JP7203979B2 - エネルギー変換フィルム、エネルギー変換素子及びエネルギー変換フィルムの製造方法 - Google Patents
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Description
一方で、長期保管時の接着剤、アンカー剤等の電極又は多孔性樹脂フィルムへの影響を考慮して、接着剤、アンカー剤等を用いずに多孔性樹脂フィルム上に電極を設ける方法が検討されていた。しかし、通常金属が用いられる電極と樹脂フィルムとの高い密着性を長期間維持することが難しかった。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) 0.8≦S1/S0≦1.0
(2) 2.0≦S0
〔式中、S0は、洗浄処理(A)を施す前の酸素原子濃度(atm%)を表す。S1は、洗浄処理(A)を施した後の酸素原子濃度(atm%)を表す。酸素原子濃度は、XPS(X線電子光分光法)で測定した酸素原子数と炭素原子数と窒素原子数の合計に対する酸素原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数+窒素原子数))である。洗浄処理(A)とは、蒸留水による洗浄処理をいう。〕
前記〔1〕に記載のエネルギー変換フィルム。
前記〔1〕又は〔2〕に記載のエネルギー変換フィルム。
前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のエネルギー変換フィルム。
前記エネルギー変換フィルムの少なくとも一方の表面に設けられた電極と、を有するエネルギー変換素子。
前記酸化処理された表面に対し洗浄処理(B)を施す工程と、を含み、
前記洗浄処理(B)後の表面が下記式(1)及び式(2)を満たす、エネルギー変換フィルムの製造方法。
(1) 0.8≦S1/S0≦1.0
(2) 2.0≦S0
〔式中、S0は、洗浄処理(A)を施す前の酸素原子濃度(atm%)を表す。S1は、洗浄処理(A)を施した後の酸素原子濃度(atm%)を表す。酸素原子濃度は、XPS(X線電子光分光法)で測定した酸素原子数と炭素原子数と窒素原子数の合計に対する酸素原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数+窒素原子数))である。洗浄処理(A)とは、蒸留水による洗浄処理をいう。〕
前記〔6〕に記載のエネルギー変換フィルムの製造方法。
前記〔6〕又は〔7〕に記載のエネルギー変換フィルムの製造方法。
本発明のエネルギー変換フィルムは、多孔性樹脂フィルムであって、少なくとも一方の表面が下記式(1)及び(2)を満たす。
(1) 0.8≦S1/S0≦1.0
(2) 2.0≦S0
〔式中、S0は、洗浄処理(A)を施す前の酸素原子濃度(atm%)を表す。S1は、洗浄処理(A)を施した後の酸素原子濃度(atm%)を表す。酸素原子濃度は、X線電子光分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)で測定した酸素原子数と炭素原子数と窒素原子数の合計に対する酸素原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数+窒素原子数))である。洗浄処理(A)とは、蒸留水による洗浄処理をいう。〕
上記XPSにより測定する酸素原子濃度S0及びS1は、O1s及びC1s等のそれぞれのピーク強度面積に各ピークの相対感度を乗算した値の比から求めることができる。(例えば、筏 義人編、「高分子の表面の基礎と応用(上)」、化学同人発行、1986年、第4章 参照)。
ここで「洗浄処理(A)」とは、多孔性樹脂フィルム表面に存在する酸素原子含有異物の量を測定するための操作である。洗浄処理(A)に使用する「蒸留水」とは、摂氏25℃における導電率が1.0μS/cm以下であり、不純物がほとんど含まれていない水である。製造法としては、イオン交換水を蒸留器で蒸留する手法が挙げられ、純度を上げるため複数回蒸留を繰り返してもよい。蒸留水としては、市販品を使用することができ、大塚注射用蒸留水(商品名、大塚製薬工業社)、蒸留水(商品名、和光純薬工業社)等が挙げられる。
本発明に係る多孔性樹脂フィルムは、少なくとも1層の多孔性樹脂層を含む層であり、該多孔性樹脂層は熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物をフィルム成形することにより得られる。多孔性樹脂フィルムは、以下に述べる多孔性樹脂層のみの単層構造であってもよいし、当該多孔性樹脂層を少なくとも1層有する多層構造であってもよい。単層構造の場合、多孔性樹脂層の両側の表面のうち少なくとも一方が式(1)及び式(2)を満たす。多層構造の場合、両側の最外層のうち、少なくとも一方の最外層の表面が式(1)及び式(2)を満たす。
多孔性樹脂フィルムは、目的の空孔の形成が容易である点から、空孔形成剤をさらに含有する延伸フィルムであることが好ましい。
多孔性樹脂フィルム中(より具体的には多孔性樹脂層中)の空孔の形状及びサイズは、要求性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
なお、多孔性樹脂フィルム内部の個々の空孔には、単板型コンデンサのように、その相対する内面に異なる電荷が対で保持されると考えられる。したがって、単板型コンデンサと同様に内部に電荷を蓄積するには、多孔性樹脂フィルムの空孔が一定以上の面積と高さを有することが好ましい。空孔の面積が一定以上であれば、十分な静電容量が得られ性能の優れたエレクトレットが得られやすい。また、空孔の高さ(距離)が一定以上であれば、空孔内部での放電(短絡)を抑え、電荷を蓄積しやすい。ここで空孔の「面積」とは、多孔性樹脂層の表面と並行な断面における空孔面積の最大値を意味する。空孔の「高さ」とは、多孔性樹脂層の厚み方向における空孔径の最大値を意味する。これらの点からは、多孔性樹脂フィルム内部の個々の空孔のサイズ(面積)は大きいほど有効に機能するといえるが、隣接する空孔同士が連通して発生する放電(短絡)を減らし、蓄積される電荷を増やす観点からは、空孔のサイズは一定以下にすることが好ましい。また、空孔の高さ(距離)が一定以下であれば、電荷が分極しやすく、帯電安定性に優れたエレクトレットが得られやすい。
多孔性樹脂フィルムの空孔率は、要求性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、20~80%であることが好ましい。このような空孔率は上記の有効な空孔の数と相関がある。なお、多孔性樹脂フィルムの空孔率とは、同フィルムの全体積に対して同フィルム中の空孔が占める体積の割合(体積率)を意味する。多孔性樹脂フィルムの空孔率は、空孔が同フィルム全体に均一に分布している前提で、同フィルムの厚み方向の断面において、空孔が占める面積の割合(面積率)と等しい。
上述のように、多孔性樹脂層は、熱可塑性樹脂を含有するが、空孔の形成性の観点からは空孔形成剤を含有することが好ましく、帯電性及び耐熱性の向上の観点からは、金属石鹸を含有することが好ましい。
熱可塑性樹脂は、多孔性樹脂層のマトリクス樹脂であり、圧電効果及び圧縮回復性を付与する。
エネルギー変換フィルムの熱可塑性樹脂としては、電気を通しにくい絶縁性の高分子材料を、好ましく使用できる。そのような熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、又は4-メチル-1-ペンテン(共)重合体等のポリオレフィン系樹脂;
エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体(アルキル基の炭素数は1~8であることが好ましい)、マレイン酸変性ポリエチレン、又はマレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有オレフィン系樹脂;
芳香族ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、又は脂肪族ポリエステル(ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等)等のポリエステル系樹脂;
ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-6,10、又はナイロン-6,12等のポリアミド系樹脂;
シンジオタクティックポリスチレン、アタクティックポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン(AS)共重合体、スチレン-ブタジエン(SBR)共重合体、又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合体等のスチレン系樹脂 ;
ポリ塩化ビニル樹脂;
ポリカーボネート樹脂;
ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば結晶性ポリプロピレン、低結晶性ポリプロピレン、非晶性ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体(ランダム共重合体又はブロック共重合体)、プロピレン・α-オレフィン共重合体、又はプロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体等)等が挙げられる。
なお前記α-オレフィンとしては、エチレン及びプロピレンと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、又は1-オクテン等を挙げることができる。
これら熱可塑性樹脂のなかでも、絶縁性と加工性に優れるポリオレフィン系樹脂又は官能基含有オレフィン系樹脂が好ましい。
また、上述したポリオレフィン系樹脂のなかでも、ポリプロピレン系樹脂が、絶縁性、加工性、耐水性、耐薬品性、又はコスト等の観点から特に好ましい。ポリプロピレン系樹脂には、フィルム成形性の観点からプロピレン単独重合体よりも融点が低い樹脂を、熱可塑性樹脂全量に対して2~25質量%配合して使用することが好ましい。そのような融点が低い樹脂としてはポリエチレン系樹脂が挙げられ、なかでも高密度、中密度又は低密度のポリエチレンが好ましい。
空孔形成剤としては、発泡剤及びフィラーが挙げられ、フィラーとしては無機フィラー及び有機フィラーが挙げられる。
空孔形成剤として発泡剤を使用する場合、例えば多孔性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂と熱分解型発泡剤を含む樹脂組成物を溶融混錬し、その後フィルム状に押出成形して発泡性樹脂フィルムを得て、これを熱分解型発泡剤の分解温度以上に加熱して発泡させることにより多孔性樹脂層を得ることができる。
空孔形成剤としてフィラーを使用する場合、これを含有するフィルム(層)の延伸により、フィルムの内部にフィラーを始点(核)とした多数の空孔を形成することが容易となる。フィラーの含有量又は延伸条件を制御することによって、空孔のサイズ又は頻度を制御することが可能であり、また、フィラーの粒子径又は延伸条件を制御することによって、空孔のサイズ(高さ及び径)を制御することが可能である。また、空孔形成後もフィラーが空孔の中で支柱として機能し得るため、空孔が潰れにくい。得られるエレクトレットにおいては、繰り返し圧縮力を作用させても十分な圧縮回復性が発現されやすく、さらには圧電性能の安定化(ピラー効果)が期待できる。
発泡剤の例としては、前述のように熱分解型発泡剤を挙げることができ、具体的には例えば、アゾジカルボンアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4,4-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等が挙げられる。
空孔形成剤のなかでも、無機フィラーは、低コストで粒子径が異なる多数の製品が商業的に入手可能な点で好ましい。使用可能な無機フィラーの具体例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレー、シリカ、けいそう土、白土、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナ、ゼオライト、マイカ、セリサイト、ベントナイト、セピオライト、バーミキュライト、ドロマイト、ワラストナイト、又はガラスファイバー等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なかでも、空孔形成性及びコストの観点から、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム又は酸化チタンが好ましく、重質炭酸カルシウムがより好ましい。これらの無機フィラーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
空孔形成剤のなかでも、有機フィラーは粒子径の整った球状の粒子として入手可能であり、多孔性樹脂層中に形成される空孔もサイズや形状が均一になりやすい。
エネルギー変換フィルムの電荷保持性能をより高め、高温環境下で保管又は使用されても圧電性能の低下を抑える観点からは、多孔性樹脂層は金属石鹸を含有することが好ましい。
多孔性樹脂層は、必要に応じて分散剤、熱安定剤(酸化防止剤)、又は光安定剤等の添加剤を含有することができる。
本来、熱安定剤の融点は、電荷保持性能の観点から高い方が好ましいが、多孔性樹脂層中に熱安定剤を均一に分散させる観点からは、熱安定剤の融点は低い方が好ましい。したがって、熱安定剤の融点は、金属石鹸と同様の温度範囲の融点を有することが好ましい。
エネルギー変換フィルムは、上記組成を有する多孔性樹脂層のみの単層構造であってもよいし、当該多孔性樹脂層を少なくとも1層有する多層構造であってもよい。エネルギー変換性能を高める観点からは、多孔性樹脂フィルムは、少なくともコア層とスキン層を有する多層構造の積層体であることが好ましく、スキン層/コア層/スキン層の3層構造であることがより好ましい。
多層構造の場合、最外層の表面が式(1)及び式(2)を満たす。例えば、スキン層/コア層/スキン層の場合、最外層のスキン層の表面が式(1)及び式(2)を満たす。
図1に示すように、エネルギー変換フィルム1は、コア層2と、コア層2の一方の表面に設けられたスキン層3とを備える。エネルギー変換フィルム1は、必要に応じてコア層2のもう一方の表面にもスキン層4を備えることができる。スキン層3の表面3aだけでなく、スキン層4の表面4aも式(1)及び(2)を満たす場合、各表面3a及び4aに設けられた電極との密着性が向上する。
コア層及びスキン層の多層構造は、コア層として上述した多孔性樹脂層を用い、このコア層の表面にスキン層を設けることで形成することができる。
スキン層は、コア層を保護する観点から、コア層(多孔性樹脂層)の少なくとも一方の表面上に積層されることが好ましく、コア層の両面上に積層されることがより好ましい。スキン層がコア層の表面を覆うことにより、コア層中の空孔が外部と通じて内部に蓄えた電荷が大気放電することを抑えられる。また、フィルムの表面強度を向上させることができ、表面を平滑にすることで電極との接着性が向上しやすい。
なお、スキン層の物理的強度を向上し、コア層の耐久性を向上させるという観点からは、スキン層は、空孔形成剤を含有しないことが好ましい。
コア層の厚みは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましく、40μm以上であることが特に好ましい。コア層の厚みを上記下限値以上とすることにより、エネルギー変換に有効に機能する内部電荷の蓄積に必要な容積を確保しやすい。特に多孔性樹脂層の内部電荷の蓄積に適切な大きさの空孔を所望の数量で均一に形成しやすい。一方、コア層の厚みは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましく、120μm以下であることが特に好ましい。コア層の厚みを上記上限値以下とすることにより、後述するエレクトレット処理の際に、層内部まで電荷を到達させることが可能となり、本発明のエネルギー変換フィルムが所期の性能を発揮しやすい。
また、多層構造のフィルムを構成する各層の厚みは次のように測定する。測定対象試料を液体窒素にて-60℃以下の温度に冷却し、ガラス板上に置いた試料に対してカミソリ刃を直角に当て切断し断面測定用の試料を作製する。得られた試料の断面観察を走査型電子顕微鏡により行い、空孔形状及び組成外観から各層の境界線を判別して、観察像から求められる各層厚みがフィルムの総厚みに占める割合を決定する。厚み計を用いて求めた上記フィルム総厚みに、各層厚みの上記割合を乗じて算出した値を各層の厚みとする。
エネルギー変換フィルムは絶縁性であることが好ましく、少なくとも一方の表面の表面抵抗率が1×1013Ω/□以上であることが好ましく、5×1013Ω/□以上であることがより好ましい。表面抵抗率を上記下限値以上とすることにより、エレクトレット化処理を施す際に、注入した電荷が表面を伝って逃げにくく、効率的な電荷注入を行いやすい。一方、エネルギー変換フィルムの少なくとも一方の表面の表面抵抗率が、9×1017Ω/□以下であることが好ましく、5×1016Ω/□以下であることがより好ましい。表面抵抗率を上記上限値以下とすることにより、ゴミや埃の異物の付着を防止することができる。また、エレクトレット化処理の際に異物を伝って局所放電が発生し、エレクトレット化処理を阻害することを抑制しやすい。
(3) Kf=RS×π×(D+d)/(D-d)
Kf:表面抵抗率(Ω/□)
RS:表面抵抗(Ω)
π :円周率
d :表面電極の内円の外径(cm)
D :表面の環状電極の内径(cm)
本発明のエネルギー変換フィルムは、多孔性樹脂フィルムを形成し、当該多孔性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面を酸化処理した後、洗浄処理(B)を施すことで製造することができる。得られたエネルギー変換フィルムにエレクトレット化処理を施すことで、エネルギー変換性能を有するエネルギー変換フィルムを提供できる。
酸化処理は、多孔性樹脂フィルムの一方の表面又は両面に行うことができる。多孔性樹脂層をコア層としてその表面にスキン層が設けられている場合は、酸化処理はスキン層の表面に行う。
この放電によって、通常絶縁状態の空間に存在する気体が電離される現象が起こる。この電離された気体を物質に作用させると、その表面がエネルギーを受け、表面エネルギーが高くなり、活性化された状態になる。例えば、プラスチック等に作用させると、表面に極性基が生成され、濡れ性や密着性が向上する。なお、誘電体バリア放電はときに、「大気圧プラズマ」、「コロナ放電」、等で表現される場合がある。
なお、フレーム処理を実施する場合の放電量は、好ましくは8,000J/m2以上であり、より好ましくは20,000J/m2以上である。同放電量は、好ましくは200,000J/m2以下であり、より好ましくは100,000J/m2以下である。
酸化処理された表面に対し洗浄処理(B)が施される。洗浄処理(B)に使用される洗浄溶媒は、洗浄によって除去したい低分子量の酸性化合物の溶解性の観点から、水又は水溶液が好ましく、例えば、水又は水溶液中に浸漬する等の洗浄処理が行われる。特にpH5~11の水又は水溶液により洗浄することが好ましい。中性、弱塩基性又は弱酸性の溶媒にて洗浄することにより、洗浄後の多孔性樹脂フィルム表面に酸や塩基が残留せず、これを用いて作製したエネルギー変換素子における電極の密着性が、長期間維持されるため好ましい。また、pH調整のために水溶液を酸性にする場合は炭酸又は過酸化水素を使用することが、塩基性にする場合はアンモニアを使用することが、残留物が生成し難い観点から好ましい。例えば水溶液のpH調整に強酸である塩酸、硝酸又は硫酸等を使用すると、これらが無機フィラーと反応して多孔性樹脂フィルム表面に無機塩を生じさせる可能性がある。またこれらの酸自体がフィルム表面に残留することにより、熱可塑性樹脂を劣化させる可能性がある。
洗浄処理(B)の後、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理の方法としては特に限定されず、熱風乾燥、赤外線乾燥等の公知の乾燥方法を使用することができる。
多孔性樹脂フィルムは加圧処理によって、内部の空孔をさらに膨張させることが可能である。加圧処理は多孔性樹脂フィルムを圧力容器に入れて、容器内を非反応性ガスで加圧することにより空孔内に非反応性ガスを浸透させた後、多孔性樹脂フィルムを非加圧下に解放することで行う。
加圧処理を施した多孔性樹脂フィルムは、その膨張効果を維持する観点から、加熱処理を施すことが好ましい。加圧処理を行い非加圧下に解放することにより多孔性樹脂フィルムは膨張する。しかしながら、そのまま放置すると、空孔内に浸透した非反応性ガスが次第に抜けてしまい、多孔性樹脂フィルムは元の厚みに戻ってしまう場合がある。そこで、膨張した多孔性樹脂フィルムに加熱処理を行って熱可塑性樹脂の結晶化を促進することにより、空孔内部が大気圧に下がった後でも、その膨張効果を維持させることが望ましい。
エレクトレット化処理は、エネルギー変換フィルムに対し、電荷を注入する処理である。エレクトレット化処理としては、いくつかの処理方法が挙げられる。例えば、フィルムの両面を導電体で保持し、直流高電圧又はパルス状高電圧を加えるエレクトロエレクトレット化法方法や、フィルムにγ線や電子線を照射してエレクトレット化するラジオエレクトレット化法等が公知である。
本発明のエネルギー変換素子は、上述したエネルギー変換フィルムと、当該エネルギー変換フィルムの少なくとも一方の表面に設けられた電極とを備える。上述したエネルギー変換フィルムを用いることにより、経時による電極との密着性の低下を抑えて、エネルギー変換性能が長期間安定したエネルギー変換素子を提供できる。本発明のエネルギー変換素子は、電力又は電気信号の入出力を行うが、この入出力をより効率的に行う観点からは、通常、エネルギー変換フィルムの両面に1対の電極が設けられることが好ましい。
図4に示すように、エネルギー変換素子5は、エネルギー変換フィルム1と、その一方の表面に電極6とを備える。エネルギー変換素子5は、エネルギー変換フィルム1のもう一方の表面に電極7を備えることができる。1対の電極6及び7は、エネルギー変換フィルム1の表面、すなわちスキン層3の表面3aとスキン層4の表面4a上に設けられる。この表面3a及び4aは、式(1)及び式(2)を満たす。
電極としては、金属粒子、導電性金属酸化物粒子、カーボン系粒子、又は導電性樹脂等の公知の導電性材料によって形成された薄膜が挙げられる。また、電極としては、導電性塗料の印刷又は塗工による塗膜、金属蒸着膜等が挙げられる。
電極の表面抵抗率は、電力の入出力を容易に行う趣旨から、1×10-3Ω/□以上であることが好ましく、1×10-1以上が好ましい。1×10-3Ω/□以上の電極を設ける場合であって、電極を塗工で設ける場合は、電極を厚く設ける必要がなく、塗工した後の乾燥、焼結時の熱によって多孔性樹脂フィルムの空孔が潰れたり、多孔性樹脂フィルムが熱収縮したりする変形を抑えることができる。また、電極を金属蒸着で設ける場合も、蒸着される金属の熱によるフィルム変形を抑えることができる。一方、電極の表面抵抗率は、9×107Ω/□以下であることが好ましく、9×104Ω/□以下がより好ましい。電極の抵抗値が9×107Ω/□以下であれば、電気信号の伝達効率が高く、電気及び電子入出力装置用材料としての性能が上昇する傾向にある。
(4) Ke=F×R
Ke:表面抵抗率(Ω/□)
F :補正係数(JIS K7194に記載)
R :抵抗値(Ω)
本発明のエネルギー変換フィルム及びエネルギー変換素子は、多孔性樹脂フィルムを用いているため、電気-機械エネルギー変換用材料として従来から汎用されている半導体材料等とは異なり、比較的に低コストであり、例えばフィルムの平面視で10~50,000cm2程度の大面積化も容易である。大面積のエネルギー変換フィルム及びエネルギー変換素子を構成する場合、その平面視面積は、所望する性能や設置箇所の物理的な制約等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、20~30,000cm2が好ましく、50~25,000cm2がより好ましい。
エネルギー変換素子は、衝撃により発生する発生電圧が、エネルギー変換素子の実用性能面の観点から、150mV以上であることが好ましく、200mV以上であることがより好ましく、300mV以上であることがさらに好ましく、4000mV以上であることが特に好ましい。上限値は特に限定されないが、5000mV以下であることが好ましく、3000mV以下であることがより好ましく、2000mV以上であることがさらに好ましく、10000mV以下であることが特に好ましい。
プロピレン単独重合体(日本ポリプロ株式会社製、商品名:ノバテックPP FY6Q、MFR(230℃、2.16kg荷重):2.4g/10分、融点:164℃、密度:0.91g/cm3)96.9質量部、立体障害フェノール系安定剤(製品名:IRGANOX 1010、BASF社製、融点:110~125℃)0.05質量部、リン系安定剤(製品名:IRGAFOS 168、BASF社製、融点:183~186℃)0.05質量部、重質炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社製、商品名:BF100、平均粒径10.1μm(メディアン径D50)、密度:2.7g/cm3)3質量部を混合し、210℃に設定した二軸混練機にて溶融混練した。次いで、230℃に設定した押出機にてストランド状に押し出し、冷却後にストランドカッターにて切断して、樹脂組成物aのペレットを作製した。
プロピレン単独重合体(日本ポリプロ株式会社製、商品名:ノバテックPP FY6Q、MFR(230℃、2.16kg荷重):2.4g/10分、融点:164℃、密度:0.91g/cm3)71.7質量部、高密度ポリエチレン(商品名:ノバテックHD HJ360、日本ポリエチレン社製、MFR(230℃、2.16kg荷重):5.5g/10分、融点:131℃、密度:0.95g/cm3)10質量部、金属石鹸としてオクタデカン酸ジヒドロキシアルミニウム(和光純薬工業社製、試薬、融点:172℃)0.2質量部、立体障害フェノール系安定剤(製品名:IRGANOX 1010、BASF社製、融点:110~125℃)0.05質量部、リン系安定剤(製品名:IRGAFOS 168、BASF社製、融点:183~186℃)0.05質量部、重質炭酸カルシウム(備北粉化工業株式会社製、商品名:BF100、平均粒径10.1μm(メディアン径D50)、密度:2.7g/cm3)18質量部を混合し、210℃に設定した二軸混練機にて溶融混練した。次いで、230℃に設定した押出機にてストランド状に押し出し、冷却後にストランドカッターにて切断して、樹脂組成物cのペレットを作製した。
スキン層用の樹脂組成物a及びコア層用の樹脂組成物cを、230℃に設定した3台の押出機にてそれぞれ溶融混練した。その後、250℃に設定したフィードブロック式多層ダイスに供給して、a/c/aの積層順にダイス内で積層してシート状に押し出した。これを冷却装置により60℃まで冷却して、3層構成の無延伸シートを得た。
上記多孔性樹脂フィルムの両面に下記処理条件で酸化処理を施した。
<酸化処理条件>
方式:誘電体バリア放電処理
環境:大気圧下の空気中
出力:90(W・分/m2)
実施例1において、酸化処理の処理条件を大気圧下の窒素中とし、出力を150(W・分/m2)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2のエネルギー変換フィルムを得た。
実施例1において、洗浄処理(B)と乾燥処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のエネルギー変換フィルムを得た。
各実施例及び比較例のエネルギー変換フィルムの製造直後に、下記評価を行った。
XPSによりエネルギー変換フィルムの表面の酸素原子濃度O(S0)atm%(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数+窒素原子数))、炭素原子濃度Catm%(炭素原子数/(酸素原子数+炭素原子数+窒素原子数))及び窒素原子濃度Natm%(窒素原子数/(酸素原子数+炭素原子数+窒素原子数))を測定した。
その後、蒸留水を満たした容器にエネルギー変換フィルムを30秒間浸漬することによって、測定する表面に洗浄処理(A)を施した。70℃の熱風にて乾燥した後、洗浄処理(A)後の表面の酸素原子濃度O(S1)atm%、炭素原子濃度Catm%及び窒素原子濃度Natm%をXPSで測定した。
XPSによる原子濃度の測定は、以下の装置、測定条件で行い、O1s、C1s及びN1sのそれぞれのピーク強度面積に各ピークの相対感度を乗算した値の比から求めた。
・装置:Thermo Fisher社製 K-Alpha
・励起X線:Monochromatic Al Kα1、2線
・X線出力:200W
・X線径:400μm
・光電子脱出角度(試料表面に対する検出器の傾き):90°
各実施例及び比較例のエネルギー変換フィルムを用いてエネルギー変換素子を製造し、エネルギー変換素子の発電性能と電極の密着性を評価した。
厚みが12μmのPETフィルム(商品名:E5200、東洋紡社製)に、ロールトゥロール方式の真空蒸着装置を用いて、1×10-2Paの真空条件で、蒸着膜の厚みが30nmになるようにアルミニウム蒸着を行い、蒸着面の表面抵抗率が1Ω/□の金属蒸着フィルムを作製した。一方、ポリエステル系接着剤(商品名:ADCOTE AD502、東洋モートン社製、固形分濃度50質量%)と、ポリイソシアネート(商品名:CAT-10L、東洋モートン社製、固形分濃度52.5質量%)と、酢酸エチルとを質量比15:1.5:25で混合し、接着剤塗料を作製した。
エネルギー変換素子の、通常使用による劣化後の性能を評価するため、以降の評価に先立ち摩擦処理を行った。
実施例および比較例にて得られたエネルギー変換素子を厚み50μmのPETフィルムに挟み、学振試験機で500gの追加荷重を載せて、30往復/minの速度で43200往復の摩擦負荷を加えた。
図5に示す落球試験装置を用いて、温度23℃、相対湿度50%環境下で発生電圧を測定した。まず、縦20mm×横200mmの試料20(エネルギー変換素子5)の表裏面の電極に、導電性テープ(商品名:AL-25BT、住友スリーエム社製)を使用してリード線17及び18の一端をそれぞれ貼り付け、リード線17及び18の他端を高速レコーダー19(商品名:GR-7000、キーエンス社製)に接続した。
エネルギー変換素子の電極部分のみにエポキシ系接着剤(セメダイン株式会社製、商品名:ハイスーパー30、2液混合型)を塗り、幅20mm長さ200mmの厚み50μmのPETフィルムを、エネルギー変換素子と重なり合う向きに貼り付けて剥離強度測定用サンプルを作成した。恒温室(温度23℃、相対湿度50%)に12時間以上保管した後、島津制作所製引張試験機(AUTOGRAPH)のクランプにエネルギー変換フィルムの端部とPETフィルムの端部を各々取り付けた。次いで、エネルギー変換フィルムに対して180°の角度で、引張速度50mm/分でPETフィルムを引っ張り、電極部分(金属蒸着フィルム)をエネルギー変換フィルムから剥離させた。安定している時の応力をロードセルにより測定して剥離力とした。
〇:剥離力が200g/cm以上か又はエネルギー変換フィルムが破れ、密着性が非常に良好
△:剥離力が50g/cm以上200g/cm未満であり、密着性は良好
×:剥離力が50g/cm未満であり、密着性は不良
各実施例及び比較例のエネルギー変換フィルムを製造から1年間、常温室温にて保管し、1年経過後のエネルギー変換フィルムを得た。この1年経過後のエネルギー変換フィルムを使用して上述のようにエネルギー変換素子を製造し、製造から1年経過後のエネルギー変換素子とした。この製造から1年経過後のエネルギー変換素子について、上記原子濃度、発生電圧及び電極との密着性の評価を行った。
Claims (7)
- ポリオレフィン系樹脂を含有する多孔性樹脂フィルムであって、少なくとも一方の表面が下記式(1)及び式(2)を満たす、エネルギー変換フィルム。
(1) 0.8≦S1/S0≦1.0
(2) 2.0≦S0
〔式中、S0は、洗浄処理(A)を施す前の酸素原子濃度(atm%)を表す。S1は、洗浄処理(A)を施した後の酸素原子濃度(atm%)を表す。酸素原子濃度は、XPS(X線電子光分光法)で測定した酸素原子数と炭素原子数と窒素原子数の合計に対する酸素原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数+窒素原子数))である。洗浄処理(A)とは、蒸留水による洗浄処理をいう。〕 - 前記多孔性樹脂フィルムが、厚み方向の高さが3~30μmであり、かつ面方向の径が50~500μmである空孔を、100個/mm2以上有する、
請求項1に記載のエネルギー変換フィルム。 - 前記多孔性樹脂フィルムは、少なくとも1層の多孔性樹脂層を含む多層構造を有し、最外層の表面が前記式(1)及び式(2)を満たす、
請求項1又は2に記載のエネルギー変換フィルム。 - 請求項1~3のいずれか一項に記載のエネルギー変換フィルムと、
前記エネルギー変換フィルムの少なくとも一方の表面に設けられた電極と、を有するエネルギー変換素子。 - 多孔性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面を酸化処理する工程と、
前記酸化処理された表面に対し洗浄処理(B)を施す工程と、を含み、
前記洗浄処理(B)後の表面が下記式(1)及び式(2)を満たす、エネルギー変換フィルムの製造方法。
(1) 0.8≦S1/S0≦1.0
(2) 2.0≦S0
〔式中、S0は、洗浄処理(A)を施す前の酸素原子濃度(atm%)を表す。S1は、洗浄処理(A)を施した後の酸素原子濃度(atm%)を表す。酸素原子濃度は、XPS(X線電子光分光法)で測定した酸素原子数と炭素原子数と窒素原子数の合計に対する酸素原子数の割合(酸素原子数/(酸素原子数+炭素原子数+窒素原子数))である。洗浄処理(A)とは、蒸留水による洗浄処理をいう。〕 - 前記酸化処理が、誘電体バリア放電処理である、
請求項5に記載のエネルギー変換フィルムの製造方法。 - 前記洗浄処理(B)は、pH5~11の水又は水溶液を用いて水洗する処理を含む、
請求項5又は6に記載のエネルギー変換フィルムの製造方法。
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