずれも、対応するラインパイプ用電縫鋼管と同じであった。
ラインパイプ用電縫鋼管について、上述の方法に基づいて、EBSP-OIMを用いて、特定面における{100}面の集積度を測定した。EBSP-OIMでの測定条件は倍率:400倍、視野面積:200μm×500μm、測定ステップ:0.3μmとした。なお、ラインパイプ用熱延鋼板の板厚中央部における、特定面での{100}面の集積度を上述の方法で求めた。その結果、ラインパイプ用電縫鋼管の特定面での{100}面の集積度は、対応するラインパイプ用電縫鋼管と同じであった。
各試験番号のラインパイプ用電縫鋼管の電縫溶接部から周方向に90°ずれた位置での肉厚中央部から、DWTT試験片を採取した。採取位置から管周方向に採取された円弧状の部材を展開して平板状とし、90°位置にノッチを加工した。DWTT試験片のサイズは図6に示すとおりであった。図6中の数値は、試験片の対応する部位の寸法(単位はmm)を示す。tは肉厚(単位はmm)を示す。DWTT試験片の長手方向は、ラインパイプ用電縫鋼管の円周方向に相当した。DWTT試験片に対して、ASTM E 436の規定に準拠して、DWTT試験を行った。延性破面率が85%となる最低温度(DWTT保証温度)を求めた。DWTT保証温度が、-10℃以下の場合、低温靭性が高いと評価した。
各試験番号のラインパイプ用電縫鋼管の電縫溶接部から周方向に90°ずれた位置での肉厚中央部から、HIC試験片を採取した。採取位置から管周方向に採取された円弧状の部材を展開して平板状とした。HIC試験片のサイズは幅20mm×長さ100mm×肉厚(mm)であった。得られたHIC試験片を用いて、NACE-TM0284に準拠したHIC試験を実施した。具体的には、Solution A液(5mass%NaCl+0.5mass%氷酢酸水溶液)に100%のH2Sガスを飽和させた試験液中に、HIC試験片を96時間浸漬した。96時間浸漬後の試験片について、超音波探傷機にてHICの発生の有無を測定した。この測定結果に基づいて、下記式により割れ長さ率CLR(Crack Length Ratio)(%)を求めた。CLRが15%以下であれば、耐HIC性に優れると判断した。
CLR(%)=(割れの合計長さ/試験片長さ)×100(%)
表3に試験結果を示す。表3中、「P,B」の表記は、パーライト及びベイナイトの少なくとも一方であることを意味する。
Claims (8)
- ラインパイプ用電縫鋼管であって、
母材部の化学組成は、質量%で、
C:0.010~0.060%、
Si:0.05~0.30%、
Mn:0.50~2.00%、
P:0~0.030%、
S:0超~0.0010%、
Al:0.010~0.035%、
N:0.0010~0.0080%、
Nb:0.010~0.080%、
Ti:0.005~0.030%、
Ni:0.001~0.500%、
Mo:0.10~0.30%、
O:0~0.0030%、
Ca:0超~0.0050%、
V:0~0.100%、
Cr:0~0.30%、
Cu:0~0.30%、
Mg:0~0.0050%、
希土類元素:0~0.0100%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)及び式(2)を満たし、
前記ラインパイプ用電縫鋼管の母材部の肉厚中央部において、フェライト分率が60~90%であり、
0.3μmの測定ステップごとの方位測定で、隣り合う測定点の方位差が15°を超えた位置を粒界とし、前記粒界に囲まれた領域を結晶粒と定義し、前記結晶粒の円相当径を結晶粒径と定義したとき、前記結晶粒径ごとの個数分布にその粒径の平均面積を乗じたものの分布をとったときの平均値(平均面積に該当する粒径)である有効結晶粒径が20μm以下であり、前記結晶粒径が20μm以上の結晶粒の面積率である粗大結晶粒率が20%以下であり、
前記ラインパイプ用電縫鋼管の圧延方向に垂直な面をRD面、圧延面をND面、前記RD面及び前記ND面に垂直な面をTD面と定義したとき、前記RD面とのなす角度が45°であり、かつ、前記TD面とのなす角度が45°である特定面において、{100}面の集積度が1.50~2.50であり、
5mass%NaCl+0.5mass%氷酢酸水溶液に100%のH 2 Sガスを飽和させた試験液中に、96時間浸漬した後の、式(A)で定義される割れ長さ率CLRが15%以下である、ラインパイプ用電縫鋼管。
0.300≦C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/3+Nb/3≦0.350 (1)
2.00≦Ca/S≦5.00 (2)
割れ長さ率CLR(%)=(割れの合計長さ/試験片長さ)×100(%) (A)
ここで、式(1)及び式(2)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。 - 請求項1に記載のラインパイプ用電縫鋼管であって、
前記化学組成は、質量%で、
V:0.001~0.100%、
Cr:0.01~0.30%、及び、
Cu:0.01~0.30%、からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、ラインパイプ用電縫鋼管。 - 請求項1又は請求項2に記載のラインパイプ用電縫鋼管であって、
前記化学組成は、質量%で、
Mg:0.0010~0.0050%、及び、
希土類元素:0.0010~0.0100%、からなる群から選択される1種以上を含有する、ラインパイプ用電縫鋼管。 - 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のラインパイプ用電縫鋼管であって、
軸方向の降伏強度が450~570MPaであり、軸方向の引張強度が535~760MPaである、ラインパイプ用電縫鋼管。 - 請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のラインパイプ用電縫鋼管であって、
肉厚が12~25mmであり、外径が304.8~660.4mmである、ラインパイプ用電縫鋼管。 - ラインパイプ用熱延鋼板であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.010~0.060%、
Si:0.05~0.30%、
Mn:0.50~2.00%、
P:0~0.030%、
S:0超~0.0010%、
Al:0.010~0.035%、
N:0.0010~0.0080%、
Nb:0.010~0.080%、
Ti:0.005~0.030%、
Ni:0.001~0.500%、
Mo:0.10~0.30%、
O:0~0.0030%、
Ca:0超~0.0050%、
V:0~0.100%、
Cr:0~0.30%、
Cu:0~0.30%、
Mg:0~0.0050%、
希土類元素:0~0.0100%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)及び式(2)を満たし、
前記ラインパイプ用熱延鋼板の板厚中央部において、フェライト分率が60~90%であり、
0.3μmの測定ステップごとの方位測定で、隣り合う測定点の方位差が15°を超えた位置を粒界とし、前記粒界に囲まれた領域を結晶粒と定義し、前記結晶粒の円相当径を結晶粒径と定義したとき、前記結晶粒径ごとの個数分布にその粒径の平均面積を乗じたものの分布をとったときの平均値(平均面積に該当する粒径)である有効結晶粒径が20μm以下であり、前記結晶粒径が20μm以上の結晶粒の面積率である粗大結晶粒率が20%以下であり、
前記ラインパイプ用熱延鋼板の圧延方向に垂直な面をRD面、圧延面をND面、前記RD面及び前記ND面に垂直な面をTD面と定義したとき、前記RD面とのなす角度が45°であり、かつ、前記TD面とのなす角度が45°である特定面において、{100}面の集積度が1.50~2.50であり、
5mass%NaCl+0.5mass%氷酢酸水溶液に100%のH 2 Sガスを飽和させた試験液中に、96時間浸漬した後の、式(A)で定義される割れ長さ率CLRが15%以下である、ラインパイプ用熱延鋼板。
0.300≦C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/3+Nb/3≦0.350 (1)
2.00≦Ca/S≦5.00 (2)
割れ長さ率CLR(%)=(割れの合計長さ/試験片長さ)×100(%) (A)
ここで、式(1)及び式(2)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。 - 請求項6に記載のラインパイプ用熱延鋼板であって、
前記化学組成は、質量%で、
V:0.001~0.100%、
Cr:0.01~0.30%、及び、
Cu:0.01~0.30%、からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、ラインパイプ用熱延鋼板。 - 請求項6又は請求項7に記載のラインパイプ用熱延鋼板であって、
前記化学組成は、質量%で、
Mg:0.0010~0.0050%、及び、
希土類元素:0.0010~0.0100%、からなる群から選択される1種以上を含有する、ラインパイプ用熱延鋼板。
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