JP6771591B2 - エネルギー変換フィルム、及びこれを用いたエネルギー変換素子 - Google Patents

エネルギー変換フィルム、及びこれを用いたエネルギー変換素子 Download PDF

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Description

本発明は、振動や圧力変化等の機械エネルギーを電気エネルギーに変換する電気−機械エネルギー変換、赤外線や温度変化等の熱エネルギーを電気エネルギーに変換する電気−熱エネルギー変換、機械エネルギーを熱エネルギーに変換する機械−熱エネルギー変換等に利用できるエネルギー変換フィルム、及びこれを用いたエネルギー変換素子に関する。本発明のエネルギー変換フィルムは、耐熱性に優れ、且つ電気−機械エネルギー変換性能に優れたエレクトレットである。
エレクトレットとは、外部に電界が存在しない状態でも内部に半永久的に電気分極を保持して外部に対して電界を形成する(電気力を及ぼす)素材であって、本来電気を通しにくい高分子材料や無機質材料等を熱的・電気的に処理することで、その材料の一部を半永久的に分極した(巨視的には静電気を帯びさせた、電荷を保持した)ものを指す。
従来から高分子材料よりなるエレクトレットは、その使用態様に応じて、フィルム、シート、繊維、織布、不織布等の様々な形態で用いられている。特に高分子材料よりなるエレクトレットを成形加工してなるエレクトレットフィルターは、電界により微小な埃やアレルゲン等を効率的に吸着するエアーフィルター等の用途に広く使用されてきた。また高分子材料よりなるエレクトレットは、スピーカー、ヘッドフォン、マイクロフォン、超音波センサー、圧力センサー、加速度センサー、振動制御装置等の電気−機械エネルギー変換用の材料として各種用途への利用が広がってきている。
また、多孔質樹脂フィルムを用いたエレクトレットは、圧電効果を示すことが知られており、音の検出、音の発生、振動測定、振動制御等に使用することができる。例えば、発泡可能な熱可塑性樹脂をフィルム状に押し出すと同時に発泡させることにより多数の内部空孔を有する多孔質構造のフィルムを得、続いて同フィルムを二次元に延伸してなる発泡フィルムが提案されている(特許文献1)。
ところが、このような発泡フィルムは、経時的に或いは減圧下に曝されたりすると、次第に内部空孔からガスが抜けて萎んでしまうために、一定の空孔形状、発泡倍率、空孔率を保つことが困難である。そこで特許文献1には、発泡フィルムが膨張している段階で加熱処理を施して、熱可塑性樹脂の結晶化を促して形状固定化する方法が開示されている。しかしながら、前記加熱処理を熱可塑性樹脂の相転移温度又はガラス転移温度より高い温度で行うと、熱可塑性樹脂の気体透過性が上がるため、発泡フィルムの内部空孔からガスが抜けやすくなり、結果的に圧電性能が低下してしまう欠点がある。
一方、本発明者らは高いエネルギー変換性能を持つ圧電材料として、熱可塑性樹脂と特定の体積平均粒径を有する無機微細粉末又は有機フィラーを使用して一定の空孔サイズを有するエネルギー変換用フィルムを提案している(特許文献2、特許文献3)。
しかしながら、これらの従来のエネルギー変換用フィルムを、例えば車のエンジンルームのような高温環境下で使用する場合は、同フィルムに用いる熱可塑性樹脂の相転移温度又はガラス転移温度よりも高温に晒される可能性がある。このような高温環境下で、従来のエネルギー変換用フィルムを長期間保管や使用する場合は、電荷の保持性能が低下し、圧電性能が低下してしまう欠点があった。
これに対して、特定のアジン誘導体又は4級アンモニウム塩化合物等の正帯電性荷電制御剤と、特定のサリチル酸誘導体金属塩又はアゾクロム系化合物等の負帯電性荷電制御剤とを併用するエレクトレットシートが開示されている(特許文献4)。特許文献4のエレクトレットシートによれば、添加剤として上述した荷電制御剤を樹脂フィルムに含有することにより、高温条件下でも優れた圧電性能を維持することが可能になるとされている。
特開昭61−148044号公報 特開2011−084735号公報 特開2011−086924号公報 特開2014−074104号公報
本発明者らは、特許文献4の技術についてエネルギー変換フィルム及びエネルギー変換素子への応用検討を図った。しかしながら、特許文献4に記載の荷電制御剤は耐熱性が不十分であり、この荷電制御剤を用いたエネルギー変換フィルム及びエネルギー変換素子は、高温環境下での圧電性能が依然として十分とはいえないことが判明した。したがって、高温環境下での圧電性能を高めるにあたり、エネルギー変換フィルムに用いられる添加剤として、帯電性を増補するとともに耐熱性を兼ね備えるものが求められている。
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものである。その目的は、高温環境下に曝されても、電荷の保持性能に優れ、圧電性能の低下が抑制された、エネルギー変換フィルム及びこれを用いたエネルギー変換素子等を提供することにある。
なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のエネルギー変換フィルムが、高温環境下に曝されても電荷の保持性能に優れ、これを用いたエネルギー変換素子は圧電性能の低下が抑制されたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
[1]熱可塑性樹脂及び金属石鹸を少なくとも含む樹脂フィルムよりなる帯電樹脂フィルムを少なくとも備えるエネルギー変換フィルムと、前記エネルギー変換フィルムの少なくとも一方の面に設けられた電極とを備えることを特徴とする、エネルギー変換素子。
[2]前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂を含み、前記金属石鹸が50℃〜220℃に融点を有することを特徴とする[1]に記載のエネルギー変換素子。
[3]前記金属石鹸が、炭素数5〜30の脂肪酸と金属との塩であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のエネルギー変換素子。
[4]前記金属石鹸が、脂肪酸と周期表の第2族から第13族に属する金属との塩であることを特徴とする[1]〜[3]の何れか一項に記載のエネルギー変換素子。
[5]前記金属が、亜鉛、カルシウム、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする[3]又は[4]に記載のエネルギー変換素子。
[6]前記樹脂フィルムが、内部に空孔を有する多孔質樹脂フィルムであることを特徴とする[1]〜[5]の何れか一項に記載のエネルギー変換素子。
[7]前記エネルギー変換フィルムが、直流コロナ放電処理により前記樹脂フィルムに電荷が注入された帯電樹脂フィルムを少なくとも備えることを特徴とする[1]〜[6]の何れか一項に記載のエネルギー変換素子。
[8]前記電極が、1×10−3Ω/□〜9×10Ω/□の表面抵抗率を有することを特徴とする[1]〜[7]の何れか一項に記載のエネルギー変換素子。
[9]前記エネルギー変換素子を85℃で14日間の熱処理した後に、温度23℃、相対湿度50%環境下で、水平面上に静置した上に、垂直方向8mmの高さから直径9.5mm、質量3.5gの鉄球を自然落下させたときの衝撃により発生する最大電圧が、5mV以上であることを特徴とする[1]〜[8]の何れか一項に記載のエネルギー変換素子。
[10]熱可塑性樹脂及び金属石鹸を少なくとも含む樹脂フィルムよりなる帯電樹脂フィルムを少なくとも備えることを特徴とする、エネルギー変換フィルム。ここで、このエネルギー変換フィルムは、上記[2]〜[9]の技術的特徴の少なくとも1以上をさらに備えるものが好ましい。
本発明のエネルギー変換フィルム及びこれを用いたエネルギー変換素子は、フィルム内部に金属石鹸を有することで電荷の保持性能が高められており、高温環境下に曝されても圧電性能の低下が少ない。そのため、高温環境下で使用や保管される可能性がある、スピーカー、ヘッドフォン、超音波振動子、超音波モーター、振動制御装置、マイクロフォン、超音波センサー、圧力センサー、加速度センサー、歪センサー、疲労・亀裂センサー、医療センサー、計測器、制御装置、異常診断システム、防犯装置、スタビライザー、ロボット、打楽器、遊技機、発電装置等において用いるモジュール部材として殊に有用である。
本発明のエネルギー変換フィルム1の一態様を示す概略断面図である。 本発明のエネルギー変換素子5の一態様を示す概略断面図である。 エレクトレット化装置の一例を示す模式図である。 本発明の試験例で使用した落球試験装置を示す模式図である。
以下、本発明の各実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。また、以降においては特に断らない限り、上下左右等の位置関係は、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。なお、本明細書において、例えば「1〜100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
本発明のエネルギー変換フィルムは、熱可塑性樹脂及び金属石鹸を少なくとも含む樹脂フィルムよりなる帯電樹脂フィルムを少なくとも備えている。ここで、帯電樹脂フィルムとは、前記樹脂フィルムに電荷が注入されたものである。すなわち、本発明におけるエネルギー変換フィルム及び帯電樹脂フィルムは、「帯電した」前記樹脂フィルムであって、意図して前記樹脂フィルムに電荷が注入されたものであり、前記樹脂フィルムに比して多量の電荷を帯びている。また、本発明のエネルギー変換素子は、このエネルギー変換フィルムの少なくとも一方の面に電極を設けたものである。以下、本発明のエネルギー変換フィルム及びこれを用いたエネルギー変換素子を構成する各部材や、その製造方法について詳述する。
図1及び図2に、本発明のエネルギー変換フィルム及びエネルギー変換素子の好適な実施態様を示す。エネルギー変換フィルム1は、熱可塑性樹脂及び金属石鹸を少なくとも含む樹脂フィルム2(コア層)に電荷が注入された帯電樹脂フィルムを備え、必要に応じて樹脂フィルム2の表裏両面にスキン層3,4(熱可塑性樹脂を少なくとも含む樹脂フィルム)が設けられるものである。また、エネルギー変換素子5は、かかるエネルギー変換フィルム1の少なくとも一方の面に電極6,7を設けることで構成されるものである。
[エネルギー変換フィルム]
本発明のエネルギー変換フィルム(帯電樹脂フィルム)は、熱可塑性樹脂と金属石鹸を含む樹脂フィルムに電荷を注入して帯電させることにより得ることができる。ここで、電荷注入される樹脂フィルムは、内部に多数の空孔(以降において、「内部空孔」とも称する。)を有する多孔質樹脂フィルムであることが好ましい。
なお、本発明のエネルギー変換フィルムに関し、本明細書では後述するエレクトレット化処理前のもの(帯電させていないもの)を、「樹脂フィルム」或いは「多孔質樹脂フィルム」と称し、エレクトレット化処理後のもの(帯電させたもの)を、「エネルギー変換フィルム」、「帯電樹脂フィルム」或いは「帯電多孔質樹脂フィルム」と称する。また、本発明のエネルギー変換フィルムにおいて、電気−機械エネルギー変換性能とは、機械エネルギー(運動エネルギー)を電気エネルギーに変換する能力のみならず、電気エネルギーを機械エネルギー(運動エネルギー)に変換する能力も含む。
[樹脂フィルム]
樹脂フィルムは、後述する熱可塑性樹脂と後述する金属石鹸とを少なくとも含む樹脂組成物を、後述する成形方法により薄膜状に成形したものである。樹脂フィルムは、内部に多数の空孔を有する多孔質樹脂フィルムであることが好ましい。また、樹脂フィルムは、コア層及びスキン層を含む多層樹脂フィルム(積層樹脂フィルム)であることが好ましい。
さらに、エネルギー変換素子を構成するために設けられる電極との密着性を向上するために、樹脂フィルムの表面に後述する表面処理を施してもよく、また、樹脂フィルムの表面にアンカーコート層を設けてもよい。アンカーコート層を備える場合のエネルギー変換素子は、エネルギー変換フィルム/アンカーコート層/電極の積層構造を有する。
[多孔質樹脂フィルム]
多孔質樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂と、金属石鹸とを少なくとも含み、好ましくは後述する空孔形成核剤をさらに含む樹脂組成物を、後述する成形方法により薄膜状に成形し、内部に多数の空孔を形成したものである。
多孔質樹脂フィルムは、コア層及びスキン層を備えた多層樹脂フィルムであることが好ましく、内部に空孔を有する延伸樹脂フィルムからなるコア層の少なくとも片面に延伸樹脂フィルムからなるスキン層を備えた多層樹脂フィルムであることがより好ましく、内部に空孔を有する延伸樹脂フィルムからなるコア層の両面に延伸樹脂フィルムからなるスキン層を備えた多層樹脂フィルムであることがさらに好ましい。また、多孔質樹脂フィルムは、加圧下で非反応性ガスを樹脂フィルム中に浸透させた後、非加圧下に開放してガス発泡させて空孔率を適度なものとし、次いで非加圧下で加熱処理を施して空孔を固定化したものであってもよい。
多孔質樹脂フィルムが上記のコア層の如く内部に空孔を有する延伸樹脂フィルムを含む場合、その延伸樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂、金属石鹸及び空孔形成核剤を少なくとも含有する熱可塑性樹脂シートを、熱可塑性樹脂の融点以下の温度条件下で延伸することにより内部に空孔を形成したものが好ましい。
多孔質樹脂フィルムには、内部に電荷を蓄積することに適した形状と、多孔質樹脂フィルムに高い圧縮回復性をもたらす形状とを併せもった空孔が形成され得る。
多孔質樹脂フィルムの空孔の形状やサイズ等は、要求性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。なお、エネルギー変換フィルムにおいて、多孔質樹脂フィルム内部の個々の空孔には、コンデンサの如く、その相対する内面に異なる電荷が対で保持されると考えられる。そのため多孔質樹脂フィルムの空孔は、その内部に電荷を蓄積するために、単板型コンデンサと同様に、一定以上の面積と高さが必要になる。一定以上の面積がなければ十分な静電容量が得られず性能の優れたエレクトレットを得難い。また、一定以上の高さ(距離)がなければ空孔内部で放電(短絡)が発生してしまい電荷を蓄積しづらい。その一方で、高さ(距離)が大きすぎては電荷の分極に不利であり、安定性に優れたエレクトレットを得難い。そのため、多孔質樹脂フィルム内部の個々の空孔のサイズ(面積)は大きいほど有効に機能するものと考えられた。しかしながら、空孔のサイズが過剰に大きいと、隣接する空孔同士が連通してしまい、隣接空孔間で放電(短絡)が発生して、却って電荷を蓄積しにくくなる。
これらの観点から、多孔質樹脂フィルムは、より多くの電荷を安定して蓄積する観点から、特定サイズの(電荷の蓄積に有効な)空孔を特定量有することが好ましく、詳しくは多孔質樹脂フィルムを任意の断面で観察をした場合の観察像上において、同フィルムの厚み方向に3〜30μmの高さを有し且つフィルムの面方向に50〜500μmの径を有する空孔を、100個/mm以上有することが好ましく、150個/mm以上有することがより好ましく、200個/mm以上有することがさらに好ましく、300個/mm以上有することが特に好ましい。一方、隣接する空孔同士の短絡抑制や基材強度等の観点から、同フィルムの厚み方向に3〜30μmの高さを有し且つフィルムの面方向に50〜500μmの径を有する空孔を、3,000個/mm以下有することが好ましく、2,500個/mm以下有することがより好ましく、2,000個/mm以下有することがさらに好ましく、1,500個/mm以下有することが特に好ましい。多孔質樹脂フィルム中に有効な空孔の数が増えるほど、電荷の蓄積能力が向上し、エネルギー変換効率が向上する傾向にあるが、フィルム中にある一定サイズの空孔の数が増えすぎると、隣接する空孔同士が連通して隣接空孔間で放電(短絡)が発生してしまう可能性が高まり、さらにはフィルム自体の強度が低下して圧縮等の外部応力に対する復元力が低下する傾向にある。そして、圧縮回復性の不足は、圧縮と復元を繰り返して行っているうちに復元率が低下する等の弊害を招くため、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する圧電素子として用いる場合には、製品寿命の短命化等の不都合が生じる恐れがある。そのため、これらのバランスを考慮して多孔質樹脂フィルムの空孔の形状やサイズ等を調整することが好ましい。
多孔質樹脂フィルムは、例えば、絶縁性に優れる高分子材料である熱可塑性樹脂に空孔形成核剤を含有させた樹脂組成物を溶融混練して、これをシート状にした後、これを熱可塑性樹脂のガラス転移点より高く且つ熱可塑性樹脂の融点よりも低い温度で延伸成形することにより、フィルム内部に空孔形成核剤を始点(核)とした空孔を形成することで、容易に得ることができる。
かかる多孔質樹脂フィルムの空孔率は、要求性能等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、20〜80%であることが好ましい。このような空孔率は上記の有効な空孔の数と相関がある。なお、多孔質樹脂フィルムの空孔率とは、同材料全体の全体積に対して同材料中の空孔が占める体積の割合(体積率)を意味する。多孔質樹脂フィルムの空孔率は、空孔が同材料全体に均一に分布している前提で、同材料の断面に対して空孔が占める面積の割合(面積率)と等しい。
そのため多孔質樹脂フィルムの空孔率は、同材料の断面を走査型電子顕微鏡により観察し、画像解析装置に観察画像を取り込み、同観察領域を画像解析することによって、断面上の空孔の面積率を算出して得られる値として得ることができる。具体的には、多孔質樹脂フィルム又はエネルギー変換フィルムからガリウム収束イオンビーム等の手法によって空孔が潰れないように断面観察用の試料を作成し、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、商品名:JSM−6490)等を使用して適切な倍率(例えば2000倍等)で得られた試料の断面観察を行い、得られた断面写真の観察領域を画像解析装置((株)ニレコ製、商品名:LUZEX AP)等を使用して、試料断面中の空孔が占める面積の割合(面積率)を算出し、これを空孔率とすることができる。
一方、かかる多孔質樹脂フィルムの使用原料が判明しているか、又は空孔が形成されていない樹脂組成物を入手可能な場合には、下記式1に基づいて、多孔質樹脂フィルムの空孔率を算出することもできる。
Figure 0006771591
フィルム内部に電荷を蓄積するのに適したサイズの空孔を数多く設けて、電荷の蓄積容量を確保する観点から、多孔質樹脂フィルムの空孔率は、20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、35%以上であることが特に好ましい。一方、空孔が連通して電荷が短絡することを抑制したり、多孔質樹脂フィルムの弾性率が極端に劣り、厚み方向の復元性が低下し、耐久性に劣ることを抑制したりする観点から、多孔質樹脂フィルムの空孔率は80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、60%以下であることがさらに好ましく、55%以下であることが特に好ましい。
以後、樹脂フィルム乃至多孔質樹脂フィルムを、総じて「樹脂フィルム」と称する場合がある。多孔質樹脂フィルムの厚みは、上記の樹脂フィルムの厚みと同様の範囲であることが好ましい。
[多孔質樹脂フィルムの使用原料]
エネルギー変換フィルムを構成する多孔質樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂及び金属石鹸に加えて、空孔形成核剤を含むことが好ましい。詳しくは単層の多孔質樹脂フィルムの総質量を基準として(以降において、「単層フィルム基準」と称することがある。)、熱可塑性樹脂を50〜98質量%、金属石鹸を0.02質量%〜20質量%、空孔形成核剤を1.98〜49.98質量%を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂を60〜97質量%、金属石鹸を0.03質量%〜10質量%、空孔形成核剤を2.97〜39.97質量%を含むことがより好ましく、熱可塑性樹脂を65〜96質量%、金属石鹸を0.05質量%〜5質量%、空孔形成核剤を3.95〜34.95質量%を含むことがさらに好ましく、熱可塑性樹脂を70〜85質量%、金属石鹸を0.1質量%〜3質量%、空孔形成核剤を14.9〜29.9質量%を含むことが最も好ましい。なお、単層の多孔質樹脂フィルムが熱可塑性樹脂と金属石鹸と空孔形成核剤の3成分以外に、後述するその他の材料も含む場合は、同3成分の含有率の合計は100%未満であってよい。
また、エネルギー変換フィルムが後述する様にコア層及びスキン層等を有する積層構造を備える場合、その積層構造体の総質量を基準として(以降において、「積層フィルム基準」と称することがある。)、熱可塑性樹脂を50〜98質量%、金属石鹸を0.02質量%〜20質量%、空孔形成核剤を1.98〜49.98質量%を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂を60〜97質量%、金属石鹸を0.03質量%〜10質量%、空孔形成核剤を2.97〜39.97質量%を含むことがより好ましく、熱可塑性樹脂を65〜96質量%、金属石鹸を0.05質量%〜5質量%、空孔形成核剤を3.95〜34.95質量%を含むことがさらに好ましく、熱可塑性樹脂を70〜85質量%、金属石鹸を0.1質量%〜3質量%、空孔形成核剤を14.9〜29.9質量%を含むことが最も好ましい。なお、積層フィルムが熱可塑性樹脂と金属石鹸と空孔形成核剤の3成分以外に、後述するその他の材料も含む場合は、同3成分の含有率の合計は100%未満であってよい。
[熱可塑性樹脂]
樹脂フィルムに用いられる熱可塑性樹脂は、樹脂フィルム自体を形作るマトリクス樹脂であり、エネルギー変換フィルムに圧電効果や復元性を付与するものである。エネルギー変換フィルムとしての使用に適した熱可塑性樹脂としては、電気を通しにくい絶縁性の高分子材料であることが好ましい。例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含むエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレートやその共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの熱可塑性樹脂の中でも、吸湿性が低く、絶縁性が高いポリオレフィン系樹脂、官能基含有ポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましく、ポリオレフィン系樹脂を用いることがより好ましい。熱可塑性樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、メチルペンテン、シクロブテン類、シクロペンテン類、シクロヘキセン類、ノルボルネン類、トリシクロ−3−デセン類等のオレフィン類の単独重合体、及びこれらオレフィン類の2種類以上からなる共重合体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。ポリオレフィン系樹脂の具体的な例としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、プロピレン系樹脂、エチレンと他のオレフィン類との共重合体、プロピレンと他のオレフィン類との共重合体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
これらポリオレフィン系樹脂の中でも、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂が好ましく、アイソタクティック乃至はシンジオタクティック及び種々の程度の立体規則性を示すプロピレン単独重合体、又はプロピレンを主成分とし、これとエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンとを共重合させたプロピレン系共重合体を含むプロピレン系樹脂が、非吸湿性、絶縁性に加えて、帯電性、加工性、ヤング率、耐久性、コスト等の観点からさらに好ましい。上記プロピレン系共重合体については、2元系でも3元系以上の多元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
また官能基含有ポリオレフィン系樹脂の具体的な例としては、上記オレフィン類と共重合可能な官能基含有モノマーとの共重合体が挙げられる。官能基含有モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;酢酸ビニル、ビニルアルコール、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類;(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メタロール(メタ)アクリルアミド等のアクリル酸エステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル類等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これら官能基含有モノマーの中から必要に応じ1種類もしくは2種類以上を適宜選択し重合したものを用いることができる。
さらにこれらポリオレフィン系樹脂及び官能基含有ポリオレフィン系樹脂を必要によりグラフト変性したものを使用することも可能である。グラフト変性には公知の手法を用いることができ、具体的な例としては、不飽和カルボン酸又はその誘導体によるグラフト変性を挙げることができる。不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を挙げることができる。また不飽和カルボン酸の誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等が使用可能である。具体的には無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N−モノエチルアミド、マレイン酸−N,N−ジエチルアミド、マレイン酸−N−モノブチルアミド、マレイン酸−N,N−ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N−モノエチルアミド、フマル酸−N,N−ジエチルアミド、フマル酸−N−モノブチルアミド、フマル酸−N,N−ジブチルアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
グラフト変性物としては、グラフトモノマーをポリオレフィン系樹脂及び官能基含有ポリオレフィン系樹脂の少なくとも一方に対して一般に0.005〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%を加えて、グラフト変性したものが挙げられる。
多孔質樹脂フィルムに使用するに適した熱可塑性樹脂としては、上記の熱可塑性樹脂の中から1種を選択して単独で使用してもよいし、2種以上を選択して組み合わせて使用してもよい。
樹脂フィルムにおける熱可塑性樹脂の含有量(含有率)は、特に限定されず、例えば多孔質樹脂フィルムのマトリクス樹脂として同フィルム中に十分な空孔界面を形成しつつ、空孔間の連通を抑え、多孔質樹脂フィルムの機械強度を確保する等の観点から、適宜設定すればよい。具体的には、樹脂フィルムの総質量を基準として、熱可塑性樹脂を50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、65質量%以上含むことがさらに好ましく、70質量%以上含むことが特に好ましい。一方、熱可塑性樹脂を98質量%以下含むことが好ましく、97質量%以下含むことがより好ましく、96質量%以下含むことがさらに好ましく、85質量%以下含むことが特に好ましい。
[金属石鹸]
従来、樹脂フィルムが金属石鹸を含む場合には、荷電制御剤を含む場合と比して樹脂フィルムの誘電率が高くなり電荷保持性能が低下すると共に、耐熱性が低くなると考えられていた。ところが、本発明者らの検討により、金属石鹸を含む場合に荷電制御剤と同程度の帯電性を有し、さらには耐熱性に優れることを見出した。すなわち、樹脂フィルムが金属石鹸を含むことで、樹脂フィルムの電荷保持性能が高められ、これをエレクトレット化処理して得られるエネルギー変換フィルムは、高温環境下で保管や使用されても、その圧電性能が低下し難くなる。
エネルギー変換フィルムとしての使用に適した金属石鹸としては、樹脂フィルムの原料の混練段階では溶融して熱可塑性樹脂中に均一に分散し、エネルギー変換フィルム及びこれを用いたエネルギー変換素子の使用環境温度や保管温度では固体であるものが、高い電荷保持性能を発揮し易いため好ましく用いられる。そのため、金属石鹸の融点は、50℃以上、熱可塑性樹脂の融点よりも50℃高い温度以下の範囲内であることが好ましく、70℃以上、熱可塑性樹脂の融点よりも40℃高い温度以下の範囲内であることがより好ましく、100℃以上、熱可塑性樹脂の融点よりも30℃高い温度以下の範囲内であることがさらに好ましい。例えば熱可塑性樹脂としてポリプロピレン樹脂(融点160〜170℃)を用いる場合は、融点が50℃〜220℃である金属石鹸を用いることが好ましく、融点が70℃〜210℃である金属石鹸を用いることがより好ましく、融点が100℃〜200℃である金属石鹸を用いることがさらに好ましい。
金属石鹸が上述した好ましい温度範囲内に融点を有することで、樹脂フィルムの製造時には溶融して熱可塑性樹脂中に均一に分散し、樹脂フィルムの成形後には熱可塑性樹脂中でその分散状態を保ったまま固化して流動しにくくなっている。そしてエレクトレット処理時には、その分子内の双極子によって金属石鹸が配向し、この金属石鹸の配向によってエネルギー変換フィルムの電荷保持性能が高められているものと推定される。
金属石鹸は、脂肪酸の金属塩であることが好ましく、高級脂肪酸の金属塩であることがより好ましい。ここで脂肪酸としては、炭素数5〜30の、好ましくは炭素数6〜28の、より好ましくは炭素数8〜24の、さらに好ましくは炭素数10〜20の、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、及びこれらの構造異性体が挙げられる。なおこれらの炭素数は、脂肪酸一分子当たりの量を示すものである。
飽和脂肪酸の具体的な例としては、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、12−ヒドロキシオクタデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
不飽和脂肪酸の具体的な例としては、トランス−2−ブテン酸、9−テトラデセン酸、9−ヘキサデセン酸、シス−6−ヘキサデセン酸、シス−9−オクタデセン酸、トランス−9−オクタデセン酸、シス−9−イコセン酸、シス−13−ドコセン酸、シス−15−テトラコセン酸、シス,シス−9,12−オクタデカジエン酸、9,11,13−オクタデカトリエン酸、シス,シス,シス−9,12,15−オクタデカトリエン酸、シス,シス,シス−8,11,14−イコサトリエン酸、6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸、5,8,10,12,14−オクタデカペンタエン酸、4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
これらの脂肪酸の中でも、飽和脂肪酸の金属塩はその融点が高くなる傾向があり、耐熱性が向上したエネルギー変換フィルムが得られ易い傾向があることから、飽和脂肪酸を用いることが好ましい。
また、金属石鹸の金属元素は、脂肪酸と安定な塩を形成する金属であれば特に限定されないが、得られる金属石鹸の融点と電荷保持性能の観点から、通常は一価、二価又は三価の金属であって、周期表の第1族から第13族に属する(旧族番号でIA族からIIIB族に属する)金属元素の少なくとも一種を用いることが好ましく、二価又は三価の金属であって、周期表の第2族から第13族の(旧族番号でIIA族からIIIB族に属する)金属元素の少なくとも一種を用いることがより好ましく、周期表の第2族、第12族及び第13族の(旧族番号でIIA族、IIB族及びIIIB族の)金属元素の少なくとも一種を用いることがさらに好ましい。より具体的には、ナトリウム(第1族)、マグネシウム(第2族)、カルシウム(第2族)、バリウム(第2族)、亜鉛(第12族)及びアルミニウム(第13族)の少なくとも一種を用いることがさらに好ましく、中でも、安全性の観点から、カルシウム、亜鉛及びアルミニウムの少なくとも一種を用いることが特に好ましく、電荷の保持性能をより高める観点から、カルシウム又はアルミニウムを用いることが特に好ましく、アルミニウムを用いることが最も好ましい。また、金属石鹸は塩基性塩であってもよい。
本発明のエネルギー変換フィルムにおいて最も好ましく用いられる金属石鹸は、飽和高級脂肪酸アルミニウム塩である。飽和高級脂肪酸アルミニウム塩の具体的な例としては、オクタデカン酸ジヒドロキシアルミニウム、ジオクタデカン酸ヒドロキシアルミニウム、トリオクタデカン酸アルミニウム、ドデカン酸ジヒドロキシアルミニウム、ジドデカン酸ヒドロキシアルミニウム、トリドデカン酸アルミニウム、2−エチルヘキサン酸ジヒドロキシアルミニウム、ジ−2−エチルヘキサン酸ヒドロキシアルミニウム、トリ−2−エチルヘキサン酸アルミニウム等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
上記のような金属石鹸は、プラスチック業界において各種添加剤(例えば、安定剤、滑剤、フィラー分散剤、メヤニ防止剤、流動性改善剤、造核剤、又はアンチブロッキング剤)として、一般的に利用されている。しかしながら、本発明のエネルギー変換フィルムにおける金属石鹸は、フィルムの帯電性を増補するために添加するものであって、特に従来のエネルギー変換フィルムの高温環境下における圧電性能低下を抑制する機能剤として添加するものである。したがって、エネルギー変換素子の圧電性能低下を抑制する本発明においては、上述した従来の一般的な各種添加剤として使用する場合の配合量(例えば、0.01質量%)よりも比較的多い量の金属石鹸を添加することが好ましい。
樹脂フィルム中における金属石鹸の含有量は、単層の樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂と金属石鹸よりなる組成物100質量%に対して(以降において、単層樹脂フィルムの「組成物基準」と称することがある。)、電荷保持能力の観点から0.02質量%以上含むことが好ましく、0.03質量%以上含むことがより好ましく、0.05質量%以上含むことがさらに好ましく、0.1質量%以上含むことが特に好ましく、0.2質量%以上含むことが最も好ましい。
また金属石鹸は、単層の樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂と金属石鹸よりなる組成物100質量%に対して、過剰に添加しても効果が頭打ちとなりブリードアウト等の悪影響が大きくなることから、熱可塑性樹脂と金属石鹸よりなる組成物100質量%に対して(以降において、単層樹脂フィルムの「組成物基準」と称することがある。)、20質量%以下含むことが好ましく、10質量%以下含むことがより好ましく、5質量%以下含むことがさらに好ましく、3質量%以下含むことが特に好ましく、0.7質量%以下含むことが最も好ましい。
[空孔形成核剤]
多孔質樹脂フィルムに用いられる空孔形成核剤は、これを核としてフィルムに空孔を形成するために添加するものである。多孔質樹脂フィルムに使用するに適した空孔形成核剤としては、無機微細粉末及び有機フィラーが挙げられる。これら空孔形成核剤の添加及び後述する延伸工程により、フィルムの内部に空孔を形成することが可能となる。空孔形成核剤の含有量を制御することによって、空孔の頻度を制御することが可能であり、また、空孔形成核剤の粒子径を制御することによって、空孔の大きさ(高さ及び径)を制御することが可能である。
樹脂フィルムが空孔形成核剤を含む場合の空孔形成核剤の含有量は、樹脂フィルムに十分な空孔を形成する観点から、樹脂フィルムの総量に対して、2質量%以上含むことが好ましく、4質量%以上含むことがより好ましく、10質量%以上含むことがさらに好ましく、14質量%以上含むことが特に好ましい。一方、同フィルム中の空孔間の連通を抑える観点から、樹脂フィルムの総量に対して、50質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、30質量%以下含むことがさらに好ましく、25質量%以下含むことが特に好ましい。
空孔形成核剤としては、無機微細粉末を単独で、または有機フィラーを単独で、または無機微細粉末と有機フィラーを組み合せたものを、上記の含有量で用いることができる。無機微細粉末と有機フィラーを組み合せて用いる場合の各々の含有比率は、特に限定されない。例えば空孔形成核剤の総量に対して、無機微細粉末を10〜99質量%含むものを用いることができ、20〜90質量%含むものを用いることができ、30〜80質量%含むものを用いることができる。
空孔形成核剤の含有率は上述のとおりであるが、空孔形成核剤の含有率が上記の好ましい範囲の下限値以上であれば、後述する延伸工程で、十分な数の電荷を蓄積するのに適したサイズの空孔が得られ易く、所望の圧電性能が得られ易い。一方、空孔形成核剤の含有率が上記の好ましい範囲の上限値以下であれば、過多な空孔形成によるフィルム強度の低下が抑制され易く、得られるエレクトレット材料においては繰り返し圧縮力を作用させても十分な圧縮回復性が発現され易く、さらには圧電性能が安定することが期待できる。
[無機微細粉末]
空孔形成核剤の中でも、無機微細粉末はコストが低く、粒子径が異なる多数の製品が商業的に入手可能である。使用可能な無機微細粉末の具体例としては、炭酸カルシウム、焼成クレー、シリカ、けいそう土、白土、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナ、ゼオライト、マイカ、セリサイト、ベントナイト、セピオライト、バーミキュライト、ドロマイト、ワラストナイト、ガラスファイバー等が挙げられるが、これらに特に限定されない。無機微細粉末は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
無機微細粉末の体積平均粒径(レーザー回折による粒度分布計で測定したメディアン径(D50))は、電荷を蓄積するのに適したサイズの空孔を成形すること考慮して適宜選択することができ、特に限定されない。形成される空孔が適切なサイズとなり所望の圧電性能が得られ易い観点から、無機微細粉末の体積平均粒径は3μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。一方、粗大空孔の形成により隣接する空孔同士が連通して電荷が短絡して電荷が蓄積しにくくなることを抑制し、空孔が大きすぎることによるフィルム強度の低下を抑制し、得られるエレクトレットにおいては繰り返し圧縮力を作用させても十分な圧縮回復性を発現させ、圧電性能が安定することが期待できる等の観点から、無機微細粉末の体積平均粒径は、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。
[有機フィラー]
空孔形成核剤の中でも、有機フィラーは粒子径の整った球状の粒子として入手可能であり、多孔質樹脂フィルム中に形成される空孔もサイズや形状が均一に整ったものが得られ易い。加えて、空孔形成後も有機フィラーが空孔の中で支柱として機能し得るため、空孔が潰れにくく、得られるエレクトレットにおいては繰り返し圧縮力を作用させても十分な圧縮回復性が発現され易く、さらには圧電性能が安定すること(ピラー効果)が期待できる。
有機フィラーとしては、多孔質樹脂フィルムの主成分である熱可塑性樹脂とは異なる種類の樹脂粒子を選択することが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合、好ましい有機フィラーとしては、ポリオレフィンとは非相溶であり、ポリオレフィン系樹脂の混練、延伸成形の際に流動性を有しないものが挙げられる。より具体例には、架橋アクリル樹脂、架橋メタクリル樹脂、架橋スチレン樹脂、架橋ウレタン樹脂等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの架橋樹脂からなる樹脂粒子は、予め粒子径の整った球状の粒子として入手可能であり、空孔のサイズを調整し易いことから、特に好ましく用いられる。
また、有機フィラーは、多孔質樹脂フィルムの主成分である熱可塑性樹脂に非相溶であるが、熱可塑性樹脂とともに溶融混練されて海島構造を形成するものであって、島である有機フィラーが延伸成形時に空孔の核となって、所望の空孔を成形するものであってもよい。例えば、熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合、有機フィラーの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン−6,ナイロン−6,6、環状オレフィン重合体、ポリスチレン、ポリメタクリレート等の重合体であって、ポリオレフィン系樹脂の融点よりも高い融点(例えば170〜300℃)ないしはガラス転移温度(例えば170〜280℃)を有し、溶融混練によりマトリクス樹脂であるポリオレフィン系樹脂中に微分散させることができるものが挙げられる。有機フィラーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、空孔形成核剤として上記の無機微細粉末と上記の有機フィラーとを併用することもできる。
有機フィラーの体積平均粒径(レーザー回折による粒度分布計で測定したメディアン径(D50))は、電荷を蓄積するのに適したサイズの空孔を成形すること考慮して適宜選択することができ、特に限定されない。形成される空孔が適切なサイズとなり所望の圧電性能が得られ易い観点から、有機フィラーの体積平均粒径は3μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。一方、粗大空孔の形成により隣接する空孔同士が連通して電荷が短絡して電荷が蓄積しにくくなることを抑制し、空孔が大きすぎることによるフィルム強度の低下を抑制し、得られるエレクトレットにおいては繰り返し圧縮力を作用させても十分な圧縮回復性を発現させ、圧電性能が安定することが期待できる等の観点から、有機フィラーの体積平均粒径は、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。
空孔形成核剤として無機微細粉末と有機フィラーとを併用する場合は、上記列挙した無機微細粉末の中から1種以上と、上記列挙した有機フィラーの中から1種以上とを組み合わせて使用することができる。この場合もまた、上記同様の趣旨から混合物の体積平均粒径が3〜30μmの範囲内であることが好ましく、4〜20μmの範囲内であることがより好ましく、5〜15μmの範囲内であることがさらに好ましい。
無機微細粉末と有機フィラーとを併用する場合の体積平均粒径は、個別に同範囲内の粒径を有する無機微細粉末と有機フィラーとを組み合わせて使用してもよく、無機微細粉末と有機フィラーとを混合した状態をレーザー回折による粒度分布計で測定した体積平均粒径が同範囲のものを使用してもよい。
[その他の材料]
樹脂フィルムには必要に応じて、分散剤、熱安定剤(酸化防止剤)、光安定剤等の添加剤を任意に添加することができる。
分散剤を添加する場合は、空孔形成核剤の分散不良による意図しない粗大空孔又は連通空孔の発生を抑制する観点から、樹脂フィルムの総質量を基準として、0.01質量%以上含むことが好ましく、0.03質量%以上含むことがより好ましく、0.05質量%以上含むことがさらに好ましい。一方、樹脂フィルムの成形性や電荷保持の観点から、樹脂フィルムの総質量を基準として、10質量%以下含むことが好ましく、5質量%以下含むことがより好ましく、2質量%以下含むことがさらに好ましい。分散剤の具体的な例としては、脂肪酸、グリセリン脂肪酸、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、シランカップリング剤、ポリ(メタ)アクリル酸ないしはそれらの塩等の分散剤が挙げられるが、これらに特に限定されない。
熱安定剤を添加する場合は、樹脂フィルムの総質量を基準として、通常0.001〜1質量%の範囲内で添加する。熱安定剤の具体例としては、立体障害フェノール系、リン系、アミン系等の熱安定剤が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの熱安定剤は、金属石鹸には及ばないものの、電荷の保持性能を有すると考えられており、特に金属石鹸は立体障害フェノールやリン系の熱安定剤と併用することにより、電荷の保持性能が向上する傾向がある。
本来、熱安定剤は電荷保持性能の観点から融点は高い方が好ましいが、エネルギー変換フィルム中に熱安定剤を均一に分散させるためには、熱安定剤の融点が低い方が好ましい。従って、熱安定剤の融点は、金属石鹸と同様の融点の範囲であることが好ましい。
金属石鹸の電荷保持性能を十分に発揮させるためには、熱安定剤の総量に対する金属石鹸の配合比は1:0.2〜1:100が好ましく、1:0.5〜1:50がより好ましく、1:1〜1:10が更に好ましく、1:2〜1:5が最も好ましい。
光安定剤を添加する場合は、樹脂フィルムの総質量を基準として、通常0.001〜1質量%の範囲内で添加する。光安定剤の具体例としては、立体障害アミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の光安定剤が挙げられるが、これらに特に限定されない。
[樹脂フィルム乃至多孔質樹脂フィルムの層構造]
樹脂フィルム乃至多孔質樹脂フィルムは、上記組成を有する樹脂組成物からなる単層構造のフィルムであってもよいし、同フィルムを少なくとも一層有する多層積層構造の樹脂フィルムであってもよい。樹脂フィルム乃至多孔質樹脂フィルムは、少なくともコア層とスキン層を有する多層積層構造の樹脂フィルム(積層樹脂フィルム)であることが好ましく、スキン層/コア層/スキン層の3層構造であることがより好ましい。
[コア層]
樹脂フィルムがコア層とスキン層を有する積層構造である場合、上記の樹脂フィルム乃至多孔質樹脂フィルムをコア層とし、このコア層にスキン層をさらに設ければよい。以下、樹脂フィルム乃至多孔質樹脂フィルムをコア層と称する場合がある。
後述する方法で測定されるコア層の厚みは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましく、40μm以上であることが特に好ましい。これにより、エネルギー変換に有効に機能する内部電荷の蓄積に必要な容積を確保しやすく、特に多孔質樹脂フィルムである場合に内部電荷の蓄積に適切な大きさの空孔を所望の数量で均一に形成し易い。一方、コア層の厚みは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましく、120μm以下であることが特に好ましい。これにより、後述するエレクトレット化(電荷注入処理、直流高電圧放電処理)を施して樹脂フィルムをエレクトレット化してエネルギー変換フィルムとする際に、層内部まで電荷を到達させることが可能となり、本発明の所期の性能を発揮し易い。
[スキン層]
スキン層は樹脂フィルム乃至多孔質樹脂フィルム(コア層)の少なくとも片面上に積層される。スキン層は、上記のコア層を保護する層として、コア層の少なくとも片面上に積層することが好ましく、コア層の両面上に積層することがより好ましい。コア層の表面にスキン層を設けることにより、樹脂フィルム中より系外にブリードアウトする恐れがある金属石鹸をバリアーすることができ、多孔質樹脂フィルムに形成した空孔が外部と通じて内部に蓄えた電荷が大気放電してしまうことを防ぎやすくでき、多孔質樹脂フィルムの表面強度を向上させることができ、表面を平滑にすることで電極との接着性を向上させることができる。
スキン層もまた、熱可塑性樹脂を含むフィルムよりなることが好ましい。スキン層を構成する熱可塑性樹脂としては、樹脂フィルムに使用する熱可塑性樹脂の項で列挙したものを用いることができる。
ここで、スキン層は、コア層と同様に金属石鹸を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。スキン層をコア層の保護層とする趣旨からは、スキン層は金属石鹸を含まないことが好ましい。スキン層が金属石鹸を含む場合は、その配合量をコア層におけるそれよりも少なくすることが好ましい。
スキン層は、コア層よりも空孔を形成し難い組成を有するか、コア層よりも空孔率が低い構造であることが好ましい。この様なスキン層の形成は、空孔形成核剤の含有量をコア層よりも少なくする手法や、スキン層に使用する空孔形成核剤の体積平均粒径をコア層に使用する空孔形成核剤の体積平均粒径より小さくする手法や、コア層を2軸延伸により形成し且つスキン層を1軸延伸で形成する等して両者の延伸倍率に差異をつける手法等により達成できる。
また、スキン層は空孔形成核剤を含有していても、含有していなくてもよい。スキン層の物理的強度を向上し、コア層の耐久性を向上させるという観点からは、空孔形成核剤を含有していない方が好ましい。また、スキン層の誘電率を向上させ、コア層の電気的特性を改質するという観点からは、空孔形成核剤を含有している方が好ましい。スキン層が空孔形成核剤を含有する場合は、多孔質樹脂フィルムに使用する空孔形成核剤の項で列挙したものと同様のものを用いることができる。ここで、スキン層の空孔形成核剤としては、多孔質樹脂フィルムの空孔形成核剤とは同種のものを用いてもよいし、異種のものを用いてもよい。
特に有機フィラーは、多孔質樹脂フィルムに使用する熱可塑性樹脂よりも一般的に誘電率が高いため、スキン層の電気特性の改質に向いている。特にスキン層の熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂等の誘電率が比較的に低い樹脂を使用する場合は、スキン層に有機フィラーを含有させることにより、エレクトレット化処理時の高電圧印加時に、その誘電効果により樹脂フィルム内部(コア層内部)まで電荷を到達させ易い。逆にエレクトレット化処理後は、主成分であるポリオレフィン系樹脂の低い誘電特性により、樹脂フィルム内部の電荷を逃がさず保持する効果が得られる。
スキン層に空孔形成核剤を含有させる場合は、多孔質樹脂フィルムに使用する分散剤の項で列挙したものと同様の分散剤を使用することが好ましい。
スキン層は延伸されていることが好ましい。詳細後述する延伸工程によって、スキン層の厚み(膜厚)の均一性や絶縁耐圧性等の電気特性の均一性を向上することができる。スキン層の厚みが不均一であると、高電圧を用いた電荷注入時に、スキン層の薄い部分で局所的な放電集中が発生し易いため、効果的に電荷注入するための高電圧印加を行うことが困難になり易い。
なお、スキン層は単層構造のみならず、2層構造以上の多層積層構造のものであってもよい。多層積層構造とする場合は、各層に使用する熱可塑性樹脂、空孔形成核剤、分散剤の種類や含有量を変更することにより、より高い電荷保持性能を備えた多層積層構造の多孔質樹脂フィルムの設計が容易となる。
スキン層をコア層の表裏両面に設ける場合は、表裏のスキン層のそれぞれの組成、構成、厚み等は同一でもよいし、異なっていてもよい。
コア層の表面にスキン層を設ける場合、スキン層の厚みは、特に限定されないが、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、0.7μm以上であることが特に好ましい。これにより、スキン層を均一に設けることが容易になり、均一な電荷注入や絶縁耐圧性の向上が期待できる。一方、スキン層の厚みは100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。これにより、多層積層構造の多孔質樹脂フィルムに電荷注入する際に、フィルム内部のコア層にまで電荷を到達させ易くなる傾向がある。
また、スキン層は、コア層よりも薄いことが好ましい。スキン層はコア層よりも相対的に厚み方向の弾性変形がしにくい層であるため、スキン層の厚みを抑えることで、多孔質樹脂フィルム等の圧縮弾性率が低下せず、エネルギー変換効率を維持しやすくなる。
そのため、コア層の厚みとスキン層の厚みの比率(コア層/スキン層)は、1.1〜1000であることが好ましく、2〜300であることがより好ましく、5〜150であることがさらに好ましく、10〜50であることが特に好ましい。なお同値は、スキン層が複数層の場合はその合計値から換算する。
[樹脂フィルムの形成]
樹脂フィルムの製造には、従来公知の種々の方法が使用できる。例えば、樹脂フィルムが単層のフィルムである場合は、上記原料を含む樹脂組成物を溶融混練し単一のダイスから押し出して、必要に応じて延伸すればよい。また、コア層とスキン層を有する多層積層構造の樹脂フィルムである場合は、フィードブロックやマルチマニホールドを使用した多層ダイスを用いる共押出方式や、複数のダイスを使用する押出ラミネーション方式等により両者が積層した多層樹脂フィルムを製造することができる。さらに多層ダイスによる共押出方式と押出ラミネーション方式を組み合わせる方法により樹脂フィルムを製造することもできる。
樹脂フィルムの厚みの均一性は、絶縁耐圧性が向上するため電荷注入効率が向上し、結果的に得られるエネルギー変換フィルムの圧電効率が向上するため重要である。
樹脂フィルムは、少なくとも1方向に延伸された延伸フィルムであることが好ましい。延伸により、樹脂フィルムの厚みの均一性は向上する。また、多孔質樹脂フィルムの場合には、延伸により内部に空孔が多数形成される。また、コア層とスキン層を有する多層積層構造の樹脂フィルムである場合は、スキン層をコア層上に積層した後に、少なくとも1軸方向に延伸することが好ましい。スキン層をコア層上に積層した後に延伸することによって、延伸フィルム同士を積層するよりも、膜厚の均一性が向上し、結果的に電気特性が向上する。
延伸により多孔質樹脂フィルム中に形成される空孔は、電荷を保持する観点から個々の体積が比較的大きく、その数が比較的多く、且つ互いに独立した形状であることが望ましい。空孔の大きさは、1方向のみ延伸するよりも、2軸方向に延伸した方が大きくし易い。特にフィルムの幅方向及び流れ方向の2軸方向に延伸したものは、空孔形成核剤を中心に面方向に引き延ばされた円盤状の空孔を形成できるので、エレクトレット化により空孔内に正負分極した電荷を蓄積し易く、電荷の保持性能が優れたものとなる。したがって、多孔質樹脂フィルムは、2軸延伸フィルムであることが好ましい。
樹脂フィルムの延伸は、公知の種々の方法によって行うことができる。具体的には、ロール群の周速差を利用した縦延伸方法、テンターオーブンを使用した横延伸方法、上記縦延伸と横延伸とを正順又は逆順に行う逐次二軸延伸方法、圧延方法、テンターオーブンとリニアモーターの組み合わせによる同時二軸延伸方法、テンターオーブンとパンタグラフの組み合わせによる同時二軸延伸方法等を挙げることができる。また、インフレーションフィルムの延伸方法であるチューブラー法による同時二軸延伸方法を挙げることができる。
延伸時の温度は、樹脂フィルムに用いる主要な(質量比で最も多く用いる)熱可塑性樹脂のガラス転移点温度から、主要な熱可塑性樹脂の結晶部の融点より1〜70℃低い温度が好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂がプロピレン単独重合体(融点155〜167℃)である場合は100〜166℃の範囲内であることが好ましく、高密度ポリエチレン(融点121〜136℃)である場合は70〜135℃の範囲内であることが好ましい。また、多層積層構造の樹脂フィルムを延伸する場合は、設定坪量の最も多い層(通常はコア層)又は設定空孔率の最も高い層(通常はコア層)の延伸効率を考慮して、延伸温度を設定するのが好ましい。勿論、樹脂フィルムのコア層とスキン層にそれぞれ融点又はガラス転移点の異なる熱可塑性樹脂を用いて延伸温度を決定すれば、それぞれの層の空孔率を調整することが可能である。
延伸倍率は、特に限定されず、樹脂フィルムに用いる熱可塑性樹脂の延伸特性や上述の設定空孔率等を考慮して適宜決定すればよい。例えば熱可塑性樹脂としてプロピレン単独重合体ないしはその共重合体を使用する場合の延伸倍率は、一軸方向に延伸する場合は1.2倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましい。一方、その上限側は、12倍以下が好ましく、10倍以下がより好ましい。また、二軸方向に延伸する場合には、面積延伸倍率(縦倍率と横倍率の積)で1.5倍以上が好ましく、4倍以上がより好ましい。一方、その上限側は、60倍以下が好ましく、50倍以下がより好ましい。
その他の熱可塑性樹脂を使用する場合の延伸倍率は、一軸方向に延伸する場合は1.2倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましい。一方、10倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましい。また、二軸方向に延伸する場合には面積延伸倍率で1.5倍以上が好ましく、4倍以上がより好ましい。一方、その上限側は、20倍以下が好ましく、12倍以下がより好ましい。
多孔質樹脂フィルムにおいて二軸方向に延伸する場合には、縦倍率と横倍率をできる限り同倍率に設定することが、電荷の蓄積をし易い円盤状の空孔を形成し、任意方向の断面で観察した空孔の形状や頻度を本発明の好ましい範囲に調整し易い。そのため二軸方向に延伸する場合には、縦倍率と横倍率との比が0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.7以上であることがさらに好ましく、0.8以上であることが特に好ましい。一方、その上限側は、2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましく、1.3以下であることが特に好ましい。また延伸速度は、安定な延伸成形の観点から、20〜350m/分の範囲内とするのが好ましい。
[表面処理]
樹脂フィルムには、後述する電極等の他素材との密着性を高めるために、その片面もしくは両面に公知の手法による表面処理を施すことができる。表面処理の具体的な例としては、コロナ放電処理、フレームプラズマ処理、大気圧プラズマ処理等の手法を挙げることができる。また、これら表面処理の処理環境やプラズマの発生源を所望の気体で置換することにより、樹脂フィルムの密着性をより高めることができる。さらに、塩酸、硝酸、硫酸等の酸により樹脂フィルム表面を洗浄することにより、密着性を改善することも可能である。
[アンカーコート層]
樹脂フィルムには、後述する電極との密着性を高めるために、その片面もしくは両面にアンカーコート層を設けてもよい。
アンカーコート層には、樹脂フィルムと電極との密着性を高める観点から、高分子バインダーを用いることが好ましい。高分子バインダーの具体的な例としては、ポリエチレンイミン、炭素数1〜12のアルキル変性ポリエチレンイミン、ポリ(エチレンイミン−尿素)等のポリエチレンイミン系重合体;ポリアミンポリアミドのエチレンイミン付加物、及びポリアミンポリアミドのエピクロルヒドリン付加物等のポリアミンポリアミド系重合体;アクリル酸アミド−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸アミド−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、ポリアクリルアミドの誘導体、オキサゾリン基含有アクリル酸エステル系重合体等のアクリル酸エステル系重合体;ポリビニルアルコールやその変性体を含むポリビニルアルコール系重合体;ポリビニルピロリドン、及びポリエチレングリコール等の水溶性樹脂;並びに塩素化ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、アクリル酸変性ポリプロピレン等の変性ポリプロピレン系重合体;等の他、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、アクリルニトリル−ブタジエン共重合体、及びポリエステル等の非水溶性樹脂;等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、ポリエチレンイミン系重合体、ポリアミンポリアミド系重合体、ポリビニルアルコール系重合体、及び変性ポリプロピレン系重合体が、樹脂フィルムとの密着性に優れるため好ましい。
樹脂フィルム上にアンカーコート層を設ける方法としては、従来公知の種々の方法が使用でき、特に限定されないが、上記の高分子バインダーを含む塗工液を樹脂フィルム上に塗工する方法が好ましい。具体的には、樹脂フィルム上に公知の塗工装置を用いて上記塗工液の塗膜を形成し、これを乾燥することにより形成することができる。
塗工液は、高分子バインダーが水溶性樹脂の場合は水溶液又は水分散液として、高分子バインダーが非水溶性樹脂の場合は有機溶剤溶液又は水分散液の状態として、高分子バインダーを公知の方法で塗工可能に調製したものである。
塗工装置の具体的な例としては、ダイコーター、バーコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、スクイズコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、リバースコーター、エアーナイフコーター、サイズプレスコーター等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
樹脂フィルム上にアンカーコート層を設ける場合、その坪量は、特に限定されないが、樹脂フィルムと電極との密着性を向上させる観点から、固形分換算で0.001g/m以上が好ましく、0.005g/m以上がより好ましく、0.01g/m以上が特に好ましい。一方、塗工層であるアンカーコート層の膜厚を均一に保つ観点から、その坪量は、固形分換算で5g/m以下が好ましく、3g/m以下がより好ましく、1g/m以下が特に好ましい。なお、塗工層であるアンカーコート層の膜厚を均一に保てない場合、膜厚の振れによって樹脂フィルムの電気特性の面方向均一性が損なわれたり、アンカーコート層自体の凝集力不足から樹脂フィルムと電極との密着性が低下したり、アンカーコート層の表面抵抗値が低下して1×1013Ω未満となり、樹脂フィルムのエレクトレット化の際に電荷が表面を伝って逃げやすくなるために、樹脂フィルム内部に電荷が注入されにくくなり、樹脂フィルム内部まで電荷が到達できずに本発明の所期の性能を発現しにくくなることがある。
樹脂フィルム上にアンカーコート層を設けるタイミングは、詳細後述するエレクトレット化処理の前でも後でも差し支えない。
[加圧処理]
多孔質樹脂フィルムは加圧処理によって、内部の空孔をさらに膨張させることが可能である。加圧処理は多孔質樹脂フィルムを圧力容器に入れて、容器内を非反応性ガスで加圧することにより空孔内に非反応性ガスを浸透させ、その後多孔質樹脂フィルムを非加圧下に解放することで行う。
使用する非反応性ガスの具体的な例としては、窒素、二酸化炭素、アルゴンやヘリウム等の不活性ガス、又はこれらの混合ガスや空気が挙げられる。非反応性ガス以外の気体を使用した場合でも膨張効果は得られるが、加圧処理中の安全性や得られる多孔質樹脂フィルムの安全性の観点から、非反応性ガスを用いることが望ましい。加圧処理時の処理圧力は、特に限定されないが、好ましくは0.2〜10MPa、より好ましくは0.3〜8MPa、さらに好ましくは0.4〜6MPaの範囲である。0.2MPa未満では圧力が低いため、充分な膨張効果が得られにくい傾向にある。一方、10MPaを超えてしまうと非加圧下に解放する際に空孔壁が内圧に耐え切れず破断して空孔が独立孔の状態を保ち難くなる傾向にある。加圧処理の処理時間は、特に限定されないが、好ましくは1時間以上、より好ましくは1〜50時間の範囲である。処理時間が1時間未満では空孔内に非反応性ガスを充分に充満し難く、或いは、1時間未満で空孔内に非反応性ガスが充分に充満するような多孔質樹脂フィルムでは、後述の加熱処理を施している間に非反応性ガスが散逸してしまい安定した膨張効果が得られ難い傾向にある。
また、多孔質樹脂フィルムの巻取りロールを加圧処理する場合は、非反応性ガスが巻取りロール内部まで浸透し易いように、緩衝シートと一緒に巻取ったものを予め準備して加圧処理することが望ましい。緩衝シートの具体的な例としては、発泡ポリスチレンシート、発泡ポリエチレンシート、発泡ポリプロピレンシート、不織布、織布、紙等の連通した空隙を持つ物を用いることができる。
[加熱処理]
加圧処理を施した多孔質樹脂フィルムにおいてはその膨張効果を維持するために、加熱処理を施すことが好ましい。加圧処理を行い非加圧下に解放することにより多孔質樹脂フィルムは膨張する。しかしながら、そのまま放置すると、空孔内に浸透した非反応性ガスが次第に抜けてしまい、多孔質樹脂フィルムは元の厚みに戻ってしまう場合がある。そこで、膨張した多孔質樹脂フィルムに加熱処理を行って熱可塑性樹脂の結晶化を促進することにより、空孔内部が大気圧に下がった後でも、その膨張効果を維持することが望ましい。この加熱処理は、多孔質樹脂フィルムに主に用いる熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上から結晶部の融点以下の温度範囲内で行うことができる。具体的には、例えば熱可塑性樹脂がプロピレン単独重合体(融点155〜167℃)の場合は80〜160℃の範囲内である。また、加熱方法は、公知の手法を用いることができる。具体的な例としては、ノズルからの熱風による熱風加熱、赤外線ヒーターによる輻射加熱、温調機能付きのロールによる接触加熱等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、加熱処理中は多孔質樹脂フィルムの弾性率が低下し加重がかかると空孔が潰れ易いことから、熱風加熱や輻射加熱等の非接触方式の加熱処理が、高い膨張倍率を維持し易い傾向にある。
[エネルギー変換フィルム]
上記の樹脂フィルム乃至多孔質樹脂フィルムに電荷注入する処理(エレクトレット化処理)を施しエレクトレット化することで、同フィルム内部に電荷を保持した帯電樹脂フィルム、すなわちエネルギー変換フィルムが得られる。
[エレクトレット化]
エレクトレット化処理としては、幾つかの処理方法が挙げられる。例えば、樹脂フィルムの両面を導電体で保持し、直流高電圧やパルス状高電圧を加える方法(エレクトロエレクトレット化法)や、樹脂フィルムにγ線や電子線を照射してエレクトレット化する方法(ラジオエレクトレット化法)等が公知である。
これらの中でも、直流高電圧放電を用いたエレクトレット化処理法(エレクトロエレクトレット化法)は装置が小型であり、且つ作業者や環境への負荷が小さく、多孔質樹脂フィルムの様な高分子材料のエレクトレット化処理に適しており、好ましい。
ここで用い得るエレクトレット化装置の一例として、直流高電圧放電によるエレクトレット化装置を図3に示す。図3に示す様に、このエレクトレット化装置は、直流高圧電源10に繋がった針状電極11とアース電極12の間に、樹脂フィルム13を固定し所定の電圧を印加するものである。この直流高電圧放電によるエレクトレット化処理により、樹脂フィルム13は、フィルム内部に多くの電荷を蓄積することができる。
エレクトレット化処理時の印加電圧は、樹脂フィルムの厚み、空孔率、樹脂フィルムに用いる熱可塑性樹脂や空孔形成核剤の材質、処理速度、用いる電極の形状や材質、大きさ、最終的に得るべきエネルギー変換フィルムにおいて所望する帯電量等により変更し得るものであり、これらを考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、5kV以上が好ましく、6kV以上がより好ましく、7kV以上がさらに好ましい。これにより、十分な電荷量が注入でき、望ましい圧電性能が発揮され易い傾向にある。一方、エレクトレット化処理の印加電圧は、100kV以下が好ましく、70kV以下がより好ましく、50kV以下がさらに好ましい。これにより、エレクトレット化処理時に局所的な火花放電が発生して樹脂フィルムにピンホール等の部分的な破壊が発生する現象や、エレクトレット化処理時に樹脂フィルムの表面から端面を伝いアース電極へ電流が流れてエレクトレット化処理の効率が悪化する現象を回避し易い傾向にある。
エレクトレット化処理時の処理温度は、適宜設定すればよく、特に限定されないが、樹脂フィルムに用いる主な熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上から結晶部の融点以下で行うことが望ましい。処理温度がガラス転移点以上であれば熱可塑性樹脂の非晶質部分の分子運動が活発であり、与えられた電荷に適した分子配列をなすため、効率が良いエレクトレット化処理が可能となる。また、処理温度が金属石鹸の融点以上であれば、金属石鹸分子もまた与えられた電荷に適した配列をなすため、より効率が良いエレクトレット化処理が可能となる。一方、処理温度が樹脂フィルムに用いる主な熱可塑性樹脂の融点を超えてしまうと、樹脂フィルム自体がその構造を維持できなくなってしまうため、本発明の所期の性能を得ることが困難になる傾向にある。
エレクトレット化処理においては、意図して或いは意図せずに、樹脂フィルムに過剰の電荷を注入する場合がある。この場合は、処理後にエネルギー変換フィルムが放電を起こし後加工プロセスで不都合を引き起こすことがあるため、エレクトレット化処理後に、帯電樹脂フィルムの余剰電荷の除電処理を行ってもよい。
かかる除電処理としては、電圧印加式除電器(イオナイザ)や自己放電式除電器等を利用した公知の手法を用いることができる。これら一般的な除電器を用いた除電処理では、帯電樹脂フィルムの表面電荷の除去はできるが、帯電樹脂フィルム内部、特にコア層の空孔内に蓄積した電荷までは完全に除去することはできない。したがって、除電処理によりエレクトレット材料の性能が大きく低下することはない。そのため、このような除電処理を行なって帯電樹脂フィルム表面の余剰電荷を除去することにより、エレクトレットの放電現象の防止が可能となる。
[エネルギー変換素子]
上述したエネルギー変換フィルムの少なくとも一方の面に後述する電極を設けることで、電力や電気信号を入出力するエネルギー変換素子が得られる。エネルギー変換素子は、電気信号の入出力をより効率的に行うために、エネルギー変換フィルムの表裏両面に電極を備えることが好ましい。
電極の設置タイミングは、特に限定されず、例えばエレクトレット化処理前の樹脂フィルムに対して行ってもよく、エレクトレット化処理後の帯電樹脂フィルム(エネルギー変換フィルム)に対して行ってもよい。エレクトレット化処理後のエネルギー変換フィルムに電極を設置すれば、エレクトレット化処理時の、電極を介した注入電荷の一部放散を防ぐことが可能である。しかしながら、その後の電極設置の際に、帯電樹脂フィルムに熱等の負荷が印加されると注入電荷の一部が放散してしまい、圧電性能が若干低下する場合がある。現状では最終的に得られるエネルギー変換素子の性能から判断して、エレクトレット化処理前の樹脂フィルム上に予め電極を設けて、その後に上述のエレクトレット化処理を行うことが好ましい。
[電極]
樹脂フィルムをエレクトレット化したエネルギー変換フィルムの少なくとも一方の面に電極を設けることにより、電力の入出力を可能としたエネルギー変換素子とすることができる。通常、エネルギー変換フィルムの両面(表面と裏面)に一対の電極が設けられる。電極としては、金属粒子、導電性金属酸化物粒子、カーボン系粒子、又は導電性樹脂等の公知の導電性材料によって形成された薄膜が挙げられる。また、電極としては、導電性塗料の印刷や塗工による塗膜や、金属蒸着膜等が挙げられる。
導電性材料の例としては、金、銀、白金、銅、ケイ素等の金属粒子;スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛等の導電性金属酸化物粒子;グラファイト、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノフィラー、カーボンナノチューブ等のカーボン系粒子等を、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エーテル系樹脂、エステル系樹脂、エポキシ系樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アミド樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ビニルアルコール樹脂、変性ポリオレフィン樹脂等のバインダー樹脂成分の溶液又は分散液に混合したものが挙げられる。また、ポリアニリン系、ポリピロール系、ポリチオフェン系等の導電性樹脂の溶液又は分散液等が挙げられる。
導電性塗料をインクとして用い、印刷により設ける場合の印刷方式の具体的な例としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、凸版印刷、オフセット印刷等が挙げられる。また、導電性塗料を塗料として用い、塗工により設ける場合の塗工装置の具体的な例としては、ダイコーター、バーコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、リバースコーター、エアーナイフコーター等が挙げられる。
金属蒸着膜の具体的な例としては、アルミニウム、亜鉛、金、銀、白金、ニッケル等の金属を減圧下で気化して樹脂フィルムの表面に蒸着させ、樹脂フィルムの表面に金属薄膜を直接形成したもの、又は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の担体上にアルミニウム、亜鉛、金、銀、白金、ニッケル等の金属を蒸着して形成した金属薄膜を、樹脂フィルムの表面に転写したもの等が挙げられる。
電極は、予めポリエチレンテレフタレートフィルムやポリプロピレンフィルム等の誘電体フィルム上に上記の導電性塗料の塗膜や金属蒸着膜を形成したものを、導電性がある面が外側となる様に樹脂フィルム乃至エネルギー変換フィルムと貼合することによって設けたものであってもよい。貼合方式の具体的な例としては、ドライラミネート、ウエットラミネート、押出しラミネート等の公知の方法が挙げられる。
電極は、電力の入出力を容易に行う趣旨から、JIS K7194:1994「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」にしたがって4端子法により測定したその表面抵抗率が1×10−3Ω/□〜9×10Ω/□であることが好ましく、1×10−1Ω/□〜9×10Ω/□であることがより好ましい。電極の抵抗値が9×10Ω/□を超えると電気信号の伝達効率が悪く、電気・電子入出力装置用材料としての性能が低下する傾向にある。一方、1×10−3Ω/□未満の電極を設ける場合であって、電極を塗工で設ける場合は、電極を厚く設ける必要があり、塗工した後の乾燥、焼結時の熱によって多孔質樹脂フィルムの空孔が潰れたり、樹脂フィルムが熱収縮したりする変形を起こすことがある。また、電極を金属蒸着で設ける場合も、蒸着される金属の熱により同様に樹脂フィルムが変形を起こすことがある。
電極の厚みは、特に限定されないが、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。また、電極の厚みは、200μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることさらに好ましい。
[樹脂フィルムの厚み]
本明細書において、樹脂フィルムの厚みは、JIS K7130:1999「プラスチック−フィルム及びシート−厚み測定方法」に基づいて、厚み計を用いてフィルム総厚みを測定した値とする。また、樹脂フィルムが多層積層構造の樹脂フィルムである場合、これを構成する各層の厚みは、測定対象試料を液体窒素にて−60℃以下の温度に冷却し、ガラス板上に置いた試料に対してカミソリ刃を直角に当て切断し断面測定用の試料を作成し、得られた試料を走査型電子顕微鏡を使用して断面観察を行い、空孔形状や組成外観から各層の境界線を判別して、観察像から求められる各層厚みが樹脂フィルムの総厚みに占める割合を決定し、さらに厚み計を用いて求めた上記フィルム総厚みに各層厚みの上記割合を乗じて算出した値とする。
[樹脂フィルムの表面抵抗率]
本明細書において、樹脂フィルムの表面抵抗率は、JIS K6911:1995「熱硬化性プラスチック一般試験方法」にしたがって、2重リング法の電極を用いて、温度23℃、相対湿度50%の条件下にて測定した表面抵抗から下記式2に基づいて算出した値とする。
Figure 0006771591
樹脂フィルムは絶縁性であることが好ましく、少なくとも片方の表面の表面抵抗率が1×1013Ω/□以上であることが好ましく、5×1013Ω/□以上であることがより好ましい。これによりエレクトレット化処理を施す際に、注入した電荷が表面を伝って逃げにくく、効率的な電荷注入を行い易い。一方、樹脂フィルムは、少なくとも片方の表面の表面抵抗が9×1017Ω/□以下であることが好ましく、5×1016Ω/□以下であることがより好ましい。これにより樹脂フィルムにゴミや埃が付着することを防止し、エレクトレット化処理の際にゴミや埃を伝って局所放電が起こり、効率的なエレクトレット化処理が阻害される現象を抑制し易い。
[電極の表面抵抗率]
本明細書において、電極の表面抵抗率は、JIS K7194:1994「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」にしたがって、4端子法により測定した抵抗値から下記式3に基づいて算出した値とする。
Figure 0006771591
[エネルギー変換フィルム及びエネルギー変換素子の平面視面積]
本発明のエネルギー変換フィルム及びエネルギー変換素子は、上述したとおり帯電樹脂フィルムを用いているため、電気−機械エネルギー変換用材料として従来から汎用されている半導体材料等とは異なり、比較的に低コストであり、例えばフィルムの平面視で10〜50,000cm程度の大面積化も容易である。大面積なエネルギー変換フィルム及びエネルギー変換素子を構成する場合、その平面視面積は、所望する性能や設置箇所の物理的な制約等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、20〜30,000cmが好ましく、50〜25,000cmがより好ましい。
[最大電圧]
エネルギー変換素子は、熱処理した後に衝撃により発生する最大電圧(平均値)が、エネルギー変換素子の実用性能面から5mV以上であることが好ましく、10mV以上であることがより好ましく、20mV以上であることがさらに好ましく、30mV以上であることが特に好ましい。上限値は特に限定されないが、300mV以下であることが好ましく、200mV以下であることがより好ましく、100mV以上であることがさらに好ましく、50mV以下であることが特に好ましい。本明細書において、最大電圧の測定前の熱処理は、エネルギー変換素子を85℃で14日間の条件下で保持することで行う。そして、最大電圧は、温度23℃、相対湿度50%環境下で、水平面上に静置したエネルギー変換素子上に、垂直方向8mmの高さから直径9.5mm、質量3.5gの鉄球を自然落下させたときの衝撃により発生する最大電圧を10回測定して、その最大電圧の平均値を算出した値とする。
以下に、製造例、実施例、比較例及び試験例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、使用量、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。なお、以下に記載される%は、特記しない限り質量%を表す。
また、以下において、実施例9は参考例1と、実施例10は参考例2と、実施例18は参考例3と読み替えるものとする。
[樹脂組成物の調製例]
表1に記載の熱可塑性樹脂(プロピレン単独重合体及び高密度ポリエチレン)、金属石鹸、熱安定剤、及び空孔形成核剤(重質炭酸カルシウム粉末)を、表1に記載の配合割合(単位:質量%)で混合し、210℃に設定した2軸混練機にて溶融混練し、次いで230℃に設定した押出機にてストランド状に押し出し、冷却後にストランドカッターにて切断して、樹脂組成物a〜h、j、k、及びm〜rのペレットを作成した。
Figure 0006771591
[製造例1〜14,16]
表2に記載の表スキン層用の樹脂組成物、コア層用の樹脂組成物、裏スキン層用の樹脂組成物を、230℃に設定した3台の押出機にてそれぞれ溶融混練した後、250℃に設定したフィードブロック式多層ダイスに供給して、表2に記載の積層順となる様にダイス内で積層してシート状に押し出し、これを冷却装置により60℃まで冷却して3層構成の無延伸シートを得た。
得られた無延伸シートを、加熱ロールを用いて表2に記載の縦方向の温度に加熱し、ロール群の周速差を利用して縦方向(MD方向)に表2に記載の縦方向の倍率で延伸して一軸延伸シートを得た。次いで、得られた一軸延伸シートを60℃まで冷却し、オーブンを用いて表2に記載の横方向の温度に再加熱し、テンターを用いて横方向(TD方向)に表2に記載の横方向の倍率で延伸した後、さらにオーブンを用いて160℃まで加熱してアニーリング処理を行い、二軸延伸シートを得た。
得られた二軸延伸シートを60℃まで冷却し、耳部をスリットした後、両面にコロナ表面放電処理を施し、表2に記載の物性を有する製造例1〜14,16の樹脂フィルム(何れも内部に空孔を有する多孔質樹脂フィルム)を得た。得られた樹脂フィルムの表面抵抗率は、全て表裏ともに1014Ω/□以上であった。
Figure 0006771591
[製造例15]
得られた製造例3の樹脂フィルムの両面に、アンカーコート剤としてポリアミンポリアミドのエピクロルヒドリン付加物溶液(商品名:WS4024、星光PMC社製、固形分濃度25質量%)を水/2−プロパノール=9/1の混合液で25倍希釈して得た溶液を用いて、これをスクイズコーターを用いて乾燥後の塗工量がそれぞれ0.02g/mとなるように塗工し、80℃のオーブンで乾燥してアンカーコート層を設け、製造例15の樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムの表面抵抗率は表裏ともに1014Ω/□台であった。
[製造例17]
特開2014−074104号公報の段落0051〜0053に記載の実施例3の合成樹脂発泡シートの製造方法に従って、製造例17の樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムの表面抵抗率は表裏ともに1014Ω/□台であった。
[実施例1〜12,17,18、比較例1,2]
厚みが12μmのPETフィルム(商品名:E5200、東洋紡社製)にロールトゥロール真空蒸着装置を用いて、1×10−2Paの真空条件で、蒸着膜の厚みが30nmになる様にアルミニウム蒸着を行い、蒸着面の表面抵抗率が1Ω/□の金属蒸着フィルムを作成した。
次いで、ポリエーテル系接着剤(商品名:TM−317、東洋モートン社製)とイソシアネート系硬化剤(商品名:CAT−11B、東洋モートン社製)を質量比50:50で混合し、酢酸エチルで希釈して、固形分濃度が25%の接着剤塗料を作成した。
次いで、上記金属蒸着フィルムを縦10cm×横10cmの正方形に断裁し、金属蒸着がされていない面に、接着剤塗料を乾燥後の塗工厚みが2μmとなる様に、バーコーターを用いて全面に塗工し、40℃のオーブンで1分間乾燥して、金属蒸着フィルムの片面に接着剤層を設けた。
次いで、製造例1〜14,16,17で得た樹脂フィルムを縦20cm×横20cmの正方形に断裁し、得られた裁断フィルムの表面と裏面の中央部分に、接着剤層を介して金属蒸着フィルムを蒸着膜が最外層となるように貼り付けた後、40℃のオーブンで24時間、接着剤を硬化させて、両面に電極を備えた樹脂フィルムを得た。
得られた両面に電極を備えた樹脂フィルムを、針状電極の針間距離10mm、針状電極−アース電極間距離10mmに設定した図3に記載のエレクトレット化装置の、アース電極12盤上に表面が主電極側に向く様に設置し、針状電極に−10KVの直流電圧を5秒間印加してエレクトレット処理を実施し、表3に記載の実施例1〜12,17,18及び比較例1,2のエネルギー変換フィルム、並びに、実施例1〜12,17,18及び比較例1,2のエネルギー変換素子を得た。
[実施例13]
厚みが12μmのPETフィルム(商品名:E5200、東洋紡社製)にロールトゥロール真空蒸着装置を用いて、1×10−2Paの真空条件で、蒸着膜の厚みが30nmになる様にアルミニウム蒸着を行い、蒸着面の表面抵抗率が1Ω/□の金属蒸着フィルムを作成した。
次いで、ポリエーテル系接着剤(商品名:TM−317、東洋モートン社製)とイソシアネート系硬化剤(商品名:CAT−11B、東洋モートン社製)を質量比50:50で混合し、酢酸エチルで希釈して、固形分濃度が25%の接着剤塗料を作成した。
次いで、上記金属蒸着フィルムを縦10cm×横10cmの正方形に断裁し、金属蒸着がされていない面に、接着剤塗料を乾燥後の塗工厚みが2μmとなる様に、バーコーターを用いて全面に塗工し、40℃のオーブンで1分間乾燥して、金属蒸着フィルムの片面に接着剤層を設けた。
次いで、製造例15で得た樹脂フィルムを縦20cm×横20cmの正方形に断裁し、得られた裁断フィルムの裏面の中央部分に、接着剤層を介して金属蒸着フィルムを蒸着膜が最外層となるように貼り付けた。
次いで、厚み12μmのアルミニウム箔(商品名:マイホイル、UACJ製箔社製、表面抵抗率:3×10−3Ω/□)を縦10cm×横10cmの正方形に断裁し、光沢の低い面に上記接着剤塗料を乾燥後の塗工厚みが2μmとなる様にバーコーターを用いて全面に塗工し、40℃のオーブンで1分間乾燥後、上記のとおり金属蒸着フィルムを貼り付けた裁断フィルムの表面の中央部分に貼り付けた後、40℃のオーブンで24時間、接着剤を硬化させて、両面に電極を備えた樹脂フィルムを得た。
得られた両面に電極を備えた樹脂フィルムを、針状電極の針間距離10mm、針状電極−アース電極間距離10mmに設定した図3に記載のエレクトレット化装置の、アース電極12盤上に表面が主電極側に向く様に設置し、針状電極に−10KVの直流電圧を5秒間印加してエレクトレット処理を実施し、実施例13のエネルギー変換フィルム、及び、実施例13のエネルギー変換素子を得た。
[実施例14]
製造例15で得た樹脂フィルムを縦20cm×横20cmの正方形に断裁し、得られた裁断フィルムの裏面の中央部分に、銀インキ(商品名:ドータイトD−500、藤倉化成社製、固形分濃度:77質量%)を多目的印刷試験機(商品名:K303マルチコーター、RKプリントコートインスツルメンツ社製)及び400線のグラビア版を用いて、縦10cm×横10cmの正方形にベタ印刷し、80℃のオーブンで1時間乾燥した。その後さらに、この裁断フィルムの表面の中央部分に、同銀インキを、同多目的印刷試験機及び同グラビア版を用いて、表裏の印刷位置が同じ位置となる様に縦10cm×横10cmの正方形にベタ印刷し、80℃のオーブンで24時間乾燥して、両面に電極を備えた樹脂フィルムを得た。得られた電極の厚みは、表裏ともに2μmで、表面抵抗率は表裏ともに1Ω/□であった。
得られた両面に電極を備えた樹脂フィルムを、針状電極の針間距離10mm、針状電極−アース電極間距離10mmに設定した図3に記載のエレクトレット化装置の、アース電極12盤上に表面が主電極側に向く様に設置し、針状電極に−10KVの直流電圧を5秒間印加してエレクトレット処理を実施し、実施例14のエネルギー変換フィルム、及び、実施例14のエネルギー変換素子を得た。
[実施例15]
製造例15で得た樹脂フィルムを縦20cm×横20cmの正方形に断裁し、得られた裁断フィルムの裏面の中央部分に、カーボンインキ(商品名:ドータイトXC−3050、藤倉化成社製、固形分濃度:50質量%)をスクリーン印刷機(商品名:SSA−TF150E、セリアコーポレーション社製)及び200線のスクリーン版を用いて、縦10cm×横10cmの正方形にベタ印刷し、80℃のオーブンで1時間乾燥した。その後さらに、この裁断フィルムの表面の中央部分に、同カーボンインキを、同スクリーン印刷機及び同スクリーン版を用いて、表裏の印刷位置が同じ位置となる様に縦10cm×横10cmの正方形にベタ印刷し、80℃のオーブンで24時間乾燥して、両面に電極を備えた樹脂フィルムを得た。得られた電極の厚みは、表裏ともに10μmで、表面抵抗率は表裏ともに120Ω/□であった。
得られた両面に電極を備えた樹脂フィルムを、針状電極の針間距離10mm、針状電極−アース電極間距離10mmに設定した図3に記載のエレクトレット化装置の、アース電極12盤上に表面が主電極側に向く様に設置し、針状電極に−10KVの直流電圧を5秒間印加してエレクトレット処理を実施し、実施例15のエネルギー変換フィルム、及び、実施例15のエネルギー変換素子を得た。
[実施例16]
製造例15で得た樹脂フィルムを縦20cm×横20cmの正方形に断裁し、得られた裁断フィルムの裏面の中央部分に、ポリチオフェン系インキ(商品名:オルガコン ICP1050、アグファゲバルト社製、固形分濃度:1.1質量%)を多目的印刷試験機(商品名:K303マルチコーター、RKプリントコートインスツルメンツ社製)及び100線のグラビア版を用いて、縦10cm×横10cmの正方形にベタ印刷し、80℃のオーブンで1時間乾燥した。その後さらに、この裁断フィルムの表面の中央部分に、同ポリチオフェン系インクを、同多目的印刷試験機及び同グラビア版を用いて、表裏の印刷位置が同じ位置となる様に縦10cm×横10cmの正方形にベタ印刷し、80℃のオーブンで24時間乾燥して、両面に電極を備えた樹脂フィルムを得た。得られた電極の厚みは、表裏ともに0.2μmで、表面抵抗率は表裏ともに4×10Ω/□であった。
得られた両面に電極を備えた樹脂フィルムを、針状電極の針間距離10mm、針状電極−アース電極間距離10mmに設定した図3に記載のエレクトレット化装置の、アース電極12盤上に表面が主電極側に向く様に設置し、針状電極に−10KVの直流電圧を5秒間印加してエレクトレット処理を実施し、実施例16のエネルギー変換フィルム、及び、実施例16のエネルギー変換素子を得た。
<試験例>
得られた実施例1〜17及び比較例1のエネルギー変換素子から、電極を有する部分を切り出して、縦10cm×横10cmの試料をそれぞれ作製した。
そして、得られた各試料を用いて、下記の方法で最大電圧を測定した。
次いで、同様に作製した各試料を、85℃に設定したオーブン内で14日間の苛酷条件下で熱処理し、この熱処理後の各試料を用いて、下記の方法で最大電圧を測定した。ここで熱処理とは、上述した加熱処理とは異なり、得られたエネルギー変換素子の耐熱性を評価するために、高温環境下で促進させることを目的に行うものである。
[最大電圧]
図4に示す落球試験装置を用いて、温度23℃、相対湿度50%環境下で、最大電圧を測定した。ここではまず、縦10cm×横10cmの試料20(エネルギー変換フィルム5)の表裏面の電極に、導電性テープ(商品名:AL−25BT、住友スリーエム社製)を使用してリード線17,18の一端をそれぞれ貼り付け、リード線17,18の他端は高速レコーダー19(商品名:GR−7000、キーエンス社製)に接続し、図4に示す落球試験装置の絶縁性シート15(軟質塩化ビニルシート、厚み1mm)の上に試料20を表面が上になる様に設置し、同試料20の上面にガラス板14(厚み8mm)を乗せ、同ガラス板14上に直径9.5mm、質量3.5gの鉄球16を乗せた。
次いでガラス板14上から鉄球16を試料20上に垂直方向8mmの高さから自然落下させ、同試料20からの電圧信号を高速レコーダー19に取り込み、落球の衝撃により発生した最大電圧を10回測定して、その最大電圧の平均値を算出した。
[熱処理後維持率]
上記の方法で算出した熱処理前後の最大電圧(平均値)の比を百分率で求めて、熱処理後維持率とした。算出された熱処理後維持率を表3に示す。熱処理後維持率は、耐熱性の観点から1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましく、5%以上であることが特に好ましい。
表3に示す熱処理後維持率のデータから、本発明のエネルギー変換フィルム及びエネルギー変換素子においては、苛酷条件下で熱処理した場合でも、発電電圧の維持率が比較例の140〜800%程度に達しており、さらに好適態様では従来品では到達し得なかった格別顕著な効果を奏することが裏付けられた。このことから、常温や、より穏やかな使用条件である40〜60℃程度の高温における発電電圧の維持率もまた、本発明品は、従来品よりも相当レベル高いことが推察される。
Figure 0006771591
本発明のエネルギー変換フィルム及びエネルギー変換素子は、該エネルギー変換フィルム材料の相転移温度より高い温度において圧電性を示し、高温環境下に曝されてもその圧電性能の低下が少ない。このことから、本発明のエネルギー変換フィルム及びエネルギー変換素子は、高温条件で使用する可能性があるスピーカー、ヘッドフォン、マイクロフォン、超音波センサー、圧力センサー、加速度センサー、振動制御装置等の電気−機械エネルギー変換用のモジュール部材として広く且つ有効に利用可能である。とりわけ、音響センサー、振動センサー、衝撃センサー等のモジュール部材として殊に有効に利用可能であり、そのため本発明は、これらのセンサーを搭載した計測器、制御装置、異常診断システム、防犯装置、スタビライザー、ロボット、打楽器、遊技機、発電装置等として幅広く利用可能であり、これらの産業分野に多大な寄与を与える。
1 エネルギー変換フィルム
2 樹脂フィルム(コア層)
3 表スキン層
4 裏スキン層
5 エネルギー変換素子
6 表電極
7 裏電極
10 直流高圧電源
11 針状電極
12 アース電極
13 樹脂フィルム又は電極を備えた樹脂フィルム
14 ガラス板
15 絶縁性シート
16 鉄球
17 リード線
18 リード線
19 高速レコーダー
20 試料(エネルギー変換素子)

Claims (10)

  1. 熱可塑性樹脂及び金属石鹸を少なくとも含む樹脂フィルムよりなる帯電樹脂フィルムを少なくとも備えるエネルギー変換フィルムと、
    前記エネルギー変換フィルムの少なくとも一方の面に設けられた電極と
    を備え
    前記金属石鹸が、炭素数5〜30の脂肪酸とアルミニウムとの塩であることを特徴とする、エネルギー変換素子。
  2. 前記熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂を含み、前記金属石鹸が50℃〜220℃に融点を有することを特徴とする
    請求項1に記載のエネルギー変換素子。
  3. 前記樹脂フィルムが、内部に空孔を有する多孔質樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1又は2に記載のエネルギー変換素子。
  4. 前記エネルギー変換フィルムが、直流コロナ放電処理により前記樹脂フィルムに電荷が注入された帯電樹脂フィルムを少なくとも備えることを特徴とする
    請求項1〜の何れか一項に記載のエネルギー変換素子。
  5. 前記電極が、1×10−3Ω/□〜9×10Ω/□の表面抵抗率を有することを特徴とする
    請求項1〜の何れか一項に記載のエネルギー変換素子。
  6. 前記エネルギー変換素子を85℃で14日間の熱処理した後に、温度23℃、相対湿度50%環境下で、水平面上に静置した上に、垂直方向8mmの高さから直径9.5mm、質量3.5gの鉄球を自然落下させたときの衝撃により発生する最大電圧が、5mV以上であることを特徴とする
    請求項1〜の何れか一項に記載のエネルギー変換素子。
  7. 前記多孔質樹脂フィルムがコア層及びスキン層を備えた多層樹脂フィルムであり、
    前記コア層は熱可塑性樹脂、金属石鹸及び空孔形成核剤を少なくとも含むことを特徴とする
    請求項3,請求項3を引用する請求項4,請求項3を引用する請求項5,請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5,請求項3を引用する請求項6,請求項3を引用する請求項4を引用する請求項6,請求項3を引用する請求項5を引用する請求項6,請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5を引用する請求項6の何れか一項に記載のエネルギー変換素子。
  8. 前記電極が、導電性材料によって形成された薄膜、導電性塗料の印刷又は塗工による塗膜及び金属蒸着膜の少なくとも一種であることを特徴とする
    請求項1〜7の何れか一項に記載のエネルギー変換素子。
  9. 熱可塑性樹脂及び金属石鹸を少なくとも含む樹脂フィルムよりなる帯電樹脂フィルムを少なくとも備え
    前記金属石鹸が、炭素数5〜30の脂肪酸とアルミニウムとの塩であることを特徴とする、
    エネルギー変換フィルム。
  10. 前記樹脂フィルムが内部に空孔を有する多孔質樹脂フィルムであり、
    前記多孔質樹脂フィルムがコア層及びスキン層を備えた多層樹脂フィルムであり、
    前記コア層は熱可塑性樹脂、金属石鹸及び空孔形成核剤を少なくとも含むことを特徴とする
    請求項9に記載のエネルギー変換フィルム。
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